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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-22
(45)【発行日】2022-12-01
(54)【発明の名称】ゴルフクラブヘッド及びゴルフクラブ
(51)【国際特許分類】
   A63B 53/04 20150101AFI20221124BHJP
   A63B 102/32 20150101ALN20221124BHJP
【FI】
A63B53/04 E
A63B102:32
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019232587
(22)【出願日】2019-12-24
(65)【公開番号】P2021100461
(43)【公開日】2021-07-08
【審査請求日】2022-01-31
(73)【特許権者】
【識別番号】000002495
【氏名又は名称】グローブライド株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100097559
【弁理士】
【氏名又は名称】水野 浩司
(74)【代理人】
【識別番号】100123674
【弁理士】
【氏名又は名称】松下 亮
(72)【発明者】
【氏名】辻浦 一輝
【審査官】槙 俊秋
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-110974(JP,A)
【文献】特開2019-80846(JP,A)
【文献】特開2014-113267(JP,A)
【文献】特開2003-220161(JP,A)
【文献】特開2019-30381(JP,A)
【文献】特開平9-38252(JP,A)
【文献】特開2012-90680(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2003/0139225(US,A1)
【文献】米国特許第9889351(US,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A63B 53/00-53/06
A63B 102/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スコアラインが形成された打球面を具備したフェース部を有し、前記フェース部の裏面に薄肉厚部が形成されたゴルフクラブヘッドにおいて、
前記フェース部の幾何学的中心位置を通る垂線上で、リーディングエッジからの高さが15mmの位置で定義される打点位置をCとした場合、前記打点位置Cを中心とした半径10mm以内で定義される有効打点領域を含まないように前記薄肉厚部を形成し、
前記薄肉厚部は、前記有効打点領域に対して、トウ側に設けられるトウ側凹部及びヒール側に設けられるヒール側凹部を有し、前記トウ側凹部及びヒール側凹部は、前記フェース部の打球面のヒール側上端位置よりも下方領域に形成されていることを特徴とするゴルフクラブヘッド。
【請求項2】
前記トウ側凹部及びヒール側凹部は、前記打点位置Cを中心として、トウ側15mmよりも外方、及び、ヒール側15mmよりも外方に形成されていることを特徴とする請求項1に記載のゴルフクラブヘッド。
【請求項3】
前記トウ側凹部及びヒール側凹部は、前記フェース部の幾何学的中心位置よりも下方領域に形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載のゴルフクラブヘッド。
【請求項4】
前記トウ側凹部及びヒール側凹部は、それぞれ2本以上の溝を有することを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載のゴルフクラブヘッド。
【請求項5】
前記トウ側凹部及びヒール側凹部は、略対称形状に形成されていることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載のゴルフクラブヘッド。
【請求項6】
前記トウ側凹部及びヒール側凹部は、それぞれトウ側外方及びヒール側外方に移行するに連れて低剛性化されていることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載のゴルフクラブヘッド。
【請求項7】
