(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-22
(45)【発行日】2022-12-01
(54)【発明の名称】アルカリ安定性免疫グロブリン結合タンパク質
(51)【国際特許分類】
C12N 15/31 20060101AFI20221124BHJP
C07K 1/22 20060101ALI20221124BHJP
C07K 14/31 20060101ALI20221124BHJP
C07K 17/10 20060101ALN20221124BHJP
【FI】
C12N15/31 ZNA
C07K1/22
C07K14/31
C07K17/10
(21)【出願番号】P 2019505354
(86)(22)【出願日】2017-08-07
(86)【国際出願番号】 EP2017069976
(87)【国際公開番号】W WO2018029157
(87)【国際公開日】2018-02-15
【審査請求日】2020-07-06
(32)【優先日】2016-08-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(32)【優先日】2016-12-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】513311653
【氏名又は名称】ナフィゴ プロテインズ ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】Navigo Proteins GmbH
(74)【代理人】
【識別番号】110001302
【氏名又は名称】特許業務法人北青山インターナショナル
(72)【発明者】
【氏名】ニック,ポール
(72)【発明者】
【氏名】フィードラー,エリク
(72)【発明者】
【氏名】ハウプツ,ウルリッヒ
(72)【発明者】
【氏名】メイシン,マレン
【審査官】林 康子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/079033(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/133349(WO,A1)
【文献】特開2006-304633(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00~15/90
C07K 1/00~19/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
免疫グロブリン(Ig)結合タンパク質であって、当該Ig結合タンパク質が、1つ又は複数のIg結合ドメインを含み、少なくとも1つのIg結合ドメインが、
配列番号:20、26、29、30、42、43、44、45からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む、又は、
配列番号:20、26、29、30、42、43、44、45からなる群から選択されるアミノ酸配列に対して少なくとも91%の配列同一性を有する配列である
(ただし、以下の4つの位置:1位のイソロイシン、11位のアラニン、35位のアルギニン、42位のロイシンのうち、少なくとも3つは変更されない)
ことを特徴とする免疫グロブリン(Ig)結合タンパク質。
【請求項2】
請求項1に記載のIg結合タンパク質において、28位のアミノ酸が、アスパラギン又はセリンであることを特徴とするIg結合タンパク質。
【請求項3】
請求項1に記載のIg結合タンパク質において、前記タンパク質が、互いに結合した2、3、4、5、6、7、又は8個のIg結合ドメインを含むことを特徴とするIg結合タンパク質。
【請求項4】
請求項1に記載のIg結合タンパク質において、前記タンパク質が、固相支持体にコンジュゲートしていることを特徴とするIg結合タンパク質。
【請求項5】
請求項
4に記載のIg結合タンパク質において、前記Ig結合タンパク質が、前記Ig結合タンパク質の固相支持体への部位特異的共有結合用の付着部位をさらに含むことを特徴とするIg結合タンパク質。
【請求項6】
請求項1に記載のIg結合タンパク質において、前記Ig結合タンパク質が、IgG1、IgG2、IgG4、IgM、IgA、Fc領域を含むIgフラグメント、IgのFc領域を含む融合タンパク質、及びIgのFc領域を含むコンジュゲートに結合することを特徴とするIg結合タンパク質。
【請求項7】
請求項1に記載のIg結合タンパク質を含む、親和性分離マトリックス。
【請求項8】
免疫グロブリンの親和性精製のための、請求項1に記載のIg結合タンパク質、又は、請求項
7に記載の親和性分離マトリックスの使用。
【請求項9】
免疫グロブリンの親和性精製の方法であって、当該方法が:
(a)免疫グロブリンを含む液体を提供するステップ;
(b)親和性分離マトリックスであって当該親和性分離マトリックスに結合した請求項1に記載の少なくとも1つのIg結合タンパク質を含む親和性分離マトリックスを提供するステップ;
(c)前記液体と前記親和性分離マトリックスとを接触させるステップであって、前記免疫グロブリンが前記Ig結合タンパク質に結合するステップ;及び
(d)前記マトリックスから前記免疫グロブリンを溶出し、これによって前記免疫グロブリンを含む溶出液を得るステップ
を備えることを特徴とする免疫グロブリンの親和性精製の方法。
【請求項10】
請求項
9に記載の方法において、ステップ(c)と(d)の間に、前記親和性分離マトリックスに非特異的に結合している分子の一部又は全部を前記親和性分離マトリックスから除去するのに十分な条件下で、前記親和性マトリックスを洗浄するステップをさらに備えることを特徴とする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも1I、11A、11E、11I、35R、35I、及び42Lからなる群から選択されるアミノ酸を有する1つ又は複数のIg結合ドメインを含むアルカリ安定免疫グロブリン(Ig)結合タンパク質に関する。本発明はさらに、本発明のアルカリ安定性Ig結合タンパク質を含む親和性マトリックスに関する。本発明はまた、免疫グロブリンの親和性精製用のこれらのIg結合タンパク質又は親和性マトリックスの使用、及び本発明のIg結合タンパク質を使用した親和性精製方法に関する。
【技術背景】
【0002】
バイオテクノロジーや製薬の用途の多くは、抗体を含む試料から汚染物質を除去する必要がある。抗体の捕捉及び精製の確立された手順は、免疫グロブリン用の選択的リガンドとして黄色ブドウ球菌由来の細菌細胞表面タンパク質Aを使用する親和性クロマトグラフィーである(例えば、Huseらによる総説、J.Biochem.Biophys.Methods 51、2002:217-231を参照)。野生型タンパク質Aは、高い親和性と選択性でIgG分子のFc領域に結合し、高温で、また広範囲にわたるpH値で安定である。アルカリ安定性のような改善された特性を有するタンパク質Aの変異体は抗体の精製に利用可能であり、タンパク質Aリガンドを含む種々のクロマトグラフィーマトリックスは市場で入手可能である。しかしながら、特に野生型タンパク質Aベースのクロマトグラフィーマトリックスは、アルカリ性条件への曝露後に免疫グロブリンに対する結合能の喪失を示す。
【0003】
[発明が解決しようとする課題]
抗体又はFc含有融合タンパク質の最も大規模な製造工程では、親和性精製用にタンパク質Aを使用する。しかしながら、親和性クロマトグラフィーにおけるタンパク質Aので適用に制限があるため、この分野では、免疫グロブリンに特異的に結合する改良された性質を有する新規Ig結合タンパク質を提供して、免疫グロブリンの親和性精製を容易にすることが必要である。Ig結合タンパク質を含むクロマトグラフィーマトリックスの価値を最大限に引き出すためには、親和性リガンドマトリックスを複数回使用することが望ましい。クロマトグラフィーサイクルの間には、消毒及びマトリックス上の残留汚染物質の除去のために徹底的な洗浄手順が必要とされる。この手順では、高濃度のNaOHを含むアルカリ溶液を親和性配位子マトリックスに塗布するのが一般的な方法である。野生型タンパク質Aドメインは、このような過酷なアルカリ性条件に長時間耐えることができず、免疫グロブリンに対する結合能を急速に失う。したがって、この分野においては、免疫グロブリンに結合できる新規のアルカリ安定性タンパク質を得ることが継続的に必要とされている。本発明は、免疫グロブリンの親和性精製に特によく適しているが、従来技術の欠点を克服するアルカリ安定性免疫グロブリン結合タンパク質を提供する。特に、本発明のアルカリ安定性Ig結合タンパク質の重要な利点は、親タンパク質と比較して高いpHで安定性が改善されていることである。上記の概説は、必ずしも本発明によって解決される全ての問題を説明するものではない。
【発明の概要】
【0004】
本発明の第1の態様は、一又はそれ以上のIg結合ドメインを含む親和性精製に適したアルカリ安定性Ig結合タンパク質であって、少なくとも一のIg結合ドメインが、1位又はそれに対応する位置におけるイソロイシンへのアミノ酸置換、11位又はそれに対応する位置におけるアラニン、グルタミン酸、もしくはイソロイシンへのアミノ酸置換、35位又はそれに対応する位置のアルギニン又はイソロイシンへのアミノ酸置換、及び42位又はそれに対応する位置のロイシンへのアミノ酸置換、からなる群から選択された少なくとも1、2、3、又は4つの置換を有する配列番号:1又は配列番号:2の親アミノ酸配列の変異体を含む、親和性精製に適したアルカリ安定性Ig結合タンパク質で達成される。いくつかの実施形態では、本発明は、少なくとも一つのIg結合ドメインが配列番号:52のコンセンサスアミノ酸配列を含むIg結合タンパク質を含む。
第二の態様において、本発明は、第1の態様のアルカリ安定性Ig結合タンパク質を含む親和性分離マトリックスに関する。
第三の態様において、本発明は、第1の態様のアルカリ安定性Ig結合タンパク質の使用、又は、免疫グロブリン又は免疫グロブリンのFc部分を含むタンパク質の親和性精製に関する第二の態様の親和性分離マトリックスの使用に関する。
第四の態様では、本発明は、免疫グロブリン、又は免疫グロブリンのFc部分を含むタンパク質の親和性精製方法であって、(a)免疫グロブリンを含む液体を提供するステップと;(b)親和性分離マトリックスに結合した第1の態様の固定アルカリ安定性Ig結合タンパク質を含む親和性分離マトリックスを提供するステップと;(c)この液体と親和性分離マトリックスとを接触させるステップであって、免疫グロブリンが固定Ig結合タンパク質に結合するステップと;(d)このマトリックスから免疫グロブリンを溶出し、それによって免疫グロブリンを含む溶出液を得るステップと;を具える方法に関する。
本発明のこの要約は、必ずしも本発明の全ての特徴を説明しているわけではない。他の実施形態は、続く詳細な説明を検討することから明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0005】
【
図1】
図1は、アルカリ安定Ig結合ドメインのアミノ酸配列である。1、11、35、42位が灰色で表示されている。最上列の数字は、Ig結合ドメイン中の対応するアミノ酸位置である。
図1Aは、人工アルカリ安定Ig結合ドメインのアミノ酸配列である。
図1Bは、アルカリ安定人工Ig結合ドメインのコンセンサスアミノ酸配列(配列番号:52)を示す。
【
図2】
