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特許7181641光電子素子、これを用いた平面ディスプレイ、及び光電子素子の製造方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-22
(45)【発行日】2022-12-01
(54)【発明の名称】光電子素子、これを用いた平面ディスプレイ、及び光電子素子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H05B 33/14 20060101AFI20221124BHJP
   H01L 51/50 20060101ALI20221124BHJP
   H05B 33/26 20060101ALI20221124BHJP
   H01L 27/32 20060101ALI20221124BHJP
   H05B 33/10 20060101ALI20221124BHJP
   H01L 51/46 20060101ALI20221124BHJP
   H01L 51/44 20060101ALI20221124BHJP
   H01L 51/42 20060101ALI20221124BHJP
   G09F 9/30 20060101ALI20221124BHJP
【FI】
H05B33/14 Z
H05B33/22 A
H05B33/26 Z
H01L27/32
H05B33/10
H05B33/14 A
H01L31/04 166
H01L31/04 112Z
H01L31/08 T
G09F9/30 365
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2020528761
(86)(22)【出願日】2019-06-14
(86)【国際出願番号】 JP2019023604
(87)【国際公開番号】W WO2020008839
(87)【国際公開日】2020-01-09
【審査請求日】2021-11-26
(31)【優先権主張番号】P 2018126332
(32)【優先日】2018-07-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度、文部科学省、科学技術試験研究委託事業、東工大元素戦略拠点(TIES)、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】細野 秀雄
(72)【発明者】
【氏名】金 正煥
(72)【発明者】
【氏名】雲見 日出也
【審査官】辻本 寛司
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2017/0084761(US,A1)
【文献】国際公開第2017/094547(WO,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2018-0069687(KR,A)
【文献】韓国公開特許第10-2018-0054329(KR,A)
【文献】韓国公開特許第10-2018-0060440(KR,A)
【文献】国際公開第2015/098458(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/191212(WO,A1)
【文献】特表2012-533187(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0252208(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05B 33/14
H01L 51/50
H05B 33/26
H01L 27/32
H05B 33/10
H01L 51/46
H01L 51/44
H01L 51/42
G09F 9/30
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機粒子を含む活性層と、
少なくとも亜鉛(Zn)と、珪素(Si)と、酸素(O)を含む酸化物半導体層と、
が積層され、
前記活性層の少なくとも一方の側に配置される多層構造の透明電極、
をさらに有し、前記酸化物半導体層は、前記透明電極の前記多層構造の一部である、
光電子素子。
【請求項2】
無機粒子を含む活性層と、
少なくとも亜鉛(Zn)と、珪素(Si)と、酸素(O)を含む酸化物半導体層と、
が積層され、
前記活性層と前記酸化物半導体層の電気的接合がオーミック性であり、
前記酸化物半導体層の層平均組成比Zn/(Si+Zn)は、0.7<Zn/(Si+Zn)<0.85である光電子素子。
【請求項3】
前記酸化物半導体層の層平均組成比Zn/(Si+Zn)は、0.7<Zn/(Si+Zn)<0.85である請求項1に記載の光電子素子。
【請求項4】
前記活性層の少なくとも一方の側に配置される透明電極、
をさらに有し、前記酸化物半導体層は、前記活性層と前記透明電極の間に配置される電子伝導層である、請求項2に記載の光電子素子。
【請求項5】
前記活性層の少なくとも一方の側に配置される多層構造の透明電極、
をさらに有し、前記酸化物半導体層は、前記透明電極の前記多層構造の一部である、請求項2に記載の光電子素子。
【請求項6】
前記透明電極は、第2の酸化物半導体、金属薄膜、及び第1の酸化物半導体がこの順で積層されており、前記酸化物半導体層は、前記第1の酸化物半導体として前記活性層とオーミック接合される、請求項1または5に記載の光電子素子。
【請求項7】
前記無機粒子は、量子閉じ込め効果を有する量子ドットである請求項1乃至6のいずれか1項に記載の光電子素子。
【請求項8】
前記無機粒子は、ハロゲン化合物の粒子である請求項1乃至6のいずれか1項に記載の光電子素子。
【請求項9】
前記ハロゲン化合物の粒子は、ペロブスカイト構造を有する粒子である請求項8に記載の光電子素子。
【請求項10】
前記酸化物半導体層は、Zn-Si-Oのマトリクス中にZnOの結晶粒が分散したコンポジット材料、もしくはZn-Si-Oの非晶質の層である請求項1乃至9のいずれか1項に記載の光電子素子。
【請求項11】
前記活性層は発光層であり、前記酸化物半導体層は電子注入と電子輸送の少なくとも一方を行う、請求項1乃至10のいずれか1項に記載の光電子素子。
【請求項12】
前記活性層は受光層であり、前記酸化物半導体層は電子引抜きと電子輸送の少なくとも一方を行う、請求項1乃至10のいずれか1項に記載の光電子素子。
【請求項13】
請求項11に記載の光電子素子がアレイ状に配置された素子アレイと、
前記素子アレイを駆動する駆動部と、
を有する平面ディスプレイ。
【請求項14】
ハロゲン化合物または量子閉じ込め効果を有する量子ドットを分散させた溶媒を塗布して活性層を形成する工程と、
前記活性層と、少なくとも亜鉛(Zn)と珪素(Si)と酸素(O)を含む酸化物半導体層とを積層する工程と、
前記活性層の少なくとも一方の側に配置される多層構造の透明電極を配置する工程と、
を含み、
前記酸化物半導体層は、前記透明電極の前記多層構造の一部として形成される、
光電子素子の製造方法。
【請求項15】
ハロゲン化合物または量子閉じ込め効果を有する量子ドットを分散させた溶媒を塗布して活性層を形成する工程と、
前記活性層と、少なくとも亜鉛(Zn)と珪素(Si)と酸素(O)を含む酸化物半導体層とを積層する工程と、
を含み、
前記活性層と前記酸化物半導体層をオーミック性の電気的接合で積層し、
前記酸化物半導体層の層平均組成比Zn/(Si+Zn)を、0.7<Zn/(Si+Zn)<0.85に設定する、光電子素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光電子素子、これを用いた平面ディスプレイ、及び光電子素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
