(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-22
(45)【発行日】2022-12-01
(54)【発明の名称】窒化ホウ素被覆粒子材料及びその製造方法並びに熱伝導材料
(51)【国際特許分類】
C01F 7/021 20220101AFI20221124BHJP
C01B 21/064 20060101ALI20221124BHJP
C08L 101/00 20060101ALI20221124BHJP
C08K 9/00 20060101ALI20221124BHJP
【FI】
C01F7/021
C01B21/064 Z
C08L101/00
C08K9/00
(21)【出願番号】P 2018197065
(22)【出願日】2018-10-18
【審査請求日】2021-07-20
(73)【特許権者】
【識別番号】501402730
【氏名又は名称】株式会社アドマテックス
(74)【代理人】
【識別番号】110000604
【氏名又は名称】弁理士法人 共立特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大川内 義徳
(72)【発明者】
【氏名】倉木 優
【審査官】▲高▼橋 真由
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-192474(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01F 1/00-17/38
C01B 15/00-23/00
C08L 101/00
C08K 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機材料からなるコア部と、
六方晶窒化ホウ素からなる小粒子材料がバインダを介して複数集合して前記コア部の表面に形成されるシェル部と、
を有し、
それぞれの粒子において(前記コア部の粒径)/(前記複数の小粒子材料の平均粒径)が2以上100以
下、
前記複数の小粒子材料は、前記平均粒径が1.5μm以上100μm以下、(面内径)/(厚み)が5以上、200以下、
前記無機材料は、アルミナであり、
見掛け比重が2.2g/cm
3
以上、前記複数の小粒子材料の質量の和が、前記コア部の質量の
40%よりも小さ
く、体積平均粒径が10μm以上、200μm以下、球形度が0.8以上である窒化ホウ素被覆粒子材料。
【請求項2】
比表面積が0.3cm
2
/g以下である請求項1に記載の窒化ホウ素被覆粒子材料。
【請求項3】
前記シェル部の厚みが、前記コア部の粒径よりも小さい請求項1又は2に記載の窒化ホウ素被覆粒子材料。
【請求項4】
亜麻仁油吸油量が20体積%~40体積%である請求項1~3の何れか1項に記載の窒化ホウ素被覆粒子材料。
【請求項5】
無機材料からなるコア部と;六方晶窒化ホウ素からなる小粒子材料と;固化温度以上に加熱することでバインダになる下記(i)~(iii)のうちの少なくとも1つであるバインダ前駆体との混合物を前記固化温度以上に加熱しながらせん断力を加えて前記コア部の周囲に、前記小粒子材料が前記バインダを介して複数集合したシェル部を形成する被覆工程を有する窒化ホウ素被覆粒子材料の製造方法。
(i)前記バインダが前記固化温度以上で蒸発可能な溶媒中に溶解乃至は分散されているバインダ液、
(ii)少なくとも前記固化温度以上で反応して前記バインダになる反応性化合物が前記溶媒中に溶解乃至は分散されている反応性化合物液、
(iii)液状の前記反応性化合物。
【請求項6】
前記被覆工程は、
前記コア部と前記小粒子材料とを混合して混合物とする混合工程と、
前記混合物を前記固化温度以上に加熱しながら、前記混合物に前記バインダ液を添加しながらせん断力を加える加熱せん断工程と、
を有する請求項5に記載の窒化ホウ素被覆粒子材料の製造方法。
【請求項7】
前記被覆工程は、前記バインダ液が全て固化するまで継続して行う請求項5又は6に記載の窒化ホウ素被覆粒子材料の製造方法。
【請求項8】
