(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-22
(45)【発行日】2022-12-01
(54)【発明の名称】アクティブ消音装置及びアクティブ消音方法
(51)【国際特許分類】
G10K 11/178 20060101AFI20221124BHJP
【FI】
G10K11/178 140
(21)【出願番号】P 2019170821
(22)【出願日】2019-09-19
【審査請求日】2021-12-14
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 奥村組技術研究年報No.45、第11頁,第20頁及び第103頁~第108頁、株式会社奥村組技術研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000140292
【氏名又は名称】株式会社奥村組
(74)【代理人】
【識別番号】100094042
【氏名又は名称】鈴木 知
(72)【発明者】
【氏名】金澤 朗蘭
【審査官】大石 剛
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-058773(JP,A)
【文献】特開平08-328568(JP,A)
【文献】特開2005-004013(JP,A)
【文献】特開2015-225130(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G10K 11/178
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一つもしくは複数の騒音源から制御位置へ向けて発せられる制御対象音を観測する一つもしくは複数のマイクと、
上記制御位置へ向けて上記制御対象音を低減する制御音を放出する複数のスピーカと、
上記マイク個々から上記制御対象音の音信号が入力され、上記スピーカ個々へ上記制御音の音信号を出力する単一のコントローラと、
該コントローラに一つもしくは複数設けられ、上記マイク個々からの上記制御対象音の音信号が入力され、上記制御対象音を低減する上記制御音の音信号個々を、フィードフォワード制御によって作成し上記スピーカ個々へ出力する制御音信号作成部と、
上記制御位置もしくは該制御位置近傍に設けられ、上記制御対象音と上記制御音とが重なり合った重合音を観測して上記コントローラへ出力するモニタ用マイクと、
上記コントローラに設けられ、上記モニタ用マイクから入力された上記重合音に応じて、フィードバック制御により、上記制御音信号作成部で作成された上記制御音の音信号の振幅を調整する振幅調整部とを備えたことを特徴とするアクティブ消音装置。
【請求項2】
前記制御音信号作成部は、前記マイクから入力される前記制御対象音の音信号に含まれる所定の卓越周波数の音信号を透過させるバンドパスフィルタと、
該バンドパスフィルタを透過した上記卓越周波数の音信号を、上記マイクから入力される上記制御対象音の音信号に基づいて同定する同定部と、
前記制御位置で前記制御音が前記制御対象音と同振幅及び逆位相となるように、上記同定部で同定した上記卓越周波数の音信号に対して振幅及び位相の補正を行って前記制御音の音信号を作成する補正部とを備えることを特徴とする請求項1に記載のアクティブ消音装置。
【請求項3】
前記振幅調整部は、複数の前記スピーカ個々に対して振幅上限値及び振幅を小さくする振幅低減係数が設定され、前記モニタ用マイクから入力された前記重合音の平均振幅が上記振幅上限値以下である上記スピーカに対しては、前記制御音信号作成部で作成された前記制御音の音信号をそのまま前記コントローラから出力し、上記重合音の平均振幅が上記振幅上限値を超えている上記スピーカに対しては、上記制御音信号作成部で作成された上記制御音の音信号を上記振幅低減係数で調整して上記コントローラから出力することを特徴とする請求項1または2に記載のアクティブ消音装置。
【請求項4】
請求項1または2に記載のアクティブ消音装置を用い、
前記単一のコントローラの一つもしくは複数の前記制御音信号作成部で、フィードフォワード制御により、一つもしくは複数の前記マイク個々から入力される前記制御対象音の音信号個々に対して、前記制御対象音を低減する前記制御音の音信号個々を作成し複数の前記スピーカ個々へ出力する第1ステップと、
上記単一のコントローラの前記振幅調整部で、前記モニタ用マイクから入力された前記重合音に応じ、フィードバック制御により、上記第1ステップで上記制御音信号作成部により作成された上記制御音の音信号の振幅を調整する第2ステップと、
該第2ステップで振幅調整された上記制御音の音信号が上記コントローラから入力される前記スピーカ個々が、前記制御位置へ向けて前記制御音を放出する第3ステップとを含むことを特徴とするアクティブ消音方法。
【請求項5】
前記振幅調整部は、複数の前記スピーカ個々に対して振幅上限値及び振幅を小さくする振幅低減係数が設定され、前記モニタ用マイクから入力された前記重合音の平均振幅が上記振幅上限値以下である上記スピーカに対しては、前記制御音信号作成部で作成された前記制御音の音信号をそのまま前記コントローラから出力し、上記重合音の平均振幅が上記振幅上限値を超えている上記スピーカに対しては、上記制御音信号作成部で作成された上記制御音の音信号を上記振幅低減係数で調整して上記コントローラから出力することを特徴とする請求項4に記載のアクティブ消音方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各スピーカからの制御音同士の干渉を抑制することが可能で、複数台のスピーカにより、空間的に広がりのある領域を対象として消音効果を確保することが可能なアクティブ消音装置及びアクティブ消音方法に関する。
