(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-22
(45)【発行日】2022-12-01
(54)【発明の名称】ターボ機械のスタータ/ジェネレータ用の相変化材料を備えた電気機械
(51)【国際特許分類】
H02K 9/22 20060101AFI20221124BHJP
H02K 3/18 20060101ALI20221124BHJP
【FI】
H02K9/22 Z
H02K3/18 Z
(21)【出願番号】P 2019560344
(86)(22)【出願日】2018-05-03
(86)【国際出願番号】 FR2018000108
(87)【国際公開番号】W WO2018202963
(87)【国際公開日】2018-11-08
【審査請求日】2021-04-08
(32)【優先日】2017-05-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】516235451
【氏名又は名称】サフラン・ヘリコプター・エンジンズ
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】弁理士法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】クロノウスキー,トマ
(72)【発明者】
【氏名】セルギンヌ,カメル
【審査官】中島 亮
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第102185422(CN,A)
【文献】特開平08-126253(JP,A)
【文献】実開昭49-068602(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 9/00- 9/28
H02K 3/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに対して回転駆動されるように構成されたステータ(1)およびロータ(2)を備え、ロータ(2)が複数の永久磁石(5)を備え、ステータが、さらに、ロータ(2)に向かって延びる極(7)を備える磁気回路(3)を備える電気機械であって、該機械が、各極(7)の周りの導電性要素の巻線(4、50、50’)と、導電性要素の内部に配置された少なくとも1つのヒートシンク(8、8’、8’’)とを備え、ヒートシンクが相変化材料(82)を備え
、熱伝導体の相変化材料が、密封された金属シェル(81)に含まれている、電気機械。
【請求項2】
巻線が一組の中空円筒形状ワイヤーである、請求項1に記載の電気機械。
【請求項3】
巻線が中空バー巻線である、請求項1に記載の電気機械。
【請求項4】
巻線が一体に形成され、または積層造形法によって得られる、請求項3に記載の電気機械。
【請求項5】
相変化材料が、所定の温度範囲において物理状態を固体状態と液体状態との間で変化させる、請求項1に記載の電気機械。
【請求項6】
相変化材料(82)が、電気機械の使用の制約にしたがって適合され、摂氏約100度を超え、典型的には100℃および300℃である、塩の形態、または固液相変化温度を有する有機または共晶化合物の形態である、請求項1に記載の電気機械。
【請求項7】
ヒートシンクが、相変化材料(82)に加えて、前記機械内の磁力線の循環を妨げないように導電性である少なくとも1つの要素を備える、請求項1に記載の電気機械。
【請求項8】
シェルが、導電性または非導電性であり、且つ熱伝導性である、請求項1に記載の電気機械。
【請求項9】
請求項1に記載の電気機械を備えるスタータ-ジェネレータ、オルタネータ、ポンプなどの直流または交流の機械。
【請求項10】
請求項9に係るスタータ-ジェネレータを備えるヘリコプターなどの航空機用エンジン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、航空機エンジン、特にヘリコプターのエンジンに関する。本発明は、特に、電気エネルギーを発生する機能および/またはいくつかの機械的部材を電動化する機能を実現するヘリコプターエンジンに設置された電気機械に関する。これらの電気機械は、直流または交流の機械であるスタータ-ジェネレータ、スタータ、オルタネータまたは電動ポンプとすることができる。
【背景技術】
【0002】
航空機のエンジンは、ロータ(回転子)とステータ(固定子)を備えた電気機械を備え、ステータは、磁気回路と、導線から構成される巻線のセットから構成される電気回路を備える。
【0003】
既知の方法で、かかる電気機械は、航空機エンジンまたは航空機エンジンが備えるいくつかの機器の始動または加速のシーケンス中に主に遭遇する過渡動作段階を有する。
【0004】
これらの過渡段階の間、それによって非常にストレスがかかった電気機械は、それ自体に有害であり得る量の熱を放散し、この熱は、主に電気回路および/または機械に永久磁石が含まれる場合は、この永久磁石において放散される。
