(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-22
(45)【発行日】2022-12-01
(54)【発明の名称】心臓リハビリテーション支援装置及びその制御プログラム
(51)【国際特許分類】
A61H 1/02 20060101AFI20221124BHJP
A61B 5/1455 20060101ALI20221124BHJP
A61B 5/091 20060101ALI20221124BHJP
A61B 5/0245 20060101ALI20221124BHJP
【FI】
A61H1/02 Q
A61B5/1455
A61B5/091
A61B5/0245 200
(21)【出願番号】P 2019014243
(22)【出願日】2019-01-30
【審査請求日】2021-11-22
(73)【特許権者】
【識別番号】506310865
【氏名又は名称】CYBERDYNE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002365
【氏名又は名称】特許業務法人サンネクスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山海 嘉之
【審査官】小野田 達志
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-22112(JP,A)
【文献】特開2018-134294(JP,A)
【文献】特開2001-299957(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0228682(US,A1)
【文献】特開2016-158711(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61H 1/02
A61B 5/1455
A61B 5/091
A61B 5/0245
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
着座状態にある被験者のペダル漕ぎ動作に応じて任意の運動負荷を付与する器具を用いて、心血管疾患治療後における前記被験者の心臓の機能回復を支援する心臓リハビリテーション支援装置において、
前記器具における前記被験者が踏み込むペダルが取り付けられたクランクの回転時に前記運動負荷としての負荷トルクを付与する駆動部と、
前記被験者の下肢部位から生体信号を検出する生体信号検出部と、
前記生体信号検出部により検出された生体信号に基づいて、前記被験者の意思に従った前記クランクの回転トルク及び回転速度を発生させるように前記駆動部の負荷トルクを随意制御する随意制御部と、
前記クランクの回転角度に基づいて、前記被験者のペダル漕ぎ動作のアシスト動力を発生させるように前記駆動部の負荷トルクを自律制御する自律制御部と、
前記被験者の心拍数及び心電図変化を検出する心臓状態検出部と、
前記被験者の脈拍数及び血中酸素飽和度を測定する動脈血測定部と、
前記心臓状態検出部及び前記動脈血測定部による検出及び測定結果に基づいて、前記随意制御部による随意制御と前記自律制御部による自律制御とのハイブリッド率を調整する最適トルク調整部と
を備えることを特徴とする心臓リハビリテーション支援装置。
【請求項2】
前記被験者の呼気ガスに含まれる二酸化炭素濃度を検出する呼気検出部をさらに備え、
前記最適トルク調整部は、前記心臓状態検出部、前記動脈血測定部及び前記呼気検出部による検出及び測定結果に基づいて、前記随意制御部による随意制御と前記自律制御部による自律制御とのハイブリッド率を調整する
ことを特徴とする請求項1に記載の心臓リハビリテーション支援装置。
【請求項3】
前記随意制御部及び前記自律制御部は、前記被験者の心拍数が適切な範囲内に常に維持するように、それぞれ前記駆動部の負荷トルクを制御する
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の心臓リハビリテーション支援装置。
【請求項4】
前記器具に着座状態にある前記被験者の視界内に設けられ、当該被験者のペダル漕ぎ動作に同期して変遷する映像を表示する同期映像表示部をさらに備える
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の心臓リハビリテーション支援装置。
【請求項5】
着座状態にある被験者のペダル漕ぎ動作に応じて任意の運動負荷を付与する器具を用いて、心血管疾患治療後における前記被験者の心臓の機能回復を支援する心臓リハビリテーション支援