図2は、親IB14の点突然変異変異体のアルカリ安定性の分析を示す。1、11、35、又は42位に点突然変異を有する変異体を6時間連続で0.5M NaOHで処理した後のIg結合の残存活性(%)の、親IB14との比較である。
【
図3】
図3は、1、11、及び35位、選択的に28及び42位に置換を有する親IB14の様々な変異体のアルカリ安定性の分析を示す。1、11、28、35、及び/又は42位(黒の列)における置換の組み合わせに関する6時間連続で0.5M NaOHで処理した後のIg結合の残存活性(%)を、親IB14(薄灰色の列)と比較した。cs14-1は、配列番号:18(1I/11A/35R)であり、cs14-2は、(1I/11A/35R/42L)の配列番号:19、cs14-3は配列番号:20(1I/11A/28N/35R/42L)を意味する。
【
図4】
図4は、1、11、及び35位、及び選択的に場合により42位に3つ又は4つの置換の組み合わせを有する、様々な変異体のアルカリ安定性の分析を示す。変異体Ig結合タンパク質(黒の列)の6時間の連続0.5M NaOH処理後のIg結合の残存活性(%)を、親IB27(薄灰色の列)と比較した。cs27-1は配列番号:29(1I/11A/35R)を意味し、cs27-2は配列番号:30(1I/11A/35R/42L)を意味する。
【
図5】
図5は、アルカリ処理後のIg結合ドメインのIg結合活性を示す図である。6時間の0.5M NaOH処理後の、エポキシ樹脂上の様々なIg結合ドメインのアルカリ安定性の分析を示す。11、11A、35R、及び42LのIg結合ドメインが示されている。アルカリ安定性Ig結合ドメイン:cs14-3(配列番号:20)、cs74h1(配列番号:42)、cs74h2(配列番号:43)、cs47h3(配列番号:44)、及びcs47h4(配列番号:45)、cs25-2(配列番号:26);親ドメイン:IB14。
【0006】
[発明の詳細な説明]
定義
本発明を以下に詳細に記載する前に、本発明は、本明細書に記載の特定の方法論、プロトコル及び試薬は変化するため、これらには限定されないことを理解されたい。また、本明細書で使用されている用語は特定の実施形態を説明することのみを目的としており、添付の特許請求の範囲によってのみ限定される本発明の範囲を限定することを意図するものではない。他に定義がなされていない限り、本明細書で使用されるすべての技術的及び科学的用語は、本発明が属する技術分野の当業者によって一般に理解されるのと同じ意味を有する。
【0007】
好ましくは、本明細書で使用される用語は、「多言語のバイオテクノロジー用語:(IUPAC勧告)」,Leuenberger,H.G.W,Nagel,B.及びKolbl,H.eds.(1995),Helvetica Chimica Acta,CH-4010バーゼル,スイス)において提供されている定義に一致する。
【0008】
本明細書及び特許請求の範囲を通して、文脈が必要としない限り、単語「含む」、ならびに「含む」の変形は、記載したメンバー、整数、又はステップ、メンバー、整数、又はステップの群を包含すると理解されるが、その他のメンバー、整数又はステップを排除するものではない。
【0009】
本発明の説明及び特許請求の範囲で使用する場合、単数形は交換可能に使用され、文脈が明確に示さない限り、複数形を含むとともに、各々の意味を含むことを意図する。また、本明細書で使用する場合、「及び/又は」は、列挙された項目のうちの1つ又は複数のありとあらゆる可能な組み合わせ、並びに代替(「又は」)で解釈されるときの組み合わせの欠如を意味し、これに及ぶ。
【0010】
本明細書で使用される「約」という用語は、明示的に列挙された量及びそれからの±10%の偏差を包含する。より好ましくは、5%の偏差が「約」という用語に包含される。
【0011】
いくつかの文書(例えば、特許、特許出願、科学出版物、製造業者の仕様書、説明書、GenBank登録番号登録システムなど)が本明細書の本文全体にわたって引用されている。本明細書中のいかなるものも、従来の発明によって本発明がこれらの開示に先行する権利がないことの承認として解釈するべきではない。本明細書に引用された文書のいくつかは、「参照により組み込まれる」として特徴付けられている。そのような組み込まれた参考文献の定義又は教示と本明細書に列挙された定義又は教示との間に矛盾がある場合、本明細書の本文が優先される。
【0012】
本明細書で言及されている全ての配列は、その全内容及び開示とともに、本明細書の一部である添付の配列表に開示されている。
【0013】
本発明の文脈において、「免疫グロブリン結合タンパク質」又は「Ig結合タンパク質」又は「免疫グロブリン(Ig)結合タンパク質」という用語は、免疫グロブリンのFc領域に特異的に結合することができるタンパク質を説明するために使用される。Fc領域へのこの特異的結合により、本発明の「Ig結合タンパク質」は、全免疫グロブリンを、Fc領域を含む免疫グロブリン断片、免疫グロブリンのFc領域を含む融合タンパク質、及び免疫ブロブリンのFc領域を含むコンジュゲートに結合させることができる。本明細書の本発明のIg結合タンパク質は免疫グロブリンのFc領域への特異的結合を示すが、Ig結合タンパク質が低い親和性で免疫グロブリンのFab領域のようなその他の領域へさらに結合できることを排除するものではない。
【0014】
本発明の好ましい実施形態では、Ig結合タンパク質が、一又はそれ以上のアルカリ安定Ig結合ドメインを含む。
【0015】
用語「解離定数」又は「KD」は特異的結合親和性を定義する。本明細書中で使用する場合、用語「KD」(通常、「mol/L」で測定され、時に「M」と略される)は、第1のタンパク質と第二のタンパク質との間の特定の相互作用の解離平衡定数を指すことを意図する。本発明の文脈において、用語KDは、Ig結合タンパク質と免疫グロブリンとの間の結合親和性を説明するために特に使用されている。
【0016】
本発明のIg結合タンパク質は、免疫グロブリンに対する解離定数KDが少なくとも1μM以下、又は好ましくは100nM以下、より好ましくは50nM以下、さらに好ましくは10nM以下である場合、免疫グロブリンに結合すると考えられる。
【0017】
本発明による用語「結合」は、好ましくは特異的結合に関する。「特異的結合」とは、本発明のIg結合タンパク質が、他の非免疫グロブリン標的への結合と比較して、それが特異的である免疫グロブリンにより強く結合することを意味する。
【0018】
本明細書で互換的に用いられる「免疫グロブリン」又は「Ig」という用語は、抗原に特異的に結合する能力を有する2本の重鎖及び2本の軽鎖からなる4ポリペプチド鎖構造を有するタンパク質を含む。さらに、そのフラグメント又は変異体も用語「免疫グロブリン」に含まれる。本明細書で理解されているIg断片は、無傷又は完全なIgよりも少ないアミノ酸残基を含む。この用語はまた、キメラ(ヒト定常ドメイン、非ヒト可変ドメイン)、一本鎖及びヒト化(非ヒトCDRを除くヒト抗体)免疫グロブリンなどの実施形態を含む。
【0019】
本明細書で理解されている「免疫グロブリン」は、ヒトIgG1、ヒトIgG2、ヒトIgG4、マウスIgG1、マウスIgG2A、マウスIgG2IgG1、ラットIgG2C、ヤギIgG1、ヤギIgG2、ウシIgG2、モルモットIgG、ウサギIgG; ヒトIgM、ヒトIgAなどの哺乳動物IgG;及びFc領域を含む免疫グロブリン断片、免疫グロブリンのFc領域を含む融合タンパク質、及び免疫グロブリンのFc領域を含むコンジュゲートを含むが、必ずしもこれらに限定されない。なお、本発明の天然に存在するタンパク質Aドメイン及び人工Ig結合タンパク質は、ヒトIgG3に結合しない。
【0020】
用語「タンパク質」及び「ポリペプチド」は、ペプチド結合によって連結された2又はそれ以上のアミノ酸の任意の直鎖状分子鎖を意味し、特定の長さの生成物をいうわけではない。したがって、「ペプチド」、「タンパク質」、「アミノ酸鎖」、又は2又はそれ以上のアミノ酸鎖を指すのに使用される他の任意の用語は「ポリペプチド」の定義内に含まれ、用語「ポリペプチド」は、これらの用語の代わりに、又はこれらの用語と同じ意味で使用される。用語「ポリペプチド」はまた、限定するものではないが、グリコシル化、アセチル化、リン酸化、アミド化、タンパク質分解的切断、天然に存在しないアミノ酸による修飾、及びこの分野で良く知られている同様の修飾を含む、ポリペプチドの翻訳後の修飾の生成物を指すことを意図する。したがって、2又はそれ以上のタンパク質ドメインを含むIg結合タンパク質も、「タンパク質」又は「ポリペプチド」という用語の定義に含まれる。
【0021】
用語「アルカリ安定」又は「アルカリ安定性」又は「腐食安定」又は「腐食安定性」(本明細書では「cs」と略される)は、免疫グロブリンに結合する能力を有意に失うことなくアルカリ条件に耐える本発明のIg結合タンパク質の能力を意味する。当業者は、例えば実施例に記載されているように、Ig結合タンパク質を水酸化ナトリウム溶液でインキュベートし、続いてクロマトグラフィー法によるなど、当業者に公知の日常的実験により免疫グロブリンに対する結合活性を試験することにより、アルカリ安定性を容易に試験できる
【0022】
本発明のIg結合タンパク質及び本発明のIg結合タンパク質を含むマトリックスは、「増加した」又は「改善された」アルカリ安定性を示し、これはこのIg結合タンパク質を組み込んだ分子及びマトリックスが、親タンパク質と比べてアルカリ条件下で長期間安定であることを意味する。すなわち、免疫グロブリンに結合する能力は失われず、親タンパク質に比べて免疫グロブリンに結合する能力の度合いが小さくなることもない。
【0023】
「結合活性」という用語は、本発明のIg結合タンパク質が免疫グロブリンに結合する能力を意味する。例えば、結合活性はアルカリ処理の前及び/又は後に決定することができる。結合活性は、Ig結合タンパク質について、又はマトリックスに結合したIg結合タンパク質について、すなわち固定化結合タンパク質について決定することができる。 「人工の」という用語は、天然には存在しない物質を意味する。すなわち、この用語は、人間が生産又は改造した物質を意味する。例えば、人間が(例えば実験室での遺伝子工学によって、シャッフリング法によって、又は化学反応などによって)生成した、又は意図的に修飾されたポリペプチド又はポリヌクレオチド配列は人工的なものである。
【0024】
本明細書で使用される「親タンパク質」又は「親ドメイン」という用語における「親」という用語は、後に修飾されてこの親タンパク質又はドメインの変異体を生成するIg結合タンパク質を意味する。この親タンパク質又はドメインは、人工ドメイン(例えば、限定するものではないが、配列番号:3、4、10、14、21、25、47、48、49、50)、天然に存在する黄色ブドウ球菌タンパク質Aドメインのドメイン、又は天然に存在する黄色ブドウ球菌タンパク質Aドメインの変異型もしくは改変型、である。
【0025】
本明細書で使用される「変異型」又は「変異型Ig結合ドメイン」又は「Ig結合ドメイン変種」又は「Ig結合タンパク質変種」という用語は、親タンパク質のものとは異なるIg結合タンパク質又はドメイン、又は親と比較して少なくとも一つのアミノ酸置換によるドメインアミノ酸配列のアミノ酸配列を含む。さらに一又はそれ以上の修飾によって親分子とは異なる人工分子を意味する。これらの修飾は、遺伝子工学によって、又は人によって行われる化学合成もしくは化学反応によって生成することができる。例えば、ドメインZは、天然に存在するタンパク質AドメインBの変異体である。例えば、配列番号:30は、親タンパク質IB27の変異体である。
