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  • 特許-車両の制御装置および制御方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-22
(45)【発行日】2022-12-01
(54)【発明の名称】車両の制御装置および制御方法
(51)【国際特許分類】
   B60W 10/00 20060101AFI20221124BHJP
   B60W 10/06 20060101ALI20221124BHJP
   B60W 10/02 20060101ALI20221124BHJP
   B60W 10/101 20120101ALI20221124BHJP
   B60W 30/18 20120101ALI20221124BHJP
   F16H 61/02 20060101ALI20221124BHJP
   F16H 59/46 20060101ALI20221124BHJP
   F16H 61/66 20060101ALI20221124BHJP
   F16D 48/02 20060101ALI20221124BHJP
   F02D 29/00 20060101ALI20221124BHJP
【FI】
B60W10/00 148
B60W10/06
B60W10/02
B60W10/101
B60W30/18
F16H61/02
F16H59/46
F16H61/66
F16D48/02 640W
F02D29/00 C
F02D29/00 G
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018127226
(22)【出願日】2018-07-04
(65)【公開番号】P2020006737
(43)【公開日】2020-01-16
【審査請求日】2021-06-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】110000419
【氏名又は名称】弁理士法人太田特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100100103
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 明男
(74)【代理人】
【識別番号】100173163
【弁理士】
【氏名又は名称】石塚 信洋
(74)【代理人】
【識別番号】100134522
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 朝子
(74)【代理人】
【識別番号】100135024
【弁理士】
【氏名又は名称】本山 敢
(72)【発明者】
【氏名】平尾 公一
【審査官】藤村 泰智
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-094377(JP,A)
【文献】国際公開第2015/118895(WO,A1)
【文献】特開2011-213265(JP,A)
【文献】特開2001-330139(JP,A)
【文献】特開2006-347431(JP,A)
【文献】特開2017-007369(JP,A)
【文献】特開2000-324610(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 10/00 ~ 10/115
B60W 30/18 ~ 30/20
F16H 59/00 ~ 59/78
F16H 61/00 ~ 61/70
F16D 48/00 ~ 48/02
F02D 29/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関と車輪の間に設けられた無段変速機構と、
前記内燃機関と前記無段変速機構の間に設けられたクラッチと
を有する車両を制御するための装置であって、
車両の走行中、開放状態にある前記クラッチを、前記内燃機関の回転数を上昇させてから締結させるとき、前記クラッチの内燃機関側要素の回転数と無段変速機構側要素の回転数との差の変化速度が所定の範囲内となるように、前記無段変速機構の変速比を制御するように構成され、
前記内燃機関の回転数を上昇させ始めた後、前記クラッチを締結させる前の第1時刻で、前記差の変化速度が第1所定値より大きいとき、前記無段変速機構の変速比を前記第1時刻より前の変速比よりも大きくする
車両の制御装置。
【請求項2】
前記無段変速機構の変速比を前記第1時刻より前の変速比よりも大きくする際、変速比が所定値より大きくならないように、変速比の上限を設定している、
請求項に記載の車両の制御装置。
【請求項3】
内燃機関と車輪の間に設けられた無段変速機構と、
前記内燃機関と前記無段変速機構の間に設けられたクラッチと
を有する車両を制御するための装置であって、
車両の走行中、開放状態にある前記クラッチを、前記内燃機関の回転数を上昇させてから締結させるとき、前記クラッチの内燃機関側要素の回転数と無段変速機構側要素の回転数との差の変化速度が所定の範囲内となるように、前記無段変速機構の変速比を制御するように構成され、
前記内燃機関の回転数を上昇させ始めた後、前記クラッチを締結させる前の第2時刻で、前記差の変化速度が第2所定値より小さいとき、前記無段変速機構の変速比を前記第2時刻より前の変速比よりも小さくする、
両の制御装置。
【請求項4】
前記クラッチは、油圧により前記内燃機関側要素と前記無段変速機構側要素が互いに押し付けられることで締結容量を発生するように構成されている、
請求項1~のいずれか1項に記載の車両の制御装置。
【請求項5】
