(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-22
(45)【発行日】2022-12-01
(54)【発明の名称】分析装置
(51)【国際特許分類】
G01N 35/04 20060101AFI20221124BHJP
【FI】
G01N35/04 A
(21)【出願番号】P 2019067555
(22)【出願日】2019-03-29
【審査請求日】2021-11-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000166247
【氏名又は名称】古野電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】冨永 義樹
(72)【発明者】
【氏名】小松 真也
【審査官】岡村 典子
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-162719(JP,A)
【文献】特開2000-258433(JP,A)
【文献】特開平06-258327(JP,A)
【文献】実開平04-075964(JP,U)
【文献】特開平09-080055(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 35/00-35/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
キュベットの列を環状に配置させたキュベットテーブルと、
前記キュベットの列を環状方向に繰り返し間欠回転させる駆動部と、
前記間欠回転の間に測光位置を通過する各キュベットに光を照射して、当該測光位置を通過する各キュベットの被照射領域からの出射光を測光する測光部と、
前記測光された測光データに基づいて、前記キュベットの収容物を分析する分析部と、
前記各キュベットの前記被照射領域の中で、前記キュベットの前記通過に伴う前記出射光の変化量が所定変化量以下である前記キュベットの領域を、前記各キュベットのそれぞれの測定可能領域として検出する測定可能領域検出部と、
前記各キュベットの測定可能領域に含まれる第1基準ポイントが前記測光位置を通過する時点をそれぞれ、前記各キュベットでの前記分析に用いる分析対象領域を特定するための基準タイミングとして設定する基準タイミング設定部と、
前記キュベットテーブルに設けられ、前記各キュベットに対応して配置された個々のスリットからなるスリットドグと、
前記スリットを検知するセンサと、
を備え
、
前記センサが前記各スリットの第1端を検知したときに、当該スリットに対応する前記キュベットの前記第1基準ポイントが前記測光位置に位置する、分析装置。
【請求項2】
キュベットの列を環状に配置させたキュベットテーブルと、
前記キュベットの列を環状方向に繰り返し間欠回転させる駆動部と、
前記間欠回転の間に測光位置を通過する各キュベットに光を照射して、当該測光位置を通過する各キュベットの被照射領域からの出射光を測光する測光部と、
前記測光された測光データに基づいて、前記キュベットの収容物を分析する分析部と、
前記各キュベットの前記被照射領域の中で、前記キュベットの前記通過に伴う前記出射光の変化量が所定変化量以下である前記キュベットの領域を、前記各キュベットのそれぞれの測定可能領域として検出する測定可能領域検出部と、
前記各キュベットの測定可能領域に含まれる第1基準ポイントが前記測光位置を通過する時点をそれぞれ、前記各キュベットでの前記分析に用いる分析対象領域を特定するための基準タイミングとして設定する基準タイミング設定部と、
前記キュベットテーブルに設けられ、前記各キュベットに対応して配置された個々のスリットからなるスリットドグと、
前記スリットを検知するセンサと、
を備え
、
前記測定可能領域検出部は、前記各キュベットの前記被照射領域の中で、前記キュベットの前記通過に伴う前記出射光の変化量が所定変化量を超え、前記測定可能領域よりも前記キュベットの移動方向の上流側にある前記キュベットの領域を、前記各キュベットのそれぞれの測定可能外領域として検出し、
前記基準タイミング設定部は、前記各キュベットの前記測定可能外領域に含まれる第2基準ポイントが前記測光位置を通過する時点をそれぞれ、前記各キュベットで前記測光データの記憶を開始する記憶開始タイミングとして特定し、当該記憶開始タイミングから所定期間の前記測光データを記憶部に記憶させ、