【背景技術】
【0002】
工場などの各種施設では、作業者の作業環境に対する改善の要望があり、その中で、騒音対策が求められている。騒音源を囲うことが有効であるが、作業の都合で囲うことが難しい場合が多い。このような観点から、作業者が作業を行う作業場所を対象としたアクティブ・ノイズ・コントロール技術の開発が期待されている。
【0003】
この種の提案として、例えば特許文献1及び2が知られている。特許文献1の「能動騒音制御装置及び能動騒音制御方法」は、消音効果を奏する領域面積を維持することができるとともに、小型化を図ること可能な能動騒音制御装置及びその方法を提供することを課題とし、騒音を検出する参照マイクと、制御音を出力する制御スピーカと、制御スピーカに並設される近傍特性検出マイクと、第1伝達特性を同定する回路と、第1伝達特性、第2伝達特性、及び第2誤差特性に基づいて、制御スピーカから近傍特性検出マイクまでの特性を算出し、第1伝達特性、及び特性に基づいて、制御音と騒音とを制御点で位相干渉させて制御領域での騒音を低減する制御フィルタを構成する回路と、参照マイクの検出結果及び制御フィルタに基づいて、制御スピーカの制御音を制御する回路とを備えて構成されている。
【0004】
特許文献2の「アクティブ消音装置及びアクティブ消音方法」は、アクティブ消音装置において、制御領域内に誤差マイクを配置することなく、制御領域内において制御対象音を効率よくかつ、十分に打ち消すことを課題とし、第1適応フィルタを介してスピーカの発音をフィードフォワード制御するアクティブ消音装置に係る。このアクティブ消音装置は、制御領域外に配置されかつ、制御音と制御対象音とが合成された合成音を検出すると共に、該検出結果に対応した領域外集音信号を出力する誤差マイクを備える。コントローラは、制御音によって制御領域において制御対象音が打ち消されたときの、参照マイクから誤差マイクに至る伝達特性を同定する同定部と、参照マイク及び誤差マイクからの出力に基づき第1適応フィルタを更新することにより、同定された伝達特性と一致するようにスピーカの発音をフィードフォワード制御する制御部と、を有して構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2011-123330号公報
【文献】特開2018-169439号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
アクティブノイズコントロールは従来周知のように、騒音源から騒音を低減したい場所(消音したい場所)、例えば作業場所に到達する騒音に対し、当該騒音と同振幅(同音圧)・逆位相の制御音を騒音を低減したい場所へ向けてスピーカから放出し重ね合わせることによって、消音制御を行うものである。
【0007】
スピーカが1台であると、騒音と制御音とが重なり合った音が作業者等に感得される範囲は狭く、消音効果は、制御音が到達するほぼ一点にピンポイントで得られるだけであって、スピーカでカバーし得る範囲から外れると、消音効果は僅かなものとなってしまう。
【0008】
消音効果が得られる範囲をピンポイントから空間的に広がりのある領域(ゾーン)に広げるためには、制御音によってカバーし得る範囲を広げるように、スピーカを複数台設置し、これらスピーカそれぞれから騒音を低減したい場所へ向けて制御音を放出することが考えられる。
【0009】
しかしながら、複数台の各スピーカの性能特性は個々個別であると共に、施設の制限から、騒音を低減したい場所に対して各スピーカを理想的な位置に設置できない場合があり、さらには、各スピーカから放出される各制御音同士が干渉して消音効果が減殺されてしまうおそれがあるなど、複数台のスピーカによる消音制御には解決しなければならない課題があった。
【0010】
本発明は上記従来の課題に鑑みて創案されたものであって、複数台の各スピーカから騒音を低減したい(消音したい)場所へ向けて制御音をそれぞれ放出して騒音源からの騒音をアクティブに消音する場合に、各スピーカの性能特性及び各スピーカの設置位置(スピーカと騒音を低減したい場所との距離)が異なっても、各スピーカからの制御音同士の干渉を抑制することが可能で、複数台のスピーカにより、空間的に広がりのある領域を対象として消音効果を確保することが可能なアクティブ消音装置及びアクティブ消音方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明にかかるアクティブ消音装置は、一つもしくは複数の騒音源から制御位置へ向けて発せられる制御対象音を観測する一つもしくは複数のマイクと、上記制御位置へ向けて上記制御対象音を低減する制御音を放出する複数のスピーカと、上記マイク個々から上記制御対象音の音信号が入力され、上記スピーカ個々へ上記制御音の音信号を出力する単一のコントローラと、該コントローラに一つもしくは複数設けられ、上記マイク個々からの上記制御対象音の音信号が入力され、上記制御対象音を低減する上記制御音の音信号個々を、フィードフォワード制御によって作成し上記スピーカ個々へ出力する制御音信号作成部と、上記制御位置もしくは該制御位置近傍に設けられ、上記制御対象音と上記制御音とが重なり合った重合音を観測して上記コントローラへ出力するモニタ用マイクと、上記コントローラに設けられ、上記モニタ用マイクから入力された上記重合音に応じて、フィードバック制御により、上記制御音信号作成部で作成された上記制御音の音信号の振幅を調整する振幅調整部とを備えたことを特徴とする。
【0012】