内燃機関と車輪の間に設けられた無段変速機構と、
前記内燃機関と前記無段変速機構の間に設けられたクラッチと
を有する車両を制御装置が制御する方法であって、
車両の走行中、開放状態にある前記クラッチを、前記内燃機関の回転数を上昇させてから締結させるとき、前記クラッチの内燃機関側要素の回転数と無段変速機構側要素の回転数との差の変化速度が所定の範囲内となるように、前記無段変速機構の変速比を制御し、
前記内燃機関の回転数を上昇させ始めた後、前記クラッチを締結させる前の第1時刻で、前記差の変化速度が第1所定値より大きいとき、前記無段変速機構の変速比を前記第1時刻より前の変速比よりも大きくする
車両の制御方法。
【請求項6】
内燃機関と車輪の間に設けられた無段変速機構と、
前記内燃機関と前記無段変速機構の間に設けられたクラッチと
を有する車両を制御装置が制御する方法であって、
車両の走行中、開放状態にある前記クラッチを、前記内燃機関の回転数を上昇させてから締結させるとき、前記クラッチの内燃機関側要素の回転数と無段変速機構側要素の回転数との差の変化速度が所定の範囲内となるように、前記無段変速機構の変速比を制御し、
前記内燃機関の回転数を上昇させ始めた後、前記クラッチを締結させる前の第2時刻で、前記差の変化速度が第2所定値より小さいとき、前記無段変速機構の変速比を前記第2時刻より前の変速比よりも小さくする、
車両の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の制御装置および制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、内燃機関(以下、エンジンという。)と駆動輪の間にクラッチが設けられた車両の制御装置であって、車両の走行中、開放状態にあるクラッチを再締結させるものが知られている。例えば特許文献1に記載の制御装置は、走行中にクラッチを再締結させるとき、クラッチ入力側のエンジン回転速度をクラッチ出力側回転速度に同期させてから締結させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2005-351458号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記特許文献1に記載の制御装置は、エンジン回転速度をクラッチ出力側回転速度に同期させるために、目標エンジントルクを算出してエンジントルクを制御し、目標エンジントルクに応じてクラッチ締結圧を設定する、という構成であるため、クラッチの締結ショックまたは締結遅れが発生するおそれがあった。
【0005】
そこで、本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的とするところは、クラッチの締結ショックまたは締結遅れを抑制することが可能な、新規かつ改良された車両の制御装置および制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明のある観点によれば、内燃機関と車輪の間に設けられた無段変速機構と、内燃機関と無段変速機構の間に設けられたクラッチとを有する車両を制御するための装置であって、車両の走行中、開放状態にあるクラッチを、内燃機関の回転数を上昇させてから締結させるとき、クラッチの内燃機関側要素の回転数と無段変速機構側要素の回転数との差の変化速度が所定の範囲内となるように、無段変速機構の変速比を制御するように構成され、内燃機関の回転数を上昇させ始めた後、クラッチを締結させる前の第1時刻で、差の変化速度が第1所定値より大きいとき、無段変速機構の変速比を第1時刻より前の変速比よりも大きくする、車両の制御装置が提供される。
【0008】
車両の制御装置は、無段変速機構の変速比を第1時刻より前の変速比よりも大きくする際、変速比が所定値を超えて大きくならないように、変速比の上限を設定していてもよい。
【0009】
また、上記課題を解決するために、本発明の別の観点によれば、内燃機関と車輪の間に設けられた無段変速機構と、内燃機関と無段変速機構の間に設けられたクラッチとを有する車両を制御するための装置であって、車両の走行中、開放状態にあるクラッチを、内燃機関の回転数を上昇させてから締結させるとき、クラッチの内燃機関側要素の回転数と無段変速機構側要素の回転数との差の変化速度が所定の範囲内となるように、無段変速機構の変速比を制御するように構成され、内燃機関の回転数を上昇させ始めた後、クラッチを締結させる前の第2時刻で、差の変化速度が第2所定値より小さいとき、無段変速機構の変速比を第2時刻より前の変速比よりも小さくする、車両の制御装置が提供される。
【0010】
クラッチは、油圧により内燃機関側要素と無段変速機構側要素が互いに押し付けられることで締結容量を発生するように構成されてもよい。
【0011】
また、本発明の別の観点によれば、内燃機関と車輪の間に設けられた無段変速機構と、内燃機関と無段変速機構の間に設けられたクラッチとを有する車両を制御装置が制御する方法であって、車両の走行中、開放状態にあるクラッチを、内燃機関の回転数を上昇させてから締結させるとき、クラッチの内燃機関側要素の回転数と無段変速機構側要素の回転数との差の変化速度が所定の範囲内となるように、無段変速機構の変速比を制御し、内燃機関の回転数を上昇させ始めた後、クラッチを締結させる前の第1時刻で、差の変化速度が第1所定値より大きいとき、無段変速機構の変速比を第1時刻より前の変速比よりも大きくする、車両の制御方法が提供される。