前記センサが前記各スリットの第2端を検知したときに、当該スリットに対応する前記キュベットの前記第2基準ポイントが前記測光位置に位置する、分析装置。
【請求項3】
キュベットの列を環状に配置させたキュベットテーブルと、
前記キュベットの列を環状方向に繰り返し間欠回転させる駆動部と、
前記間欠回転の間に測光位置を通過する各キュベットに光を照射して、当該測光位置を通過する各キュベットの被照射領域からの出射光を測光する測光部と、
前記測光された測光データに基づいて、前記キュベットの収容物を分析する分析部と、
前記各キュベットの前記被照射領域の中で、前記キュベットの前記通過に伴う前記出射光の変化量が所定変化量以下である前記キュベットの領域を、前記各キュベットのそれぞれの測定可能領域として検出する測定可能領域検出部と、
前記各キュベットの測定可能領域に含まれる第1基準ポイントが前記測光位置を通過する時点をそれぞれ、前記各キュベットでの前記分析に用いる分析対象領域を特定するための基準タイミングとして設定する基準タイミング設定部と、
を備え
、
前記各キュベットの前記第1基準ポイントには、前記出射光の強度または波長を、前記測定可能領域における他の領域と異ならせる部材が設けられている、分析装置。
【請求項4】
前記キュベットは、検体および試薬を収容して反応させるキュベットであり、
前記分析部は、前記間欠回転毎に、前記各キュベットの前記分析対象領域における複数の測光ポイントについて前記検体および前記試薬の反応液を分析する、
請求項1
乃至請求項3のいずれかに記載の分析装置。
【請求項5】
前記第1基準ポイントは、前記キュベットの前記環状方向の中間領域に位置している、
請求項1
乃至請求項
4のいずれかに記載の分析装置。
【請求項6】
前記第1基準ポイントは、前記キュベットの前記環状方向の中点に位置している、
請求項1乃至請求項
5のいずれかに記載の分析装置。
【請求項7】
前記測定可能領域検出部は、前記各キュベットの前記被照射領域の中で、前記キュベットの前記通過に伴う前記出射光の変化量が所定変化量を超え、前記測定可能領域よりも前記キュベットの移動方向の上流側にある前記キュベットの領域を、前記各キュベットのそれぞれの測定可能外領域として検出し、
前記基準タイミング設定部は、前記各キュベットの前記測定可能外領域に含まれる第2基準ポイントが前記測光位置を通過する時点をそれぞれ、前記各キュベットで前記測光データの記憶を開始する記憶開始タイミングとして特定し、当該記憶開始タイミングから所定期間の前記測光データを記憶部に記憶させる、
請求項1
又は請求項
3に記載の分析装置。
【請求項8】
前記分析部は、前記測光データを前記記憶部から読み出して、当該読み出した測光データにおける前記基準タイミングと、前記各キュベットに個別に対応付けられた補正値とに基づいて、前記分析に用いる分析対象領域を特定し、当該分析対象領域に基づき、前記キュベットの収容物を分析する、
請求項
2又は請求項7に記載の分析装置。
【請求項9】
前記キュベットテーブルに設けられ、前記各キュベットに対応して配置された個々のスリットからなるスリットドグと、
前記スリットを検知するセンサと、をさらに備え、
前記センサが前記各スリットの第1端を検知したときに、当該スリットに対応する前記キュベットの前記第1基準ポイントが前記測光位置に位置する、
請求項
2又は請求項
3に記載の分析装置。
【請求項10】
前記キュベットテーブルに設けられ、前記各キュベットに対応して配置された個々のスリットからなるスリットドグと、
前記スリットを検知するセンサと、をさらに備え、
前記センサが前記各スリットの第2端を検知したときに、当該スリットに対応する前記キュベットの前記第2基準ポイントが前記測光位置に位置する、
請求項
7に記載の分析装置。
【請求項11】
前記各キュベットの前記第1基準ポイントには、前記出射光の強度または波長を、前記測定可能領域における他の領域と異ならせる部材が設けられている、
請求項1
又は請求項
2に記載の分析装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として、検体と試薬との反応液を分析する分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、検体と試薬とを反応させることによって、当該検体の成分を分析する分析装置が知られている。この種の分析装置では、検体および試薬を収容した複数のキュベットをキュベットテーブルに環状に配置してキュベットテーブルを回転させ、キュベットを挟んで配置された光源と分光検出器との間にある測光位置にキュベットを通過させる。このときにキュベットを透過する光量を測定することにより、検体の成分を分析する。
