(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-22
(45)【発行日】2022-12-01
(54)【発明の名称】位相同期回路
(51)【国際特許分類】
H03L 7/08 20060101AFI20221124BHJP
H03L 7/095 20060101ALI20221124BHJP
【FI】
H03L7/08 230
H03L7/095
(21)【出願番号】P 2019548137
(86)(22)【出願日】2018-10-01
(86)【国際出願番号】 JP2018036704
(87)【国際公開番号】W WO2019073841
(87)【国際公開日】2019-04-18
【審査請求日】2021-08-20
(31)【優先権主張番号】P 2017198347
(32)【優先日】2017-10-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】316005926
【氏名又は名称】ソニーセミコンダクタソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001357
【氏名又は名称】弁理士法人つばさ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】林 盈達
【審査官】志津木 康
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-516133(JP,A)
【文献】特開2007-184778(JP,A)
【文献】特開平11-308104(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0240921(US,A1)
【文献】CHANG,Jung-yu,et.al,A phase-locked loop with background leakage compensation,IEEE Transactions on Circuits and Systems II:Express Briefs,米国,IEEE,2010年08月19日,VOL.57,NO.9,pp.666-670
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03L1/00-9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の信号の位相と、クロック信号に応じた第2の信号の位相とを比較する位相比較回路と、
一端が第1のノードに接続されるとともに他端が第2のノードに接続された抵抗素子と、一端が前記第2のノードに接続された容量素子とを有し、前記位相比較回路における位相比較結果に基づいて制御電圧を生成するループフィルタと、
前記制御電圧に基づいて前記クロック信号を生成する発振回路と、
前記抵抗素子の両端間の電圧差をデジタルコードに変換するAD変換回路と、
前記デジタルコードに基づいて第1の電流を生成し、前記第2のノードに前記第1の電流を供給する電流生成回路と
を備えた位相同期回路。
【請求項2】
前記AD変換回路は、第1のタイミングにおいて前記電圧差を第1のデジタルコードに変換するとともに、第2のタイミングにおいて前記電圧差を第2のデジタルコードに変換し、
前記電流生成回路は、前記第1のデジタルコードおよび前記第2のデジタルコードに基づいて前記第1の電流を生成する
請求項1に記載の位相同期回路。
【請求項3】
前記電流生成回路は、前記第1のデジタルコードおよび前記第2のデジタルコードを加算し、加算された結果に基づいて前記第1の電流を生成する
請求項2に記載の位相同期回路。
【請求項4】
前記AD変換回路は、前記位相同期回路の動作状態が位相同期状態である期間において、前記電圧差を前記デジタルコードに変換する
請求項1に記載の位相同期回路。
【請求項5】
前記位相同期回路の動作状態が前記位相同期状態であるかどうかを検出する同期検出回路をさらに備え、
前記AD変換回路は、前記同期検出回路の検出結果に基づいて、前記電圧差を前記デジタルコードに変換する
請求項4に記載の位相同期回路。
【請求項6】
前記AD変換回路は、間欠的に、前記電圧差を前記デジタルコードに変換する
請求項1に記載の位相同期回路。
【請求項7】
前記第1の信号は、クロック信号であり、
前記AD変換回路は、前記第1の信号の周期の整数倍の周期で、前記電圧差を前記デジタルコードに変換する
請求項6に記載の位相同期回路。
【請求項8】
前記第1のノードに接続されたチャージポンプをさらに備え、
前記位相比較回路は、前記位相比較結果に基づいて第1の制御信号および第2の制御信号を生成する位相周波数比較回路であり、
前記チャージポンプは、前記第1の制御信号に基づいて前記容量素子をチャージするように前記ループフィルタに第2の電流を流し、前記第2の制御信号に基づいて前記容量素子をディスチャージするように前記ループフィルタに第3の電流を流す
請求項1に記載の位相同期回路。
【請求項9】
前記第1の制御信号および前記第2の制御信号に基づいて、前記AD変換回路の動作タイミングを設定するタイミング設定回路をさらに備えた
請求項8に記載の位相同期回路。
【請求項10】
前記クロック信号を分周することにより前記第2の信号を生成する分周回路をさらに備えた
請求項1に記載の位相同期回路。
【請求項11】
前記容量素子は、MOSキャパシタを用いて構成された
請求項1に記載の位相同期回路。
【請求項12】
前記第1の電流は、前記抵抗素子の両端間の電圧差を抑えるような電流である
請求項1に記載の位相同期回路。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、位相を同期させる位相同期回路に関する。
【背景技術】
【0002】
位相同期回路(PLL;Phase Locked Loop)は、例えば、位相比較回路、ループフィルタ、発振回路などを含んで構成される。例えば、特許文献1には、MOS(Metal Oxide Semiconductor)キャパシタを有するループフィルタを用いて構成された位相同期回路において、このMOSキャパシタに生じるリーク電流の補償を図る技術が開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】Chi-Nan CHUANG and Shen-Iuan LIU、“A 1 V Phase Locked Loop with Leakage Compensation in 0.13 μm CMOS Technology”、IEICE TRANSACTIONS on Electronics、2006年3月、Vol.E89-C、No.3、p.295-299