また、本発明の別の観点によれば、内燃機関と車輪の間に設けられた無段変速機構と、内燃機関と無段変速機構の間に設けられたクラッチとを有する車両を制御装置が制御する方法であって、車両の走行中、開放状態にあるクラッチを、内燃機関の回転数を上昇させてから締結させるとき、クラッチの内燃機関側要素の回転数と無段変速機構側要素の回転数との差の変化速度が所定の範囲内となるように、無段変速機構の変速比を制御し、内燃機関の回転数を上昇させ始めた後、クラッチを締結させる前の第2時刻で、差の変化速度が第2所定値より小さいとき、無段変速機構の変速比を第2時刻より前の変速比よりも小さくする、車両の制御方法が提供される。
【発明の効果】
【0012】
以上説明したように、本発明によれば、クラッチの締結ショックまたは締結遅れを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の実施の形態に係る自動変速機の構成例を示す説明図である。
図2】同実施形態に係る車両の制御装置による変速比制御の流れを示すフローチャートである。
図3】同実施形態に係るクラッチ再締結制御時のタイムチャートであって、タービン回転数の変化率が所定範囲内にある場合の推移を例示する。
図4】同実施形態に係るクラッチ再締結制御時のタイムチャートであって、タービン回転数の変化率が所定範囲を上回る場合の推移を例示する。
図5】同実施形態に係るクラッチ再締結制御時のタイムチャートであって、タービン回転数の変化率が所定範囲を下回る場合の推移を例示する。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0015】
[構成]
まず、実施形態に係る車両の制御装置の構成例について説明する。本実施形態の制御装置は、車両の駆動システムに適用される。本実施形態の車両の駆動システムは、内燃機関としてのエンジンと、エンジンと車輪との間の動力伝達経路に設けられた自動変速機とを有する。なお、車両は、駆動力源としてエンジンのほかに電動機を備えたハイブリッド電気自動車等であってもよい。図1は、自動変速機の構成例を示すスケルトン図である。自動変速機100は、トルクコンバータ110と、前後進切替機構140と、無段変速機構としてのCVT190と、トランスファクラッチ160とを備え、エンジン10の出力側に接続されている。
【0016】
エンジン10とCVT190との間の動力伝達経路には、トルクコンバータ110と前後進切替機構140とが設けられている。エンジン10からの出力トルクは、トルクコンバータ110および前後進切替機構140を介してCVT190に伝達される。トルクコンバータ110を介して前後進切替機構140に伝達されるエンジン10の回転は、回転方向を前進方向または後退方向に切り替えられてCVT190の第1のプーリ軸127に伝達される。CVT190に伝達された回転は、所望の変速比で変換されて出力され、ギヤ列90および前輪出力軸181を介して前輪40に伝達されるとともに、ギヤ列150、トランスファクラッチ160および後輪出力軸31を介して後輪30に伝達される。トランスファクラッチ160は、後輪出力軸31への駆動トルクの伝達の可否を切り替える。
【0017】
具体的には、トルクコンバータ110は、エンジン10のクランク軸11にフロントカバー113を介して連結されるポンプインペラ112と、ポンプインペラ112に対向するとともにタービン軸114に連結されるタービンランナ111とを備える。トルクコンバータ110の内部には作動油が供給されており、作動油を介して、ポンプインペラ112からタービンランナ111にエンジン10からの出力トルクが伝達される。また、トルクコンバータ110の内部には、エンジン10のクランク軸11とタービン軸114とを直結するためのロックアップクラッチ115が設けられている。
【0018】
前後進切替機構140は、トルクコンバータ110とCVT190との間の動力伝達経路に設けられており、プラネタリギヤ141と、前進クラッチ143と、後退ブレーキ145とを備える。前進クラッチ143および後退ブレーキ145を制御することにより、第1のプーリ軸127の回転方向が切り替え可能になっている。前進クラッチ143は、エンジン10の側の要素である複数の摩擦板と、CVT190の側の要素である複数の摩擦板とが、作動油中にあって、油圧室内に供給される油圧により互いに押し付けられることで締結容量を発生する、いわゆる湿式の多板クラッチである。後退ブレーキ145は湿式の多板ブレーキである。なお、前進クラッチ143または後退ブレーキ145は、乾式または単板の締結要素であってもよいし、摩擦によらず噛合い構造により断続を行う構造であってもよいし、油圧に限らず電磁力等により作動する構造であってもよい。
【0019】
前進クラッチ143が締結され後退ブレーキ145が開放されることにより、タービン軸114が第1のプーリ軸127に対して直結されるため、第1のプーリ軸127が正転方向に回転し、車両の前進走行が可能となる。また、前進クラッチ143が開放され後退ブレーキ145が締結されることにより、タービン軸114がプラネタリギヤ141を介して第1のプーリ軸127に連結されるため、第1のプーリ軸127が逆転方向に回転し、車両の後退走行が可能となる。前進クラッチ143および後退ブレーキ145がともに開放されることにより、前後進切替機構140は、第1のプーリ軸127にエンジン10からの出力トルクを伝達しないニュートラル状態になる。
【0020】
CVT190は、プライマリプーリ120と、セカンダリプーリ130と、プライマリプーリ120とセカンダリプーリ130との間でトルクを伝達する動力伝達部材としての駆動ベルト129とを備える。なお、駆動ベルト129は、チェーン式であってもよいし、リング・エレメント式等であってもよい。プライマリプーリ120は、第1のプーリ軸(プライマリ軸)127に一体に設けられた固定シーブ121と、第1のプーリ軸127の軸方向に沿って進退可能な可動シーブ123とを有する。プライマリプーリ120には第1の油圧室125が設けられており、第1の油圧室125の内部の油圧を調整することによって可動シーブ123の位置が軸方向に沿って変化し、プライマリプーリ120の溝幅が変化する。
