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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-22
(45)【発行日】2022-12-01
(54)【発明の名称】セラミックス複合体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 37/00 20060101AFI20221124BHJP
   B28B 1/00 20060101ALI20221124BHJP
   C04B 35/111 20060101ALI20221124BHJP
   F16K 15/04 20060101ALI20221124BHJP
   F16C 11/06 20060101ALN20221124BHJP
【FI】
C04B37/00 Z
B28B1/00 D
C04B35/111
F16K15/04 A
F16C11/06 A
F16C11/06 N
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018140375
(22)【出願日】2018-07-26
(65)【公開番号】P2020015253
(43)【公開日】2020-01-30
【審査請求日】2021-04-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】特許業務法人創成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石野 智浩
(72)【発明者】
【氏名】岩渕 淳寿
【審査官】小川 武
(56)【参考文献】
【文献】特表2010-514652(JP,A)
【文献】特開平04-248013(JP,A)
【文献】特開昭62-266216(JP,A)
【文献】特開昭58-079878(JP,A)
【文献】特開昭61-146752(JP,A)
【文献】特開平01-138179(JP,A)
【文献】特開昭58-079678(JP,A)
【文献】中国実用新案第201916549(CN,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B28B 1/00
F16C 11/06
C04B 35/00-35/84,37/00-37/04
F16K 15/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミックス成形体を第2の温度で加熱処理することにより、セラミックス焼結体又はセラミックス仮焼体からなる第1のセラミックス部材を得る工程と、
セラミックス原料を成形した後に加熱処理されていないセラミックス成形体からなり、第1の開口及び前記第1の開口より小さい第2の開口を介して外部と通じる内部空間を有する第2のセラミックス部材であって、第1の温度において前記第1のセラミックス部材よりも大きい収縮率を有する第2のセラミックス部材を用意する工程と、
前記第1のセラミックス部材の少なくとも一部を前記第1の開口を介して前記内部空間内に挿入する挿入工程と、
前記挿入した状態で、前記第1及び第2のセラミックス部材を前記第1の温度で加熱処理することにより、前記加熱処理された前記第1のセラミックス部材である第1のセラミックス焼結体と、前記加熱処理された前記第2のセラミックス部材である第2のセラミックス焼結体とが互いに対して変位可能かつ分離不可能となり、逆止弁として機能するセラミックス複合体を得る加熱処理工程とを備え、
前記第1の温度は前記第2の温度以下であり、
前記第1及び第2のセラミックス焼結体の主成分が同じであり、且つ前記第1のセラミックス焼結体の主成分の純度は前記第2のセラミックス焼結体の主成分の純度よりも高いことを特徴とするセラミックス複合体の製造方法。
【請求項2】
セラミックス成形体を第2の温度で加熱処理することにより、セラミックス焼結体又はセラミックス仮焼体からなる第1のセラミックス部材を得る工程と、
セラミックス原料を成形した後に加熱処理されていないセラミックス成形体からなり、開口を介して外部と通じる内部空間を有する第2のセラミックス部材であって、第1の温度において前記第1のセラミックス部材よりも大きい収縮率を有する第2のセラミックス部材を用意する工程と、
前記第1のセラミックス部材の一部のみを前記開口を介して前記内部空間内に挿入する挿入工程と、