請求項1~4の何れか1項に記載の窒化ホウ素被覆粒子材料と、前記窒化ホウ素被覆粒子材料を分散する樹脂材料とを有する樹脂組成物からなる熱伝導材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒化ホウ素被覆粒子材料及びその製造方法並びに熱伝導材料に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より無機材料を充填材として樹脂材料中に分散させた樹脂組成物が半導体用途などにおける、封止材、放熱シート、アンダーフィルなどに用いられている。この樹脂組成物に求められる性能の1つとしては高い放熱性がある。
【0003】
樹脂組成物に高い放熱性を付与する方法としては熱伝導性が高い充填材を採用することが知られている。熱伝導性が高い充填材としては六方晶窒化ホウ素が例示される。
【0004】
六方晶窒化ホウ素の粒子は鱗片状であり、樹脂材料中に分散させる際に粒子の向きが一定方向に揃うため、熱伝導性の異方性が生じることになる。
【0005】
この異方性を解消する目的で、コア部と、コア部を被覆するシェル部とを有するコアシェル粒子を含み、前記シェル部は鱗片状の窒化ホウ素粒子と、結着樹脂とを含む、造粒粉が樹脂組成物に採用できる充填材として提案されている(特許文献1参照)。
【0006】
特許文献1に開示の発明では、コア部とシェル部を構成する窒化ホウ素粒子とを溶媒中に分散して形成したスラリーにせん断力を加えることにより複合化を行った後、得られた複合化粒子の固定化(溶媒除去・樹脂硬化)を別の工程で行っている。
【0007】
スラリーの状態で複合化を行うため、コアシェル構造を保つためにはシェル部を構成する窒化ホウ素の粒径を小さくする必要があった。また、スラリー状のシェル部は剥離しやすいため、コア部の周りを満遍なくシェル部で覆うためには、コア部に対してシェル部を相対的に厚くする必要があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明者らが鋭意検討を行った結果、特許文献1に開示の発明では熱の伝導性の異方性は解消できるものの、形状を球状に制御することが困難であり、樹脂中への充填率を向上することが困難であった。また、被覆に相当するシェル部の厚みが大きく高価な窒化ホウ素を減らすことができなかった。
【0010】
ここで、コア部の周囲を窒化ホウ素にて被覆した窒化ホウ素被覆粒子材料を樹脂組成物中に含有させるときの熱伝導性を向上するためには、窒化ホウ素被覆粒子材料を樹脂組成物中にて隣接して接触する程度にまで充分に含有させることが重要である。
【0011】
このように熱の伝導パスが形成される場合は窒化ホウ素の絶対量はそれ程必要ではなく、隣接する窒化ホウ素被覆粒子材料間で接触する状態にまで充填率を上げて含有させることで熱の伝導パスが形成されることになり樹脂組成物の熱伝導性を高くすることができる。
【0012】
本発明は上記実情に鑑み完成したものであり、樹脂材料中への充填率が高くでき、窒化ホウ素の含有量が抑えられる窒化ホウ素被覆粒子材料及びその製造方法、並びにその窒化ホウ素被覆粒子材料を用いた熱伝導材料を提供することを解決すべき課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決する目的で本発明者らは鋭意検討を行い以下の知見を得た。すなわち、コア部とシェル部とバインダを溶媒に溶解したバインダ液とからなる混合物を溶媒の蒸発温度以上に加熱しながらせん断力を加えることで、コア部の周囲にシェル部を薄く形成することが可能になることを発見した。更にシェル部を構成する窒化ホウ素の粒径が大きくてもシェル部を形成することが可能であることを見出した。このようにして得られた窒化ホウ素被覆粒子材料について検討したところ、樹脂組成物中に配合したときに高い熱伝導性を示すことが分かった。上記知見に基づき本発明者らは本発明を完成した。
【0014】
すなわち、上記課題を解決する本発明の窒化ホウ素被覆粒子材料は、無機材料からなるコア部と、六方晶窒化ホウ素からなる小粒子材料がバインダを介して複数集合して前記コア部の表面に形成されるシェル部と、を有し、(前記コア部の粒径)/(前記小粒子材料の平均粒径)が2以上100以下であり、前記複数の小粒子材料の質量の和が、前記コア部の質量の65%よりも小さい。
【0015】
そして上記課題を解決する本発明の窒化ホウ素被覆粒子材料の製造方法は、無機材料からなるコア部と;六方晶窒化ホウ素からなる小粒子材料と;固化温度以上に加熱することでバインダになる下記(i)~(iii)のうちの少なくとも1つであるバインダ前駆体との混合物を前記固化温度以上に加熱しながらせん断力を加えて前記コア部の周囲に、前記小粒子材料が前記バインダを介して複数集合したシェル部を形成する被覆工程を有する。