【0021】
また、セカンダリプーリ130は、第2のプーリ軸(セカンダリ軸)137に一体に設けられた固定シーブ131と、第2のプーリ軸137の軸方向に沿って進退可能な可動シーブ133とを有する。セカンダリプーリ130には第2の油圧室135が設けられており、第2の油圧室135の内部の油圧を調整することによって可動シーブ133の位置が変化し、セカンダリプーリ130の溝幅が変化する。駆動ベルト129は、プライマリプーリ120およびセカンダリプーリ130に巻き掛けられている。プライマリプーリ120およびセカンダリプーリ130それぞれの溝幅を変化させて駆動ベルト129の巻き掛け径を変化させることによって、第1のプーリ軸127から第2のプーリ軸137に対して伝達される回転の無段変速が可能となっている。
【0022】
第2のプーリ軸137にはギヤ列90を介して前輪出力軸181が連結されている。前輪出力軸181の端部(図中の左端)には、フロントデファレンシャル機構180を介して前輪(車輪)40が連結されている。また、前輪出力軸181には、ギヤ列150およびトランスファクラッチ160を介して後輪出力軸31が連結されている。トランスファクラッチ160は、後輪出力軸31への駆動トルクの伝達の可否を切り替える。後輪出力軸31には、図示しないプロペラシャフトやリヤデファレンシャル機構を介して後輪(車輪)30が連結されている。
【0023】
トルクコンバータ110、前進クラッチ143、後退ブレーキ145、第1の油圧室125、第2の油圧室135、およびトランスファクラッチ160には、オイルポンプ170の駆動により生成される油圧が供給される。オイルポンプ170は、モータ(回転電機)により駆動される電動式のポンプである。なお、オイルポンプ170は、前後進切替機構140に対し駆動輪側の軸に連結された機械式のポンプであって、当該軸のトルクを利用して駆動されるものであってもよい。オイルポンプ170により圧送される作動油は、バルブユニット172を介して各作動部へと供給される。バルブユニット172には、電磁弁等の制御弁が備えられ、各作動部の作動状態に応じて、各作動部へと供給される作動油の量が制御される。
【0024】
制御装置は、エンジンコントロールユニット(ECU)20およびトランスミッションコントロールユニット(TCU)21を備える。ECU20およびTCU21の一部又は全部は、例えばマイクロコンピュータ又はマイクロプロセッサユニット等で構成されていてもよい。マイクロコンピュータ等は、各種演算処理を実行する中央処理ユニット(CPU)、各種制御プログラムを格納するリードオンリメモリ(ROM)、データ格納やプログラム実行のためのワークエリアとして利用されるランダムアクセスメモリ(RAM)、および入出力インターフェース(I/O)を有し、これらが双方向性のコモンバスにより互いに接続された一般的な構成であってよい。また、ECU20およびTCU21の一部又は全部は、ファームウェア等の更新可能なもので構成されていてもよく、CPU等からの指令によって実行されるプログラムモジュール等であってもよい。ECU20は、通信線を介して、アクセルペダル操作量を検出するアクセル開度センサ、およびエンジン10のクランク軸11の回転数を検出するエンジン回転数センサに接続されている。また、ECU20は、CAN(Controller Area Network)等の通信線を介して双方向の通信が可能なように、TCU21に接続されている。ECU20は、これらのセンサまたはTCU21から入力される信号に基づき、エンジン10の運転状態を制御する。
【0025】
TCU21は、通信線を介して、タービン軸114の回転数(タービン回転数Nt)を検出するタービン軸センサ22、および第1のプーリ軸127の回転数(プライマリプーリ回転数Np)を検出するプライマリ軸センサ23に接続されている。タービン回転数Ntは、前進クラッチ143のエンジン側要素の回転数に相当する。プライマリプーリ回転数Npは、前進クラッチ143のCVT側要素の回転数に相当する。なお、TCU21は、例えば前輪40の回転数センサから入力される信号と、ギヤ列90のギヤ比およびCVT190の変速比とに基づき、プライマリプーリ回転数Npを推定してもよい。TCU21は、これらのセンサまたはECU20から入力される信号に基づき、オイルポンプ170、およびバルブユニット172に備えられた各制御弁を制御することで、自動変速機100の作動状態を制御することが可能であり、また、ECU20に信号を出力することで、エンジン10の運転状態を制御することが可能である。
【0026】
ECU20またはTCU21は、コースティング制御を実行可能に構成されている。ここでコースティング制御とは、車両が所定の速度領域で走行中、運転者によりアクセルペダルが踏まれていないとき、前進クラッチ143を開放してエンジン10とCVT190との間を切り離すとともに、エンジン10を停止状態またはアイドリング状態として、車両を惰性走行させることで、燃費の向上を図る制御である。TCU21は、例えばコースティング制御の終了時に、前進クラッチ143を開放状態から再締結させる制御を実行する。このクラッチ再締結制御を実行するために機能する各部として、TCU21は、ブリッピング制御部、クラッチ油圧制御部、および変速比制御部を有する。
【0027】