前記フェース部の裏面には、前記有効打点領域よりも上方に、トウ・ヒール方向に沿ってリブが形成されていることを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載のゴルフクラブヘッド。
【請求項8】
請求項1から請求項7のいずれか1項に記載されたゴルフクラブヘッドを有することを特徴とするアイアン型のゴルフクラブ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はゴルフクラブに関し、詳細には、アイアン型のゴルフクラブに適したゴルフクラブヘッドに関する。
【背景技術】
【0002】
通常、アイアン型のゴルフクラブのヘッドは、打球がなされるフェース部をヘッド本体と共に一体形成したり、ヘッド本体とは別体のフェース部材をヘッド本体に対して接着、溶着、カシメなどによって一体化することが知られている。このようなヘッドにおいて、フェース部(以下、ヘッド本体とは別体のフェース部材を含む)を撓み易くして飛距離の向上を図るために、フェース部の裏面に溝を形成することが知られている。すなわち、溝を形成することで、溝部分の剛性が低くなるため、フェース部の撓み性を向上することが可能となる。
【0003】
例えば、特許文献1には、フェース部裏面のトップ側及びソール側に、トウ・ヒール方向に沿って長溝を形成した構成が開示されている。通常、溝が形成されていない平坦なフェース部では、幾何学的中心位置(フェースセンターFCとも称する)が最も撓み易い領域となり、上記のようにトップ側及びソール側に長溝を形成することで、幾何学的中心位置をより撓み易くすることが可能となる。すなわち、フェース部の幾何学的中心領域の撓み量が増大することで、打球時の反発力が高まって飛距離の向上が図れるようになる。
【0004】
ところが、アイアン型のゴルフクラブは、ティーアップすることなく地面上から打球する場面が殆どであり、実際の打球位置は、幾何学的中心位置よりも下方となっている。具体的に幾何学的中心位置の高さは、ヘッドの接地面(リーディングエッジ)から20mm前後であるのに対し、実際の打球位置の高さは、ヘッドの接地面から15mm前後となっており、上記した溝の構造では、実際の打球位置での反発性が十分に向上されていない。すなわち、反発性を向上させたい(フェース部を大きく撓ませたい)のは、ヘッドの接地面から15mm前後の位置になっていることが望ましい。この点を考慮して、例えば、特許文献2には、フェース部の裏面の下部領域に、スコアラインと平行となるように複数の溝を形成して下部領域の剛性を低下させる構成が開示されている。フェース部の裏面に形成される複数の溝は、スコアライン間の領域(帯状領域)に対応して設けられており、各溝は、溝の延在方向と交差する方向に延在する接続溝によって接続されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第5537382号
【文献】特許第6347305号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記したように、フェース部の裏面に溝を形成することで、フェース部を重量化することなく、撓み性を向上することが可能となり、特許文献2に開示されているように、フェース部の下部領域に溝を形成して剛性を下げ、下部領域の撓み量の増大を図ることは有効である。
しかし、実際の打点領域に溝を形成してしまうと、強度低下に直結するため、フェース部の肉厚を薄くすることができず、撓み性を向上する上では効率的ではない。また、打球が成される部分に溝が形成されてしまうと、インパクト時にボールが押しつぶされてフェースに食らいつく感覚の柔らかい打球感が低下してしまう(打感が低下してしまう)。
【0007】
本発明は、上記した問題に着目してなされたものであり、実際に打球がなされる位置付近の耐久性を低下させることなく効率的に撓み性を向上し、更には、打感性能に影響を与えることのないゴルフクラブヘッド及びゴルフクラブを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記した目的を達成するために、本発明は、スコアラインが形成された打球面を具備したフェース部を有し、前記フェース部の裏面に薄肉厚部が形成されたゴルフクラブヘッドにおいて、前記フェース部の幾何学的中心位置を通る垂線上で、リーディングエッジからの高さが15mmの位置で定義される打点位置をCとした場合、前記打点位置Cを中心とした半径10mm以内で定義される有効打点領域を含まないように前記薄肉厚部を形成し、前記薄肉厚部は、前記有効打点領域に対して、トウ側に設けられるトウ側凹部及びヒール側に設けられるヒール側凹部を有し、前記トウ側凹部及びヒール側凹部は、前記フェース部の打球面のヒール側上端位置よりも下方領域に形成されていることを特徴とする。
