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特許7181779セメント混和材及びそれを用いたコンクリート
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-22
(45)【発行日】2022-12-01
(54)【発明の名称】セメント混和材及びそれを用いたコンクリート
(51)【国際特許分類】
   C04B 22/06 20060101AFI20221124BHJP
   C04B 24/38 20060101ALI20221124BHJP
   C04B 28/04 20060101ALI20221124BHJP
   G01N 33/38 20060101ALI20221124BHJP
   C04B 103/24 20060101ALN20221124BHJP
   C04B 103/60 20060101ALN20221124BHJP
【FI】
C04B22/06 Z
C04B24/38 Z
C04B28/04
G01N33/38
C04B103:24
C04B103:60
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018230637
(22)【出願日】2018-12-10
(65)【公開番号】P2020093940
(43)【公開日】2020-06-18
【審査請求日】2021-10-12
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】501173461
【氏名又は名称】太平洋マテリアル株式会社
(72)【発明者】
【氏名】金堀 雄伍
(72)【発明者】
【氏名】長塩 靖祐
【審査官】田中 永一
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-131484(JP,A)
【文献】特開2017-165627(JP,A)
【文献】特開平01-242447(JP,A)
【文献】特開昭55-075951(JP,A)
【文献】特開2001-122649(JP,A)
【文献】特開2002-068801(JP,A)
【文献】特開2014-129210(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 2/00 - 32/02
G01N 33/38
C04B 103/24
C04B 103/60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
膨張性焼成物及び水和熱抑制成分を含有し、
該膨張性焼成物の10μm以下の粒子含有率が0~30質量%未満であり、10~40μmの粒子含有率が29~34質量%であり、且つ150μm超の粒子含有率が0~2質量%であり、さらに100~150μmの粒子含有率が5~15質量%であり、前記水和熱抑制成分の含有量は前記膨張性焼成物100質量部に対して0.5~6質量部であるセメント混和材。
【請求項2】
前記水和熱抑制成分がデキストリンである請求項1に記載のセメント混和材。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のセメント混和材を含有するコンクリート。
【請求項4】
下記特性を有することを特徴とする請求項3に記載のコンクリート。
(1)膨張率が200±30×10-6であること。
(2)JCI-SQA3「コンクリートの断熱温度上昇試験方法(案)」に準じた断熱温度上昇試験において、材齢7日における、前記セメント混和材を含まないベースコンクリートの断熱温度上昇量(T)に対する、前記ベースコンクリート配合において前記セメント混和材をセメント置換で添加したコンクリートの断熱温度上昇量(T)の比(T/T)が1.000未満であり、且つ材齢14日における比(T/T)が1.000未満であること。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に土木・建築分野において使用されるセメント混和材、特に膨張性セメント混和材及びそれを用いたコンクリートに関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリートを施工した場合、セメントの水和熱によりコンクリートの温度上昇が生じる。特にマスコンクリートでは、その温度上昇・下降が原因となる「温度ひび割れ」を発生させることが知られている。その対策として、(1)低発熱型のセメントを用いる、(2)混和材(剤)を使用する等が挙げられる。