装置の制御プログラムにおいて、
前記心臓リハビリテーション支援装置の制御部に、
前記器具における前記被験者が踏み込むペダルが取り付けられたクランクの回転時に駆動部が前記運動負荷としての負荷トルクを付与する状態で、前記被験者の下肢部位から検出される生体信号に基づいて、前記被験者の意思に従った前記クランクの回転トルク及び回転速度を発生させるように前記駆動部の負荷トルクを随意制御するとともに、前記クランクの回転角度に基づいて、前記被験者のペダル漕ぎ動作のアシスト動力を発生させるように前記駆動部の負荷トルクを自律制御しながら、前記被験者の心拍数及び心電図変化の検出結果、及び前記被験者の脈拍数及び血中酸素飽和度の測定結果に基づいて、前記随意制御と前記自律制御とのハイブリッド率を調整する
処理を実行させる制御プログラム。
【請求項6】
前記心臓リハビリテーション支援装置の前記制御部に、
前記被験者の呼気ガスに含まれる二酸化炭素濃度の検出結果と、前記被験者の心拍数及び心電図変化の検出結果と、前記被験者の脈拍数及び血中酸素飽和度の測定結果とに基づいて、前記随意制御と前記自律制御とのハイブリッド率を調整する
処理を実行させる
ことを特徴とする請求項5に記載の
制御プログラム。
【請求項7】
前記心臓リハビリテーション支援装置の前記制御部に、
前記被験者の心拍数が適切な範囲内に常に維持するように、前記駆動部の負荷トルクを随意制御及び自律制御する処理を実行させる
ことを特徴とする請求項5又は6に記載の
制御プログラム。
【請求項8】
前記心臓リハビリテーション支援装置の前記制御部に、
前記器具に着座状態にある前記被験者の視界内にて、当該被験者のペダル漕ぎ動作に同期して変遷する映像を表示
させる
ことを特徴とする請求項5乃至7のいずれか一項に記載の
制御プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、心血管疾患治療後における被験者の心臓の機能回復を支援する心臓リハビリテーション支援技術に関する。
【背景技術】
【0002】
心臓リハビリテーションは、心疾患患者の最適な身体的、心理的、社会的状態を回復及び維持し、基礎にある動脈硬化の進行を抑制し、さらに罹病率と死亡率を低下させることをめざす多面的介入と定義されている。
【0003】
かかる心臓リハビリテーションの目的は、第1に、身体的・精神的デコンディショニングの是正(運動耐容能増加)、第2に、冠危険因子是正と二次予防(長期予後改善)、第3に、良質な社会生活援助とQOL(Quality of Life)向上(快適な生活)を目的とし、これを達成するために、多職種チームが医学的評価に基づき、運動療法、患者教育、カウンセリングを実施する。
【0004】
運動療法による心臓リハビリテーションとして、従来からトレッドミルや自転車エルゴメータ等によりモニタ監視下で循環器系に徐々に負荷を与えるモニタリングシステムが提案されている。
【0005】
先行技術文献としては、急性心疾患イベント治療後に被験者の心電図を計測しながら、心電電圧を解析して運動量情報を作成するようにして、人的な医療資源を低減するような心臓リハビリテーション支援情報システムが提案されている(特許文献1参照)。
【0006】
また被験者がエルゴメータのペダルをこぐ際に、自身の身体の揺れが腰部に装着した心電図計測用のインプットボックスに直接伝わりにくいようになされた運転負荷試験システムが提案されている(特許文献2参照)。
【0007】
さらに被験者がエルゴメータを用いて吸気ガス分析を併用した運動負荷試験を行う際、運動耐容能の指標であるAT(Ana erobic Threshold:無酸素性作業閾値又は嫌気性代謝閾値)を安定して算出する運動療法装置も提案されている(特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2016-158711号公報
【文献】特表2016-22112号公報
【文献】特表2018-134294号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、エルゴメータを用いて循環器系に徐々に負荷を与える心臓リハビリテーションにおいては、モニタ監視下であっても、被験者がペダルをこぎながら自分の意思を極力反映させながら心臓に過度な負担がかからないように自然な状態で心臓の機能回復を行うには十分ではなかった。
【0010】
上述の特許文献1では、心電情報及び運動量情報に基づいて被験者の心臓動態を判断するが、単に被験者の行動履歴と心臓状態から心臓への負荷がかかりすぎているか否かを監視しながら判断するにすぎない。
