(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-22
(45)【発行日】2022-12-01
(54)【発明の名称】ニッケルナノワイヤーを含有するペースト
(51)【国際特許分類】
C08L 77/00 20060101AFI20221124BHJP
C08K 5/053 20060101ALI20221124BHJP
C08K 7/06 20060101ALI20221124BHJP
C08K 5/092 20060101ALI20221124BHJP
C08K 5/06 20060101ALI20221124BHJP
【FI】
C08L77/00
C08K5/053
C08K7/06
C08K5/092
C08K5/06
(21)【出願番号】P 2019548132
(86)(22)【出願日】2018-10-01
(86)【国際出願番号】 JP2018036635
(87)【国際公開番号】W WO2019073833
(87)【国際公開日】2019-04-18
【審査請求日】2021-09-02
(31)【優先権主張番号】P 2017199553
(32)【優先日】2017-10-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018137125
(32)【優先日】2018-07-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004503
【氏名又は名称】ユニチカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(72)【発明者】
【氏名】竹田 裕孝
(72)【発明者】
【氏名】山田 千夏子
【審査官】内田 靖恵
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-505509(JP,A)
【文献】特表2011-529617(JP,A)
【文献】特開2011-070968(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 77/00
C08K 5/053
C08K 7/06
C08K 5/092
C08K 5/06
H01B 1/00
H01B 1/22
B22F 1/00
B22F 9/00
C09D
C09J
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニッケルナノワイヤー、アルコキシアルキル化ポリアミドおよびグリコールを含有す
るペースト
であって、
前記ニッケルナノワイヤーの含有量が、ペースト全量に対して1~50質量%であり、
前記アルコキシアルキル化ポリアミドの含有量が、ペースト全量に対して0.01~10質量%であり、
前記グリコールの含有量が、ペースト全量に対して40~98.9質量%である、ペースト。
【請求項2】
前記ニッケルナノワイヤーの平均長が5~40μmであることを特徴とする請求項
1に記載のペースト
【請求項3】
前記アルコキシアルキル化ポリアミドが、アルコキシ基を有するアルキル基で、少なくとも一部のアミド基の水素原子を置換したポリアミドであり、
前記アルコキシ基の炭素原子数は1~5であり、
前記アルキル基の炭素原子数は1~5であることを特徴とする請求項1
または2に記載のペースト。
【請求項4】
前記アルコキシアルキル化ポリアミドの含有量が、前記ニッケルナノワイヤー100質量部に対して1質量部以上であることを特徴とする請求項1~
3いずれかに記載のペースト。
【請求項5】
前記グリコールがエチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリエチレングリコールおよびトリプロピレングリコールからなる群から選択されることを特徴とする請求項1~
4いずれかに記載のペースト。
【請求項6】
さらに酸触媒を含有することを特徴とする請求項1~
5いずれかに記載のペースト。
【請求項7】
前記酸触媒がシュウ酸であることを特徴とする請求項
6に記載のペースト。
【請求項8】
前記酸触媒の含有量が、前記アルコキシアルキル化ポリアミド100質量部に対して1~10質量部であることを特徴とする請求項
6または
7に記載のペースト。
【請求項9】
さらにグリコールアルキルエーテルを含有することを特徴とする請求項1~
8いずれかに記載のペースト。
【請求項10】
前記グリコールアルキルエーテルが、エチレングリコールまたはプロピレングリコールの2つの水酸基のうち、少なくとも1つの水酸基がアルキルエーテル化されているグリコール誘導体からなる群から選択される1種以上のグリコール誘導体であり、
前記アルキルエーテルのアルキル基が炭素原子数1~5のアルキル基であることを特徴とする請求項
9に記載のペースト。
【請求項11】
前記グリコールアルキルエーテルの含有量が、前記グリコール100質量部に対して1~150質量部であることを特徴とする請求項
9または
10に記載のペースト。
【請求項12】
請求項1~
11いずれかに記載のペーストを130~160℃で硬化して得られることを特徴とする構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はニッケルナノワイヤーを含有するペーストに関する。
【背景技術】
【0002】
ナノワイヤーはナノテクノロジー材料として様々な分野への利用が検討されており、例えば、電子材料の微細配線、センサー、太陽電池等への採用が期待されている。電子材料としては、導電材料を結着されるバインダーとして、エポキシ樹脂が一般的である。しかし、近年、フレキシブルなポリマー基板上での硬化や、省エネルギー化の観点から、より低温での硬化が求められているが、エポキシ樹脂は熱硬化温度が高く使用が限定されることから、比較的低温であっても熱硬化速度が速いものが求められていた。
【0003】
また、ナノワイヤーとして広く知られている銀ナノワイヤーは、貴金属であるため非常にコストが高く、イオンマイグレーションが生じやすい。銀ナノワイヤーに次いで知られている銅ナノワイヤーは、錆びやすいため、ペーストなどのような分散液にすることができない、あるいは分散液としての耐久性が悪いという問題がある。このため、いずれのナノワイヤーも使用する用途が限定されていた。
【0004】