前記挿入した状態で、前記第1及び第2のセラミックス部材を前記第1の温度で加熱処理することにより、前記加熱処理された前記第1のセラミックス部材である第1のセラミックス焼結体と、前記加熱処理された前記第2のセラミックス部材である第2のセラミックス焼結体とが互いに対して変位可能かつ分離不可能となり、ユニバーサルジョイントとして機能するセラミックス複合体を得る加熱処理工程とを備え、
前記第1の温度は前記第2の温度以下であり、
前記第1及び第2のセラミックス焼結体の主成分が同じであり、且つ前記第1のセラミックス焼結体の主成分の純度は前記第2のセラミックス焼結体の主成分の純度よりも高いことを特徴とするセラミックス複合体の製造方法。
【請求項3】
冷間静水圧加圧成形法、射出成形法、及び鋳込み成形法のいずれか1つの方法により前記セラミックス原料を成形することにより前記第2のセラミックス部材を構成する前記セラミックス成形体を作製する工程を備えることを特徴とする請求項1又は2に記載のセラミックス複合体の製造方法。
【請求項4】
第1のセラミックス焼結体と、第1の開口及び第2の開口を介して外部と通じる内部空間を有する第2のセラミックス焼結体とを備え、逆止弁として機能するセラミックス複合体であって、
前記第1のセラミックス焼結体の少なくとも一部が、前記第2のセラミックス焼結体の前記内部空間内に位置しており、前記第1のセラミックス焼結体と前記第2のセラミックス焼結体が互いに対して変位可能かつ分離不可能であり、
前記第1及び第2のセラミックス焼結体の主成分が同じであり、且つ前記第1のセラミックス焼結体の主成分の平均粒径は前記第2のセラミックス焼結体の主成分の平均粒径以上であることを特徴とするセラミックス複合体。
【請求項5】
第1のセラミックス焼結体と、開口を介して外部と通じる内部空間を有する第2のセラミックス焼結体とを備え、ユニバーサルジョイントとして機能するセラミックス複合体であって、
前記第1のセラミックス焼結体の一部のみが、前記第2のセラミックス焼結体の前記内部空間内に位置しており、前記第1のセラミックス焼結体と前記第2のセラミックス焼結体が互いに対して変位可能かつ分離不可能であり、
前記第1及び第2のセラミックス焼結体の主成分が同じであり、且つ前記第1のセラミックス焼結体の主成分の純度は前記第2のセラミックス焼結体の主成分の純度よりも高いことを特徴とするセラミックス複合体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミックス複合体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セラミックスからなるセラミックス体は、機械要素など、各種の構成体として多用されている。セラミックス体は単体で用いられることはもちろんであるが、これを組み合わせて用いられることもあった。特に、複数のセラミックス体を互いに独立して変位可能であるが分離は不可能としたセラミックス複合体が用いられることもあった。
【0003】
例えば、特許文献1には、セラミックス焼結体からなるコアが、セラミックス焼結体からなるシェルの空孔(カプセル)内に位置し、これらが独立して運動可能な鈴型カプセル構造体及びその製造方法が開示されている。この構造体は、焼結収縮率の異なる2種のセラミック材料を用意し、焼結収縮率が大きいセラミック材料でコアを成形し、コアの周囲に焼結収縮率が小さいセラミック材料でシェルを成形した成形体を焼成することによって製造される。
【0004】
また、特許文献2には、セラミック基材の内部に多数のセラミック球体が回転自在に埋設されたセラミック軸受及びその製造方法が開示されている。このセラミック軸受は、表面に樹脂をコーティングしたセラミック球体を、基材となるセラミック材料と混合、成形した後に焼成し、樹脂を焼失させて間隙を形成することにより製造される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第4826141号
【文献】特公平7-58097号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1に開示された技術においては、コアの外周面とシェルの空孔の内周面との形状が相似であるものに構成が限定される。また、上記特許文献2に開示された技術においては、セラミック基材とセラミック球体の間隙は、セラミック球体の表面にコーティングしていた樹脂の形状が相似形の構成に限定される。このように、従来技術においては、セラミックス複合体は限定された構成のものしか得られなかった。
