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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-22
(45)【発行日】2022-12-01
(54)【発明の名称】X線分析用試料保持装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 23/20025 20180101AFI20221124BHJP
【FI】
G01N23/20025
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019149383
(22)【出願日】2019-08-16
(65)【公開番号】P2021032574
(43)【公開日】2021-03-01
【審査請求日】2021-08-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000250339
【氏名又は名称】株式会社リガク
(74)【代理人】
【識別番号】100101867
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 寿武
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 幸一郎
【審査官】赤木 貴則
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/194465(WO,A1)
【文献】特開2000-036272(JP,A)
【文献】特開2011-043417(JP,A)
【文献】特開平11-132977(JP,A)
【文献】特開2010-067468(JP,A)
【文献】特開2001-083105(JP,A)
【文献】特開2011-237292(JP,A)
【文献】特開昭50-026435(JP,A)
【文献】国際公開第99/015886(WO,A1)
【文献】特開2003-149177(JP,A)
【文献】特開2005-257306(JP,A)
【文献】特開2012-242130(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 23/00-G01N 23/2276
G01N 1/00-G01N 1/44
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料を充填するための試料充填部を有する試料ホルダと、この試料ホルダを保持するためのベース部材と、当該ベース部材に保持された前記試料ホルダの周囲を被覆するように前記ベース部材へ着脱自在に装着される気密部材と、を備えたX線分析用試料保持装置であって、
前記ベース部材には、前記気密部材を装着するための装着部が形成してあり、
前記気密部材には、前記装着部へ嵌め込んで装着される嵌合部が形成してあり、
且つ、前記装着部と嵌合部との相互間に、当該嵌合部を当該装着部に嵌め込む過程で係合して、前記ベース部材からの前記気密部材の離脱を阻止するロック機構を設け、
前記ロック機構は、前記気密部材の前記嵌合部を前記ベース部材の前記装着部に嵌め込む際に、前記嵌合部を中心軸周りに回転させることで、前記ベース部材からの前記気密部材の離脱を阻止する構成であり、
且つ、前記気密部材と前記ベース部材の間には、Oリングが装着してあることを特徴とするX線分析用試料保持装置。
【請求項2】
前記気密部材は、内部を中空部としたブロック形状に形成した本体部と、この本体部の下面から突き出して形成した前記嵌合部とを含み、
前記嵌合部の下端面が開口して前記本体部内の中空部と連通しており、
前記本体部を切り欠いてX線透過窓が形成され、当該X線透過窓を覆うようにしてその周囲にX線窓材が形成され、
前記本体部における前記X線透過窓が形成されていない表面領域に、操作者が掴んでこの嵌め込み操作を実行可能な操作部を形成したことを特徴とする請求項1に記載のX線分析用試料保持装置。
【請求項3】
前記X線窓材は、金属、人工鉱物又は高分子のうちのいずれか一つで形成してあることを特徴とする請求項2に記載のX線分析用試料保持装置。
【請求項4】
前記ベース部材には、前記試料ホルダを着脱自在に保持するための保持溝が形成してあり、前記試料ホルダには、当該保持溝に嵌め込んで保持される嵌合凸部が形成してあり、
さらに、前記試料ホルダにおける前記試料充填部は凹溝で形成され、当該凹溝の開口面が長方形状に形成され、
前記ベース部材の保持溝に対して、前記試料ホルダの嵌合凸部を中心軸周りに90°向きを変えて嵌め込むことで、前記凹溝の開口面における長方形状の長辺又は短辺を、入射X線の光軸と直交する向きに配置する構成を備えることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載のX線分析用試料保持装置。
