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特許7181695抗認知症剤及び短期記憶障害改善/抑制剤
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  • 特許-抗認知症剤及び短期記憶障害改善/抑制剤 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-22
(45)【発行日】2022-12-01
(54)【発明の名称】抗認知症剤及び短期記憶障害改善/抑制剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/192 20060101AFI20221124BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20221124BHJP
【FI】
A61K31/192
A61P25/28
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2018046752
(22)【出願日】2018-03-14
(65)【公開番号】P2019156778
(43)【公開日】2019-09-19
【審査請求日】2021-01-19
(73)【特許権者】
【識別番号】321006774
【氏名又は名称】DM三井製糖株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100176773
【弁理士】
【氏名又は名称】坂西 俊明
(72)【発明者】
【氏名】古田 到真
(72)【発明者】
【氏名】水 雅美
【審査官】吉川 阿佳里
(56)【参考文献】
【文献】Biochem. Biophys. Res. Commun.,2017年,Vol.492, Issue 3,p. 493-499
【文献】J Agric Food Chem.,2014年,Vol. 62,p. 4911-4916
【文献】Molecules,2012年,Vol. 17,p. 10831-10845
【文献】老年期認知症研究会誌,Vol. 19, No. 4,2012年,p. 87-88
【文献】老年期認知症研究会誌,Vol. 22, No. 3,2017年,p. 19-23
【文献】Phytother. Res.,2012年,Vol. 26,p. 1714-1718
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00-31/80
A61P 1/00-43/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
p-クマル酸を有効成分として含有する、アミロイドβタンパク質の蓄積に起因するアルツハイマー型認知症の抗認知症剤。
【請求項2】
p-クマル酸を有効成分として含有する、アミロイドβタンパク質の蓄積に起因する短期記憶障害改善/抑制剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗認知症剤及び短期記憶障害改善/抑制剤に関する。
【背景技術】
【0002】
認知症は、種々の原因により脳の細胞が死んでしまったり、働きが悪くなったりすることで様々な障害がおこり、生活をする上で支障が出ている状態を指す。認知症の発症に伴って脳全体が委縮することにより、身体機能も失われる場合がある。
【0003】
そこで近年では、認知症を抑制する効果をもたらす成分に関する研究が盛んに行なわれている。例えば、特許文献1には、ローヤルゼリーが抗認知症活性を示すことが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2017/078175号
【非特許文献】
【0005】
【文献】日本薬理学雑誌,130(2),pp112~116,2007年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、新規な抗認知症剤及び短期記憶障害改善/抑制剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、in vivo試験によって、p-クマル酸がアミロイドβタンパク質の蓄積に起因する短期記憶障害を改善/抑制する作用を有することを見出した。
