(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-22
(45)【発行日】2022-12-01
(54)【発明の名称】スピーカー用振動体及びスピーカー装置
(51)【国際特許分類】
H04R 7/14 20060101AFI20221124BHJP
H04R 9/02 20060101ALI20221124BHJP
H04R 7/18 20060101ALI20221124BHJP
H04R 7/22 20060101ALI20221124BHJP
H04R 9/04 20060101ALI20221124BHJP
【FI】
H04R7/14 Z
H04R9/02 103Z
H04R9/02 A
H04R7/18
H04R7/22
H04R9/04 105B
(21)【出願番号】P 2019036562
(22)【出願日】2019-02-28
【審査請求日】2021-09-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000194918
【氏名又は名称】ホシデン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104569
【氏名又は名称】大西 正夫
(72)【発明者】
【氏名】長岡 聡史
【審査官】辻 勇貴
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-229300(JP,A)
【文献】特開2001-224095(JP,A)
【文献】米国特許第09014412(US,B2)
【文献】中国特許出願公開第107666642(CN,A)
【文献】仏国実用新案証公開第02866777(FR,A3)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04R 7/00-9/10
9/18
31/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コイルボビンと、
前記コイルボビンに取り付けられたボイスコイルと、
一枚の薄板で構成された振動体本体とを備えており、
前記振動体本体は、被固定部、ダンパー部、エッジ部及び振動部を有しており、
前記被固定部は、前記薄板の前記コイルボビンが第1方向の一方側から固定される部分であり、前記第1方向は、前記ボイスコイルの軸方向であり、
前記ダンパー部は、前記薄板の前記被固定部に対して内側の部分で構成されており、 前記振動部は、前記薄板の前記被固定部に対して外側の部分で構成されており、前記内側は、前記薄板の中心側であり、前記外側は、前記薄板の反中心側であり、
前記エッジ部は、前記薄板の前記振動部よりも前記外側の部分で構成されており且つ前記薄板の外周部を有して
おり、
前記振動部及び前記エッジ部は、前記第1方向の他方側から見て略環状の第1湾曲部を有しており、前記第1湾曲部は、前記第1方向の断面視において前記第1方向の一方側又は前記第1方向の他方側に凸の一対の略円弧形状を有しており、
前記ダンパー部は、前記第1方向の他方側から見て略環状の第2湾曲部を有しており、前記第2湾曲部は、前記第1方向の断面視において前記第1方向の一方側又は前記第1方向の他方側に凸の一対の略円弧形状を有しており、
前記第1湾曲部のばね定数と前記第2湾曲部のばね定数とが相違する一方で、前記第1湾曲部の振動系重量と前記第2湾曲部の振動系重量とが略一致しているスピーカー用振動体。
【請求項2】
コイルボビンと、
前記コイルボビンに取り付けられたボイスコイルと、
一枚の薄板で構成された振動体本体とを備えており、
前記振動体本体は、被固定部、ダンパー部、エッジ部及び振動部を有しており、
前記被固定部は、前記薄板の前記コイルボビンが第1方向の一方側から固定される部分であり、前記第1方向は、前記ボイスコイルの軸方向であり、
前記ダンパー部は、前記薄板の前記被固定部に対して内側の部分で構成されており、 前記振動部は、前記薄板の前記被固定部に対して外側の部分で構成されており、前記内側は、前記薄板の中心側であり、前記外側は、前記薄板の反中心側であり、
前記エッジ部は、前記薄板の前記振動部よりも前記外側の部分で構成されており且つ前記薄板の外周部を有しており、
前記振動部及び前記エッジ部は、前記第1方向の他方側から見て略環状の第1湾曲部を有しており、前記第1湾曲部は、前記第1方向の断面視において前記第1方向の一方側又は前記第1方向の他方側に凸の一対の略円弧形状を有しており、
前記第1湾曲部は、略環状の第1内周端、略環状の第1外周端及び略環状の第1頂部を有しており、前記第1頂部は、前記第1内周端と前記第1外周端との間で、前記第1内周端から前記第1外周端までの直線距離の第1中間地点に対して前記外側に位置しているスピーカー用振動体。
【請求項3】
請求項2記載のスピーカー用振動体において、
前記ダンパー部は、前記第1方向の他方側から見て略環状の第2湾曲部を有しており、前記第2湾曲部は、前記第1方向の断面視において前記第1方向の一方側又は前記第1方向の他方側に凸の一対の略円弧形状を有しているスピーカー用振動体。
【請求項4】
請求項
1又は3記載のスピーカー用振動体において、
前記第1湾曲部の前記一対の略円弧形状と前記第2湾曲部の前記一対の略円弧形状とは、前記第1方向において互いに逆向きに凸であり、
前記第1湾曲部は、略環状の第1頂部と、前記第1頂部よりも内側の部分と、前記第1頂部よりも外側の部分とを有しており、前記第1湾曲部の前記内側の部分は、前記第1湾曲部の前記外側の部分よりも緩やかに湾曲しており、
前記第2湾曲部は、略環状の第2頂部と、前記第2頂部よりも内側の部分と、前記第2頂部よりも外側の部分とを有しており、前記第2湾曲部の前記外側の部分は、前記第2湾曲部の前記内側の部分よりも緩やかに湾曲しているスピーカー用振動体。
【請求項5】
コイルボビンと、
前記コイルボビンに取り付けられたボイスコイルと、
一枚の薄板で構成された振動体本体とを備えており、
前記振動体本体は、被固定部、ダンパー部、エッジ部及び振動部を有しており、