【0011】
また上述の特許文献2も、エルゴメータを用いて被験者の運動負荷中の心電図を測定するものであるが、インプットボックス内でのノイズ重畳を回避して心電図波形の波形品質を向上させるべく、当該インプットボックスを被験者の身体からワイヤレスでエルゴメータ側に設けたにすぎない。
【0012】
さらに上述の特許文献3では、被験者にかかわらず安定した無酸素性作業閾値(AT)を算出するために、ウォーミングアップ期間の経過後のランプ負荷期間において分時酸素摂取量及び分時二酸化炭素排出量を推定するようにしたにすぎない。
【0013】
すなわち上述の特許文献1~3までの記載内容からは、被験者が自分の心臓の状態を意識することなく、自分の意思を可能な限り反映させてペダルをこぎながら安心して心臓リハビリテーションを行うためには実用上十分ではない。
【0014】
本発明は以上の点を考慮してなされたもので、被験者の心臓にかかる負荷を常に最適な 状態で心臓の機能回復のための運動を行い得る心臓リハビリテーション支援装置及びその制御プログラムを提案するものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
かかる課題を解決するため本発明においては、着座状態にある被験者のペダル漕ぎ動作に応じて任意の運動負荷を付与する器具を用いて、心血管疾患治療後における被験者の心臓の機能回復を支援する心臓リハビリテーション支援装置において、器具における被験者が踏み込むペダルが取り付けられたクランクの回転時に運動負荷としての負荷トルクを付与する駆動部と、被験者の下肢部位から生体信号を検出する生体信号検出部と、生体信号検出部により検出された生体信号に基づいて、被験者の意思に従ったクランクの回転トルク及び回転速度を発生させるように駆動部の負荷トルクを随意制御する随意制御部と、クランクの回転角度に基づいて、被験者のペダル漕ぎ動作のアシスト動力を発生させるように駆動部の負荷トルクを自律制御する自律制御部と、被験者の心拍数及び心電図変化を検出する心臓状態検出部と、被験者の脈拍数及び血中酸素飽和度を測定する動脈血測定部と、心臓状態検出部及び動脈血測定部による検出及び測定結果に基づいて、随意制御部による随意制御と自律制御部による自律制御とのハイブリッド率を調整する最適トルク調整部とを備えるようにした。
【0016】
この結果、心臓リハビリテーション支援装置では、被験者が器具のペダル漕ぎ動作に応じた運動負荷を過度に上げることなく、常に当該被験者の心臓の状態に応じて最適な状態に調整しながら心臓の機能回復のための運動を行うことができる。
【0017】
また本発明においては、被験者の呼気ガスに含まれる二酸化炭素濃度を検出する呼気検出部をさらに備え、最適トルク調整部は、心臓状態検出部、動脈血測定部及び呼気検出部による検出及び測定結果に基づいて、随意制御部による随意制御と自律制御部による自律制御とのハイブリッド率を調整するようにした。
【0018】
このように心臓リハビリテーション支援装置では、被験者の呼気ガスに含まれる二酸化炭素濃度の検出結果に基づいて、被験者の嫌気代謝閾値に応じた運動強度の度合いを判断するようにして、被験者の心拍数及び心電図変化の検出結果と、被験者の脈拍数及び血中酸素飽和度の測定結果と併せて、随意制御と自律制御とのハイブリッド率を調整することができる。
【0019】
さらに本発明においては、随意制御部及び自律制御部は、被験者の心拍数が適切な範囲内に常に維持するように、それぞれ駆動部の負荷トルクを制御するようにした。すなわち、心臓リハビリテーション支援装置では、被験者がペダル漕ぎ動作を行いながら、自分の心拍数が適切な範囲を超えそうになった時点で駆動部の負荷トルクを増やすと同時にペダル回転数を下げるように制御する一方、自分の心拍数が適切な範囲を下回りそうになった時点で駆動部の負荷トルクを減らすと同時にクランク回転数を上げるように制御する。この結果、被験者は自ら意識することなく心拍数が極端に上がったり下がったりすることなく、心臓の機能回復のための運動をすることが可能となる。
【0020】
さらに本発明においては、器具に着座状態にある被験者の視界内に設けられ、当該被験者のペダル漕ぎ動作に同期して変遷する映像を表示する同期映像表示部をさらに備えるようにした。この結果、心臓リハビリテーション支援装置では、被験者はペダル漕ぎ動作による運動量(進行状態)を目視により体感しながら、継続的に心臓の機能回復のための運動を前向きな気分で(達成感を味わいながら)行うことが可能となる。
【発明の効果】
【0021】