【0008】
すなわち本発明は、第1の態様として、p-クマル酸を有効成分として含有する抗認知症剤を提供する。
【0009】
本発明は、第2の態様として、p-クマル酸を有効成分として含有する短期記憶障害改善/抑制剤を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、新規な抗認知症剤及び短期記憶障害改善/抑制剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】Y字型迷路試験における評価結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0013】
本発明の抗認知症剤は、抗認知症作用を有するものである。本発明における「抗認知症作用」とは、認知症の発症を未然に防止する作用、認知症の発症を遅延させる作用、一度発症した認知症を発症時の状態から回復させる作用を含む概念である。本発明の抗認知症剤が対象とする認知症は、アルツハイマー型認知症であってもよい。アルツハイマー型認知症は、前脳基底部のマイネルト核におけるアセチルコリン作動性神経細胞の脱落により引き起こされる病態(コリン仮説)と、アミロイドβタンパク質の蓄積によって引き起こされる病態(アミロイド仮説)とがある。両者はそれぞれ別々の病態を示すものであり、同一の病態を別の角度から見たものではない。本発明の抗認知症剤が対象とする認知症はいずれの説に基づくアルツハイマー型認知症であってもよく、好ましくは、アミロイド仮説に基づくアルツハイマー型認知症である。すなわち、本発明の抗認知症剤が対象とする認知症は、アミロイドβタンパク質の蓄積に起因するアルツハイマー型認知症であってよい。言い換えると、本発明は、アルツハイマー型認知症の抗認知症剤、アミロイド仮説に基づくアルツハイマー型認知症の抗認知症剤、又はアミロイドβタンパク質の蓄積に起因するアルツハイマー型認知症の抗認知症剤を提供するということもできる。
【0014】
アミロイド仮説に基づくアルツハイマー型認知症においては、アミロイドβタンパク質に加えて、タウタンパク質が脳内に蓄積することによって脳神経細胞の死滅が引き起こされるために、認知機能に障害が起こると考えられている。初期段階ではアミロイドβタンパク質の蓄積が始まり、約10年経過するとタウタンパク質の蓄積が始まる。その後、アミロイドβタンパク質とタウタンパク質が蓄積し続けることによって脳神経細胞を死滅させ、初期段階から約25年後に認知症を発症させるとされている。本発明の抗認知症剤は、他の一側面において、脳内へのアミロイドβタンパク質の蓄積を抑制する作用、脳内に蓄積したアミロイドβタンパク質を低減させる作用を有するということもでき、また、脳内へのタウタンパク質の蓄積を抑制する作用、脳内に蓄積したタウタンパク質を低減させる作用を有するということもできる。
【0015】
本発明は、記憶障害改善/抑制剤を提供するということもできる。本発明の記憶障害改善/抑制剤は、記憶障害を改善/抑制する作用を有するものである。本発明における「記憶障害の改善/抑制」とは、記憶障害の発症を未然に防止する作用、記憶障害の発症を遅延させる作用、一度発症した記憶障害を発症時の状態から回復させる作用を含む概念である。本発明の記憶障害改善/抑制剤が対象とする記憶障害は、長期記憶障害であっても短期記憶障害であってよいが、好ましくは短期記憶障害である。すなわち本発明は、短期記憶障害改善/抑制剤を提供するということができ、更に、アミロイドβタンパク質の蓄積に起因する短期記憶障害の改善/抑制剤を提供するということもできる。
【0016】
一実施形態に係る抗認知症剤は、p-クマル酸を有効成分として含有する。
【0017】
p-クマル酸は、ヒドロキシケイ皮酸の一種であり、リグニン分解生成物や天然精油から分離したもの、或いは合成反応生成物等として入手することができる。リグニン分解生成物の原料となるリグニンは、イネ科植物由来であってよく、サトウキビ又はバガス由来のものを用いてもよい。p-クマル酸は、市販されているものを用いてもよい。
【0018】