(i)前記バインダが前記固化温度以上で蒸発可能な溶媒中に溶解乃至は分散されているバインダ液、
(ii)少なくとも前記固化温度以上で反応して前記バインダになる反応性化合物が前記溶媒中に溶解乃至は分散されている反応性化合物液、
(iii)液状の前記反応性化合物。
【0016】
また、上記課題を解決する本発明の熱伝導材料は、上述の窒化ホウ素被覆粒子材料と、前記窒化ホウ素被覆粒子材料を分散する樹脂材料とを有する樹脂組成物からなる。
【発明の効果】
【0017】
上記構成を有する本発明の窒化ホウ素被覆粒子材料は、樹脂材料中に分散させ易く高い熱伝導性を実現することができる。
【0018】
また、本発明の窒化ホウ素被覆粒子材料の製造方法によると、シェル部の厚みが薄く、球形度が高い窒化ホウ素被覆粒子材料を製造することができる。
【0019】
このような高い性能をもつ窒化ホウ素被覆粒子材料を有する本発明の熱伝導材料は、高い熱伝導性を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】実施例における試験例4の試験試料のSEM写真である。
【
図2】実施例における試験例5の試験試料のSEM写真である。
【
図3】実施例における試験例28の試験試料のSEM写真である。
【
図4】実施例における試験例33の試験試料のSEM写真である。
【
図5】実施例における試験例45の試験試料のSEM写真である。
【
図6】実施例における試験例77の試験試料のSEM写真である。
【
図7】実施例における比較例1の試験試料のSEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の窒化ホウ素被覆粒子材料及びその製造方法、並びに熱伝導材料について実施形態に基づき以下詳細に説明する。
【0022】
(窒化ホウ素被覆粒子材料)
本実施形態の窒化ホウ素被覆粒子材料はコア部とシェル部とを持ついわゆるコアシェル構造を有する粒子である。コア部は無機材料からなる粒子である。無機材料としては特に限定されないが、熱伝導性が高い材料が好ましい。例えば、アルミナ、シリカ、ジルコニア、チタニアなどの金属酸化物(これらの複合酸化物を含む);銅、アルミニウムなどの金属(合金や金属間化合物を含む);グラファイトなどが挙げられる。特にアルミナやシリカ、特に好ましくはアルミナを採用することが好ましい。更にはコア部は単一の材料から形成されているものの他、複数の材料の混合物(二次粒子やアロイなど)であっても良い。
【0023】
コア部の大きさとしては特に限定しないが、体積平均粒径で3μm~300μmであることが好ましく、下限値としては5μm、10μm、20μmが、上限値としては250μm、200μm、150μmがそれぞれ任意に組み合わせて採用することができる。粒径がこの上限値以下であると樹脂組成物となった際、組成物の厚みを薄くすることができ、熱抵抗が低減されるといった点で好ましく、粒径がこの下限値以上であるとある距離を移動する熱が通過する粒子数を少なくでき、熱抵抗が低減され、更には、粒子同士の凝集を妨げる点で好ましい。
【0024】
コア部の形態としては球状が好ましい。特に球形度が0.8以上のものが好ましく、0.90以上のものがより好ましく、0.95以上のものが特に好ましく、0.99以上のものが更に好ましい。本明細書における球形度の測定は、SEMで写真を撮り、その観察される粒子の面積と周囲長から、(球形度)={4π×(面積)÷(周囲長)2}で算出される値として算出する。1に近づくほど真球に近い。具体的には、無作為に抽出した100個の粒子について測定した平均値を採用する。
【0025】
シェル部は、六方晶窒化ホウ素からなる小粒子材料がバインダを介して複数集合したものである。シェル部は、コア部の表面を被覆するように形成される。表面の被覆は連続していることが望ましい。ここで連続しているとは小粒子材料を構成する粒子間が接触していることである。また、コア部の表面に対して表面積を基準として50%以上を被覆していることが好ましい。
【0026】
小粒子材料を構成する六方晶窒化ホウ素は小粒子材料全体に対して50質量%以上含有していれば充分であるが、75質量%含有することが好ましく、90質量%以上含有することがより好ましく、不可避不純物を除き全体が六方晶窒化ホウ素であることが更に好ましい。