【0005】
既知の方法で、熱の放散を促進し、したがって電気機械の完全性を保証するために、それを構成する要素は特大であり、その質量と体積に悪影響を与える。
【0006】
実際、電気機械の構造および寸法は、その熱抵抗によって導かれ、これは、主に、これらの導電性巻線内で支持するする電流の振幅の関数である(例えば、数kWまたはkVAの電力下で28Vdcの主電圧で動作する電気機械は、数百アンペアに到達する可能性がある高強度の電流を与える)。
【0007】
電気機械の熱放散を最適化するために、いくつかの解決策が既に知られており、使用されている。
【0008】
第1の解決策は、電気機械の周囲にあるフィン付きヒートシンクによる冷却を伴う自然対流を使用して、周囲の環境との大きな熱交換面を確保することである。しかしながら、この解決策は、大きくて重く、多くの場合、機械の周囲に空気の流れを必要とする。
【0009】
第2の解決策は、電気機械のロータシャフトに接続されたファンの追加による強制対流を使用し、したがって、その生成される空気流は、その外部および/または内部部品と熱交換される。しかしながら、この解決策は、大きく、また追加的な故障の原因を生じさせる可能性がある。
【0010】
第3の選択肢は、電気機械内部または周囲(水、油、燃料など)の専用チャネルに循環する液体を注入することによる強制冷却を使用するものであり、ほとんどの場合、この液体の冷却を保証するために追加の熱交換器の存在を必要とする。しかしながら、この解決策はまた、大きく、重くて侵入的であり、比較的短い保守工程(すなわち、シーリングの管理)を必要とする。
【0011】
第4の解決策は、熱電モジュールによる冷却を使用するものである(ペルチェ効果)。しかしながら、この解決策では、冷却は、局所的な領域でのみ達成され、熱電電源を可能にする安定した電源も必要とする。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
したがって、航空用途、すなわち、コンパクトさ、質量および信頼性に関して高い制約を必要とする搭載システムの文脈内では、既存の解決策は、満足のいくものではない。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、航空機用エンジンの電気機械の質量および寸法を低減することを可能にし、且つ、これらの電磁性能を改善することを可能にする。
【0014】
この目的のために、本発明は、互いに対して回転駆動されるように構成されたステータおよびロータを備え、ロータが複数の永久磁石を備え、ステータが、さらに、ロータに向かって延びる極を備える磁気回路を備える電気機械であって、この機械が、各極の周りの導電性要素の巻線と、導電性要素の内部および/または導電性要素の間に配置された少なくとも1つのヒートシンクとを備え、ヒートシンクが相変化材料を備える、電気機械を提案する。
【0015】
本発明は、単独で、または技術的に可能な組み合わせのいずれかで、以下の特徴により有利に完成される。
【0016】
ヒートシンクは、導電性要素の間に配置され、前記ヒートシンクは略円筒形状を有し、また前記ヒートシンクは、前記導電性要素に沿って延在する。
【0017】
巻線は、中空の円筒状ワイヤーのセットである。
【0018】
巻線は、中空バー巻線である。
【0019】
巻線は、一体に形成され、好ましくは積層造形法によって得られる。
【0020】
相変化材料は、電気機械の使用の制約にしたがって適合され、摂氏約100度を超え、典型的には100℃および300℃である、塩の形態、または固液相変化温度を有する有機または共晶化合物の形態である。
【0021】
ヒートシンクは、相変化材料に加えて、前記機械内の磁力線の循環を妨げないように導電性である少なくとも1つの要素を備える。
【0022】
相変化材料は、所定の温度範囲において物理状態を固体状態と液体状態との間で変化させることができる。
【0023】
相変化材料は、密封された金属シェルに含まれており、シェルは、導電性または非導電性であり、熱伝導性である。
【0024】
ヒートシンクは、導電性要素の内側に配置され、前記熱伝導体の相変化材料は、熱伝導性および導電性の密封金属シェルに含まれている。
【0025】
本発明は、さらに、本発明に係る電気機械を備えるスタータ-ジェネレータ、オルタネータ、ポンプなどの直流または交流の機械に関する。
【0026】
また、本発明はまた、本発明に係るスタータ-ジェネレータを備えるヘリコプターなどの航空機用エンジンにも関する。
【0027】
相変化材料の使用は、発熱要素に可能な限り近い冷却を可能にする。実際、その融解温度に到達することにより、したがって、固体状態から液体状態に切り替わることにより、相変化材料は、ある量の熱を吸収する。その結果、発熱素子と相変化材料との間で熱伝達が発生する。