平面ディスプレイには、低分子または高分子(ポリマー)有機発光材料を用いる有機EL(エレクトロルミネッセンス)が表示素子として使われている。有機発光材料は、高い量子効率を持ち、大型の基板上への膜形成が容易であることが利点であるが、酸素や水分の影響による特性劣化や、発光スペクトルの半値幅(FWHM:Full Width at Half Maximum)が広いなどの問題がある。さらに、有機材料の高い抵抗率は、EL素子の動作電圧の上昇に繋がり、消費電力が高くなるといった問題がある。有機EL素子の化学的安定性の改善や動作電圧低下のために、電子注入層として非晶質C12A7を用い、電子輸送層にアモルファスのZnO-SiO2を用いる構成が提案されている(たとえば、特許文献1参照)。
【0003】
近年は、活性層に、ペロブスカイト型ハロゲン化合物や、量子ドットといった無機材料を用いる研究も盛んに行われている。前述の無機EL材料は、有機材料と比較し、同等な高い量子効率を持ちながらも化学的安定性や低コスト合成が可能であることが利点である。
【0004】
ペロブスカイト型ハロゲン化物層に効率良く電子を供給するための電子輸送層として、ZnOナノ粒子が一般的に用いられている。しかし、ZnOナノ粒子は表面リガンド処理などのような複雑な合成プロセスを用いるため作製コストが高い。さらに、薄膜形成時、粒子と粒子の間にピンホールが発生しやすく、表面粗さも大きいため、リーク電流や短絡の原因となる。
【0005】
ピンホールの抑制や表面平坦化のために、ペロブスカイト層とZnO層の間に、ポリビニルピロリドン(PVP:polyvinylPyrrolidone)等の絶縁性ポリマーの薄膜を挿入する構成が知られている(たとえば、非特許文献1参照)。
【0006】
図1A及び図1Bは、公知のデバイス構成と、電流密度及び発光特性をそれぞれ示す図である。ペロブスカイト層は電子輸送層となるZnOと、ホール輸送層となるCBP(4,4'-N,N'ジカルバゾールビフェニル)に挟まれており、ペロブスカイト層とZnOの間にPVPの薄膜が挿入されている。図1Aに示すように、PVPを挿入することでキャリアを閉じ込め、ピンホールを抑制している。
【0007】
図1Bで、上側の3つの特性曲線は電圧に依存する電流密度の変化(左側の縦軸)を示し、下側の3つの特性曲線は電圧に依存するルミネセンス(右側の縦軸)を示している。PVPを挿入しない場合(四角マークでプロット)は、電圧の印加により素子が破壊されて発光が損なわれるが、PVPを挿入することで素子の発光が高輝度まで維持される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特許第6284157号
【非特許文献】
【0009】
【文献】Zhang et al., Nature communications 8(2017): 15640
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
図1A及び図1Bの公知の構成では、ペロブスカイト層とZnO層の間にポリマー絶縁膜を挿入するという複雑な構造を用いている。ポリマー絶縁膜の挿入にもかかわらず、2Vまでの領域でかなりの量の暗電流が流れており、リーク電流が十分に抑制されていないことがわかる。また、発光素子として一般に必要とされる輝度レベル104cd/m2を達成するのに、6Vの駆動電圧が必要である。これは絶縁性のPVPの挿入により、素子の直列抵抗が高くなったことに起因すると思われる。
【0011】
本発明は、リーク電流を低減し、低電圧で高輝度のエレクトロルミネッセンス特性を示す光電子素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明では、伝導帯準位が浅く、移動度の高い酸化物半導体を無機活性層への電子伝導のための層として用いることで、リーク電流を抑制し、低電圧で高輝度のエレクトロルミネッセンス特性を得る。
【0013】
本発明の一態様では、光電子素子は、無機粒子を含む活性層と、少なくとも亜鉛(Zn)、珪素(Si)、及び酸素(O)を含む酸化物半導体層が積層された構成を有する。
【0014】
良好な構成例のひとつでは、酸化物半導体層の層平均組成比Zn/(Si+Zn)の範囲が最適化される。
【発明の効果】
【0015】
上記の構成により、リーク電流を抑制し、低電圧動作が可能なエレクトロルミネッセンス特性に優れた光電子素子が実現する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1A】公知のEL素子の構成を示す図である。
図1B】公知のEL素子の電流および発光特性を示す図である。
図2】光電子素子に求められる性質を説明する図である。
図3】第1実施形態の光電子素子の模式図である。
図4A】第1実施形態の光電子素子で用いられるZSO膜の光学特性の組成依存性を示す図である。
図4B】第1実施形態の光電子素子で用いられるZSO膜の電気特性の組成依存性を示す図である。
図5】ZSO膜の模式図である。
図6A】第1実施形態の光電子素子で用いられるZSO膜の特性測定結果を示す図である。
図6B】第1実施形態の光電子素子で用いられるZSO膜の特性測定結果を示す図である。
図6C】第1実施形態の光電子素子のパワー効率と電流効率を示す図である。
図7】第1実施形態の光電子素子の発光スペクトルである。
図8】第1実施形態の光電子素子の電圧-電流特性を示す図である。
図9】第1実施形態の光電子素子のエレクトロルミネッセンス特性を示す図である。
図10】第1実施形態の光電子素子の層構造の変形例を示す図である。
図11A】第1実施形態の方法で作製された光電子素子の画像である。
図11B】第1実施形態の方法で作製された光電子素子の画像である。
図12A】赤色光を発光する第1実施形態の光電子素子の輝度特性を示す図である。
図12B図12Aの素子の発光スペクトルである。
図13A】青色光を発光する第1実施形態の光電子素子の輝度特性を示す図である。
図13B図13Aの素子の発光スペクトルである。
図13C】第1実施形態で用いる青色ペロブスカイトの特性を、他の青色ペロブスカイト材料の特性と比較する図である
図14A】第1実施形態の光電子素子を用いた平面ディスプレイの模式図である。
図14B図14Aの平面ディスプレイの1セルの回路構成図である。
図15】第2実施形態の光電子素子の模式図である。
図16A】ZSO膜を利用した透明電極の光学特性の膜厚依存性を示す図である。
図16B】ZSO膜を利用した透明電極の光学特性の膜厚依存性を示す図である。
図17】第2実施形態の透明電極で用いられる金属薄膜の光学及び電気特性の膜厚依存性を示す図である。
図18】三層構造の透明電極の各層のAFM画像である。
図19A】第2実施形態の光電子素子の曲げ特性を示す図である。
図19B】第2実施形態の光電子素子の曲げ特性を示す図である。
図20】第2実施形態の光電子素子のサンプル構成図である。
図21A】第2実施形態の光電子素子の曲げ特性を示す図である。
図21B】第2実施形態の光電子素子の曲げ特性を示す図である。
図22】作製したサンプルの可撓性の高さを示す画像である。
図23】作製したサンプルのエネルギー構成図である。
図24】第2実施形態の透明電極を用いた素子の電流特性を、第1実施形態の素子特性とともに示す図である。
図25】第2実施形態の透明電極を用いた素子の輝度特性を、第1実施形態の素子特性とともに示す図である。
図26】第2実施形態の透明電極を用いた素子のパワー効率を、第1実施形態の素子のパワー効率とともに示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図2は、光電子素子に求められる性質を説明する図である。たとえば、活性層を発光層とする場合、電子とホールを効率良く再結合させるために、活性層に電子とホールを閉じ込める構成が望ましい。活性層を光吸収層または受光層とする場合は、光の吸収により生じたキャリアを効率良く引き抜く構成が望ましい。
【0018】