【0027】
1つの窒化ホウ素被覆粒子材料内において複数の小粒子材料の質量の和がコア部の質量の65%を超えない。特に小粒子材料の質量の和は、コア部の質量に対して、60%以下、55%以下、50%以下、40%以下、35%以下とすることが好ましい。更にシェル部の厚み(粒子の半径方向)はコア部の粒径の100%以下であることが好ましく、75%以下であることがより好ましく、50%以下であることが更に好ましく、10%以上含有することが特に好ましい。ここで複数の小粒子材料の質量の和と、コア部の質量の関係は、窒化ホウ素被覆粒子材料におけるそれぞれ1つ1つの粒子において成立することが好ましいため、窒化ホウ素被覆粒子材料の1つの粒子について測定することで本実施形態の窒化ホウ素被覆粒子材料であるか否かを判断することができる。また、小粒子材料がコア部の周囲を被覆する構造であるシェル部を構成する限りにおいて、本実施形態の窒化ホウ素被覆粒子材料全体で計量したときに成り立つ場合であってもよい。
【0028】
小粒子材料の形態は、鱗片状、薄板状である。小粒子材料の粒径は、平均粒径で1μm~100μmであることが好ましく、下限値としては1.5μm、2μm、3μmが、上限値としては70μm、50μm、40μmがそれぞれ任意に組み合わせて採用することができる。平均粒径がこの上限値以下であるとコア部の被覆が容易となる点で好ましく、平均粒径がこの下限値以上であると熱伝導性向上の点で好ましい。
【0029】
小粒子材料の平均粒径は、レーザー回折・散乱法により測定した値である。具体的な測定方法としては、島津社製のSALD-7500を用いて測定を行った。測定条件としては分散媒を水とし、分散剤としてヘキサメタリン酸ナトリウムを添加後に超音波で3分間分散後した後に測定した。
【0030】
小粒子材料は、面内径と厚みにて表した場合に、レーザー回折・散乱法にて測定した値は面内径の値と近似していることが多い。従って、面内径の値の好ましい範囲は、上述した小粒子材料の粒径の好ましい範囲と同じである。また、小粒子材料のそれぞれの面内径の値の好ましい範囲も上述した小粒子材料の粒径の好ましい範囲と同じである。
【0031】
そして、(面内径/厚み)の上限値が200、150、100であることが好ましく、下限値が5、7、10であることが好ましい。これらの上限値と下限値とは任意に組み合わせ可能である。
【0032】
前述したコア部の粒径と小粒子材料の平均粒径との比は、(コア部の粒径)/(小粒子材料の平均粒径)が2以上100以下であり、その比の下限値は3、4、5が採用でき、上限値は90、80、60が採用でき、下限値と上限値とは任意に組み合わせて採用することができる。これらの下限値以上にすることで熱伝導性が充分に向上でき、これらの上限値以下にすることで球形度が高い窒化ホウ素被覆粒子材料を得ることができる。
【0033】
バインダとしては特に限定しないが、樹脂組成物中に含有させる用途に採用される場合には、その樹脂組成物中に含まれる樹脂材料と親和性がある材料を採用することが好ましい。例えばエポキシ樹脂やシリコーン樹脂である。バインダの量は特に限定しないができるだけ少ない方が好ましい。特に窒化ホウ素被覆粒子材料の内部に空隙が生じない程度の量にすることが好ましい。例えばバインダの量は小粒子材料の質量を基準として5%~100%程度とすることができる。更に、コア部としてアルミナを採用した場合には見掛け比重が好ましくは2.2以上、より好ましくは2.4以上、更に好ましくは2.5以上になるようにバインダの量、小粒子材料の含有量、シェル部の形態を調節する。バインダの量を少なくして粒子内部の空隙を減らすことで見掛け比重を大きくすることができる。なお、ここでいう見掛け比重とは粉粒体全体での密度(かさ密度)ではなく各粒子毎に内部に空隙がないと仮定してそれぞれ算出する密度であり、窒素を用いた気相置換法にて測定した値である。
【0034】
