(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-22
(45)【発行日】2022-12-01
(54)【発明の名称】布バネの張り構造
(51)【国際特許分類】
B60N 2/72 20060101AFI20221124BHJP
A47C 7/28 20060101ALI20221124BHJP
【FI】
B60N2/72
A47C7/28 B
(21)【出願番号】P 2018195370
(22)【出願日】2018-10-16
【審査請求日】2021-09-16
(73)【特許権者】
【識別番号】390021577
【氏名又は名称】東海旅客鉄道株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】390010054
【氏名又は名称】コイト電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104237
【氏名又は名称】鈴木 秀昭
(74)【代理人】
【識別番号】100084261
【氏名又は名称】笹井 浩毅
(72)【発明者】
【氏名】藤井 忠
(72)【発明者】
【氏名】伊東 隼
(72)【発明者】
【氏名】菅原 隆
【審査官】望月 寛
(56)【参考文献】
【文献】実開平05-072250(JP,U)
【文献】特開平05-056825(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60N 2/72
A47C 7/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両用シートに設けられ、弾性力を発揮する布バネの張り構造において、
相対向して配置される一対の取付辺部と、各取付辺部の間に掛け渡された状態に装着される布バネと、を有し、
前記布バネは、前記各取付辺部に接している部分の両側で相対向する各端縁が、前記各取付辺部間における張力のみで延びた状態にあり、
前記各取付辺部のうち少なくとも一方は、他方に対して離隔ないし近接する方向に移動可能であり、該移動によって前記布バネの張力を調整可能に構成され
、
前記各取付辺部は、それぞれ別体として構成されており、
前記各取付辺部の一方は、アジャスタによって、定位置に固定された他方に対して離隔ないし近接する前後方向へ無段階に移動可能に支持され、該移動によって前記布バネの張力を調整可能に構成され、
前記アジャスタは、前記一方の取付辺部を前後方向へ平行移動可能に支持する取付枠と、該取付枠にある孔に外側から挿通し、該取付枠の内側にある前記一方の取付辺部に螺合させた連結ネジと、を有し、前記連結ネジの回転により、前記一方の取付辺部を前後方向へ平行移動可能に構成したことを特徴とする布バネの張り構造。
【請求項2】
前記布バネの一端縁は、前記各取付辺部の一方に止着され、前記布バネの他端縁は、前記各取付辺部の他方に止着されていることを特徴とする請求項
1に記載の布バネの張り構造。
【請求項3】
前記布バネの一端縁は、前記各取付辺部の一方に止着され、前記布バネの他端縁も、該布バネの途中が前記各取付辺部の他方に巻き掛けられた状態を経て、前記各取付辺部の一方に止着されていることを特徴とする請求項
1に記載の布バネの張り構造。
【請求項4】
前記布バネは、無端ベルトとして形成されており、前記各取付辺部の間に巻き掛けられていることを特徴とする請求項
1に記載の布バネの張り構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用シートに設けられ、弾性力を発揮する布バネの張り構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、鉄道車両等に装備される車両用シートでは、座部における弾性力を発揮させる手段として、軽量化のために布バネを用いたものが知られている。この種の布バネは、概ね四角形の枠組みの周囲(四辺)に亘って端縁(四辺)が締結されており、枠組みごと座部フレームの上部に組み付けられていた。
このような布バネの張り構造の場合、枠組みの周囲に布バネの端縁を締結する時に、布バネを張った状態に維持しつつ、張力をかけながら枠組みに締結する作業が必要となり、かかる作業が非常に面倒であった。
【0003】
そのため、布バネに張力を付与する作業を楽に行うことができる布バネ張力付与機構が既に提案されている(例えば特許文献1参照)。