【0009】
上記した構成のフェース部は、その裏面に、打点位置Cを中心とした半径10mm以内で定義される有効打点領域を含まないようにトウ側凹部及びヒール側凹部を形成したことで、有効点領域での撓み性(反発性)を効率的に向上することができ、打球の飛距離を向上することが可能となる。特に、トウ側凹部及びヒール側凹部をフェース部の打球面のヒール側上端位置よりも下方領域に形成したことで、打点位置Cを中心とした半径10mm以内の撓み性の向上が図れるようになり、打点ブレ(ミスヒット)の許容性が向上し、飛距離を大きく低下させることもない。さらに、実際に打球がなされる有効打点領域内に凹部を形成しないため、打球部分での耐久強度及び打感を低下させることがなく、効率的に反発性能の向上が図れるようになる。
【0010】
上記した構成において、打球面は、フェース部の表面において、スコアラインが形成されている領域を意味しており、有効打点領域とは、その打球面内において、通常のゴルファーが打球した際、ばらつきを考慮した一定の範囲内の領域を意味する。すなわち、ゴルファーは、打点位置Cでショットしようとスイングするが、打点位置Cからばらつきが生じており、本発明では、このばらつく領域の撓み性を向上するようにしている。本発明では、通常のゴルファーの打球を検証し、有効打点領域は、実際の正確な打点位置(リーディングエッジからの高さが15mmの位置で定義される打点位置)Cを中心とした半径10mm以内の範囲としており、この範囲内での反発性を向上するようにしている。
【0011】
また、少なくとも有効打点領域内には、反発性を向上するための低剛性となる薄肉厚部(凹部)を形成しないため、打球部分で耐久強度及び打感が低下することはない。また、前記トウ側凹部及びヒール側凹部は、フェース部の幾何学的中心位置(フェースセンター)よりも下方側のフェース部の中央領域を撓み易くするように低剛性化するものであれば良く、溝や一定範囲の凹所、更には、これらの組み合わせで構成することができ、その形状や深さ等については適宜変形することが可能である。
さらに、上記したフェース構造を有するヘッドは、アイアン型ゴルフクラブに装着され、番手に関係なく適用することが可能である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、実際に打球がなされる位置付近の耐久性を低下させることなく効率的に撓み性を向上し、打感性能に影響を与えることのないゴルフクラブヘッド及びゴルフクラブが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明に係るゴルフクラブヘッドの第1の実施形態を示す図であり、ヘッドの正面図。
図2】(a)は、図1に示すヘッドのII(a)-II(a)線に沿った断面図、(b)は、図1に示すヘッドのII(b)-II(b)線に沿った断面図。
図3】第1の実施形態に係るヘッドをバック側から見た図。
図4】本発明の第2の実施形態を示す図であり、ヘッドをバック側から見た図。
図5】(a)~(c)は、それぞれ本発明の第3~第5の実施形態を示す図であり、フェース部の裏面図。
図6】(a)~(c)は、それぞれ本発明の第6~第8の実施形態を示す図であり、フェース部の裏面図。
図7】(a)~(c)は、それぞれ本発明の第9~第11の実施形態を示す図であり、フェース部の裏面図。
図8】(a)及び(b)は、それぞれ本発明の第12及び第13の実施形態を示す図であり、フェース部の裏面図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、添付図面を参照しながら、本発明に係るアイアン型のゴルフクラブヘッド(以下、ヘッドと称する)の実施形態について具体的に説明する。
図1から図3は、本発明の第1の実施形態を示す図であり、図1は、ヘッドの正面図、図2(a)は、図1に示すヘッドのII(a)-II(a)線に沿った断面図、図2(b)は、図1に示すヘッドのII(b)-II(b)線に沿った断面図、そして、図3は、ヘッドをバック側から見た図である。
【0015】