【発明の概要】
【0004】
位相同期回路では、生成されるクロック信号のジッタが低いことが望まれており、さらなるジッタの低減が期待されている。
【0005】
クロック信号のジッタを低減することができる位相同期回路を提供することが望ましい。
【0006】
本開示の一実施の形態における位相同期回路は、位相比較回路と、ループフィルタと、発振回路と、AD変換回路と、電流生成回路とを備えている。位相比較回路は、第1の信号の位相と、クロック信号に応じた第2の信号の位相とを比較するものである。ループフィルタは、一端が第1のノードに接続されるとともに他端が第2のノードに接続された抵抗素子と、一端が第2のノードに接続された容量素子とを有し、位相比較回路における位相比較結果に基づいて制御電圧を生成するものである。発振回路は、制御電圧に基づいてクロック信号を生成するものである。AD変換回路は、抵抗素子の両端間の電圧差をデジタルコードに変換するものである。電流生成回路は、デジタルコードに基づいて第1の電流を生成し、第2のノードに第1の電流を供給するものである。
【0007】
本開示の一実施の形態における位相同期回路では、位相比較回路により、第1の信号の位相と、クロック信号に応じた第2の信号の位相とが比較され、その比較結果に基づいて、ループフィルタにより、制御電圧が生成される。そして、発振回路により、その制御電圧に基づいてクロック信号が生成される。ループフィルタの抵抗素子の両端間の電圧差は、AD変換回路によりデジタルコードに変換される。そして、電流生成回路により、このデジタルコードに基づいて第1の電流が生成され、この第1の電流がループフィルタの第2のノードに供給される。
【0008】
本開示の一実施の形態における位相同期回路によれば、抵抗素子の両端間の電圧差をデジタルコードに変換するAD変換回路を設けるようにしたので、クロック信号のジッタを低減することができる。なお、ここに記載された効果は必ずしも限定されるものではなく、本開示中に記載されたいずれの効果があってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本開示の一実施の形態に係る位相同期回路の一構成例を表すブロック図である。
【
図2A】
図1に示した位相比較回路の一動作例を表すタイミング波形図である。
【
図2B】
図1に示した位相比較回路の他の動作例を表すタイミング波形図である。
【
図2C】
図1に示した位相比較回路の他の動作例を表すタイミング波形図である。
【
図3A】
図1に示したループフィルタの一構成例を表す回路図である。
【
図3B】
図3Aに示したループフィルタの等価回路を表す回路図である。
【
図4】
図1に示したパルス発生回路の一動作例を表すタイミング波形図である。
【
図5】
図1に示した電流出力DA変換回路の一構成例を表すブロック図である。
【
図6】参考例に係る位相同期回路の一動作例を表す説明図である。
【
図7A】
図6に示した位相同期回路の一動作例を表すタイミング波形図である。
【
図7B】
図6に示した位相同期回路の他の動作例を表すタイミング波形図である。
【
図8】
図1に示した位相同期回路の一動作例を表す説明図である。
【
図9】
図1に示した位相同期回路の一動作例を表すタイミング波形図である。
【
図10】
図1に示した位相同期回路の一動作例を表す他のタイミング波形図である。
【
図11】比較例に係る位相同期回路の一構成例を表すブロック図である。
【
図12】変形例に係るパルス発生回路の一動作例を表すタイミング波形図である。
【
図13】変形例に係る位相同期回路の一動作例を表すタイミング波形図である。
【
図14】他の変形例に係る位相同期回路の一構成例を表すブロック図である。
【
図15】他の変形例に係る位相同期回路の一構成例を表すブロック図である。
【
図16】他の変形例に係る位相同期回路の一構成例を表すブロック図である。
【
図17】他の変形例に係る位相同期回路の一構成例を表すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本開示の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0011】
<実施の形態>
[構成例]
図1は、一実施の形態に係る位相同期回路(位相同期回路1)の一構成例を表すものである。位相同期回路1は、入力されたクロック信号CLK1に基づいて、このクロック信号CLK1の周波数のN倍の周波数を有するクロック信号CLKを生成するものである。この位相同期回路1は、例えば、1つの半導体チップ上に形成されたものであり、例えば、最小加工寸法が90nm以下である半導体製造技術を用いて形成されている。
【0012】
位相同期回路1は、位相比較回路11と、チャージポンプ20と、ループフィルタ30と、発振回路14と、分周回路15と、ロック検出回路16と、パルス発生回路17と、AD(Analog to Digital)変換回路(ADC)18と、補償電流生成回路40とを備えている。
【0013】
位相比較回路11は、クロック信号CLK1の位相と、分周回路15から供給されるクロック信号CLK2(後述)の位相とを比較し、その比較結果に応じた信号UP,DNを生成するものである。クロック信号CLK1は、周期Tを有するクロック信号である。クロック信号CLK2の周期は、位相同期回路1の動作状態が位相同期状態である場合には、クロック信号CLK1の周期Tと同じである。位相比較回路11は、例えば、いわゆる位相周波数比較回路(PFD;Phase Frequency Detector)を用いて構成される。
【0014】
図2A,2B,2Cは、位相比較回路11の一動作例を表すものであり、
図2Aは、クロック信号CLK1の位相がクロック信号CLK2の位相よりも進んでいる場合を示し、
図2Bは、クロック信号CLK1の位相がクロック信号CLK2の位相よりも遅れている場合を示し、
図2Cは、クロック信号CLK1,CLK2の位相が一致している場合を示す。
【0015】
クロック信号CLK1の位相がクロック信号CLK2の位相よりも進んでいる場合(
図2A)では、この例では、タイミングt11において、クロック信号CLK1の電圧が低レベルから高レベルに変化し、その後のタイミングt12において、クロック信号CLK2の電圧が低レベルから高レベルに変化する。そして、タイミングt14において、クロック信号CLK1の電圧が高レベルから低レベルに変化し、その後のタイミングt15において、クロック信号CLK2の電圧が高レベルから低レベルに変化する。
【0016】
