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特許7181931硫黄原子を含むガス分子を用いたプラズマエッチング方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-22
(45)【発行日】2022-12-01
(54)【発明の名称】硫黄原子を含むガス分子を用いたプラズマエッチング方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/3065 20060101AFI20221124BHJP
【FI】
H01L21/302 105A
H01L21/302 101B
H01L21/302 101D
H01L21/302 101C
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020525813
(86)(22)【出願日】2019-06-21
(86)【国際出願番号】 JP2019024633
(87)【国際公開番号】W WO2019245013
(87)【国際公開日】2019-12-26
【審査請求日】2021-12-22
(31)【優先権主張番号】P 2018119232
(32)【優先日】2018-06-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000157119
【氏名又は名称】関東電化工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100120112
【氏名又は名称】中西 基晴
(74)【代理人】
【識別番号】100120754
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 豊治
(72)【発明者】
【氏名】加藤 惟人
(72)【発明者】
【氏名】高橋 至直
(72)【発明者】
【氏名】下田 光春
(72)【発明者】
【氏名】池谷 慶彦
【審査官】鈴木 智之
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-529740(JP,A)
【文献】特開2017-054921(JP,A)
【文献】特開2017-084966(JP,A)
【文献】特開2008-244292(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/3065
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
CH -S―CF を含むガスプラズマによって、Siを含有する膜をエッチングする方法。
【請求項2】
前記Siを含有する膜が、Siを含有する1種類の材料で構成される単層膜又はSiを含有する2種類以上の材料が積層された積層膜である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ガスプラズマが、CH -S―CF に加えて、HF、HCl、HBr、HI、CF、CHF、CH、CHF、COF、C、C、C、C、C、C、NF及びSFからなる群から選ばれる少なくとも1種を含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記Siを含有する膜が、エッチングされない材料と共に構造体を構成し、
エッチングの間に、Sを含むがF含有量は1%以下である膜が前記構造体の表面に堆積する、請求項1~3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記Siを含有する膜が、SiO、SiN、SiON、SiCN、SiOC、及びSiOCNからなる群から選ばれる少なくとも1種の材料で構成される膜である、請求項1~4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記エッチングされない材料が、アモルファスカーボンレイヤー(ACL)、スピンオンカーボン(SOC)、TiN、TaN、及びフォトレジストからなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項に記載の方法。
【請求項7】
前記ガスプラズマが、さらに、N、O、O CO、CO、COS、NO、NO、NO、SO、及びSOからなる群から選ばれる少なくとも1種を含む、請求項1~6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
前記ガスプラズマが、さらに、H、NH、及びSiHからなる群から選ばれる少なくとも1種を含む、請求項1~のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
前記ガスプラズマが、さらに、He、Ar、Ne、Kr、及びXeからなる群から選ばれる少なくとも1種を含む、請求項1~のいずれかに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フッ素、水素、炭素及び硫黄原子を含むチオエーテル化合物を用いたドライエッチング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
今現在半導体デバイスは高速化、省電力化のために微細化と新規材料の利用などが積極的に試みられており、半導体デバイスの微細加工にはフルオロカーボン(以下「FC」ともいう。)ガスやハイドロフルオロカーボン(以下「HFC」ともいう。)ガスプラズマを用いたドライエッチングによって行われている。
【0003】
FCガスやHFCガスをプラズマ化しSiO2やSiNがマスク材料によってパターニングされた基板をエッチングした場合、例えばSiO2パターンでは、FCやHFCに含まれる炭素原子とSiO2の酸素が反応し、COやCO2のような揮発性の生成物を生じるため、エッチングが進行するが、マスク材料やOを含まない膜に対しては炭素成分が残留し、エッチングが進行しにくくなる。このため、マスク材料に対して選択的にSiO2がエッチングされる。
【0004】
また、FCガスやHFCガスをプラズマ化して発生するCFxラジカルはSiO2表面に吸着するが、それだけでは反応は進行しない。しかし、Ar+等の化学反応性のないイオンやCF3 +などの化学反応性も有するイオンを基板に引き込むような機構を持つプラズマエッチング装置を用いた場合には、CFxラジカルが堆積したSiO2表面にイオンが撃ち込まれ、イオンの持っていた運動エネルギーによって、SiO2表面とCFxラジカルの反応が促進され、揮発性の生成物が生じる。このようなエッチングを一般的にはイオンアシストエッチングと呼ぶ。