【0028】
本発明は、電気機械の質量を減少させることにより、航空機エンジンの全体質量を減少させることを可能にする。特に、機械内部の(機械の磁気回路に使用される)強磁性成分と(電気回路の巻線に使用される)銅の質量が減少する。
【0029】
実際、最高の温度上昇にさらされる要素に可能な限り近い熱伝達を最適化することにより、電気機械の質量および体積を減らすことができる。
【0030】
さらに、電気機械の質量バランス、大きさおよび信頼性に悪影響を与える追加のシステム(すなわち、交換機、フィン、・・・)の追加はない。
【0031】
本発明の他の特徴、目的および効果は、純粋に例示的且つ非限定的であり、添付の図面を参照して読まれるべき以下の説明から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に係る電気機械の概略断面図を示している。
【
図2a】
図2aは、本発明に係る電気機械の導電性要素の図を示している。
【
図2b】
図2bは、本発明に係る電気機械の導電性要素の図を示している。
【
図3a】
図3aは、本発明に係る電気機械の巻線を構成するワイヤーの断面図を示している。
【
図3b】
図3bは、本発明に係る電気機械の巻線を構成するワイヤーの断面図を示している。
【
図3c】
図3cは、本発明に係る電気機械の巻線を構成するワイヤーの断面図を示している。
【
図4】
図4は、本発明に係る電気機械の2つの変形例に係る中空バー巻線の図を示している。
【
図5】
図5は、本発明に係る電気機械の2つの変形例に係る中空バー巻線の図を示している。
【
図6】
図6は、巻線および相変化材料を含むステータのノッチ内の温度上昇曲線を、熱応力の持続時間の関数(すなわち、航空機エンジンの起動に関する電気機械の過渡段階)として示している。
【0033】
全ての図において、同様の要素には、同一の参照符号が付けられている。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下では、「相変化材料」という用語は、特定の温度範囲において物理状態を変化させることができ、その周囲の環境から大量の熱エネルギーを吸収して固体から液体状態に切り替わり、また材料が液体状態から固体状態に切り替わる間に冷却されるときの熱エネルギーの一部を復元する材料を意味する。これらの相変化材料は、硝酸塩または水酸化物から構成されることができる塩である。材料の固相から液相への変化は、摂氏100度を超える温度から300℃程度の温度まで行われる。
【0035】
図1は、本発明の一実施形態に係る電気機械を示している。そのような電気機械は、特に航空機用エンジンにおいて使用される。
【0036】
図1の電気機械は、永久磁石機械であり、ステータ1およびロータ2を備える。
【0037】
ステータ1は、磁気回路3を備える。磁気回路3は、略円筒形状の周囲部6と、ロータ2に向かって延びる極7とを備え、ステータ1は、磁気回路3の各極7の周りにN個の導電性要素41の巻線からなる電気回路4を備える。この図では、導電性要素41は、円筒形状の断面を有するが、他の断面が想定されてもよい。
【0038】
ロータ2は、永久磁石5を担持している。
図1では、電気機械は、6つの永久磁石5を備えるが、異なる数を想定することができる。
【0039】
この種の電気機械の形態は、発電機モード(すなわち、外部からの機械的トルクの適用によりロータ2が回転し、電気回路4の磁束の変化により電流が誘導される)またはエンジンモード(すなわち、電気回路4の電源が磁気回路3を介して磁束を生成し、磁石5からの磁束との相互作用がロータ2の回転、したがって外部への機械的トルクが発生する)のいずれかで動作することを可能にする。
【0040】
特に上記の過渡段階中に電気機械の熱の放散を促進するために、巻線用の中空導電性要素と、少なくとも1つの導電性要素の内部に収容されるおよび/または導電性要素の間に配置される少なくとも1つのヒートシンク8とが設けられる(導電性要素の内部にヒートシンク8がある場合とない場合の導電性要素41の間のヒートシンクを示す
図2aおよび
図2bを参照)。
【0041】
特に、
図2aの例では、円筒形状のヒートシンク8は、それ自体が円筒形状ワイヤーの形状を有する導電性要素41の間に配置された空間内に延在している。ヒートシンク8は、導電性要素の延在方向に略平行な延在方向に沿って、導電性要素41に沿って延在する。
【0042】
図3a、
図3b、
図3cに示すように、ヒートシンク8、8’、8’’は、相変化材料82を含むシェル81、81’、81’’から構成される。シェル81、81’、81’’は、材料を液体状態に維持および閉じ込めるように密閉されている。
【0043】
非限定的な方法で、
図3aでは、ヒートシンクは、同様に円筒形状である巻線の導線に適合するように円筒形状である。もちろん、他の形状も可能であり、以下の導電性要素の形状に依存する:
図3bのダイヤモンド形のように、
図3cの星形のように。
【0044】
用途に応じて、より具体的には航空機のより多くの電気的用途のための高出力電動機との関連で、ステータ巻線(すなわち、ステータ:電気回路)は、有利には「バー巻線」と呼ばれる形態からなることができる;すなわち、ノッチの充填率(すなわち、有効銅表面/総ノッチ表面比に等しい)を高めるために、したがって、同じ質量に対して電気機械の電力を増加させるか、または一定の電力要件に対して銅質量を最小化するかのいずれのかの可能性を持たせるために、円筒形ワイヤーのコイルが重くて均質且つ剛性の巻線に置き換えられる。
【0045】
この場合、熱放散の問題は、これらのバー巻線にkHzを超える比較的高い周波数の交流電流が供給されると、「表皮効果」によりジュール損失が増加する(すなわち、電流が電力周波数の増加中に周縁にますます集中するため、導体の見かけの抵抗が減少する)ことから、N本の円筒形ワイヤーから構成される巻線の場合よりもはるかに大きくなる。
【0046】
図4は、共にめっきされた2つの固体導体50a、50bから構成されるバー巻線50を示している。2つの導体50a、50bの形状は、2つの導体50a、50bがヒートシンク(図示せず)を内部に収容することを可能にするハウジング51を画定するようなものとなっている。この図では、ハウジング51は、「星」形を有するが、他の形状を有していてもよい。
【0047】
有利には、
図5に示すように、バー巻線は、一体に形成され、1つまたはいくつかのバーから構成される。さらに、この図では、バー巻線は、「ダイヤモンド」形状を有するハウジングを備える。
【0048】
有利には、バー巻線は、一体に形成されるか、またはユニットバーのセットから構成され、巻線の内部に複雑な形状を作ることができる積層造形法(すなわち、SLM「選択的レーザ融解」タイプなど・・・)によって得られ、これは、熱伝達の最適化を促進し(すなわち、相変化材料と導体との間の熱交換面が増加する)、したがって、ハウジング51は、ヒートシンクを含むため、温度の上昇を制限し、高レベルの信頼性(すなわち、特に巻線絶縁体の強度)を保証することを可能にする。
【0049】
ヒートシンクが導電性要素の内側に設けられている場合、シェルおよび相変化材料は、磁気回路内の磁力線の循環をできる限り乱してはならず、シェル自体が金属であり、良好な導電体である。
【0050】
さらにこの場合、相変化材料は、定義上電気絶縁体であり、ヒートシンクは、相変化材料に加えて、カーボンナノチューブなどの導電性要素を備え、機械の磁気回路内の磁力線の自由循環も可能にすることができる。
【0051】
しかしながら、ヒートシンクが導電性要素同士の間に設けられる場合、シェルは、電流の伝達に寄与しないように絶縁されている。
【0052】
相変化材料は、塩の形態、または摂氏約100度を超える、典型的には100℃から300℃が好ましい固液相変化温度を有する有機化合物または共晶化合物の形態である。例えば、硝酸塩または水酸化物(LiNO3、NaNO3、Li2CO3、・・・)、好ましくはグラファイトとすることができる。
【0053】
図6は、温度の上昇を持続時間の関数として示している:
-曲線Aは、ヒートシンク無しの巻線の温度上昇に対応する;
-点線の曲線は、ヒートシンクの温度上昇に対応する;
-実線の曲線は、ヒートシンクを有する巻線の温度上昇に対応する。
【0054】
曲線ネットワークは、
図6の「Rth」という名前のいくつかの熱抵抗に対応している。この抵抗は、ある媒体から他の媒体への熱伝達の効率を表す。Rthの値が低いほど、熱伝達が効率的に行われる。
図6では、AからCまで、熱抵抗Rthが増加している。
【0055】
ヒートシンクなしで到達した温度は、200℃を超えることができ、その結果、例えば巻線の絶縁体の劣化をもたらすことが観察される。ヒートシンクを追加し、ヒートシンクと支持部との間の最適化された熱抵抗を考慮することにより、敏感な要素が到達する最大温度は、その限界温度を下回る。
【0056】
補足的に、相変化材料が表すヒートシンクを収容することに加えて、バー巻線の内側において、ヒートシンクは、特許出願人の名義による仏国特許発明第3012698号明細書に記載されているように、電気機械の他の場所に配置されることができる。
【0057】
ここでは、ステータ巻線を備えた電気機械について説明した。もちろん、本発明はまた、例えば巻線ロータ同期電気機械と呼ばれる電気機械が構成するロータ巻線を備えた電気機械にも適用される(すなわち、この場合、永久磁石は、磁束を生成するために電磁石に有利に置き換えられる)。
【0058】
本発明はまた、上述した電気機械を備えるスタータ-ジェネレータ、オルタネータ、ポンプなどの直流または交流の機械に関する。
【0059】
また、本発明はまた、本発明に係る電気機械を備えるヘリコプターなどの航空機のエンジンにも関する。