ブリッピング制御部は、コースティング制御を終了する旨の信号が入力されると、ブリッピング制御を実行する。すなわち、ECU20に指令を出力し、エンジン10の回転数(タービン回転数Nt)をプライマリプーリ回転数Npに向けて上昇させる。エンジン10が停止状態にある場合は、エンジン10を始動させてタービン回転数Ntを上昇させる。例えば、Ntが上昇を開始してから所定の時間T0の間にNpに達することが可能なNtの時間変化率ΔNt(>0)である基準変化率ΔNt*(>0)を、エンジン10の状態を示すパラメータ(エンジン水温等)に基づき設定する。以下で現れる所定値A~Dは正値である。
【0028】
コースティング制御中は、車速の変化が少ないため、プライマリプーリ回転数Npが略一定であるとみなすと、NpとNtとの回転数差|Np-Nt|の時間変化率(変化速度)ΔNp-tは、タービン回転数Ntの時間変化率ΔNtに相当する。よって、例えばNtがNpと一致する時刻またはその近傍の時刻で、ΔNtが、基準変化率ΔNt*を含む所定の範囲(ΔNt*±A)の外にある場合、すなわちΔNtが(ΔNt*+A)を上回っている場合、またはΔNtが(ΔNt*-A)を下回っている場合、ΔNp-tが所定の範囲外となる。このとき、前進クラッチ143の締結のショックまたは遅れ(間延び感)の発生が想定される。ΔNp-tの上記所定の範囲は、所定の上限値(ΔNp-t)maxと下限値(ΔNp-t)minとにより挟まれる範囲であり、上記締結ショック等が許容範囲内となるように予め設定されうる。よって、ブリッピング制御部は、ΔNtが(ΔNt*±A)の内に収まるように、ECU20にエンジン10のトルクを制御させる。ここで、(ΔNt*±A)のうち、ΔNt*に対しΔNtの増加側の幅Aと、減少側の幅Aとが、互いに異なっていてもよい。ECU20は、ΔNtが(ΔNt*±A)の内に収まるよう、検出されたNtに基づきエンジントルクを制御してもよい。ブリッピング制御中、トルクコンバータ110のロックアップクラッチ115は開放状態であっても締結状態であってもよい。
【0029】
クラッチ油圧制御部は、例えば回転数差|Np-Nt|がB以下であるとき、前進クラッチ143の油圧室内に供給する油圧(クラッチ油圧)Pcを制御することで、前進クラッチ143を(再)締結させる。例えば、|Np-Nt|がB以下になると、Pcを徐々に上昇させ、前進クラッチ143の締結容量を徐々に増大させる。なお、Ntが上昇を開始してから|Np-Nt|がB以下になるまでの間の所定時間に、前進クラッチ143の押圧部材(移動部材としてのピストン)と摩擦板との間の隙間を小さくするためのスタンバイ油圧Pcを与えてもよい。|Np-Nt|が十分に小さいC(<B)以下になると、Pcを一気に上昇させ、前進クラッチ143を完全締結させる。Cは、この完全締結により生じうるショックが許容範囲内となるような値に予め設定されうる。なお、ブリッピング制御部は、|Np-Nt|がB以下になり、クラッチ油圧制御部による制御が開始されると、ブリッピング制御を終了または停止してもよい。言い換えると、|Np-Nt|がB以下になると、主にエンジントルクではなく、主に前進クラッチ143の締結トルクにより、Ntを上昇させるようにしてもよい。
【0030】
また、クラッチ油圧制御部は、少なくとも回転数差|Np-Nt|がC以下になるまでの間に、タービン回転数Ntの時間変化率ΔNtが所定範囲(ΔNt*±A)の外になると、|Np-Nt|の時間変化率ΔNp-tが所定範囲内となるように、クラッチ油圧Pcを制御してもよい。具体的には、クラッチ油圧制御部は、ΔNtが上限値(ΔNt*+A)を上回ると、Pcの時間変化率(上昇勾配)ΔPcを小さくすることにより、少なくとも|Np-Nt|がC以下になる時刻でのΔNp-tが上限値(ΔNp-t)max以下となることを図ってもよい。または、クラッチ油圧制御部は、ΔNtがΔNt*-Aを下回ると、ΔPcを大きくすることにより、少なくとも|Np-Nt|がC以下になる時刻でのΔNp-tが下限値(ΔNp-t)min以上となることを図ってもよい。なお、クラッチ再締結制御におけるクラッチ油圧制御は、ブリッピング制御に連動して、すなわちエンジン回転数の上昇に連動して前進クラッチ143の締結容量を発生させるものであればよく、上記に限らない。例えばエンジントルクまたはエンジン回転数に応じた勾配でPcを上昇させてもよい。
【0031】
変速比制御部は、タービン回転数Ntが上昇を開始してから、Ntの時間変化率ΔNtが所定範囲(ΔNt*±A)の外になると、CVT190の変速比を制御する。これにより、少なくとも回転数差|Np-Nt|がC以下になるまでに、すなわち前進クラッチ143を完全締結させるまでに、|Np-Nt|の時間変化率ΔNp-tが所定範囲内となるようにする。具体的には、変速比制御部は、ブリッピング制御部がNtを上昇させ始めた後、|Np-Nt|がC以下になる前の所定の時刻で、ΔNtが上限値(ΔNt*+A)を上回ると、上記時刻の前よりも変速比を大きくする。すなわちロー側に変化させる。これにより、少なくとも|Np-Nt|がC以下になる時刻でのΔNp-tが上限値(ΔNp-t)max以下となるように、変速比を制御する。または、変速比制御部は、ブリッピング制御部がNtを上昇させ始めた後、|Np-Nt|がC以下になる前の所定の時刻で、ΔNtが下限値(ΔNt*-A)を下回ると、上記時刻の前よりも変速比を小さくする。すなわちハイ側に変化させる。これにより、少なくとも|Np-Nt|がC以下になる時刻でのΔNp-tが下限値(ΔNp-t)min以上となるように、変速比を制御する。言い換えると、変速比制御部は、ΔNtが所定範囲(ΔNt*±A)の外にあるとき、変速比を変化させない。ΔNtの上記範囲(ΔNt*±A)は、変速比制御の不感帯として機能する。