このような布バネ張力付与機構は、布バネの後端縁が、座部フレームの後部に取り付けられ、布バネの前端縁は、座部フレームの前部に回転可能に設けられたアームの揺動端に取り付けられており、アームを布バネが引っ張られる方向へ回転させた後に回転を禁止することで、布バネに張力を付与するように構成されている。かかる構成では、テコの原理を利用して、布バネを張った状態に簡単に設置することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前述した従来の布バネ張力付与機構では、布バネを締結するフレームとは別に、布バネに張力を付与するためのアーム、該アームを回転可能に支持する機構、それにアームの回転を禁止する手段が必要となる。
従って、全体的に構成が複雑となり、部品点数が多く組付け工数も増大し、重量増加やコストアップの要因になるという問題があった。
【0006】
また、従来の布バネ張力付与機構では、布バネの張力の調整ができない構造であるために、布バネの張力を一切調整することはできないという問題があった。そのため、布バネが経年劣化により伸びてしまった時は、再び張力を適正に調整することはできず、機構全体を交換しなければならず、メンテナンスにもコストが嵩むという問題があった。
【0007】
本発明は、以上のような従来の技術が有する問題点に着目してなされたものであり、軽量化およびコストダウンを実現することができ、しかも、布バネの張力を容易かつ自由に調整することができ、布バネの張り付け時のみならず経年変化により張力が弱まっても、容易に再調整して最適な状態にすることができる布バネの張り構造を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前述した目的を達成するための本発明の要旨とするところは、以下の各項の発明に存する。
[1]車両用シートに設けられ、弾性力を発揮する布バネ(120)の張り構造において、
相対向して配置される一対の取付辺部(111,112)と、各取付辺部(111,112)の間に掛け渡された状態に装着される布バネ(120)と、を有し、
前記布バネ(120)は、前記各取付辺部(111,112)に接している部分の両側で相対向する各端縁(123,124)が、前記各取付辺部(111,112)間における張力のみで延びた状態にあり、
前記各取付辺部(111,112)のうち少なくとも一方は、他方に対して離隔ないし近接する方向に移動可能であり、該移動によって前記布バネ(120)の張力を調整可能に構成され、
前記各取付辺部(111,112)は、それぞれ別体として構成されており、
前記各取付辺部(111,112)の一方は、アジャスタ(130)によって、定位置に固定された他方に対して離隔ないし近接する前後方向へ無段階に移動可能に支持され、該移動によって前記布バネ(120)の張力を調整可能に構成され、
前記アジャスタ(130)は、前記一方の取付辺部(111)を前後方向へ平行移動可能に支持する取付枠(104)と、該取付枠(104)にある孔に外側から挿通し、該取付枠(104)の内側にある前記一方の取付辺部(111)に螺合させた連結ネジ(131)と、を有し、前記連結ネジ(131)の回転により、前記一方の取付辺部(111)を前後方向へ平行移動可能に構成したことを特徴とする布バネ(120)の張り構造。
【0011】
[2]前記布バネ(120)の一端縁(121)は、前記各取付辺部(111,112)の一方に止着され、前記布バネ(120)の他端縁(122)は、前記各取付辺部(111,112)の他方に止着されていることを特徴とする前記[1]に記載の布バネ(120)の張り構造。
【0012】
[3]前記布バネ(120)の一端縁(121)は、前記各取付辺部(111,112)の一方に止着され、前記布バネ(120)の他端縁(122)も、該布バネ(120)の途中が前記各取付辺部(111,112)の他方に巻き掛けられた状態を経て、前記各取付辺部(111,112)の一方に止着されていることを特徴とする前記[1]に記載の布バネ(120)の張り構造。
【0013】
[4]前記布バネ(120)は、無端ベルトとして形成されており、前記各取付辺部(111,112)の間に巻き掛けられていることを特徴とする前記[1]に記載の布バネ(120)の張り構造。
【0014】
前記本発明は次のように作用する。
前記[1]に記載の布バネ(120)の張り構造によれば、相対向して配置される一対の取付辺部(111,112)の間に、布バネ(120)が掛け渡された状態に装着され、布バネ(120)は、各取付辺部(111,112)に接している部分の両側で相対向する各端縁(123,124)が、各取付辺部(111,112)間における張力のみで延びた状態にある。
【0015】
これにより、布バネ(120)は各取付辺部(111,112)間において、着座者の身体に合致するように撓みやすく、快適な着座感が得られる弾性力を発揮することができる。しかも、布バネ(120)は、各取付辺部(111,112)間の距離を変えることにより、容易に張力を調整することも可能となる。
【0016】
