(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-22
(45)【発行日】2022-12-01
(54)【発明の名称】殺線虫剤の相乗的組成物
(51)【国際特許分類】
A01N 37/30 20060101AFI20221124BHJP
A01P 5/00 20060101ALI20221124BHJP
【FI】
A01N37/30
A01P5/00
(21)【出願番号】P 2019571818
(86)(22)【出願日】2018-03-17
(86)【国際出願番号】 IB2018051783
(87)【国際公開番号】W WO2018167733
(87)【国際公開日】2018-09-20
【審査請求日】2021-03-15
(31)【優先権主張番号】201741009365
(32)【優先日】2017-03-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IN
(73)【特許権者】
【識別番号】519336768
【氏名又は名称】テルリス バイオテック インディア プライベート リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ポリネニ、ベニュー
(72)【発明者】
【氏名】ウレア、アレハンドロ カルデロン
(72)【発明者】
【氏名】ポラック、グレンダ ダブリュー.
【審査官】土橋 敬介
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第09125413(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N 37/30
A01P 5/00
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
CED-4タンパク質由来の少なくとも2つのペプチドから構成される線虫を制御するための相乗的組成物であって、
前記ペプチドが、
配列番号2
のアミノ酸配列からなるペプチド、配列番号3のアミノ酸配列からなるペプチド、及び配列番号4のアミノ酸配列から
なるペプチドから選択され;
前記ペプチドの比が1:1
又は1:1:1であり;
組成物が約0.8mg/mlの濃度で100%の相乗的抗線虫効力を有する、相乗的組成物。
【請求項2】
配列番号2のアミノ酸配列からなるペプチド
を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
配列番号3のアミノ酸配列からなるペプチド
を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
配列番号4のアミノ酸配列からなるペプチド
を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
少なくとも1つの増量剤、乳化剤及び/又は界面活性剤をさらに含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
農薬活性を有する化合物を少なくとも1つさらに含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
農薬活性を有する化合物が、植物を処理可能な物質、殺真菌剤、殺菌剤、殺虫剤、殺ダニ剤、殺線虫剤、軟体動物防除剤、セーフナー、植物成長調節物質、植物栄養剤及び生物学的防除剤から選択
される、請求項
6に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物寄生虫、具体的には線虫を死滅させるために農業分野で使用される組成物である殺線虫剤に関する。より具体的には、本発明は、CED-4タンパク質由来の殺線虫ペプチドを含む殺線虫剤の相乗的組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
線虫は、収量に大きな損害をもたらし、それにより経済に甚大な影響が及ぶため、農産業にとって大きな脅威である。線虫は、昆虫に次いで、トマト及び他の野菜、柑橘類、ジャガイモ、コメ、ココナツ、コムギ及び他の穀類、観賞植物などの作物に深刻な損害を与えるものであることが知られている。線虫は、単独又は他の土壌微生物との組み合わせで、根、茎、葉、果実及び種子を含む植物の殆ど全ての部分を攻撃することが分かっている。これらにより、世界中で推定で12.3%($1570億ドル)の収量損失が引き起こされる。このうち、$4030万がインドから報告されている(Singhら、2015)。