【0005】
イオンアシストエッチングでは、CFxラジカルが吸着している面にイオンが衝突することでエッチング反応が進行するため、SiO2パターンの基板に対して垂直方向からイオンが照射されるような場合においては、照射されたイオンが衝突する垂直方向にはエッチングが進行する。しかし、パターンの水平方向(パターンの側壁)はイオンの衝突が起こりにくいため、エッチングで使用されないCFxラジカルが残り、ラジカル同士の反応によってフルオロカーボンポリマーが生じる。このフルオロカーボンポリマーはフッ素ラジカルのような反応性の高いラジカルとSiO2側壁との反応を抑制したり、垂直方向以外から侵入してくるイオンが側壁に衝突してSiO2側壁がエッチングされることを防ぐ効果、また、マスク材料にも堆積して、マスク材料とエッチング対象の選択比を向上する効果がある。このようなイオンアシストエッチングによって、側壁、マスクを保護しながら、エッチングをすることで、パターンの垂直方向に選択的にエッチングが進行する異方性エッチングが実現でき、これを応用することで、微細なパターンを高アスペクトでエッチングすることが可能となっている。
【0006】
イオンアシストエッチングによるSiO2の高アスペクト比のパターンエッチングでは、C48、C46のようなプラズマ中にCFやCF2といったフッ素原子数の少ないラジカルを発生しやすいFCガスが用いられる。SiNのパターンエッチングではCH22やCH3FといったHを含むHFCガスが用いられている。
【0007】
また、高アスペクト比のパターンの加工形状は、エッチング対象の材料の上層に存在するマスク材料の加工形状の維持が重要である。マスク材料を開口する際に行われるプラズマエッチングや、その開口されたマスクを用いてSiO2やSiNといった材料をエッチングする際には、マスク材料はプラズマ中のフッ素ラジカルや酸素ラジカルといった活性の高いラジカルや、反応性の高いイオンにさらされることでダメージを受ける。このダメージによって、マスクの形状が変形し、その下層のエッチング対象も影響を受け、加工形状が歪んでしまう。
【0008】
このようなマスクの変形を抑制する目的でCOSやSO2といった硫黄原子を含むガスがプラズマエッチングにおいて使用される。非特許文献1においては、SiO2エッチングのマスク材料として使用されるアモルファスカーボンレイヤー(以下、ACLということがある)マスクを開口する際のプラズマエッチングにCOSを添加することで、開口後に行われるSiO2エッチングにおいて、マスクのエッチングが抑制され、ACLマスクとSiO2との選択比が約20%改善されるといった結果が記載されている。このCOS添加による効果としては、COSが添加されたプラズマで処理したACLマスクから硫黄原子が検出されており、C=Sによるパシベーション効果によるものであると記載されている。
【0009】
特許文献1においては、アッシャブルハードマスク(AHM:炭素と水素および任意選択で微量のドーパントから構成されるアッシングによって除去可能なハードマスク)を形成する際にH2SやCS2を添加することで、低い水素含有量を有する硫黄ドープAHMを形成し、このAHMは、エッチングレートを低下させ、かつ除去が容易であり、したがって、効果的な半導体処理のための高い選択性のハードマスクが得られるとの記載がある。
【0010】
本発明においてもマスク材料との選択性向上や加工形状の改善を目的として硫黄を含むエッチングガスを使用するが、本発明に使用するエッチングガスには非特許文献1に記載されるCOSやSO2には含まれないF原子を有するチオエーテル化合物を用いることで、SiO2のようなエッチング対象をエッチングしながら、ACLのようなマスク材料のエッチングの抑制とパターン側壁の保護を行うことができる。
【0011】
特許文献2においては、硫黄原子を含むエッチングガスとして、CSF、Sを用いたエッチングについて記載されている。SiN上にSiOが積層した2層構造において、SiOのみをエッチングし、SiNでエッチングをストップさせたい場合に、硫黄原子を含むこれらのエッチングガスを用いることで、硫黄とSiNに含まれる窒素が反応し、エッチングされにくい窒化硫黄が生成するため、SiNに対するSiOのエッチング選択性が向上するとされている。本発明においても硫黄を含むエッチングガスを使用することを特徴としているが、本発明に使用するエッチングガスには特許文献に記載されているCSFやSには含まれない水素原子を含むことで、窒素原子を含むSi系膜(SiNやSiONなど)をエッチングすることが可能である。
【0012】
特許文献3においては、パターン高アスペクト比構造のエッチングにおいて、Si含有層とマスク材料との間の選択性の改良、エッチング形状の改善を目的として、C242(2 ,2 ,4 ,4-テトラフルオロ-1 ,3-ジチエタン)、C23CF3S(2 ,2 ,2-トリフルオロエタンチオール)等をエッチングガスとして用いることで、SiO2、SiNのエッチングにおいて、アモルファスシリコン(以下、a-Siということがある)やアモルファスカーボンに対する選択性を向上することができると記載されている。本発明では先行発明における2 ,2 ,4 ,4-テトラフルオロ-1 ,3-ジチエタンや、2 ,2 ,2-トリフルオロエタンチオールのように沸点が高いエッチングガスではなく、揮発性が高く、沸点の低いチオエーテル化合物を用いることで、エッチング装置へのガス供給を容易にし、また、エッチング条件を調節することで、a-SiやACLのようなマスク材料に対して、SiO2、SiNを選択的にエッチングするだけでなく、SiO2に対してSiNを選択的にエッチングすることも可能としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【文献】特開2015-70270号公報
【文献】特開平7-211694号公報
【文献】特表2016-529740号公報
【非特許文献】
【0014】
【文献】Journal of Vacuum Science & Technology A: Vacuum, Surfaces, and Films 31, 021301 (2013)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