前記被固定部は、前記薄板の前記コイルボビンが第1方向の一方側から固定される部分であり、前記第1方向は、前記ボイスコイルの軸方向であり、
前記ダンパー部は、前記薄板の前記被固定部に対して内側の部分で構成されており、 前記振動部は、前記薄板の前記被固定部に対して外側の部分で構成されており、前記内側は、前記薄板の中心側であり、前記外側は、前記薄板の反中心側であり、
前記エッジ部は、前記薄板の前記振動部よりも前記外側の部分で構成されており且つ前記薄板の外周部を有しており、
前記ダンパー部は、前記第1方向の他方側から見て略環状の第2湾曲部を有しており、前記第2湾曲部は、前記第1方向の断面視において前記第1方向の一方側又は前記第1方向の他方側に凸の一対の略円弧形状を有しており、
前記第2湾曲部は、略環状の第2内周端、略環状の第2外周端及び略環状の第2頂部を有しており、前記第2頂部は、前記第2内周端と前記第2外周端との間で、前記第2内周端から前記第2外周端までの直線距離の第2中間地点に対して前記内側に位置しているスピーカー用振動体。
【請求項6】
コイルボビンと、
前記コイルボビンに取り付けられたボイスコイルと、
一枚の薄板で構成された振動体本体とを備えており、
前記振動体本体は、被固定部、ダンパー部、エッジ部及び振動部を有しており、
前記被固定部は、前記薄板の前記コイルボビンが第1方向の一方側から固定される部分であり、前記第1方向は、前記ボイスコイルの軸方向であり、
前記ダンパー部は、前記薄板の前記被固定部に対して内側の部分で構成されており、 前記振動部は、前記薄板の前記被固定部に対して外側の部分で構成されており、前記内側は、前記薄板の中心側であり、前記外側は、前記薄板の反中心側であり、
前記エッジ部は、前記薄板の前記振動部よりも前記外側の部分で構成されており且つ前記薄板の外周部を有しており、
前記振動部及び前記エッジ部は、前記第1方向の他方側から見て略環状の第1湾曲部を有しており、前記第1湾曲部は、前記第1方向の断面視において前記第1方向の一方側又は前記第1方向の他方側に凸の一対の略円弧形状を有しており、
前記ダンパー部は、前記第1方向の他方側から見て略環状の第2湾曲部を有しており、前記第2湾曲部は、前記第1方向の断面視において前記第1方向の一方側又は前記第1方向の他方側に凸の一対の略円弧形状を有しており、
前記第1湾曲部は、略環状の第1内周端、略環状の第1外周端及び略環状の第1頂部を有しており、前記第1頂部は、前記第1内周端と前記第1外周端との間で、前記第1内周端から前記第1外周端までの直線距離の第1中間地点に対して前記外側に位置しており、
前記第2湾曲部は、略環状の第2内周端、略環状の第2外周端及び略環状の第2頂部を有しており、前記第2頂部は、前記第2内周端と前記第2外周端との間で、前記第2内周端から前記第2外周端までの直線距離の第2中間地点に対して前記内側に位置しており、
前記第1内周端から前記第1外周端まで延びる第1仮想線と、前記第1頂部から前記第1方向に延びた第2仮想線とが交差する交点が第1交点であり、
前記第2内周端から前記第2外周端まで延びる第3仮想線と、前記第2頂部から前記第1方向に延びた第4仮想線とが交差する交点が第2交点であり、
前記第1内周端から前記第1交点までの直線距離を第1距離とし、前記第1交点から前記第1外周端までの直線距離を第2距離とし、前記第2内周端から前記第2交点までの直線距離を第3距離とし、前記第2交点から前記第2外周端までの直線距離を第4距離とした場合、
前記第1距離:前記第2距離≒前記第4距離:前記第3距離であるスピーカー用振動体。
【請求項7】
請求項
6記載のスピーカー用振動体において、
前記第1距離:前記第2距離=略5.5:4.5~略8:2であり、前記第4距離:前記第3距離=略5.5:4.5~略8:2であるスピーカー用振動体。
【請求項8】
請求項
1、3、6又は7記載のスピーカー用振動体において、
前記第1湾曲部の前記一対の略円弧形状と前記第2湾曲部の前記一対の略円弧形状とは、前記第1方向において互いに逆向きに凸であるスピーカー用振動体。
【請求項9】
請求項
6又は7記載のスピーカー用振動体において、
前記第1湾曲部は、前記第1頂部よりも内側の部分と、前記第1頂部よりも外側の部分とを有しており、前記第1湾曲部の前記内側の部分は、前記第1湾曲部の前記外側の部分よりも緩やかに湾曲しており、
前記第2湾曲部は、前記第2頂部よりも内側の部分と、前記第2頂部よりも外側の部分とを有しており、前記第2湾曲部の前記外側の部分は、前記第2湾曲部の前記内側の部分よりも緩やかに湾曲しているスピーカー用振動体。
【請求項10】
請求項
1~9の何れかに記載のスピーカー用振動体において、
前記振動体本体よりも高い硬度を有するドーム部を更に備えており、
前記被固定部は、前記第1方向の一方側の第1面と、前記第1方向の他方側の第2面とを有しており、
前記被固定部の前記第1面に前記コイルボビンが固定されており、
前記被固定部の前記第2面に前記ドーム部が固定されており且つ前記第1方向の他方側で前記ダンパー部を覆うスピーカー用振動体。
【請求項11】
請求項1~9の何れかに記載のスピーカー用振動体
と、
前記スピーカー用振動体の前記ボイスコイルが挿入された磁気ギャップを有する磁気回路と、
前記スピーカー用振動体の前記振動体本体の前記ダンパー部が固定されたダンパー台と、
前記スピーカー用振動体の前記振動体本体の前記エッジ部の前記外周部が固定されたフレームとを備えているスピーカー装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スピーカー用振動体及びスピーカー装置に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、従来のスピーカー用振動体が記載されている。この振動体は、コア材と、スキン材と、筒状のコイルボビンと、ボイスコイルとを備えている。コア材は、熱硬化性樹脂が含浸した線布であって、コア材の内周部であるダンパー部と、コア材の外周部であるエッジ部と、中間部とを有している。スキン材は、コア材の中間部の上下面に貼り付けられたアルミニウム箔などである。コイルボビンは、ダンパー部の外周端に固定されている。ボイスコイルは、コイルボビンに巻き回されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来のスピーカー用振動体は、コア材にスキン材が貼り付けられた構成となっているため、部品点数が多い。