イオンマイグレーション耐性が高く、錆びにくいナノワイヤーとして、本発明者らは、ニッケルナノワイヤーを開示している(例えば、特許文献1等)。しかし、ニッケルナノワイヤーは、空気中または液体中の酸素と反応して表面に不動態層を形成するため、前記ニッケルナノワイヤーをそのまま構造体に取り込んでも、電気配線等に十分な導電性が得られないという問題があった。
【0005】
一方、特許文献2のように、ニッケルナノワイヤー自体を還元することにより、十分な導電性を得る方法が開示されている。しかし、これにより得られるニッケルナノワイヤーの構造体は、脆く、クラック等による隙間が発生し、電磁波シールドなど面として機能させる用途には不適である等、様々な問題があった。
例えば、ポリビニルピロリドンなどグリコールに溶解するポリマーをバインダーとして添加した場合、ニッケルナノワイヤー、バインダーおよびグリコールを含むペーストから得られる構造体は、バインダーがグリコールと同じく極性の高い水やアルコールなどの溶剤に溶解するため、耐水性が要求される室外および水中(海水中)ならびにアルコール等の薬液殺菌を施す医療用途などにおいて、そのままでは使用できなかった。このため、当該構造体は、耐水性および耐アルコール性が高く、透水性および透アルコール性の低い特殊な保護層が必要であった。
また例えば、エポキシ基またはイソシアネート基等を含有する、硬化性を有するモノマーあるいはポリマーをバインダーとして添加した場合、グリコール類は沸点が高く、さらに活性水素を有するため、その硬化反応を制御することが難しく、グリコールを一部取り込み硬化した。そのため、ニッケルナノワイヤー、硬化性のバインダーおよびグリコールを含むペーストは、硬化後の構造物が脆く、形状を維持できない、ナノワイヤー間の接点が確保できず導電性が発現しない、および電磁波シールド性が発現しない等の問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開2015/163258号パンフレット
【文献】特開2016-11431号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記課題を解決するものであって、比較的低温であっても熱硬化速度が十分に速く、なおかつ、導電性、強度特性(特に屈曲性)、耐水性、耐塩水性および電磁波シールド性などの機能特性に優れ、長時間保存しても導電性に優れる硬化構造体を得ることができる、ニッケルナノワイヤー含有ペーストを提供することを目的とする。
【0008】
本発明はまた、比較的低温であっても熱硬化速度が十分に速く、なおかつ、導電性、強度特性(特に屈曲性)、耐水性、耐塩水性、耐アルコール性および電磁波シールド性などの機能特性に優れ、長時間保存しても導電性に優れる硬化構造体を得ることができる、ニッケルナノワイヤー含有ペーストを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、このような課題を解決するために鋭意検討の結果、ニッケルナノワイヤーに、アルコキシアルキル化ポリアミドとグリコールを併用することにより、上記目的が達成されることを見出し、本発明に到達した。
【0010】
すなわち、本発明の要旨は、下記のとおりである。
(1) ニッケルナノワイヤー、アルコキシアルキル化ポリアミドおよびグリコールを含有することを特徴とするペースト。
(2) 前記ニッケルナノワイヤーの含有量が、ペースト全量に対して1~50質量%であることを特徴とする(1)に記載のペースト。
(3) 前記ニッケルナノワイヤーの平均長が5~40μmであることを特徴とする(1)または(2)に記載のペースト
(4) 前記アルコキシアルキル化ポリアミドが、アルコキシ基を有するアルキル基で、少なくとも一部のアミド基の水素原子を置換したポリアミドであり、
前記アルコキシ基の炭素原子数は1~5であり、
前記アルキル基の炭素原子数は1~5であることを特徴とする(1)~(3)いずれかに記載のペースト。
(5) 前記アルコキシアルキル化ポリアミドの含有量が、前記ニッケルナノワイヤー100質量部に対して1質量部以上であることを特徴とする(1)~(4)いずれかに記載のペースト。
(6) 前記アルコキシアルキル化ポリアミドの含有量が、ペースト全量に対して10質量%以下であることを特徴とする(1)~(5)いずれかに記載のペースト。
(7) 前記グリコールがエチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリエチレングリコールおよびトリプロピレングリコールからなる群から選択されることを特徴とする(1)~(6)いずれかに記載のペースト。
(8) 前記グリコールの含有量が、ペースト全量に対して、40~98.9質量%であることを特徴とする(1)~(7)いずれかに記載のペースト。
(9) さらに酸触媒を含有することを特徴とする(1)~(8)いずれかに記載のペースト。
(10) 前記酸触媒がシュウ酸であることを特徴とする(9)に記載のペースト。
(11) 前記酸触媒の含有量が、前記アルコキシアルキル化ポリアミド100質量部に対して1~10質量部であることを特徴とする(9)または(10)に記載のペースト。
(12) さらにグリコールアルキルエーテルを含有することを特徴とする(1)~(11)いずれかに記載のペースト。
(13) 前記グリコールアルキルエーテルが、エチレングリコールまたはプロピレングリコールの2つの水酸基のうち、少なくとも1つの水酸基がアルキルエーテル化されているグリコール誘導体からなる群から選択される1種以上のグリコール誘導体であり、
前記アルキルエーテルのアルキル基が炭素原子数1~5のアルキル基であることを特徴とする(12)に記載のペースト。
(14) 前記グリコールアルキルエーテルの含有量が、前記グリコール100質量部に対して1~150質量部であることを特徴とする(12)または(13)に記載のペースト。
(15) (1)~(14)いずれかに記載のペーストを130~160℃で硬化して得られることを特徴とする構造体。
【発明の効果】
【0011】
本発明のニッケルナノワイヤー含有ペーストによれば、比較的低温であっても熱硬化速度が十分に速く、なおかつ、導電性、強度特性(特に屈曲性)、耐水性、耐塩水性および電磁波シールド性などの機能特性に優れた硬化構造体を得ることができる。
本発明のニッケルナノワイヤー含有ペーストによれば、長時間保存しても、導電性に優れた硬化構造体を得ることができる。