図2の縦方向はエネルギー準位を表わす。理想的な電子輸送層は、発光層に対する伝導帯の高さ位置が浅く(障壁が低く)、価電子帯の位置が深い。電子は電極層から容易に障壁を超えて発光層に移動し、移動度が高い。価電子帯では、発光層に注入されたホールをブロックしてキャリアを閉じ込める。
【0019】
理想的なホール輸送層は、発光層に対する価電子帯の深さ位置が深く、伝導帯の位置が高い。ホールにとっての障壁が低く移動度が高い。伝導帯では、発光層に注入された電子をブロックしてキャリアを閉じ込める。発光素子の場合は、これに加えて、電子輸送層とホール輸送層の両側と光出射側の電極が透明であり、受光素子の場合は光入射側の層が透明である。
【0020】
以下で述べる実施形態では、フォトルミネセンス特性が優れた無機発光材料を活性層に用い、かつ上述した電子の注入及び/または輸送層の性質を満たす層構成を採用する。
【0021】
<第1実施形態>
図3は、第1実施形態の光電子素子10の模式図である。第1実施形態では、特定の組成範囲の酸化物半導体層を用いて、活性層への電子の注入と輸送の少なくとも一方を実現する。第1実施形態では、この酸化物半導体の層を「電子伝導層」と呼ぶ。光電子素子10は、基板11の上に透明電極12、電子伝導層13、活性層14、ホール輸送層15、ホール注入層16、及び対向電極17がこの順に積層されている。この例では、透明電極12を陰極、対向電極17を陽極とする逆構造を採用しており、透明電極12の側が光取出し面、または光入射面となる。
【0022】
基板11は、使用波長に対して透過性の高い基板であり、光電子素子10の積層体を支持する。基板11として、ガラス基板を用いてもよいし、透明プラスチック基板を用いてもよい。プラスチック基板を用いる場合は、耐熱性、耐久性、科学的な安定性に優れた材料が望ましく、PET(プリエチレンテレフタレート)、PEN
(ポリエチレンナフタレート)、透明ポリイミドなどを用いることができる。
【0023】
透明電極12は、使用波長に対して透明な導電層であり、金属酸化物、グラフェン等のカーボン材料などを用いることができる。金属酸化物としては、酸化スズ(SnO2)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化ジルコニウム(ZrO2)、酸化アンチモン(Sb2O3)、インジウムスズ酸化物(ITO)、フッ素ドープ酸化スズ(FTO)、インジウム亜鉛酸化物(IZO)、AZO(ZnO-Al:アルミニウムドープされた亜鉛酸化物)、GZO(ZnO-Ga:ガリウムドープされた亜鉛酸化物)、NbドープTiO、TaドープTiO、IWZO(In-WO-ZnO:三酸化タングステンおよび酸化亜鉛がドーピングされたインジウム酸化物)等を用いることができる。
【0024】
電子伝導層13は、少なくとも亜鉛(Zn)と、珪素(Si)と、酸素(O)を含み、活性層14に対する障壁が低く高い電子移動度を有する。後述するように、実施形態の電子伝導層は、良好な電流特性とエレクトロルミネッセンス特性が得られるように、ZnとSiに対するZnの組成比率(Zn/(Zn+Si))が最適な範囲に設定されている。ただし電子伝導層13の電気特性を阻害しないならばZnおよびSi以外の金属不純物を含んでいても構わない。電子伝導層13は、好ましくは活性層14とオーミック接触している。活性層14が発光層の場合は、電子伝導層13は電子注入層と電子輸送層の両方の役割を果たし、活性層14が光吸収層の場合は、電子伝導層13は電子引き抜き層と電子輸送層の両方の役割を果たす。
【0025】
電子伝導層13は、Zn-Si-Oのアモルファス層であってもよいし、Zn-Si-Oの母体内にZnOの結晶粒が存在する混合相の層であってもよい。
【0026】
活性層14は、無機粒子を含む層であり、ハロゲン化合物の多結晶、または量子閉じ込め効果を有する量子ドットが分散された層である。ハロゲン化合物はペロブスカイト型の結晶構造を有していても良い。光電子素子10を大型の基板上に形成される素子アレイに適用する場合は、活性層14は塗布層であることが望ましい。一般的に、大面積の有機ELアプリケーションでは塗布型の有機EL材料が用いられている。しかし、有機EL材料のフォトルミネセンス特性は無機材料と比較して不十分である。実施形態では、無機EL粒子を有機溶媒中にほぼ均一に分散させた有機無機ハイブリッド材料を用いて、活性層14を塗布膜として形成する。
【0027】
ハロゲン化合物がペロブスカイト型の場合、結晶粒子は一般式ABX3で表される化合物であり、たとえばCsMX3で表されるペロブスカイトハロゲン化合物である。ここで、Xは、F、I、Br、Cl、またはこれらの化合物から選択され、MはPb、Sn、Ni、Mn、Fe、Co、Ge等の2価の金属、またはこれらの化合物から選択される。ペロブスカイト型以外の結晶構造としては、ペロブスカイト型類似構造を有し同様に溶液塗布成膜が可能なCs3Cu25等を用いることもできる。
【0028】
量子ドットとしては、上述したペロブスカイト型のハロゲン化合物で作製された量子ドットであってもよいし、CdSe、CdTe、PbS、InPなどのカドミウムや鉛、そしてインジウム系の量子ドットであってもよい。ペロブスカイトハロゲン化物の活性層はハロゲン元素の組成を変えることで、発光波長を連続的に変えることができる。たとえば、CsPbX3のX3をBry3-yで構成し、yの組成を0から3まで変化させることで、発光波長を制御することができる。量子ドットの場合は、ドットのサイズを調整することより連続的な発光波長の制御ができる。また、後述するように、電子伝導層13の組成を同じに保ったまま、ペロブスカイト型無機粒子(たとえばCsPbX3)の組成を変えることで、異なる波長域の発光を得ることができる。
【0029】
ホール輸送層15は、ホール輸送機能を有する任意の層である。製造工程の観点からは塗布型で積層可能な層であることが望ましい。また、キャリア移動度と電子閉じ込めの観点からは、活性層14に対する価電子帯の深さ位置が浅く、伝導帯の高さ位置が高いことが望ましい。
【0030】
一例として、ホール輸送層15は、アリールアミン系化合物、カルバゾール基を含むアミン化合物およびフルオレン誘導体を含むアミン化合物などであってもよい。具体的には、ホール輸送層15は、4,4'-ビス[N-(ナフチル)-N-フェニル-アミノ]ビフェニル(α-NPD)、N,N'-ビス(3-メチルフェニル)-(1,1'-ビフェニル)-4,4'-ジアミン(TPD)、2-TNATA、4,4',4"-トリス(N-(3-メチルフェニル)N-フェニルアミノ)トリフェニルアミン(MTDATA)、4,4'-N,N'-ジカルバゾールビフェニル(CBP)、スピロ-NPD、スピロ-TPD、スピロ-TAD、TNBなどの層である。
【0031】
ホール注入層16は、ホール注入機能を有する任意の層である。一例として、銅フタロシアニン(CuPc)、スターバーストアミン等の有機膜を用いることができる。あるいは金属酸化物の薄膜を用いてもよい。金属酸化物としては、例えば、モリブデン、タングステン、レニウム、バナジウム、インジウム、スズ、亜鉛、ガリウム、チタンおよびアルミニウムから群から選定される一以上の金属を含む酸化物材料を用いることができる。
【0032】
ホール注入層16は、蒸着法または転写法などの乾式プロセスで成膜してもよいし、スピンコート法、スプレーコート法どの湿式プロセスで成膜してもよい。
【0033】
ホール注入層16とホール輸送層15は光電子素子10にとって必須ではなく、少なくとも一方を省略してもよい。
【0034】
対向電極17は、導電性を有する任意の材料の膜であり、金属、カーボン材料、金属酸化物、高分子などの膜を用いることができる。金属電極とする場合は、アルミニウム、銀、錫、金、炭素、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、タングステン、バナジウム、または、これらの合金を用いてもよい。
【0035】
