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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-22
(45)【発行日】2022-12-01
(54)【発明の名称】非粘着シート
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/30 20060101AFI20221124BHJP
【FI】
B32B27/30 D
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2018160785
(22)【出願日】2018-08-29
(65)【公開番号】P2019043134
(43)【公開日】2019-03-22
【審査請求日】2019-05-31
【審判番号】
【審判請求日】2020-12-29
(31)【優先権主張番号】P 2017168036
(32)【優先日】2017-08-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000107619
【氏名又は名称】スターライト工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100074561
【弁理士】
【氏名又は名称】柳野 隆生
(74)【代理人】
【識別番号】100177264
【弁理士】
【氏名又は名称】柳野 嘉秀
(74)【代理人】
【識別番号】100124925
【弁理士】
【氏名又は名称】森岡 則夫
(74)【代理人】
【識別番号】100141874
【弁理士】
【氏名又は名称】関口 久由
(74)【代理人】
【識別番号】100163577
【弁理士】
【氏名又は名称】中川 正人
(72)【発明者】
【氏名】上島 弘義
(72)【発明者】
【氏名】山本 隆浩
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 勇大
(72)【発明者】
【氏名】長井 俊樹
【合議体】
【審判長】井上 茂夫
【審判官】塩治 雅也
【審判官】久保 克彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-78947(JP,A)
【文献】特開2016-128719(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 27/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂成分がポリテトラフルオロエチレンである樹脂シート(但し、表面処理されたもの及びフィラー含有物を有するものを除く)と金属製の基材シートとが接着性含フッ素共重合体である接着剤を介して接合された積層体であり、樹脂シートと基材シートとの剥離強度が3N/mm以上であり、部材の表面に設置される非粘着シートであって、前記部材に固定するための固定部が前記基材シートに形成されている、非粘着シート。
【請求項2】
樹脂シートの厚みが0.5mm以上である請求項1に記載の非粘着シート。
【請求項3】
樹脂成分がポリテトラフルオロエチレンである樹脂シート(但し、表面処理されたもの及びフィラー含有物を有するものを除く)と金属製の基材シートとが接着性含フッ素共重合体である接着剤を介して接合された積層体であり、樹脂シートと基材シートとの剥離強度が3N/mm以上である、非粘着シートの樹脂シート側が摺動面となるように設けられたホッパー。
【請求項4】
樹脂成分がポリテトラフルオロエチレンである樹脂シート(但し、表面処理されたもの及びフィラー含有物を有するものを除く)と金属製の基材シートとが接着性含フッ素共重合体である接着剤を介して接合された積層体であり、樹脂シートと基材シートとの剥離強度が3N/mm以上である、非粘着シートの樹脂シート側が着雪側になるように設けられた、除雪装置又は除雪用具を備えた車両。
【請求項5】
請求項2記載の非粘着シートの製造方法であって、
予め成形された厚み0.5mm以上の前記樹脂シートと、前記基材シートとを剥離強度が3N/mm以上となるように接着性含フッ素共重合体である接着剤を介して接合する工程を含む、非粘着シートの製造方法。
【請求項6】
請求項1又は2に記載の非粘着シートを、部材の表面に、その形状に合わせて設置して、その表面の少なくとも一部を被覆する、表面に非粘着性が付与された非粘着性部材の製造方法。
【請求項7】
前記非粘着シートの基材シートを前記部材に固定して、部材の表面の少なくとも一部を被覆する、請求項記載の非粘着性部材の製造方法。
【請求項8】
基材シートと部材との固定が、溶接、接着剤による接合及び物理的結合から選択される少なくとも1種である、請求項記載の非粘着性部材の製造方法。
【請求項9】
請求項1又は2に記載の非粘着シートを、部材の表面に、その形状に合わせて設置して、その表面の少なくとも一部を被覆し、その表面に非粘着性を付与する、部材の表面改質方法。
【請求項10】
前記非粘着シートの基材シートを前記部材に固定して、部材の表面の少なくとも一部を被覆する、請求項記載の部材の表面改質方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非粘着シートに関するものである。また、当該非粘着シートを備えた各種装置又は用具及びこの装置又は用具を備えた車両等に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、原材料等を搬送する場合、搬送機械に設けられているホッパー、バケット及び車両荷台等(以下、「ホッパー等」と称する。)には、例えば、それらの表面に付着性のある各種の原材料等が投入等され、搬送作業を繰り返すうちに、原材料等がホッパー等の表面に付着する場合がある。ホッパーにこのような原材料等が付着すると、原材料等がホッパーの排出口から排出され難くなり、機械等により原材料等を強制的に送り出すようにする必要が生じる場合がある。バケットや車両荷台に原材料等が付着すると、原材料等が堆積するため、作業効率が低下する場合がある。また、建設機械のバケットには、掘削作業を繰り返すうちにそれらの表面に付着性のある掘削物が付着する場合がある。
【0003】
また、例えば、滑雪用途の各種装置又は用具及びこの装置又は用具を備えた車両(以下、「滑雪装置等」と称する場合がある。)においては、積雪を除去する際に、除雪装置、除雪用具、車体等の雪と接する側を構成する部材の表面に雪が付着すると、除雪作業の継続とともに付着量が大きくなり、除雪作業の効率が低下する。また、これらの除雪車両や一般車両では、車両に雪や氷がした状態で走行すると、燃費が悪化したり、雪や氷の塊が走行中に落下して車体等を損傷したりする。また、その損傷を抑制するため定期的にその塊を除去する必要がある。