本実施形態の窒化ホウ素被覆粒子材料は、球形度が0.8以上であり、0.85以上であることが好ましく、0.90以上であることが更に好ましい。本実施形態の窒化ホウ素被覆粒子材料は、体積平均粒径の下限値が10μm、15μm、25μmであることが好ましく、上限値が300μm、250μm、200μmであることが好ましい。これらの下限値と上限値とを任意に組み合わせることが可能である。更に粗粒が除去されていることが好ましい。例えば所定粒径以上の粗粒の含有量が10%以下であることが好ましく、1%以下であることがより好ましい。所定粒径としては本実施形態の窒化ホウ素被覆粒子材料の用途により適正値が異なるが、例えば500μm、300μmが設定できる。
【0035】
本実施形態の窒化ホウ素被覆粒子材料は、亜麻仁油吸油量が20体積%~40体積%であることが好ましい。亜麻仁油吸油量をこの範囲にすることで熱伝導性を高くすることが可能になる。特に亜麻仁油吸油量は35体積%以下であることが好ましく、30体積%以下であることがより好ましい。亜麻仁油吸油量が小さい方がフィラーとして用いた場合に充填性が高く熱伝導性も向上できる。
【0036】
本実施形態の窒化ホウ素被覆粒子材料は比表面積が1.0m2/g以下であることが好ましく、0.5m2/g以下であることがより好ましく、0.3m2/g以下であることが更に好ましい。比表面積が小さい方が充填性が向上する。
【0037】
本実施形態の窒化ホウ素被覆粒子材料はシラン化合物による表面処理が行われていても良い。シラン化合物としてはアルコキシシラン、シラザンなどが例示でき、官能基としてフェニル基、ビニル基、アクリル基、エポキシ基、アルキル基などを有することができる。シラン化合物による表面処理は前述したコア部や小粒子材料の表面に行うこともできる。
【0038】
(窒化ホウ素被覆粒子材料の製造方法)
本実施形態の窒化ホウ素被覆粒子材料の製造方法は上述した本実施形態の窒化ホウ素被覆粒子材料の製造に好適な方法である。本実施形態の窒化ホウ素被覆粒子材料の製造方法は、コア部と小粒子材料とバインダ前駆体との混合物に対してせん断力を加えることで、コア部の周囲にシェル部を形成する被覆工程を有する。被覆工程は、せん断力を加える際にバインダ前駆体が固化してバインダとなる固化温度以上に加熱する工程である。被覆工程は、コア部と小粒子材料とを混合する混合工程と、その後に、固化温度以上に加熱しながら且つバインダ液を添加しながらせん断力を加える加熱せん断工程とに分けて行うこともできる。
【0039】
バインダ前駆体は固化温度以上に加熱することにより固化してバインダになる液体である。バインダ前駆体としては、(i)バインダが固化温度以上で蒸発可能な溶媒中に溶解乃至は分散されているバインダ液、(ii)少なくとも固化温度以上で重合してバインダになる反応性化合物が固化温度以上で蒸発可能な溶媒中に溶解乃至は分散されている反応性化合物液、(iii)液状の反応性化合物がある。なお、1つのバインダ前駆体が(i)~(iii)のうちの複数に該当することがあり得るため、バインダ前駆体が(i)~(iii)のうちのどれに該当するかを厳密に決定する必要は無い。溶媒としては特に限定されず、上述した本実施形態の窒化ホウ素被覆粒子材料にて例示した溶媒が使用できる。ここで蒸発可能な温度とは沸点の他、充分な蒸気圧を生じることができ、小粒子材料にてコア部を被覆する速度に対して充分に速い速度で溶媒が蒸発できる温度であっても良い。被覆工程ではバインダ液が全て固化するまで行うことが好ましい。
【0040】
バインダ液に該当するバインダとしては溶媒に溶解可能な熱可塑性樹脂や溶媒に膨潤可能な熱硬化性樹脂が該当する。反応性化合物としては重合により重合体を形成する化合物、例えばエポキシ樹脂の前駆体、シリコーン樹脂の前駆体や、シランカップリング剤のようにコア粒子と小粒子材料との間、小粒子材料同士の間で反応により結合するカップリング剤が例示できる。溶媒としては特に限定されず、バインダや重合性化合物を溶解乃至は分散させることができるものであれば充分である。例えば、メチルエチルケトン(MEK)が挙げられる。溶媒としてMEKを採用する場合の固化温度は80℃程度が採用できる。
【0041】
混合物に対してせん断力を加えることで、鱗片状乃至は板状である小粒子材料がコア部の表面に倣うように整列して押しつけられる。このときに固化温度以上に加熱されているため、バインダ前駆体が固化することで小粒子材料とコア部との相対位置が固定化されることになる。
【0042】
