(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-22
(45)【発行日】2022-12-01
(54)【発明の名称】脱水多糖ヒドロゲルのシートを備える微生物培養デバイス
(51)【国際特許分類】
C12M 1/00 20060101AFI20221124BHJP
C12M 1/22 20060101ALI20221124BHJP
【FI】
C12M1/00 C
C12M1/22
(21)【出願番号】P 2019558522
(86)(22)【出願日】2018-04-24
(86)【国際出願番号】 FR2018051028
(87)【国際公開番号】W WO2018197805
(87)【国際公開日】2018-11-01
【審査請求日】2021-04-08
(32)【優先日】2017-04-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】304043936
【氏名又は名称】ビオメリュー
【氏名又は名称原語表記】BIOMERIEUX
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】モンテ, マリー-ピエール
(72)【発明者】
【氏名】ロザン, クリスティーヌ
(72)【発明者】
【氏名】フランドロワ, ジャン-ピエール
【審査官】坂崎 恵美子
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-181741(JP,A)
【文献】特表2010-535341(JP,A)
【文献】国際公開第01/044437(WO,A1)
【文献】特開平06-311880(JP,A)
【文献】特開2000-325072(JP,A)
【文献】特開2014-090701(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/22
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
-
吸水性材料で作られた部分(1)であって、少なくとも実質的に平坦な上面を有し、脱水培地組成物を厚内に組み込んでいる、
吸水性材料で作られた部分(1)、
- 前記
吸水性材料で作られた部分(1)の上に載っている、5℃から40℃の温度で再水和
されて500~2000g.cm
-2
の硬度を有する一体ヒドロゲル層を形成することができる脱水多糖ヒドロゲルのシート(2)であって、前記
吸水性材料で作られた部分(1)の上面に直接、又は透過膜インサート(3)を介して間接的に貼り付けられている、脱水多糖ヒドロゲルのシート(2)
を備える微生物培養デバイス。
【請求項2】
前記脱水多糖ヒドロゲルのシート(2)が、ジェラン、キサンタン、ガラクトマンナン若しくはデンプンの、及び/又はこれらの混合物の脱水ヒドロゲルのシートである、請求項1に記載の微生物培養デバイス。
【請求項3】
前記脱水多糖ヒドロゲルのシート(2)が、ジェランガム、キサンタンガム、ガラクトマンナンガム、デンプン及びこれらの混合物から選択される少なくとも1種の多糖ゲル化剤と水性組成物とのヒドロゲルの層の脱水によって調製された、請求項1又は2に記載の微生物培養デバイス。
【請求項4】
前記脱水多糖ヒドロゲルのシート(2)が、0.1~30gの少なくとも1種の多糖ゲル化剤を1リットルの水に混合することにより調製された多糖ヒドロゲルの層の脱水により得られる、請求項3に記載の微生物培養デバイス。
【請求項5】
前記脱水多糖ヒドロゲルのシート(2)が、10~20gのジェランガム、優先的には13~15gのジェランガムを1リットルの水に混合することにより予め調製されたジェランヒドロゲルの層の脱水により得られる、請求項1から4のいずれか一項に記載の微生物培養デバイス。
【請求項6】
前記脱水多糖ヒドロゲルのシート(2)が、0.2~10gのキサンタンガムを1リットルの水に混合することにより予め調製されたキサンタンヒドロゲルの層の脱水により得られる、請求項1から4のいずれか一項に記載の微生物培養デバイス。
【請求項7】
前記脱水多糖ヒドロゲルのシート(2)が、キサンタンガムとローカストビーンガムとの混合物から予め調製されたキサンタン及びガラクトマンナンヒドロゲルの層の脱水により得られる、請求項1から4のいずれか一項に記載の微生物培養デバイス。
【請求項8】
前記脱水多糖ヒドロゲルのシート(2)が、0.5~15gのデンプンを1リットルの水に混合することにより予め調製されたデンプンヒドロゲルの層の脱水により得られる、請求項1から4のいずれか一項に記載の微生物培養デバイス。
【請求項9】
前記脱水多糖ヒドロゲルのシート(2)が、40:1~2:3の[ジェランガム]/[デンプン]重量比を有するジェランガムとデンプンとの混合物から調製された、ジェラン及びデンプンヒドロゲルの層の脱水により得られる、請求項1から4のいずれか一項に記載の微生物培養デバイス。
【請求項10】
前記脱水多糖ヒドロゲルのシート(2)が、グリセロール、エチレングリコール及びポリエチレングリコールから選択された強化添加剤によって化学的に構造的に強化されている、請求項4に記載の微生物培養デバイス。
【請求項11】
前記脱水多糖ヒドロゲルのシート(2)が、二価カチオン塩から選択される少なくとも1種の硬化剤をさらに含む、請求項1から10のいずれか一項に記載の微生物培養デバイス。
【請求項12】
前記脱水多糖ヒドロゲルのシート(2)が、塩化マグネシウム(MgCl
2)、塩化カルシウム(CaCl
2)、硫酸マグネシウム(MgSO
4)及び塩化マンガン(MnCl
2)から選択される少なくとも1種の硬化剤をさらに含む、請求項1から11のいずれか一項に記載の微生物培養デバイス。
【請求項13】
前記脱水多糖ヒドロゲルのシート(2)が少なくとも1種の可塑剤をさらに含む、請求項1から12のいずれか一項に記載の微生物培養デバイス。
【請求項14】
カレンダー加工なしの前記吸水性材料で作られた部分(1)が、0.5mm~10mmの厚さで50g.m
-2~150g.m
-2の表面密度を有することを特徴とする、請求項1から13のいずれか一項に記載の微生物培養デバイス。
【請求項15】
- 吸水性材料で作られた少なくとも1つの部分(1)であって、少なくとも実質的に平坦な上面を有し、脱水培地組成物を厚内に組み込んでいる、
吸水性材料で作られた少なくとも1つの部分(1)、
- 5℃~40℃の温度で再水和できる、少なくとも1の脱水多糖ヒドロゲルシート(2)、及び
- 任意選択的に、少なくとも1の透過膜インサート(3)
を備える
、微生物培養デバイス
の組み立てのためのキット。
【請求項16】
請求項1から14のいずれか一項に記載の微生物培養デバイスの組み立てを可能にする、請求項15に記載の
微生物培養デバイスの組み立てのためのキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微生物学、並びに固形及び半固形培地での微生物培養の分野に属する。より具体的には、特に分析対象の試料に存在する微生物の培養、検出及び/又は同定を目的とした、従来の寒天ベースの培地に対して提案される代替案に関する。
【0002】
臨床又は獣医療診断の分野、及び産業微生物検査の分野(特に食品加工、製薬及び化粧品業界)で、固体及び半固体培養担体(より一般的には寒天ベース(培養)培地又は栄養寒天と呼ばれる)は、潜在的に病原性及び/又は感染性微生物を検出及び研究するための不可欠なツールを構成する。
【0003】
19世紀末には、寒天をゲル化剤として使用して固化した培地が出現し、微生物学の実践に急速且つ大きな革命をもたらした。それ以来、検出、同定及び/又は研究する微生物は、巨視的スケールのコロニー形態で、すなわち肉眼で見ることができ、これらの固形培地の表面で成長する細胞クラスターの形態で発見され、観察され、取り扱われている。そうする中で、新しい分析と実験の観点が明らかになり、既存の技術の改善と簡素化が可能になった。
【0004】
この点で、非常に簡単な実装を考えると、微生物分析のための多くの方法において今日でも依然として非常に広く使用されている寒天ベースの培地で微生物を分離するための技術が特に挙げられるであろう。これらは基本的に、枯渇(exhaustion)又は四分法による分離のための技術である。
【0005】
