(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-22
(45)【発行日】2022-12-01
(54)【発明の名称】アルミニウム合金製押出部品の製造方法および製造装置
(51)【国際特許分類】
B21C 23/01 20060101AFI20221124BHJP
B21C 23/00 20060101ALI20221124BHJP
B21C 29/00 20060101ALI20221124BHJP
C22F 1/00 20060101ALI20221124BHJP
C22F 1/053 20060101ALI20221124BHJP
【FI】
B21C23/01 Z
B21C23/00 A
B21C29/00
C22F1/00 612
C22F1/053
(21)【出願番号】P 2020148473
(22)【出願日】2020-09-03
【審査請求日】2021-08-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100111039
【氏名又は名称】前堀 義之
(74)【代理人】
【識別番号】100218132
【氏名又は名称】近田 暢朗
(72)【発明者】
【氏名】石飛 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】貝田 一浩
(72)【発明者】
【氏名】細井 寛哲
【審査官】池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】実開昭48-011028(JP,U)
【文献】特開平05-057387(JP,A)
【文献】特開2014-159038(JP,A)
【文献】特開2015-051754(JP,A)
【文献】国際公開第2015/182748(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21C 23/01 - 23/32
B21C 29/00 - 29/04
C22F 1/00 - 1/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
7000系のアルミニウム合金を押出機により熱間押出加工して押出材を形成し、
前記押出機から押し出された前記押出材を冷却して焼き入れし、
前記押出機から押し出され前方に移動する
焼き入れされた前記押出材を所定長さに切断し、
切断された前記押出材のビッカース硬度が50Hv以上かつ70Hv以下の状態で塑性加工を施し、
前記塑性加工後の前記押出材に時効処理を施す
ことを含む、アルミニウム合金製押出部品の製造方法。
【請求項2】
前記押出材が前記押出機から押し出されてから前記塑性加工の完了までの時間Tが前記押出材の耐力σとの関係で以下の式の範囲内に設定される、
請求項1に記載のアルミニウム合金製押出部品の製造方法。
【請求項3】
前記押出材は、中空形状を有し、
前記押出機から押し出され前方に移動する前記押出材の内部に前方からノズルを挿入し、
前記ノズルから冷媒を噴射して前記押出材を冷却する
ことをさらに含む、請求項1または請求項2に記載のアルミニウム合金製押出部品の製造方法。
【請求項4】
前記押出材の切断の際に切断箇所の前後をクランプし、
前記押出材の切断箇所およびその前後を冷却する
ことをさらに含む、請求項1から請求項3のいずれかに1項に記載のアルミニウム合金製押出部品の製造方法。
【請求項5】
前記押出材を前記所定長さに切断した後、前記塑性加工を施す前に、前記押出材を冷間で引張矯正することをさらに含む、請求項1から請求項4のいずれか1項のアルミニウム合金製押出部品の製造方法。
【請求項6】
7000系のアルミニウム合金を熱間押出加工して押出材を形成する押出機と、
前記押出機から押し出された前記押出材を冷却する冷却機と、
前記押出材を所定長さに切断して前記押出機から切り離す切断機と、
前記所定長さに切断された前記押出材を搬送する搬送機構と
前記搬送機構によって搬送された前記押出材に塑性加工を施す塑性加工機と、
前記押出材が前記押出機から押し出されてから所定の時間以内に前記押出材への前記塑性加工を完了させるように前記押出機、前記切断機、前記搬送機構、および前記塑性加工機を制御する制御部と
を備え、
前記所定の時間Tが前記押出材の耐力σとの関係で以下の式の範囲内に設定される、
アルミニウム合金製押出部品の製造装置。
【請求項7】
前記冷却機は、冷媒を噴射するノズルを備え、
前記ノズルは前記押出材の押出方向に沿って進退可能である、請求項
6に記載のアルミニウム合金製押出部品の製造装置。