【請求項5】
前記ベース部材の上面は、X線分析装置に装着した際に同装置におけるX線照射位置と同じ高さ位置に配置され、
前記凹溝の開口面は、当該試料ホルダが前記ベース部材に保持されたとき、前記ベース部材の上面と同一平面上に配置されるように位置決めしてあることを特徴とする請求項4に記載のX線分析用試料保持装置。
【請求項6】
前記気密部材は、前記本体部の中空部内に、天井面から下方へ垂下して、前記X線透過窓から入射してきた散乱X線を遮蔽するためのナイフエッジが設けてあることを特徴とする請求項2に記載のX線分析用試料保持装置。
【請求項7】
前記ベース部材の装着部は、凹部又は凸部で形成され、
前記気密部材の嵌合部は、前記装着部に嵌め込むことができる筒形に形成してあり、
前記装着部と前記嵌合部とが嵌合する面の相互間に、前記ロック機構が設けてあることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか一項に記載のX線分析用試料保持装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、X線分析装置に試料をセットするために用いられるX線分析用試料保持装置に関し、特に密閉された空間内に試料を配置した状態で、当該試料を搬送してX線分析装置にセットすることができる機能を備えたX線分析用試料保持装置に関する。
【背景技術】
【0002】
X線回折装置、X線反射率測定装置、X線小角散乱装置、蛍光X線分析装置等、各種のX線分析装置は、一般に試料ホルダと称する器具を用いて試料がセットされ、大気中でX線による測定分析が行われている。しかし、大気中の成分(酸素、窒素、水分等)と化学反応しやすい嫌気性物質を試料とする場合には、大気に触れることのない密閉空間に試料を配置して測定分析を実行する必要がある。
【0003】
特許文献1は、このような用途に適した構成をしたX線装置用気密試料ホルダーを開示している。すなわち、同文献1に開示されたX線装置用気密試料ホルダーは、試料台(3)の試料充填部(3a)に試料を充填し、ヘラ等で試料面を平らにならした後、フィルム(4)とパッキン材(5)を順次装着し、押し付け具にてこれらフィルム(4)とパッキン材(5)を押し付けて試料台(3)に密着させ、雄ネジ(7)にてこれらを試料台(3)に固定する構成を備えている。なお、カッコ内の符号は、同文献1において各構成要素に付されていたものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平11-6805号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した従来技術では、雄ネジを使ってフィルムとパッキン材が試料台に固定されるが、その雄ネジの締結操作にはドライバ等の工具が必要となる。しかしながら、X線装置用気密試料ホルダーに試料を保持させるための上述した一連の操作は、通常、グローブボックスと称する密閉容器内に不活性ガスを充填しておき、そのグローブボックス内に配置したX線装置用気密試料ホルダーの各構成要素を、操作員がゴム手袋を介して外部から取り扱って行われる。その際、工具を用いた雄ネジの締結操作という細かな操作を、ゴム手袋を介して外部から実行することは難しく、作業効率が著しく低下する要因となっていた。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、取り扱いが容易で、簡単な操作で密閉された空間内に試料を配置した状態を形成することができるX線分析用試料保持装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明のX線分析用試料保持装置は、試料を充填するための試料充填部を有する試料ホルダと、この試料ホルダを保持するためのベース部材と、当該ベース部材に保持された試料ホルダの周囲を被覆するようにベース部材へ着脱自在に装着される気密部材と、を備えている。
そして、ベース部材には、気密部材を装着するための装着部が形成してあり、気密部材には、装着部へ嵌め込んで装着される嵌合部が形成してある。さらに、装着部と嵌合部との相互間に、当該嵌合部を当該装着部に嵌め込む過程で係合して、ベース部材からの気密部材の離脱を阻止するロック機構を設けた構成としてある。
【0008】
このように構成された本発明のX線分析用試料保持装置は、気密部材の嵌合部をベース部材の装着部に嵌め込むだけで、試料充填部に充填された試料の周囲を密閉された空間にすることができる。よって、本発明のX線分析用試料保持装置によれば、取り扱いが容易で、簡単な操作で密閉された空間内に試料を配置した状態を形成することができる。
