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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-22
(45)【発行日】2022-12-01
(54)【発明の名称】車両用衝撃吸収構造部材
(51)【国際特許分類】
   B62D 21/15 20060101AFI20221124BHJP
   B60R 19/04 20060101ALI20221124BHJP
【FI】
B62D21/15 B
B60R19/04 M
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019162719
(22)【出願日】2019-09-06
(65)【公開番号】P2021041726
(43)【公開日】2021-03-18
【審査請求日】2021-07-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000107538
【氏名又は名称】株式会社UACJ
(74)【代理人】
【識別番号】110001036
【氏名又は名称】弁理士法人暁合同特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】稲垣 龍雄
(72)【発明者】
【氏名】ポンモラゴット・ギッティパン
【審査官】林 政道
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-137452(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0153645(US,A1)
【文献】特開2009-096459(JP,A)
【文献】特開2012-062012(JP,A)
【文献】特開2006-205933(JP,A)
【文献】特開2001-010421(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 21/15
B60R 19/00-19/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に取り付けられて衝突時の衝撃を吸収する車両用衝撃吸収構造部材であって、
長手状に形成されたアルミニウム合金押出中空形材からなり、
鉛直方向に配され、一の板面が衝突面を構成する衝突壁と、
前記衝突壁に対し前記衝突面とは反対側に平行に配され、前記衝突壁とは反対側に配される板面が非衝突面を構成する非衝突壁と、
前記衝突壁と前記非衝突壁とをつなぐ上壁及び下壁と、
前記上壁及び前記下壁の間に配され、前記衝突壁と前記非衝突壁とをつなぐ中リブと、を有し、
前記非衝突面に付設された取付部材によって前記車両に取り付けられ、
前記衝突壁における前記中リブとの接続部分には、当該車両用衝撃吸収構造部材の長手方向に沿って前記衝突壁が前記中リブ側に後退した第1凹み部が形成され、前記非衝突壁における前記中リブとの接続部分には、当該車両用衝撃吸収構造部材の長手方向に沿って前記非衝突壁が前記中リブ側に後退した第2凹み部が形成されており、
前記上壁、前記下壁、又は前記中リブの少なくとも一つは、前記衝突壁からの荷重が前記非衝突壁に向けて分散しながら伝えられるように、その厚さが前記非衝突壁側から前記衝突壁側に向かって漸次減少することを特徴とする車両用衝撃吸収構造部材。
【請求項2】
前記非衝突壁の前記第2凹み部は、少なくとも前記取付部材の付設箇所から当該車両用衝撃吸収構造部材の長手方向端部に位置する自由端に亘るように形成されていることを特徴とする、請求項1に記載の車両用衝撃吸収構造部材。
【請求項3】
前記衝突面と前記非衝突面との距離をTとしたとき、前記衝突壁と前記非衝突壁とをつなぐ方向における前記中リブの長さは、0.5T以上0.83T以下であることを特徴とする、請求項1又は請求項2に記載の車両用衝撃吸収構造部材。
【請求項4】
前記非衝突面の上下方向の長さをWとしたとき、前記中リブは、上下方向について、前記車両用衝撃吸収構造部材の中央からのシフト量が0.14W以下となる位置に配されていることを特徴とする、請求項1から請求項3の何れか一項に記載の車両用衝撃吸収構造部材。
【請求項5】
前記非衝突壁の前記第2凹み部は、前記長手方向に直交する断面が、弓形、楕円弓形、方形、又は三角形をなすように形成されていることを特徴とする、請求項1から請求項4の何れか一項に記載の車両用衝撃吸収構造部材。
【請求項6】
前記非衝突壁に形成された前記第2凹み部は、前記非衝突面における開口の幅を2Hとし、前記非衝突面からの深さをFとしたとき、両者の比F/Hが0.3以上1.6以下であることを特徴とする、請求項1から請求項5の何れか一項に記載の車両用衝撃吸収構造部材。
【請求項7】
前記第1凹み部及び前記第2凹み部の形状は、実質的に同一であることを特徴とする、請求項1から請求項6の何れか一項に記載の車両用衝撃吸収構造部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、衝突性能に優れた車両用衝撃吸収構造部材に関する。特に、オフセット衝突時のエネルギー吸収効率が良好となる車両用衝撃吸収構造部材に関する。
【背景技術】
【0002】
主に自動車等の車両の前部や後部には、衝突時の衝撃を吸収するための衝撃吸収構造部材が装備されることがある。この車両用衝撃吸収構造部材は、車両に対し略水平方向で、車両幅方向に延在するように取り付けられる。車両用衝撃吸収構造部材は、車両幅方向に対し中央部や端部も含めて平行に延在する真っ直ぐな形状の車両用衝撃吸収構造部材(直線型)と、直線的な中央部の両端に、車体側へ曲げられた直線的又は曲線的な湾曲部を有するか、全体が車体側へ湾曲している形状の車両用衝撃吸収構造部材(湾曲型)と、の二つに大別される。
【0003】
車両用衝撃吸収構造部材には、正面衝突(フラットバリア衝突、フルラップ衝突)時のエネルギー吸収効率が良好であることが求められる。そこで、軽量化のために中空形材を用いた車両用衝撃吸収構造部材について、その中空部内に中リブを配した構造が提案されている。例えば、下記特許文献1及び特許文献2には、衝突壁(前面壁)における中リブ(中間壁)との接続部分に凹み部(凹部)を形成することにより、中リブの座屈強度を増してエネルギー吸収効率を向上させた車両用衝撃吸収構造部材(バンパー補強材)が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第4035292号公報