【0003】
一般的な分析装置において、キュベットテーブルの回転動力にはステッピングモータを採用している。キュベットテーブルは回転軸に取り付けられ、もう一端には従動ギヤが取り付けられている。ステッピングモータに取り付けられた駆動ギヤとキュベットテーブル側の従動ギヤはタイミングベルトで連結され、従動ギヤは駆動ギヤの回転に追従して動作する。
【0004】
理想的には、ステッピングモータへの指令パルス数をカウントすることで、キュベットテーブルが回転している間のキュベットの位置を把握することができるはずである。しかし、タイミングベルトの伸びなどの影響によって、実際には指令パルスに対してキュベット位置のズレが発生する。
【0005】
これを解消し、回転中の正確なキュベット位置を把握するため、回転軸にロータリーエンコーダを取り付け、エンコーダのパルス数をカウントすることで、従動側の真の回転角度を把握する機種も存在する。しかし、多数のキュベットが配置可能な円環状のキュベットテーブルを備えた分析装置では、キュベットテーブルの回転軸が存在しないため、ロータリーエンコーダを取り付けることができない。
【0006】
これに対し、特許文献1では、ロータリーエンコーダの代わりに、円環状のキュベットテーブル天面にキュベット本数と同数のスリットを開けたスリットドグを搭載し、このスリットをフォトセンサ(検知板検出器)で検知することで、キュベットテーブルの回転位置を把握する方式が提案されている。
【0007】
特許文献1の方式では、検知板検出器パルスの立下りエッジからタイミング調整パルスのパルス幅だけ後のタイミングで測光を開始している(特許文献1の
図3参照)。これにより、周速度が普通の場合は、測光位置がキュベット(セル)の中心付近となる。しかし、タイミング調整パルスのパルス幅が固定値であると、周速度が速い場合は、測光位置がキュベットの中心位置からずれることとなる(特許文献1の
図4参照)。そこで、周速度が変化しても、測光位置がキュベットの中心位置付近となるように、検知板検出器パルス幅に応じて、タイミング調整パルスのパルス幅を増減させている(特許文献1の
図5参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1では、キュベットの速度(周速度)に応じてタイミング調整パルスのパルス幅を常に調整する必要があるため、測光位置を調整するための演算処理が複雑になる。
【0010】
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであって、複雑な演算処理をすることなく、キュベットの収容物を正確に分析することができる分析装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る分析装置は、キュベットの列を環状に配置させたキュベットテーブルと、前記キュベットの列を環状方向に繰り返し間欠回転させる駆動部と、前記間欠回転の間に測光位置を通過する各キュベットに光を照射して、当該測光位置を通過する各キュベットの被照射領域からの出射光を測光する測光部と、前記測光された測光データに基づいて、前記キュベットの収容物を分析する分析部と、前記各キュベットの前記被照射領域の中で、前記キュベットの前記通過に伴う前記出射光の変化量が所定変化量以下である前記キュベットの領域を、前記各キュベットのそれぞれの測定可能領域として検出する測定可能領域検出部と、前記各キュベットの測定可能領域に含まれる第1基準ポイントが前記測光位置を通過する時点をそれぞれ、前記各キュベットでの前記分析に用いる分析対象領域を特定するための基準タイミングとして設定する基準タイミング設定部と、を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、複雑な演算処理をすることなく、キュベットの収容物を正確に分析することができる分析装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の一実施形態に係る分析装置の構成を示す平面図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る分析装置の部分断面図である。