そして、各取付辺部(111,112)のうち少なくとも一方は、他方に対して離隔ないし近接する方向に移動可能であり、該移動によって布バネ(120)の張力を調整可能に構成されている。従って、布バネ(120)の張力の調整は、特定の数パターンだけの選択的な調整に限られることなく、各取付辺部(111,112)の一方を他方に対して移動させた距離に応じて、任意の張力に自在に調整することが可能となる。
【0019】
前記各取付辺部(111,112)は、それぞれ別体として構成されている。よって、各取付辺部(111,112)は、それぞれ別々に例えば車両用シートのフレーム(100)の一部として構成したり、あるいはフレーム(100)に後付けすることができる。
【0020】
各取付辺部(111,112)の一方は、アジャスタ(130)によって、定位置に固定された他方に対して離隔ないし近接する方向へ無段階に移動可能に支持される。よって、各取付辺部(111,112)のうち一方のみを移動させれば、各取付辺部(111,112)間の距離を自在に調整することができ、布バネ(120)の張力を容易に調整することができる。
前記アジャスタ(130)は、一方の取付辺部(111)を前後方向へ平行移動可能に支持する取付枠(104)と、該取付枠(104)にある孔に外側から挿通し、該取付枠(104)の内側にある一方の取付辺部(111)に螺合させた連結ネジ(131)と、を有する。よって、連結ネジ(131)を回転させることにより、一方の取付辺部(111)を前後方向へ平行移動させることができる。
【0021】
前記[2]に記載の布バネ(120)の張り構造によれば、布バネ(120)の一端縁(121)は、各取付辺部(111,112)の一方に止着され、布バネ(120)の他端縁(122)は、各取付辺部(111,112)の他方に止着されている。これにより、簡易な構成で一枚物の布バネ(120)を、各取付辺部(111,112)の間に掛け渡された状態に装着することができる。
【0022】
前記[3]に記載の布バネ(120)の張り構造によれば、布バネ(120)の一端縁(121)は、各取付辺部(111,112)の一方に止着され、布バネ(120)の他端縁(122)も、該布バネ(120)の途中が各取付辺部(111,112)の他方に巻き掛けられた状態を経て、各取付辺部(111,112)の一方に止着されている。
【0023】
これにより、布バネ(120)は2重の面で着座者を支えることになり、いっそう十分な弾性力を発揮させることができる。また、布バネ(120)の両端縁(121,122)の止着を一方の取付辺部(111)に集中させることができ、より簡単に布バネ(120)を各取付辺部(111,112)間に装着することができる。さらには、共通の固着手段によって、布バネ(120)の両端縁(121,122)を同時に止着することも可能となる。
【0024】
前記[4]に記載の布バネ(120)の張り構造によれば、布バネ(120)は無端ベルトとして形成されており、各取付辺部(111,112)の間に巻き掛けられている。これにより、布バネ(120)は2重の面で着座者を支えることになり、いっそう十分な弾性力を発揮させることができると共に、布バネ(120)の上面と下面を入れ替えるように回転させることもできる。また、布バネ(120)を各取付辺部(111,112)に止着する必要はなく、よりいっそう簡単に布バネ(120)を各取付辺部(111,112)間に装着することができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明に係る布バネの張り構造によれば、簡易な構成により布バネに最適な弾性力を発揮させることができ、軽量化およびコストダウンを実現することができ、しかも、布バネの張力を容易かつ自由に調整することができ、布バネの張り付け時のみならず経年変化により張力が弱まっても、容易に再調整して最適な状態にすることができ、メンテナンスにかかるコストも低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】本発明の第1実施の形態に係る布バネの張り構造を示す平面図である。
【
図2】本発明の第1実施の形態に係る布バネの張り構造を示す側面図である。
【
図3】本発明の第1実施の形態に係る布バネの張り構造を示す正面図である。
【
図4】本発明の第1実施の形態に係る布バネの張り構造のアジャスタを分解して示す側面図である。
【
図5】本発明の第2実施の形態に係る布バネの張り構造を示す平面図である。
【
図6】本発明の第2実施の形態に係る布バネの張り構造を示す側面図である。
【
図7】本発明の第2実施の形態に係る布バネの張り構造を示す正面図である。
【
図8】本発明の第2実施の形態に係る布バネの張り構造による張力の調整を示す説明図である。
