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特許7181688バイオフィルム形成予防剤および口腔用組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-22
(45)【発行日】2022-12-01
(54)【発明の名称】バイオフィルム形成予防剤および口腔用組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/81 20060101AFI20221124BHJP
   A61Q 11/00 20060101ALI20221124BHJP
【FI】
A61K8/81
A61Q11/00
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2017533122
(86)(22)【出願日】2016-08-04
(86)【国際出願番号】 JP2016072955
(87)【国際公開番号】W WO2017022827
(87)【国際公開日】2017-02-09
【審査請求日】2019-05-27
【審判番号】
【審判請求日】2021-02-26
(31)【優先権主張番号】P 2015155410
(32)【優先日】2015-08-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004341
【氏名又は名称】日油株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088904
【弁理士】
【氏名又は名称】庄司 隆
(72)【発明者】
【氏名】宮本 幸治
(72)【発明者】
【氏名】山本 宣之
(72)【発明者】
【氏名】櫻井 俊輔
(72)【発明者】
【氏名】島村 佳久
【合議体】
【審判長】瀬良 聡機
【審判官】冨永 保
【審判官】関 美祝
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-153101(JP,A)
【文献】特開2006-273767(JP,A)
【文献】特開2003-180801(JP,A)
【文献】特開2016-37455(JP,A)
【文献】特開2004-194874(JP,A)
【文献】国際公開第2010/107120(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K8/00-8/99
A61Q1/00-90/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/KOSMET/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量平均分子量10,000~5,000,000であり、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルホスホリルコリンに基づく構成単位(A)10~90モル%と、2-ヒドロキシ-3-メタクリロイルオキシプロピルトリメチルアンモニウムクロライドに基づく構成単位(B2)90~10モル%とを含有する共重合体、
又は、
重量平均分子量10,000~5,000,000であり、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルホスホリルコリンに基づく構成単位(A)10~90モル%と、ステアリルメタクリレートに基づく構成単位(B1)及びN,N-ジメチルアミノプロピルアクリルアミドに基づく構成単位(B3)90~10モル%とを含有する共重合体、
からなるバイオフィルム形成予防剤
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオフィルム形成予防剤および該予防剤を含有する口腔用組成物に関する。
本出願は、参照によりここに援用されるところの日本出願特願2015-155410号優先権を請求する。
【背景技術】
【0002】
一般に口内環境とは、歯、歯茎、舌、口腔粘膜などを取り巻く口腔全体の状態を指し、口内環境が悪化すると、口臭、虫歯、歯周病の発生などの原因となり、クオリティー・オブ・ライフの低下につながる。口内環境の悪化は、細菌が固まった集積物であるデンタルプラークの形成に始まり、これが時間をかけて成熟されることにより、複数の細菌の生活集合体であるバイオフィルムの形成に至る。デンタルプラークは、歯磨きによって比較的取りやすいが、バイオフィルムは歯磨きでは落としにくい。バイオフィルムから産生したう蝕と歯周病の病原菌が心臓弁膜などにもへばり付いて増殖して、細菌性心内膜炎を起こしたり、高齢者に対しては血流中に入り込み、冠状動脈疾患、心疾患、心筋梗塞の発作といった循環障害を引き起こしたりする場合もある。
【0003】
上述のため、口内環境を持続的に良好に保ち、バイオフィルムへの成熟を防止するために、殺菌成分、抗炎症成分、血行促進成分が配合された口腔用組成物が使用される。しかしながら、通常、口腔用組成物は、口腔内で使用された後、吐き出されたり、口腔内を水道水で漱いだりするため、該組成物に含有するバイオフィルム形成予防剤や薬剤が患部と接触する時間が短い。さらには、薬剤が患部に接触していても、唾液で流されてしまうこともある。そのため、目的に応じた薬剤を使用しても、それらの効果が十分に発揮されないことに課題がある。