【0026】
本明細書で使用される「コンジュゲート」という用語は、第2のタンパク質又は非タンパク質性部分など、その他の物質に化学的に結合した少なくとも第1のタンパク質を含むか、又は本質的にこのタンパク質からなる分子に関する。
【0027】
用語「修飾」又は「アミノ酸修飾」は、他のアミノ酸による親ポリペプチド配列の特定の位置でのアミノ酸の置換、欠失、又は挿入を意味する。既知の遺伝子コードや、組換え及び合成DNA技術を考えると、当業者はアミノ酸変異体をコードするDNAを容易に構築することができる。
【0028】
用語「置換」又は「アミノ酸置換」は、他のアミノ酸による親ポリペプチド配列中の特定の位置のアミノ酸の置換を指す。例えば、置換S11Aは、11位のセリンがアラニンによって置換されている変異型Ig結合タンパク質を指す。上記の例では、11Aは11位のアラニンを指す。本明細書の目的では、複数の置換は通常スラッシュによって分けられている。例えば、A1I/S11A/K35Rは、置換A1I、S11A、及びK35Rの組み合わせを含む変異を意味する。
【0029】
「欠失」又は「アミノ酸欠失」という用語は、親ポリペプチド配列中の特定の位置においてアミノ酸が除去されていることを意味する。
【0030】
用語「挿入」又は「アミノ酸挿入」は、親ポリペプチド配列へアミノ酸が付加されていることを意味する。
【0031】
この説明全体を通して、
図1のアミノ酸残基位置番号付け規則が使用されており、位置番号は、例えば、配列番号:1-8に対応するように指定されている。
【0032】
用語「アミノ酸配列同一性」とは、2又はそれ以上のタンパク質のアミノ酸配列の同一性(又は相違)の定量的比較を意味する。基準ポリペプチド配列に対する「パーセント(%)アミノ酸配列同一性」又は「パーセント同一」又は「同一性」は、配列を整列させ、必要があればギャップを導入して最大パーセント配列同一性を達成した後の、基準ポリペプチド配列中のアミノ酸残基と同一である配列中のアミノ酸残基のパーセンテージとして定義される。
【0033】
配列同一性を決定するために、クエリータンパク質の配列を基準タンパク質の配列と整列させる。整列させる方法は当技術分野において周知である。例えば、基準アミノ酸配列に対する任意のポリペプチドのアミノ酸配列同一性の程度を決定するためには、自由に利用可能であるSIM局所類似性プログラムを使用することが好ましい(Xiaoquin Huang及びWebb Miller(1991),Advances in Applied Mathermics,vol.12:337-357).(http://www.expasy.org/tools/sim-prot.htmlも参照)。マルチプルアラインメント分析には、ClustalWを使用するのが好ましい(Thompsonら(1994)Nucleic Acids Res.,22(22):4673-4680)。配列同一性パーセンテージを計算するときに、SIMローカル類似性プログラム又はClustalWのデフォルトパラメーターを使用することが好ましい。
【0034】
本発明の文脈において、特に明記しない限り、修飾した配列とそれが由来する配列との間の配列同一性の程度は、一般に、未修飾配列の全長に対して計算される。
【0035】
所定位置で基準アミノ酸配列と異なるクエリー配列の各アミノ酸は、一差異として数えられる。この差異の合計は基準配列の長さに関連しており、ある割合の非同一性が生じる。定量的な同一性割合は、非同一性の割合を100から引いたものとして計算される。
【0036】
本明細書で使用されているように、2つのポリペプチド配列の文脈において、「同一」又は「アミノ酸配列同一性(%)」又は「同一性」というフレーズは、以下の配列比較アルゴリズムのうちの1つを使用して又は目視検査によって測定した場合に、それぞれ最大に対応するように比較し整列させたときの、いくつかの実施形態においては少なくとも89.5%、いくつかの実施形態では少なくとも91%、いくつかの実施形態では少なくとも93%、いくつかの実施形態では少なくとも94%、いくつかの実施形態では少なくとも96%、いくつかの実施形態では少なくとも98%、いくつかの実施形態では100%のヌクレオチド又はアミノ酸残基の同一性を有する、2又はそれ以上の配列又は部分配列を意味する。同一性は、いくつかの実施形態では少なくとも約50残基の領域にわたって、いくつかの実施形態では少なくとも約51残基の領域にわたって、いくつかの実施形態では少なくとも約52残基の領域にわたって、いくつかの実施形態ではいくつかの実施形態では少なくとも約53残基の領域にわたって、いくつかの実施形態では少なくとも約54残基の領域にわたって、いくつかの実施形態では少なくとも約55残基の領域にわたって、いくつかの実施形態では少なくとも約56残基の領域にわたって、いくつかの実施形態では少なくとも約57残基の領域にわたって、いくつかの実施形態では少なくとも約58残基の領域にわたって、存在する。いくつかの実施形態においては、同一性は、配列の全長にわたって存在する。
【0037】
「融合した」という用語は、成分が直接又はペプチドリンカーを介して、ペプチド結合によって結合されていることを意味する。
【0038】
「融合タンパク質」という用語は、少なくとも第二のタンパク質に遺伝的に結合した少なくとも第1のタンパク質を含むタンパク質に関する。融合タンパク質は、もともと別々のタンパク質をコードしていた2又はそれ以上の遺伝子を結合することによって生じる。したがって、融合タンパク質は、単一の直鎖状ポリペプチドとして発現する同一又は異なるタンパク質の多量体を含み得る。
【0039】
本明細書で使用されているように、用語「リンカー」は、その最も広い意味において、少なくとも2つのその他の分子を共有結合させる分子を意味する。本発明の典型的な実施形態では、「リンカー」は、Ig結合ドメインを少なくとも一のさらなるIg結合ドメインと結合させる部分、すなわち、2つのタンパク質ドメインを互いに結合して多量体を生成する部分として理解される。好ましい実施態様においては、「リンカー」はペプチドリンカーであり、すなわち2つのタンパク質ドメインを連結するこの部分は1つの単一アミノ酸か、又は2又はそれ以上のアミノ酸を含むペプチドである。
【0040】
「クロマトグラフィー」という用語は、移動相及び固定相を用いて試料中のその他の分子(例えば混入物)から1種類の分子(例えば免疫グロブリン)を分離する分離技術を意味する。液体移動相は分子の混合物を含み、これらの混合物を固定相(例えば固相マトリックスなど)を横切って又は通過して輸送する。
【0041】
移動相中の異なる分子と固定相との作動相互作用がによって、移動相中の分子を分離することができる。
【0042】
「親和性クロマトグラフィー」という用語は、固定相に結合したリガンドが移動相(試料)中の分子(すなわち免疫グロブリン)と相互作用する、すなわちリガンドが生成するべき分子に対して特異的結合親和性を有する、クロマトグラフィーの特定のモードを意味する。本発明の文脈で理解されるように、親和性クロマトグラフィーは、免疫グロブリンを含む試料を、本発明のIg結合タンパク質のようなクロマトグラフィーリガンドを含む固定相に添加することを含む。
【0043】
用語「固相支持体」又は「固相マトリックス」は、固定相と互換的に使用される。
【0044】
本明細書で互換的に使用されている「親和性マトリックス」又は「親和性分離マトリックス」又は「親和性クロマトグラフィーマトリックス」という用語は、マトリックス、例えば、親和性リガンド、例えば本発明のIg結合タンパク質が付着しているクロマトグラフィーマトリックスといった、マトリックスを意味する。このリガンド(例えば、Ig結合タンパク質)は、精製されるか又は混合物から除去される、対象となる分子(例えば、上記で定義した免疫グロブリン)に特異的に結合できる。
【0045】
本明細書で使用される「親和性精製」という用語は、マトリックスに固定化されているIg結合タンパク質に上記で定義した免疫グロブリンを結合させることによって液体から上記に定義した免疫グロブリンを精製する方法を意味する。これによって、免疫グロブリンを除く混合物の他の全ての成分が除去される。さらなる工程において、結合した免疫グロブリンを精製された形で溶出することができる。
【発明を実施するための形態】
【0046】
本発明をさらに説明する。以下の節では、本発明の様々な態様がより詳細に定義されている。以下に定義される各態様は、そうでないことが明確に示されていない限り、他の任意の態様と組み合わせることができる。特に、好ましい又は有利であると表示された特徴は、好ましい又は有利であると示されたその他の一又はそれ以上の特徴と組み合わせることができる。
【0047】
第1の態様において、本発明は、一又はそれ以上のIg結合ドメインを含む免疫グロブリン(Ig)結合タンパク質に関するものであり、ここで、少なくとも一つのIg結合ドメインは、1位におけるイソロイシンへのアミノ酸置換、11位におけるアラニン、グルタミン酸、又はイソロイシンへのアミノ酸置換、35位におけるアルギニン又はイソロイシンへのアミノ酸置換、42位におけるロイシンへのアミノ酸置換、からなる群から選択された少なくとも1、2、3又は4個の置換を有する親アミノ酸配列の変異体を含む、本質的にこれらの変異体からなる、あるいはこれらの変異体からなる。いくつかの実施形態では、この少なくとも一つの変異体Ig結合ドメインは、1、2、3、4、5、又は6個の修飾をさらに含み、この各々の修飾は、単一アミノ酸置換、単一アミノ酸欠失、単一アミノ酸挿入からなる群から選択される。
【0048】
変異体Ig結合タンパク質の利点は、アルカリ条件下で長期間安定であることである。 この特徴は、マトリックス上の汚染物質を除去して、例えばマトリックスを数回使用できるようにするためにNaOH濃度が高いアルカリ性溶液を使用する洗浄手順を用いるクロマトグラフィーアプローチにとって重要である。変異体Ig結合タンパク質は、親ポリペプチドに比べて、アルカリ処理後により安定である。
【0049】
上記に定義した親タンパク質中の1、11、35、及び/又は42位における置換は、免疫グロブリン結合特性を損なうことなく、親タンパク質に比べて改善されたアルカリ安定性を付与する。
【0050】
親配列番号:1
いくつかの実施形態では、免疫グロブリン結合タンパク質が、(i)配列番号:1のアミノ酸配列、又は(ii)配列番号:1のアミノ酸配列に対して少なくとも89.5%の配列同一性を示すアミノ酸配列、配列番号:1の1位におけるイソロイシンへのアミノ酸置換、配列番号:1の11位におけるアラニン、グルタミン酸、又はイソロイシンへのアミノ酸置換、配列番号:1の35位におけるアルギニン又はイソロイシンへのアミノ酸置換、及び配列番号:1の42位におけるロイシンへのアミノ酸置換、からなる群から選択された、少なくとも1、2、3、又は4個の置換を有する。この変異体Ig結合タンパク質は、1、2、3、4、5、もしくは6個の置換又は1、2、3、4、5、6個の欠失といった、さらなる修飾を含んでいてもよい。
【0051】