本発明のペーストは、耐熱性が低いプラスチックへの塗布および接着が可能であるため、フレキシブル特性を有する配線および電極を構成する材料として使用可能であり、またセンサー等のデバイスに好適に使用できる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のペーストは、ニッケルナノワイヤー、アルコキシアルキル化ポリアミドおよびグリコールを含有する。
【0013】
ニッケルナノワイヤーはニッケルから構成されたナノワイヤーであれば特に限定されない。
【0014】
ニッケルナノワイヤーの平均径は、特に限定されず、通常は50~500nmであり、50~300nmであることが好ましい。後述の化学還元法で作製される場合、その平均径は通常30nm~200nm程度になり、ペースト中での分散性および硬化構造体の導電性の観点から70nm~120nm程度が好ましい。本明細書中、硬化構造体とは、ペーストを硬化することにより形成することができる構造体のことであり、例えば、配線層、電極層、電磁波シールド層が挙げられる。
【0015】
ニッケルナノワイヤーの平均長は、特に限定されない。後述の化学還元法で作製される場合、その平均長は5μm~50μm程度、特に5~40μm程度になり、硬化構造体の導電性、耐アルコール性および電磁波シールド性のさらなる向上の観点から長い方が良く、10μm以上が好ましく、特に15μm以上(特に15~40μm)が好ましい。
【0016】
ニッケルナノワイヤーのアスペクト比(平均長/平均径)は通常、10~2000であり、200~500であることが好ましく、200~400であることがより好ましい。
【0017】
ニッケルナノワイヤーの含有量は、特に限定されず、ペーストの流動性およびナノワイヤーの切断防止の観点から、ペースト全量に対して、1~50質量%とすることが好ましく、ペーストの保存安定性から40質量%以下、特に1~40質量%とすることが好ましい。さらに、バインダーおよび溶媒との混合性および分散性ならびに硬化構造体の耐アルコール性のさらなる向上の観点から、ニッケルナノワイヤーの含有量は、ペースト全量に対して、10質量%以下、特に1~10質量%とすることが好ましく、5質量%以下、特に1~5質量%とすることがより好ましい。前記含有量を1~5質量%にすることにより、ペーストはより一層、様々なものに塗布することができ、硬化して得られる構造体は、空隙がより一層少なく、導電性等がより一層向上する。
【0018】
ニッケルナノワイヤーの製造方法は特に限定されず、例えば、公知の化学還元法や電析法等の湿式法等により製造することができる。ペーストに使用するグリコールとの親和性を考えた場合、好ましいニッケルナノワイヤーは、化学還元法で製造されたニッケルナノワイヤーである。さらに好ましいニッケルナノワイヤーは、グリコール中でニッケルイオンを還元することにより製造されたニッケルナノワイヤーである。以下に、その製造方法の例を示す。
【0019】
化学還元法の原料となるニッケルイオンは、特に限定されない。例えば、ニッケルの硫酸塩、硝酸塩、塩酸塩、酢酸塩などが挙げられる。これらの塩は、水和物でも、無水物でも良い。
【0020】
還元されるニッケルイオンの濃度は、特に限定されず、ナノワイヤーの形状制御の観点から、反応溶液全量に対して10~20μmol/gにするのが好ましく、15~20μmol/g程度にするのがより好ましい。ニッケルイオンの濃度が20μmol/g以下であれば、ナノワイヤーの三次元的な凝集の発生(不織布形態の生成)を抑制することが可能になる。ニッケルイオンの濃度が低い場合、生産効率が悪くなる。
【0021】
ニッケルイオンを還元する方法としては、特に限定されず、溶媒との相溶性、還元力、還元剤の除去などの観点から、ヒドラジン一水和物による還元方法が好ましい。また、ヒドラジン一水和物で還元することにより、リンやホウ素を含まない純度の高いニッケルナノワイヤーが製造可能となる。
【0022】
ヒドラジン一水和物の添加濃度としては通常、反応溶液に対して、0.05~0.5質量%である。添加濃度が0.05%未満の場合、還元効率が悪く、目的とするナノワイヤー形状(例えば、後述の平均長および平均径)が得られない場合がある。添加濃度が0.5%を超える場合、ナノワイヤーが凝集し不織布状になる場合がある。
【0023】
ナノワイヤーの形状を制御するため、錯形成剤を添加することもできる。錯化剤としては、ニッケルとの室温での錯形成定数が4程度のものが好ましい。錯形成定数が高いものでは、錯体が安定化し、反応に寄与しにくくなる。錯形成定数が低いものでは、形状制御への影響がなくなる場合がある。錯形成定数が4程度の錯形成剤としては、例えば、クエン酸、コハク酸等である。
【0024】
錯形成剤は、少ない場合、ナノワイヤーが太くなる傾向があり、多い場合、ナノワイヤーが細くなる、あるいは収率が低下する傾向がある。そのため、錯形成剤の添加量は、0.1μmol/g以上、2μmol/g以下が好ましい。
【0025】
ニッケルイオンの還元の触媒になる白金等の核生成剤を添加することもできる。しかし、添加しなくてもナノワイヤーは製造できるため、通常は添加しなくてもよい。核生成剤の添加はコストアップになる。
【0026】
ニッケルイオンを還元するためにはpHを10以上、12以下にすることが必要である。pHの調整は、揮発性が無い水酸化ナトリウムを使用するのが好ましい。
【0027】
反応溶媒としては、エチレングリコール、プロピレングリコール等のポリオール類が好ましい。ポリオール類であれば、ニッケル塩などの原料および還元剤を溶解することができ、さらに反応温度においても沸騰が起きないため、再現良く反応が可能となる。
【0028】
ニッケルイオンを還元するためには、温度を80℃以上、100℃未満にすることが好ましい。この温度領域にすることにより、還元速度を適性にし、還元剤の揮発を低減することができる。
【0029】
ニッケルイオンの還元は磁界、磁気回路内で行うことが好ましい。磁界の強さ、磁場は150mT程度が好ましい。磁場が弱いとナノワイヤーが生成し難い。また強い磁場は発生させるのが難しいため、現実的ではない。
【0030】
還元反応の反応時間は、特に限定されず、例えば3分~1時間であり、好ましくは3分~20分である。その後、遠心分離、ろ過、磁石による吸着等でナノワイヤーを精製回収することで、ニッケルナノワイヤーを得ることができる。
【0031】