【文献】特許第5203870号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、車両用衝撃吸収構造部材には、車両が対向車や障害物などと部分的に衝突するオフセット衝突時にも、優れたエネルギー吸収効率を発揮することが求められるようになってきている。車両用衝撃吸収構造部材が取付部材を介して車両に取り付けられる場合、オフセット衝突時に加わる衝突荷重の影響は、取付部材が付設される付設箇所(以下、「付設箇所」と称することがある)と、衝突荷重が加えられる荷重箇所(以下、「荷重箇所」と称することがある)と、の位置関係によって変化する。
【0006】
本発明者らの検討の結果、上記特許文献1や特許文献2に記載の車両用衝撃吸収構造部材は、荷重箇所が付設箇所よりも車両幅方向内側に位置するような衝突に対しては、一定のエネルギー吸収効率向上効果を発揮できるものの、荷重箇所が付設箇所よりも車両幅方向外側に位置する衝突に対しては、十分なエネルギー吸収効率を得難いものであることが知られた。例えば、衝突荷重が付設箇所よりも車両幅方向外側に加えられた場合、衝突荷重に対する応力は、中リブの付設箇所に近接する部分に、特に集中しやすいと考えられる。このため、衝突の比較的早い段階で、付設箇所近傍において中リブが座屈し、車両用衝撃吸収構造部材が大きく変形することがある。中リブが座屈すると耐荷重が急激に低下するため、衝突の早い段階で中リブの座屈が生じると、オフセット衝突時のエネルギーが十分に吸収されなくなってしまうという問題が生じていた。
【0007】
本技術は、上記事情に基づいて完成されたものであって、オフセット衝突時、特に荷重箇所が付設箇所より車両幅方向外側に位置するような衝突時に、優れたエネルギー吸収効率を発揮する車両用衝撃吸収構造部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題について鋭意研究を重ねた結果、車両用衝撃吸収構造部材の非衝突壁に長手方向に沿った凹み部を設けることで、エネルギー吸収効率、特に、付設箇所より車両幅方向外側に衝突荷重が加えられるオフセット衝突時に、エネルギー吸収効率が効果的に向上し、優れた衝突性能が発現されることを見出した。
【0009】
本明細書が開示する技術に係る車両用衝撃吸収構造部材は、下記の構成を有する。
(1) 車両に取り付けられて衝突時の衝撃を吸収する車両用衝撃吸収構造部材であって、長手状に形成されたアルミニウム合金押出中空形材からなり、鉛直方向に配され、一の板面が衝突面を構成する衝突壁と、前記衝突壁に対し前記衝突面とは反対側に平行に配され、前記衝突壁とは反対側に配される板面が非衝突面を構成する非衝突壁と、前記衝突壁と前記非衝突壁とをつなぐ上壁及び下壁と、前記上壁及び前記下壁の間に配され、前記衝突壁と前記非衝突壁とつなぐ中リブと、を有し、前記非衝突面に付設された取付部材によって前記車両に取り付けられ、前記衝突壁における前記中リブとの接続部分、並びに、前記非衝突壁における前記中リブとの接続部分には、当該車両用衝撃吸収構造部材の長手方向に沿って前記衝突壁又は前記非衝突壁が前記中リブ側に後退した凹み部が形成されている。
【0010】
また、本明細書が開示する技術に係る車両用衝撃吸収構造部材は、下記の構成を有する。
(2) 上記(1)において、前記非衝突壁の前記凹み部は、少なくとも前記取付け部材の付設箇所から当該車両用衝撃吸収構造部材の長手方向端部に位置する自由端に亘るように形成されている。
【0011】
また、本明細書が開示する技術に係る車両用衝撃吸収構造部材は、下記の構成を有する。
(3) 上記(1)又は(2)において、前記衝突面と前記非衝突面との距離をTとしたとき、前記衝突壁と前記非衝突壁とをつなぐ方向における前記中リブの長さは、0.5T以上0.83T以下である。
【0012】
また、本明細書が開示する技術に係る車両用衝撃吸収構造部材は、下記の構成を有する。
(4) 上記(1)から(3)の何れかにおいて、前記非衝突面の上下方向の長さをWとしたとき、前記中リブは、上下方向について、前記上壁及び前記下壁の間の中央からのシフト量が0.14W以下となる位置に配されている。
【0013】
また、本明細書が開示する技術に係る車両用衝撃吸収構造部材は、下記の構成を有する。
(5) 上記(1)から(4)の何れかにおいて、前記非衝突壁の前記凹み部は、断面が弓形、楕円弓形、方形、又は三角形をなすように形成されている。
【0014】
また、本明細書が開示する技術に係る車両用衝撃吸収構造部材は、下記の構成を有する。
(6) 上記(1)から(5)の何れかにおいて、前記非衝突壁に形成された前記凹み部は、前記非衝突面における開口の幅を2Hとし、前記非衝突面における深さをFとしたとき、両者の比F/Hが0.3以上1.6以下である。
【発明の効果】
【0015】
本技術によれば、特にオフセット衝突時に優れたエネルギー吸収効率を発揮する車両用衝撃吸収構造部材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】実施形態に係る衝撃吸収部材(車両用衝撃吸収構造部材)の概観斜視図
図2】衝撃吸収部材の断面図の一例
図3】衝撃吸収部材モデルの平面図
図4】検証実験1~6で用いた各実施例及び比較例に係る衝撃吸収部材モデルのプロファイル並びに評価結果
図5A】検証実験1に用いた実施例1に係る衝撃吸収部材モデルの断面図
図5B】検証実験1に用いた比較例1に係る衝撃吸収部材モデルの断面図
図5C】検証実験1に用いた比較例2に係る衝撃吸収部材モデルの断面図
図6】検証実験1において測定された荷重-ストローク線図
図7】検証実験2において測定された荷重-ストローク線図
図8】検証実験3において測定された荷重-ストローク線図
図9A】検証実験4に用いた実施例1に係る衝撃吸収部材モデルの断面図
図9B】検証実験4に用いた実施例10に係る衝撃吸収部材モデルの断面図
図9C】検証実験4に用いた実施例11に係る衝撃吸収部材モデルの断面図
図9D】検証実験4に用いた実施例12に係る衝撃吸収部材モデルの断面図
図10】検証実験4において測定された荷重-ストローク線図
図11】検証実験5において測定された荷重-ストローク線図
図12】検証実験6において測定された荷重-ストローク線図
【発明を実施するための形態】
【0017】
<実施形態>
以下に、実施形態1について、図1及び図2を参照しつつ説明する。例えばトラックの後面には、乗用車等が追突した後の潜り込みを防止するため、RUP(Rear Under-run Protection device)と呼ばれる衝撃吸収システムが備えられることがある。本実施形態では、RUPに用いられる衝撃吸収部材(車両用衝撃吸収構造部材の一例)1について例示する。以下の説明では、図1における上側を上側(下側を下側)、紙面手前左側を後側(紙面奥右側を前側)、紙面奥左側を左側(紙面手前右側を右側)とする。また、各図面の一部にはX軸、Y軸、及びZ軸を示しており、各軸方向がそれぞれ同一方向となるように描いている。複数の同一部材については、一の部材に符号を付し、他の部材については符号を省略することがある。
