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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-22
(45)【発行日】2022-12-01
(54)【発明の名称】フロントフォーク
(51)【国際特許分類】
   F16F 9/58 20060101AFI20221124BHJP
   F16F 9/49 20060101ALI20221124BHJP
   F16F 9/34 20060101ALI20221124BHJP
   B62K 25/08 20060101ALI20221124BHJP
【FI】
F16F9/58 B
F16F9/49
F16F9/34
B62K25/08 C
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2018189137
(22)【出願日】2018-10-04
(65)【公開番号】P2020056484
(43)【公開日】2020-04-09
【審査請求日】2021-09-24
(73)【特許権者】
【識別番号】514241869
【氏名又は名称】KYBモーターサイクルサスペンション株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100122323
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 憲
(74)【代理人】
【識別番号】100067367
【弁理士】
【氏名又は名称】天野 泉
(72)【発明者】
【氏名】坂脇 俊彦
【審査官】長清 吉範
(56)【参考文献】
【文献】実公昭59-021312(JP,Y2)
【文献】実開昭63-109050(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 9/58
F16F 9/49
F16F 9/34
B62K 25/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アウターチューブと、
前記アウターチューブ内に摺動自在に挿入されるインナーチューブと、
前記アウターチューブ内に設けられて前記インナーチューブに出入りするシリンダと、
前記インナーチューブの先端部に設けられる筒状のケースと、
前記シリンダの外周に軸方向へ移動可能に装着されて前記ケースに出入り可能な環状のロックピースと、
前記アウターチューブの一端開口を塞ぐ底部に設けられて前記ロックピースが離着座可能な弁座と、
前記シリンダの外周に前記ロックピースと軸方向に並べて配置され、前記ロックピースを前記弁座へ向けて付勢するばねとを備え
前記ロックピースが前記ケース内へ挿入された状態で前記弁座から離座すると、前記ロックピースと前記シリンダとの間に前記ロックピースの軸方向全長にわたって連続して形成される通路が開き、前記ロックピースと前記アウターチューブとの間に形成される液圧ロック室と前記ケースの内側が前記通路により連通される
ことを特徴とするフロントフォーク。
【請求項2】
前記ロックピースのばね側の端部には、凹部が形成されている
ことを特徴とする請求項1に記載のフロントフォーク。
【請求項3】
前記ばねは、環状の波形ばねである
ことを特徴とする請求項1又は2に記載のフロントフォーク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フロントフォークの改良に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、フロントフォークの中には、有底筒状のアウターチューブと、アウターチューブ内に摺動自在に挿入されるインナーチューブと、アウターチューブの底部に起立してインナーチューブに出入りするシリンダと、インナーチューブの先端部に設けられる筒状のケースと、アウターチューブの底部近傍のシリンダの外周に装着されてケースに出入り可能な環状のロックピースとを備えるものがある(例えば、特許文献1,2)。
【0003】