本発明のペーストには、ニッケルナノワイヤーを固定化する目的で、アルコキシアルキル化ポリアミドを含有する必要がある。アルコキシアルキル化ポリアミドとは、ポリアミドのアミド基の窒素の少なくとも一部(通常は一部)にアルコキシアルキル基が導入されたものである。詳しくは、アルコキシアルキル化ポリアミドは、アルコキシ基を有するアルキル基(すなわちアルコキシアルキル基)で、少なくとも一部(通常は一部)のアミド基の水素原子を置換したポリアミド(すなわち、N-アルコキシアルキルポリアミド)のことである。アルコキシ基の炭素原子数は通常、1~5、好ましくは1~3である。アルコキシ基の具体例として、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、およびペンチルオキシ基等が挙げられる。アルキル基の炭素原子数は1~5、好ましくは1~3である。アルキル基の炭素原子数は、アルコキシ基の炭素原子数を含まない。アルキル基の具体例として、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、およびペンチル基等が挙げられる。アルコキシアルキル基の具体例として、例えば、メトキシメチル基、メトキシエチル基、メトキシプロピル基、エトキシメチル基、エトキシエチル基、エトキシプロピル基、プロポキシメチル基、プロポキシエチル基、プロポキシプロピル基等が挙げられる。
【0032】
アルコキシアルキル基の導入は、アミド結合を有するものであれば、ホモポリマー、コポリマー、グラフトポリマーなどの様々なポリマーに達成することができる。本発明の趣旨である、グリコールとの混合、硬化後の機械強度などの観点から、脂肪族ポリアミド、いわゆるナイロン樹脂にアルコキシアルキル基を導入するのが好ましい。ナイロン樹脂とは、例えば、ブタンジアミンとアジピン酸から成るナイロン46、ヘキサメチレンジアミンとアジピン酸から成るナイロン66、ヘキサメチレンジアミンとセバシン酸から成るナイロン610、ε―カプロラクタムから成るナイロン6、ウンデカンラクタムから成るナイロン11、ラウリルラクタムから成るナイロン12などがある。
【0033】
アルコキシアルキル化ポリアミドにおけるアルコキシアルキル化率(すなわち、アルコキシアルキル基の導入率または置換率)は通常、溶解性の観点から10~40%であり、好ましくは25~35%である。アルコキシアルキル化率はポリアミドにおける窒素原子の数に対する導入されたアルコキシアルキル基の数の割合のことである。例えば、メトキシメチル化ポリアミドのアルコキシアルキル化率はメトキシメチル化率のことである。
【0034】
アルコキシアルキル化ポリアミドの分子量は特に限定されず、通常は5,000から100,000、好ましくは10,000から50,000である。
【0035】
一般的なポリアミド樹脂は、耐溶剤性、融点、ガラス転移温度が高いため、粘調なペースト状態にすることが困難であり、さらに、吸水性および透水性が高いため、イオンマイグレーション耐性の低い銀ナノワイヤーなどの銀系導電材との併用は不向きであった。一方、アルコキシアルキル化したポリアミド樹脂は、極性の高い有機溶剤に溶解し、さらに熱と酸により架橋反応を起こすため、ペースト化と熱硬化が可能となる。しかしながら、アルコキシアルキル化ポリアミドは、ポリアミド骨格に由来する吸水性および透水性から銀系の導電材との併用が難しい材料であった。また酸を使用する場合には、アルコキシアルキル化ポリアミドは銅ナノワイヤーなどの耐酸化性の低い銅系の導電材との併用が難しい材料であった。ニッケルはイオンマイグレーション耐性、耐酸化性に優れているため、アルコキシアルキル化ポリアミドとの併用が可能である。特にニッケルナノワイヤーとアルコキシアルキル化ポリアミド(特にメトキシメチル化ポリアミド)は、併用するグリコールとの親和性が良好なため、相分離を抑制し、ニッケルナノワイヤーを還元しつつ硬化させることを可能にし、導電性に優れた塗膜が得られる。また、熱硬化時間が比較的短いため、比較的耐熱性が低いプラスチック(例えば、ポリエチレンテレンテレフタレート、ポリウレタン等)への適用が可能である。さらに、熱硬化性樹脂の代表格であるエポキシ樹脂と比較して、硬化時間が短く、硬化構造体は柔軟性や靭性などの機械強度にも優れている。
【0036】
アルコキシアルキル化ポリアミドは市販品を用いることもできるし、または製造することもできる。アルコキシアルキル化ポリアミドの市販品として、例えば、ファインレジン(登録商標)(株式会社鉛市社製;メトキシメチル化ポリアミド6)等が挙げられる。
【0037】
アルコキシアルキル化ポリアミドの含有量は、ペーストの保存安定性ならびに硬化構造体の耐アルコール性および電磁波シールド性のさらなる向上、ならびにナノワイヤーの固定化の観点から、ペースト全量に対して、10質量%以下(特に0.01~10質量%)とすることが好ましく、5質量%以下(特に0.1~5質量%)とすることがより好ましく、1質量%以下(特に0.1~1質量%)とすることがさらに好ましい。
【0038】
アルコキシアルキル化ポリアミドの含有量は、硬化構造体の初期導電性および電磁波シールド性のさらなる向上、硬化構造体の強度の均一な確保(例えば屈曲性)、および屈曲によるナノワイヤーの剥離抑制(例えば屈曲性)の観点から、ニッケルナノワイヤー100質量部に対して、1質量部以上(特に1~40質量部)とすることが好ましく、2質量部以上(特に2~40質量部)とすることがより好ましく、4質量部以上(特に4~35質量部)とすることがさらに好ましく、5質量部以上(特に5~30質量部)とすることが特に好ましく、10質量部以上(特に10~25質量部)とすることが最も好ましい。
【0039】
本発明のペーストには、ペーストの流動性を向上させ、取扱い性を向上させる目的で、溶剤を含有する必要がある。本発明において、溶剤の主成分はグリコールである。グリコールとは鎖式脂肪族炭化水素系ジオールのことである。グリコールを含有しない場合、ナノワイヤー表面の不動態層を還元することができず、ペーストを硬化して得られる構造体が優れた導電性が得られないので好ましくない。グリコールの代わりにモノアルコール(例えば、エタノール)を用いる場合、ペーストの保存安定性が低下し、さらには硬化構造体の電磁波シールド性が低下する。溶剤の主成分はグリコールであるとは、グリコールが溶媒全量に対して50質量%以上、好ましくは90質量%以上にて含まれるという意味である。
【0040】
グリコールとしては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリエチレングリコール、トリプロピレングリコールが挙げられる。中でも、沸点が比較的低く、除去しやすいことから、エチレングリコール、プロピレングリコールが好ましい。グリコールは1種を単独で使用してもよいし、または2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0041】