位相比較回路11は、タイミングt11において、クロック信号CLK1の立ち上がりに応じて、信号UPの電圧を低レベルから高レベルに変化させ、タイミングt12において、クロック信号CLK2の立ち上がりに応じて、信号DNの電圧を低レベルから高レベルに変化させる。そして、このタイミングt12の後のタイミングt13において、信号UPおよび信号DNの電圧を、高レベルから低レベルにそれぞれ変化させる。この信号UPの立ち上がりタイミング(タイミングt11)と信号DNの立ち上がりタイミング(タイミングt12)とのタイミング差は、クロック信号CLK1の位相とクロック信号CLK2の位相との間の位相差に対応している。
【0017】
クロック信号CLK1の位相がクロック信号CLK2の位相よりも遅れている場合(
図2B)では、この例では、タイミングt21において、クロック信号CLK2の電圧が低レベルから高レベルに変化し、その後のタイミングt22において、クロック信号CLK1の電圧が低レベルから高レベルに変化する。そして、タイミングt24において、クロック信号CLK2の電圧が高レベルから低レベルに変化し、その後のタイミングt25において、クロック信号CLK1の電圧が高レベルから低レベルに変化する。
【0018】
位相比較回路11は、タイミングt21において、クロック信号CLK2の立ち上がりに応じて、信号DNの電圧を低レベルから高レベルに変化させ、タイミングt22において、クロック信号CLK1の立ち上がりに応じて、信号UPの電圧を低レベルから高レベルに変化させる。そして、このタイミングt22の後のタイミングt23において、信号UPおよび信号DNの電圧を、高レベルから低レベルにそれぞれ変化させる。この信号DNの立ち上がりタイミング(タイミングt21)と信号UPの立ち上がりタイミング(タイミングt22)とのタイミング差は、クロック信号CLK1の位相とクロック信号CLK2の位相との間の位相差に対応している。
【0019】
クロック信号CLK1,CLK2の位相が一致している場合(
図2C)では、この例では、タイミングt26において、2つのクロック信号CLK1,CLK2の電圧が低レベルから高レベルに変化し、タイミングt28において、2つのクロック信号CLK1,CLK2の電圧が高レベルから低レベルに変化する。
【0020】
位相比較回路11は、タイミングt26において、クロック信号CLK1の立ち上がりに応じて、信号UPの電圧を低レベルから高レベルに変化させるとともに、クロック信号CLK2の立ち上がりに応じて、信号DNの電圧を低レベルから高レベルに変化させる。そして、このタイミングt26の後のタイミングt27において、信号UPおよび信号DNの電圧を、高レベルから低レベルにそれぞれ変化させる。
【0021】
このようにして、位相比較回路11は、クロック信号CLK1の位相とクロック信号CLK2の位相とを比較して、クロック信号CLK1の位相とクロック信号CLK2の位相との間の位相差に応じた信号UP,DNを生成するようになっている。
【0022】
チャージポンプ20(
図1)は、信号UP,DNに基づいて、ループフィルタ30に対して電流Icp1を流し込み、あるいはループフィルタ30から電流Icp2をシンクするものである。チャージポンプ20は、2つの電流源21,22と、2つのスイッチ23,24とを有している。電流源21は、ループフィルタ30に対して流し込む所定の電流値の電流Icp1を生成するものであり、一端には電源電圧VDDが供給され、他端はスイッチ23の一端に接続されている。電流源22は、ループフィルタ30からシンクする所定の電流値の電流Icp2を生成するものであり、一端はスイッチ24の他端に接地され、他端は接地されている。この電流Icp2の電流値は、電流Icp1の電流値と略同じである。スイッチ23は、信号UPの電圧に応じてオンオフするものであり、一端は電流源21の他端に接続され、他端はスイッチ24の一端およびループフィルタ30のノードN1に接続されている。スイッチ23は、この例では、信号UPの電圧が高レベルである場合にオン状態になり、信号UPの電圧が低レベルである場合にオフ状態になるものである。スイッチ24は、信号DNの電圧に応じてオンオフするものであり、一端はスイッチ23の他端およびループフィルタ30のノードN1に接続され、他端は電流源22の一端に接続されている。スイッチ24は、この例では、信号DNの電圧が高レベルである場合にオン状態になり、信号DNの電圧が低レベルである場合にオフ状態になるものである。
【0023】
この構成により、チャージポンプ20では、クロック信号CLK1の位相とクロック信号CLK2の位相との間の進みまたは遅れに応じて、その位相差に応じた長さの期間において、スイッチ23,24が選択的にオンオフする。そして、信号UPの電圧が高レベルである期間では、電流源21がループフィルタ30に対して電流Icp1を流し込み、信号DNの電圧が低レベルである期間では、電流源22がループフィルタ30から電流Icp2をシンクするようになっている。
【0024】
ループフィルタ30は、チャージポンプ20から供給された電流信号に基づいて電圧Vctrlを生成するものである。ループフィルタ30は、抵抗素子R31と、容量素子C32,C33とを有している。抵抗素子R31の一端はノードN1に接続され、他端はノードN2に接続されている。容量素子C32の一端はノードN2に接続され、他端は接地されている。容量素子C33の一端はノードN1に接続され、他端は接地されている。容量素子C32の容量値は、例えば、容量素子C33の容量値の10倍以上に設定される。容量素子C32の容量値は、例えば、数10pFにすることができる。
【0025】
この構成により、ループフィルタ30では、チャージポンプ20がループフィルタ30に対して電流Icp1を流し込む期間では、容量素子C32,C33がチャージされ、チャージポンプ20がループフィルタ30から電流Icp2をシンクする期間では、容量素子C32,C33がディスチャージされる。このようにして、ループフィルタ30は、チャージポンプ20から供給された電流信号に基づいて電圧Vctrlを生成するようになっている。
【0026】
ループフィルタ30において、容量素子C32は、N型のMOSキャパシタを用いて構成される。以下に、容量素子C32について詳細に説明する。
【0027】
図3Aは、ループフィルタ30の一構成例を表すものである。ループフィルタ30の容量素子C32は、この例では、N型のMOSキャパシタ101を用いて構成されている。このMOSキャパシタ101のゲートはノードN2に接続され、ドレインおよびソースは接地されている。MOSキャパシタ101は、ゲート酸化膜を容量素子として用いるものである。MOSキャパシタ101では、ゲート酸化膜が薄いほど、単位面積あたりの容量値を大きくすることができる。具体的には、単位面積当たりの容量値C
OXは、ゲート酸化膜の厚さt
OXを用いて、以下の式で表すことができる。
