IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ デルタ工業株式会社の特許一覧

特許7181596車両用シートおよびそれに用いられるマスキング部材
<>
  • 特許-車両用シートおよびそれに用いられるマスキング部材 図1
  • 特許-車両用シートおよびそれに用いられるマスキング部材 図2
  • 特許-車両用シートおよびそれに用いられるマスキング部材 図3
  • 特許-車両用シートおよびそれに用いられるマスキング部材 図4
  • 特許-車両用シートおよびそれに用いられるマスキング部材 図5
  • 特許-車両用シートおよびそれに用いられるマスキング部材 図6
  • 特許-車両用シートおよびそれに用いられるマスキング部材 図7
  • 特許-車両用シートおよびそれに用いられるマスキング部材 図8
  • 特許-車両用シートおよびそれに用いられるマスキング部材 図9
  • 特許-車両用シートおよびそれに用いられるマスキング部材 図10
  • 特許-車両用シートおよびそれに用いられるマスキング部材 図11
  • 特許-車両用シートおよびそれに用いられるマスキング部材 図12
  • 特許-車両用シートおよびそれに用いられるマスキング部材 図13
  • 特許-車両用シートおよびそれに用いられるマスキング部材 図14
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-22
(45)【発行日】2022-12-01
(54)【発明の名称】車両用シートおよびそれに用いられるマスキング部材
(51)【国際特許分類】
   B60N 2/90 20180101AFI20221124BHJP
   A47C 31/02 20060101ALI20221124BHJP
   B60N 2/58 20060101ALI20221124BHJP
   B60N 2/64 20060101ALI20221124BHJP
   B68G 7/05 20060101ALI20221124BHJP
【FI】
B60N2/90
A47C31/02 Z
B60N2/58
B60N2/64
B68G7/05 Z
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2019013167
(22)【出願日】2019-01-29
(65)【公開番号】P2020121597
(43)【公開日】2020-08-13
【審査請求日】2021-12-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000109738
【氏名又は名称】デルタ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100176304
【弁理士】
【氏名又は名称】福成 勉
(72)【発明者】
【氏名】笠本 涼太
(72)【発明者】
【氏名】川島 義仁
(72)【発明者】
【氏名】立川 義彦
【審査官】黒田 正法
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-137520(JP,A)
【文献】特開2010-247570(JP,A)
【文献】国際公開第2016/024543(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60N 2/90
A47C 31/02
B60N 2/58
B60N 2/64
B68G 7/05
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シートパッドと、
ロック機構に係合可能なストライカであって、前記シートパッドの表面から突出する互いに離間する一対の腕部と、当該一対の腕部の先端同士をつなぐ連結部とを有する略U字形状のストライカと、
前記シートパッドを覆うシートトリムであって、前記ストライカを外部に露出させるトリム側スリットを有するシートトリムと、
前記シートパッドと前記シートトリムとの間に介在し、前記トリム側スリットを塞ぐマスキング部材と
を備えており、
前記マスキング部材は、前記一対の腕部のそれぞれが挿入可能な位置から前記トリム側スリットを避ける方向に延びる一対の第1部分と、前記一対の第1部分を連結する第2部分とを有し、前記一対の腕部のそれぞれが挿入可能な位置から前記トリム側スリットを避けるように延びるマスキング側スリットを有する、
車両用シート。
【請求項2】
前記一対の第1部分は、前記一対の腕部のそれぞれが挿入可能な位置から離れるにつれて当該一対の第1部分が互いに近づくように斜めに延びている、
請求項に記載の車両用シート。
【請求項3】
シートパッドと、
ロック機構に係合可能なストライカであって、前記シートパッドの表面から突出する互いに離間する一対の腕部と、当該一対の腕部の先端同士をつなぐ連結部とを有する略U字形状のストライカと、
前記シートパッドを覆うシートトリムであって、前記ストライカを外部に露出させるトリム側スリットを有するシートトリムと、
前記シートパッドと前記シートトリムとの間に介在し、前記トリム側スリットを塞ぐマスキング部材と
を備えており、
前記マスキング部材は、前記一対の腕部のそれぞれが挿入可能な位置から前記トリム側スリットを避けるように延びるマスキング側スリットを有し、
前記マスキング側スリットは、前記一対の腕部のそれぞれが挿入可能な位置と前記マスキング部材の外縁とをそれぞれ連通する一対の連通部分を有し、
前記一対の連通部分における前記外縁に通じる出口同士の間隔は、前記一対の腕部の間隔より広くなるように設定されている、
両用シート。
【請求項4】
前記出口は、前記マスキング部材の対向する一対の外縁にそれぞれ配置されている
請求項に記載の車両用シート。
【請求項5】
前記マスキング部材は、前記一対の腕部が挿入可能な位置にそれぞれ形成され、前記マスキング側スリットに連通する一対の貫通孔を有し、
前記貫通孔の直径は、前記腕部の外径よりも小さくなるように設定され、
前記腕部は、前記貫通孔の内壁に密着した状態で当該貫通孔に嵌入されている、
請求項1~のいずれか1項に記載の車両用シート。
【請求項6】
前記マスキング部材は、前記シートトリムと同じ材料で製造されている、
請求項1~のいずれか1項に記載の車両用シート。
【請求項7】
前記シートパッド、前記ストライカ、前記シートトリム、および前記マスキング部材を有するシートバックをさらに備え、