【0007】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであり、多様な構成を得ることが可能なセラミックス複合体及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のセラミックス複合体の製造方法は、セラミックス成形体を第2の温度で加熱処理することにより、セラミックス焼結体又はセラミックス仮焼体からなる第1のセラミックス部材を得る工程と、セラミックス原料を成形した後に加熱処理されていないセラミックス成形体からなり、第1の開口及び前記第1の開口より小さい第2の開口を介して外部と通じる内部空間を有する第2のセラミックス部材であって、第1の温度において前記第1のセラミックス部材よりも大きい収縮率を有する第2のセラミックス部材を用意する工程と、前記第1のセラミックス部材の少なくとも一部を前記第1の開口を介して前記内部空間内に挿入する挿入工程と、前記挿入した状態で、前記第1及び第2のセラミックス部材を前記第1の温度で加熱処理することにより、前記加熱処理された前記第1のセラミックス部材である第1のセラミックス焼結体と、前記加熱処理された前記第2のセラミックス部材である第2のセラミックス焼結体とが互いに対して変位可能かつ分離不可能となり、逆止弁として機能するセラミックス複合体を得る加熱処理工程とを備え、前記第1の温度は前記第2の温度以下であり、前記第1及び第2のセラミックス焼結体の主成分が同じであり、且つ前記第1のセラミックス焼結体の主成分の純度は前記第2のセラミックス焼結体の主成分の純度よりも高いことを特徴とする。
また、本発明のセラミックス複合体の製造方法は、セラミックス成形体を第2の温度で加熱処理することにより、セラミックス焼結体又はセラミックス仮焼体からなる第1のセラミックス部材を得る工程と、セラミックス原料を成形した後に加熱処理されていないセラミックス成形体からなり、開口を介して外部と通じる内部空間を有する第2のセラミックス部材であって、第1の温度において前記第1のセラミックス部材よりも大きい収縮率を有する第2のセラミックス部材を用意する工程と、前記第1のセラミックス部材の一部のみを前記開口を介して前記内部空間内に挿入する挿入工程と、前記挿入した状態で、前記第1及び第2のセラミックス部材を前記第1の温度で加熱処理することにより、前記加熱処理された前記第1のセラミックス部材である第1のセラミックス焼結体と、前記加熱処理された前記第2のセラミックス部材である第2のセラミックス焼結体とが互いに対して変位可能かつ分離不可能となり、ユニバーサルジョインとして機能するセラミックス複合体を得る加熱処理工程とを備え、前記第1の温度は前記第2の温度以下であり、前記第1及び第2のセラミックス焼結体の主成分が同じであり、且つ前記第1のセラミックス焼結体の主成分の純度は前記第2のセラミックス焼結体の主成分の純度よりも高いことを特徴とする。
【0009】
本発明のセラミックス複合体の製造方法によれば、上記特許文献1,2に開示の技術によっては得られない構成のセラミックス複合体を得ることが可能となる。
【0010】
本発明のセラミックス複合体の製造方法において、セラミックス成形体を第2の温度で加熱処理することにより、セラミックス焼結体又はセラミックス仮焼体からなる前記第1のセラミックス部材を得る工程を備え、前記第2のセラミックス部材はセラミックス原料を成形した後に加熱処理されていないセラミックス成形体からなる。
【0011】
これにより、セラミックス焼結体又はセラミックス仮焼体からなる第1のセラミックス部材は、加熱処理工程における加熱処置によっては、セラミックス成形体からなる第2のセラミックス部材ほど大きく収縮しないので、加熱処理工程における収縮率の差を大きくすることが可能となり、セラミックス複合体の構成の多様化を図ることが可能となる。
【0012】
また、本発明のセラミックス複合体の製造方法において、冷間静水圧加圧成形法、射出成形法、及び鋳込み成形法のいずれか1つの方法により前記セラミックス原料を成形することにより前記第2のセラミックス部材を構成する前記セラミックス成形体を作製する工程を備えることが好ましい。
【0013】
この場合、冷間静水圧加圧成形法、射出成形法又は鋳込み成形法により作製されたセラミックス成形体は、一軸プレス法などにより成形されたセラミックス成形体と比べてセラミックス成形体の密度ばらつきが抑制され得る。これにより、第2のセラミックス部材の密度ばらつきに起因する寸法精度の低下を抑制することが可能となり、ひいては、第1のセラミックス部材と比較して加熱処理工程における収縮率が大きな第2のセラミックス焼結体の寸法精度の低下の抑制を図ることが可能となる。
【0014】