C
OX=ε
OX/t
OX …(1)
ここで、ε
OXは酸化膜の誘電率であり、次式で表すことができる。
ε
OX=κ×ε
O …(2)
ここで、κは酸化膜の比誘電率であり、例えば3.9である。ε
Oは、真空の誘電率である。このように、容量値C
OXおよびゲート酸化膜の厚さt
OXは、互いに逆数の関係にあるので、ゲート酸化膜が薄いほど、単位面積当たりの容量値C
OXは大きくなる。よって、ゲート酸化膜が薄いMOSキャパシタ101を用いることにより、例えば、単位面積当たりの容量値C
OXを2倍程度にすることができる。この場合には、容量素子C32の面積を約半分にすることができるので、その結果、位相同期回路1では、回路面積を小さくすることができる。
【0028】
しかしながら、このようにゲート酸化膜が薄くなるほど、このゲート酸化膜を介して、大きなリーク電流Ileakが流れてしまう。
【0029】
図3Bは、ループフィルタ30の等価回路を表すものである。MOSキャパシタ101は、互いに並列接続された電流源102および容量素子103を用いて表すことができる。電流源102は、MOSキャパシタ101のゲートからドレインおよびソースにリーク電流Ileakを流すものである。すなわち、この例では、MOSキャパシタ101のゲートの電圧は、MOSキャパシタ101のドレインおよびソースの電圧(接地電圧)よりも高いので、リーク電流Ileakは、MOSキャパシタ101のゲートからドレインおよびソースに向かって流れる。このリーク電流Ileakの電流値は、MOSキャパシタ101のゲートと、ドレインおよびソースとの間の電圧差に応じて変化する。容量素子103は、MOSキャパシタ101の容量成分を表す、リーク電流が生じない理想的な容量素子である。
【0030】
このように、MOSキャパシタ101では、ゲート酸化膜を介してリーク電流Ileakが流れてしまう。そこで、位相同期回路1では、後述するように、補償電流生成回路40が、補償電流Icompを生成し、このリーク電流Ileakを補償する。これにより、位相同期回路1では、後述するように、このリーク電流Ileakがクロック信号CLKのジッタに与える影響を抑えるようになっている。
【0031】
発振回路14(
図1)は、電圧制御発振回路(VCO;Voltage Controlled Oscillator)であり、電圧Vctrlに基づいて、電圧Vctrlに応じた周波数を有するクロック信号CLKを生成するものである。クロック信号CLKの周波数と電圧Vctrlとの関係は、ゲインファクタKvco[Hz/V]で表される。すなわち、電圧が1[V]変化すると、クロック信号CLKの周波数はこのゲインファクタKvcoの分だけ変化するようになっている。
【0032】
分周回路15は、クロック信号CLKに基づいて、クロック信号CLKの周波数の1/Nの周波数を有するクロック信号CLK2を生成するものである。ここで、Nは2以上の整数である。なお、これに限定されるものではなく、Nを1より大きい非整数にしてもよい。
【0033】
この構成により、位相同期回路1では、クロック信号CLK2の位相がクロック信号CLK1の位相よりも遅れている場合には、ループフィルタ30の容量素子C32,C33をチャージすることにより、電圧Vctrlを高くする。これにより、クロック信号CLKの周波数が高くなり、その結果、クロック信号CLK2の位相が進む。また、位相同期回路1では、クロック信号CLK2の位相がクロック信号CLK1の位相よりも進んでいる場合には、ループフィルタ30の容量素子C32,C33をディスチャージすることにより、電圧Vctrlを低くする。これにより、クロック信号CLKの周波数が低くなり、その結果、クロック信号CLK2の位相が遅れる。このような負帰還動作により、この位相同期回路1は、クロック信号CLK1とクロック信号CLK2とを同期させ、その結果、クロック信号CLK1の周波数のN倍の周波数を有するクロック信号CLKを生成するようになっている。
【0034】
ロック検出回路16は、クロック信号CLK1およびクロック信号CLK2に基づいて、位相同期回路1の動作状態が位相同期状態であるかどうかを検出するものである。ここで、“位相同期状態”は、クロック信号CLK1の位相とクロック信号CLK2の位相の位相差が小さい位相差に維持される状態を示す。そして、ロック検出回路16は、位相同期回路1の動作状態が位相同期状態であるかどうかについての情報を、パルス発生回路17およびAD変換回路(ADC)18に供給するようになっている。
【0035】
パルス発生回路17は、位相同期回路1の動作状態が位相同期状態であるときに、信号UPおよび信号DNに基づいて、AD変換回路(ADC)18に対してAD変換動作を指示するパルスPUを含む信号SPを生成するものである。
【0036】
図4は、パルス発生回路17の一動作例を表すものであり、(A)は信号UPの波形を示し、(B)は信号DNの波形を示し、(C)は信号SPの波形を示す。パルス発生回路17は、信号UPおよび信号DNの立ち下がりを複数回(K回)検出する度に、パルスPUを生成する。すなわち、
図2A,2Bに示したように、信号UPの立ち下がりタイミングおよび信号DNの立ち下がりタイミングはほぼ一致することを利用し、パルス発生回路17は、信号UP,DNの立ち下がりを複数回(K回)検出する度に、パルスPUを生成する。言い換えれば、パルス発生回路17は、クロック信号CLK1の周期TのK倍の周期T1(=T×K)で、パルスPUを生成するようになっている。
【0037】
AD変換回路(ADC)18は、位相同期回路1の動作状態が位相同期状態であるときに、信号SPに基づいて、ループフィルタ30における抵抗素子R31の両端間の電圧差ΔVをデジタルコードCODEに変換するものである。AD変換回路18は、正入力端子IN+と、負入力端子IN-とを有している。正入力端子IN+は、ループフィルタ30のノードN1に接続され、負入力端子IN-は、ループフィルタ30のノードN2に接続されている。そして、AD変換回路(ADC)18は、信号SPに含まれるパルスPUに基づいて、間欠的にAD変換動作を行い、ノードN1の電圧とノードN2の電圧との電圧差ΔV(アナログ値)をデジタルコードCODEに変換する。そして、AD変換回路(ADC)18は、このデジタルコードCODEを、補償電流生成回路40に供給するようになっている。
【0038】
補償電流生成回路40は、デジタルコードCODEに基づいて補償電流Icompを生成するものである。補償電流生成回路40は、記憶部41と、加算回路42と、DACコード生成回路43と、レジスタ44と、電流出力DA(Digital to Analog)変換回路(電流出力DAC)50とを有している。
【0039】