そこで、薬剤の効果を十分に発揮するために、薬剤濃度を高めたり、処理時間を長くしたりする対策が取られてきた。しかしながら、薬剤濃度を高めると薬剤によっては副作用として炎症が出ることがあったり、処理時間を長くすることは使用者にとって不便であったりするため、上述の対策は必ずしも十分なものではない。
【0004】
薬剤濃度や処理時間を変えるのではなく、口腔用組成物に粘性を付与して、患部に薬剤を留まらせることを目的としている技術が公開されている。例えば、特許文献1には、粘性のある非アニオン性水溶性高分子によって、殺菌剤やビタミン類の口腔内での滞留性を向上させる方法が開示されている。この方法では、口腔用組成物に粘性を付与すると使用者に重い使用感を与えてしまう面や、一定の粘性が必要なためにその剤形も限定されてしまう点で課題が残る。
また、吸着性と徐放性を向上させる技術としては、特許文献2には、フッ化物の滞留性やフッ化物の放出性に優れた水溶性モノフルオロリン酸化高分子化合物と界面活性剤を組み合わせた口腔用組成物に関する技術が開示されている。しかしながら、この技術では、特定の薬剤であるフッ化物の滞留性と放出性の向上に限定されてしまう点で課題が残る。
【0005】
一方、ホスホリルコリン基含有重合体(PC重合体)を用いる口腔用組成物が知られている。特許文献3には口腔内の湿潤を保つ口腔用組成物、特許文献4にはPC重合体を微生物付着防止成分、バインダー成分として水溶性多糖類、および相溶化成分としてポリ(メタ)アクリル酸誘導体を含むことを特徴とする口腔用微生物付着防止剤に関する技術が開示されている。
しかしながら、特許文献3ではPC重合体をバイオフィルム形成予防剤として使用することに関する記載又は示唆はない。また、特許文献4の技術では、口腔内で微生物が付着することを防止できる技術であるが、既に付着している微生物へ他の微生物が付着である共凝集を抑制するバイオフィルム形成予防剤に関しては記載がない。
以上により、薬剤濃度や処理時間を高めることなく、口内環境を持続的に良好に保ち、バイオフィルムへの成熟を防止する口腔用組成物が求められているのである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2008-120753号公報
【文献】特開2009-102283号公報
【文献】特開2006-273767号公報
【文献】特開2011-153101号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記の通り、本発明の課題は、薬剤濃度や処理時間を高めることなく、薬剤の効果の持続性を向上させ、口内環境を持続的に良好に保ち、バイオフィルムへの成熟を防止するバイオフィルム形成予防剤および該予防剤を含有する口腔用組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、バイオフィルム形成予防剤として既に付着している微生物への他の微生物の付着である共凝集を抑制すべく、特定構造のホスホリルコリン基を含有する(メタ)アクリル共重合体を用いれば、薬剤の歯面への吸着量を制御するとともに薬剤を徐放させることができる知見を見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は以下の通りである。
1.重量平均分子量10,000~5,000,000であり、
2-(メタ)アクリロイルオキシエチルホスホリルコリンに基づく構成単位(A)10~90モル%と、
アルキル基含有(メタ)アクリル系単量体に基づく構成単位(B1)、4級アンモニウム基含有(メタ)アクリル系単量体に基づく構成単位(B2)、および(メタ)アクリルアミド系単量体に基づく構成単位(B3)からなる群から選ばれる少なくとも1種の構成単位90~10モル%と
を含有する共重合体からなるバイオフィルム形成予防剤。
【化1】
【化2】
【化3】
【化4】
(式(A)中、Rは水素原子またはメチル基を示す。式(B1)中、Rは水素原子またはメチル基を示し、Rは炭素数4~18のアルキル基を示す。式(B2)中、Rは水素原子またはメチル基を示し、R、RおよびRはそれぞれ独立に水素原子または炭素数1~8のアルキル基を示し、Xはハロゲンイオンもしくは酸残基を示す。式(B3)中、Rは水素原子またはメチル基を示し、RおよびR10はそれぞれ独立に水素原子または炭素数1~6のアルキル基を示す。)
2.構成単位(A)が2-(メタ)アクリロイルオキシエチルホスホリルコリンに基づく構成単位であり、構成単位(B1)がブチルメタクリレートに基づく構成単位である、請求項1に記載のバイオフィルム形成予防剤。
3.構成単位(A)が2-(メタ)アクリロイルオキシエチルホスホリルコリンに基づく構成単位であり、構成単位(B1)がステアリルメタクリレートに基づく構成単位である、請求項1に記載のバイオフィルム形成予防剤。
4.構成単位(A)が2-(メタ)アクリロイルオキシエチルホスホリルコリンに基づく構成単位であり、構成単位(B2)が2-ヒドロキシ-3-メタクリロイルオキシプロピルトリメチルアンモニウムクロライドに基づく構成単位である、請求項1に記載のバイオフィルム形成予防剤。