配列番号:1に示されるIg結合ドメインは親ドメインであり、1、11、35、及び/又は42位に置換を有するこのIg結合ドメインは、配列番号:1の変異体である。配列番号:1は、本発明の変異体についての親ドメイン、好ましくは(i)配列番号:3、4、10、14、21、25、47、48、49、50を含む人工Ig結合ドメイン;(ii)配列番号:5乃至8を含む天然に存在するタンパク質Aドメイン又は変異体;を網羅するコンセンサス配列である。配列番号:1の親タンパク質は以下のアミノ酸配列である;X1X2X3X4X5X6X7X8QQX11AFYX15X16LX18X19PX21LX23X24X25QRX28X29FIQSLKDDPSX40SX42X43X44LX46EAX49KLX52X53X54X55APX58。ここで、1位のアミノ酸(X1)は、P、N、A、V、又はQから選択され、2位のアミノ酸(X2)は、A、D、又はQから選択され、3位のアミノ酸(X3)は、A、N、又はS、好ましくはA又はNから選択され、4位のアミノ酸(X4)は、K又はN、好ましくは、Kから選択され、5位のアミノ酸(X5)は、H又はFから選択され、6位のアミノ酸(X6)は、D、N、A、又はS、好ましくはD又はNから選択され、7位のアミノ酸(X7)は、K又はEから選択され、1位のアミノ酸(X8)は、D、A、又はEから選択され、11位のアミノ酸(X11)はS又はNから選択され、15位のアミノ酸(X15)はE又はQから選択され、16位のアミノ酸(X16)はI又はVから選択され、18位のアミノ酸(X18)はH又はNから選択され、19位のアミノ酸(X19)は、L又はMから選択され、21位のアミノ酸(X21)は、N、S、又はD、好ましくはNから選択され、23位のアミノ酸(X23)は、T又はNから選択され、24位のアミノ酸(X24)はE又はAから選択され、25位のアミノ酸(X25)はD又はEから選択され、28位のアミノ酸(X28)は、S、N、又はAから、好ましくはN又はSから選択され、29位のアミノ酸(X29)は、A又はGから選択され、40位のアミノ酸(X40)はV、Q、又はTから、好ましくはV又はQから選択され、42位のアミノ酸(X42)は、K、A、又はTから選択され、43位のアミノ酸(X43)は、E、N又はSから、好ましくはE又はNから選択され、44位のアミノ酸(X44)は、I、V、又はLから選択され、46位のアミノ酸(X46)は、G又はAから選択される、49位のアミノ酸(X49)は、K又はQから選択され、52位のアミノ酸(X52)は、N、D、又はSから、好ましくはNから選択され、53位のアミノ酸(X53)は、D又はEから選択され、54位のアミノ酸(X54)は、A又はSから選択され、58位のアミノ酸(X58)は、P又はKから選択される。
【0052】
親配列番号:5乃至8
第1の態様の一実施形態では、親ドメインは、配列番号:5乃至8のアミノ酸配列、又は配列番号:5乃至8のアミノ酸配列に対して少なくとも89.5%の配列同一性を示すアミノ酸配列を含むか、本質的にこのアミノ酸配列からなるか、又はこのアミノ酸配列からなる。Ig結合ドメインは、1位のイソロイシンへのアミノ酸置換、11位のアラニン、グルタミン酸、又はイソロイシンへのアミノ酸置換、35位のアルギニン又はイソロイシンへのアミノ酸置換、及び42位のロイシンへのアミノ酸置換、からなる群から選択される少なくとも1、2、3、又は4個のアミノ酸置換を有する変異体からなる。いくつかの実施形態では、Ig結合ドメインは、1、2、3、4、5、又は6個の修飾をさらに含み、各個々の修飾は、単一アミノ酸置換、単一アミノ酸欠失、単一アミノ酸挿入からなる群から選択される。
【0053】
親配列番号:2
第1の態様の別の好ましい実施形態において、前記少なくとも一つのIg結合ドメインは、配列番号:2の親アミノ酸配列の変異体を含み、この変異体は、配列番号:2の1位のイソロイシンへのアミノ酸置換、配列番号:2の11位のアラニン、グルタミン酸、又はイソロイシンへのアミノ酸置換、配列番号:2の35位のアルギニンへのアミノ酸置換、及び配列番号:2の42位のロイシンへのアミノ酸置換からなる群から選択される少なくとも1、2、3又は4個の置換を有する。いくつかの実施形態において、少なくとも一つのIg結合ドメインは、1、2、3、4、5、又は6個の修飾をさらに含み、個々の各修飾は、単一アミノ酸置換、単一アミノ酸欠失、単一アミノ酸挿入からなる群から選択される。
【0054】
配列番号:2は、限定するものではないが、Ig結合タンパク質に関する人工Ig結合ドメインIB14、IB25、IB27、IB74、及びIB47などの好ましい親タンパク質についてのコンセンサス配列である。好ましくは、本発明は、Ig結合タンパク質に関するものであり、少なくとも一つのIg結合ドメインが、親配列番号:2のアミノ酸配列の変異体、又は親配列番号:2に対して少なくとも89.5%の同一性を有するアミノ酸配列アミノの変異体を含む、本質的にこれらの変異体からなる、あるいはこれらの変異体からなる。配列番号:2は、配列番号:1:X1AAX4X5DX7X8QQX11AFYEILHLPNLTEX25QRX28AFIQSLKDDPSVSKEX44LX46EAX49KLNDX54QAPX58、の好ましい実施形態であり、ここで1位のアミノ酸(X1)はP、N、又はAから選択され、5位のアミノ酸(X5)はH又はFから選択され、7位のアミノ酸(X7)はK又はEから選択され、8位のアミノ酸(X8)はD、A、又はEから選択され、11位のアミノ酸(X11)がS又はN、好ましくはSから選択され、25位のアミノ酸(X25)はD又はEから選択され、28位のアミノ酸(X28)はS又はN、好ましくはNから選択され、44位のアミノ酸(X44)はI又はVから選択され、46位のアミノ酸(X46)はG又はAから選択され、49位のアミノ酸(X49)はK又はQから選択され、54位のアミノ酸(X54)はA又はSから選択され、58位のアミノ酸(X58)はP又はKから選択される。
【0055】
例示的な親タンパク質
いくつかの実施形態では、このIg結合ドメインは、配列番号:3、4、10、14、21、25、47乃至50からなる群から選択される親アミノ酸配列の変異体を含み、この変異体は、1位におけるアラニン又はプロリンからイソロイシンへのアミノ酸置換、11位におけるセリンからアラニン、グルタミン酸、又はイソロイシンへのアミノ酸置換、35位におけるリジンからアルギニン又はイソロイシンへのアミノ酸置換、42位におけるリジンからロイシンへのアミノ酸置換、からなる群から選択された少なくとも1、2、3又は4個のアミノ酸置換を有する。
【0056】
親タンパク質としてのIB14
第1の態様の好ましい実施形態において、親タンパク質は、配列番号:3のアミノ酸配列、又は親配列番号:3に対して少なくとも89.5%の同一性を有するタンパク質である。配列番号:3に対して少なくとも89.5%の同一性を有する親タンパク質の例は、配列番号:21(1P/28N)、配列番号:10(1A/28S)、配列番号:14(1P/28S)、 配列番号:25(46A/58K)、配列番号:47(5F/7E/8A)、配列番号:48(5F/7E/8A/25E)、配列番号:49(44V/49Q/54S/58K)、配列番号:50(25E/ 44V/49Q/54S/58K)、IB13(1P/4Q/28S)、IB23(1P/21S/28A/40T/43S)、IB15(2D/3N/5F/7E/8A/28A)、及びIB16(2D/3S/5F/7E/8A/28A)からなる群から選択することができる。
【0057】
親タンパク質としてのIB27
第1の態様の別の好ましい実施形態では、親タンパク質は配列番号:4、又は親の配列番号:4に対して少なくとも89.5%の同一性を有するタンパク質である。少なくとも89.5%の同一性を有する親タンパク質の例は、配列番号:50(5H/7K/8D)、配列番号:49(5H/7K/8D/25D)、配列番号:48(44I/ 49K/54A/58P)、及び配列番号:47(25D/44I/49K/54A/58P)、からなる群から選択される。
【0058】
さらに好ましい親ドメイン
第1の態様の一実施形態では、親タンパク質が配列番号:25のアミノ酸配列である。第1の態様の別の実施形態では、親タンパク質が配列番号:50又は配列番号:49のアミノ酸配列である。第1の態様の別の実施形態では、親タンパク質が、配列番号:48又は配列番号:47のアミノ酸配列である。
【0059】
アルカリ安定性蛋白質中の好ましいアミノ酸位置
いくつかの実施形態では、変異型Ig結合タンパク質のIg結合ドメインは、一の置換又は複数の置換を含む。
【0060】
1位におけるイソロイシン(I)への置換は、唯一の置換(例えば、配列番号:9)であってもよく、あるいはIg結合ドメインが、例えば、親タンパク質の少なくとも11位及び/又は35位及び/又は42位における置換といったさらなる突然変異を含んでいてもよい。アルカリ安定性タンパク質の1位のアミノ酸は、スレオニン(T)でないことが好ましい。1位のアミノ酸はイソロイシン(I)又はアラニン(A)であることが好ましい。
【0061】
11位におけるアラニン(A)、グルタミン酸(E)、又はイソロイシン(I)への置換は、唯一の置換(例えば、配列番号:11乃至13)であってもよく、又はIg結合ドメインが、さらなる突然変異、好ましくは少なくとも1位及び/又は35位及び/又は42位における置換を含んでいてもよい。11位のアミノ酸は、アスパラギン(N)又はリジン(K)ではないことが好ましい。11位のアミノ酸は、アラニン(A)、イソロイシン(I)、グルタミン酸(E)、ヒスチジン(H)又はプロリン(P)、より好ましくはA、I又はE、最も好ましくはAであることが好ましい。
【0062】
35位におけるアルギニン(R)又はイソロイシン(I)への置換は、唯一の置換(例えば、配列番号:15乃至16)であってもよく、又はIg結合ドメインが、さらなる突然変異、好ましくは少なくとも1位及び/又は11位及び/又は42位における置換を含んでいてもよい。35位のアミノ酸は、プロリン(P)、アスパラギン(N)、グリシン(G)、トリプトファン(W)、アラニン(A)、グルタミン(Q)又はメチオニン(M)ではないことが好ましい。35位のアミノ酸はR又はIであることが好ましい。42位におけるロイシン(L)への置換は、唯一の置換(例えば、配列番号:17)であってもよく、又はIg結合ドメインが、さらなる突然変異、好ましくは少なくとも1位及び/又は11位及び/又は35位に置換を含んでいてもよい。42位のアミノ酸はチロシン(Y)ではないことが好ましい。42位のアミノ酸はLであることが好ましい。
【0063】
Ig結合ドメインにおけるアミノ酸の好ましい組み合わせ
驚くべきことに、1位、11位、及び35位、及び選択的に1位、11位、35位、42位、及び選択的に1位、11位、28位、35位、及び42位におけるアミノ酸の特定の組み合わせは、図面及び実施例に示されるように、親ドメインと比較して変異型Ig結合ドメインのアルカリ安定性を増加させる。1位、11位、35位、42位における置換に加えて、アルカリ安定性Ig結合ドメインは、置換、欠失、又は挿入などの1、2、又は3個の追加の修飾を含んでいてもよい。例えば、この少なくとも一つのIg結合ドメインは、親配列と比較して一又はそれ以上の置換を含み、この一又はそれ以上の置換は、少なくとも:
1I;11A;35R;42L;11E;11I;35I;1I/11A;1I/35R;11A/35R;1I/42L;11A/42L;1I/11E;1I/11I;11I/35R;11E/35R;11I/42L;11E/42L;1I/35I;11A/35I;11I/35I;11E/35I;35R/42L;35I/42L;1I/11A/35R;1I/11E/35R;1I/11I/35R;1I/11A/42L;1I/11E/42L;1I/11I/42L;1I/11A/35I;1I/11E/35I;1I/11I/35I;1I/35R/42L;1I/35I/42L;11I/35R/42L;11I/35I/42L;11A/35R/42L;11A/35I/42L;11E/35R/42L;11E/35I/42L;1I/11A/35R/42L;1I/11E/35R/42L;1I/11I/35R/42L;1I/11A/35I/42L;1I/11E/35I/42L;1I/11I/35I/42L;1I/11A/28N/35R/42L;1I/11E/28N/35R/42L;1I/11I/28N/35R/42L;1I/11A/28N/35I/42L;1I/11I/28N/35I/42L;及び1I/11E/28N/35I/42L;
からなる群から選択される。1I;11A;35R;42L;1I/11A;1I/35R;1I/42L;11A/42L;11A/35R;35R/42L;1I/11A/35R;1I/11A/42L;1I/11A/35R/42L;及び1I/11A/28N/35R/42Lからなる群から選択される置換が好ましい。いくつかの実施形態においては、3又は4個のアミノ酸位置が、1I、11A、35R、及び42Lからなる群から選択される。その他の実施形態では、Ig結合ドメインが、1I/11A/35R;1I/11A/35R/42L及び1I/11A/28N/35R/42Lからなる群から選択される置換の組み合わせを含む。
【0064】
好ましい実施形態では、本発明のIg結合タンパク質は、一又はそれ以上のIg結合ドメインを含むか、又は本質的にこの結合ドメインからなり、ここで1位のアミノ酸残基がイソロイシンであり、11位のアミノ酸残基がアラニンである。本発明の別の好ましいIg結合タンパク質は、一又はそれ以上のIg結合ドメインを含むか、又は本質的にこの結合ドメインからなり、ここで1位のアミノ酸残基がイソロイシンであり、11位のアミノ酸残基がアラニンであり、35位のアミノ酸残基がアルギニンである。本発明の別の好ましいIg結合タンパク質は、一又はそれ以上のIg結合ドメインを含むか、又は本質的にこの結合ドメインからなり、1位のアミノ酸残基がイソロイシンであり、11位のアミノ酸残基がアラニンであり、35位のアミノ酸残基がアルギニンであり、42位のアミノ酸残基がロイシンである。本発明の別の好ましいIg結合タンパク質は、一又はそれ以上のIg結合ドメインを含むか、又は本質的にこの結合ドメインからなり、ここで1位のアミノ酸残基がイソロイシンであり、11位のアミノ酸残基がアラニンであり、35位のアミノ酸残基がアルギニンであり、42位のアミノ酸残基がロイシンであり、28位のアミノ酸残基がアスパラギンである。本発明の別の好ましいIg結合タンパク質は、一又はそれ以上のIg結合ドメインを含むか、又は本質的にこの結合ドメインからなり、ここで11位のアミノ酸残基がアラニンであり、35位のアミノ酸残基がアルギニンであり、42位のアミノ酸残基がロイシンである。
【0065】
アルカリ安定蛋白質の配列
本発明のIg結合タンパク質は、配列番号:52のアミノ酸配列を含む、又は本質的にこのアミノ酸配列からなる、又はこのアミノ酸配列からなる、一又はそれ以上のIg結合ドメインを含む。いくつかの実施形態では、Ig結合ドメインは、配列番号:52に対して少なくとも89.5%同一であるアミノ酸を含む。 配列番号:52は、例えば配列番号:18乃至20、26、29乃至30、42乃至45、56乃至61のIg結合ドメインといった、好ましい人工Ig結合タンパク質のコンセンサス配列である。配列番号:52は、以下のアミノ酸配列:IAAKX
5DX
7X
8QQAAFYEILHLPNLTEX
25QRX
28AFIQSLRDDPSVSX
42 EX
44 LX
46 EAX
49 KLNDX
54QAPX
58であり(
図1B参照):ここで、5位(X
5)のアミノ酸はH又はFから選択され、7位(X
7)のアミノ酸はK又はEから選択され、8位(X
8)のアミノ酸はD、A、又は Eから選択され、25位のアミノ酸(X
25)はD又はEから選択され、28位のアミノ酸(X
28)はS又はNから選択され、42位のアミノ酸(X
42)はL又はK、好ましくはLから選択され、44位のアミノ酸(X
44)はI又はVから選択され、46位のアミノ酸(X
46)はG又はAから選択され、49位のアミノ酸(X
49)はK又はQから選択され、54位のアミノ酸(X
54)はA又はSから選択され、58位のアミノ酸(X
58)はP又はKから選択される。
【0066】
Ig結合タンパク質中の1位、11位、35位、42位における3又は4個のアミノ酸を組み合わせた結果としての高いアルカリ安定性
いくつかの実施形態では、実施例及び図面に示すように、1位におけるイソロイシン、11位におけるアラニン、35位におけるアルギニン、及び42位におけるロイシンから選択される少なくとも3又は4個のアミノ酸の組合せが、Ig結合タンパク質の驚くほど特に良好なアルカリ安定性を提供している。28位はアスパラギンであることが好ましい。以下の実施例に示されるように、本発明の全てのIg結合タンパク質はアルカリ処理後であってもIgに結合することがわかった。本発明のIg結合タンパク質は、0.5M NaOH中で少なくとも6時間高いアルカリ安定性、特に対応する親タンパク質に比べて改善されたアルカリ安定性を示す。
【0067】
1位におけるイソロイシンと、11位におけるアラニン、グルタミン酸、又はイソロイシンと、35位におけるアルギニン又はイソロイシンと、及び選択的に42位におけるロイシンに対して、少なくとも3又は4個のアミノ酸の組み合わせを有するIg結合タンパク質が、アルカリ処理後であっても数時間Igに結合できるというのは、驚くべきかつ予想外のことであった。アミノ酸1I、11A又は11E、又は11I、35R又は35I、及び選択的に42L、好ましくは1I、11A、35R、及び42Lの組合せを含むIg結合タンパク質が、アルカリ処理後であっても数時間Igに結合できることは、最も驚くべきかつ予想外のことであった。Ig結合タンパク質のアルカリ安定性は、0.5M NaOH中で6時間インキュベートした後のIg結合活性の喪失を比較することによって決定される。いくつかの実施形態においては、これは、対応する親タンパク質のIg結合活性の喪失と比較されている。結合活性の喪失は、0.5M NaOHでの6時間のインキュベートの前後の結合活性を比較することによって決定される。
【0068】
図中の比較データに示すように、1I、11A又は11E、又は11I、35R又は35I、及び42Lから選択された少なくとも3又は4個のアミノ酸を有するIg結合ドメインのIg結合活性は、親タンパク質と比較して少なくとも25%増加している。これは、親タンパク質と比べて、驚くべきかつ有利な性質である。
【0069】
好ましいアルカリ安定性Ig結合タンパク質
特定の実施形態では、Ig結合ドメインは、配列番号:18乃至20、26、29乃至40、42乃至45、及び56乃至61からなる群から選択されたアミノ酸配列を含む。いくつかの実施形態では、このドメインは、配列番号:20、26、30、42乃至45からなる群のアミノ酸配列を含む。アルカリ安定ドメインは、挿入、欠失、又はさらなる置換など、さらなる修飾を含んでいてもよい。いくつかの実施形態では、Ig結合ドメインが、1、2、3、4、5、又は6個のさらなる置換を有する。他の実施形態では、Ig結合ドメインが、そのN末端の最初の4個のアミノ酸内に1、2、3又は4個のアミノ酸の欠失を、及び/又は、C末端に1又は2個のアミノ酸の欠失を有する。いくつかの実施形態では、Ig結合ドメインはN末端、例えば1、2、及び4位に、又は1、2、及び3位に欠失がある。いくつかの実施形態では、Ig結合ドメインは、C末端、例えば、57位及び/又は58位に欠失がある。いくつかの実施形態は、配列番号:20、26、30、42乃至45、例えば限定するものではないが、配列番号:9乃至19、29、53乃至54、56乃至61からなる群から選択されるアミノ酸に対して少なくとも89.5%の配列同一性を有する配列に関する。いくつかの実施形態は、前述の配列番号のいずれかに対するアミノ酸配列に対して少なくとも89.5%の配列同一性を有するアミノ酸配列に関し、ここでは、1、11、35及び42位の少なくとも3又は4つの位置に、あるいは配列番号:20、26、29、30、42乃至45の各アミノ酸位置に対応する位置に、同じアミノ酸を有しており、そこから、少なくとも89.5%の配列同一性を有するアミノ酸配列が誘導されている。好ましいアルカリ安定性Ig結合タンパク質の配列を
図1に示す。1I、11A、35R、及び42L位置の少なくとも3又は4個が保存されていることが好ましい。4位がQではないことがさらに好ましい。
【0070】
配列番号:20(cs14)及び変異体
具体的な実施形態では、アルカリ安定性Ig結合ドメインは、配列番号:20のアミノ酸配列、又はこのアミノ酸配列と少なくとも91%の同一であるアミノ酸配列、例えば配列番号:18乃至19、26、42乃至45、56を含むか、本質的にこれらのアミノ酸配列からなるか、又はこれらのアミノ酸配列からなる。好ましい実施形態では、配列番号:20の変異体が、4位にQを有しない。特定の実施形態では、Ig結合ドメインが、配列番号:20のアミノ酸配列、又はこの配列と少なくとも96%同一であるアミノ酸配列を含む。例えば、
図3及び
図5は、長期にわたる連続0.5M NaOHでの処理後のIg結合の残存活性を示す。
【0071】
表1は、配列番号:20、及びこのアミノ酸配列と少なくとも91%同一である好ましい変異体のアミノ酸との違いを示す。5位がH又はF、7位がK又はE、8位がD又はA、25位がD又はE、44位がI又はV、46位がG又はA、49位がK又はQ、54位はA又はS、58位が、P又はKであることが好ましい。人工アルカリ安定配列番号:20の任意の野生型タンパク質Aドメインに対する同一性は、78%より低い。
【0072】
配列番号:30(cs27)と変異体
特定の実施形態では、Ig結合ドメインは、配列番号:30のアミノ酸配列、又はこのアミノ酸配列と少なくとも94%同一であるアミノ酸配列、例えば配列番号:29を含むか、本質的にこのアミノ酸配列からなる、又はこのアミノ酸配列からなる。配列番号:30の、任意の野生型タンパク質Aドメインに対する同一性は76%より低い。
図4は、6時間の連続0.5M NaOH処理後の配列番号:30及び29の残存活性を示す。
【0073】
配列番号:26(cs25)と変異体
特定の実施形態では、Ig結合ドメインは、配列番号:26のアミノ酸配列、又はこのアミノ酸配列と少なくとも98%同一であるアミノ酸配列を含むか、本質的にこのアミノ酸配列からなる、又はこのアミノ酸配列からなる。配列番号:26の、任意の野生型タンパク質Aドメインに対する同一性は81%より低い。
図5は、6時間の連続0.5M NaOH処理後の配列番号:26の残存Ig結合活性を示す。
【0074】
配列番号:42(cs74)と変異体
特定の実施形態では、アルカリ安定性Ig結合ドメインは、配列番号:42のアミノ酸配列、及びこのアミノ酸配列と少なくとも98%同一のアミノ酸配列、例えば配列番号:43を含むか、本質的にこのアミノ酸配列からなる、又はこのアミノ酸配列からなる。配列番号:42の、任意の野生型タンパク質Aドメインに対する同一性は78%より低い。
図5は、6時間の連続0.5M NaOH処理後の配列番号:42、43の残存Ig結合活性を示す。
【0075】
配列番号:44(cs47)とその変異体