寒天ベースの培地で分離するためのこれらの技術は、分析される生物学的試料の堆積物からの細胞を、固形培地の表面に広げることにある。この展延は、例えば、特定のパターンに従って該培地の表面上を滑る機械的ツール/手段を使用して実行される。この展延工程の終わりで、ストリークパターンの終わりに達した細胞は個別化され、互いから分離される。その後、これらの個々の細胞はそれぞれ成長し、最終的に純粋な培養コロニー、すなわち遺伝的に完全に同一である微生物を含む細胞のクラスターを形成する。その後、この同じ培地又は他の培地で各コロニーを形態学的分析(コロニーの形状、その高さ、輪郭の規則性等の検査)に直接かけることがでる。これらの細胞は、保存の目的で、及び/又はその後の分析を補足する目的で収集できる。
【0006】
微生物の増殖及び成長に適した担体を提供するだけでなく、従来の寒天ベースのゲル化/固形培地は、細胞の分離とストリークの作業に完全に適した、特に、この目的のために開発されたツールと機器によって加えられる圧力と摩擦の力に適した硬度レベル及び表面状態を持つことができるという利点がある(例えば、EP第0242114号、国際公開第2005/071055号を参照)。
【0007】
ただし、寒天ベースの培地にはいくつかの大きな欠点がある。その1つとして、時間(少なくとも1時間)と多くの作業(成分の計量、溶解、オートクレービング、ペトリ皿への注入、展延)を必要とする準備(手作りの場合)が挙げられるだろう。さらに、液体培地の場合と同様に、これらの固形又は半固形培地は、あらゆる形態の生物学的汚染に対して非常に敏感である。最後に、「手作り」寒天ベースの培地は、その無菌性を確保することが非常に困難であるため、即時又は実質的に即時に調製しなければならない。
【0008】
産業生産された寒天ベースの培地も存在する。これらのすぐに使用できる寒天ベースの培地は、有効期間が短く、辛うじて数か月を超えるほどである。この限られた有効期間は特に、培地内の水の存在によって部分的に説明され得る。さらに、最適な無菌性と許容可能な性能レベルを保証するために、該培地には包装(UV殺菌処理、二重包装など)、輸送及び保存(2℃から8℃の間、光を避ける)に関して過大な措置が取られる。これらの多数の制約は、寒天ベースの培地の販売及び使用コストに影響を与える。
【0009】
上記の欠点を克服するために、寒天ベースの培地に代わるものがいくつか提案されてきている。それらは、特に産業的に生産された、すぐに使用できる微生物培養デバイスであり、場合によって選択的及び/又は差別的であり、且つ、脱水され、(再)水和によって簡単に活性化される栄養組成物を組み込む特有の特徴を有するものである。結果として、比較的制限がない保存/保管要件(湿気や高温を除く)はさておき、その有効期間は数年に達する可能性がある。
【0010】
この点で、3M(米国)は、ペトリフィルムTMという一連の産業用微生物培養デバイスを提案している。特にEP第0070310号、EP第0620844号又はEP第0832180号に記載されているこれらのデバイスは、互いに貼り付いている2枚の水密フィルムでできている。接触面では、2枚のフィルムのそれぞれの内面が接着性組成物(adhesive composition)で覆われ、寒冷条件下で水溶性の粉末の薄い層を接着することが可能になる。
【0011】
フィルムの内面の1つが、脱水及び微粉化された培地組成物に相当する第1の粉末に覆われているペトリフィルムTMデバイスもある。その他の内面は、微粉化されたゲル化剤(グアーガム及び/又はキサンタンガムなど)に相当する第2の粉末で覆われている。
【0012】
他のペトリフィルムTMデバイスの場合、2つの内面は、脱水及び微粉化された培地組成物と微粉化されたゲル化剤との混合物から形成された、同じ粉末で覆われている。
【0013】
これらのペトリフィルムTMデバイスは、分析試料中に存在する微生物の検出及び/又は計数用である。このために、上部の透明フィルムを持ち上げることにより、培養デバイスが開かれる。任意選択で事前に希釈及び流動化された、高い流動性をもつ多量の分析試料(液体又は予め液化されたもの)が、下側のフィルムの中央に堆積される。上側のフィルムは、下側のフィルムの上に再配置される。分析試料中に存在する水と接触すると、ゲル化剤は、分析試料中に存在する細胞に付着する、ゼラチン状で粘性のある外観を有する高含水量のヒドロゲルを形成する。分析試料中に存在するこの同じ水は、培地を溶解及び活性化することも可能にする。2枚のフィルムの間で試料を静かに圧縮することにより、試料はより広い培地表面積に広がる。最終的に、結果を読み取る前に、この微生物培養デバイスを所定の温度で所定の期間インキュベートする。
【0014】
こうした設計ゆえに、ペトリフィルムTMデバイスは、実際に良好に細胞を固定することができるが、形成されるヒドロゲルは、寒天ベースの培地上で可能なほどには細胞の分離及び/又はストリークの作業ができない、非常にゼラチン状で粘性のある表面を作成する。しかも、この目的のために開発されたツール及び器具との適合性がない(例えばEP第0242114号、国際公開第2005/071055号参照)。
【0015】
日水製薬(日本)が開発した培養デバイス、コンパクトドライTMも知られており、その微生物培養担体は吸収性繊維材料のシートから形成され、その基質内に、場合によって選択的且つ差別的である脱水栄養培地を組み込んでいる(例えばEP第1179586号参照)。
【0016】
このため、アルコールベースの懸濁液が、培地組成物、水とエタノールの両方に可溶な接着剤(例えば、ポリ(エチレンオキシド)とヒドロキシプロピルセルロース)、及び水に溶けるがエタノールには溶けないゲル化剤(例えばローカストビーンガム、カラゲナン、ヒドロキシエチルセルロース)をエタノールに混合することによって調製される。このアルコールベースの懸濁液は、吸収性繊維材料のシートに含浸させるために使用される。乾燥後、前記シートは、単に再水和することにより活性化することができ、長い貯蔵寿命を有する、すぐに使える脱水培養担体を形成する。
【0017】
これらのコンパクトドライTMデバイスは、分析試料中に存在する微生物の検出及び/又は計数用である。このため、任意選択で事前に希釈及び流動化された、高い流動性をもつ多量の分析試料(液体又は予め液化されたもの)をピペットで培地担体に接種し、できるだけ多くの表面積を覆うようにする。その後、結果を読み取る前に、培養デバイスを所定の温度で所定の期間インキュベートする。
【0018】
このタイプの培養担体は、分析試料をストリークすることによって実行される分離技術に役立つことはない。これは、その繊維の性質に起因し、これらの培養担体は、従来の寒天ベースの培地の表面で細胞をストリークし、広げるために一般に使用されるツール及び器具の連続的且つ規則的な滑りを妨げる多くの粗い領域をもつ不規則な表面を有するためである。さらに、細胞は多孔質担体の厚みの奥深くまで増殖する傾向があり、このことによって、形成されたコロニーを視覚化/同定することが困難になる場合がある。
【0019】
国際公開第2015/104501号で出願人は、微生物の検出、同定、及び/又は計数用の、すぐに使用できる微生物培養デバイスも提案している。これらのデバイスはまた、培地組成物を厚内に組み込んでいる、繊維状吸収材料で作られた培養担体をベースにしている。脱水された培地組成物は、乾式含浸技術により培養担体の厚内に組み込まれている。コンパクトドライTMデバイスの場合、その繊維の性質に起因して、培養担体は多くの粗い領域をもつ不規則な表面を有する。したがって、従来の寒天ベースの培地の表面で細胞を分離し、ストリークするために今まで開発された技術及びツールとの適合性がない。
【0020】
さらに、コンパクトドライTMデバイスの場合、細胞は多孔質担体の厚みの奥深くまで増殖する。
【0021】
これらの欠点を克服するために、国際公開第2014/013089号及び同第2015/107228号において出願人は、表面状態を完全にすることができる表面層でこの繊維状表面を覆うことを提案している。
【0022】
したがって、国際公開第2014/013089号では、下層への細胞の拡散を防止するために、且つ、その過程で比較的滑らかな仕上げ表面を形成するために十分に狭い細孔を有する(精密)濾過膜の使用が提案されている。前記(精密)濾過膜は、ラテックス、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン(poly(vinylidene)fluoride)、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリアミド、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、セルロース、及びニトロセルロースから選択される1種以上の材料をベースに製造することができる。
【0023】