以上のように本発明によれば、被験者の心臓にかかる負荷を常に最適な状態で心臓の機能回復のための運動を行い得る心臓リハビリテーション支援装置及び心臓リハビリテーション支援方法を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本実施の形態による心臓リハビリテーション支援装置の全体構成を示す略線図である。
【
図2】生体活動検出ユニット及び動作補助ユニットの構成を示すブロック図である。
【
図3】動作補助ユニットの内部構成を示すブロック図である。
【
図4】本実施形態による生体活動検出ユニットの構成を示すブロック図である。
【
図5】他の実施の形態による生体活動検出ユニットの構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面について、本発明の一実施例を詳細する。
【0024】
(1)本実施形態による心臓リハビリテーション支援装置の構成
図1は全体として本実施の形態による心臓リハビリテーション支援装置1を示し、着座状態にある被験者のペダル漕ぎ動作に応じて任意の運動負荷を付与するリカンベント式の自転車エルゴメータ2と、被験者の生体活動を検出する生体活動検出ユニット3と、被験者のペダル漕ぎ動作を補助する動作補助ユニット4とを用いて、心血管疾患治療後における被験者の心臓の機能回復を支援するようになされている。
【0025】
自転車エルゴメータ2は、被験者が着座するためのサドル部5と、被験者による足踏み用のペダル6と、当該ペダル6が取り付けられたクランク7と、被験者のペダル漕ぎ動作に応じてクランク7の回転時に運動負荷としての負荷トルクを付与する駆動部8と、運動負荷や運動時間さらにはクランク7の回転位置及び回転速度を表示する表示部9とを備える。
【0026】
図2に示すように、生体活動検出ユニット3は、被験者の心拍数及び心電図変化を検出する心臓状態検出部10と、被験者の脈拍数及び血中酸素飽和度を測定する動脈血測定部11とを有する。
【0027】
動作補助ユニット4は、被験者の下肢部位から生体信号を検出する生体信号検出部12と、生体信号検出部12により検出された生体信号に基づいて、被験者の意思に従ったクランク7の回転トルク及び回転速度を発生させるように自転車エルゴメータ2の駆動部8の負荷トルクを随意制御する随意制御部13と、クランク7の回転角度に基づいて、被験者のペダル漕ぎ動作のアシスト動力を発生させるように駆動部8の負荷トルクを自律制御する自律制御部14と、生体活動検出ユニット3における心臓状態検出部10及び動脈血測定部11による検出及び測定結果に基づいて、随意制御部13による随意制御と自律制御部14による自律制御とのハイブリッド率を調整する最適トルク調整部15とを有する。
【0028】
また自転車エルゴメータ2の表示部(同期映像表示部)9は、自転車エルゴメータ2に着座状態にある被験者の視界内に設けられ、動作補助ユニット4による制御に応じて、当該被験者のペダル漕ぎ動作に同期して変遷する映像を表示するようになされている。
【0029】
これにより被験者はペダル漕ぎ動作による運動量(進行状態)を目視により体感しながら、継続的に心臓の機能回復のための運動を前向きな気分で(達成感を味わいながら)行うことが可能となる。
【0030】
(2)動作補助ユニットの制御系システム
本実施形態による動作補助ユニット4の制御系システムは、本願発明者による特登4178187号に記載された内容と軌を一にし、かつ同一原理を用いている。
【0031】
図3に示されるように、心臓リハビリテーション支援装置1において、自転車エルゴメータ2は、被験者に対してアシスト力(クランク7に作用する回転トルクを生ずる力)を付与する駆動部
8(
図1)と、当該駆動部
8を駆動する電力増幅部20と、クランク7の回転トルク、回転速度及び回転角度を検出するクランク回転状態検出部21とを備えている。
【0032】
動作補助ユニット4は、クランク7の回転角度に基づいて被験者の各関節(膝関節及び股関節のそれぞれに相当)の角変位θを推定する関節角度推定部22と、被験者が発生する筋力に応じた筋電位(生体信号)を検出する生体信号検出部12(
図1)と、動作補助ユニット4に作用する相対力(ΔF)、すなわち駆動部8の発生する力と被験者の筋力との関係で相対的に定まる力を検出する相対力検出部23を備えている。
【0033】
本実施形態における動作補助ユニット4は、生体信号として例えば上位中枢からの指令信号が脊髄を介して筋表面で電位の形で発生する生体電位信号(BES:Bio-Electrical Signal)を用いてアシスト力を制御する。