【
図9】本発明の各種実施の形態に係る布バネの張り構造において一対の取付辺部に対する布バネの装着の変形例を模式的に示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、図面に基づき、本発明を代表する各種実施の形態を説明する。
図1~
図4は、本発明の第1実施の形態を示している。
本実施の形態に係る布バネ20の張り構造が適用される車両用シートは、鉄道車両等の乗物の客室内に装備されるものである。図示省略したが車両用シートは、座部の後側に背凭れが傾動可能に支持されて構成されている。以下、布バネ20の張り構造を座部に適用した例について説明する。
【0028】
布バネ20の張り構造は、車両用シートの座部に設けられ、着座者の荷重を面で支える弾性力を発揮するものである。
図1に示すように、布バネ20の張り構造は、相対向して配置される一対の取付辺部11,12と、各取付辺部11,12の間に掛け渡された状態に装着される布バネ20と、を有している。本実施の形態における各取付辺部11,12は、矩形の枠体10において相対向する二辺をなす部位である。
【0029】
枠体10は、座部側のフレームとは別体として構成されており、前記フレームの上面側に取り付けられて、該フレームの一部を構成するものとなる。詳しく言えば枠体10は、例えば金属製で円形閉断面のパイプ材を矩形に折り曲げて形成されており、前後で相対向する二辺をなす一方(前側)の取付辺部11および他方(後側)の取付辺部12と、各取付辺部11,12の両端間を前後に結ぶように左右で相対向する一対の側辺部13,14とからなる。なお、枠体10の具体的な大きさや形状は、座部側のフレームに合わせて適宜設計される。
【0030】
このような枠体10に対して布バネ20は、各取付辺部11,12の間に掛け渡された状態で装着されている。また、枠体10における両側辺部13,14には、後述するが布バネ20の張力を調整するためのアジャスタ30が設けられている。なお、枠体10は、円形の閉断面に限らず四角形等の閉断面に形成されたパイプ材、あるいは丸棒材や角柱材、長手方向に延びるプレート材等で形成しても良い。また、枠体10の各取付辺部11,12および両側辺部13,14は、別々のパーツを溶接して一体に組み合わせるように構成してもかまわない。
【0031】
布バネ20は、一般には弾性繊維により形成された織編物であり、弾性繊維とは伸び縮みする繊維である。かかる布バネ20は、縦と横の何れか一方向のみに伸び縮みするものと、縦と横の両方向に伸び縮みするものとがある。具体的には例えば、弾性基布と表装基布とを重ね合わせて一体化したものが知られている。ここで弾性基布の編組織は、例えばポリエステル系やポリウレタン系の弾性糸によって構成され、表装基布の編組織は、同系あるいは多繊維糸によって構成されている。なお、布バネ20の厚さは数mm程度とし、具体的な伸縮性は適宜定め得る設計事項である。
【0032】
図1に示すように、布バネ20は、枠体10における各取付辺部11,12間に渡る縦(前後)方向の寸法と、枠体10における両側辺部13,14間の距離よりも短い横(左右)方向の寸法の矩形に形成されている。布バネ20の四辺のうち、前側となる一端縁21は一方の取付辺部11に止着され、後側となる他端縁22は他方の取付辺部12に止着されている。ここで布バネ20の各端縁21,22を止着する手段の種類は問わないが、例えば各取付辺部11,12に、そのままリベットやビスで直接止めたり、あるいは各取付辺部11,12に巻き掛けた状態で袋綴じするように縫い合わせても良い。
【0033】
このように布バネ20において、前後の端縁21,22は各取付辺部11,12に止着されているが、その両側で相対向する左右の側端縁23,24は、各取付辺部11,12間における張力のみで延びた状態にある。すなわち、布バネ20のうち左右の側端縁23,24は、何れの部材にも止着されておらず自由端であるため、布バネ20が着座者の荷重を受け止める時に、左右の側端縁23,24は、他の部位と比べて伸張変形しやすくなっている。
【0034】
また、前記枠体10における両側辺部13,14には、布バネ20の張力を調整するためのアジャスタ30が設けられている。アジャスタ30は、各取付辺部11,12の何れか一方を他方に対して離隔ないし近接する方向に移動させる機構であり、該移動によって布バネ20の張力を調整可能に構成されている。具体的にはアジャスタ30は、両側辺部13,14がそれぞれ分断された箇所に設けられており、当該箇所にて両側辺部13,14をそれぞれ無段階に伸縮可能とするように構成されている。
【0035】