前記シートバックは、前倒可能であり、
前記ストライカの前記一対の腕部は、前記シートパッドの背面または側面から突出している、
請求項1~のいずれか1項に記載の車両用シート。
【請求項8】
車両用シートのシートパッドとシートトリムとの間に介在し、シートパッドの表面に突出する略U字状のストライカを外部に露出させるためにシートトリムに形成されたトリム側スリットを塞ぐマスキング部材であって、
前記ストライカの一対の腕部のそれぞれが挿入可能な位置から前記トリム側スリットを避ける方向に延びる一対の第1部分と、前記一対の第1部分を連結する第2部分とを有し、前記ストライカの一対の腕部のそれぞれが挿入可能な位置から前記トリム側スリットを避けるように延びるマスキング側スリットを有する、車両用シートに用いられるマスキング部材。
【請求項9】
車両用シートのシートパッドとシートトリムとの間に介在し、シートパッドの表面に突出する略U字状のストライカを外部に露出させるためにシートトリムに形成されたトリム側スリットを塞ぐマスキング部材であって、
前記ストライカの一対の腕部のそれぞれが挿入可能な位置から前記トリム側スリットを避けるように延びるマスキング側スリットを有し、
前記マスキング側スリットは、前記一対の腕部のそれぞれが挿入可能な位置と前記マスキング部材の外縁とをそれぞれ連通する一対の連通部分を有し、
前記一対の連通部分における前記外縁に通じる出口同士の間隔は、前記一対の腕部の間隔より広くなるように設定されている、
車両用シートに用いられるマスキング部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ストライカを有する車両用シートに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両用シートとして、図11に示されるように、シートバック33がシートクッション32に折り重なるように前倒可能なタイプのリヤシート31がある。このようなリヤシート31では、シートバック33の起立状態で車体側のロック機構に係合可能なストライカ36がシートバック33の背面に設けられている。ストライカ36は、シートトリム35内部のシートパッドの背面に固定され、シートトリム35に形成されたスリット37を通してシートトリム35の外部に露出している。
【0003】
ストライカ36は、シートトリム35がシートパッドにかぶせられた状態では、スリット37を通して、シートトリム35の外部に露出することが可能である。しかし、この状態では、スリット37を通して、シートトリム35内部のシートパッドが外部から見えるおそれがある。
【0004】
そこで、従来では、ストライカ貫通用のスリット37を塞ぐために、図12に示されるようなトリム片110と呼ばれる小さな布片を、図11のリヤシート31に適用してスリット37を目隠し(マスキング)することが考えられる。
【0005】
図12に示されるトリム構造は、シートクッションのシートトリム108において、チャイルドシートを固定するための略U字形状のアンカー103が通過可能なスリット108aが形成され、さらに、スリット108aを塞ぐために不織布などからなるトリム片110が設けられた構造である(特許文献1参照)。
【0006】
トリム片110の根元側端部110aは、シートトリム108のスリット108aの縁部108bの裏面に縫着されている。
【0007】
シートクッションのシートトリム108がシートパッド(図示せず)にかぶせられることにより、シートパッド側(本構造では、シートパッド内部のシートフレーム104)に固定されたアンカー103は、スリット108aを通してシートトリム108の外部に露出される。その後、トリム片110の先端側端部110bは、アンカー103の内側に通されて、シートトリム108の裏面に取り付けられた面ファスナー111に固定される。これにより、スリット108aは、トリム片110によって塞がれ、シートトリム108の内部がスリット108aを通して外部から見えなくなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特許第4047595号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、図12に示されるトリム片110などの布片を図11に示される車両用リヤシート31に適用した場合(例えば、後述の図13~14を用いた比較例を参照)、シートトリム35にスリット37を隠すための小さな布片39を縫製する必要がある。さらにシートトリム35でシートパッド34を覆った後に布片39をスリット37を塞ぐようにスリット37内部に挿入する作業も必要である。
【0010】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであって、シートトリムの組付け性を向上した車両用シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を解決するために、本発明の請求項1に係る車両用シートは、シートパッドと、ロック機構に係合可能なストライカであって、前記シートパッドの表面から突出する互いに離間する一対の腕部と、当該一対の腕部の先端同士をつなぐ連結部とを有する略U字形状のストライカと、前記シートパッドを覆うシートトリムであって、前記ストライカを外部に露出させるトリム側スリットを有するシートトリムと、前記シートパッドと前記シートトリムとの間に介在し、前記トリム側スリットを塞ぐマスキング部材とを備えており、前記マスキング部材は、前記一対の腕部のそれぞれが挿入可能な位置から前記トリム側スリットを避ける方向に延びる一対の第1部分と、前記一対の第1部分を連結する第2部分とを有し、前記一対の腕部のそれぞれが挿入可能な位置から前記トリム側スリットを避けるように延びるマスキング側スリットを有することを特徴とする。
【0012】
かかる構成では、ストライカの一対の腕部をマスキング側スリットに挿入させてマスキング部材を取り付けた後に、シートトリムをシートパッドにかぶせた状態では、マスキング部材のマスキング側スリットはシートトリムのトリム側スリットと重ならない位置にあるので、マスキング部材によってシートトリムのトリム側スリットを目隠し(マスキング)することが可能である。そのため、マスキング部材がストライカの一対の腕部に取り付けられていることにより、従来のシート構造のようにスリットを隠すための小さな布片をシートトリムに縫製する必要もなく、さらに当該小さな布片をシートトリムでシートパッドを覆った後にスリットを塞ぐためにスリット内部に押し入れる作業も不要になる。これにより、シートトリムの組付け性が向上し、製造コストを低減することが可能である。
