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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-22
(45)【発行日】2022-12-01
(54)【発明の名称】ノイズ除去装置
(51)【国際特許分類】
   H04B 1/10 20060101AFI20221124BHJP
   H04N 21/426 20110101ALI20221124BHJP
【FI】
H04B1/10 L
H04N21/426
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018207586
(22)【出願日】2018-11-02
(65)【公開番号】P2020072459
(43)【公開日】2020-05-07
【審査請求日】2021-11-02
(73)【特許権者】
【識別番号】520133916
【氏名又は名称】ヌヴォトンテクノロジージャパン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109210
【弁理士】
【氏名又は名称】新居 広守
(74)【代理人】
【識別番号】100137235
【弁理士】
【氏名又は名称】寺谷 英作
(74)【代理人】
【識別番号】100131417
【弁理士】
【氏名又は名称】道坂 伸一
(72)【発明者】
【氏名】山口 誠一郎
【審査官】鴨川 学
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-010877(JP,A)
【文献】特開平09-153850(JP,A)
【文献】特開2017-163262(JP,A)
【文献】特開2015-192292(JP,A)
【文献】特開2008-016902(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2003/0224751(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 1/10
H04N 21/426
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
主信号にノイズ信号が混入した信号を受信する第1の受信回路と、
前記第1の受信回路とは異なる比率で主信号とノイズ信号が混入した信号を受信する第2の受信回路と、
前記第2の受信回路の出力を元に前記第1の受信回路の出力のノイズ信号相当の信号を生成する適応フィルタ部と、
前記第1の受信回路の出力から前記適応フィルタ部の出力を差し引いて前記主信号を出力するノイズ除去部と、
前記ノイズ除去部の出力を元に前記主信号の放送波が含まれる周波数帯を除去する放送除去部と、
前記放送除去部の出力を元に前記適応フィルタ部の係数を変更する係数更新部を備えることを特徴とするノイズ除去装置。
【請求項2】
前記第1の受信回路の出力、前記第2の受信回路の出力、又は前記第1の受信回路と前記第2の受信回路の両方の出力を元に放送波が含まれる周波数帯を求め、前記放送除去部を制御する放送検出部を備えることを特徴とする請求項1記載のノイズ除去装置。
【請求項3】
主信号にノイズ信号が混入した信号を受信する第1の受信回路と、
前記第1の受信回路とは異なる比率で主信号とノイズ信号が混入した信号を受信する第2の受信回路と、
前記第2の受信回路の出力を元に前記第1の受信回路の出力のノイズ信号相当の信号を生成する適応フィルタ部と、
前記第1の受信回路の出力から前記適応フィルタ部の出力を差し引いて主信号を出力するノイズ除去部と、
ノイズ信号の周期情報を元に前記ノイズ除去部の出力を特定の帯域に制限する帯域制限部と、
前記帯域制限部の出力を元に前記適応フィルタ部の係数を変更し、ノイズ信号の周期情報を元に前記適応フィルタ部のフィルタの次数を制限する係数更新部を備えることを特徴とするノイズ除去装置。
【請求項4】
主信号にノイズ信号が混入した信号を受信する第1の受信回路と、
前記第1の受信回路とは異なる比率で主信号とノイズ信号が混入した信号を受信する第2の受信回路と、
前記第2の受信回路の出力を元に前記第1の受信回路の出力のノイズ信号相当の信号を生成する適応フィルタ部と、
前記第1の受信回路の出力から前記適応フィルタ部の出力を差し引いて主信号を出力するノイズ除去部と、
ノイズ信号の周期情報を元に前記ノイズ除去部の出力を特定の帯域に制限する帯域制限部と、
前記帯域制限部の出力を元に前記主信号の放送波が含まれる周波数帯を除去する放送除去部と、
前記放送除去部の出力を元に前記適応フィルタ部の係数を変更し、ノイズ信号の周期情報を元に前記適応フィルタ部のフィルタの次数を制限する係数更新部を備えることを特徴とするノイズ除去装置。