【0018】
図1は、本実施形態に係る衝撃吸収部材1の概形を表した斜視図である。図1に示すように、衝撃吸収部材1は、長手状をなし、車両幅方向に対し中央部や端部も含めて全体が平行に真っ直ぐ延在する、いわゆる直線型の車両用衝撃吸収構造部材である。衝撃吸収部材1は、長手方向を車両幅方向すなわち左右方向に合致させるように、車両に取り付けられる。なお、各図において、Z軸方向が車両幅方向と一致し、Y軸方向が上下方向、X軸方向が前後方向となる。
【0019】
衝撃吸収部材1は、アルミニウム合金押出中空形材からなる。従来は鋼材製とされていた車両用衝撃吸収構造部材をアルミニウム合金製としたことで、軽量化が図られている。軽量化の利点を得る一方で十分な強度を発現させるため、衝撃吸収部材1の押出成形に用いるアルミニウム合金としては、アルミニウム合金の中でも強度に優れたものを用いることが好ましい。限定されるものではないが、強度や耐食性等の観点から、アルミニウム合金としては、6000系(Al-Mg-Si系)や、7000系(Al-Zn-Mg系)のアルミニウム合金を好ましく用いることができる。特に、強度に優れた7000系のアルミニウム合金の使用が好ましい。
【0020】
図2は、本実施形態に係る衝撃吸収部材1のXY断面(長手方向に直交する断面)の一例を表した図である。衝撃吸収部材1は、断面が略日の字型の概形をなす中空形材であり、詳しくは、図1に表されているように、YZ面に沿って鉛直方向に配される衝突壁10及び非衝突壁20と、XZ面に沿って水平方向に配されて衝突壁10と非衝突壁20とをつなぐ上壁30及び下壁40と、を有し、上壁30及び下壁40の間にはXZ面に沿って水平方向に配されて衝突壁10と非衝突壁20とをつなぐ中リブ50が配されている。なお、各壁は、概ね鉛直方向もしくは水平方向に配されていればよく、各壁の機能を発揮できる範囲で、傾斜していたり湾曲等していたりしていても構わない。
【0021】
衝突壁10は、衝突荷重に対峙する壁であり、その一の板面が衝撃吸収部材1の衝突面1Aを構成する。本実施形態のように後方からの車両等の追突時の衝撃を吸収する衝撃吸収部材1では、衝撃吸収部材1の後面が衝突面1Aとされる。また、非衝突壁20は、衝突壁10について衝突面1Aの反対側に平行に配され、衝突壁10とは反対側の板面が、衝撃吸収部材1の前面となる非衝突面1Bを構成する。衝突壁10と非衝突壁20の上端同士及び下端同士は、それぞれ上壁30又は下壁40によって接続され、内方にはこれらで囲まれた中空部が形成されている。
【0022】
上壁30と下壁40との間には、中空部を上下に二つに分断するように、中リブ50が配設されている。中リブ50は、衝突面1Aに非衝突壁20側(前側)に向かう衝突荷重が加えられたときに、上壁30及び下壁40と共に衝突壁10を支えて、衝撃吸収部材1内方の中空部が変形するのを抑制して剛性を維持し、大きな初期荷重を発現させる機能を有する。中リブ50の長さや配設位置等が衝突性能に及ぼす影響については、後に検証する。
【0023】
板面の法線方向が荷重方向と直交するように配されて衝突壁10を支える、上壁30、下壁40、及び中リブ50は、非衝突壁20側から衝突壁10に向かって漸次薄肉化する(壁厚が減少する)ように形成してもよい。このようにすれば、衝突壁10からの荷重が非衝突壁20に向けて分散しながら伝えられるため、薄肉化による剛性の低下を抑制できる。よって、仮にこれらの全体を非衝突壁20側と同じ壁厚で形成した場合と比較すると、初期荷重を大きく低下させることなく、軽量化を図ることが可能である。上壁30、下壁40、及び中リブ50のうち、何れか一つもしくは複数を、このように形成することが可能であるが、本実施形態では、上壁30及び下壁40を、その壁厚が非衝突壁20側から衝突壁10側に向かって漸次薄肉化するように形成した衝撃吸収部材1について例示する。
【0024】
図2等に表されているように、衝突壁10における中リブ50との接続部分には、衝突壁側凹み部11が形成されている。衝突壁側凹み部11は、衝撃吸収部材1の長手方向に沿って衝突壁10が中リブ50側に後退するように、換言すれば、衝突面1A側(後側)に開口するように、形成される。このような衝突壁側凹み部11が設けられていることにより、中リブ50の長さを短くして座屈変形を抑制できる。また、衝突壁10のうち衝突面1A上に位置する壁部の壁幅w1-1,w1-2(図2参照)が減少することで、一定の壁厚を有する衝突壁10について幅厚比が増大し、衝突壁10の曲げ座屈強度が増加すると考えられている(特許文献1)。なお、図2等では、一例として、衝突壁側凹み部11が弓形の断面をなすように形成されている場合について示しているが、これに限定されるものではない。衝突壁側凹み部11の形状寸法等が衝突性能に及ぼす影響については、後に検証する。
【0025】
本実施形態に係る衝撃吸収部材1では、さらに非衝突壁20にも、中リブ50との接続部分に非衝突壁側凹み部21が形成されている。非衝突壁側凹み部21も、衝撃吸収部材1の長手方向に沿って非衝突壁20が中リブ50側に後退するように、換言すれば、非衝突面1B側(前側)に開口するように、形成される。なお、図2等では、一例として、非衝突壁側凹み部21も衝突壁側凹み部11と同じく弓形の断面をなすように形成されている場合について示しているが、これに限定されるものではない。非衝突壁側凹み部21の形状寸法等がオフセット衝突性能に及ぼす影響については、後に検証する。
【0026】
上記のようなアルミニウム合金押出中空形材からなる衝撃吸収部材1は、図1に表されているように、非衝突面1Bに付設されたステイ(取付部材の一例)2によって、図示しない車両骨格に取り付けられ、支持される。ステイ2は、通常、衝撃吸収部材1の長手方向において、間隔を空けて2箇所に付設され、衝撃吸収部材1の車両幅方向の両端は、自由端12とされる。衝撃吸収部材1へのステイ2の付設方法は特に限定されるものではなく、溶接や締結部材等による締結によって付設できる。例えば、非衝突壁20の付設箇所における後面(衝突壁10側の面)に補強として鋼板を取り付けるとともに、非衝突壁20及び鋼板に貫通孔を形成しておき、締結部材等を挿通させて、非衝突面1Bに沿って配されたステイ2の壁面に締結固定する構成としてもよい。
【0027】