【0014】
また、上記の構成では、マスキング側スリットは、一対の第1部分およびそれらを連結する第2部分を有することにより、マスキング部材の外縁の内側の領域において、トリム側スリットを避けながら一対の腕部のそれぞれが挿入可能な位置をつなぐように両端が閉じた線状のスリットを形成することが可能である。これにより、シートトリムをシートパッドにかぶせる作業のときに、マスキング部材におけるマスキング側スリット端部付近の部分がめくれることがなく、その結果、当該マスキング側スリットの間隔が大きく拡大して、シートパッドがトリム側スリットを通して外部から見えるおそれが無くなる。また、シートトリムをかぶせる作業のときにマスキング部材が引っ張られてマスキング側スリットの間隔がわずかに拡大した場合でも、当該間隔を小さくするようにマスキング部材を手作業で修正しやすい。
【0015】
上記車両用シートにおいて、前記一対の第1部分は、前記一対の腕部のそれぞれが挿入可能な位置から離れるにつれて当該一対の第1部分が互いに近づくように斜めに延びているのが好ましい。
【0016】
かかる構成により、マスキング側スリットは、斜めに延びる一対の第1部分を有することにより、当該一対の第1部分によってテーパ形状(先細りの形状)の舌片が形成される。これにより、ストライカをマスキング側スリットに挿入した後に上記のテーパ形状の舌片が略U字形状のストライカの内側に挿入されやすくなり、マスキング側スリットを容易かつ確実に閉じることが可能である。
【0017】
本発明の請求項3に係る車両用シートは、シートパッドと、ロック機構に係合可能なストライカであって、前記シートパッドの表面から突出する互いに離間する一対の腕部と、当該一対の腕部の先端同士をつなぐ連結部とを有する略U字形状のストライカと、前記シートパッドを覆うシートトリムであって、前記ストライカを外部に露出させるトリム側スリットを有するシートトリムと、前記シートパッドと前記シートトリムとの間に介在し、前記トリム側スリットを塞ぐマスキング部材とを備えており、前記マスキング部材は、前記一対の腕部のそれぞれが挿入可能な位置から前記トリム側スリットを避けるように延びるマスキング側スリットを有し、前記マスキング側スリットは、前記一対の腕部のそれぞれが挿入可能な位置と前記マスキング部材の外縁とをそれぞれ連通する一対の連通部分を有し、前記一対の連通部分における前記外縁に通じる出口同士の間隔は、前記一対の腕部の間隔より広くなるように設定されていることを特徴とする。
【0018】
かかる構成では、マスキング側スリットは、ストライカの一対の腕部のそれぞれが挿入可能な位置からトリム側スリットを避けるように延びる。そのため、ストライカの一対の腕部をマスキング側スリットに挿入させてマスキング部材を取り付けた後に、シートトリムをシートパッドにかぶせた状態では、マスキング部材のマスキング側スリットはシートトリムのトリム側スリットと重ならない位置にあるので、マスキング部材によってシートトリムのトリム側スリットを目隠し(マスキング)することが可能である。そのため、マスキング部材がストライカの一対の腕部に取り付けられていることにより、従来のシート構造のようにスリットを隠すための小さな布片をシートトリムに縫製する必要もなく、さらに当該小さな布片をシートトリムでシートパッドを覆った後にスリットを塞ぐためにスリット内部に押し入れる作業も不要になる。これにより、シートトリムの組付け性が向上し、製造コストを低減することが可能である。
また、上記の構成では、マスキング側スリットは、一対の腕部のそれぞれが挿入可能な位置とマスキング部材の外縁とをそれぞれ連通する一対の連通部分を有する。そのため、ストライカをマスキング側スリットに挿入する際に、ストライカの一対の腕部を一対の連通部分を通してマスキング部材の外縁からマスキング部材内部の挿入可能な位置まで容易に挿入することが可能である。そのため、マスキング部材の取付けを容易に行うことが可能である。
【0020】
上記の構成では、一対の連通部分における外縁に通じる出口同士の間隔は、一対の腕部の間隔より広くなるように設定されている。そのため、ストライカの一対の腕部がマスキング側スリットの一対の連通部分に挿入された状態では、マスキング部材がずれても一対の腕部が一対の連通部分の出口から同時に出にくくなるので、マスキング部材がストライカから脱落しにくくなる。
【0021】
上記車両用シートにおいて、前記出口は、前記マスキング部材の対向する一対の外縁にそれぞれ配置されているのがより好ましい。
【0022】
かかる構成により、マスキング部材がずれても、一対の腕部が一対の連通部分の出口から同時に出るおそれが無くなるので、マスキング部材はストライカからより脱落しにくくなる。
【0023】
上記車両用シートにおいて、前記マスキング部材は、前記一対の腕部が挿入可能な位置にそれぞれ形成され、前記マスキング側スリットに連通する一対の貫通孔を有し、前記貫通孔の直径は、前記腕部の外径よりも小さくなるように設定され、前記腕部は、前記貫通孔の内壁に密着した状態で当該貫通孔に嵌入されているのが好ましい。
【0024】
かかる構成により、シートトリムが所定の位置からずれても、マスキング部材の貫通孔の内壁とストライカの一対の腕部とが密着して一対の腕部の周囲の隙間を塞いでいるので、トリム側スリットやトリム側スリットに連通するトリム側の貫通孔などを通して、シートトリム内部のシートパッドが外部から見えるおそれがない。
【0025】
上記車両用シートにおいて、前記マスキング部材は、前記シートトリムと同じ材料で製造されているのが好ましい。
【0026】
かかる構成により、シートトリムのトリム側スリットを通してマスキング部材が見えても違和感が生じにくくなる。
【0027】
上記車両用シートにおいて、前記シートパッド、前記ストライカ、前記シートトリム、および前記マスキング部材を有するシートバックをさらに備え、前記シートバックは、前倒可能であり、前記ストライカの前記一対の腕部は、前記シートパッドの背面または側面から突出しているのが好ましい。
【0028】