本実施形態に係る抗認知症剤は、有効成分であるp-クマル酸のみからなってもよく、食品、医薬部外品又は医薬品に使用可能な素材を更に配合してもよい。食品、医薬部外品又は医薬品に使用可能な素材としては、特に制限されるものではないが、例えば、アミノ酸、タンパク質、炭水化物、油脂、甘味料、ミネラル、ビタミン、香料、賦形剤、結合剤、滑沢剤、崩壊剤、乳化剤、界面活性剤、基剤、溶解補助剤、懸濁化剤等が挙げられる。
【0019】
タンパク質としては、例えば、ミルクカゼイン、ホエイ、大豆タンパク、小麦タンパク、卵白等が挙げられる。炭水化物としては、例えば、コーンスターチ、セルロース、α化デンプン、小麦デンプン、米デンプン、馬鈴薯デンプン等が挙げられる。油脂としては、例えば、サラダ油、コーン油、大豆油、ベニバナ油、オリーブ油、パーム油等が挙げられる。甘味料としては、例えば、ブドウ糖、ショ糖、果糖、ブドウ糖果糖液糖、果糖ブドウ糖液糖等の糖類、キシリトール、エリスリトール、マルチトール等の糖アルコール、スクラロース、アスパルテーム、サッカリン、アセスルファムK等の人工甘味料、ステビア甘味料等が挙げられる。ミネラルとしては、例えば、カルシウム、カリウム、リン、ナトリウム、マンガン、鉄、亜鉛、マグネシウム等、及びこれらの塩類等が挙げられる。ビタミンとしては、例えば、ビタミンE、ビタミンC、ビタミンA、ビタミンD、ビタミンB類、ビオチン、ナイアシン等が挙げられる。賦形剤としては、例えば、デキストリン、デンプン、乳糖、結晶セルロース等が挙げられる。結合剤としては、例えば、ポリビニルアルコール、ゼラチン、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリビニルピロリドン等が挙げられる。滑沢剤としては、例えば、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、タルク等が挙げられる。崩壊剤としては、例えば、結晶セルロース、寒天、ゼラチン、炭酸カルシウム、炭酸水素ナトリウム、デキストリン等が挙げられる。乳化剤又は界面活性剤としては、例えば、ショ糖脂肪酸エステル、クエン酸、乳酸、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、レシチン等が挙げられる。基剤としては、例えば、セトステアリルアルコール、ラノリン、ポリエチレングリコール等が挙げられる。溶解補助剤としては、例えば、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、炭酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム等が挙げられる。懸濁化剤としては、例えば、モノステアリン酸グリセリン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、アルギン酸ナトリウム等が挙げられる。これらは1種単独で、又は2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0020】
抗認知症剤が他の素材を含有する場合、有効成分であるp-クマル酸の含有量は、後述する抗認知症剤の形態、使用目的等に応じて適宜設定すればよいが、抗認知症効果をより一層有効に発揮する観点から、好ましくは、抗認知症剤全量を基準として、好ましくは1質量%以上であり、より好ましくは3質量%以上であり、更に好ましくは5質量%以上であり、また、好ましくは50質量%以下であり、より好ましくは40質量%以下であり、更に好ましくは30質量%以下である。
【0021】
抗認知症剤は、食品、医薬部外品又は医薬品として用いることができる。食品は、例えば、健康食品、特定保健用食品、機能性食品、栄養機能食品、サプリメント等の形態で提供されてもよい。
【0022】
抗認知症剤は、飼料、飼料添加物としても用いることができる。飼料としては、ドッグフード、キャットフード等のコンパニオン・アニマル用飼料、家畜用飼料、家禽用飼料、養殖魚介類用飼料等が挙げられる。「飼料」には、動物が栄養目的で経口的に摂取するもの全てが含まれる。より具体的には、養分含量の面から分類すると、粗飼料、濃厚飼料、無機物飼料、特殊飼料の全てを包含し、また公的規格の面から分類すると、配合飼料、混合飼料、単体飼料の全てを包含する。また、給餌方法の面から分類すると、直接給餌する飼料、他の飼料と混合して給餌する飼料、または飲料水に添加し栄養分を補給するための飼料の全てを包含する。