本実施形態に係るヘッドが装着されるゴルフクラブはアイアン型であり、基端側にグリップを装着したシャフト(図示せず)の先端が、ヘッド1を構成するヘッド本体1Aに一体形成されたホーゼル1Bに嵌入、固定されることで構成される。前記シャフトとヘッド本体1Aは、ゴルフクラブを基準水平面Pに対して構えた際、固定されるシャフトの軸線Xと基準水平面Pとの間が所定のライ角αとなるように設定されている。この場合、シャフトについては、スチール製であっても良いし、繊維強化樹脂製(FRP製)であっても良い。
【0016】
ヘッド本体1Aには、打球が成されるフェース部5が一体形成されている。フェース部5は、板状に構成されており、表側に打球が成されるフェース面5a、裏側に後述する薄肉厚部(凹部)が形成される裏面5bを備えており、フェース部5は、そのフェース面5aが番手に応じて所定のロフト角βとなるように形成されている。
【0017】
前記フェース部5が一体形成されたヘッド本体1Aは、例えば、チタン、チタン合金、ステンレス鋼、炭素鋼、タングステン等の金属材料を用いて鋳造などによって一体形成することが可能であり、フェース部5の周囲に、トップ部1a、ソール部1b、トウ部1c、及び、ヒール部1dを備えた構成となっている。この場合、フェース部5は、ヘッド本体とは別の板状部材(例えば、チタン、チタン合金、ステンレス鋼、炭素鋼、タングステン等の金属材料を用いて鋳造などによって一体形成する)で形成されていても良く、例えば、ヘッド本体1Aをリング形状に形成し、その開口部分にカシメ、溶着、接着などによって別体のフェース部材を止着する構成であっても良い。また、フェース部5の端部は、ヘッド本体のトップ部やソール部等の一部を構成していても良い。
【0018】
前記ヘッド本体1Aは、上記したように、トップ部1a、ソール部1b、トウ部1c及びヒール部1dを具備しており、これらはフェース部5の周縁に沿って後方に向けて延設されている。本実施形態では、前記トップ部1aは、バック側に延びてその先端側が下方に垂下するように屈曲され、前記ソール部1bは、後方に向けて延びており、その先端位置には、バック側に延びながら上方に立ち上げられるバック部材1fが溶着等によって一体化されている。このバック部材1fは、先端がトウ部1c及びヒール部1dの略中間位置まで立ち上げられており、ヘッド本体1Aの構成材料よりも高比重の材料によって形成することで、ヘッド本体を効果的に低重心化することが可能となる。なお、バック部材1fは、ヘッド本体と一体形成されていても良いし、別途、ウェイト部材を取着するような構成であっても良い。
【0019】
また、前記トウ部1c及びヒール部1dについても、同様にバック側に延びると共にその先端側が中央に向けて屈曲されており、これにより、ヘッド本体1Aは、フェース部5の後側が開口したキャビティ構造となっており、フェース部全体として撓み性を向上している。
【0020】
前記ヘッド本体1Aは、ヒール側からトウ側に移行するに従い高さが高くなる形状を有しており、同様の形状を有するフェース部5のフェース面5aには、トウ・ヒール方向に沿ってスコアライン7が平行となるように複数本形成されている。本発明では、このスコアライン7が形成されている領域Rをフェース部5の打球面と定義する。この打球面Rは、例えば、トウ側のエッジRa及びヒール側のエッジRbのそれぞれ外方にマスキングを施しておき、サンドブラストなどの粗面化処理することで形成される。
【0021】
前記フェース部5には、前記打球面R内に幾何学的中心位置(フェースセンター)FCが存在している。プレーヤが打球するに際し、トウ・ヒール方向では、幾何学的中心位置FCを通る垂線付近で打球が成される(プレーヤは、この点を意識して打球する)が、上述したように、高さ方向における実際の打球位置は、幾何学的中心位置FCよりも下方となる。具体的に、その高さHは、ボールが地面に設置された状態で、ヘッド本体のソール部1bが地面に沿って移動して打球が成される位置であり、ソール部1bのリーディングエッジLEから15mm前後となっている。この位置は、アイアン型のゴルフクラブにおいて、いわゆるトップやダフリがない状態で打球する位置(理想的な打球位置)であり、この位置を打点位置Cと定義する。打点位置Cは、クラブの種類にもよるが、概ね前記スコアライン7の最も下端から4本目付近となっており、通常、ゴルファーは打点位置付近で打球するようにスイングをする。
なお、図3で示すフェース部の裏面に、幾何学的中心位置FCと打点位置Cが示されているが、この位置は、図1で示すフェース部の打球面側で示す幾何学的中心位置FCと打点位置Cに一致している。
【0022】
