(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-22
(45)【発行日】2022-12-01
(54)【発明の名称】液晶滴下工法用遮光シール剤、およびこれを用いた液晶表示パネルの製造方法
(51)【国際特許分類】
G02F 1/1339 20060101AFI20221124BHJP
C09K 3/10 20060101ALI20221124BHJP
C08G 59/40 20060101ALI20221124BHJP
【FI】
G02F1/1339 505
C09K3/10 B
C09K3/10 L
C08G59/40
(21)【出願番号】P 2020532342
(86)(22)【出願日】2019-07-18
(86)【国際出願番号】 JP2019028313
(87)【国際公開番号】W WO2020022188
(87)【国際公開日】2020-01-30
【審査請求日】2020-10-16
(31)【優先権主張番号】P 2018138353
(32)【優先日】2018-07-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大塚 健祐
【審査官】磯崎 忠昭
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/067582(WO,A1)
【文献】特開2006-099027(JP,A)
【文献】特開2013-011879(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/1339
C09K 3/10
C08G 59/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)有機酸と、
(B)1分子内にエチレン性不飽和二重結合を少なくとも1つ有する光硬化性樹脂(ただし、前記(A)有機酸を除く)と、
(C)チタノセン系光重合開始剤と、
(D)pHが7.0未満またはpHが8.0を超える遮光剤と、
(E)1分子内にエポキシ基を少なくとも1つ有する熱硬化性化合物(ただし、前記(B)光硬化性樹脂を除く)と、
(F)熱硬化剤と、
を含み、
前記(A)有機酸の下記式(1)で表される酸素原子当量が、23g/eq以上75g/eq以下であり、
黒色度が2~5であり、
前記(D)遮光剤の量が、5~20質量%であ
り、
前記(D)遮光剤がカーボンブラック、バナジウムを含む無機化合物、鉄を含む無機化合物、および銅を含む無機化合物からなる群から選ばれる一種以上を含む、液晶滴下工法用遮光シール剤。
酸素原子当量(g/eq)=(有機酸の分子量)/(有機酸1分子中の酸素原子数)・・(1)
【請求項2】
前記(D)遮光剤が炭素およびチタンのうち、少なくとも一方を含む、
請求項1に記載の液晶滴下工法用遮光シール剤。
【請求項3】
前記(A)有機酸が1分子内に、-OH基、-NH
2基、-NHR基(Rは、芳香族、脂肪族炭化水素又はこれらの誘導体を表す)、-COOH基、-OP(=O)(OH)
2基、-P(=O)(OH)
2基、-SO
3H基、-CONH
2基、および-NHOH基からなる群より選ばれる官能基を少なくとも1つ有する、
請求項1または2に記載の液晶滴下工法用遮光シール剤。
【請求項4】
前記(B)光硬化性樹脂が分子内にエポキシ基をさらに有する、
請求項1~3のいずれか一項に記載の液晶滴下工法用遮光シール剤。
【請求項5】
前記(F)熱硬化剤が、ジヒドラジド系熱潜在性硬化剤、イミダゾール系熱潜在性硬化剤、アミンアダクト系熱潜在性硬化剤、およびポリアミン系熱潜在性硬化剤からなる群より選ばれる1以上である、
請求項1~4のいずれか一項に記載の液晶滴下工法用遮光シール剤。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載の液晶滴下工法用遮光シール剤を用いて、一方の基板にシールパターンを形成する工程と、
前記シールパターンが未硬化の状態において、前記シールパターンの領域内、または前記一方の基板と対になる他方の基板に液晶を滴下する工程と、
前記一方の基板と前記他方の基板とを、前記シールパターンを介して重ね合わせる工程と、
前記シールパターンを硬化させる工程と、
を含む、液晶表示パネルの製造方法。
【請求項7】
前記シールパターンを硬化させる工程は、前記シールパターンに光を照射して前記シールパターンを硬化させる工程を含む、
