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  • 特許-半導体素子の過渡熱抵抗測定用電源回路 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-22
(45)【発行日】2022-12-01
(54)【発明の名称】半導体素子の過渡熱抵抗測定用電源回路
(51)【国際特許分類】
   H02M 7/48 20070101AFI20221124BHJP
【FI】
H02M7/48 F
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2019022601
(22)【出願日】2019-02-12
(65)【公開番号】P2020129947
(43)【公開日】2020-08-27
【審査請求日】2022-01-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000144393
【氏名又は名称】株式会社三社電機製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000970
【氏名又は名称】弁理士法人 楓国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西村 直樹
(72)【発明者】
【氏名】深井 真志
【審査官】麻生 哲朗
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2016/0301303(US,A1)
【文献】特開2016-149867(JP,A)
【文献】特開2010-049523(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 7/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
変圧器の一次側に設けられPWM信号で制御されるインバータ回路と、前記変圧器の二次側に設けられ直流リアクトルを含む整流回路と、前記整流回路から被測定対象半導体素子にパルス電流を出力するように前記PWM信号を制御する制御回路とを備え、
前記制御回路は、前記パルス電流の立ち上がり時の第1PWM周波数を、前記パルス電流をオンしてから所定時間t1経過後の第2PWM周波数よりも高く設定して前記被測定対象半導体素子の過渡熱抵抗を測定可能とすることを特徴とする半導体素子の過渡熱抵抗測定用電源回路。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、インバータ回路を備え、変圧器二次側に接続された整流回路からパルス状の出力電流を半導体素子に印加し、その状態で前記半導体素子の過渡熱抵抗を測定する、過渡熱抵抗測定用電源回路に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体回路の設計においては、半導体素子に瞬間的な電力を印加したときの温度上昇を予測することが必要な場合があるが、この温度上昇の予測のために素子の特性の一つである過渡熱抵抗を用いる。この過渡熱抵抗は、特に大きな電力が加わるパワー半導体素子において必要な特性とされる。
【0003】
過渡熱抵抗は、横軸をパルス状出力電流の通電時間、縦軸を過渡熱抵抗とするグラフにプロットすることで表わされ、所定のパルス幅の出力電流を得られる電源装置を用意すれば測定可能と考えられる。このような電源装置では、パルス幅を例えば数ms~1000sの短時間~長時間に制御することが必要となることから、スイッチング素子をPWM信号でスイッチングするインバータ回路を含む構成となる。
【0004】
しかし、被測定対象の半導体素子が数10A~100A以上を流すパワー半導体素子の場合は、ジャンクション温度が急激に上昇するため、電流の立ち上がりが緩やかであると、立ち上がり時の特に数ms~数10msの付近の過渡熱抵抗計測の精度が悪くなる問題がある。この問題を解決するには、PWM信号の周波数を高く設定して電流の立ち上がりを急峻にすればよい。ところが、PWM信号の周波数を高くすれば、半導体素子に数100s~1000s以上の長時間に亘って大電流を流すときに、インバータ回路のスイッチング素子の損失が無視できない程度に大きくなり、電源回路全体の熱的な問題が生じる。
【0005】
このような問題があるため、被測定素子の半導体素子にパルス電流を印加して過渡熱抵抗を測定することは実際上困難であり、従来は、半導体素子の電流オン直後の過渡時の等価回路等に基づいて、所定の計算式により過渡熱抵抗を推定していた(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2013-84666号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記先行公報は、計算式を使って過渡熱抵抗を推定するものであるため、精度が良くない問題がある。
【0008】