【請求項8】
前記切断機は、切断工具と、前記押出材を把持し前記切断工具と同調して前方に移動する一対のクランプ部材とを備える、請求項6
または7に記載のアルミニウム合金製押出部品の製造装置。
【請求項9】
前記切断工具および前記一対のクランプ部材の少なくとも一方が、前記押出材を冷却するための冷却機構を備える、請求項
8に記載のアルミニウム合金製押出部品の製造装置。
【請求項10】
前記切断機は、前記押出材の前後端を前記一対のクランプ部材により把持し、前記一対のクランプ部材の間隔を広げ前記押出材を引張矯正するストレッチャとしての機能を有する、請求項
8または
9に記載のアルミニウム合金製押出部品の製造装置。
【請求項11】
切断された前記押出材を引張矯正するストレッチャをさらに備える、請求項6から請求項
10のいずれか1項に記載のアルミニウム合金製押出部品の製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム合金製押出部品の製造方法および製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミニウム合金の押出材は、バンパーリインフォースなどの自動車部品の素材として用いられることがある。バンパーリインフォースなどの自動車部品は、デザインや衝突安全性能などの設計制約上、押出材に対して曲げや潰しなどの塑性加工を施して成形される場合がある。
【0003】
押出材は、押出機から押し出された後、時間の経過とともに自然時効が進行し、強度が増加し伸びが低下する。そのため、自然時効がある程度進行した押出材に対して曲げや潰しなどの塑性加工を施すと、押出材に破断または割れが発生するおそれがある。特許文献1には、塑性加工前の押出材に軟化熱処理を施すことで、自然時効による硬化をキャンセルし、破断または割れを抑制する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の方法では、塑性加工前に押出材を加熱する必要があるため、熱処理設備の投資および工数増加などの問題が生じる。従って、より低コストで簡便に塑性加工時の破断または割れを抑制する方法が求められている。
【0006】
本発明は、アルミニウム合金製押出部品の製造方法および製造装置において、押出材に軟化熱処理を施す場合に比べて低コストで簡便に塑性加工時の破断または割れを抑制することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の態様は、7000系のアルミニウム合金を押出機により熱間押出加工して押出材を形成し、前記押出機から押し出され前方に移動する前記押出材を所定長さに切断し、切断された前記押出材のビッカース硬度が50Hv以上かつ70Hv以下の状態で塑性加工を施し、前記塑性加工後の前記押出材に時効処理を施すことを含む、アルミニウム合金製押出部品の製造方法を提供する。
【0008】
この方法によれば、押出材の自然時効が完全に進行する前に、即ち押出材が低い耐力と高い伸びを維持した状態で押出材に塑性加工を施すことができる。発明者らは、種々の実験を行い、押出材のビッカース硬度が50~70(Hv)の状態では、塑性加工時の破断または割れを抑制できることを確認した。従って、この範囲のビッカース硬度の状態で塑性加工を施すことにより、塑性加工前に押出材に軟化熱処理を施さなくても、塑性加工時の破断または割れを低コストで簡便に抑制できる。特に、高強度の7000系アルミニウム合金は、塑性加工時に破断または割れが問題となることも多く、上記方法により効率的に成形できる。
【0009】
前記押出材が前記押出機から押し出されてから前記塑性加工の完了までの時間Tが前記押出材の耐力σとの関係で以下の式(1)の範囲内に設定されてもよい。
【0010】
【0011】
この方法によれば、押出材の種類(耐力)ごとに、押出材が押出機から押し出されてから塑性加工完了までの時間を好適に設定できる。発明者らは、種々の実験を行い、押出材の種類(耐力)と、破断または割れが生じる上記時間との関係を確認した。そして、当該実験の結果に基づいて、塑性加工での破断または割れを抑制できる範囲として上記式を規定した。従って、上記式を満たすように、押出材の種類(耐力)ごとに、押出材が押出機から押し出されてから塑性加工完了までの時間を設定することで、塑性加工時の破断または割れを一層抑制できる。
【0012】
前記押出材は中空形状を有してもよく、前記製造方法は、前記押出機から押し出され前方に移動する前記押出材の内部に前方からノズルを挿入し、前記ノズルから冷媒を噴射して前記押出材を冷却することをさらに含んでもよい。