【請求項5】
前記第1の受信回路の出力、前記第2の受信回路の出力、又は前記第1の受信回路と前記第2の受信回路の両方の出力を元に放送波が含まれる周波数帯を求め、前記放送除去部を制御する放送検出部を備えることを特徴とする請求項4記載のノイズ除去装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は放送波に重畳されたノイズを除去するためのノイズ除去装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ラジオ等の放送の受信機は広く普及しており、自動車等の移動体にも多く搭載されている。近年、電気自動車やハイブリッド車の普及により、車両のモータを駆動するインバータ回路等から広帯域なノイズが発生し、車両内に設置された放送の受信用アンテナに混入し、受信時の音声に影響を与えることが課題となっている。
【0003】
このようなノイズを除去するための技術として、特許文献1には、メインアンテナとノイズ検出用アンテナを用い、各周波数の放送波に対して、あらかじめ放送波が到来しない場所でノイズ源を動作させ、2つのアンテナ間のノイズの関係を求め、ノイズキャンセルに用いられるノイズ検出用アンテナの受信信号をチューニングする方法が開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、メインアンテナと、放送波が入らないよう設置されたノイズ検出用アンテナを用い、ノイズ検出用アンテナの信号を適応フィルタで補正して、メインアンテナから適応後の信号を差し引くことでメインアンテナに混入されるノイズ成分を除去する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第5733040号公報
【文献】特開2001-4736号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に開示された従来の技術では、あらかじめ、メインアンテナが受信する放送波が到来しない環境下で、メインアンテナの受信したノイズ信号とノイズ検出用アンテナの受信したノイズ信号の関係を求め、ノイズキャンセルためのチューニングを実行する必要がある。
【0007】
しかしながら、放送波が到来しない環境でチューニングを行い、補正値を得るためには、電波暗室などの大掛かりな設備が必要となる。車両の生産時の初期調整時にこのような設備が必要となると生産コスト増加の要因となる。
【0008】
また、生産時に特定の車両を代表として補正値を求めた場合には、個体ばらつき、車両自体の経年変化等の原因により、補正量にずれが生じ、期待するノイズ除去効果が得られない。その場合に再チューニングを行うにしても、やはり電波暗室などの大掛かりな設備が必要となってしまう。
【0009】
更に、特許文献2に開示された従来の技術では、ノイズ検出用アンテナに放送波が混入した場合、誤って適応フィルタが動作し、放送波が除去される場合がある。そのため、ノイズ検出用アンテナに放送波が混入しないように設置する必要がある。しかし、放送の周波数帯域によっては、メインアンテナに混入するノイズのみを含み、放送波を含まないように受信できる位置にノイズ検出用アンテナを設置するのは困難であった。
【0010】
また、メインアンテナとノイズ検出用アンテナの経路間の特性差の影響を抑えるためには適応フィルタの次数が必要になるが、車両のモータを駆動するインバータ回路等のノイズのスペクトルは周波数方向のレベル差が大きく、適応フィルタの次数が多いと、このレベル差に対して、適応フィルタの動作が不安定になるという課題があった。
【0011】
本発明はかかる点に鑑みてなされたもので、その目的は、種々の条件下で、受信信号に含まれるノイズを安定して除去可能なノイズ除去装置及びノイズ除去方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係るノイズ除去装置は、主信号にノイズ信号が混入した信号を受信する第1の受信回路と、前記第1の受信回路とは異なる比率で主信号とノイズ信号が混入した信号を受信する第2の受信回路と、前記第2の受信回路の出力を元に前記第1の受信回路のノイズ信号相当の信号を生成する適応フィルタ部と、前記第1の受信回路の出力から前記適応フィルタ部の出力を差し引いて前記主信号を出力するノイズ除去部と、前記ノイズ除去部の出力を元に前記主信号の放送波が含まれる周波数帯を除去する放送除去部と、前記放送除去部の出力を元に前記適応フィルタ部の係数を変更する係数更新部を備えることを特徴とする。
【0013】