【0003】
メロイドギネ属(Meloidogyne genus)に属する根瘤線虫は、園芸作物及び農作物において植物寄生線虫のうち3つの最も経済的に損害を与える属の1つである。これらは、いくつかの植物の根の偏性寄生生物であり;メロイドギネ・インコグニタ(Meloidogyne incognita)はとりわけ世界の主要害虫である。
【0004】
殺線虫剤は、これらの植物寄生虫、線虫を死滅させるために使用される組成物である。使用される殺線虫剤のうち殆どは、ヒトにとって非常に毒性が高い化学組成物であり、有用な土壌細菌にも有害である。一部の殺線虫剤は、地下水に混入し、オゾン層の枯渇を引き起こすことも示されている。周知の殺線虫剤の1つである臭化メチルは、米国及びインドを含む一部の国で禁止されている。農作物で広く使用される非常に毒性が高い別の殺線虫剤はカルボフランであり;1粒のカルボフランによって数分以内に鳥が死亡し得る。ホレートなどの殺線虫剤は容易に土壌を通って地下水に達し、それに混入し得る。
【0005】
化学殺線虫剤に付随する重大な欠点は、線虫を防除するための新規技術の開発を必要とする。あるこのような方法は、線虫に対する耐性に対するトランスジェニック遺伝子を発現するトランスジェニック植物ラインを作製することである。しかし、これは、大規模な事前調査活動を必要とする、時間がかかり、高価な方法である。インドを含む多くの国において、いくつかの道徳的、倫理的及び見えない環境問題に基づき、トランスジェニックラインの導入に対する激しい異論がある。
【0006】
ある有効な方法は、環境面で安全で無毒性であり、作製及び使用が容易な殺線虫剤の組成物の作製を含む。
【0007】
米国特許第9125413B1号明細書は、強力な殺線虫活性を示すカエノルハブディティス・エレガンス(Caenorhabditis. elegance)CED-4タンパク質由来のペプチドを記載する。配列番号1のアミノ酸からなるCED-4タンパク質はアポトーシスタンパク質のファミリーに属する。配列番号1は、
MLCEIECRALSTAHTRLIHDFEPRDALTYLEGKNIFTEDHSELISKMSTRLERIANFLRIYRRQASELGPLIDFFNYNNQSHLADFLEDYIDFAINEPDLLRPVVIAPQFSRQMLDRKLLLGNVPKQMTCYIREYHVDRVIKKLDEMCDLDSFFLFLHGRAGSGKSVIASQALSKSDQLIGINYDSIVWLKDSGTAPKSTFDLFTDILLMLKSEDDLLNFPSVEHVTSVVLKRMICNALIDRPNTLFVFDDVVQEETIRWAQELRLRCLVTTRDVEISNAASQTCEFIEVTSLEIDECYDFLEAYGMPMPVGEKEEDVLNKTIELSSGNPATLMMFFKSCEPKTFEKMAQLNNKLESRGLVGVECITPYSYKSLAMALQRCVEVLSDEDRSALAFAVVMPPGVDIPVKLWSCVIPVDICSNEEEQLDDEVADRLKRLSKRGALLSGKRMPVLTFKIDHIIHMFLKHVVDAQTIANGISILEQRLLEIGNNNVSVPERHIPSHFQKFRRSSASEMYPKTTEETVIRPEDFPKFMQLHQKFYDSLKNFACCを含む。
【0008】
配列番号1由来の3つのペプチドは、約1mg/mlの有効濃度で殺線虫活性を有することが示され、このペプチドは次の配列:
1)15アミノ酸DLLRPVVIAPQFSRQ(99~113アミノ酸区間、配列番号2)からなるペプチド2、
2)19アミノ酸RQMLDRKLLLGNVPKQMTC(112~130アミノ酸区間、配列番号3)からなるペプチド3及び
3)12アミノ酸FPKFMQLHQKFY(529~540アミノ酸区間、配列番号4)からなるペプチド12
から構成された。
【0009】
しかし、ペプチドの合成は高価な技術であり;組成物をコスト効率の良いものとするためには、生産コストを削減する必要がある。一般に、10~20アミノ酸の範囲のペプチド50mgの合成コストは、INR25,000~30,000及びUS$240~250の範囲になる。したがって、生産コストが低い組成物を作製することは重要である。