図3の例では、逆構造を採用したが、基板11上の透明電極12を陽極、対向電極17を陰極としてもよい。この場合は、対向電極17と活性層14の間に、実施形態の電子伝導層13を配置する。透明電極12と活性層の間に、ホール輸送層15とホール注入層16の少なくとも一方を挿入してもよい。
【0036】
第1実施形態の光電子素子10の作製方法としては、少なくとも、
(a) 無機粒子、たとえば、ペロブスカイト構造を有するハロゲン化合物または量子閉じ込め効果を有する量子ドットを分散させた溶媒を基板上に塗布して活性層14を形成する工程と、
(b) この活性層と、少なくとも亜鉛(Zn)、珪素(Si)、及び酸素(O)を含む電子伝導層13とを積層する工程と、
を含む。一対の電極の間に活性層14と電子伝導層13が積層される限り、活性層14と電子伝導層13の形成順序は問わない。電子伝導層13は、スパッタリング、パルスレーザ堆積法(PLD:Pulsed Laser Deposition)、物理気相成長(PVD:Physical Vapor Deposition)、真空蒸着等で形成することができる。
【0037】
電子伝導層13の厚さは、好ましくは20nm~300nmである。実施形態の電子伝導層13は有機の電子伝導膜に比べて電子移動度が数ケタ大きいので、膜厚をさらに大きくすることもできるが、素子の小型化の観点からは上記の範囲が望ましい。また、上述した成膜法を用いることで、電子伝導層13の膜厚はさらに薄くすることもできるが、リーク電流の抑制や短絡防止の観点からは、上記の範囲が望ましい。
【0038】
活性層14の厚さは、電子とホールの再結合、または光吸収によるキャリアの生成に適した厚さであればよく、たとえば10nm~200nmである。活性層14は、スピンコート、スプレーコート、ノズルコート等で形成することができる。
【0039】
次に、電子伝導層13の最適な組成範囲を検討する。電子伝導層13の(Zn+Si)に対するZnの組成量を変化させた複数のサンプルを作製する。
【0040】
<サンプルの作製>
30mm×30mmのITO膜付きのガラス基板を準備し、光電子素子10の基板11と透明電極12とする。ITOの膜厚は150nmである。ITO膜(すなわち透明電極12)の上に、厚さ120nmのZnO-SiO2(以下の説明では「ZSO」と称する)膜をDCマグネトロンスパッタリングで成膜して電子伝導層13を形成する。
【0041】
ZSO膜の成膜時に、ZnOターゲットとSiO2ターゲットの比を調整して、ZnとSiの合計量に対するZnの組成比(Zn/(Zn+Si))を異ならせて、複数種類のサンプルを作製する。比較例として、SiO2を用いないZnO電子伝導膜のサンプルも作製する。
【0042】
ZSOの電子伝導層13上に、CsPbBr3とPEO(ポリエチレンオキシド)の混合物を有機溶媒のDimethyl sulfoxide(DMSO)に溶かし、その溶液を、スピンコーティング法を用いて80nmの厚さの薄膜、活性層14を形成する。スパッタリングで形成されたZSO膜は、大気中や有機溶媒に対する化学的安定性が高いため、ZSO膜の上に活性層14を塗布膜として形成することができる。
【0043】
活性層14上に、厚さ40nmのNPDと、厚さ7nmの酸化モリブデン(MoOx)をそれぞれ抵抗加熱蒸着で形成する。NPD膜をホール輸送層15、MoOx膜をホール注入層16とする。
【0044】
最後に、厚さ100nmの銀(Ag)膜を抵抗加熱蒸着で形成して、対向電極17とする。このようにして形成した複数種類のサンプルを用いて、光学特性と電気特性の組成依存を測定する。
【0045】
<測定結果>
図4A図4Bは、光電子素子10で電子伝導層13に用いられるZSO膜の特性測定結果を示す図である。図4Aは、ZSO膜の光学特性の組成依存性を示し、図4BはZSO膜の電気特性の組成依存性を示す。
【0046】
図4Aにおいて、横軸は波長、縦軸は透過率Tと反射率Rの合計である。ZSOの層平均組成比Zn/(Si+Zn)が、65%、70%、75%、80%、及び85%のサンプルで測定する。比較として、層平均組成比Zn/(Si+Zn)が100%、すなわちZnO電子伝導膜のサンプルでも測定する。
【0047】
層平均組成比Zn/(Si+Zn)を65%から85%に変化させることで、吸収端の波長が長波長側にシフトする。比較例としてのZnO膜では、特定の波長領域で吸収が生じ、活性層で再結合により発生した光、あるいは活性層に入射する光に損失が生じる。
【0048】
図4Bにおいて、横軸はZn+SiにおけるZn含有率(%)、縦軸は導電率である。Zn含有率を高くするほど導電性が高くなる。Zn含有率が65%と70%の場合は比抵抗の測定ができず、ZSO膜の導電率は10-8Scm-1よりも小さくなる。
【0049】
層平均組成比Zn/(Si+Zn)が80%程度までのサンプルでは、ZSO膜は亜鉛(Zn)と珪素(Si)と酸素(O)を含むアモルファス膜として形成され、(Zn+Si)に対するZnの比率が80%を超えると、Zn-Si-Oの母体中に、ZnOの結晶が混在する混合相の膜となる。
【0050】
図5は、混合相のZSO膜23の模式図である。ZSO膜23は、Zn-Si-Oマトリクス23a中に混在するZnO結晶23bを含む。このZnO結晶は伝導性に寄与していると思われる。
【0051】
図6A図6Bは、光電子素子10の特性のZSO組成依存性を示す別の測定結果である。ここでは、活性層14としてCsPbBr3(発光波長から「グリーンペロブスカイト」と呼んでもよい)を用いている。図6Aは電圧に対する輝度変化を示し、図6Bは電圧に対する電流密度の変化を示す。図6Aにおいて、Zn比率が70%のサンプル(図中、「70ZSO」と標記)では輝度レベルが立ち上がらず、10Vの電圧を印加しても104cd/m2の輝度を得ることができない。
【0052】
一方、Zn比率が85%のサンプル(図中、「85ZSO」と標記)では、所望のレベルに達する前に輝度が落ち込んで素子が破壊されてしまう。Zn比率が90%では、発光自体が得られていない。輝度特性の観点から、Zn/(Si+Zn)組成比率は、70%よりも大きく85%よりも小さいことが望ましい。たとえば、Zn比率が80%の場合(図中、「80ZSO」と標記)、2.9Vという低い電圧で105cm/m2の輝度が得られている。
【0053】
図6Bにおいて、Zn比率が70%のサンプルでは、抵抗が高く、電圧を印加しても十分な電流密度を得ることができない。Zn比率が75%、80%、85%、及び90%のサンプルでは、良好な電圧-電流特性を得られるが、Zn比率が85%と90%のサンプルでは素子としての輝度特性が得られないので(図6A参照)、結果的に、Zn/(Si+Zn)組成比率は、70%よりも大きく85%よりも小さいことが望ましい。
【0054】
ZSOのZn比率を調整することでバンド構造が変化する。ZSOの組成を、
70%<Zn/(Si+Zn)<85%
とすることで、無機粒子を含む活性層14に対して適切なバンドギャップ構造となり、高い電子移動度とホールブロック効果が得られる。
【0055】
図6Cは、活性層14にCsPbBr3を用い、ZSOのZn比率を80%に設定したときのパワー効率と電流効率を示す図である。横軸は輝度、左の縦軸がパワー効率、右の縦軸が電流効率である。33lm/Wという高いパワー効率が得られ、電流効率も高い。
【0056】
図7は、ZSOの層平均組成比Zn/(Si+Zn)が80%のサンプルの発光スペクトルである。FWHMは16nm程度であり、良好な特性を有する。ZSOの層平均組成比Zn/(Si+Zn)が70%のサンプルでも、同様の発光スペクトルが得られ、FWHMは15nmである。
【0057】
図8は、ZSOのZn比率が75%のサンプルの電流-電圧特性である。図中のサークルで示すように、リーク電流は10-5mA/cm2と低い。図1の従来の素子では10-3mA/cm2以上のリーク電流が生じていたことと比較すると、リーク電流を2桁低減できることがわかる。
【0058】