グリコールの含有量は、ナノワイヤー表面の不動態層の還元に基づく硬化構造体の電磁波シールド性およびペーストの保存安定性のさらなる向上の観点から、ペースト全量に対して、40~98.9質量%とすることが好ましく、50~98.9質量%とすることがより好ましく、60~98.9質量%とすることがさらに好ましく、60~97.5質量%とすることが最も好ましい。また、グリコールの含有量は、ペーストの保存安定性、電磁波シールド性および乾燥熱硬化性ならびに硬化構造体の塩水性および耐アルコール性のさらなる向上の観点から、ニッケルナノワイヤー1質量部に対して、1質量部以上(特に1~40質量部)とすることが好ましく、10質量部以上(特に10~40質量部)とすることがより好ましく、30質量部以上(特に30~40質量部)とすることがさらに好ましい。グリコールの含有量は、ニッケルナノワイヤーの不動態層を還元しやすいので、多い方が好ましい。
【0042】
ニッケルナノワイヤーは、製造および精製時に液体中の酸素と反応し表面に不動態層が形成される。しかし、表面に不動態層を有したニッケルナノワイヤーを含有するペーストを、ニッケルナノワイヤーを還元することなく構造体に取り込んでも高い導電性を得ることはできない。それに対して、本発明のペーストは、アルコキシアルキル化ポリアミドを含有するため硬化速度が速く、なおかつ、グリコールを含有するため、ニッケルナノワイヤーの不動態層を熱硬化時に還元することができ、ニッケルナノワイヤーの表面が還元されると同時に硬化することができる。その結果、長時間ペーストとして保存した場合であっても、ペーストを硬化して得られる構造体は導電性および電磁波シールド性が優れたものとなる。
【0043】
本発明のペーストには、アルコキシアルキル化ポリアミドを分子間で架橋させるため、さらに酸触媒を含有することが好ましい。本発明のペーストが酸触媒を含有することにより、硬化構造体の耐アルコール性が向上し、耐塩水性がさらに向上する。酸触媒は、ペーストに予め含有した状態で保存してもよいし、保存時はペーストに含有させずに硬化処理直前にペーストに含有させてもよい。酸触媒としては、例えば、パラトルエンスルホン酸、クエン酸、乳酸、酒石酸、コハク酸、マレイン酸、シュウ酸、アジピン酸等の有機酸;および塩酸、次亜リン酸等の無機酸が挙げられる。酸触媒は1種を単独で使用してもよいし、または2種以上を組み合わせて使用してもよい。中でも、有機酸が好ましく、さらに還元作用を併せもち、ニッケルナノワイヤー表面に形成される不動態層をより一層、還元することができることから、シュウ酸が好ましい。
【0044】
酸触媒を含有させる場合、酸触媒の含有量は、ペースト全量に対して、0.001~0.5質量%、特に0.5質量%未満とすることが好ましい。また、酸触媒の含有量は通常、アルコキシアルキル化ポリアミド100質量部に対して、通常は1~10質量部であり、ペーストの保存安定性および乾燥熱硬化性ならびに硬化構造体の塩水性および耐アルコール性のさらなる向上、ならびに硬化構造体の物性(屈曲性)低下の防止の観点から、1~5質量部とすることが好ましく、2~4質量部とすることがより好ましく、3~4質量部とすることがさらに好ましい。
【0045】
本発明のペーストには、さらに、グリコールの気化を促進し、硬化速度を速くすることができることから、グリコールアルキルエーテルを含有することが好ましい。グリコールアルキルエーテルとは、グリコールの2つの水酸基うち、少なくとも1つ好ましくは1つの水酸基がアルキルエーテル化されているグリコール誘導体である。グリコールアルキルエーテルを構成するグリコールは、ペーストに混合される前記したグリコールと同様であり、好ましくはエチレングリコールおよび/またはプロピレングリコールである。グリコールアルキルエーテルを構成するアルキルエーテルのアルキル基は炭素原子数1~5(好ましくは1~3)のアルキル基であり、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、およびペンチル基等が挙げられる。
【0046】
グリコールアルキルエーテルの具体例としては、例えば、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコール-1-モノメチルエーテル、プロピレングリコール-2-モノメチルエーテル、プロピレングリコール1-モノエチルエーテル、プロピレングリコール-2-モノエチルエーテル、プロピレングリコール-1-モノプロピルエーテル、プロピレングリコール-2-モノプロピルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールジプロピルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコールジプロピルエーテルが挙げられる。グリコールアルキルエーテルは1種を単独で使用してもよいし、または2種以上を組み合わせて使用してもよい。中でも、沸点が100~160℃程度であるエチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテルが好ましい。
【0047】
グリコールアルキルエーテルを含有させる場合、グリコールアルキルエーテルの含有量は通常、ペースト全量に対して、70質量%以下(特に1~70質量%)であり、50質量%未満(特に1質量%以上50質量%未満)とすることが好ましく、45質量%以下(特に2~45質量%)とすることがより好ましい。また、グリコールアルキルエーテルの含有量は、グリコールの還元性による硬化構造体の初期導電性および電磁波シールド性のさらなる向上の観点から、グリコール100質量部に対して、1~150質量部とすることが好ましく、1~100質量部とすることがより好ましく、5~100質量部とすることがさらに好ましく、5~50質量部とすることが特に好ましく、5~10質量部とすることが最も好ましい。グリコールアルキルエーテルの含有量は、特に電磁波シールド性のさらなる向上の観点から、グリコール100質量部に対して、150質量部以下(すなわち0~150質量部)とすることが好ましく、100質量部以下(すなわち0~100質量部)とすることがより好ましく、50質量部以下(すなわち0~50質量部)とすることが特に好ましい。
