(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-22
(45)【発行日】2022-12-01
(54)【発明の名称】適応実験室進化のための方法
(51)【国際特許分類】
G16B 5/00 20190101AFI20221124BHJP
C12N 1/16 20060101ALI20221124BHJP
【FI】
G16B5/00
C12N1/16 G
(21)【出願番号】P 2018565409
(86)(22)【出願日】2017-07-06
(86)【国際出願番号】 EP2017066931
(87)【国際公開番号】W WO2018007522
(87)【国際公開日】2018-01-11
【審査請求日】2020-06-12
(32)【優先日】2016-07-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】301076083
【氏名又は名称】ヨーロピアン モレキュラー バイオロジー ラボラトリー
【氏名又は名称原語表記】European Molecular Biology Laboratory
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100165157
【氏名又は名称】芝 哲央
(74)【代理人】
【識別番号】100205659
【氏名又は名称】齋藤 拓也
(74)【代理人】
【識別番号】100126000
【氏名又は名称】岩池 満
(74)【代理人】
【識別番号】100185269
【氏名又は名称】小菅 一弘
(72)【発明者】
【氏名】ヨウフテン パウラ トゥーリア
(72)【発明者】
【氏名】パティル キラン ラオサヘブ
【審査官】藤澤 美穂
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-528312(JP,A)
【文献】特表2006-517796(JP,A)
【文献】特表2005-506840(JP,A)
【文献】特表2005-532826(JP,A)
【文献】特開2008-178415(JP,A)
【文献】Papp, B. et al.,A critical view of metabolic network adaptations,HFSP Journal,2008年12月03日,p.24-35,検索日: 令和3年5月26日, DOI: 10.2976/1.3020599
【文献】Szappanos, B. et al.,Adaptive evolution of complex innovations through stepwise metabolic niche expansion,Nature Communications,2016年05月20日,p.1-10,検索日: 令和3年5月26日, DOI: 10.1038/ncomms11607
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G16B 5/00-99/00
C12N 1/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞又は生物の所望の代謝形質を進化させる進化化学環境の適合性を評価する方法であって、代謝モデルにおける複数のフラックスの関数のうちの1つ又は幾つかのシミュレーションを含み、
前記代謝モデルが、生化学反応の化学量論的表現、並びに細胞外化合物の移入及び移出を含み、
前記代謝形質が1セットの標的を含み、
前記標的がフラックスの関数であり、
増殖と比較した標的反応を介した1つ又は幾つかのフラックスの関数のシミュレーションが行われ、
(a)複数の制限を課すモデルの第1の最適化を行い、それによって第1の最適化結果を決定するステップであって、
ある制限が、増殖をある固定値又は範囲に限定する条件を設定し、
ある制限が、前記モデルにおけるフラックスに対して熱力学的境界を設定し、
前記モデルの前記第1の最適化が、取り込みの合計を最適化する
ステップと、
(b)前記第1の最適化結果を用いて第2の最適化を行い、それによって第2の最適化結果を決定するステップであって、
ある制限が、増殖をある固定値又は範囲に設定し、
ある制限が、取り込みの合計を前記第1の最適化結果に設定し、
前記第2の最適化結果が、前記進化化学環境の適合性を示し、
前記モデルの前記第2の最適化が、上方制御標的の合計の最適化として確認された条件を促進し、
前記上方制御標的は細胞又は生物の所望の代謝形質を増加させることができ、
前記モデルの前記第2の最適化が、下方制御標的の合計の最適化として確認された条件を促進し、
前記下方制御標的は、細胞又は生物の所望の代謝形質に対して望ましくない効果若しくは否定的な効果を有し得るか、又は所望の代謝形質に対して効果がない可能性のある標的である
ステップと、
(c)前記モデルの第3の最適化を行い、それによって第3の最適化結果を決定するステップであって、
参照化学環境における上方制御標的に関して増強された上方制御標的の数が最適化され、参照化学環境における下方制御標的に関して抑制された下方制御標的の数が最適化される
ステップと、
(d)前記進化化学環境の数値スコアを決定するステップであって、
前記スコアが下記valueによって与えられ、
【数1】
(上記式中、
nは、標的の数を表し、
coverage(適用範囲)は、ステップ(c)で得られる標的の最小値を表し、
uは、上方制御標的の数を表し、
strengthは、ステップ(b)で得られる上方制御標的の最小合計と下方制御標的の最大合計の合計を表し、
cは、前記進化化学環境における成分の数を表し、
W
c、W
s及びW
mは、数学的重みを表す。)
前記スコアが、前記化学環境における前記標的に対する最低の場合の淘汰圧の強度を示し、
取り込みが細胞外化合物の移入である反応を介したフラックスの関数であり、
前記スコアが、前記進化化学環境における前記淘汰圧による前記標的の最低の場合の適用範囲を示し、及び/又は
前記スコアが、前記進化化学環境の前記スコアを決定する際の前記進化化学環境における成分の数を考慮する
ステップと
を含む、方法。
【請求項2】
前記細胞又は生物は、前記代謝形質が進化する環境(進化環境)とは異なる、異なる環境(標的環境)において使用されるように意図され、前記所望の代謝形質が前記標的化学環境において適応度の利点を与えない、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記所望の代謝形質が前記進化化学環境において適応度の利点を与える、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
増殖と比較した1つ又は幾つかの標的のシミュレーションが行われ、
前記増殖が、バイオマス成分又はバイオマスを生成する反応(単数又は複数)を介したフラックスの関数であり、前記増殖がある固定値又は範囲内に制限されてシミュレーションが行われる、
請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
制限が取り込みのいずれかについて設定されてシミュレーションが行われる、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
取り込みの合計がある固定値又は範囲内に制限されてシミュレーションが行われ、任意選択で、取り込みの合計が最適値に制限されてシミュレーションが行われ、及び/又は取り込みのいずれかがある固定値又は範囲内に制限されてシミュレーションが行われる、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
上方制御標的と下方制御標的が逆方向に最適化され、
前記上方制御標的は、増加が望ましい標的であり、
前記下方制御標的は、減少が望ましい標的であり、
絶対的フラックス値のシミュレーションが行なわれ、
任意選択で、上方制御標的の絶対値が最小化され、下方制御標的の絶対値が最大化され、及び/又は少なくとも1つの閾値を超える、若しくは下回る、標的の数が最適化される、
請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
少なくとも1つの閾値を超える、又は下回る、増殖と比較した標的の数がシミュレートされ、任意選択で、前記少なくとも1つの閾値が、参照化学環境においてフラックスの関数に対して決定される、
請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記シミュレーションにおいて、少なくとも1つの抑制されたフラックスが定義され、任意選択で、前記進化化学環境に含まれる抑制体又は調節性トリガーの標的である反応を介してゼロフラックスに制限することによってシミュレーションが行われる、
請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
細胞又は生物の代謝形質を進化させる進化化学環境を決定する方法であって、
(a)請求項1から9のいずれか一項に記載の方法を用いて、代謝形質を進化させる少なくとも2つの化学環境の適合性を評価するステップ、
(b)代謝形質を進化させる可能性が最も高い化学環境に属する、代謝形質を進化させる適合性を有する少なくとも1つの化学環境を選択するステップ
を含む、方法。
【請求項11】
ステップ(b)において、代謝形質を進化させる可能性が最も高い化学環境の90%、80%、70%、60%、50%、40%、30%、20%、15%、10%、5%、3%、2%に属する化学環境が選択される、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
細胞又は生物の代謝形質を進化させる方法であって、
(i)請求項1に記載のステップ(a)及び(b)に従って、前記細胞又は生物の前記代謝形質を進化させる進化化学環境を決定するステップ、
(ii)所望の形質を進化させる進化化学環境において前記細胞又は生物を増殖させるステップ、
(iii)前記細胞又は生物によって少なくとも1種の所望の生成物を生成するために前記細胞又は生物を標的化学環境において増殖させるステップ
を含む、方法。
【請求項13】
微生物が酵母、好ましくはサッカロミセス種(Saccharomyces sp.)、より好ましくはサッカロミセス セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)である、請求項1に記載の進化化学環境の適合性を評価する方法、請求項10又は11に記載の進化化学環境を決定する方法、請求項12に記載の代謝形質を進化させる方法。
【請求項14】
前記代謝形質が少なくとも1種の芳香化合物の生成の増加である、請求項1に記載の進化化学環境の適合性を評価する方法、請求項10又は11に記載の進化化学環境を決定する方法、又は、請求項12に記載の代謝形質を進化させる方法。
【請求項15】
前記少なくとも1種の芳香化合物が、芳香族芳香化合物、若しくは分枝鎖アミノ酸由来芳香体、又はその前駆体である、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前
記芳香化合物が酢酸フェニルエチルである、請求項14に記載の方法。
【請求項17】
前記代謝形質が、乳酸菌増殖を増強するアミノ酸の生成の増加である、請求項1に記載の進化化学環境の適合性を評価する方法、請求項10又は11に記載の進化化学環境を決定する方法、又は、請求項12に記載の代謝形質を進化させる方法。
【請求項18】
プロセッサによって実行されると、請求項1に記載の方法ステップを行うように適合されたコンピュータプログラム要素を含む、コンピュータ可読媒体。
【請求項19】
請求項10又は11のステップを含む、所望の代謝形質を有する細胞又は生物を選別するための選択化学環境を決定する方法であって、
代謝形質を進化させる化学環境の適合性が、所望の代謝形質を有する細胞又は生物を選別するための前記化学環境の適合性と相関する、
方法。
【請求項20】
選択化学環境を用いて所望の代謝形質を有する細胞又は生物を選別する方法であって、
前記所望の代謝形質は、選択環境において適応度の利点を与え、
前記代謝形質を含む細胞又は生物は、所望の代謝形質を含まない別の細胞又は生物よりも高い増殖を示し、
(a)請求項
19に記載の選択化学環境を決定するステップ、
(b)少なくとも2種の細胞又は生物を前記選択化学環境において増殖させるステップ、
(c)前記選択環境において他の細胞又は生物の1種以上よりも高い増殖を示す少なくとも1種の細胞又は生物を選択するステップ
を含み、
前記選択環境におけるより高い増殖は、前記細胞又は生物が前記所望の代謝形質を含むことを示す、
方法。
【請求項21】
前記細胞又は生物は、前記代謝形質が進化する環境(進化化学環境)とは異なる、異なる環境(標的化学環境)において使用されるように意図され、前記所望の代謝形質が前記標的化学環境において適応度の利点を与えない、請求項
19または
20に記載の方法。
【請求項22】
前記所望の代謝形質が前記選択化学環境において適応度の利点を与える、請求項
19から
21のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞及び/又は生物の適応実験室進化に関する。特に、本発明は、遺伝子操作を必要とせずに所望の代謝形質を生成するための細胞又は生物の適応実験室進化の方法に関する。さらに、本発明は、コンピュータプログラム要素及びコンピュータ可読媒体を提供する。さらに、本発明は、本発明の方法によって得られる細胞又は生物に関する。
【背景技術】
【0002】
適応実験室進化とは、特定の増殖条件下で選択中に細胞又は(微)生物の集団に蓄積する適応変化をもたらす、明確な条件下での細胞又は生物の培養を指す。
【0003】
微生物株の設計改変は、最近、例えば、遺伝子操作が望ましくないことが多い、又は全く適用できない食品産業において、関心が次第に高まっている。さらに、遺伝子操作を適用できる場合でも、この方法は、特に複合形質の発生にやはり限定される。
【0004】
これまで、所望の形質が適応実験室進化中にどのように発生するかを予測することは困難であった。特に、様々なパラメータ又は成分が変動する条件下で所望の形質を予測することは難題である。
【0005】
特に、細胞の適応度を最大にしない代謝形質を確立することは困難である。自然淘汰は、適応度のより高い細胞を好むので、適応進化条件の選択は、特に、所望の代謝形質が標的条件において細胞の適応度を最大にしないときには、非直観的である。「標的条件」又は「標的生態的地位」という用語は、所望の適用例、例えば、風味化合物の製造又はワイン発酵が意図される、細胞又は生物の化学環境を指す。
【0006】
したがって、代謝形質の改変を設計可能な、及び/又は複合代謝形質を発生可能な方法が必要である。特に、所望の代謝形質を進化させる化学環境の適合性を評価する方法が必要である。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の目的は、所望の代謝形質を発生させる適応進化のための化学環境を設計する方法を提供することである。
【0008】
この目的は、独立請求項の一項に係る主題によって解決することができる。本発明の実施形態は、従属請求項中に、また、図面に関して、記述される。
【0009】
記述される実施形態は、同様に、化学環境の適合性を評価する方法、コンピュータプログラム要素、及びコンピュータ可読媒体に関する。相乗効果が実施形態の様々な組合せから生じ得るが、それらは詳述されない場合もある。なお、本発明の状況においては、「フラックス」及び「フラックスの関数」並びに「複数のフラックス」及び「複数のフラックスの関数」という用語は、区別なく使用される。
【0010】
さらに、方法に関する本発明のすべての実施形態は、記述されるステップの順序で行うことができるが、それでもこれが方法のステップの唯一の必須な順序である必要はないことに留意されたい。方法ステップの異なる順序及び組合せすべてがこれによって記述される。
【0011】
本発明の第1の態様によれば、細胞又は生物の所望の代謝形質を進化させる化学環境の適合性を評価する方法が提供される。該方法は、代謝モデルにおける1つ又は幾つかのフラックスのシミュレーション、特に代謝モデルにおける1つ又は幾つかのフラックスの関数のシミュレーションを含む。それに関して、代謝モデルは、生化学反応の化学量論的表現、並びに細胞外化合物の移入及び移出を含む。代謝形質は、1セットの標的を含み、後者は、細胞又は生物において生じるフラックスの関数である。
【0012】
所望の代謝形質は、細胞又は生物の所望の適用例が意図される標的環境において適応度の利点を与えない。
【0013】
特に、所望の代謝形質は、それが適応度の利点を与える進化化学環境において進化するが、標的環境においては、所望の形質は適応度の利点を与えない。標的環境においては、所望の形質が活用される。標的環境においては、所望の形質は、少なくとも1つの所望のフラックスの増加若しくは減少を許容し、及び/又は少なくとも1つのフラックスの増加若しくは減少を回避する。特定の一実施形態においては、標的環境において、所望の形質は、少なくとも1種の所望の生成物の生成フラックスの増加を許容する。
【0014】
当業者の理解するところによれば、進化環境と標的環境は異なり、例えば、進化環境と標的環境はそれらの組成が異なる。
【0015】
したがって、特定の一実施形態は、細胞又は生物の所望の代謝形質を進化させる化学環境の適合性を評価する方法であって、所望の代謝形質が適応度の利点を与えない異なる化学環境で細胞又は生物が使用されることが意図される方法に関する。
【0016】
換言すれば、一部の実施形態は、細胞又は生物の所望の代謝形質を進化させる進化化学環境の適合性を評価する方法であって、所望の代謝形質が適応度の利点を与えない標的環境において活用される方法に関する。
【0017】
本発明に係る方法を用いて、細胞又は生物の所望の代謝形質を進化させるのに使用することができる適切な化学環境を決定することができる。
【0018】
本発明の一実施形態によれば、化学量論行列が代謝モデルを表すのに使用される。あるいは、代謝モデルのグラフ表示を用意することができる。
【0019】
本発明の状況におけるモデルにおける1つ又は幾つかのフラックスの関数のシミュレーションとは、1つ又は幾つかのフラックスの関数の最適化を指し得ることに留意されたい。
【0020】
本発明に係る代謝形質は、細胞又は生物の対応するモデルの幾つかの標的のうちの1つ又はそれらの組合せによって構築される細胞又は生物の代謝特性である。したがって、代謝形質は、3、4、5、6、7、8、9、10又はそれ以上の標的などの少なくとも1つの標的、好ましくは少なくとも2つの標的によって構築される。標的は、細胞又は生物において生じるフラックスの関数である。
【0021】
一般に、代謝形質は、数世代の細胞又は生物にわたって進化する。それは、少なくとも2世代、例えば、少なくとも10、少なくとも50、少なくとも100、少なくとも200、少なくとも300又はそれ以上の世代、好ましくは少なくとも50世代、より好ましくは約100世代の細胞又は生物が、代謝形質の進化に必要であることを意味する。それは、細胞又は生物がある期間、化学環境において、特に進化化学環境において、数日、数週、数か月又は数年培養されることを意味する。
【0022】
「代謝形質」という用語は、細胞又は生物の代謝的特徴、例えば、ある生成物をある条件下で生成する能力、あるpH、あるガスレベル又はある栄養素、好ましくはあるガスレベル又はある栄養素などのある条件下で生存及び再生する能力を指す。
【0023】
化学環境は、代謝形質を確立するのに適切である場合、代謝形質を進化させるのに適切とみなされる。すなわち、細胞又は生物の集団が化学環境中で維持される、すなわち培養されるとき、細胞又は生物の集団の一部が代謝形質を確立し、例えば、少なくとも1種の細胞又は生物が代謝形質を確立する。好ましくは、集団の少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%又はそれ以上が代謝形質を確立する。
【0024】
「代謝形質を確立する」という用語は、代謝形質が進化化学環境及び/又は標的化学環境において2、10、100、1000、5000又はそれ以上の世代などの次世代で失われないことを意味する。特に、これは、代謝形質を有する細胞の少なくとも50%、60%、70%、80%又は90%において、この形質が次世代で失われないことを意味する。
【0025】
本発明の状況においては、上方制御標的であるモデルにおいて少なくとも1つのフラックスの関数を有することが望ましい場合もあり、上方制御標的は、化学環境への曝露による増加が望まれるフラックスの関数である。
【0026】
細胞又は生物の特定の代謝形質を進化させる化学環境の適合性を定量的に査定/評価できることが本発明の特別な一効果である。本発明の所望の適用例とは、方法内で決定される適切な化学環境を用いた進化生態的地位における細胞又は生物の進化を指す。決定された適切な化学環境における進化は、所望の代謝形質を補強又は増強する。続いて細胞又は生物を標的生態的地位、例えば生成化学環境に移すと、細胞又は生物の補強又は増強された代謝形質は、例えば酵母によって生成される、風味化合物などの所望の生成物を生じる。
【0027】
本発明の一実施形態によれば、増殖と比較した1つ又は幾つかの標的のシミュレーションが行われる。それに関して、増殖は、バイオマス成分又はバイオマスを生成する反応(単数又は複数)を介したフラックスの関数である。
【0028】
「標的反応」又は「標的」は、方法に関連してスケールを設定又は導入するために、増殖と比較して考察される。これによって、異なる環境を互いに比較することができる。例えば、適応進化における反応に対する、すなわち所与の酵素の活性に対する、淘汰圧は、増殖の1単位当たりに必要な標的が高いほど高いと考えることができる。これは、適応進化における自然淘汰が高速/高収率増殖を好むからである。例えば、第1の環境においては、上方制御標的は、細胞中の増殖に比べて値が高い。しかし、第2の環境においては、同じ標的の値は、細胞の増殖に比べて低い。どちらの場合も、増殖最適性を想定している。高い増殖速度又は増殖収率の場合、第1の環境の場合の標的の値は、第2の場合より高くなるはずである。それぞれ2つの場合の各々における増殖と比較して、2つの化学環境を互いに定量的レベルで比較することができる。
【0029】
一実施形態においては、少なくとも1つの上方制御標的が、L-スレオニンアルドラーゼ、ピルビン酸カルボキシラーゼ、4-ヒドロキシフェニルピルビン酸デカルボキシラーゼ、4-ヒドロキシフェニル酢酸デヒドロゲナーゼ、チロソールデヒドロゲナーゼ、チロソール分泌及び4-ヒドロキシフェニル酢酸分泌からなる群から選択され、及び/又は少なくとも1つの下方制御標的が、ピルビン酸デカルボキシラーゼ及び4-ヒドロキシピルビン酸分泌から選択される。
【0030】
特定の一実施形態においては、上方制御標的が、L-スレオニンアルドラーゼ、ピルビン酸カルボキシラーゼ、4-ヒドロキシフェニルピルビン酸デカルボキシラーゼ、4-ヒドロキシフェニル酢酸デヒドロゲナーゼ、チロソールデヒドロゲナーゼ、チロソール分泌及び4-ヒドロキシフェニル酢酸分泌であり、下方制御標的が、ピルビン酸デカルボキシラーゼ及び4-ヒドロキシピルビン酸分泌である。
【0031】
本発明の一実施形態によれば、シミュレーションは、増殖がある固定値又は範囲内に制限されて行われる。
【0032】
増殖のこうした制限は、異なる化学環境の比較の可能性を更に向上させる。
【0033】
本発明の一実施形態によれば、シミュレーションは、制限が細胞又は生物のモデルにおける任意の取り込みに対して設定されて行われる。それに関して、取り込みは、細胞外化合物の取り込みである反応(単数又は複数)を介したフラックス(単数又は複数)の関数である。
【0034】
細胞外化合物の取り込みは、例えば輸送体又は小胞によって媒介される、能動的、又は細胞中への化合物の拡散による受動的であり得る。代謝フラックスに影響する細胞又は生物の受容体又は酵素と化合物の相互作用も包含される。
【0035】
本発明の一実施形態によれば、シミュレーションは、取り込みの合計がある固定値に制限されて、又はある固定範囲内に制限されて、行われる。
【0036】
例えば、取り込みの合計をある固定された増殖において最小限にすることによって得られる固定値に取り込みの合計を制限することができる。こうした設定は、増殖への最適又はほぼ最適な変換の状況に関係する。
【0037】
本発明の一実施形態によれば、シミュレーションは、最適値に制限される取り込みの絶対値の合計で行われる(すなわち、L1ノルム)。
【0038】
本発明の一実施形態によれば、シミュレーションは、取り込みのいずれかがある固定値に制限されて、又はある固定範囲内に制限されて、行われる。
【0039】
本発明の一実施形態によれば、シミュレーションは、取り込みのいずれかが最適値に制限されて行われる。「最適値」という用語で極値を示すことができる。これらは、例えば、モデルにおいて定義された反応の方向に応じて最小値又は最大値とすることができる。
【0040】
本発明の更なる一実施形態によれば、上方制御標的と下方制御標的は、逆方向に最適化される。
【0041】
それに関して、上方制御標的は増加が望ましい標的であり、下方制御標的は減少が望ましい標的である。上方制御標的は、したがって、細胞又は生物の所望の代謝形質を増加させ得る。一方、下方制御標的は、所望の代謝形質に対して望ましくない効果、否定的な効果を有し得る、又は効果のない可能性のある、標的である。
【0042】
特定の化学環境における細胞又は生物のシミュレーションにおいては、幾つかの可能な解決策が上方制御及び下方制御標的で生じ、形質を増強するそれらの能力が異なる場合がある。本発明の要旨は、形質を増強する最低の解決策(単数又は複数)を各環境で選択し、これらの最低の解決策(単数又は複数)を化学環境の比較に使用することである。上方制御標的(単数又は複数)を増強する、及び/又は下方制御標的(単数又は複数)を抑制する、それらの最低の能力に基づいて化学環境を比較するために、上方制御標的の絶対値を最小限にし、下方制御標的の絶対値を最大にすることができる。
【0043】
本発明の一実施形態によれば、シミュレーション内で、絶対的フラックス値が検討され、シミュレーションは絶対的フラックス値を用いて行われる。