かかる構成により、シートバックは、起立した状態ではシートパッドの背面または側面から突出するストライカを車体側に設けられたロック機構に係合することによって車体に固定することが可能であり、一方、前倒しにした状態ではシートトリムのトリム側スリットは車両に乗っている人から見えやすい位置に配置されるが、トリム側スリットはマスキング部材によって目隠し(マスキング)されているので、トリム側スリットを通してシートトリム内部のシートパッドが見えるおそれが無くなる。
【0029】
本発明の請求項8に係る車両用シートに用いられるマスキング部材は、車両用シートのシートパッドとシートトリムとの間に介在し、シートパッドの表面に突出する略U字状のストライカを外部に露出させるためにシートトリムに形成されたトリム側スリットを塞ぐマスキング部材であって、前記ストライカの一対の腕部のそれぞれが挿入可能な位置から前記トリム側スリットを避ける方向に延びる一対の第1部分と、前記一対の第1部分を連結する第2部分とを有し、前記ストライカの一対の腕部のそれぞれが挿入可能な位置から前記トリム側スリットを避けるように延びるマスキング側スリットを有することを特徴とする。
【0030】
かかる構成では、マスキング側スリットは、ストライカの一対の腕部のそれぞれが挿入可能な位置から前記トリム側スリットを避けるように延びる。そのため、このマスキング部材をストライカの一対の腕部に取り付けた後に、シートトリムをシートパッドにかぶせれば、マスキング側スリットはトリム側スリットと重ならない位置にあるので、マスキング部材によってトリム側スリットを目隠し(マスキング)することが可能である。そのため、マスキング部材がストライカの一対の腕部に取り付けられることにより、従来のシート構造のようにトリム側スリットを隠すための小さな布片をシートトリムに縫製する必要もなく、さらに当該小さな布片をシートトリムでシートパッドを覆った後にトリム側スリットを塞ぐためにトリム側スリット内部に押し入れる作業も不要になる。これにより、シートトリムの組付け性が向上し、製造コストを低減することが可能である。
また、上記の構成では、マスキング側スリットは、一対の第1部分およびそれらを連結する第2部分を有することにより、マスキング部材の外縁の内側の領域において、トリム側スリットを避けながら一対の腕部のそれぞれが挿入可能な位置をつなぐように両端が閉じた線状のスリットを形成することが可能である。これにより、シートトリムをシートパッドにかぶせる作業のときに、マスキング部材におけるマスキング側スリット端部付近の部分がめくれることがなく、その結果、当該マスキング側スリットの間隔が大きく拡大して、シートパッドがトリム側スリットを通して外部から見えるおそれが無くなる。また、シートトリムをかぶせる作業のときにマスキング部材が引っ張られてマスキング側スリットの間隔がわずかに拡大した場合でも、当該間隔を小さくするようにマスキング部材を手作業で修正しやすい。
本発明の請求項9に係る車両用シートに用いられるマスキング部材は、車両用シートのシートパッドとシートトリムとの間に介在し、シートパッドの表面に突出する略U字状のストライカを外部に露出させるためにシートトリムに形成されたトリム側スリットを塞ぐマスキング部材であって、前記ストライカの一対の腕部のそれぞれが挿入可能な位置から前記トリム側スリットを避けるように延びるマスキング側スリットを有し、前記マスキング側スリットは、前記一対の腕部のそれぞれが挿入可能な位置と前記マスキング部材の外縁とをそれぞれ連通する一対の連通部分を有し、前記一対の連通部分における前記外縁に通じる出口同士の間隔は、前記一対の腕部の間隔より広くなるように設定されていることを特徴とする。
かかる構成では、マスキング側スリットは、ストライカの一対の腕部のそれぞれが挿入可能な位置から前記トリム側スリットを避けるように延びる。そのため、このマスキング部材をストライカの一対の腕部に取り付けた後に、シートトリムをシートパッドにかぶせれば、マスキング側スリットはトリム側スリットと重ならない位置にあるので、マスキング部材によってトリム側スリットを目隠し(マスキング)することが可能である。そのため、マスキング部材がストライカの一対の腕部に取り付けられることにより、従来のシート構造のようにトリム側スリットを隠すための小さな布片をシートトリムに縫製する必要もなく、さらに当該小さな布片をシートトリムでシートパッドを覆った後にトリム側スリットを塞ぐためにトリム側スリット内部に押し入れる作業も不要になる。これにより、シートトリムの組付け性が向上し、製造コストを低減することが可能である。
また、上記の構成では、マスキング側スリットは、一対の腕部のそれぞれが挿入可能な位置とマスキング部材の外縁とをそれぞれ連通する一対の連通部分を有する。そのため、ストライカをマスキング側スリットに挿入する際に、ストライカの一対の腕部を一対の連通部分を通してマスキング部材の外縁からマスキング部材内部の挿入可能な位置まで容易に挿入することが可能である。そのため、マスキング部材の取付けを容易に行うことが可能である。
さらに、上記の構成では、一対の連通部分における外縁に通じる出口同士の間隔は、一対の腕部の間隔より広くなるように設定されている。そのため、ストライカの一対の腕部がマスキング側スリットの一対の連通部分に挿入された状態では、マスキング部材がずれても一対の腕部が一対の連通部分の出口から同時に出にくくなるので、マスキング部材がストライカから脱落しにくくなる。
【発明の効果】
【0031】
本発明の車両用シートおよびそれに用いられるマスキング部材によれば、シートトリムの組付け性を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】本発明の車両用シートの実施形態に係る車両用リヤシートの全体斜視図である。
図2図1のシートバックの分解斜視図である。
図3図1のマスキング部材の正面図である。
図4図2のストライカ付近の拡大斜視図である。
図5図4のストライカがマスキング部材に嵌入されている状態を示す斜視説明図である。
図6図5のVI-VI線断面図である。
図7図5のマスキング部材の上をさらにシートトリムが覆っている状態を示す斜視説明図である。
図8】本発明の車両用シートの変形例であるマスキング部材の正面図である。
図9】本発明の車両用シートの他の変形例であるマスキング部材の正面図である。
図10図9のマスキング部材の上をシートトリムが覆っている状態を示す斜視説明図である。