また本発明に係るノイズ除去装置は、主信号にノイズ信号が混入した信号を受信する第1の受信回路と、前記第1の受信回路とは異なる比率で主信号とノイズ信号が混入した信号を受信する第2の受信回路と、前記第2の受信回路の出力を元に前記第1の受信回路のノイズ信号相当の信号を生成する適応フィルタ部と、前記第1の受信回路の出力から前記適応フィルタ部の出力を差し引いて主信号を出力するノイズ除去部と、ノイズ信号の周期情報を元に前記ノイズ除去部の出力を特定の帯域に制限する帯域制限部と、前記帯域制限部の出力を元に前記適応フィルタ部の係数を変更し、ノイズ信号の周期情報を元に前記適応フィルタ部のフィルタの次数を制限する係数更新部を備えることを特徴とする。
【0014】
また本発明に係るノイズ除去装置は、主信号にノイズ信号が混入した信号を受信する第1の受信回路と、前記第1の受信回路とは異なる比率で主信号とノイズ信号が混入した信号を受信する第2の受信回路と、前記第2の受信回路の出力を元に前記第1の受信回路のノイズ信号相当の信号を生成する適応フィルタ部と、前記第1の受信回路の出力から前記適応フィルタ部の出力を差し引いて主信号を出力するノイズ除去部と、ノイズ信号の周期情報を元に前記ノイズ除去部の出力を特定の帯域に制限する帯域制限部と、前記帯域制限部の出力を元に前記主信号の放送波が含まれる周波数帯を除去する放送除去部と、前記放送除去部の出力を元に前記適応フィルタ部の係数を変更し、ノイズ信号の周期情報を元に前記適応フィルタ部のフィルタの次数を制限する係数更新部を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
これにより、ノイズ受信を目的とするアンテナへの放送波が漏れこみ、混入したとしても、その影響を受けずに安定したノイズ除去ができる。またノイズ信号の周波数スペクトルのパワー変動が大きい場合であってもその影響を抑えて安定したノイズ除去ができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、第1の実施の形態に係るノイズ除去装置を含む放送受信システムの構成図である。
図2図2は、第1の実施の形態に係るノイズ除去装置の放送波復調処理の流れを説明する概念図である。
図3図3は、第2の実施の形態に係るノイズ除去装置を含む放送受信システムの構成図である。
図4図4は、第2の実施の形態に係るノイズ除去装置の放送波復調処理の流れを説明する概念図である。
図5図5は、第3の実施の形態に係るノイズ除去装置を含む放送受信システムの構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものでは全くない。
【0018】
(第1の実施の形態)
図1は第1の実施の形態のノイズ除去装置を含む放送受信システム1の構成図である。放送受信システム1はアンテナ11、アンテナ13、ノイズ除去装置100から構成される。放送受信システム1は電気自動車やハイブリッド車などモータ駆動される車両に搭載される放送受信システムであり、例えば、AMラジオやFMラジオ等の放送受信システムである。
【0019】
アンテナ11は放送局から出力される放送波を受信することを主目的とするものであるが、車両のモータを駆動するインバータ回路等からの広帯域なノイズも混入しうる。
【0020】
アンテナ13はアンテナ11に混入するノイズを除去することを主目的として、アンテナ11に混入するノイズと同一のノイズ源が発生するノイズを受信するものである。一方でアンテナ13はアンテナ11が受信する放送波も受信しうる。ここでアンテナ11とアンテナ13は、受信する放送波とノイズの比率が、アンテナ11とアンテナ13とで異なるように設置される。
【0021】
アンテナ11及びアンテナ13で受信された信号はノイズ除去装置100に入力される。ノイズ除去装置100は、受信回路12、受信回路14、放送波検出部15、適応フィルタ16、ノイズ除去部17、放送除去部18、係数更新部19、復調部20から構成される。
【0022】
受信回路12はアンテナ11によって受信された信号を増幅し、デジタル信号に変換する。受信回路14はアンテナ13によって受信された信号を増幅し、デジタル信号に変更する。放送検出部15は、受信回路12と受信回路14の出力から、放送波のある周波数を検出する。適用フィルタ16は、受信回路14の出力と、後述する係数更新部19の出力に基づいて、受信回路12の出力と同等となる複製ノイズ信号を生成する。
【0023】
ノイズ除去部17は、受信回路12の出力から適応フィルタ16の出力する複製ノイズ信号を差し引き、ノイズを除去する。放送除去部18は、放送波検出部15で検出した放送波の情報に基づき、ノイズ除去部17の出力から放送波のある周波数をフィルタによって除去する。係数更新部19は、放送除去部21の出力に基づき、適応フィルタ部18の係数を更新する。復調部20はノイズ除去部17の出力信号を復調し、音声等に変換する。