DRAMやNANDフラッシュメモリー、ロジックデバイスのような半導体デバイスは高容量化、低消費電力化、高速動作を目的に微細化が求められているものの、近年微細化は一桁nmレベルにまで到達しており、これまでのデバイス構造による高容量化、低消費電力化、高速動作の達成は困難な状況となっている。そのため、NANDフラッシュメモリーではデバイス構造を縦に積み上げるような構造とする3D-NANDと呼ばれる立体的なデバイス構造が最先端では製造されている。また、ロジックデバイスにおいても微細化によるゲートリーク電流の増加を抑えるため、チャネル構造を立体的な構造とし、その周りをゲート絶縁膜で囲むようなFin-FETという構造が最先端では主流となっている(図1)。
【0016】
このように先端デバイスではデバイス構造が立体的になることで、ドライエッチングに要求されるエッチング特性も複雑化している。例えば、3D-NANDのチャネルホールを形成する際のドライエッチングでは、SiO2とSiNが複数層積層された膜をACLのような材料をマスクとして、高アスペクト比でエッチングしなければならない(図2)。その際、マスクに対して選択的にSiO2とSiNといった異なる材質の膜を一括でエッチングしなければならず、デバイスの高容量化に伴い、さらに高いアスペクト比でのエッチングが望まれる状況である。
【0017】
一方ロジックデバイスでは、特に先端ロジックデバイスにおいて、SiやSiO2、SiN、低誘電率(Low-k)材料(SiOC)、など様々な種類のSiを含む材料が積層されてデバイス構造が構築されている関係で、加工に使用されるプラズマエッチングに対しては、マスク材料だけでなく、そのほかのSiを含む組成の似た膜に対しても高い選択性が要求されている。
【0018】
上記のような3D-NANDのSiO2とSiNが何段にも重なった積層構造に対する高アスペクト比エッチングや、先端ロジックデバイスにおけるFin-FET構造を作製する際のエッチングでは、先述のマスク材料などとの選択性だけでなく、加工形状の制御も重要な課題となっている。イオンアシストエッチングは、CFxラジカルが吸着し、イオンが当たる部分でエッチングが進行しやすいため、実際のデバイス製造プロセスで用いられるプラズマエッチング装置では、プラズマ中のイオンをシリコン基板に電気的に引き込むことで、垂直方向の加工を行う目的で用いられる。しかし、実際のエッチングでは、イオンは垂直方向のみから照射されるわけではなく、斜めからの入射や、高アスペクト比のパターン内においては、イオンの軌道が曲がることもある。結果として、形状が膨らんだり、細ったり、曲がったりすることで、望みの形状とならず、歩留まりの低下を引き起こしてしまう。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明者等は、上記問題点を解決するために鋭意検討した結果、特定のチオエーテル骨格を持つガス化合物を含む混合ガス、もしくは単体をプラズマ化してドライエッチングに使用することで、非エッチング対象材料に対する選択性の向上と、特定のSiを含む材料に対する選択性の向上、さらにはエッチング加工形状の改善が実現できることを発見し、本発明を完成するに至った。
【0020】
本発明によれば以下の態様が提供される。
[1]
下記一般式(1):
Rf-S-Rf (1)
(式中、RfはCxHyFzで表される一価の有機基であり、x、y、zはそれぞれx=1~3、y=1~7、z=0~6、y+z≦2x+1を満たす正数であり、RfはCaHbFcで表される一価の有機基であり、a、b、cはそれぞれa=1~3、b=0~6、c=1~7、b+c≦2a+1を満たす正数である。)
で示される化合物を含むガスプラズマによって、Siを含有する膜をエッチングする方法。
[2]
前記Siを含有する膜が、Siを含有する1種類の材料で構成される単層膜又はSiを含有する2種類以上の材料が積層された積層膜である、[1]に記載の方法。
[3]
前記ガスプラズマが、一般式(1)で示される化合物に加えて、HF、HCl、HBr、HI、CF、CHF、CH、CHF、COF、C、C、C、C、C、C、NF及びSFからなる群から選ばれる少なくとも1種を含む、[1]又は[2]に記載の方法。
[4]
前記Siを含有する膜が、エッチングされない材料と共に構造体を構成し、
エッチングの間に、Sを含むがF含有量は1%以下である膜が前記構造体の表面に堆積する、[1]~[3]のいずれかに記載の方法。
[5]
前記Siを含有する膜が、SiO、SiN、SiON、SiCN、SiOC、及びSiOCNからなる群から選ばれる少なくとも1種の材料で構成される膜である、[1]~[4]のいずれかに記載の方法。
[6]
前記エッチングされない材料が、アモルファスカーボンレイヤー(ACL)、スピンオンカーボン(SOC)、TiN、TaN、及びフォトレジストからなる群から選ばれる少なくとも1種である、[1]~[5]のいずれかに記載の方法。
[7]
一般式(1)で示される化合物が、CHF-S-CF、CHF-S-CF、CH-S―CF、CH-S―CHF、CH-S-CHF、CHF-S-CHF、CHF-S-CHF、及びCHF-S-CHFからなる群から選ばれる少なくとも1種である、[1]~[6]のいずれかに記載の方法。
[8]
前記ガスプラズマが、さらに、N、O、O CO、CO、COS、NO、NO、NO、SO、及びSOからなる群から選ばれる少なくとも1種を含む、[1]~[7]のいずれかに記載の方法。
[9]
前記ガスプラズマが、さらに、H、NH、及びSiHからなる群から選ばれる少なくとも1種を含む、[1]~[8]のいずれかに記載の方法。
[10]
前記ガスプラズマが、さらに、He、Ar、Ne、Kr、及びXeからなる群から選ばれる少なくとも1種を含む、[1]~[9]のいずれかに記載の方法。
【0021】
本発明によればまた、下記一般式(1):
Rf1-S-Rf2 (1)
(式中、Rf1はCxHyFzで表される一価の有機基であり、x、y、zはそれぞれx=1~3、y=1~7、z=0~6、y+z≦2x+1を満たす正数であり、Rf2はCaHbFcで表される一価の有機基であり、a、b、cはそれぞれa=1~3、b=0~6、c=1~7、b+c≦2a+1を満たす正数である。)