【0044】
代謝モデルにおいては、フラックスの符号は、モデルにおいて定義されるフラックスの方向に依存する。負のフラックスは、このフラックスが、対応する正符号のフラックスと逆方向に向かうことを示す。
【0045】
本発明の一実施形態によれば、少なくとも1つの閾値を超える、又は下回る、標的の数が最適化される。この最適化は、化学環境を改善するのに役立ち得る。
【0046】
本発明の一実施形態によれば、少なくとも1つの閾値を超える、又は下回る、増殖と比較した標的の数がシミュレートされる。
【0047】
前もって設定された閾値を超える増殖と比較した標的の数は、化学環境による標的の適用範囲についての情報を与えることができる。
【0048】
「標的の適用範囲」という尺度は、幾つのフラックスが参照条件に比べて優れた様式で最適化されるかを示すことができる。前もって設定された閾値は、参照条件におけるフラックス(単数又は複数)の関数とすることができる。さらに、任意選択で、参照条件と比較すべき標的の値がどのくらい高い又は低いかを判定する閾値を適用する。
【0049】
本発明の一実施形態によれば、少なくとも1つの閾値が、参照化学環境においてフラックスの関数に対して決定される。
【0050】
参照化学環境は、原則的に、任意に選択することができる。方法の一目的は、参照環境における細胞又は生物中の標的の進化よりも細胞又は生物中の標的の良好な進化を可能にする化学環境を決定することである。例えば、酵母の参照化学環境は、ワイン製造用酵母の増殖に使用されるブドウマスト培地であろう。
【0051】
本発明の更なる一実施形態によれば、シミュレーション内で、少なくとも1つの抑制フラックスが定義される。
【0052】
本発明の一実施形態によれば、シミュレーションは、化学環境において成分として含まれる、基質類似体などの抑制体、又は2-デオキシグルコースなどの調節性トリガーの標的である反応を介してフラックスを制限することによって行われる。
【0053】
「調節性トリガー」という用語は、細胞又は生物において、例えば転写調節によって、経路、特に代謝経路を活性化又は抑制する化合物を指す。
【0054】
「抑制体」という用語は、細胞又は生物、例えば基質類似体において、反応、特に代謝反応を抑制する化合物を指す。
【0055】
その結果、本発明の更なる一実施形態によれば、シミュレーションは、これらのフラックスをゼロに制限することによって行うことができ、これらは、化学環境において成分として含まれる抑制体又は調節性トリガーの標的である。
【0056】
一実施形態によれば、方法は、化学環境の数値スコアを決定する後続の追加のステップを含む。それに関して、スコアは、化学環境における標的に対する淘汰圧の強度を示す。さらに、スコアは、化学環境における淘汰圧による標的の適用範囲を示す。
【0057】
数値スコアの定義及び決定の明示的一例については後述する。
【0058】
一実施形態によれば、方法は、数値スコアの決定のステップを更に含み、スコアは、化学環境における標的に対する最低の場合の淘汰圧の強度、及び化学環境における淘汰圧による標的の最低の場合の適用範囲を示す。
【0059】
更なる一実施形態によれば、数値スコアは、上記実施形態の1つに基づいて定義され、更に化学環境における成分の数を考慮する。
【0060】
ことによると、化学環境における成分の数が少ないほど、環境は費用効果が高い可能性がある。さらに、異なる化合物/成分が化学環境からどのように取り入れられるかを演繹的に知ることは容易でないことが多い。これは、特に、幾つかの成分が一緒に提供される場合に該当する。多数の成分の場合、化学環境における細胞が少なくとも最適割合の近くで成分を取り入れ、使用できる可能性が低くなり得る。この状況においては、最適割合は、最適な増殖に対応する割合として理解されるべきである。
【0061】
数値スコアを更に参照して、本発明の一実施形態においては、スコアは、淘汰圧の強度、及び淘汰圧による標的の適用範囲、並びに化学環境における成分の数の関数を含む。
【0062】
一実施形態によれば、方法は、以下のステップを含む。第1のステップにおいては、第1のシミュレーションは、複数の制限を課し、それによって第1のシミュレーション結果を決定することによって行われる。制限の1つは、増殖をある固定値又は固定範囲に限定する条件を設定することと理解される。別の制限は、モデルのフラックスに対して熱力学的境界を設定する。第1のステップにおけるシミュレーションは、取り込みの合計を最適化することによって行われる。この最適化は、これらの成分の最適な変換を取り込み細胞又は生物の増殖に設定するために、化学環境の利用可能な成分の取り込みの合計を最小限にすることによって行われる。
【0063】
第2の方法ステップにおいては、第2のシミュレーションが行われ、それによって第1のシミュレーション結果を使用し、又はそれに依存する。その結果、第2のシミュレーション結果が決定される。第2のシミュレーションは、細胞又は生物の増殖の制限をある固定値に設定することを含み、又は増殖をある固定範囲内に制限する。第2のシミュレーション内で設定される別の制限は、第1のシミュレーションにおいて考慮された取り込みの合計を第1のシミュレーション結果に制限する。第2のシミュレーション結果は、化学環境の適合性を示し、上方制御標的の合計の最適化として確認された条件、及び下方制御標的の合計の最適化として確認された別の条件を促進する。
【0064】
更なる一実施形態によれば、上記方法ステップに加えて、第3のシミュレーションに関係する第3の方法ステップが含まれ、それによって第3のシミュレーション結果を決定する。この第3のシミュレーション内で、参照化学環境における参照上方制御標的に関して増強された上方制御標的の数が最適化される。同様に、参照化学環境における下方制御標的に関して抑制された下方制御標的の数も第3のシミュレーション内で最適化される。
【0065】
本発明の更なる一実施形態においては、化学環境の数値スコアの決定は、スコアが以下のvalue
【数1】
によって与えられる点で定式化される。
式は、上記第1、第2及び第3のシミュレーションステップを含むシミュレーションに依拠する。上式においては、nは標的の数を表し、coverageとは第3のシミュレーションステップ内で得られた標的の最適数を指し、uは上方制御標的の数を表し、strengthは、第2のシミュレーションステップにおいて得られた上方制御標的の最適化合計と下方制御標的の最適化合計の合計である。化学環境における成分の数はcで示される。最後に、W
c、W
s及びW
mは、数学的重みを表す。これらの重みは、使用者によって設定又は選択することができる。例えば、以下の値をW
c、W
s及びW
mに選択することができる:1000、100、1。それによって、標的を含む形質を進化させる化学環境を評価する際に、最高の重みを標的の適用範囲に割り当て、最低の重要性を化学成分の数に割り当てる。重みに特定の値を選択して、第1、第2及び/又は第3のシミュレーションステップからの結果は、上記合計における3つの項によれば、数値valueによって定量化される数値スコアにおいてより大きい又はより小さい影響を受ける可能性がある。
【0066】
上式は、化学環境の実際の数値スコアの決定例であり、細胞又は生物の所望の代謝形質を進化させるために使用することができる異なる化学環境の定量的比較を可能にする。実施形態の詳細な説明を参照して、明示的な簡易計算例が示される。この計算例から、上式による数値スコアの決定が明らかになる。
【0067】
本発明の方法は、化学環境の適合性を評価するスコアを与える。このスコアを使用して、異なる化学環境を評価し、格付けすることができる。
【0068】
更なる一実施形態によれば、化学環境の適合性を評価するスコアは、化学環境におけるstrength及び/又はcoverage及び/又は成分の数を含む関数を用いて計算される。当業者には、本発明の範囲を逸脱せずに、この状況を適応させることは容易であろう。
【0069】
本発明の方法は、例えば、遺伝的アルゴリズム、シミュレーテッドアニーリングなどの最適化又は探索アルゴリズムにおける適応度スコアリングに使用することができる。遺伝的アルゴリズムが使用されるときには、化学環境は、例えば、遺伝的アルゴリズムにおける個体を表すことができ、化学環境の化合物の有無が遺伝子セット(時折、遺伝的アルゴリズムにおいて形質とも呼ばれる)を表すことができる。
【0070】
本発明の方法を使用して、どの自然環境が所望の代謝形質を進化させるのに適切であるかを評価することもできる。したがって、化学環境を細胞又は生物の自然環境とすることができる。それは、公知である、又は当業者に既知の方法で決定される、少なくとも1つの自然環境の化合物が、化学環境の適合性の評価に使用されることを意味する。自然環境が所望の代謝形質を進化させるのに適切であると判断される場合、生物を自然環境から分離することができる。分離された生物を代謝形質の存在について分析することができる。代謝形質の分析方法は、当業者に知られており、例えば、酵素試験、代謝産物分析、生理の特性分析、フラックス分析、当業者に既知の方法(例えば、次世代シーケンシング)による、生物のプロテオーム又はゲノムの決定などが挙げられる。
【0071】
代謝形質は、細胞又は生物の代謝的特徴、例えば、所望の生成物をある条件下で生成する能力、あるガスレベル、栄養素の有無、物質に対する抵抗性又は感受性などのある条件下で生存及び再生する能力とすることができる。好ましくは、代謝形質は、細胞又は生物が、細胞又は生物によって少なくとも1種の所望の生成物を生成できるようにする。これは、例えば、代謝形質を獲得した細胞又は生物が、本発明の方法を適用する前の細胞又は生物における所望の生成物の量に比べて、所望の生成物の生成を10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、100%、150%、200%、250%、300%又はそれ以上増加し得ることを意味する。細胞又は生物は、代謝形質を獲得する前には化合物を生成できなかったが、代謝形質を獲得した後に所望の化合物を生成し得ることも考えられる。代謝形質は、例えば、生成物の生成の減少とすることもできる。例えば、アルコール発酵プロセスにおけるエタノールなどのアルコールの生成の減少。
【0072】
少なくとも1種の所望の生成物は、細胞又は生物、特に微生物によって生成することができる任意の生成物、例えば、ポリマー、酸、アルコール又はエステルとすることができる。少なくとも1種の所望の生成物は、食品化合物、好ましくは芳香化合物とすることができる。芳香化合物は、例えば、アルコール、アルデヒド、エステル、脂肪酸、ケトン、ラクトン、分枝鎖アミノ酸由来芳香体(aroma)若しくはその前駆体、芳香族化合物又はピラジンとすることができる。芳香化合物として用いられるアルコールは、例えば、1,2-ブタンジオール、2-ブタノール、2-3-ブタンジオール、エタノール、2-エチルブタノール、2-エチルヘキサノール、2-ヘプタノール、ヘキサノール、イソブタノール、2-メチルブタノール、3-メチルブタノール、2-メチルプロパノール、2-ノナノール、(Z)-1,5-オクタジエン-3-オール、2-オクタノール、1-オクテン-3-オール、1-ペンタノール、フェニルエタノール、2-フェニルエタノール、1-ノナノールとすることができる。芳香化合物として用いられるアルデヒドの例は、アセトアルデヒド、デカナール、ヘプタナール、(Z)-4-ヘプテナール、ヘキサナール、2-ヘキセナール、イソヘキサナール、2-メチルブタナール、3-メチルブタナール、2-メチルプロパナール、ノナナール、(E,E)-2,4-ノナジエナール、(Z)-2-ノネナール、(E)-2-ノネナール、オクタナール、ブタナール、ペンタナール、プロパナール、プロペナール、チオフェン-2-アルデヒドである。エステルの例は、酢酸メチル、酢酸エチル、酪酸エチル、エチルヘキソナート(ethyl hexonate)、エチルイソブトナート(ethyl isobutonate)、オクタン酸エチル、ブタン酸エチル、ブタン酸イソブチル、酢酸2-メチル-1-ブチル、酢酸3-メチル-1-ブチル、酢酸3-オクチル、酢酸ペンチル、酢酸フェネチル、酪酸エチル、酪酸プロピル、プロピオン酸2-ヒドロキシエチル、プロピオン酸2-メチル-2-エチル-3-ヒドロキシヘキシル、ブタン酸エチル2-メチル、ブタン酸エチル3-メチルである。芳香化合物として用いられる脂肪酸の例は、アセタート、ブチラート、カプロアート、デカノアート、イソブチラート、2-メチル酪酸、3-メチル酪酸、オクタノアート、フェニルアセタート、プロピオナート、バレラートである。芳香化合物として用いられるラクトンの例は、δ-デカラクトン、γ-デカラクトン、γ-ブチロラクトン、δ-ドデカラクトン、δ-オクタラクトン、(Z)-6-ドデセン-δ-ラクトンである。芳香化合物として用いられるケトンの例は、アセトフェノン、アセトン、2,3-ブタンジオン、2,3-ペンタンジオン、2-ブタノン、3-ヒドロキシ-2-ブタノン、2-ヘプタノン、2-ヘキサノン、3-メチル-2-ブタノン、4-メチル-2-ペンタノン、2-ノナノン、2-オクタノン、1-オクテン-3-オン、2-ペンタノン、3-ペンタノン、2-トリデカノン、2-ウンデカノンである。芳香化合物として用いられる芳香族化合物は、例えば、バニリン、ベンズアルデヒド、β-フェネチルアルコール、酢酸フェニルエチル又はトリメチルベンゼンである。芳香化合物として用いられるピラジンは、例えば、2,3-ジエチル-5-メチルピラジン、2-エチル-3,5-ジメチルピラジン、2-メトキシ-3-イソプロピルピラジンである。分枝鎖アミノ酸由来芳香体は、例えば、メチオノール、イソバレラート、イソブチルアセタート、イソブタノール、イソブタノアート、イソアミルアセタート、イソアミルアルコール、2-メチルブタノールである。
