(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-22
(45)【発行日】2022-12-01
(54)【発明の名称】第IX因子の機能を調節するための組成物及び方法
(51)【国際特許分類】
C12N 15/12 20060101AFI20221124BHJP
C07K 14/745 20060101ALI20221124BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20221124BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20221124BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20221124BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20221124BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20221124BHJP
C12P 21/02 20060101ALI20221124BHJP
A61P 7/04 20060101ALI20221124BHJP
A61K 38/36 20060101ALI20221124BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20221124BHJP
A61K 35/76 20150101ALI20221124BHJP
A61K 35/761 20150101ALI20221124BHJP
【FI】
C12N15/12
C07K14/745
C12N15/63 Z ZNA
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12P21/02 Z
A61P7/04
A61K38/36
A61K48/00
A61K35/76
A61K35/761
(21)【出願番号】P 2019504782
(86)(22)【出願日】2017-07-27
(86)【国際出願番号】 US2017044104
(87)【国際公開番号】W WO2018022844
(87)【国際公開日】2018-02-01
【審査請求日】2020-07-22
(32)【優先日】2016-07-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】301040958
【氏名又は名称】ザ・チルドレンズ・ホスピタル・オブ・フィラデルフィア
【氏名又は名称原語表記】THE CHILDREN’S HOSPITAL OF PHILADELPHIA
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】アルーダ ヴァルディア アール
(72)【発明者】
【氏名】カミーレ ロドニー エム
(72)【発明者】
【氏名】サメルソン ジョーンズ ベンジャミン
【審査官】福澤 洋光
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2016/0201047(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2013/0243855(US,A1)
【文献】特表2013-500726(JP,A)
【文献】Johnathan, D. et.al.,The efficacy and the risk of immunogenicity of FIX Pauda (R338L) in hemophilia B dogs treated with by AAV muscle gene therapy,Blood,2012年,Vol.120, No.23,pp.4521-4523
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00-15/90
C07K 1/00-19/00
C12P 1/00-41/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
UniProt/GeneSeq
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
置換を2つのみ含む
ヒトの第IX因子変異体であって、410位のGluがLysで置換されており、かつ338位のArgがLeuで置換されている、第IX因子
活性を有する変異体。
【請求項2】
請求項1に記載の少なくとも1つの第IX因子変異体及び少なくとも1つの薬学的に許容可能な担体を含む組成物。
【請求項3】
請求項1に記載の第IX因子変異体の活性化第IX因子変異体。
【請求項4】
止血関連疾患の処置に使用するための、請求項1に記載の第IX因子変異体。
【請求項5】
前記止血関連疾患が、血友病B又は抑制性抗体と関連する血友病Bである、請求項4に記載の使用のための第IX因子変異体。
【請求項6】
請求項1に記載の第IX因子変異体をコードする単離された核酸分子。
【請求項7】
前記第IX因子変異体が、プロペプチド配列及び/又はシグナルペプチドを含む、請求項6に記載の核酸分子。
【請求項8】
前記核酸分子が細胞内切断部位をコードし、前記細胞内切断部位が、キモトリプシン付番方式における15位と16位との間にあるか、又は活性化ペプチドの全て若しくは一部を置き換える、請求項6に記載の核酸分子。
【請求項9】
調節配列に作動可能に連結されている、請求項6~8のいずれか一項に記載の核酸分子を含む発現ベクターであって、任意にベクターがアデノウイルスベクター、アデノウイルス関連ベクター、レトロウイルスベクター、プラスミド、及びレンチウイルスベクターからなる群から選択される、ベクター。
【請求項10】
請求項9に記載のベクターを含む宿主細胞であって、任意に前記宿主細胞が、哺乳動物細胞又はCHO細胞である、宿主細胞。
【請求項11】
請求項10に記載の宿主細胞をインキュベートすること、及びそれによって産生される活性化第IX因子(FIXa)を精製することを含む、FIXaを生産する方法。
【請求項12】
止血関連疾患の処置に使用するための請求項9に記載の発現ベクター。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、米国特許法第119条(e)に基づき、2016年7月27日に出願された米国仮特許出願第62/367,321号明細書の優先権を主張する。上記の出願は参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明は、医学及び血液学の分野に関する。より詳細には、本発明は、新規の第IX因子変異体、及びこの第IX因子変異体を使用してそれを必要とする患者の凝固カスケードを調節する方法を提供する。
【背景技術】
【0003】
本発明が属する最新技術を説明するために、本明細書を通していくつかの刊行物及び特許文書が引用される。これらの引用のそれぞれは、あたかも完全に記載されているかのように、参照により本明細書に組み込まれる。
【0004】