【0009】
しかも、当該嵌め込み操作を行う過程でロック機構が作用して、ベース部材からの気密部材の離脱を阻止するので、搬送中に気密部材の中空部内へ大気が流入するおそれも少なく、安定して試料の周囲を気密状態に保つことができる。
【0010】
気密部材は、内部を中空部としたブロック形状に形成した本体部と、この本体部の下面から突き出して形成した嵌合部とを含み、嵌合部の下端面が開口して本体部内の中空部と連通した構成とし、本体部を切り欠いてX線透過窓を形成するとともに、X線透過窓を覆うようにしてその周囲にX線窓材が形成してある。そして、本体部におけるX線透過窓が形成されていない表面領域に、操作者が掴んでこの嵌め込み操作を実行可能な操作部を形成することもできる。
【0011】
X線窓材は、金属、人工鉱物又は高分子のうちのいずれか一つで形成することが好ましい。
【0012】
ベース部材には、試料ホルダを着脱自在に保持するための保持溝を形成し、試料ホルダには、当該保持溝に嵌め込んで保持される嵌合凸部を形成し、さらに、試料ホルダにおける試料充填部は凹溝で形成し、当該凹溝の開口面を長方形状に形成し、ベース部材の保持溝に対して、試料ホルダの嵌合凸部を中心軸周りに90°向きを変えて嵌め込むことで、凹溝の開口面における長方形状の長辺又は短辺を、入射X線の光軸と直交する向きに配置する構成とすることもできる。
【0013】
このような構成を備えることで、例えば、X線を低角度から試料面に入射させて行うX線回折測定等のX線分析に際しては、凹溝(試料充填部)おける開口面の短辺を入射X線の光軸と直交する向きに配置する(換言すれば、開口面の長辺を入射X線の光軸と平行に配置する)ことで、試料面に対して入射X線の光軸方向へ広いX線照射面積を確保することが可能となる。
また、試料面に通常の角度からX線を入射させて行うX線回折測定等のX線分析に際しては、凹溝(試料充填部)おける開口面の長辺を入射X線の光軸と直交する向きに配置することで、試料面に対して幅方向に長いX線照射領域を確保することができ、高強度のX線照射が実現可能となる。
【0014】
ベース部材の上面は、X線分析装置に装着した際に同装置におけるX線照射位置と同じ高さ位置に配置される。凹溝の開口面は、当該試料ホルダがベース部材に保持されたとき、ベース部材の上面と同一平面上に配置されるように位置決めした構成とすることが好ましい。
【0015】
この構成によれば、試料ホルダを交換したときも、ベース部材の保持溝に試料ホルダの嵌合凸部を適正に嵌め込むだけで、試料ホルダに形成した凹溝の開口面がベース部材の上面と同一平面上に位置決めされる。
そして、凹溝に充填した試料の表面(試料面)をこの凹溝の開口面に合わせることで、試料面がベース部材の上面と同一平面上に配置される。X線分析に際しては、X線分析装置に設定されているX線の照射位置に、この試料面を配置する必要がある。
ベース部材の上面は、試料にX線を照射する際の基準面としてあり、X線分析装置にベース部材を取り付ける際に、X線照射位置と同じ高さにこの基準面を位置決めする。このとき、試料面もX線照射位置と同じ高さ位置に配置されるので、X線照射位置に対する試料面の位置決め(特に、高さ方向の位置決め)が容易となる。
【0016】
気密部材は、本体部の中空部内に、天井面から下方へ垂下して、X線透過窓から入射してきた散乱X線を遮蔽するためのナイフエッジを設けた構成とすることもできる。
気密部材の中空部内にナイフエッジを設けることで、X線透過窓に張られたX線窓材を入射X線が透過する際に発生した散乱X線をナイフエッジで効果的に遮蔽することができるので、試料への散乱X線の入射に伴って現れるX線測定データのノイズを低減し、高精度な測定分析を実現することが可能となる。
【0017】
なお、ベース部材の装着部は、凹部又は凸部で形成され、気密部材の嵌合部は、装着部に嵌め込むことができる筒形に形成することができる。そして、装着部と嵌合部とが嵌合する面の相互間に、ロック機構を設けた構成としてもよい。
【発明の効果】
【0018】
以上説明したように、本発明のX線分析用試料保持装置によれば、取り扱いが容易で、簡単な操作で密閉された空間内に試料を配置した状態を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の実施形態に係るX線分析用試料保持装置の分解斜視図である。
図2】本発明の実施形態に係るX線分析用試料保持装置の外観を示す斜視図である。
図3】試料ホルダを示す図で、(a)(c)は斜め上方から見た斜視図、(b)(d)は平面図、(e)は斜め下方から見た斜視図、(f)は底面図である。
図4】ベース部材を示す図で、(a)は斜視図、(b)は平面図、(c)は試料ホルダを装着した状態の平面図である。