5.構成単位(A)が2-(メタ)アクリロイルオキシエチルホスホリルコリンに基づく構成単位であり、構成単位(B1)がステアリルメタクリレートに基づく構成単位であり、構成単位(B3)がN,N-ジメチルアミノプロピルアクリルアミドに基づく構成単位である、請求項1に記載のバイオフィルム形成予防剤。
6.前記1~5のいずれか1に記載のバイオフィルム形成予防剤と、殺菌剤(C)、抗炎症剤(D)およびビタミン(E)からなる群より選択される1種または2種以上の薬剤とを含有する口腔用組成物。
7.以下の工程を含む、バイオフィルム形成予防方法、
重量平均分子量10,000~5,000,000であり、
2-(メタ)アクリロイルオキシエチルホスホリルコリンに基づく構成単位(A)10~90モル%と、
アルキル基含有(メタ)アクリル系単量体に基づく構成単位(B1)、4級アンモニウム基含有(メタ)アクリル系単量体に基づく構成単位(B2)、および(メタ)アクリルアミド系単量体に基づく構成単位(B3)からなる群から選ばれる少なくとも1種の構成単位90~10モル%と
を含有する共重合体からなるバイオフィルム形成予防剤又は該予防剤を含む口腔用組成物を、ヒトを含む哺乳類の口腔に投与する工程。
【化5】
【化6】
【化7】
【化8】
(式(A)中、Rは水素原子またはメチル基を示す。式(B1)中、Rは水素原子またはメチル基を示し、Rは炭素数4~18のアルキル基を示す。式(B2)中、Rは水素原子またはメチル基を示し、R、RおよびRは、それぞれ独立に、水素原子または炭素数1~8のアルキル基を示し、Xはハロゲンイオンもしくは酸残基を示す。式(B3)中、Rは水素原子またはメチル基を示し、RおよびR10は、それぞれ独立に、水素原子または炭素数1~6のアルキル基を示す。)
8.重量平均分子量10,000~5,000,000であり、
2-(メタ)アクリロイルオキシエチルホスホリルコリンに基づく構成単位(A)10~90モル%と、
アルキル基含有(メタ)アクリル系単量体に基づく構成単位(B1)、4級アンモニウム基含有(メタ)アクリル系単量体に基づく構成単位(B2)、および(メタ)アクリルアミド系単量体に基づく構成単位(B3)からなる群から選ばれる少なくとも1種の構成単位90~10モル%と
を含有するバイオフィルム形成予防用共重合体。
【化9】
【化10】
【化11】
【化12】
(式(A)中、Rは水素原子またはメチル基を示す。式(B1)中、Rは水素原子またはメチル基を示し、Rは炭素数4~18のアルキル基を示す。式(B2)中、Rは水素原子またはメチル基を示し、R、RおよびRは、それぞれ独立に、水素原子または炭素数1~8のアルキル基を示し、Xはハロゲンイオンもしくは酸残基を示す。式(B3)中、Rは水素原子またはメチル基を示し、RおよびR10は、それぞれ独立に、水素原子または炭素数1~6のアルキル基を示す。)
9.重量平均分子量10,000~5,000,000であり、
2-(メタ)アクリロイルオキシエチルホスホリルコリンに基づく構成単位(A)10~90モル%と、
アルキル基含有(メタ)アクリル系単量体に基づく構成単位(B1)、4級アンモニウム基含有(メタ)アクリル系単量体に基づく構成単位(B2)、および(メタ)アクリルアミド系単量体に基づく構成単位(B3)からなる群から選ばれる少なくとも1種の構成単位90~10モル%と
を含有する共重合体をバイオフィルム形成予防剤の製造としての使用。
【化13】
【化14】
【化15】
【化16】
(式(A)中、Rは水素原子またはメチル基を示す。式(B1)中、Rは水素原子またはメチル基を示し、Rは炭素数4~18のアルキル基を示す。式(B2)中、Rは水素原子またはメチル基を示し、R、RおよびRは、それぞれ独立に、水素原子または炭素数1~8のアルキル基を示し、Xはハロゲンイオンもしくは酸残基を示す。式(B3)中、Rは水素原子またはメチル基を示し、RおよびR10は、それぞれ独立に、水素原子または炭素数1~6のアルキル基を示す。)
【発明の効果】
【0010】
本発明のバイオフィルム形成予防剤は、ホスホリルコリン基を含有する(メタ)アクリル共重合体のバイオフィルム形成予防効果により、バイオフィルムへの成熟を防止することが可能となる。さらには、本発明の口腔用組成物は、該バイオフィルム形成予防剤と薬剤を含有することにより、薬剤の歯面への吸着量を制御できるため薬剤による副作用を低減させることおよび吸着した薬剤を徐放させることにより、薬剤の効果を長く持続させることができ、バイオフィルム形成予防効果をより高めることで、既に付着している微生物への他の微生物の付着である共凝集の抑制及び口腔内のネバツキを予防することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
【0012】
<(1)本発明のバイオフィルム形成予防剤>
本発明のバイオフィルム形成予防剤は、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルホスホリルコリンに基づく構成単位(A)と、アルキル基含有(メタ)アクリル系単量体に基づく構成単位(B1)、4級アンモニウム基含有(メタ)アクリル系単量体に基づく構成単位(B2)、および(メタ)アクリルアミド系単量体に基づく構成単位(B3)からなる群から選ばれる少なくとも1種の構成単位とを含有する共重合体からなり、より詳しくは、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルホスホリルコリンに基づく構成単位(A)と、アルキル基含有(メタ)アクリル系単量体に基づく構成単位(B1)、4級アンモニウム基含有(メタ)アクリル系単量体に基づく構成単位(B2)、または(メタ)アクリルアミド系単量体に基づく構成単位(B3)とを含有する共重合体からなる。