切断などの血管損傷に応答して、凝固酵素が段階的に活性化され、最終的に障害部位に血餅の形成が生じる。トロンビンは、このカスケードの最終段階でその不活性前駆体プロトロンビンから生成され、続いて線維性血餅(fibrous clot)を生成する。活性化第IX因子(FIXa)は、内因性Xase複合体のセリンプロテアーゼであるため、この系の重要な構成要素であり、補因子活性化第VIII因子(FVIIIa)も含む。この酵素は、露出したアニオン性膜を有する細胞上で構築され、第X因子を活性化第X因子(FXa)に迅速に変換する。FXaとその補因子である活性化第V因子(FVa)は、トロンビンを活性化する酵素複合体であるプロトロンビナーゼを形成する。
【0005】
第IX因子の重要性は、第IX因子遺伝子に突然変異を有する個体における出血性疾患である血友病Bの発症によって反映される。血友病Bなどの出血性疾患では、第IX因子の異常又は欠損は、FXaの生成が不十分となり、従ってトロンビン形成が不十分となる。喪失したタンパク質の補充は、血友病処置の中心である。有効ではあるが、現在のタンパク質補充療法にはいくつかの制限がある。例えば、現在の治療法は、投与されるタンパク質の半減期が短いために、高用量での複数回の静脈内注射を必要とする。従って、生物学的特性が改善された凝固因子が明らかに必要とされている。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に従って、それを必要とする患者の止血を調節するための組成物及び方法が提供される。より詳細には、止血を調節する(例えば、強める)第IX因子/第IXa因子変異体が提供される。特定の実施形態では、この変異体は、410位のGlu;223位のVal;342位のPhe;343位のThr;及び/又は406位のAsnの少なくとも1つの置換を含む。特定の実施形態では、この変異体は、410位のGlu;223位のVal;及び/又は406位のAsnの少なくとも1つの置換を含む。特定の実施形態では、第IX因子/第IXa因子変異体は、338位のArgの置換、特に338位のArgのLeuでの置換をさらに含む。本発明の変異体をコードする核酸はまた、その使用方法として開示される。このような核酸分子は、任意選択により、細胞内の切断部位(例えば、PACE/furin)をコードし得る。本発明の別の態様は、本発明の変異体を発現する宿主細胞を含む。この変異体を単離及び精製する方法も開示される。
【0007】
担体中に本発明の変異体を含む医薬組成物も提供される。本発明はまた、それを必要とする患者の止血関連疾患の処置方法も含み、この方法は、治療有効量の変異体又はこれをコードする核酸分子を対象に投与することを含む。このような方法は、限定されるものではないが、血友病、特に血友病Bを含む、(例えば、出血を低減する又は抑制するために)凝固促進剤が必要とされる障害の処置において有効性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1A】
図1Aは、ヒトプレプロ第IX因子のアミノ酸配列(配列番号1)を示す。下線が引かれた太字の残基は、第IX因子付番に基づき、223位、338位、342位、343位、406位、及び410位である(
図1Bを参照)。
【
図1B】
図1Bは、第IX因子の軽鎖アミノ酸配列(配列番号2)及び重鎖アミノ酸配列(配列番号3)を示す。
【
図1C】
図1Cは、活性化第IX因子(FIXa)の軽鎖アミノ酸配列(配列番号2)及び重鎖アミノ酸配列(配列番号4)を示す。
【
図1D】
図1Dは、ヒト第IX因子プレプロタンパク質をコードする核酸配列(配列番号5)を示す。
【
図2】
図2は、FIX R338L+E410K(n=7)又は野生型FIX(n=2)をコードするAAV8ベクターの投与後の血友病マウスにおけるFIXの比活性のグラフを示す。値は平均値±SEMとして示されている。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本明細書では、新規な第IX因子変異体(チモーゲン)が提供される。特に、410位のGlu、223位のVal、342位のPhe、343位のThr、及び/又は406位のAsnの突然変異を含む第IX因子変異体が提供される。特定の実施形態では、第IX因子変異体は、410位のGlu;223位のVal;及び/又は406位のAsnの少なくとも1つの置換を含む。第IX因子変異体は、338位のArgの突然変異(例えば、R338L)をさらに含み得る。本発明の第IX因子変異体は、野生型第IX因子と比較してより高い比活性を有する。
【0010】
血液凝固反応は、外傷後の重大な失血から生物を保護するために進化してきた防御機構である。上で簡単に説明したように、凝固は、一連のタンパク質分解反応を通して進行し、その各々は、血液中の不活性チモーゲン(不活性)をセリンプロテアーゼ(活性)産物に変換する。血液凝固カスケードの最終セリンプロテアーゼ産物であるトロンビンは、血小板を活性化し、そして構造タンパク質(フィブリノーゲン)を切断してフィブリンを生成し、それによって血液が血管から流出するのを物理的に妨げる網目構造を提供する。このプロセスからの逸脱は、出血の病理学的状態につながる。これは、第IX因子の異常又は欠損の場合に特に当てはまる。このような第IX因子活性の欠損は、遺伝性の出血性疾患である血友病Bをもたらす。静脈内送達された血漿由来又は組換え第IX因子によるタンパク質補充療法は、血友病B患者のための標準治療である。この治療法は有効であるが、この治療法は、大量の第IX因子の頻繁な(例えば、1週間に2~3回)静脈内投与を必要とする。本発明は、野生型FIXと比較して高い活性を有し、それにより(例えば、出血症状を処置するための投与のための)より迅速な応答、及び/又は投与に必要なタンパク質の量の低減(タンパク質補充療法に必要な用量の削減)を可能にする第IX因子変異体を提供する。
【0011】
第IX因子は、約90nMの濃度で不活性チモーゲン(57kDa)として血漿中を循環する。第IX因子は、タンパク質の分泌時に除去される約40のアミノ酸のプレプロリーダー配列を有する肝臓で最初に合成される。血管が損傷すると、35残基の活性化ペプチドを放出する、第VIIa因子/組織因子(TF)複合体又は第XIa因子のいずれかによる2つの結合の切断の後に、第IX因子がFIXaに活性化される。第IX因子の活性化は、十分に説明されている機構に従う。高度に保存された部位(キモトリプシン付番方式ではR15-VI6VGG)での結合の切断は、重鎖の新たなN末端(V16V17GG)をアンマスクする。切断後、中間体は、新たに生成されたN末端が活性化ポケットに挿入されてAsp194と塩橋を形成した後、迅速にプロテアーゼ状態に平衡化する「チモーゲン様状態」にある。この相互作用は、チモーゲンの活性酵素への変換の明確な特徴である。チモーゲン状態及びプロテアーゼ状態は、様々なリガンド又は補因子に応じてシフトすることができる平衡状態で存在する。遊離FIXaは、循環セルピン、最も顕著にはアンチトロンビンIII(ATIII)との反応によって迅速に排除される。
【0012】