【0032】
変速比制御部は、上記のように変速比を制御する際、検出されたプライマリプーリ回転数Npまたは車輪速もしくは車速、および検出されたタービン回転数Ntの時間変化率ΔNtの基準変化率ΔNt*からの偏差(ΔNt-ΔNt*)に基づき、変速比の時間変化率を制御してもよい。この場合、例えばΔNtの上記偏差およびNpをパラメータとするマップを参照して、変速比の時間変化率を設定してもよい。また、変速比制御部は、ΔNtが所定範囲(ΔNt*±A)の外であるか否か、すなわち変速比の上記制御を実行するか否かを、NpとNtの同期(前進クラッチ143の締結)が完了する前の任意の時刻で判定してよい。また、ΔNtが(ΔNt*±A)の外にあるか否かを判定する代わりに、|Np-Nt|の時間変化率ΔNp-tが所定範囲((ΔNp-t)maxと(ΔNp-t)minとの間)の外にあるか否かを直接的に判定してもよい。さらに、変速比制御部は、(ΔNp-t)maxまたは(ΔNp-t)minに代えて、任意の閾値を、制御実行の開始判定に用いてもよい。
【0033】
図2は、変速比制御部が実行する処理の流れの一例を示す。この流れは所定の周期で繰り返し実行される。ステップS1で、ブリッピング制御が開始されてから所定時間が経過したか否かを判定する。所定時間が経過していればステップS2へ進み、経過していなければ今回の周期を終了する。上記所定時間は、Ntがブリッピング制御により上昇し始めてから、(Np-C)に達する前の時間であって、例えば(Np-B)に達する前の時間に予め設定される。ステップS2では、ΔNtのΔNt*からの偏差の大きさ|ΔNt-ΔNt*|がAより大きいか否かを判定する。|ΔNt-ΔNt*|がAより大きければ、ΔNtが所定範囲(ΔNt*±A)の外であると判定し、ステップS3へ進む。|ΔNt-ΔNt*|がA以下であれば、ΔNtが(ΔNt*±A)の内であると判定し、ステップS6へ進む。ステップS3では、ΔNtがΔNt*より大きいか否かを判定する。ΔNtがΔNt*より大きければ、ΔNtが(ΔNt*+A)を上回ったと判定し、ステップS4へ進む。ΔNtがΔNt*以下であれば、ΔNtが(ΔNt*-A)を下回ったと判定し、ステップS5へ進む。
【0034】
ステップS4では、それ以前よりも大きな変速比を設定し、この変速比を実現するようにCVT190を制御する。その後、ステップS7へ進む。なお、変速比制御部は、ステップS4で、変速比が所定の値を超えて大きくならないように、変速比の上限を設定してもよい。または、変速比の変化率が所定の値を超えて大きくならないように、変速比の変化率の上限を設定してもよい。ステップS5では、それ以前よりも小さな変速比を設定し、この変速比を実現するようにCVT190を制御する。その後、ステップS7へ進む。ステップS6では、それ以前と同じ変速比を設定し、この変速比を実現するようにCVT190を制御する。その後、ステップS7へ進む。ステップS7では、回転数差|Np-Nt|がD(<B)以下であるか否かを判定する。|Np-Nt|がD以下であればステップS8へ進み、Dより大きければステップS7を繰り返す。すなわち|Np-Nt|がD以下となるまで待機する。Dは、|Np-Nt|が十分に小さく、NpとNtの同期が完了したと判定できるような値に予め設定されうる。例えばDはゼロであってもよい。ステップS8では、CVT190の通常の変速制御に復帰し、今回の周期を終了する。
【0035】
[作用効果]
次に、作用効果について説明する。図3は、TCU21によるクラッチ再締結制御時におけるプライマリプーリ回転数Np、タービン回転数Nt、およびクラッチ油圧Pcの指令値Pc*の時間変化を示すタイムチャートである。Ntが基準変化率(勾配)ΔNt*で上昇する例を、実線で示す。図3において、実線のNtを上下で挟む2つの破線が、Ntの時間変化率ΔNtに関する上記所定範囲(ΔNt*±A)の上限と下限に相当する。この例では、時刻t1からt2まで、ブリッピング制御部が、NtをΔNt*で上昇させる。t1より前にエンジン10が停止状態であればNtはゼロから上昇し、t1より前にエンジン10がアイドリング状態であればNtはアイドリング回転数から上昇する。また、t1からt2まで、クラッチ油圧制御部がスタンバイ油圧Pcを発生させる。
【0036】
時刻t2で、回転数差|Np-Nt|がB以下となる。時刻t2からt3まで、クラッチ油圧制御部が、指令油圧Pc*を徐々に上昇させる。これにより前進クラッチ143の締結容量が徐々に増大する。車輪40,30の側から前進クラッチ143を介して伝達されるトルクがエンジントルクに加わり、タービン軸114が回転されることで、Ntが上昇を続ける。時刻t3で、|Np-Nt|がC以下となるため、クラッチ油圧制御部が、Pc*を急上昇させる。これにより|Np-Nt|がゼロに近づく。時刻t4で、|Np-Nt|がゼロまたはその近傍となり、前進クラッチ143が完全締結する。以上の例では、ΔNtの偏差の大きさ|ΔNt-ΔNt*|が常にA以下であるため、図2でステップS1→S2→S6~S8の流れとなり、クラッチ再締結制御中、変速比制御部は変速比を維持する。t4で、|Np-Nt|がD以下であると判定し、通常の変速制御に復帰する。
【0037】
(比較例)
以下、クラッチ再締結制御を実行するための各部として、TCU21が、ブリッピング制御部およびクラッチ油圧制御部のみを有し、変速比制御部を有しない比較例を想定する。この比較例では、ブリッピング量(タービン回転数Nt)のバラツキや、前進クラッチ143の実油圧Pcの挙動のバラツキ等により、締結ショック等が発生するおそれが高い。
【0038】