【0013】
<2-(メタ)アクリロイルオキシエチルホスホリルコリンに基づく構成単位(A)>
2-(メタ)アクリロイルオキシエチルホスホリルコリンに基づく構成単位(A)は、より具体的には下記の式(A)で表され、式(A')で表される単量体の重合によって得られる。
【0014】
【化17】
【0015】
【化18】
【0016】
式(A)および式(A')において、Rは水素原子もしくはメチル基のいずれでも良いが、好ましくはメチル基である。
本発明に用いる共重合体は、分子鎖中に構成単位(A)を有することによって、薬剤の過剰な吸着を制御することができる。本発明に用いる共重合体中の構成単位(A)の含有量は、10~90モル%であり、好ましくは20~90モル%であり、より好ましくは30~90モル%である。含有量が低すぎると過剰な吸着を抑えることができず(過剰吸着抑制効果が低くなり)、高すぎるとそれ自身が超親水性のために水中に流れ出てしまうために効果が低くなる。
2-(メタ)アクリロイルオキシエチルホスホリルコリンの好適な例として、2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンが挙げられる。
なお、本発明において「(メタ)アクリル」は、アクリルまたはメタアクリル(メタクリル)を意味し、「(メタ)アクリロイル」は、アクリロイルまたはメタアクリロイル(メタクリロイル)を意味し、「(メタ)アクリレート」は、アクリレートまたはメタアクリレート(メタクリレート)を意味する。
【0017】
<アルキル基含有(メタ)アクリル系単量体に基づく構成単位(B1)>
アルキル基含有(メタ)アクリル系単量体に基づく構成単位(B1)は、より具体的には下記の式(B1)で表され、式(B1')で表される単量体の重合によって得られる。
本発明に用いる共重合体は、分子鎖中に構成単位(B1)を有することによって、共重合体の歯面への吸着性をより高めることが出来る。
【0018】
【化19】
【0019】
【化20】
【0020】
式(B1)および式(B1')において、Rは水素原子もしくはメチル基のいずれでも良いが、好ましくはメチル基である。Rは炭素数4~18の直鎖状または分岐状のアルキル基のいずれでも良い。
【0021】
炭素数4~18の直鎖状アルキル基としては、n-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-へプチル基、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デシル基、n-ウンデシル基、n-ドデシル基、n-トリデシル基、n-テトラデシル基、n-ペンタデシル基、n-ヘキサデシル基、n-ヘプタデシル基、n-オクタデシル基が挙げられる。炭素数4~18の分岐状アルキル基としては、t-ブチル基、イソブチル基、イソペンチル基、t-ペンチル基、ネオペンチル基、イソヘキシル基、イソへプチル基、イソオクチル基、イソノニル基、イソデシル基、イソウンデシル基、イソドデシル基、イソトリデシル基、イソテトラデシル基、イソペンタデシル基、イソヘキサデシル基、イソヘプタデシル基、イソオクタデシル基などが挙げられる。
は、より好ましくは、n-ブチル基、n-ドデシル基、n-オクタデシル基等である。
アルキル基含有(メタ)アクリル系単量体の好適な例として、ブチル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0022】
<4級アンモニウム基含有(メタ)アクリル系単量体に基づく構成単位(B2)>
4級アンモニウム基含有(メタ)アクリル系単量体に基づく構成単位(B2)は、より具体的には下記の式(B2)で表され、式(B2')で表される単量体の重合によって得られる。
【0023】
【化21】
【0024】
【化22】
【0025】
式(B2)および式(B2')において、Rは水素原子もしくはメチル基のいずれでも良いが、好ましくはメチル基である。R、RおよびRは、それぞれ独立に水素原子又は炭素数1~8(より好ましくは1~3)のアルキル基を示し、アルキル基は直鎖状、分岐状及び環状のいずれであってもよい。
具体的には、R、RおよびRとしてメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、n-ヘキシル基、イソヘキシル基、n-ヘプチル基、イソヘプチル基、n-オクチル基、イソオクチル基、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基などが挙げられる。
、RおよびRとして好ましくはメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基であり、より好ましくはメチル基である。
としては、例えば、フッ素イオン、臭素イオン、塩素イオン(クロライドイオン)などのハロゲンイオン、硫酸イオン、メチル硫酸イオンなどの酸残基が挙げられる。これらの中では、ハロゲンイオンが好ましい。
【0026】