【0024】
以下、放送受信システム1が受信した放送波にノイズが混入していた場合における放送波信号の復調処理について説明する。図2はノイズ除去装置100の放送波復調処理の流れを説明する概念図であり、ノイズ除去装置100内部で処理される信号の状況を示している。
【0025】
まず初めにアンテナ11が放送局から出力される所望の放送波を受信する。その際、所望の放送波とともに、その他の放送局から出力される放送波、車両に搭載されるインバータ等のノイズ源に起因するノイズも受信する。同時にアンテナ13はアンテナ11が受信するノイズと同一のノイズ源から発生されるノイズを受信する。また、アンテナ13に、ノイズに加えて、アンテナ11が受信した所望の放送波およびその他の放送波も受信する。
【0026】
アンテナ11及びアンテナ13で受信された放送波及びノイズはノイズ除去装置100に入力される。より具体的には、アンテナ11で受信された放送波及びノイズは受信回路12に、アンテナ13で受信された放送波及びノイズは受信回路14に入力される。受信回路12及び受信回路14はそれぞれ入力された放送波及びノイズの信号を増幅し、デジタル信号に変換する。
【0027】
図2(a)は、受信回路12によってデジタル信号に変換されたデジタル信号である信号101の周波数スペクトルを示している。信号110は所望する放送局の放送波信号である。信号111は隣接する放送局の放送波信号である。
【0028】
信号101においては、放送波信号110と放送波信号111にノイズ信号112が重畳している。ここでノイズ信号112はモータ駆動を行うインバータ等のPWM(Pulse Width Modulation)回路に起因するノイズ信号であり、多数の高調波を主成分とする。そのためノイズ信号112の周波数スペクトルは放送波信号110、放送波信号111の周波数スペクトルよりも広範囲に分布する。
【0029】
図2(b)は、受信回路14によってデジタル信号に変換されたデジタル信号である信号102の周波数スペクトルを示している。信号115はノイズ信号112の発生源であるPWM回路から発生されたノイズ信号である。信号113は所望する放送局の放送波信号で、アンテナ13に漏れこんで受信されたものである。信号114は隣接する放送局の放送波信号で、アンテナ13に漏れこんだ受信されたものである。ノイズ信号115の周波数スペクトルも放送波信号113、放送波信号114の周波数スペクトルよりも広範囲に分布する。
【0030】
ここで、アンテナ11とアンテナ13とでは、受信する放送波信号とノイズ信号の比率が異なる。本実施の形態においては、放送波信号110、放送波信号111は放送波信号113、放送波114信号よりも大きい。またノイズ信号112はノイズ信号115より小さい。
【0031】
したがって、放送波信号110、放送波111の周波数スペクトルのパワーは、放送波信号113、放送波信号114の周波数スペクトルのパワーよりも大きい。またノイズ信号112の周波数スペクトルのパワーは、ノイズ信号113の周波数スペクトルのパワーよりも小さい。よって信号101と信号102の周波数スペクトルのパワーの差分を取った場合、その差分信号の周波数スペクトルのうち、プラス側に残る成分を放送波として検出することができる。
【0032】
そこでまず放送検出部15が受信回路12および受信回路14の出力信号から放送波信号を検出する。より具体的には信号101の周波数スペクトルと信号102の周波数スペクトルのパワーの差分をとる。
【0033】
図2(c)は信号101と信号102の差分信号103の周波数スペクトルを示す。信号116は放送波信号110から放送波信号113を差し引いた差分信号である。信号117は放送波信号111から放送波信号114を差し引いた差分信号である。信号116及び信号117の周波数スペクトルは、放送波信号110及び放送波信号111の周波数スペクトルのパワーが放送波信号113及び放送波信号114の周波数スペクトルのパワーより大きいことからプラス側の成分として現れる。
【0034】
信号118はノイズ信号112からノイズ信号115を差し引いた差分信号である。信号118は、ノイズ信号112の周波数スペクトルのパワーがノイズ信号115の周波数スペクトルのパワーより小さいことから、マイナス側の成分として現れる。これらの結果から信号116、信号117が放送波信号として検出される。
【0035】
なお、放送波の検出方法はこの手順に限らず、例えばノイズ抑制回路12の出力信号のみを使用してノイズ信号と放送波信号のパワー差等を用いて検出してもよい。