【0003】
(1)の低発熱型のセメントとしては、ポルトランドセメントに潜在水硬性を持つ高炉スラグやポゾラン物質のフライアッシュを多量に混合したものや、セメント中のビーライトの含有率を高めた低熱ポルトランドセメント等が使用されており、初期の水和発熱量を著しく低減させることができる。(2)の混和材(剤)としては、硬化コンクリートに圧縮応力を付与する膨張材や、セメントの水和発熱特性に影響を与える水和熱抑制剤が有効であると提案されている(例えば特許文献1、2)。
【0004】
混和材による方法における水和熱抑制剤は、セメントの水和熱抑制には効果を有するものの、過剰に添加した場合はセメントの水和を抑制し強度発現性が低下すること、また有効成分の可溶性が温度の影響を受けやすいなど扱いが難しい。また、膨張材は生石灰等膨張成分の水との反応に伴う体積膨張を利用するものであるが、セメントの水和、硬化に対して、反応が速すぎると、効果的な膨張量を得ることができない。セメントの水和に影響を及ぼす水和熱抑制剤と併用した場合は、特にバランス良く調製されなければ、コンクリート全体としての発熱を抑制しながら、かつ安定した膨張量を確保することは難しい。このため、汎用の膨張材を使用した場合、温度ひび割れ効果に優れたコンクリートを得ることは難しかった。
【0005】
上記を解決する技術として、膨張物質と水和熱抑制成分を含有し、かつ、該膨張物質の10μm以下の粒子含有率が30~50質量%であるセメント混和材が提案されている(特許文献3)。膨張物質の細粒の含有率(10μm以下の粒子含有率)を所定の範囲に設定することで、強度低下を起こすことなく良好な膨張性状と、水和熱抑制効果が得られ、温度ひび割れ低減効果の高いコンクリートが得られることが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2001-48615号公報
【文献】特開2001-122649号公報
【文献】特開2017-165627号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、膨張物質の10μm以下の粒子含有率が多い場合は、マスコンクリートにおけるような断熱状態下では、温度上昇が大きくなり、温度ひび割れが生じる虞がある。この温度上昇を抑えるために水和熱抑制成分を過剰に添加した場合は、セメントの水和が抑制されてコンクリートの凝結が始発を迎える前に膨張材の反応が急速に進み、良好な膨張性状を得ることが出来ない虞がある。
【0008】
本願発明は、マスコンクリートにおけるような断熱状態下においても、温度上昇を抑えつつ所定の膨張率を安定的に発現させることができる混和材、およびその混和材を用いたコンクリートを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、前記課題を解決すべく、膨張物質を構成する膨張性焼成物の粒度に着目し、種々検討を重ねた結果、特定の粒度を有する膨張性焼成物を含有するセメント混和材を用いることによって、また該セメント混和材を用いたコンクリートを製造することによって、前記課題が解消できる知見を得て、本発明を完成するに至った。ここでコンクリートとは、セメントペースト、モルタル及びコンクリートを総称するものである。
すなわち、本発明は以下のとおりである。
〔1〕膨張性焼成物及び水和熱抑制成分を含有し、該膨張性焼成物の10μm以下の粒子含有率が0~30質量%未満であり、且つ150μm超の粒子含有率が0~2質量%であるセメント混和材。
〔2〕前記水和熱抑制成分がデキストリンである〔1〕のセメント混和材。
〔3〕〔1〕又は〔2〕のセメント混和材を含有するコンクリート。
〔4〕下記特性を有することを特徴とする〔3〕のコンクリート。
(1)膨張率が200±30×10-6であること。
(2)JCI-SQA3「コンクリートの断熱温度上昇試験方法(案)」に準じた断熱温度上昇試験において、材齢7日における、前記セメント混和材を含まないベースコンクリートの断熱温度上昇量(T)に対する、前記ベースコンクリート配合において前記セメント混和材をセメント置換で添加したコンクリートの断熱温度上昇量(T)の比(T/T)が1.000未満であり、且つ材齢14日における比(T/T)が1.000未満であること。
【発明の効果】
【0010】
本発明におけるセメント混和材を使用することにより、マスコンクリート等においても、温度上昇が抑えつつ所定の膨張率を安定的に発現させることでき、温度ひび割れ低減効果の高いコンクリートが得られる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明におけるセメント混和材は、所定の粒度分布を有する膨張性焼成物及び水和熱抑制成分を含有する。