記憶部41は、デジタルコードCODEを記憶するものである。記憶部41は、複数のデジタルコードCODEを記憶可能に構成されている。すなわち、AD変換回路(ADC)18は、位相同期回路1の動作状態が位相同期状態であるときに、間欠的にAD変換動作を行い、デジタルコードCODEを生成する。よって、記憶部41は、AD変換回路(ADC)18から順次供給された複数のデジタルコードCODEを記憶するようになっている。
【0040】
加算回路42は、記憶部41に複数のデジタルコードCODEが記憶されている場合において、これらのデジタルコードCODEを加算して、加算結果をデジタルコードCODE1として出力するものである。また、加算回路42は、記憶部41にデジタルコードCODEが1つだけ記憶されている場合には、このデジタルコードCODEをそのままデジタルコードCODE1として出力するようになっている。
【0041】
DACコード生成回路43は、デジタルコードCODE1に基づいて、電流出力DA変換回路(電流出力DAC)50に入力するデジタルコードCODE2を生成するものである。
【0042】
レジスタ44は、DACコード生成回路43から供給されたデジタルコードCODE2を保持するものである。
【0043】
電流出力DA変換回路(電流出力DAC)50は、レジスタ44から供給されたデジタルコードCODE2に基づいて、このデジタルコードCODE2に応じた電流値を有する補償電流Icompを生成し、この補償電流Icompを、ノードN2を介してループフィルタ30に供給するものである。
【0044】
図5は、電流出力DA変換回路(電流出力DAC)50の一構成例を表すものである。電流出力DA変換回路(電流出力DAC)50は、制御回路51と、複数の電流源回路52とを有している。制御回路51は、レジスタ44から供給されたデジタルコードCODE2に基づいて、複数の選択信号SELを生成するものである。複数の電流源回路52は、複数の選択信号SELのうちの対応する選択信号SELに基づいて、電流を出力するものである。複数の電流源回路52のそれぞれは、電流源53と、スイッチ54とを有している。電流源53は、所定の電流値を有する電流を生成するものであり、一端には電源電圧VDDが供給され、他端はスイッチ54の一端に接続されている。スイッチ54は、選択信号SELに基づいてオンオフするものであり、一端は電流源53の他端に接続され、他端はその電流源回路52の出力端子に接続されている。複数の電流源回路52の出力端子は、互いに接続されている。
【0045】
この構成により、電流出力DA変換回路(電流出力DAC)50では、複数の電流源回路52のうちの、選択信号SELにより選択された電流源回路52が電流を出力する。これにより、電流出力DA変換回路(電流出力DAC)50は、選択された電流源回路52が出力する電流の合計電流を、補償電流Icompとして出力するようになっている。
【0046】
ここで、補償電流生成回路40は、本開示における「電流生成回路」の一具体例に対応する。ロック検出回路16は、本開示における「同期検出回路」の一具体例に対応する。パルス発生回路17は、本開示における「タイミング設定回路」の一具体例に対応する。クロック信号CLK1は、本開示における「第1の信号」の一具体例に対応する。クロック信号CLK2は、本開示における「第2の信号」の一具体例に対応する。クロック信号CLKは、本開示における「クロック信号」の一具体例に対応する。補償電流Icompは、本開示における「第1の電流」の一具体例に対応する。信号UPは、本開示における「第1の制御信号」の一具体例に対応する。電流Icp1は、本開示における「第2の電流」の一具体例に対応する。信号DNは、本開示における「第2の制御信号」の一具体例に対応する。電流Icp2は、本開示における「第3の電流」の一具体例に対応する。
【0047】
[動作および作用]
続いて、本実施の形態の位相同期回路1の動作および作用について説明する。
【0048】
(全体動作概要)
まず、
図1を参照して位相同期回路1の全体動作概要を説明する。位相比較回路11は、クロック信号CLK1の位相と、クロック信号CLK2の位相とを比較し、その比較結果に応じた信号UP,DNを生成する。チャージポンプ20は、信号UP,DNに基づいて、ループフィルタ30に対して電流Icp1を流し込み、あるいはループフィルタ30から電流Icp2をシンクする。ループフィルタ30は、チャージポンプ20から供給された電流信号に基づいて電圧Vctrlを生成する。発振回路14は、電圧Vctrlに基づいて、電圧Vctrlに応じた周波数を有するクロック信号CLKを生成する。分周回路15は、クロック信号CLKに基づいて、クロック信号CLKの周波数の1/Nの周波数を有するクロック信号CLK2を生成する。ロック検出回路16は、クロック信号CLK1およびクロック信号CLK2に基づいて、位相同期回路1の動作状態が位相同期状態であるかどうかを検出する。パルス発生回路17は、位相同期回路1の動作状態が位相同期状態であるときに、信号UPおよび信号DNに基づいて、AD変換回路(ADC)18に対してAD変換動作を指示するパルスPUを含む信号SPを生成する。AD変換回路(ADC)18は、位相同期回路1の動作状態が位相同期状態であるときに、信号SPに基づいて、ループフィルタ30における抵抗素子R31の両端間の電圧差ΔVをデジタルコードCODEに変換する。補償電流生成回路40は、デジタルコードCODEに基づいて補償電流Icompを生成する。
【0049】
(詳細動作)
まず、位相同期回路1の動作の説明に先立ち、補償電流生成回路40が補償電流Icompを生成しない場合の動作を、参考例として説明する。
【0050】
図6は、参考例に係る位相同期回路1Rにおけるループフィルタ30の一動作例を表すものである。
図7Aは、MOSキャパシタ101にリーク電流Ileakがほとんど生じない場合の、位相同期状態における位相同期回路1Rの動作を表すものであり、
図7Bは、MOSキャパシタ101にリーク電流Ileakが生じた場合の、位相同期状態における位相同期回路1Rの動作を表すものである。
図7A,7Bにおいて、(A)は信号UPの波形を示し、(B)は信号DNの波形を示し、(C)は電圧Vctrlの波形を示す。
【0051】
MOSキャパシタ101にリーク電流Ileakがほとんど生じない場合には、
図7Aに示したように、位相同期状態において、信号UPの立ち上がりタイミングと信号DNの立ち上がりタイミングとは、ほぼ一致する。これにより、ループフィルタ30では、容量素子C32,C33は、ほとんどチャージされず、同様に、ほとんどディスチャージされない。これにより、電圧Vctrlにはリップルはほとんど現れず、電圧Vctrlの電圧値が維持される。発振回路14は、この電圧Vctrlに応じた周波数を有するクロック信号CLKを生成する。この例では、位相同期回路1Rの動作状態は位相同期状態であるので、クロック信号CLKの周波数は、クロック信号CLK1の周波数のN倍の周波数である。すなわち、このときの電圧Vctrlの電圧値は、クロック信号CLK1の周波数のN倍の周波数に対応する電圧値V0である。