【0005】
本発明は、部品点数を低減できるスピーカー用振動体及びスピーカー装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明の一態様のスピーカー用振動体は、コイルボビンと、コイルボビンに取り付けられたボイスコイルと、一枚の薄板で構成された振動体本体とを備えている。振動体本体は、被固定部、ダンパー部、エッジ部及び振動部を有している。被固定部は、薄板のコイルボビンが第1方向の一方側から固定される部分である。第1方向は、ボイスコイルの軸方向である。ダンパー部は、薄板の被固定部よりも内側の部分で構成されている。振動部は、薄板の被固定部よりも外側の部分で構成されている。内側は、薄板の中心側であり、外側は、薄板の反中心側である。エッジ部は、薄板の振動部よりも外側の部分で構成され且つ薄板の外周部を有している。
【0007】
このような態様のスピーカー用振動体による場合、振動体本体の被固定部、ダンパー部、エッジ部及び振動部が一枚の薄板で構成されているので、部品点数の低減を図ることができる。
【0008】
振動部及びエッジ部は、第1方向の他方側から見て略環状の第1湾曲部を有する構成、及び/又は、ダンパー部は、第1方向の他方側から見て略環状の第2湾曲部を有する構成とすることが可能である。第1湾曲部は、第1方向の断面視において第1方向の一方側又は第1方向の他方側に凸の一対の略円弧形状を有する構成とすることが可能である。第2湾曲部は、第1方向の断面視において第1方向の一方側又は第1方向の他方側に凸の一対の略円弧形状を有する構成とすることが可能である。
【0009】
振動部及びエッジ部が第1湾曲部を有し、且つダンパー部が第2湾曲部を有する場合、第1湾曲部のばね定数と第2湾曲部のばね定数とが相違する一方で、第1湾曲部の振動系重量と第2湾曲部の振動系重量とが略一致していても良い。
【0010】
このような態様のスピーカー用振動体による場合、第1湾曲部のばね定数と第2湾曲部のばね定数とが相違しているが、第1湾曲部の振動系重量と第2湾曲部の振動系重量とが略一致しているので、スピーカー用振動体が振動するときに、第1湾曲部の共振周波数と第2湾曲部の共振周波数とが一致しない。このように第1湾曲部の共振周波数と第2湾曲部の共振周波数とが分散されているので、第1湾曲部及び第2湾曲部が一致した共振周波数で異常振動、つまり、スピーカー用振動体にローリング現象が発生する可能性が低減される。
【0011】
振動部及びエッジ部が第1湾曲部を有し、且つダンパー部が第2湾曲部を有する場合、第1湾曲部の一対の略円弧形状と第2湾曲部の一対の略円弧形状とは、第1方向において互いに逆向きに凸とすることが可能である。
【0012】
このような態様のスピーカー用振動体は、第1方向に振動するとき、当該ピーカー用振動体の第1方向の一方側の振幅と当該ピーカー用振動体の第1方向の他方側の振幅との対称性が向上する。
【0013】
第1湾曲部は、略環状の第1内周端、略環状の第1外周端及び略環状の第1頂部を有する構成とすることが可能である。第1頂部は、第1内周端と第1外周端との間で、第1内周端から第1外周端までの直線距離の第1中間地点に対して外側に位置した構成とすることが可能である。
【0014】
第2湾曲部は、略環状の第2内周端、略環状の第2外周端及び略環状の第2頂部を有する構成とすることが可能である。第2頂部は、第2内周端と第2外周端との間で、第2内周端から第2外周端までの直線距離の第2中間地点に対して内側に位置した構成とすることが可能である。
【0015】
第1湾曲部の一対の略円弧形状と第2湾曲部の一対の略円弧形状とが、第1方向において互いに逆向きに凸であり、第1湾曲部の第1頂部が第1中間地点に対して外側に位置し、且つ第2湾曲部の第2頂部が第2中間地点に対して内側に位置した構成とすることが可能である。
【0016】
このような態様のスピーカー用振動体による場合、第1湾曲部の第1頂部が中間地点よりも外側に位置し且つ第2湾曲部の第2頂部が中間地点よりも内側に位置しているため、第1湾曲部の第1頂部よりも内側の部分の第1方向に直交する方向の寸法が大きくなり、第1湾曲部の第1頂部よりも外側の部分の第1方向に直交する方向の寸法が小さくなり、第2湾曲部の第2頂部よりも外側の部分の第1方向に直交する方向の寸法が大きくなり、第2湾曲部の第2頂部よりも内側の部分の第1方向に直交する方向の寸法が小さくなる。このため、第1湾曲部及び第2湾曲部は、以下の通り弾性変形する。
スピーカー用振動体の振動時において、第1湾曲部が凸である方向に振幅変位し、第2湾曲部が同方向に振幅変位すると、第1湾曲部の内側の部分が外側の部分よりも大きく弾性変形する一方で、第2湾曲部の内側の部分が外側の部分よりも大きく弾性変形する。このとき、第1湾曲部の内側の部分は、上記寸法が大きく、直線に近い形状に弾性変形するため、振動体本体の中心保持力が弱くなるが、第2湾曲部の内側の部分は、上記寸法が小さく、その湾曲が小さくなるように弾性変形するため、振動体本体の中心保持力が強くなる。このように振動体本体の中心保持力は、第1湾曲部の弾性変形によって低下するものの、第2湾曲部の弾性変形によって向上するため、振動体本体としての中心保持力の低下が抑制される。
スピーカー用振動体の振動時において、第2湾曲部が凸である方向に振幅変位し、第1湾曲部が同方向に振幅変位すると、第2湾曲部の外側の部分が内側の部分よりも大きく弾性変形する一方で、第1湾曲部の外側の部分が内側の部分よりも大きく弾性変形する。このとき、第2湾曲部の外側の部分は、上記寸法が大きく、直線に近い形状に弾性変形するため、振動体本体の中心保持力が弱くなるが、第1湾曲部の外側の部分は、上記寸法が小さく、その湾曲が小さくなるように弾性変形するため、振動体本体の中心保持力が強くなる。このように振動体本体の中心保持力は、第2湾曲部の弾性変形によって低下するものの、第1湾曲部の弾性変形によって向上するため、振動体本体としての中心保持力の低下が抑制される。