また、本発明のセラミックス複合体の製造方法において、前記第1の温度は前記第2の温度以下である。
【0015】
これにより、セラミックス焼結体からなる第1のセラミックス部材は加熱処理工程において収縮しないので、加熱処理工程における収縮率の差をさらに大きくすることが可能となり、セラミックス複合体の構成の多様化を図ることが可能となる。
【0016】
本発明の第1のセラミックス複合体は、第1のセラミックス焼結体と、第1の開口及び第2の開口を介して外部と通じる内部空間を有する第2のセラミックス焼結体とを備え、逆止弁として機能するセラミックス複合体であって、前記第1のセラミックス焼結体の少なくとも一部が、前記第2のセラミックス焼結体の前記内部空間内に位置しており、前記第1のセラミックス焼結体と前記第2のセラミックス焼結体が互いに対して変位可能かつ分離不可能であり、前記第1及び第2のセラミックス焼結体の主成分が同じであり、且つ前記第1のセラミックス焼結体の主成分の平均粒径は前記第2のセラミックス焼結体の主成分の平均粒径以上であることを特徴とする。
【0017】
本発明の第1のセラミックス複合体によれば、上記特許文献1,2では得られない構成のセラミックス複合体を得ることが可能となる。そして、第1及び第2のセラミックス焼結体の主成分が同じであり、且つ第1のセラミックス焼結体の主成分の平均粒径は第2のセラミックス焼結体の主成分の平均粒径以上である。これにより、セラミックス複合体を作製するための焼成時において、第1及び第2のセラミックス焼結体となるセラミックス部材の収縮率に差異をもたらすことが可能となっている。
【0018】
本発明の第2のセラミックス複合体は、第1のセラミックス焼結体と、開口を介して外部と通じる内部空間を有する第2のセラミックス焼結体とを備え、ユニバーサルジョインとして機能するセラミックス複合体であって、前記第1のセラミックス焼結体の一部のみが、前記第2のセラミックス焼結体の前記内部空間内に位置しており、前記第1のセラミックス焼結体と前記第2のセラミックス焼結体が互いに対して変位可能かつ分離不可能であり、前記第1及び第2のセラミックス焼結体の主成分が同じであり、且つ前記第1のセラミックス焼結体の主成分の純度は前記第2のセラミックス焼結体の主成分の純度よりも高いことを特徴とする。
【0019】
本発明の第2のセラミックス複合体によれば、上記特許文献1,2では得られない構成のセラミックス複合体を得ることが可能となる。そして、第1及び第2のセラミックス焼結体の主成分が同じであり、且つ第1のセラミックス焼結体の主成分の純度は第2のセラミックス焼結体の主成分の純度よりも高い。そして、一般的にセラミックス焼結体となるセラミックス成形体は、焼結助剤を含むことによって緻密化するための焼成温度が低下する。即ち、純度が高いほど焼成温度が高くなる。これにより、セラミックス複合体を作製するための焼成時において、第1及び第2のセラミックス焼結体となるセラミックス部材の収縮率に差異をもたらすことが可能となっている。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の第1の実施形態に係るセラミックス複合体の模式斜視図。
図2】第1の実施形態に係るセラミックス複合体のII-II線における模式断面図。
図3】本発明の第2の実施形態に係るセラミックス複合体の模式斜視図。
図4】第2の実施形態に係るセラミックス複合体のIV-IV線における模式断面図。
図5】本発明の実施形態に係るセラミックス複合体の製造方法を示すフローチャート。
図6】本発明の第1の実施形態に係る第1及び第2のセラミックス部材の模式縦断面図。
図7】本発明の第2の実施形態に係る第1及び第2のセラミックス部材の模式縦断面図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の実施形態に係るセラミックス複合体100及びその製造方法について図面を参照して説明する。なお、各図面は、セラミックス複合体100の構成を明確化するため、各構成要素はデフォルメされており、実際の比率を表すものではない。
【0024】
本発明の実施形態に係るセラミックス複合体100は、図1から図4を参照して、第1のセラミックス焼結体10と、開口21,24を介して外部と通じる内部空間22を有する第2のセラミックス焼結体20とを備えている。
【0025】
第1のセラミックス焼結体10は、その少なくとも一部が、第2のセラミックス焼結体20の開口21,24を介して外部と挿通する内部空間22内に位置している。そして、第1のセラミックス焼結体10と第2のセラミックス焼結体20が互いに対して変位可能かつ分離不可能となっている。