そして、インナーチューブがアウターチューブ内へ侵入するのに伴いシリンダがインナーチューブ内へと侵入し、ケースがアウターチューブの底部に接近すると、ケース内にロックピースが挿入される。すると、ケースの先端とアウターチューブの底部との間であってロックピースとアウターチューブとの間に液圧ロック室が形成されるとともに、この液圧ロック室内に液体が閉じ込められてその内圧が上昇し、インナーチューブのそれ以上のアウターチューブ内への侵入を抑制する。
【0004】
また、ロックピースは、シリンダの軸方向に移動可能で、アウターチューブの底部に設けられた弁座に離着座できるとともに、ばねでその弁座へ向けて付勢されている。そして、インナーチューブがアウターチューブから退出するのに伴いケースが底部から離れる方向へ移動すると、ロックピースがケースによって引き上げられる。すると、ロックピースが弁座から離れてロックピースとシリンダとの間に形成される通路が開き、ロックピースの外周側にできる液圧ロック室とケースの内側がその通路により連通される。
【0005】
これにより、液圧ロック室の液圧ロック状態が解除され、ケース内の液体が通路を通って液圧ロック室へと向かう。このように、ロックピースが底部から離れた状態では、ばねが圧縮されており、ロックピースがケースから完全に抜け出ると、そのばねの弾性力によってロックピースが弁座に着座する初期位置へ戻る。このため、再びロックピースがケース内へ侵入した際には、液圧ロック室内に液体を閉じ込めて再び液圧ロック状態にできる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2000-310270号公報
【文献】特開2006-17160号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ここで、特開2000-310270号公報、及び特開2006-17160号公報に記載のフロントフォークでは、ロックピースを付勢するばねがコイルばねからなり、一部又は全部がロックピースとシリンダとの間に挿入されている。このように、ロックピースとこれを付勢するばねが内外二重に配置される場合、例えば、内径の小さいインナーチューブを採用するフロントフォークでは、ロックピースも小径になってばねを収容するスペースを確保できない場合がある。
【0008】
また、上記した従来のフロントフォークのロックピースは、ケースからの退出時に通路を開くチェックバルブとして機能するが、上記したような不具合は、このような場合に限らず、ロックピースとシリンダとの間にロックピースを付勢するばねを設ける場合に起こり得る。
【0009】
そこで、本発明は、上記不具合を解消し、インナーチューブ内径によらずロックピースを付勢するばねを設けられるフロントフォークの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するフロントフォークは、アウターチューブ内に摺動自在に挿入されるインナーチューブの先端部に設けられる筒状のケースと、アウターチューブ内に設けられてインナーチューブに出入りするシリンダの外周に軸方向へ移動可能に装着されて上記ケースに出入り可能な環状のロックピースと、アウターチューブの一端開口を塞ぐ底部に設けられてロックピースが離着座可能な弁座と、シリンダの外周にロックピースと軸方向に並べて配置されロックピースを弁座へ向けて付勢するばねとを備え、ロックピースがケース内へ挿入された状態で弁座から離座すると、ロックピースとシリンダとの間に前記ロックピース軸方向全長にわたって連続して形成される通路が開き、ロックピースとアウターチューブとの間に形成される液圧ロック室とケースの内側が通路により連通される。
【0011】
上記構成によれば、ロックピースを付勢するばねがロックピースと軸方向に並ぶ縦並びの配置となって、ロックピースの内側に挿入されない構造になる。このため、たとえ内径の小さいインナーチューブを採用するフロントフォークにおいてロックピースが小径になっても、ばねの収容スペースを確保できる。
【0013】
さらに上記構成によると、ロックピースがケース内を退出方向へ進む場合には、ロックピースがばねの付勢力に抗して弁座から離れ、これにより通路が開いて液圧ロック室の液圧ロック状態が解除される。このため、ロックピースがケースから抜け出る際に異音が生じるのを防止できる。さらには、ロックピースがケースから完全に抜け出た状態では、ばねでロックピースを弁座に着座させ、通路を閉じた初期位置へ戻せる。
【0014】
