IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社神戸製鋼所の特許一覧

<>
  • 特許-車体構造 図1
  • 特許-車体構造 図2
  • 特許-車体構造 図3
  • 特許-車体構造 図4
  • 特許-車体構造 図5
  • 特許-車体構造 図6
  • 特許-車体構造 図7
  • 特許-車体構造 図8
  • 特許-車体構造 図9
  • 特許-車体構造 図10
  • 特許-車体構造 図11
  • 特許-車体構造 図12
  • 特許-車体構造 図13
  • 特許-車体構造 図14
  • 特許-車体構造 図15
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-22
(45)【発行日】2022-12-01
(54)【発明の名称】車体構造
(51)【国際特許分類】
   B62D 25/20 20060101AFI20221124BHJP
   B60K 1/04 20190101ALI20221124BHJP
【FI】
B62D25/20 F
B60K1/04 Z
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019004880
(22)【出願日】2019-01-16
(65)【公開番号】P2020111267
(43)【公開日】2020-07-27
【審査請求日】2021-10-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100111039
【弁理士】
【氏名又は名称】前堀 義之
(72)【発明者】
【氏名】椿 翔太
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 憲一
(72)【発明者】
【氏名】安井 和也
(72)【発明者】
【氏名】吉田 正敏
【審査官】藤井 浩介
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-063207(JP,A)
【文献】特開2018-090021(JP,A)
【文献】国際公開第15/129110(WO,A1)
【文献】特開2013-136275(JP,A)
【文献】特開2014-091422(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0065677(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 25/20
B60K 1/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体中央下部に配置されたバッテリと、
前記バッテリの車幅方向外側にて車体前後方向に延びる中空状のサイドシルと、
前記サイドシルの内部において連続筒状構造構成するとともに内部から前記サイドシルを補強する補強部材と
を備え、
前記連続筒状構造は、車幅方向に延在する多角形状の閉断面が車両上下方向には1つとなるように単列で車体前後方向に複数連なった形状を有
前記補強部材は、単体部品で前記閉断面を形成している、車体構造。
【請求項2】
前記閉断面は、六角形以上の多角形である、請求項に記載の車体構造。
【請求項3】
前記閉断面は、偶数角形である、請求項に記載の車体構造。
【請求項4】
前記補強部材は、6000系または7000系のアルミニウム合金の押し出し材である、請求項から請求項のいずれか1項に記載の車体構造。
【請求項5】
前記補強部材は、前記サイドシル内に充填されるように配置されている、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の車体構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車体構造に関する。
【背景技術】
【0002】
電気自動車は、バッテリの保護等の観点から一般の燃料自動車よりも高い衝突安全性能が求められる。電気自動車では航続距離を確保するために車室の床下全面に広くバッテリが配置されることが多いため、特に側面衝突時の高い衝突安全性能(以降、側突性能ともいう。)が求められる。つまり、車体がスピンするなどして車体側部にポール等の物体が衝突した際に、車室やバッテリが損傷することなく保護されることが必要である。
【0003】
例えば、特許文献1,2には、車室の変形を抑制でき、車両の側突性能を向上できる車体下部構造が開示されている。当該車体下部構造では、高い側突性能を得るために、サイドシルと称される車体下方側部の柱状部材内に補強部材を配置し、サイドシルの強度および衝突エネルギー吸収性能を向上させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-90020号公報