上記双方の場合において、振動体本体の中心保持力の低下が抑制されているので、振動時に、コイルボビン及びボイスコイルが第1方向(凸となる方向及びその反対方向)以外の方向に移動することが抑制され、その結果としてスピーカー用振動体にローリング現象が発生する可能性が低減される。
【0017】
第1内周端から第1外周端まで延びる第1仮想線と、第1頂部から第1方向に延びた第2仮想線とが交差する交点が第1交点とすることが可能である。第2内周端から第2外周端まで延びる第3仮想線と、第2頂部から第1方向に延びた第4仮想線とが交差する交点が第2交点とすることが可能である。第1内周端から第1交点までの直線距離を第1距離とし、第1交点から第1外周端までの直線距離を第2距離とし、第2内周端から第2交点までの直線距離を第3距離とし、第2交点から第2外周端までの直線距離を第4距離とすることが可能である。この場合、第1距離:第2距離≒第4距離:第3距離とすることが可能である。
【0018】
このような態様のスピーカー用振動体による場合、スピーカー用振動体の振動時において、コイルボビン及びボイスコイルをより第1方向に沿ってより往復移動させ易くなるため、スピーカー用振動体にローリング現象が発生する可能性が低減される。
【0019】
なお、第1距離:第2距離=略5.5:4.5~略8:2とすることが可能である。第4距離:第3距離=略5.5:4.5~略8:2とすることが可能である。
【0020】
第1湾曲部は、略環状の第1頂部と、第1頂部よりも内側の部分と、第1頂部よりも外側の部分とを有しており、第1湾曲部の内側の部分が、第1湾曲部の外側の部分よりも緩やかに湾曲した構成とすることが可能である。第2湾曲部は、略環状の第2頂部と、第2頂部よりも内側の部分と、第2頂部よりも外側の部分とを有しており、第2湾曲部の外側の部分が、第2湾曲部の内側の部分よりも緩やかに湾曲した構成とすることが可能である。
【0021】
上記した何れかの態様のスピーカー用振動体は、振動体本体よりも高い硬度を有するドーム部を更に備えた構成とすることが可能である。被固定部は、ボイスコイルの軸方向である第1方向の一方側の第1面と、第1方向の他方側の第2面とを有する構成とすることが可能である。被固定部の第1面にコイルボビンが固定された構成とすることが可能である。被固定部の第2面にドーム部が固定されており且つ第1方向の他方側でダンパー部を覆う構成とすることが可能である。
【0022】
このような態様のスピーカー用振動体による場合、ドーム部が振動体本体よりも高い硬度を有し、ドーム部の分割共振周波数が振動体本体の分割共振周波数よりも高くなるので、スピーカー用振動体が高音を出力し易くなる。
【0023】
本発明の一態様のスピーカー装置は、上記した何れかの態様のスピーカー用振動体と、スピーカー用振動体のボイスコイルが挿入された磁気ギャップを有する磁気回路と、スピーカー用振動体の振動体本体のダンパー部が固定されたダンパー台と、スピーカー用振動体の振動体本体のエッジ部の外周部が固定されたフレームとを備えている。このような態様のスピーカー装置による場合、スピーカー用振動体にローリング現象が発生する可能性が低減される。なぜなら、スピーカー用振動体のダンパー部がダンパー台に固定され、且つスピーカー用振動体のエッジ部の外周部がフレームに固定されているからである。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1A】本発明の実施例1に係るスピーカー装置の正面、平面及び右側面から表した斜視図である。
【
図1B】前記スピーカー装置の背面、底面及び右側面から表した斜視図である。
【
図2A】前記スピーカー装置の
図1A中の2A-2A断面図である。
【
図2B】前記スピーカー装置の
図1A中の2B-2B断面図である。
【
図3A】前記スピーカー装置の正面、平面及び右側面から表した分解斜視図である。
【
図3B】前記スピーカー装置の背面、底面及び右側面から表した分解斜視図である。
【
図4A】前記スピーカー装置のスピーカー用振動体の
図3A中の4A-4A断面図である。
【
図4B】前記スピーカー用振動体の
図3A中の4B-4B断面図である。
【
図5】前記実施例1のスピーカー用振動体の第1設計変型例の
図4Aに対応する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の複数の実施例について説明する。なお、後述する実施例及び設計変更例の各要素は、互いに矛盾しない限り、相互に組み合わせることが可能であることに留意されたい。
【実施例1】
【0026】
以下、本発明の実施例1を含む複数の実施例に係るスピーカー装置S(以下、単にスピーカーSとも称する。)ついて、
図1A~
図5を参照しつつ説明する。
図1A~
図4Bには、実施例1のスピーカーSが示されている。
図5には、実施例1のスピーカーSの第1設計変型例が示されている。
なお、
図3A~
図4B及び
図5には、特許請求の範囲の第1方向に相当するZ-Z’方向が示されている。Z-Z’方向は、特許請求の範囲の第1方向の一方に相当するZ方向と、特許請求の範囲の第1方向の他方に相当するZ’方向を含む。Z方向は、スピーカーSの音声放射方向に相当し、Z’方向は、音声放射方向の反対方向に相当する。
図3A~
図3B、
図4A及び
図5には、X-X’方向が、
図3A~
図3B及び
図4Bには、Y-Y’方向が示されている。X-X’方向及びY-Y’方向は、Z-Z’方向に略直交している。
【0027】
スピーカーSは、スピーカー用振動体100(以下、単に振動体100とも称する。)を備えている。振動体100は、振動体本体110と、コイルボビン120と、ボイスコイル130とを備えている。
【0028】
コイルボビン120は、略筒状(円筒状又は多角筒状)である。ボイスコイル130は、コイルボビン120の外周面に巻き回され、取り付けられている。なお、Z-Z’方向は、コイルボビン120の軸方向にも相当している。
