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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-22
(45)【発行日】2022-12-01
(54)【発明の名称】鉄道車両の戸挟み検出装置
(51)【国際特許分類】
   B61D 19/02 20060101AFI20221124BHJP
   B61D 19/00 20060101ALI20221124BHJP
   E05F 15/41 20150101ALI20221124BHJP
【FI】
B61D19/02 T
B61D19/00 A
E05F15/41
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2018245147
(22)【出願日】2018-12-27
(65)【公開番号】P2020104688
(43)【公開日】2020-07-09
【審査請求日】2021-12-10
(73)【特許権者】
【識別番号】521475989
【氏名又は名称】川崎車両株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】特許業務法人 有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中岸 慶太
【審査官】志水 裕司
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-053528(JP,A)
【文献】特開平03-189265(JP,A)
【文献】特開2004-244956(JP,A)
【文献】特開2007-315069(JP,A)
【文献】米国特許第05280754(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B61D 19/00
E05F 15/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄道車両の乗降口を開閉する側引戸を閉じるときに前記側引戸の戸先に物体が挟まったことを検出する戸挟み検出装置であって、
前記側引戸のスライド方向の加速度を取得する加速度取得部と、
前記側引戸の閉動作の後期において、前記加速度取得部で取得された加速度の絶対値の時系列データにおける最大値が所定の閾値未満であると、戸挟みが発生したと判定する判定部と、を備える、鉄道車両の戸挟み検出装置。
【請求項2】
前記判定部は、前記側引戸の閉動作の開始後に前記加速度の絶対値の時系列データがゼロに収束した時点から前の時間に遡って最初に現れるピーク値を、前記側引戸の閉動作の後期における前記最大値とみなす、請求項1に記載の鉄道車両の戸挟み検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、鉄道車両の乗降口を開閉する側引戸を閉じるときに前記側引戸の戸先に物体が挟まったことを検出する戸挟み検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両の乗降口を開閉する側引戸の戸先に物体(例えば、カバンや衣服等)が挟まる戸挟みが発生したことを検出する装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1の技術では、戸先ゴムの中空部の内圧を検出する圧力センサを設け、戸先ゴムの内圧に基づいて戸挟みの発生の有無を判定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2013-63699号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、側引戸が正常に完全閉位置に到達したときにも戸先ゴムの内圧が変化するため、戸挟み発生時と正常時との違いを区別するのが難しい。また、側引戸の位置を検出し、側引戸が完全閉位置に到達すると正常であると判断し、側引戸が完全閉位置に到達しないと戸挟みが発生したと判断することも考えられる。しかし、挟まれた物体が小さい場合には、戸先ゴムのクッション効果により側引戸が完全閉位置に到達してしまい、戸挟みの検出漏れが生じる。
【0005】
そこで本発明は、側引戸の閉動作における戸挟みの発生を好適に検出できる装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様に係る鉄道車両の戸挟み検出装置は、鉄道車両の乗降口を開閉する側引戸を閉じるときに前記側引戸の戸先に物体が挟まったことを検出する戸挟み検出装置であって、前記側引戸のスライド方向の加速度を取得する加速度取得部と、前記側引戸の閉動作の後期において、前記加速度取得部で取得された加速度の絶対値の時系列データにおける最大値が所定の閾値未満であると、戸挟みが発生したと判定する判定部と、を備える。
【0007】