前記制御音信号作成部は、前記マイクから入力される前記制御対象音の音信号に含まれる所定の卓越周波数の音信号を透過させるバンドパスフィルタと、該バンドパスフィルタを透過した上記卓越周波数の音信号を、上記マイクから入力される上記制御対象音の音信号に基づいて同定する同定部と、前記制御位置で前記制御音が前記制御対象音と同振幅及び逆位相となるように、上記同定部で同定した上記卓越周波数の音信号に対して振幅及び位相の補正を行って前記制御音の音信号を作成する補正部とを備えることを特徴とする。
【0013】
前記振幅調整部は、複数の前記スピーカ個々に対して振幅上限値及び振幅を小さくする振幅低減係数が設定され、前記モニタ用マイクから入力された前記重合音の平均振幅が上記振幅上限値以下である上記スピーカに対しては、前記制御音信号作成部で作成された前記制御音の音信号をそのまま前記コントローラから出力し、上記重合音の平均振幅が上記振幅上限値を超えている上記スピーカに対しては、上記制御音信号作成部で作成された上記制御音の音信号を上記振幅低減係数で調整して上記コントローラから出力することを特徴とする。
【0014】
本発明にかかるアクティブ消音方法は、上記アクティブ消音装置を用い、前記単一のコントローラの一つもしくは複数の前記制御音信号作成部で、フィードフォワード制御により、一つもしくは複数の前記マイク個々から入力される前記制御対象音の音信号個々に対して、前記制御対象音を低減する前記制御音の音信号個々を作成し複数の前記スピーカ個々へ出力する第1ステップと、上記単一のコントローラの前記振幅調整部で、前記モニタ用マイクから入力された前記重合音に応じ、フィードバック制御により、上記第1ステップで上記制御音信号作成部により作成された上記制御音の音信号の振幅を調整する第2ステップと、該第2ステップで振幅調整された上記制御音の音信号が上記コントローラから入力される前記スピーカ個々が、前記制御位置へ向けて前記制御音を放出する第3ステップとを含むことを特徴とする。
【0015】
前記振幅調整部は、複数の前記スピーカ個々に対して振幅上限値及び振幅を小さくする振幅低減係数が設定され、前記モニタ用マイクから入力された前記重合音の平均振幅が上記振幅上限値以下である上記スピーカに対しては、前記制御音信号作成部で作成された前記制御音の音信号をそのまま前記コントローラから出力し、上記重合音の平均振幅が上記振幅上限値を超えている上記スピーカに対しては、上記制御音信号作成部で作成された上記制御音の音信号を上記振幅低減係数で調整して上記コントローラから出力することを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明にかかるアクティブ消音装置及びアクティブ消音方法にあっては、複数台の各スピーカから騒音を低減したい(消音したい)場所へ向けて制御音をそれぞれ放出して騒音源からの騒音をアクティブに消音する場合に、各スピーカの性能特性及び各スピーカの設置位置(スピーカと騒音を低減したい場所との距離)が異なっても、各スピーカからの制御音同士の干渉を抑制することができ、複数台のスピーカにより、空間的に広がりのある領域を対象として消音効果を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明に係るアクティブ消音装置及びアクティブ消音方法が適用される騒音を例示した説明図である。
【
図2】本発明に係るアクティブ消音装置及びアクティブ消音方法の好適な一実施形態を説明する説明図である。
【
図3】
図2に示したアクティブ消音装置及びアクティブ消音方法を構成するコントローラを示す説明図である。
【
図4】
図3に示したコントローラの振幅調整部のロジックを説明する説明図である。
【
図5】
図2に示したアクティブ消音装置及びアクティブ消音方法に対して行った数値シミュレーションの計算モデルを説明する説明図である。
【
図6】
図5に示した計算モデルの想定イメージを説明する説明図である。
【
図7】
図5に示した数値シミュレーションに用いた騒音源から発せられる制御対象音(騒音)の音信号及び外乱に用いた音信号の周波数特性、並びに時系列特性を説明する説明図である。
【
図8】
図5に示した数値シミュレーションを、表1の計算ケースそれぞれについて行ったシミュレーションの結果を説明する説明図である。
【
図9】
図2に示したアクティブ消音装置及びアクティブ消音方法に対して実施した効果確認試験の実験状況を説明する説明図である。
【
図10】
図9に示した効果確認試験での対象領域における制御効果を説明する説明図である。
【
図11】
図9に示した効果確認試験において、実験室の中心位置における消音効果を説明する説明図である。
【
図12】
図9に示した効果確認試験において、実験室の対象領域における消音効果を説明する説明図である。
【
図13】本発明に係るアクティブノイズ消音装置及びアクティブ消音方法の変形例を示す、
図5(a)に対応する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、本発明にかかるアクティブ消音装置及びアクティブ消音方法の好適な一実施形態を、添付図面を参照して詳細に説明する。
【0019】
本実施形態にかかるアクティブ消音装置及びアクティブ消音方法は、単一の騒音源からの騒音を、騒音源近傍に設置した制御用マイクで計測し、単一の制御用スピーカで当該騒音を低減するようにした既知の制御方法を前提として完成されたものである。
【0020】
具体的に説明すると、定常騒音だけでなく、数秒の間に卓越周波数が急激に変動する非定常の騒音についても対策可能なように、フィードフォワード制御を採用し、また、高速で効率よく制御が収束するように、バンドパスフィルタを適用して騒音中の卓越周波数のみを制御対象として抽出する。