【0029】
振動体本体110は、金属箔、紙、織布、不織布、フィルムなどで構成された一枚の薄板で構成されている。フィルムは、例えば、ポリエチレン(PE)やポリプロピレン(PP)等のポリオレフィン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂やポリエチレンナフタレート(PEN)樹脂等のポリエステル系樹脂、ポリイミド(PI)、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)又はポリエーテルイミド(PEI)等の合成樹脂で構成されている。
【0030】
振動体本体110は、ダンパー部111、被固定部112、振動部113及びエッジ部114を有している。被固定部112は、一枚の薄板のコイルボビン120の形に対応した略環状(円環状又は多角環状)部であって、Z’方向側の第1面及びZ方向側の第2面を有している。被固定部112の第1面にコイルボビン120がZ’方向側から接着剤や両面テープ等で固定されている。ダンパー部111は、Z方向側から見て略環状(円環状又は多角環状)であって、一枚の薄板の被固定部112に対して内側の部分で構成されている。
図1A~
図4Bでは、ダンパー部111は、一枚の薄板の被固定部112より内側の内周部で構成されている。ダンパー部111は内周端を有する。振動部113は、一枚の薄板の被固定部112に対して外側の部分で構成されている。エッジ部114は、振動部113に連接されたフィックスドエッジであって、一枚の薄板の振動部113に対して外側の部分で構成されている。エッジ部114は、一枚の薄板の外周部114aを有している。なお、本発明における「内側」は、一枚の薄板の中心側及び/又はコイルボビン120の軸側を意味し、「外側」は、一枚の薄板の反中心側及び/又はコイルボビン120の反軸側を意味するものとする。
【0031】
振動部113及びエッジ部114は、Z方向側から見て略環状(円環状又は多角環状)の第1湾曲部R1を有する構成とすることが可能である。第1湾曲部R1は、Z方向側又はZ’方向側に凸となるように湾曲している。第1湾曲部R1は、Z-Z’方向の断面視においてZ方向側又はZ’方向側に凸である一対の略円弧形状を有している。この一対の略円弧形状は、コイルボビン120の軸に対して対称に位置し且つ対称形状をなしていると良いが、これに限定されるものではない。
【0032】
エッジ部114の外周部114aは、第1湾曲部R1から半径方向に延びたフラットなリング状とすることが可能である。
【0033】
ダンパー部111は、Z方向側から見て略環状(円環状又は多角環状)の第2湾曲部R2を有する構成とすることが可能である。第2湾曲部R2は、Z方向側又はZ’方向側に凸となるように湾曲している。第2湾曲部R2は、Z-Z’方向の断面視においてZ方向側又はZ’方向側に凸の一対の略円弧形状を有している。この一対の略円弧形状は、コイルボビン120の軸に対して対称に位置し且つ対称形状をなしているが、これに限定されるものではない。
【0034】
第2湾曲部R2の第2内周端R21は、
図1~
図4Bに示すようにダンパー部111の内周端であっても良いが、これに限定されるものではない。例えば、第2湾曲部R2の第2内周端R21からダンパー部111の内周部が内側に延びた構成とすることも可能である。
【0035】
第1湾曲部R1の一対の略円弧形状と、第2湾曲部R2の一対の略円弧形状とは、Z-Z’方向において互いに逆向きに凸であっても良い。
図1~
図4Bにでは、第1湾曲部R1の一対の略円弧形状は、Z方向側に凸であり、第2湾曲部R2の一対の略円弧形状は、Z’方向に凸であるが、その逆でも良い。
【0036】
第1湾曲部R1は、第1内周端R11と、第1外周端R12と、第1頂部R13を有している。第1内周端R11と第1外周端R12とは、
図1~
図4Bに示すようにZ-Z’方向において同じ高さに位置していても良いし、第1外周端R12が第1内周端R11に対してZ方向側又はZ’方向側に位置していても良い。第1頂部R13は、第1内周端R11と第1外周端R12の間で、第1内周端R11及び第1外周端R12に対して、Z方向側又はZ’方向側に位置している。第1頂部R13は、
図4A~
図4Bに最も良く示されるように、第1内周端R11から第1外周端R12までの直線距離の第1中間地点P1に対して外側に位置した構成とすることが可能である。この場合、第1湾曲部R1の第1頂部R13よりも内側の部分が、第1湾曲部R1の第1頂部R13よりも外側の部分よりも緩やかに湾曲している。以下、第1湾曲部R1の第1頂部R13よりも内側の部分を、第1湾曲部R1の内側の部分と称し、第1湾曲部R1の第1頂部R13よりも外側の部分を、第1湾曲部R1の
外側の部分と称する。
【0037】
第2湾曲部R2は、第2内周端R21と、第2外周端R22と、第2頂部R23を有している。第2内周端R21と第2外周端R22とは、
図1~
図4Bに示すようにZ-Z’方向において同じ高さに位置していても良いし、第2外周端R22が第2内周端R21に対してZ方向側又はZ’方向側に位置していても良い。第2頂部R23は、第2内周端R21と第2外周端R22の間で、第2内周端R21及び第2外周端R22に対して、Z方向側又はZ’方向側に位置している。第2頂部R23は、
図4A~
図4Bに最も良く示されるように、第2内周端R21から第2外周端R22までの直線距離の第2中間地点P2に対して内側に位置した構成とすることが可能である。この場合、第2湾曲部R2の第2頂部R23よりも外側の部分が、第2湾曲部R2の第2頂部R23よりも内側の部分よりも緩やかに湾曲している。以下、第2湾曲部R2の第2頂部R23よりも内側の部分を、第2湾曲部R2の内側の部分と称し、第2湾曲部R2の第2頂部R23よりも外側の部分を、第2湾曲部R2の外側の部分と称する。
【0038】
ここで、第1内周端R11から第1外周端R12まで延びる第1仮想線と、第1頂部R13からZ-Z’方向に延びた第2仮想線とが交差する交点が第1交点O1とし、第2内周端R21から第2外周端R22まで延びる第3仮想線と、第2頂部R23からZ-Z’方向に延びた第4仮想線とが交差する交点が第2交点O2とする。