【0026】
第1の実施形態では、図1及び図2を参照して、第1のセラミックス焼結体10は、その全体が内部空間22内に位置している。さらに、具体的には、第1のセラミックス焼結体10は直径M1の球体である。第2のセラミックス焼結体20は外形が直方体であり、直径N1の球状の内部空間22を有している。第2のセラミックス焼結体20には、その一の外面に開口し外部と内部空間22とを連通する直径P1の円形の断面を有する円柱状の開口21が形成されている。第2のセラミックス焼結体20には、さらにその他の外面に開口し外部と内部空間22とを連通する直径Q1の円形の断面を有する4本の円柱状の開口23も形成されている。
【0027】
ここで、直径M1は、直径N1よりも小さく、且つ直径P1及び直径Q1よりも大きい。これにより、第1のセラミックス焼結体10は、その全体が、第2のセラミックス焼結体20の内部空間22内に位置し、第1のセラミックス焼結体10と第2のセラミックス焼結体20とは互いに対して変位可能ではあるが、分離不可能な構成となっている。即ち、第1のセラミックス焼結体10の内部空間22から外側への移動は、第2のセラミックス焼結体20によって規制されている。
【0028】
第2の実施形態では、図3及び図4を参照して、第1のセラミックス焼結体10は、その一部のみが内部空間22内に位置している。さらに、具体的には、第1のセラミックス焼結体10は直径M1の球体の部分11と円柱状の部分12とが一体化された形状である。第2のセラミックス焼結体20は外形が直方体であり、直径N1の球状の内部空間22を有している。第2のセラミックス焼結体20には、その一の外面と内部空間22と連通する最狭部が直径S1の円形の断面を有するテーパ状の開口24が形成されている。
【0029】
ここで、直径M1は、直径N1よりも小さく、且つ直径S1よりも大きい。これにより、第1のセラミックス焼結体10は、その球体の部分11が、第2のセラミックス焼結体20の内部空間22内に位置し、第1のセラミックス焼結体10と第2のセラミックス焼結体20とは互いに対して変位可能ではあるが、分離不可能な構成となっている。即ち、球体の部分11の内部空間22から外側への移動は、第2のセラミックス焼結体20によって規制されている。
【0030】
そして、例えば、第1及び第2のセラミックス焼結体10,20は、そのセラミックス素材の主成分が同じであり、且つ第1のセラミックス焼結体10のセラミックス素材の主成分の平均粒径は第2のセラミックス焼結体20のセラミックス素材の主成分の平均粒径以上である。ここで、第1及び第2のセラミックス焼結体10,20のセラミックス素材の主成分の平均粒径は、第1及び第2のセラミックス焼結体10,20を研磨し、走査型電子顕微鏡を用いて2000倍~5000倍に拡大した視野の写真のうち任意の30μm四方の領域についてImage-Jなどの画像処理ソフトにより2値化して、全ての粒径の円相当径を算出して求める方法や、研磨後の任意の30μm四方の領域についてインターセプト法を用いて算出する方法を用いて測定することができる。
【0031】
あるいは、第1及び第2のセラミックス焼結体10,20のセラミックス素材の主成分が同じであり、且つ第1のセラミックス焼結体10のセラミックス素材の主成分の純度は第2のセラミックス焼結体20の主成分の純度よりも高い。ここで、第1及び第2のセラミックス焼結体10,20の純度は、エネルギー分散型SEMを用いた定量、ICP発光分光分析法、又はICP質量分析法などの公知の技術を用いて測定することができる。
【0032】
ただし、第1及び第2のセラミックス焼結体10,20のセラミックス素材の関係は上述したものに限定されない。例えば、第1及び第2のセラミックス焼結体10,20は、そのセラミックス素材の主成分及び純度、さらに平均粒径が同じものであってもよいし、異なっていてもよい。
【0033】
セラミックス素材としては、例えば、アルミナ(酸化アルミニウム)、窒化アルミニウム、窒化珪素などを用いることができる。そして、例えば、第1のセラミックス焼結体10の素材として純度99.5重量%のアルミナを用いる場合、第2のセラミックス焼結体20の素材として純度99.99重量%のアルミナ、純度99.5重量%のアルミナや焼結助剤としてSiO-CaO-MgOを添加した純度95重量%のアルミナを用いることが好ましい。
【0034】
以下、本発明の実施形態に係るセラミックス複合体100の製造方法について図面を参照して説明する。
【0035】