特定の実施形態では、アルカリ安定性Ig結合ドメインは、配列番号:44のアミノ酸配列、及びこのアミノ酸配列と少なくとも98%同一のアミノ酸配列、例えば配列番号:45を含むか、又は本質的にこのアミノ酸配列からなる。配列番号:44の、任意の野生型タンパク質Aドメインに対する同一性は78%より低い。
図5は、6時間の連続0.5M NaOH処理後の、少なくとも98%の同一性を有する配列番号:44、45の残存Ig結合活性を示す。
【0076】
免疫グロブリンに対する親和性
本発明のIg結合タンパク質はすべて、好ましくは1μMより低い、あるいは100nMより低い、さらにより好ましくは10nM又はそれ以下の解離定数KDで、免疫グロブリンに結合する。Ig結合タンパク質又はドメインの結合親和性を決定する、すなわち解離定数KDを決定する方法は当業者に公知であり、例えばこの技術分野で知られている以下の方法から選択することができる:表面プラズモン共鳴(SPR)に基づく技術、バイオレイヤー干渉法(BLI)、酵素結合免疫吸着検定法(ELISA)、フローサイトメトリー、等温滴定熱量測定法(ITC)、分析超遠心分離、ラジオイムノアッセイ(RIA又はIRMA)、及び増強化学発光法(ECL)。
【0077】
これらの方法のいくつかは実施例にさらに記載されている。通常は、解離定数KDは、20℃、25℃、又は30℃で決定される。特記しない限り、本明細書に記載のKD値は、表面プラズモン共鳴によって22℃±3℃で決定される。第1の態様の実施形態において、Ig結合タンパク質は、0.1nMから100nMの間、好ましくは0.1nMから10nMの間の、ヒトIgG1に対する解離定数KDを有する。
【0078】
多量体
本発明の一実施形態では、Ig結合タンパク質は、互いに結合した1、2、3、4、5、6、7、又は8個、好ましくは2、3、4、5又は6個のIg結合ドメインを含む。すなわち、Ig結合タンパク質は、例えば、単量体、二量体、三量体、四量体、五量体、又は六量体であり得る。多量体は、2個、3個、4個、又はそれ以上の結合ドメインを含んでいてもよい。
【0079】
本発明の多量体は、一般的には当業者に周知の組換えDNA技術によって人工的に生成した融合タンパク質である。本発明のIg結合タンパク質は、平易な有機合成戦略、固相支援合成技術などの多くの従来の周知の技術、又は市場で入手可能な自動合成装置によって作製することができる。
【0080】
いくつかの好ましい実施形態では、多量体は、例えばIg結合タンパク質のすべてのアルカリ安定性Ig結合ドメインのアミノ酸配列が同一である、ホモ多量体である。アルカリ安定性多量体は、2つ以上のIg結合ドメインを含んでいてもよく、この場合、Ig結合ドメインは、好ましくは、配列番号:18乃至20、26、29乃至38、42乃至45、56乃至61からなる群から選択された配列、又は前述の配列番号のいずれかに対して少なくとも89.5%の配列同一性を有する配列を含む、又は本質的にこの配列からなる。いくつかの実施形態では、このドメインは配列番号:18乃至20、26、29乃至38、42乃至45、56乃至61の誘導体であり、さらに各誘導体は、誘導体がベースとしている配列番号:18乃至20、26、29乃至38、42乃至45、56乃至61(例えば、配列番号:23、24、27を参照)のうちの1つに対して、そのN末端の4つのアミノ酸内に1、2、又は3個のアミノ酸の欠失、及び/又はC末端における1又は2個のアミノ酸の欠失を有する。
【0081】
例えば、配列番号:14及び配列番号:20を用いて、本明細書の実施例1に記載のホモ多量体融合構造(二量体、四量体、五量体、及び六量体)を生成した。さらに、配列番号:30の二量体、四量体、五量体、及び六量体を生成した。例えば、配列番号:23、24、27、28参照。
【0082】
第1の態様に関するいくつかの実施形態では、多量体がヘテロ多量体であり、例えば、少なくとも一つのアルカリ安定性Ig結合ドメインは、免疫グロブリン結合タンパク質内のその他のIg結合ドメインとは異なるアミノ酸配列を有する。
【0083】
リンカー
第1の態様のいくつかの実施形態では、1つ又は複数のIg結合ドメインは互いに直接結合している。その他の実施形態において、一又はそれ以上のIg結合ドメインは、一又はそれ以上のリンカーを介して互いに結合している。これらの典型的な実施形態において好ましいのはペプチドリンカーである。これは、ペプチドリンカーが、第1のIg結合ドメインを、第二のIg結合ドメインに結合させるアミノ酸配列であることを意味する。ペプチドリンカーは、ドメインのC末端とN末端との間のペプチド結合によって第1のIg結合ドメイン及び第2のIg結合ドメインに結合され、これによって単一の直鎖状ポリペプチド鎖を生成する。リンカーの長さ及び組成は、少なくとも1個から最大約30個のアミノ酸の間で変動し得る。より具体的には、ペプチドリンカーは、1乃至30アミノ酸の間の長さ、例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24 、25、26、27、28、29、30のアミノ酸の長さを有する。ペプチドリンカーのアミノ酸配列は、苛性条件及びプロテアーゼに対して安定であることが好ましい。リンカーは、Ig結合タンパク質中のドメインの立体配座を不安定にするべきではない。グリシン及びセリンなどの小型アミノ酸を含むリンカーがよく知られている。リンカーはグリシンを豊富に含んでいてもよい(例えば、リンカー中の残基の50%超がグリシン残基であり得る)。また、更なるアミノ酸を含むリンカーも好ましい。本発明のその他の実施形態は、アラニン、プロリン、及びセリンからなるリンカーを含む。タンパク質を融合させるその他のリンカーは、この分野では公知であり使用できる。
【0084】
固相支持体へのコンジュゲート
本発明のいくつかの態様において、Ig結合タンパク質は固相支持体にコンジュゲートされている。本発明のいくつかの実施形態において、Ig結合ドメインは、固相支持体へIg結合タンパク質を部位特異的共有結合させる付着部位を含む。本発明のいくつかの実施形態では、Ig結合タンパク質は、例えばN末端のリーダー配列、及び/又は、N-末端又はC-末端におけるタグ付き又はタグなしのカップリング配列(例えば、配列番号:39及び40を参照のこと)など、N末端及び/又はC末端にさらなるアミノ酸残基を含んでいてもよい。いくつかの実施形態では、アルカリ安定性Ig結合タンパク質が、固相(マトリックス)へ共有結合させる付着部位を含む。好ましくは、この付着部位は特異的であり、固相への部位特異的付着を提供する。特異的結合部位は、例えばシステイン又はリジンなどの天然アミノ酸を含み、これによって、固相の反応基又は、N-ヒドロキシスクシンイミド、ヨードアセトアミド、マレイミド、エポキシ、又はアルケン基から選択される固相とタンパク質との間のリンカーとの特異的化学反応が生じる。付着部位は、Ig結合タンパク質のC末端又はN末端に直接存在していてもよく、あるいはN末端又はC末端とカップリング部位との間にリンカー、好ましくはペプチドリンカーが存在してもよい。本発明のいくつかの実施形態では、Ig結合タンパク質は、末端にシステインを有する、3乃至20個のアミノ酸、好ましくは4乃至10個のアミノ酸の短いN末端又はC末端ペプチド配列を含んでいてもよい。C末端付着部位用のアミノ酸は、好ましくはプロリン、アラニン、及びセリンから選択することができ、例えば、結合用にC末端に単一のシステインを有する、ASPAPSAPSAC(配列番号:41)であってもよい。別の実施形態では、C末端付着部位用のアミノ酸は、好ましくはカップリング用にC末端に単一のシステインを有するグリシン及びセリンから選択され、例えば、GGGSCである。
【0085】
C末端にシステインを有することの利点は、Ig結合タンパク質のカップリングが、システインチオールと支持体上の求電子基との反応を通して行われ、チオエーテル架橋カップリングを生じることである。これは結合タンパク質の優れた移動性を提供し、結合能力を上げる。
【0086】
代替の実施形態では、Ig結合タンパク質の固相支持体へのカップリングが、アルカリ安定性Ig結合ドメインの43、46、又は47位のシステインを介して行われる。システインが43位、46位、又は47位に位置する場合、50位又は58位のアミノ酸はシステインではない(例えば、配列番号:53又は54を参照のこと)。好ましくは、50位のアミノ酸はリジンであり、58位のアミノ酸はプロリン又はリジンから選択される。
【0087】
親和性分離マトリックス
別の態様において、本発明は、第1の態様のIg結合タンパク質を含む親和性分離マトリックスに関する。
【0088】
第二の態様の好ましい実施形態においては、親和性分離マトリックスが固相支持体である。
【0089】
親和性分離マトリックスは本発明の少なくとも一つのIg結合タンパク質を含む。
【0090】
本発明のアルカリ安定性Ig結合タンパク質を含むこのマトリックスは、上記に定義した免疫グロブリン、すなわちIg、Fc領域を含むIg変異体、IgのFc領域を含む融合タンパク質、及びIgのFc領域を含むコンジュゲートの、例えばクロマトグラフィーによる分離に有用である。親和性マトリックスは免疫グロブリンの分離に有用であり、洗浄プロセスの間に適用されるような高アルカリ性条件の後でも、Ig結合特性を保持するはずである。このようなマトリックスの洗浄は、マトリックスを長期間繰り返し使用するために不可欠である。
【0091】
親和性クロマトグラフィー用の固相支持体マトリックスはこの分野で公知であり、例えば、限定するものではないが、アガロース及びアガロースの安定化誘導体(例えば、Sepharose 6B、Praesto(登録商標)Pure;CaptivA(登録商標)、rPROTEIN A Sepharose Fast Flow、Mabselect(登録商標)、及びその他)、セルロース又はセルロースの誘導体、細孔制御ガラス(例えば、ProSepvA樹脂(登録商標))、モノリス(例えば、CIM(登録商標)モノリス)、シリカ、酸化ジルコニウム(例えば、CMジルコニア又はCPG(登録商標))、酸化チタン、又は合成ポリマー(例えば、Poros 50A又はPoros MabCapture(登録商標)A樹脂などのポリスチレン、ポリビニルエーテル、ポリビニルアルコール、ポリヒドロキシアルキルアクリレート、ポリヒドロキシアルキルメタクリレート、ポリアクリルアミド、ポリメタクリルアミドなど)、及び種々の組成のヒドロゲル、を含む。特定の実施形態では、この支持体は多糖などのポリヒドロキシポリマーを含む。支持体に適した多糖類の例には、寒天、アガロース、デキストラン、デンプン、セルロース、プルランなど、及びこれらの安定化変異体が含まれるが、これらに限定されない。
【0092】
固相支持体マトリックスのフォーマットは、任意の適切な周知の種類のものであってもよい。本発明のIg結合タンパク質を結合するこのような固相支持体マトリックスは、例えば、カラム、キャピラリー、粒子、膜、フィルター、モノリス、繊維、パッド、ゲル、スライド、プレート、カセット、又はその他のクロマトグラフィーで一般的に使用され、当業者に知られているフォーマットを具えていてもよい。
【0093】
一実施形態では、このマトリックスが、例えばセファロース又はアガロースビーズなどのビーズとしても知られている実質的に球状の粒子からできている。適切な粒径は、5乃至100μm、例えば10乃至100μm、例えば10乃至100μm、例えば20乃至80μmの直径範囲であってもよい。粒子の形態のマトリックスは、充填層として、又は膨張層を含む懸濁形態で使用することができる。
【0094】