オフセット衝突時に衝撃吸収部材1に加えられた衝突荷重の影響は、ステイ2の付設箇所と、衝突荷重が加えられる荷重箇所との位置関係によって変化する。例えば、図1に一点鎖線矢印で示した衝突荷重P2のように、ステイ2の付設箇所に正対するような位置に加えられた衝突荷重は、その多くが、荷重箇所に正対する右側のステイ2にそのまま受け止められる。よって、衝撃吸収部材1内において応力の過度な集中は生じ難い。また、図1に二点鎖線矢印で示した衝突荷重P3のように、ステイ2の付設箇所よりも車両幅方向内側に衝突荷重が加えられた場合、荷重箇所の両側において衝撃吸収部材1がステイ2により拘束されているため、衝撃吸収部材1内を車両幅方向に伝播した荷重は、左側のステイ2及び右側のステイ2に分散して受け止められる。これに対し、図1に実線矢印で示した衝突荷重P1のように、ステイ2の付設箇所よりも車両幅方向外側に衝突荷重が加えられた場合、荷重箇所において衝撃吸収部材1が片持ち状態となっているために、自由端12側の変位が許容される一方で、車両幅方向内側(ステイ2の付設側)は左側のステイ2によって拘束される。この結果、車両幅方向のモーメント負荷が増え、かつ、荷重箇所に近い左側のステイ2の付設箇所近傍のみに応力が集中する。よって、上記した3つのケースの中では、衝突荷重P1が加えられるようなオフセット衝突が起こった場合に、衝突の比較的早い段階で、応力集中による衝撃吸収部材1の変形が特に生じやすいと考えられる。以下、ステイ2の付設箇所よりも車両幅方向外側に衝突荷重P1が加わるようなオフセット衝突を、「P1衝突」と称することがある。
【0028】
《検証実験》
上記した衝撃吸収部材1について、中リブ50や凹み部11,21の配設態様が、P1衝突に対する衝撃吸収部材1の衝突性能(P1衝突性能)に与える影響を検証するため、検証実験1~6を行った。図3は、検証実験に使用した衝撃吸収部材モデルMの上面図である。なお、以下では、各実施例及び比較例に係る衝撃吸収部材モデルを区別せず共通の特性等について言及するときは「衝撃吸収部材モデルM」と記載し、各実施例及び比較例に係る衝撃吸収部材モデルを区別して表すときは、「衝撃吸収部材モデルE1」、「衝撃吸収部材モデルC1」等と記載する。
【0029】
衝撃吸収部材モデルMは、0.2%耐力が425MPaの7000系アルミニウム合金押出形材からなるものとした。衝撃吸収部材モデルMは、各実施例及び比較例について特に記載した場合を除き、図2に示した形状のXY断面を有するものとし、図2に示す衝突壁10及び非衝突壁20の上下方向の壁幅、すなわち非衝突面1Bの上下方向の長さWを150mm、衝突面1Aと非衝突面1Bとの間の距離Tを110mmとした。衝撃吸収部材モデルMの車両幅方向の長さは2320mmとした。また、衝突壁10の壁厚は5.5mm、非衝突壁20の壁厚は6.0mm、中リブ50の壁厚は4.2mmとし、上壁30及び下壁40の壁厚は衝突壁10側から非衝突壁20側に向けて5.0mmから7.0mmまで漸次増加するように形成した。
【0030】
衝撃吸収部材モデルMには、図3に示すように、非衝突面1Bの2箇所に各1本、計2本のステイ2の先端部を溶接接続した(補強用の鋼板等は不使用)。各ステイ2は、車両幅方向(Z軸方向)について、幅d1が115mmであるものを使用し、その内側の端部から衝撃吸収部材モデルMの中心線CLまでの距離d2が375.5mmとなる位置に付設した。ステイ2は、剛体として完全拘束されているものとした。衝撃吸収部材モデルMにはまた、オフセット衝突バリア3を、その内側の端部から中心線CLまでの距離d3が938mmとなり、その後面が衝突面1Aに全面接触するように、取り付けた。P1衝突試験は、剛体であるオフセット衝突バリア3を、車両後方から前方に向けて(図3の矢印方向に)所定のストローク量に達するまで押し込む態様で実施した。各P1衝突試験については、汎用の有限要素解析ソフトRADIOSS(登録商標)を用いてFEM解析を行い、ストロークが100mmとなるまでの荷重-ストローク線図を得て、P1衝突性能を評価した。
【0031】
《評価》
P1衝突性能は、衝突の初期段階においてどの程度の剛性が維持されているかを表す初期荷重[A]と、衝突が進行した段階でどの程度の耐荷重が維持されているかを表す荷重維持特性[B]と、の二面から評価した。具体的には、初期荷重[A]は、P1衝突試験を行って得られた荷重-ストローク線図において、ストローク40mmにおける荷重が104kN以上であることが好ましく、115kN以上であることがより好ましいと言える。また、荷重維持特性[B]は、ストローク80mmにおける荷重が104kN以上であることが好ましく、110kN以上であることがより好ましいと言える。[A]について上記範囲を満たさない衝撃吸収部材モデルMは、衝突の衝撃を受け止められずに容易に変形する虞があり、[B]について上記範囲を満たさない衝撃吸収部材モデルMは、衝突の比較的早い段階において座屈が生じる虞があり、何れにしても十分なエネルギー吸収効率が得られない可能性がある。
【0032】
さらに、アルミ合金押出中空形材を用いることによる軽量化のメリットを維持するため、XY断面における中実部分の断面積[C]についても評価した。具体的には、当該断面積は、3600mm未満であることが好ましく、3550mm未満であることがより好ましい。[C]に係る上記範囲を満たさない衝撃吸収部材モデルMは、重量が増加し、鋼材に代えてアルミ合金で車両用衝撃吸収構造部材を構成することの利点が小さくなってしまう虞がある。
【0033】
以下に、検証実験1~6について、順次説明する。なお、図4の表に、検証に用いた各実施例及び比較例に係る衝撃吸収部材モデルMのプロファイル、並びに、検証結果をまとめて示した。各衝撃吸収部材モデルMのプロファイルに係るパラメータは、図2の衝撃吸収部材1について図示した通りである。中リブについて、長さNは、衝突壁10と非衝突壁20とをつなぐ方向(X軸方向)における中リブ50の長さ(衝突壁10の壁厚の中心と、非衝突壁20の壁厚の中心との距離)を、衝突面1Aと非衝突面1Bとの距離Tを用いて表した値である。シフト量Sは、衝撃吸収部材1の上下方向(Y軸方向)についての中心線CL(上壁の上面と下壁の下面の中央)からの中リブ50の配設位置のシフト量を、非衝突面1Bの上下方向の長さWを用いて表した値である。また、衝突壁側凹み部について、深さFは、衝突壁側凹み部11最深部における衝突壁10の壁厚中央の衝突面1Aからの距離であり、開口長2Hは、衝突面1Aにおける開口の長さを表す。また、非衝突壁側凹み部について、深さFは、非衝突壁側凹み部21最深部における非衝突壁20の壁厚中央の非衝突面1Bからの距離であり、開口長2Hは、非衝突面1Bにおける開口の長さを表す。
【0034】