【文献】特開2018-90021号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1,2の車体下部構造では、補強部材が、車体前後方向から見て閉断面を有しており、サイドシルと概ね同方向に延びている。このような補強部材は、車体側部から力を受けた際に補強部材も側部から力を受けることとなるため、その車体内側部分の長手方向に高い引張応力が発生し、曲げ破断するおそれもある。補強部材に曲げ破断が生じると、反力を生じなくなる。そのため、衝突エネルギーを吸収できず、側突性能が低下する。また、このような補強部材はポールなどの物体に側突した際に横倒れ(車高方向への倒れ)し易い。横倒れした場合、急激に反力が減少し、側突性能が低下する。
【0006】
本発明は、高い側突性能を有する車体構造を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、車体中央下部に配置されたバッテリと、前記バッテリの車幅方向外側にて車体前後方向に延びる中空状のサイドシルと、前記サイドシルの内部に形成される連続筒状構造の少なくとも一部を構成する補強部材とを備え、前記連続筒状構造は、車幅方向から見て多角形状の閉断面が複数連なった形状を有する、車体構造を提供する。
【0008】
この構成によれば、サイドシルの内部にて車幅方向から見て多角形状の閉断面が複数連なった連続筒状構造が構成される。一般に、筒状構造は側部への荷重によって曲げ変形し易いが軸方向の荷重には強い。上記配置構成において、車体の側突荷重は、筒状構造においては軸方向の荷重となる。従って、車体の側突時において、補強部材が曲げ変形による破断や横倒れする可能性を低減でき、補強部材の反力を向上できる。従って、衝突エネルギー吸収性能を向上できるため、車室やバッテリを安全に保護することができ、電気自動車に求められる側突性能を確保できる。
【0009】
前記連続筒状構造は、車幅方向から見て単列で構成されてもよい。
【0010】
この構成によれば、連続筒状構造が単列で構成されるので、サイドシル内の狭い空間で多角形状の閉断面の大きさを最大限確保できる。多角形状の閉断面は、例えば、縦方向に扁平に潰れることにより横幅を伸ばすことができ、反対に横方向に扁平に潰れることにより横幅を縮めることができる。従って、閉断面の大きさを最大限確保することで、閉断面を反力を大きく保ったまま潰れやすくし、補強部材の伸縮性を最大限確保できる。これにより、衝突エネルギー吸収性能を向上できるため、側突性能を向上できる。
【0011】
前記補強部材は、単体部品で前記閉断面を形成してもよい。
【0012】
この構成によれば、補強部材で所望の閉断面を形成した後に補強部材をサイドシル内に配置できるため、車体構造の設計が容易となる。従って、好適な形状を設計し易く、所望の側突性能を得ることができる。
【0013】
前記閉断面は、六角形以上の多角形であってもよい。
【0014】
この構成によれば、六角形以上の多角形は四角形などと比べて屈曲点が多く、変形しやすいため、補強部材の伸縮性を向上させることができる。補強部材の伸縮性を確保することにより、補強部材の曲げ破断を抑制でき、側突性能を向上できる。
【0015】
前記閉断面は、偶数角形であってもよい。
【0016】
この構成によれば、補強部材をサイドシルなどの他部材に取り付ける際に対向する平坦部を確保し易いため、補強部材の取り付け性を向上できる。
【0017】
前記補強部材は、6000系または7000系のアルミニウム合金の押し出し材であってもよい。
【0018】
この構成によれば、補強部材において衝突エネルギーを吸収するための高い材料強度と伸びを確保できる。衝突エネルギーを吸収するには、高い材料強度と伸びが必要とされるため、アルミ材などの金属材料が適している。仮に、樹脂材料で補強部材を形成すると、材料強度が足りず、補強部材が容易に曲げ破断するおそれがある。また、特にアルミ材は、押し出し材として適しており、製造性にも優れている。
【0019】
前記補強部材は、アルミニウム合金または鋼鉄の板材が接合されることによって構成されてもよい。
【0020】
この構成によれば、補強部材を板材から構成でき、簡易に補強部材を製造できるため、補強部材の汎用性を向上できる。ここで、接合とは、溶接や機械接合を含む広義の態様をいう。
【0021】
前記補強部材は、前記サイドシルの内面に接合され、前記連続筒状構造は、前記補強部材と前記サイドシルとによって構成されてもよい。
【0022】