前記構成によれば、側引戸の閉動作において戸先に物体(例えば、カバンや衣服等)が挟まる事象の発生を好適に検出できる。具体的には、側引戸が完全閉位置に到達する直前に戸挟みによって側引戸の速度が低下し、低速度で側引戸が完全閉位置に到達するため、完全閉位置への到達時に側引戸に生じるショック(加速度)が低減される。よって、閉動作の後期における側引戸の最大加速度が所定の閾値未満となった場合に、戸挟みが発生したと判断することができる。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、側引戸の閉動作における戸挟みの発生を好適に検出できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施形態に係る鉄道車両のドア装置及びその近傍を示す側面図である。
図2図1に示す戸挟み検出装置のブロック図である。
図3図2に示す戸挟み検出装置の処理内容を説明するフローチャートである。
図4】正常な戸閉動作時における加速度(絶対値)の時系列データのグラフである。
図5】戸挟みが発生した戸閉動作時における加速度(絶対値)の時系列データのグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して実施形態を説明する。
【0011】
図1は、実施形態に係る鉄道車両1のドア装置3及びその近傍を示す側面図である。図1に示すように、鉄道車両1は、乗降口2a(ドア開口部)が形成された側構体2と、乗降口2aを開閉するための両開き式のドア装置3とを備える。ドア装置3は、互いに近接及び離反してスライド開閉する第1側引戸11及び第2側引戸12を有する。第1側引戸11及び第2側引戸12の戸先には、第1弾性部材21及び第2弾性部材22(戸先ゴム)がそれぞれ取り付けられている。
【0012】
第1側引戸11及び第2側引戸12の上部には、それぞれ滑車4,5が取り付けられている。滑車4,5は、乗降口2aの上方に設置されたガイドレール8に案内される。第1側引戸11及び第2側引戸12の上方には、ブラケット6,7を介して第1側引戸11及び第2側引戸12をスライド開閉するためのドア駆動装置9が設置されている。本実施形態のドア駆動装置9は、圧縮空気を用いて駆動する空気式駆動装置であるが、モータを用いて駆動する電動式駆動装置であってもよい。ドア駆動装置9の配置や側引戸11,12の案内機構等は、種々のものが考えられ、これに限定されるものではない。
【0013】
第1側引戸11には、第1加速度センサ31が取り付けられている。第2側引戸12には、第2加速度センサ32が取り付けられている。第1加速度センサ31及び第2加速度センサ32は、第1側引戸11及び第2側引戸12のスライド方向(即ち、車両長手方向)の加速度を検出するように設置されている。第1加速度センサ31及び第2加速度センサ32は、戸挟み検出装置40に通信可能に接続されている。第1加速度センサ31及び第2加速度センサ32は、戸挟み検出装置40に対して無線接続又は有線接続のいずれの態様で接続されている。なお、第1側引戸11又は第2側引戸12のいずれか一方のみに加速度センサを取り付けてもよい。
【0014】
図2は、図1に示す戸挟み検出装置40のブロック図である。図2に示すように、戸挟み検出装置40は、鉄道車両1の乗降口2aを開閉する第1側引戸11及び第2側引戸12を閉じるときに第1側引戸11及び第2側引戸12の戸先に物体(例えば、カバンや衣服等)が挟まったことを検出するための装置である。戸挟み検出装置40は、ハードウェア面において、プロセッサ、揮発性メモリ、不揮発性メモリ及びI/Oインターフェース等を有する。戸挟み検出装置40は、機能面において、加速度取得部41、判定部42及び出力部43を有する。加速度取得部41及び判定部42は、不揮発性メモリに保存されたプログラムに基づいてプロセッサが揮発性メモリを用いて演算処理することで実現される。出力部43は、I/Oインターフェース等により実現される。
【0015】
加速度取得部41は、第1加速度センサ31及び第2加速度センサ32の検出信号を受信し、第1側引戸11のスライド方向の加速度と第2側引戸12のスライド方向の加速度とを算出する。
【0016】
判定部42は、第1側引戸11及び第2側引戸12の閉動作の後期において、加速度取得部41で取得された加速度の絶対値の時系列データにおける最大値Amaxが所定の閾値Ath未満であると、戸挟みが発生したと判定する。本実施形態では、判定部42は、第1加速度センサ31から取得される加速度の時系列データと、第2加速度センサ32から取得される加速度の時系列データとの両方についてそれぞれ判定を行い、各時系列データのいずれか一方でも最大値Amaxが閾値Ath未満であるとの条件が成立すると、戸挟みが発生したと判定する。なお、判定部42は、第1側引戸11又は第2側引戸12のいずれか一方のみの加速度データに基づいて判定を行ってもよい。
【0017】