前記フェース部5の後方側は、上記したようにキャビティ構造となっているため、フェース部全体として撓むことが可能となっており、最も撓み易い位置は、幾何学的中心位置FC付近になるが、この位置は、上記したように、実際に打球がされる打点位置Cとは一致していない。また、実際には、フェース部5は、トップ・ソール方向で見ると、ヒール側の長さが短く、トウ側に移行するに連れて長くなる形状となっていることから、最も撓み易い位置は、幾何学的中心位置FCよりも僅かにトウ側になるものと考えられる。
【0023】
上記したヘッドを有するアイアンクラブで打球をすると、打点位置C付近で打球することとなるが、平均的なアベレージゴルファー(一般ゴルファー)が100球打った時の打痕を検証したところ、高さ方向では、リーディングエッジLEから25mm以下の高さ(この高さは、スコアライン7の6本以内となる)でほぼ全てを打球している結果が得られた。また、トウ・ヒール方向では、前記打点位置Cを中心として、トウ側及びヒール側に10mmの範囲内で打球することが殆どであるという結果が得られた(10mmよりも外方で打球した痕跡も僅かにみられた)。
【0024】
本発明では、上記した検証結果によって、前記打球面R内において、通常のゴルファーの打球が成される領域を有効打点領域R1で定義することとし、有効打点領域R1を効果的に撓ませるように、フェース部5の裏面に、剛性を低下させる薄肉厚部である凹部を形成することを特徴としている。具体的に、本発明では、有効打点領域R1を、前記打点位置Cを中心とした半径10mm以内の領域(点線で囲んだ円領域)としており、この範囲を効果的に撓ませるように、有効打点領域外(有効打点領域を含まない)に、低剛性となる薄肉厚部(凹部)を形成して有効打点領域R1を効果的に撓ませるようにしている。
【0025】
前記薄肉厚部となる凹部は、有効打点領域R1に対して、トウ側に設けられるトウ側凹部21及びヒール側に設けられるヒール側凹部22を有しており、この部分の剛性が低くなることで、両凹部の内側となる有効打点領域R1を撓み易くすることが可能となる。この場合、フェース部の幾何学的形状を考慮すると、最も撓み易い部分は、上記したように幾何学的中心位置FC付近となっているため、低剛性となる凹部は、幾何学的中心位置FCよりも上方位置に形成すると、撓み易い領域が上方にシフトしてしまい、前記有効打点領域R1を効果的に撓ませることができなくなる。すなわち、低剛性部分である前記トウ側凹部21及びヒール側凹部22については、有効打点領域R1が撓み易くなるように、フェース部の下方領域、具体的には、少なくともフェース部5の打球面Rのヒール側上端位置Prよりも下方領域に形成されており、更には、幾何学的中心位置FCよりも下方に形成されていることが好ましい。また、低剛性化を図る凹部の深さDについては、深くし過ぎるとフェース部としての強度が低下するため、フェース部の肉厚Tに対して30%以下に形成することが好ましい。
【0026】
本実施形態のトウ側凹部21及びヒール側凹部22は、フェース部裏面において、図3に示すように、表面側の有効打点領域R1に対応する領域を含まないように、それぞれ3つの湾曲した溝21a,21b,21c及び22a,22b,22cによって構成されている。すなわち、各溝は、幾何学的中心位置FCよりも下方に形成されており、溝21a,21b,21cは、トウ側の中央位置からソール側中央位置に向けて湾曲しながら平行となるように形成され、溝22a,22b,22cは、ヒール側の中央位置からソール側中央位置に向けて湾曲しながら平行となるように形成されている。このように、それぞれ3つの溝を形成することで効率的に低剛性化を図ることができると共に、トウ側及びヒール側で略対称形状に形成することで、有効打点領域R1を略均等で効果的に撓ませることが可能となる。
【0027】
なお、本実施形態では、上記した有効打点領域R1の範囲内だけではなく、更にトウ・ヒール方向での打点のばらつき(多めのばらつき)を考慮して、前記トウ側凹部21及びヒール側凹部22は、前記打点位置Cを中心として、トウ側15mmよりも外方(符号Rtで示す位置よりも外方)、及び、ヒール側15mmよりも外方(符号Rhで示す位置よりも外方)に形成しており、前記有効打点領域R1よりも広い略楕円状の領域R2を効果的に撓ませるようにしている。すなわち、領域R2を含まない位置にトウ側凹部21及びヒール側凹部22を形成することで、打感や強度の低下を生じさせることなく、有効打点領域R1よりも広い楕円状の領域R2を効果的に撓ませることができ、打点位置がトウ・ヒール方向に多少ばらついても、飛距離の低下を抑制することが可能となる。