別の実施形態では、固相支持体マトリックスが、例えばヒドロゲル膜などの膜である。いくつかの実施形態では、親和性精製は、第1の態様のアルカリ安定性Ig結合タンパク質が共有結合しているマトリックスとしての膜を含む。固相支持体は、カートリッジ内の膜の形態であってもよい。
【0095】
いくつかの実施形態では、親和性精製は、第1の態様のアルカリ安定Ig結合タンパク質が共有結合している固相支持体マトリックスを含むクロマトグラフィーカラムを含む。
【0096】
本発明のアルカリ安定性Ig結合タンパク質は、例えば、本発明のIg結合タンパク質中に存在するアミノ-基、スルフヒドロキシ-基及び/又はカルボキシ-基を利用して、従来の結合技術によって適切な固相支持体マトリックスに付着することができる。このカップリングは、Ig結合タンパク質の窒素、酸素、又は硫黄原子を介して行われる。好ましくは、N末端又はC末端ペプチドリンカーに含まれるアミノ酸が、前記窒素原子、酸素原子、又は硫黄原子を含む。
【0097】
Ig結合タンパク質は、支持マトリックスに直接的に、あるいはスペーサ要素を介してマトリックス表面と本発明のIg結合タンパク質との間に適切な距離を提供して間接的に結合することができ、Ig結合タンパク質の利用可能性を改善し、支持体に対する本発明のIg結合タンパク質の化学結合を促進する。
【0098】
タンパク質リガンドを固相支持体に固定化する方法はこの分野ではよく知られており、この分野の当業者は標準的な技術及び装置を用いてより容易に行うことができる。Ig結合タンパク質及び特定の条件に応じて、このカップリングは、例えばいくつかのリジンを介する多点カップリングであってもよく、あるいは、例えばシステインを介する単点カップリングであってもよい。
【0099】
アルカリ安定性Ig結合タンパク質の使用
第3の態様において、本発明は、第1の態様のアルカリ安定性Ig結合タンパク質の使用、又は免疫グロブリン又はその変異体の親和性精製用の第2の態様の親和性マトリックスの使用、すなわち本発明のIg結合タンパク質を親和性クロマトグラフィーに使用することに関する。いくつかの実施形態では、本発明のIg結合タンパク質は、本発明の第2の態様に記載したように固相支持体上に固定化されている。
【0100】
免疫グロブリンの親和性精製方法
第4の態様において、本発明は、免疫グロブリンの親和性精製方法に関する。この方法は、(a)免疫グロブリンを含む液体を提供するステップと;(b)親和性分離マトリックスに結合した第1の態様の固定化アルカリ安定性Ig結合タンパク質を含む液体を提供するステップと;(c)この液体を親和性分離マトリックスに接触させて、免疫グロブリンを固定化Ig結合タンパク質に結合させるステップと;(d)このマトリックスから前記免疫グロブリンを溶出し、これによって免疫グロブリンを含む溶出液を得るステップと;を具える。
【0101】
いくつかの実施形態では、この親和性精製方法は、更に、親和性分離マトリックスからそれに非特異的に結合している分子の一部又は全部を除去するのに十分な条件下で、ステップ(c)と(d)の間に行われる一又はそれ以上の洗浄ステップをさらに具えていてもよい。非特異的に結合したとは、本開示の主題の少なくとも一つの結合ドメインと免疫グロブリンとの間の相互作用を含まないあらゆる結合を意味する。
【0102】
ここに開示された使用及び方法に適した親和性分離マトリックスは、上述した実施形態によるものであり、当業者に知られているマトリックスである。第4の態様のいくつかの実施形態では、ステップ(d)におけるマトリックスからの免疫グロブリンの溶出が、pHの変化及び/又は塩濃度の変化を通してもたらされる。タンパク質A媒体からの溶出に使用される適切な溶液は、例えばpH5以下の溶液、又はpH11以上の溶液によって使用することができる。
【0103】
いくつかの実施形態では、親和性マトリックスを効率的に洗浄するためのさらなるステップ(f)が、好ましくは、例えばpHが13乃至14のアルカリ性液体を使用することによって加えられる。特定の実施形態では、洗浄液は0.1乃至1.0MのNaOH又はKOH、好ましくは0.25乃至0.5MのNaOH又はKOHを含む。
【0104】
本発明のIg結合タンパク質の高アルカリ安定性により、このような強アルカリ溶液を洗浄目的に使用することができる。
【0105】
いくつかの実施形態では、親和性マトリックスは、ステップ(a)~(e)の繰り返しによって、少なくとも10回、少なくとも20回、少なくとも30回、少なくとも40回、少なくとも50回、少なくとも60回、少なくとも70回、少なくとも80回、少なくとも90回、又は少なくとも100回、再使用することができ、選択的にステップ(a)乃至(f)を少なくとも10回、少なくとも20回、少なくとも30回、少なくとも40回、少なくとも50回、少なくとも60回、少なくとも70回、少なくとも80回、少なくとも90回、又は少なくとも100回、繰り返すことができる。
【0106】
一般に、親和性精製方法を実施する適切な条件は当業者、特にタンパク質Aクロマトグラフィーの当業者に周知である。
【0107】
核酸分子
第5の態様では、本発明は、上記に開示した任意の実施形態のアルカリ安定性Ig結合タンパク質をコードする核酸分子、好ましくは単離された核酸分子に関する。一実施形態においては、本発明は、この核酸分子を含むベクターに関する。ベクターとは、タンパク質コード情報を宿主細胞に転写するのに使用できる任意の分子又はもの(例えば、核酸、プラスミド、バクテリオファージ又はウイルス)を意味する。一実施形態では、ベクターが発現ベクターである。
【0108】
第6の態様では、本発明は、上記に開示した核酸又はベクター、例えば大腸菌などの原核生物宿主細胞、例えば酵母Saccharomyces cerevisiaeもしくはPichia pastorisなどの真核生物宿主細胞、又はCHO細胞のような哺乳動物細胞を含む発現系に関する。
【0109】
アルカリ安定性Ig結合タンパク質の製造方法
第7の態様では、本発明は、本発明のアルカリ安定性Ig結合タンパク質の製造方法であって、(a)結合タンパク質の発現に適した条件下で第6の態様の宿主細胞を培養して、アルカリ安定性Ig結合タンパク質を得るステップと;(b)選択的に、アルカリ安定性Ig結合タンパク質を単離するステップと;を具える。原核生物又は真核生物宿主の培養に適切な条件は当業者に周知である。
【0110】
本発明のIg結合分子は、平易な有機合成戦略、固相支援合成技術、又は市場で入手可能な自動合成装置といった、多くの従来の周知の技術のいずれかによって調製することができる。一方、それらは、従来の組換え技術単独で、又は従来の合成技術と組み合わせても調製することができる。
【0111】
本発明の一実施形態は、上述した本発明によるアルカリ安定性Ig結合タンパク質の調製方法に関し、この方法は、(a)上記に定義したIg結合タンパク質をコードする核酸を調整するステップと(b)この核酸を発現ベクターに導入するステップと;(c)発現ベクターを宿主細胞に導入するステップと;(d)宿主細胞を培養するステップと;(e)Ig結合タンパク質が発現する培養条件に宿主細胞を供するステップと、それによって(e)上述したIg結合タンパク質を産生するステップと;選択的に(f)ステップ(e)で製造したタンパク質を単離するステップと;(g)選択的に、上述したようにタンパク質を固相マトリックスにコンジュゲートさせるステップと;を具える。
【0112】
本発明のさらなる実施形態では、アルカリ安定性Ig結合タンパク質の産生は、無細胞インビトロ転写/翻訳によって行われる。
【実施例】
【0113】
以下の実施例は、本発明をさらに説明するためのものである。しかしながら、本発明はこれらに限定されるものではなく、以下の実施例は単に本発明の実用性を示すものである。
【0114】
実施例1:シャッフリングによる親タンパク質の生成
初めに、親タンパク質(例えば、配列番号:3、4、10、14、21、22、25、47乃至50)を、天然に存在するタンパク質Aドメイン及びタンパク質Aドメイン変異体(例えば、Zドメイン又は、例えばZ/2などの任意の天然ドメインに対して少なくとも89.5%の同一性を有するドメイン)のシャッフリング工程によって生成した。より詳細には、本明細書で理解されるシャフリング工程は、非同一の既知のアミノ酸配列セットから人工アミノ酸配列を作製する組み立て工程である。このシャフリング工程は以下のステップ:a)5つの天然に存在するタンパク質AドメインE、B、D、A、及びC、ならびにタンパク質A変異体ドメインZ又はZ/2の配列を提供するステップと;b)これらの配列のアラインメントを取るステップと;c)コンピュータでスクリーニングして統計的断片化を行い、組み換えられた部分配列を同定するステップと;次いでd)これらの種々の断片の新しい人工配列を組み立てて、モザイク生成物、すなわち新規のアミノ酸配列を生成するステップと;を具える。ステップc)で生成したフラグメントは、任意の長さ、例えば、断片化された親配列の長さがnであれば、断片の長さは1乃至n-1であった。
【0115】
このモザイク生成物中のアミノ酸の相対位置は、出発アミノ酸配列に対して維持された。Q9、Q10、A12、F13、Y14、L17、P20、L22、Q26、R27、F30、I31、Q32、S33、L34、K35、D36、D37、P38、S39、S41、L45、E47、A48、K50、L51、Q55、A56、P57の位置の少なくとも90%が、例えばIB14、IB25、IB74h1、IB74h2、IB47h3、IB47h4、又は/及びIB27の人工アミノ酸配列と、天然に存在するタンパク質Aドメイン又はタンパク質A変異体との間で同一である。Ig結合タンパク質IB14、IB25、IB74h1、IB74h2、IB47h3、IB48h4、及びIB27の全アミノ酸配列は人工のものであり、天然に存在する任意のタンパク質Aドメイン又はドメインZのいずれかのアミノ酸配列全体との同一性が85%より低い。初期の人工Ig結合タンパク質を生成した後、アミノ酸配列の部位特異的ランダム化によってタンパク質をさらに修飾し、結合タンパク質を更に修飾した。このさらなる修飾は、個々のアミノ酸残基の部位飽和突然変異によって導入された。
【0116】
Ig結合タンパク質IB14、IB25、IB47、IB74又は/及びIB27、ならびに配列番号:5乃至8の遺伝子を合成し、当業者に公知の標準的な方法を用いて大腸菌発現ベクターにクローニングした。DNA配列決定を使用して挿入した断片配列の正しい配列を確認した。
【0117】
多量体Ig結合タンパク質を生成するために、(例えば、配列番号:14、20、30の)2、3、4、5、又は6個の同一のIg結合ドメインをアミノ酸リンカーを介して遺伝的に融合させた。
【0118】
特異的な膜の取り付け及び精製を行うために、C末端Cysを有する短いペプチドリンカー(ASPAPSAPSAC;配列番号:41)と、選択的に連鎖球菌タグ(WSHPQFEK;配列番号:46)をIg結合タンパク質(例えば、配列番号:39-40を参照)のC末端に付加した。その他の実施形態では、特異的な膜の取り付け及び精製を行うために、43、46、又は47位をシステインで置換した(例えば、配列番号:53乃至54を参照)。
【0119】
実施例2:変異体を生成する突然変異誘発
部位特異的突然変異誘発用に、Q5(登録商標)部位特異的突然変異誘発キット(NEB;カタログ番号E0554S)を製造業者の指示に従って使用した。それぞれ特定の置換をコードするオリゴヌクレオチドと、テンプレートとして配列番号:14を含むプラスミドを用いてPCRを行った。生成物を結合させ、電気穿孔法によって大腸菌XL2-blue細胞(Stratagene)に形質転換した。単一コロニーを単離し、インサート含有クローンにDNA配列決定を用いて正しい配列を確認した。結果を