なお、図4の表では、各衝撃吸収部材モデルMの試験結果が、上記[A]について、ストローク40mm時の荷重が、115kN以上であった場合は〇、104.0kN以上かつ115kN未満であった場合は△、と評価した(104.0kN未満となったものはなかった)。上記[B]については、ストローク80mm時の荷重が、110kN以上であった場合は「〇」、104.0kN以上かつ110kN未満であった場合は「△」、104.0kN未満であった場合は「×」、と評価した。また、上記[C]については、各衝撃吸収部材モデルMの断面積が、3550mm未満であった場合は「〇」、3550mm以上かつ3600mm未満であった場合を「△」、と評価している(断面積が3600mm以上となるものはなかった)。総合評価では、上記の各性能についての評価結果を勘案し、上記[A]から[C]のすべてが〇であったものを「◎」、〇2個と△1個であったものは「〇」、〇1個と△2個であったものを「△」、×が1個でもあったものを「×」、と評価した。△以上の総合評価が得られた衝撃吸収部材モデルMは十分なP1衝突性能を有し、○以上であった衝撃吸収部材モデルMは良好なP1衝突性能を有しており、◎であった衝撃吸収部材モデルMは、P1衝突性能にとりわけ優れた車両用衝撃吸収構造部材と言える。
【0035】
[検証実験1:凹み部有無の影響]
凹み部11,21を形成したことによるP1衝突性能への影響について、実施例1並びに比較例1及び2に係る、衝撃吸収部材モデルE1,C1,C2を用いて検証した。図5Aから図5Cに、衝撃吸収部材モデルE1,C1,C2の断面形状を示す。実施例1に係る衝撃吸収部材モデルE1は、図5Aに示すように、衝突壁10-E1及び非衝突壁20-E1の双方に凹み部11-E1,21-E1を形成し、いわゆる両凹み型の断面をなすものとした(なお、検証実験1~6では、衝撃吸収部材モデルE1を衝撃吸収部材モデルMの基準とした。このため、検証実験2~6でも衝撃吸収部材モデルE1の評価結果を参照している)。これに対し、比較例1に係る衝撃吸収部材モデルC1は、図5Bに示すように、衝突壁C10及び非衝突壁C20の何れにも凹み部を形成せず、いわゆる日の字型断面をなすものとした。比較例2に係る衝撃吸収部材モデルC2は、図5Cに示すように、衝撃吸収部材モデルE1と同様の衝突壁側凹み部11-E1が設けられた衝突壁10-E1と、凹み部を有しない非衝突壁C20と、を備え、いわゆる片凹み型の断面をなすものとした。なお、図4の表に示したように、衝突壁側凹み部11-E1は、深さFが7mm、開口長2Hが32.0mmとなるように形成し、非衝突壁側凹み部21-E1は、深さFが10.0mm、開口長2Hが36.0mmとなるように形成した。これにより、中リブの長さNは、衝撃吸収部材モデルE1において0.74T、衝撃吸収部材モデルC1では0.95T、衝撃吸収部材モデルC2では0.83Tとなった。
【0036】
図6は、実施例1に係る衝撃吸収部材モデルE1(両凹み型)と、比較例1に係る衝撃吸収部材モデルC1(日の字型)、比較例2に係る衝撃吸収部材モデルC2(片凹み型)において、オフセット衝突解析を実施して得られた荷重-ストローク線図である。図6に示すように、比較例に係る衝撃吸収部材モデルC1,C2では、ストローク初期の荷重上昇は実施例に係る衝撃吸収部材モデルE1における荷重上昇より僅かに速いが、ストローク初期の段階で明確な荷重の低下が認められた。P1衝突試験の初期段階において、ステイ2の付設箇所近傍(図3における支点s1近傍)まで延設されている中リブに急激に応力が集中し、中リブの座屈が生じたと推察される。このように、断面形状が日の字型もしくは片凹み型をなす衝撃吸収部材モデルC1,C2では、P1衝突の比較的早い段階で中リブの座屈が生じるために十分な荷重維持特性を達成し難く、P1衝突時のエネルキー吸収効率を高めることが困難であることが示唆された。
【0037】
他方、実施例1に係る衝撃吸収部材モデルE1の解析結果では、衝突試験開始後に荷重が上昇し、衝撃吸収部材モデルC1,C2において得られた最大荷重より高い最大荷重を達成できた。また、ストローク後期まで、高い荷重を維持できることが認められた。衝撃吸収部材モデルE1では、中リブが、ステイ2が付設された非衝突面まで到達しておらず、衝突壁から中リブに伝わった衝突荷重が、非衝突面に至る前に非衝突壁側凹み部の底部に沿って分散されたことで、中リブへの応力集中が緩和され、座屈時期を遅延できたのではないかと推察される。このように、実施例1に係る衝撃吸収部材モデルE1では、大きな初期荷重と良好な荷重維持特性とを両立し、P1衝突時のエネルギー吸収効率を高められることが知られた。
【0038】
[検証実験2:中リブの長さN等の影響]
主として中リブの前後方向(X軸方向)の長さNがP1衝突性能に及ぼす影響について、上記の実施例1並びに実施例2から実施例5に係る、衝撃吸収部材モデルE1~E5を用いて検証した。実施例1に係る衝撃吸収部材モデルE1では、中リブの長さNを0.74Tとしていたが、衝撃吸収部材モデルE1~E5では、図4の表に示すように、衝突壁側凹み部及び非衝突壁側凹み部の深さF,F及び開口長2H,2Hを調整することによって、中リブの長さNを変更した。中リブの長さNは、実施例2に係る衝撃吸収部材モデルE2では0.42T、実施例3に係る衝撃吸収部材モデルE3では0.50T、実施例4に係る衝撃吸収部材モデルE4では0.82T、実施例5に係る衝撃吸収部材モデルE5では0.86Tとした。
【0039】
図7は、実施例1~5に係る衝撃吸収部材モデルE1~E5において、オフセット衝突解析を実施して得られた荷重-ストローク線図である。図7に示すように、衝撃吸収部材モデルE1~E5では何れも、120kN以上の高い最大荷重を達成した後、ストローク初期における荷重低下は認められず、衝突壁側凹み部及び非衝突壁側凹み部を有する衝撃吸収部材モデルE1~E5では、P1衝突の初期段階で中リブの座屈が生じることはなく、一定のP1衝突性能を発現可能であることが知られた。但し、中リブの長さNが0.86Tである実施例5の衝撃吸収部材モデルE5では、ストローク初期に荷重が上昇した後、衝撃吸収部材モデルE1~E4について得られたのと同程度の最大荷重を達成したが、ストローク中期で荷重の低下が認められた。衝撃吸収部材モデルE5は、中リブが比較的長いために中リブ自体の座屈強度が小さく、ストローク中期で中リブの座屈が生じたと推察される。これに対し、中リブの長さNが0.83T以下となる衝撃吸収部材モデルE1~E4では、ストローク後期まで明確な衝突荷重低下が認められなかった。非衝突壁側凹み部を形成したことにより、中リブへの応力集中が緩和されたのに加え、中リブの長さNを短くしたことで中リブの座屈強度が増し、荷重維持特性が向上したと推察される。また、衝撃吸収部材モデルE2のように中リブの長さNを0.5T以下とすると、断面積が増大し、アルミ合金押出中空形材を用いることによる軽量化の利点を損なう虞があると認められた。これに対し、衝撃吸収部材モデルE1、E3~E5では、断面積を好ましい範囲に維持できた。以上より、中リブの長さNを0.5T以上0.83T未満とした衝撃吸収部材モデルE1,E3、E4で、軽量性を維持しながら、特に大きな初期荷重と優れた荷重維持特性を両立可能であり、エネルギー吸収効率を効果的に高められることが知られた。