【0034】
また動作補助ユニット4は、電力増幅部20を通じて駆動部8を駆動制御する制御装置24を備えている。制御装置24は、駆動トルク推定部25、関節トルク推定部26、筋トルク推定部27、データ入力部28、データ格納部29、キャリブレーション部30、パラメータ同定部31、制御部(上述した随意制御部13、自律制御部14及び最適トルク調整部15を含む)32、データ出力部33、状態定量化部34及び信号処理部35を備えている。
【0035】
駆動トルク推定部25は、駆動部8が発生した駆動トルク(Te)を推定する。例えば、駆動部8に供給される電流値を検出し、この電流値を駆動部8に固有となるトルク定数に乗じることによって駆動トルク(Te)を推定するものを適用することができる。
【0036】
関節トルク推定部26は、相対力検出部23により検出された相対力データ(ΔF)に予め設定された係数を乗じたものと駆動トルク推定データ(Te)との差分から、被験者の各関節回りの関節モーメント(ΔT)を推定する。被験者の脚には、駆動部8の駆動トルク(Te)と被験者の筋トルク(Tm)との合力が関節モーメント(ΔT)として作用するため、被験者はペダル漕ぎ動作をしない場合よりも小さな筋力で脚を動作させることが可能になる。
【0037】
筋トルク推定部27は、駆動トルク推定部25により推定された駆動トルク推定データ(Te)と、関節トルク推定部26により推定された関節モーメント推データ(ΔT)とに基づき、被験者の筋力による筋トルク(Tm)を推定する。なお、筋トルク(Tm)を求めるのは、被験者が筋力を発生している状況下であってもパラメータ同定を可能とするためであり、被験者の動作状態でパラメータ同定を行う場合に有利である。
【0038】
データ入力部28は、動作補助ユニット4における各種検出部からの検出データや各種推定部からの推定データの入力インターフェイスである。データ格納部29には、制御装置24における種々の演算処理を行う上で必要となるデータが格納されている。
【0039】
パラメータ同定部31は、データ格納部29から読み取った運動方程式データ(Mi)及び既知パラメータ(Pk)を用いて対象となる運動方程式を演算環境上に構成し、かつ、当該運動方程式にデータ入力部28からの駆動トルク推定値(Te)、関節トルク推定値(ΔT)、及び関節角度θを代入可能に構成されている。
【0040】
ここで、運動方程式データ(Mi)は、動作補助ユニット4及び被験者からなる系全体の運動方程式を構成するためのものである一方、既知パラメータ(Pk)は、動作補助ユニット4における各部の重量、関節回りの慣性モーメント、粘性係数及びクーロン摩擦係数等の動力学パラメータからなる。
【0041】
パラメータ同定部31は、読み込んだ駆動トルク推定データ(T’)、関節データ(θ)及び関節モーメントデータ(ΔT)、さらには筋トルク(Tm)をも考慮した演算処理を行い、被験者における各部の重量、各関節回りの慣性モーメント、粘性係数、クーロン摩擦係数等の未知なる動力学パラメータ(Pu)を同定し、複数回数(例えば10回)繰り返して平均化して制御部32に送出する。
【0042】
キャリブレーション部30は、推定された筋トルク(Tm)及びデータ入力部28からの筋電位(EMG)の比(Tm/EMG)と、データ格納部29からの所定の設定ゲイン(Gs)とを読み取り、当該設定ゲイン(Gs)が許容可能な誤差範囲(Ea)外である場合には、筋電位データ(EMG)を補正して補正筋電位データ(EMG’)を求め、筋トルク(Tm)及び補正筋電位(EMG’)の比(Tm/EMG’)が設定ゲイン(Gs)と略等しくさせる。
【0043】
この結果、被験者の未知パラメータ(Pu)の同定精度が低下する事態を防止できるとともに、駆動部8が発生するアシスト力が過小或いは過大となる事態をも防止することができる。
【0044】
制御部32は、データ格納部29からの制御方法データ(Ci)、データ入力部28からの駆動トルク推定値(Te)、関節トルク推定値(ΔT)及び関節角度θ、並びにパラメータ同定部31からの同定パラメータ(Pi)及びキャリブレーション部30からの補正された筋電位(EMG’)を読み込み可能に構成されている。
【0045】
また制御部32は、制御方法データ(Ci)を用いて所定の制御手段を演算環境上に構成し、この制御手段に、駆動トルク推定値(Te)、関節トルク推定値(ΔT)、関節角度θ、同定パラメータ(Pi)及び筋電位(EMG’)を反映させることにより、駆動部8を駆動制御するための制御信号Urを送出可能である。
【0046】