【0004】
これらの改善策として、ホッパー等の原材料や掘削物等が接する部材の表面や雪や氷の着雪箇所を構成する部材の表面にフッ素樹脂等によりコーティングを行ったり、フッ素系樹脂層により被覆したりすること等が提案されている(特許文献1~4)。
【0005】
また、基材の表面にフッ素系樹脂層を設けた積層体に関する技術は各種提案されている(特許文献5~7)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】実公昭63-22865号公報
【文献】実開昭52-44601号公報
【文献】特開平10-181417号公報
【文献】特開2008-57275号公報
【文献】特開第5884358号公報
【文献】特許第4244286号公報
【文献】特許第6149739号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
例えば、ホッパー、バケット、車両荷台等や、滑雪用途の各種装置若しくは用具又はこれらを備えた車両等において、特許文献1~4に記載の発明を適用することで、一定の効果は得られるが、改善の余地がある。これらのホッパー等や滑雪装置等は、継続又は連続して使用するため、耐久性が求められる。フッ素樹脂、特にポリテトラフルオロエチレン(以下、PTFEと称する。)は、非粘着性が高いため、原材料等の付着を抑制できるが、ホッパー等や滑雪装置等を構成する部材との接合が一般に困難である。また、PTFE
のコーティングは摩耗し易いため、一定の機械的強度を有したり、一定の厚みを確保可能である必要がある。即ち、フッ素樹脂のコーティング等が剥離しにくく、その効果を持続可能であることが要求される。さらにコーティング加工は大掛かりな設備が必要であるため、コーティング処理可能な工場まで、これらの装置又は工具を持ち込まなければならないという問題があった。
【0008】
特許文献1には、厚みのある四弗化エチレン樹脂(PTFE)製深絞り成型容器を本体に貼着した餅つき機用ホッパーが開示されている。しかし、貼着に使用されているのはシリコーン接着剤であり、四弗化エチレン樹脂の非粘着性からすると、一般的には剥離強度は低く、本体から成型容器が容易に剥離する可能性が高い。また、特許文献1に記載の四弗化エチレン樹脂製深絞り成型容器は、製造コストが高いと考えられる。特許文献2には、バケット本体の隅角部に付着防止部材が設けられ、付着防止部材の表面に4フッ化エチレン等からなる非粘着性ライニングが接着や融着により固着されるバケット装置が開示されているものの、具体的な固着方法やライニングの厚みが開示されておらず、固着強度は不明である。特許文献3には、アルミニウム等で形成された荷台床面にフッ素樹脂で成る板を付着させた傾斜荷台付き車両の荷台構造が開示されているが、両者の付着は、リベットまたはビスを用いることしか開示がない。またこのような付着方法では、リベット等で固定されていない部分の剥離強度は0N/mmであり、リベットで固定された部分とそうでない部分の近辺で容易に破断する恐れがある。特許文献4には、作業面にフッ素が被覆された除雪作業機のフロント作業具が開示されているが、具体的な被覆方法については開示がなく、その強度や効果の継続性は不明である。
【0009】
また、特許文献5には、変性PTFEからなる樹脂シートと金属層を積層して熱プレス加工する工程を有する積層体の製造方法が開示されている。しかし、変性していないPTFEを金属層に接合することは開示されていない。また、変性PTFEからなる樹脂シートと金属層の接合強度は、20N/3inch程度であり、十分とはいえない。特許文献6には、フッ素樹脂フィルム層及び金属板が特定のエチレン共重合体組成物層を介して積層されてなる積層体が開示されている。しかし、実施例では、PTFEよりも非粘着性の低いエチレン・テトラフルオロエチレン共重合体のフィルムとの接着強度が、180℃剥離試験で、最大でも2N/mm(換算値)程度であり、十分とはいえない。特許文献7には、基材表面に、特定のプライマー層と、フッ素樹脂からなるトップコート層とがこの順に積層された積層体が開示されている。しかし、トップコート層がシートであることは開示されておらず、トップコート層の厚みを大きくし、ホッパー等の用途や滑雪用途として、その効果を持続させるには限界がある。
【0010】
以上のように、特許文献1~4には、ホッパー用、バケット用、車両荷台用又は滑雪用の非粘着シートにおいて、PTFE等のフッ素樹脂層を基材の表面に形成することは開示されているものの、両者の剥離強度については全く考慮されていないか、改善の余地がある。また、特許文献5~7には、基材表面にフッ素樹脂層を設けた積層体が開示されているものの、特許文献5、6に記載の発明では、やはり剥離強度が十分ではなく、特許文献7に記載の発明では、フッ素樹脂からなるトップコート層の効果を持続させるには限界がある。
【0011】
そこで、本発明の目的は、フッ素樹脂層と基材層との積層体において、フッ素樹脂層と基材層との剥離強度が良好で、フッ素樹脂層による効果を持続可能とすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者が鋭意検討を行った結果、フッ素樹脂層として、樹脂成分がPTFEである樹脂シートを用い、基材層として、基材シートを用い、両者の剥離強度を所定値以上となるように接合することで、前述の課題を解決可能であることを見出し、本発明を完成するに
至った。本発明の要旨は、以下のとおりである。
【0013】
本発明の第一は、樹脂成分がポリテトラフルオロエチレンである樹脂シートと基材シートとが接合された積層体であり、樹脂シートと基材シートとの剥離強度が3N/mm以上である、非粘着シートに関する。当該非粘着シートの実施形態では、樹脂シートの厚みが0.5mm以上であってもよい。また、非粘着シートが所定の部材の表面に設置される場合は、その部材に固定するための固定部が基材シートに形成されていてもよい。また、樹脂シートと基材シートが接着剤を介して接合されていてもよく、この場合、その接着剤が、接着性含フッ素共重合体であってもよい。
【0014】
本発明の第二は、前述の非粘着シートの樹脂シート側が摺動面となるように設けられたホッパーに関する。
【0015】
本発明の第三は、前述の非粘着シートの樹脂シート側が着雪側になるように設けられた、除雪装置又は除雪用具を備えた車両に関する。
【0016】
本発明の第四は、前述の非粘着シートのうち、前記樹脂シートの厚みが0.5mm以上であるものの製造方法であって、予め成形された厚み0.5mm以上の樹脂シートと、基材シートとを剥離強度が3N/mm以上となるように接合する工程を含む、非粘着シートの製造方法に関する。
【0017】