小粒子材料同士がバインダにより接合した場合にはコア部に小粒子材料が接合した場合よりもせん断力が大きく作用するために小粒子材料同士の接合は分離され、コア部と小粒子材料との接合物がそのまま残る。このような過程を経ることで、小粒子材料同士の接合は選択的に分離され、コア部への小粒子材料の被覆が優先的に進行する。被覆工程においてはバインダ前駆体を全て固化させるまで行うことが好ましい。
【0043】
特にコア部と小粒子材料とを予め混合した後にバインダ前駆体を添加しながら被覆工程を行うことで被覆工程の間で常に固化前のバインダ前駆体が供給されるためバインダ前駆体が無駄なく作用できるので小粒子材料にてコア部を効果的に被覆することができる。バインダ前駆体を添加する速度としては特に限定しないが、被覆層の積層速度が平均0.05~10μm/分程度の速度で添加することができる。積層速度の上限が10μm/分、8μm/分、6μm/分であることが好ましく、下限が0.05μm/分、0.07μm/分、0.1μm/分であることが好ましい。これらの上限下限は任意に組み合わせることができる。特にバインダ前駆体は滴下により添加することが好ましい。また、コア部と小粒子材料とを予め混合した後、バインダ液の一部を添加しておくこともできる。
【0044】
シラン化合物により表面処理を行うことができる。表面処理は窒化ホウ素被覆粒子材料を製造した後に行うことができるほか、コア部、小粒子材料について独立して行うこともできる。コア部、小粒子材料に表面処理する場合にはバインダに応じて導入する官能基を変化させることが好ましい。
【0045】
シェル部にて被覆されていないコア部や遊離の小粒子材料を分離するために分級工程を設けても良い。被覆されていないコア部や遊離の小粒子材料は粒径が小さくなるため、粒径が一定値よりも小さい粒子(例えば45μm以下の粒子)を除去することで分離ができる。また、所定粒径以上の粒子を粗粒として除去するために分級工程を行っても良い。
【0046】
(熱伝導材料)
本実施形態の熱伝導材料は、上述した本実施形態の窒化ホウ素被覆粒子材料を樹脂材料中に分散させた材料である。樹脂材料としてはバインダとの親和性が高い材料を採用することが好ましく、バインダと同一の材料を採用することもできる。
【0047】
窒化ホウ素被覆粒子材料と樹脂材料との混合比は分散された窒化ホウ素被覆粒子材料同士が接触可能な程度にまで窒化ホウ素被覆粒子材料の量を増やすことが望ましい。窒化ホウ素被覆粒子材料同士が接触することで、間に樹脂材料が介在する場合と比べて熱伝導性が向上する。窒化ホウ素被覆粒子材料同士の接触点は増えた方が得られた熱伝導材料の熱伝導性が向上する。
【0048】
更に本実施形態の窒化ホウ素被覆粒子材料以外にも粒子材料を含有させることができる。例えば、本実施形態の窒化ホウ素被覆粒子材料が充填されている隙間に挿入可能な大きさ(含有させる本実施形態の窒化ホウ素被覆粒子材料よりも粒径が小さいもの、例えば本実施形態の窒化ホウ素被覆粒子材料の粒径を基準として0.1%~50%程度の粒子材料)の粒子材料(付加粒子材料)を含有させることが可能である。付加粒子材料としては本実施形態の窒化ホウ素被覆粒子材料と同様の方法にて製造され、粒径のみが小さい粒子材料や、アルミナ、金属アルミニウム、黒鉛などがそのまま又は表面処理されただけの粒子材料が挙げられる。
【0049】
熱伝導材料に含まれる樹脂材料は液状乃至固体状である。液状の樹脂材料を採用して液状の熱伝導材料として用いたり、熱伝導材料としての使用前乃至は使用中に固化させたりすることもできる。
【実施例】
【0050】
(試験1)
・窒化ホウ素被覆粒子材料の製造(試験例1~77)
コア部と小粒子材料とを卓上ミキサーにて予め混合した。その後、140℃で加熱しながらバインダ液を滴下した。その後、45μm及び500μmの篩を用いて45μm~500μmの範囲の粒子を分離し各試験例の試験試料とした。一部の試験試料についてはSEM写真を示す(
図1~6)。
【0051】
コア部、小粒子材料、及びバインダ液の組成、混合比については表1及び2に示したとおりである。表中のアルミナA及びB、シリカ、アルミニウム、窒化ホウ素A~Dについての詳細は表3に示す。
【0052】
バインダの種類は以下の通りである。それぞれ140℃~150℃程度に加熱することで充分な速度で硬化する材料である。バインダは、溶媒としてのメチルエチルケトンに溶解させたバインダ液として使用した。バインダ液の濃度はエポキシAが40質量%、その他のバインダが50質量%とした。なお、表に示したバインダの量は、バインダ液に含まれるバインダの量を示している。