本発明は、FIXa変異体、第IX因子変異体、第IX因子プレプロペプチド変異体、及び第IX因子プロペプチド変異体を含む変異体第IX因子分子を包含する。単純にするために、これらの変異体は、一般に、本出願を通してFIXの文脈で説明される。しかしながら、本発明は、同じアミノ酸置換を有する第IXa因子、第IX因子プレプロペプチド、及び第IX因子プロペプチド分子を企図し、かつ包含する。
【0013】
本発明のFIX変異体は、任意の哺乳動物種由来であり得る。特定の実施形態では、FIX変異体はヒトのものである。遺伝子ID:2158及びGenBankアクセッション番号NM_000133.3及びNP_000124.1は、野生型ヒト第IX因子プレプロタンパク質のアミノ酸配列及びヌクレオチド配列の例を提供する。
図1Aは、ヒト第IX因子プレプロタンパク質のアミノ酸配列の一例である配列番号1を示す。第IX因子プレプロペプチドは、アミノ酸1~28のシグナルペプチド及びアミノ酸29~46のプロペプチド配列を含む。プロペプチドの切断により、Tyr-Asn-Serの新たな末端配列を有するタンパク質が生じる。第IX因子はまた、FVIIa/TF複合体又はFXIaによってアルギニル-アラニンペプチド結合で成熟二本鎖形態(軽鎖及び重鎖)に切断されて第IX因子チモーゲンを生成する。2本の鎖は、ジスルフィド結合をよって連結されている。
図1Bは、それぞれヒト第IX因子の軽鎖及び重鎖のアミノ酸配列の例である配列番号2及び3を示す。第IX因子は、FVIIa/TF複合体又はFXIaによる35のアミノ酸の活性化ペプチドのアルギニル-バリンペプチド結合での切断によって活性化されて、野生型FIXa重鎖(配列番号4)のVVGGの新たなアミノ末端配列(配列番号6)が生じる。
図1Cは、配列番号2及び4を示し、これらの配列は、ヒトFIXaの軽鎖及び重鎖のアミノ酸配列の例である。特に、上記のタンパク質分解的切断事象は、不正確であり得、それにより切断部位でのアミノ酸(例えば、1個、2個、又は3個以上のアミノ酸)の付加又は喪失をもたらす。
図1Dは、ヒト第IX因子プレプロタンパク質をコードする核酸配列(配列番号5)を示す。第IX因子及びFIXaをコードする核酸分子は、示されたアミノ酸配列及びヌクレオチド配列から容易に決定することができる。
【0014】
特定の実施形態では、本発明の変異体は、配列番号1と少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、97%、99%、又は100%の同一性、特に少なくとも90%、95%、97%、又は99%の同一性を有する。特定の実施形態では、本発明の変異体は、配列番号1のアミノ酸29~461と少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、97%、99%、又は100%の同一性、特に少なくとも90%、95%、97%、又は99%の同一性を有する。特定の実施形態では、本発明の変異体は、配列番号1のアミノ酸47~461と少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、97%、99%、又は100%の同一性、特に少なくとも90%、95%、97%、又は99%の同一性を有する。特定の実施形態では、この変異体は、軽鎖及び重鎖を含み、この軽鎖は、配列番号2と少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、97%、99%、又は100%、特に少なくとも90%、95%、97%、又は99%の同一性を有し、かつこの重鎖は、配列番号3と少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、97%、99%、又は100%の同一性、特に、少なくとも90%、95%、97%、又は99%の同一性を有する。特定の実施形態では、この変異体は、軽鎖及び重鎖を含み、この軽鎖は、配列番号2と少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、97%、99%、又は100%の同一性、特に少なくとも90%、95%、97%、又は99%の同一性を有し、かつこの重鎖は、配列番号4と少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、97%、99%、又は100%の同一性、特に少なくとも90%、95%、97%、又は99%の同一性を有する。上記の同一性パーセントは、本発明の置換(例えば、223位、338位、342位、343位、406位、及び/又は410位の置換)を除外する。
【0015】
本発明の変異体はまた、訳後修飾(γ-カルボキシル化)してもよい。この変異体は、細胞内又はインビトロで翻訳後修飾することができる。本発明の変異体はまた、ペグ化又はグリコペグ化してもよい(例えば、nonacog beta pegol; Collins et al. (2014) Blood 124:3880-3886を参照)。例えば、ポリエチレングリコール(PEG)(例えば、40kDaのPEG)を、(例えば、活性化ペプチド内で)変異体に付着させることができる。特定の実施形態では、本発明の変異体をアルブミンに融合することができる(例えば、Santagostino et al. (2016) Blood 127:1761-1769; Metzner et al. (2009) Thromb, Haemost., 102:634-44; Nolte et al. (2012) J. Thromb. Haemost., 10:1591-9; Herzog et al. (2014) Thromb. Res., 133:900-7; Schulte (2009) Thromb. Res., 124:S6-S8を参照)。例えば、この変異体は、切断可能なリンカー(例えば、活性化ペプチドに基づくリンカー)を介してアルブミンに連結することができる。特定の実施形態では、本発明の変異体は、Fc領域(例えば、IgG1のFcドメイン;二量体又は単量体)に連結される(例えば、eftrenonacog alfa (Alproli(登録商標)); Powell et al. (2013) N. Engl. J. Med., 369:2313-2323; Peters et al. (2010) Blood 115:2057-64; Shapiro et al. (2012) Blood 119:666-72を参照)。例えば、この変異体は、(切断可能又は切断不可能な)リンカーを介してFcドメイン(例えば、ヒンジ並びにCH2及びCH3ドメイン(例えば、IgG1由来))に連結することができる。
【0016】
本発明のFIX変異体は、223位、342位、343位、406位、及び/又は410位に少なくとも1つの置換を含み得る。特定の実施形態では、本発明のFIX変異体は、223位、406位、及び/又は410位に少なくとも1つの置換を含み得る。
【0017】