4級アンモニウム基含有(メタ)アクリル系単量体の好適な例として、2-ヒドロキシ-3-メタクリロイルオキシプロピルトリメチルアンモニウムクロライド等が挙げられる。
本発明に用いる共重合体は、分子鎖中に構成単位(B2)を有することによって、共重合体の歯面への吸着性をより高めることが出来る。
【0027】
<(メタ)アクリルアミド系単量体に基づく構成単位(B3)>
(メタ)アクリルアミド系単量体に基づく構成単位(B3)は、より具体的には下記の式(B3)で表され、式(B3')で表される単量体の重合によって得られる。本発明に用いる共重合体は、分子鎖中に構成単位(B3)を有することによって、共重合体を高分子量化し、共重合体の歯面への密着性をより高めることが出来る。
【0028】
【化23】
【0029】
【化24】
【0030】
式(B3)および式(B3')において、Rは水素原子もしくはメチル基のいずれでも良いが、好ましくは水素原子である。RおよびR10はそれぞれ独立に水素原子または炭素数1~6のアルキル基を示し、アルキル基は直鎖状、分岐状および環状のいずれであっても良い。具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、n-ヘキシル基、イソヘキシル基、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基などが挙げられる。
およびR10として好ましくは、水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基もしくはイソプロピル基であり、より好ましくはメチル基である。
(メタ)アクリルアミド系単量体の好適な例としては、N,N-ジメチルアミノプロピルアクリルアミド等を挙げることができる。
【0031】
本発明に用いる共重合体は、分子鎖中に(B1)、(B2)及び(B3)からなる群から選択される少なくとも1つの構成単位を有する。本発明に用いる共重合体は、分子鎖中に(B1)、(B2)及び(B3)からなる群から選択されるいずれか1つの構成単位のみを有していてもよく、(B1)、(B2)及び(B3)からなる群から選択される2つの構成単位{例えば(B1)及び(B2)、(B1)及び(B3)、(B2)及び(B3)}を有していてもよく、(B1)、(B2)、及び(B3)の全ての構成単位を有していてもよい。
【0032】
本発明に用いる共重合体は、分子鎖中に構成単位(B1)~(B3)を有することによって、ホスホリルコリン基含有重合体の歯面での残存性を高めることができる。さらに、本発明に用いる共重合体は、(B1)~(B3)だけでなく、構成単位(A)をも同一高分子鎖中に有することによって、薬剤の過剰吸着抑制効果、および、徐放性を有するものとなる。
本発明に用いる共重合体中の構成単位(B1)~(B3)の含有量{(B1)~(B3)のうち1つの構成単位のみ含有する場合は当該構成単位の含有量、(B1)~(B3)のうち2つ又は3つの構成単位を含有する場合はそれらの構成単位の含有量の合計}は、10~90モル%であり、好ましくは10~80モル%であり、より好ましくは10~70モル%である。含有量が低すぎると共重合体の親水性が高いために水中での使用時に流れてしまうために徐放効果が低くなり、高すぎると吸着する薬剤量が制御できなくなる(過剰に薬剤が吸着してしまう)。
【0033】
本発明に用いる共重合体の分子鎖中に含まれる、構成単位(A)と構成単位(B1)~(B3)の組み合わせの好適な例は、以下の通りである。便宜上、単量体の名称で組み合わせを記載する。
2-(メタ)アクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(A)及びブチルメタクリレート(B1);
2-(メタ)アクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(A)及びステアリルメタクリレート(B1);
2-(メタ)アクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(A)及び2-ヒドロキシ-3-メタクリロイルオキシプロピルトリメチルアンモニウムクロライド(B2);
並びに
2-(メタ)アクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(A)、N,N-ジメチルアミノプロピルアクリルアミド(B3)、及びステアリルメタクリレート(B1)。
【0034】
本発明に用いる共重合体は、構成単位(A)及び構成単位(B1)~(B3)以外の構成単位を含んでいてもよいが、好ましくは、構成単位(A)、及び構成単位(B1)、(B2)、及び(B3)からなる群から選択される1、2又は3の構成単位のみからなる。
【0035】
本発明に用いられる共重合体は、公開公報特開平11-035605の方法に準じて重合を行って得たポリマー(1)、公開公報特開2004-196868の方法に準じて重合を行って得たポリマー(2)、公開公報特開2004-196868の方法に準じて重合を行って得たポリマー(3)、公開公報特開2004-189678の方法に準じて重合を行って得たポリマー(4)、公開公報特開2013-018749の方法に準じて重合を行って得たポリマー(5)等を用いることができる。
【0036】