本製造方法は、図5図7を参照して、第1のセラミックスからなる第1のセラミックス部材30を用意する第1のセラミックス部材用意工程S10と、第2のセラミックスからなる第2のセラミックス部材40を用意する第2のセラミックス部材用意工程S20と、第1のセラミックス部材30の少なくとも一部を第2のセラミックス部材40の内部空間S内に挿入する挿入工程S30と、第1及び第2のセラミックス部材30,40を加熱処理する加熱処理工程S40とを備えている。
【0036】
第1のセラミックス部材用意工程S10においては、セラミックス原料を成形してセラミックス成形体を得る成形工程S11と、セラミックス成形体を第2の温度T2で加熱処理することにより、セラミックス焼結体又はセラミックス仮焼体からなる第1のセラミックス部材30を得る加熱処理工程S12を備えることが好ましい。
【0037】
このとき、加熱処理工程S40における加熱温度である第1の温度T1は、セラミックス成形体を加熱処理して第1のセラミックス部材30を得る際の加熱温度である第2の温度T2以下であることが好ましい。また、セラミックス成形体は、冷間静水圧加圧成形法、射出成形法又は鋳込み成形法によりセラミックス原料を成形することにより作製することが好ましい。ただし、これ以外の成形法によってセラミックス成形体を作製してもよい。
【0038】
さらに、第2のセラミックス部材40は、セラミックス原料を成形した後に加熱処理されていないセラミックス成形体であってもよい。
【0039】
第2のセラミックス部材用意工程S20においては、第2のセラミックスからなり、開口41,43を介して外部と通じる内部空間42を有する第2のセラミックス部材40であって、第1の温度において第1のセラミックス部材30よりも大きい収縮率を有する第2のセラミックス部材40を用意する。
【0040】
第1の実施形態では、図6を参照して、具体的には、第1のセラミックス部材30は直径M2の球体であり、第2のセラミックス部材40は外形が直方体である。第2のセラミックス部材40には、その一の外面に開口し外部と内部空間42とを挿通する直径P2の円形の断面を有する円柱状の開口41が形成されている。第2のセラミックス部材40には、さらにその他の外面に開口し外部と内部空間42とを連通する直径Q2の円形の断面を有する4本の円柱状の開口43も形成されている。
【0041】
ここで、直径M2は、直径N2及び直径P2よりも小さく、直径Q2よりも大きい。これにより、第1のセラミックス部材30は、その全体が、第2のセラミックス部材40の内部空間42内に、開口41を介して挿入することが可能な構成となっている。
【0042】
第2の実施形態では、図7を参照して、具体的には、第1のセラミックス部材30は直径M2の球体の部分31と円柱状の部分32とが一体化されたものであり、第2のセラミックス部材40は外形が直方体である。第2のセラミックス部材40には、その一の外面に開口し外部と内部空間42とを連通する最狭部が直径S2の円形であるテーパ状の開口44が形成されている。
【0043】
ここで、直径M2は、直径N2及び直径S2よりも小さい。これにより、第1のセラミックス部材30は、その球体の部分31が、第2のセラミックス部材40の内部空間42内に、開口44を介して挿入することが可能な構成となっている。
【0044】
第1のセラミックスと第2のセラミックスとは相違する。例えば、第1のセラミックスと第2のセラミックスとは、その主原料であるセラミックスの種類が異なる、又はその平均粒径が異なる、あるいは副原料である焼結助剤やバインダなどの添加割合などが異なる。
【0045】
また、第1のセラミックス部材30が焼結体である場合、第2のセラミックス部材40はセラミックス成形体又は仮焼体であることが好ましく、第1のセラミックス部材30が仮焼体である場合、第2のセラミックス部材40はセラミックス成形体であることが好ましい。
【0046】
さらに、第1及び第2のセラミックス部材30,40が共にセラミックス成形体であってもよい。この場合、加熱処理工程S40において第1の温度T1で加熱処理した際に、第2のセラミックス部材40の収縮率は第1のセラミックス部材30の収縮率よりも大きければよい。
【0047】
第1及び第2のセラミックス部材30,40となるセラミックス成形体は、冷間静水圧加圧成形法、射出成形法又は鋳込み成形法によりセラミックス原料を成形することにより作製することが好ましい。これにより、一軸プレス法などにより成形されたものと比べてセラミックス成形体の密度ばらつきが抑制され得る。ただし、一軸プレス法などの成形法によって第1及び第2のセラミックス部材30,40となるセラミックス成形体を作製してもよい。
【0048】