また、上記フロントフォークでは、ロックピースのばね側の端部に凹部が形成されていてもよい。このようにすると、凹部によってロックピースとばねとの間に隙間ができるので、この通路のばね側の端を常に開いた状態に維持して、ロックピースがケースから退出する際に液圧ロック室の液圧ロック状態を確実に解除できる。
【0015】
また、上記フロントフォークでは、ばねが環状の波形ばねであってもよい。このようにすると、ばねとロックピースとの間にワッシャ等を介装しなくても、ばねがロックピースの内周側に入りこむのを防止でき、ロックピースとばねとが軸方向に並んだ状態を維持できる。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係るフロントフォークによれば、インナーチューブ内径によらずロックピースを付勢するばねを設けられる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の一実施の形態に係るフロントフォークを部分的に示した縦断面図である。
図2図1の一部を拡大して示した縦断面図である。
図3】(a)は本発明の一実施の形態に係るフロントフォークのロックピースを示した平面図、(b)は(a)のロックピースのXX線断面図、(c)は(a)のロックピースの底面図である。
図4】(a)は本発明の一実施の形態に係るフロントフォークのロックピースを付勢するばねを示した正面図、(b)は(a)のばねの平面図、(c)は(a)のばねの斜視図である。
図5】本発明の一実施の形態に係るフロントフォークの第一の変形例を示し、変更部を拡大して示した縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に本発明の実施の形態のフロントフォークについて、図面を参照しながら説明する。いくつかの図面を通して付された同じ符号は、同じ部品か対応する部品を示す。また、フロントフォークが車両に取り付けられた状態での上下を、特別な説明がない限り、単に「上」「下」という。
【0019】
図1に示す本発明の一実施の形態に係るフロントフォークFは、鞍乗型車両において前輪を懸架する懸架装置である。鞍乗型車両とは、鞍に跨るような姿勢で乗車するタイプの車両全般のことであり、オートバイ、スクータ、自転車等が含まれる。本発明に係るフロントフォークは、如何なる鞍乗型車両に搭載されていてもよい。
【0020】
図1に示すように、本発明の一実施の形態に係るフロントフォークFは、アウターチューブ1とインナーチューブ2とを有して構成されるテレスコピック型のチューブ部材Tを備えている。さらに、本実施の形態のフロントフォークFは正立型であり、アウターチューブ1の上端開口からインナーチューブ2が摺動自在に挿入されている。
【0021】
そして、アウターチューブ1には、車輪側ブラケット10が一体に設けられており、アウターチューブ1は、その車輪側ブラケット10を介して前輪の車軸に連結される。その一方、インナーチューブ2は、その上端部に連結される車体側ブラケット(図示せず)を介して車体に連結される。このようにしてフロントフォークFは、アウターチューブ1を前輪(車輪)側へ、インナーチューブ2を車体側へ向けて配置され、車体と前輪の車軸との間に介装される。
【0022】
そして、鞍乗型車両が凹凸のある路面を走行する等して前輪が車体に対して上下に振動すると、インナーチューブ2がアウターチューブ1に出入りしてチューブ部材Tが伸縮する。このように、チューブ部材Tが伸縮することをフロントフォークFが伸縮するともいう。
【0023】
つづいて、インナーチューブ2の上端開口は、キャップ(図示せず)で塞がれている。その一方、アウターチューブ1は、有底筒状であり、アウターチューブ1の下端開口はその底部1aで塞がれている。さらに、アウターチューブ1とインナーチューブ2の重複部の間は、オイルシール11とダストシール12により塞がれている。このようにしてチューブ部材T内は密閉空間とされており、そのチューブ部材T内に液体と気体が封入されている。
【0024】
さらに、アウターチューブ1の底部1aには、シリンダ3がボルト30で連結されている。このシリンダ3は、筒状のシリンダ本体3aと、このシリンダ本体3aの先端から径方向外側へ張り出す環状のバルブケース部3bとを含む。そして、シリンダ3は、シリンダ本体3aがアウターチューブ1の中心部に軸方向に沿い、バルブケース部3bが上方を向くようにして配置され、そのバルブケース部3bがインナーチューブ2の内側に軸方向へ移動自在に挿入されている。