【0012】
本発明で使用される膨張性焼成物とは、水和によって結晶を生成することにより膨張性状を示す焼成物であればよく、具体的には、遊離生石灰(CaO)、3CaO・3Al・CaSOに代表されるカルシウムサルホアルミネート系化合物、マグネシア(MgO)、硫酸カルシウム(CaSO)などを含有する膨張性焼成物が挙げられ、一種又は二種以上を混合して用いられる。本発明においては、特に遊離生石灰を主成分とする膨張性焼成物が好ましい。遊離生石灰量としては50質量%以上が好ましい。
【0013】
膨張性焼成物は、焼成原料として、炭酸カルシウム、消石灰、生石灰等のカルシウム質原料、シリカ質原料、アルミナ質原料、酸化鉄原料、石膏等が使用され、1100~1500℃の温度で焼成される。焼成には、ロータリーキルンや電気炉等の温度調節可能な炉が用いられる。当該焼成物は、粉砕、分級処理を行うことにより、所定の粒度に調整される。
【0014】
本発明における膨張性焼成物の10μm以下の粒子含有率は、0~30質量%未満である。また、本発明における膨張性焼成物の150μm以上の粒子含有率は、0~2質量%である。膨張性焼成物の10μm以下の粒子含有率が30質量%以上の場合は、水和熱抑制効果が得られなくなる。また、膨張性焼成物の150μm以上の粒子含有率が2質量%を超えると、所定の膨張率を安定的に発現させることが困難となり、なお且つ、水和発熱抑制効果が得られなくなる。
膨張性焼成物の10μm以下の粒子含有率は、好ましくは0~29質量%であり、より好ましくは1~28質量%である。また、膨張性焼成物の150μm以上の粒子含有率は、好ましくは0~1質量%であり、より好ましくは0~0.5質量%である。
【0015】
本発明における水和熱抑制成分としては、デキストリン、単糖類及びオリゴ糖等の糖類、オキシカルボン酸及びそれらの塩等が挙げられ、一種又は二種以上を混合して用いられる。この中で特にデキストリンが好ましい。
【0016】
デキストリンは、一般には加工澱粉とも呼ばれるもので、馬鈴薯、甘薯、トウモロコシ、タピオカ、小麦、その他の原料澱粉を酸分解、酸化、エステル化、エーテル化、架橋化、合成高分子の共重合化によるグラフト化等、化学的に処理し低分子化させたものである。水に可溶性のあるものが好ましい。
【0017】
水和熱抑制成分の含有量は、水和熱抑制ならびに強度発現性の点から、膨張性焼成物100質量部に対して0.5~6質量部が好ましく、1~5質量部がより好ましい。
【0018】
本発明におけるセメント混和材には、さらに石膏類を添加することができる。石膏類としては、無水石膏、二水石膏、半水石膏などが挙げられる。特に無水石膏が好ましい。石膏類の配合量としては、膨張性焼成物100質量部に対して、0~50質量部が好ましく、5~40質量部がより好ましい。
【0019】
本発明におけるセメント混和材のコンクリート中の配合量は、所定の膨張性の確保および初期強度発現性の点から、10~30kg/mが好ましく、15~25kg/mがより好ましい。
【0020】
本発明において使用されるセメントは、種々のものを使用することができ、例えば、ポルトランドセメントや混合セメントなどを使用することができる。そのようなポルトランドセメントとしては、例えば、普通、早強、超早強、低熱及び中庸熱等の各種ポルトランドセメントが挙げられる。混合セメントとしては、例えば、フライアッシュ、高炉スラグ、シリカフューム又は石灰石微粉末等が混合された各種の混合セメントが挙げられる。これらのセメントは、いずれか一種を選択して使用することもできるが、二種以上のセメントを組み合わせて使用してもよい。温度ひび割れを考慮したマスコンクリート向けには、低熱ポルトランドセメントや混合セメントが使用されることが多いが、本発明の技術によれば、汎用の普通ポルトランドセメントを用いても良好な性能が得られる。
【0021】
本発明におけるコンクリートを製造する場合に使用される骨材は、特に制限されるものではなく、通常のコンクリートの製造に使用される細骨材および粗骨材を何れも使用することができる。そのような細骨材および粗骨材として、例えば川砂、海砂、山砂、砕砂、人工細骨材、スラグ細骨材、再生細骨材、珪砂、川砂利、陸砂利、砕石、人工粗骨材、スラグ粗骨材、再生粗骨材等が挙げられる。骨材の配合量は、細骨材で700~1000kg/m、粗骨材で800~1100kg/mが好ましく、さらに細骨材で800~900kg/m、粗骨材で900~1000kg/mが好ましい。