【
図3】本発明の一実施形態に係る分析装置の機能ブロック図である。
【
図5】(a)および(b)は、キュベットとスリットとの対応関係を説明するための図である。
【
図6】測光部の受光素子から出力される電圧信号、および、光センサの受光素子から出力される電圧信号の波形、ならびに、これらの波形とキュベットとの対応関係を示す図である。
【
図7】各キュベットに設定された分析対象領域の範囲を示すデータの一例である。
【
図8】
図7に示す始点および終点の数値を、エンコーダパルス数に変換したデータである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について添付図面を参照して説明する。なお、本発明は、下記の実施形態に限定されるものではない。
【0015】
図1は、本発明の一実施形態に係る分析装置1の構成を示す平面図であり、
図2は、分析装置1の部分断面図であり、
図3は、分析装置1の機能ブロック図である。分析装置1は、検体(例えば、血液、尿等)および試薬の反応液を分析する装置であり、キュベット2の列を環状に配置させたキュベットテーブル3と、駆動部4と、測光部5と、光センサ6と、制御部7と、表示部8と、を主に備えている。
【0016】
キュベットテーブル3は、平面視環状に形成されており、環状方向(
図1の円弧状の矢印線)に沿って複数のキュベット2が配置されている。キュベット2は、検体および試薬を収容する容器であり、上面が開口した立方体または直方体の形状を呈している。キュベットテーブル3の内側または周囲には、検体容器を収容する検体庫(図示省略)や、試薬容器を収容する試薬庫(図示省略)などが設けられている。キュベット2をキュベットテーブル3に配置した後、ピペット(図示省略)を用いて、検体容器および試薬容器からキュベット2に検体および試薬が供給される。
【0017】
駆動部4は、キュベット2の列を環状方向に繰り返し間欠回転させて、キュベット2が略1回転する毎にキュベット2の列の位置を所定のキュベット数ずつ変位させる部材である。本実施形態では、駆動部4は、駆動ギヤ41と、キュベットテーブル3に接続された従動ギヤ42と、を備えている。駆動ギヤ41はステッピングモータ43に取り付けられており、ステッピングモータ43を駆動させて駆動ギヤ41を回転させることにより、従動ギヤ42を介してキュベットテーブル3を回転させることができる。ステッピングモータ43にはエンコーダ44が搭載されており、エンコーダ44からのエンコーダパルスによって従動ギヤ42の位置を監視することができる。なお、ステッピングモータ43として、サーボ制御付きステッピングモータが用いられてもよい。
【0018】
測光部5は、キュベット2の列の間欠回転の間に測光位置Pを通過する各キュベット2に光を照射して、測光位置Pを通過する各キュベット2の被照射領域からの出射光を測光する部材である。本実施形態では、測光部5は、キュベットテーブル3の外側に設けられた光源51と、キュベットテーブル3の内側に設けられた受光素子52と、を備えている。
【0019】
光源51は、例えばハロゲンランプで構成され、受光素子52に向かって光を出射する。キュベットテーブル3が回転している間、キュベット2は、光源51からの出射光の光路(
図1の直線矢印線)を横切る。光源51からの出射光の光路とキュベット2の経路とが交差する位置が、測光位置Pとなる。
【0020】
図2に示すように、キュベット2が測光位置Pを通過するときに、光源51からの出射光は、キュベット2に照射される。キュベット2の被照射領域に入射した光は、内部を通過して、キュベット2の被照射領域(正確には、被照射領域の裏面)から出射し、当該出射光が受光素子52に入射する。受光素子52は、キュベット2からの出射光を光電変換し、光量に応じた強さの電圧信号V1を制御部7に出力する。
【0021】
図1に示すように、キュベットテーブル3には、各キュベット2に対応して配置された個々のスリット91からなるスリットドグ9が設けられている。スリット91の個数はキュベット2と同数であり、各スリット91は、キュベットテーブル3の外周縁部に環状方向に配列されている。
【0022】
光センサ6は、スリット91を検知する部材である。
図4に示すように、光センサ6はコ字形状を呈しており、キュベットテーブル3の外周縁を挟んで対向する光源61と受光素子62とを備えている。光源61と受光素子62との間をスリット91が通過している間のみ、光源61からの出射光が受光素子62に到達し、受光素子62によって光電変換された電圧信号V2は制御部7に出力される。