【0053】
・エポキシA[エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン(株)製、YX4000H)、硬化剤(明和化成(株)製、MEH-7500)]
・シリコーンA[信越化学工業(株)製、KR-220LP]
・シリコーンB[信越化学工業(株)製、KE-106、二液型RTVシリコーンゴム]
・シリコーンC[信越化学工業(株)製、KE-103、二液型RTVシリコーンゴム]
・シリコーンD[Gelest社製、PDV0541、ビニル末端ジフェニルシロキサン-ジメチルシロキサンコポリマー]
【0054】
【0055】
・シリコーンE[信越化学工業(株)製、KR-480]
・シリコーンF[信越化学工業(株)製、X-40-2667、二液型付加硬化型シリコーンレジン]
・シリコーンG[信越化学工業(株)製、ES1001N]
・シリコーンH[信越化学工業(株)製、ES-1002T、エポキシ樹脂変性シリコーン、溶媒はMEKに代えてトルエンを使用]
・シリコーンI[信越化学工業(株)製、KR-251、溶媒はMEKに代えてトルエンを使用]
・シリコーンJ[信越化学工業(株)製、KR-216、プロピル/フェニル系]
・シリコーンK[信越化学工業(株)製、X-40-2756、一液付加硬化型シリコーンレジン、フェニル基含有]
【0056】
【0057】
・シリコーンL[信越化学工業(株)製、ES-1023]
・カップリング剤A[信越化学工業(株)製、X-12-981S、ポリマー型多官能エポキシシランカップリング剤、多官能エポキシシラン(エトキシタイプ)]
【0058】
【0059】
・カップリング剤B[信越化学工業(株)製、X-12-984S、ポリマー型多官能エポキシシランカップリング剤、多官能エポキシシラン(エトキシタイプ)]
【0060】
【0061】
【0062】
【0063】
これらの試験例の試験試料について、体積平均粒径45μmのアルミナ、体積平均粒径10μmのアルミナと等量(体積比。体積は重量と密度から算出)で混合した混合粉末について熱伝導性を測定した。
【0064】
熱伝導性の測定は以下のように行った。試験試料とエポキシ樹脂(YX4000H-HS、三菱化学(株)製)とを体積比で、80:20で混合した後、放電プラズマ焼結機(SPS焼結機)を用いて34MPa、120℃で加圧加熱して径20mmの円筒状のペレットを製造した。このペレットを切断して直径20mm、厚み8mmの試験片を2枚切り出して上下に重ねた2枚の試験片にセンサーを挟み込みホットディスク法にて熱伝導率を測定した。
【0065】
ここで測定された熱伝導率は試験片の熱伝導率である。そこで、各試験試料について亜麻仁油吸油量を測定した。つまり、同じ熱伝導率であっても、亜麻仁油吸油量が小さく充填性に優れた材料は熱伝導材料に適用するときに高い熱伝導性を示すことができる。具体的には〔熱伝導率〕/〔亜麻仁油吸油量〕で算出される値が大きい方が樹脂材料中に窒化ホウ素被覆粒子材料を最充填したときの熱伝導性が高くなる。そのため〔熱伝導率(W/mK)÷5(W/mK)〕×〔30(%)÷亜麻仁油吸油量(%)〕との値を評価係数として算出し、この評価値が大きい方(特に1以上になるもの)が優れていると判断した。更に真球度と比表面積を測定した。これらの結果を表4及び5に示す。
【0066】
【0067】
【0068】
表より明らかなように、コア部に対して小粒子材料をバインダによって被覆してシェル部を形成することにより評価係数を向上させることができた。例えば、アルミナA単独である試験例1に比べて小粒子材料及びバインダを所定の範囲で添加することで評価係数が向上できた。ここで、試験例39について試験例1よりも評価係数が低いのは、小粒子材料を添加量が多すぎたためである(コア部の質量を基準として、小粒子材料の質量が65%)。
【0069】
また、試験例36が試験例1よりも評価係数が低いのは、小粒子材料の粒径が小さく(コア部の粒径)/(小粒子材料の粒径)の値(コア部の粒径/小粒子材料の粒径が63.2/0.5=126.4となり100より大きい)が大きくなったためである。
【0070】