特定の実施形態では、410位のグルタミン酸は、非酸性アミノ酸(例えば、Asp以外)で置換されている。特定の実施形態では、410位のグルタミン酸は、塩基性アミノ酸(例えば、Arg、His、又はLys)又は極性アミノ酸(例えば、Ser、Thr、又はTyr)で置換されている。特定の実施形態では、410位のグルタミン酸は、リジン、チロシン、アルギニン、又はヒスチジンで置換されている。特定の実施形態では、410位のグルタミン酸は、リジン又はチロシンで置換されている。特定の実施形態では、410位のグルタミン酸はリジンで置換されている。
【0018】
特定の実施形態では、406位のアスパラギンは、塩基性アミノ酸(例えば、Arg、His、又はLys)で置換されている。特定の実施形態では、406位のアスパラギンはアルギニン、リジン、又はグルタミンで置換されている。特定の実施形態では、406位のアスパラギンは、アルギニン又はリジンで置換されている。特定の実施形態では、406位のアスパラギンはアルギニンで置換されている。
【0019】
特定の実施形態では、223位のバリンは、塩基性アミノ酸(例えば、Arg、His、又はLys)、酸性アミノ酸(例えば、Asp又はGlu)、又は極性アミノ酸(例えば、Ser、Thr、Tyr、Asn、又はGln)で置換されている。特定の実施形態では、223位のバリンは極性アミノ酸で置換されている。特定の実施形態では、223位のバリンはチロシンで置換されている。
【0020】
特定の実施形態では、342位のフェニルアラニンは、塩基性アミノ酸(例えば、Arg、His、又はLys)、酸性アミノ酸(例えば、Asp又はGlu)、又は極性アミノ酸(例えば、Ser、Thr、Tyr、Asn、又はGln)で置換されている。特定の実施形態では、342位のフェニルアラニンは塩基性アミノ酸で置換されている。特定の実施形態では、342位のフェニルアラニンはヒスチジンで置換されている。
【0021】
特定の実施形態では、343位のトレオニンは、塩基性アミノ酸(例えば、Arg、His、又はLys)、酸性アミノ酸(例えば、Asp又はGlu)、疎水性アミノ酸(例えば、Ala、Ile、Leu、Met、Phe、Val、Pro、又はGly)、又は極性アミノ酸(例えば、Ser、Thr、Tyr、Asn、又はGln)で置換されている。特定の実施形態では、343位のトレオニンは塩基性アミノ酸で置換されている。特定の実施形態では、343位のトレオニンは、メチオニン、リジン、アルギニン、グルタミン、又はグリシンで置換されている。特定の実施形態では、343位のトレオニンは、メチオニン、リジン、アルギニン、又はグルタミンで置換されている。特定の実施形態では、343位のトレオニンは、メチオニン、リジン、又はアルギニンで置換されている。特定の実施形態では、343位のトレオニンは、メチオニン又はリジンで置換されている。特定の実施形態では、343位のトレオニンはメチオニンで置換されている。
【0022】
本発明の変異体は、223位、342位、343位、406位、及び/又は410位に少なくとも1つの上記の置換を含み得る。本発明の変異体は、少なくとも1つの他の置換をさらに含み得る。特定の実施形態では、この変異体は、338位のアルギニンの置換をさらに含む。特定の実施形態では、338位のアルギニンは、非塩基性アミノ酸(例えば、HisやLys以外)で置換されている。特定の実施形態では、338位のアルギニンは、非極性アミノ酸(例えば、Gly、Ala、Leu、Val、Ile、又はMet)で置換されている。特定の実施形態では、338位のアルギニンはロイシンで置換されている。
【0023】
上記の変異体をコードする核酸分子も本発明に包含される。変異体をコードする核酸分子は、当技術分野で公知の任意の方法によって調製することができる。この核酸分子は、任意の都合のよいベクター、特に発現ベクター中に維持することができる。
【0024】
少なくとも1つの変異体ポリペプチド及び少なくとも1つの担体を含む組成物もまた本発明に包含される。少なくとも1つの変異体核酸分子及び少なくとも1つの担体を含む組成物もまた本発明に包含される。任意の従来の担体が、投与されるべき変異体と適合性でない場合を除いて、医薬組成物における担体の使用が企図される。特定の実施形態では、担体は、静脈内投与用の薬学的に許容可能な担体である。
【0025】
定義
本発明の生物学的分子に関する様々な用語が上記に使用され、さらに本明細書及び特許請求の範囲を通しても使用される。
【0026】
語句「止血関連疾患」は、出血障害、例えば、限定されるものではないが、血友病A、血友病B、抑制抗体を有する血友病A及びBの患者、少なくとも1つの凝固因子(例えば、第VII因子、第IX因子、第X因子、第XI因子、第V因子、第XII因子、第II因子、及び/又はフォン・ヴィレブランド因子;特に第IX因子)の欠損、FV/FVIII複合欠損症、ビタミンKエポキシドレダクターゼCI欠損症、γ-カルボキシラーゼ欠損症;外傷、傷害、血栓症、血小板減少症、脳卒中、凝固障害(凝固不良)、播種性血管内凝固症候群(DIC)に関連する出血;ヘパリン、低分子量ヘパリン、五糖類、ワルファリン、小分子抗血栓薬(すなわち、FXa阻害剤)に関連する過剰な抗凝固;並びにバーナード・スーリエ症候群、グランツマン血小板無力症(Glanzman thromblastemia)、及び貯蔵プール欠乏症などの血小板障害を指す。特定の実施形態では、止血関連疾患は血友病Bである。
【0027】
本発明の核酸に関して、用語「単離された核酸」が時々使用される。この用語は、DNAに適用される場合、DNA分子を指し、このDNA分子は、このDNA分子が由来する生物の天然に存在するゲノムにおいてこのDNA分子が(5’及び3’方向において)直接隣接している配列から分離されている。例えば、「単離された核酸」は、プラスミド又はウイルスベクターなどのベクターに挿入された、又は原核生物若しくは真核生物のDNAに組み込まれたDNA若しくはcDNA分子を含み得る。本発明のRNA分子に関して、用語「単離された核酸」は主に、上記定義されたような単離されたDNA分子によってコードされているRNA分子を指す。あるいは、この用語は、RNA分子を指すことがあり、このRNA分子は、このRNA分子が「実質的に純粋な」形態で存在するように、このRNA分子がその天然の状態で(すなわち、細胞又は組織中で)結合するはずであるRNA分子から十分に分離されている。
【0028】
タンパク質に関しては、用語「単離されたタンパク質」が本明細書で時々使用される。この用語は、本発明の単離された核酸分子の発現によって産生されるタンパク質を指すことがある。あるいは、この用語は、タンパク質を指すことがあり、このタンパク質は、このタンパク質が本来結合するはずである他のタンパク質から(例えば、「実質的に純粋な」形態で存在するように)十分に分離されている。
【0029】
用語「ベクター」は、例えば、核酸配列を発現及び/又は複製することができる宿主細胞への導入のために、核酸配列を挿入することができる担体核酸分子(例えば、RNA又はDNA)を指す。「発現ベクター」は、宿主細胞における発現に必要とされる必須の調節領域を有する遺伝子又は核酸配列を含む特殊なベクターである。
【0030】