【0023】
各キュベット2がどのスリット91と対応しているかは、公知の方法で把握することができる。本実施形態では、初期化動作において、キュベットテーブル3と一緒に回転する原点検出用のドグ(図示省略)を固定側に設置された原点センサ(図示省略)によって検知することで、原点出しが実行される。その後、キュベットテーブル3を再び回転させたときに、光センサ6を通過するスリット91をカウントすることで、どのキュベット2が測光位置Pあるいは測光部5付近を通過しているのかを監視することができる。
【0024】
図5(a)および(b)は、キュベット2とスリット91との対応関係を説明するための図である。具体的には、
図5(a)および(b)の各図において、上側の図は、光源51および受光素子52とキュベット2との位置関係を示す概略平面図であり、下側の図は、上側の図の同時刻における光センサ6とスリット91との位置関係を示す概略平面図である。キュベット2が測光部5の光源51と受光素子52との間を通過する際に、当該キュベット2と対応付けられたスリット91は、光センサ6を通過する。具体的には、光センサ6がスリット91の上流側の一端(第2端)91bを検知したときに、当該スリット91に対応するキュベット2の上流側の一端(後述する第2基準ポイントP2)2aが測光位置Pに位置する。
図5(a)は、キュベット2の上流側の一端が測光位置Pに差し掛かる直前の状態を示している。
【0025】
その後、
図5(b)に示すように、光センサ6がスリット91の下流側の一端(第1端)91aを検知したときに、キュベット2の環状方向の中点(後述する第1基準ポイントP1)が測光位置Pに位置する。
【0026】
図6は、測光部5の受光素子52から出力される電圧信号V1、および、光センサ6の受光素子62から出力される電圧信号V2の波形、ならびに、これらの波形とキュベット2との対応関係を示す図である。なお、
図6では便宜上、キュベット2を細長の形状に描いている。キュベット2が測光部5の光源51と受光素子52との間に位置していない時は、光源51からの出射光がそのまま受光素子52に到達するため、電圧信号V1は比較的大きく、かつ変化量が小さい。
【0027】
その後、時点t1において、キュベット2の上流側の一端2aが、光源51と受光素子52との間の測光位置Pに差し掛かると、光源51からの出射光はキュベット2の内部を通過して受光素子52に到達するため、電圧信号V1が急激に変化する。また、このときスリット91の上流側の一端(第2端)91bが光センサ6の光源61の直下に差し掛かるため、電圧信号V2が立上がる。
【0028】
その後、時点t2において、キュベット2の検体および試薬の収容領域が測光位置Pを通過すると、電圧信号V1は変化量が小さくなり安定する。さらに、時点t3において、キュベット2の環状方向の中点である第1基準ポイントP1が測光位置Pを通過すると、スリット91の下流側の一端(第1端)91aが光センサ6の光源61の直下から離脱するため、電圧信号V2が立下がる。
【0029】
その後、時点t4において、キュベット2の検体および試薬の収容領域の終端が測光位置Pを通過すると、電圧信号V1が急激に変化する。その後、時点t5において、キュベット2の下流側の一端2bが測光位置Pを通過すると、光源51からの出射光がそのまま受光素子52に到達するようになるため、電圧信号V1は変化量が小さくなる。
【0030】
図3に示す制御部7は、分析装置1の各種動作を制御する情報処理装置である。制御部7は、記憶部71と、測定可能領域検出部72と、基準タイミング設定部73と、測定対象領域設定部74と、分析部75と、を備えている。
【0031】
記憶部71は、制御部7に用いる各種データを記憶する部材であり、DRAMなどの揮発性メモリ、フラッシュメモリなどの不揮発性メモリ、または、それらの両方によって構成することができる。
【0032】
測定可能領域検出部72は、
図6に示す各キュベット2の被照射領域R1の中で、キュベット2の通過に伴う被照射領域R1からの出射光の変化量が所定変化量以下であるキュベット2の領域を、各キュベット2のそれぞれの測定可能領域R2として検出する。