そして、アルミナAと小粒子材料とをバインダなしで混合した試験例5は、小粒子材料の量が適正な範囲にあるためにある程度の評価係数を示したものの、給油割合の値から予測できるように樹脂中への充填率を高くすることができず、また、比表面積の値から予測できるように樹脂中に充填したときの粘度が高くなって充分な取り扱い性が実現できないことがわかった。
【0071】
このことから小粒子材料の粒径には適正な範囲があることが分かった。また、バインダの種類や量によっても評価係数が変動することが分かった。
【0072】
コア部としてアルミナBを用いた試験例についても同様に、コア部と小粒子材料とバインダとからなる窒化ホウ素被覆粒子材料は、高い結晶化度と取り扱い性(粘度)とを両立できることが分かった。例えば、試験例6及び7は高い評価係数の値を示すものの、バインダを用いていないことから比表面積が大きく、充分な取り扱い性(粘度)が実現できないことが分かった。
【0073】
コア部としてシリカを用いた場合には、例えば小粒子材料をコア部に対して20%含有させた場合に、バインダを用いてコア部に小粒子材料を結合させてシェル部を形成した試験例2及び4は、単純にコア部に小粒子材料を混合した試験例8と比べて高い評価係数と低い比表面積を示した。
【0074】
バインダの種類によって評価係数が変動する因子について考察すると、バインダの硬度・分子中に有する官能基が挙げられる。
【0075】
バインダの硬度は高い方が良いことが予測される。例えば、エポキシ系のバインダがシリコーン系のバインダよりも好ましい性質の窒化ホウ素被覆粒子材料を提供できることが分かった。また、バインダの分子が備える官能基としては、フェニル基を有するバインダ、エポキシ基を有するバインダ、その他のバインダの順で優れた評価係数を示す傾向にあった(フェニル基>エポキシ基>その他)。フェニル基、エポキシ基はその分子形状からBNの面内にも相互作用するため、強固かつ少量でアルミナとBNを被覆させることができ、またBN間の橋渡しにもなるため熱伝導率が向上するものと考察している。
【0076】
(試験2)
・窒化ホウ素被覆粒子材料の製造(試験例78~83)
窒化ホウ素被覆粒子材料を造粒機にて製造し、試験1と同様に評価を行った。具体的な製造方法としては以下の通りである。更にメジアン径を測定した。
【0077】
コア部と小粒子材料とバインダについて、種類及び量を表6に示す。コア部を150℃に加熱し、小粒子材料を混合し撹拌した。小粒子材料を混合後、150℃で加熱しながら、0.5MPaの圧力で20~30L/分になるように窒素を導入した。その時に、300rpmで撹拌しながら、液状のバインダを添加した。小粒子材料の混合は10分の1ずつ10回に分けて行い、10分の1の小粒子材料を添加する毎に10分の1の量のバインダを添加することを10回繰り返した。小粒子材料及びバインダを全量添加した後、150℃で10分間加熱・撹拌を継続し、各試験の試験試料とした。
【0078】
つまり、試験1ではコア部と小粒子材料との全量を一度に混合した後にバインダを添加したのに対して、試験2ではコア部の全量に、小粒子材料とバインダをこの順で10分の1ずつ10回に分けて添加した点で異なっている。
【0079】
【0080】
表より明らかなように、小粒子の含有量を同じにしてもバインダの量によって評価係数が変動することが分かった。また、バインダの量には適正な範囲があることが予測されることが分かった。また、コア部、小粒子材料及びバインダの種類及び混合量が同じである試験例79と、試験1の試験例33とを比較すると、試験例79の方が高い評価係数であった。従って試験2の方法の方が好ましいことが分かった。なお、試験1における各試験例の試験試料についても本試験の試験例の試験試料と同程度の粒径であると推測される。
【0081】
(試験3)
・窒化ホウ素被覆粒子材料の製造(比較例1)
コア部と小粒子材料とバインダとを常温で混合(混練)した。その後、150℃で加熱・乾燥させた。乾燥後、得られた凝集物を解砕し試験試料とした。結果及び組成を表7に示す。また
図7にSEM写真を示す
【0082】
【0083】
表より明らかなように、比較例1の組成比と同じ、試験1及び2における試験例33及び試験例79と比べると、充分な評価係数にはならなかった。また、SEM写真を試験1のものと比べると、小粒子による被覆が充分に進行できていないことが分かった。従って、加熱しながらバインダを添加することにより優れた性能を発揮できる窒化ホウ素被覆粒子材料が得られることが分かった。