図11】従来の車両用リヤシートの全体斜視図である。
図12】特許文献1に記載の従来のチャイルドシート用アンカーのトリム構造の分解斜視図である。
図13】本発明の比較例として、図11のシートトリムのスリットを目隠しするために布片が適用されたシートバックの分解斜視図である。
図14図13のシートトリムのスリットおよび当該スリットを塞ぐ布片付近の拡大斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、添付図面を参照しながら本発明の車両用シートの好ましい実施の一形態について詳述する。
【0034】
本実施形態は、本発明の車両用シートの実施形態の一例としてリヤシートを例に挙げて説明する。
【0035】
図1に示されるように、本実施形態のリヤシート1は、車室後部に配置されたシートであり、具体的には、シートクッション2と、シートクッション2に折り重なるように前倒可能なシートバック3とを備える。また、このリヤシート1では、シートバック3の起立状態で車体側に設けられたロック機構に係合可能なストライカ6がシートバック3の背面に設けられており、シートバック3を車体に着脱自在に固定することが可能である。
【0036】
シートバック3は、具体的には、図1~2に示されるように、シートパッド4と、当該シートパッド4を覆う薄いシート状のシートトリム5と、シートパッド4の背面から突出するストライカ6と、シートパッド4とシートトリム5との間に介在するマスキング部材7とを備えている。
【0037】
シートパッド4は、ウレタンなどの発泡樹脂などからなる。シートパッド4の背面には、スリット4aが形成されている。スリット4aを通して、ストライカ6がシートパッド4の後方外側に突出している。
【0038】
ストライカ6は、図4に示されるように、略U字状の形状を有し、具体的には、互いに上下に離間する一対の腕部6aと、当該一対の腕部6aの先端同士を連結する連結部6bとを有する。一対の腕部6aの根元側端部は、スリット4aを通してシートパッド4内部の金属製のシートフレーム(図示せず)に固定されている。
【0039】
シートトリム5の背面には、図2に示されるように、ストライカ6に対応する位置において、トリム側開口部8が形成されている。トリム側開口部8は、ストライカ6の一対の腕部6aが挿入される一対のトリム側貫通孔9と、一対のトリム側貫通孔9の間をつなぐトリム側スリット10とを含んでいる。トリム側スリット10は、連結部6bが通過可能な長さを有する。
【0040】
マスキング部材7は、シートパッド4とシートトリム5との間に介在し、シートトリム5のトリム側スリット10を塞ぐ部材である。
【0041】
マスキング部材7は、図3に示されるように、略矩形のシート状の部材であり、マスキング側開口部11を有している。マスキング側開口部11は、ストライカ6の一対の腕部6aが挿入可能な位置に形成された一対のマスキング側貫通孔12と、一対の腕部6aが挿入可能な位置(具体的には、一対のマスキング側貫通孔12)からトリム側スリット10を避けるように延びるマスキング側スリット13とを含んでいる。一対のマスキング側貫通孔12の間隔は、ストライカ6の一対の腕部6aの間隔とほぼ一致するように(好ましくはマスキング部材7の取付け時に皺が生じないように若干小さめ)に設定されている。
【0042】
マスキング側スリット13は、一対の腕部6aのそれぞれが挿入可能な一対のマスキング側貫通孔12からトリム側スリット10を避ける方向に延びる一対の第1部分13aと、一対の第1部分13aを連結する第2部分13bとを有する。
【0043】
一対の第1部分13aは、一対の腕部6aのそれぞれが挿入可能な位置であるマスキング側貫通孔12から離れるにつれて当該一対の第1部分13aが互いに近づくように斜めに延びている。斜めに延びる一対の第1部分13aによってテーパ形状(先細りの形状)の舌片18がマスキング部材7に形成される。
【0044】
各々の第1部分13aと一対のマスキング側貫通孔12を結ぶ線Lとのなす角度θは、0度より大きく、かつ、90度よりも小さい角度の範囲内で適宜設定可能であるが、例えば、60度程度に設定されればよい。
【0045】
第2部分13bは、一対の第1部分13aを連結する部分であり、本実施形態では、トリム側スリット10と平行に延びる(すなわち、一対のマスキング側貫通孔12を結ぶ線Lと平行に延びる)ように直線状に延びる部分で構成されている。本実施形態では、第2部分13bは、一対の第1部分13aの先端同士を連結しているが、第1部分13aの先端以外の部分(例えば中間の部分)同士を連結してもよい。
【0046】
なお、第2部分13bは、一対の第1部分13aを連結する部分であればとくに限定されるものではなく、円弧状または点など種々の形状であってもよい。例えば、第2部分13bが点で構成されている場合には、一対の第1部分13aの先端同士が連結され、その連結点が第2部分13bとなる。
【0047】
マスキング部材7の一対のマスキング側貫通孔12のそれぞれの直径は、マスキング部材7がストライカ6に取り付けられる前の状態では、ストライカ6の一対の腕部6aの外径よりも小さくなるように設定されている。ストライカ6の一対の腕部6aは、マスキング側貫通孔12の内壁に密着した状態で当該マスキング側貫通孔12に嵌入されている。
【0048】
マスキング部材7は、シートトリム5と同じ材料で製造されている。例えば、シートトリム5が、発泡樹脂などのウレタンなどのマット材と、合成樹脂製シートなどの表皮材とからなる積層体の場合には、マスキング部材7は、マット材で製造されるのが好ましい。
【0049】
マスキング部材7の外形形状については、本発明ではとくに限定されるものではないが、例えば、図3に示されるように、矩形の四隅に面取り部分7aまたは丸み部分(アール)が形成された外形形状であるのが好ましい。このような形状であれば、シートトリム5をシートパッド4にかぶせる作業の際にマスキング部材7の角部がシートトリム5に引っかかってマスキング部材7がめくれたり、マスキング部材7の位置がずれたりするおそれを回避することが可能である。
【0050】
上記のように構成されたリヤシート1では、シートバック3を以下のような手順で組み立てられる。
【0051】