図5】試料ホルダに充填した試料の試料面にX線を低い角度から照射した状態を示す図で、(a)は正面断面図、(b)は平面図、(c)は斜視図である。
図6】試料ホルダに充填した試料の試料面にX線を通常の角度から照射した状態を示す図で、(a)は正面断面図、(b)は平面図、(c)は斜視図である。
図7】気密部材を示す図で、(a)(b)は斜視図、(c)は嵌合部を斜め下方から見た部分斜視図、(d)はロック機構を示す正面図である。
図8】本発明の実施形態に係るX線分析用試料保持装置を用いて、試料をX線分析装置のX線照射位置へ配置するまでの工程を示す図である。
図9】本発明の実施形態に係るX線分析用試料保持装置を用いて、その気密保持能力をテストした実験結果を示すグラフである。
図10】本発明の他の実施形態に係るX線分析用試料保持装置を示す図で、(a)は気密部材の斜視図、(b)はX線分析用試料保持装置の斜視図、(c)は同装置の正面図である。
図11】本発明の他の実施形態に係るX線分析用試料保持装置を示す図で、(a)は斜視図、(b)は左側面図、(c)は正面図である。
図12】ナイフエッジの効果を検証するための実験例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、この発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。
図1は本実施形態に係るX線分析用試料保持装置の分解斜視図、図2は同装置の外観を示す斜視図である。
本実施形態に係るX線分析用試料保持装置は、図1に示すように、試料ホルダ10、ベース部材20及び気密部材30の各構成要素を備えている。そして、試料を充填した試料ホルダ10をベース部材20に保持するとともに、試料ホルダ10の周囲を被覆するように、ベース部材20に気密部材30を装着することで、図2に示すような密閉空間内での試料保持構造が形成される。
【0021】
図3は試料ホルダを示す図である。
同図に示すように、試料ホルダ10は、円柱状に形成したホルダ本体11の上面に試料充填部12が形成してあり、この試料充填部12に分析対象となる試料が充填される。
ホルダ本体11は、例えば、アルミ合金やステンレス等の金属材料や、ガラス等の非金属材料により形成することができる。ただし、ホルダ本体11を形成する材料を選択するに際しては、充填する試料と化学反応する材料や、同試料と類似する回折条件で回折X線が放出されるような材料は避けることが好ましい。また、シリコン単結晶をX線の回折条件を満たさない方位で切り出した材料(X線無反射材料)を用いてホルダ本体11を形成することもできる。このようなX線無反射材料を用いることで、例えば、X線測定データへのノイズの混在を低減することができる。
【0022】
本実施形態では、試料充填部12を浅い深さの凹溝12により形成してある。この凹溝12に充填した試料は、へら等を用いてその表面(試料面)を摺り均し、凹溝12の開口面と同一平面とすることが好ましい。ただし、試料充填部12は、浅い凹溝に形状が限定されるものではない。
【0023】
凹溝(試料充填部)12は、その開口面を種々の形状に形成することができる。例えば、図3(a)(b)に示すような長方形や、同図(c)(d)に示すような円形に、凹溝12の開口面を形成することができる。
【0024】
試料ホルダ10は、上述したように各種の材料と凹溝12の開口面形状を任意に組み合わせた複数種類のものをあらかじめ用意しておき、分析対象となる試料やX線分析の内容に応じて適宜選択して利用できるようにしておくことが好ましい。
【0025】
試料ホルダ10には、図3(e)(f)に示すように、ホルダ本体11の底面中央部から嵌合凸部13が下方に突き出して形成してある。嵌合凸部13は、ホルダ本体11の底面に接する基部が断面正方形状の角形凸部13aを形成しており、さらにその底面中央部から円柱状の芯部13bが突き出した形状となっている。
上述したように、材料と凹溝12の開口面形状を違えた複数種類の試料ホルダ10を用意する場合であっても、嵌合凸部13の形状は共通として、ベース部材20に対する互換性を保持することが好ましい。
【0026】
図4はベース部材を示す図である。
ベース部材20は、例えば、アルミ合金やステンレス等の金属材料で製作することができる。ベース部材20には、上面から掘り下げて、横断面が円形をした段付きの凹部が形成してある。この段付き凹部の一部が、気密部材30を装着するための装着部21を構成している。すなわち、段付き凹部の内底面は平坦面に加工されており、この内底面が装着部21の底面21aを構成している。さらに、その内底面から中間の段部に至るまでの内周面は、後述する気密部材30の嵌合部35と嵌合する嵌合面22を構成している。また、この嵌合面22の中間部には、径方向内側(すなわち、段付き凹部内の中心軸方向)に突き出たロックピン23が設けてある。