【0013】
この方法によれば、中空形状を有する押出材に対し、冷媒を噴射するノズルを使用することにより、押出材を外側からだけでなく内側からも冷却し、冷却過程における押出材の全体の温度差を小さくできる。その結果、冷却時の熱収縮に起因する押出材の変形が抑制され、時効処理後の材料特性が均一化する。また、押出材を速く冷却できるため、焼き入れ感受性が高い高強度の7000系アルミニウム合金に対して時効処理後の強度向上を図ることができる。
【0014】
前記製造方法は、前記押出材の切断の際に切断箇所の前後をクランプし、前記押出材の切断箇所およびその前後を冷却することをさらに含んでもよい。
【0015】
この方法によれば、切断時に押出材をクランプすることにより、安定した切断を可能にする。また、押出材の切断に際して押出材を冷却することで、通常高温である押し出し直後の押出材の温度を低下させ、押出材が切断時に変形するのを抑制できる。
【0016】
前記製造方法は、前記押出材を前記所定長さに切断した後、前記塑性加工を施す前に、前記押出材を冷間で引張矯正することをさらに含んでもよい。
【0017】
この方法によれば、塑性加工の対象となる押出材の寸法のばらつきを抑制できる。従って、安定した塑性加工を実現できる。
【0018】
本発明の第2の態様は、7000系のアルミニウム合金を熱間押出加工して押出材を形成する押出機と、前記押出材を所定長さに切断して前記押出機から切り離す切断機と、前記所定長さに切断された前記押出材を搬送する搬送機構と前記搬送機構によって搬送された前記押出材に塑性加工を施す塑性加工機と、前記押出材が前記押出機から押し出されてから所定の時間以内に前記押出材への前記塑性加工を完了させるように前記押出機、前記切断機、前記搬送機構、および前記塑性加工機を制御する制御部とを備え、前記所定の時間Tが前記押出材の耐力σとの関係で以下の式(2)の範囲内に設定される、アルミニウム合金製押出部品の製造装置を提供する。
【0019】
【0020】
この構成によれば、押出材の自然時効が完全に進行する前に、即ち押出材が低い耐力と高い伸びを維持した状態で押出材に塑性加工を施すことができる。また、押出材の種類(耐力)ごとに押出後から塑性加工完了までの時間を好適に設定できる。上記式は、前述の通り、実験の結果に基づいて規定されている。従って、上記式に基づいて押出材の種類(耐力)ごとに押出後から塑性加工完了までの時間を設定することで、塑性加工前に押出材に軟化熱処理を施さなくても、塑性加工時の破断または割れを低コストで簡便に抑制できる。
【0021】
前記製造装置は、前記押出機から押し出された前記押出材を冷却する冷却機をさらに備えてもよい。
【0022】
この構成によれば、焼き入れ感受性の高い7000系のアルミニウム合金について所望の高強度を得るためには急速冷却する必要があるが、冷却機により当該急速冷却を実現できる。
【0023】
前記冷却機は、冷媒を噴射するノズルを備え、前記ノズルは前記押出材の押出方向に沿って進退可能であってもよい。
【0024】
この構成によれば、押出材が中空形状を有する場合に押出材の内部にノズルを挿入し、押出材の内部を冷却できる。従って、押出材を外側からだけでなく内側からも冷却し、冷却過程における押出材の全体の温度差を小さくできる。その結果、冷却時の熱収縮に起因する押出材の変形が抑制され、温度履歴差が小さくなり、時効処理後の材料特性が均一化する。また、押出材を速く冷却できるため、焼き入れ感受性が高い高強度の7000系アルミニウム合金に対して時効処理後の強度向上を図ることができる。
【0025】
前記切断機は、切断工具と、前記押出材を把持し前記切断工具と同調して前方に移動する一対のクランプ部材とを備えてもよい。
【0026】
この構成によれば、切断時に押出材をクランプすることにより、安定した切断を可能にする。
【0027】
前記切断工具および前記一対のクランプ部材の少なくとも一方が、前記押出材を冷却するための冷却機構を備えてもよい。
【0028】
この構成によれば、押出材の冷却と切断を並行して行うことができ、工数を低減できるとともに冷却用の設備を設置するスペースを省略できる。また、押出材の切断に際して押出材を冷却することで、通常高温である押し出し直後の押出材の温度を低下させ、押出材が切断時に変形するのを抑制できる。
【0029】
前記切断機は、前記押出材の前後端を前記一対のクランプ部材により把持し、前記一対のクランプ部材の間隔を広げ前記押出材を引張矯正するストレッチャとしての機能を有してもよい。また、前記製造装置は、切断された前記押出材を引張矯正するストレッチャをさらに備えてもよい。