図9は、同じサンプルの輝度特性を示す。この輝度特性は、図6Aの「75ZSO」の輝度特性に対応する。3.5Vの電圧印加により、発光素子として一般に必要とされる輝度レベルの104cd/m2を達成することができる。図1の従来の素子で、同じ輝度レベルを得るのに6V以上の電圧印加を要していたのに比べて、駆動電圧を40%以上も低減することができる。
【0059】
以上の結果から、無機粒子を含む活性層14に対するZSOの障壁が小さく、十分に小さな接触抵抗で電気的に接続されていることから、ZSOで形成される電子伝導層13と活性層14との間の電気的な接合は、オーミック性の接続であるということができる。
【0060】
<変形例>
図10は、変形例の光電子素子10Aの模式図である。光電子素子10Aでは、透明電極12の上面と側壁が、完全にZSOの電子伝導層13によって覆われ、透明電極12のコーナー部分121でのリーク電流が抑制される。
【0061】
基板11上に複数の光電子素子10Aをアレイ上に配置する場合、透明電極12を所定の形状にパターニングして、基板11の全面にZSOの電子伝導層13を形成する。このとき、電子伝導層13のカバレッジによっては、透明電極12のコーナー部分121でリーク電流が発生する可能性がある。
【0062】
そこで、ZSOの電子伝導層13の膜厚を透明電極12の膜厚以上に形成することで、透明電極12の段差またはコーナー部分121でのリークを防止する。たとえば、透明電極12の厚さが150nmとすると、ZSOの電子伝導層13の厚さtを150nmよりも大きくする。これにより、リーク防止効果に加えて、電子伝導層13の平坦性も確保され、活性層14の塗布と、これに引き続くホール輸送層15、ホール注入層16、及び対向電極17の積層構造の形成が容易になる。
【0063】
<光電子素子の利用>
上述した光電子素子10(及び光電子素子10A)の構成は、発光素子、受光素子、太陽電池、表示素子等に利用可能である。光電子素子10を発光素子として用いる場合は、透明電極12と対向電極17の間に電圧を印加して活性層14に電流を注入し、再結合により生成された光を取り出す。この場合、電子伝導層13は、高い電子移動度を有する電子輸送・注入層として機能する。図1及び図10の逆構造では、対向電極17を陽極として用い、透明電極12を陰極として用い、透明電極12の側から光を取り出す。
【0064】
光電子素子10を受光素子または太陽電池として用いる場合は、活性層14のバンドギャップ以上のエネルギーを有する光が入射したときに、価電子帯の電子が伝導帯へ励起され、価電子帯にホールが生成される。この場合、電子伝導層13は、電子引き抜き・輸送層として機能する。
【0065】
図11A図11Bは、発光素子として作製された光電子素子10の画像である。図11Aは、30mm×30mmのITO膜付きのガラス基板に形成された発光素子の発光状態を示す。Zn比率が80%のZSOの電子伝導層13の上に、スピンコートでCsPbBr3の活性層14を形成し、365nmのUV光で励起した。図7の発光スペクトルからもわかるように、CsPbBr3のペロブスカイトハロゲン化物の粒子を含む活性層14を用いたときの素子の中心波長は525nmであり、緑帯域の光を発する。図11Aでは、30mm×30mmの全エリアにわたって均一な発光が得られている。この活性層14への電子輸送・注入層として高い電子移動度の電子伝導層13を用いているので、光励起に替えて電圧駆動する場合も、低い駆動電圧で高い発光を得ることができる。
【0066】
図11Bは、20mm×5mmの発光素子であり、発光領域に文字がパターニングされている。Zn比率が80%のアモルファスZSOの電子伝導層13と、CsPbBr3の活性層14の界面に、パターニングされた厚さ20nmのZnO層が挿入されている。ZnO膜は「Tokyo Tech」の文字にパターニングされており、文字パターン以外の領域で、活性層14とアモルファスZSOの電子伝導層13はオーミック接触している。
【0067】
ZnOの導電率はZSO層の導電率よりも1桁高いので、直列抵抗は無視し得る。ZnOの文字パターンが形成された領域の発光に比べて、CsPbBr3とZSOが直接オーミック接触している領域で、より明るい発光が得られている。
【0068】
図12A図12Bは、赤色(R)ペロブスカイトの発光特性を示す。上述のように、活性層14に含まれる無機材料の組成を変えることで発光波長を制御することができる。第1実施形態で注目すべき点は、ZSOの電子伝導層13の組成を変えずに、活性層14の無機材料の組成だけを変えて、異なる波長の発光を高効率で得られることである。
【0069】
図12Aは、活性層14にCsPbBrI2の無機粒子を含む塗布層を用いたときの光電子素子10の輝度特性と電流特性を示す。電子伝導層13として、図7及び図11と同様に、Zn比率が80%のZSOを用いている。黒丸は電圧に対する輝度特性、白丸は電圧に対する電流密度である。
【0070】
2.8Vで102cd/m2の輝度、3.4Vで103cd/m2の輝度、4.5Vで104cd/m2の輝度が得られ、最大輝度は20000cd/m2である。一般的な赤色ペロブスカイトLED素子では、最大の発光輝度でも1000cd/m2に達しないから、赤色波長帯でこのような高輝度を実現できることは注目に値する。
【0071】
図12Bは、図12Aの素子の発光スペクトルである。発光のピーク波長は650nm前後であり、FWHMは40nmである。図12A図12Bから、所定の組成のZSOを電子伝導層13として用いることで、比較的低い駆動電圧で、高輝度の赤色発光が得られていることがわかる。
【0072】
図13A図13Bは、青色(B)ペロブスカイトの発光特性を示す。図13Aは、活性層14にCsPbBrCl2の無機粒子を含む塗布層を用いたときの輝度特性と電流特性を示す。電子伝導層13として、図12と同様に、Zn比率80%のZSOを用いている。黒丸は電圧に対する輝度特性、白丸は電圧に対する電流密度である。
【0073】
実施形態の青色ペロブスカイトは、グリーンペロブスカイト及び赤色ペロブスカイトに比べて動作電圧は高いが、4.5Vで102cd/m2の輝度が得られ、最大輝度は150cd/m2である。このときの発光スペクトルは、図13Bに示すように、ピーク波長が約452nm、FWHMは16nmという良好なスペクトル形状を示す。
【0074】
図13Cは、ZSO上に形成した実施形態の青色ペロブスカイトの特性を、他の青色ペロブスカイト材料の特性と比較する図である。実施形態の構成と異なり、下地にZSOを配置しない青色ペロブスカイトの量子井戸(2D構造)では、最大でも1~2cd/m2程度の輝度しか得られず、ほとんど発光しないといってよい。また、青色ペロブスカイトの量子ドット(0D構造)単体では、100cd/m2の発光を得るのに8V近い電圧印加が必要である。実施形態の構成により、青色ペロブスカイトで150cd/m2の発光が得られていることは、注目に値する。
【0075】
Zn比率が制御されたZSOを電子伝導層13に用いることで、R、G、Bの各波長に応じた活性層14で、良好な電荷輸送特性と量子閉じ込め効果が得られている。これは、組成が制御されたZSOと、無機ペロブスカイトの間で、図2のような望ましいエネルギーバンド構造が実現されているからと考えられる。
【0076】
同一組成のZSOの上に、異なる組成(異なる波長帯)の無機材料を含む活性層14を配置することができるので、たとえば、大面積のZSO層上にインクジェット方式等で、RGBの各波長の活性層14のパターンを形成することができる。これは、従来の有機EL材料を大きく超える利点である。有機EL材料の場合、用いる有機材料に応じて、最適な電子輸送層と電子注入層を個別に選択する必要があり、同一下地で多色セルを構成するのが難しいからである。
【0077】
図14A図14Bは、実施形態の光電子素子10(または光電子素子10A)を発光ダイオードとして用いた平面ディスプレイ100の模式図である。図14Aは、アクティブマトリクス回路の平面模式図、図14Bは各表示画素内の回路図である。