本発明の第五は、前述の非粘着シートを、部材の表面に、その形状に合わせて設置して、その表面の少なくとも一部を被覆する、表面に非粘着性が付与された非粘着性部材の製造方法に関する。当該製造方法の実施形態では、前記非粘着シートの基材シートを前記部材に固定して、部材の表面の少なくとも一部を被覆することができる。この場合、基材シートと部材との固定が、溶接、接着剤による接合及び物理的結合から選択される少なくとも1種であってよい。
【0018】
本発明の第六は、前述の非粘着シートを、部材の表面に、その形状に合わせて設置して、その表面の少なくとも一部を被覆し、その表面に非粘着性を付与する、部材の表面改質方法に関する。当該表面改質方法の実施形態では、前記非粘着シートの基材シートを前記部材に固定して、部材の表面の少なくとも一部を被覆することができる。この場合、基材シートと部材との固定が、溶接、接着剤による接合及び物理的結合から選択される少なくとも1種であってよい。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、樹脂成分がPTFEである樹脂シートと基材シートとの接着性が良好な剥離強度を有し、PTFEに基づく樹脂シートの効果を良好に持続させることが可能な非粘着シートを提供可能である。そのため、当該非粘着シートは、例えば、ホッパー、除雪装置又は除雪用具を備えた車両等に好適である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態を説明する。
【0021】
本発明の実施形態では、非粘着シートは、樹脂成分がPTFEである樹脂シートと基材シートとが接合された積層体である。そして、接合された樹脂シートと基材シートとの剥離強度が3N/mm以上である。尚、以下では、特にことわらない限り、樹脂成分がPTFEである樹脂シートをPTFEシートと称する。また、以下では、特にことわらない限り、主として、ホッパー用、バケット用、車両荷台用又は滑雪用の非粘着シートについて述べるが、後述するように、それ以外の各種用途に適用可能である。
【0022】
このように、PTFEシートと基材シートとの剥離強度が所定値以上であるため、非粘着シートを、例えば、ホッパー用、バケット用、車両荷台用又は滑雪用等として用いた場合でも、PTFEシートが基材シートに良好に接合している。また、後述するように、例えば、PTFEシートが基材シートから剥離することなく非粘着シートに曲げ加工を施すことが可能であるため、基材シートの構成材質によっては、各種用途の所望の部位の形状に合わせて加工を施して設置することが可能である。また、予め成形したPTFEシートを用いて積層されているため、例えば特許文献7に記載のように、基材シートの表面でPTFEの紛体を焼結させる場合に比べて厚みを大きくすることが可能である。また、PTFEシートはコーティングに比べて機械的強度に優れる。そのため、このような従来技術に比べてPTFEシートによる効果を良好に持続させることが可能である。さらに、非粘着シートをホッパー等又は着雪部材の摺動面にその形状に合わせて設置するだけで、摺動面に非粘着性を容易に付与することができる。そのため、例えば、非粘着シートの既存機械等への設置が容易であり、長期間使用後にその非粘着性が低下した場合は、非粘着シートを交換することで、摺動面に元の非粘着性を容易に付与できる。
【0023】
PTFEシートは、樹脂成分としてPTFEを用いて成形されたものである。
【0024】
PTFEは、優れた耐薬品性を示し、ほぼ全ての薬品に対して溶解や膨潤が見られず、溶融金属ナトリウムや高温高濃度のフッ素ガスに侵されるだけで、優れた安定性を示す。また、優れた耐熱性を有し、融点が約327℃で、連続使用温度は約260℃と有機材料中では極めて高く、250℃で長時間放置しても機械的強度は殆ど低下しない。さらに、その表面特性は、優れた疎水性、疎油性及び非粘着性を示す。
【0025】
このように、PTFEは、耐薬品性、耐熱性に優れ、疎水性、疎油性、非粘着性が高いため、PTFEシートが、例えば、ホッパー等の用途や滑雪用等の用途において、原材料等、雪、氷と接する面に設けられることで、PTFEシートが摺動面となり、それらの摺動性が良好になり、摺動面への付着物が大きく成長する前に落下するなどして、摺動面への付着、残存が抑制され得る。
【0026】
PTFEシートは、予めシート状に成形されたものである。PTFEは、加熱してもゲル化するのみで流動性を示さないため、一般的な射出成形や押出成形が容易ではない。そのため、例えば、焼結法又はペースト押出法により成形される。これらの方法は公知の方法を採用することができる。焼結法では、例えばPTFEの粉末を型に投入して加圧し、PTFEの融点以上の温度で焼成する。必要に応じて、全体が透明なゲル状になった時に直ちに別の型に移して二次成形を行ってもよい。また、成型後、所望の形状になるように機械加工を行ってもよい。ペースト押出法では、PTFEの粉末に有機溶媒等を添加してペースト状にし、カレンダでシート状にした後、溶剤を揮散させてから焼成する。焼結法及びペースト押出法以外の方法としては、例えば円柱状又は角柱状の成型体を切削してシートとしたり、PTFEの懸濁液を平板面上に流延した後焼成してシートとする方法等が挙げられる。
【0027】
PTFEシートの厚みは、各用途を考慮して、設定することができる。前述のPTFEによる耐摩耗性、耐久性等の各種効果を継続して得る観点からは、0.3mm以上が好ましく、0.5mm以上がより好ましく、1mm以上がさらに好ましく、3mm以上が特に好ましい。
【0028】
PTFEシートは、樹脂成分はPTFEであるが、樹脂成分以外に、他の添加剤を添加してもよい。添加剤としては、例えば、着色剤、補強材、潤滑性付与材等が挙げられる。
【0029】
基材シートを構成する材質としては、例えばホッパー等の各用途及び滑雪用途等に応じて、適宜選択することができる。このような材質としては、鉄、鋼、アルミニウム、銅、金、銀等の金属、セラミック、ガラス、合成樹脂、天然樹脂、木材、紙、ダイヤモンド等が挙げられる。鋼としては、2.0%以下の含有量の炭素と他の元素を含む鉄の合金であればよく、例えば、ステンレス鋼等が挙げられる。合成樹脂には、炭素繊維強化樹脂、ガラス繊維強化樹脂等の繊維強化樹脂が含まれる。このうち、耐腐食性や重量、汎用性の観点からステンレス、アルミ、鉄が好ましい。
【0030】
基材シートの厚みは、各用途、構成材質を考慮して、設定することができる。後述するように、非粘着シートを曲げ加工等して使用する場合は、基材シートの構成材質の特性に応じて厚みを決定することができる。構成材質が金属の場合は、例えば、0.1~5.0mmとすることができる。
【0031】