【0021】
すなわち、制御用マイクで計測した制御対象音の音信号にバンドパスフィルタを適用し、制御対象音の音信号から卓越周波数を含む所定範囲のみの音信号を抽出して、これを処理対象とする。
【0022】
卓越周波数が変動する非定常の騒音を考慮し、バンドパスフィルタを透過した卓越周波数の音信号を、周知のLMSアルゴリズムにより同定する。
【0023】
同定した卓越周波数の音信号をもとに、制御位置(騒音を低減したい場所)において、制御対象音と制御音が同振幅・逆位相となるように振幅及び位相の補正を行った制御音の音信号を生成して、制御音を制御用スピーカから出力するようになっている。
【0024】
本実施形態に係るアクティブ消音装置及びアクティブ消音方法が対象とする騒音の特性が
図1に示されている。
【0025】
卓越周波数をもつ騒音源には、定常騒音を発するものだけでなく、機械類の負荷に応じて卓越周波数が時間的に変動する変動騒音がある。卓越周波数が変動する騒音源の例としては、コンプレッサやエンジン(発電機など)、金属加工機械のうち、回転旋盤をもつもの、などがある。
【0026】
複数の制御用スピーカを使用する場合、制御用スピーカそれぞれから発せられる制御音相互の干渉により、騒音低減効果が減殺される可能性がある。すなわち、複数の制御用スピーカを使用する場合に、相互干渉の影響を抑制する制御の開発が重要である。
【0027】
図2及び
図3は、本実施形態に係るアクティブ消音装置1の好適な一実施形態を説明する説明図である。
図2は、アクティブ消音装置1を構成する機器の配置例を示している。
図3は、単一のコントローラ2(
図2及び
図3中、制御システム)内における処理手順のブロックダイヤグラムを示している。
【0028】
本実施形態に係るアクティブ消音装置1は、主に、一つもしくは複数の騒音源3から制御位置(
図2中、騒音を低減したい場所)4へ向けて発せられる制御対象音(
図2中、騒音)Nを観測する複数の制御用マイク(
図2及び
図3中、制御用マイク1及び2)5,5と、制御位置4へ向けて制御対象音Nを低減する制御音(
図2中、制御スピーカ1及び2からの音)S1,S2をそれぞれ放出する複数の制御用スピーカ(
図2中、スピーカ1及び2、
図3中、制御スピーカ1及び2)6,6と、複数の制御用マイク5,5それぞれから制御対象音Nの音信号が個々に入力され、複数の制御用スピーカ6,6それぞれへ制御音S1,S2の音信号を個々に出力する単一のコントローラ2と、コントローラ2に複数設けられ、各制御用マイク5,5からの制御対象音Nの音信号が個別に入力され、制御対象音Nを低減する制御音S1,S2の音信号を個別に、フィードフォワード制御によって作成し複数の制御用スピーカ6,6個々へ出力する制御音信号作成部7,7と、制御位置4もしくは制御位置4近傍に設けられ、制御対象音Nと制御音S1,S2とが重なり合った重合音SSを観測してコントローラ2へ出力するモニタ用マイク8と、コントローラ2に設けられ、モニタ用マイク8から入力された重合音SSに応じて、フィードバック制御により、各制御音信号作成部7,7で作成された各制御音S1,S2の音信号の振幅を調整する振幅調整部9とを備えて構成される。
【0029】
コントローラ2は、演算装置を備えるパソコン等で構成され、1台で構成される。複数のコントローラ(パソコン等)で構成することも可能であるが、すべてを完全に同期させることが困難であるため、単一のコントローラ2で構成することが望ましい。
【0030】
コントローラ2は、制御用マイク5,5から入力される制御対象音Nのアナログ信号をデジタル化した制御対象音Nの音信号を作成して処理し、制御音S1,S2の音信号(デジタル信号)をアナログ化した制御音S1,S2を作成して制御用スピーカ6,6に出力する。
【0031】
本実施形態では、制御用マイク5,5と制御用スピーカ6,6とは、1:1で対をなすようにして、複数備えられる。そして、コントローラ2には、複数対の制御用マイク5,5及び制御用スピーカ6,6と同じ数の複数の制御音信号作成部7,7が備えられる。
【0032】
制御用マイク5,5は、騒音源3の近傍に設置される。工場のように、騒音源が多数ある場合は、制御位置4に相当する位置で予め騒音(制御対象音)を計測して、特に音圧の大きな周波数域を特定し、その周波数域の騒音を発生する騒音源3の近傍に制御用マイク5,5を設置するようにする。
【0033】
制御音信号作成部7,7は
図3に示されている。各制御音信号作成部7,7はそれぞれ、いずれかの制御用マイク5,5から入力された制御対象音Nの音信号に対して、当該制御用マイク5,5に対応する制御用スピーカ6,6へ制御音S1,S2の音信号を作成し出力する。
【0034】
すなわち、複数備えられる制御音信号作成部7,7は、対をなす制御用マイク5,5及び制御用スピーカ6,6の個数と同じ数で複数入力される個々の制御対象音Nの音信号に対し、個別に複数の制御音S1,S2の音信号を作成して出力する。
【0035】
コントローラ2は、騒音源3から発せられる制御対象音(騒音)Nを制御位置4に到達する前に観測する制御用マイク5,5からの入力を処理し、制御音S1,S2を制御用スピーカ6,6へ向けて出力するフィードフォワード制御を実行する。
【0036】
各制御音信号作成部7は、詳細には、制御用マイク5から入力される制御対象音Nの音信号に含まれる所定の卓越周波数の音信号を透過させるバンドパスフィルタ10と、バンドパスフィルタ10を透過した卓越周波数の音信号(周波数)を、制御用マイク5から入力される制御対象音Nの音信号(周波数)に基づいて同定する同定部11と、制御位置4で制御音S1,S2が制御対象音Nと同振幅及び逆位相となるように、同定部11で同定した卓越周波数の音信号に対して振幅及び位相の補正を行って制御音S1,S2の音信号を作成する補正部12とを備える。