【0027】
また、ベース部材20に形成した段付き凹部の内底面には、その中央部分をさらに掘り下げて保持溝24が形成してある。既述した試料ホルダ10の嵌合凸部13を、この保持溝24に嵌め込むことで、試料ホルダ10がベース部材20にがたつきなく保持される。なお、保持溝24は、嵌合凸部13を着脱自在に嵌め込むことがでるようになっている。これにより、複数種類の試料ホルダ10を適宜交換してベース部材20に保持させることが可能なる。
【0028】
この保持溝24も段付き形状に形成してあり、保持溝24の上端開口面から中間の段部に至るまでの上部領域24aに、試料ホルダ10の嵌合凸部13に形成した角形凸部13aが嵌め込まれ、さらに中間の段部から保持溝24の内底面までの下部領域24bに、試料ホルダ10の嵌合凸部13に形成した芯部13bが嵌め込まれる。保持溝24の下部領域24bは、嵌合凸部13の芯部13bの円柱形状に対応した円形横断面に形成され、その内周面に嵌合凸部13の芯部13bが嵌め合わされる。
【0029】
一方、保持溝24の上部領域24aは、図4(a)に示すように、試料ホルダ10の嵌合凸部13に形成した角形凸部13aの各辺に接する四つの側面S1,S2,S3,S4を内壁に有している。これにより、保持溝24の上部領域24aには、試料ホルダ10の嵌合凸部13に形成した角形凸部13aを、その中心軸周りに90°向きを変えて嵌め合わせることができるようになっている。
【0030】
さて、試料ホルダ10を保持するベース部材20は、後述するようにX線分析装置200に取り付けられる。そして、試料ホルダ10の凹溝12に充填した試料に向けてX線が照射される。
ここで、図3(a)(b)に示したように、凹溝12の開口面を長方形状に形成した試料ホルダ10にあっては、嵌合凸部13の角形凸部13aを、ベース部材20における保持溝24の上部領域24aに嵌め込んだとき、凹溝12の開口面の長辺又は短辺が入射X線の光軸と直交する向きに配置される構成としてある。
【0031】
例えば、X線回折測定に際して、試料面に対するX線の入射角度を低角度に設定する(例えば、入射角度θを固定した2θスキャンにおいてθ=1°以下に設定し、また入射角度を固定しないθ/2θスキャンにおいてθ開始角度を2°付近に設定する)場合は、図5(a)(b)(c)に示すように、凹溝12おける開口面の短辺12aを入射X線aの光軸Oと直交する向きに配置する(換言すれば、開口面の長辺12bを入射X線aの光軸Oと平行に配置する)ことで、試料面に対して入射X線aの光軸O方向へ広いX線照射面積を確保することが可能となる。
【0032】
また、X線回折測定に際して、試料面に対するX線の入射角度を通常の角度に設定する場合は、図6(a)(b)(c)に示すように、凹溝12おける開口面の長辺12bを入射X線aの光軸Oと直交する向きに配置することで、試料面に対して幅方向に長いX線照射領域を確保することができ、高強度のX線照射を実現可能となる。
【0033】
図4(c)に戻り、ベース部材20の側壁には、装着部21を構成する段付きの凹部に連通する切欠き部25が対向する2箇所に形成してある。これらの切欠き部25は、装着部21の底面21aをベース部材20の側面から外部に開放する掃き出し部を形成しており、ベース部材20に保持された試料ホルダ10に試料を充填した際に装着部21の底面21aにこぼれた試料等を、この切欠き部25から外部へ容易に掃き出すことができる。
【0034】
図7は気密部材を示す図である。
気密部材30は、内部を中空部とした箱形ブロック形状に形成した本体部31と、この本体部31の下面から突き出して形成した嵌合部35とを備えている。
本体部31の側面には、図7(a)に示すように、対向する二箇所を切り欠いてX線透過窓32が形成してある。これら各X線透過窓32は、同図(b)に示すように、X線窓材33により覆われていて、気密部材30の中空部内を密閉状態に保っている。X線窓材33は、X線透過窓32の周囲(図7(b)にハッチングで示す領域)、すなわちX線透過窓32が形成される面と同一の面に張り付けてある。
【0035】
X線窓材33は、X線を透過させるが、大気中の成分(酸素、窒素、水分等)は透過させない遮蔽性能を有した薄い膜状(膜以外にも、シート状、フィルム状、箔等を含む)の材料により構成することが好ましい。X線窓材33を薄い膜状とすることで、X線の透過性能を高めることができ、高い強度のX線を試料に照射することが可能となる。
【0036】
一方、X線窓材33を薄肉とした場合、ベース部材20に気密部材30を装着する際に、誤って操作員がX線窓材33に触れるだけで損傷し、大気中の成分に対する遮蔽性能が著しく低下してしまうおそれがある。
【0037】