図2に示す。
【0120】
GeneArt(商標)Strings(商標)合成(Thermo Fisher Scientific)によって、いくつかの点突然変異の組み合わせを生成した。Strings DNAフラグメントは精製されたPCR産物に対応し、pET28aベクターの誘導体にクローン化した。連結反応生成物は、電気穿孔法によって大腸菌XL2-blue細胞に形質転換された。単一コロニーをPCRによってスクリーニングして、正しいサイズのインサートを含む構築物を同定した。DNA配列決定を使用して正しい配列を確認した。点突然変異を有する変異体は、例えば、配列番号:9乃至13、15乃至17、及び21に示されている。
【0121】
実施例3:Ig結合タンパク質の発現
BL21(DE3)コンピテント細胞を、Ig結合タンパク質をコードする発現プラスミドで形質転換した。細胞を選択性寒天プレート(カナマイシン)上に広げ、37℃で一晩インキュベートした。前培養物を、100mlの2xYT培地中の単一コロニーから接種し、ラクトースと消泡剤を含まない150μg/mlのカナマイシンを添加したバッフル付き1Lエルレンマイヤーフラスコ中で37℃、160rpmで16時間培養した。OD600の読み取りは6乃至12の範囲であった。主培養物を、150μg/mlのカナマイシンを補充した1L厚壁三角フラスコ中の400mlのスーパーリッチ培地(修飾H15培地2%グルコース、5%酵母抽出物、0.89%グリセロール、0.76%ラクトース、250mM MOPS、202mM TRIS、pH7.4、消泡剤SE15)中で、0.5の調整開始OD600を用いて、前の一晩培養物から接種した。培養物を共鳴音響ミキサー(RAMbio)に移し、37℃で20×gでインキュベートした。オキシポンプストッパーで、曝気を促進した。グルコースを代謝させ、次いでラクトースを細胞に入れることによって、組換えタンパク質の発現を誘導した。所定の時点で、OD600を測定し、5/OD600に調整した試料を取り出し、ペレットにし、そして-20℃で凍結させた。約45乃至60の最終OD600に達するまで細胞を約24時間一晩増殖させた。バイオマスを集めるために、細胞を20℃で10分間、16000×gで遠心分離した。ペレットを秤量し(湿重量)、上清中のpHを測定した。処理前は細胞を-20℃で保存した。
【0122】
実施例4:IgS結合タンパク質の発現と溶解度のSDS-PAGE分析
発酵中に採取した試料を300μlの抽出緩衝液(0.2mg/mlリゾチーム、0.5×BugBuster、7.5mM MgSO4、40Uベンゾナーゼを補充したPBS)中に再懸濁させ、サーモミキサー中で、700rpm、室温で15分間撹拌することにより可溶化させた。遠心分離(16000×g、2分、室温)によって可溶性タンパク質を不溶性タンパク質から分離した。上清を回収し(可溶性画分)、ペレット(不溶性画分)を等量の尿素緩衝液(8M尿素、0.2Mトリス、2mM EDTA、pH8.5)に再懸濁させた。可溶性画分と不溶性画分の両方から50μlを取り出し、12μlの5×サンプルバッファー及び5μlの0.5M DTTを加えた。試料を95℃で5分間煮沸した。最後に、これらの試料8μlを、製造業者の推奨に従って流し、クマシーで染色したNuPage Novex 4-12%ビス-トリスSDSゲルに適用した。選択された時間内に最適化条件で、全てのIg結合タンパク質の高レベルな発現が見られた(データは示さず)。SDS-PAGEによると、発現したIg結合タンパク質は全て95%以上溶解した。
【0123】
実施例5:Ig結合タンパク質の精製
Ig結合タンパク質は、C末端StrepTagII(WSHPQFEK;配列番号:46)を有する大腸菌の可溶性画分中に発現した。この細胞を2回の凍結/融解サイクルで溶解させ、製造業者(IBA、Goettingen、Germany)の説明書に従ってStrep-Tactin(登録商標)樹脂を用いて精製工程を実施した。ジスルフィド形成を回避するために、緩衝液に1mMのDTTを添加した。
【0124】
代替的に、Ig結合タンパク質は、C末端StrepTagII(配列番号:46)を有する大腸菌の可溶性画分中に発現した。細胞を細胞破壊緩衝液に再懸濁させ、一定の細胞破壊システム(Unit F8B、Holly Farm Business Park)により、2サイクルの1kbarで溶解させた。製造業者の説明書に従って、AKTAxpressシステム(Ge Healthcare)を使用して、Strep-Tactinresin(IBA、Goettingen、Germany)及び追加のゲル濾過(Superdex 75 16/60;GE Healthcare)で精製工程を行った。ジスルフィド形成緩衝液を避けるために、Strep-Tactin精製用緩衝液に1mM DTTを添加し、クエン酸緩衝液(20mM Citrat、150mM NaCl、pH6.0)をゲル濾過用のランニング緩衝液として使用した。
【0125】
実施例6.高い親和性でのIg結合タンパク質のIgGへの結合(ELISAによって測定される)
IgG1又はIgG2又はIgG4に対するIg結合タンパク質の親和性は、酵素結合免疫吸着検定法(ELISA)を用いて測定した。IgG1又はIgG2又はIgG4含有抗体(例えば、IgG1の場合はセツキシマブ、IgG2の場合はパニツムマブ、又はIgG4の場合はナタリズマブ)を96ウェルNunc MaxiSorb ELISAプレートに固定化した(2μg/ml)。4℃で16時間インキュベートした後、ウェルをPBST(PBS+0.1%Tween 20)で3回洗浄し、ウェルをPBS中の3%BSAでブロックした(室温で2時間)。陰性対照はBSAのみでブロックしたウェルにあった。ブロックした後、ウェルをPBSTで3回洗浄し、室温でIg結合タンパク質(PBST中)で1時間インキュベートした。インキュベーション後、ウェルをPBSTで3回洗浄し、続いてStrep-Tactin-HRP(1:10000)(IBA、Goettingen、Germany)で、室温で1時間インキュベートした。その後、ウェルをPBSTで3回、PBSで3回洗浄した。ホースラディッシュペルオキシダーゼの活性は、TMB-Plus基質を添加することによって視覚化された。30分後、0.2MのH2SO4を添加することによって反応を停止させ、450nmで吸光度を測定した。ELISAにより測定されるように、ヒトIgG1に対するKDは、配列番号:14について4.9nMであり、ドメインZについては3.4nM、ドメインBについて3.1nM、ドメインCについては2.8nMである。
【0126】
実施例7.高い親和性でIg結合タンパク質のIgGへの結合(表面プラズモン共鳴実験で測定決定される)
CM5センサーチップ(GE Healthcare)をSPRランニング緩衝液で平衡化した。表面に露出したカルボキシル基は、EDCとNHSの混合物に通すことによって活性化されて、反応性エステル基が生じた。700乃至1500RUのオンリガンドをフローセルに固定化し、オフリガンドを別のフローセルに固定化した。リガンド固定化後のエタノールアミンの注入により、非共有結合したIg結合タンパク質を除去する。リガンドが結合すると、タンパク質分析物が表面に蓄積して屈折率が上がった。この屈折率の変化はリアルタイムで測定され、時間に対する応答又は共鳴単位(RU)としてプロットした。この分析物を適切な流速(μl/分)で段階希釈してチップに塗布した。各実験の後、チップ表面を再生緩衝液で再生し、ランニング緩衝液で平衡化した。対照試料をマトリックスに適用した。上述したように、再生及び再平衡化を行った。結合試験は、Biacore(登録商標)3000(GE Healthcare)を用いて25℃で行った。データ評価は、製造業者によって提供されるBIAevaluation 3.0ソフトウェアで、ラングミュア1:1モデル(RI=0)を使用して行った。評価を行った解離定数(K
D)を標的外に対して標準化し、ヒトIgG
1-Fc、セツキシマブ(IgG
1)、ナタリズマブ(IgG
4)、又はパニツモマブ(IgG
2)についての様々な人工アルカリ安定Ig結合タンパク質のK
D値を表2に示す。
【0127】
実施例8.エポキシ活性化マトリックスに結合したIg結合タンパク質のアルカリ安定性
精製したIg結合タンパク質を、製造業者の説明書(カップリング条件:一晩、pH9.0、エタノールアミンで5時間ブロッキング)に従ってエポキシ活性化マトリックス(Sepharose 6B、GE;カタログ番号17-0480-01)に結合させた。 セツキシマブをIgG試料として使用した(5mg; 1mg/mlマトリックス)。セツキシマブを、固定化Ig結合タンパク質を含むマトリックスに飽和量で適用した。このマトリックスを100mMグリシン緩衝液、pH2.5で洗浄して、固定化IgG結合タンパク質に結合したセツキシマブを溶出した。溶出したIgGの濃度をBLI(タンパク質Aオクテットセンサーと、標準としてセツキシマブを用いて定量化)によって測定し、Ig結合タンパク質の結合活性を決定した。
【0128】
カラムを0.5M NaOHで、室温(22℃+/-3℃)で6時間インキュベートした。固定化したタンパク質のIg結合活性を、0.5M NaOHで6時間インキュベートした前後に分析した。NaOH処理前の固定化タンパク質のIg結合活性を100%と定義した。
【0129】
図2は、IB14(配列番号:14)の点変異変異体のアルカリ安定性の分析を示す。1B14の1、11、35、及び42位における点突然変異の6時間の0.5M NaOH連続処理後のIg結合の残存活性(%)を、親のIB14と比較する。置換P1I、S11E、S11I、S11A、K35I、K35R、又はK42Lは、Ig結合活性を少なくとも約25%改善する。
【0130】
図3は、例えば1、11、28、35、及び/又は42位において3、4、又は5個の置換の組み合わせを有する変異体タンパク質の活性が、親タンパク質IB14(配列番号:14)の活性に比較してより高いことを示している。0.5M NaOHで6時間インキュベートした後、IB14と比較して、Ig結合タンパク質cs14-1(配列番号:18)は約50%、cs14-2(配列番号:19)は約70%、cs14-3(配列番号:20)は、約80%、より高いIg結合活性を示した。
【0131】
図4は、1、11、35、及び/又は42位における3、4、又は5個の置換の組み合わせを有する変異型Ig結合タンパク質の活性が、親タンパク質IB27の活性と比較してより高いことを示している。cs27-1(配列番号:29)は、0.5M NaOHで6時間インキュベートした後、親タンパク質と比較して約30%、cs27-2(配列番号:30)は約40%、より高いIg結合活性を示した。
【0132】
図5は、1I、11A、35R、及び42Lの組み合わせを有する変異型Ig結合タンパク質の活性が、ここではIB14として示される親タンパク質の活性と比較してより高いことを示している(その他の親タンパク質はIB14に匹敵する;データは示さず)。Ig結合タンパク質cs74h1(配列番号:42)、cs74h2(配列番号:43)、cs47h3(配列番号:44)、cs47h4(配列番号:45)、及びcs25(配列番号:26)は、0.5M NaOHで6時間インキュベートした後のIB14と比較して有意により高いIg結合活性を示した。
【配列表】