【0073】
好ましい実施形態においては、芳香化合物は、酢酸フェニルエチル、又はメチオノール、イソバレラート、イソブチルアセタート、イソブタノール、イソブタノアート、イソアミルアセタート、イソアミルアルコール、2-メチルブタノールなどの分枝鎖アミノ酸由来芳香体若しくはそれらの前駆体とすることができる。
【0074】
したがって、一実施形態は、標的化学環境において酢酸フェニルエチルの生成の増加及び/又は分枝鎖アミノ酸由来芳香体若しくはそれらの前駆体の生成の増加をもたらす所望の代謝形質を進化させる進化化学環境に関する。したがって、本発明は、標的化学環境において酢酸フェニルエチルの生成の増加及び/又は分枝鎖アミノ酸由来芳香体若しくはそれらの前駆体の生成の増加をもたらす所望の代謝形質を進化させる化学環境の適合性を評価する方法に関する。
【0075】
好ましい実施形態においては、細胞又は生物は、産業的に関連性がある。特に企図されるのは微生物である。微生物は、細菌、酵母又はカビの群から選択することができる。産業的に関連する細菌の例は、大腸菌(Escherichia coli)などのエシェリキアである。酵母は、例えば、サッカロミセス セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)などのサッカロミセスとすることができる。カビの例は、アスペルギルス ニガー(Aspergillus niger)などのアスペルギルスである。産業的に関連する微生物の例は、ペディオコッカス ペントサス(Pediococcus pentosaceus)、ラクトバチルス アシドフィルス(Lactobacillus acidophilus)、ラクトコッカス ラクチス(Lactococcus lactis)、ラクトバチルス プランタルム(Lactobacillus plantarum)、ラクトバチルス デルブリュッキ亜種(Lactobacillus delbrueckii subsp.)、ブルガリカス(bulgaricus)などのラクトバチルス種(Lactobacillus sp.)、ストレプトコッカス サーモフィラス(Streptococcus thermophiles)、アセトバクター ガネンシス(Acetobacter ghanensis)、アセトバクター ファバルム(Acetobacter fabarum)などの酢酸菌種(Acetobacter sp.)、クルイベロミセス マルキシアヌス(Kluyveromyces marxianus)、クルイベロミセス ラクチス(Kluyveromyces lactis)などのクルイベロミセス種(Luyveromyces sp.)、カザクスタニア エキシグア(Kazachstania exigua)、ハンゼヌラ ポリモルファ(Hansenula polymorpha)、オガタエア ポリモルファ(Ogataea polymorpha)、ケトミウム サーモフィラム(Chartomium thermophilum)、ピキア パストリス(Pichia pastoris)、シェファソミセス スティピティス(Scheffersomyces stipitis)、酸塩耐性酵母(Issatchenkia orientalis)、トルラスポラ デルブレキイ(Torulaspora delbrueckii)などのトルラスポラ種(Torulaspora sp.)、シゾサッカロミセス ポンベ(Schizosaccharomyces pombe)、ブレタノマイセス ブルセレンシス(Brettanomyces bruxellensis)などのブレタノマイセス種(Brettanomyces sp.)、ザイゴサッカロミセス ベイリイ(Zygosaccharomyces bailii)、甘薯黒斑病菌(Ceratocystis fimbriata)、ニューロスポラ シトフィラ(Neurospora sitophila)などのニューロスポラ種(Neurospora sp.)、ザイゴサッカロミセス ロウキシイ(Zygosaccharomyces rouxii)、甘薯黒斑病菌、シイタケ(Lentinus edodes)、ニューロスポラ クラッサ(Neurospora crassa)、ファネロカエテ種(Phanerochaete sp.)、ホウロクタケ種(Trametes sp.)、スポロトリクム サーモフィレ(Sporotrichum thermophile)、ビブリオ コスティコラ(Vibrio costicola)、リゾプス リゾポジホルミス(Rhizopus rhizopodiformis)、リゾプス オリゼ(Rhizopus oryzae)、リゾプス オリゴスポラス(Rhizopus oligosporus)などのリゾプス種(Rhizopus sp.)、リゾムコール プシルス(Rhizomucor pusillus)、ペニシリウム レストリクタム(Penicillium restrictum)、ヤロウイア リポリチカ(Yarrowia lipolytica)、カンジダ ルゴース(Candida rugose)、カンジダ カリフォルニカ(Candida californica)、アスペルギルス ニガー(Aspergillus niger)、コウジカビ(Aspergillus oryzae)、アスペルギルス フラビぺス(Aspergillus flavipes)などのアスペルギルス種(Aspergillus sp.)、ペニシリウム シンプリシシマム(Penicillium simplicissimum)、ペニシリウム シトリヌム(Penicillium citrinum)、ペニシリウム カンディダム(Penicillium candidum)、ペニシリウム ブレビコンパクツム(Penicillium brevicompactum)などのペニシリウム種(Penicillium sp.)、バチルス サブチリス(Bacillus subtilis)、バチルス サーキュランス(Bacillus circulans)などのバチルス種(Bacillus sp.)である。
【0076】
一部の実施形態においては、本明細書に開示される方法は、酵母、好ましくはサッカロミセス セレビシエ、より好ましくはワイン発酵、乳酸菌を用いた発酵などの発酵において望ましい分子の生成を可能にするサッカロミセス セレビシエの所望の形質の進化に関する。
【0077】
一般に、化学環境は、細胞又は生物の増殖培地とも呼ばれる培地である。培地は、麦汁、ブドウマストなどの複合培地、すなわち定義されていない成分及び/又はその量が定義されていない成分の混合物を含む培地とすることができる。あるいは、培地は、限定培地、すなわちすべての化合物及びそれらの量が既知である培地とすることができる。好ましくは、培地を限定培地とすることができる。一般に、化学環境は、1種以上の炭素源(例えば、グルコース、エタノール、グリセロール、フルクトース、キシロース、ラクトース、メタノール、メタン、CO2、アラビノース、ガラクトース、グルコン酸、グルクロン酸、リボース、セルロース、ヘミセルロース、ペクチン、リグニン、ガラクツロン酸、コハク酸、フマル酸、リンゴ酸、ピルビン酸、脂肪酸)、1種以上の窒素源(例えば、ペプチド、尿素、グルタミン酸、アスパラギン酸、グルタミン、バリン、フェニルアラニン、スレオニン、セリンなどのアミノ酸、アミン、(NH4)2SO4)、微量元素(例えば、FeSO4、MnCl2、CoCl2、CuSO4、NaMoO4、H3BO3、KI)及びビタミン(例えば、パントテン酸、チアミン、ミオイノシトール、ニコチン酸、ピリドキシン、ビオチン、パラアミノ安息香酸)を含む。化学環境における成分は、異なるイオン状態、又は異なる水和形態、又は異なる塩形態で導入することができる。化学環境における成分は、異なる割合で導入することができる。炭素源は、生合成用炭素とエネルギー生成用炭素の両方を提供することができ、生合成とエネルギー用の別々の基質が存在してもよい。化学環境は、幾つかの炭素及び窒素源、又はどちらも炭素及び窒素源である単一若しくは多数の基質からなることもできる。化学環境は、代謝形質の進化に有用である異なる化合物を含むことができる。例示的な化学環境は、幾つかの微量元素及びビタミンに加えて、グリセロール、アルコールを主要な炭素源として、L-バリン、アミノ酸を窒素源として含むことができる。例示的な化学環境は、グルコース、(NH4)2SO4、KH2PO4、Mg2SO4、L-メチオニン、FeSO4.7H2O、ZnSO4.7H2O、CaCl2.6H2O、MnCl2.2H2O、CoCl2.6H2O、CuSO4.5H2O、NaMoO4.2H2O、H3BO3、KI及びNa2EDTA.2H2O、d-ビオチン、パラアミノ安息香酸、ニコチン酸、パントテン酸Ca、ピリドキシンHCL、チアミンHCl及びミオイノシトールを含むことができる。化学環境は、1,5-グルコノラクトン、2-デオキシグルコース、2-ホスホグリコラート、ジアミド、D-トレオース2,4-二リン酸、ヨード酢酸ナトリウム、2-ホスホグリコロヒドロキサム酸、4-クロロ水銀安息香酸、4-メチルピラゾール塩酸塩、5-ホスホアラビノナート、6-アザウラシル、6-アザウリジン、アセタゾラミド、アセトアセトン、アセトピルバート、アセトアセチル-CoA、アロプリノール、アミノエチルピルバート、アンチマイシンA、アスコステロシド、エキノキャンディンB誘導体、エルゴコニンA、アスパラギン酸セミアルデヒド、オーレオバシジンA、バフィロマイシンA1、コンカナマイシンA、ヒグロリジン、レンカニシジン(lencanicidin)、ベータ-クロロ-L-アラニン塩酸塩、カルムスチン、二硫化テトラエチルチウラム、チウラム、カスポファンギン、エキノキャンディンC誘導体、セルレニンC75、クロトリマゾール、フェンプロピモルフ、シプロコナゾール、フルコナゾール、ツブロゾール、ボリコナゾール、ジエチレントリアミン五酢酸、エフロルニチン、エチドロナート二ナトリウム水和物、パミドロナート二ナトリウム塩水和物、フルオロウラシル、フルバスタチン、レスコール(lescol)、グルコサミン、ヒドロキシカルバミド、ヨードアセトアミド、レフルノミド、メチオニンスルホキシムホスファート、メトトレキサート、メチルアミン、メチル水銀、ミコフェノール酸モフェチル、ミコフェノール酸、ミリオシン誘導体、ミキソチアゾールA、ストロビルリンB、ニクロサミド、ニチシノン、ニトラート、N-ホスホノアセチル-L-アスパルタート、オキサラート、P1,P5-ジ(アデノシン-5’)五リン酸(Ap5A)、ピリドキシルアラニン、クェルセチン、ラパマイシン、シネファンギン、ソラフェンA、TOFA、スクアレスタチン、スクアレスタチン誘導体、ザラゴジン酸、テルビナフィン塩酸塩、テルビナフィン、ナフチフィン、トリアクシンC、トリクロサン、トリトクアリン、バルプロ酸、ビガバトリンなどの抑制体を更に含むことができる。
【0078】
標的化学環境は、細胞又は生物を培養して、所望の代謝形質を活用するために使用される環境である。それは、標的化学環境において、細胞又は生物が、例えば所望の生成物を生成するために、培養されることを意味する。
【0079】
一部の実施形態においては、化学環境は、細胞又は生物の代謝形質を進化させるのに使用される進化化学環境である。化学環境は、細胞又は生物を培養して、代謝形質を活用するために、例えば少なくとも1種の所望の生成物を生成するために、使用される標的化学環境とは異なる。これは、標的環境においては細胞又は生物の適応度を改善しない形質を進化させることができる。例えば、所望の代謝形質(例えば、所望の生成物の生成)のために、細胞又は生物の増殖が標的化学環境において減少する場合、代謝形質が適応度の優位点ではない標的化学環境における代謝形質の進化は、ほとんど不可能であり、又は全く不可能である。したがって、細胞又は生物は、まず、代謝形質の標的の少なくとも1つが適応度の優位点を与える進化化学環境において増殖する。この場合、本発明の方法は、代謝形質を進化させる進化化学環境の適合性の評価を目的とする。
【0080】
本明細書では「適応度の優位点」、「適応度の利点」という用語は、特定の形質を有する細胞又は生物が、特定の形質を持たない別の細胞又は生物を上回る適応度の利点を有することを意味し、例えば、その増殖が、特定の形質を持たない別の細胞又は生物に比べて増強されることを意味する。本明細書で既に開示したように、特定の形質は、特定の形質が適応度の利点を導く進化環境において確立される。細胞又は生物が使用されることが意図される標的環境においては、特定の形質は、適応度の利点を与えない、すなわち増殖に有利ではない。標的環境においては、特定の形質が活用される。一部の実施形態においては、標的環境において、特定の形質によって、所望の分子の(増強された)生成が可能になり、及び/又は望ましくない分子の生成を回避する、若しくは減少させることが可能になる。