基材シートには、非粘着シートを、例えば、ホッパー、バケット、車両荷台等を構成する部材の表面や、着雪箇所を構成する部材等の各種部材の表面に固定するための固定部が形成されていてもよい。固定部が形成されていることにより、コーティング処理等することなく、ホッパー等又は着雪箇所を構成する部材等へ非粘着シートを容易に短時間で固定することができる。そのため、例えば、既存のホッパー等を備えた機械や、既存の着雪箇所を構成する部材を有する除雪装置及び除雪用具並びにこれらを備えた機械等に、非粘着性の付与された摺動面等の部材の表面を容易に短時間で形成することができる。すなわち、例えば、ホッパー、バケット、車両荷台等や、着雪箇所を構成する部材等は比較的大型な部材であることが多いため、持ち運びが困難であるが、上述の構成を採用することで、大掛かりなコーティング設備を用いなくとも、場所を選ばず、容易に短時間に取り付けることが可能である。このような固定部としては、例えば、ホッパー等又は着雪箇所を構成する部材等にボルトナットやリベット等で固定するための貫通穴、雄ネジと螺合する雌ネジ穴、ホッパー等又は着雪箇所を構成する部材等の所定部位を挟持するクリップ、ホッパー等や、着雪箇所を構成する部材等の所定部位に設けられた突起部と係合して係止する突起受け具、ホッパー等や、着雪箇所を構成する部材等の所定部位に設けられた凹部に嵌め込んで固定する嵌め込み構造等や、基材シートに固定された永久磁石、電磁石又は磁性体(これらは、各種部材及び基材シートが磁性体か否かにより選択され、磁石と磁性体との相互作用により各種部材と非粘着シートが固定される。)等の物理的結合において採用されるもの等が挙げられる。このような固定部は、用途等に応じて、1箇所又は2箇所以上設けることができる。固定部の設置位置も、用途等に応じて決定することができる。また、これらの各種の固定部は組み合わせて採用してもよい。
【0032】
このように基材シートに固定部を設けてもよいが、基材シートを構成する材質が溶接可能である場合は、基材シートを溶接することで、非粘着シートをホッパー等又は着雪箇所を構成する部材等に固定してもよい。この場合、PTFEシートが過加熱されないように、固定部位を考慮して基材シートの形状を選定したり、溶接装置の出力を制御するとよい。また、接着剤を用いて、非粘着シートをホッパー等又は着雪箇所を構成する部材等に固定してもよい。このように、非粘着シートの溶接部位(溶接面)や、接着剤を塗布した接着面を接合部としても良い。
【0033】
PTFEシートと基材シートの剥離強度は、3N/mm以上である。剥離強度は、通常高い方がよいため、特に上限はない。このような剥離強度は、例えば、粘着テープ・粘着シート試験方法の剥離強度試験で測定することができる。その際の試験条件は、JIS Z 0237に準じて行うことができる。尚、本発明では、剥離強度は、測定値を試験片の幅で除した値とする。
【0034】
PTFEシートと基材シートとをこのような剥離強度を有するように接合する方法は特
に限定はなく、例えば、両シートの接合面を表面処理行った後両者を圧着する方法、接着剤を介して接合する方法等が挙げられる。接着剤としては、基材シートとPTFEシートの双方に親和性のあるものを用いるのが好ましい。このような接着剤を用いることで、双方のシートの表面処理を省略することができる。また、PTFEシートは、その接合面の全体が基材シートと接合しているのが好ましい。
【0035】
PTFEシートは、前述のように、優れた非粘着性を有し、接着が困難な傾向にあるため、PTFEと親和性の良好な接着剤を選択するのが好ましい。このような接着剤としては、接着性含フッ素共重合体を例示することができる。接着性含フッ素共重合体としては、例えば、特許第4424246号公報、特許第5365939号公報、特許第5263269号公報に記載のものが挙げられる。これらの接着性含フッ素共重合体を以下に示す。
【0036】
接着性含フッ素共重合体は、テトラフルオロエチレン(以下、TFEという。)及び/又はクロロトリフルオロエチレン(以下、CTFEという。)に基づく繰り返し単位(a)、ジカルボン酸無水物基を有しかつ環内に重合性不飽和基を有する環状炭化水素モノマーに基づく繰り返し単位(b)及びその他のモノマー(ただし、繰り返し単位(a)、(b)と重複する場合は、そのモノマーを除く。)に基づく繰り返し単位(c)を含有する。
【0037】
接着性含フッ素共重合体において、繰り返し単位(a)、繰り返し単位(b)及び繰り返し単位(c)の合計モル量に対して、繰り返し単位(a)が50~99.89モル%であり、繰り返し単位(b)が0.01~5モル%であり、繰り返し単位(c)が0.1~49.99モル%である。好ましくは繰り返し単位(a)が50~99.47モル%、繰り返し単位(b)が0.03~3モル%であり、繰り返し単位(c)が0.5~49.97モル%、より好ましくは繰り返し単位(a)が50~98.95モル%、繰り返し単位(b)が0.05~2モル%であり、繰り返し単位(c)が1~49.95モル%である。繰り返し単位(a)、繰り返し単位(b)及び繰り返し単位(c)のモル%がこの範囲にあると、接着性含フッ素共重合体は、耐熱性、耐薬品性に優れる。さらに、繰り返し単位(b)のモル%がこの範囲にあると、接着性含フッ素共重合体は、該接着性含フッ素共重合体以外の熱可塑性樹脂等の構成材質の基材シート及びPTFEシートとの接着性に優れる。繰り返し単位(c)のモル%がこの範囲にあると、接着性含フッ素共重合体は、成形性に優れ、耐ストレスクラック性等の機械物性に優れる。
【0038】
前述の「ジカルボン酸無水物基を有しかつ環内に重合性不飽和基を有する環状炭化水素モノマー」(以下、単に環状炭化水素モノマーと略称する)は、1つ以上の5員環又は6員環からなる環状炭化水素であって、しかもジカルボン酸無水物基と環内重合性不飽和基を有する重合性化合物をいう。環状炭化水素としては1つ以上の有橋多環炭化水素を有する環状炭化水素が好ましい。すなわち、有橋多環炭化水素からなる環状炭化水素、有橋多環炭化水素の2以上が縮合した環状炭化水素、又は有橋多環炭化水素と他の環状炭化水素が縮合した環状炭化水素であることが好ましい。また、この環状炭化水素モノマーは環内重合性不飽和基、すなわち炭化水素環を構成する炭素原子間に存在する重合性不飽和基、を1つ以上有する。この環状炭化水素モノマーはさらにジカルボン酸無水物基(-CO-O-CO-)を有し、ジカルボン酸無水物基は炭化水素環を構成する2つの炭素原子に結合していてもよく、環外の2つの炭素原子に結合していてもよい。好ましくは、ジカルボン酸無水物基は上記環状炭化水素の環を構成する炭素原子であってかつ隣接する2つの炭素原子に結合する。さらに、環状炭化水素の環を構成する炭素原子には、水素原子の代わりに、ハロゲン原子、アルキル基、ハロゲン化アルキル基、その他の置換基が結合していてもよい。
【0039】