出力部43は、判定部42において戸挟み発生が検出されると、警報装置50に警報信号を出力する。警報装置50は、戸挟み検出装置40から警報信号を受信すると、表示や音等によって運転士等に戸挟みが発生した旨を報知する。
【0018】
図3は、図2に示す戸挟み検出装置40の処理内容を説明するフローチャートである。図4は、正常な戸閉動作時における加速度(絶対値)の時系列データのグラフである。図5は、戸挟みが発生した戸閉動作時における加速度(絶対値)の時系列データのグラフである。なお、図5は、第1側引戸11の戸先と第2側引戸12の戸先との間に直径8mmの円柱体を挟んだ際の実験データである。以下、図2の構成や図4及び5のグラフを適宜参照しながら、図3のフローチャートに沿って戸挟み検出の処理の流れを説明する。なお、以下では説明の便宜上、第1側引戸11の加速度についてのみ説明するが、第2側引戸12の加速度についても同様である。
【0019】
ドア装置3のドア駆動装置9に側引戸11,12の閉動作の指令があると、加速度取得部41は、第1加速度センサ31の検出値を継続的に受信して加速度を算出する(ステップS1)。判定部42は、加速度取得部41で算出された加速度の絶対値の時系列データにおいて、加速が発生したか否かを判定する(ステップS2)。例えば、図4及び5の例では、時刻t1よりも前の時点では、側引戸11が開いた状態で静止して加速度の絶対値がゼロであるため、ステップS2においてNoと判定される。他方、時刻t1の時点では、側引戸11の閉動作が開始して加速度の絶対値がゼロよりも大きくなるため、ステップS2においてYesと判定される。
【0020】
ステップS2でYesと判定されると、判定部42は、加速度取得部41で算出された加速度の絶対値の時系列データにおいて、加速度がゼロに収束したか否かを判定する(ステップS3)。具体的には、判定部42は、加速度の絶対値の時系列データにおいて、加速度がゼロ又はゼロ近傍である状態が所定時間(例えば、0.5秒)にわたって継続すると、加速度がゼロに収束したと判断する(ステップS3)。例えば、図4及び5の例では、時刻t3の時点では、第1側引戸11の閉動作が完了(静止)して加速度の絶対値が継続的にゼロ又はゼロ近傍の値になっているため、ステップS3においてYesと判定される。
【0021】
ステップS3でYesと判定されると、判定部42は、加速度がゼロに収束した時点(時刻t3から前の時間に遡って最初に現れるピーク値を特定する(ステップS4)。例えば、図4及び5の例では、時刻t2において当該ピーク値Amaxが特定される。判定部42は、当該ピーク値Amaxを側引戸11の閉動作の後期における最大加速度とみなす。このようにすれば、閉動作中の側引戸11に物体が当たって側引戸11のスライド速度が変動することで、側引戸11の閉動作に要する時間が一定でなくても、側引戸11の閉動作の後期における加速度の時系列データの最大値を適切に把握することができる。
【0022】
次いで、判定部42は、ピーク値Amaxが所定の閾値Athよりも小さいか否かを判定する(ステップS5)。閾値Athは、閉動作時に側引戸に物体が挟まれず正常に閉動作が完了したときのピーク値よりも小さい値である。即ち、図4に示すように、正常な閉動作の場合には、ピーク値Amaxが閾値Athよりも大きくなる。これは、閉動作完了時に、第1側引戸11と第2側引戸12とが互いに衝突して瞬間的に加速度が増加するためである。
【0023】
他方、図5に示すように、戸挟み発生時には、ピーク値Amaxが閾値Athよりも小さくなる。これは、側引戸11が完全閉位置に到達する直前に戸挟みによって側引戸11の速度が低下し、低速度で側引戸11が完全閉位置に到達するため、完全閉位置への到達時に側引戸11に生じるショック(加速度)が低減されるためである。なお、閾値Athの決定に際しては、正常時のピーク値Amaxと戸挟み発生時のピーク値Amaxとを予め実験で取得し、両者の中間の値を閾値Athに設定するとよい。
【0024】
ステップS5でNoと判定されると、正常な閉動作であるため、警報を出さずにそのまま終了する。他方、ステップS5でYesと判定されると、戸挟みが発生しているため、出力部43から警報装置50に警報信号を送信し、警報装置50が表示や音等によって運転士等に戸挟み発生を報知する(ステップS6)。
【0025】
なお、本発明は前述した実施形態に限定されるものではなく、その構成を変更、追加、又は削除することができる。例えば、判定部42は、加速度がゼロに収束した時点から前の時間に遡って最初に現れるピーク値を最大加速度として特定する代わりに、側引戸の閉動作開始時点から閉動作完了時点までの期間の後期として、当該期間のうち閉動作完了時点から前に遡った所定割合区間の加速度を対象として最大加速度を特定してもよい。なお、ドア装置3は、両開き式ではなく片開き式であってもよい。
【符号の説明】
【0026】
1 鉄道車両
2a 乗降口
11 第1側引戸
12 第2側引戸
40 戸挟み検出装置
41 加速度取得部
42 判定部
図1
図2
図3
図4
図5