まず、シートパッド4の背面に突出するストライカ6(図2および図4参照)に、図3に示されるマスキング部材7が取り付けられる。具体的には、マスキング部材7のテーパ形状の舌片18(図3参照)を曲げながらストライカ6をマスキング側スリット13に挿入し、その後、舌片18を略U字形状のストライカ6の内側に挿入することにより、図5に示されるように、ストライカ6の一対の腕部6aがマスキング側スリット13を通してマスキング側貫通孔12に嵌入される。
【0052】
マスキング部材7のマスキング側貫通孔12の直径はストライカ6の腕部6aの外径よりも小さくなるように設定されているので、図5~6に示されるように、腕部6aがマスキング側貫通孔12を押し広げながら嵌入されることにより、マスキング部材7はストライカの腕部6aの周囲に密着することが可能である。
【0053】
マスキング部材7の取付け後、図2および図7に示されるように、シートトリム5をシートパッド4の全体を覆うようにかぶせる。このとき、ストライカ6は、シートトリム5の一対のトリム側貫通孔9およびトリム側スリット10を通して、シートトリム5の外部に露出することが可能である。
【0054】
図7に示されるように、シートトリム5が取り付けられた状態では、マスキング部材7のマスキング側スリット13はシートトリム5のトリム側スリット10と重ならない位置にあるので、マスキング部材7によってトリム側スリット10を塞ぐことが可能になり、トリム側スリット10を通してシートパッド4が外部から見えるおそれが無くなる。
【0055】
(実施形態の特徴)
(1)
本実施形態の車両用リヤシート1は、上記のように、シートパッド4とシートトリム5との間に介在しているマスキング部材7を備えている。このマスキング部材7は、ストライカ6の一対の腕部6aが挿入可能な位置(すなわち、一対のマスキング側貫通孔12)からトリム側スリット10を避けるように延びるマスキング側スリット13を有している。
【0056】
上記の構成では、ストライカ6の一対の腕部6aをマスキング側スリット13に挿入させてマスキング部材7を取り付けた後に、シートトリム5をシートパッド4にかぶせた状態では、図7に示されるように、マスキング部材7のマスキング側スリット13はシートトリム5のトリム側スリット10と重ならない位置にあるので、マスキング部材7によってシートトリム5のトリム側スリット10を目隠し(マスキング)することが可能である。そのため、従来のシート構造(図11参照)のようにシートトリム35のスリット37を隠すために図12に示されるトリム片110などの布片をシートトリム5に縫製する必要もなく、さらに当該小さな布片をシートトリム5でシートパッド4を覆った後にスリットを塞ぐためにスリット内部に押し入れる作業も不要になる。これにより、シートトリム5の組付け性が向上し、製造コストを低減することが可能である。
【0057】
(2)
本実施形態の車両用リヤシート1では、マスキング側スリット13は、図3に示されるように、一対の腕部6aのそれぞれが挿入可能な位置(一対のマスキング側貫通孔12)からトリム側スリット10を避ける方向に延びる一対の第1部分13aと、一対の第1部分13aを連結する第2部分13bとを有する。
【0058】
この構成では、マスキング側スリット13は、一対の第1部分13aおよびそれらを連結する第2部分13bを有することにより、マスキング部材7の外縁の内側の領域において、トリム側スリット10を避けながら一対の腕部6aのそれぞれが挿入可能なマスキング側貫通孔12をつなぐように両端が閉じた線状のスリットを形成することが可能である。これにより、シートトリム5をシートパッド4にかぶせる作業のときに、マスキング部材7におけるマスキング側スリット13端部付近の部分がめくれることがなく、その結果、当該マスキング側スリット13の間隔が大きく拡大して、シートパッド4がトリム側スリット10を通して外部から見えるおそれが無くなる。また、シートトリムをかぶせる作業のときにマスキング部材7が引っ張られてマスキング側スリット13の間隔がわずかに拡大した場合でも、当該間隔を小さくするようにマスキング部材7を手作業で修正しやすい。
【0059】
(3)
本実施形態の車両用リヤシート1では、マスキング側スリット13の一対の第1部分13aは、一対の腕部6aのそれぞれが挿入可能な一対のマスキング側貫通孔12から離れるにつれて当該一対の第1部分13aが互いに近づくように斜めに延びている。
【0060】
この構成では、マスキング側スリット13は、斜めに延びる一対の第1部分13aを有することにより、当該一対の第1部分13aによってテーパ形状(先細りの形状)の舌片18(図3参照)がマスキング部材7に形成される。これにより、ストライカ6をマスキング側スリット13に挿入した後に上記のテーパ形状の舌片18が図5に示されるように略U字形状のストライカ6の内側に挿入されやすくなり、マスキング側スリット13を容易かつ確実に閉じることが可能である。
【0061】
(4)
本実施形態の車両用リヤシート1では、マスキング部材7は、ストライカ6の一対の腕部6aが挿入可能な位置にそれぞれ形成され、マスキング側スリット13にそれぞれ連通する一対のマスキング側貫通孔12を有し、マスキング側貫通孔12の直径は、ストライカ6の一対の腕部6aの外径よりも小さくなるように設定されている。一対の腕部6aは、一対のマスキング側貫通孔12の内壁に密着した状態で当該マスキング側貫通孔12に嵌入されている。そのため、シートトリム5のトリム側貫通孔9が所定の位置からずれても、マスキング部材7がマスキング側貫通孔12の内壁とストライカ6の一対の腕部6aとが密着して一対の腕部6aの周囲の隙間を塞いでいるので、トリム側スリット10やそれに連通するトリム側貫通孔9を通して、シートトリム5内部のシートパッド4が外部から見えるおそれがない。
【0062】
なお、本実施形態では、マスキング部材7は、ストライカ6の一対の腕部6aが挿入される一対のマスキング側貫通孔12を有しているが、本発明はこれに限定されるものではなく、マスキング側貫通孔12は無くてもよい。その場合も、マスキング側スリット13がトリム側スリット10を避けるように延びていれば、上記(1)~(3)の作用効果を奏することが可能である。
【0063】
(5)
本実施形態の車両用リヤシート1では、マスキング部材7は、シートトリム5と同じ材料(例えば、ウレタンなどのマット材)で製造されている。そのため、シートトリム5のトリム側スリット10を通してマスキング部材7が見えても違和感が生じにくくなる。
【0064】
(6)