【0048】
本発明のペーストには、本発明の効果を損なわない範囲で、さらに増粘剤、レベリング剤、濡れ剤等の各種添加剤を加えてもよい。
【0049】
本発明のペーストは、ニッケルナノワイヤー、アルコキシアルキル化ポリアミドおよびグリコールならびにその他の所望の添加剤(例えば、酸触媒、グリコールアルキルエーテル)を混合することにより、得ることができる。ペースト中において、アルコキシアルキル化ポリアミドは少なくともグリコール中において溶解されており、ニッケルナノワイヤーは分散されている。ペーストが酸触媒および/またはグリコールアルキルエーテルを含む場合、アルコキシアルキル化ポリアミドの溶解性の観点から、ニッケルナノワイヤー、アルコキシアルキル化ポリアミドおよびグリコールを混合した後、当該混合物と、酸触媒またはグリコールアルキルエーテルもしくはそれらの混合物とをさらに混合することが好ましい。
【0050】
混合方法は特に限定されず、例えば、ブレードを備えた混合機を用いる方法等であってもよい。
【0051】
本発明のペーストは、各種基材に塗布したり、鋳型等に充填したりした後、130~160℃で15分程度(例えば10~60分)熱処理することにより、硬化させて、ニッケルナノワイヤーを含有する導電性に優れた構造体を得ることができる。本明細書中、硬化とは、ペーストからグリコール(ならびに所望により混合される酸触媒および/またはグリコールアルキルエーテル)等の揮発成分が除去されることによる、いわゆる固化だけでなく、アルコキシアルキル化ポリアミドが相互に連結されて3次元構造が形成される架橋を包含して意味する。架橋は、アミド結合のNが分子間でアルケンにより結合した状態を形成することにより、達成される。
【0052】
本発明のペーストは、乾燥熱硬化性および保存安定性に優れているだけでなく、導電性、強度特性(特に屈曲性)、耐水性、耐塩水性および電磁波シールド性などの特性に優れた硬化構造体を製造することができる。本発明のペーストの硬化構造体は耐熱性にも優れている。
本発明のペーストは、酸触媒を含むことにより、硬化構造体の耐アルコール性が向上する。なお、耐アルコール性は、本発明のペーストが必ず有する特性というわけではなく、酸触媒を含むことにより、新たに得られる特性である。
【0053】
本明細書中、乾燥熱硬化性はペーストが比較的低温(例えば150℃)にて比較的短時間(例えば10~60分)で乾燥および硬化し得る、ペーストの特性のことである。
保存安定性は、ペーストを長時間(少なくとも6ヶ月間)保存しても、ゲル化することなく、初期のペーストと同程度の導電性を有する構造体を製造し得る、ペーストの特性のことである。
屈曲性は、ペーストの硬化構造体の屈曲性であり、例えば、構造体を屈曲させても、屈曲前の構造体と同程度の導電性を有し得る特性のことである。
耐水性は、ペーストの硬化構造体の耐水性であり、例えば、構造体を水に長時間(例えば24時間)浸漬しても、浸漬前の構造体と同程度の導電性を有し得る特性のことである。
耐塩水性は、ペーストの硬化構造体の耐塩水性であり、例えば、構造体を塩水に長時間(例えば140時間)浸漬しても、浸漬前の構造体と同程度の導電性を有し得る特性のことである。
耐アルコール性は、ペーストの硬化構造体の耐アルコール性であり、例えば、構造体をアルコール(例えばエタノール)に長時間(例えば24時間)浸漬しても、浸漬前の構造体と同程度の導電性を有し得る特性のことである。
電磁波シールド性は、ペーストの硬化構造体の電磁波シールド性であり、例えば、18GHz~26.5GHz域の電磁波を遮蔽する特性のことである。電磁波シールド性は、Wi-FiおよびNFC等の通信規格のチップ間におけるノイズ、ならびに配線および電池からのノイズを抑えるために有効な特性である。
耐熱性は、ペーストの硬化構造体の耐熱性であり、例えば、構造体を長時間(例えば500時間)加熱しても、加熱前の構造体と同程度の導電性を有し得る特性のことである。耐熱性は、車載など高温環境での使用に対して有効な特性である。
【実施例】
【0054】
以下、本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0055】
(1)乾燥熱硬化性評価
ペーストを3枚のスライドガラスに塗布し、150℃で、10分間、15分間、30分間、または1時間の熱処理をおこなった。熱処理後、室温まで冷却し、硬化の有無を確認した。「硬化」はペーストに流動性が無い状態、「未硬化」はペーストに流動性が残存する状態として、以下のように評価した。
○:全ての部分が完全に硬化していた。
△:未硬化な部分が僅かにあったが、それ以外の部分は完全に硬化していた(合格)。
×:比較的多くの部分が未硬化であった(不合格)。
【0056】
(2)初期性能
ペーストをPETフィルム(東レ社製ルミラーT60#100)に塗布し、150℃で1時間の乾燥熱処理をおこなった。得られたシートにおいてJIS K 7194(1994)に準じて体積抵抗率を5箇所測定し、平均値Rv0を求めた。
【0057】
(3)6カ月間保存後
(1)の評価が「△」以上のサンプルにおいて、ペーストを6ヶ月間、空気雰囲気下、密栓して、室温で保存した。6か月後、保存したペーストを用いて、(2)と同様の操作をおこない、体積抵抗率Rv6を求めた。
また、6ヶ月保存前後の体積抵抗率の変化率を、下記式(i)により算出した。
変化率 = (Rv6-Rv0)/Rv0×100 (i)
◎:変化率が±10%の範囲内であった(最良)。
○:変化率が±20%の範囲内であった(良)。
△:変化率が±100%の範囲内であり、実用上問題のない範囲であった(合格)。
×:変化率が±100%の範囲外であった(不合格)。
評価ランクは、所定の変化率が分類されるランクのうち、最高のランクを示した。
保存安定性は、6ヶ月間の保存後の保存安定性が「△」以上を達成していれば、当該ペーストは保存安定性に優れている。
保存安定性は、6ヶ月間の保存後の保存安定性だけでなく、後述の9ヶ月保存後の保存安定性も優れていることが好ましい。
【0058】
(4)9カ月間保存後
(3)の評価と同様に、ペーストを9ヶ月間、空気雰囲気下、密栓して、室温で保存した。9か月後、保存したペーストを用いて、(2)と同様の操作をおこない、体積抵抗率Rv9を求めた。
また、9ヶ月保存前後の体積抵抗率の変化率を、下記式(ii)により算出した。
変化率 = (Rv9-Rv0)/Rv0×100 (ii)
評価ランクは(3)の評価ランクと同様の方法で示した。