そこで、この発明は、上記過渡熱抵抗を高精度に求めることができ、且つ、パルス幅が長い場合にもインバータ回路の熱損失が大きくならない、半導体素子の過渡熱抵抗測定用電源回路を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明の過渡熱抵抗測定用電源回路は、変圧器の一次側に設けられPWM信号で制御されるインバータ回路と、前記変圧器の二次側に設けられ直流リアクトルを含む整流回路と、前記整流回路から被測定対象半導体素子にパルス電流を出力するように前記PWM信号を制御する制御回路とを備え、
前記制御回路は、前記パルス電流の立ち上がり時の第1PWM周波数を、前記パルス電流をオンしてから所定時間t1経過後の第2PWM周波数よりも高く設定して前記被測定対象半導体素子の過渡熱抵抗を測定可能とすることを特徴とする。
【0010】
前記第1PWM周波数は、第2周波数に対して2~5倍程度に設定される。例えば、前記第2PWM周波数が25kHzの場合、第1PWM周波数は100kHzに設定される。第1PWM周波数に設定される所定時間t1は、出力電流が立ち上がり、その過渡期間を過ぎて一定値に達するまでの数msの時間である。
【0011】
出力電流が一定値に達した後は、PWM周波数がより低い第2PWM周波数に切り替えられる。
【0012】
このような制御により、パルス電流の立ち上がりが早くなるため過渡熱抵抗を高精度に求めることができ、また、パルス電流の立ち上がり時のみPWM周波数が高いため、インバータ回路の熱損失を抑えることができる。
【発明の効果】
【0013】
この発明によれば、被測定対象の半導体素子に出力されるパルス電流の立ち上がりが早くなるため、素子の過渡熱抵抗を高精度に求めることができ、且つ、立ち上がり後のPWM周波数が低下するためインバータ回路部の熱損失が大きくならない
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の実施形態のインバータ制御式直流電源の回路ブロック図を示す。
図2】上記直流電源の出力電流波形を示す。
図3】PWM周波数をパルス幅全体で第2周波数f2に設定した場合の出力電流Ioと出力電圧Voの波形図(A)と、立ち上がり時を第1周波数f1に設定し、その後第2周波数f2に設定した場合の出力電流Ioと出力電圧Voの波形図(B)を示す。
図4】インバータ回路4のスイッチング素子のジャンクション温度の変化を示すシミュレーション結果。
図5】上記シミュレーション結果を得るための式を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1は、本発明の実施形態のインバータ制御式直流電源の回路ブロック図である。図2は、出力電流Ioの波形図である。
【0016】
このインバータ制御式直流電源には、被測定対象の半導体素子1が負荷として接続される。
【0017】
AC商用電源は整流器2でDC化され、平滑回路3で平滑されてからインバータ回路4に入力する。インバータ出力は変圧器5で変圧されて整流器6で整流され、直流リアクトルを含む平滑回路7で平滑されて被測定対象半導体素子1に出力される。インバータ回路4は、複数個の半導体スイッチング素子を例えばブリッジ接続して構成される。出力電流Ioは電流センサ10で検出され、制御回路8にフィードバックされ、図2に示すようなパルス状の出力電流Ioが被測定対象半導体素子1に出力される。被測定対象半導体素子1では、上記パルス状の電流がオン電流として供給されるときの過渡熱抵抗の測定を行う。具体的には、オン状態の半導体素子1にパルス状の上記出力電流Ioを印加してから、コレクターエミッタ間等のジャンクション電圧の変化等を通電時間毎に測定し、所定の式から過渡熱抵抗を求める。このとき、パルスの立ち上がりが早ければ早いほど、求める過渡熱抵抗の精度が上がる。過渡熱抵抗は図2より以下の式で求めることができる。
【0018】
θth={t(Tx)-t(T1)}[℃]/P[w]
={t(Tx)-t(T1)}/{I×Von}
P:被測定対象半導体素子の損失
I:被測定対象半導体素子の通電電流
Von:通電電流での半導体素子のオン電圧
Tx:経過時間(通電時間)
なお、出力電流Ioが定電流制御されることで、半導体素子1には負荷抵抗を接続しなくても良い。
【0019】
制御回路8は、インバータ4の半導体スイッチング素子をスイッチングするためのPWM信号を生成し、平滑回路7からの出力電流Ioが目標電流値となるようにPWM信号の周波数(PWM周波数)を制御する。
【0020】
図1に示すように、制御回路8は、目標電流値を設定して、出力電流Ioがその目標電流値になるようにPWM周波数を設定する。次のように構成される。
【0021】