挿入工程S30においては、第1のセラミックス部材30の少なくとも一部を開口41,43を介して内部空間42内に挿入する。第1のセラミックス部材30は、その全体が内部空間42内に挿入されていてもよく、その一部のみが内部空間42内に挿入されていてもよい。第1のセラミックス部材30の少なくも一部を内部空間42に挿入するために、内部空間42内に挿入される第1のセラミックス部材30の部分が開口41を自由に通ることができるような形状となっている。
【0049】
加熱処理工程S40においては、第1のセラミックス部材30の少なくとも一部を内部空間42内に挿入した状態で、第1及び第2のセラミックス部材30,40を第1の温度で加熱処理することにより、図1から図4を参照して、第1のセラミックス部材30が加熱処理されてなる第1のセラミックス焼結体10と、第2のセラミックス部材40が加熱処理されてなる第2のセラミックス焼結体20とが互いに対して変位可能かつ分離不可能であるセラミックス複合体100を得る。
【0050】
なお、例えば、第1のセラミックス部材30がアルミナを主成分とするセラミックス焼結体からなり、そのセラミックス原料のアルミナの純度が99.5重量%であって、その平均粒子径が0.6μm程度であり、焼成後のアルミナの平均粒子径が4μm程度である場合、そのセラミックス原料が緻密化する焼成温度は1600℃程度である。一方、第2のセラミックス部材40が第1のセラミックス部材30と同じセラミックス原料からなり、これを1580℃で焼成したときに得られるアルミナの平均粒子径は3μm程度である。また、第2のセラミックス部材40が第1の純度95重量%程度で、平均粒子径が1.8μm程度のアルミナを主成分とするセラミックス原料からなる場合、そのセラミックス原料が緻密化する焼成温度は1500℃程度となる。
【0051】
このように、セラミックス材料が同一の場合は焼成温度が高いほどセラミックス焼結体の平均粒子径が大きくなり、セラミックス材料が異なる場合は、純度が高いほど焼成温度は高く、結果として生じるセラミックス焼結体の平均粒径は大きくなる。また、セラミックス原料の主成分が同一の場合は、その主成分の純度が高いほど焼結体が緻密化するのに高い焼成温度が必要となる。
【0052】
加熱処理工程S40においては、第1の温度T1で第1及び第2のセラミックス部材30,40を加熱処理することにより、第2のセラミックス部材40は第1のセラミックス部材30よりも大きな収縮率で収縮して、内部空間42内に挿入された部分が開口41,43を介して抜け出なくなる。これにより、第1のセラミックス部材30が加熱処理されてなる第1のセラミックス焼結体10と、第2のセラミックス部材40が加熱処理されてなる第2のセラミックス焼結体20とが互いに対して変位可能かつ分離不可能となるセラミックス複合体100が得られる。
【0053】
なお、本発明のセラミックス複合体の製造方法により製造されるセラミックス複合体は、本発明のセラミックス複合体に限定されない。そして、本発明のセラミックス複合体100及びその製造方法は、上述されたものに限定されない。例えば、本発明のセラミックス複合体は、第1又は第2の実施形態に係るセラミックス複合体100には限定されず、逆止弁又はユニバーサルジョイントとして機能すれば、その構成、形状、素材なども限定されない。
【実施例
【0054】
(実施例1)
図6を参照して、純度99.5重量%のアルミナ(Al)をセラミックス原料として、5重量%以下のPVAバインダを添加したものを造粒し、この造粒粉を球形の金型に充填して、球形のセラミックス成形体を形成した。そして、この球形のセラッミクス成形体を、炉内を大気雰囲気として1600℃で3時間保持して焼成した。そして、得られた焼成体の表面を加工して、直径Mが20mmの球形のセラミックス焼結体を第1のセラミックス部材30として得た。なお、このセラミックス焼結体のアルミナの平均粒子径は4μmであった。
【0055】
前記造粒粉を用いて、冷間静水圧加圧成形法により、一辺60mmの立方体を得た。この立方体の一の面に対して、直径Pが21mmの開口41を形成し、この穴を介して、立方体の中心に直径Nが40mmの球状の内部空間42を形成した。さらに、立方体の他の一の面に、直径Q2が5mmの開口43を4か所、内部空間43に至るように形成した。これにより、第2のセラミックス部材40を得た。
【0056】
第1のセラミックス部材30全体を内部空間42内に位置させた状態で、第1及び第2のセラミックス部材30,40を炉内に入れて、炉内を大気雰囲気として1580℃で3時間保持して焼成した。このとき、第1のセラミックス部材30と第2のセラミックス部材40とが互いに接触しないように、第1のセラミックス部材30を図示しない支持部材で支持した。