用語「作動可能に連結された」は、コード配列の発現に影響を与えるように、コード配列の発現に必要な調節配列がコード配列に対して適切な位置でDNA分子内に配置されることを意味する。この同じ定義は、時には、発現ベクター中のコード配列及び転写調節エレメント(例えば、プロモーター、エンハンサー、及び終結エレメント)の配置に当てはまる。この定義はまた、ハイブリッド核酸分子が生成される第1及び第2の核酸分子の核酸配列の配置にも当てはまる場合もある。
【0031】
用語「単離されたタンパク質」又は「単離及び精製されたタンパク質」は、本明細書で時折使用される。この用語は主に、本発明の単離された核酸分子の発現によって産生されるタンパク質を指す。あるいは、この用語は、「実質的に純粋な」形態で存在するように、それが本来結合するはずである他のタンパク質から十分に分離されたタンパク質を指し得る。「単離された」は、他の化合物又は材料との人工又は合成の混合物も、また、例えば不完全な精製又は安定剤の添加によって存在し得る、基本的活性を妨害しない不純物の存在も排除するものではない。
【0032】
用語「実質的に純粋な」は、少なくとも50~60重量%の目的の化合物(例えば、核酸、オリゴヌクレオチド、タンパク質など)、特に少なくとも75重量%、又は少なくとも90~99重量%以上の目的の化合物を含む調製物を指す。純度は、目的の化合物に適した方法(例えば、クロマトグラフィー法、アガロース又はポリアクリルアミドゲル電気泳動法、及びHPLC分析など)によって測定することができる。
【0033】
「薬学的に許容可能な」は、動物、特にヒトでの使用が連邦政府又は州政府の規制当局によって承認されていること、又は米国薬局方若しくはその他の一般に認められている薬局方に記載されていることを意味する。
【0034】
「担体」は、例えば、希釈剤、アジュバント、保存剤(例えば、Thimersol、ベンジルアルコール)、抗酸化剤(例えば、アスコルビン酸、メタ重亜硫酸ナトリウム)、可溶化剤(例えば、ポリソルベート80)、乳化剤、緩衝剤(例えば、Tris HCl、酢酸塩、リン酸塩)、抗菌剤、増量剤(例えば、ラクトース、マンニトール)、賦形剤、補助剤、又は本発明の活性剤と一緒に投与されるビヒクルを指す。薬学的に許容可能な担体は、石油、動物、植物、又は合成起源のものを含む、水及び油などの滅菌液であり得る。水又は水性生理食塩溶液並びに水性デキストロース及びグリセロール溶液が、好ましくは、特に注射用溶液のための担体として利用される。適切な医薬担体は、“Remington’s Pharmaceutical Sciences” by E.W. Martin (Mack Publishing Co., Easton, PA); Gennaro, A. R., Remington: The Science and Practice of Pharmacy, (Lippincott, Williams and Wilkins); Liberman, et al., Eds., Pharmaceutical Dosage Forms, Marcel Decker, New York, N.Y.;及びKibbe, et al., Eds., Handbook of Pharmaceutical Excipients, American Pharmaceutical Association, Washingtonに記載されている。
【0035】
変異体をコードする核酸分子及びポリペプチドの調製
本発明の変異体をコードする核酸分子は、組換えDNA技術方法を使用することによって調製することができる。ヌクレオチド配列情報の利用可能性は、様々な手段による本発明の単離された核酸分子の調製を可能にする。例えば、変異体をコードする核酸配列は、当技術分野において周知の標準的なプロトコルを用いて適切な生物学的供給源から単離することができる。
【0036】
本発明の核酸は、任意の便利なクローニングベクター中にRNA又はDNAとして維持することができる。特定の実施形態では、クローンは、プラスミドクローニング/発現ベクター中に維持され、このベクターは、適切な大腸菌(E.coli)宿主細胞中で増殖される。あるいは、この核酸は、哺乳動物細胞(例えば、T細胞、造血細胞など)での発現に適したベクター中に維持してもよい。翻訳後修飾が変異体の機能に影響を与える場合、分子を哺乳動物細胞で発現させることが好ましい。
【0037】
一実施形態では、本発明の変異体をコードする核酸は、細胞内タンパク質分解性切断部位の挿入によってさらに修飾することができる(本発明はまた、切断の前及び後の両方で得られるポリペプチドも包含する)。哺乳動物細胞でFIXa変異体を発現させるために、細胞内タンパク質分解切断部位(例えば、PACE/フリン切断部位)を、変異体第IX因子のArg15位とVal16位との間に挿入することができる。このような切断部位には、限定されるものではないが:Arg-Xaa-(Arg/Lys)-Arg(配列番号7)、Arg-Lys-Arg、又はArg-Lys-Arg-Arg-Lys-Arg(配列番号8)が含まれる。これらの切断部位は、細胞内のプロテアーゼ(PACE/フリン様酵素)によって効率的に認識され、除去される。これにより、分子における重鎖が16位で始まる処理された変異体FIXaが得られる。この切断部位のこの位置への導入により、第IX因子のFIXaへの細胞内変換が可能となる。別の実施形態では、35のアミノ酸の活性化ペプチドの一部又は全てを除去することができ、かつ細胞内プロテアーゼ切断部位をその位置に導入することができ、これにより発現時にFIXa変異体が得られる。
【0038】
最終的にこれらの種類の修飾は、修飾変異体第IX因子を発現する細胞からの「活性」処理形態の変異体第IX因子の分泌を可能にする。切断された因子の分泌は、血液凝固中又はタンパク質の単離後にタンパク質分解性切断の必要性をなくす。
【0039】
本発明の変異体コード核酸分子には、cDNA、ゲノムDNA、RNA、及び一本鎖又は二本鎖であり得るこれらの断片が含まれる。従って、本発明は、本発明の核酸分子の少なくとも1つの配列とハイブリダイズすることができる配列を有するオリゴヌクレオチド(DNA又はRNAのセンス鎖又はアンチセンス鎖)を提供する。このようなオリゴヌクレオチドは、変異体発現を検出するためのプローブとして有用である。
【0040】
本発明の変異体は、既知の方法に従って様々な方式で調製することができる。タンパク質は、例えば免疫親和性精製によって、適切な供給源(例えば、形質転換された細菌又は変異体を発現する動物培養細胞若しくは組織)から精製することができる。変異体をコードする核酸分子の利用可能性により、当技術分野で公知のインビトロ発現方法を用いた変異体の産生が可能となる。例えば、cDNA又は遺伝子は、インビトロ転写のためのpSP64又はpSP65などの適切なインビトロ転写ベクターにクローニングし、続いて小麦胚芽又はウサギ網状赤血球溶血液などの適切な無細胞翻訳系で無細胞翻訳することができる。インビトロ転写及び翻訳系は市販されている。
【0041】