その具体例としては、式(1)~(8)で表されるものである。ここで、式(2)、(5)~(8)におけるRは、炭素原子数1~6の低級アルキル基、フッ素原子、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子から選択されるハロゲン原子、前記低級アルキル基中の水素原子がハロゲン原子で置換されたハロゲン化アルキル基を示す。
【0040】
【化1】
【0041】
【化2】
【0042】
【化3】
【0043】
【化4】
【0044】
【化5】
【0045】
【化6】
【0046】
【化7】
【0047】
【化8】
【0048】
上記環状炭化水素モノマーとしては、好ましくは、式(1)で表される、5-ノルボルネン-2,3-ジカルボン酸無水物(以下、NAHという。)、式(3)、(4)で表される酸無水物である環状炭化水素モノマー、式(2)及び式(5)~(8)において、置換基Rがメチル基である環状炭化水素モノマーある。より好ましくはNAHである。
【0049】
その他のモノマーとしては、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン(以下、VdFという。)、CTFE(但し、繰り返し単位(a)として使用される場合を除く。)、トリフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン(以下、HFPという。)、CF=CFORf1(ここで、Rf1は炭素数1~10で炭素原子間に酸素原子を含んでもよいペルフルオロアルキル基。)、CF=CFORf2SO(Rf2は炭素数1~10で炭素原子間に酸素原子を含んでもよいペルフルオロアルキレン基、Xはハロゲン原子又は水酸基。)、CF=CFORf2CO(ここで、Rf2は前記と同じ、Xは水素原子又は炭素数1~3のアルキル基。)、CF=CF(CFOCF=CF(ここで、pは1又は2。)、CH=CX(CF(ここで、X及びXは、互いに独立に水素原子又はフッ素原子、qは2~10の整数。)、ペルフルオロ(2-メチレン-4-メチル-1,3-ジオキソラン)、エチレン、プロピレン、イソブテン等の炭素数2~4のオレフィン、酢酸ビニル等のビニルエステル、エチルビニルエーテル、シクロヘキシルビニルエーテル等のビニルエーテル等が挙げられる。その他のモノマーは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0050】
CF=CFORf1の具体例としては、例えば、CF=CFOCFCF、CF=CFOCFCFCF、CF=CFOCFCFCFCF、CF=CFO(CFF等が挙げられる。好ましくは、CF=CFOCFCFCFである。
【0051】
CH=CX(CFの具体例としては、例えば、CH=CH(CFF、CH=CH(CFF、CH=CH(CFF、CH=CF(CFH、CH=CF(CFH等が挙げられる。好ましくは、CH=CH(CFF又はCH=CH(CFFである。
【0052】
その他のモノマーとしては、好ましくは、VdF、HFP、CTFE(但し、繰り返し単位(a)として使用される場合を除く。)、CF=CFORf1、CH=CX(CF、エチレン、プロピレン及び酢酸ビニルからなる群から選ばれる1種以上であり、より好ましくは、HFP、CTFE(但し、繰り返し単位(a)として使用される場合を除く。)、CF=CFORf1、エチレン及びCH=CX(CFからなる群から選ばれる1種以上である。最も好ましくは、HFP又はCF=CFORf1である。また、CF=CFORf1としては、Rf1が炭素数1~6のペルフルオロアルキル基が好ましく、炭素数2~4のペルフルオロアルキル基がより好ましく、ペルフルオロプロピル基が最も好ましい。
【0053】
接着性含フッ素共重合体の具体例としては、例えば、TFE/CF=CFOCFCFCF/NAH共重合体、TFE/HFP/NAH共重合体、TFE/CF=CFOCFCFCF/HFP/NAH共重合体、TFE/VdF/NAH共重合体、TFE/CH=CH(CFF/NAH/エチレン共重合体、TFE/CH=CH(CFF/NAH/エチレン共重合体、CTFE/CH=CH(CFF/NAH/エチレン共重合体、CTFE/CH=CH(CFF/NAH/エチレン共重合体、CTFE/CH=CH(CFF/NAH/エチレン共重合体等が挙げられる。
【0054】
接着性含フッ素共重合体の融点は、150~320℃が好ましく、200~310℃がより好ましい。融点は、繰り返し単位(a)、繰り返し単位(b)及び繰り返し単位(c)の含有割合を前記範囲内で適宜選定して調節することができる。
【0055】
接着性含フッ素共重合体の高分子末端基として、エステル基、カーボネート基、水酸基、カルボキシル基、カルボニルフルオリド基、酸無水物残基等の接着性官能基を有すると、該接着性含フッ素共重合体以外の熱可塑性樹脂等の構成材質の基材シート及びPTFEシートとの接着性に優れるので好ましい。接着性官能基を有する高分子末端基は、接着性含フッ素共重合体の製造時に、ラジカル重合開始剤、連鎖移動剤等を適宜選定することにより導入することができる。
【0056】
接着性含フッ素共重合体は、その容量流速(以下、Q値という。)は、0.1~1000mm/秒とすることができる。Q値は、接着性含フッ素共重合体の溶融流動性を表す指標であり、分子量の目安となる。Q値が大きいと分子量が低く、小さいと分子量が高いことを示す。Q値は、島津製作所製フローテスタを用いて、接着性含フッ素共重合体の融点より50℃高い温度において、荷重7kg下に直径2.1mm、長さ8mmのオリフィス中に押出すときの接着性含フッ素共重合体の押出し速度である。Q値が小さすぎると押出し成形が困難となり、大きすぎると接着性含フッ素共重合体の機械的強度が低下する。接着性含フッ素共重合体のQ値は5~500mm/秒が好ましく、10~200mm/秒がより好ましい。
【0057】
接着性含フッ素共重合体の製造方法は特に制限はなく、ラジカル重合開始剤を用いるラジカル重合法が用いられる。重合方法としては、塊状重合、フッ化炭化水素、塩化炭化水素、フッ化塩化炭化水素、アルコール、炭化水素等の有機溶媒を使用する溶液重合、水性媒体及び必要に応じて適当な有機溶剤を使用する懸濁重合、水性媒体及び乳化剤を使用する乳化重合が挙げられ、特に溶液重合が好ましい。
【0058】
ラジカル重合開始剤としては、半減期が10時間である温度が0℃~100℃であるラジカル重合開始剤が好ましい。より好ましくは20~90℃である。その具体例としては、アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物、イソブチリルペルオキシド、オクタノイルペルオキシド、ベンゾイルペルオキシド、ラウロイルペルオキシド等の非フッ素系ジアシルペルオキシド、ジイソプロピルペルオキシジカ-ボネート、ジ-n-プロピルペルオキシジカーボネート等のペルオキシジカーボネート、tert-ブチルペルオキシピバレート、tert-ブチルペルオキシイソブチレート、tert-ブチルペルオキシアセテート等のペルオキシエステル、(Z(CFCOO)(ここで、Zは水素原子、フッ素原子又は塩素原子であり、rは1~10の整数である。)で表される化合物等の含フッ素ジアシルペルオキシド、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム等の無機過酸化物等が挙げられる。