図4に示すように、アジャスタ30は、側辺部13の分断箇所を連結する連結ネジ30aを有している。連結ネジ30aは、その軸方向に延びる雄ネジ部31と、該雄ネジ部31の基端に一体に固結されたナット部32と、該ナット部32を間にして前記雄ネジ部31の反対側で軸方向に突出するピン部33と、を備えてなる。側辺部13の分断箇所の一方の内側には、雄ネジ部31を螺合させる雌ネジ部34が設けられており、側辺部13の分断箇所の他方の内側には、ピン部33が回転自在に内嵌する受け部35が設けられている。
【0036】
このようなアジャスタ30によれば、連結ネジ30aのナット部32をスパナ等の工具で一方向に回転させて、側辺部13を伸張させつつ、各取付辺部11,12間の距離を拡大させれば、布バネ20の張力を増大させることができ、ナット部32を逆方向に回転させて、側辺部13を短縮させつつ、各取付辺部11,12間の距離を小さくすれば、布バネ20の張力を減少させることができるように構成されている。なお、連結ネジ30aのピン部33は、受け部35より容易に抜け出る構成であるが、各取付辺部11,12間に掛け渡された布バネ20によって、抜け出ることがないように設定されている。
【0037】
他方の側辺部14におけるアジャスタ30も同様に構成されている。ただし、前記一方の側辺部13のアジャスタ30を構成する雄ネジ部31および雌ネジ部34と、他方の側辺部14のアジャスタ30を構成する雄ネジ部31および雌ネジ部34とは、相互に逆ネジ関係をなすように構成すると良い。すなわち、一方の連結ネジ30aを例えば右ネジにし、他方の連結ネジ30aを左ネジにすれば、不用意な調整を防ぐことができる。
【0038】
次に、第1実施の形態に係る布バネ20の張り構造の作用を説明する。
本実施の形態によれば、布バネ20は、矩形の枠体10のうち前後で相対向する一対の取付辺部11,12の間に掛け渡された状態に装着される。ここで布バネ20は、前後の端縁21,22が各取付辺部11,12に止着され、左右の側端縁23,24は、各取付辺部11,12間における張力のみで延びた状態にある。
【0039】
これにより、布バネ20は各取付辺部11,12間において、左右の側端縁23,24が他の部位と比べて伸張変形しやすいため、着座者の荷重を受け止める時に着座者の身体に合致するように撓みやすく、快適な着座感が得られる弾性力を発揮することができる。しかも、布バネ20は、各取付辺部11,12間の距離を変えることにより、容易に張力を調整することも可能となる。
【0040】
また、布バネ20を張り付ける一対の取付辺部11,12は、それぞれ一つの枠体10の一部であり、この枠体10は、座部側のフレームとは別体として構成されている。よって、布バネ20は、フレームよりも簡素な枠体10を介してフレームに後付けされるため、布バネ20を、フレームに対して容易に組み付けることができる。なお、座部は、フレーム上に前記枠体10を取り付けた後、該枠体10の布バネ20上にクッション材を装着し、該クッション材の表面を表皮材で被覆してなる。
【0041】
座部の制作時において、枠体10の両側辺部13,14にあるアジャスタ30により、布バネ20の張力を調整することができる。すなわち、連結ネジ30aのナット部32を工具で一方向に回転させて、側辺部13を伸張させつつ、各取付辺部11,12間の距離を拡大させれば、布バネ20の張力を増大させることができる。一方、連結ネジ30aのナット部32を工具で逆方向に回転させて、側辺部13を短縮させつつ、各取付辺部11,12間の距離を小さくすれば、布バネ20の張力を減少させることができる。なお、他方の側辺部14におけるアジャスタ30の操作も同様である。
【0042】
このようなアジャスタ30によれば、布バネ20の張力の調整は、特定の数パターンだけの選択的な調整に限られることなく、各取付辺部11,12間の距離に応じて、最適な張力に無段階に調整することができる。ここで調整した布バネ20の張力は、連結ネジ30aの雄ネジ部31の雌ネジ部34に対する進退量に基づき、容易に確認および管理することができる。なお、布バネ20の最適な張力とは、布バネ20自体の伸縮性と相俟って、例えば着座者の荷重に対して布バネ20が反発することなく伸張し、荷重の支点となった身体部位の周辺を包み込むように支えられる弾性力を発揮できる値である。
【0043】
さらに、前記アジャスタ30によれば、布バネ20の張り付け時における張力の調整だけでなく、布バネ20の経年変化により張力が弱まった場合でも、再びアジャスタ30により、各取付辺部11,12間の距離をさらに拡大させることで、布バネ20の張力を増大させることも可能であり、容易に再調整することができる。これにより、布バネ20を枠体10ごと新たに交換する必要はなく、メンテナンスにかかるコストも低減することができる。
【0044】
図5~
図8は、本発明の第2実施の形態を示している。