あるいは、より大量の変異体を、適切な原核生物又は真核生物発現系での発現によって産生することができる。例えば、変異体をコードするDNA分子の一部又は全てを、大腸菌(E.coli)などの細菌細胞、又はCHO若しくはHeLa細胞などの哺乳動物細胞での発現に適したプラスミドベクターに挿入することができる。あるいは、変異体を含む標識融合タンパク質を作製することができる。このような変異体標識融合タンパク質は、大腸菌(E.coli)などの細菌細胞、又は、限定されるものではないが酵母及び哺乳動物細胞(例えば、T細胞、造血細胞など)などの真核細胞での発現に適合されたプラスミドベクターに導入される所望のポリペプチド標識の一部又は全てをコードするヌクレオチド配列に正しいコドン読み枠で連結されたDNA分子の一部又は全てによってコードされる。上記のようなベクターは、宿主細胞内でのDNAの発現を可能にするように配置された、宿主細胞内でのDNAの発現に必要な調節エレメントを含む。発現に必要なこのような調節エレメントには、限定されるものではないが、プロモーター配列、転写開始配列、及びエンハンサー配列が含まれる。
【0042】
組換え原核生物系又は真核生物系での遺伝子発現によって産生される変異体タンパク質は、当技術分野で公知の方法に従って精製することができる。特定の実施形態では、市販の発現/分泌系を使用することができ、それによって組換えタンパク質が発現され、その後宿主細胞から分泌され、周囲の培地から容易に精製されることになる。発現/分泌ベクターが使用されない場合、代替のアプローチでは、親和性分離、例えば組換えタンパク質に特異的に結合する抗体との免疫学的相互作用、又はそれらのN末端又はC末端において6~8ヒスチジン残基で標識された組換えタンパク質の単離のためのニッケルカラムによって組換えタンパク質を精製する。代替の標識は、FLAGエピトープ、GST、又は赤血球凝集素エピトープを含み得る。このような方法は、熟練した診療医によって一般的に使用されている。
【0043】
前述の方法によって調製された変異体タンパク質は、標準的な手順に従って分析することができる。例えば、このようなタンパク質は、既知の方法に従ってアミノ酸配列分析を行うことができる。
【0044】
上記のように、本発明に従ってポリペプチドを産生する便利な方法では、発現系での核酸の使用によってこのポリペプチドをコードする核酸を発現させる。本発明の方法に有用な様々な発現系は当業者に周知である。
【0045】
従って、本発明はまた、(開示されるような)ポリペプチドを産生する方法も包含し、この方法は、ポリペプチドをコードする核酸(一般に核酸)からの発現を含む。これは、このようなベクターを含む宿主細胞を、ポリペプチドの産生をもたらす又は可能にする適切な条件下で培養することによって好都合に達成することができる。ポリペプチドはまた、網状赤血球溶血液などのインビトロ系でも産生させることができる。
【0046】
変異体タンパク質及び変異体コード核酸の使用
変更されたプロテアーゼ活性を有するポリペプチドをコードする変異体核酸は、例えば、血液凝固カスケードを調節する治療薬及び/又は予防薬(タンパク質又は核酸)として本発明に従って使用することができる。本発明の特定の実施形態では、変異体ポリペプチドは、生物学的に適合する担体中への注入によって、例えば血管内又は静脈内注射によって患者に投与することができる。本発明の変異体は、分子の安定性を増大させるために、任意選択によりリポソーム内に封入してもよいし、又は他のリン脂質若しくはミセルと混合してもよい。変異体は、単独で、又は止血を調節することが知られている他の剤(例えば、第VIII因子、第VIIIa因子、又はこれらの誘導体)と組み合わせて投与することができる。変異体ポリペプチドを送達するための適切な組成物は、限定されるものではないが、患者の状態及び血行動態を含む様々な生理学的変数を考慮して医師が決定することができる。様々な用途及び投与経路によく適した様々な組成物が当技術分野で周知であり、本明細書に記載されている。
【0047】
精製された変異体を含む調製物は、生理学的に許容可能なマトリックスを含み、好ましくは医薬調製物として製剤される。この調製物は、当分野で公知の方法を用いて製剤することができる。特定の実施形態では、変異体は、NaCl若しくはCaCl2などの塩を含有する緩衝液、並びに/又はグリシン及び/若しくはリジンなどのアミノ酸と混合してpH6~8の範囲にすることができる。必要になるまで、変異体を含む精製された調製物は、最終溶液の形態、又は凍結乾燥若しくは急速冷凍形態で保存することができる。特定の実施形態では、調製物は、凍結乾燥形態で保存され、適切な再構成溶液を用いて視覚的に透明な溶液に溶解される。あるいは、本発明による調製物はまた、液体調製物として又は急速冷凍される液体として利用可能にすることができる。
【0048】
第IX因子変異体を含む本発明による調製物はさらに、第VIIa因子/TF複合体、又は第IX因子変異体をFIXaに活性化することができるFXIa若しくはその誘導体と組み合わせてもよい。特定の実施形態では、FIXa変異体は、組み合わせ調製物の形態で利用可能にすることができ、この組み合わせ調製物の形態は、潜在的にはプロテアーゼが補充された小型カラム又はシリンジの形態である、マトリックス上に固定化された第VIIa因子/TF複合体又はFXIaを保持する容器、及び第IX因子変異体を含む医薬調製物を含む容器を備える。第IX因子変異体を活性化するために、第IX因子変異体含有溶液を、例えば、固定化プロテアーゼに押し付けることができる。調製物の保存中は、第IX因子変異体含有溶液は、好ましくはプロテアーゼから空間的に分離されている。本発明による調製物は、プロテアーゼと同じ容器に保存することができるが、成分は、調製物の投与前に容易に除去することができる不透過性の仕切りによって空間的に分離されている。この溶液はまた、別々の容器に保存し、投与直前になって初めて互いに接触させることができる。
【0049】
第IX因子変異体を対象に投与することができる。あるいは、第IX因子変異体は、直接の使用の直前、すなわち対象への投与の直前にFIXaに活性化することができる。この活性化は、第IX因子変異体を固定化プロテアーゼと接触させることによって、又は一方のプロテアーゼ及び他方の第IX因子変異体を含有する溶液を混合することによって行うことができる。従って、溶液中の2つの成分を別々に維持し、これらが装置を通過するときにこれらの成分が互いに接触し、それによってFIXa又はFIXa変異体の活性化をもたらす適切な注入装置によってこれらを混合することが可能である。従って、患者には、FIXaの混合物に加えて、活性化に関与するセリンプロテアーゼが投与される。これに関連して、セリンプロテアーゼの追加投与も、内因性第IX因子を活性化し、この活性化が凝固時間を短縮し得るため、投与量に細心の注意を払うことが重要である。
【0050】
本発明による調製物は、1成分調製物の形態でFIX活性を有する医薬調製物として、又は多成分調製物の形態で他の因子と組み合わせて利用可能にすることができる。
【0051】
精製されたタンパク質を医薬調製物に加工する前に、精製されたタンパク質を従来の品質管理を行って、治療用提示形態に形成することができる。特に、組換え製造中に、精製された調製物を、細胞核酸及び発現ベクターに由来する核酸の非存在について試験することができる。
【0052】