【0081】
別の一実施形態においては、細胞は、腫瘍細胞、又は腫瘍細胞若しくは病原体の一群とすることができる。
【0082】
本発明の方法を細胞又は生物の不安定化に使用することもできる。特に、腫瘍細胞又は病原体の不安定化が企図される。好ましくは、腫瘍細胞の不安定化が企図される。これは、本発明の状況においては、化学環境が、細胞又は生物、例えば腫瘍細胞又は病原体を不安定化する代謝形質の進化をもたらすことを意味する。細胞又は生物の不安定化は、例えば、増殖の減少及び/又は細胞若しくは生物の死であり得る。
【0083】
これは、本発明の方法によって評価された化学環境が、不安定化された細胞又は生物の進化をもたらし得ることを意味する。これは、不安定化された細胞又は生物が、少なくとも2、少なくとも3、少なくとも4、少なくとも5、少なくとも10、少なくとも20、少なくとも50又はそれ以上の世代など、細胞又は生物の少なくとも1世代後に、一般には数世代後に得られることを意味する。好ましくは、細胞を不安定化する代謝形質は、最大で10000世代、最大で1000世代、最大で500世代、最大で300世代、最大で200世代、最大で100世代、最大で50世代、最大で30世代、最大で20世代、最大で10世代、最大で5世代、最大で3世代後に得られる。
【0084】
細胞の不安定化を目的とする実施形態においては、種々の化合物組成物(すなわち、化学環境)について、組成物を癌患者に投与したときに、腫瘍細胞を不安定化する代謝形質を進化させる適合性を評価することができる。したがって、本発明は、医薬品として使用するための組成物にも関する。特に、本発明は、癌の処置に使用するための組成物に関する。
【0085】
本発明の別の一態様は、以下のステップを含む、細胞又は生物の代謝形質を進化させる化学環境を決定する方法に関する。
(a)本明細書に記載の方法を用いて少なくとも2つの化学環境の適合性を評価するステップ、
(b)適合性の閾値を超える代謝形質を進化させる適合性を有する少なくとも1つの環境を選択するステップ。
【0086】
上述のように、一般に、細胞又は生物は、代謝形質が進化する環境(進化環境)とは異なる、異なる環境(標的環境)において使用されるように意図され、標的環境においては、代謝形質は適応度の利点を与えない。
【0087】
本発明は、更に、以下のステップを含む、細胞又は生物の代謝形質を進化させる化学環境を決定する方法に関する。
(a)本明細書に記載の方法を用いて少なくとも2つの化学環境の適合性を評価するステップ、
(b)代謝形質を進化させる可能性が最も高い化学環境に属する、代謝形質を進化させる適合性を有する少なくとも1つの化学環境を選択するステップ。
【0088】
ステップ(b)においては、すべての試験化学環境のうち代謝形質を進化させる可能性が最も高い化学環境の90%、80%、70%、60%、50%、40%、30%、20%、15%、10%、5%、3%、2%に属する化学環境を選択することができる。当業者は、幾つかの化学環境も代謝形質の進化のために並行して選択し、使用できることを理解されたい。
【0089】
特定の一実施形態においては、以下のステップを含む、細胞又は生物の代謝形質を進化させる化学環境を提供する方法:
(a)本明細書に記載の方法を用いて少なくとも2つの化学環境の適合性を評価するステップ、
(b)適合性の閾値を超える代謝形質を進化させる適合性を有する少なくとも1つの化学環境を選択するステップ、
(c)ステップ(b)の化学環境を用意するステップ。
【0090】
別の一態様は、上記方法によって得ることができる、又は得られる、化学環境に関する。
【0091】
適合性の閾値は、前もって設定された閾値とすることができる。適合性の閾値は、閾値を超える化学環境が、すべての試験化学環境のうち代謝形質を進化させる可能性が最も高い60%、50%、40%、30%、20%、10%であるように設定することができる。当業者は、環境の適合性の計算方法によっては、代謝形質を進化させる可能性のある環境が閾値未満でもよいことを理解されたい。特定の一実施形態においては、代謝形質を進化させる可能性が最も高い環境が選択される。別の特定の一実施形態においては、代謝形質を進化させる可能性が最も高い2つの環境のうち1つ、3つの環境のうち1つ、4つの環境のうち1つ、5つの環境のうち1つ、6つの環境のうち1つ、10個の環境のうち1つ、20個の環境のうち1つ、50個の環境のうち1つ、100個の環境のうち1つ、500個の環境のうち1つ、1000個以上の環境のうち1つが選択される。
【0092】
さらに、本願は、以下のステップを含む、細胞又は生物の代謝形質を進化させる方法に関する。
【0093】
本発明は、更に、以下のステップを含む、細胞又は生物の代謝形質を進化させる化学環境を決定する方法に関する。
(a)本明細書に記載の方法を用いて少なくとも2つの化学環境の適合性を評価するステップ、
(b)代謝形質を進化させる可能性が最も高い化学環境に属する、代謝形質を進化させる適合性を有する少なくとも1つの化学環境を選択するステップ、
(c)ステップ(b)で選択された化学環境において細胞又は生物を増殖させるステップ。
【0094】
特定の一実施形態においては、細胞又は生物の代謝形質を進化させる方法は、
(a)本明細書に記載の方法を用いて少なくとも2つの進化化学環境の適合性を評価するステップ、
(b)代謝形質を進化させる可能性が最も高い化学環境に属する、代謝形質を進化させる適合性を有する少なくとも1つの化学環境を選択するステップ、
(c)所望の形質を進化させる選択された進化化学環境において細胞又は生物を増殖させるステップ、
(d)細胞又は生物によって少なくとも1種の所望の生成物を生成するために細胞又は生物を標的化学環境において増殖させるステップ
を含む。
【0095】
さらに、本願は、以下のステップを含む、細胞又は生物の代謝形質を進化させる方法に関する。
(a)本明細書に記載の方法を用いて少なくとも2つの化学環境の適合性を評価するステップ、
(b)適合性の閾値を超える代謝形質を進化させる適合性を有する少なくとも1つの環境を選択するステップ、
(c)ステップ(b)で選択された化学環境において細胞又は生物を増殖させるステップ。
【0096】
さらに、本願は、本明細書に記載の方法によって得られる細胞又は生物に関する。特に、本願は、以下のステップを含む方法によって得られる細胞又は生物を企図する。
(a)本明細書に記載の方法を用いて少なくとも2つの化学環境の適合性を評価するステップ、
(b)適合性の閾値を超える代謝形質を進化させる適合性を有する少なくとも1つの環境を選択するステップ、
(c)ステップ(b)で選択された化学環境において細胞又は生物を増殖させるステップ。
【0097】
特定の一実施形態においては、細胞又は生物の代謝形質を進化させる方法は、
(a)本明細書に記載の方法を用いて少なくとも2つの進化化学環境の適合性を評価するステップ、
(b)適合性の閾値を超える代謝形質を進化させる適合性を有する少なくとも1つの進化化学環境を選択するステップ、
(c)所望の形質を進化させる選択された進化化学環境において細胞又は生物を増殖させるステップ、
(d)細胞又は生物によって少なくとも1種の所望の生成物を生成するために細胞又は生物を標的化学環境において増殖させるステップ
を含む。
【0098】
本発明の更なる一態様によれば、プロセッサによって実行されると、上記方法ステップのいずれか、又は任意の組合せを行うようになされたコンピュータプログラム要素が提供される。
【0099】
本発明の別の一態様によれば、上記コンピュータプログラム要素を含むコンピュータ可読媒体が提供される。
【0100】
細胞又は生物の所望の代謝形質を進化させる化学環境の適合性を定量化することを本発明の一要旨と見ることができる。記述した方法ステップを用いて、細胞又は生物の所望の進化を可能にする化学環境を決定するために、様々な化学環境の定量的比較を行うことができる。
【0101】
なお、本発明の実施形態の一部は、異なる主題に関連して記述される。特に、一部の実施形態は、方法タイプクレームに関連して記述され、別の実施形態は、装置タイプクレームに関連して記述される。しかし、当業者が以上及び以下の記述から推測するところによれば、特段の記載がない限り、1タイプの主題に属する特徴の任意の組合せに加えて、異なる主題に関する特徴の任意の組合せも本願に開示されているとみなせる。
【0102】
本発明の上記態様及び実施形態並びに更なる態様、実施形態、特徴及び効果は、以下に記述される実施形態の実施例から誘導することもでき、実施形態の実施例に関連して説明される。本発明は、実施形態の実施例に関連して以下により詳細に記述されるが、本発明はそれらに限定されない。
【0103】
本発明の更なる一態様は、
(a)本明細書に開示される方法を用いて、代謝形質を進化させる少なくとも2つの化学環境の適合性を評価するステップ、
(b)代謝形質を進化させる可能性が最も高い化学環境に属する、代謝形質を進化させる適合性を有する少なくとも1つの化学環境を選択するステップ
を含み、
代謝形質を進化させる化学環境の適合性が、所望の代謝形質を有する細胞又は生物を選別するための化学環境の適合性と相関する、
所望の代謝形質を有する細胞又は生物を選別するための選択化学環境を決定する方法に関する。
【0104】
代謝形質を進化させる化学環境の適合性と相関する所望の代謝形質を有する細胞又は生物を選別するための化学環境の適合性は、代謝形質を進化させるのに適切な化学環境が、所望の代謝形質を有する細胞又は生物を選別するのにも適切であることを意味する。
【0105】
更なる一実施形態は、選択化学環境を用いて所望の代謝形質を有する細胞又は生物を選別する方法に関する。
(a)上で定義した選択化学を決定するステップ、
(b)少なくとも2種の細胞又は生物を選択化学環境において増殖させるステップ、
(c)選択環境において他の細胞又は生物の1種以上よりも高い増殖を示す少なくとも1種の細胞又は生物を選択するステップ、
選択環境におけるより高い増殖は、細胞又は生物が所望の代謝形質を含むことを示す。
【0106】
所望の代謝形質は、選択環境において適応度の利点を与えるので、代謝形質を含む細胞又は生物は、所望の代謝形質を含まない別の細胞又は生物よりも高い増殖を示す。したがって、選択環境における細胞又は生物のより高い増殖は、細胞又は生物が所望の形質を含むことを示している。
【0107】
本発明の状況においては「より高い増殖」は、生物又は細胞の増殖が、選択環境において増殖した別の細胞又は生物に比べて5%超、10%、15%、20%、30%、40%、50%、100%、200%又はそれ以上であることを意味する。当業者は、細胞又は生物の増殖を判定する方法を知っている。増殖は、例えば、細胞又は生物を含む溶液のODを測定することによって判定することができる。
【0108】
少なくとも2種の細胞又は生物は、例えば、酵母株コレクションなどの細胞コレクション又は生物系統コレクションとすることができる。
【0109】
したがって、一部の実施形態においては、「細胞」という用語は「細胞系」も指し、「生物」という用語は「生物系統」を指す。
【0110】
したがって、一部の実施形態においては、生物系統の増殖を生物系統コレクションにおける他の生物系統の増殖と比較する。別の実施形態においては、細胞系の増殖を細胞系コレクションにおける他の細胞系の増殖と比較する。一実施形態においては、他の細胞又は生物の1種以上は、所望の代謝形質を含まないことが知られている対照細胞又は対照生物である。
【図面の簡単な説明】
【0111】
【
図1】進化生態的地位(すなわち、進化化学環境)及び標的生態的地位(すなわち、標的化学環境)における簡易代謝ネットワーク及びその進化を示す図である。
【
図2】細胞外化合物の交換反応のトイモデルを示す図である。
【
図3】本発明の方法に依拠する遺伝的アルゴリズムを示す図である。
【
図4】
図4Aは、分枝鎖アミノ酸由来芳香体の生成の増加を進化させる特定の進化生態的地位の適合性について、観察された最小スコアに対する、進化生態的地位における淘汰圧、標的coverage、及び成分の数のEvolveX計算総合スコアのヒストグラムである。
図4Bは、酢酸フェニルエチルの生成の増加を進化させる特定の進化生態的地位の適合性について、観察された最小スコアに対する、進化生態的地位における淘汰圧、標的coverage、及び成分の数のEvolveX計算総合スコアのヒストグラムである。
【
図5a】L-フェニルアラニン及び分枝鎖アミノ酸が、中心炭素代謝において異なる前駆体から合成されることを示す図である。
【
図5b】分枝鎖アミノ酸由来芳香族化合物が、親株に比べて、分枝鎖アミノ酸由来芳香体(すなわち、唯一の炭素及び窒素源としてのエタノール、グリシン、L-アルギニン)の生成の増加のためのEvolveX設計培地上で進化した系列から単離されたE株において、酢酸フェニルエチル(すなわち、グリセロール、L-フェニルアラニン、L-スレオニン)の生成の増加のためのEvolveX設計培地上で進化した系列から単離されたG株におけるよりも顕著であることを示す図である。Log2倍率変化を、進化株の3つ組のワインマスト発酵について、親株の3つ組のワインマスト発酵と比較して計算する。星印のlog2倍率変化は、有意であることが判明した(すなわち、ダネット検定、>対照、p<0.05)。