本実施形態では、気密部材30の本体部31におけるX線透過窓32が形成されていない表面領域を操作部34として広く確保することで、操作員がX線窓材33に触れる誤操作が生じにくい構造となっている。すなわち、図7(b)に示すように、箱形ブロック形状に形成した本体部31において、X線透過窓32が形成されていない2つの側面が操作部34として機能する。操作者は、これらの操作部34を掴んで、ベース部材20に対する気密部材30の嵌め込み操作を容易且つ安全確実に実行することができる。
【0038】
X線窓材33に適用する材料は、試料の性質に応じて適宜選択することが好ましい。例えば、試料がアルカリ金属等の反応性の高い性質を有する物質の場合は、X線窓材33としてベリリウムやアルミニウムが適している。ただし、これらの材料は不透明であるため、気密部材30の内部を視覚的に観察することができない。これに対して、透明な高分子フィルムをX線窓材33に適用した場合は、気密部材30の内部に配置した試料を視覚的に観察することが可能となる。
【0039】
ガスバリア性のあるX線窓材33に好適な材料としては、例えば、次のような物質が挙げられる。
すなわち、金属材料としては、ベリリウム、アルミニウム等がX線窓材33に適している。また、人工鉱物としては、グラファイト、ガラス状カーボン、ダイヤモンド、SiN、石英、サファイア等がX線窓材33に適している。そして、高分子材料としては、ポリエチレンフィルム(PEフィルム)、ポリ塩化ビニルフィルム(PVCフィルム)、ポリ塩化ビニリデンフィルム(PVDCフィルム)、ポリビニルアルコールフィルム(PVAフィルム)、ポリプロピレンフィルム(PPフィルム)、ポリカーボネートフィルム(PCフィルム)、ポリスチレンフィルム(PSフィルム)、ポリアクリロニトリルフィルム(PANフィルム)、エチレン酢酸ビニル共重合体フィルム(EVAフィルム)、エチレン-ビニルアルコール共重合体フィルム(EVOHフィルム)、ポリエーテルイミド(PEI)、芳香族ポリエーテルケトン(PEEK)等がX線窓材33に適している。
なお、高分子材料のものは、基本的には熱可塑性樹脂に属しており、水素をフッ素で置換したフッ素樹脂も含む。また、共押出法などで多層加工したものや、アルミニウム、アルミナ、シリカの単蒸着もしくは複合蒸着したもの、それらを表面処理したものも、X線窓材33に適している。
【0040】
嵌合部35は、図7(c)に示すように、ベース部材20に形成した装着部21に嵌め込むことができる筒形(本実施形態では円筒形)に形成してある。この筒形の嵌合部35の外周面35aが、ベース部材20の装着部21に形成した嵌合面22と嵌合する。
【0041】
嵌合部35の下端開口面は、嵌合部35の中空部を介して、本体部31内の中空部と連通している。ベース部材20の装着部21に嵌合部35を嵌め込む際には、ベース部材20に保持されている試料ホルダ10を、この下端開口面から本体部31の中空部内へ収納する。
【0042】
嵌合部35の下端縁には、Oリング36を装着するための円周溝37が形成してある。この円周溝37に装着したOリング36が、ベース部材20に形成した装着部21の底面21aに押し付けられて、気密部材30の中空部内を気密状態にする。この気密部材30により試料ホルダ10の周囲を被覆することで、試料ホルダ10に充填してある試料を、大気と遮断することができる。
【0043】
Oリング36を気密部材30の嵌合部35に装着した構成は、Oリング36をベース部材20の装着部21の側に配置する構成に比べて、次のような効果を有している。すなわち、試料を充填した試料ホルダ10をベース部材20の装着部21へ装着する際に、試料が装着部21の底面21aにこぼれても、気密部材30の嵌合部35に装着されたOリング36を汚染するおそれがない。装着部21の底面21aにこぼれた試料は、気密部材30をベース部材20に装着する前に、切欠き部25から掃き出せばよい。
【0044】
さらに、ベース部材20の装着部21と気密部材30の嵌合部35とが嵌合する面(装着部21の嵌合面22と嵌合部35の外周面35a)の相互間には、ロック機構が設けてある。このロック機構は、嵌合部35を当該装着部21に嵌め込む過程で係合して、ベース部材20からの気密部材30の離脱を阻止する。
【0045】
本実施形態では、ベース部材20における装着部21の嵌合面22に設けたロックピン23(図1図4(a)参照)と、気密部材30における嵌合部35の外周面35aに形成したL字溝38(図1図7(c)参照)とで、ロック機構を構成している。L字溝38は、嵌合部35の下端に開口しており、嵌合部35の軸方向に延びてから周方向に折れ曲がったところに終端部38aが形成してある。
【0046】
すなわち、図7(d)に示すように、気密部材30の嵌合部35をベース部材20の装着部21に嵌め込む際に、ロックピン23をL字溝38に係合させ、続いて嵌合部35を中心軸周りに回転させることで、ロックピン23をL字溝38の終端部38aに当接させる。このとき、Oリング36がベース部材20に形成した装着部21の底面21aに押し付けられて気密状態が形成されるように構成してある。