【0078】
光電子素子10の電子伝導層13は、Zn-Si-Oのアモルファス層、または、Zn-Si-Oのマトリクス(母体)中にZnOの結晶粒を分散したコンポジット材料層であり、平坦性、及び均一性が高い。したがって、大型の平面ディスプレイ100への適用が容易である。
【0079】
平面ディスプレイ100は、光電子素子10を有する表示画素105がマトリクス状に配置された素子アレイ110と、素子アレイ110の各表示画素105を駆動するゲート線駆動回路101及びデータ線駆動回路102を有する。ゲート線駆動回路101はシフトレジスター回路とクロック制御回路で構成される。また、データ線駆動回路102はデマルチプレクサー回路で構成される。ゲート線駆動回路101に接続される複数のゲート線111と、データ線駆動回路102に接続される複数のデータ線112は、互いに絶縁され交差して各表示画素105を区画する。
【0080】
図14Bで、表示画素105は、少なくとも発光素子としての光電子素子10と、選択トランジスタTr1と、駆動トランジスタTr2を有する。光電子素子10のアノード(対向電極17)が電源電圧VDDに接続され、カソード(透明電極12)がグランド電位側に接続されている。光電子素子10のカソードとグランド電位の間に、駆動トランジスタTr2が配置され、駆動トランジスタTr2のドレインが光電子素子10のカソードに接続されている。
【0081】
選択トランジスタTr1のゲートはゲート線111に接続され、ソースは駆動トランジスタTr2のゲートと蓄積容量Cに接続されている。ゲート線111が選択されて選択トランジスタTr1がONし、駆動トランジスタTr2のゲートに電圧が印加されると、容量Cに応じた(すなわち駆動トランジスタTr2のゲート-ソース間電圧に応じた)電流が光電子素子10に流れて、発光する。本例では電流駆動型発光ダイオードの駆動回路として二つのトランジスタと一つの蓄積容量からなる最小の回路構成を示したが、アクティブマトリクス駆動の有機ELディスプレイ等でよく知られているように、より多くのトランジスタや容量を使用して補正機能を持たせた回路を用いても良い。
【0082】
平面ディスプレイ100で用いられる光電子素子10は、リーク電流が低減され、低電圧で駆動される。また、FWHMが小さく急峻な発光スペクトルを有する。したがって、低消費電力で鮮明な平面ディスプレイ100が実現される。
【0083】
平面ディスプレイ100がたとえば対角50インチ超の大型ディスプレイの場合は、ガラス基板上に選択トランジスタTr1、駆動トランジスタTr2、蓄積容量C、画素105内配線、およびゲート線111、データ線112を形成し、複数のシリコンICで作成したゲート線駆動回路101およびデータ線駆動回路102のチップをガラス基板上の周辺に配置してゲート線111およびデータ線112に接続した、平面ディスプレイ100のバックプレーンをはじめに形成する。ここで、選択トランジスタTr1および駆動トランジスタTr2には活性層にアモルファスIn-Ga-Zn-Oのような酸化物半導体を有する薄膜トランジスタを用いることが好ましい。また、画素内およびマトリクス配線には低抵抗の銅配線を用いることが好ましい。
【0084】
次に平面ディスプレイ100のフロントプレーンとしてバックプレーン上に発光ダイオードを含む光電子素子10を形成し、図14Bのように接続する。大型ディスプレイの場合、総画素数がたとえば8K、4Kであっても、画素サイズを大きくとることができるので、光電子素子10の発光層を構成する活性層14はたとえばインクジェット法のような印刷法で形成することができる。
【0085】
一方、活性層14をたとえばペロブスカイト型ハロゲン化合物で形成する場合、その金属組成を変化させることで発光の中心波長をR、G、Bとした三種の活性層14の材料を用意することも可能である。上述のように、これらの三種の活性層14の材料は、同一組成のZSO層の上に形成されて、良好なバンドアライメントが得られる。組成の異なる三種類の活性層14の材料を、インクジェット法により塗り分けてフロントプレーンを形成すれば、容易にフルカラーの平面ディスプレイ100を形成することができる。
【0086】
平面ディスプレイ100がスマートフォンのスクリーンのような対角数インチから20インチ程度で精細度が300ppi超の高精細中小型ディスプレイの場合は、表示画素105内のトランジスタの活性層に上記の酸化物半導体だけでなく低温ポリシリコンを用いても良い。ただし、大型ディスプレイとは異なり、周辺のゲート線駆動回路101およびデータ線駆動回路102をシリコンICで実装することは困難になるので、これら周辺駆動回路も画素105内と同じトランジスタからなるガラス基板上の回路でモノリシックに実装する必要がある。また、精細度が高く、インクジェット法等の印刷法ではR、G、Bの塗り分けが困難になる場合は、通常のフォトリソグラフィー工程でフルカラーを実現してもよい。
【0087】
平面ディスプレイ100が、デジタルカメラの電子ビューファインダーやAR用ゴーグル等に用いられる対角1インチ以下で精細度2000ppi超の超高精細微小ディスプレイの場合は、バックプレーンを全て単結晶シリコンウェハ上に形成する。すなわち画素内トランジスタおよび周辺回路のトランジスタは全て単結晶シリコントランジスタで構成される。このような超高精細ディスプレイでは活性層14の材料によるR、G、Bの塗り分けは困難なので、三種の活性層14の材料を混合して白色発光する活性層14を採用してもよい。この場合、白色発光する活性層14を持つ光電子素子10上にR、G、Bを選択的に透過するカラーフィルターを設けて、フルカラーを実現する。
【0088】
第1実施形態の構成は、上述した特定の例に限定されない。電子伝導層13の層平均組成比Zn/(Si+Zn)は、70%よりも大きく85%よりも小さい範囲で、活性層14のバンドギャップ構造、及び/または電荷バランスに応じて適切に設定される。実施形態ではITO付きガラス基板にZSOの電子伝導層13を形成したが、室温で化学的に安定した透明な電子伝導層13を形成できるので、プラスチック基板上に形成してもよい。ホール輸送層15とホール注入層16は必須ではなく、少なくとも一方を省略してもよいし、両方の機能を兼ね備えた層を用いてもよい。素子構造として、順構造を採用してもよい。この場合は、電源電圧VDDと発光素子のアノードの間に駆動トランジスタTr2が挿入される。
【0089】
いずれの構成でも、無機粒子の活性層と実施形態の電子伝導層13を用いることで、リーク電流が抑制されて低電圧駆動が可能、かつ良好なフォトルミネセンス特性を示す光電子素子を実現することができる。
【0090】
特に、ZSOの電子伝導層13は、塗布法で用いられる溶媒(たとえば、無機粒子が分散された溶媒)に対して化学的に安定であり、ペロブスカイト材料や量子ドットの伝導帯準位の値に近い伝導帯を持つ。また、可視光全領域で高い透明性を持つ。
【0091】
さらに、層平均組成比Zn/(Si+Zn)を70%~85%の間で適切な値に調整することで、電子伝導層13の移動度または導電性を制御して電荷バランスを適切に維持することができる。
【0092】
<第2実施形態>
図15は、第2実施形態の光電子素子30の模式図である。第2実施形態では、無機材料を含む活性層とZSOの間の良好な界面バンドアライメントを利用して、ZSOを透明電極の少なくとも一部として用いる。
【0093】
ITO等の一般的な透明導電性酸化物(TCO:Transparent Conductive Oxide)の電極は、メタル電極と比較してシート抵抗が高く、導電性を確保するために電極を厚くしている。透明電極の厚さを増すということは、デバイスの小型化、薄膜化の観点から望ましくない。デバイス全体を可撓性にする場合も、厚い透明電極は不利である。そこで、第2実施形態では、所定のZn比率のZSO膜を用いて、マルチレイヤ透明電極を提供する。ZSO膜は電極として機能するとともに、活性層と接触して電子伝導層として機能する。