【
図5c】酢酸フェニルエチルの生成の増加が、親株に比べて、酢酸フェニルエチル(すなわち、グリセロール、L-フェニルアラニン、L-スレオニン)の生成の増加のためのEvolveX設計培地上で進化した系列から単離された株において認められたことを示す図である。
【
図5d】エールリッヒ経路が、分枝鎖及び芳香族アミノ酸由来芳香体が生成される異化経路であることを示す図である。エールリッヒ経路は、フーゼル酸を生成し、酸と更に反応(すなわち、エステル化)して発酵生成物における重要な芳香化合物であるエステルを生成することができるフーゼルアルコールをより多量に生成する。
【
図6】
図6Aは、乳酸菌(LAB:lactic acid bacteria)増殖の支援を増強するS.セレビシエを進化させる特定の進化生態的地位の適合性について、観察された最小スコアに対する、進化生態的地位における淘汰圧、標的coverage、及び成分の数のEvolveX計算総合スコアのヒストグラムである。
図6Bは、進化株が乳酸菌増殖の増強を改善することを示す図である。馴化培地の収集時に対応する酵母株のOD
600によって規準化された、親S.セレビシエ株(T8)及び進化S.セレビシエ株(A11、A12、B11)から馴化培地に播種されたL.ラクチス(IL1403)及びL.プランタルム(WCSF1)の4日間の増殖(初期OD
600 0.01)。
【発明を実施するための形態】
【0112】
幾つかの図における類似又は関連成分を同じ参照番号で示す。図は、模式的なものであり、スケールが不完全である。
【0113】
以下、本発明の方法に基づくアルゴリズムの単純なトイモデルの例を示す。トイモデルは、単純でわかりやすい例を示すものである。本発明も上記実施形態の1つも、トイモデルに関して記述される単純なシナリオに限定されない。
【0114】
図1の説明は、簡易代謝ネットワークによって、進化生態的地位と標的生態的地位の区別を記述するものであり、生態的地位は化学環境であり、それによって標的生態的地位において適応度の利点を与えない代謝形質の進化である。
【0115】
図1の説明に用いられる簡易代謝ネットワークは、次いで、本発明の方法ステップに基づく計算の一例を示すのにここで使用されることが考えられるトイモデルである代謝モデルに展開される。
図2においては、代謝ネットワークは、細胞外化合物の交換反応で増大し、細胞外化合物の移入及び移出を示す。さらに、フラックス及び代謝産物を
図2における識別子で示す。
【0116】
図2に示す反応から、モデルの以下の化学量論行列Sを推論することができ、以下のベクトル-物質収支ベクトル(bベクトル)、下界及び上界ベクトル(lb及びubベクトル)、並びに生物学的目的ベクトル(cベクトル)が導入される。
S行列(化学量論行列)=
【0117】
【0118】
トイモデルの以下のlb及びubベクトルは、それぞれのフラックスベクトル成分に対する熱力学的又は容量制約に対応するフラックス下界及び上界を規定する。-1000及び1000の値は、この計算例においては、無制限のフラックス境界を示す。
【0119】
【0120】
トイモデルの以下のcベクトルは、モデルの生物学的目的をコードする:
【0121】
【0122】
言うまでもなく、上記cベクトルの唯一の非ゼロ成分は交換反応Gextに関連したフラックスベクトル成分v17を指し(
図2参照)、ここで考えられるトイモデルの生物学的目的は、細胞外化合物Gextを生成する増殖である。
【0123】
トイモデルの以下のbベクトルは、代謝産物物質収支、すなわち、トイモデルで考えられる14種の代謝産物の収支を規定する。ここでの仮定は定常状態であり、bベクトルの成分はゼロに設定される:
【0124】
【0125】
上で導入されたトイモデルのlbベクトルは、トイモデルの可能なフラックスベクトルの各成分の下界を規定することに留意されたい。同様に、上で規定されるトイモデルのubベクトルは、トイモデルの可能なフラックスベクトルの各成分に対して上界を導入する。ここで考えるトイモデルよりも入念なシナリオにおいては、可能なフラックスベクトルの成分の下界及び上界の値は、実験的に決定することができ、又は熱力学的制約から決定することができる。
【0126】
生物学的目的に上で関連したcベクトルに関して、この目的は、モデルが異なると変わることがある。例えば、より大きいモデルにおいては、生物学的目的は、必ずしも増殖でなくてもよく、例えば、ATP産生の極大化でもよい。
【0127】
最後に、上記トイモデルの場合に示したように、すべての成分がゼロに設定されたbベクトルが採用される定常状態のシミュレーションは、化学環境において細胞又は生物の進化をシミュレートする簡便な一方法であり、それによってシステムが上記物質収支を特徴とする定常状態にあることを想定する。
【0128】
本発明の一実施形態に係る化学環境の適合性の定量は、参照状況の知識、及びその後の参照状況との比較に基づく。本発明の状況においては、参照シナリオとの比較は、化学環境の適合性又は可能性を定量的に評価するために意図される。特に、本発明に係る最低の場合の適用範囲の考察に関して、参照状態フラックス範囲をそれぞれのモデルにおいて考慮し、フラックスと比較することができる。したがって、トイモデル計算においては、本発明に係る最低の場合の適用範囲の考察の状況において参照状態フラックスが必要とされる。
【0129】
最低の場合の適用範囲及びそれに関連する計算については後で考察する。ここで、トイモデル計算の参照状態は、基質A及びB上の増殖の状態であると定義され、
図2を比較されたい。
【0130】
参照状態は、以下のように、フラックスの各々の最小値及び最大値によって記述される。
【0131】
【0132】
この準備後、本発明の実施形態に係る方法ステップをここでトイモデルに関連して説明する。このために、反応v3を介してフラックスを上方制御する(すなわち、v3は上方制御標的である)基質C及びDを含む化学環境の適合性又は可能性を評価すべきである。
【0133】
状況を単純化するために、トイモデル内で抑制が考慮されないことに留意されたい。
【0134】
第1のステップにおいては、増殖最適条件は、以下のように線形最適化によって設定される。
【数2】
ただし、以下の制限を条件とする。
【数3】
ここで、ν
uptakeは、特定の化学環境において利用可能な成分の取り込み反応のフラックスを表し、Sは、種のゲノムスケール代謝トイモデルの化学量論行列を表し、νはフラックスベクトルを表し、ν
μは増殖速度(すなわち、フラックス)であり、ν
inhibitedは、特定の化学環境中に存在する抑制体によって抑制される反応を介したフラックスであり、ν
lb及びν
ubはそれぞれフラックス下界及び上界である。
【0135】
なお、大部分のモデルにおいては取り込みフラックスは負に定義され、これらの状況においては上記極小化が-νuptakeに対して行われる。当業者には、本発明の範囲を逸脱せずに、この状況を適応させることは容易であろう。
【0136】
式(1)~(5)において与えられる上記規定は、
以下の制限を条件として、
Aeq・x=beq、 (II)
lbi≦xi≦ubi (III)
以下の形に実行される。
maxf’x (I)
ここで、上記導入量Aeq、lb、ub、f及びbeqは、以下のように与えられる。
【0137】
行列Aeqは、化学環境の成分の可能な分泌を表す2つの列が追加されたトイモデルのS行列によって与えられる。これは、上記式2における制限を表す。したがって、Aeqは、以下で与えられる。
【0138】
【0139】
式(I)~(III)において導入されたベクトルlb、ub及びfは、以下で与えられる。
【0140】
【0141】
最後の3つの行lb、ub及びfは、式3における制限を表す、化学環境の成分の可能な分泌の制限である。
【0142】
上記ベクトルfにおける値1は、式1における制限に対応する、目的における化学環境の成分の取り込みを表す。
【0143】
lb及びupの最後から5及び6番目の行は、許容される化学環境の成分の3つの取り込みを表す。
【0144】
以下のベクトルbeqは、式2における制限に対応する、トイモデルのbベクトルである。
【0145】
【0146】
上記連立方程式は、例えば、CPLEX LP解法又はGLPK解法で解かれる。解法は、目的関数の最適値に対応する変数の値を返す。xは実際には一意的でない可能性もあることに留意する価値がある。しかし、目的関数(すなわち、f’x)の最適値は一意的である。ここで考えるトイモデルにおいては、xの成分に対して以下の、この場合は一意的な、値が得られる。
【0147】
【0148】
トイモデル計算における次の方法ステップにおいては、増殖最適制限下の標的反応に対する最低の場合の淘汰圧のシミュレーションを、次式に従って考えることができる。
【数4】
ただし、以下の制限を条件とする。
【数5】
ここで、ν
up及びν
downは、それぞれ上方及び下方制御標的反応を介したフラックスである。
【0149】
ここで考えるトイモデルの特定の例においては、標的フラックスは、可逆的でない。したがって、ここで変数及び制限を追加して、混合整数線形計画問題としてフラックスの絶対値の最適化を行う必要はない。しかし、より入念なシナリオの場合、これは必要かもしれない。
【0150】
上記制限は、以下の形になる。
Aeq・x=beq、 (V)
A・x≦b、 (VI)
lbi≦xi≦ubi (VII)
を条件として、以下の形になる。
maxf’x (IV)
【0151】
式(IV)における行列Aeqは、フラックス変数の2つの列が化学環境の成分の可能な分泌を記述するために追加されたモデルのS行列によって与えられる。これは、上記式7における制限に対応する。したがって、行列Aeqは以下の通り解釈される。
【0152】
【0153】
式(VI)における量Aを示す式8及び式11によって導入される制限は、以下のように記述することができる。
【0154】
【0155】
ここで、第1の行は、式8からの制限を示し、第2の行は式11からの制限を示す。
【0156】
さらに、以下のベクトルlb、up及びfが、トイモデル内のこの方法ステップにおいて生じる。
【0157】
【0158】
式7における制限から、以下のbベクトルbeqが生じる。
【0159】
【0160】
最後に、式(VI)の形で変換される式8及び11からの制限は、式(VI)においてbの以下の値を生じる。
【0161】
【0162】
やはり、問題は、標的に関与する可逆的フラックス(すなわち、下界が0より小さいフラックス、lb<0)が存在するかどうかに応じて、例えば、CPLEX LP又はCPLEX MILP解法によって解かれる。トイモデルの場合、解法は、目的関数の最適値に対応するx(すなわち、変数の値)として以下のベクトルxを返す。
【0163】
【0164】
xは実際には一意的でない可能性もあり、目的関数(すなわち、f’x)の最適値のみが一意的であることにも留意されたい。
【0165】
上記結果によれば、特定の化学環境によってもたらされる淘汰圧の強度のスコアに関係する目的関数(すなわち、f’x)の最適値は、ここで考えるトイモデルの例において10で与えられる。
【0166】
次に、増殖最適性制限及び最低の場合の淘汰圧制限下の最低の場合の標的反応適用範囲のシミュレーションを、以下のようにトイモデル内で行うことができる。
【数6】
ただし、以下の制限を条件とする。
【数7】
ここで、b
targetsは、標的反応を介した絶対的フラックスが参照条件(すなわち、w
lb、w
ub)下で絶対的フラックス範囲から規定される対応する閾値を超えるかどうかを規定する2値変数である。トイモデル計算の参照条件を含む参照シナリオの例を上で考察したが、このシナリオで得られた値を今度はトイモデル計算に使用する。
【0167】
上記式(19)及び(20)のパラメータδは、淘汰圧に曝露される(すなわち、淘汰圧が適用される)対応する標的反応を考えるために、増殖と比較してフラックスが特定の化学環境においてどのくらい低い又は高いべきかを示す閾値パラメータである。したがって、式(19)及び(20)によって、トイシナリオにおける標的反応の適用範囲の定量の例がもたらされる。式(18)からの制限と一緒に、最低の場合の適用範囲シナリオは、したがって、式(12)~(21)のセットによって考慮される。
【0168】
明示的な計算の場合、上記制限は、
Aeq・x=beq、 (IX)
A・x≦b、 (X)
lbi≦xi≦ubi、 (XI)
x=[xb,xc]、 (XII)
xb∈{0,1} (XIII)
を条件として、以下の形になり、
maxf’x (VIII)
xは、連続変数と整数変数の両方を含むことができる。
【0169】
上記式(VIII)~(XIII)における量は、以下の式によって与えられる。
【0170】
Aeqは、モデルのS行列であり、再度2つの列が化学環境の成分の可能な分泌を記述するために追加され、更に1列が式13における制限を反映する標的反応の適用範囲変数のために追加される。したがって、式(IX)におけるAeqは、以下の通り解釈される。