請求項6に記載の液晶表示パネルの製造方法。
【請求項8】
前記シールパターンに照射する光は、可視光領域の光を含む、
請求項7に記載の液晶表示パネルの製造方法。
【請求項9】
前記シールパターンを硬化させる工程は、光が照射された前記シールパターンを加熱して硬化させる工程をさらに含む、
請求項7または8に記載の液晶表示パネルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶滴下工法用遮光シール剤、およびこれを用いた液晶表示パネルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話やパーソナルコンピュータをはじめとする各種電子機器の画像表示パネルとして、液晶表示パネルが広く使用されている。液晶表示パネルは、表面に電極が設けられた2枚の透明基板の間に液晶材料(以下、単に「液晶」とも称する)を挟み込み、その周りを液晶シール剤によってシールされた構造を有する画像表示パネルである。
【0003】
上記液晶シール剤は、その使用量は僅かであるものの液晶と直接接触するため、液晶表示パネルの信頼性に大きな影響を与える。したがって、液晶表示パネルの高画質化を実現するため、現在、液晶シール剤には、高度かつ多様な特性が求められている。
【0004】
近年、液晶表示パネルの製造方法として、液晶滴下工法が多く採用されている。液晶滴下工法では、(1)透明な基板の上に液晶シール剤を塗布して、液晶を充填するための枠を形成し、(2)前記枠内に微小の液晶を滴下する。そして(3)液晶シール剤が未硬化状態のままで2枚の基板を高真空下で重ね合わせた後、(4)液晶シール剤を硬化させてパネルを製造する方法である。液晶滴下工法では、光および熱の両方によって硬化可能な液晶シール剤を使用してもよい。この場合、上記(3)の工程で、液晶シール剤に紫外線などの光を照射する仮硬化を行った後、加熱による後硬化を行うことができる。
【0005】
当該液晶滴下工法では、液晶シール剤が未硬化の状態で長時間液晶と接触する。そのため、従来の液晶注入工法よりも液晶シール剤の成分が液晶に溶解しやすい。そこで、液晶シール剤に有機酸を添加することで光硬化性を高め、液晶の汚染を抑制すること等が提案されている(特許文献1)。
【0006】
一方、従来の液晶シール剤の硬化物(以下、「シール部材」とも称する)は、無色や白色であることが多かった。しかしながら、このようなシール部材が所望の領域外にはみ出すと、この部分からバックライトの光が漏れ出し、コントラスト低下の原因となることがあった。そこで、液晶シール剤に遮光剤を含め、得られるシール部材を黒色化することも検討されている(特許文献2~4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】国際公開第2016/067582号
【文献】特開2006-99027号公報
【文献】特開2006-313286号公報
【文献】特開2017-107234号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
シール部材を黒色化することで、例えば幅の広い配線等をシール部材によって被覆することが可能となったり、カラーフィルタをTFTアレイ側に配置したりすることが可能となる。その結果、配線設計の自由度が広がったり、液晶表示パネルの高輝度化が図れたりする。
【0009】
ただし、液晶シール剤を黒色化すると、液晶シール剤を硬化させるための光が深部まで到達し難くなり、硬化不良が生じやすかった。そこで、液晶シール剤に、長波長側まで吸収波長を有する光重合開始剤を使用したり、熱ラジカル発生剤を添加したりすること等が考えられる。しかしながら、このような方法でも、黒色の液晶シール剤の光硬化性を十分に高めることは難しく、得られる液晶表示パネルに液晶漏れが生じたり、基板どうしの接着強度が不十分になったりしやすかった。
【0010】
本発明は、上記課題を鑑みてなされたものである。すなわち、光硬化性が良好であり、液晶の汚染を生じさせることなく、液晶表示パネルの基板どうしの間を確実に封止することが可能な液晶滴下工法用遮光シール剤や、これを用いた液晶表示パネルの製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、以下の液晶滴下工法用遮光シール剤を提供する。