【0094】
光電子素子30は、基板31の上に透明電極38、活性層34、ホール輸送層35、ホール注入層36、及び対向電極37がこの順に積層されている。この例では、透明電極38を陰極、対向電極37を陽極とする逆構造を採用し、透明電極38が光取出し側、または光入射側となる。
【0095】
透明電極38は、第1のZSO膜33aと第2のZSO膜33bの間に、金属の薄膜32が挟まれた三層構造を有する。第1のZSO膜33aは、無機材料を含む活性層34と接触しており、透明電極38の一部として機能するとともに、活性層34への電子伝導層として機能する。
【0096】
第2のZSO膜33bは、透明電極38の光取出し面または光入射面として機能する。また、基板31からの水分の侵入を防止する役割を果たす。金属の薄膜32は、使用波長の光が透過する程度に薄く形成されており、透明電極38の導電性を向上する。後述するように、低いシート抵抗と高い透過率を満たす観点から、金属の薄膜32の厚さは、5nm~15nmである。金属材料としては、Ag、Au等を用いることができる。
【0097】
第2実施形態では、基板31にフレキシブル基板を用いる。基板31は、使用波長に対して透過性の高いプラスチック基板であり、PET、PEN、透明ポリイミドなどを用いる。フレキシブルな基板31の上に、金属の薄膜32を含む透明電極38と、第1のZSO膜33aと接触する活性層34を設けることで、活性層34に無機材料を用いながらもデバイス全体をフレキシブルにすることができる。
【0098】
第1のZSO電子伝導層33aは、ZnとSiに対するZnの組成比率Zn/(Zn+Si)が最適な範囲に設定されており、活性層34に対する障壁が低く、高い電子移動度を有する。Zn比率の最適な範囲は、活性層34のエネルギーバンドに対して図2のようなバンド構造をとり得る範囲であり、たとえば、
70%<Zn/(Si+Zn)<85%
の範囲である。
【0099】
活性層34が発光層の場合は、透明電極38の第1のZSO膜33aは、電子注入層と電子輸送層の少なくとも一方の役割を果たす。活性層34が光吸収層の場合は、第1のZSO膜33aは、電子引き抜き層と電子輸送層の少なくとも一方の役割を果たす。第1のZSO膜33aは、アモルファスであってもよいし、Zn-Si-Oの母体内にZnOの結晶粒が存在する混合相の層であってもよい。
【0100】
活性層34は、無機粒子を含む層であり、一例として、ペロブスカイト型ハロゲン化合物の多結晶、または量子閉じ込め効果を有する量子ドットが分散された層である。たとえば、ペロブスカイト型の結晶粒子または量子ドットを有機溶媒中にほぼ均一に分散させた有機無機ハイブリッド材料を用いて、塗布型の活性層34を形成する。
【0101】
第1実施形態で説明したとおり、第1のZSO膜33aの組成を変えることなく、活性層34に用いられる無機材料の組成を変えることで、赤、青、緑など、異なる波長に対応する素子を形成することができる。
【0102】
ホール輸送層35は、ホール輸送機能を有する任意の層である。製造工程の観点からは塗布型で積層可能な層であることが望ましい。また、キャリア移動度と電子閉じ込めの観点からは、図2に示したように、活性層34に対する価電子帯の深さ位置が浅く、伝導帯の高さ位置が高いことが望ましい。一例として、ホール輸送層35は、アリールアミン系化合物、カルバゾール基を含むアミン化合物およびフルオレン誘導体を含むアミン化合物などであってもよい。
【0103】
ホール注入層36は、ホール注入機能を有する任意の層である。一例として、銅フタロシアニン(CuPc)、スターバーストアミン等の有機膜を用いることができる。あるいは金属酸化物の薄膜を用いてもよい。金属酸化物としては、例えば、モリブデン、タングステン、レニウム、バナジウム、インジウム、スズ、亜鉛、ガリウム、チタンおよびアルミニウムから群から選定される一以上の金属を含む酸化物材料を用いることができる。
【0104】
ホール注入層36は、蒸着法または転写法などの乾式プロセスで成膜してもよいし、スピンコート法、スプレーコート法どの湿式プロセスで成膜してもよい。ホール注入層36とホール輸送層35は光電子素子30にとって必須ではなく、少なくとも一方を省略してもよい。
【0105】
対向電極37は、導電性を有する任意の材料の膜であり、金属、カーボン材料、金属酸化物、高分子などの膜を用いることができる。金属電極とする場合は、アルミニウム、銀、錫、金、炭素、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、タングステン、バナジウム、または、これらの合金を用いてもよい。
【0106】
図15の光電子素子30は、たとえば、以下のようにして作製される。基板31として、帝人フィルムソリューション社製の厚さ50μmのPENフィルム(製品名「Q65H」)を用いる。このPENフィルム上に、スパッタ法により第2のZSO膜33bを成膜する。このときのRFパワーは、たとえば80Wである。
【0107】
次に、第2のZSO膜33b上に、たとえばAgの薄膜32を、抵抗加熱蒸着法を用いて成膜する。成膜レートは、一例として0.3nm/sである。
【0108】
Agの薄膜32の上に、スパッタ法により第1のZSO膜33aを形成する。ZSO膜33aのZn比率が所望の値になるように、ZnOターゲットとSiO2ターゲットの比を調整し、RFパワー80Wで成膜する。
【0109】
第1のZSO膜33a上に、活性層34を形成する。たとえば、ペロブスカイト型ハロゲン化物の粒子または量子ドットを有機溶媒に溶かした溶液をスピンコートで塗布する。活性層34上に、たとえば抵抗加熱蒸着で、厚さ40nmのNPDを形成して、ホール輸送層35として用いる。NPD上に、厚さ7nmの酸化モリブデン(MoOx)を抵抗加熱蒸着で形成して、ホール注入層36とする。最後に、厚さ100nmのAg膜を抵抗加熱蒸着で形成して、対向電極37とする。
【0110】
図16A図16Bは、ZSO膜を利用した透明電極38の光学特性の膜厚依存性を示す。横軸は波長、縦軸は透過率である。透明電極38のZSO-メタル-ZSOの三層構造の各層の膜厚を変えて、波長の関数としての透過率をプロットする。ここでは、金属の薄膜32として、Agを用いる。
【0111】
図16Aでは、Ag薄膜の厚さを10nmに固定し、第1のZSO層33aと第2のZSO層33bの厚さを10nm~50nmの範囲で変える。厚さ10nmのAg薄膜を挿入する場合、第1のZSO層33aと第2のZSO層33bの厚さが30nmのときに広い波長範囲にわたって比較的高い透過率が得られる。
【0112】
図16Bでは、第1のZSO層33aと第2のZSO層33bの厚さを30nmに固定して、Ag薄膜の厚さを5~15nmの範囲で変える。Ag薄膜が7~12nmのときに広い波長範囲にわたって比較的高い透過率が得られる。Ag薄膜が5nmまたは15nmのときは青色波長帯の光に対しては比較的高い透過率が得られるが、青色波長帯よりも長波長側で透過率が下がる。
【0113】
図17は、透明電極38で用いられるAg薄膜の光学特性と電気特性の膜厚依存性を示す。横軸はAg薄膜の膜厚、左の縦軸はシート抵抗、右の縦軸は透過率である。透過率のさらに右側の軸は性能指数を表わす。性能指数は、透過率Tとシート抵抗Rsの関係を
T(ω)=[1+(Z0/2Rs)(σopt(ω)/σdc)]-2
で表したときのσdc/σopt(ω)の値である。ここで、Z0は真空のインピーダンス(377Ω程度)、σdcは直流伝導度、σopt(ω)は光の振動数ωにおける光学伝導度である。ωの値として波長550nmに対する値を用いる。
【0114】
Ag薄膜のシート抵抗は、Ag薄膜の膜厚が大きくなるほど低くなる。一方、透過率はAg薄膜の厚さtが、5nm<t<15nmのときに許容可能であり、より好ましくは、6nm≦t≦13nmの範囲である。
【0115】