【0025】
そのシリンダ3におけるバルブケース部3bの上側には、懸架ばねとしてのコイルばね4が積層されている。このコイルばね4の上端は、インナーチューブ2の上端を塞ぐキャップ(図示せず)で支えられている。このため、コイルばね4は、シリンダ3とインナーチューブ2との間に介装されているといえる。また、コイルばね4は、圧縮ばねであり、圧縮されると弾性変形してその変形量に見合った弾性力を発揮する。
【0026】
より具体的には、フロントフォークFの収縮作動に伴いシリンダ3がインナーチューブ2内へと侵入するので、フロントフォークFが収縮するほどコイルばね4の変形量が大きくなって、発生する弾性力も大きくなる。そして、コイルばね4は、その弾性力によってフロントフォークFを伸長方向へ付勢して、車体を弾性支持するようになっている。なお、懸架ばねは、エアばね等のコイルばね4以外のばねであってもよい。
【0027】
つづいて、チューブ部材T内には、シリンダ3におけるシリンダ本体3aの内側からその上側にかけてリザーバ室Rが形成されるとともに、バルブケース部3bの下側であってシリンダ本体3aの外周側に筒状の液室Lが形成されている。そして、その液室Lが、インナーチューブ2の下端部に設けられるピストン部20によって上側の伸側室L1と下側の圧側室L2とに区画されている。
【0028】
これら伸側室L1と圧側室L2には、それぞれ作動油等の液体が充填されている。その一方、リザーバ室Rには、伸側室L1及び圧側室L2の液体と同じ液体が貯留されるとともに、その液体の液面Rs上方にエア等の気体が封入されている。このリザーバ室Rの液面Rsは、バルブケース部3bよりも上側に常に位置するように設定されている。
【0029】
そして、バルブケース部3bの外周には、リザーバ室Rから伸側室L1へ向かう液体の流れのみを許容する環状の第一のバルブV1が設けられ、ピストン部20の内周には、圧側室L2から伸側室L1へ向かう液体の流れのみを許容する環状の第二のバルブV2が設けられている。さらに、シリンダ本体3aの上部には、伸側室L1に開口する伸側のオリフィスO1が設けられるとともに、シリンダ本体3aの下部には、圧側室L2に開口する圧側のオリフィスO2が設けられている。これら伸側と圧側のオリフィスO1,O2は、通過する液体の流れに抵抗を与える抵抗要素として機能する。
【0030】
上記構成によれば、インナーチューブ2がアウターチューブ1から退出するフロントフォークFの伸長時には、ピストン部20が液室L内を上方へ移動して伸側室L1が縮小し、圧側室L2が拡大する。この際、第一、第二のバルブV1,V2が閉じ、伸側室L1の液体が伸側のオリフィスO1を通ってリザーバ室Rへ移動するとともに、リザーバ室Rの液体が圧側のオリフィスO2を通って拡大する圧側室L2へと供給される。
【0031】
このようなフロントフォークFの伸長時において、伸側室L1からリザーバ室Rへ向かう液体の流れに対しては、伸側のオリフィスO1によって抵抗が付与される。このため、フロントフォークFの伸長時には、伸側室L1の圧力が上昇し、フロントフォークFの伸長作動を抑制する伸側の減衰力が発生する。
【0032】
反対に、インナーチューブ2がアウターチューブ1内へ侵入するフロントフォークFの収縮時には、ピストン部20が液室L内を下方へ移動して圧側室L2が縮小し、伸側室L1が拡大する。この際、第一、第二のバルブV1,V2が開き、拡大する伸側室L1にリザーバ室Rと圧側室L2の両方から液体が供給される。さらに、フロントフォークFの収縮時には、液室L内へ侵入するインナーチューブ2の体積分、液室Lの容積が縮小して液体が余剰となり、その余剰となった液体が圧側のオリフィスO2を通って圧側室L2からリザーバ室Rへと排出される。
【0033】
このようなフロントフォークFの収縮時において、圧側室L2からリザーバ室Rへ向かう液体の流れに対しては、圧側のオリフィスO2によって抵抗が付与される。このため、フロントフォークFの収縮時には、圧側室L2の圧力が上昇し、フロントフォークFの収縮作動を抑制する圧側の減衰力が発生する。
【0034】