【0023】
抗認知症剤は、固体(粉末、顆粒等)、液体(溶液、懸濁液等)、ペースト等のいずれの形状であってもよく、散剤、丸剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、トローチ剤、液剤、懸濁剤等のいずれの剤形であってもよい。
【0024】
抗認知症剤を含有する上記製品を集中的に摂取する場合、上記製品の摂取量(1日当たりの摂取量又は投与量)は、p-クマル酸全量基準で、好ましくは50~3,000mg/kg(体重)であり、より好ましくは100~2,000mg/kg(体重)である。日常的に長期摂取する場合、上記製品の摂取量(1日当たりの摂取量)は、p-クマル酸全量基準で、好ましくは1~500mg/kg(体重)である。
【0025】
本実施形態の抗認知症剤は、アミロイドβタンパク質が蓄積したヒト又は動物に対して用いることができる。また、本実施形態の抗認知症剤は、認知症(又は、アルツハイマー型認知症)を患うヒト又は動物、記憶障害(又は短期記憶障害)を患うヒト又は動物に対して用いることができ、当該認知症及び記憶障害は、アミロイドβタンパク質の蓄積に起因するものであってよい。本実施形態の抗認知症剤は、認知症(又は、アルツハイマー型認知症)を発症していないヒト又は動物、記憶障害(又は短期記憶障害)を発症していないヒト又は動物に対して、認知症又は記憶障害の発症を未然に防止するために用いることができ、また、認知症又は記憶障害の発症を遅延させるために用いることもできる。
【0026】
一実施形態に係る短期記憶障害改善/抑制剤の具体的な態様は、上述した抗認知症剤における態様と同様であってよい。すなわち、一実施形態に係る短期記憶障害改善/抑制剤は、上述した抗認知症剤に関する説明において、「抗認知症剤」を「短期記憶障害改善/抑制剤」と読み替えたものであってよい。
【実施例
【0027】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0028】
以下、p-クマル酸の投与量に関する記載について、例えば「100mg/kg」は、体重1kg当たり100mgを投与したことを意味する。「アミロイドβタンパク質」は、単に「アミロイドβ」ということがある。
【0029】
<試験溶液の調製>
p-クマル酸(trans-p-Coumaric Acid、東京化成工業株式会社)は、試験に供するまで室温(管理温度:18.0~28.0℃)で保管した。p-クマル酸を溶解する媒体として注射用水(大塚蒸留水、株式会社大塚製薬工場)を用意した。p-クマル酸の必要量を秤量し、注射用水で溶解した後、所定濃度となるように希釈し、これを試験溶液とした。
【0030】
<アミロイドβ溶液の調製>
アミロイドβ溶液に使用するアミロイドβ(Amyloid-βProtein(25-35、Polypeptide Laboratories)は、試験に供するまで、冷凍(管理温度:-30℃~-20℃)で保管した。アミロイドβを注射用水で2mMとなるように溶解させ、アミロイドβ溶液を調製した。
【0031】
<試験動物>
試験動物として、雄性Slc:ddYマウス(SPF、日本エスエルシー株式会社)を使用した。当該マウスとして、5週齢のものを入手した。当該マウスは、行動薬理試験に一般的に用いられている動物種で、その系統維持が明らかなものである。入手後1日のマウスの体重範囲は23.8~30.0gであった。入手したマウスについて5日間の予備飼育期間を設けた。
【0032】
(飼育条件)
マウスは、管理温度20.0~26.0℃、管理湿度40.0~70.0%、明暗各12時間(照明:午前6時~午後6時)、換気回数12回/時(フィルターを通した新鮮空気)に維持された動物飼育室で飼育した。
予備飼育期間中から群分け日までは、プラスチック製ケージ(W:310×D:360×H:175mm)を用いて1ケージあたり10匹までの群飼育とし、群分け後は、1ケージあたり5匹までの群飼育とした。飼料としては、固形飼料(MF、オリエンタル酵母工業株式会社)を、飲料水としては、水道水をそれぞれ自由に摂取させた。
【0033】
<試験操作>
(群構成及び投与液量)