代替案として、国際公開第2015/107228号には、カオリン、タルク、二酸化チタン及び/又は炭酸カルシウムの顔料と、スチレン-ブタジエンラテックス型、スチレンアクリルラテックス型又はカルボキシメチルセルロースのバインダーとの混合物を含む組成物の多孔質層で覆うことが提案されている。
【0024】
説得力のある生物学的結果にもかかわらず、そのような培養担体は、特に製造コストが依然として高いため、現時点では特に商業的に実行可能ではないと見なされている。
【発明の概要】
【0025】
したがって、本発明の目的は、室温でも長い有効期間を提供しながら、細胞をストリークし、広げるための機械的作業との適合性及び繁殖力のいずれの点からも、真に従来の寒天ベースの培地に取って代わる培地を提供する微生物培養デバイスを提案することである。
【0026】
本発明の別の目的は、特に生産コスト及び収益性の点で、産業的及び商業的利用の制約に適合する微生物培養デバイスを提案できるようにすることである。特に、本発明は、微生物培養デバイス及び培地の業界で現在使用されている生産施設及び手段に適した設計及び製造品を備えた微生物培養デバイスを提案することを目的とする。
【0027】
したがって、本発明は、
- 吸収性材料で作られた部分であって、少なくとも実質的に平坦な上面を有し、脱水(乾燥している又は乾燥させた)培地組成物を厚内に組み込んでいる、吸収性材料で作られた部分、
- 前記吸収性材料で作られた部分の上に載っている、室温、特に5℃から40℃の温度で再水和できる脱水多糖ヒドロゲルのシートであって、前記吸収性材料で作られた部分の上面に直接、又は透過膜インサートを介して間接的に貼り付けられている、脱水多糖ヒドロゲルのシート
を備える微生物培養デバイスを提案する。
【0028】
本発明によれば、前記脱水多糖ヒドロゲルのシートは、水と少なくとも1種のゲル化剤をベースとする組成物を含むヒドロゲルの層の脱水によって事前に調製されているものである。この脱水ヒドロゲルのシートは、室温で再水和可能であるという特有の特徴を有する。該シートは、追加の熱処理を必要とせずに、単に水性組成物を吸収するだけでヒドロゲルの特性を回復するが、仮にシートが注入後(又は展延/コーティング後)に脱水されておらず単に硬化されている場合は、本発明による微生物培養デバイスを構成する多糖ヒドロゲルのシートが有するであろう形状、テクスチャー、硬度/剛性及び表面状態の特性に非常に近いそれらの特性を保持する。
【0029】
再水和後、該脱水多糖ヒドロゲルシートは、従来のすぐに使用できる寒天ベースの培地とかなり匹敵するコンシステンシー及び硬度/剛性を有する、一体(one-piece)ヒドロゲル層を再び生じる。特に、前記一体ヒドロゲル層は、500~2000g.cm-2、優先的には700~1400g.cm-2の硬度を有する。前記ヒドロゲル層の硬度は、例えばSTABLE MICRO SYSTEMS LTD(英国)のTA.XTplusタイプのテクスチャーアナライザーを使用して測定することができる。
【0030】
その使用中、本発明による微生物培養デバイスは、活性化のために水和されなければならない。この目的のために、吸収性材料で作られた部分は、ある量の水又は水性組成物に浸される。したがって、最初は乾燥状態で存在する培地組成物は、溶解及び活性化される。次に、吸水性材料で作られた部分と直接接触するか又は透過膜インサートを介して、該脱水多糖ヒドロゲルのシートは、ほぼ瞬時に室温で再水和される。吸水性材料で作られた部分に由来する液体で再水和されることにより、ヒドロゲルのシートは、柔軟性を取り戻し、溶解及び活性化された培地組成物に浸したヒドロゲル(又はヒドロゲルフィルム)の薄い一体層を生じる。多糖ヒドロゲルのシート上への分析試料の接種は、シートの再水和の前と後で同様に良好に行うことができる。再水和の前又は後の多糖ヒドロゲルのシートの表面は、細胞の分離及びストリークの作業に適するように、特にこの目的のために開発されたツール及び器具によって及ぼされる圧力及び摩擦力の耐えるように、十分に滑らか且つ硬質で堅い。
【0031】
この再水和システムでは、多糖ヒドロゲルの層が微生物培養デバイスの表面に、細胞のストリークと展延の機械的作業を容易にする潤滑効果を与える。さらにこのシステムは、寒天のようなコンシステンシーにより、栄養成分と培地の活性剤に可能な限り接近して微生物の移植を行うことを容易にする。吸収性材料で作られた部分に関し、培地組成物の保存と分配における役割は別として、その構造は、微生物培養デバイスの表面の全体的な剛性と堅さに寄与し、細胞をストリークし、広げるために使用されるツール及び器具によって及ぼされる圧力と摩擦力の点での適合性を確保している。
【発明を実施するための形態】
【0032】
本発明の説明を続ける前に、本発明の開示の理解を容易にするために、以下に定義を記す。
【0033】
「培地」という表現は、細胞、より具体的には細菌、カビ及び/又は酵母の増殖及び成長を可能にする栄養組成物を指す。このような培地は、培養される微生物の栄養要件を満たすことを可能にする。概要では、その組成には、以下のものが見出される。
- 滅菌水(通常、蒸留水又は脱イオン水)
- 炭素源及びエネルギー源としての、少なくとも1種の炭水化物、
- (牛乳、肉及び/又はジャガイモデンプン、トウモロコシ等の)ペプトンの混合物などの化学的複合体組成物(chemically complex compositions)、動物又は植物起源の酵母抽出物、血清及び/又は組織抽出物等の形態で提供される、その他の栄養素(特にアミノ酸、増殖因子、ミビタミン、ミネラル、微量元素、鉄塩、クエン酸ナトリウム、塩化ナトリウム等)
- 培地における適切な浸透圧を確立し、pHを緩衝することを可能にするさまざまな塩
【0034】
本発明の意味での培地は場合によって、標的微生物に関して特定の選択性を示してもよく、すなわち、培地はさらなる菌叢の増殖よりもこれらの標的微生物の増殖を促進し、且つ/又はさらなる菌叢の増殖を阻害及び/又は減速させる。この選択的効果は、特に、さらなる菌叢に対する阻害効果を有する薬剤又は標的微生物に対する活性化効果を有する薬剤の使用により得ることができる。さらに、本発明の意味での培地は場合によって識別能を示し、この同じ培地で増殖する異なるカテゴリーの微生物を視覚的に区別又は区別することを可能にする。このため、該培地は有利には、微生物が発現する特有の代謝活性に応じて微生物の視覚的観察を可能にする発色及び/又は蛍光発生成分を組み込む。
【0035】
さまざまな培地の組成及び配合は、特にHANDBOOK OF MICROBIOLOGICAL MEDIA(2010;第4版)に記載されている。
【0036】
「試料」という用語は、分析の目的で採取された試料、又は採取された試料のごく一部若しくは少量を指す。より具体的には、本発明は、検出及び/又は分析される微生物を含むか又は含むと思われる生物学的試料を対象とする。これらの生物学的試料は、ヒト、動物、植物又は環境起源のものであり得る。それらはまた、産業的起源を有することもあり、製造された製品又は製造中の製品、又は産業環境で見られる機器若しくは施設から採取された試料に由来する場合もある。ここで対象とする産業部門は、特に食品加工、製薬、化粧品及び獣医産業、医療機器、微生物学、及び環境試験(水、空気、表面)である。
【0037】
「微生物」及び「細胞」という用語は、同様に使用され、細菌、酵母、カビ及び/又はアメーバを指す。
【0038】
「分離/ストリークのための手段/ツール」とは、分離法(例えば枯渇法(exhaustion technique)、ストリーク法又は四分法)、細胞コーティング又は展延法(例えば、従来の寒天ベースの培地で一般的に使用されているような、細胞計数又は抗生物質感受性試験の実施を目的としたもの)を実施するために使用可能な機械器具を意味する。これらの機械器具は、手動で又は自動化された方法で使用されるが、培地の表面に微生物の1つ以上の点状の沈着物を生成し、この表面上を滑ることにより細胞を広げることを可能にする。非網羅的な例として、ループ、白金耳、接地棒、ビーズ、スプレッダー、ポーカー又はレーキを挙げることができる。
【0039】
本発明によれば、提案した微生物培養デバイスは、脱水培地組成物を厚内に組み込んでいる、吸水性材料で作られた部分と、同じく脱水された、室温で再水和する多糖ヒドロゲルのシートとの組み合わせから本質的に形成される。脱水多糖ヒドロゲルのシートは、その寸法により、吸収性材料で作られた部分の上面の全て又は一部を覆う。
【0040】
本発明による微生物培養デバイスの内層/深層を構成し、脱水培地組成物のリザーバーとして機能する吸収性材料で作られた部分に関して、その構造、設計及び寸法は、EP第1179586号、国際公開第2015/104501号、同第2014/013089号、同第2015/107228号によって広範に説明又は提案されている。