データ出力部33は、制御部32からの制御信号Urを電力増幅部20に送出するための出力インターフェイスとなるものである。電力増幅部20は、データ出力部28からの制御信号Urに応じて駆動部8を駆動するものである。
【0047】
さらに動作補助ユニット4は、装置自体がもつ物理的特性、すなわち関節周りの粘弾性やクランク7の慣性による拘束に起因する自然な制御の妨げを解消すべく、インピーダンス調整に基づいてアシスト力を制御するようになされている。すなわち動作補助ユニット4は、関節のパラメータを算出し、駆動部8内のアクチュエータにより慣性モーメント、粘性、弾性を補償することにより、歩行動作におけるアシスト率の向上及び被験者への違和感の軽減を実現する。
【0048】
このように動作補助ユニット4では、ユニット自体に被験者を加えた系全体の特性を変更することにより、被験者の特性を間接的に変更して調節することが可能となる。例えば、系全体の慣性項及び粘性摩擦項の影響を抑えることができるように駆動トルクを調節することにより、被験者が本来有する反射等の機敏な動作を行う能力を最大限に発揮することが可能となる。さらには、被験者自身の慣性項や粘性摩擦項の影響をも抑えることができ、被験者に本来の周期よりも早く歩行させたり、装着前よりも滑らかに(粘性摩擦の小さい)動作をさせることもできる。
【0049】
さらに動作補助ユニット4は、被験者に装着された状態において当該被験者固有の動力学パラメータをパラメータ同定部31により同定し、該同定した動力学パラメータを代入した運動方程式に基づき制御装置24により駆動部8を制御することができるため、被験者の個人差や体調等の変動要因によらず、制御装置24が用いる制御方法に応じた効果を発揮することができる。
【0050】
また筋トルク推定部27により推定された筋トルク(Tm)をも代入した運動方程式に基づき制御装置24により駆動部8を制御することができるため、被験者から筋力が発生している状態においても動力学パラメータを同定することができ、当該動力学パラメータを同定するための待ち時間を被験者に要することなく、上記の効果を発揮することができる。
【0051】
生体信号検出部12により検出された筋電位(EMG)と、筋トルク推定部27により検出された筋トルク(Tm)との相互間のゲインを、予め設定された設定ゲイン(Gs)となるように調整するキャリブレーション部30をさらに備えるため、生体信号検出部12からの検出結果に感度不良や感度過剰が生じる事態を未然に防止することができる。
【0052】
この結果、被験者の動力学パラメータの同定精度が低下する事態を防止できるとともに、駆動部8が発生するアシスト力が過小或いは過大となる事態をも防止することができる。しかも、本実施例の動作補助ユニット4によれば、被験者から筋力が発生している状態においてもキャリブレーションを行うことができ、当該キャリブレーション行うための待ち時間を被験者に要しない。
【0053】
パラメータ同定部31により同定された動力学パラメータを用いた重力補償及び慣性補償の少なくとも何れか一方を制御装置24に適用することができるため、装置自体の重さが被験者に負担となる事態や、動作時において装置自体の慣性が被験者に違和感を与えることを防止することができる。
【0054】
制御装置24において、状態定量化部34は、制御部32から供給される筋電位信号及び神経伝達信号や関節周りの物理量に基づいて、当該関節を中心とする筋骨格系の活動状態及び末梢神経系の伝達状態を定量的な筋骨格系データ及び神経系データに変換する。
【0055】
関節周りの物理量としては、筋骨格に生じる発生筋力、各関節の可動域、可動速度及び反応速度、外乱に対する自律制御特性、クランクの慣性モーメント、質量及び重心のうち少なくとも1以上のパラメータ同定結果、屈筋及び伸筋を含めた関節系のインピーダンス調整結果(摩擦による粘性特性)、電気的な物理量(指令信号)等が含まれる。
【0056】
信号処理部35は、無線通信機能を有し、制御部32から供給される筋骨格系データ及び神経系データを通信ネットワークを介してデータ端末装置(図示せず)に送信する。データ端末装置で管理サーバにて筋骨格系データ及び神経系データを被験者ごとに一括管理しながら、医療診療や治療方法に役立てるようになされている。
【0057】
このように被験者の随意動作を補助する駆動力を駆動部8が与えて、当該駆動部8の駆動状態も筋骨格系データや神経系データに反映させることにより、当該反映結果に基づいて、随意的な制御が被験者の筋骨格系の活動状態や中枢神経系及び末梢神経系の接続状態にどの程度影響を及ぼすかを定量的に評価することが可能となる。