群分けは、無作為抽出法により各群の平均体重がほぼ均一になるように試験溶液の投与開始日に行った。群構成としては、偽手術群、媒体対照群及びp-クマル酸投与群の三群とした。p-クマル酸投与群には、投与液量として、p-クマル酸の投与量がマウス1個体当たり100mg/kgとなるように、投与日の体重を基準とし、10mL/kgで算出した。偽手術群及び媒体対照群には、0.5%(w/v)メチルセルロース溶液を10mL/kg投与した。
【0034】
(実験スケジュール)
試験溶液の投与開始日を投与1日目として、試験溶液については1日1回投与し、投与8日目にはアミロイドβ溶液をマウスに注入した。その後、投与14日目にY字型迷路試験を実施した。各手順については後述する。
【0035】
(試験溶液の投与経路及び投与方法)
投与経路は、経口投与とした。投与方法としては、試験施設で用いられている通常の方法に従って、マウス用ディスポーザブル経口ゾンデ(有限会社フチガミ器械)を取り付けたポリプロピレン製ディスポーザブル注射筒(テルモ株式会社)を用いて、試験溶液を経口投与した。投与操作時には、1匹投与する毎に試験溶液を転倒混和してから、注射筒に吸引させた。なお、アミロイドβ溶液注入日には、アミロイドβ溶液注入後に試験溶液を投与し、Y字型迷路試験日には、測定の30分前に試験溶液を投与した。
【0036】
(アミロイドβの注入方法)
マウスにペントバルビタールナトリウム(東京化成工業株式会社)を40mg/kg腹腔内投与(投与液量:10mL/kg)することにより、マウスを麻酔した。麻酔後、頭皮にレボブピバカイン塩酸塩(ボブスカイン(登録商標)0.25%注、丸石製薬株式会社)を皮下投与(0.1mL)した。頭皮を切開して頭蓋骨を露出させ、歯科用ドリルを用いてブレグマより側方1mm(右側)、後方0.2mmの頭蓋骨にステンレス製パイプ刺入用の穴を開けた。骨表面から2.5mmの深さまで外径0.5mmのシリコンチューブ及びマイクロシリンジに接続されたステンレス製パイプを垂直に刺入した。p-クマル酸投与群及び媒体対照群には、脳室内にアミロイドβ溶液3μL(6nmol/3μL)をマイクロシリンジポンプで3分間かけて注入した。一方、偽手術群には注射用水3μLを同様の方法で注入した。注入後、ステンレス製パイプを挿入したまま3分間静置し、ステンレス製パイプをゆっくりと外した。その後、頭蓋穴を非吸収性骨髄止血剤(ネストップ(登録商標)、アルフレッサーファーマ株式会社)で塞ぎ、頭皮を縫合した。
【0037】
(Y字型迷路試験による評価)
学習・記憶行動の評価方法であり、特に短期記憶の評価方法として知られている、Y字型迷路試験(例えば、非特許文献1)を実施した。試験には、1本のアームの長さが39.5cm、床の幅が4.5cm、壁の高さが12cmで、3つのアームがそれぞれ120度に分岐しているプラスチック製のY字型迷路(有限会社ユニコム)を用いた。
評価前に、装置の床面の照度が10~40ルクスになるように調節した。評価は、試験溶液の投与後30分後に実施した。マウスをY字型迷路のいずれかのアームに置き、8分間迷路内を自由に探索させた。マウスが測定時間内に移動したアームの順番を記録し、アームに移動した回数を数え、これを総エントリー数とした。次に、この中で連続して異なる3つのアームを選択した組み合わせを調べ、この数を自発的交替行動数とした。そして、以下の式を用いて自発的交替行動率を算出した。
自発的交替行動率(%)=[自発的交替行動数/(総エントリー数-2)]×100
【0038】
各群のマウスについてY字型迷路試験を行い、総エントリー数、自発的交替行動数、自発的交替行動率の平均値及び標準誤差を算出した。なお、有意差検定は、偽手術群と媒体対照群、及び、媒体対照群とp-クマル酸投与群との2群間で比較した。2群間比較検定はF検定による等分散性の検定を行い、等分散の場合はStudentのt検定、不等分散の場合はAspin-Welch検定を行った。有意水準は危険率1%とした。有意差検定には、市販の統計プログラム(SASシステム、SAS Institute Japan株式会社)を使用した。結果を表1及び図1に示す。表1及び図1に示すように、自発的交替行動率について、偽手術群に比べて媒体対照群が低い値となり、有意差が認められた(p<0.01)。また、媒体対照群に比べてp-クマル酸投与群の自発的交替行動率が高い値となり、有意差が認められた(p<0.01)。
【0039】
【表1】

図1