この構成によれば、補強部材単体で連続筒状構造を構成する場合に比べて、補強部材に対する設計上の制約が緩和される。例えば、補強部材は、一枚の板材を連続したハット型に曲げ変形させたものであってもよく、これをサイドシルの平坦な内面に貼り合わせることで連続筒状構造を構成することもできる。ここで、接合とは、溶接や機械接合を含む広義の態様をいう。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、車体構造において、サイドシルの内部にて補強部材を好適に配置構成することで補強部材の反力を向上させているため、側突性能を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明の一実施形態に係る車体構造を示す斜視図。
図2図1の楕円IIで示されるサイドシル部分の車体前後方向に垂直な断面図。
図3】アウター部材が透明化されたサイドシル部分の斜視図。
図4】単列配置された補強部材の車幅方向に垂直な断面図。
図5】補強部材の固定方法を示す車体前後方向に垂直なサイドシル部分の断面図。
図6】一実施形態に係る車体構造の側突についてのシミュレーション方法を示す模式的な斜視図。
図7】比較例に係る車体構造の側突についてのシミュレーション方法を示す模式的な斜視図。
図8図6のポール側突時の補強部材の変形を示す平面図。
図9】補強部材に関する第1変形例を示すサイドシル部分の車体前後方向に垂直な断面図。
図10】補強部材に関する第1変形例を示すサイドシル部分の断面図。
図11】補強部材に関する第2変形例を示すサイドシル部分の車体前後方向に垂直な断面図。
図12】補強部材に関する第3変形例を示すサイドシル部分の車体前後方向に垂直な断面図。
図13】補強部材に関する第3変形例を示すサイドシル部分の車幅方向に垂直な断面図。
図14】補強部材に関する第4変形例を示す補強部材の車幅方向に垂直な断面図。
図15】補強部材に関する第5変形例を示すサイドシル部分の車体前後方向に垂直な断面図。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、添付図面を参照して本発明の実施形態を説明する。図面は全て模式的に示されており、なお、以下の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物、あるいは、その用途を制限することを意図するものではない。また、図面は模式的なものであり、各寸法の比率等は図面相互間の関係において相違している場合がある。
【0026】
図1を参照して、本実施形態の車体構造では、車体中央下部に推進用のバッテリ10が配置されている。即ち、本実施形態の車体構造は、バッテリ10を搭載する電気自動車用のものである。バッテリ10は、保護ケースなどを含めて模式的に図示されており、車室Rの床下全面に配置されている。本実施形態では、車体がスピンするなどして車体側部にポール等の物体が衝突(即ち側突)した際、車室Rやバッテリ10が損傷することなく保護される側突性能の高い車体構造について以下説明する。
【0027】
図1では、車体側方(詳細には左側方)を符号Yで示し、車体後方を符号Xで示し、車体上方を符号Zで示している。即ち、車幅方向が方向Yおよびその反対方向で示され、車体前後方向が方向Xおよびその反対方向で示され、車高方向が方向Zおよびその反対方向で示されている。これらの方向については図2以降でも同じである。
【0028】
バッテリ10の車幅方向外側には、車体前後方向に延びる中空状のサイドシル20が配置されている。サイドシル20は、車室Rの両側下部に沿って一対配置されている。なお、サイドシル20は、車体構造においてロッカーとも称される部材である。
【0029】
図2を参照して、バッテリ10の上方には車幅方向に延びる複数のクロスメンバ11が配置されている。複数のクロスメンバ11によって、一対のサイドシル20は、上部にて互いに接続されている。なお、図2では、一対のサイドシル20のうち一方のみが示されている。
【0030】
本実施形態のサイドシル20は、車幅方向外側に配置されるアウター部材21と、車幅方向内側に配置されるインナー部材22とを貼り合わせて構成されている。アウター部材21およびインナー部材22は、例えば、ともに鋼製の板材である。アウター部材21およびインナー部材22はともにハット型に曲げ成形されており、これらが中空の空間Sを形成するように貼り合わされ溶接されている。当該空間Sには、補強部材23が配置されている。
【0031】
補強部材23は、車幅方向において一端がアウター部材21と当接し、他端がインナー部材22と当接して配置されている。車高方向においては、補強部材23はクロスメンバ11とバッテリ10とに跨るように配置されている。これにより、ポール等の物体が車体に側突した際にも、側突荷重をサイドシル20からバッテリ10およびクロスメンバ11に分散できる。