【0028】
上記した構成のフェース部5は、その裏面に、打点位置Cを中心とした半径10mm以内で定義される有効打点領域R1を含まないようにトウ側凹部21及びヒール側凹部22を形成したことで、有効打点領域での撓み性(反発性)を効率的に向上することができ、打球の飛距離を向上することが可能となる。また、打点位置Cを中心とした半径10mm以内の撓み性が向上することで、打点ブレ(ミスヒット)の許容性が向上し、飛距離を大きく低下させることもない。特に、本実施形態では、各溝の形成位置を、トウ側及びソール側に、打点位置Cから15mm以上ずらしているため、ミスショットの許容度が大きくなる。そして、実際に打球がなされる有効打点領域内R1内には、凹部を形成しないことから、打球部分での耐久強度及び打感を低下させることがなく、効率的に反発性能の向上が図れると共に、ミスショットして凹部が形成された部分で打球すると、そのミスショットを感知させることも可能となる。
【0029】
ここで、フェース部の裏面に、図3に示すような形状の凹部(トウ側に形成される3本の湾曲した溝21a,21b,21c、ヒール側に形成される3本の湾曲した溝22a,22b,22c)を形成したフェース部と、同一の構造で溝を形成していないフェース部のCT値分布について対比しながら説明する。
フェース部の撓みに関しては、その指標として、USGA(米国ゴルフ協会)のペンデュラムテストに準拠して測定する手法が存在しており、キャラクタリスティックタイムという数値(CT値)により、フェース部の撓みについて評価することが可能である。具体的には、フェース部に対して、所定の試験子を衝突させたときの接触時間を計測することでフェース部の位置の弾性を評価することができ、CT値が高い(接触時間が長い)と、ボールを打球した際のフェース部に対する接触時間が長く、撓み性が良いと評価できる。すなわち、CT値が高いほど、フェース部は撓み易く、ボールの飛距離の向上が図れるとともに、フェース部のCT値が高い領域が広ければ、多少の打点ブレが生じても、安定した打球が得られることを意味する。
【0030】
フェース部では、フェース面の位置に応じてCT値を導き出すことが可能であり、位置毎のCT値の大きさ、及び、全体の分布状態を得ることが可能である。CT値は、フェース部の材質にもよるが、肉厚やフェース部のエッジ領域からの距離に依存するところが大きい。すなわち、肉厚を薄くすることで、フェース部自体が撓み易くなり、また、エッジ領域から最も離間する領域(フェース部の幾何学的中心位置FC)は、大きく撓み易いことから、幾何学的中心位置FC付近のCT値は高くなる。
【0031】
本発明では、上記したように、有効打点領域R1を含まないように、トウ側及びヒール側に、薄肉厚部であるトウ側凹部21及びヒール側凹部22を形成したことで、その部分の剛性を低くして、打点位置C及びその周辺領域となる有効打点領域R1のCT値の向上を図っている。
【0032】
以下の表1は、トウ側凹部及びヒール側凹部を形成していない従来のフェース部のCT値分布であり、実測値と百分率を示したものである。表1は、前記打点位置C(リーディングエッジから15mmの高さ位置;U15で示す)を中心として、半径10mmの有効打点領域(高さはU5~U25の範囲、トウ(T)・ヒール(H)方向はT10~H10の範囲)におけるCT値の分布状況を、5mm単位に測定した結果を示しており、更に、トウ側では20mm(T15,T20)まで、ヒール側では15mm(H15)までの測定結果を示している。なお、ヒール側20mm(H20)及び高さ5mm(U5)については、いわゆるシャンクやトップ等、適切な打球でないことから測定結果を示していない。
【0033】
【表1】
【0034】
また、以下の表2は、図3に示すように、トウ側凹部21及びヒール側凹部22を形成した本発明に係るフェース部の表1と同様なCT値分布であり、実測値と百分率を示したものである。この表2の結果のフェース部は、トウ側凹部21及びヒール側凹部22を形成した以外、表1のフェース部と同一構造である。
【0035】
【表2】
【0036】