【0037】
制御対象音(騒音)Nに含まれる卓越周波数を推定する際、推定範囲を限定し、推定にかかる処理時間を短縮するために、コントローラ2において取得された制御用マイク5からの制御対象音Nの音信号は、卓越周波数の推定範囲を限定するためのバンドパスフィルタ10を通過する。これにより、制御用マイク5から入力される制御対象音Nから、当該制御対象音Nに含まれる所定の卓越周波数が透過される。
【0038】
所定の卓越周波数とは、騒音を低減したい場所である制御位置4で打ち消したい音の周波数をいう。
【0039】
制御対象音Nに含まれる当該所定の卓越周波数とは、騒音を低減したい作業場所等の場所4で予め実施される調査で事前に取得され、その値と変動する範囲(幅)とが把握された周波数であって、本実施形態に係るアクティブ消音装置1及びアクティブ消音方法で作成される逆位相の制御音S1,S2によって減殺する対象となる周波数を言う。
【0040】
事前調査の結果に応じて、各制御音信号作成部7,7の、各制御用マイク5,5に対応するバンドパスフィルタ10,10それぞれに対し、透過させる周波数の範囲が設定される。
【0041】
同定部11では、バンドパスフィルタ10を通過した信号に、周知のLMSアルゴリズムを使用して、時間領域で(時間軸に沿って)卓越周波数を同定する。
【0042】
バンドパスフィルタ10を通過した音信号(卓越周波数の音信号)は、制御用マイク5で観測した制御対象音Nに含まれる卓越周波数の音に対して、振幅や位相が変化しており、減殺対象である実際の制御対象音(騒音)N中の卓越周波数の音と同振幅・逆位相とならず、制御音S1,S2によって制御対象音N(具体的には音圧)を適切に低減することができない。
【0043】
本実施形態では、同定部11の後段に補正部12が備えられる。この補正部12は、制御用マイク5やコントローラ2等の装置による位相のずれと、バンドパスフィルタ10やLMSアルゴリズム等の電子的な処理によって生じる位相のずれ、さらには、制御用スピーカ6による位相のずれ、制御位置4と制御用マイク5の距離が原因である空間伝搬にかかる遅延を予め計測しておいて、所定の卓越周波数に対する補正値として取得しておき、この補正値を用いて同定部11を通過した音信号を補正するようになっている。
【0044】
そして、補正した音信号は振幅調整部9へ出力され、コントローラ2は、振幅調整部9で処理した音信号をアナログ化して制御用スピーカ6,6へ出力し、これにより、減殺対象の制御対象音Nに含まれる卓越周波数の音を、制御用スピーカ6,6から放出する制御音S1,S2で打ち消すように抑制する。
【0045】
フィードフォワード制御で複数台の制御用スピーカ6,6から個別に制御位置4へ向けて制御音S1,S2を放出すると、制御音S1,S2同士が互いに干渉し合ってしまって、所望の消音効果を確保することができないことが考えられる。
【0046】
本実施形態では、制御位置近傍に上記モニタ用マイク8が備えられると共に、コントローラ2に上記振幅調整部9が設けられ、これらを用いて制御音S1,S2の音信号に対し、フィードバック制御により振幅調整処理が行われるようになっている。
【0047】
すなわち、振幅調整部9は、フィードフォワード制御で作成された各制御音S1,S2の音信号の振幅についてだけ、モニタ用マイク8で実際に観測された制御位置4もしくはその近傍での制御対象音Nと各制御用スピーカ6,6からの複数の制御音S1,S2とが重なり合った重合音SSに応じて、各制御音S1,S2の音信号の振幅を個々に調整する。
【0048】
具体的には、振幅調整部9は、
図4に示すように、複数の制御用スピーカ6,6個々に対して振幅上限値A及び振幅を小さくする振幅低減係数Bが設定され、モニタ用マイク8から入力された重合音SSの過去数ミリ秒間の平均振幅V
ave が振幅上限値A(V
ave の上限値)以下である制御用スピーカ6に対しては、各制御音信号作成部7で作成された制御音(
図4中、計算された出力音y;S1,S2)の音信号をそのままコントローラ2から出力(y=y)し、重合音SSの平均振幅V
ave が振幅上限値Aを超えている制御用スピーカ6に対しては、各制御音信号作成部7で作成された制御音S1,S2の音信号を振幅低減係数Bで調整(y=By)してコントローラ2から出力する。振幅調整部9を経た各制御音S1,S2の音信号が、各制御用スピーカ6,6から放出される。この際、重合音SSの平均振幅V
ave が振幅上限値Aを超えているか否かは、制御用スピーカ6,6ごとに判定される。
【0049】
図示例では、振幅調整部9は、ひとまとまりのモジュール形態で表記されているが、各制御音信号作成部7,7毎に個々に複数備えるようにしても良いことはもちろんである。
【0050】
複数の制御用スピーカ6,6を用いる場合、コントローラ2は、制御位置4において、制御対象音Nと各制御用スピーカ6,6からの各制御音S1,S2とが重なり合って打ち消し合うように、各制御音S1,S2を生成し出力する。このとき、例えば制御位置4と各制御用スピーカ6,6それぞれとの距離によって、放出される制御音S1,S2同士で振幅比が異なる場合があるため、振幅の調整を行う。
【0051】
振幅の調整は、事前の制御用スピーカ6,6の配置検討時に各制御用スピーカ6,6に対し振幅について振幅低減係数Bを決定することに加え、モニタ用マイク8により重合音SSを観測して振幅低減係数Bをさらに調整するようになっている。すなわち、各制御用スピーカ6,6から出力される制御音S1,S2の振幅(音圧)を調整するようにする。振幅上限値A及び振幅低減係数Bは、事前の試験やシミュレーションの結果から、各制御用スピーカ6,6に個々に割り当てられる。