【0058】
なお後述するように、制御部32は、自転車エルゴメータ2の駆動部8の負荷トルクを、被験者の意思に従ったクランク7の回転トルク及び回転速度を発生させるように随意制御するとともに、被験者のペダル漕ぎ動作のアシスト動力を発生させるように自律制御する。そして制御部32は、生体活動検出ユニット3からの出力に基づいて、随意制御と自律制御とのハイブリッド率を調整することにより、被験者の運動負荷を過度に上げることがないように、ペダル漕ぎ動作を制御するようになされている。
【0059】
(3)生体活動検出ユニットの構成
図4に示すように、生体活動検出ユニット3は、被験者の生体情報を検出する手段として、心電図センサ及び呼吸センサとしての複数の生体用電極群40と、SpO2センサとしてのパスルオキシメータ41とを備える。複数の生体用電極群40は、被験者の左右の手首、左の足首及び前胸部に装着され、当該装着部位における被験者の心起電力が電気信号として心電信号生成部42に入力される。
【0060】
パルスオキシメータ41は、赤色光や赤外光を発光して患者の特定部位(指先、つま先等)に透過させ、その透過光(反射光)に基づいて、動脈血の総ヘモグロビンに対する酸化ヘモグロビンの割合を求めるとともに、動脈血の脈拍に同期する吸光度の変化を検出することにより、動脈血酸素飽和度(SpO2値)及び脈拍数を計測する。
【0061】
心拍数計測部43は、心電信号生成部42から得られた心電信号に基づいて、被験者の心電図のQRS波の位置を特定し、特定したQRS波の位置に基づいて被験者の直近数秒間の心拍間隔(R-R間隔)の平均値を算出する。そして心拍数計測部43は、心拍間隔(R-R間隔)の平均値に基づいて、被験者の心拍数を算出し、心拍数を示すデータを生成する。
【0062】
SpO2抽出部44は、パルスオキシメータ41からの出力に基づいて動脈血酸素飽和度の計測結果を示すデータを抽出する。脈拍数抽出部45は、パルスオキシメータ41からの出力に基づいて脈拍数を示すデータを抽出する。
【0063】
波形表示制御部46は、心電信号生成部42から入力された心電信号と、パルスオキシメータ41から入力された出力信号とに同期処理等を含む所定の表示処理を施すことにより、被験者の心電波形及びSpO2波形を表す波形情報を得て、これを自転車エルゴメータ2の表示部9に出力する。
【0064】
このように生体活動検出ユニット3では、心臓状態検出部10としての心電信号生成部42及び心拍数計測部43から得られる被験者の心拍数及び心電図変化と、動脈血測定部11としてのSpO2抽出部44及び脈拍数抽出部45から得られる被験者の脈拍数及び血中酸素飽和度とを、動作補助ユニット4の最適トルク調整部15に入力する。
【0065】
かくして動作補助ユニット4は、被験者の心拍数及び心電図変化、並びに被験者の脈拍数及び血中酸素飽和度に基づいて、随意制御と自律制御とのハイブリッド率を調整することができる。
【0066】
(4)本実施の形態による動作
以上の構成において、本実施の形態による心臓リハビリテーション支援装置1では、被験者が自転車エルゴメータ2を用いて着座状態にてペダル漕ぎ動作を行いながら、動作補助ユニット4は、被験者の意思に従ったクランク7の回転トルク及び回転速度を発生させるように駆動部8の負荷トルクを随意制御するとともに、クランク7の回転角度に基づいて、被験者のペダル漕ぎ動作のアシスト動力を発生させるように駆動部8の負荷トルクを自律制御する。
【0067】
その際、動作補助ユニット4は、生体活動検出ユニット3から得られる被験者の心拍数及び心電図変化、並びに被験者の脈拍数及び血中酸素飽和度に基づいて、駆動部8の負荷トルクに対して随意制御と自律制御とのハイブリッド率を調整することにより、被験者が自転車エルゴメータ2のペダル漕ぎ動作に応じた運動負荷を過度に上げることなく、常に当該被験者の心臓の状態に応じて最適な状態に調整しながら心臓の機能回復のための運動を行うことができる。
【0068】
また動作補助ユニット4は、被験者の心拍数が適切な範囲内に常に維持するように、駆動部8の負荷トルクを随意制御と随意制御とでそれぞれ制御することにより、被験者がペダル漕ぎ動作を行いながら、自分の心拍数が適切な範囲を超えそうになった時点で駆動部8の負荷トルクを増やすと同時にペダル回転数を下げるように制御する一方、自分の心拍数が適切な範囲を下回りそうになった時点で駆動部の負荷トルクを減らすと同時にクランク回転数を上げるように制御することできる。
【0069】
この結果、被験者は自ら意識することなく心拍数が極端に上がったり下がったりすることなく、心臓の機能回復のための運動をすることが可能となる。