従来のフェース部は、前記打点位置C(リーディングエッジから15mmの高さ;U15で示す)におけるCT値が224.0μsであるのに対し、本発明のフェース部は、247μsとなっており、実際に打球がなされる打点位置Cでの撓み性が向上するという結果が得られた。また、有効打点領域におけるCT値(実測値)については、いずれも本発明のフェース部の方が、従来のフェース部と比較して、同等もしくはそれ以上となっており、有効打点領域では、全体として撓み性が向上するという結果が得られると共に、トウ側の15mm、20mmの位置、及び、ヒール側の15mmの位置においてもCT値が高くなる結果が得られた。さらに、高さが10mm(U10)、及び、15mm(U15)の領域では、打点位置Cに対するトウ側及びヒール側のCT値は、従来のフェース部のような大きな低下はしておらず、この高さ範囲では、打点位置Cとの間で変化量が少ないという結果が得られた。すなわち、大きくダフらないミスショットは、打点位置Cと同等の高さ(又はそれよりわずかに下方位置)で打球することが多いが、この位置において、打点位置CにおけるCT値との間で大きな低下がないことから、ミスショットしても飛距離の安定化が図れるようになる。
【0037】
実際に、上記した従来のフェース部を有するアイアン型のゴルフクラブと、本発明のフェース部を有するアイアン型のゴルフクラブで、フェース部の溝以外は同一の条件にして試打試験を行なった。試打試験は、一般のゴルファーが打球し得るであろう範囲でミスショット(打点位置Cからずれた位置での打球)した際の性能評価が得られるように、ロボット試験機を用い、ヘッドスピードを同じに設定して、打点位置を変えて各位置で4球打球し、その平均値をとることで行なった。各打球位置は、上記した打点位置C、打点位置Cから下5mm、打点位置Cからトウ側10mm、打点位置Cからヒール側10mmの4箇所である。
【0038】
飛距離に関しては、本発明のフェース部を有するゴルフクラブでは、全体の平均値で比較すると、従来のゴルフクラブに対して5ヤードほど向上した。また、左右方向についても、本発明では、センターライン(ターゲット方向)に対して約3ヤードの範囲内でばらつくのに対し、従来のフェース部を有するゴルフクラブでは、約5ヤードの範囲内でばらつき、方向性が安定した結果が得られた。
【0039】
表1,2で示したように、打点位置C、打点位置Cから下5mm、打点位置Cからトウ側10mm、打点位置Cからヒール側10mmのいずれの位置においても、本発明の方が従来よりもCT値が高いため、全体として飛距離が向上したものと考えられる。また、左右方向のばらつきが少なく方向性が安定したのは、以下の理由によるものと考えられる。
ドライバーのようなウッド系のゴルフクラブでは、フェース面にバルジ(トウ・ヒール方向における丸み)が形成されているため、いわゆるギア効果が得られるが、アイアン型のゴルフクラブのフェース面においても、若干のギア効果が得られると考えられる。このギア効果は、ヘッドの重心から離れた点で打球した場合、重心回りにモーメントが発生し、トウ側の打球ではセンターラインに対して右打ち出し、ヒール側の打球ではセンターラインに対して左打ち出しとなる。このような打ち出し方向において、ギア効果が働き、トウ側の打球ではボールにドロー回転が作用し、ヒール側の打球ではボールにフェード回転が作用して、打球はセンターライン方向に戻ろうとする。上記したように、本発明では、有効打点領域においてCT値が向上しているため、打点ブレが生じても飛距離性能が従来よりも向上し(打球の落下位置が伸びる)、それにより、ギア効果が十分に作用して、打球がセンターに戻ってきやすいためと考えられる。
【0040】
次に、本発明の別の実施形態について説明する。
以下の実施形態では、フェース部裏面に形成される凹部の形状を種々、変形した構成例を示しており、フェース部の裏面のみを示している。また、上記した実施形態と同様な構成要素については、同一の参照符号を付して詳細な説明については省略する。
【0041】
図4は、本発明の第2実施形態を示す図である。
上記した実施形態の構成では、フェース部の裏面に凹部を形成することで、フェース部を重量化することなく、効率的に有効打点領域の撓み性の向上を図っているが、凹部に加え、リブを併せて形成しても良く、リブを形成することで、更に有効打点領域の撓み性を向上することが可能である。
例えば、図4に示すように、前記有効打点領域R1よりも上方に、トウ・ヒール方向に沿ってリブ25を形成することで、その周辺部分の剛性を高め、この高めた部分とソール部1bとの間を撓み易くして、有効打点領域R1における撓み性を向上するようにしても良い。リブについては、トウ・ヒール方向に連続的に形成する以外にも、部分的に形成したり、複数形成する等、その形状や形成位置など、適宜変形することが可能である。
【0042】