で示される化合物をプラズマエッチングに使用する方法が提供される。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、一般式(1)で示される特定のチオエーテル骨格を持つガス化合物を含む混合ガス、もしくは単体をプラズマ化してドライエッチングに使用することで従来の問題点、課題点等を解消し、次の利点を有するものである。
(1)本発明の特定のチオエーテル骨格を持つガス化合物は、水素原子、フッ素原子を分子内に有することで、プラズマエッチングの際に、一般的なHFCガスと同様に、SiO2、SiNをエッチング可能であり、さらに硫黄原子の効果によって、非エッチング対象材料に対しては揮発しにくい生成物が生じ、エッチングを阻害するため、一般的なHFCガス以上に高選択的にエッチング対象材料を非エッチング対象物質に対してエッチング可能である。
(2)本発明の特定のチオエーテル骨格を持つガス化合物は、プラズマエッチングにおいて、一般的なHFCガス同様、ポリマー膜が生じる。このポリマー膜は本発明のガス化合物と近い組成のHFCガスプラズマによって生じるポリマー膜と比べて、ほぼ同等の堆積速度で堆積するが、イオンによるエッチングはされやすいという特徴がある。また、ポリマー膜の成分を比較するとHFCガスによって生じるポリマー膜に比べて、フッ素原子の含有量が低い。このような特徴から、パターンエッチングにおいて、本発明の特定のチオエーテル骨格を持つガス化合物を用いると、垂直方向のエッチングはイオンが衝突するため一般的なHFCガス同様、問題なくエッチングが進行するが、側壁方向に対しては、反応性の高いフッ素原子の含有量が少ないポリマー膜が堆積することで、エッチング反応を抑制することができる。結果、垂直加工形状良好なプラズマエッチングが可能である。
(3)本発明の特定のチオエーテル骨格を持つガス化合物は、一般的に用いられるエッチングガス(HF、HCl、HBr、HI、CF4、CHF3、CH22、CH3F、COF2、C26、C36、C38、C48、C46、C58、NF3、SF6など)が含まれるガスプラズマに対して添加することで、添加しない場合のガスプラズマに比べて、非エッチング対象材料に対するエッチング対象材料の選択比を上げることが可能である。
(4)本発明の特定のチオエーテル骨格を持つガス化合物は、一般的に用いられるエッチングガス(HF、HCl、HBr、HI、CF4、CHF3、CH22、CH3F、COF2、C26、C36、C38、C48、C46、C58、NF3、SF6など)が含まれるガスプラズマに対して添加することで、添加しない場合のガスプラズマに比べて、垂直加工形状良好なプラズマエッチングが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】一般的なFin-FETの構造を示す図である。
図2】一般的な3D-NANDチャネルホールエッチングを示す図である。
図3】本発明の実施例で使用したプラズマエッチング装置の概略図である。
図4】本発明の実施例で使用したSOC/SiNパターンウエハの概略図である。
図5】本発明の実施例で使用したKrFレジスト/SiO2パターンウエハの概略図である。
図6】実施例1におけるプラズマ処理後のSOC/SiNパターンウエハ断面のSEM像である。
図7】実施例2におけるプラズマ処理後のSOC/SiNパターンウエハ断面のSEM像である。
図8】比較例2におけるプラズマ処理後のSOC/SiNパターンウエハ断面のSEM像である。
図9】比較例4におけるプラズマ処理後のSOC/SiNパターンウエハ断面のSEM像である。
図10】実施例3、比較例5ないし8において、評価基準となるKrFレジスト/SiO2パターンウエハ断面のSEM像である。
図11】実施例3におけるプラズマ処理後のKrFレジスト/SiO2パターンウエハ断面のSEM像である。
図12】比較例5におけるプラズマ処理後のKrFレジスト/SiO2パターンウエハ断面のSEM像である。
図13】比較例6におけるプラズマ処理後のKrFレジスト/SiO2パターンウエハ断面SEM像である。
図14】比較例7におけるプラズマ処理後のKrFレジスト/SiO2パターンウエハ断面のSEM像である。
図15】比較例8におけるプラズマ処理後のKrFレジスト/SiO2パターンウエハ断面のSEM像である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明におけるプラズマエッチング方法について詳細に説明する。本発明の範囲は以下に説明する範囲に拘束されることはなく、本発明の趣旨を損なわない範囲で変更することが可能である。
【0025】
本発明におけるプラズマエッチング方法は下記一般式(1)に示されるチオエーテル骨格を持つガス化合物を含む混合ガス、もしくはガス単体を用いるものである。
Rf1-S-Rf2 (1)
(式中、Rf1はCxHyFzで表される一価の有機基であり、x、y、zはそれぞれx=1~3、y=1~7、z=0~6、y+z≦2x+1を満たす正数であり、Rf2はCaHbFcで表される一価の有機基であり、a、b、cはそれぞれa=1~3、b=0~6、c=1~7、b+c≦2a+1を満たす正数である。)
【0026】
本発明におけるプラズマエッチング方法では、一般式(1)に示されるチオエーテル骨格を持つガス化合物として、プラズマエッチング装置への供給しやすさの観点からx=1~2、y=1~3、z=0~3、a=1~2、b=0~3、c=0~3を満たすものを用いることが好ましい。またCHF2-S-CF3、CH2F-S-CF3、CH3-S―CF3、CH3-S―CHF2、CH3-S-CH2F、CH2F-S-CH2F、CH2F-S-CHF2、CHF2-S-CHF2のうちのいずれかの構造のガス化合物を用いることがより好ましい。
【0027】
本発明におけるプラズマエッチング方法では、一般式(1)に示されるチオエーテル骨格を持つガス化合物の純度は95.0vol%~100.0vol%のものが使用できる。好ましくは99vol%以上のものを用い、99.9vol%以上のものを用いることがより好ましい。含まれる不純物成分としてはN2、O2、CO2、H2O、HF、HCl、SO2、CH4等が挙げられるが、これらの不純物成分のうち、H2O、HF、HCl、SO2などはガスを流通する経路を腐食する可能性が高いため、精製によって可能な限り除去することが好ましい。
【0028】