【0030】
これらの構成によれば、塑性加工の対象となる押出材の寸法のばらつきを抑制できる。従って、安定した塑性加工を実現できる。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、アルミニウム合金製押出部品の製造方法および製造装置において、自然時効が完全に進行する前に押出材に塑性加工を施すため、押出材に軟化熱処理を施す場合に比べて低コストで簡便に塑性加工時の破断または割れを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1】本発明の一実施形態に係るアルミニウム合金製押出部品の製造装置の概略構成図。
【
図2】製品耐力(MPa)の異なる3種類の合金A~Cについて、ビッカース硬度(Hv)と、潰し加工試験による外観割れとの関係を示したグラフ。
【
図4】製品耐力(MPa)の異なる3種類の合金A~Cについて、押出後から潰し加工完了までの経過時間(分)と、潰し加工試験による外観割れとの関係を示したグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、添付図面を参照して本発明の一実施形態を説明する。
【0034】
図1を参照して、本実施形態のアルミニウム合金製押出部品の製造装置1は、押出機10、冷却機20、切断機30、搬送機構40、塑性加工機50、および制御部60を有している。
【0035】
押出機10では、押出加工可能な温度に加熱したアルミニウム合金のビレット11が、コンテナ12内に収納されている。そして、ステム13を前進させ、ダイス14を通して前方に材料を押し出す。本実施形態では、当該材料として7000系のアルミニウム合金を使用する。7000系のアルミニウム合金は、高強度であり、自動車用の衝突保護部材またはボディー骨格に好適に使用され得る。
【0036】
7000系アルミニウム合金の好ましい組成として、例えばZn:3~8質量%、Mg:0.4~2.5質量%、Cu:0.05~2.0質量%、Ti:0.005~0.2質量%を含有し、さらにMn:0.01~0.5質量%、Cr:0.01~0.3質量%、Zr:0.01~0.3質量%の1種以上を含有し、残部Alおよび不純物からなる組成を挙げることができる。
【0037】
冷却機20は、押出機10のダイス14から押し出されてテーブル21上を前方に移動する押出材100を強制冷却する。冷却機20は、例えばファン空冷装置または水冷装置であってもよい。冷却機20は、冷媒を噴射するノズル22を有している。ノズル22は、支持機構23に支持されて押出方向に沿って前後に進退可能である。ノズル22は、図示しない冷媒供給機構に流体的に接続されている。なお、押出材100が自然空冷のみで十分焼き入れできる場合は、冷却機20は設置されなくてもよい。また、ファン空冷装置または水冷装置のみで押出材100を十分に焼き入れできる場合は、ノズル22は設置されなくてもよい。
【0038】
ノズル22は、押出材100が中空形状(例えば筒状)を有する場合に好適に使用され得る。さらに好適には、押出材100が1つ以上の内リブを有する場合に使用され得る。本実施形態では、押出材100は、押し出し方向(即ち前後方向)に垂直な断面において例えば中空矩形状である。ノズル22は、押出機10のダイス14から押し出されて前方に移動する押出材100の内部に前方から挿入される。そして、ノズル22を通じて押出材100の内部に冷媒を噴射する。押出材100を内側から冷却した後に、ノズル22は押出材100から抜き出される。押出材100をより均等に冷却するために、冷媒を噴射しながらノズル22を前後に移動させて押出材100から抜き差ししてもよい。
【0039】
切断機30は、切断工具31(本実施形態では丸のこ)と一対のクランプ部材32,32とを備える。また、切断機30は、切断工具31を作動させる駆動機構と、クランプ部材32,32を作動させる駆動機構と、切断工具31およびクランプ部材32,32を押出方向に沿って前方または後方に移動させる進退機構とを有している。なお、各機構はいずれも図示していない。切断工具31、クランプ部材32,32、および他機構は、例えばテーブル21上に設置されている。
【0040】