【0032】
図3を参照して、補強部材23は、サイドシル20の内部にて連続筒状構造CTを形成している。連続筒状構造CTは、車幅方向に延びる複数の筒状体CT1,CT2,CT3,・・・が車体前後方向に連なって配置されることによって構成されている。車幅方向から見ると、連続筒状構造CTは、多角形状の閉断面が車体前後方向に複数連なった形状を有する。
【0033】
本実施形態では、補強部材23は6000系または7000系のアルミニウム合金の押し出し材であり、連続筒状構造CTは一体として構成されている。換言すれば、補強部材23は、単体部品で構成されている。ただし、補強部材23の材質は上記アルミニウム合金の押し出し材に限定されるものではなく、補強部材23は例えば鋼鉄製であってもよい。
【0034】
図4を参照して、本実施形態では、連続筒状構造CTにおいて正八角形の閉断面が単列で配置されている。この単列配置は、隣接する正八角形が互いに一辺を共有するように構成されている。補強部材23の板厚をtとし、正八角形の一辺の長さをbとする。カルマンの式により多角形の各辺における衝突エネルギー吸収の効率を考慮すると、補強部材23の板厚tおよび長さbは以下の式(1)を満たすことが好ましい。
【0035】
【数1】
σy:補強部材の降伏応力
E:補強部材のヤング率
【0036】
上記式(1)を満たす補強部材23の寸法を例示すると、補強部材23がヤング率E=68GPa、降伏応力σy=200MPaのアルミニウム合金製の場合、板厚t=2mmで正八角形の一辺の長さb=87mmとすることができる。同様に、板厚t=3mmでは、正八角形の一辺の長さb=130mmとすることができる。また、補強部材23がヤング率E=210GPa、降伏応力σy=700MPaの鋼鉄製の場合、板厚t=2mmで正八角形の一辺の長さb=82mmとすることができる。同様に、板厚t=1.6mmでは、正八角形の一辺の長さb=65mmとすることができる。
【0037】
連続筒状構造CTの各閉断面の形状は、正八角形に限定されるものではないが、好ましくは六角形以上である。さらに好ましくは、連続筒状構造CTは単列構造であり、各閉断面の形状は六角形以上の偶数角形であり、連続筒状構造CTの側面が図3のXY平面に並行である。
【0038】
図5を参照して、補強部材23の固定方法について説明する。補強部材23は、サイドシル20の内面に固定されている。本実施形態では、例えばL字型のブラケット24を介して固定されている。詳細には、ブラケット24を介して、補強部材23の車幅方向の内側端部はインナー部材22に固定されている。代替的には、補強部材23の車幅方向の外側端部がアウター部材21に固定されていてもよい。ブラケット24は、補強部材23の車幅方向の両端部において車高方向の上下に配置されている。ブラケット24とサイドシル20との接合およびブラケット24と補強部材23との接合には、FDS(フロードリルスクリュ)、SPR(セルフピアスリベット)、スポット溶接、アーク溶接、またはロウ付けなどが採用され得る。なお、図2,3では、ブラケット24の図示を省略している。
【0039】
図6,7を参照して、本実施形態の車体構造におけるサイドシル20の側突性能について説明する。発明者らは、本実施形態の車体構造におけるサイドシル20(図6参照)の側突性能と、比較例のサイドシル200(図7参照)の側突性能とを比較するために、ポール30が側突した際のシミュレーションを行った。シミュレーションでは、クロスメンバ11を模擬した支持部材31によってサイドシル20,200の一部をそれぞれ固定し、車幅方向外側からポール30が衝突した状態をそれぞれ再現した。なお、図6,7では、サイドシル20,200の内部を図示するために、サイドシル20,200が切断されて示されているが(2点鎖線参照)、実際にはサイドシル20,200は車体前後方向にさらに延びている。詳細には、サイドシル20,200はサイドシル20,200のX方向中心から正方向の半分のみ表示している。また、ポール30は、車幅方向内側の半分のみが図示されている。
【0040】
図6は本実施形態のサイドシル20を示しており、図7は比較例のサイドシル20を示している。両者の違いは、サイドシル20内の補強部材23の構成のみである。図6の本実施形態の補強部材23の厚みは、均一で3mmである。図7の比較例の補強部材230は、車体前後方向から見て閉断面を有しており、サイドシル200と同方向に延びている。この閉断面の形状は長方形であり、車幅方向にこの長方形が単列で連なっている。補強部材23の厚みは、車高方向に垂直な上壁および下壁が4mmであり、車幅方向に垂直な側壁および仕切壁が2mmである。
【0041】