第1内周端R11から第1交点O1までの直線距離を第1距離D1とし、第1交点O1から第1外周端R12までの直線距離を第2距離D2とし、第2内周端R21から第2交点O2までの直線距離を第3距離D3とし、第2交点O2から第2外周端R22までの直線距離を第4距離D4とする。
【0039】
第1頂部R13が第1中間地点P1に対して外側に位置している場合、第1距離D1と第2距離D2との関係は、第1距離D1>第2距離D2とすることが好ましく、第1距離D1:第2距離D2=略5.5:4.5~略8:2とすることがより好ましく、第1距離D1:第2距離D2=略7:3とすることが更に好ましい。これらの何れの態様でも、第1湾曲部R1の内側の部分のZ-Z’方向に直交する方向の寸法が大きくなり、当該内側の部分の湾曲が緩やかになる一方で、第1湾曲部R1の外側の部分のZ-Z’方向に直交する方向の寸法が小さくなり、当該外側の部分の湾曲が急になる。
第2頂部R23が第2中間地点P2に対して外側に位置している場合、第4距離D4と第3距離D3との関係は、第4距離D4>第3距離D3とすることが好ましく、第4距離D4:第3距離D3=略5.5:4.5~略8:2とすることがより好ましく、第4距離D4:第3距離D3=略7:3とすることが更に好ましい。これらの何れの態様でも、第2湾曲部R2の外側の部分のZ-Z’方向に直交する方向の寸法が大きくなり、当該外側の部分の湾曲が緩やかになる一方、第2湾曲部R2の内側の部分のZ-Z’方向に直交する方向の寸法が小さくなり、当該内側の部分の湾曲が急になる。
第1距離D1:第2距離D2≒第4距離D4:第3距離D3に設定しても良いが、これに限定されるものではない。なお、本発明において、第1距離D1:第2距離D2≒第4距離D4:第3距離D3は、第1距離D1:第2距離D2=第4距離D4:第3距離D3を含むものとする。
【0040】
上記した何れかの態様の第1湾曲部R1及び第2湾曲部R2には、コルゲーションが設けられていても良い。第1湾曲部R1にコルゲーションが設けられている場合、第1湾曲部R1の一対の略円弧形状には、コルゲーションの凹部及び/又は凸部が設けられている。第2湾曲部R2にコルゲーションが設けられている場合、第2湾曲部R2の一対の略円弧形状には、コルゲーションの凹部及び/又は凸部が設けられている。このように本発明における「略円弧形状」とは、円弧形状だけでなく、円弧形状にコルゲーションの凹部及び/又は凸部が形成されたものも含む。なお、
図2A、
図2B、
図4A及び
図4Bの第1湾曲部R1のZ’方向側の面に表れるコルゲーション及び第2湾曲部R2のZ方向側の面に表れるコルゲーションは、図示簡略化のため、図示省略されていることに留意されたい。
【0041】
上記した何れかの態様の第1湾曲部R1のばね定数と、上記した何れかの態様の第2湾曲部R2のばね定数とが相違する一方で、上記した何れかの態様の第1湾曲部R1の振動
系重量と、上記した何れかの態様の第2湾曲部R2の振動系重量とが略一致していると良い。例えば、第1湾曲部R1のR部分の全部又は一部の形状を、第2湾曲部R2の全部又は一部の形状と相違させることによって、両者の振動系重量を略一致させたまま、両者のばね定数を相違させることができる。
【0042】
上記した何れかの態様の第1湾曲部R1の第1頂部R13は、第1中間地点P1に対して外側に位置しておらず、第1中間地点P1に対してZ方向側又はZ’方向側に配置された構成とすることも可能である。この場合も、第1湾曲部R1の内側の部分が、第1湾曲部R1の外側の部分よりも緩やかに湾曲した構成とすることが可能であるが、これに限定されない。上記した何れかの態様の第2湾曲部R2の第2頂部R23は、第2中間地点P2に対して外側に位置しておらず、第2中間地点P2に対してZ方向側又はZ’方向側に配置された構成とすることも可能である。この場合も、第2湾曲部R2の外側の部分が、第2湾曲部R2の内側の部分よりも緩やかに湾曲した構成とすることが可能であるが、これに限定されない。
【0043】
上記した何れかの態様の第1湾曲部R1の一対の略円弧形状と、上記した何れかの態様の第2湾曲部R2の一対の略円弧形状とは、Z-Z’方向において同じ方向に凸であっても良い。第1湾曲部R1の一対の略円弧形状及び第2湾曲部R2の一対の略円弧形状は、
図5に示すようにZ方向に凸であっても良いし、Z’方向に凸であっても良い。
【0044】
なお、上記した何れかの態様の第1湾曲部R1及び/又は第2湾曲部R2は省略可能である。第1湾曲部R1が省略される場合、振動部113及びエッジ部114は、被固定部112から外側に延びたフラットな形状とすることが可能である。第2湾曲部R2が省略される場合、ダンパー部111は、被固定部112から内側に延びたフラットな形状とすることが可能である。
【0045】
振動体100は、Z方向側に凸のドーム状のドーム部140を更に備えていても良い。ドーム部140は、振動体本体110と同様の素材で構成可能である。ドーム部140の硬度は、振動体本体110の硬度よりも高い。例えば、ドーム部140の厚みを、振動体本体110の厚みよりも大きくすることによって、ドーム部140の硬度は、振動体本体110の硬度よりも高くすることが可能であり、ドーム部140の厚みを75μmとし、振動体本体110の厚みを30μmとすることが可能である。なお、ドーム部140の厚みは、振動体本体110の厚みと同じ又は薄くすることも可能である。
【0046】
ドーム部140は、外周部を有している。ドーム部140の外周部が上記した何れかの態様の振動体本体110の被固定部112の第2面に接着剤や両面テープ等で固定され且つ
ドーム部140がZ方向側で当該振動体本体110のダンパー部111を覆っている。なお、ダンパー部111がZ-Z’方向の断面視においてZ方向側凸の一対の略円弧形状を有する第2湾曲部R2を有している場合、ドーム部140の高さは第2湾曲部R2に干渉しない高さとすると良い(
図5参照)。
【0047】