【0041】
さまざまな親水性及び非水溶性吸水性材料を使用して、本発明による微生物培養デバイスの吸水性材料で作られた部分を製造することができる。これらの材料は、主にそれらの吸収力、水性液体を保持する能力、及び水性液体を通過させる能力のために選択されている。
【0042】
有利には、本発明によれば、前記吸収性材料で作られた部分は、短繊維不織布(short nonwoven fiber)の基材から製造され、構造的完全性及び機械的結合力を有するアセンブリを構成する。特に適した基材は、天然セルロース繊維(綿など)又は合成セルロース繊維(レーヨンなど)、改質セルロース繊維(例えばカルボキシメチルセルロース、ニトロセルロース)、吸収性化学ポリマー繊維(ポリアクリル酸塩、アクリレート/アクリルアミドコポリマーなど)から作られる。好ましい実施態様によれば、前記吸水性材料で作られた部分は、セルロース繊維、特に綿から作られた不織布で作られている。
【0043】
培地組成物は、さまざまな方法で繊維性材料から作られた部分の大部分に組み込むことができる。
【0044】
それは、「液相含浸」のさまざまな技術によって達成することができる(例えば中国特許第102337324号又は国際公開第2005/061013号参照)。これらの技術の本質は、揮発性溶媒(例えば水又はアルコール)の溶液中で配合された培地組成物に吸水性材料を浸すことにある。十分に濡れたら、溶媒を蒸発させることによって吸水性材料を乾燥させる。
【0045】
また、それは、「乾式含浸」法によって実施することもできる。これらの技術は、粉状組成物を、適切な場合には粉末又は一組の粉末の形態で調製された培地を、吸収性材料で作られた部分の厚内に移すことを目的としている。この目的のために、前記粉状組成物の粒子を、吸収材料で作られた部分の表面上に振りかけ、その後、超音波の作用下(例えば仏国特許第2866578号参照)又は交流電場の作用下(例えば国際公開第2015/044605号、同第2010/001043号又は同第99/22920号)で振動させる。これらの粒子は浸透し、多孔質体の空洞に徐々にめり込む。
【0046】
本発明による微生物培養デバイスの製造の場合、交流電場を使用する乾式含浸法は、吸収性材料の厚内への脱水培地組成物の組み込みを可能にするのに特に適していることが証明された。したがって、国際公開第2015/044605号、国際公開第2010/001043号及び国際公開第99/22920号によって提供される技術的教示は、本明細書の不可欠な部分を形成する。
【0047】
本発明によれば、活性化(水和)培地の溶液の量及びその構成成分の濃度は、一方で吸収性材料で作られた部分の材料の(特にその保水能力の点での)選択及び吸収性材料で作られたこの部分の寸法の選択を決定し、他方では吸収性材料の中に組み込まれる培地粉末(逆もしかり)の量も決定する。
【0048】
有利には、任意選択のカレンダー加工の前の、前記吸水性材料で作られた部分は、50g.m-2~150g.m-2、優先的には90g.m-2~110g.m-2の表面密度を有し、厚みに関しては、有利には0.5mm~10mm、さらに優先的には1mm~4mmである。
【0049】
好ましい実施態様によれば、脱水培地組成物が組み込まれると、吸収性材料で作られた部分は、有利にはカレンダー加工作業に供される。カレンダー加工は、生成された圧力と加熱温度によるものだが、吸収性材料で作られた部分の厚内での脱水培地組成物の保持を改善し、その経時安定性も改善する。カレンダー加工には、吸収性材料で作られた部分の表面の平坦性を改善し、その毛管力を増加させるという利点も有する。
【0050】
カレンダー加工は、有利には、30℃~60℃の推奨温度で実行される。60℃未満の温度により、熱不安定性化合物を変性させないことが可能になる。
【0051】
本明細書で上述したEP第1179586号、国際公開第2015/104501号、国際公開第2014/013089号及び国際公開第2015/107228号には、培養培地組成物を組み込んでいる多孔質材料で作られた層も構造に組み込んだ微生物培養担体が記載されている。したがって、かように記載されているこれらの層は、本発明による微生物培養デバイスの設計において使用されるものとみなされ得る。
【0052】
本発明の特に好ましい実施態様によれば、脱水培地組成物を厚内に組み込んでいる、吸水性材料で作られた部分は、有利には、国際公開第2015/104501号に記載の乾式含浸多孔質担体の全ての技術的特徴を有する。
【0053】
有利には、粉末として配合され、吸水性材料で作られた部分の厚内に組み込まれる培地組成物の量は、0.01g.cm-3~0.1g.cm-3、好ましくは0.02g.cm-3~0.09g.cm-3、さらに優先的には0.03g.cm-3~0.06g.cm-3である。
【0054】
本発明による微生物培養デバイスを構成する脱水多糖ヒドロゲルのシートに関し、その組成及び厚みは、堅い表面(solid surface)、小さな厚み、並びに容易な操作を可能にする十分な機械的強度及び完全性を有する構造を作り出すように選択された。さらに、この脱水多糖ヒドロゲルのシートは本質的に、室温、特に5℃~40℃の温度で再水和可能な超吸水性材料を形成し、その結果、事前に水に浸した吸水性材料で作られた部分と接触すると液体培地組成物で満たされ、栄養特性(場合によって選択的且つ/又は差別的特性)をもつ一体ヒドロゲル層(すなわち、ある程度の構造的完全性と機械的結合力を有するアセンブリ)を再形成する。したがって、接種された細胞は、このヒドロゲル層上で、培地組成物の構成成分に可能な限り近接して堆積される。
【0055】
細胞は、培養担体への接着にもかかわらず通常動かされるため、ストリーク作業によって傷つけられることがよくあるが、本発明の微生物培養デバイスの場合、該ヒドロゲルの良好な表面性状(場合によってチクソトロピー性)により、担体から粗雑に引き離されることはなく、ヒドロゲルの微小部分に囲まれて動きなから運ばれる。
【0056】
本発明によれば、脱水多糖ヒドロゲルのシートは、有利には、ジェラン、キサンタン、ガラクトマンナン又はデンプン及び/又はこれらのヒドロゲルの混合物の脱水ヒドロゲルのシートである。前記脱水ヒドロゲルのシートは、水と少なくとも1種の多糖ゲル化剤とをベースとする組成物を含むヒドロゲルの層の脱水により得られる。前記多糖ゲル化剤は、ジェランガム、キサンタンガム、ガラクトマンナンガム(例えばローカストビーンガム又はグアーガム)から優先的に選択される。
【0057】
有利には、そして本発明によれば、脱水多糖ヒドロゲルのシートは、0.1~30gの少なくとも1種の多糖ゲル化剤を1リットルの水に混合することにより予め調製された多糖ヒドロゲルの層の脱水により得られる。
【0058】
第1の好ましい実施態様によれば、脱水多糖ヒドロゲルのシートは、10~20gのジェランガム、優先的には13~15gのジェランガムを1リットルの水に混合することにより予め調製されたジェランヒドロゲルの層の脱水により得られる。
【0059】
変形実施態様によれば、脱水多糖ヒドロゲルのシートは、0.2~10gのキサンタンガム、好ましくは約0.5gのキサンタンガムを1リットルの水に混合することにより予め調製されたキサンタンヒドロゲルの層の脱水により得られる。
【0060】
第2の変形実施態様によれば、脱水多糖ヒドロゲルのシートは、キサンタンガムとローカストビーンガムとの混合物から予め調製されたキサンタン及びガラクトマンナンヒドロゲルの層の脱水により得られる。[キサンタンガム]/[ローカストビーンガム]重量比は、有利には1:2~2:1、好ましくはおよそ1:1である。
【0061】
第3の変形実施態様によれば、脱水多糖ヒドロゲルのシートは、0.5~15gのデンプンを1リットルの水に混合することにより予め調製されたデンプンヒドロゲル(好ましくはジャガイモデンプン)の層の脱水により得られる。
【0062】
第4の変形実施態様によれば、脱水多糖ヒドロゲルのシートは、ジェランガムとデンプンとの混合物から予め調製されたジェランとデンプンヒドロゲル(好ましくはジャガイモデンプン)の層の脱水により得られる。[ジェランガム]/[テンプン]重量比は、有利には40:1~2:3である。
【0063】
脱水多糖シートは、多糖ヒドロゲル組成物から複数の方法で調製することができる。例えば、該ヒドロゲルは、非粘着性表面上の連続層に注入されるか又は広げられてもよい。また、この連続層は、コーティング法によっても得ることができる。続いて、該ヒドロゲル層は、乾燥/脱水され、その後所望の形状及び寸法に切断される。
【0064】