【0059】
接着性含フッ素共重合体のQ値を制御する場合、連鎖移動剤を使用することも好ましい。連鎖移動剤としては、メタノール、エタノール等のアルコール、1,3-ジクロロ-1,1,2,2,3-ペンタフルオロプロパン、1,1-ジクロロ-1-フルオロエタン等のクロロフルオロハイドロカーボン、ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン等のハイドロカーボンが挙げられる。接着性含フッ素共重合体の高分子末端に接着性官能基を導入するための連鎖移動剤としては、酢酸、無水酢酸、酢酸メチル、エチレングリコール、プロピレングリコール等が挙げられる。
【0060】
接着性含フッ素共重合体の重合条件は特に限定されず、重合温度は0~100℃が好ましく、20~90℃がより好ましい。重合圧力は0.1~10MPaが好ましく、0.5~3MPaがより好ましい。重合時間は1~30時間が好ましい。
【0061】
重合中の環状炭化水素モノマーの濃度は、全モノマーに対して0.01~5モル%が好ましく、0.1~3モル%がより好ましく、0.1~1モル%が最も好ましい。環状炭化水素モノマーの濃度が高すぎると、重合速度が低下する傾向となる。前記範囲にあると製造時の重合速度が低下せず、かつ、含フッ素共重合体は接着性に優れる。重合中、環状炭化水素モノマーが重合で消費されるに従って、消費された量を連続的又は断続的に重合槽内に供給し、環状炭化水素モノマーの濃度をこの範囲に維持することが好ましい。
【0062】
上記のような製造方法で得られた接着性含フッ素共重合体は、定法に従って、ペレット、粉体、その他の形態として得ることができる。この接着性含フッ素共重合体は、成形性に優れるため、射出成形、押出成形が可能であり、所望の形状に成形することが可能である。また、上述の接着性フッ素共重合体は、柔軟性に優れているため、これらを接着剤として用いたシート成形体は、曲げ加工や絞り加工を行ったとしても、積層したシートの剥離を抑制できる。
【0063】
前記接着性含フッ素共重合体は、前述のようにして製造することもできるが、市販のものを用いることができる。例えば、旭硝子株式会社製のEA-2000等が挙げられる。
【0064】
接着剤の形態は、特に限定はなく、例えば、紛体、ペースト、液体、シート等が挙げられる。接着剤が、前述の接着性含フッ素共重合体の場合は、シートの成形体を用いることができる。
【0065】
接着剤を用いる場合、接着剤の厚みは、その種類によるが、所定以上の剥離強度を確保する観点から、5~100μmが好ましく、25~100μmがより好ましい。
【0066】
非粘着シートの形状は、特に限定はなく、例えば、平板、湾曲板、筒状等が挙げられる。また、例えば、ホッパー等の各種用途及び着雪箇所を構成する部材等に適した形状を予め形成して、各用途の構成部材として直接使用することも可能であるし、ホッパー等の用途や滑雪用の用途において、原材料等、雪、氷と接する既存の部材の表面に、事後的に設置することが可能な形状とすることも可能である。このような形状は、基材シートを所望の形状に形成し、加熱加圧処理を行ってもよいし、平板の非粘着シートに対して曲げ加工や切断加工等を施すことで形成することもできる。ホッパー等や着雪箇所を構成する部材等は、客先の要望に応じて形状が多様である場合があるため、その形状に合わせて、加工を行う場合は、平板であってもよい。非粘着シートは所定以上の剥離強度を有するため、曲げ加工や絞り加工等を行っても、PTFEシートと基材シートとが剥離するのを抑制することができる。
【0067】
非粘着シートの製造方法は、予め成形されたPTFEシートと基材シートとを両者の剥離強度が3N/mm以上となるように接合する工程を含む。接着剤を用いる場合について説明すると以下のとおりである。
【0068】
先ず、PTFEシートを成形する。そして、所望の基材シートとPTFEシートの間に接着剤を配置し、必要に応じて、両シートの表面処理、加熱、加圧、を行って、両シートが所定の剥離強度を有するように接合された積層体が得られる。PTFEシートの厚みは0.5mm以上であるのが好ましい。
【0069】
前述の接着性含フッ素共重合体を接着剤として用いる場合は、紛体、ペレット、シート等の各種形態のものを用いることができるが、剥離強度の制御の観点からは、シートを用いるのが好ましい。シートの厚みは、接着力の安定性とコストの観点から、5~100μmが好ましく、25~100μmがより好ましい。また、前述のように、接着性含フッ素共重合体は、PTFEシートとの親和性が良好であるため、PTFEシートの表面処理は不要である。また、金属、有機物との親和性も良好であるため、基材シートの材質がそれらの場合、表面処理は不要である。また、PTFEの融点以上の温度、好ましくは、330~400℃に加熱することが好ましく、このような温度で加熱した状態で加圧処理を行うことがより好ましい。加圧処理は、0.1~10MPaが好ましい。
【0070】
前述の非粘着シートは、例えば、ホッパー、バケット、車両荷台等や、着雪箇所等を構成する部材の、原材料等や、雪、氷等と接する表面(摺動面とも称する。)に設けられる。これにより、それぞれの表面(摺動面)に非粘着性を付与することができる。或いは、粘着シートによりホッパー等や着雪箇所等を構成ずる部材等の各種部材の表面(摺動面)に非粘着性が付与された非粘着性部材を製造することができる。より詳細には、前述の非粘着シートを、各種部材の表面に、その形状に合わせて設置して、その表面の少なくとも一部を被覆することで、例えば、各種部材の摺動面となる表面に非粘着性が付与された非粘着性部材を新たに製造することができる。或いは、例えば、既存の各種部材の表面に非粘着性を付与し、その表面を改質することができる。その際、非粘着シートと各種部材との固定は、非粘着シートの基材シートを各種部材に固定するのが好ましい。また、この固定は、溶接、接着剤による接合及び物理的接合から選択される少なくとも1種とすることができる。物理的結合は、例えば、基材シートに設けられた前述の固定部を介して行うことができる。
【0071】
ホッパーは、混練機等の原材料の投入部、混練機の原材料を混合や混練する部分の容器
等を構成するものである(例えば、特許文献1参照。)。そして、その投入部や容器の、原材料が接する部分に、PTFEシートが原材料と接する摺動面になるように前述の非粘着シートが設置される。
【0072】