【0171】
【0172】
上記式(X)における量Aは、式14、17及び19における制限をコードし、したがって、
【0173】
【0174】
によって与えられる。
ベクトルlb、ub及びfは、以下の式によって与えられる。
【0175】
【0176】
さらに、この計算ステップにおけるフラックスベクトルの成分の以下の変数タイプ(C=連続、B=2値)は、以下のように定義される。
【0177】
【0178】
式13からの制限は、以下のベクトルbeqによって表される。
【0179】
【0180】
最後に、式14、17及び19における制限を表す式(X)における量bは、以下で与えられる。
【0181】
【0182】
式(VIII)~(XIII)によって与えられる問題は、次いで、例えば、CPLEX MILP解法によって解かれる。
【0183】
トイモデルの場合、解法は、目的関数の最適値に対応するx(すなわち、変数の値)として以下のベクトルを返す。
【0184】
【0185】
したがって、特定の化学環境によってもたらされる淘汰圧による標的の適用範囲のスコアに対応する目的関数(すなわち、f’x)の最適値は1である(上記ベクトルの最後の成分における値)。この値は、この場合の唯一の標的が最低の場合においても適用されることを意味する。
【0186】
したがって、トイモデルの場合、C及びDを含む化学環境は、標的フラックスの増加に対して参照化学環境よりも強力な淘汰圧をもたらすと予想される。
【0187】
総合数値スコアは、特定の化学環境における最低の場合の淘汰圧、最低の場合の適用範囲、及び成分の数から誘導することができる。
【数8】
valueは総合スコアであり(すなわち、値が低いほど、特定の化学環境が形質を進化させるのに良好である)、nは標的反応の数であり、coverageは最低の場合の適用範囲であり(すなわち、
【数9】
)、uは上方制御標的反応の数であり、strengthは、最低の場合の淘汰圧強度であり(すなわち、
【数10】
)、cは、特定の化学環境における成分の数であり、W
c、W
s、W
mは、それぞれ化学環境の適用範囲、強度、及び複雑性に割り当てられる重みである。
【0188】
トイモデルの場合、重みをWc=1000、Ws=1及びWm=1に設定すると、化合物C及びDを含む化学環境の総合スコアは992と得られる。
【0189】
幾つかの化学環境が評価される場合、このスコアは、考慮された化学環境のセットのうち適切な化学環境を選択するために、他の化学環境のスコアと比較される。一般に、スコアが低いほど、特定の化学環境が特定の所望の代謝形質を進化させるのに適している。当業者は、本発明の範囲を逸脱せずに、例えば、スコアが高いほど適合性が良好であるように、スコア化の式を適応させることは容易であろう。
【0190】
化学環境の設計は、例えば、遺伝的アルゴリズムにおける適応度関数として本発明に係る方法を用いて、1セットの可能な成分からの成分の組合せを最適化することによって行うこともできる。
【0191】
図3に関して、遺伝的アルゴリズムに関連して本発明に係る方法の適用の例を示す。アルゴリズムは、代謝形質の適応進化に最適な化学環境の設計に適している。遺伝的アルゴリズムにおける集団の個体は、化合物の組合せを表すバイナリーベクトルとして定義される特定の化学環境である。適応度スコアリングは、代謝形質の適応進化に対する個々の化学環境の良好性を評価する。再生相は、交差、変異及びエリート主義(elitism)によって新世代の個体を生成する。
【0192】
EvolveX事例研究1.ワイン芳香体の生成の改善
本事例研究は、サッカロミセス セレビシエを進化させて、ワインマストの標的生態的地位における2つの所望の代謝形質、すなわち、1)酢酸フェニルエチル(すなわち、バラとハチミツの香り及びキイチゴのような風味を有するフェニルエチルアルコールとアセタートのエステル)の生成の増加、及び2)分枝鎖アミノ酸由来芳香体又はそれらの前駆体の生成の増加を得ることを目的とする。これらの形質を初期表現型に関する上方及び下方制御標的フラックスに関して更に規定した。それらは、最小値において(すなわち、最小数のフラックスに含まれる)閾値を超えて変化して所望の形質を得ることが必要であるフラックスとしてS.セレビシエのゲノムスケール代謝モデルを用いて同定された。初期の代謝表現型として、(ワインマスト中の窒素源の複雑な混合物の代わりに)アンモニウムを窒素源として過剰のグルコースで増殖する際のS.セレビシエフラックス分布を使用して、アミノ酸由来芳香体の新規生成を増強する標的も同定した。自然淘汰によるこれら所望の形質(すなわち、標的フラックスの特定の上方及び下方制御)の適応進化を可能にするために、進化生態的地位は、細胞が進化生態的地位で増殖するときに、所望の形質が増殖を増強する(すなわち、適応度に有利である)ように設計される必要があった。したがって、進化生態的地位に長時間曝露されると、細胞集団は、標的生態的地位において所望の形質を可能にする、又は強化する、変異が多くなる。
【0193】
次いで、EvolveXアルゴリズムを用いて、標的生態的地位のための所望の形質の適応進化のための進化生態的地位としての特定の化学環境の適合性を評価した。S.セレビシエのゲノムスケール代謝モデルを使用して、その化学組成によって規定される所与の進化生態的地位の下で標的反応フラックスに対する淘汰圧の相対強度を予測した。EvolveXは、生物が利用することができる炭素及び窒素源を含めた幾つかの異なる分子(すなわち、モデルにおいて記述された取り込み及び利用)、及び特定の代謝反応に対するその効果をモデル化することができる抑制体(例えば、基質類似体)又は調節性トリガー(例えば、2-デオキシグルコース)で構成される生態的地位を考慮することができる。参照生態的地位が定義されると(例えば、一般的増殖条件)、EvolveXは、参照条件下よりも強力な淘汰圧による標的反応の適用範囲も計算する。さらに、EvolveXは、標的フラックスに対する淘汰圧からの特定の進化生態的地位、参照条件下よりも強力な淘汰圧によるそれらの適用範囲、及び生態的地位における化学成分の数の総合スコアを導く。ここで、EvolveXを実行して、S.セレビシエのゲノムスケール代謝モデルにおいて定義される一般的炭素及び窒素源のうち3つの、更にグルコナートを含めた、全組合せとして形成される化学環境をスコア化した。参照条件として、グルコース最少実験室培地を使用した。スコアが良好(すなわち、低いほど総合スコアが良好)な環境を手作業で検査して、実験適応進化のための進化生態的地位を選択した。酢酸フェニルエチルの生成の増加を進化させるために、以下の培地、すなわち、グリセロール、L-フェニルアラニン、L-スレオニンを選択し、分枝鎖アミノ酸由来芳香体の生成の増加を進化させるために、以下の培地、すなわち、エタノール、グリシン、L-アルギニンを選択した。化合物のこれらの組合せは、適応進化実験において唯一の炭素及び窒素源として役立った。選択されたエタノール、グリシン、L-アルギニンの組合せは、ヒストグラム(
図4A)を見て分かるように、分枝鎖芳香族酸由来エステルの生成の増加を進化させるための適合性について良好なスコアであり(観察された最小スコアに対して1.04)、スコアのより低いものに優先して選択された。というのは、炭素源としてのエタノールは速い増殖を支援することができ、したがって実験を容易にするからである。グリセロール、L-フェニルアラニン及びL-スレオニンは、酢酸フェニルエチルの生成の増加を進化させるための適合性について比較的良好なスコアである(観察された最小スコアに対して1.06)(
図4B)。この組合せは、スコアがより良好なものに優先して選択された。というのは、初期の実験によれば、D-リボース及びグルコナートは、炭素源として増殖を維持せず、炭素及び窒素源としてのアミノ酸の唯一の寄与も増殖を維持しないと予想されたからである。
【0194】
実験適応進化を小規模液体培養で行った。約80世代にわたる3つの複製系列における選択された進化生態的地位における連続移行後、9種の単一株を系列の最終集団から単離した。進化生態的地位培地上の最終集団の能力に対するそれらの能力に基づいて、選択された株(酢酸フェニルエチルの生成の増加について進化した系列の各々から1つの株、及び分枝鎖アミノ酸由来芳香体の生成の増加について進化した系列のうち2つから1つの株)を標的生態的地位において、すなわち3つ組のワインマスト上の培養を模倣したワイン発酵において、特徴づけた。GC-MSを用いた揮発性芳香体プロファイリングのために試料を回収した。標的化合物の生成は、対応するEvolveX設計培地中で進化した集団由来の株において増加することがわかった。
図3は、親株に対する進化単離株における標的化合物の生成:b)分枝鎖アミノ酸由来芳香体、c)酢酸フェニルエチルを示す。
図5は更にa)S.セレビシエの代謝における標的芳香化合物の起源及び前駆体、並びにd)更に反応してエステルを生成し得る芳香族フーゼルアルコールと酸を生成するエールリッヒ経路を示す。
【0195】
EvolveX事例研究2:乳酸菌(LAB:lactic acid bacteria)増殖の支援を増強するS.セレビシエのEvolveX設計適応進化。
第2の事例研究は、改変エクソメタボローム(すなわち、分泌代謝産物)のためにS.セレビシエを適応進化させて、LABの増殖支援に影響を及ぼすことを目的とした。本発明者らは、S.セレビシエが必須アミノ酸のない培地上でLABの増殖を可能にすることを以前に認めた。窒素に富むが、N源の性質が不安定である培地において、S.セレビシエが窒素含有化合物、特にアミノ酸を分泌することが見いだされた。ここで、本発明者らは、EvolveXを使用して、S.セレビシエが適応進化して改変エクソメタボロームを分泌してLAB増殖を増強する条件を設計することを目的とした。S.セレビシエのゲノムスケール代謝モデルを、アミノ酸生合成の調節を反映した追加の制限と一緒に使用した。具体的には、1)L-チロシンが培地中で供給されるが、すべての芳香族アミノ酸が利用可能なわけではない場合でも、L-チロシン合成が活性であるように制限された、2)L-イソロイシン又はL-スレオニンが培地中に存在しても、ホモセリン(L-スレオニン前駆体)合成が活性であるように制限された。さらに、L-イソロイシン、L-ロイシン、L-バリン及びL-チロシンの自由な取り込みがモデルにおいて許容された。EvolveXの標的フラックスを以下のように設定した:上方制御:L-スレオニンアルドラーゼ、ピルビン酸カルボキシラーゼ、4-ヒドロキシフェニルピルビン酸デカルボキシラーゼ、4-ヒドロキシフェニル酢酸デヒドロゲナーゼ、チロソールデヒドロゲナーゼ、チロソール分泌及び4-ヒドロキシフェニル酢酸分泌、並びに下方制御:ピルビン酸デカルボキシラーゼ及び4-ヒドロキシピルビン酸分泌。次いで、EvolveXアルゴリズムを使用して、S.セレビシエのゲノムスケール代謝モデルにおいて定義される一般的炭素及び窒素源のうち3つの、更にグルコナートを含めた、全組合せとして形成される化学環境をスコア化した。参照化学環境として、硫酸アンモニウムをN源として含むグルコース最少培地を使用した。スコアが良好(すなわち、低いほど総合スコアが良好)な環境を手作業で検査して、実験適応進化のための進化生態的地位を選択した。これらから、本発明者らは、1)ピルバートと2)L-スレオニンの組合せを選択した(進化生態的地位のスコアヒストグラムでは、観察された最小スコアに対して1.01のスコア、
図6A参照)。
【0196】
増殖プレートにおいて1)ピルバート、2)L-スレオニン、3)L-イソロイシン、4)L-ロイシン、5)L-バリン及び6)L-チロシンを唯一のC及びN源として緩衝YNB(N源なし、NaOH+コハク酸、pH5.8)中で約100世代の適応実験室進化を行い、その間にピンニングによる新しいプレートへの移行を3日ごとに行った。進化生態的地位において実質的な増殖向上を示す集団から、単一の増殖の速い株を単離した。単離株をLAB(ラクトコッカス ラクチス、ラクトバチルス プランタルム)に対するそれらの増殖支援について親株と比べて試験した。LABに対する増殖支援を試験する馴化培地を、それ自体ではLABを増殖させることができないCDM35グルコース培地(アンモニウム及びアミノ酸:L-アルギニン、L-アスパラギン、L-ヒスチジン、L-メチオニン、L-ロイシン、L-イソロイシン、L-チロシン、L-バリンを含む;Ponomarovaら、準備中の原稿)上で酵母株を増殖させることによって調製した。16又は20時間(すなわち、0.01の初期OD
600から)の30℃(振盪なし)でのインキュベーション後、酵母細胞をペレット化し、廃棄した。上清を更に0.22μm無菌PVDFフィルターに通した。次いで、LABを0.01の初期OD
600で96ウェルプレート中で酵母馴化及び非馴化培地に播種した。LABを振盪せずに30℃でインキュベートし、それらの増殖を4日後に評価した。3種の進化株は、L.ラクチス(IL1403)及びL.プランタルム(WCSF1)に対する増殖支援が向上した(
図6B)。
【0197】
本願は、以下の実施形態も含む。
【0198】
実施形態1:細胞又は生物の所望の代謝形質を進化させる化学環境の適合性を評価する方法であって、代謝モデルにおける複数のフラックスの関数のうちの1つ又は幾つかのシミュレーションを含み、