【0022】
本発明におけるコンクリートを製造する場合に使用される水は、特に限定されるものではなく、水道水などを使用することができる。水の配合量(単位水量)は、150~180kg/mとすることが、材料分離抵抗性を高めることから好ましい。また、水の配合量は、セメント100質量部に対し、40~60質量部とすることが好ましい。
【0023】
本発明におけるコンクリートには、その特長が損なわれない範囲で各種添加剤(材)が併用されても良い。この種の添加剤としては、例えば減水剤、AE減水剤、高性能減水剤、高性能AE減水剤、流動化剤等の分散剤、凝結遅延剤、強度促進材、セメント用ポリマー、繊維、発泡剤、起泡剤、防水剤、防錆剤、収縮低減剤、増粘剤、保水剤、顔料、撥水剤、白華防止剤、消泡剤等が挙げられる。
【0024】
本発明におけるコンクリートは、発熱が低減され、安定した膨張性能が得られる。具体的には、下記のような良好な特性を得ることができる。
(1)材齢7日における膨張率が200±30×10-6であること。
(2)材齢7日、及び材齢14日における、セメント混和材を含まないベースコンクリートの断熱温度上昇量(T)に対する、セメント混和材をセメント置換で添加したコンクリートの断熱温度上昇量(T)の比(T/T)が1.000未満であること。
従って、本発明のセメント混和材を用いることによって、温度ひび割れに対する抵抗性に優れたコンクリートを得ることができ、例えば、マスコンクリート等に好適に用いられる。
【実施例
【0025】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明は何らこれらに限定されるものではない。
【0026】
<膨張性焼成物>
珪石、バン土頁岩、酸化鉄、無水石膏及び工業用生石灰の混合物を1400℃で、電気炉を用いて焼成した焼成物を粉砕し、遊離生石灰を60質量%含有する膨張性焼成物を作製した。この膨張性焼成物に含まれる遊離生石灰以外の主な鉱物は、珪酸カルシウム(3CaO・SiO)、硫酸カルシウム(CaSO)である。作製した膨張性焼成物をボールミルで粉砕後、目開き10μm、40μm、70μm、100μm及び150μmの篩を用いて、減圧吸引式乾式篩い分け装置(エアージェットシーブ)による篩い分け(分級)を行った。分級した膨張性焼成物を表1に示した割合となるように調整した。
【0027】
<使用材料>
(1)膨張性焼成物:上記粒度調整品
(2)水和熱抑制剤:デキストリン、溶解性50%タイプ
(3)石膏類:無水石膏
(4)セメント:普通ポルトランドセメント、太平洋セメント社製、密度;3.16g/cm
(5)粗骨材:砕石、Gmax:20mm
(6)細骨材:山砂(掛川産)
(7)減水剤:リグニンスルホン酸系AE減水剤
【0028】
表1に、膨張性焼成物の粒度調整品、無水石膏及びデキストリンからなるセメント混和材の配合を示す。各単位量をセメント336kg/m 、細骨材815kg/m 、粗骨材968kg/m 及び水168kg/m とし、減水剤をセメントに対して1.0質量%配合したコンクリートをベースコンクリート(基準配合)とした。セメント混和材を用いる場合は、20kg/mをセメントと置換して用いた。コンクリートの製造は、50リットルパン型ミキサを用いて行い、練り混ぜ時間は2分間とした。
【0029】
<評価試験>
評価試験としては、断熱温度上昇試験、長さ変化(膨張率)試験を行った。以下に、各試験方法を記す。
(1)断熱温度上昇試験:JCI-SQA3「コンクリートの断熱温度上昇試験方法(案)」に準じた。材齢7日、及び材齢14日において、前記セメント混和材を含まないベースコンクリート(基準配合)の断熱温度上昇量(T)に対する、前記ベースコンクリート配合において前記セメント混和材をセメント置換で添加したコンクリートの断熱温度上昇量(T)の比(T/T)をとって評価した。1.000未満を良好とした。
(2)長さ変化(膨張率)試験:JIS A 6202「コンクリート用膨張材」参考1「膨張コンクリートの拘束膨張及び収縮試験方法」(A法)に準じた。材齢7日における膨張率で換算し、200±30×10-6を良好とした。
【0030】
【表1】
【0031】
【表2】
【0032】
<試験結果>
その結果、表2に示すように、10μm以下の含有率が30質量%未満、かつ、150μm超の含有率が1%以下である膨張性焼成物を含むセメント混和材を用いると、材齢7日、14日における断熱温度の上昇は抑制され、良好な膨張性能が得られることがわかる。