【0052】
一方、MOSキャパシタ101にリーク電流Ileakが生じた場合には、
図6に示したように、リーク電流Ileakが、容量素子C33、抵抗素子R31、容量素子C32の順に流れる。このリーク電流Ileakにより、抵抗素子R31の両端間には、電圧差ΔVが生じる。そして、このリーク電流Ileakにより、容量素子C32,C33がディスチャージされ、電圧Vctrlは徐々に低下する。一方、位相同期回路1Rの動作状態は位相同期状態を維持するので、位相同期回路1Rでは、
図7Bに示したように、電圧Vctrlの電圧の平均値が電圧値V0になるように、信号UPの立ち上がりタイミングと信号DNの立ち上がりタイミングとがずれる。すなわち、タイミングt31において信号UPが立ち上がり、タイミングt32において信号DNが立ち上がる。これにより、タイミングt31~t32の期間において、チャージポンプ20から電流Icp1が供給されることにより、容量素子C32,C33がチャージされ、電圧Vctrlが上昇し、タイミングt32~t34の期間において、リーク電流Ileakにより、容量素子C32,C33がディスチャージされ、電圧Vctrlが低下する。電圧Vctrlの電圧値の平均値は、電圧値V0を維持する。
【0053】
図7Bに示したように、MOSキャパシタ101にリーク電流Ileakが生じた場合には、電圧Vctrlにリップルが生じる。発振回路14は、電圧Vctrlに基づいて、ゲインファクタKvcoに応じた割合でクロック信号CLKの周波数を変化させるので、クロック信号CLKは、この電圧Vctrlのリップルに基づいて周期的に変調される。その結果、位相同期回路1Rでは、DJ(Deterministic Jitter)が生じ、クロック信号CLKのジッタが増加してしまうおそれがある。
【0054】
そこで、本実施の形態に係る位相同期回路1では、補償電流生成回路40が補償電流Icompを生成し、このリーク電流Ileakを補償する。以下に、位相同期回路1の動作について、詳細に説明する。
【0055】
図8は、位相同期回路1におけるループフィルタ30の一動作例を表すものである。
図9は、MOSキャパシタ101にリーク電流Ileakがある場合の、位相同期状態における位相同期回路1の動作を表すものであり、(A)は信号UPの波形を示し、(B)は信号DNの波形を示し、(C)は電圧Vctrlの波形を示す。
図9では、
図7Bに示した信号UPの波形および電圧Vctrlの波形を点線で示している。
【0056】
位相同期回路1では、AD変換回路(ADC)18は、位相同期回路1の動作状態が位相同期状態であるときに、信号SPに基づいて、ループフィルタ30における抵抗素子R31の両端間の電圧差ΔVをデジタルコードCODEに変換する。そして、補償電流生成回路40は、デジタルコードCODEに基づいて補償電流Icompを生成する。その際、位相同期回路1は、抵抗素子R31の両端間の電圧差ΔVが小さくなるように、補償電流Icompの電流値を制御する。言い換えれば、補償電流Icompの電流値がリーク電流Ileakの電流値に近づくように、補償電流Icompの電流値を制御する。これにより、電圧Vctrlの低下が抑えられる。これにより、信号UPの立ち上がりタイミングと信号DNの立ち上がりタイミングとの間のタイミング差は、
図7Bの場合に比べて小さくなる。その結果、位相同期回路1では、電圧Vctrlに生じるリップルを小さくすることができる。
【0057】
このように、位相同期回路1では、抵抗素子R31の両端間の電圧差ΔVが小さくなるように、補償電流Icompの電流値を制御するようにしたので、電圧Vctrlに生じるリップルを小さくすることができる。その結果、位相同期回路1では、DJ(Deterministic Jitter)の発生量を抑えることができ、クロック信号CLKのジッタを小さくすることができる。
【0058】
また、位相同期回路1では、パルス発生回路17は、位相同期回路1の動作状態が位相同期状態であるときに、
図4に示したように、信号UPおよび信号DNの立ち下がりを複数回検出する度に、パルスPUを生成する。AD変換回路(ADC)18は、このパルスPUに基づいて間欠的にAD変換動作を行い、抵抗素子R31の両端間の電圧差ΔVをデジタルコードCODEに変換する。そして、補償電流生成回路40は、AD変換回路(ADC)18から順次供給された複数のデジタルコードCODEに基づいて補償電流Icompを生成する。
【0059】
具体的には、補償電流生成回路40では、記憶部41は、AD変換回路(ADC)18から順次供給された複数のデジタルコードCODEを記憶し、加算回路42は、これらのデジタルコードCODEを加算して、加算結果をデジタルコードCODE1として出力し、DACコード生成回路43は、デジタルコードCODE1に基づいてデジタルコードCODE2を生成し、レジスタ44は、デジタルコードCODE2を保持し、電流出力DA変換回路(電流出力DAC)50は、レジスタ44から供給されたデジタルコードCODE2に基づいて補償電流Icompを生成するようにした。これにより、位相同期回路1では、以下に説明するように、抵抗素子R31の両端間の電圧差ΔVを、AD変換回路(ADC)18における1LSB(Least Significant Bit)に対応する電圧以下に抑えることができる。
【0060】
図10は、位相同期回路1の動作状態が位相同期状態である場合における、位相同期回路1の一動作例を表すものであり、(A)は信号UPの波形を示し、(B)は信号DNの波形を示し、(C)は電圧Vctrlの波形を示し、(D)は電圧差ΔVの波形を示す。
【0061】
パルス発生回路17は、図示していないが、タイミングt51~t60の期間において、複数のパルスPUを生成する。そして、AD変換回路(ADC)18は、このパルスPUに基づいて間欠的にAD変換動作を行い、デジタルコードCODEを順次生成する。そして、補償電流生成回路40は、AD変換回路(ADC)18から順次供給された複数のデジタルコードCODEに基づいて補償電流Icompを生成する。これにより、位相同期回路1では、
図10に示したように、信号UPの立ち上がりタイミングと信号DNの立ち上がりタイミングを徐々に近づけ、電圧Vctrlのリップルを徐々に小さくすることができる。また、抵抗素子R31の両端間の電圧差ΔVを徐々に0Vに近づけ、この電圧差ΔVを、AD変換回路(ADC)18における1LSBに対応する電圧以下にすることができる。