上記条件にて、シミュレーションを行った結果を以下の表1に示す。シミュレーションの出力値は、補強部材23,230のそれぞれに関しての、車幅方向における平均反力、EA量(エネルギー吸収量)、重量、単位重量当たりのEA量(EA量/kg)、および横倒れの有無である。平均反力、EA量、およびEA量/kgの比較では、それぞれ大きい方が好ましい結果を示し、重量は軽量である方が好ましい。横倒れは生じないことが好ましい。
【0042】
【表1】
【0043】
表1を参照して、平均反力、EA量、およびEA量/kgのいずれにおいても本実施形態の方が比較例よりも大きな数値を示し、重量についても本実施形態の方が比較例よりも軽量であり、横倒れについても本実施形態では発生しないが比較例では発生している。従って、全ての項目で本実施形態の方が比較例よりも好ましい結果を示している。また、仮に本実施形態と比較例とで同じEA量を有する構造とすると、本実施形態の方が車幅方向の大きさを比較例よりも22%小さくできる。
【0044】
以下、本実施形態の作用効果を説明する。
【0045】
本実施形態によれば、図3に示すように、サイドシル20の内部にて車幅方向から見て多角形状の閉断面が複数連なった連続筒状構造CTが構成されている。一般に、筒状構造は側部への荷重によって曲げ変形し易いが軸方向の荷重には強い。本実施形態では、車体の側突荷重は、連続筒状構造CTにおいては筒状体CT1,CT2,CT3,・・・の各中心軸方向の荷重となる。従って、車体の側突時において、補強部材23が曲げ変形する可能性を低減でき、補強部材23の反力を向上できる。従って、衝突エネルギー吸収性能を向上できるため、車室R(図1参照)やバッテリ10(図1参照)を安全に保護することができ、電気自動車に求められる側突性能を確保できる。
【0046】
連続筒状構造CTが単列で構成されているので、サイドシル20内の狭い空間Sで多角形状の閉断面の大きさを最大限確保できる。多角形状の閉断面(本実施形態では、正八角形)は、例えば、縦方向に扁平に潰れることにより横幅を伸ばすことができ、反対に横方向に扁平に潰れることにより横幅を縮めることができる。従って、閉断面の大きさを最大限確保することで、閉断面を潰れやすくし、補強部材23の伸縮性を最大限確保できる。より詳細には、図8を参照して、車体にポール30が側突した際、補強部材23の車幅方向外側端部はポールなどの物体に沿って車体前後方向に縮む(矢印A1参照)一方、補強部材23の車幅方向内側端部は車体前後方向に伸びる(矢印A2参照)。これにより、衝突エネルギー吸収性能を向上できるため、側突性能を向上できる。
【0047】
補強部材23が単体部品で構成されているため、補強部材23で所望の閉断面を形成した後に補強部材23をサイドシル20内に配置できる。そのため、車体構造の設計が容易となる。従って、好適な形状を設計し易く、所望の側突性能を得ることができる。
【0048】
本実施形態では、補強部材23の閉断面が正八角形に形成されている。六角形以上の多角形は四角形などと比べて屈曲点が多く、変形しやすいため、補強部材23の伸縮性を向上させることができる。補強部材23の伸縮性を確保することにより、補強部材23の曲げ破断を抑制でき、側突性能を向上できる。
【0049】
本実施形態では、補強部材23の閉断面が偶数角形(詳細には正八角形)に形成されている。これにより、補強部材23をサイドシルなどの他部材に取り付ける際に対向する平坦部を確保し易いため、補強部材23の取り付け性を向上できる。
【0050】
補強部材23が6000系または7000系のアルミニウム合金の押し出し材であるため、補強部材23において衝突エネルギーを吸収するための高い材料強度と伸びを確保できる。衝突エネルギーを吸収するには、高い材料強度と伸びが必要とされるため、アルミ材などの金属材料が適している。仮に、樹脂材料で補強部材23を形成すると、材料強度が足りず、補強部材23が容易に曲げ破断するおそれがある。また、特にアルミ材は、押し出し材として適しており、製造性にも優れている。
【0051】
補強部材23の固定方法や構造については、上記実施形態に限定されず、様々に変更され得る。以下、補強部材23に関する様々な変形例について説明する。
【0052】
(第1変形例)
図9,10を参照して、第1変形例では、補強部材23は、サイドシル20内にて上部に配置されている。詳細には、補強部材23の上面がサイドシル20の内面と接触して配置され、補強部材23の上面とインナー部材22の内面とがスポット溶接等によって接合されている。また、補強部材23の車幅方向の内側端部の下側にはL字型のブラケット24が配置され、ブラケット24によって補強部材23の車幅方向の内側端部はインナー部材22に固定されている。代替的には、補強部材23の車幅方向の外側端部がアウター部材21に固定されていてもよい。なお、図9では、ブラケット24の図示を省略している。