【0036】
次に適応フィルタ16は後述する係数更新部19によって更新される係数に従い、ノイズ信号115を補正し、ノイズ信号112と同等となる複製ノイズ信号を出力する。
【0037】
図2(d)は、適応フィルタ16が出力する信号104の周波数スペクトルを示す。信号121はノイズ信号115がノイズ信号112と同等になるよう適応フィルタ部16で補正した複製ノイズ信号である。信号119、信号120は放送波113、信号114に適用フィルタ部16によって同じ補正を適用した信号である。
【0038】
ノイズ除去部17は受信回路12の出力信号101から適応フィルタ16の出力信号104を差し引くことで、ノイズ成分を除去する。
【0039】
図2(e)は、ノイズ除去部17の出力信号105の周波数スペクトルを示す。信号124はノイズ信号112からノイズ信号121を差し引いたノイズ残差信号である。信号122は放送波信号110から放送波信号119を差し引いたノイズ除去後の所望する放送波信号である。信号122は、信号110の信号レベルが信号119の信号レベルより十分大きいことから、信号110と大きく変わらないレベルを保持する。信号123は信号111から信号120を差し引いた放送波信号であり、信号111の信号レベルが信号120の信号レベルより十分に大きいことから、信号111と大きく変わらないレベルを保持している。
【0040】
復調部20はノイズ除去後の所望の放送波信号122を復調して、ノイズの影響を除去した音声等を復調する。
【0041】
放送除去部18は放送検出部17で検出した信号116及び信号117の情報に従い、放送波の存在する周波数近傍の信号を除去する。
【0042】
図2(f)は、放送除去部18によって、放送波を除去したのちの出力信号106の周波数スペクトルを示す。ここで図2(f)中の点線で示された信号125及び信号126は放送除去部18によって除去された信号成分であり、信号106には含まれていない。信号127はノイズ除去部17の出力信号105から放送波信号を取り除いたノイズ残差信号である。
【0043】
係数更新部19は放送除去部18が出力するノイズ残差信号127を小さくするように、望ましくは最小にするよう適応フィルタ16の係数の更新を行う。適応フィルタの係数更新にはLMS等のアルゴリズムが用いられるが、その他のアルゴリズムを使用してもよい。
【0044】
図2(g)には係数更新部19によって制御される適応フィルタ16の周波数特性107が示される。このうち実線128は今回の構成における適応フィルタ16の周波数特性を示す。放送波を除去することにより、アンテナ13への放送波の漏れこみの影響を防ぎ、安定した特性を維持できる。
【0045】
一方、図2(g)中の点線129は、放送除去部18が無い場合の適応フィルタ16の周波数特性を示す。放送除去部18が無い場合、適応フィルタ16の入力信号となる信号102に放送波信号113、放送波信号114が含まれ、適応フィルタ16の誤差信号となる信号105に放送波122、123が含まれる。これらは互いに相関がある信号のため、この放送波信号に対しても適応制御が動作し、該当部分でノイズ信号に対する特性の128からずれが生じ、結果として129のような特性となる。
【0046】
図2(h)は、放送除去部18が無い場合の適応フィルタ部16の出力信号108の周波数スペクトルを示す。信号130、信号131は点線129で示す特性ずれの影響により過大に増幅された放送波を示す。信号132は点線129で示す特性ずれの影響により過大に補正されたノイズ信号である。信号133は点線129で示す特性ずれの影響を受けなかったノイズ信号である。
【0047】
図2(i)は、放送除去部18が無い場合のノイズ除去部17の出力信号109の周波数スペクトルを示す。信号134、信号135は放送波信号110、111から放送波信号130、131を差し引いた放送波信号で、130、131の信号レベルが大きくなったため、信号レベルが110、111の信号レベルより大きく低下している。
【0048】
信号136はノイズ信号112からノイズ信号132を差し引いたノイズ信号で、信号112と信号132の信号レベルが合わないため、ノイズが大きく残る状態となる。信号137はノイズ信号112からノイズ信号133を差し引いたノイズ信号で、特性ずれの影響を受けなかったため、ノイズは十分抑圧されている。
【0049】
その後、復調部20は所望の放送波信号134を復調するが、信号134のレベルが落ちているため、復調信号のS/Nが悪化し、また、ノイズ信号136の影響を十分除去できないこととなる。
【0050】
これに対して本実施の形態に係る構成によれば、ノイズ受信を目的とするアンテナ13への放送波が漏れこみ、混入したとしても、その影響を受けずに安定したノイズ除去効果を得ることができる。