本発明におけるプラズマエッチング方法では、一般式(1)に示されるガス化合物をそのほかのFCガスやHFCガスと混合して使用することで、一般式(1)に示されるガス化合物を混合しない場合に比べて、より非エッチング対象材料に対するエッチング対象材料の選択比を上げることが可能である。また、非エッチング対象材料によってパターニングされた構造をエッチングする場合においては、垂直加工精度も向上する。
【0029】
上記のような非エッチング対象材料によってパターニングされた構造において、エッチング対象材料がSiO2などの酸素を含むSi系材料の場合、一般式(1)に示されるガス化合物を、CF4、CHF3、C26、C38、C48、C46、C58などのエッチングガスと混合してプラズマエッチングに用いることが、選択的なエッチング、垂直加工精度の良いエッチングには好ましい。特に、選択性の高さが要求されるような場合においては、Cの数の多いC48、C46、C58との混合が好ましい。
【0030】
非エッチング対象材料によってパターニングされた構造において、エッチング対象材料がSiNなどの窒素を含むSi系材料の場合、一般式(1)に示されるガス化合物を、CHF3、CH22、CH3FなどのHFCガスと混合してプラズマエッチングに用いることが、選択的なエッチング、垂直加工精度の良いエッチングには好ましい。特に、選択性の高さが要求されるような場合においては、Cの数が2以上のHFCガスを用いることも有効である。
【0031】
本発明におけるプラズマエッチング方法では、一般式(1)に示されるガス化合物が含まれるガスプラズマに対して、N、O、O CO、CO、COS、NO、NO、NO、SO、SOのいずれか1つ、もしくはこのうちの複数を添加することで、過剰なデポジション(堆積物)を抑制する、エッチング対象物のエッチングレートを向上させる、非エッチング対象材料に対するエッチング対象物の選択性を向上させるといった効果が得られる。
【0032】
過剰なデポジションを抑制する、エッチング対象物のエッチングレートを向上させる目的に対しては、特にO、O、CO NO、NO、NO、SO、SOのうちのいずれか1つ、もしくはこのうちの複数を添加することが好ましい。このうち、O、O、NO、SO、SOを用いることが特に好ましい。
【0033】
エッチング対象物のエッチングレートを向上させる、非エッチング対象材料に対するエッチング対象物の選択性を向上させる目的に対してはN2、CO、COS、N2Oを用いることが好ましく、このうちN2、COSを用いることが特に好ましい。
【0034】
本発明におけるプラズマエッチング方法では、一般式(1)に示されるガス化合物が含まれるガスプラズマに対して、H2、NH3、SiH4のいずれか1つ、もしくは複数を添加することで、過剰なFラジカルの発生を抑制しエッチング対象材料と非エッチング対象材料との選択性の向上させる、SiとNを含む膜のエッチングレートを向上させるといった効果が得られる。これらの効果を目的に対してはH2が特に好ましい。
【0035】
本発明におけるプラズマエッチング方法では、一般式(1)に示されるガス化合物が含まれるガスプラズマに対して、He、Ar、Ne、Kr、Xeいずれかの希ガスを希釈ガスとして用いることができる。このうちHe、Ar、Xeを用いることが好ましい。
【0036】
本発明の方法で使用するエッチングガスの例としては、以下のものが挙げられる。
(a)一般式(1)に示されるガス化合物単独
主に、硫黄原子を含む堆積膜が生成し、高い選択性でマスク材料に対してSi系膜をエッチングできるという利点がある。
(b)一般式(1)に示されるガス化合物(5~80体積%)及び希ガス(20~95体積%)
主に、単独で用いた場合に比べ、過剰な堆積を抑制し、エッチングの停止を抑制するという利点がある。
(c)一般式(1)に示されるガス化合物(5~60体積%)、N2、O2、O3、CO、CO2、COS、N2O、NO、NO2、SO2、SO3のいずれかひとつもしくはこのうちの複数(1~50体積%)及び希ガス(0~94体積%)
主に、単独で用いた場合に比べ、過剰な堆積を抑制し、マスク材料、エッチング対象ではないSi系膜とエッチング対象のSi系膜の選択性を調節できるという利点がある。
(d)一般式(1)に示されるガス化合物(1~50体積%)、CF4、CHF3、C26、C38、C48、C46、C58のいずれかひとつもしくはこのうちの複数(1~50体積%)、N2、O2、O3、CO、CO2、COS、N2O、NO、NO2、SO2、SO3のいずれかひとつもしくはこのうちの複数(1~50体積%)及び希ガス(0~97体積%)
主に、単独で用いた場合に比べ、Oを含むSi系膜のエッチングレートを上げ、マスク材料に対する選択性を向上できるという利点がある。
(e)一般式(1)に示されるガス化合物(1~50体積%)、CHF3、CH22、CH3Fのいずれかひとつもしくはこのうちの複数(1~50体積%)、N2、O2、O3、CO、CO2、COS、N2O、NO、NO2、SO2、SO3のいずれかひとつもしくはこのうちの複数(0~50体積%)、H2、NH3、SiH4のいずれか1つ、もしくは複数(0~50体積%)及び希ガス(0~98体積%)
主に、単独で用いた場合に比べ、過剰なFラジカルの発生を抑制し、Nを含むSi系膜のエッチングレートを上げ、マスク材料に対する選択性を向上できるという利点がある。
【0037】
本発明におけるプラズマエッチングに用いるプラズマエッチング装置は、プラズマ発生方式として、CCP(容量結合型)、ICP(誘導結合型)、ECR(電子サイクロトロン)など、安定したプラズマを発生できる装置であればプラズマ源の種類によらず様々なプラズマエッチング装置が使用可能である。また、本発明におけるプラズマエッチング方法はプラズマ中に発生するイオンを基板に照射することで、本発明の効果を高めることができるため、イオンを基板に電気的な作用によって引き込む機構を備えていることが好ましい。さらに、プラズマエッチング装置によっては、プラズマを発生させるエネルギー(ソースパワー)と、プラズマ中のイオンが基板に照射されるエネルギー(バイアスパワー)を個別に設定可能な装置があり、加工形状をより精密に制御する場合にはこのような装置を用いることが好ましい。
【0038】