なお、本実施の形態のフロントフォークFは、第一、第二のバルブV1,V2を備えているが、フロントフォークのバルブ構造は適宜変更できる。例えば、第二のバルブV2を閉じ切りにして、伸側室L1と圧側室L2との連通を遮断してもよい。また、第二のバルブV2が閉じた時に、伸側室L1から圧側室L2へ向かう液体の流れに抵抗を与えるようにしてもよい。さらには、シリンダ3の上端開口を開閉するバルブを設け、シリンダ3の内側から上側へ向かう液体の流れにそのバルブで抵抗を与えるようにしてもよい。
【0035】
つづいて、ピストン部20の上側には、伸切ばね5が積層されている。そして、この伸切ばね5は、フロントフォークFの最伸長時にピストン部20とバルブケース部3bとの間で圧縮されて、最伸長時の衝撃を緩和する。なお、図1に示す伸切ばね5は、コイルばねであるが、コイルばね以外のばねでもよい。また、伸切ばね5に替えて、クッションラバー等を設け、このクッションラバーでフロントフォークFの最伸長時の衝撃を緩和してもよい。
【0036】
その一方、ピストン部20の下端部には、筒状のケース6が設けられている。さらに、シリンダ3の下端部外周には、環状のロックピース7が設けられており、フロントフォークFの最収縮時にロックピース7がケース6内へ挿入されるようになっている。そして、このロックピース7がケース6内へ挿入されると、ロックピース7とアウターチューブ1との間の液体が閉じ込められて液圧ロック状態となり、その際の液圧ロック効果によりフロントフォークFの最収縮時の衝撃を緩和する。
【0037】
より詳しくは、図2に示すように、ロックピース7は、シリンダ3の下端部外周に、軸方向へ移動可能に装着されており、アウターチューブ1の底部1aに設けられた弁座1bに離着座可能となっている。さらに、ロックピース7は、その上側に積層されるばね8によって弁座1bへ向けて(着座方向へ)付勢されている。
【0038】
また、そのロックピース7の上端には、他の部分よりも一段低く窪んだ凹部7aが形成されている。この凹部7aの数、及び配置は、適宜変更できるが、本実施の形態では、図3(a)に示すように、その凹部7aがロックピース7の上端の周方向の二カ所に形成されている。また、図3(a)(b)に示すように、ロックピース7の内周には、凹部7aに連なる縦溝7bが軸方向に沿って形成されている。この縦溝7bの数も適宜変更できるが、本実施の形態では、周方向の四か所に形成されている。
【0039】
さらに、図3(b)(c)に示すように、ロックピース7の下端部には、径方向外側へ張り出すフランジ部7cが設けられ、そのフランジ部7cの外周縁には、下方へ突出する環状の脚部7dが設けられている。そして、図2に示すように、その脚部7dが弁座1bに離着座するようになっている。また、図2に示すように、ロックピース7をシリンダ3の外周に装着した状態では、これらの間にロックピース7の軸方向に連続する隙間ができるとともに、この隙間によって液体の通路Pが形成される。
【0040】
つづいて、図4に示すように、ロックピース7に積層されるばね8は、環状の板材の周方向の一部が高く、他の部分が低くなるように湾曲した環状の波形ばねであり、軸方向に力が加わると圧縮されて弾性力を発揮する。具体的に、波形ばねとしては公知のウェーブワッシャ等を利用できる。ばね8の高く盛り上がった部分を隆起部8a、低く沈み下がった部分を沈降部8bとすると、隆起部8a及び沈降部8bの数は適宜変更できるが、本実施の形態では、図4(b)(c)に示すように、二カ所の隆起部8aと二カ所の沈降部8bが周方向に交互に現れるようになっている。
【0041】
そして、図2に示すように、そのばね8の沈降部8bがロックピース7の上端に当接し、隆起部8aがシリンダ3の外周に装着されたワッシャ9に当接し、このワッシャ9がシリンダ3の外周に形成された段差3cに突き当たるようになっている。このように、ばね8とロックピース7は、軸方向に並べて配置され、ばね8がシリンダ3とロックピース7との間に介装されて、ロックピース7を下向き、即ち、着座方向へ付勢する。
【0042】
上記構成によれば、ロックピース7がケース6内に挿入される前の状態では、ばね8によってロックピース7が弁座1bに着座した状態に維持される。そして、フロントフォークFの収縮量が大きくなってピストン部20が底部1aに接近し、ケース6にロックピース7が挿入されると、ケース6の先端と底部1aとの間であってロックピース7とアウターチューブ1との間に液圧ロック室Qが形成され、その液圧ロック室Qに液体が閉じ込められて液圧ロック状態となる。これにより、液圧ロック室Qの圧力が上昇し、その圧力によってピストン部20の底部1aへの接近が抑制されて、フロントフォークFの収縮作動が停止する。