脱水多糖ヒドロゲルのシートは、成型法とそれに続く脱水工程によっても調製することができる。
【0065】
本発明の好ましい実施態様によれば、脱水多糖ヒドロゲルのシートは、有利には、グリセロール、エチレングリコール及びポリエチレングリコールから選択される強化添加剤によって化学的に構造的に強化される。前記強化添加剤は、多糖ヒドロゲル組成物の調製中に添加される。有利には、この添加は、脱水工程の前に、ゲル化剤を水と混合する工程において実施される。
【0066】
これに関連して、本発明による脱水多糖ヒドロゲルのシートは、グリセロール、エチレングリコール及びポリエチレングリコールから選択される少なくとも1種の強化添加剤をさらに含む。
【0067】
本発明によれば、前記強化添加剤は、有利にはグリセロールである。
【0068】
本発明の特に好ましい実施態様によれば、前記脱水多糖ヒドロゲルのシートは、グリセロールをさらに含む脱水ジェランヒドロゲルのシートである。
【0069】
このような脱水多糖ヒドロゲルのシートは、ジェランガムとグリセロールから調製される。この調製において使用される[ジェランガム]/グリセロール重量比は、有利には2:1~1:8、優先的には2:7~2:9であり、典型的にはおよそ1:4である。
【0070】
本発明の有利な実施態様によれば、前記脱水多糖ヒドロゲルのシートは、二価カチオン塩から選択される少なくとも1種の硬化剤をさらに含む。この硬化剤は、好ましくは、塩化マグネシウム(MgCl2)、塩化カルシウム(CaCl2)、硫酸マグネシウム(MgSO4)、及び塩化マンガン(MnCl2)から選択される。有利には、そして本発明によれば、該硬化剤はMgCl2である。
【0071】
有利には、そして本発明によれば、前記脱水多糖ヒドロゲルのシートは、MgCl2、CaCl2、MgSO4、及びMnCl2から選択される少なくとも1種の硬化剤をさらに含む。該硬化剤は、有利にはMgCl2である。ジェラン/MgCl2重量比は、有利には100:1~3:2、優先的には30:1~1:3であり、典型的にはおよそ15:1である。
【0072】
特定の実施態様によれば、脱水多糖ヒドロゲルのシートは、ジェランガムとMgCl2から調製される。この調製において使用される[ジェランガム]/MgCl2重量比は、有利には100:1~3:2、優先的には30:1~1:3であり、典型的にはおよそ15:1である。
【0073】
別の特定の実施態様によれば、脱水多糖ヒドロゲルのシートは、ジェランガムとMgSO4から調製される。この調製において使用される[ジェランガム]/MgSO4重量比は、有利には100:1~3:2、優先的には30:1~1:3であり、典型的にはおよそ15:1である。
【0074】
本発明の特定の実施態様によれば、前記脱水多糖ヒドロゲルのシートは、少なくとも1種の可塑剤、例えばシリコーン油をさらに含む脱水ジェランヒドロゲルのシートである。可塑剤を使用すると、しなやかさと柔軟性に富んだ脱水ヒドロゲルを得ることが可能である。したがって、利点は、例えばロールの上に置かれ、本発明による微生物培養デバイスに適した寸法を有するシートに切断されるまで保持され得る長いストリップで、大きな表面積の脱水ヒドロゲルを調製できることである。
【0075】
可塑剤は、多糖ヒドロゲル組成物の調製中に組み込まれる。この組み込みは、有利には、脱水多糖のシートを得る前に、ゲル化剤化剤と水を混合する工程で実行される。
【0076】
本発明の特定の実施態様によれば、脱水多糖ヒドロゲルのシートは、その厚内に、微生物が発現する特定の代謝活性に応じて微生物の視覚的観察を可能にする発色及び/又は蛍光発生化合物を組み込む。これらの化合物は、例えば、特定の酵素活性を示すことを可能にする合成基質、又は着色pHインジケーターであり得る。
【0077】
該発色及び/又は蛍光発生化合物は、多糖ヒドロゲル組成物の調製中に組み込まれる。この組み込みは、有利には、脱水多糖のシートを得る前に、ゲル化剤化剤と水を混合する工程で実行される。
【0078】
有利には、そして本発明によれば、吸水性材料で作られた部分と脱水多糖ヒドロゲルのシートは別として、本発明による微生物培養デバイスは、前記吸水性材料で作られた部分と前記脱水多糖ヒドロゲルのシートの間に配置された透過膜インサートをさらに備えてもよい。
【0079】
この透過膜インサートの組成、設計、及び厚みは、該インサートが吸水性材料で作られた部分と脱水多糖ヒドロゲルのシート又は再水和多糖ヒドロゲル層との間の液体の移動をできる限り妨げないように選択される。これに関連して、該インサートは、天然セルロース繊維(綿など)又は合成セルロース繊維(レーヨンなど)、改質セルロース繊維(例えばカルボキシメチルセルロース、ニトロセルロース)、吸収性化学ポリマー繊維(ポリアクリル酸塩、アクリレート/アクリルアミドコポリマーなど)又は安定したタンパク質繊維(絹、羊毛など)で作られた基材から製造される。
【0080】
本発明の文脈において、この任意選択の透過膜インサートは、例えば以下のような非常に多様な目的に使用することができる。
- システム全体、又は脱水多糖ヒドロゲルのシート及び再水和多糖ヒドロゲルの層のみにさらなる剛性及び/又は機械的強度を提供するため
- 吸収性材料で作られた部分と脱水多糖ヒドロゲルのシート及び/又は再水和多糖ヒドロゲルの層との接触を改善するため
- 再水和多糖ヒドロゲルの層に運ばれる前に、吸水性材料で作られた部分に由来する溶解培地組成物と混合されることを目的とする特定の化合物を保持するためのリザーバー層として機能するため
- 微生物培養デバイスの表面で.成長しているコロニーのコントラスト及び観察を改善するため
【0081】
特定の実施態様によれば、前記透過膜インサートは、微生物培養デバイスの表面上で成長するコロニーのコントラスト及び観察を改善する目的で使用される。この目的のために、該インサートは、光に対して十分に不透明であり、高レベルの白色度(例えば、少なくとも65に等しいCIE白色度)を持つように選択される。
【0082】
本発明による生物学的培養デバイスの設計及びその使用の様式によって、特に以下のような主要な構成要素:
- 吸水性材料で作られた部分、
- 脱水多糖ヒドロゲルのシート、及び
- 任意選択の透過膜インサート
が、個別に、完全に独立して有利に製造、パッケージ化及び貯蔵されることが可能になる。これは、商業とロジスティックのいずれの観点からも、実際の産業上の利点に相当する。これはまた、ユーザーにとっても大きな利点であり、ユーザーは、本発明による微生物培養デバイスの異なる構成要素を望み通りに組み合わせ、その微生物培養デバイスを、自分が特に関心を持つ微生物に自身の手で適合させる可能性を有する。
【0083】
同様に、本発明による微生物培養デバイスは、様々な形態、特に
- 事前に構築及び組み立てられた複合微生物培養デバイス(ここで、吸水性材料で作られた部分の上に、任意選択的に透過膜インサートを備えた脱水多糖ヒドロゲルのシートが載っている)
- ユーザーが自身で組み立てる、キット形態の微生物培養デバイス(ここで、少なくとも1の吸水性材料で作られた部分、少なくとも1の脱水ヒドロゲルのシート、任意選択的に少なくとも1の透過膜インサートを備える)
のような形態でパッケージ化及び販売され得る。
【0084】
本発明による微生物培養デバイスは、その操作を容易にするために、事前に組み立てられた状態でパッケージ化されているにしろ、ユーザーが即座に組み立てることができるようにパッケージ化されているにしろ、
- 吸水性材料で作られた部分
- 脱水多糖ヒドロゲルのシート(又は再水和多糖ヒドロゲルの層)、及び
- 任意選択の透過膜インサート
は、有利には、これらの異なる要素の全周を囲んで適用される、
- ステープル又はピンのシステム
- 直線的に又は点状に塗布された接着性組成物
- 前記微生物培養デバイスを収容するために特別に設計された容器(例えばペトリ皿の容器)の内側に配されたブロッキングシステム(この場合、本発明による微生物培養デバイスの異なる構成要素は、前記容器の形状及び寸法に適合した形状及び寸法であり、前記容器の縁は、表面から突き出る突起タイプの機械的保持部材をその内面に備えている)
等の技術的手段によって、一緒に固定された状態で有利に保持され得る。
【0085】
また、本発明は、前述の微生物培養デバイスにも関し、組み立てキットの形態で提示される。したがって、本発明による微生物培養デバイスの組み立てのためのキットは、
- 吸収性材料で作られた少なくとも1つの部分であって、少なくとも実質的に平坦な上面を有し、脱水培地組成物を厚内に組み込んでいる、吸収性材料で作られた少なくとも1つの部分;
- 室温で、特に5℃~40℃の温度で再水和できる、少なくとも1の脱水多糖ヒドロゲルシート、及び