【0059】
(5)屈曲性
(2)の評価後、塗布面を外側、基材面を内側にして、10mm直径の丸棒の周りに沿って折り曲げ、外観変化と体積抵抗率Rvfを測定した。外観変化は以下の評価基準とした。
○:変化無し。
△:端部に塗膜の割れがあり(合格)。
×:全体的に、塗膜の割れと剥がれが発生(不合格)。
また、巻きつけ後の体積抵抗率の変化率を、下記式(iii)により算出した。
変化率 = (Rvf-Rv0)/Rv0×100 (iii)
◎:変化率が±10%の範囲内であった(最良)。
○:変化率が±20%の範囲内であった(良)。
△:変化率が±30%の範囲内であり、実用上問題のない範囲であった(合格)。
×:変化率が±30%の範囲外であった(不合格)。
評価ランクは、所定の変化率が分類されるランクのうち、最高のランクを示した。
【0060】
(6)耐熱性
(2)の評価後のペースト膜を空気下、90℃、500時間で保存し、保存後の体積抵抗率RvTを測定した。試験後の体積抵抗率の変化率を、下記式(iv)により算出した。
変化率 = (RvT-Rv0)/Rv0×100 (iv)
評価ランクは(5)の評価ランクと同様の方法で示した。
【0061】
(7)耐水性
(2)の評価後のペースト膜を、20℃の水に浸漬し、両端に電極を付け、直流で10mAの電流を24時間流した。浸漬後、100℃で1分間乾燥し、体積抵抗率RvWを測定した。試験後の体積抵抗率の変化率を、下記式(v)により算出した。
変化率 = (RvW-Rv0)/Rv0×100 (v)
評価ランクは(5)の評価ランクと同様の方法で示した。
【0062】
(8)耐塩水性
(2)の評価後のペースト膜を、3.5%および20℃の塩化ナトリウム水に浸漬し、両端に電極を付け、直流で10mAの電流を140時間流した。浸漬後、100℃で1分間乾燥し、体積抵抗率RvSを測定した。試験後の体積抵抗率の変化率を、下記式(vi)により算出した。
変化率 = (RvS-Rv0)/Rv0×100 (vi)
評価ランクは(5)の評価ランクと同様の方法で示した。
【0063】
(9)耐アルコール性
(2)の評価後のペースト膜を、エタノールに浸漬し、24時間浸漬した。浸漬後、100℃で1分間乾燥し、体積抵抗率RvAを測定した。試験後の体積抵抗率の変化率を、下記式(vii)により算出した。
変化率 = (RvA-Rv0)/Rv0×100 (vii)
評価ランクは(5)の評価ランクと同様の方法で示した。
【0064】
(10)電磁波シールド性
ペーストを評価(2)と同様に、PETフィルム(東レ社製ルミラーT60#100)に塗布し、150℃で1時間の乾燥熱処理を行い、15μm厚のペースト膜を有するシートを作製した。シートは150mm角に加工し、フリースペース法にて、18GHz~26.5GHzの遮蔽特性を測定した。評価は18GHz~26.5GHz域の平均値を算出した。好ましくは30db以上である。
◎:40db以上(最良)。
○:35db以上(良)。
△:30db以上(合格)。
×:30db未満(不合格)。
【0065】
導電材の作製方法
NiNW-1
塩化ニッケル六水和物4.00g(16.8mmol)、クエン酸三ナトリウム二水和物0.375g(1.27mmol)をエチレングリコールに添加し、全量で500gとした。この溶液を90℃に加熱し溶解させた。
別の容器に、水酸化ナトリウム1.00gをエチレングリコールに添加し、全量で499gにした。この溶液を90℃に加熱し溶解させた。
各溶液中の化合物がすべて溶解した後、水酸化ナトリウムが含まれる溶液にヒドラジン一水和物1.00gを添加し、その後、2つの溶液を混合した。
混合した溶液はすぐに、中心に150mTの磁場が印加できる磁気回路に入れ、当該磁場を印加し、90~95℃に維持したまま15分間静置して還元反応を行った。pHは11.5であった。反応溶液中のニッケルイオンの濃度は16.8μmol/gであった。
反応後、ネオジム磁石により、ナノワイヤーを集め、取り出すことで精製回収した。回収したナノワイヤーは、SEMにより100本の長さを計測し、平均長が24μm、TEMにより100本の径を測定し、平均径が91nmであった。
【0066】
NiNW-2
塩化ニッケル六水和物2.00g(8.40mmol)、クエン酸三ナトリウム二水和物0.375g(1.27mmol)をエチレングリコールに添加し、全量で500gとした。この溶液を90℃に加熱し溶解させた。
別の容器に、水酸化ナトリウム1.00gをエチレングリコールに添加し、全量で499gにした。この溶液を90℃に加熱し溶解させた。
各溶液中の化合物がすべて溶解した後、水酸化ナトリウムが含まれる溶液にヒドラジン一水和物1.00gを添加し、その後、2つの溶液を混合した。
混合した溶液はすぐに、中心に150mTの磁場が印加できる磁気回路に入れ、当該磁場を印加し、90~95℃に維持したまま15分間静置して還元反応を行った。pHは11.5であった。反応溶液中のニッケルイオンの濃度は16.8μmol/gであった。
反応後、ネオジム磁石により、ナノワイヤーを集め、取り出すことで精製回収した。回収したナノワイヤーは、SEMにより100本の長さを計測し、平均長が8μm、TEMにより100本の径を測定し、平均径が39nmであった。
【0067】
【0068】
実施例1
NiNW-1 2.70gと、ファインレジンFR-101(鉛市社製、メトキシメチル化ポリアミド、メトキシメチル化率:約30%、分子量:約20,000)137mgと、エチレングリコール97.2gを混合し、さらにシュウ酸2.51mgを添加しペーストを得た。
【0069】
実施例2
NiNW-1 2.70gと、ファインレジンFR-101 137mgと、エチレングリコール91.6gを混合し、さらに、シュウ酸2.51mgをエチレングリコールモノメチルエーテル5.56gに溶かした溶液と混ぜ、ペーストを得た。
【0070】
実施例3~6、9~13および16~17
表2のペーストの組成比に変更する以外は、実施例2と同様の操作をおこなって、ペーストを得た。
【0071】
実施例7
NiNW-1 2.70gと、ファインレジンFR-101 137mgと、エチレングリコール97.2gを混合し、ペーストを得た。
【0072】
実施例8
表2のペーストの組成比に変更する以外は、実施例1と同様の操作をおこなって、ペーストを得た。
【0073】
実施例14
NiNW-1 2.70gと、ファインレジンFR-101 291mgと、プロピレングリコール92.2gを混合し、さらに、シュウ酸9.00mgをエチレングリコールモノメチルエーテル4.83gに溶かした溶液と混ぜ、ペーストを得た。