本実施形態の車両用リヤシート1は、シートパッド4、ストライカ6、シートトリム5、およびマスキング部材7を有するシートバック3をさらに備える。シートバック3は、前倒可能であり、ストライカ6の一対の腕部6aは、シートパッド4の背面から後方に突出している。なお、一対の腕部6aは、シートパッド4の側面から側方(車幅方向)に突出していてもよい。
【0065】
上記の構成では、シートバック3は、起立した状態ではシートパッド4の背面または側面から突出するストライカ6を車体側に設けられたロック機構に係合することによって車体に固定することが可能であり、一方、前倒しにした状態ではシートトリム5のトリム側スリット10は車両に乗っている人から見えやすい位置に配置されるが、トリム側スリット10はマスキング部材7によって目隠し(マスキング)されているので、トリム側スリット10を通してシートトリム5内部のシートパッド4が見えるおそれが無くなる。
【0066】
(7)
本実施形態の車両用リヤシート1に用いられるマスキング部材7は、上記のようにストライカ6の一対の腕部6aのそれぞれが挿入可能な位置(一対のマスキング側貫通孔12)からトリム側スリット10を避けるように延びるマスキング側スリット13を有する。
【0067】
このマスキング部材7をストライカ6の一対の腕部6aに取り付けた後に、シートトリム5をシートパッド4にかぶせれば、マスキング部材7側のマスキング側スリット13はシートトリム5側のトリム側スリット10と重ならない位置にあるので、マスキング部材7によってシートトリム5のトリム側スリット10を目隠し(マスキング)することが可能である。そのため、マスキング部材7がストライカ6の一対の腕部6aに取り付けられることにより、従来のシート構造(図11参照)のようにシートトリム35のスリット37を隠すために図12に示されるトリム片110などの布片をシートトリム5に縫製する必要もなく、さらに当該小さな布片をシートトリム5でシートパッド4を覆った後にトリム側スリット10を塞ぐためにトリム側スリット10の内部に押し入れる作業も不要になる。これにより、シートトリム5の組付け性が向上し、製造コストを低減することが可能である。
【0068】
(変形例)
(A)
上記実施形態では、図3に示されるように、マスキング側スリット13の一対の第1部分13aが斜め方向に延びているが、本発明はこれに限定されるものではなく、一対の第1部分13aは、ストライカ6の一対の腕部6aのそれぞれが挿入可能な位置(一対のマスキング側貫通孔12)からトリム側スリット10を避ける方向に延びていればよい。
【0069】
したがって、本発明の車両用シートの変形例として、図8に示されるように、マスキング側スリット13の一対の第1部分13aは、一対のマスキング側貫通孔12を結ぶ線Lに対して直交する方向に延びるようにしてもよい。この場合も、上記(1)~(2)の作用効果を奏することが可能である。
【0070】
(B)
上記実施形態では、図3に示されるように、マスキング側スリット13は、一対の腕部6aのそれぞれが挿入可能な一対のマスキング側貫通孔12からトリム側スリット10を避ける方向に延びる一対の第1部分13aと、一対の第1部分13aを連結する第2部分13bとを有しており、マスキング部材7の内側の領域で閉じた線状のスリットを構成しているが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0071】
本発明では、マスキング側スリットは、一対の腕部6aのそれぞれが挿入可能な位置(一対のマスキング側貫通孔12)からトリム側スリット10を避けるように延びていれば他の形状および構成であってもよく、例えば、図9に示されるようなマスキング側スリット16であってもよい。
【0072】
以下、本発明の車両用シートの他の変形例として、図9に示されるマスキング部材7について詳細に説明する。
【0073】
図9に示されるマスキング部材7は、前記一対のマスキング側貫通孔12とマスキング側スリット16とを含むマスキング側開口部17を有している。一対のマスキング側貫通孔12は、上記実施形態のマスキング側貫通孔12と同じ構成を有するので、説明を省略する。
【0074】
マスキング側スリット16は、一対の腕部6aのそれぞれが挿入可能な位置(一対のマスキング側貫通孔12)とマスキング部材7の外縁14とをそれぞれ連通する一対の連通部分16a、16bを有する。
【0075】
図9に示されるマスキング部材7を図4に示されるストライカ6に取り付ける場合には、マスキング部材7を一対の外縁14が近づく方向に曲げながらストライカ6の内側に挿入し、その後、マスキング部材7を平らに広げることにより、ストライカ6の一対の腕部6aがマスキング側スリット16の一対の連通部分16a、16bを通して一対のマスキング側貫通孔12にそれぞれ嵌入される。
【0076】
ストライカ6の一対の腕部6aをマスキング側スリット16の一対の連通部分16a、16bに挿入させてマスキング部材7を取り付けた後に、図10に示されるようにシートトリム5がシートパッド4にかぶせられる。図10に示される状態では、マスキング部材7のマスキング側スリット16の一対の連通部分16a、16bはいずれもシートトリム5のトリム側スリット10と重ならない位置にあるので、マスキング部材7によってシートトリム5のトリム側スリット10を目隠し(マスキング)することが可能である。
【0077】
図9に示されるマスキング部材7の構成では、ストライカ6をマスキング側スリット16に挿入する際に、ストライカ6の一対の腕部6aを一対の連通部分16a、16bを通してマスキング部材7の外縁14からマスキング部材7内部の挿入可能なマスキング側貫通孔12まで容易に挿入することが可能である。そのため、マスキング部材7の取付けを容易に行うことが可能である。また、一対の連通部分16a、16bは、マスキング部材7の外縁14に連通しているので、既存のカッターなどの切断手段で容易に形成することが可能である。
【0078】
また、図9に示されるマスキング部材7の構成では、マスキング側スリット16の一対の連通部分16a、16bにおける外縁14に通じる出口15同士の間隔は、ストライカ6の一対の腕部6aの間隔(すなわち、一対のマスキング側貫通孔12の間隔)より広くなるように設定されている。
【0079】