性能指数でみても、5nm<t<15nmのときに許容可能であり、より好ましくは、6nm≦t≦13nmの範囲である。
【0116】
図17の結果と、図16A及び図16Bの結果を参照すると、透明電極38で用いられるAg薄膜の厚さtは、5nm<t<15nm、より好ましくは、6nm≦t≦13nmである。このとき、ZSOの厚さを30nm~40nmにする。一例として、ZSO-Ag-ZSOの厚さを30nm-10nm-30nmにする場合、透明電極38のトータルの厚さは70nmであり、プラスチック基材に形成されるデバイスの可撓性を維持できる。
【0117】
なお、透明電極38のうち、活性層34と接する第1のZSO膜33aの厚さは、100nm程度にまで大きくしてもよい。透明電極38全体としてみたときに、透明電極38の厚さを小さく維持しつつ、Ag薄膜でシート抵抗を低減し、かつ、第1のZSO層33aで電子の注入及び輸送の機能を発揮することができる。
【0118】
図18は、三層構造の透明電極38の各層のAFM画像である。図18の(a)は、プラスチック基材上に、スパッタリングで厚さ30nmの第2のZSO膜33bを成膜した状態での表面のAFM画像である。表面粗さを表わすRMS値は0.41nmときわめて小さく、平坦な表面が得られている。
【0119】
図18の(b)は、第2のZSO膜33bの上に、厚さ10nmのAgの薄膜32を蒸着した状態での表面のAFM画像である。RMSは1.23nmと低い値が維持されている。
【0120】
図18の(c)は、Agの薄膜32の上に、厚さ30nmの第1のZSO膜33aをスパッタリングで成膜した状態での表面のAFM画像である。RMAは1.1nmに低減されており、ZSOのスパッタ膜によって、Ag表面の凹凸がカバーされていることがわかる。
【0121】
ZSO-メタル-ZSOの三層構造の透明電極38は、十分な表面平坦性を有する。
【0122】
<曲げ耐性>
次に、透明電極38の曲げ特性を調べる。
【0123】
図19A図19Bは、第2実施形態の透明電極38の曲げ特性を示す図である。図19Aは10000サイクル後のインナーベンディング特性、すなわちデバイスを積層層方向に向かってU型に湾曲させたときの曲げ特性である。図19Bは、10000サイクル後のアウターベンディング特性、すなわちデバイスの端部を下方に向けて逆U字型に湾曲させたときの曲げ特性である。図19A図19Bともに、横軸は曲げ半径(mm)を示し、縦軸は初期抵抗値からの抵抗変化である。
【0124】
図19Aのインナーベンディングでは、10000サイクルの後に、曲げ半径を2mmまで小さくしても、抵抗変化が起きない。図19Bのアウターベンディングにおいても、10000サイクルの後に曲げ半径を2mmまで小さくしても、抵抗変化は生じない。
【0125】
図21A図21Bは、図20のサンプル30Sを用いた別の試験結果である。ここでは、曲げ半径を2mmに固定して、曲げサイクルを繰り返す。図21Aのインナーベンディングでは、曲げの大きいサイクルを10×104サイクル繰り返しても、抵抗変化が起きない。図21Bのアウターベンディングでも、同じ曲げのサイクルを8×104サイクル繰り返しても抵抗変化はほとんど起きず、十分に高い曲げ耐性を示している。
【0126】
図22は、作製したサンプル30Sの画像である。PENフィルムが大きく曲げられた状態で緑色光が発光しており、可撓性と発光動作の信頼性が両立している。
【0127】
<電気特性と光学特性>
図23は、図20で作製したサンプル30Sのエネルギー構成図である。透明電極38のエネルギー準位は「TCE」(Transparent Conductive Electrode)で示され、対向する電極層47のエネルギー準位は「MoO3/Ag」で示される。TECとMoO3/Agの間に、「CsPbBr3」、「CBP」、及び「NPD」がこの順に配置されている。
【0128】
TECのエネルギー準位は、CsPbBr3の伝導帯と同レベルかわずかに高く、電子が効率良くCsPbBr3へと移動する。一方、CBPの伝導帯は、CsPbBr3に注入された電子に対して高い障壁となっており、電子をブロックしてキャリアを閉じ込める。
【0129】
CBPの価電子帯の位置は、CsPbBr3の価電子帯よりも深く、ホールが効率良くCsPbBr3に移動する。また、CBPの価電子帯の位置は、MoO3/AgからNPDに注入されるホールに対してそれほど大きな障壁になっておらず、ホールは容易にCBPの障壁を乗り越えてCsPbBr3へと移動する。CsPbBr3に閉じ込められた電子とホールは再結合して、発光する。
【0130】
CsPbBr3を光吸収層として用いる場合は、光吸収により生じた電子とホールを、それぞれTCE側とMoO3/Ag側に容易に引き抜くことができる。
【0131】
図24は、第2実施形態の光電子素子30の電圧-電流特性である。図中、「OMO」と標記されている黒丸のプロットが、三層構造の透明電極38を用いた光電子素子30の特性である。測定には、図20のサンプル30Sを用いている。参考として、白丸で第1実施形態の光電子素子10の電圧-電流特性を併せて示す。第1実施形態のサンプルでは、ITO電極とCsPbBr3の塗布層の間に、電子伝導層13としてZSO膜が挿入されている。このプロットを「ITO」として示す。
【0132】
三層構造の透明電極38を用いた場合、第1実施形態の光電子素子10に劣らない良好な電圧-電流特性が得られている。リーク電流も10-4mA/cm2と非常に小さい。
【0133】
図25は、第2実施形態の光電子素子30の輝度特性である。図中、黒丸で「OMO」と標記されているプロットが、三層構造の透明電極38を用いた光電子素子30の特性である。測定には、図20のサンプル30Sを用いている。参考として、白丸で第1実施形態のサンプルの輝度特性「ITO」を併せて示す。
【0134】
三層構造の透明電極38を用いた場合、第1実施形態の光電子素子10に劣らない輝度特性が得られている。3V程度の低電圧で、104cd/m2を超える高い輝度が得られている。
【0135】
図26は、第2実施形態の光電子素子30のパワー効率を示す。図中、黒丸で「OMO」と標記されているプロットが、三層構造の透明電極38を用いた光電子素子30のパワー効率である。測定には、図20のサンプル30Sを用いている。参考として、白丸で第1実施形態のサンプルのパワー効率「ITO」を併せて示す。
【0136】
三層構造の透明電極38を用いた場合、第1実施形態の光電子素子10に劣らない高いパワー効率が得られている。急峻な立ち上がりで、数十lm/Wのパワー効率が得られている。
【0137】
このように、所定範囲のZnを含むZSOを透明電極に適用することで、電気特性、光学特性ともに優れた光電子素子が実現される。第2実施形態の光電子素子は、第1実施形態の光電子素子と同様に、図14の平面ディスプレイに適用可能である。同一組成のZSOを用いた三層構造の透明電極の上に、組成の異なるペロブスカイト塗布層を直接形成して、異なる色の発光が得られる。
【0138】
この出願は、2018年7月2日に出願された日本国特許出願第2018-126332号に基づきその優先権を主張するものであり、その全内容を含む。
【符号の説明】
【0139】
10、10A、30 光電子素子
11、31 基板
12 透明電極
13 電子伝導層(酸化物半導体層)
14、34 活性層
15、35 ホール輸送層
16、36 ホール注入層
17、37 対向電極
30S サンプル
33a 第1のZSO膜(酸化物半導体層)
33b 第2のZSO膜
32 金属の薄膜
38 透明電極
100 平面ディスプレイ
105 表示画素
110 素子アレイ
図1A
図1B
図2
図3
図4A
図4B
図5
図6A
図6B
図6C
図7
図8
図9
図10
図11A
図11B
図12A
図12B
図13A
図13B
図13C
図14A
図14B
図15
図16A
図16B
図17
図18
図19A
図19B
図20
図21A
図21B
図22
図23
図24
図25
図26