【0052】
振幅上限値A及び振幅低減係数Bは、制御用スピーカ6,6毎に設定される。また、平均振幅を求める際の平均時間についても、騒音源3の特性に合わせて設定される。
【0053】
このようなモニタ用マイク8及び振幅調整部9により、フィードバック制御で制御音S1,S2の振幅を調整する本実施形態に係るアクティブ消音装置及びその方法は、後述する数値シミュレーション及び効果確認試験を行った結果、収束の速さと制御の安定性を維持しながら、各制御用スピーカ6,6それぞれから放出される制御音S1,S2同士の干渉を適切に制御できることが検証された。
【0054】
本実施形態に係るアクティブ消音方法は、上述したアクティブ消音装置1を用いて実施されるもので、基本的には、単一のコントローラ2の複数の制御音信号作成部7,7で、フィードフォワード制御により、複数の制御用マイク5,5それぞれから入力される複数の制御対象音Nの音信号個々に対して、制御対象音Nを低減する複数の制御音S1,S2の音信号を個々に作成し複数の制御用スピーカ6,6個々へ出力する第1ステップと、単一のコントローラ2の振幅調整部9で、モニタ用マイク8から入力された重合音SSに応じ、フィードバック制御により、第1ステップで各制御音信号作成部7,7により作成された各制御音S1,S2の音信号の振幅を調整する第2ステップと、第2ステップで振幅調整された各制御音S1,S2の音信号がコントローラ2からそれぞれ入力される複数の制御用スピーカ6,6が、制御位置4へ向けて制御音S1,S2を放出する第3ステップとを含んで構成される。
【0055】
≪数値シミュレーション≫
上記実施形態に係るアクティブ消音装置1及びアクティブ消音方法により、制御位置4における音圧について、
図5及び
図6に従って、数値シミュレーションを行った。
図5には、計算モデルが示されていて、
図5(a)は、騒音源(
図5及び
図6中、音源)3の数が1つで、制御用マイク5,5及び制御用スピーカ6,6がそれぞれ2台の場合の計算モデルであり、
図5(b)は、騒音源(
図5及び
図6中、音源1及び2)の数が2つで、制御用マイク5,5及び制御用スピーカ6,6がそれぞれ2台の場合の計算モデルである。
【0056】
図6には、これら計算モデルの想定イメージが示されていて、
図6(a)は、
図5(a)に対応し、
図6(b)は、
図5(b)に対応するものである。表1には、数値シミュレーションの計算ケースとして、ケース1~ケース8まで示されている。
【0057】
【0058】
図5中の表記と、
図5~
図8の説明に限り、S,S1,S2は、騒音源から発せられる制御対象音の音信号、xは、各制御用マイク5,5で観測されコントローラ2に入力される制御対象音の音信号、x’は、バンドパスフィルタ10を透過した所定の卓越周波数の音信号、yは、補正部12で振幅及び位相が補正された制御音の音信号、y’は、振幅調整部9で調整されてコントローラ2から各制御用スピーカ6,6へ出力される制御音の音信号、Cは伝達関数である。伝達関数Cに付されている添え字のS,S1,S2は騒音源、Eは制御位置、Mはモニタ用マイク、Cは制御用スピーカであり、末尾の数字で各制御用マイク5,5からの入力経路と各制御用スピーカ6,6からの出力経路を示している。なお、
図5中、制御用スピーカ6,6は、スピーカ1,2と表記され、モニタ用マイク8はモニタ点と表記され、
図6中、制御位置4は制御点と表記され、モニタ用マイク8は、モニタと表記されている。
【0059】
図5(a)の場合、制御対象音Sの音信号は、
x
1=C
1S
x
2=C
2S
であり、
制御位置4の音信号は、
C
SES+C
CE1y
1’+C
CE2y
2’=0
モニタ用マイク8の位置(モニタ点)で観測される重合音SSは、
C
SMS+C
CM1y
1’+C
CM2y
2’
である。
【0060】
図5(b)の場合、制御対象音S1,S2の音信号は、
x
1=C
11S
1+C
21S
2
x
2=C
22S
2+C
12S
1
であり、
制御位置4の音信号は、
C
S1ES
1+C
CE1y
1’+C
S2ES
2+C
CE2y
2’=0
モニタ用マイク8の位置で観測される重合音SSは、
C
S1MS
1+C
CM1y
1’+C
S2MS
2+C
CM2y
2’
である。
【0061】
実際には、制御用スピーカ6,6によって遅延が生じるが、本シミュレーションでは、考慮しないこととした。外乱(突発的な信号)を与えて、制御の安定性について検証した。
【0062】
図6に示したように、表1の各計算ケースについて、騒音源S,S1,S2から各制御用マイク5,5までは等距離(0.5m)とし、各制御用スピーカ6,6とモニタ用マイク8との距離、並びに、各制御用スピーカ6,6と制御位置4との距離も、等距離とした。
【0063】
図7には、騒音源から発せられる制御対象音(騒音)S,S1,S2の音信号(
図7(a)参照)及び外乱に用いた音信号(
図7(b)参照)の周波数特性、並びに時系列特性が示されている。
【0064】
制御対象音Sのソース1では、卓越周波数が1つ存在し、ソース2では、卓越周波数が2つ存在し、時系列変化は、定常及び変動とした。
【0065】
外乱は、突発的あるいは
図6の想定イメージの施設近くを通行する音源を想定したもので、卓越周波数が1つ存在し、1秒間継続するものとした。
【0066】