- 任意選択的に、少なくとも1の透過膜インサート
を備える。
【0086】
本発明の特定の態様によれば、前記発明は、室温、特に5℃~40℃の温度で再水和できる脱水多糖ヒドロゲルのシートも提案する。室温で再水和できる前記脱水多糖ヒドロゲルのシートは、微生物培養担体として使用されることが意図される。
【0087】
有利には、本発明の再水和できる脱水多糖ヒドロゲルのシートは、以下に列挙する技術的特徴の全て又は一部によって特徴付けられる。
- 前記脱水多糖ヒドロゲルのシートが、ジェラン、キサンタン、ガラクトマンナン若しくはデンプンの、又はこれらの混合物の脱水ヒドロゲルのシートである;
- 前記脱水多糖ヒドロゲルのシートが、ジェランガム、キサンタンガム、ガラクトマンナンガム、デンプン及びこれらの混合物から選択される少なくとも1種の多糖ゲル化剤と水性組成物とのヒドロゲルの層の脱水によって調製された;
- 前記脱水多糖ヒドロゲルのシートが、0.1~30gの、前述の少なくとも1種の多糖ゲル化剤を1リットルの水に混合することにより予め調製された多糖ヒドロゲルの層の脱水により得られる;
- 前記脱水多糖ヒドロゲルのシートが、10~20gのジェランガム、優先的には13~15gのジェランガムを1リットルの水に混合することにより予め調製されたジェランヒドロゲルの層の脱水により得られる;
- 前記脱水多糖ヒドロゲルのシートが、0.2~10gのキサンタンガムを1リットルの水に混合することにより予め調製されたキサンタンヒドロゲルの層の脱水により得られる;
- 前記脱水多糖ヒドロゲルのシートが、キサンタンガムとローカストビーンガムとの混合物から予め調製されたキサンタン及びガラクトマンナンヒドロゲルの層の脱水により得られる;
- 前記脱水多糖ヒドロゲルのシートが、0.5~15gのデンプンを1リットルの水に混合することにより予め調製されたデンプンヒドロゲルの層の脱水により得られる;
- 前記脱水多糖ヒドロゲルのシートが、40:1~2:3の[ジェランガム]/[デンプン]重量比を有するジェランガムとデンプンとの混合物から調製されたデンプンヒドロゲルとジェランの層の脱水により得られる;
- 前記脱水多糖ヒドロゲルのシートが、グリセロール、エチレングリコール及びポリエチレングリコールから選択された強化添加剤によって化学的に構造的に強化されている;
- 前記脱水多糖ヒドロゲルのシートが、二価カチオン塩、特にMgCl2、CaCl2、MgSO4及びMnCl2から選択される少なくとも1種の硬化剤をさらに含む;
- 前記脱水多糖ヒドロゲルのシートが、少なくとも1種の可塑剤、例えばシリコーン油をさらに含む。
【0088】
本発明の他の目的、特徴及び利点は、添付の図面:
-
図1は、本発明による微生物培養デバイス及び一般的なその使用原理の概略図である;
-
図2は、乾燥/脱水プロセスの終了時の脱水多糖ヒドロゲルのシートの例を示す写真である;
-
図3から13は、本発明による微生物培養デバイスで行われた細菌株の培養及び分離の写真である;
を参照する以下の説明及び以下で展開される実施例に照らして明らかになるであろう。
【0089】
これらの例の目的は、本発明、その実施及びその使用の理解を容易にすることである。これらの例は、説明のために提示されているものであり、本発明の範囲を制限することはできない。
【実施例】
【0090】
A/-本発明による微生物培養デバイス及び一般的な使用原理
図1に示すように、本発明による微生物培養デバイスは、第1に、多少厚みのある吸水性材料1と、それより薄い脱水多糖ヒドロゲル2のシートとで構成される。図示の例では、これらの2つの要素1及び2は、ほぼ正方形である。
【0091】
吸水性材料1で作られた部分は、親水性で非水溶性の材料から作られているが、脱水培地組成物を厚内に組み込んでいる。脱水多糖ヒドロゲル2のシートは、多糖ヒドロゲルの層の乾燥/脱水により形成され、その機械的構造は、繊維強化材、例えば織布を使用して強化することができる。
【0092】
吸水性材料1で作られた部分及び脱水多糖ヒドロゲル2のシートは、既に事前に組み立てられ、一緒に固定されるか、さもなければ2つの機械的に独立した要素の形態で提供され得る。
【0093】
吸水性材料1で作られたこの部分と脱水多糖ヒドロゲル2のシートの設計及び製造は、残りの例でより詳細に説明される。
【0094】
二次特性として、微生物培養デバイスの操作、特に該デバイスの再水和及び活性化の工程と、任意の移動(例えば実験台からインキュベーターへの移動)のための操作を容易にするために、容器4が微生物培養デバイスと接続している。
【0095】
本発明による微生物培養デバイスの使用は、水和、吸収材料1で作られた部分、水4によるデバイスの活性化を要する。
【0096】
この目的のために、本発明による微生物培養デバイスは、脱水多糖ヒドロゲル2のシートを上に向けた状態で、容器4の内側に配置される。容器4は培養デバイスよりも広い面積を有するため、水5は、脱水多糖ヒドロゲル2のシートに直接注がないように注意しながら、容器4に注ぐ。使用される水の量は、吸水性材料1で作られた部分を十分に湿らせ、それが含有する培地組成物を溶解することができるように、多少較正される。
【0097】
処理の別の方法は、適切な量の水を容器4の底に注ぐこと、次いで、その中に脱水多糖ヒドロゲル2のシートを載せた吸水性材料1で作られた部分を堆積させることからなる(consists in)。脱水多糖ヒドロゲル2のシートを遊離水と直接接触させないように注意し、吸収性材料1で作られた部分によってのみデバイスが実際に水和されるようにする。
【0098】
本発明による微生物培養デバイスが吸水性材料1で作られた部分と、2つの機械的に独立した要素の形態の脱水多糖ヒドロゲル2のシートとを備えている場合、水和の工程は第3の方法で実行され得る。その後、吸水性材料1で作られた部分を容器4の内側に配置する。容器4内に、任意選択的に、吸収材料1で作られたこの部分に直接、十分な量の水5を注いで吸収材料1で作られた部分を完全に浸す。続いて、その表面を脱水多糖ヒドロゲル2のシートで覆う。
【0099】
本発明による微生物培養デバイスの活性化の間、吸収性材料1で作られた部分による水和が、第1に、吸収性材料1で作られた部分の厚みに含まれる培地組成物を溶解することを可能にする。第2に、この活性化が、吸水性材料1で作られた部分の表面に適用された脱水多糖ヒドロゲル2のシートの水和によって継続される。脱水多糖ヒドロゲル2のシートのこの再水和により、再水和多糖ヒドロゲル2’の層が、吸水性材料1で作られた部分に由来する水だけによるのではなく、むしろ吸水性材料1で作られた部分に由来する培地溶液によって膨潤した吸収材料1で作られた部分の表面に現れる。
【0100】
こうして活性化されたデバイスは、分析試料を受け入れる準備が整っている。特に、例えばループ6を使用する細胞のストリーク及び展延作業によって試料を該デバイスに接種すると、結果を読み取る前に、アセンブリを設定した温度で設定した時間インキュベートする。
【0101】
本発明による微生物培養デバイスの再水和多糖ヒドロゲル2’の層/フィルムは、その非常に特有のコンシステンシーとテクスチャーのために、細胞にとって滑らか且つ粘着性があって微生物を受け入れることができる培養表面を作り、且つ、従来の寒天ベースの培地の表面上に細胞をストリークするために従来使用されていた機械的手段及び作業による細胞の分離を可能にする。さらに、この多糖ヒドロゲル2’の層/フィルムは、ガス交換及び乾燥現象への広範な曝露により、及び自身の高吸収特性により、吸水性材料1で作られた部分に由来する培地溶液とのインキュベーション時間を通して連続的に自己再生することができる。
【0102】
また、
図1に示すように、微生物培養デバイスは、吸収性材料1で作られた部分と脱水多糖ヒドロゲル2のシートとの間に挿入される透過膜インサート3を組み込むこともできる。透過性材料で製造されているため、この任意選択の透過膜インサート3は、例えば以下のような非常に多様な目的に使用することができる。
- システム全体、又は脱水多糖ヒドロゲル2のシート及び再水和多糖ヒドロゲル2の層のみにさらなる剛性及び/又は機械的強度を提供するため
- 吸収性材料1で作られた部分と脱水多糖ヒドロゲル2のシート及び/又は再水和多糖ヒドロゲル2の層との接触を改善するため
- 再水和多糖ヒドロゲル2の層に到達する前に、吸水性材料1で作られた部分に由来する溶解培地組成物と混合されることを目的とする特定の化合物を保持するためのリザーバー層として機能するため
- 微生物培養デバイスの表面で.成長しているコロニーのコントラスト及び観察を改善するため
【0103】
B/- 本発明による微生物培養デバイスの異なる構成要素の製造