図6に示すように、キュベット2の検体および試薬の収容領域が測光位置Pを通過している間は、電圧信号V1(キュベット2からの出射光)の変化量は小さい。測定可能領域検出部72は、この変化量が小さい領域を測定可能領域R2として検出する。
【0033】
また、測定可能領域検出部72は、各キュベット2の被照射領域R1の中で、キュベット2の通過に伴うキュベット2からの出射光の変化量が所定変化量を超え、測定可能領域R2よりもキュベット2の移動方向の上流側にあるキュベット2の領域を、各キュベット2のそれぞれの測定可能外領域R3として検出する。
図6に示す例では、時点t1と時点t2との間で、電圧信号V1は変化量が大きくなっている。測定可能領域検出部72は、この変化量が大きい領域を測定可能外領域R3として検出する。
【0034】
図3に示す基準タイミング設定部73は、各キュベット2の測定可能領域R2に含まれる第1基準ポイントP1が測光位置Pを通過する時点t3をそれぞれ、各キュベット2での収容物の分析に用いる分析対象領域R4を特定するための基準タイミングとして設定する。本実施形態では、第1基準ポイントP1は、キュベット2の中点に位置しており、
図5(b)に示すように、第1基準ポイントP1が測光位置Pに位置するときに、光センサ6がスリット91の下流側の一端91aを検知するため、
図6に示すように、光センサ6の受光素子62から出力される電圧信号V2が立下がる。基準タイミング設定部73は、電圧信号V2が立下がる時点t3を、基準タイミングとして特定する。
【0035】
なお、第1基準ポイントP1は、測定可能領域R2に含まれるポイントであれば特に限定されないが、キュベット2の中間領域(例えば、測定可能領域R2を1:2に区分する点から2:1に区分する点までの領域)に位置していることが好ましく、本実施形態のように、キュベット2の中点に位置していることが特に好ましい。
【0036】
さらに、基準タイミング設定部73は、各キュベット2の測定可能外領域R3に含まれる第2基準ポイントP2が測光位置Pを通過する時点をそれぞれ、各キュベット2で測光データD1の記憶を開始する記憶開始タイミングとして特定し、当該記憶開始タイミングから所定期間の測光データD1を記憶部71に記憶させる。本実施形態では、第2基準ポイントP2は、キュベット2の上流側の一端2aに位置しており、第2基準ポイントP2が測光位置Pに位置するときに、光センサ6がスリット91の上流側の一端91bを検知するため、
図6に示すように、時点t1において、光センサ6の受光素子62から出力される電圧信号V2が立上がる。基準タイミング設定部73は、電圧信号V2の立上がりをトリガーにして、記憶開始タイミングとして特定する。
【0037】
また、前記所定期間は、記憶部71に記憶させる測光データD1が測定可能領域R2を含むのであれば特に限定されないが、本実施形態では、電圧信号V2のパルス幅の2倍の期間である。そのため、基準タイミング設定部73は、時点t1から時点t3までの期間の2倍の時点t1から時点t5までの期間の電圧信号V1を、測光データD1として切り出し、記憶部71に記憶させる。
【0038】
第2基準ポイントP2は、測定可能外領域R3に含まれるポイントであれば特に限定されない。基準タイミングt3に基づいて分析対象領域R4を特定する方法は、後述する。なお、基準タイミング設定部73は、第2基準ポイントP2を特定せずに、測光部5からの電圧信号V1をそのまま測光データD1として記憶部71に記憶させてもよい。
【0039】
図6に示すように、測定可能領域R2における電圧信号V1の変化量は小さいが、キュベット2の成型加工における製造誤差などにより、当該変化量を0にすることは非常に難しい。そのため、分析精度を高めるためには、測定可能領域R2の中でも特に変化量の小さい領域を分析対象領域R4とする必要がある。
【0040】
本実施形態では、キュベット2に検体および試薬を収容する前に、あらかじめ補正データ準備工程を実施し、各キュベット2に分析対象領域R4を設定しておく。具体的には、補正データ準備工程では、キュベット2に純水等の液体を収容させた状態にして、測光部5の光源から光を出射させながらキュベットテーブル3を回転させ、測光部5において各キュベット2からの出射光(ここでは、透過光)を測光する。測定対象領域設定部74は、このときのデータを補正用測光データD2として記憶部71に記憶させる。
【0041】
さらに測定対象領域設定部74は補正用測光データD2を解析し、各キュベット2において、透過光の変化量が非常に小さい一定範囲(例えば2mm)の領域を検出し、その領域を分析対象領域R4として設定する。