【0040】
[検証実験3:中リブ等の配設位置(シフト量S)の影響]
中リブ等の配設位置がP1衝突性能に及ぼす影響について、上記の実施例1並びに実施例6から実施例9に係る、衝撃吸収部材モデルE1,E6~E9を用いて検証した。実施例1に係る衝撃吸収部材モデルE1では、衝撃吸収部材モデルE1のY軸方向についての中心線CL上に壁厚の中心線が重なるように中リブを配設していた(中リブ配設位置のシフト量Sは0W)が、衝撃吸収部材モデルE6~E9では、図2に二点鎖線で示したように、中リブの配設位置を上方に移動させ、これに伴い、衝突壁側凹み部及び非衝壁側凹み部も移動させた。中リブ配設位置のシフト量Sは、実施例6に係る衝撃吸収部材モデルE6では0.07W、実施例7に係る衝撃吸収部材モデルE7では0.13W、実施例8に係る衝撃吸収部材モデルE8では0.15W、実施例9に係る衝撃吸収部材モデルE9では0.17Wとした。なお、衝撃吸収部材モデルE6~E9では、図4の表に示すように、凹み部の寸法形状等は変更せず、シフト量Sを除くパラメータは衝撃吸収部材モデルE1と同じとした。
【0041】
図8は、実施例1,6~9に係る衝撃吸収部材モデルE1,E6~E9において、オフセット衝突解析を実施して得られた荷重-ストローク線図である。図8に示すように、衝撃吸収部材モデルE1,E6~E9では何れも、ストローク初期に最大荷重を達成した後、ストローク初期における荷重低下は認められなかった。但し、シフト量Sが0.15W以上となる衝撃吸収部材モデルE8,E9では、ストローク初期の荷重の上昇が比較的遅く、最大荷重も比較的低かった。衝撃吸収部材モデルE8,E9は、衝撃吸収部材モデルE1,E6,E7に比べ、衝突壁のうち衝突面上に位置する壁部の壁幅(図2に示す壁幅w1-1,w1-2)の一方が大きくなったために、衝突壁の当該部分における剛性が低下したのではないかと推察される。これらに対し、シフト量Sを0.14W以下とした衝撃吸収部材モデルE1,E6,E7では、ストローク初期に荷重が急激に上昇して120kN以上の高い最大荷重を達成した後、ストローク後期まで明確な荷重低下が認められず比較的高い荷重が維持された。以上より、シフト量Sが0.14W以下となる衝撃吸収部材モデルE1,E6,E7では、特に大きな初期荷重と良好な荷重維持特性を両立可能であり、エネルギー吸収効率を効果的に高められることが知られた。
【0042】
[検証実験4:凹み部の形状の影響]
衝突壁側凹み部及び非衝突壁側凹み部の形状がP1衝突性能に与える影響について、上記の実施例1並びに実施例10から実施例12に係る、衝撃吸収部材モデルE1,E10~E12を用いて検証した。図9Aから図9Dに、衝撃吸収部材モデルE1,E10~E12の断面形状を示す。実施例1に係る衝撃吸収部材モデルE1では、図9Aに示すように、衝突壁側凹み部11-E1及び非衝突壁側凹み部21-E1を、断面が弓形をなすように形成していたが、実施例10に係る衝撃吸収部材モデルE10では、図9Bに示すように、両凹み部11-E10,21-E10の断面が方形をなすように衝突壁10-E10及び非衝突壁20-E10の形状を変更した。また、実施例11に係る衝撃吸収部材モデルE11では、図9Cに示すように、両凹み部11-E11,21-E11の断面が三角形をなすように衝突壁10-E11及び非衝突壁20-E11の形状を変更した。実施例12に係る衝撃吸収部材モデルE12では、図9Dに示すように、両凹み部11-E12,21-E12の断面が楕円弓形(楕円の弧と、当該弧の両端を結ぶ弦と、によって囲まれる図形)をなすように衝突壁10-E12及び非衝突壁20-E12の形状を変更した。
【0043】
図10は、実施例1,10~12に係る衝撃吸収部材モデルE1,E10~E12において、オフセット衝突解析を実施して得られた荷重-ストローク線図である。図10に示すように、すべての衝撃吸収部材モデルE1,E10~E12で、ストローク初期に荷重が同等に上昇した。また、最大荷重が達成後は、ストローク後期まで荷重の明確な低下は認められなかった。凹み部21-E1,21-E10~21-E12では何れも、衝突壁から中リブに伝えられた衝突荷重がステイ2の付設面である非衝突面に至る前に非衝突壁側凹み部の底部に沿って分散され、中リブの座屈を抑制できたのではないかと推察される。以上より、凹み部が弓形、方形、三角形、楕円弓形をなす衝撃吸収部材モデルE1,E10~E12では、特に大きな初期荷重と良好な荷重維持特性を両立可能であり、エネルギー吸収効率を効果的に高められることが知られた。
【0044】
[検証実験5:非衝突壁側凹み部の開口長2Hの影響]
非衝突壁側凹み部の開口長2HがP1衝突性能に与える影響について、上記の実施例1並びに実施例13から実施例17に係る、衝撃吸収部材モデルE1,E13~E17を用いて検証した。実施例1に係る衝撃吸収部材モデルE1では、非衝突壁側凹み部の深さFを10.0mm、開口長2Hを36.0mmとし、深さFと開口長2Hの半値との比(F/H)が0.56となるように形成していたが、実施例13から実施例17に係る衝撃吸収部材モデルE13~E17では、深さFを10.0mmに固定する一方で、開口長2H図4の表に示すように変更し、比F/Hが、実施例13に係る衝撃吸収部材モデルE13で0.27、実施例14に係る衝撃吸収部材モデルE14で0.34、実施例15に係る衝撃吸収部材モデルE15で1.20、実施例16に係る衝撃吸収部材モデルE16で1.58、実施例17に係る衝撃吸収部材モデルE17で1.82となるように調整した。なお、衝撃吸収部材モデルE1,E13~E17は何れも、衝撃吸収部材モデルE1と同じ寸法形状の衝突壁側凹部を有している。
【0045】