B1/-脱水培地組成物を厚内に組み込んでいる、吸収性材料で作られた部分
本発明による微生物培養デバイスの部分を形成する、吸水性材料1で作られた部分は、内部で液体(特に水性液体)と適切な粒径の固体粒子を同様に良好に受け入れることができる、開放多孔質構造を備える三次元担体から作られる。
【0104】
以下の実施例及び試験では、試験する微生物培養デバイスは、SCA社(スウェーデン)製の不織布Airlaidから製造された、乾燥又は脱水培地組成物を組み込んだ吸水性材料で作られた部分を備える。この2成分PET/CoPET(ポリエステル/コポリエステル)不織布は、接着剤を追加せずにホットプレス(カレンダー加工)するだけで接着性になることができるように特別に処理されたものである。また、それは、2mmの厚さでおよそ95m-2のカレンダー加工前(又はカレンダー加工なし)の表面密度によって特徴付けられる。この不織布から約6cmの辺を持つ部分(複数)を切り取った。
【0105】
繊維性材料で作られたこれらの部分のかなりの部分への脱水培地組成物の組み込みは、乾式含浸技術で実施された。このため、粉末形態で配合された約0.2gの培地組成物が、切断された各不織布部分の上に振りかけられる。このアセンブリは、相対湿度35%~45%で15秒間、3200V.mm-1の電圧を印加する2つの電極の間に配置される。
【0106】
乾式含浸が完了すると、不織布部分は、3.105Pa.cm-2の圧力を印加することにより、60℃でカレンダー加工される。
【0107】
B2/-粉末として配合される培地
本発明による微生物培養デバイスを試験するために、異なる脱水培地組成物が使用された。これらは、寒天及びその他の粘着防止剤を除き、ビオメリュー(フランス)が販売する寒天ベースの培地組成物の組成を有する。これらは、より具体的には、chromID(登録商標)(例えばchromID(登録商標)CPS Elite、chromID(登録商標)S.aureus、chromID(登録商標)P.aeruginosa、chromID(登録商標)VRE、chromID(登録商標)Salmonella Elite)シリーズの培地である。
【0108】
このようにして製造された本発明による微生物培養デバイスはその後、大腸菌(Escherichia coli)、大便連鎖球菌(Enterococcus faecalis)、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)、エンテロバクター・クロアカ(Enterobacter cloacae)、クロストリジウム・フレウデー(Clostridium freundii)、ストレプトコッカス・アガラクチア(Streptococcus agalactiae)及びセラチア・マルセサンス(Serratia marcescans)等の細菌の検出及び分離について試験されることが可能であった。
【0109】
得られた結果のうち選択したものが、写真の形式で
図3から13に示されている。
【0110】
B3/-脱水多糖ヒドロゲルのシート
本発明による微生物培養デバイスの一部を形成する脱水多糖ヒドロゲル2のシートは、再水和されると微生物の増殖及び成長に適した担体を提供できるように主に設計されている。また、脱水多糖ヒドロゲル2のこれらのシートの組成及びコンシステンシーも、これらの多糖ヒドロゲルのシートが再水和状態であろうと脱水状態であろうと、細胞の分離とストリークの作業に適した表面を得るために特に研究された。
【0111】
以下の実施例及び試験のために、本発明による微生物培養デバイスを形成する脱水多糖ヒドロゲル2のシートは、以下の一般的な方法に従って調製された。
a)多糖ヒドロゲルの調製:
- 500mlの滅菌蒸留水を、ホットプレート上のガラスフラスコの中で加熱する。
- ゲル化剤(複数種可)を規定量で添加し、加熱を続けながら(沸騰させるか、沸騰に近づける)混合物が均質で半透明になるまで待つ。
- 完全に溶解した後、グリセロールを加え、均質化し、バインダー及び硬化剤として機能する二価カチオン塩(複数種可)を加え、均質化し、沸騰させる。
- まだ熱い混合物を直径47mmのペトリ皿に5~15ml(シートの所望の厚さに応じて)広げる。
- ゲル化剤が固まるまで、実験台の上で放冷して固める。
- 必要に応じてメスを使用して、ヒドロゲル部分を型から取り外す。
b) 多糖ヒドロゲルの脱水:
- ヒドロゲル部分を2枚の吸収紙で挟む。
- アセンブリをオーブンに入れ、約40℃の温度で1~6時間置く;この作業は、32℃に達した乾熱オーブンの中で少なくとも1晩実行してもよい。
【0112】
図2は、オーブンから出したときの脱水ヒドロゲルのシートの写真である。目安として、ペトリ皿にヒドロゲル調製物7mlを注いだ場合、ヒドロゲル部分の厚さは、調製物がオーブンを通過するまではおよそ3mmである。脱水後、シートは、厚さ1mm未満である。
【0113】
本発明による微生物培養デバイスの脱水多糖ヒドロゲル2のシートは、特に以下を変えることにより、異なるバージョンに変更された。
- 多糖ゲル化剤(例えばジェランガム、キサンタンガム、ガラクトマンナンガム、デンプン、アルギン酸ナトリウム、ペクチン、メチルセルロース、及びヒドロキシメチルセルロース)の性質
- 多糖ヒドロゲルを調製する工程で使用される水とゲル化剤の割合
- 多糖ヒドロゲルの調製に使用される硬化剤の性質と量
- (水和)多糖ヒドロゲル及び/又は脱水多糖ヒドロゲルのシートの物理化学的特性を改善するために使用される添加剤の性質と量。
【0114】
B4/-透過膜インサート(任意選択)
コントラストを改善し、微生物培養デバイスの表面で成長するコロニーを観察するために、光に対して不透明で、高レベルの白色度(例えば、少なくとも65に等しいCIE白色度)を持つ膜は、吸水性材料で作られた部分と脱水多糖ヒドロゲルのシートの間に挿入され得る。この透過膜インサートは、吸収紙、セルロース組成物のシートで構成されていてもよい。
【0115】
C/- 本発明による微生物培養デバイスの評価
堅い表面、構造完全性及び十分な機械的強度を有する脱水多糖ヒドロゲルのシートについて、良好な性能を有し、細胞をストリークし、広げるための作業及び機械的手段と適合する微生物培養担体を形成する能力を評価するために試験を実施した。
【0116】
これに関連して、細菌培養物は、特に大腸菌、大便連鎖球菌、プロテウス・ミラビリス(Proteus mirabilis)、黄色ブドウ球菌、セラチア・マルセサンス、緑膿菌、エンテロバクター・クロアカ、クロストリジウム・フレウデー、及びクロノバクター・サカザキ(Cronobacter sakazaki)の菌株で生産された。培養する対象の細菌に応じて、試験する脱水多糖ヒドロゲルのシートを、特定の脱水培地組成物を厚内に組み込んでいる、吸水性材料で作られた部分と組み合わせる。この脱水培地組成物の特有の特徴は、目的の細菌の増殖及び成長に適するように選択されているという事実と、これらの目的の細菌の視覚的同定を容易にする発色成分を組み込んでいるという事実にある。
【0117】
この目的のために、脱水培地組成物を厚内に組み込んでいる、吸水性材料で作られた部分を直径90mmのペトリ皿に入れ、その後6~7mlの滅菌蒸留水で湿らせる。吸収性材料で作られたこれらの部分は、その後、脱水多糖ヒドロゲルのシートで覆われる。吸収性材料で作られた部分の水和が行われ、培養培地が活性化され、多糖ヒドロゲルの層が再生されたら、微生物培養デバイスは、理論上の細菌負荷107CFU/mlを含む較正溶液10μlによって接種される。細胞試料は、ヒドロゲル表面の第1の四分円の第1のループによって堆積される。第2の四分円は、第1の四分円からいくつかのストリークを引き伸ばすことによって、新しいループで接種される。第3の四分円は、ループを変えずに2番目と同じように接種される。第4の四分円は、第2の四分円から引き伸ばされないストリークで接種される。
【0118】
微生物培養デバイスが乾かないように、皿を少量の水を入れた瓶に入れる。その後、このアセンブリを37℃で24時間インキュベートする。
【0119】
得られた結果のいくつかをまとめ、写真の形式で
図3から13に示した。
【図面の簡単な説明】
【0120】
【
図1】本発明による微生物培養デバイス及び一般的なその使用原理の概略図を示す。
【
図2】乾燥/脱水プロセスの終了時の脱水多糖ヒドロゲルのシートの例を示す写真である。
【
図3】微生物培養デバイスで、すなわち43ml/lの量のグリセロール(つまり、ヒドロゲルの調製物中に使用される水1リットルあたり43mlのグリセロール)で強化された構造を有し、 - 3A:1g/lの量のMgCl