【0043】
また、このようにフロントフォークFが最収縮した状態から伸長作動に切り換わり、ピストン部20が底部1aから離れるのに伴いロックピース7がケース6から退出する場合には、ばね8の付勢力に抗してロックピース7がケース6により引き上げられる。すると、ロックピース7が弁座1bから離座し、ケース6の内側の液体がロックピース7の上端とばね8との間にできる隙間から通路P内へと流入し、この通路Pから脚部7dと弁座1bとの間にできる隙間を通って液圧ロック室Qへと向かう。
【0044】
このように、フロントフォークFの作動方向が伸長作動に切り換わり、ロックピース7がケース6から退出する場合には、通路Pが開いて液圧ロック室Qの液圧ロック状態が解消される。このため、ロックピース7がケース6から速やかに退出できるとともに、液圧ロック室Qが減圧されてロックピース7がケース6から抜け出る際に異音が発生するのも防止できる。
【0045】
さらに、ロックピース7がケース6から完全に抜け出た状態では、ばね8の付勢力によってロックピース7が弁座1bに着座した初期位置へと戻る。このような初期位置にロックピース7がある場合には、通路Pが閉じている。このため、再びフロントフォークFの収縮量が大きくなってロックピース7がケース6内へ挿入された場合には、液圧ロック室Q内に液体が再び閉じ込められて、液圧ロック状態となる。
【0046】
以下、本発明の一実施の形態に係るフロントフォークFの作用効果について説明する。
【0047】
本実施の形態に係るフロントフォークFは、アウターチューブ1と、このアウターチューブ1内に摺動自在に挿入されるインナーチューブ2と、アウターチューブ1内に設けられてインナーチューブ2に出入りするシリンダ3と、インナーチューブ2の下端部(先端部)に設けられる筒状のケース6と、シリンダ3の外周に軸方向へ移動可能に装着されてそのケース6内に出入り可能な環状のロックピース7と、シリンダ3の外周にロックピース7と軸方向に並べて配置され、ロックピース7を付勢するばね8とを備えている。
【0048】
上記構成によれば、フロントフォークFが収縮してロックピース7がケース6内へと挿入されると、ロックピース7の外周側に液体が閉じ込められて液圧ロック状態となり、その液圧ロック効果によってフロントフォークFの最収縮時の衝撃を緩和できる。さらに、ロックピース7をばね8で付勢しているので、ロックピース7が初期位置からずれたとしても、ばね8によってロックピース7を初期位置へと戻せる。
【0049】
さらに、本実施の形態では、ロックピース7を付勢するばね8がロックピース7と軸方向に並ぶ縦並びの配置となって、ロックピース7の内側に挿入されない構造になっている。このため、例えば、内径の小さいインナーチューブ2を採用するフロントフォークFにおいてロックピース7が小径になっても、ばね8を収容するスペースを確保できる。つまり、上記構成によれば、インナーチューブ内径によらずロックピース7を付勢するばね8を設けられる。
【0050】
また、本実施の形態のフロントフォークFでは、アウターチューブ1の下端開口(一端開口)を塞ぐ底部1aにロックピース7が離着座可能な弁座1bが設けられている。そして、そのロックピース7がばね8で弁座1bへ向けて付勢されている。さらに、ロックピース7がケース6内へ挿入された状態で弁座1bから離座すると、ロックピース7とシリンダ3との間に形成される通路Pが開き、ロックピース7とアウターチューブ1との間に形成される液圧ロック室Qとケース6の内側がその通路Pにより連通される。
【0051】
上記構成によれば、ロックピース7がケース6内を退出方向へ進む場合には、ロックピース7がばね8の付勢力に抗して弁座1bから離れる。これにより、通路Pが開いて液圧ロック状態が解除されるので、ロックピース7がケース6から抜け出る際に異音が生じるのを防止できる。さらには、ロックピース7がケース6から完全に抜け出た状態では、ばね8でロックピース7を弁座1bに着座させ、通路Pを閉じた初期位置へ戻せる。
【0052】