そのため、ストライカ6の一対の腕部6aがマスキング側スリット16の一対の連通部分16a、16b(本実施形態では一対の連通部分16a、16b端部のマスキング側貫通孔12)に挿入された状態では、マスキング部材7がずれても一対の腕部6aがマスキング側スリット16の一対の連通部分16a、16bの出口15から同時に出にくくなるので、マスキング部材7がストライカ6から脱落しにくくなる。
【0080】
さらに、図9に示されるマスキング部材7の構成では、マスキング側スリット16の一対の連通部分16a、16bのそれぞれの出口15は、マスキング部材7の対向する一対の外縁14にそれぞれ配置されている。そのため、マスキング部材7がずれても、一対の腕部6aがマスキング側スリット16の一対の連通部分16a、16bの出口15から同時に出るおそれが無くなるので、マスキング部材7はストライカ6からより脱落しにくくなる。
【0081】
とくに、図9に示されるように、一対のマスキング側貫通孔12の並ぶ方向におけるこれら貫通孔12の外側に位置する一対の外縁14に出口15が配置された場合には、マスキング部材7はストライカ6からより一層脱落しにくくなる。
【0082】
(C)
上記実施形態では、本発明の車両用シートの一例として、リヤシート1を例に挙げて説明しているが、本発明はこれに限定されるものではない。本発明の車両用シートは、シートパッドと、シートパッドの表面から突出するストライカと、トリム側スリットを有するシートトリムと、マスキング側スリットを有するマスキング部材とを備えた構成であれば、車両内の種々のシートに適用可能である。したがって、本発明の車両用シートは、車室前部に配置されたフロントシートにも適用可能である。フロントシートの場合には、ストライカをシートパッドの側面から側方(車幅方向)に突出するように設ければよい。
【0083】
さらに、本発明の車両用シートは、車室内部の適宜の場所においてチャイルドシートやベビーシートを固定する構造などにも適用可能である。すなわち、リヤシートや助手席のシートのシートパッドの表面からストライカを突出させておき、このストライカをチャイルドシート側に設けられたロック機構に係合させることによって、チャイルドシート等を車室内部に固定することが可能である。
【0084】
(比較例)
ここで、本発明の比較例として、図13~14に示されるように、従来のシート構造(図11参照)のシートバック33におけるシートトリム35のスリット37を隠すために小さな布片39がシートトリム35に縫製された構造を考える。
【0085】
図13に示される比較例のシートバック33は、シートパッド34と、当該シートパッド34を覆う薄いシート状のシートトリム35と、シートパッド34の背面から突出するストライカ36とを有している。
【0086】
シートパッド34の背面には、スリット34aが形成されている。ストライカ36は、スリット34aを通してシートパッド34の後方外側に突出している。
【0087】
ストライカ36は、略U字状の形状を有し、具体的には、互いに上下に離間する一対の腕部36aと、当該一対の腕部36aの先端同士を連結する連結部36bとを有する。一対の腕部36aの根元側端部は、スリット34aを通してシートパッド34内部の金属製のシートフレーム(図示せず)に固定されている。
【0088】
シートトリム35の背面には、ストライカ36に対応する位置において、ストライカ36の一対の腕部36aが挿入される一対の貫通孔38と、当該一対の貫通孔38の間をつなぐスリット37とが形成されている。
【0089】
ストライカ36は、シートトリム35がシートパッド34にかぶせられた状態では、一対の貫通孔38およびスリット37を通して、シートトリム35の外部に露出されている。図13~14に示される比較例の構造では、スリット37を塞ぐための小さい布片39がスリット37に配置されている。この布片39の固定側端部39aは、スリット37内部に通され、シートトリム35の内面に縫着されている。
【0090】
この布片39は、シートトリム35がシートパッド34に被せられるとともにストライカ36がスリット37を貫通した状態で、スリット37を塞ぐようにスリット37の内部に挿入される(言い換えれば、スリット37を通してシートトリム35の内部に這わせる)。これにより、布片39によってスリット37を塞ぐことが可能である。
【0091】
しかし、図13~14に示される比較例のシート構造では、シートトリム35にスリット37を隠すための小さな布片39を縫製する必要がある。さらにシートトリム35でシートパッド34を覆った後に布片39をスリット37内部に挿入してスリット37を塞ぐ作業も必要である。そのため、本実施形態のリヤシート1のように図2~3に示されるトリム側スリット10を避けるように延びるマスキング側スリット13が形成されたマスキング部材7を備えた構造と比べて、シートトリムの組付け性を向上することが難しいことが上記の比較例から理解される。
【0092】
また、従来のシート構造では、図13に示されるように、シートトリム35のスリット37の位置のばらつきを抑えるための不織布40が設けられている場合がある。この不織布40は、一対の貫通孔41およびスリット42を有しており、ストライカ36の外周に取り付けられている。不織布40のスリット42は、シートトリム35のスリット37の位置と同じ位置にあり、同じ方向を向くように配置されている。そのため、不織布40は、上記の布片39の代わりにシートトリム35のスリット37を塞ぐことができない。
【0093】
一方、本実施形態のリヤシート1では、図2~3に示されるように、シートパッド4とシートトリム5の間に介在するマスキング部材7を備えているので、このマスキング部材7によって、シートトリム5の位置のばらつきを抑えることが可能である。そのため、図13に示される比較例のシート構造のようにシートトリム35のスリット37を隠す小さな布片39と別に不織布40を設ける必要が無く、リヤシート1の部品点数を減らすことが可能になる。
【符号の説明】
【0094】
1 リヤシート
2 シートクッション
3 シートバック
4 シートパッド
5 シートトリム
6 ストライカ
6a 腕部
6b 連結部
7 マスキング部材
8 トリム側開口部
9 トリム側貫通孔
10 トリム側スリット
11、17 マスキング側開口部
12 マスキング側貫通孔
13、16 マスキング側スリット
13a 第1部分
13b 第2部分
14 外縁
16a、16b 連通部分
18 舌片
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14