【0010】
本発明は、先行技術の欠点を考慮し、無毒性であり、環境面で安全である抗寄生虫ペプチドを使用して線虫を防除するための方法を提供する。
【0011】
発明の目的
したがって、本発明の主要な目的は、殺線虫ペプチドを含む殺線虫剤の組成物を提供することである。
【0012】
本発明の別の目的は、配列番号1のCED-4タンパク質由来の少なくとも2つのペプチドから構成される相乗的殺線虫組成物を提供することであり、このペプチドは、
a.DLLRPVVIAPQFSRQ(配列番号2)、
b.RQMLDRKLLLGNVPKQMTC(配列番号3)及び
c.FPKFMQLHQKFY(配列番号4)
のアミノ酸配列からなる。
【0013】
本発明のまた別の目的は、殺線虫活性を示す相乗的殺線虫組成物を提供することであり、このペプチドの濃度は1mg/ml未満である。
【0014】
本発明のまた別の目的は、生産コストが低い相乗的殺線虫組成物を提供することである。
【0015】
本発明のまた別の目的は、ヒトに対して無毒性である相乗的殺線虫組成物を提供することである。
【0016】
本発明のまた別の目的は、広域スペクトル活性がなく、土壌微生物にとって有害ではない相乗的殺線虫組成物を提供することである。
【0017】
本発明のまた別の目的は、合成し易く、トランスジェニック植物の作製の必要がなく、経済性に優れた相乗的殺線虫組成物を提供することである。
【発明の概要】
【0018】
本発明は、植物寄生虫、具体的には線虫を死滅させるために農業の目的で使用される殺線虫剤の組成物に関する。より具体的には、本発明は、殺線虫ペプチドを含む殺線虫剤の相乗的組成物に関する。
【0019】
本発明の主な実施形態において、本発明は、配列番号1のCED-4タンパク質由来のペプチドから構成される殺線虫剤の組成物を提供する。より具体的には、本組成物は、アミノ配列:
a.DLLRPVVIAPQFSRQ(配列番号2)、15アミノ酸から構成されるペプチド2、
b.RQMLDRKLLLGNVPKQMTC(配列番号3)、19アミノ酸から構成されるペプチド3及び
c.FPKFMQLHQKFY(配列番号4)、アミノ酸から構成されるペプチド12
からなる少なくとも2つのペプチドの相乗的組み合わせから構成される。
【0020】
本ペプチドは、個々に、1mg/mlという低い濃度で100%殺線虫活性を示す。
【0021】
しかし、少なくとも2つのペプチドの組み合わせは、相乗的に作用し、100%殺線虫活性に対して、ペプチドのそれぞれの濃度を0.4mg/mlまで低下させる。活性に必要とされるペプチド量の顕著な減少によって生産コストが大きく削減され、それによりユニークな組成物が非常に経済的なものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】
図1は、96ウェルプレートでの、線虫に対する、ペプチド2及びペプチド3;ペプチド2及びペプチド12;ペプチド3及びペプチド12;及びペプチド2、3及び12から構成される混合物の処理の効果を示すグラフを示す。
【発明を実施するための形態】
【0023】
ここで、本明細書中で以下、本発明をより詳細に記載する。しかし、本発明は、多くの異なる形態で具体化され得、本明細書中で示される実施形態に限定されるものとして解釈されるべきではない。むしろ、実施形態は、この開示が完全なものであり、当業者に本発明の範囲を十分に伝えるように提供される。
【0024】
本発明は、植物寄生虫、具体的には線虫を死滅させる能力を有する相乗的組成物に関する。より具体的には、本発明は、殺線虫ペプチドから構成される殺線虫剤の相乗的組成物に関し、このペプチドはCED-4タンパク質配列由来である。
【0025】
本発明の主な実施形態において、本発明は、配列番号1のCED-4タンパク質由来の少なくとも2つのペプチドから構成される殺線虫剤の相乗的組成物を提供する。より具体的には、本組成物は、次のペプチド:
a.ペプチド2、配列DLLRPVVIAPQFSRQ(配列番号2)から構成される15アミノ酸長ペプチド、
b.ペプチド3、配列RQMLDRKLLLGNVPKQMTC(配列番号3)から構成される19アミノ酸長及び
c.ペプチド12、配列FPKFMQLHQKFY(配列番号4)から構成される12アミノ酸長
の組み合わせから構成される。
【0026】