具体的には、機械的または制御的なバラツキ等により、ブリッピング制御によるタービン回転数Ntの上昇勾配ΔNtが、上限値(ΔNt*+A)を上回ったり、下限値(ΔNt*-A)を下回ったりするおそれがある。例えば、図3において一点鎖線で示すように、ブリッピング制御部がNtを上昇させ始めた後、回転数差|Np-Nt|がC以下になる(前進クラッチ143を完全締結させる)前の時刻で、ΔNtが(ΔNt*+A)を上回る場合がある。この場合、|Np-Nt|がC以下になる時刻での|Np-Nt|の時間変化率ΔNp-tが、締結ショックを発生する程に大きくなるおそれがある。または、図3において二点鎖線で示すように、ブリッピング制御部がNtを上昇させ始めた後、|Np-Nt|がC以下になる前の時刻で、ΔNtが(ΔNt*-A)を下回る場合がある。この場合、ΔNp-tが小さくなって、|Np-Nt|がC以下になる時刻が、締結遅れおよびそれによる間延び感を発生する程に遅れるおそれがある。これらΔNp-tの大小バラツキは、車両の状態のバラツキによって、例えば下り坂による加速または登り坂による減速によって、助長されうる。
【0039】
ブリッピング量(タービン回転数Nt)のバラツキによる影響を、前進クラッチ143の締結容量(クラッチ油圧Pc)の制御によって抑制することは難しいことを、本出願人は見出した。例えば、図3の一点鎖線の例において、回転数差|Np-Nt|がC以下になった後、Pcの上昇が緩やかになるようPcの勾配ΔPcを制御することで、前進クラッチ143の締結ショックを発生しない程度の大きさに|Np-Nt|の時間変化率ΔNp-tを抑えることも考えられる。しかし、Ntの時間変化率ΔNtが想定よりも大きければ、ΔPcを小さくしても、いわばΔPcの減少がNtの上昇に間に合わない。よって、NtがNpと一致する時刻またはその近傍の時刻でのΔNp-tを、締結ショックが発生しない程度に抑えることができない。また、ΔNp-tが大きい、言い換えると前進クラッチ143の要素間の回転数変化が大きいことに伴い、イナーシャトルクも大きい。これを考慮すると、Pcの上昇速度抑制により、締結ショックを発生させずにクラッチ締結を実現することには、限界がある。以上のことは、|Np-Nt|がC以下になる前にΔPcを制御したとしても、同様に言えることである。
【0040】
また、図3の二点鎖線の例において、クラッチ油圧Pcの上昇が急になるようPcの勾配ΔPcを制御することで、タービン回転数Ntの上昇を促進し、前進クラッチ143の締結遅れを発生しない程度の大きさに|Np-Nt|の時間変化率ΔNp-tを増大させることも考えられる。しかし、機械的または制御的なバラツキ等により、前進クラッチ143の締結容量(Pc)の変化がばらつくと、締結ショックが生じたり、締結遅れを抑制できなかったりするおそれがある。特に、本実施形態のように前進クラッチ143が油圧Pcにより作動するクラッチであったり、さらに湿式であったりする場合、制御により実現される締結容量が目標に対してばらつくおそれが高い。言い換えると、細かい制御が困難である。このため、上記のような締結ショックが生じたり、締結遅れを抑制できなかったりするおそれが高くなる。
【0041】
これに対し、本実施形態では、変速比制御部が、CVT190の変速比を制御することで、|Np-Nt|の時間変化率ΔNp-tを変化させることができる。CVT190はプライマリプーリ回転数Npを自在に連続的に変化させることが可能であるため、ΔNp-tをより直接的に細かく制御することができる。ブリッピング制御によるタービン回転数Ntの上昇勾配ΔNtが、上限値(ΔNt*+A)上回ったり、下限値(ΔNt*-A)を下回ったりする場合でも、CVT190の上記特性を活かしてΔNp-tを制御することで、前進クラッチ143の締結ショックまたは締結遅れの発生を抑制することができる。よって、例えば、クラッチ油圧制御部がΔNp-tを所定範囲内に収めるように油圧Pcをさせるといった制御を、省略可能となる。または、クラッチ油圧制御の上記欠点をカバーして、締結ショック等をより効果的に抑制することができる。
【0042】
図4および図5は、図3と同様のタイムチャートであり、タービン回転数Ntの時間変化率ΔNtが所定範囲(ΔNt*±A)の外となる例を示す。図4は、Ntが上限値(ΔNt*+A)を上回る例を示し、図4は、Ntが下限値(ΔNt*-A)を下回る例を示す。
【0043】
図4に示すように、変速比制御部は、回転数差|Np-Nt|がBに達する前の時刻t11で、タービン回転数Ntの時間変化率ΔNtが上限値(ΔNt*+A)を上回った、言い換えると|Np-Nt|の時間変化率ΔNp-tが上限値(ΔNp-t)maxを上回ったと判定する。よって、t11以後、変速比を所定の時間変化率で大きくする(図2のステップS1→S2→S3→S4)。時刻t41で、プライマリプーリ回転数NpとNtの同期が完了したと判定する。よって、t41以後、通常の変速制御を実行する(ステップS7→S8)。このように、Ntの急上昇に合わせて変速比を大きくし、Npを上昇させることで、時刻t41、すなわちNtがNpと一致する時刻またはその近傍の時刻でのΔNp-tが、締結ショックを発生しない程度の大きさに抑制される(ΔNp-t<E。Eは、変速比を大きくしなかった場合においてNtがNpと一致する時刻またはその近傍の時刻のΔNp-t)。言い換えると、クラッチ油圧Pcの上昇勾配ΔPcを小さくした場合と同様な効果が得られる。しかし、Pcを制御する場合と異なり、ΔNp-tを、締結ショックが発生しない程度に抑えることが容易である。なお、Np、およびΔNtの偏差(ΔNt-ΔNt*)に基づき、変速比の時間変化率を制御することで、より正確に、時刻t41でのΔNp-tを制御できる。ここで、Npおよび(ΔNt-ΔNt*)として、時刻t11において検出した値に限らず、t11以後の任意の時刻において検出した値を用いてもよい。