スピーカーSは、磁気回路200を更に備えている。磁気回路200は、磁気ギャップGを有している。磁気回路200は、
図2A及び
図2Bに最もよく示すように、永久磁石210、ヨーク220(継鉄)及びポールピース230を有している。
ヨーク220は、有底の略筒(円筒状又は多角筒)であって、底部と、この底部の外周端からZ-Z’方向に立ち上がった略筒状(円筒状又は多角筒状)の側壁とを有する構成とすることが可能である。この場合、永久磁石210は、ヨーク220の底部上に配置されている。ポールピース230は、永久磁石210上に載置され且つヨーク220内に配置されている。永久磁石210及びポールピース230とヨーク220の側壁との間、又はポールピース230とヨーク220の側壁との間に、略筒状(円筒状又は多角筒状)の磁気ギャップGが形成されている。
又は、ヨーク220が、底部と、この底部の中央部からZ方向に延びたセンターポールとを有する構成とすることが可能である。この場合、略筒状(円筒状又は多角筒状)の永久磁石210及びポールピース230が、センターポールの周りに同心状に配置されている。永久磁石210及びポールピース230とヨーク220のセンターポールとの間、又はポールピース230とヨーク220のセンターポールとの間に、略筒状(円筒状又は多角筒状)の磁気ギャップGが形成されている。
何れの場合も、磁気回路200の磁気ギャップG内に上記した何れかの態様の振動体100のコイルボビン120及びボイスコイル130がZ方向側から挿入されている。ボイスコイル130に音声電流が供給されると、当該音声電流と磁気ギャップGの磁束との相互作用によってボイスコイル130が電磁力を受ける。すなわち、当該電磁力がボイスコイル130に対してZ-Z’方向の駆動力が作用し、これにより振動体100をZ-Z’方向に振動させるようになっている。この振動体100のZ-Z’方向の振動によって、振動体本体110のZ方向(音声放射方向)に振幅変位と、振動体本体110のZ’方向(音声放射方向の反対方向)に振幅変位と繰り返す。
【0048】
スピーカーSは、フレーム300を更に備えている。フレーム300は、合成樹脂などで構成されている。フレーム300には、Z方向に開口した収容凹部310が設けられている。この収容凹部310に、上記した何れかの態様の振動体100が収容されている。収容凹部310の底部には、略筒状(円筒状又は多角筒状)の支持部311がZ方向に延びている。支持部311に、上記した何れかの態様の振動体100のエッジ部114の外周部114aが固定されている。
【0049】
収容凹部310の底部の中央部には、収容凹部310に連通する収容孔320が設けられている。この収容孔320内に磁気回路200が収容保持されている。この収容孔320内の磁気回路200の磁気ギャップG内に、上記した何れかの態様の振動体100のコイルボビン120及びボイスコイル130が配置されている。なお、
図1A~
図4Bでは、収容孔320は、収容凹部310の底部の中央部をZ-Z’方向に貫通する貫通孔であるが、Z方向に開口した有底孔とすることが可能である。
【0050】
フレーム300は、外部接続用の一対の端子500を保持する構成とすることが可能である。この場合、一対の端子500には、振動体100のボイスコイル130から引き出された一対のリード線が接続されていると良い。一対の端子500は、省略可能である。この場合、一対のリード線を外部接続部として使用すれば良い。
【0051】
スピーカーSは、ダンパー台400を更に備えている。ダンパー台400は、合成樹脂などで構成された円柱又は多角柱である。ダンパー台400は、磁気回路200のポールピース230又はセンターポールと別体であって、磁気回路200のポールピース230又はセンターポール上に固定されていても良いし、磁気回路200のポールピース230又はセンターポールと一体形状であっても良い。何れの場合も、ダンパー台400は、上記した何れかの態様のダンパー部111の内周端に固定され、当該ダンパー部111を支持している。
【0052】
スピーカーSは、図示しないバッフルを更に備えていても良い。バッフルは、Z方向側から収容凹部310を覆うようにフレーム300に取り付けられている。この場合、バッフルとフレーム300の支持部311との間で、上記した何れかの態様の振動体100のエッジ部114の外周部114aが挟持される構成とすることが可能である。なお、バッフルは省略可能である。
【0053】
上記した何れかの態様のスピーカーS及び振動体100は、以下の技術的特徴及び効果を奏する。
第1に、振動体100の振動体本体110のダンパー部111、被固定部112、振動部113及びエッジ部114が上記一枚の薄板で構成されているので、スピーカーS及び振動体100の部品点数の低減を図ることができる。
【0054】
第2に、振動体100が振動するとき、振動体100が、ボイスコイル130の駆動方向であるZ-Z’方向に対して略垂直な方向又は斜め方向に振動するローリング現象が振動体100に発生する可能性が低減される。その理由は以下の通りである。
(1)振動体100のダンパー部111がダンパー台400に固定され、且つ振動体100のエッジ部114の外周部114aがフレーム300に固定されている。換言すると、振動体100は、ダンパー部111及びエッジ部114の二箇所で固定されているため、振動体100にローリング現象が発生する可能性が低減される。
(2)また、第1湾曲部R1のばね定数と第2湾曲部R2のばね定数とが相違している一方で、第1湾曲部R1の振動系重量と第2湾曲部R2の振動系重量とが略一致している場合、振動体100が振動するときに、第1湾曲部R1の共振周波数と第2湾曲部R2の共振周波数とが一致しない。このように第1湾曲部R1の共振周波数と第2湾曲部R2の共振周波数とが分散されているので、第1湾曲部R1及び第2湾曲部R2が一致した共振周波数で異常振動、つまり、振動体100にローリング現象が発生する可能性が低減される。