【0070】
(5)他の実施の形態
なお上述の実施の形態においては、生体活動検出ユニット3を
図4に示す構成のものを適用した場合について述べたが、本発明はこれに限らず、被験者の呼気ガスに含まれる二酸化炭素濃度を検出して、当該検出結果を随意制御と自律制御とのハイブリッド率の調整に加えるようにしても良い。
【0071】
図5において、生体活動検出ユニット50は、被験者の呼吸数を検出するための呼吸信号生成部51及び呼吸数計測部52を有するとともに、被験者の一呼吸ごとの呼気ガスに含まれる二酸化炭素濃度を検出する呼気検出部53を有する。
【0072】
呼吸信号生成部51は、前胸部の左右に装着された生体用電極群40間に微弱な高周波電流を通電し、それらの電位差を計測し、当該計測結果に基づいて被験者の胸郭の動きを胸郭のインピーダンスの変化としての呼吸信号を生成する。
【0073】
呼吸数計測部52は、呼吸信号生成部51から得られた呼吸信号に基づいて、被験者の呼吸数を計測し、呼吸数を示すデータを生成する。波形表示制御部46は、呼吸信号生成部51から入力された呼吸信号に同期処理等を含む所定の表示処理を施すことにより、被験者の呼吸波形を表す波形情報を得て、これを自転車エルゴメータ2の表示部9に出力する。
【0074】
呼気検出部53は、被験者が加えるマウスピース54を通じて被験者の呼吸気を流すための流路に赤外線を出射する発光部55と、当該発光部55が出射した赤外線を受光する受光部56とからなるガスセンサ57と、当該ガスセンサ57から出力される電気信号に基づいて、被験者の呼気ガスに含まれる二酸化炭素濃度を計測する計測部58とを有する。
【0075】
一般に、被験者が運動強度を徐々に上げていくような運動をした場合に、筋肉への酸素供給が十分に足りている状態から不足が生じる状態に移行する変化点である嫌気代謝閾値(AT:anaerobic threshold )を基準にその運動強度の度合いを判断する。すなわち嫌気代謝閾値は、酸素が十分に足りているという意味で有酸素運動の上限の運動強度に相当し、また酸素摂取量の増加に対して二酸化炭素排出量の増加が上回るなどの生理学的な変化点と一致している。
【0076】
このように心臓リハビリテーション支援装置1では、生体活動検出ユニット50は、被験者の呼気ガスに含まれる二酸化炭素を検出することにより、動作補助ユニット4は、被験者の嫌気代謝閾値に応じた運動強度の度合いを判断して、被験者の心拍数及び心電図変化、並びに被験者の脈拍数及び血中酸素飽和度と併せて、随意制御と自律制御とのハイブリッド率を調整する。
【0077】
かくして心臓リハビリテーション支援装置1では、被験者が自転車エルゴメータ2のペダル漕ぎ動作に応じた運動負荷を過度に上げることなく、常に当該被験者の心臓の状態に応じて最適な状態に調整しながら心臓の機能回復のための運動を行うことができる。
【0078】
さらに本実施の形態においては、被験者に任意の運動負荷を付与する器具として、
図1に示すような自転車エルゴメータを適用した場合について述べたが、本発明はこれに限らず、被験者の運動によって心血管疾患治療後における被験者の心臓の機能回復を支援することが可能であれば、リカンベント式以外にも、ステーショナリー式やエリプティカル(クロストレーナー)式の自転車エルゴメータでもよく、さらにはローイングマシンやトレッドミルを適用するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0079】
1…心臓リハビリテーション支援装置、2…自転車エルゴメータ、3、50…生体活動検出ユニット、4…動作補助ユニット、5…サドル部、6…ペダル、7…クランク、8…駆動部、9…表示部、10…心臓状態検出部、11…動脈血測定部、12…生体信号検出部、13…随意制御部、14…自律制御部、15…最適トルク調整部、20…電力増幅部、21…クランク回転状態検出部、22…関節角度推定部、23…相対力検出部、24…制御装置、25…駆動トルク推定部、26…関節トルク推定部、27…筋トルク推定部、28…データ入力部、29…データ格納部、30…キャリブレーション部、31…パラメータ同定部、32…制御部、33…データ出力部、34…状態定量化部、35…信号処理部、40…生体用電極、41…パルスオキシメータ、42…心電信号生成部、43…心拍数計測部、44…SpO2抽出部、45…脈拍数抽出部、46…波形表示制御部、51…呼吸信号生成部、52…呼吸数計測部、53…呼気検出部、54…マウスピース、55…発光部、56…受光部、57…ガスセンサ、58…計測部。