【0044】
図5に示すように、回転数差|Np-Nt|がBに達する前の時刻t12で、タービン回転数Ntの時間変化率ΔNtが下限値(ΔNt*-A)を下回った、言い換えると|Np-Nt|の時間変化率ΔNp-tが下限値(ΔNp-t)minを下回ったと判定する。よって、t12以後、変速比を所定の時間変化率で小さくする(図2のステップS1→S2→S3→S5)。時刻t42で、プライマリプーリ回転数NpとNtの同期が完了したと判定する。よって、t42以後、通常の変速制御を実行する(ステップS7→S8)。このように、Ntの上昇勾配ΔNtが小さい場合、変速比を小さくすることで、Npを下降させ、いわばNtを迎えに行かせる。これにより、時刻t42、すなわちNtがNpと一致する時刻またはその近傍の時刻が、締結遅れを発生しない程度に早まる。t42は、時刻t43、すなわち変速比を小さくしなかった場合においてNtがNpと一致する時刻またはその近傍の時刻よりも、早い。言い換えると、クラッチ油圧Pcの上昇勾配ΔPcを大きくした場合と同様な効果が得られる。しかし、Pcを制御する場合と異なり、Pcの増大分を小さくして抑えることができるため、締結ショックを低減することが容易である。また、バラツキ等により締結遅れを抑制できないおそれが低く、より確実に締結遅れを抑制できる。なお、Np、およびΔNtの偏差(ΔNt-ΔNt*)に基づき、変速比の時間変化率を制御することで、より正確に、時刻t42を制御できる。ここで、Npおよび(ΔNt-ΔNt*)として、時刻t12において検出した値に限らず、t12以後の任意の時刻において検出した値を用いてもよい。
【0045】
以上のように、TCU21は、車両の走行中、開放状態の前進クラッチ143を、エンジン回転数を上昇させてから締結させるとき、前進クラッチ143のエンジン側要素の回転数(タービン回転数Nt)とCVT側要素の回転数(プライマリプーリ回転数Np)との差|Np-Nt|の変化速度ΔNp-tが所定の範囲内((ΔNp-t)maxと(ΔNp-t)minとの間)となるように、CVT190の変速比を制御するように構成されている。よって、前進クラッチ143の締結ショックまたは締結遅れの発生を抑制することができる。また、締結ショック等を許容範囲内に適合させる制御を実行する際、ブリッピング量(Nt)または前進クラッチ143の実締結容量(Pc)の挙動バラツキに対し、適合が容易であり、制御のロバスト性を向上できる。
【0046】
具体的には、TCU21は、エンジン回転数を上昇させ始めた後、前進クラッチ143を(完全)締結させる前の第1時刻t11(図4参照)で、回転数差|Np-Nt|の変化速度ΔNp-tが、第1所定値としての上限値(ΔNp-t)maxより大きいとき、CVT190の変速比を第1時刻t11より前の変速比よりも大きくするように構成されている。よって、タービン回転数Ntがプライマリプーリ回転数Npと一致する時刻またはその近傍の時刻t41でのΔNp-tを(ΔNp-t)max以下に抑え、締結ショックの発生を抑制することができる。
【0047】
TCU21は、CVT190の変速比を第1時刻t11より前の変速比よりも大きくする際、変速比が所定値を超えて大きくならないように、変速比の上限を設定してもよい。この場合、タービン回転数Nt(エンジン回転数)の過度の上昇を抑制することで、燃費性能を向上できるとともに、運転者に違和感を与えることを防止することができる。変速比の変化率の上限を設定した場合も同様である。
【0048】
TCU21は、エンジン回転数を上昇させ始めた後、前進クラッチ143を(完全)締結させる前の第2時刻t12(図5参照)で、回転数差|Np-Nt|の変化速度ΔNp-tが、第2所定値としての下限値(ΔNp-t)minより小さいとき、CVT190の変速比を第2時刻t12より前の変速比よりも小さくするように構成されている。よって、タービン回転数Ntがプライマリプーリ回転数Npと一致する時刻またはその近傍の時刻t42を早めて、締結遅れの発生を抑制することができる。
【0049】
前進クラッチ143は、油圧Pcによりエンジン側要素とCVT側要素が互いに押し付けられることで締結容量を発生するように構成されている。すなわち、前進クラッチ143は、油圧Pcにより作動する構造であり、締結容量を細かく制御することが困難である。よって、変速比を上記のように制御することによって、締結ショック等をより効果的に抑制することができる。
【0050】
なお、変速比の上記制御を適用可能な場面は、車両の走行中、開放状態の前進クラッチ143を、エンジン回転数を上昇させてから締結させる場面であればよく、コースティング制御終了時に限らない。例えば、エンジン回転数を上昇させるとともにCVT190の変速比を大きくしてから、言い換えるとダウンシフトしてから、前進クラッチ143を再締結させるといった場面にも適用可能である。また、CVT190は、エンジンと車輪の間に設けられた無段変速機構であればよく、ベルト式に限らず、例えばトロイダル式でもよい。
【0051】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0052】
例えば、自動変速機はトルクコンバータを備えなくてもよい。また、クラッチは、エンジンと無段変速機構との間にあればよく、前後進切替機構の前進クラッチに限らない。
【符号の説明】
【0053】
10 エンジン(内燃機関)
143 前進クラッチ
190 CVT(無段変速機構)
21 トランスミッションコントロールユニット(制御装置)
40 前輪(車輪)
図1
図2
図3
図4
図5