シミュレーションにおいて、サンプリング周波数は、25,600Hz、周波数の同定に用いたLMSアルゴリズムのステップサイズは、0.001、バンドパスフィルタ10のタップ数は200とした。シミュレーションに使用したCPUのクロック周波数は3.6GHzであった。
【0067】
図8には、表1の計算ケースそれぞれについて行ったシミュレーションの結果が示されている。図の縦軸は、音圧の平均振幅であり、時定数(τ)は125msである。
【0068】
モニタ用マイク8なしの場合、計算ケース1~4において、アクティブ消音制御により、制御位置での音圧が微増した。
【0069】
計算ケース5~8については、モニタ用マイク8なしでも、アクティブ消音制御により、制御位置での音圧が低減する場合もあったが、計算ケース1~8のいずれも、モニタ用マイク8がある場合と比較して、低減量が小さい結果となった。
【0070】
すなわち、モニタ用マイク8がある場合、すべての計算ケースについて、アクティブ消音制御の開始から急速に音圧が低減し、その効果を確認することができた。
【0071】
モニタ用マイク8がある場合、外乱が存在しても、外乱の開始時に音圧が上昇するものの、発散することはなく、その後、音圧が低減した。
【0072】
騒音源S,S1,S2が時系列変化する場合(計算ケース2,4,6,8)においても、モニタ用マイク8がある場合、卓越周波数の変動に対して迅速に対応でき、モニタ用マイク8なしの場合と比較して、音圧が低減した。
【0073】
以上により、フィードバック制御となるモニタ用マイク8を用いた振幅調整によって、複数の制御用スピーカ6,6を用いたシステムに、フィードフォワード型のアクティブ消音制御を適用できること、外乱があっても音圧を低減でき、制御も安定であることが確認でき、妥当な結果が得られた。
【0074】
≪効果確認試験≫
制御アルゴリズムをコントローラ2に実装し、3次元空間の実験室において効果を確認した。実験状況を
図9に、実験ケースを表2に示す。
【0075】
【0076】
図9中の表記と、
図9~
図12の説明に限り、騒音源(音源)は、2台の音源用スピーカN1,N2とし、スピーカN1から卓越周波数が2つ(表2中、63Hz,125Hz)、スピーカN2から卓越周波数が1つ(表2中、250Hz)の制御対象音をそれぞれ出力した。制御音S1~S4を放出する制御用スピーカ6は4台とし、事前の配置検討に基づき、振幅上限値Aと振幅低減係数Bを決定した。効果を確認する制御位置(制御点)4としては、実験室の中心位置1箇所と、実験室内の空間を占める対象領域内の4箇所の2パターンとした。この効果確認試験では、制御用マイク5については、2つを、音源用スピーカN1,N2それぞれの近傍に設置し、1つの制御用マイク5で、2つの制御用スピーカ6を制御するようにした。
【0077】
計測用マイクは、実験室内の高さ1.2m、1.4m、1.7mの各位置に、0.5mピッチで9個設けた。これら計測用マイクにより、制御の効果として現れる音圧差を確認した。
【0078】
図10には、制御位置4を対象領域とした場合の制御効果が示されている。図中のプロットの値は、対象領域内の各計測点(計測用マイク9個×計測高さ3面=27点)で計測された音圧の平均値(制御の効果(領域平均)[dB])である。
【0079】
制御位置4が対象領域内の4箇所である場合と比較して、中心位置である場合の方が、効果が小さくなる傾向が確認できた。
【0080】
制御位置4が中心であるか、対象領域内の4箇所であるかにかかわらず、モニタ用マイク8によるフィードバック制御により、効果が向上した。250Hzで比較すると、モニタ用マイク8ありの場合、制御位置4が中心1箇所のとき、約5dB、対象領域内の4箇所のとき、約8dBとなった。
【0081】
図11及び
図12には、騒音源(音源)N1,N2が250Hzのときに、測定で確認された効果の平面分布の一例が示されている。両図とも、モニタ用マイク8による制御を行った場合である。
【0082】
図11に示されているように、制御位置4が実験室の中心位置である場合、消音効果は、当該中心位置で最も高く、20dBを超えたが、中心位置から離れるにつれて効果が小さくなり、対象領域の一部では、消音制御により、音圧が増幅された。
【0083】
音圧の増加は、中心位置の制御位置4では、騒音源(音源)とした音源用スピーカN1,N2からの騒音と、制御用スピーカ6からの制御音S1~S4とが重なり合って打ち消し合うのに対し、それ以外の場所では、騒音と制御音にずれが生じて、効果的に打ち消し合わないことが原因として考えられる。
【0084】
また、制御音S1~S4を放出する制御用スピーカ6を4台使用したため、騒音を放出する音源用スピーカN1,N2の騒音の放射方向とは反対方向から制御音を放出する制御用スピーカ6があり、モニタ用マイク8を用いた振幅の調整では、中心位置(制御位置)以外の効果の低下及び周辺での音圧増幅の傾向を適切に抑制し得なかったと考えられる。
【0085】
これに対し、
図12に示されているように、制御位置4を対象領域とした場合、消音効果が高い場所は騒音源に近い位置に分布し、また、対象領域での効果の差は、制御位置4が中心位置である場合と比較して、小さくなった。
【0086】
これは、各計測用マイクの位置で騒音と打ち消しあった制御音が、他の計測用マイクの位置で、別の制御用スピーカから放出された制御音と干渉し合うけれども、モニタ用マイク8を用いた制御音の振幅のフィードバック制御により、複数の制御用スピーカ6それぞれから放出される制御音の振幅が異なるため、増幅の傾向が抑制されたためと考えられる。
【0087】
本実施形態に係るアクティブ消音装置1及びアクティブ消音方法にあっては、工場などの生産施設等において、作業領域の環境改善を目的として、局所的な消音効果を確保することができる。