代謝モデルが生化学反応の化学量論的表現並びに細胞外化合物の移入及び移出を含み、
代謝形質が1セットの標的を含み、
標的がフラックスの関数である、
方法。
【0199】
実施形態2:実施形態1に係る方法であって、増殖と比較した1つ又は幾つかの標的のシミュレーションが行われ、
増殖が、バイオマス成分又はバイオマスを生成する反応(単数又は複数)を介したフラックスの関数である、
方法。
【0200】
実施形態3:実施形態2に係る方法であって、
増殖がある固定値又は範囲内に制限されてシミュレーションが行われる、
方法。
【0201】
実施形態4:実施形態3に係る方法であって、
増殖がその最適値に制限されてシミュレーションが行われる、
方法。
【0202】
実施形態5:実施形態3又は4に係る方法であって、制限が取り込みのいずれかについて設定されてシミュレーションが行われ、
取り込みが、細胞外化合物の移入である反応を介したフラックスの関数である、
方法。
【0203】
実施形態6:実施形態5に係る方法であって、取り込みの合計がある固定値又は範囲内に制限されてシミュレーションが行われる、方法。
【0204】
実施形態7:実施形態6に係る方法であって、
取り込みの合計が最適値に制限されてシミュレーションが行われる、
方法。
【0205】
実施形態8:実施形態7に係る方法であって、
取り込みのいずれかがある固定値又は範囲内に制限されてシミュレーションが行われる、
方法。
【0206】
実施形態9:実施形態8に係る方法であって、
取り込みのいずれかが最適値に制限されてシミュレーションが行われる、
方法。
【0207】
実施形態10:前述の実施形態のいずれかに係る方法であって、上方制御標的と下方制御標的が逆方向に最適化され、
上方制御標的は、増加が望ましい標的であり、
下方制御標的は、減少が望ましい標的である、
方法。
【0208】
実施形態11:前述の実施形態のいずれかに係る方法であって、
絶対的フラックス値のシミュレーションが行われる、
方法。
【0209】
実施形態12:前述の実施形態のいずれかに係る方法であって、
上方制御標的の絶対値が最小化され、下方制御標的の絶対値が最大化される、
方法。
【0210】
実施形態13:前述の実施形態のいずれかに係る方法であって、
少なくとも1つの閾値を超える、又は下回る、標的の数が最適化される、
方法。
【0211】
実施形態14:前述の実施形態のいずれかに係る方法であって、
少なくとも1つの閾値を超える、又は下回る、増殖と比較した標的の数がシミュレートされる、
方法。
【0212】
実施形態15:実施形態13又は14に係る方法であって、
少なくとも1つの閾値が、参照化学環境においてフラックスの関数に対して決定される、
方法。
【0213】
実施形態16:前述の実施形態のいずれかに係る方法であって、
シミュレーションにおいて、少なくとも1つの抑制されたフラックスが定義される、
方法。
【0214】
実施形態17:前述の実施形態のいずれかに係る方法であって、
化学環境に含まれる抑制体又は調節性トリガーの標的である反応を介してフラックスを制限することによってシミュレーションが行われる、
方法。
【0215】
実施形態18:前述の実施形態のいずれかに係る方法であって、
化学環境に含まれる抑制体又は調節性トリガーの標的である反応を介してゼロフラックスに制限することによってシミュレーションが行われる、
方法。
【0216】
実施形態19:前述の実施形態のいずれかに係る方法であって、
代謝モデルの化学量論行列が使用される、
方法。
【0217】
実施形態20:前述の実施形態のいずれかに係る方法であって、化学環境の数値スコアの決定を更に含み、
スコアが、化学環境における標的に対する淘汰圧の強度を示し、及び/又は
スコアが、化学環境における淘汰圧による標的の適用範囲を示す、
方法。
【0218】
実施形態21:前述の実施形態のいずれかに係る方法であって、化学環境の数値スコアの決定を更に含み、
スコアが、化学環境における標的に対する最低の場合の淘汰圧の強度を示し、
スコアが、化学環境における淘汰圧による標的の最低の場合の適用範囲を示す、
方法。
【0219】
実施形態22:実施形態20又は21に係る方法であって、
スコアが、化学環境のスコアを決定する際の化学環境における成分の数を考慮する、
方法。
【0220】
実施形態23:実施形態22に係る方法であって、
スコアが、淘汰圧の強度、及び淘汰圧による標的の適用範囲、及び化学環境における成分の数の関数を含む、
方法。
【0221】
実施形態24:前述の実施形態のいずれかに係る方法であって、増殖と比較した標的反応を介した1つ又は幾つかのフラックスの関数のシミュレーションが行われ、
該方法が、
(a)複数の制限を課すモデルの第1の最適化を行い、それによって第1の最適化結果を決定するステップであって、
ある制限が、増殖をある固定値又は範囲に限定する条件を設定し、
ある制限が、モデルにおけるフラックスに対して熱力学的境界を設定し、
モデルの第1の最適化が、取り込みの合計を最適化する
ステップと、
(b)第1の最適化結果を用いて第2の最適化を行い、それによって第2の最適化結果を決定するステップであって、
ある制限が、増殖をある固定値又は範囲に設定し、
ある制限が、取り込みの合計を第1の最適化結果に設定し、
第2の最適化結果が、化学環境の適合性を示し、
モデルの第2の最適化が、上方制御標的の合計の最適化として確認された条件を促進し、
モデルの第2の最適化が、下方制御標的の合計の最適化として確認された条件を促進する
ステップと
を含む、方法。
【0222】
実施形態25:前述の実施形態に係る方法であって、
(c)モデルの第3の最適化を行い、それによって第3の最適化結果を決定するステップであって、
参照化学環境における上方制御標的に関して増強された上方制御標的の数が最適化され、参照化学環境における下方制御標的に関して抑制された下方制御標的の数が最適化される
ステップを更に含む、
方法。
【0223】
実施形態26:実施形態24及び25に係る方法であって、
スコアがvalue
【数11】
によって与えられ、
式中、
- nは、標的の数を表し、
- coverageは、ステップ(c)で得られる標的の最小値を表し、
- uは、上方制御標的の数を表し、
- strengthは、ステップ(b)で得られる上方制御標的の最小合計と下方制御標的の最大合計の合計を表し、
- cは、化学環境における成分の数を表し、
- W
c、W
s及びW
mは、数学的重みを表す、
方法。
【0224】
実施形態27:前述の実施形態のいずれか一つに係る方法であって、
該方法が、遺伝的アルゴリズムにおける適応度スコアリングに使用される、
方法。
【0225】
実施形態28:実施形態27に係る方法であって、
化学環境が、遺伝的アルゴリズムにおける個体を表し、化学環境の化合物が、遺伝的アルゴリズムにおける個体の性質又は遺伝子を表す、
方法。
【0226】
実施形態29:前述の実施形態のいずれか一つに係る方法であって、
化学環境が細胞又は生物の自然環境である、
方法。
【0227】
実施形態30:実施形態29に係る株を単離するサイトを選択する方法であって、
該方法が、代謝形質を有する細胞又は生物の単離をもたらす、
方法。
【0228】
実施形態31:前述の実施形態のいずれか一つに係る方法であって、
代謝形質が、細胞又は生物による少なくとも1種の所望の生成物の生成をもたらす、
方法。
【0229】
実施形態32:実施形態31に係る方法であって、
少なくとも1種の所望の生成物が食品化合物、好ましくは芳香化合物である、
方法。
【0230】
実施形態33:実施形態32に係る方法であって、
少なくとも1種の所望の生成物がポリマー、酸、アルコール又はエステルである、
方法。
【0231】
実施形態34:前述の実施形態のいずれか一つに係る方法であって、
細胞又は生物が産業的に関連性がある、
方法。
【0232】
実施形態35:前述の実施形態のいずれか一つに係る方法であって、
細胞又は生物が細菌、酵母又はカビの群から選択される微生物である、
方法。
【0233】
実施形態36:実施形態35に係る方法であって、
酵母がサッカロミセス セレビシエである、
方法。
【0234】
実施形態37:前述の実施形態のいずれか一つに係る方法であって、
化学環境が細胞又は生物用の培地である、
方法。
【0235】
実施形態38:実施形態1から37に係る方法であって、
化学環境が、細胞又は生物の代謝形質を進化させるのに使用される進化化学環境であり、細胞又は生物を培養して少なくとも1種の所望の生成物を生成するために使用される標的化学環境とは異なる、
方法。
【0236】
実施形態39:実施形態1から37に係る方法であって、
細胞が腫瘍細胞である、
方法。
【0237】
実施形態40:実施形態1から37に係る方法であって、
生物が病原体である、
方法。
【0238】
実施形態41:実施形態39又は40に係る方法であって、
代謝形質が細胞又は生物の不安定化をもたらす、
方法。
【0239】
実施形態42:実施形態41に係る方法であって、
細胞又は生物の不安定化が、増殖の減少及び/又は細胞若しくは生物の死を引き起こす、
方法。
【0240】
実施形態43:細胞又は生物の代謝形質を進化させる化学環境を決定する方法であって、
(a)前述の実施形態のいずれか一つに係る方法を用いて、少なくとも2つの化学環境の代謝形質を進化させる適合性を評価するステップ、
(b)代謝形質を進化させる可能性が最も高い化学環境に属する、代謝形質を進化させる適合性を有する少なくとも1つの化学環境を選択するステップ
を含む、方法。
【0241】
実施形態44:実施形態43に係る方法であって、ステップ(b)において、代謝形質を進化させる可能性が最も高い化学環境の90%、80%、70%、60%、50%、40%、30%、20%、15%、10%、5%、3%、2%に属する化学環境が選択される、
方法。
【0242】
実施形態45:細胞又は生物の代謝形質を進化させる化学環境を決定する方法であって、
(a)前述の実施形態のいずれか一つに係る方法を用いて、少なくとも2つの化学環境の適合性を評価するステップ、
(b)適合性の前もって設定された閾値を超える代謝形質を進化させる適合性を有する少なくとも1つの化学環境を選択するステップ
を含む、方法。
【0243】
実施形態46:細胞又は生物の代謝形質を進化させる方法であって、実施形態43から45のステップを含み、
(c)ステップ(b)で選択された化学環境において細胞又は生物を増殖させるステップ
を更に含む、方法。
【0244】
実施形態47:実施形態46の方法によって得られる細胞又は生物。
【0245】
実施形態48:実施形態44の細胞又は生物の代謝形質を進化させる方法であって、
(a)実施形態43のステップ(a)及び(b)に従って、細胞又は生物の代謝形質を進化させる進化化学環境を決定するステップ、
(c)所望の形質を進化させる進化化学環境において細胞又は生物を増殖させるステップ、
(d)細胞又は生物によって少なくとも1種の所望の生成物を生成するために細胞又は生物を標的化学環境において増殖させるステップ
を含む、方法。
【0246】
実施形態49:実施形態1から46及び48に係る方法であって、代謝形質が少なくとも1種の芳香化合物の生成の増加である、方法。
【0247】
実施形態50:実施形態49に係る方法であって、少なくとも1種の芳香化合物が、芳香族芳香化合物、若しくは分枝鎖アミノ酸由来芳香体、又はその前駆体である、方法。
【0248】
実施形態51:実施形態50に係る方法であって、芳香族芳香化合物が酢酸フェニルエチルである、方法。
【0249】
実施形態52:実施形態1から46及び48に係る方法であって、代謝形質が、乳酸菌増殖を増強するアミノ酸の生成の増加である、方法。
【0250】
実施形態53:プロセッサによって実行されると、実施形態1から44のいずれかに係る方法ステップを行うようになされたコンピュータプログラム要素。
【0251】
実施形態54:実施形態53に係るコンピュータプログラム要素を含むコンピュータ可読媒体。
【0252】
実施形態55:実施形態43又は44のステップを含む、所望の代謝形質を有する細胞又は生物を選別するための選択化学環境を決定する方法であって、
代謝形質を進化させる化学環境の適合性が、所望の代謝形質を有する細胞又は生物を選別するための化学環境の適合性と相関する、
方法。
【0253】
実施形態56:選択化学環境を用いて所望の代謝形質を有する細胞又は生物を選別する方法であって、
(a)実施形態55に係る選択化学環境を決定するステップ、
(b)少なくとも2種の細胞又は生物を選択化学環境において増殖させるステップ、
(c)選択環境において他の細胞又は生物の1種以上よりも高い増殖を示す少なくとも1種の細胞又は生物を選択するステップ、
選択環境におけるより高い増殖は、細胞又は生物が所望の代謝形質を含むことを示す、
方法。
【0254】
実施形態57:実施形態55又は56に係る方法であって、所望の代謝形質が標的化学環境において適応度の利点を与えない、方法。
【0255】
実施形態58:実施形態55から57に係る方法であって、所望の代謝形質が選択化学環境において適応度の利点を与える、方法。