(3)更に、第1湾曲部R1の一対の略円弧形状がZ方向(音声放射方向)に凸であり、第2湾曲部R2の一対の略円弧形状がZ’方向(音声放射方向の反対方向)に凸であり、第1湾曲部R1の第1頂部R13が第1中間地点P1に対して外側に位置し、且つ第2湾曲部R2の第2頂部R23が第2中間地点P2に対して内側に位置した構成である場合、第1湾曲部R1及び第2湾曲部R2は以下の通り弾性変形する。
振動体本体110がZ方向に振幅変位した場合、第1湾曲部R1がZ方向(凸である方向)に振幅変位し、第2湾曲部R2が同方向に振幅変位する。このとき、第1湾曲部R1の内側の部分が外側の部分に比べて大きく弾性変形する一方で、第2湾曲部R2の内側の部分が外側の部分に比べて大きく弾性変形する。より具体的には、第1湾曲部R1の内側の部分は、そのZ-Z’方向に直交する方向の寸法が大きい及び/又は緩やかに湾曲しており、直線に近い形状に弾性変形するため、振動体本体110の中心保持力が弱くなるが、第2湾曲部R2の内側の部分は、そのZ-Z’方向に直交する方向の寸法が小さい及び/又は急に湾曲しており、その湾曲が小さくなるように弾性変形するため、振動体本体110の中心保持力が強くなる。このように振動体本体110の中心保持力は、第1湾曲部R1の弾性変形によって低下するものの、第2湾曲部R2の弾性変形によって向上するため、振動体本体110としての中心保持力の低下が抑制される。
振動体本体110がZ’方向に振幅変位した場合、第2湾曲部R2がZ’方向(凸である方向)に振幅変位し、第1湾曲部R1が同方向に振幅変位する。このとき、第2湾曲部R2の外側の部分が内側の部分よりも大きく弾性変形する一方で、第1湾曲部R1の外側の部分が内側の部分よりも大きく弾性変形する。より具体的には、第2湾曲部R2の外側の部分は、そのZ-Z’方向に直交する方向の寸法が大きい及び/又は緩やかに湾曲しており、直線に近い形状に弾性変形するため、振動体本体110の中心保持力が弱くなるが、第1湾曲部R1の外側の部分は、そのZ-Z’方向に直交する方向の寸法が小さい及び/又は急に湾曲しており、その湾曲が小さくなるように弾性変形するため、振動体本体110の中心保持力が強くなる。このように振動体本体110の中心保持力は、第1湾曲部R1の弾性変形によって低下するものの、第2湾曲部R2の弾性変形によって向上するため、振動体本体110としての中心保持力の低下が抑制される。
振動体本体110がZ方向及びZ’方向に振幅変位する双方の場合において、振動体本体110の中心保持力の低下が抑制されているので、コイルボビン120及びボイスコイル130がZ-Z’方向(コイルボビン120及びボイスコイル130の中心軸方向)以外の方向に移動することが抑制され、その結果としてスピーカー用振動体100にローリング現象が発生する可能性が低減される。
なお、第1湾曲部R1の一対の略円弧形状がZ’方向に凸であり、第2湾曲部R2の一対の略円弧形状がZ方向に凸であり、第1湾曲部R1の第1頂部R13が第1中間地点P1に対して外側に位置し、且つ第2湾曲部R2の第2頂部R23が第2中間地点P2に対して内側に位置した構成である場合も、上記と同様に、スピーカー用振動体100にローリング現象が発生する可能性が低減される。
(4)第1湾曲部R1の一対の略円弧形状と、第2湾曲部R2の一対の略円弧形状とは、Z-Z’方向において同じ方向に凸であり、第1湾曲部R1の第1頂部R13が第1中間地点P1に対して外側に位置し、且つ第2湾曲部R2の第2頂部R23が第2中間地点P2に対して内側に位置した構成である場合、第1湾曲部R1の共振周波数と第2湾曲部R2の共振周波数は異なるため、振動体100にローリング現象が発生する可能性が低減される。
【0055】
第3に、振動部113及びエッジ部114が第1湾曲部R1を有し、且つダンパー部111が第2湾曲部R2を有し、第1湾曲部R1の一対の略円弧形状と第2湾曲部R2の一対の略円弧形状とは、Z-Z’方向において互いに逆向きに凸である場合、振動体100が振動するとき、当該振動体100のZ方向側の振幅と当該振動体100のZ’方向側の振幅との対称性が向上する。なぜなら、第1湾曲部R1及び第2湾曲部R2は、その凸である方向に動き易く、その反対方向に動き難いため、第1湾曲部R1の一対の略円弧形状と第2湾曲部R2の一対の略円弧形状とは、Z-Z’方向において互いに逆向きに凸とすることによって、振動体100のZ方向側の振幅とZ’方向側の振幅との対称性を向上させることができる。
【0056】
第4に、振動体100がドーム部140を有する場合、ドーム部140が振動体本体110よりも高い硬度を有し、ドーム部140の分割共振周波数が振動体本体110の分割共振周波数よりも高くなるので、振動体100が高音を出力し易くなる。
【0057】
第5に、スピーカーSのZ-Z’方向の寸法の低減を図ることができる。振動体100のダンパー部111が、コイルボビン120内でダンパー台400に固定されているからである。換言すると、コイルボビン120内のデッドスペースが、ダンパー部111の固定領域として利用されているからである。
【0058】
なお、上記したスピーカー用振動体及びスピーカー装置は、上記実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲の記載範囲において任意に設計変更することが可能である。
【0059】
上記実施例の各態様及び設計変形例におけるスピーカー用振動体及びスピーカー装置の各構成要素を構成する素材、形状、寸法、数及び配置等はその一例を説明したものであって、同様の機能を実現し得る限り任意に設計変更することが可能である。
【符号の説明】
【0060】
S:スピーカー装置
100:スピーカー用振動体
110:振動体本体
111:ダンパー部
112:被固定部
113:振動部
114:エッジ部
114a:外周部
R1:第1湾曲部
R11:第1内周端
R12:第1外周端
R13:第1頂部
R2:第2湾曲部
R21:第2内周端
R22:第2外周端
R23:第2頂部
120:コイルボビン
130:ボイスコイル
140:ドーム部
200:磁気回路
210:永久磁石
220:ヨーク
230:ポールピース
G:磁気ギャップ
300:フレーム
310:収容凹部
311:支持部
320:収容孔
400:ダンパー台
500:端子