図11は、実施例1,13~17に係る衝撃吸収部材モデルE1,E13~E17において、オフセット衝突解析を実施して得られた荷重-ストローク線図である。図11に示すように、衝撃吸収部材モデルE1,E13~E17では何れも、ストローク初期における荷重低下は認められなかった。但し、比F/Hが0.27である衝撃吸収部材モデルE13では、ストローク初期の荷重上昇が比較的遅く、剛性が低いと認められた。また、ストローク中期・後期における荷重低下は認められなかったものの、荷重が全体的に低かった。また、比F/Hが1.60以上である衝撃吸収部材モデルE17では、ストローク初期の荷重は衝撃吸収部材モデルE1,E14~E16と同様に上昇したが、ストローク中期で荷重の低下が認められた。衝撃吸収部材モデルE17は、衝撃吸収部材モデルE1,E14~E16と比較して中リブの座屈強度が小さく、ストローク中期で中リブの座屈が生じたと推察される。これらに対し、比F/Hが0.30以上1.60未満の衝撃吸収部材モデルE1,E14~E16では、ストローク初期に荷重が急激に上昇して120kN以上の高い最大荷重を達成した後、ストローク後期まで明確な荷重低下が認められず比較的高い荷重が維持された。以上より、比F/Hが0.3以上1.60未満となるように非衝突壁側凹み部を形成した衝撃吸収部材モデルE1,E14~E16では、特に大きな初期荷重と良好な荷重維持特性とを両立可能であり、エネルギー吸収効率を効果的に高められることが知られた。
【0046】
[検証実験6:衝突壁側凹み部の開口長2Hの影響]
衝突壁側凹み部の形状がP1衝突性能に与える影響について、上記の実施例1並びに実施例18から実施例21に係る、衝撃吸収部材モデルE1,E18~E21を用いて検証した。実施例1に係る衝撃吸収部材モデルE1では、衝突壁側凹み部の深さFを7.0mm、開口長2Hを32.0mmとし、深さFと開口長2Hの半値との比(F/H)が0.44となるように形成していたが、実施例18から実施例21に係る衝撃吸収部材モデルE18~E21では、深さFを7.0mmに固定する一方で、開口長2H図4の表に示すように変更し、比F/Hが、実施例18に係る衝撃吸収部材モデルE18で0.10、実施例19に係る衝撃吸収部材モデルE19で0.27、実施例20に係る衝撃吸収部材モデルE20で0.80、実施例21に係る衝撃吸収部材モデルE21で1.00となるように調整した。なお、衝撃吸収部材モデルE1,E18~E21は何れも、衝撃吸収部材モデルE1と同じ寸法形状の非衝突壁側凹部を有している。
【0047】
図12は、実施例1,18~21に係る衝撃吸収部材モデルE1,E18~E21において、衝突解析を実施して得られた荷重-ストローク線図である。図12に示すように、衝撃吸収部材モデルE1,E18~E21のすべてにおいて、荷重性能に差異は認められず、ストローク初期に荷重が急激に上昇し、120kN以上の高い最大荷重が達成された。また、ストローク後期まで明確な荷重低下は認められなかった。ストローク後期まで中リブの座屈が生じなかったと推察される。以上より、所定範囲内の形状の非衝突面側凹み部を有し、比F/Hが0.10以上1.00以下となるような衝突壁側凹み部を形成した衝撃吸収部材モデルE1,E18~E21では、大きな初期荷重と良好な荷重維持特性とを両立可能であり、エネルギー吸収効率を高められることが知られた。比F/Hの値が0.10以上1.00以下の範囲となる形状の衝突壁側凹み部を形成することにより、非衝突壁側凹み部と併せて中リブの長さNを調整し、座屈強度を高めることができる。
【0048】
以上に記載したように、本実施形態に係る衝撃吸収部材1は、下記の構成を有する。
(1) 車両に取り付けられて衝突時の衝撃を吸収する衝撃吸収部材(車両用衝撃吸収構造部材)1であって、長手状に形成されたアルミニウム合金押出中空形材からなり、鉛直方向に配され、一の板面が衝突面1Aを構成する衝突壁10と、前記衝突壁10に対し前記衝突面1Aとは反対側に平行に配され、前記衝突壁10とは反対側に配される板面が非衝突面1Bを構成する非衝突壁20と、前記衝突壁10と前記非衝突壁20とをつなぐ上壁30及び下壁40と、前記上壁30及び前記下壁40の間に配され、前記衝突壁10と前記非衝突壁20とつなぐ中リブ50と、を有し、前記非衝突面1Bに付設されたステイ(取付部材)2によって前記車両に取り付けられ、前記衝突壁10における前記中リブ50との接続部分、並びに、前記非衝突壁20における前記中リブ50との接続部分には、当該衝撃吸収部材1の長手方向に沿って前記衝突壁10又は前記非衝突壁20が前記中リブ50側に後退した、衝突壁側凹み部11、並びに非衝突壁側凹み部21が形成されている。
【0049】
上記構成によれば、アルミニウム合金押出中空形材を利用することで軽量化され、中リブ50によって大きな初期荷重を発現可能とされた略日型断面を有する衝撃吸収部材1において、衝突壁10のみならず非衝突壁20にも非衝突壁側凹み部21を設けたことにより、衝突時の中リブ50の座屈を遅延させることができる。詳しくは、非衝突壁側凹み部21を形成したことで、衝突壁10と非衝突壁20とをつなぐ方向における中リブ50の長さNを、一層短くできる。これにより、中リブ50自体の座屈強度が増す。さらに、非衝突壁側凹み部21が設けられていることで、中リブ50の非衝突壁20側の端部がステイ2の付設面である非衝突面1Bに到達しない構造となる。よって、衝突時に中リブ50に伝わった荷重が非衝突面1Bに到達する前に非衝突壁側凹み部21の底部に沿って分散され、中リブ50におけるステイ2の付設箇所近傍への局部的な応力集中が緩和されると推察される。これにより、中リブ50の座屈を遅延させ、衝突初期における耐荷重の低下を抑制することができる。以上の結果、衝撃吸収部材1は、オフセット衝突時、特に、衝突の比較的早い段階で応力集中による衝撃吸収部材1の変形が生じやすいP1衝突時に、良好なエネルギー吸収効率を発揮できるものとなる。なお、既述した非衝突壁側凹み部21の二つの効果のうち後者の応力集中緩和効果は、衝突壁側凹み部11には認められないものであり、衝撃吸収部材1に非衝突壁側凹み部21を形成することで、特に局部的な応力集中が生じやすいP1衝突時のエネルギー吸収効率を、極めて効果的に高めることができる。
【0050】
また、本実施形態では、上壁30及び下壁40が、非衝突壁20から衝突壁10側に向かうにつれて薄肉化する(壁厚が小さくなる)ように形成した。このようにしたことで、上壁30及び下壁40の全体を、非衝突壁20側と同じ壁厚で形成した場合と比較して、初期荷重や荷重維持特性を損なうことなく、軽量化することができる。本実施形態では、上壁30及び下壁40の両壁を薄肉化したが、何れか一方のみを薄肉化してもよく、これらに加えて、或いはこれらに代えて、中リブを薄肉化してもよい。
【0051】
また、本実施形態に係る衝撃吸収部材1は、下記の構成を有していてもよい。
(2) 上記(1)において、前記非衝突壁20の前記非衝突壁側凹み部21は、少なくとも前記ステイ2の付設箇所から当該衝撃吸収部材1の長手方向端部に位置する自由端に亘るように形成されている。