ホッパーに投入される原材料としては、付着性のあるものに有効であり、例えば、バター、餅、果肉、肉、魚肉、野菜等の食品、砂、酸化鉄等の無機物、樹脂のペレットや紛体等が挙げられる。PTFEは人体に対する安全性が高いため、食品用のホッパーに特に好適である。また、前述の接着性含フッ素共重合体も安全性が高いため、これを接着剤として用いる場合は、さらに安全性が向上する。
【0073】
ホッパーへのホッパー用非粘着シートの設置は、例えば、部材であるホッパーの摺動面に、その形状に合わせた非粘着シートを予め又は事後的に設置して、摺動面の少なくとも一部、好ましくは全体を被覆することで行われる。これにより、非粘着性が付与されたホッパーの製造又は部材であるホッパーの摺動面の改質を行うことができる。ホッパーは、一般に円錐形、角錐形、お椀形等の形状を有し、鉛直方向下側に向かって先細る形状を有している。そのため、例えば角錐形の場合は、複数の短冊状の平板の非粘着シートを、ホッパーの摺動面に先細るように並べ、摺動面全体を隙間なく被覆し、基材シートに形成された固定部により、ホッパーに固定することで、ホッパーの摺動面の全体を被覆することができる。複数の短冊状の平板は、それぞれ角錐形に合わせて適宜形状を調整することができる。円錐の場合は、平板ではなく、短軸方向に曲げ加工を施した湾曲板としてもよい。お椀形の場合は、短軸及び長軸方向に曲げ加工を施した湾曲板とするのが好ましい。また、例えば、概ね同様の形状の非粘着シートを用いて、PTFEシートが摺動面となるように直接ホッパーを形成することで、ホッパーを製造又はその摺動面を改質することができる。この場合、ホッパー用途に適した機械的強度を有するように非粘着シートを調整することは勿論のことである。
【0074】
バケットは、ブルドーザー、ショベルカー等の建設機械に設けられる、粘土等の掘削物や原材料を入れて運搬する容器である(例えば、特許文献2参照。)。そして、バケットの掘削物や原材料が接する部分に、PTFEシートが掘削物等と接する摺動面になるように前述の非粘着シートが設置される。非粘着シートは、掘削物等が接する部分全体に設置してもよいし、その一部部分、例えば、掘削物等が付着して堆積し易い部分にのみ、設置してもよい。
【0075】
バケットへのバケット用非粘着シートの設置は、例えば、部材であるバケットの摺動面に、その形状に合わせた非粘着シートを予め又は事後的に設置して、摺動面の少なくとも一部を被覆することで行われる。これにより、非粘着性が付与されたバケットの製造又は部材であるバケットの摺動面の改質を行うことができる。バケットは、概ね、断面略U字状の1つの湾曲部とその長軸方向の両端に設けられた平板部とで形成された構造を有している。そのため、例えば湾曲部に非粘着シートを設ける場合は、1つの平板の非粘着シートに曲げ加工を施して、バケットの湾曲部の摺動面全体を被覆するように設置してもよいし、複数の平板及び/又は湾曲板の非粘着シートを用いて、湾曲部の摺動面全体又は一部を被覆するように設置してもよい。バケットの2つの平板部については、それぞれの平板部に1つ又は2つ以上の平板の非粘着シートを用いて、バケットの平板部の摺動面全体又は一部を被覆するように設置することができる。また、バケットへの非粘着シートの固定は、基材シートに設けられた前述の固定部により固定することができる。また、例えば、概ね同様の形状の非粘着シートを用いて、PTFEシートが摺動面となるように直接バケットの摺動面を形成することで、バケットを製造又はその摺動面を改質することができる。この場合、バケット用途に適した機械的強度を有するように非粘着シートを調整することは勿論のことである。
【0076】
車両荷台は、ダンプトラック等に設けられたものである。粘土等の掘削物や原材料を入れて運搬する容器である(例えば、特許文献3参照。)。そして、車両荷台の掘削物や原材料が接する部分に、PTFEシートが掘削物等と接する側になるように前述の非粘着シートが設置される。このような車両荷台としては、掘削物等を車両荷台から摺動させて取り出すため、傾斜荷台として使用される場合に好適である。また、非粘着シートはPTFEシートと基材シートとが接合されており、これを車両荷台に設置するため、掘削物等が多量に積載される車両荷台であっても、PTFEシートの破損を抑制することができる。
【0077】
車両荷台への車両荷台用非粘着シートの設置は、例えば、部材である車両荷台の摺動面に、その形状に合わせた非粘着シートを予め又は事後的に設置して、摺動面の少なくとも一部、好ましくは全体を被覆することで行われる。そして、車両荷台の、掘削物等が接する部分に、PTFEシートが掘削物等と接する摺動面になるように前述の非粘着シートが設置される。これにより、非粘着性が付与された車両荷台の製造又は部材である車両荷台の摺動面の改質を行うことができる。車両荷台は、一般に、概ね、直方体の鉛直上側の面が開放した形状を有している。即ち、1つの略長方形の底面部と4つの略長方形の側面部を有している。そのため、例えば、車両荷台の底面部及び側面部に、それぞれ、1つ又は2つ以上の平板の非粘着シートを隙間なく並べて、車両荷台の底面部及び側面部の摺動面を被覆するように設置することができる。また、車両荷台への非粘着シートの固定は、基材シートに設けられた前述の固定部により固定することができる。また、例えば、概ね同様の形状の非粘着シートを用いて、PTFEシートが摺動面となるように直接車両荷台の摺動面を形成することで、車両荷台を製造又はその摺動面を改質することができる。この場合、車両荷台用途に適した機械的強度を有するように非粘着シートを調整することは勿論のことである。
【0078】
着雪箇所を構成するものとしては、道路用又は鉄道用車両に備えられた除雪装置又は除雪用具(一般列車の雪の排除器(スノウプラウ)を含む。)、道路用又は鉄道用等の車両のボディ/窓/ライト、航空機、船舶、トラクター等の農業用機械、建築用壁材、屋根材、信号機、アイゼン等の登山用具等が挙げられる。もっとも、これらに非粘着シート適用した場合、滑雪性以外にも、PTFEシートの機能から、防汚性を付与することができる。例えば、船舶では、貝類や藻等の水生生物に対する付着防止効果を付与することができる。
【0079】
このうち、例えば、除雪装置又は除雪用具は、道路用又は鉄道用の除雪車両や、一般列車の先頭車両等に設けられるもので、道路や線路の積雪、降雪、氷等と接して、着雪する部分を有している(例えば、道路用除雪車両については特許文献4参照。)。鉄道用の除雪列車では、例えば、ラッセル車の排雪板、マックレー車やジョルダン車の翼、ロータリー車の回転翼等の部材が挙げられる。道路用の除雪車両では、除雪トラック及び除雪ドーザーのフロントプラウ(ブレード)又はバケット、除雪グレーダーのブレード、ロータリー除雪車の回転翼等の部材が挙げられる。また、除雪車両の着雪箇所としては、除雪装置、除雪用具以外の車両本体(ボディ)等も含まれ得る。
【0080】