[1](A)有機酸と、(B)1分子内にエチレン性不飽和二重結合を少なくとも1つ有する光硬化性樹脂(ただし、前記(A)有機酸を除く)と、(C)チタノセン系光重合開始剤と、(D)pHが7.0未満または8.0を超える遮光剤と、(E)1分子内にエポキシ基を少なくとも1つ有する熱硬化性化合物(ただし、前記(B)光硬化性樹脂を除く)と、(F)熱硬化剤と、を含み、前記(A)有機酸の下記式(1)で表される酸素原子当量が、23g/eq以上75g/eq以下である、液晶滴下工法用遮光シール剤。
酸素原子当量(g/eq)=(有機酸の分子量)/(有機酸1分子中の酸素原子数)・・(1)
【0012】
[2]黒色度が2~5である、[1]に記載の液晶滴下工法用遮光シール剤。
[3]前記(D)遮光剤が炭素およびチタンのうち、少なくとも一方を含む、[1]または[2]に記載の液晶滴下工法用遮光シール剤。
[4]前記(A)有機酸が1分子内に、-OH基、-NH2基、-NHR基(Rは、芳香族、脂肪族炭化水素又はこれらの誘導体を表す)、-COOH基、-OP(=O)(OH)2基、-P(=O)(OH)2基、-SO3H基、-CONH2基、および-NHOH基からなる群より選ばれる官能基を少なくとも1つ有する、[1]~[3]のいずれかに記載の液晶滴下工法用遮光シール剤。
【0013】
[5]前記(B)光硬化性樹脂が分子内にエポキシ基をさらに有する、[1]~[4]のいずれかに記載の液晶滴下工法用遮光シール剤。
[6]前記(F)熱硬化剤が、ジヒドラジド系熱潜在性硬化性、イミダゾール系熱潜在性硬化剤、アミンアダクト系熱潜在性硬化剤、およびポリアミン系熱潜在性硬化剤からなる群より選ばれる1以上である、[1]~[5]のいずれかに記載の液晶滴下工法用遮光シール剤。
【0014】
本発明は、以下の液晶表示パネルの製造方法も提供する。
[7]上記[1]~[6]のいずれかに記載の液晶滴下工法用遮光シール剤を用いて、一方の基板にシールパターンを形成する工程と、前記シールパターンが未硬化の状態において、前記シールパターンの領域内、または前記一方の基板と対になる他方の基板に液晶を滴下する工程と、前記一方の基板と前記他方の基板とを、前記シールパターンを介して重ね合わせる工程と、前記シールパターンを硬化させる工程と、を含む、液晶表示パネルの製造方法。
【0015】
[8]前記シールパターンを硬化させる工程は、前記シールパターンに光を照射して前記シールパターンを硬化させる工程を含む、[7]に記載の液晶表示パネルの製造方法。
[9]前記シールパターンに照射する光は、可視光領域の光を含む、[8]に記載の液晶表示パネルの製造方法。
[10]前記シールパターンを硬化させる工程は、光が照射された前記シールパターンを加熱して硬化させる工程をさらに含む、[8]または[9]に記載の液晶表示パネルの製造方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明の液晶滴下工法用シール剤は、遮光剤を含むにもかかわらず、光硬化性が良好である。また、当該液晶滴下工法用シール剤は、液晶と接触しても、液晶を汚染し難い。したがって、当該液晶滴下工法用シール剤によれば、表示信頼性に優れた液晶表示パネルが得られる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
1.液晶滴下工法用遮光シール剤
本発明の液晶滴下工法用遮光シール剤(以下、単に「シール剤」とも称する)は、(A)有機酸と、(B)光硬化性樹脂と、(C)チタノセン系光重合開始剤と、(D)遮光剤と、(E)熱硬化性化合物と、(F)熱硬化剤と、を含む。シール剤は、必要に応じてこれら以外の成分を含んでいてもよい。
【0018】
前述のように、遮光剤を含む従来の液晶シール剤では、遮光剤を添加すると、内部まで十分に光硬化させることが難しかった。そのため、このような液晶シール剤を用いて作製された液晶表示パネルでは、液晶漏れが生じたり、基板どうしの接着強度が不足したりしやすい、という課題があった。
【0019】