本実施の形態に係る布バネ120の張り構造では、相対向して配置される一対の取付辺部111,112がそれぞれ別体として構成されており、各取付辺部111,112は、座部側のフレーム100の一部として組み付けられている。なお、本実施の形態に係る布バネ120は、前記第1実施の形態の布バネ20と基本的には同様の構成であり、重複した説明は省略して異なる点のみ説明する。
【0045】
座部側のフレーム100は、左右一対の側辺部101,101と、各側辺部101の前端間に連結された前辺部103と、各側辺部101の後端間に連結された後辺部105とから矩形の枠体状に形成されている。各辺部101,103,105は、例えば金属製で略四角形等の閉断面形状に形成されたものであり、互いに溶接されて連結されている。また、各取付辺部111,112は、例えば金属製で円形閉断面のパイプ材により形成されている。
【0046】
前辺部103の両端部の上側には、一方の取付辺部111を前後方向へ平行移動可能に支持する一対の取付枠104,104が固定されている。また、両側辺部101,101の後端部の側方には、図示省略した背凭れ側のフレームを揺動可能に支持する一対の支持片102,102が固定されている。各支持片102の後端側には凹溝があり、該凹溝に他方の取付辺部112が嵌り込む状態で固定されている。
【0047】
このように他方の取付辺部112は、フレーム100の定位置に固定されているが、一方の取付辺部111は、前後方向へ平行移動可能に各取付枠104内に支持されている。前後の取付辺部111,112の間には、布バネ120が掛け渡された状態に装着されているが、布バネ120の一端縁121は、一方の取付辺部111に止着され、布バネ120の他端縁122も、該布バネ120の途中が他方の取付辺部112に上から巻き掛けられた状態を経て折り返されて、同じく一方の取付辺部111に止着されている。
【0048】
布バネ120の各端縁121,122を止着する手段の種類は問わないが、例えば取付辺部111に、そのままリベットやビスで止めたり、あるいは各端縁121,122の一方を取付辺部111に巻き掛けた状態で袋綴じすると共に、他方を袋綴じの近傍に縫い合わせても良い。また、布バネ120の左右の側端縁123,124は、前記布バネ20の左右の側端縁23,24と同様に自由端となっている。
【0049】
フレーム100の各取付枠104には、一方の取付辺部111を移動させることにより、布バネ120の張力を調整するためのアジャスタ130が設けられている。アジャスタ130は、一方の取付辺部111を、他方の取付辺部112に対して離隔ないし近接する前後方向へ無段階に平行移動可能に、各取付枠104上で支持するものであり、この一方の取付辺部111の移動によって布バネ120の張力を調整可能に構成されている。
【0050】
図8に示すように、アジャスタ130は、取付枠104の前壁にある孔に外側から挿通し、取付枠104の内側にある取付辺部111に連結する連結ネジ131を有している。連結ネジ131の頭部は、取付枠104の前壁の外側に露出しており、工具による回転操作が可能である。連結ネジ131の脚部(ネジ部)は、取付辺部111の端部において、その中心軸と直交する方向から螺合している。取付辺部111の端部には、そのパイプ材の周面にナットを取り付けることができるパイプナット132が装着されており、前記連結ネジ131の脚部はパイプナット132に螺合している。
【0051】
このようなアジャスタ130によれば、連結ネジ131の頭部をスパナ等の工具で一方向に回転させて、一方の取付辺部111を前方へ引き込みつつ、他方の取付辺部112からの距離を拡大させれば、布バネ120の張力を増大させることができる。一方、連結ネジ131の頭部を逆方向に回転させて、一方の取付辺部111を後方へ押し戻しつつ、他方の取付辺部112との距離を小さくすれば、布バネ120の張力を減少させることができる。
【0052】
もちろん、アジャスタ130による布バネ120の張力の調整は、布バネ120の張り付け時(シート製造時)に限られることなく、布バネ120の経年変化により張力が弱まった場合でも、容易に再調整することができる。なお、一対あるアジャスタ130,130の操作は、それぞれ交互に少しずつ調整すると良い。
【0053】
アジャスタ130において、連結ネジ131の脚部(ネジ部)を、一方の取付辺部111の端部に連結する手段は、前記パイプナット132に限定されることなく、一方の取付辺部111を、他方の取付辺部112に対して離隔ないし近接する前後方向へ無段階に平行移動可能なものであれば、別の構成でもかまわない。具体的には他に例えば、一般的なナットを取付辺部111の端部の外周面にそのまま溶接したり、あるいは取付辺部111であるパイプ材の周壁自体にネジ切りによるネジ孔を直接設けるようにしても良い。
【0054】