本発明におけるプラズマエッチング方法は、微細なSi系材料のパターンウエハの垂直加工を行うものであるため、プラズマエッチングに用いるプラズマエッチング装置は、イオンアシストエッチングに適した、低ガス圧力条件を再現できる真空容器を備えた装置である必要がある。低圧力条件においては、プラズマ中の粒子の直進性が上がり、基板に照射されるイオンも他の粒子に阻害されることなく基板に到達するため、基板に対して垂直に入射するイオンが増え、垂直加工には有利である。本発明におけるプラズマエッチング方法においては、エッチング時の真空容器内の圧力は100Torr~0.1mTorrに調節されていることが好ましく、100mTorr~0.1mTorrに調節されていることがさらに好ましい。
【0039】
本発明におけるプラズマエッチング方法においては、一般式(1)に示されるガス化合物を気体としてプラズマエッチング装置の真空容器に導入することが好ましい。そのため、本発明におけるプラズマエッチング方法に用いるプラズマエッチング装置には一般式(1)に示されるガス化合物の気体として導入し、さらに、その導入量を調節するための機構を備えていることが好ましい。また、この機構については、本発明におけるプラズマエッチング方法が、一般式(1)に示されるガス化合物以外にもそのほかのガス化合物、例えば、O2、Ar、CF4など、目的に応じて複数用いることが有効であるため、ガス導入、導入量を調節する機構も4つ以上備えていることが好ましい。
【0040】
本発明におけるプラズマエッチング方法において、一般式(1)に示されるガス化合物、並びに、プラズマエッチングに使用するそのほかのガス化合物は、それぞれ1~3000sccmの範囲で流量を調節し、プラズマエッチング装置の真空容器に導入されることが好ましい。さらに、1~1000sccmの範囲で調節することが特に好ましい。
【実施例
【0041】
以下、実施例、比較例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
以下の例は図3に記載のCCP方式のプラズマエッチング装置を使用して行った。装置には低い圧力でプラズマを発生させるための真空容器と、処理するサンプルの温度を制御するための温度制御機構、一般式(1)に示されるガス化合物、並びに、プラズマエッチングに使用するそのほかのガス化合物を導入し、さらに、その導入量を調節するための機構として、マスフローコントローラーを備えたガス配管が4系統設置されている。また、真空容器内の圧力を既定の低圧力まで減圧するためのターボ分子ポンプ、ドライポンプの2つの真空ポンプが備えられており、真空容器と真空ポンプの間には、真空容器内の圧力を調節するための圧力調節弁が備えられている。図3の装置は真空容器内の上下一対の電極間にRFパワーを印加しプラズマを発生させるCCP方式のプラズマエッチング装置であるが、その他、ICP方式のプラズマエッチング装置やECR方式のプラズマエッチング装置なども利用可能である。
【0042】
本実施例に使用したエッチング対象サンプルは以下のものを使用している。
ブランケットウエハ(パターニングされていないもの)を使用したエッチングレートの測定
SiN:熱CVDによってSi基板上にSiNを300nm堆積させたもの。
SiO2:プラズマCVDによってSi基板上にSiO2を1000nm堆積させたもの。
上記のブランケットウエハはプラズマエッチング前後の膜厚を、光波干渉式の膜厚計を使用して測定し、その差からエッチングレートを算出している(数1)。[表1]における選択比はSiN、SiO2のエッチング量と各マスク材料のエッチング量から算出している(数2)。
(数1)
エッチングレート(nm/min)=
{(エッチング前のサンプル膜厚〔nm〕)-(エッチング後のサンプル膜厚〔nm〕)}/(エッチング時間〔min〕)
(数2)
選択比=
(SiO2 又は SiNのエッチング量)/(その他の膜のエッチング量)
【0043】
パターンウエハを使用したプラズマエッチング形状の評価
SOC/SiNパターンウエハ:図4に示すように、Si基板上にSiNが300nm堆積され、その上にSOC(ACLに準ずる炭素主体の材料)が100nm、その上にSOG(SiO2に準ずる材料)が20nm積層されている。マスクの開口幅は150nmとなっている。
【0044】
KrFレジスト/SiO2パターンウエハ:図5に示すように、Si基板上にSiO2が1000nm堆積され、その上に反射防止膜(BARC:SiONに準ずる材料)が90nm、さらにその上にKrFレジスト(C、Hなどで構成される樹脂材料)が380nm積層されている。マスクの開口幅は270nmとなっている。
【0045】
上記パターンウエハは走査型電子顕微鏡:FE-SEMを使用し、プラズマエッチング処理を行っていないサンプルと、プラズマエッチング処理を行ったサンプルの断面をそれぞれ観察した。プラズマエッチングによる未処理のサンプルからの変化量を、得られた観察像を測長することで評価した。
なお、本明細書において、特に断らない限り、ガスの組成比の単位は体積%である。
また、膜厚変化量は、エッチングによる膜厚減量を正の値で、堆積による膜厚増加を負の値で表現する。
【0046】
(実施例1)
CH3SCF3:21.4% O2:7.1% Ar:71.4% 圧力:10Pa RFパワー:300W 以上の条件でプラズマを発生させ、SOC/SiNパターンウエハサンプルを、SiN層が約50nmエッチングされる時間処理した後、サンプルの断面をFE-SEMにて観察した(図6)。エッチング時間は、パターンウエハをエッチングする条件と同じ条件でSiNブランケットウエハをエッチングし、[数1]に記載の方法で算出されるSiNブランケットウエハのエッチングレートから、SiNが50nmエッチングされる時間を求めている。エッチング後、パターンウエハのSOG層、SOC層、SiN層の膜厚変化量は、SOG:11.3nm SOC:±0nm SiN:56.0nmとなり、SOC膜に対して、SOG、SiN膜を選択的にエッチングすることができた。
【0047】
(実施例2)
CH3SCF3:23.5% O2:17.6% Ar:58.8% 圧力:10Pa RFパワー:300W 以上の条件でプラズマを発生させ、SOC/SiNパターンウエハサンプルを、SiN層が約50nmエッチングされる時間処理した後、サンプルの断面をFE-SEMにて観察した(図7)。エッチング後、パターンウエハのSOG層、SOC層、SiN層の膜厚変化量は、SOG:20.0nm SOC:±0nm SiN:42.0nmとなり、SOC膜に対してSOG、SiN膜を選択的にエッチングすることができた。
【0048】
(比較例1)