【0042】
図7は、各キュベット2に設定された分析対象領域R4の範囲を示すデータの一例である。始点および終点の数値は、キュベット2の第1基準ポイントP1からの距離で表されており、正の値は第1基準ポイントP1の下流側、負の値は第1基準ポイントP1の上流側であることを意味する。
【0043】
さらに、測定対象領域設定部74は、分析対象領域R4の範囲を表す距離を、分析工程時のキュベット2の通常の回転速度(測光部5を通過する速度)におけるエンコーダ44からのエンコーダパルス数に換算する。分析工程時のキュベット2の通常の通過速度が、例えば1000mm/sであり、エンコーダパルスの周波数が50kHzである場合、キュベット2は0.1mmを10μs(5パルス)で通過するため、
図7に示すデータは
図8に示す補正データD3に変換される。補正データD3では、各キュベット2について、分析対象領域R4の始点および終点の基準タイミングt3からのパルス数が補正値として対応付けられている。測定対象領域設定部74は、補正データD3を記憶部71に記憶させる。以上により、補正データ準備工程は終了する。
【0044】
分析工程では、キュベット2に検体および試薬を分注し、反応液を攪拌した後、キュベットテーブル3を回転させ、測光部5によって各キュベット2からの出射光を測光し、基準タイミング設定部73が測光データD1を記憶部71に記憶させる。その後、分析部75が、測光データD1および補正データD3を記憶部71から読み出して、当該読み出した測光データD1および補正データD3に基づき、キュベット2の収容物を分析する。具体的には、分析部75は、測光データD1において各キュベット2に設定された基準タイミングt3と、補正データD3において各キュベット2に個別に対応付けられた補正値とに基づいて、分析に用いる分析対象領域R4を特定し、当該分析対象領域R4に基づき、キュベット2の収容物を分析する。分析部75による分析結果は、表示部8に表示される。
【0045】
図6に示すように、各キュベット2の分析対象領域R4の範囲は、基準タイミングt3を基準として、始点が時点t3+Δp1として示され、終点が時点t3+Δp2として示されている。分析部75は、記憶部71から補正データD3を読み出し、各キュベット2について、基準タイミング設定部73によって設定された基準タイミングt3に、Δp1およびΔp2を加えることで、分析対象領域R4を特定する。例えば、No.1のキュベット2の場合、Δp1=25パルス、Δp2=125パルスであるため、分析部75は、時点t3+25パルス(50μs)~t3+125パルス(250μs)の範囲を分析対象領域R4として特定し、当該範囲に対応する電圧信号V1に基づき、キュベット2に収容された検体および試薬の反応液を分析する。具体的には、分析部75は、分析対象領域R4に対応する電圧信号V1の中で、エンコーダ44から入力されるエンコーダパルスに対応する複数(100)の測光ポイントにおける電圧の平均値を算出し、当該平均値に基づいて分析を行う。
【0046】
(総括)
以上のように、本実施形態では、キュベット2からの出射光の変化量が少ない測定可能領域R2に含まれる第1基準ポイントP1が測光位置Pを通過する基準タイミングt3に基づいて、前記変化量が特に少ない分析対象領域R4を特定している。仮に、分析工程時のキュベット2の速度が、補正データD3を生成するために想定された通常の速度と等しければ、分析部75によって特定された分析対象領域R4は、測定対象領域設定部74によって設定された理想的な分析対象領域R4と等しくなる。一方、分析工程時では、ステッピングモータ43が高速で駆動するため、キュベットテーブル3の回転速度に若干ゆらぎが生じる。そのため、キュベット2の速度が通常の速度よりも速いまたは遅い場合、分析部75によって特定された分析対象領域R4と、測定対象領域設定部74によって設定された理想的な分析対象領域R4との間にずれが生じることとなる。
【0047】
しかし、実際の分析対象領域R4は、キュベット2の中間領域付近に位置することが多い。そこで、本実施形態では、第1基準ポイントP1をキュベット2の測定可能領域R2内、特に、キュベット2の中間領域(例えば中点)に設定し、この第1基準ポイントP1を基準として、分析対象領域R4を特定するための補正データD3を生成している。そのため、補正データD3における補正値は、キュベット2の中間領域から大きく離れたポイント(例えば測定可能外領域R3内のポイント)を基準とする場合に比べ、大幅に小さくすることができる。よって、キュベット2の速度が通常の速度と異なった場合であっても、分析部75によって特定された分析対象領域R4と、測定対象領域設定部74によって設定された理想的な分析対象領域R4とのずれが、分析精度に影響を与えるほど大きくなることはない。