【0053】
バッテリ10は、上記実施形態に比べてわずかに車幅方向内側に配置され、サイドシル20が多少変形しても接触しないようにサイドシル20と車幅方向に隙間dをもって配置されている。詳細には、車高方向において、補強部材23とバッテリ10は重複して配置されておらず、補強部材23とクロスメンバ11の位置が揃えて配置されている。従って、車体の側突時には、補強部材23からバッテリ10には力が付加されず、クロスメンバ11に力が伝達される。
【0054】
本変形例によれば、側突荷重が入力された際に、バッテリ10には力が付加されないため、バッテリ10を確実に保護できる。また、補強部材23の上面がサイドシル20の内面に直接接合されているため、上記実施形態に比べて使用するブラケット24の数を減らすことができる。
【0055】
(第2変形例)
図11を参照して、本変形例では、L字型のブラケット24により、補強部材23の車幅方向の中央部が支持固定されている。ブラケット24の一端はサイドシル20のアウター部材21とインナー部材22とで挟み込まれるとともにこれらとスポット溶接等によって接合されている。ブラケット24の他端は、補強部材23とスポット溶接等によって接合されている。
【0056】
本変形例によれば、曲げ破断の生じやすい補強部材23の車幅方向の中央部を支持できるため、曲げ破断を一層確実に防止できる。
【0057】
(第3変形例)
図12,13を参照して、本変形例では、補強部材23は、サイドシル20内に充填されるように配置されている。補強部材23の上面と下面はそれぞれ、パネル材25を介してインナー部材22の内面にスポット溶接等によって接合されている。代替的には、補強部材23の上面と下面はそれぞれ、パネル材25を介してアウター部材21の内面にスポット溶接等によって接合されていてもよい。
【0058】
本変形例によれば、補強部材23は、サイドシル20内に充填されており、サイドシル20を効果的に補強することができる。また、補強部材23の固定のためのブラケット24(図5参照)を省略できる。
【0059】
(第4変形例)
図14を参照して、本変形例では、補強部材23をアルミニウム合金または鋼鉄の2枚の板材23a,23bを貼り合わせて接合することによって構成している。2枚の板材23a,23bは、連続したハット型にそれぞれ曲げ成形されている。本変形例では、閉断面形状は正六角形状である。補強部材23の接合方法および固定方法は、特に限定されず、上記の実施形態および変形例で説明したような任意の方法を採用し得る。
【0060】
本変形例によれば、上記実施形態のような押し出し材以外でも補強部材23を板材23a,23bから構成できる。そのため、簡易に補強部材23を製造でき、補強部材23の汎用性を向上できる。
【0061】
(第5変形例)
図15を参照して、本変形例では、補強部材23は、1枚の連続したハット型の板材23cからなる。補強部材23は、インナー部材22の内面に貼り合わされ、インナー部材22の内面とスポット溶接等によって接合されている。本変形では、連続筒状構造CTは、補強部材23とインナー部材22(サイドシル20)とによって構成される。本変形例では、車幅方向から見た連続筒状構造CTの閉断面形状は台形である。なお、図15では、アウター部材21の図示が省略されている。代替的には、補強部材23は、アウター部材21の内面に貼り合わされ、アウター部材21の内面とスポット溶接等によって接合されていてもよい。この場合、連続筒状構造CTは、補強部材23とアウター部材21(サイドシル20)とによって構成される。
【0062】
本変形例によれば、補強部材23単体で連続筒状構造CTを構成する場合に比べて、補強部材23に対する設計上の制約が緩和される。例えば、補強部材23は、一枚の板材23cで構成されるため、任意の材質とすることができる。
【0063】
以上より、本発明の具体的な実施形態およびその変形例について説明したが、本発明は上記形態に限定されるものではなく、この発明の範囲内で種々変更して実施することができる。例えば、個々の変形例を組み合わせて実施してもよい。
【符号の説明】
【0064】
10 バッテリ
11 クロスメンバ
20,200 サイドシル(ロッカー)
21 アウター部材
22 インナー部材
23,230 補強部材
23a,23b,23c 板材
24 ブラケット
25 パネル材
30 ポール
31 支持部材
R 車室
S 空間
d 隙間
CT 連続筒状構造
CT1,CT2,CT3 筒状体
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15