P1衝突時には、中リブ50におけるステイ2の付設箇所近傍に応力が特に集中するため、衝突の初期段階においても中リブ50の座屈が生じやすい。上記構成によれば、中リブ50のうち座屈が生じやすい部位に、すなわちステイ2の付設箇所から衝撃吸収部材1の自由端12に亘るように、非衝突壁側凹み部21を設けたことで、オフセット衝突時の中リブ50の座屈を効果的に遅延させ、衝撃吸収部材1の荷重維持特性を向上させることができる。
【0052】
また、本実施形態に係る衝撃吸収部材1は、下記の構成を有することが好ましい。
(3) 上記(1)又は(2)において、前記衝突面1Aと前記非衝突面1Bとの距離をTとしたとき、前記衝突壁10と前記非衝突壁20とをつなぐ方向における前記中リブ50の長さNは、0.5T以上0.83T以下である。
このようにすれば、アルミニウム合金押出中空形材を採用したことによる軽量化効果及び中リブ50を配設したことによる初期荷重の増大効果を維持しつつ、非衝突壁側凹み部21を形成したことによる荷重維持特性の向上効果を、十分に得ることができる。すなわち、中空形材からなる衝撃吸収部材1は、中リブ50を配設することにより、初期荷重を増大させている。他方、中リブ50のような柱部の座屈強度は、細長比(荷重がかかる方向における中リブ50の長さNと、これに直交する断面の断面積)に依存し、断面積(特に中リブ50の壁厚)が一定であれば、長さNが大きいほど座屈しやすいことが知られている。よって、中リブ50の長さNを小さくすることで、衝撃吸収部材1の荷重維持特性を向上させることができる。衝撃吸収部材1において、距離Tに対する中リブ50の長さNの比が、上記範囲よりも小さいと、断面積が大きくなって重量が増加するとともに、中リブ50を配設したことによる初期荷重の増大効果が低下する虞がある。他方、同比が上記範囲よりも大きくなると、凹み部11,21を形成したことによる荷重維持特性の向上効果が小さくなる。
【0053】
また、本実施形態に係る衝撃吸収部材1は、下記の構成を有することが好ましい。
(4) 上記(1)から(3)の何れかにおいて、前記非衝突面1Bの上下方向の長さをWとしたとき、前記中リブ50は、上下方向について、前記上壁の上面及び前記下壁の下面の中央からのシフト量Sが0.14W以下となる位置に配されている。
このようにすれば、中リブ50を配設したことによる初期荷重の増大効果と併せて、凹み部11,21を形成したことによる荷重維持特性の向上効果を十分に得ることができる。中リブ50の配設位置が上壁30及び下壁40間の中央からシフトするほど、中リブ50に加わるモーメント負荷が増加するため、耐座屈強度は低下する傾向にある。よって、中リブ50の配設位置のシフト量Sが上記範囲よりも大きくなると、中リブ50の座屈が生じやすくなり、衝撃吸収部材1のエネルギー吸収効率が低下すると推察される。
【0054】
また、本実施形態に係る衝撃吸収部材1は、下記の構成を有することが好ましい。
(5) 上記(1)から(4)の何れかにおいて、前記非衝突壁20の前記凹み部21は、断面が、弓形、楕円弓形、方形、又は三角形をなすように形成されている。
このようにすれば、非衝突壁側凹み部21による荷重維持特性の向上効果を十分に得ることができる。非衝突壁側凹み部21を上記のような形状とした場合、ステイ2が付設される非衝突面1Bに対し、中リブ50からの力が分散されて伝わることで、衝撃吸収部材1の荷重維持特性が向上すると推察される。
【0055】
また、本実施形態に係る衝撃吸収部材1は、下記の構成を有することが好ましい。
(6) 上記(1)から(5)の何れかにおいて、前記非衝突壁20に形成された前記凹み部21は、前記非衝突面1Bにおける開口の幅を2Hとし、前記非衝突面1Bからの深さをFとしたとき、両者の比F/Hが0.3以上1.6以下である。
このようにすれば、中リブ50に伝わった衝突荷重が、非衝突壁側凹み部21の底部に沿って上手く分散されながら、ステイ2の付設面である非衝突面1Bに伝えられることで、荷重維持特性の向上効果を十分に得ることができると推察される。比F/Hが上記範囲よりも小さい(開口長2Hに対して深さFが小さい)場合は、荷重が非衝突面1Bに伝わりやすくなるために、また、比F/Hが上記範囲よりも大きい(深さFに対して開口長2Hが小さい)場合は、非衝突面1Bに伝わった際の荷重の分散が十分でなくなるために、中リブ50の特定箇所への応力集中が緩和され難くなり、変形や座屈を生じ易くなってしまうのではないかと考えられる。
【0056】
<他の実施形態>
本明細書が開示する技術には、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて、当業者の知識に基づいて、種々なる変更、修正、改良等を加えることができる。例えば、次のような実施形態も、本明細書が開示する技術の技術的範囲に含まれる。
【0057】
(1)上記実施形態では、上壁と下壁との間に1本の中リブが設けられている車両用衝撃吸収構造部材について例示したが、これに限定されない。上壁と下壁との間に複数本の中リブが設けられていてもよい。この場合、非衝突壁側凹み部は、すべての中リブと非衝突壁との接続部分に複数本が設けられていてもよく、一部の接続部分のみに設けられていてもよい。
【0058】
(2)上記実施形態では、直線型の車両用衝撃吸収構造部材について例示したが、湾曲型の車両用衝撃吸収構造部材にも、本技術は適用可能である。
【0059】
(3)上記実施形態では、車両の後面に取り付けられるRUPに用いられる衝撃吸収部材について例示したが、これに限定されない。車両の前面のみならず、車両の側面に取り付けられる車両用衝撃吸収構造部材にも、本技術は適用可能である。
【符号の説明】
【0060】
1…衝撃吸収部材(車両用衝撃吸収構造部材の一例)、1A…衝突面、1B…非衝突面、2…ステイ(取付部材の一例)、3…オフセット衝突バリア、10,10-E1,10-E10~10-E12,C10…衝突壁、11,11-E1,11-E10~11-E12…衝突壁側凹み部、12…自由端、20,20-E1,20-E10~20-E12,C20…非衝突壁、21,21-E1,21-E10~21-E12…非衝突壁側凹み部、30…上壁、40…下壁、50…中リブ、CL…(上下方向における衝撃吸収部材の)中心線、CL…(車両幅方向における衝撃吸収部材の)中心線、T…(衝突面及び非衝突面間の)距離、W…(中リブの)長さ、S…(中リブの)シフト量、F…(衝突壁側凹み部の)深さ、F…(非衝突壁側凹み部の)深さ、2H…(衝突壁側凹み部の)開口長、2H…(非衝突壁側凹み部の)開口長、s1…支点、w1-1,w1-2…壁幅、M,E1~E21,C1,C2…衝撃吸収部材モデル
図1
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図5A
図5B
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