1:1の比で配列番号2~4のアミノ酸を含有する少なくとも2つのペプチドは、0.8mg/mlという低い総ペプチド濃度で100%殺線虫活性を示す非常に強力な殺線虫剤として作用する。2つのペプチドの組み合わせは相乗的効果をもたらし、この組み合わせは個々のペプチド単独と比較して、より低い濃度で作用する。相乗的組成物によって総ペプチド濃度の必要量が20%減少し、それにより本発明が非常に経済的となり、さらに本組成物は他の既存の方法よりも環境面で安全であり、殺線虫活性を有するトランスジェニックラインの作製よりも容易である。
【0027】
例1-含まれる手順:
A)M.インコグニタ(M.incognita)増殖
トマト植物にM.インコグニタ(M.incognita)幼虫を接種し、栽培箱中で維持した。少なくとも2か月後、M.インコグニタ(M.incognita)卵を実験のために根から抽出した。M.インコグニタ(M.incognita)卵を抽出するために従った手順を以下で説明する。
【0028】
手術用メス及び時計皿を使用して根の組織を手作業により細切するか、又はフードプロセッサを使用して細切した。次に、細切した組織をボトルに入れ、漂白剤の10%希釈液で洗浄した。次いで、滅菌条件下で、ふるい(上に60カウントシーブ(count sieve)、下に500カウントシーブ(count sieve))に根の溶液を注いだ。粗製卵回収物(crude egg collection)を500カウントシーブ(count sieve)の下部から回収して、15mLファルコンチューブ中で各5mLの漂白剤及び卵の混合物になるようにした。次に、5mLの70%スクロース溶液を各ファルコンチューブに入れた。次に、二重蒸留滅菌水の1mL層を各ファルコンチューブ中のスクロース混合物の上部に静かに置いた。次いで、1200rpmで5分間試料を遠心分離した。各ファルコンチューブから新しい15mLファルコンチューブに全部で3mL(溶液の3mLの上層)、スクロース溶液と1mL水層との間に浮遊した胚を回収した。10mLの5%漂白剤溶液を添加し、卵を10分間ボルテックス処理した。次に、ファルコンチューブを2000rpmで5分間遠心分離した。次に、上清を除去し、10mLの滅菌二重蒸留水中で卵をすすぎ、2000rpmで5分間再び遠心分離した。この工程をさらに2回反復した。最後の洗浄後、5mLの上清を除去し、一方で残った5mLの水を卵と混合し、5mLのペトリ皿に入れた。次に、卵を25~27℃のインキュベーターに入れ、約10日後に幼虫(J2期)が孵化した。この虫を保管のために25~27℃のインキュベーター中で維持した。
【0029】
B)試験溶液の調製及び線虫の配置
二重蒸留水中で凍結乾燥ペプチドを必要量溶解させて必要な濃度を得た。
【0030】
必要な濃度の100μLのペプチド溶液をピペットで96ウェルプレートのうち30ウェルに入れ、抽出したJ2 M.インコグニタ(M.incognita)の保存物から各ウェルに1匹を移した。陰性対照について、各実験に対して30匹の虫を100μLの滅菌二重蒸留水に入れた。
【0031】
C)線虫の監視
この寄生虫を死滅させるためのペプチド及びカルコンの能力を試験するためにバイオアッセイを設計する(%死亡率)。各ウェル(全部で30ウェル)中線虫1匹を使用して96ウェルプレート中で各試験を行った。5日間にわたり処理溶液中で線虫を温置した。プローブでの撹乱後、運動性についてそれぞれを調べることによって、手術用顕微鏡下で線虫の生存能を試験した。
【0032】
例2-殺線虫ペプチドの組み合わせから構成される殺線虫組成物の有効性
図1で示されるように、水中でのJ2期幼若線虫の温置によって、第5日に線虫の死亡率は10~20%前後となり、これを陰性対照とした。0.8mg/mlの濃度でのペプチド2、ペプチド3又はペプチド12のみとの幼若線虫の温置の結果、第5日で幼若線虫の死亡率が60~66%前後となった。しかし、1:1比の、ペプチド2及びペプチド3、ペプチド2及びペプチド12又はペプチド3及びペプチド12の組み合わせから構成される殺線虫組成物によって、第5日で幼若線虫の死亡率はほぼ100%となり、本ペプチドの総濃度は0.8mg/mlであった。さらに、1:1:1比のペプチド2、3及び12の組み合わせでも、第5日で幼若線虫死亡率が100%となった。
【0033】
これらの結果から、CED-4タンパク質由来のペプチドは、一緒に組み合わせた場合、殺線虫組成物として相乗的に作用することが示唆される。
【配列表】