クランプ部材32,32は、前後方向において切断工具31を挟むように隣接して配置されている。クランプ部材32,32は、ダイス14から押し出され前方に移動する押出材100の切断箇所の前後位置を把持し(把持箇所)、押出材17を切断工具31に対し位置決めする。切断工具31および押出材100を把持したクランプ部材32,32は、押出機10の押出速度(即ち押出材100の移動速度)と同速で前方に移動する。そして、その過程で切断工具31が作動して押出材100を切断する。切断箇所は、切断後の押出材100の長さが所定の長さとなる位置に設定される。この所定の長さは、最終的に得られるアルミニウム合金製押出部品の長さと概略同一である。ここで、概略同一の長さとは、クランプ部材32,32で把持した部分に生じ得るクランプ傷をなくすために、クランプ部材32,32で把持した部分をさらに切断除去できる程度の長さを含む。
【0041】
クランプ部材32,32は、押出直後の位置(例えば、押出機10のダイス14から前方に0.5~1.5mのあたり)で押出材100を把持するように設定されている。従って、クランプ部材32,32が押出材100を把持した時点で、上記切断箇所および把持箇所は高温状態である可能性が高い。高温で軟化した押出材100が切断時に変形するのを抑制するため、好ましくはクランプ部材32,32および切断工具31の少なくとも一方が、押出材100の上記切断箇所および把持箇所を冷却する冷却機構を含む。図示の例では、切断工具31に空冷または水冷のための冷却機構31aが設けられている。なお、押出材100の冷却は、押出材100の切断と並行して行われる。
【0042】
切断機30は、必要に応じて、切断および冷却後の押出材100のストレッチャとして機能することができる。即ち、切断機30は、押出材100の前後端を一対のクランプ部材32,32により把持し、一対のクランプ部材32,32の間隔を広げ押出材100を引張矯正するストレッチャとして機能することができる。これに代えてまたは加えて、専用のストレッチャ33を切断機30の近傍に配置し、切断後の押出材100を引張矯正してもよい。なお、後述する塑性加工機50において引張曲げを行う場合、引張曲げの過程で押出材100に対し引張矯正が行われるため、クランプ部材32,32またはストレッチャ33による事前の引張矯正は不要である。
【0043】
上記のように、押出直後の押出材100を所定の長さ(最大でも5m以下)に切断し、かつ冷却と切断を並行して行うことにより、従来のような前後方向長さ30~50mm程度の巨大なテーブルは不要となる。
図1に示す本実施形態におけるテーブル21の前後方向長さは10m以下で十分である。また、切断後の押出材100は短尺(最大でも5m以下)であるから、搬送機構40や塑性加工機50を含めても、製造装置1の床面積は小さくできる。
【0044】
搬送機構40は、切断された押出材100を把持し、塑性加工機50に向けて搬送する。前述の通り、押出材100は一般に短尺であるので、例えばロボットアームを使用してもよい。この点からも製造装置1の床面積を小さくできる。
【0045】
塑性加工機50は、押出材100に対し、曲げ、潰し、剪断(例えば穴抜き)、バーリング、スエージング、および他のプレス成形のうち1種以上の塑性加工を冷間で施す。押出材100に施すべき塑性加工の種類に対応して、塑性加工機50には必要とされるプレス機構が配置される。例えば、アルミニウム合金製押出部品がバンパーリインフォースであり、押出材100の両端部に曲げ加工を施し、次いで長手方向の一部に潰し加工を施す場合、塑性加工機50には、曲げプレス機構と潰しプレス機構が含まれる。
【0046】
7000系のアルミニウム合金からなる押出材100は、冷却直後から自然時効が始まり、時間経過とともに耐力が次第に増加する。しかし、本実施形態では、押出材100の自然時効が完全に進行する前に塑性加工を完了させる。即ち押出材100が低い耐力と高い伸びを維持した状態で押出材100に塑性加工を施す。具体的には、押出材100のビッカース硬度が50~70(Hv)の状態で塑性加工を施す。この数値範囲は以下の実験結果に基づいている。
【0047】
図2は、実験結果を示すグラフである。グラフの横軸は、製品耐力(MPa)を示している。グラフの縦軸は、ビッカース硬度(Hv)を示している。グラフでは、製品耐力(MPa)の異なる3種類の合金A~Cについて、ビッカース硬度(Hv)と、潰し加工試験による外観割れとの関係が示されている。合金Aは製品耐力が350(MPa)の合金であり、合金Bは製品耐力が420(MPa)の合金であり、合金Cは製品耐力が500(MPa)の合金である。
【0048】
図3を参照して、合金A~Cの試験体(押出材)200について、ビッカース硬度別(自然時効の度合い別)に複数回の潰し加工試験を行った。潰し加工試験では、直径100mmの治具70を毎分50mmの速度で動かして試験体200を押し潰した。試験体200は、押出機10(