【0051】
(第2の実施の形態)
図3は、本発明の第2の実施の形態である放送受信システム2の構成図である。放送受信システム2はアンテナ11、アンテナ13、ノイズ除去装置200から構成される。放送受信システム2は電気自動車やハイブリッド車などモータ駆動される車両に搭載される。例えば、AMラジオやFMラジオ等の放送受信システムである。
【0052】
アンテナ11及びアンテナ12に関しては、第1の実施の形態ですでに説明した通りである。
【0053】
アンテナ11及びアンテナ13で受信された信号はノイズ除去装置200に入力される。ノイズ除去装置200は、受信回路12、受信回路14、適応フィルタ16、ノイズ除去部17、帯域制限部21、係数更新部22、復調部20から構成される。
【0054】
受信回路12、受信回路14、適応フィルタ16、ノイズ除去部17、復調部20の機能は第1の実施の形態ですでに説明した通りである。
【0055】
帯域制限部21は、ノイズ除去部17の出力信号からノイズ信号の周期に応じて一定の帯域のみを抽出する。係数更新部22は、前記帯域制限部21の出力からノイズ周期に応じて適応フィルタ部18のフィルタ次数と係数を更新する。
【0056】
以下、放送受信システム2が受信した放送波にノイズが混入していた場合における放送波信号の復調処理について説明する。図4はノイズ除去装置20の放送波復調処理の流れを説明する概念図であり、ノイズ除去装置200内部で処理される信号の状況を示している。
【0057】
まず初めにアンテナ11が放送局から出力される所望の放送波を受信する。その際、所望の放送波とともに、車両に搭載されるインバータ等のノイズ源に起因するノイズも受信する。同時にアンテナ13はアンテナ11が受信するノイズと同一のノイズ源から発生されるノイズ信号を受信する。その際、アンテナ13には、ノイズ信号に加えて、アンテナ11が受信した所望の放送波およびその他の放送波も受信する。
【0058】
アンテナ11及びアンテナ13で受信された放送波及びノイズはノイズ除去装置200に入力される。より具体的には、アンテナ11で受信された放送波及びノイズは受信回路12に、アンテナ13で受信された放送波及びノイズは受信回路14に入力される。受信回路12及び受信回路14はそれぞれ入力された放送波及びノイズを増幅し、デジタル信号に変換する。
【0059】
図4(a)は、受信回路12によってデジタル信号に変換されたデジタル信号である信号201の周波数スペクトルを示している。信号209は所望する放送局の放送波信号である。
【0060】
信号201においては、放送波信号209にノイズ信号210が重畳されている。ここでノイズ信号210はモータ駆動を行うインバータ等のPWM回路に起因するノイズ信号であり、多数の高調波を主成分とする。そのためノイズ信号210の周波数スペクトルは放送波信号209の周波数スペクトルよりも広範囲に分布する。加えてノイズ信号210は周波数方向のパワー変動を有する。
【0061】
図4(b)は、受信回路14によってデジタル信号に変換されたデジタル信号である信号202の周波数スペクトルを示している。信号211はノイズ信号210の発生源であるPWM回路から発生されたノイズ信号である。ノイズ信号211の周波数スペクトルも広範囲に分布し、かつ周波数方向のパワー変動を有する。
【0062】
ここで、アンテナ11とアンテナ13とでは、受信する放送波信号とノイズ信号の強度レベルの比率が異なる。よってノイズ信号211はノイズ信号210とは異なるレベルで受信される。
【0063】
次に適応フィルタ16は後述する係数更新部22に従い、ノイズ信号211を補正し、ノイズ信号210と同等となる複製ノイズ信号を出力する。
【0064】
図4(c)は適応フィルタ16の出力信号203の周波数スペクトルを示す。信号212はノイズ信号211をノイズ信号210と同等になるよう適応フィルタ部16で補正した複製ノイズ信号である。
【0065】
ノイズ除去部17は受信回路12の出力信号201から適応フィルタ16の出力信号212を差し引くことで、ノイズ成分を除去する。
【0066】
図4(d)はノイズ除去部17の出力信号204の周波数スペクトルを示す。信号214はノイズ信号210からノイズ信号212を差し引いたノイズ残差信号である。信号213はノイズ除去後の所望する放送波信号である。
【0067】
復調部20はノイズ除去後の所望の放送波信号213を復調して、ノイズの影響を除去した音声等を復調する。
【0068】
帯域制限部21はノイズ除去部17の出力信号204に対して、主たるノイズの周波数間隔に応じて、所望の放送波から一定の帯域のみを切り出した信号を出力する。なお、主たるノイズの周波数間隔が既知の場合は、取得する帯域を固定してもよい。