【0047】
ここで、ロックピン23がL字溝38の終端部38aに当接したときの衝突音により、適正に気密状態が形成されたことを、操作員は確認できる。そして、ロックピン23がL字溝38の終端部38aに当接している状態では、ベース部材20の装着部21に対する嵌合部35の軸方向への移動が阻止されるので、ベース部材20から気密部材30が離脱するおそれはない。
この一連の嵌め込み操作により、本実施形態に係るロック機構は、ベース部材20から気密部材30の離脱の阻止と、気密状態の形成とを連動して行うことのできる連動ロック機構を構成する。
【0048】
図8は本実施形態のX線分析用試料保持装置を用いて、試料をX線分析装置のX線照射位置へ配置するまでの工程を示す図である。
ベース部材20に試料ホルダ10を嵌め込んで保持する作業は、グローブボックス100の外で行うことができる。
試料ホルダ10を保持したベース部材20と、気密部材30と、試料とを、グローブボックス100内に収容する。そして、操作員はグローブボックス100に備え付けのゴム手袋101を装着し、このゴム手袋101を介して、グローブボックス100内での処理を実行する。
【0049】
グローブボックス100内では、まず試料を試料ホルダ10の凹溝12に充填し、さらにへら等を用いてその表面(試料面)を摺り均して凹溝12の開口面に合わせる。
次いで、ベース部材20に気密部材30を装着する。このとき、気密部材30の操作部34を掴んで、当該気密部材30をベース部材20に嵌め込むようにする。操作部34は、気密部材30の側面における広い領域に確保されているので、この操作は容易に実行できる。
【0050】
ベース部材20に気密部材30を装着することで、気密状態にある気密部材30の中空部内に試料が配置される。このように各部材が組付けられたX線分析用試料保持装置1を、グローブボックス100に連接したアンティチャンバ(パスボックス)102に移動させ、このアンティチャンバ102を経由してX線分析用試料保持装置1を外部へ取り出す。そして、X線分析装置200にX線分析用試料保持装置1を取り付ける。
X線分析用試料保持装置1を大気中で移動させても、気密部材30によって試料は大気から遮断されているので、大気中の成分に試料が化学反応するおそれはない。
【0051】
ここで、X線分析に際しては、X線分析装置200に設けられたX線照射位置201に、試料面を配置する必要がある。X線照射位置201は、X線分析装置200にあらかじめ設定されている。一般に、このX線照射位置201は、X線分析装置200が備えるゴニオメータの中心位置である。この中心位置に0.05mm程度の幅の狭いスリットを配置して、X線源からX線検出器にスリットを通過してダイレクトビームが入射するように調整することで、ゴニオメータの中心位置がX線の照射位置に位置決めされる。X線分析装置200には、ゴニオメータの中心位置に汎用の試料ホルダを差し込んで支持するための試料支持部202が設けられている。
【0052】
本実施形態のX線分析用試料保持装置は、X線分析装置200の試料支持部202にベース部材20を差し込んで装着される構成としてある。そして、試料支持部202にベース部材20を差し込んだとき、同時にベース部材20の上面20a(図2参照)がX線照射位置201と同じ高さ位置に配置されるように、あらかじめ調整してある。
【0053】
ベース部材20の保持溝24に、試料ホルダ10の嵌合凸部13を嵌め込んで保持したとき、試料充填部を形成する凹溝12の開口面が、ベース部材20の上面20aと同一平面上に配置されるように位置決めされている。凹溝12に充填した試料は、既述したように、へら等を用いてその表面(試料面)を摺り均し、凹溝12の開口面に合わせる。これにより、試料面がベース部材20の上面20aと同一平面上に配置される。
【0054】
上述したように、X線分析装置200にベース部材20を固定したとき、X線分析装置200のX線照射位置201と同じ高さ位置に、このベース部材20の上面20aが位置決めされるので、同時に試料面もX線照射位置201と同じ高さ位置に配置される。そのため、X線照射位置201に対する試料面の位置決め(特に、高さ方向の位置決め)が容易となる。
【0055】
図9は本実施形態に係るX線分析用試料保持装置の気密保持能力をテストした実験結果を示すグラフである。