本発明に用いる共重合体の重量平均分子量は、10,000~5,000,000であり、好ましくは50,000~1,000,000である。重量平均分子量が低すぎると配合量に見合った効果が得られなくなり、高すぎると効果が得られる一方で、使用時に被膜感が強くなりすぎるなど使用感が悪くなる。
【0037】
また、上述のバイオフィルム形成予防剤を口腔用組成物に適用するときに、特に効果が高まる薬剤としては、殺菌剤(C)、抗炎症剤(D)、ビタミン(E)等が挙げられる。これらの薬剤は、特に限定はされないが、以下が挙げられる。
【0038】
前記の殺菌剤(C)が、イソプロピルメチルフェノール、塩化デカリウム、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、塩酸アルキルジアミノエチルグリシン、塩酸クロルヘキシジン、グルコン酸クロルヘキシジン、トリクロサン、および1,8-シネオールからなる群より選択される1種または2種以上の殺菌剤である。
【0039】
前記の抗炎症剤(D)が、アズレンスルホン酸ナトリウム、アラントイン、グリチルリチン酸及びその塩、およびβ-グリチルリチン酸からなる群より選択される1種または2種以上の殺菌剤である。
【0040】
前記のビタミン(E)が、アスコルビン酸及びその塩、塩酸ピリドキシン、酢酸dl-α-トコフェロール、およびニコチン酸dl-α-トコフェロールからなる群より選択される1種または2種以上のビタミンである。
【0041】
本発明の口腔用組成物は、洗口液、含嗽剤、歯磨き剤、口中清涼剤、チュアブル剤等に応用することができ、その形態も液状、粘性液体、ジェル状など特に限定されない。
【0042】
さらに、本発明の口腔用組成物は、必要に応じて一般に口腔用組成物に使用できる薬剤、緩衝剤、湿潤剤、界面活性剤、防腐殺菌剤、甘味剤、粘稠化剤、溶剤、色材、有機酸、無機塩類、酸化防止剤、安定剤、防腐剤、金属イオン封鎖剤、香料、矯味剤、清涼化剤、色素等を配合することができる。
【0043】
殺菌剤(C)、抗炎症剤(D)、ビタミン(E)以外の薬剤は、薬事的に配合することが可能な量で本発明の口腔用組成物に含有することができる。
該薬剤としては、
イプシロン-アミノカプロン酸、トラネキサム酸等の止血剤;
硝酸カリウム、乳酸アルミニウム等の知覚過敏緩和剤;
1,8-シネオール等の去痰剤;
ゼオライト等の吸着剤;
ピロリン酸二水素二ナトリウム、ピロリン酸ナトリウム、塩化亜鉛等の歯石沈着防止剤;
フッ化ナトリウム、モノフルオロリン酸ナトリウム等の虫歯予防剤;
銅クロロフィリンナトリウム等の口臭除去剤;
ポリオキシエチレンラウリルエーテル(8~10E.O.)、ラウロイルサルコシンナトリウム等の洗浄剤;
塩化ナトリウム、l-メントール等の収斂剤;
リン酸1水素ナトリウム、リン酸三ナトリウム、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン等の歯垢除去剤;
等が挙げられる。
【0044】
緩衝剤は、特に限定されないが、クエン酸、リン酸、リンゴ酸、グルコン酸およびこれらの塩が挙げられ、0.01質量%~3質量%で使用されることが望ましい。
湿潤剤は、特に限定されないが、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ペンチレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、キシリトール、マンニトール、エリスリトールなどの多価アルコールが挙げられ、1質量%~50質量%で使用されることが望ましい。
界面活性剤は、特に限定されないが、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ソルビタン脂肪酸エチレン付加物、ポリグリセリン脂肪酸エステル、アシルアミノ酸塩、脂肪酸アミノプロピルベタイン、脂肪酸アミドベタインなどが挙げられ、特にポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ソルビタン脂肪酸エチレン付加物を0.05質量%~2質量%で使用されるのが好ましい。
【0045】
防腐殺菌剤は、特に限定されないが、塩酸ポリヘキサニド、安息香酸およびこの塩、パラベン類などが挙げられ、通常配合量は0.01~1質量%である。
甘味剤は、特に限定されないが、サッカリン、ステビオシド、スクロース、アスパルテーム、甘草抽出物が挙げられる。
【0046】
粘稠化剤は、特に限定されないが、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースなどのセルロース系粘稠化剤、ヒアルロン酸及びその塩、コンドロイチン硫酸及びその塩、アルギン酸及びその塩、ジュランガム、キサンタンガムなどのような多糖類などが挙げられる。
溶剤は、特に限定はされないが、精製水、エタノールが挙げられる。特に好ましくは、エタノールを5.0~20質量%で使用されるのが好ましい。
【0047】
本発明のバイオフィルム形成予防剤を含有する口腔用組成物は、本発明に用いる共重合体を水、エタノール等のアルコールもしくはこれらの混合溶液に、0.01~10.0質量%となるように溶解させることにより得ることが出来る。該共重合体の濃度が0.01質量%未満では薬剤の過剰吸着抑制効果および徐放効果が十分ではなく、10.0質量%を超えると吸着する薬剤量の制御が困難となる恐れがある。