2(つまり、ヒドロゲルの調製物中に使用される水1リットルあたり1gのMgCl
2)又は - 3B:1g/lの量のMgSO
4で硬化された、13g/lのジェランヒドロゲル(つまり水1リットルあたり13gのジェランガム)から得られた脱水多糖ヒドロゲルのシートで行われた大腸菌の培養と分離の写真を示す。 脱水多糖ヒドロゲルのシートを調製するためにここで使用されたジェランガムは、ドイツのCARL ROTH社によって販売されているGelrite(登録商標)である。 硬化剤がMgCl
2であってもMgSO
4であっても、得られる結果は非常に似ている。大腸菌のコロニーが、このヒドロゲルシートの表面で増殖する。コロニーはちょうど良い大きさであり、非常によく染色されている。その形態型は、chromID(登録商標)CPS Eliteなどの参照発色性寒天上で増殖する大腸菌のコロニーのものと一致する。
【
図4】微生物培養デバイスで、すなわち43ml/lの量のグリセロールで強化された構造を有し、1g/lの量のCaCl
2で硬化された、15g/lのジェランヒドロゲルから得られた脱水多糖ヒドロゲルのシートで行われた大腸菌の培養と分離の写真を示す。 ここで使用したジェランガムは、Gelrite(登録商標)である。 前の例と比較すると、大腸菌のコロニーは小さく見え、端に染色のわずかな拡散が見られる。
【
図5】微生物培養デバイスで、すなわち43ml/lの量のグリセロールで強化された構造を有し、 - 5A:1g/lの量のMgCl
2、又は - 5B:5g/lの量のMgCl
2で硬化された、15g/lのジェランヒドロゲルから得られた脱水多糖ヒドロゲルのシートで行われた大腸菌の培養と分離の写真を示す。 ここで使用したジェランガムは、米国のCP KELCOによって販売されているGelzan
TMである。 1g/lのMgCl
2の場合、ヒドロゲルシートの表面で増殖している大腸菌のコロニーはちょうど良い大きさであり、非常によく染色されている。その形態型は、chromID(登録商標)CPS Elite(
図5、5Cの部分)などの参照発色性寒天上で増殖する大腸菌のコロニーのものと一致する。 5g/lのMgCl
2の場合、該コロニーは、より小さい。 MgCl
2なしでは、該コロニーは非常によく拡散している(
図5、5Dの部分)。
【
図6】微生物培養デバイスで、すなわち43ml/lの量のグリセロールで強化された構造を有し、 - 6A:1g/lの量のMgCl
2、 - 6B:2g/lの量のMgCl
2、又は - 6C:5g/lの量のMgCl
2で硬化された、15g/lのジェランヒドロゲルから得られた脱水多糖ヒドロゲルのシートで行われたフェカリス菌(E. faecalis)の培養と分離の写真を示す。 ここで使用したジェランガムは、Gelzan
TMである。 ヒドロゲルシートの表面で増殖しているフェカリス菌のコロニーは、chromID(登録商標)CPS Eliteなどの参照発色寒天上で増殖しているフェカリス菌のコロニーと大きさ、色及び形態型が同じである。
【
図7】微生物培養デバイスで、すなわち43ml/lの量のグリセロールで強化された構造を有し、 - 7A:1g/lの量のMgCl
2、 - 7B:2g/lの量のMgCl
2、又は - 7C:5g/lの量のMgCl
2で硬化された、15g/lのジェランヒドロゲルから得られた脱水多糖ヒドロゲルのシートで行われたプロテウス・ミラビリスの培養と分離の写真を示す。 ここで使用したジェランガムは、Gelrite(登録商標)である。 ヒドロゲルシートの表面で増殖しているプロテウス・ミラビリスのコロニーは、chromID(登録商標)CPS Eliteなどの参照発色寒天上で増殖しているプロテウス・ミラビリスのコロニーと大きさ、色及び形態型が同じである。
【
図8】微生物培養デバイスで、すなわち43ml/lの量のグリセロールで強化された構造を有し、1g/l又は2g/lで使用されるCaCl
2で硬化された、13g/l又は15g/lのジェランガムから得られた(つまり以下の通り: - 8A、8A’:13g/lのジェランガム、1g/lのCaCl
2、 - 8B、8B’:13g/lのジェランガム、2g/lのCaCl
2、 - 8C、8C’:15g/lのジェランガム、2g/lのCaCl
1、 - 8D、8D’:15g/lのジェランガム、2g/lのCaCl
2)脱水多糖ヒドロゲルのシートで行われた大腸菌の培養と分離の写真を示す。 ここで使用したジェランガムは、Gelzan
TMである。 ここで試験した4つの微生物培養デバイスは、非常に類似した結果をもたらす。MgCl
2を使用してヒドロゲルを硬化させる
図5の例と比較すると、ここでの大腸菌は、わずかに大きさが小さいコロニーを形成する。
【
図9】微生物培養デバイスで、すなわち43ml/lの量のグリセロールで強化された構造を有し、 - 9A:1g/lのCaCl
2 - 9B:2g/lのCaCl
2 - 9C:3g/lのCaCl
2.で硬化された、15g/lのジェランヒドロゲルから得られた脱水多糖ヒドロゲルのシートで行われたフェカリス菌の培養と分離の写真を示す。 ここで使用したジェランガムは、Gelzan
TMである。
図8に対応する前述の例では、大腸菌の培養にCaCl
2ではなくMgCl
2を使用することの利点をある程度予測できるが、この所見はフェカリス菌の培養ではそれ程明らかではない。
【
図10】微生物培養デバイスで、すなわち43ml/lの量のグリセロールで強化された構造を有し、1g/lの量のMnCl
2で硬化された、15g/lのジェランヒドロゲルから得られた脱水多糖ヒドロゲルのシートで行われた大腸菌の培養と分離の写真を示す。 ここで使用したジェランガムは、Gelrite(登録商標)である。 参照培地chromID CPS Eliteでの大腸菌の培養と比較すると、ここでは大腸菌のコロニーは小さく見えるが、染色はCaCl
2によって著しく強化されている。
【
図11】微生物培養デバイスで、すなわち以下のようなさまざまな組成: - 11A
1:15g/lのジェランガム(より具体的には、米国のシグマアルドリッチから発売されているPhytagel
TM)、43ml/lのグリセロール、1g/lのMgCl
2 - 11A
2:30g/lのジェランガム(Phytagel
TM)、43ml/lのグリセロール、1g/lのMgCl
2、 - 11B
1:25g/lのジェランガム(Gelrite(登録商標
))、43ml/lのグリセロール、1g/lのMgCl
2、 - 11B
2:20g/lのジェランガム(Gelrite(登録商標))、43ml/lのグリセロール、1g/lのMgCl
2、 - 11B
3:8g/lのジェランガム(Gelrite(登録商標))、43ml/lのグリセロール、1g/lのMgCl
2、 - 11B
4:6g/lのジェランガム(Gelrite(登録商標
))、43ml/lのグリセロール、1g/lのMgCl
2、 - 11C
1:20g/lのジェランガム(Gelzan
TM)、43ml/lのグリセロール、1g/lのMgCl
2、 - 11C
2:8g/lのジェランガム(Gelzan
TM)、43ml/lのグリセロール、1g/lのMgCl
2、 - 11D
1:0.5g/lのキサンタンガム(フランスのシグマアルドリッチから発売)、 - 11D
2:10g/lのキサンタンガム、 - 11E
1、11E
1’:0.5g/lのジャガイモデンプン(ドイツのCARL ROTH社より発売)、 - 11E
2、11E
2’:15g/lのジャガイモデンプンの多糖ヒドロゲルから得られた、脱水多糖ヒドロゲルのシートで行われた大腸菌の培養と分離の写真を示す。
【
図12】微生物培養デバイスで、すなわち1g/lの量のMgCl
2で硬化され、異なる以下の濃度: - 12A:32ml - 12B:52ml - 12C:62mlのグリセロールで強化された構造を有する、15g/lのジェランヒドロゲル(この場合にはGelrite(登録商標
))から得られた脱水多糖ヒドロゲルのシートで行われた大腸菌の培養と分離の写真を示す。 ヒドロゲルのグリセロール濃度を上げることにより、大腸菌はより大きなコロニーを形成するが、それにもかかわらず、コロニーは隆起がより低く、ヒドロゲル上により広がっているように見える。
【
図13】微生物培養デバイスで、すなわち1g/lの量のMgCl
2で硬化された、15g/lのGelzan
TM ヒドロゲルから得られた脱水多糖ヒドロゲルのシートで行われた微生物の培養と分離の写真を示す。 これらの微生物培養デバイスは、ストレプトコッカス・アガラクチア(13A)、セラチア・マルセサンス(13B)の培養及び検出、並びにS.マルセサンス及び黄色ブドウ球菌(13C)の共培養及び共検出についても成功裡に試験された。