また、本実施の形態のフロントフォークFでは、ロックピース7の上端(ばね8側の端部)に凹部7aが形成されている。このため、ロックピース7と、これを付勢するばね8とを軸方向に並べて配置する場合であっても、ロックピース7とばね8との間に凹部7aによって隙間ができる。そして、その隙間によって、通路Pの上端を常に開いた状態に維持できる。よって、ロックピース7がケース6から退出する際に、確実に液圧ロック状態を解除できる。
【0053】
さらに、本実施の形態のフロントフォークFでは、ロックピース7の内周側に凹部7aに連なる縦溝7bが軸方向に沿って形成されている。このため、通路Pの流路面積を確保しやすい。
【0054】
また、本実施の形態のフロントフォークFでは、ロックピース7を付勢するばね8が環状の波形ばねである。このため、本実施の形態のように、ロックピース7の上端とばね8とを直接接触させる場合であっても、ばね8がロックピース7の内周側へ入り込むのを防止できる。つまり、上記構成によれば、ロックピース7の上端に、これを付勢するばね8を直接当接させても、これらを軸方向に並べて配置した状態に維持できる。
【0055】
また、本実施の形態のフロントフォークFは、ばね8の上端(ロックピース7とは反対側の端)を支えるワッシャ9を備え、このワッシャ9がシリンダ3の外周に形成される段差3cに突き当たるようになっている。このように、本実施の形態では、ばね8の一端がワッシャ9を介してシリンダ3で支えられており、ばね8でロックピース7を容易に付勢できる。
【0056】
さらに、上記構成によれば、シリンダ3の外周にスナップリングを装着し、このスナップリングにワッシャ9を突き当てる場合と比較して、スナップリングを省略できる分、部品数を削減できる。また、ワッシャ9にばね8を突き当てているので、段差3cの径方向長さが短くて済み、シリンダ3の肉厚を薄くできる。しかし、シリンダ3の外周に装着したスナップリングにワッシャ9を支持させてもよく、ワッシャ9を廃し、ばね8を直接シリンダ3の段差3cに突き当てるようにしてもよい。
【0057】
また、ばね8は、波形ばねに限らず、これ以外のばねでもよい。例えば、ばね8として、皿ばね、コイルばね、スプリングワッシャ等を利用してもよい。図5には、ロックピース7を付勢するばね8Aをコイルばねに変更した例を示している。
【0058】
この図5に示すように、ロックピース7を付勢するばね8Aをコイルばねにした場合には、ばね8Aの外周に筒状のガイド80を設けるとともに、ばね8Aの上端に当接するワッシャ9Aに径方向外側へ突出する爪9aを設け、この爪9aをガイド80に形成した切欠き80aに挿入するとよい。このようにすると、ガイド80のワッシャ9Aに対する径方向のずれを抑制し、このワッシャ9Aのシリンダ3に対する径方向のずれを抑制できる。これにより、ばね8Aがシリンダ3に対して径方向へずれるのをガイド80で抑制し、ばね8Aがロックピース7から脱落するのを防止できる。
【0059】
さらに、図5に示すように、ロックピース7を付勢するばね8Aをコイルばねにした場合には、ばね8Aとロックピース7との間にワッシャ81を介装するとよい。このようにすると、ばね8Aがロックピース7の内周側へ入り込むのを確実に防止できる。つまり、ロックピース7と、これを付勢する8Aは直接接触していなくてもよく、このような変更は、ロックピース7を付勢するばねの種類によらず可能である。
【0060】
さらに、図5に示すように、ロックピース7とばね8Aとの間にワッシャ81を介装する場合にも、ロックピース7の上端(ばね8A側の端部)に凹部7aが形成されているとよい。このようにすると、ロックピース7とワッシャ81との間に凹部7aによって隙間ができるので、その隙間によって、通路Pの上端を常に開いた状態に維持できる。しかし、ロックピース7は、必ずしも通路Pを開閉するチェックバルブとして機能しなくてもよく、このような変更はロックピース7を付勢するばねの種類のよらず可能である。
【0061】
以上、本発明の好ましい実施の形態を詳細に説明したが、特許請求の範囲から逸脱しない限り、改造、変形、及び変更が可能である。
【符号の説明】
【0062】
F・・・フロントフォーク、P・・・通路、Q・・・液圧ロック室、1・・・アウターチューブ、1a・・・底部、1b・・・弁座、2・・・インナーチューブ、3・・・シリンダ、6・・・ケース、7・・・ロックピース、7a・・・凹部、8,8A・・・ばね
図1
図2
図3
図4
図5