加えて、本発明に用いる共重合体の濃度は、より好ましくは、0.05~5.0質量%であり、さらに好ましくは0.5~5.0質量%である。
【0048】
本発明は、以下の工程を含む、バイオフィルム形成予防方法も対象とする。
重量平均分子量10,000~5,000,000であり、
2-(メタ)アクリロイルオキシエチルホスホリルコリンに基づく構成単位(A)10~90モル%と、
アルキル基含有(メタ)アクリル系単量体に基づく構成単位(B1)、4級アンモニウム基含有(メタ)アクリル系単量体に基づく構成単位(B2)、および(メタ)アクリルアミド系単量体に基づく構成単位(B3)からなる群から選ばれる少なくとも1種の構成単位90~10モル%と
を含有する共重合体からなるバイオフィルム形成予防剤又は該予防剤を含む口腔用組成物を、ヒトを含む哺乳類の口腔に投与する工程。
【化25】
【化26】
【化27】
【化28】
(式(A)中、Rは水素原子またはメチル基を示す。式(B1)中、Rは水素原子またはメチル基を示し、Rは炭素数4~18のアルキル基を示す。式(B2)中、Rは水素原子またはメチル基を示し、R、RおよびRは、それぞれ独立に、水素原子または炭素数1~8のアルキル基を示し、Xはハロゲンイオンもしくは酸残基を示す。式(B3)中、Rは水素原子またはメチル基を示し、RおよびR10は、それぞれ独立に、水素原子または炭素数1~6のアルキル基を示す。)
【0049】
本発明のバイオフィルム形成予防方法は、特に限定されないが、例えば、本発明のバイオフィルム形成予防剤を含有する口腔用組成物15~25 mLを1日あたり1~10回、1~8回、1~6回、1~4回、1~3回(好ましくは、朝、昼、晩)、1回あたり30秒以上口に含み洗口(含そう)することを例示することができる。
バイオフィルム形成予防方法の対象は、特に限定されないが、ヒトを含む哺乳類を対象とする。
【0050】
本発明は、重量平均分子量10,000~5,000,000であり、
2-(メタ)アクリロイルオキシエチルホスホリルコリンに基づく構成単位(A)10~90モル%と、
アルキル基含有(メタ)アクリル系単量体に基づく構成単位(B1)、4級アンモニウム基含有(メタ)アクリル系単量体に基づく構成単位(B2)、および(メタ)アクリルアミド系単量体に基づく構成単位(B3)からなる群から選ばれる少なくとも1種の構成単位90~10モル%と
を含有するバイオフィルム形成予防用共重合体も対象とする。
【化29】
【化30】
【化31】
【化32】
(式(A)中、Rは水素原子またはメチル基を示す。式(B1)中、Rは水素原子またはメチル基を示し、Rは炭素数4~18のアルキル基を示す。式(B2)中、Rは水素原子またはメチル基を示し、R、RおよびRは、それぞれ独立に、水素原子または炭素数1~8のアルキル基を示し、Xはハロゲンイオンもしくは酸残基を示す。式(B3)中、Rは水素原子またはメチル基を示し、RおよびR10は、それぞれ独立に、水素原子または炭素数1~6のアルキル基を示す。)
【0051】
本発明は、重量平均分子量10,000~5,000,000であり、
2-(メタ)アクリロイルオキシエチルホスホリルコリンに基づく構成単位(A)10~90モル%と、
アルキル基含有(メタ)アクリル系単量体に基づく構成単位(B1)、4級アンモニウム基含有(メタ)アクリル系単量体に基づく構成単位(B2)、および(メタ)アクリルアミド系単量体に基づく構成単位(B3)からなる群から選ばれる少なくとも1種の構成単位90~10モル%と
を含有する共重合体をバイオフィルム形成予防剤の製造としての使用も対象とする。
【化33】
【化34】
【化35】
【化36】
(式(A)中、Rは水素原子またはメチル基を示す。式(B1)中、Rは水素原子またはメチル基を示し、Rは炭素数4~18のアルキル基を示す。式(B2)中、Rは水素原子またはメチル基を示し、R、RおよびR7は、それぞれ独立に、水素原子または炭素数1~8のアルキル基を示し、Xはハロゲンイオンもしくは酸残基を示す。式(B3)中、Rは水素原子またはメチル基を示し、RおよびR10は、それぞれ独立に、水素原子または炭素数1~6のアルキル基を示す。)
【実施例
【0052】
以下、実施例および比較例により、本発明のバイオフィルム形成予防剤、該予防剤を含む口腔組成物およびバイオフィルム形成予防方法の効果を具体的に説明する。なお、本実施例および比較例に用いた共重合体および重合体は、次の通りである。
【0053】
MPCポリマー(1): 2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン・ブチルメタクリレート共重合体〔共重合組成比(モル比)80/20、重量平均分子量:600,000〕であり、特開平11-035605の実施例記載の方法によって重合を行って得られた。
MPCポリマー(2): 2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン・ブチルメタクリレート共重合体〔共重合組成比(モル比)30/70、重量平均分子量:142,000〕であり、特開2004-196868の実施例記載の方法によって重合を行って得られた。
MPCポリマー(3): 2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン・ステアリルメタクリレート共重合体〔共重合組成(モル比)33/67、重量平均分子量:164,000〕であり、特開2004-196868の実施例記載の方法によって重合を行って得られた。