目標電流値設定部80は、今回制御タイミングで制御しようとする出力電流Ioの目標電流値(今回目標電流値)を設定する。前回目標電流値設定部81は、前回制御タイミングで制御していた出力電流Ioの目標電流値(前回目標電流値)を設定する。比較器82は、今回目標電流値と前回目標電流値の差分を出力cとする。電流の立ち上がりタイミングでは今回目標電流値がIとなり、前回目標電流値はI(-1)(=ゼロ)となる。このとき、比較器82の出力(差分出力)cが立ち上がる。キャリア制御部83は、上記の出力cの値に基づいてキャリア周波数の設定を行い、キャリア発生部84は、設定されたキャリア周波数のキャリアを生成する。キャリアとは、鋸歯状波の高周波信号である。電流指令値設定部85は、今回目標電流値と電流センサ10で検出した出力電流Ioの誤差を求め、その誤差がゼロとなるように電流指令値を設定する。比較器86は、この電流指令値とキャリア発生部84で発生したキャリアとを比較して、PWM信号がオンとなる区間を求め、PWM信号発生部87は、この比較器出力に基づいてPWM信号を出力する。このときのPWM周波数は上記キャリア周波数に一致する。
【0022】
次に、制御回路8の動作を説明する。
【0023】
制御タイミングがT1になるまでは、目標電流値設定部80に設定されている今回目標電流値と前回目標電流値設定部81に設定されている前回目標電流値とは、両方ともゼロとなっている。比較器82の出力cはゼロであるため、キャリア制御部83ではキャリア周波数がゼロとなり、PWM信号発生部87からPWM信号は発生しない。
【0024】
制御タイミングがT1になると、目標電流値設定部80では、今回目標電流値がIに設定される。前回目標電流値I(-1)はゼロであるため、比較器82の出力cが立ち上がり、キャリア制御部83では、キャリア周波数が第1周波数f1に設定される。第1周波数f1は、ここでは100kHzである。キャリア発生部84でf1のキャリアが発生し、PWM信号発生部87からは、第1周波数f1のPWM信号が発生してインバータ回路4に供給される。T1では、第1周波数f1は100kHzの高い周波数であるため、出力電流Ioの立ち上がりは早くなる。
【0025】
制御タイミングが、所定の時間t1である5msが経過したT2になると、キャリア制御部83は、キャリア周波数をより低い第2周波数f2に設定する。5msは、第1周波数f1による制御により、出力電流Ioが立ち上がって目標電流値Iになるまでの時間として設定され、予め実験的に求められる。この時間t1は、出力電流Ioが大きいほど長くなるが、通常は数ms~10ms程度の範囲である。第2周波数f2は、より低い周波数の25kHzである。すると、PWM信号発生部87で発生するPWM信号もf2となり、インバータ回路4に供給されるPWM信号の周波数は25kHzの第2周波数f2となる。T2以降は、第2周波数f2は25kHzの低い周波数であるため、t2が数100s~1000s程度の長い期間であっても、インバータ回路4のスイッチング損失が過大となることはない。
【0026】
被測定対象半導体素子1は、オンにされている状態で、上記のように制御されて 出力されるパルス状の出力電流Ioが印加される。そして、通電時間毎の半導体素子1のジャンクション電圧の変化などが測定され、それらの測定値から同素子1の過渡熱抵抗が求められる。
【0027】
なお、T1、T1-1、T2の時刻は予め設定され、目標電流値設定部80やキャリア制御部83で記憶されている。
【0028】
このような制御により、被測定対象半導体素子1に出力される出力電流Ioは、その立ち上がりが早くなり、且つ、インバータ回路4のT2以降のスイッチング損失が大きくならないため、過渡熱抵抗の精度を高くでき、且つ、インバータ回路4の熱損失を小さくできる。
【0029】
図3(A)は、PWM周波数をパルス幅全体で第2周波数f2に設定した場合の出力電流Ioと出力電圧Voの波形図、図3(B)は、立ち上がり時を第1周波数f1に設定し、その後第2周波数f2に設定した場合の出力電流Ioと出力電圧Voの波形図を示している。図3(A)では、出力電流Ioの立ち上がりが緩やかであり、図3(B)では、出力電流Ioの立ち上がりが早くなっていることが分かる。
【0030】
また、図4は、インバータ回路4のスイッチング素子のジャンクション温度の変化を示すシミュレーション結果である。図5は、上記シミュレーション結果を得るための式を示している。図4は、周囲温度を25度、インバータ回路4の使用半導体数を8として上記図5の式により求めたものである。
【0031】
図4では、
1)パルス出力電流幅(1000S)全体を第1PWM周波数100kHzに固定
2)パルス出力電流幅(1000S)全体を第2PWM周波数25kHzに固定
3)パルス出力電流の立ち上がり時を第1PWM周波数100kHzで、5ms後から第2PWM周波数25kHzに設定
の3つの変化を示している。
【0032】
上記3)では、ジャンクション温度は、出力電流Ioの立ち上がりから5ms経過までは、1)と同じ変化を示し、5ms経過後に低下し、その後の変化は、2)と同じ変化となっていることが分かる。
【0033】
したがって、3)の制御を行うことにより、出力電流Ioの立ち上がりを早くすることができ、且つ、インバータ回路全体の発熱量は2)の場合と同様に抑えられる。
【符号の説明】
【0037】
f1-第1PWM周波数
f2-第2PWM周波数
図1
図2
図3
図4
図5