【0062】
(比較例)
次に、比較例と対比して、本実施の形態の作用を説明する。本比較例に係る位相同期回路1Sは、補償電流Icompを生成する方法が、本実施の形態に係る位相同期回路1と異なるものである。なお、本実施の形態に係る位相同期回路1と実質的に同一の構成部分には同一の符号を付し、適宜説明を省略する。
【0063】
図11は、位相同期回路1Sの一構成例を表すものである。位相同期回路1Sは、位相比較回路11と、チャージポンプ20と、ループフィルタ30と、発振回路14と、分周回路15と、演算増幅回路(Operational Amplifier)19とを備えている。演算増幅回路19の正入力端子は、ループフィルタ30のノードN1に接続され、負入力端子は、ループフィルタ30のノードN2に接続され、出力端子は、ループフィルタのノードN2に接続されている。
【0064】
このように、演算増幅回路19の負入力端子および出力端子が互いに接続されるので、位相同期回路1Sでは、ノードN1,N2の電圧は、いわゆるバーチャルショートにより、ほぼ同じ電圧になる。そして、演算増幅回路19の出力端子から、ノードN2を介して、ループフィルタ30に補償電流Icompが流れる。
【0065】
しかしながら、演算増幅回路19では、例えば差動対のトランジスタのミスマッチばらつきなどにより、一般に入力オフセット電圧が生じる。よって、比較例に係る位相同期回路1Sでは、この入力オフセット電圧により、ノードN1の電圧およびノードN2の電圧には、ずれが生じてしまい、その結果、容量素子C32のリーク電流Ileakを十分に補償することができないおそれがある。その場合には、クロック信号CLKのジッタが大きくなるおそれがある。
【0066】
一方、本実施の形態に係る位相同期回路1では、演算増幅回路19を用いず、AD変換回路(ADC)18および補償電流生成回路40を用いて、補償電流Icompを生成するようにした。これにより、位相同期回路1では、上述したように、電圧差ΔVを、AD変換回路(ADC)18における1LSBに対応する電圧以下に抑えることができ、リーク電流Ileakを十分に補償することができる。その結果、位相同期回路1では、クロック信号CLKのジッタを抑えることができる。
【0067】
また、比較例に係る位相同期回路1Sでは、例えば電圧Vctrlが広い電圧範囲において変化し得るため、演算増幅回路19は、この広い電圧範囲において動作する必要がある。よって、例えば、電圧Vctrlが高いときに、十分な補償電流Icompを生成できないおそれがある。その場合には、クロック信号CLKのジッタが大きくなるおそれがある。
【0068】
一方、本実施の形態に係る位相同期回路1では、電流出力DA変換回路(電流出力DAC)50を用いて補償電流Icompを生成するようにしたので、電圧Vctrlが高い場合でも、十分な補償電流Icompを生成することができる。その結果、位相同期回路1では、クロック信号CLKのジッタを抑えることができる。
【0069】
また、比較例に係る位相同期回路1Sでは、演算増幅回路19は、時間的に連続して動作するため、演算増幅回路19がノイズ源になってしまい、電圧Vctrlにノイズ(ランダムノイズ)が生じる。よって、発振回路14では、クロック信号CLKが、この電圧Vctrlのランダムノイズに基づいてランダムに変調される。その結果、位相同期回路1Sでは、RJ(Random Jitter)が発生し、クロック信号CLKのジッタが大きくなるおそれがある。
【0070】
一方、本実施の形態に係る位相同期回路1では、AD変換回路(ADC)18が、間欠的にAD変換動作を行うことによりデジタルコードCODEを生成するようにした。そして、補償電流生成回路40は、このデジタルコードCODEに基づいて、補償電流Icompを生成するようにした。このように、位相同期回路1では、AD変換回路(ADC)18および補償電流生成回路40が、時間的に離散して動作するため、これらの回路がノイズ源になるおそれを低減することができるため、クロック信号CLKのジッタを抑えることができる。
【0071】
[効果]
以上のように本実施の形態では、AD変換回路が、ループフィルタの抵抗素子の両端間の電圧差をデジタルコードに変換し、補償電流生成回路が、このデジタルコードに基づいて補償電流を生成するようにしたので、クロック信号のジッタを抑えることができる。
【0072】
本実施の形態では、AD変換回路が、間欠的にAD変換動作を行うことにより、ループフィルタの抵抗素子の両端間の電圧差をデジタルコードに変換し、補償電流生成回路が、AD変換回路から順次供給された複数のデジタルコードに基づいて補償電流を生成するようにしたので、クロック信号のジッタを抑えることができる。
【0073】
[変形例1-1]
上記実施の形態では、パルス発生回路17は、信号UPおよび信号DNの立ち下がりを複数回検出する度にパルスPUを生成したが、これに限定されるものではない。これに代えて、例えば
図12に示したように、パルス発生回路17は、信号UPおよび信号DNの立ち下がりを1回検出する度にパルスPUを生成してもよい。この場合には、AD変換回路(ADC)18は、例えば、いわゆるフラッシュ型のAD変換回路を用いるのが望ましい。これにより、位相同期回路1は、
図13に示したように、より早く、抵抗素子R31の両端間の電圧差ΔVを徐々に0Vに近づけ、AD変換回路(ADC)18における1LSBに対応する電圧以下にすることができる。
【0074】
[変形例1-2]
上記実施の形態では、分周回路15を設けたが、これに限定されるものではなく、これに代えて、例えば、
図14に示す位相同期回路1Aのように、分周回路15を設けなくてもよい。この場合には、位相比較回路11は、クロック信号CLK1の位相と、発振回路14から供給されるクロック信号CLKの位相とを比較し、その比較結果に応じた信号UP,DNを生成する。クロック信号CLKの周波数は、クロック信号CLK1の周波数とほぼ同じである。
【0075】
[変形例1-3]
上記実施の形態では、チャージポンプ20を設けたが、これに限定されるものではなく、これに代えて、例えば、
図15に示す位相同期回路1Bのように、チャージポンプ20を設けなくてもよい。この位相同期回路1Bは、ループフィルタ駆動回路69と、ループフィルタ60とを備えている。ループフィルタ駆動回路69は、信号UP,DNに基づいて、ループフィルタ60を駆動するものである。具体的には、ループフィルタ駆動回路69は、例えば、信号UPが高レベルであり信号DNが低レベルである場合には、高レベル電圧VHを出力し、信号DNが高レベルであり信号UPが低レベルである場合には、低レベル電圧VLを出力し、それ以外の場合には、ループフィルタ駆動回路69の出力インピーダンスをハイインピーダンスにするようになっている。ループフィルタ60は、抵抗素子R61を有している。抵抗素子R61の一端は、ループフィルタ駆動回路の出力端子に接続され、他端はノードN1に接続されている。