【0054】
MPCポリマー(4): 2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン・2-ヒドロキシ-3-メタクリロイルオキシプロピルトリメチルアンモニウムクロライド共重合体〔共重合組成(モル比)70/30、重量平均分子量:450,000〕であり、特開2004-189678の実施例記載の方法によって重合を行って得られた。
MPCポリマー(5): 2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン・N,N-ジメチルアミノプロピルアクリルアミド・ステアリルメタクリレート共重合体〔共重合組成(モル比)90/2/8、重量平均分子量:820,000〕であり、特開2013-018749の実施例記載の方法によって重合を行って得られた。
ホモポリマー(A):2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンの重合体〔重量平均分子量:200,000〕であり、特開平8-333421の実施例記載の方法によって重合を行って得られた。
【0055】
[実施例1-1~1-35、比較例1-1~1-15、対照1~5]
表1~3に示す成分配合の口腔用組成物を常法にしたがって調製した。
<薬剤の吸着性及び滞留性の評価>
対照1~5、実施例1-1~1-35、及び比較例1-1~1-15の口腔用組成物1mLを、歯面のモデルであるハイドロキシアパタイト粉末(Bio-Gel HTP Hydroxyapataite ,BIO-RAD社製)0.04gに10分間接触させた。これを遠心分離(3500rpm、1分間)し、上澄み液を回収した。この上澄み液をフィルター(東洋濾紙(株)製「アドバンテック」セルロースアセテート、孔径0.45μm)でろ過し、薬剤に関して液体クロマトグラフィーで定量を行い、上澄み液中の薬剤量を算出した。そして、下記式1で薬剤の未吸着率を算出した。
【0056】
薬剤の未吸着率(%)=上澄み液中の薬剤量/薬剤の配合量×100 ・・式1
【0057】
次いで、上澄み液を回収した後に残ったハイドロキシアパタイト粉体に水1mLを加え激しく撹拌した後、遠心分離(3500rpm、1分間)し、撹拌後上澄み液を回収した。
さらに、洗浄を3回繰り返した後、残ったハイドロキシアパタイト粉体に精製水5mLを加え、超音波で30分間処理を行い、吸着している薬剤を抽出した(抽出液の回収)。
最後に、回収した該撹拌後上澄み液及び該抽出液を、それぞれ、フィルター(東洋濾紙(株)製「アドバンテック」セルロースアセテート、孔径0.45μm)でろ過し、さらに薬剤に関して液体クロマトグラフィーで定量を行い、撹拌後上澄み液中の薬剤量及び抽出液中の薬剤量を算出した。そして、下記式2で薬剤の吸着保持率を算出した。
【0058】
薬剤の吸着保持率(%)=抽出液中の薬剤量/撹拌後上澄み液中の薬剤量×100 ・・式2
【0059】
以上のように算出した未吸着率(%)と吸着保持率(%)の合計値が、各薬剤の対照(対照1~5)における合計値を超えることを基準として、口腔用組成物は薬剤の歯面への吸着量制御効果(過剰吸着抑制効果)、および、薬剤徐放性効果を有していると判断した。
【0060】
【表1】
【0061】
【表2A】
【0062】
【表2B】
【0063】
【表3】
【0064】
結果、実施例1-1~1-35では上記基準を全て満たしていた。
すなわち、実施例1-1~1-35の口腔用組成物は、薬剤の歯面への吸着量制御効果(過剰吸着抑制効果)、および、薬剤徐放性効果を有していた。
【0065】
以下に上記結果をより詳しく説明する。
対照1~5は、実施例と比較したとき、薬剤の過剰吸着量が多くなることから、薬剤の未吸着率が低く、薬剤の吸着保持率も低かった。
これに対し、本発明のバイオフィルム形成予防剤を含む口腔用組成物は、実施例1-1~1-15で示すように、そのポリマーの含有量の増減により、未吸着率と吸着保持率の合計値、すなわち薬剤の吸着量を制御でき、さらに、未吸着率と吸着保持率の合計値が高かったことにより徐放性を有することから、バイオフィルム形成予防効果を高め、既に付着している微生物への他の微生物の付着である共凝集の抑制及び口腔内のネバツキを予防することができることを確認した。
一方で、比較例1-1~1-15の薬剤の未吸着率及び薬剤の吸着保持率は、対照1~5の薬剤の未吸着率及び薬剤の吸着保持率と比較して、差がなく、吸着量制御効果や徐放性を有していないことを確認した。
以上により、本発明のバイオフィルム形成予防剤、該予防剤を含む口腔組成物およびバイオフィルム形成予防方法は、優れた吸着量制御効果・徐放効果を示し、バイオフィルム形成予防効果を高め、既に付着している微生物への他の微生物の付着である共凝集の抑制及び口腔内のネバツキを予防することができる。
【産業上の利用可能性】
【0066】
薬剤濃度や処理時間を高めることなく、薬剤の効果の持続性を向上させ、口内環境を持続的に良好に保ち、バイオフィルムへの成熟を防止するバイオフィルム形成予防剤、口腔用組成物およびバイオフィルム形成予防方法、並びにバイオフィルム形成予防効果により口腔内環境の悪化を予防し、口腔内のネバツキを予防できる口腔用組成物を提供することができる。