【0088】
制御音を放出する複数の制御用スピーカ6を用いると共に、これら複数の制御用スピーカ6に対し、フィードバック制御用のモニタ用マイク8を用いて、制御用スピーカ6同士(制御音同士)の影響を抑制して、対象領域4の騒音を制御することができる。
【0089】
シミュレーションで、制御の収束速さや安定性は、モニタ用マイク8によるフィードバック制御を行わない場合とほぼ同等であった。
【0090】
試験では、制御位置(計測用マイクの設置位置)4の設定により、対象領域における平均8dB程度の制御効果が確認された。
【0091】
図13には、上記実施形態の変形例が示されている。上記実施形態では、
図2及び
図3で例示したように、一つの騒音源3に対して、2つの制御用マイク5,5、各制御用マイク5,5個々から入力される2つの制御対象音を処理するように2つの制御音信号作成部7,7、並びに各制御音信号作成部7,7個々からの2つの制御音の音信号を出力する2つの制御用スピーカ6,6でアクティブ消音装置1を構成する場合について説明した。
【0092】
しかしながら、本発明にかかるアクティブ消音装置1及びアクティブ消音方法は、このような実施形態に限定されない。
【0093】
騒音源3が1つであっても複数であってもその数に左右されず、制御用スピーカ6は、2つ以上複数設置される。空間的に広がりのある領域を対象として消音効果を得るためには、制御用スピーカ6は複数が必要であり、騒音源3の数と、制御用スピーカ6の数を対応させる必要はない。
【0094】
他方、騒音源3が1つであっても複数であってもその数に左右されず、制御用マイク5は、1つであっても複数であってもよい。すなわち、1つの騒音源3に対して制御用マイク5は1つ以上あればよく、騒音源3の数と、制御用マイク5の数を対応させる必要はない。
【0095】
制御用スピーカ6と制御用マイク5の関係でも、制御用スピーカ6の数と、制御用マイク5の数を一致させる必要はない。
【0096】
1つの制御用マイク5であっても、この制御用マイク5で音圧の大きな所定の卓越周波数を観測し、コントローラ2で制御音の音信号を作成して、複数の制御用スピーカ6から制御音を放出できるからである。好ましくは、制御用スピーカ6の数を、制御用マイク5の数以上とする。
【0097】
制御用マイク5の数よりも制御用スピーカ6の数が多い場合、単一のコントローラ2で、制御用スピーカ6の台数分の制御音の音信号を作成し、すべての制御用スピーカ6へ出力するようにする。
【0098】
図13は、そのような様子を示していて、図示は、
図5(a)の変形で、制御用スピーカ6を2つ追加している。
【0099】
制御用スピーカ6個々は固有の位相ずれがあるため、予め計測したこれら制御用スピーカ6の位相のずれに対して補正処理を行うために、制御音信号作成部7には、これら追加の制御用スピーカ6に対応する補正部12が追加して設けられる。
【0100】
制御音信号作成部7では、同定部10からの信号に対し、追加の各制御用スピーカ6の補正処理が補正部12で行われ、これによって作成された追加の各制御用スピーカ6に対応する制御音の音信号が単一のコントローラ2から出力されるようになっている。
【0101】
以上説明した本実施形態に係るアクティブ消音装置1及びアクティブ消音方法にあっては、制御位置4もしくは制御位置4近傍に設けられ、制御対象音Nと制御音S1,S2とが重なり合った重合音SSを観測してコントローラ2へ出力するモニタ用マイク8と、コントローラ2に設けられ、モニタ用マイク8から入力された重合音SSに応じて、フィードバック制御により、各制御音信号作成部7で作成された各制御音S1,S2の音信号の振幅を調整する振幅調整部9とを備え、コントローラ2の振幅調整部9で、モニタ用マイク8から入力された重合音SSに応じ、フィードバック制御により、各制御音信号作成部7により作成された各制御音S1,S2の音信号の振幅を調整する処理を実行するので、制御用スピーカ6から騒音を低減したい(消音したい)場所4へ向けて制御音S1,S2をそれぞれ放出して騒音源3からの騒音Nをアクティブに消音する場合に、制御用スピーカ6の性能特性及び制御用スピーカ6の設置位置(制御用スピーカ6と騒音を低減したい場所4との距離)が異なっても、制御用スピーカ6からの制御音S1,S2同士の干渉を抑制することができ、制御用スピーカ6により、空間的に広がりのある領域を対象として消音効果を確保することができる。
【0102】
また、複数台の制御用スピーカ6それぞれから異なる制御音S1,S2を個別に放出することが可能であることから、複数の制御用マイク5及び複数の制御用スピーカ6を備えて、騒音源3が複数の場合や、制御対象音N中の対象卓越周波数が複数の場合であっても適用して、アクティブ消音制御することができる。
【0103】
振幅調整部9による振幅の調整は、制御用スピーカ6に対して振幅上限値A及び振幅を小さくする振幅低減係数Bを設定し、重合音SSの平均振幅が振幅上限値A以下であるときは、制御音S1,S2の音信号をそのまま出力し、振幅上限値Aを超えているときは、制御音S1,S2の音信号を振幅低減係数Bで調整して出力するので、制御音S1,S2同士の干渉をフィードバック制御により適切かつ迅速に収斂させることができる。
【符号の説明】
【0104】
1 アクティブ消音装置
2 コントローラ
3 騒音源
4 制御位置
5 制御用マイク
6 制御用スピーカ
7 制御音信号作成部
8 モニタ用マイク
9 振幅調整部
10 バンドパスフィルタ
11 同定部
12 補正部
A 振幅上限値
B 振幅低減係数
N 制御対象音
S1,S2 制御音
SS 重合音
Vave 重合音の平均振幅