CH22:28.6% O2:0% Ar:71.4% 圧力:10Pa RFパワー:300W 以上の条件でプラズマを発生させ、SOC/SiNパターンウエハサンプルを、SiN層が約50nmエッチングされる時間処理した後、サンプルの断面をFE-SEMにて観察した結果、パターンが堆積膜に覆われており、エッチングは全く進まない結果となった。
【0049】
(比較例2)
CH22:26.7% O2:6.7% Ar:66.7% 圧力:10Pa RFパワー:300W 以上の条件でプラズマを発生させ、SOC/SiNパターンウエハサンプルを、SiN層が約50nmエッチングされる時間処理した後、サンプルの断面をFE-SEMにて観察した(図8)。エッチング後、パターンウエハのSOG層、SOC層、SiN層の膜厚変化量は、SOG:20.0nm SOC:2.0nm SiN:43.0nmとなり、実施例1、実施例2のようにSiNの選択的なエッチングや、SOCに対するSOG、SiNの選択的なエッチングが実現できなかった。
【0050】
(比較例3)
1,1,1-トリフルオロエタン(CF3CH3):26.7% O2:6.7% Ar:66.7% 圧力:10Pa RFパワー:300W 以上の条件でプラズマを発生させ、SOC/SiNパターンウエハサンプルをエッチング処理し、SiN層が約50nmエッチングされる時間処理した後、サンプルの断面をFE-SEMにて観察した結果、パターンが堆積膜に覆われ、エッチングは全く進まない結果となった。
【0051】
(比較例4)
1,1,1-トリフルオロエタン(CF3CH3):25.0% O2:12.5% Ar:62.5% 圧力:10Pa RFパワー:300W 以上の条件でプラズマを発生させ、SOC/SiNパターンウエハサンプルを、SiN層が約50nmエッチングされる時間処理した後、サンプルの断面をFE-SEMにて観察した(図9)。エッチング後、パターンウエハのSOG層、SOC層、SiN層の膜厚変化量は、SOG:20.0nm SOC:8.9nm SiN:43.0nmとなり、実施例1のようにSiNのみの選択的なエッチングは実現できなかった。
【0052】
以上の結果を表1にまとめた。
【表1】
【0053】
実施例1、2、比較例1ないし4より、一般式(1)に示されるチオエーテル骨格を持つガス化合物を用いることで、SOG、SOCを積層したSiNパターンにおいて、SOG、SOCに対してSiNを選択的にエッチングでき、また、条件を調整することで、SOCに対してSOG、SiNを選択的にエッチングできることが示されている。
【0054】
(実施例3)
CHF3:28.6% O2:0% Ar:71.4% 圧力:10Pa RFパワー:300W 以上の条件でプラズマを発生させ、KrFレジスト/SiO2パターンウエハを、SiO2が約300nmエッチングされる時間処理した後、サンプルの断面をFE-SEMにて観察した(図10)。エッチング時間は、パターンウエハをエッチングする条件と同じ条件でSiO2ブランケットウエハをエッチングし、[数1]に記載の方法で算出されるSiO2ブランケットウエハのエッチングレートから、SiO2が300nmエッチングされる時間を求めている。エッチング前のマスクの開口幅、270nmから、エッチング後のSiO2の開口幅がどの程度変化したか(エッチングされたSiO2の開口部と底部)を評価した(数3)。
(数3)
SiO2パターン開口部の幅変化量(以下ΔWt)
=エッチング後のSiO2開口部の幅(Wt)―エッチング前のレジストの加工幅(以下Wr)
SiO2パターン底部の幅変化量(以下ΔWb)
=エッチング後のSiO2パターン底部の幅(Wb)―エッチング前のレジストの加工幅(以下Wr)
結果、SiO2エッチング深さ:338.7nm、ΔWt=+36.5nm ΔWb=+41.3nmとなった。
【0055】
上記の結果を基準として、CH3SCF3を添加した場合にΔWt、ΔWbが基準の結果と比べて小さくなるかどうかを評価した。
CHF3:23.3% CH3SCF3:3.3% O2:6.7% Ar:66.7% 圧力:10Pa RFパワー:300W 以上の条件でプラズマを発生させ、KrFレジスト/SiO2パターンウエハを、SiO2が約300nmエッチングされる時間処理した後、サンプルの断面をFE-SEMにて観察した(図11)。結果、SiO2エッチング深さ:325.8nm、ΔWt=+0.6nm ΔWb=+0.7nmとなった。以上の結果より、ΔWtは35.9nm改善、ΔWbは40.6nm改善した。
【0056】
(比較例5)
実施例3と同様にCHF3を用いた結果を基準として、CH22を添加した場合にΔWt、ΔWbが基準の結果と比べて小さくなるかどうかを評価した。
CHF3:20.0% CH22:6.7% O2:6.7% Ar:66.7% 圧力:10Pa RFパワー:300W 以上の条件でプラズマを発生させ、KrFレジスト/SiO2パターンウエハを、SiO2が約300nmエッチングされる時間処理した後、サンプルの断面をFE-SEMにて観察した(図12)。結果、KrFマスクが消失し、パターンエッチングができなかった。
【0057】
(比較例6)
実施例3と同様にCHF3を用いた結果を基準として、CH22を添加した場合にΔWt、ΔWbが基準の結果と比べて小さくなるかどうかを評価した。
CHF3:24.1% CH22:3.4% O2:3.4% Ar:69.0% 圧力:10Pa RFパワー:300W 以上の条件でプラズマを発生させ、KrFレジスト/SiO2パターンウエハを、SiO2が約300nmエッチングされる時間処理した後、サンプルの断面をFE-SEMにて観察した(図13)。結果、パターンが堆積膜に覆われ、エッチングは全く進まない結果となった。
【0058】
(比較例7)
実施例3と同様にCHF3を用いた結果を基準として、CF3CH3を添加した場合にΔWt、ΔWbが基準の結果と比べて小さくなるかどうかを評価した。
CHF3:20.0% CF3CH3:6.7% O2:6.7% Ar:66.7% 圧力:10Pa RFパワー:300W 以上の条件でプラズマを発生させ、KrFレジスト/SiO2パターンウエハを、SiO2が約300nmエッチングされる時間処理した後、サンプルの断面をFE-SEMにて観察した(図14)。結果、SiO2エッチング深さ:267.2nm、ΔWt=+35.2nm ΔWb=+40.7nmとなった。以上の結果より、ΔWtは1.3nm改善、ΔWbは0.6nm改善したが、実施例3に比べ、改善量は小さかった。
【0059】
(比較例8)