図1参照)から押し出された後に長さ300mm以上となるように切断した。また、押出後の経過時間が30分以下の場合には水冷を施し、30分を超える場合には、ファン空冷を施した。
【0049】
再び
図2を参照して、試験結果として、グラフ中の丸印(〇)は試験体200にクラックも割れも発生しなかったものを示し、三角印(△)は割れが発生しなかったがクラックが発生したものを示し、バツ印(×)は割れが発生したものを示している。
【0050】
合金Aの試験体200では、ビッカース硬度が63(Hv)程度まではクラックも割れも発生せず、ビッカース硬度が72~78(Hv)程度でクラックが発生し、ビッカース硬度が82(Hv)程度以上では割れが発生した。合金Bの試験体では、ビッカース硬度が73(Hv)程度まではクラックも割れも発生せず、ビッカース硬度が76~80(Hv)程度でクラックが発生し、ビッカース硬度が84(Hv)程度以上では割れが発生した。合金Cの試験体200では、ビッカース硬度が70(Hv)程度まではクラックも割れも発生せず、ビッカース硬度が97(Hv)程度以上では割れが発生した。
【0051】
総じて、ビッカース硬度が80(Hv)以下では全ての合金について割れが発生しなかった。さらに、ビッカース硬度が70(Hv)以下では全ての合金についてクラックも割れも発生しなかった。従って、塑性加工は、好ましくはビッカース硬度が80(Hv)以下で施され、さらに好ましくはビッカース硬度が70(Hv)以下で施される。また、実験した範囲では、7000系のアルミニウム合金のビッカース硬度は50(Hv)以上であった。従って、本実施形態では、押出材のビッカース硬度が50~70(Hv)の状態で塑性加工を施し、押出材の破断や割れの抑制を図るものとしている。
【0052】
7000系アルミニウム合金の押出材のビッカース硬度は、引張強さ、耐力とそれぞれ相関があることが知られている。ただし、相関に関する具体的な数値までは一般に知られておらず、本願発明者らはこの相関に関する数値を以下の通り確認した。具体的には、相関に関する数値として、引張強さ(MPa)はビッカース硬度(Hv)の3.8倍に対応し、耐力(MPa)はビッカース硬度(Hv)の2.5倍に対応する。従って、ビッカース硬度が50~70(Hv)の状態は、引張強さが190~266(MPa)の状態に対応する。また、ビッカース硬度が50~70(Hv)の状態は、耐力が125~175(MPa)の状態に対応する。従って、ビッカース硬度に代えて、引張強さまたは耐力によって、同様に塑性加工を施す押出材の状態を規定してもよい。
【0053】
図4は、
図2の潰し加工試験の結果を、押出後から潰し加工完了までの経過時間について見たグラフである。グラフの横軸は、
図2と同じ製品耐力(MPa)を示している。グラフの縦軸は、押出後から潰し加工完了までの経過時間(分)を示している。
【0054】
合金Aの試験体200では、上記経過時間が120分程度まではクラックも割れも発生せず、上記経過時間が240~480分程度でクラックが発生し、上記経過時間が1440分程度以上では割れが発生した。合金Bの試験体では、上記経過時間が30分程度まではクラックも割れも発生せず、上記経過時間が60~120分程度でクラックが発生し、上記経過時間が240分程度以上では割れが発生した。合金Cの試験体200では、上記経過時間が5分程度まではクラックも割れも発生せず、上記経過時間が30分程度以上では割れが発生した。
【0055】
総じて、押出後から5分以内で潰し加工を行うと、全ての合金についてクラックも割れも発生しなかった。従って、塑性加工は、好ましくは押出後から5分以内で施される。また、合金A~Cについて、クラックや割れが発生するまでの経過時間には上記の通りの大きな差異があることを確認した。従って、合金A~Cの種類ごとに押出後から潰し加工完了までの経過時間を以下の通り適切に設定することが好ましい。
【0056】
図5は、
図4のグラフのうち合金A~Cについてそれぞれ最初にクラックまたは割れが発生した点をプロットしたものである。プロットした点のデータは、合金Aは(T=120,σ=350)、合金Bが(T=60,σ=420)、合金Cが(T=30,σ=500)である。
図5では、これらのプロットした3点を最小二乗法により、直線近似している。これにより、上記経過時間をT(分)とし、製品耐力をσ(MPa)として、以下の式(3)のように、合金の種類(耐力σ)ごとに押出後から潰し加工完了までの経過時間(T)を適切に設定できる。
【0057】
【0058】
再び