図5(a)~(c)は、本発明の第3~第5の実施形態を示す図である。
上記した実施形態のトウ側凹部21及びヒール側凹部22は、それぞれ3本の湾曲した細溝で構成したが、図(a)に示すように、トウ側凹部31及びヒール側凹部32を構成する湾曲した溝31a,31b,31c及び湾曲した溝32a,32b,32cの溝幅を広くしても良い。このように溝幅を広くすることで、その領域での剛性をより低くして、有効打点領域R1における撓み性を向上することが可能となる。この場合、トウ側凹部31及びヒール側凹部32を構成する各溝については、外方に移行するに連れて深くしたり、或いは、幅広にする等、周縁領域を低剛性化することで、中心となる打点位置C付近を大きく撓ませることができ、より飛距離を向上することが可能となる。
【0043】
また、凹部として溝を形成する場合、その幅にもよるが、図(b)(c)に示すように、それぞれ2本以上形成することで、有効打点領域R1における撓み性を効率的に向上する効果が得られる。更に、溝の形状についても、図(c)で示すように、上下方向に沿って湾曲させる等、適宜変形することが可能である。
【0044】
図6(a)~(c)は、本発明の第6~第8の実施形態を示す図である。
図5に示した各実施形態では、トウ側凹部31及びヒール側凹部32を構成する各溝を湾曲させていたが、トウ側凹部41及びヒール側凹部42を構成する各溝41a,41b,41c及び各溝42a,42b,42cは、図(a)に示すように、屈曲形成しても良いし、図(b)(c)に示すように、上下方向に直線状に形成したり、傾斜方向に直線状に形成しても良い。
【0045】
図7(a)~(c)は、本発明の第9~第11の実施形態を示す図である。
(a)に示すように、トウ側凹部51及びヒール側凹部52を構成する各溝51a,51b,51c及び各溝52a,52b,52cは、水平方向に沿うように形成しても良いし、図(b)のヒール側凹部52のように、水平方向の溝52a,52b,52cと上下方向の溝52dを組み合わせても良い。或いは、トウ側凹部51のように、略水平方向の溝51a,51bと湾曲状の溝51cを組み合わせても良い。さらに、図(c)に示すように、上下方向に沿った湾曲状の溝51a,52aと、一定の範囲窪ませた凹所51b,52bを組み合わせたり、これらを溝51c,52cで連結させるような構造であっても良い。
【0046】
図8(a)(b)は、本発明の第12、第13の実施形態を示す図である。
(a)に示すように、トウ側凹部61及びヒール側凹部62は、一定の範囲窪ませた凹所61a,62aで構成しても良い。この場合、各凹所は、外方に移行するに連れて深さを深くすることで、中心となる打点位置C付近を大きく撓ませることができ、より飛距離を向上することが可能となる。
また、図(b)に示すように、トウ側凹部71及びヒール側凹部72については、円形の窪み71a,72aを多数形成することで構成しても良い。この場合、外方に移行するに連れて窪みの数を増やしたり、深さを深くすることで、図(a)の構成と同様、中心となる打点位置C付近を大きく撓ませることが可能となる。
【0047】
以上、本発明に係るアイアン型のゴルフクラブ、及びそのヘッドについて説明したが、本発明は、通常にスイングして打球する際の打点位置Cからのブレを考慮して、フェース部の有効打点領域R1を撓み易くするように、フェース面に低剛性化を図る薄肉厚部(凹部)を設けたことに特徴がある。上記した凹部であるトウ側凹部、及び、ヒール側凹部の構成は例示であり、その形状については適宜変形することが可能である。この場合、深さ、大きさ(幅や長さ)、形成位置を変えることで、有効打点領域R1の撓み性については適宜、変形することが可能である。例えば、薄肉厚部を構成する凹部は、有効打点領域R1を除いた領域で一定の範囲を薄肉厚化したり、溝状にしたり、これらを組み合わせる等、その構成や形成位置については適宜変形することが可能である。また、有効打点領域R1に対して、上記した実施形態のように、トウ側及びヒール側に形成したり、場合によっては、有効打点領域R1に対して上方側や下方側に位置する形状であっても良い。
【符号の説明】
【0048】
1 ヘッド
1A ヘッド本体
5 フェース部
7 スコアライン
21,31,41,51,61,71 トウ側凹部
22,32,42,52,62,72 ヒール側凹部
FC 幾何学的中心位置
C 打点位置
R 打球面
R1 有効打点領域
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8