前述のような着雪箇所を構成するものの、雪、氷が接する部分を構成する部材の表面に、PTFEシートが雪等と接する摺動面になるように前述の非粘着シートが設置される。
【0081】
着雪箇所を構成する部材(着雪部材とも称する。)への滑雪用非粘着シートの設置は、例えば、着雪箇所を構成する部材の摺動面に、その形状に合わせた非粘着シートを予め又は事後的に設置して、摺動面を被覆することで行われる。これにより、非粘着性が付与された、着雪箇所を構成する着雪部材の製造又は着雪箇所を構成する着雪部材の摺動面の改質を行うことができる。その際、形状に応じて、1つ又は2つ以上の平板又は湾曲板の非粘着シートを用いることができる。2つ以上の非粘着シートを用いる場合は、それらは隙
間なく並べるのが好ましい。また、湾曲板は、予め湾曲状に成形したものでもよいし、平板に曲げ加工を施したものでもよい。非粘着シートは、基材シートに設けられた固定部で着雪箇所を構成する部材に固定することができる。また、例えば、概ね同様の形状の非粘着シートを用いて、PTFEシートが摺動面となるように直接着雪部材の摺動面を形成することで、非粘着性が付与された着雪部材を製造又は着雪部材の摺動面を改質することができる。この場合、着雪部材の用途に適した機械的強度を有するように非粘着シートを調整することは勿論のことである。
【0082】
前述のような粘着シートは、ホッパー、バケット、車両荷台、着雪箇所を構成する部材以外にも、各種の用途に適用可能である。そして、PTFEシートに基づく各種機能(低摩擦性、防汚性、非粘着性、耐熱性、耐薬品性、絶縁性等)を容易に付与することができる。粘着シートの適用例を更に例示すると以下のとおりであるが、これらに限定されることはなく、PTFEシートに基づく各種機能を付与することが要求される各種の部材の表面に適用することができる。(ア)混練機の原材料等と接する内壁面やスクリュー、攪拌機の原材料等と接する内壁面や撹拌翼に適用することで、原材料等の付着を防止し、原材料等による汚れを防止することができる。(イ)物品等の搬送用のコンベアにおいて、物品等と接する部分を構成する部材(ベルト等)の表面に適用することで、物品の付着を防止し、物品等による汚れを防止することができる。また、物品が高温を呈する場合でも、PTFEシートの耐熱性の範囲で適用可能である。(ウ)配管の内面に適用することで、配管内を通過する通過物の付着を防止し、その通過物による汚れを防止することができる。また、耐熱性、耐薬品性を付与することもできるため、通過物として、相応に高温のものや、酸やアルカリ等を通過させることができる。配管としては、一般的な水路、工場内の原料等の供給管、樋等が挙げられる。(エ)破砕機や切削機の破砕刃や切削刃、破砕機の破砕対象物や破砕物を収容する内壁面等に適用することで、処理対象物や処理物の付着を防止することができる。また、処理時に発生する熱や、処理対象物等の熱の影響を抑制することができる。(オ)炊飯器、炊飯釜等の加熱器具の表面に適用することで、表面への加熱対象物の付着を防止し、汚れを防止することができる。また、加熱時の熱の影響を抑制することができる。耐薬品性を有するため加熱対象物は各種の薬品であってもよい。(カ)電池等の薬液が接する部分のパッキン等に適用することもできる。PTFEシートの耐薬品性、防汚性により良好なパッキン性能を付与することができる。(キ)ワッシャーとして用いることで、絶縁性を付与することができる。(ク)薬液センサーの少なくとも薬液と接する表面に適用することもできる。PTFEシートの耐薬品性により、各種の薬液に対して薬液センサーの適用を可能にするとともに、同シートの防汚性により、薬液の付着を防止して、薬液センサーの維持管理を容易にすることができる。
【0083】
前述の非粘着シートは、例えば、ホッパー等や着雪箇所を構成する部材等の表面に設置され、PTFEシートの効果が低下した後は、非粘着シートを取り換えることで、容易に再生させることが可能である。
【実施例
【0084】
以下、実施例に基づき、詳細な実施形態を説明する。
【0085】
(実施例1)
PTFEシート(スターライト工業製、製品名#31000、長さ100mm、幅16mm、厚さ0.5mm)、基材シートとして鉄製シート(長さ100mm、幅16mm、厚さ1.0mm)、接着剤として接着性含フッ素共重合体のシート(旭硝子株式会社製、EA-2000、長さ30mm、幅16mm、厚さ0.05mm)を用い、PTFEシートと鉄製シートを長さ及び幅方向において一致するように重ね合わせ、両者の間の一方の端部に接着剤を配置して、プレス機(テスター産業株式会社製、卓上型テストプレス)に設置した。その型温を360℃として、3MPaで200秒加熱加圧処理した後、冷却し
、PTFEシートと基材シートとが接合された非粘着シートを得た。得られた非粘着シートを剥離試験に使用した。
【0086】
(実施例2~4)
鉄製シートに変えて、表1に示す材質のシートを用いた以外は、実施例1と同様にして非粘着シートを得た。表1中、「SUS」は、JIS規格G4304のSUS304のステンレス鋼製のシート、「アルミ」は、JIS規格H4000の合金記号A5052のアルミニウム製のシート、「銅」は、JIS規格H3100記載の合金記号C1100の銅製のシートを用いたことを意味する。基材シートの寸法は、実施例1の場合と同じとした。
【0087】
(比較例1)
樹脂シートとしてセロハンテープ(ニチバン社製、セロテープ(登録商標) No.405(産業用)、幅10mm)を用い、基材シートとして、実施例2と同じステンレス鋼製のステンレスシートを用い、セロハンテープをステンレスシートに貼付して、セロハンテープとステンレスシートの積層体を作製した。得られた積層体を剥離試験に使用した。表1中、樹脂シートの欄を「セロハン」として示した。
【0088】
(比較例2)
樹脂シートとしてPFAテープ(中興化成工業株式会社製、チューコーフロー粘着テープ、AFA-113A、幅25mm)を用い、基材シートとして、実施例2と同じステンレス鋼製のステンレスシートを用い、PFAテープをステンレスシートに貼付して、PFAテープとステンレスシートの積層体を作製した。得られた積層体を剥離試験に使用した。表1中、樹脂シートの欄を「PFA」として示した。
【0089】
(評価)
<剥離試験>
実施例及び比較例で得られた非粘着シート及び積層体を用いて、オートグラフ(株式会社島津製作所製、AG-20kNXPLUS)を用いて、180度剥離強度を測定した。試験条件は、引張速度を20mm/minとし、4回行った平均値を剥離強度とした。結果を表1に示す。
【0090】
【表1】
【0091】
表1より、実施例では、剥離強度が3N/mm以上であるため、予め成形されたPTFEシートと基材シートは良好に接合されており、例えば、ホッパー等の用途、滑雪等の用途に用いても、PTFEによる効果を従来より持続させることが期待できる。