図1を参照して、制御部60は、CPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)、およびROM(Read Only Memory)等のハードウェアと、それらに実装されたソフトウェアとにより構成されている。制御部60は、押出材100が押出機10から押し出されてから所定の時間T以内に押出材100への塑性加工を完了させるように押出機10、切断機30、搬送機構40、および塑性加工機50を制御する。好ましくは、所定の時間Tは、上記式(3)を満たす時間に設定される。
【0059】
塑性加工後、押出材100に対して人工時効処理を施すことによりアルミニウム合金製押出部品が完成する。この人工時効処理は、従来と同様に加熱炉を用いてロット単位で行われてもよい。この加熱炉は、製造装置1の一部として同一フロアに設置されてもよく、また、他の適当な場所に設置されてもよい。
【0060】
本実施形態によって製造されたアルミニウム合金製押出部品は、乗用車、軽自動車、トラック等の衝突保護部材(エネルギー吸収部材)用およびボディー骨格に好適に用いられる。衝突保護部材用部品としては、例えばバンパーリインフォース、ドアビーム、クラッシュボックス(バンパーステイ)、ステイ一体型バンパーリインフォース、歩行者脚部保護部品、およびアンダーランプロテクター等が挙げられる。ボディー骨格用部品としては、例えばフロントおよびリアサイドメンバー、ラジエータサポート、フロントアッパーメンバー、ルーフレール、フロントおよびリアヘッダー、ロッカー、およびフロアクロスメンバー等が挙げられる。また、本実施形態によって製造されたアルミニウム合金製押出部品は、自動二輪車および自転車のボディー骨格にも好適に用いられる。
【0061】
本実施形態によれば、押出材100の自然時効が完全に進行する前に、即ち押出材100が低い耐力と高い伸びを維持した状態で押出材100に塑性加工を施すことができる。また、上記式(3)に基づいて、押出材100の種類(耐力)ごとに押出後から塑性加工完了までの時間を好適に設定できる。上記式(3)は、前述の通り、実験の結果に基づいて規定されている。従って、上記式(3)に基づいて押出材の種類(耐力)ごとに押出後から塑性加工完了までの時間を設定することで、塑性加工前に押出材100に軟化熱処理を施さなくても、塑性加工時の破断または割れを低コストで簡便に抑制できる。
【0062】
また、焼き入れ感受性の高い7000系のアルミニウム合金について所望の高強度を得るためには急速冷却する必要があるが、冷却機20によって当該急速冷却を実現できる。
【0063】
また、中空形状を有する押出材100の内部にノズル22を挿入して冷媒を噴射することで、押出材100の内部を冷却できる。従って、押出材100を外側からだけでなく内側からも冷却し、冷却過程における押出材100の全体の温度差を小さくできる。その結果、冷却時の熱収縮に起因する押出材100の変形が抑制され、時効処理後の材料特性が均一化する。また、押出材100を速く冷却できるため、焼き入れ感受性が高い高強度の7000系アルミニウム合金に対して時効処理後の強度向上を図ることができる。
【0064】
また、クランプ部材32,32によって、切断時に押出材100をクランプすることにより、安定した切断を可能にする。
【0065】
また、切断工具31が、押出材100の上記切断箇所および把持箇所を冷却する冷却機構31aを含むことで、押出材100の冷却と切断を並行して行うことができ、工数を低減できるとともに冷却用の設備を設置するスペースを省略できる。また、押出材100の切断に際して押出材100を冷却することで、通常高温である押し出し直後の押出材100の温度を低下させ、押出材100が切断時に変形するのを抑制できる。
【0066】
また、クランプ部材32,32およびストレッチャ33の少なくとも一方によって、塑性加工前に引張矯正できるので、塑性加工の対象となる押出材100の寸法のばらつきを抑制できる。従って、安定した塑性加工を実現できる。
【0067】
以上より、本発明の具体的な実施形態について説明したが、本発明は上記形態に限定されるものではなく、この発明の範囲内で種々変更して実施することができる。
【符号の説明】
【0068】
1 製造装置
10 押出機
11 ビレット
12 コンテナ
13 ステム
14 ダイス
20 冷却機
21 テーブル
22 ノズル
23 支持機構
30 切断機
31 切断工具
31a 冷却機構
32 クランプ部材
33 ストレッチャ
40 搬送機構
50 塑性加工機
60 制御部
70 治具
100 押出材
200 試験体(押出材)