本発明の別の特徴は、高い安定性及び構造的完全性を有するFIXa変異体を含み、かつ、特に不活性な第IX/IXa因子中間体及び自己タンパク質分解産物を含まない調製物を利用可能にすることに関し、この調製物は、上記のタイプの第IX因子変異体を活性化すること、及び適切な調製物に製剤化することによって生産することができる。
【0053】
本発明の医薬調製物は、一例として、約1~1000μg/kg、約10~500μg/kg、約10~250μg/kg、又は約10~100μg/kgの用量を含み得る。この量は、少なくとも1日1回静脈内投与することができる。患者は、出血で診療所に現れたとき直ちに、又は出血を引き起こす切断/創傷が起こる前に処置することができる。あるいは、患者は、1~3時間ごとにボーラス注入を受けてもよいし、又は十分な改善が見られる場合は、本明細書に記載の変異体の1日1回の注入を受けてもよい。
【0054】
変異体をコードする核酸は、本発明に従って様々な目的に使用することができる。本発明の特定の実施形態では、血液凝固を調節するための核酸送達ビヒクル(すなわち、発現ベクター)が提供され、この発現ベクターは、本明細書に記載の変異体ポリペプチド又はその機能的断片をコードする核酸配列を含む。変異体コード発現ベクターの患者への投与は、凝固カスケードを変更するのに役立つ変異体ポリペプチドの発現をもたらす。本発明によると、変異体をコードする核酸配列は、その発現が止血を増加させる本明細書に記載の変異体第IX因子ポリペプチドをコードし得る。特定の実施形態では、核酸配列は、ヒト第IX因子又は第IXa因子ポリペプチド変異体をコードする。本発明の変異体をコードする核酸分子又は本発明の変異体をコードする核酸分子を含む細胞は、止血を調節するために対象に投与することができる。この核酸分子は、例えば、血小板、T細胞、及び/又は他の造血細胞で発現させてもよいし、又はこれらに送達してもよい。
【0055】
変異体核酸配列を含む発現ベクターは、単独で、又は止血を調節するのに有用な他の分子と組み合わせて投与することができる。本発明によると、発現ベクター又は治療薬の組み合わせは、単独で、又は薬学的に許容可能な若しくは生物学的に適合性の組成物中で患者に投与することができる。
【0056】
本発明の特定の実施形態では、変異体をコードする核酸配列を含む発現ベクターはウイルスベクターである。本発明で使用することができる、組織特異的プロモーター/エンハンサーを含む又は含まないウイルスベクターとしては、限定されるものではないが:アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター(例えば、AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、AAV11、AAV12、AAVrh10、又は他の誘導体及び/若しくは代替の血清型)、及びハイブリッドAAVベクター(例えば、2つ、3つ、4つ、5つ以上の血清型の組み合わせハイブリッド)、レンチウイルスベクター及び偽型レンチウイルスベクター(例えば、エボラウイルス、水疱性口内炎ウイルス(VSV)、及びネコ免疫不全ウイルス(FIV))、単純ヘルペスウイルスベクター、ワクシニアウイルスベクター、及びレトロウイルスベクターが挙げられる。AAVは、キャプシドタンパク質(例えば、AAV血清型1~12及びその他のいずれか1つ以上)及び異なるAAVからのゲノム(例えば、AAV血清型2)を有するハイブリッドAAVベクターであり得る。
【0057】
本発明の特定の実施形態では、変異体又はその機能的断片をコードする核酸配列を含むウイルスベクターを投与するための方法が提供される。本明細書に記載されるように、このようなアデノウイルスベクターの投与後の変異体ポリペプチドの発現は、止血の調節、特に凝血促進活性の増強に役立つ。
【0058】
また、止血を調節するための方法も本発明に含まれ、この方法は、変異体ポリペプチドをコードする核酸送達ビヒクルを個体の細胞(例えば、血小板、T細胞、造血細胞など)に供給すること、及び変異体ポリペプチドが発現される条件下でこの細胞を増殖させることを含む。この細胞を対象に投与することができる。
【0059】
前述の議論から、変異体ポリペプチド、及び変異体ポリペプチドを発現する核酸ベクターを、異常な血液凝固に関連する障害の処置に使用できることが分かる。
【0060】
本発明の発現ベクターは、生物学的に活性なタンパク質(例えば、変異体ポリペプチド又はその機能的断片若しくは誘導体)の産生を可能にするために、対象に送達することができる医薬組成物に組み込むことができる。本発明の特定の実施形態では、レシピエントが治療有効量の変異体ポリペプチドを産生することを可能にするのに十分な遺伝物質を含む医薬組成物は、対象の止血に影響を及ぼし得る。あるいは、上で議論したように、有効量の変異体ポリペプチドを、それを必要とする患者に直接注入することができる。この組成物は、単独で投与してもよいし、又は限定されるものではないが、生理食塩水、緩衝食塩水、デキストロース、及び水を含む任意の滅菌生体適合性医薬担体中で投与することができる少なくとも1つの他の剤、例えば、安定化化合物と組み合わせて投与してもよい。この組成物は、患者に単独で投与してもよいし、又は止血に影響を及ぼす他の剤(例えば、補因子)と組み合わせて投与してもよい。
【0061】
特定の実施形態では、医薬組成物はまた、本明細書に記載のように薬学的に許容可能な賦形剤/担体も含む。このような担体は、それ自体がこの組成物を摂取する個体に有害な免疫応答を誘発せず、かつ過度の毒性なしに投与することができる任意の医薬品を含む。薬学的に許容可能な担体としては、限定されるものではないが、水、食塩水、グリセロール、糖、及びエタノールなどの液体が挙げられる。薬学的に許容可能な塩には、例えば、塩酸塩、臭化水素酸塩、リン酸塩、及び硫酸塩などの鉱酸塩;並びに酢酸塩、プロピオン酸塩、マロン酸塩、及び安息香酸塩などの有機酸塩も含まれ得る。さらに、湿潤剤又は乳化剤、及びpH緩衝物質など補助物質は、このようなビヒクル中に存在してもよい。薬学的に許容可能な賦形剤の徹底的な考察が、Remington: The Science and Practice of Pharmacy (22nd Ed. (2012) Pharmaceutical Press)で入手可能である。
【0062】
非経口又は血管内投与に適した医薬製剤は、水溶液中、好ましくはハンクス液、リンゲル液、又は生理緩衝食塩水などの生理学的に適合性の緩衝液中で製剤化することができる。水性懸濁注射液は、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ソルビトール、又はデキストランなどの懸濁液の粘度を増加させる物質を含み得る。さらに、活性化合物の懸濁液は、適切な油性懸濁注射液として調製することができる。適切な親油性溶媒又はビヒクルとしては、ゴマ油などの脂肪油、又はオレイン酸エチル若しくはトリグリセリドなどの合成脂肪酸エステル、又はリポソームが挙げられる。任意選択により、懸濁液は、適切な安定剤、又は化合物の溶解度を高めて高濃度溶液の調製を可能にする剤を含有してもよい。
【0063】