【0076】
[変形例1-4]
上記実施の形態では、位相同期回路1にクロック信号CLK1を入力したが、これに限定されるものではなく、これに代えて、例えば、
図16に示す位相同期回路1Cのように、データ信号DTを入力してもよい。この位相同期回路1Cは、入力されたデータ信号DTに基づいて、このデータ信号DTに同期したクロック信号CLKを再生するクロック再生回路(CRC:Clock Recovery Circuit)である。位相同期回路1Cは、位相比較回路71と、チャージポンプ20と、ループフィルタ30と、発振回路14と、ロック検出回路76と、パルス発生回路17と、AD変換回路(ADC)18と、補償電流生成回路40とを備えている。位相比較回路71は、データ信号DTの位相と、発振回路14から供給されるクロック信号CLKの位相とを比較し、その比較結果に応じた信号UP,DNを生成するものである。データ信号DTのビットレートは、クロック信号CLKの周波数とほぼ同じである。ロック検出回路76は、データ信号DTおよびクロック信号CLKに基づいて、位相同期回路1Cの動作状態が位相同期状態であるかどうかを検出するものである。
【0077】
[その他の変形例]
また、これらの変形例のうちの2以上を組み合わせてもよい。
【0078】
以上、実施の形態および変形例を挙げて本技術を説明したが、本技術はこれらの実施の形態等には限定されず、種々の変形が可能である。
【0079】
例えば、上記の実施の形態では、ロック検出回路16を設けたが、これに限定されるものではなく、これに代えて、例えば、
図17に示す位相同期回路1Dのように、ロック検出回路16を設けなくてもよい。この位相同期回路1Dは、タイマ99を有している。タイマ99は、位相同期回路1Dの電源投入タイミングから所定の時間が経過したときに、位相同期回路1Dの動作状態が位相同期状態になったと判断するものである。すなわち、位相同期回路1Dは、電源が投入されると、まず、クロック信号CLKの周波数がクロック信号CLK1のN倍の周波数になるように動作し、その後に、クロック信号CLK1の位相とクロック信号CLK2の位相が同期するように動作する。よって、タイマ99に、あらかじめ、電源を投入してから位相同期が確立するまでに要する時間を設定しておく。そして、タイマ99は、電源投入タイミングからこの時間が経過したときに、位相同期回路1Dの動作状態が位相同期状態になったと判断する。この後に、パルス発生回路17は、パルスPUの生成を開始し、AD変換回路(ADC)18は、AD変換動作を開始する。
【0080】
なお、本明細書に記載された効果はあくまで例示であって限定されるものでは無く、また他の効果があってもよい。
【0081】
なお、本技術は以下のような構成とすることができる。
【0082】
(1)第1の信号の位相と、クロック信号に応じた第2の信号の位相とを比較する位相比較回路と、
一端が第1のノードに接続されるとともに他端が第2のノードに接続された抵抗素子と、一端が前記第2のノードに接続された容量素子とを有し、前記位相比較回路における位相比較結果に基づいて制御電圧を生成するループフィルタと、
前記制御電圧に基づいて前記クロック信号を生成する発振回路と、
前記抵抗素子の両端間の電圧差をデジタルコードに変換するAD変換回路と、
前記デジタルコードに基づいて第1の電流を生成し、前記第2のノードに前記第1の電流を供給する電流生成回路と
を備えた位相同期回路。
(2)前記AD変換回路は、第1のタイミングにおいて前記電圧差を第1のデジタルコードに変換するとともに、第2のタイミングにおいて前記電圧差を第2のデジタルコードに変換し、
前記電流生成回路は、前記第1のデジタルコードおよび前記第2のデジタルコードに基づいて前記第1の電流を生成する
前記(1)に記載の位相同期回路。
(3)前記電流生成回路は、前記第1のデジタルコードおよび前記第2のデジタルコードを加算し、加算された結果に基づいて前記第1の電流を生成する
前記(2)に記載の位相同期回路。
(4)前記AD変換回路は、前記位相同期回路の動作状態が位相同期状態である期間において、前記電圧差を前記デジタルコードに変換する
前記(1)から(3)のいずれかに記載の位相同期回路。
(5)前記位相同期回路の動作状態が前記位相同期状態であるかどうかを検出する同期検出回路をさらに備え、
前記AD変換回路は、前記同期検出回路の検出結果に基づいて、前記電圧差を前記デジタルコードに変換する
前記(4)に記載の位相同期回路。
(6)前記AD変換回路は、間欠的に、前記電圧差を前記デジタルコードに変換する
前記(1)から(5)のいずれかに記載の位相同期回路。
(7)前記第1の信号は、クロック信号であり、
前記AD変換回路は、前記第1の信号の周期の整数倍の周期で、前記電圧差を前記デジタルコードに変換する
前記(6)に記載の位相同期回路。
(8)前記第1のノードに接続されたチャージポンプをさらに備え、
前記位相比較回路は、前記位相比較結果に基づいて第1の制御信号および第2の制御信号を生成する位相周波数比較回路であり、
前記チャージポンプは、前記第1の制御信号に基づいて前記容量素子をチャージするように前記ループフィルタに第2の電流を流し、前記第2の制御信号に基づいて前記容量素子をディスチャージするように前記ループフィルタに第3の電流を流す
前記(1)から(7)のいずれかに記載の位相同期回路。
(9)前記第1の制御信号および前記第2の制御信号に基づいて、前記AD変換回路の動作タイミングを設定するタイミング設定回路をさらに備えた
前記(8)に記載の位相同期回路。
(10)前記クロック信号を分周することにより前記第2の信号を生成する分周回路をさらに備えた
前記(1)から(9)のいずれかに記載の位相同期回路。
(11)前記容量素子は、MOSキャパシタを用いて構成された
前記(1)から(10)のいずれかに記載の位相同期回路。
(12)前記第1の電流は、前記抵抗素子の両端間の電圧差を抑えるような電流である
前記(1)から(11)のいずれかに記載の位相同期回路。
【0083】
本出願は、日本国特許庁において2017年10月12日に出願された日本特許出願番号2017-198347号を基礎として優先権を主張するものであり、この出願のすべての内容を参照によって本出願に援用する。
【0084】
当業者であれば、設計上の要件や他の要因に応じて、種々の修正、コンビネーション、サブコンビネーション、および変更を想到し得るが、それらは添付の請求の範囲やその均等物の範囲に含まれるものであることが理解される。