大気中で容易に加水分解するLi7P3S11(硫化物ガラス系電解質)を試料として、アルゴンガス雰囲気下のグローブボックス内で同試料を装着し、気密部材30により同試料の周囲を気密状態とした。その後、グローブボックスからX線分析用試料保持装置を取り出し、23℃に空調した大気中に1日放置した。グローブボックスから取り出した直後に、試料に対してX線回折測定をしたデータAと、1日放置した後に試料に対してX線回折測定をしたデータBとを比較したが、ほぼ同一のX線プロファイル(検出結果)が得られた。大気成分や水分が気密部材30の内部に侵入した場合には試料と反応して、X線プロファイルのピーク強度の低下が現れるが、上記の比較結果よりそのような変化は認められず、試料の周囲が気密状態に保たれていることがわかる。
【0056】
なお、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、必要に応じて種々の変形実施や応用実施が可能であることは勿論である。
【0057】
例えば、上述した実施形態では、段付き凹部の一部によって、気密部材30を装着するための装着部21を構成したが、装着部21を凸部や凸条で構成し、筒状に形成した気密部材30の嵌合部35の内周面又は外周面を、これら凸部や凸条の外周面又は内周面に嵌め込む構成とすることもできる。
【0058】
また、気密部材30は、上述した実施形態で示したような箱形ブロック形状に限定されず、操作部34を広い領域で確保できる種々の立体形状で構成することも可能である。
例えば、図10(a)(b)に示すように、気密部材30をアーチ形のブロック形状に形成することもできる。気密部材30の本体部31には、半円弧面状にX線透過窓32が形成してあり、このX線透過窓32を覆うように、そのX線透過窓32の周囲の縁部にX線窓材33が貼り付けてある。
気密部材30の嵌合部35は、図7(c)(d)に示した先の実施形態と同様に構成してある。
【0059】
例えば、図10(c)に示すように、入射角度を低角に固定してX線走査(2θ走査)を行うX線回折測定(薄膜測定法)においては、既述した箱形ブロック形状の気密部材30では、高角度の2θを測定しようとすると、本体部31のX線透過窓32の縁部(窓枠部分)に試料からの回折線が干渉してしまい、X線検出器により検出できなくなるおそれがあった。これに対して、アーチ形のブロック形状に形成した気密部材30にあっては、本体部31によって試料からの回折線が遮られず、高角度領域までの測定が可能となる。
【0060】
また、図11に示すように、気密部材30の中空部内に、天井面から下方へ垂下してナイフエッジ40を設けることもできる。ナイフエッジ40は、X線を遮蔽する材料で形成した板状部材であり、試料面のほぼ中央部とナイフエッジ40の下端縁との間に適宜の隙間が形成されるように配置する。ナイフエッジ40の正面は、入射X線の光軸に向けて配置し、試料面とナイフエッジ40との間の隙間を抜けてX線が試料面に照射され、さらに回折X線がナイフエッジ40の裏面側に反射していく。
【0061】
X線窓材33を入射X線が透過する際に、散乱X線が発生することがある。この散乱X線は、ナイフエッジ40で遮蔽されるので、散乱X線によるX線測定データのノイズを低減し、高精度な測定分析を実現することが可能となる。
【0062】
図12はナイフエッジ40の効果を検証するための実験例を示す図である。
同図に示す測定データAは、ナイフエッジ40を設けていない図2に示す構造のX線分析用試料保持装置を用いて、X線回折測定を実施することにより得られた測定データである。一方、測定データBは、ナイフエッジ40を設けた図11(a)に示す構造のX線分析用試料保持装置を用いて、X線回折測定を実施することにより得られた測定データである。それぞれのX線分析用試料保持装置は、ナイフエッジ40以外は同じ寸法・構造に構成してある。
【0063】
これら測定データA、Bの比較から明らかなように、回折X線のピーク強度が現れる走査角度以外の領域において、測定データAには散乱X線によるノイズが重畳されているため、特に低角領域で測定された回折X線強度が、測定データBに比べて大きな値を示している。
【符号の説明】
【0064】
10:試料ホルダ、11:ホルダ本体、12:試料充填部(凹溝)、13:嵌合凸部、13a:角形凸部、13b:芯部、
20:ベース部材、20a:ベース部材の上面、21:装着部、21a:装着部の底面、22:嵌合面、23:ロックピン、24:保持溝、24a:保持溝の上部領域、24b:保持溝の下部領域、25:切欠き部、
30:気密部材、31:本体部、32:X線透過窓、33:X線窓材、34:操作部、35:嵌合部、35a:嵌合部の外周面、36:Oリング、37:円周溝、38:L字溝、38a:L字溝の終端部
40:ナイフエッジ
100:グローブボックス、101:ゴム手袋、102:アンティチャンバ、
200:X線分析装置、201:X線照射位置、202:試料支持部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12