実施例3と同様にCHF3を用いた結果を基準として、CF3CH3を添加した場合にΔWt、ΔWbが基準の結果と比べて小さくなるかどうかを評価した。
CHF3:24.1% CF3CH3:3.4% O2:3.4% Ar:69.0% 圧力:10Pa RFパワー:300W 以上の条件でプラズマを発生させ、KrFレジスト/SiO2パターンウエハを、SiO2が約300nmエッチングされる時間処理した後、サンプルの断面をFE-SEMにて観察した(図15)。結果、パターンが堆積膜に覆われ、エッチングは全く進まない結果となった。
【0060】
実施例3、比較例5ないし8の結果より、一般式(1)に示されるチオエーテル骨格を持つガス化合物を添加ガスとして用いることで、SiO2パターンの加工精度が改善できることが示されている。
【0061】
(実施例4)
CH3SCF3:28.6% Ar:71.4% 圧力:5Pa RFパワー:100W 以上の条件でプラズマを発生させ、Si基板を処理し、Si基板上に生じた堆積物に対して、断面観察結果から堆積レートを算出し、SEM-EDXによる組成分析を実施した。結果、堆積レート:33.2nm/min 質量濃度[%](C,F,S)=(86.5,0.7,12.8)となった。
CH3SCF3:28.6% Ar:71.4% 圧力:5Pa RFパワー:100W 以上の条件でプラズマを発生させ、Si基板を処理し、Si基板上に生じた堆積物に対して、さらに、Ar:100% 圧力:5Pa RFパワー:100W の条件で処理した。サンプルを断面観察結果から堆積物のエッチングレートを算出した。結果、堆積物のエッチングレート:2.8nm/minとなった。
【0062】
(比較例9)
CH22:28.6% Ar:71.4% 圧力:5Pa RFパワー:100W 以上の条件でプラズマを発生させ、Si基板を処理し、Si基板上に生じた堆積物に対して、断面観察結果から堆積レートを算出し、SEM-EDXによる組成分析を実施した。結果、堆積レート:22.4nm/min 質量濃度[%](C,F,S)=(95.8,4.2,0)となった。
CH22:28.6% Ar:71.4% 圧力:5Pa RFパワー:100W 以上の条件でプラズマを発生させ、Si基板を処理し、Si基板上に生じた堆積物に対して、さらに、Ar:100% 圧力:5Pa RFパワー:100W の条件で処理した。サンプルを断面観察結果から堆積物のエッチングレートを算出した。結果、堆積物のエッチングレート:1.8nm/minとなった。
【0063】
(比較例10)
CH3F:28.6% Ar:71.4% 圧力:5Pa RFパワー:100W 以上の条件でプラズマを発生させ、Si基板を処理し、Si基板上に生じた堆積物に対して、断面観察結果から堆積レートを算出し、SEM-EDXによる組成分析を実施した。結果、堆積レート:24.1nm/min 質量濃度[%](C,F,S)=(98.4,1.6,0)となった。
CH3F:28.6% Ar:71.4% 圧力:5Pa RFパワー:100W 以上の条件でプラズマを発生させ、Si基板を処理し、Si基板上に生じた堆積物に対して、さらに、Ar:100% 圧力:5Pa RFパワー:100W の条件で処理した。サンプルを断面観察結果から堆積物のエッチングレートを算出した。結果、堆積物のエッチングレート:1.1nm/minとなった。
【0064】
(比較例11)
CF3CH3:28.6% Ar:71.4% 圧力:5Pa RFパワー:100W 以上の条件でプラズマを発生させ、Si基板を処理し、Si基板上に生じた堆積物に対して、断面観察結果から堆積レートを算出し、SEM-EDXによる組成分析を実施した。結果、堆積レート:24.1nm/min 質量濃度[%](C,F,S)=(93.9,6.1,0)となった。
CF3CH3:28.6% Ar:71.4% 圧力:5Pa RFパワー:100W 以上の条件でプラズマを発生させ、Si基板を処理し、Si基板上に生じた堆積物に対して、さらに、Ar:100% 圧力:5Pa RFパワー:100W の条件で処理した。サンプルを断面観察結果から堆積物の物理的なエッチングレートを算出した。結果、堆積物のエッチングレート:1.0nm/minとなった。
【0065】
Si系の化合物はフッ素原子と反応して、式:
Si+4F→SiF4
により揮発物(SiF4)を生成する。式:
SiO2+CFx(デポ膜)→SiF4+CO+CO2
C(有機系マスク)+CFx→CaFb(bの値が大きい、即ち、Fが多いほうが揮発性が高い)
といった反応も起こる。この場合、反応系にFが多いとよりSiF4のような揮発性の高い物質がより多く生成するので、デポ膜中のF含有量が減らせると、上記の反応が抑制され、反応性が低くなる。
【0066】
実施例4、比較例9ないし11の結果より、一般式(1)に示されるチオエーテル骨格を持つガス化合物が含まれるプラズマから生じる堆積膜は、堆積レート、堆積物のエッチングレートは一般的なHFCガスと同程度のため、一般的なHFCと同様の使用方法が適応でき、堆積膜におけるF原子の含有量が低くなるため、堆積物とSi系膜との反応性が低くなることが期待される。例えば、パターンウエハを用いた比較実験では、先端のデバイス(図1、2のような)では複数の種類の膜が露出している状態で特定の膜を加工するプロセスがたびたび用いられる。そのような場合、加工対象となる膜を選択的に加工し、それ以外の膜は可能な限りエッチングしないような高選択的なプロセスが必要となる。また、加工対象となる膜が1種類ではない場合がある(図2のような場合)。本発明のエッチングガスは、このような要望に対して、エッチング条件を調節することで対応できるため、一つのデバイスを作製するために使用されるガス種の数を減らせるという利点がある。
【産業上利用の可能性】
【0067】
一般式(1)に示されるチオエーテル骨格を持つガス化合物を含む混合ガス、もしくは単体をプラズマ化し、エッチングに用いることで、複数種類のSi系材料が含まれる微細構造の加工において、非エッチング対象物に対して、エッチング対象材料のみを選択的に加工でき、また、微細構造の垂直加工精度を向上することができるため、3D-NANDの製造プロセスにおける、SiO2/SiNの積層構造の高アスペクト比エッチングや、ロジックデバイスにおけるFin-FET構造のような立体構造のエッチングに利用できる。

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15