【0048】
これに対し、特許文献1の方式では、検知板検出器パルスの立下りエッジ、すなわち、キュベットのからの出射光の変化量が少ない領域(測定可能領域)よりも外側の位置を基準に、測光位置(分析対象領域)を特定している(特許文献1の
図3~
図5)。そのため、タイミング調整パルスのパルス幅を、キュベットの速度にかかわらず固定とした場合、測光位置が理想的な位置から大きくずれる可能性がある。
【0049】
一方、本実施形態では、補正データD3における補正値をキュベット2の速度にかかわらず固定しても、分析部75によって特定された分析対象領域R4は理想的な分析対象領域R4からさほどずれることはないため、特許文献1のように、タイミング調整パルスのパルス幅をキュベットの速度に応じて調整する必要が無い。よって、複雑な演算処理をすることなく、キュベットの収容物を正確に分析することができる。
【0050】
(付記事項)
本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、実施形態に開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる形態も本発明の技術的範囲に含まれる。
【0051】
例えば、上記実施形態では、分析部75は、分析対象領域R4を特定した後、分析対象領域R4に対応する電圧信号V1の中でエンコーダパルスに対応する複数の測光ポイントにおける電圧の平均値に基づいて分析を行っているが、本発明はこれに限定されない。分析部75は、例えば分析対象領域R4に対応する電圧信号V1の積分値に基づいて分析を行ってもよい。
【0052】
また、上記実施形態では、分析対象領域R4の範囲はエンコーダパルス数に基づいて規定されているが、エンコーダパルス数の代わりに、モータ指令パルス数に基づいて規定してもよい。また、
図7に示す分析対象領域R4の範囲を表す距離を時間に換算して補正データD3を生成してもよい。
【0053】
また、上記実施形態では、キュベット2の第1基準ポイントP1が測光位置Pに通過する基準タイミングを設定するために、キュベット2と同数のスリット91を設け、光センサ6によってスリット91の端部を検出した時点を基準タイミングとしていたが、基準タイミングを設定する態様は特に限定されない。例えば、キュベット2の第1基準ポイントP1に、キュベット2からの出射光の強度または波長を、測定可能領域R2における他の領域と異ならせる部材(例えば、キュベット2の表面に形成された凸部または凹部、あるいは、カラーの目印)を設けてもよい。出射光の強度を異ならせた場合、電圧信号V1の強度が急激に変化した時点を、基準タイミングとして設定する。出射光の波長を異ならせた場合、測光部5の受光素子52をカラーセンサで構成し、電圧信号V1の波長が急激に変化した時点を、基準タイミングとして設定する。
【0054】
また、上記実施形態では、測光部5は、キュベット2を透過した光を測光しているが、本発明はこれに限定されない。測光部5は、例えば、キュベット2に光を照射して、キュベット2から散乱または反射した光を測光してもよい。
【符号の説明】
【0055】
1 分析装置
2 キュベット
2a 一端
2b 一端
3 キュベットテーブル
4 駆動部
5 測光部
6 光センサ(センサ)
7 制御部
8 表示部
9 スリットドグ
41 駆動ギヤ
42 従動ギヤ
43 ステッピングモータ
44 エンコーダ
51 光源
52 受光素子
61 光源
62 受光素子
71 記憶部
72 測定可能領域検出部
73 基準タイミング設定部
74 測定対象領域設定部
75 分析部
91 スリット
91a 一端(第1端)
91b 一端(第2端)
D1 測光データ
D2 補正用測光データ
D3 補正データ
P 測光位置
P1 第1基準ポイント
P2 第2基準ポイント
R1 被照射領域
R2 測定可能領域
R3 測定可能外領域
R4 分析対象領域
V1 電圧信号
V2 電圧信号
t1 時点
t2 時点
t3 時点(基準タイミング)
t4 時点
t5 時点