【0069】
図4(e)は、帯域制限部21の出力信号205の周波数スペクトルを示す。信号215は帯域制限の信号205に含まれる放送波である。信号216は所望の周波数帯域のみを切り出したノイズ残差信号である。信号217は元のノイズ信号のレベルが低い周波数帯域におけるノイズ残差信号である。
【0070】
係数更新部22は帯域制限部21のノイズ残差信号216を、小さくするように、望ましくは最小とするよう適応フィルタ16の係数の更新を行う。また、主たるノイズの周波数間隔に応じて、適応フィルタ16のフィルタ次数を調整する。なお、主たるノイズの周波数間隔が既知の場合は、適応フィルタ16のフィルタ次数を固定してもよい。適応フィルタの係数更新にはLMS等のアルゴリズムが用いられるが、その他のアルゴリズムを使用してもよい。
【0071】
図4(f)は、係数更新部22によって制御される適応フィルタ16の周波数特性を示す。実線で示す218は今回の構成における適応フィルタ部16の周波数特性である。残差信号217の部分について、ノイズ成分のパワーが低いため、相対的にノイズフロアのパワーが大きくなるため、適応に影響が生じるが、帯域制限部21で帯域幅を制限し、適応フィルタ部16のフィルタ次数をそれに応じた値に制限することでこの影響を抑えることができる。
【0072】
一方、図4(f)中の点線219は、帯域制限部21および係数更新部22のフィルタ次数調整が無い場合の適応フィルタ部16の周波数特性である。残差信号217の部分について、ノイズ成分のパワーが低いため、相対的にノイズフロアのパワーが大きくなり、特性にずれが生じる。
【0073】
図4(g)は帯域制限部21および係数更新部22のフィルタ次数調整が無い場合の適応フィルタ16の出力信号207の周波数スペクトルを示す。信号220は補正後のノイズ信号であり、信号221は217の特性ずれの影響により過少に補正されたノイズ信号である。
【0074】
図4(h)は帯域制限部21および係数更新部19のフィルタ次数調整が無い場合のノイズ除去部17の出力信号208の周波数スペクトルを示す。信号222は所望の放送波である。信号223はノイズ残差信号である。信号224は信号221のレベルずれにより、ノイズが十分に抑圧できなかったノイズ信号である。
【0075】
復調部20は所望の放送波222を復調するが、ノイズ信号224の影響を十分除去できないこととなる。
【0076】
以上のように、本実施形態に係る構成によれば、ノイズ信号の周波数スペクトルのパワー変動の影響を抑えて安定したノイズ抑圧動作を行うことができる。
【0077】
(第3の実施の形態)
図5は、本発明の第3の実施の形態である放送受信システム3の構成図である。放送受信システム2はアンテナ11、アンテナ13、ノイズ除去装置300から構成される。放送受信システム2は電気自動車やハイブリッド車などモータ駆動される車両に搭載される。例えば、AMラジオやFMラジオ等の放送受信システムである。
【0078】
アンテナ11及びアンテナ12に関しては、第1の実施の形態ですでに説明した通りである。
【0079】
アンテナ11及びアンテナ13で受信された信号はノイズ除去装置300に入力される。ノイズ除去装置300は、受信回路12、受信回路14、放送波検出部15、適応フィルタ16、ノイズ除去部17、帯域制限部21、放送除去部18、係数更新部22、復調部20から構成される。
【0080】
受信回路12、受信回路14、放送波検出部15、適応フィルタ16、ノイズ除去部17、放送除去部18、復調部20の機能は第1の実施の形態ですでに説明した通りである。帯域制限部21、係数更新部22の機能は第2の実施の形態で説明した通りである。
【0081】
放送受信システム3が行う放送波信号処理の復調処理は、第1の実施の形態の放送受信システム1が行う放送波除去処理を行った信号に対して、第2の実施の形態の放送受信システム2で行う帯域制限処理を施し、その結果に基づいて適応フィルタ16の係数及び次数を制御するものである。
【0082】
この構成により、ノイズ受信を目的とするアンテナ13への放送波が漏れこみ、混入したとしても、その影響を受けずに安定したノイズ除去ができると共に、ノイズ信号の周波数スペクトルのパワー変動の影響を抑えて安定したノイズ除去ができる。
【符号の説明】
【0083】
1、2、3 放送受信システム
11、13 アンテナ
12、14 受信回路
15 放送波検出部
16 適応フィルタ部
17 ノイズ除去部
18 放送除去部
19、22 係数更新部
20 復調部
21 帯域制限部
100、200、300 ノイズ除去装置
図1
図2
図3
図4
図5