また、第2実施の形態によれば、布バネ120を張り付ける一対の取付辺部111,112は、それぞれ別体として構成されている。よって、各取付辺部111,112は、それぞれ別々に車両用シートのフレームの一部として構成したり、あるいはフレームに後付けすることができる。本実施の形態では、取付辺部111,112が、それぞれ座部側のフレーム100の一部をなすため、フレームの部品点数を削減したり重量を軽減することもできる。
【0055】
ここで各取付辺部111,112のうち、一方の取付辺部111が、前述したように他方の取付辺部112に対して離隔ないし近接する方向へ無段階に移動可能に支持されている。従って、一方の取付辺部111のみを移動させることで、各取付辺部111,112間の距離を自在に調整することができ、布バネ120の張力を容易に調整することができる。なお、他方の取付辺部112も、一方の取付辺部111を移動させる操作とは別に、定位置に対してある程度は移動可能に構成してもかまわない。
【0056】
さらに、第2実施の形態によれば、布バネ120の一端縁121は、一方の取付辺部111に止着され、布バネ120の他端縁122も、該布バネ120の途中が他方の取付辺部112に巻き掛けられた状態を経て、一方の取付辺部111に止着されている。これにより、布バネ120は2重の面で着座者を支えることになり、いっそう十分な弾性力を発揮させることができ、布バネ120の過度の沈み込みは規制される。
【0057】
また、布バネ120の両端縁121,122の止着を一方の取付辺部111に集中させることができ、より簡単に布バネ120を各取付辺部111,112間に装着することができる。さらには、共通のリベットやビス等の固着手段によって、布バネ120の両端縁121,122を取付辺部111に対して同時に止着することも可能となる。
【0058】
図9は、一対の取付辺部11,12に対する布バネ20の装着の変形例を示している。
図9(a)は、前記第1実施の形態に相当する布バネ20の装着であり、布バネ20の一端縁は一方の取付辺部11に止着され、布バネ20の他端縁は他方の取付辺部12に止着されている。これにより、簡易な構成で一枚物の布バネ20を、各取付辺部11,12の間に掛け渡された状態に装着することができる。
【0059】
図9(b)は、前記第2実施の形態に相当する布バネ120の装着であり、布バネ120の一端縁は一方の取付辺部111に止着され、布バネ120の他端縁も、該布バネ120の途中が他方の取付辺部112に巻き掛けられた状態を経て折り返されて、同じく一方の取付辺部111に止着されている。
【0060】
これにより、布バネ120は2重の面で着座者を支えることになり、いっそう十分な弾性力を発揮させることができる。しかも、布バネ20の両端縁の止着を一方の取付辺部111に集中させることができ、より簡単に布バネ120を各取付辺部111,112間に装着することができる。さらには、共通の固着手段によって、布バネ120の両端縁を同時に止着することも可能となる。
【0061】
図9(c)は、前述の何れの実施の形態にも相当しない布バネ20の装着である。すなわち、布バネ20は無端ベルトとして形成されており、各取付辺部11,12の間に巻き掛けられている。これにより、布バネ20は2重の面で着座者を支えることになり、いっそう十分な弾性力を発揮させることができると共に、布バネ20の上面と下面を入れ替えるように回転させることもできる。また、布バネ20を各取付辺部11,12に止着する必要はなく、よりいっそう簡単に布バネ20を各取付辺部11,12間に装着することができる。
【0062】
以上、本発明の実施の形態を図面によって説明してきたが、具体的な構成は前述したような実施の形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における変更や追加があっても本発明に含まれる。例えば、布バネ20の張り構造が適用される車両用シートは、鉄道車両以外にも自動車に適用されるシートであっても良い。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明は、鉄道車両等に装備される車両用シートに適用することができる。
【符号の説明】
【0064】
10…枠体
11,12…取付辺部
13,14…側辺部
20…布バネ
21…一端縁
22…他端縁
23,24…側端縁
30…アジャスタ
30a…連結ネジ
31…雄ネジ部
32…ナット部
33…ピン部
100…座部側のフレーム
101…側辺部
102…支持片
103…前辺部
104…取付枠
105…後辺部
111,112…取付辺部
120…布バネ
121…一端縁
122…他端縁
123,124…側端縁
130…アジャスタ
131…連結ネジ
132…パイプナット