医薬組成物は、塩として提供することができ、かつ限定されるものではないが、塩酸、硫酸、酢酸、乳酸、酒石酸、リンゴ酸、コハク酸などを含む多くの酸と共に形成することができる。塩は、対応する遊離塩基形態よりも水性又は他のプロトン性溶媒に溶けやすい傾向がある。他の場合には、調製物は、以下のいずれか又は全てを含み得る凍結乾燥粉末であり得る:使用前に緩衝液と組み合わせられる1~50mMのヒスチジン、0.1%~2%のスクロース、及び2~7%のマンニトール、pH4.5~5.5の範囲。
【0064】
医薬組成物を調製した後に、これを適切な容器に入れ、そして処置についてのラベルを貼ってもよい。変異体含有ベクター又はポリペプチドの投与のために、このようなラベルは、投与の量、頻度、及び投与方法を含むであろう。
【0065】
本発明での使用に適した医薬組成物は、活性成分が意図した治療目的を達成するのに有効な量で含まれる組成物を含む。治療有効量の決定は、本発明で提供される技術及び手引きを使用する熟練した医師の十分に能力の範囲内である。治療用量は、とりわけ、対象の年齢及び全身状態、異常な血液凝固表現型の重症度、及び変異体ポリペプチドの発現レベルを調節する制御配列の強度に依存する。従って、ヒトでの治療有効量は、比較的広範囲となり、ベクターをベースとした変異体処置に対する個々の患者の反応に基づき、医師が決定することができる。
【0066】
変異体ポリペプチドは、単独で又は他の剤と組み合わせて、上記のような適切な生物学的担体中で患者に直接注入することができる。変異体又はその機能的断片をコードする核酸配列を含む本発明の発現ベクターは、予防及び/又は治療に有効なレベルの変異体ポリペプチドを達成及び維持するために様々な手段(以下を参照)によって患者に投与することができる。当業者は、特定の患者の治療的処置のために、本発明の変異体をコードする発現ベクターを使用するための特定のプロトコルを容易に決定することができる。
【0067】
本発明の変異体をコードするアデノウイルスベクターは、公知の任意の手段によって患者に投与することができる。インビボでの医薬組成物の直接送達は、一般に従来の注射器を用いた注射によって達成することができるが、対流促進送達などの他の送達方法も考えられる。これに関して、この組成物は、皮下、表皮、皮内、クモ膜下腔内、眼窩内、粘膜内、腹腔内、血管内、静脈内、動脈内、経口、肝内、骨内、又は筋肉内に送達することができる。他の投与方式としては、経口及び肺投与、坐剤、並びに経皮投与が挙げられる。血液凝固障害の患者の処置を専門とする臨床医は、限定されるものではないが:患者の状態及び処置の目的(例えば、血液凝固の増強又は低減)を含むいくつかの基準に基づいて、変異体核酸配列を含むアデノウイルスベクターの投与の最適経路を決定することができる。
【0068】
本発明はまた、変異体ポリペプチドをコードする核酸配列を含むAAVベクターも包含する。また、変異体ポリペプチドをコードする核酸配列を含むレンチウイルス又は偽型レンチウイルスベクターも包含される。また、変異体ポリペプチドをコードする核酸配列を含む裸プラスミド又は発現ベクターも包含される。
【0069】
以下の実施例は、本発明の様々な実施形態を例示するために提供される。これらの実施例は、例示であり、本発明を限定することを決して意図するものではない。
【実施例】
【0070】
実施例1
223位、406位、又は410位のアミノ酸が修飾されている一連の組換え第IX因子誘導体を活性について試験した。具体的には、Glu410は、Lys、Tyr、Arg、又はHisで置換され;Val223はTyrで置換され;かつAsn406は、Arg、Lys、又はGlnで置換されていた。さらに、Glu410がLysで置換され、かつArg338がLeuで置換された第IX因子変異体が作製された。簡単に述べると、100mmプレート内のHEK293細胞に、第IX因子変異体を発現するプラスミドを一過性にトランスフェクトした。トランスフェクト細胞の培地を48時間で収集し、そして第IX因子活性を、1段階の第IX因子特異的凝固アッセイで評価した。抗原レベルを、第IX因子特異的ELISAを用いて決定した。実験的変動を制御するために、第IX因子変異体の比活性を抗原レベルに対して正規化した。表1に示されるように、上で確認した置換は、野生型第IX因子よりも高い比活性をもたらした。特に、二重変異体は、第IX因子の比活性を15倍を超えて増強した。
【0071】
【0072】
血友病Bマウスに、肝臓特異的プロモーターの制御下で、4×10
11のベクターゲノム(vg)/kgの、FIX R338L+E410K(n=7)又はWT FIX(n=2)をコードするAAV8ベクターを血管内投与した。
図2は、血友病BマウスにおけるFIX変異体(R338L+E410K)及びFIX-WTのインビボ比活性を示す。血漿試料を、ベクター注入の4週間後に回収し、活性をaPTTベースのアッセイによって測定し、抗原をFIX ELISAによって測定した。重要なことに、FIX変異体は、野生型FIXよりもインビボで劇的に高い活性を示す。
【0073】
実施例2
新規のFIX変異体を同定するために、(1)血友病Bと関連すると報告されなかったアミノ酸位置;(2)種間で高度に保存されていたアミノ酸位置;及び(3)タンパク質機能に関連する領域内に位置していたアミノ酸位置を選択した。例えば、活性化FIXが活性化第VIII因子(FVIIIa)に結合する能力、又は内因性経路の活性化に関与する他の酵素と相互作用する能力に影響を及ぼす領域。342位又は343位のアミノ酸が修飾されている一連の組換え第IX因子誘導体を活性について試験した。具体的には、Thr343をMet、Lys、Arg、Gln、又はGlyで置換し、Phe342をHisで置換した。
【0074】
簡潔に述べると、6ウェルプレート内のコンフルエントなHEK293細胞を、製造者の指示に従ってLipofectamine(登録商標)2000(Invitrogen)を用いて各FIX変異体の10μgのプラスミドDNAでトランスフェクトする。トランスフェクションの4~6時間後に、細胞を、コンフルエントな状態が継続されているかについてチェックし、10μg/mlのビタミンKを含むFIX発現培地に替えた。24時間後に、馴化培地を回収した。FIX抗原レベルを、市販のFIX特異的ELISA(Affinity Biologicals, Inc.; Ancaster, ON, Canada)によって決定し、そして活性を、aPTTベースの凝固アッセイによって決定した。両方のアッセイは、標準として市販の組換えFIX(BeneFIX(登録商標))を使用する。全ての実験を三連で行い、そして同時にトランスフェクトされたFIX-WTと比較した(Arruda et al., Blood (2001) 97:130)。
【0075】
表2に示されるように、上で確認した置換は、野生型第IX因子よりも高い比活性をもたらした。
【0076】
【0077】
本発明の特定の好ましい実施形態を上に記載し、具体的に例示したが、本発明をそのような実施形態に限定することを意図するものではない。添付の特許請求の範囲に記載される本発明の範囲及び精神から逸脱することなく、そのような実施形態に様々な修正を加えることができる。
【配列表】