【0074】
実施例15
NiNW-2 2.70gと、ファインレジンFR-101 291mgと、エチレングリコール92.2gを混合し、さらに、シュウ酸9.00mgをエチレングリコールモノメチルエーテル4.83gに溶かした溶液と混ぜ、ペーストを得た。
【0075】
比較例1
NiNW-1 2.70gと、SR-6GL(阪本薬品工業社製、エポキシ樹脂)137mgと、エチレングリコール97.2gを混合し、さらに、シュウ酸2.51mgを添加し、ペーストを得た。
【0076】
比較例2
NiNW-1 2.70gと、SR-6GL 112mgと、エチレングリコール97.2gを混合し、さらに、シュウ酸28.0mgを添加し、ペーストを得た。
【0077】
比較例3
NiNW-1 2.70gと、SR-6GL 137mgと、エチレングリコール91.6gを混合し、さらに、シュウ酸2.51mgをエチレングリコールモノメチルエーテル5.56gに溶かした溶液と混ぜ、ペーストを得た。
【0078】
比較例4および9
表2のペーストの組成に変更する以外は、比較例3と同様の操作をおこなって、ペーストを得た。
【0079】
比較例5
NiNW-1 2.70gと、ファインレジンFR-101 137mgと、エタノール97.2gを混合し、さらに、シュウ酸2.51mgを添加し、ペーストを得た。
【0080】
比較例6
カーボニルNi123(福田金属箔粉工業社製、ニッケル粒子、5μm径)2.70gと、ファインレジンFR-101 137mgと、エチレングリコール91.6gを混合し、さらに、シュウ酸2.51mgをエチレングリコールモノメチルエーテル5.56gに溶かした溶液と混ぜ、ペーストを得た。
【0081】
比較例7
表2のペーストの組成に変更する以外は、比較例6と同様の操作をおこなって、ペーストを得た。
【0082】
比較例8
NiNW-1 2.70gと、PVP K-90(和光純薬製、ポリビニルピロリドン) 291mgと、エチレングリコール97.0gを混合し、ペーストを得た。
【0083】
比較例10
NiNW-1 2.70gと、エチレングリコール97.3gを混合し、ペーストを得た。
【0084】
実際例1~17および比較例1~10で得られたペーストの組成および評価結果を表2、3、4に示す。
【0085】
【0086】
【0087】
【0088】
実施例1~17のペーストは、アルコキシアルキル化ポリアミドおよびグリコールを含有していたため、いずれも150℃で1時間以内にて硬化が達成され、比較的低温で熱硬化速度が速かった。
実施例1~17のペーストは、保存安定性(6ヶ月)が良好であり、長期の保存時での性能低下が少なく、導電性に優れていた。さらに適切な組成比のペーストである実施例1~3、5および7~15は、保存安定性(9ヶ月)が良好であり、より長期の保存時での性能低下が少なく、導電性により優れていた。
【0089】
特に電磁波シールド性について、実施例1~17のペーストは、アルコキシアルキル化ポリアミドおよびグリコールを含有していたため、ペースト膜の電磁波シールド性が有意に向上した。このような電磁波シールド性の有意な向上効果は、実施例1~17の電磁波シールド性の評価結果(△以上)と、アルコキシアルキル化ポリアミドまたはグリコールのうちの一方のみを含む比較例1~5および8~9の電磁波シールド性の評価結果(×)との比較から明らかである。
【0090】
電磁波シールド性についての好ましい実施態様において、電磁波シールド性は、ペーストが以下の条件をさらに満たすことにより向上する(実施例1~4、6~16において電磁波シールド性の評価結果が○または◎である)。
(r1)ニッケルナノワイヤー100質量部に対するアルコキシアルキル化ポリアミドの含有量は2質量部以上(特に2~40質量部)である;
(r2)ペーストは、グリコール100質量部に対して、100質量部以下(特に0~100質量部)のグリコールアルキルエーテルを含む;すなわち、ペーストは、グリコールアルキルエーテルを含まなくてもよいし、または含むにしても、グリコール100質量部に対して、100質量部以下で含む。
【0091】
電磁波シールド性についてのより好ましい実施態様において、電磁波シールド性は、ペーストが以下の条件をさらに満たすことにより、より一層、向上する(実施例2~4、9~12および14において電磁波シールド性の評価結果が◎である)。
(s1)ニッケルナノワイヤーの平均長が15μm以上(特に15~40μm)である;
(s2)アルコキシアルキル化ポリアミドの含有量は、ニッケルナノワイヤー100質量部に対して2質量部以上であって、ペースト全量に対して5質量%以下である;
(s3)ペーストは、グリコール100質量部に対して、5~50質量部のグリコールアルキルエーテルをさらに含む;
(s4)グリコールの含有量はペースト全量に対して60~97.5質量%である。
【0092】
比較例1~4は、アルコキシアルキル化ポリアミドを使用せず、エポキシ樹脂であったため、乾燥熱硬化性に劣っていた。比較例9はエポキシ樹脂の比率を増やしたものであったが、保存安定性、屈曲性、耐アルコール性および電磁波シールド性に劣るものであった。
【0093】
比較例5はグリコールを使用しておらず、導電性、保存安定性、および電磁波シールド性の劣るペーストであった。
【0094】
比較例6、7は導電材としてニッケル粒子を使用したものであり、導電性を有しないペーストであった。このため、電磁波シールド性に劣っていた。
【0095】
比較例8は、グリコールに溶解するポリビニルピロリドンを使用したため、耐水性、耐塩水性、耐アルコール性および電磁波シールド性に劣るペーストであった。
【0096】
比較例10は、ニッケルナノワイヤーとグリコールのみのペーストであり、屈曲性、耐水性、耐塩水性、耐アルコール性に劣り、また、クラックおよび空隙が多いため、電磁波シールド性に劣るものであった。
【産業上の利用可能性】
【0097】
本発明のペーストは、強度特性(特に屈曲性)、耐熱性、耐水性、耐塩水性、耐アルコール性および電磁波シールド性に優れる硬化構造体を得ることができ、しかも、耐熱性に乏しい柔軟な基板への塗布や接着が可能なため、ウェアラブルデバイス等のストレッチャブル回路や、MID(成形回路部品)や、電磁波シールド等に好適に適用することができる。
本発明のペーストは、電子機器等の配線を出すための隙間を埋める充填材としても有用である。