【0057】
焼成の結果、図1及び図2を参照して、第1のセラミックス部材30はその形状寸法、組成などは変化せず、そのまま第1のセラミックス焼成体10となった。一方、第2のセラミックス部材40は、一辺49.6mmの立方体の外形を有し、内部空間42は直径N1が33mmの球形状であり、開口21は直径P1が17.4mmに、4個の開口22は直径Q1が4.1mmとなるように収縮した。これにより、第1のセラミックス焼結体10はその全体が内部空間22内に位置し、第1のセラミックス焼結体10は開口21から抜け出させず、第1のセラミックス焼結体10と第2のセラミックス焼結体20とが分離不可能となったセラミックス複合体100が得られた。なお、第2のセラミックス焼結体20のアルミナの平均粒子径は3μmであった。
【0058】
さらに、開口21から内部空間22に水を流入させると、第1のセラミックス焼結体10は奥に移動するが、4か所の開口23を閉塞するには至らず、開口23を介して水が流出することが確認された。一方、開口23から内部空間22に水を流入させると、第1のセラミックス焼結体10は奥に移動して、開口21を閉塞し、開口21を介しては水が流出しないことが確認された。これにより、セラミックス複合体100は、逆止弁として機能させることが可能であることが分かった。
【0059】
(実施例2)
図7を参照して、純度99.5重量%のアルミナ(Al)をセラミックス原料として、5重量%以下のPVAバインダを添加したものを造粒し、この造粒粉を用いた冷間静水圧加圧成形法により成形したセラミックス成形体のインゴットを加工して、球形のセラミックス成形体と円柱形のセラミックス成形体が連結されたセラミックス成形体を得た。そして、このセラミックス成形体を、炉内を大気雰囲気として1600℃で3時間保持して焼成した。
【0060】
そして、得られた焼成体の表面を加工して、直径N2が20mmの球状のセラミックス焼結体31と、直径10mm、長さ60mmの円柱状のセラミックス焼結体32とが一体化した第1のセラミックス部材30を得た。
【0061】
前記造粒粉を用いた冷間静水圧加圧成形法により、一辺60mmの立方体を得た。この立方体の一の面に対して、テーパ状の開口44を形成し、この開口44を介して、立方体の中心に直径N2が24.5mmの球状の内部空間42を形成した。これにより、テーパ状の開口44の最狭部の直径S2は21mmとなった。これにより、第2のセラミックス部材40を得た。
【0062】
第1のセラミックス部材30の球体の部分31のみを内部空間42内に位置した状態で、第1及び第2のセラミックス部材30,40を炉内に入れて、炉内を大気雰囲気として1600℃で3時間保持して焼成した。このとき、第1のセラミックス部材30と第2のセラミックス部材40とが互いに接触しないように、第1のセラミックス部材30を図示しない支持部材で支持した。
【0063】
焼成の結果、第1のセラミックス部材30はその形状寸法、組成などは変化せず、そのまま第1のセラミックス焼成体10となった。一方、第2のセラミックス部材40は、一辺49.6mmの立方体の外形を有し、内部空間22は直径N1が20.2mmの球形状であり、開口24の最狭部の直径S1は17.4mmとなるように収縮した。これにより、第1のセラミックス焼結体10の球体の部分11が内部空間22内に位置し、第1のセラミックス焼結体10は開口24から抜け出せず、第1のセラミックス焼結体10と第2のセラミックス焼結体20とが分離不可能となったセラミックス複合体100が得られた。
【0064】
さらに、第1のセラミックス焼結体10の球体の部分11と内部空間22の内面との隙間は全体に亘って0.2mmであり、第1のセラミックス焼結体10はがたつきなどもなく、第2のセラミックス焼結体20に対して良好に摺動回転可能となることが確認された。これにより、セラミックス複合体100は、ユニバーサルジョイントして機能させることが可能であることが分かった。
【符号の説明】
【0065】
10…第1のセラミックス焼結体、 11…球体の部分、 12…円柱状の部分、 20…第2のセラミックス焼結体、 21…開口、 22…内部空間、 23…開口、 30…第1のセラミックス部材、 31…球体の部分、 32…円柱状の部分、 40…第2のセラミックス部材、 41…開口、 42…内部空間、 43…開口。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7