これに対し、本発明のシール剤が含む(D)遮光剤は、pHが7未満(より詳しくは7.0未満)またはpHが8.0超であり、遮光剤の分散性が格段に良好である。その理由は定かではないが、(D)遮光剤のpHが7未満(より詳しくは7.0未満)またはpHが8.0超であると、(D)遮光剤とシール剤中の他の成分(例えば(A)有機酸や、(B)光硬化性樹脂や(E)熱硬化性化合物等)とが相互作用すると考えられる。その結果、(D)遮光剤の分散性が良好になると考えられる。なお、(D)遮光剤の分散性が低いと、(D)遮光剤の濃度の高い領域で硬化不良が生じやすくなり、硬化性にムラが生じる。これに対し、本発明のように、シール剤中に(D)遮光剤が均一に分散されていると、シール剤全体の硬化性が均一となる。
【0020】
また、本発明のシール剤は、(A)有機酸を含んでおり、当該(A)有機酸によって、(B)光硬化性樹脂の光硬化反応が促進される。またこのとき、(A)有機酸の酸素原子当量が所定の範囲であることから、液晶が(A)有機酸と接触しても、液晶に影響を及ぼし難い。
【0021】
さらに、本発明のシール剤は、可視光吸収能を有する(C)チタノセン系光重合開始剤を含む。比較的長波長の光(例えば可視光)は、シール剤の内部まで到達しやすい。したがって、このような長波長の光によって活性化可能なチタノセン系光重合開始剤を用いることで、シール剤の深部硬化性を高めることができる。
【0022】
以上のように、本発明のシール剤は、その黒色度が例えば2~5となるように(D)遮光剤を含むにもかかわらず、光硬化性が良好である。また、当該シール剤によれば、未硬化成分によって液晶の汚染を生じさせることなく、液晶表示パネルの基板どうしの間を確実に封止することが可能である。
【0023】
(A)有機酸
前述のように、シール剤に(A)有機酸が含まれると、シール剤の光硬化性が高まる。本明細書において、(A)有機酸は、ブレンステッド酸であればよく、(A)有機酸には、酸無水物構造を有する化合物も含むものとする。
【0024】
ここで、(A)有機酸は、下記式(1)で表される酸素原子当量が23g/eq以上75g/eq以下であり、好ましくは25~60g/eqであり、さらに好ましくは27~55g/eqである。
酸素原子当量(g/eq)=(有機酸の分子量)/(有機酸1分子中の酸素原子数)・・(1)
【0025】
上記酸素原子当量が23g/eq以上であると、液晶表示パネルの作製の際、(A)有機酸(シール剤)が液晶と接触しても、液晶と(A)有機酸が相溶し難く、液晶が汚染され難い。一方、酸素原子当量が75g/eq以下であると、たとえ微量の(A)有機酸が液晶に溶出したとしても、影響を及ぼしにくくなる。
【0026】
ここで、(A)有機酸には、-OH基、-NH2基、-NHR基(Rは、芳香族、脂肪族炭化水素又はこれらの誘導体を表す)、-COOH基、-OP(=O)(OH)2基、-P(=O)(OH)2基、-SO3H基、-CONH2基、-NHOH基からなる群より選ばれる1種以上の官能基が含まれることが好ましい。より好ましくは、-COOH基または-OP(=O)(OH)2基が含まれることが好ましい。(A)有機酸にこれらの基が含まれると、(A)有機酸と液晶とが相溶し難くなり、液晶の汚染が抑制されやすい。(A)有機酸には、これらの基が1種のみ含まれてもよく、2種以上含まれてもよい。
【0027】
(A)有機酸の例には、酢酸、酪酸、蓚酸、クエン酸、ラウリル酸、ステアリン酸、マロン酸、アジピン酸、酒石酸、安息香酸、サリチル酸、フタル酸、リン酸モノエチル、リン酸モノフェニル、リン酸ジエチル、リン酸モノ2-エチルヘキシル、リン酸ジ(2-エチルヘキシル)、ベンゼンスルホン酸、トルエンスルホン酸、スルホ安息香酸、ギ酸、プロピオン酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、マルガリン酸、コハク酸、グルタル酸、ドデカン二酸、セパシン酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ベンゼントリカルボン酸(異性体含む)、ピロメリット酸、メリト酸、4-(4-ヒドロキシフェニル)安息香酸、6-ヒドロキシ-1-ナフトエ酸、フェニルホスホン酸、グリコール酸、トリメリット酸、トリメリット酸無水物、4’-ヒドロキシ-4-ビフェニルカルボン酸等の1分子内にエチレン性不飽和二重結合を有さない(A)有機酸が含まれる。
【0028】
また、1分子内にエチレン性不飽和二重結合を有さない(A)有機酸の例には、下記式で表される化合物も含まれる。
【化1】
【0029】
上記(A)有機酸には、エチレン性不飽和二重結合が分子中に含まれてもよい。(A)有機酸1分子内に不飽和二重結合が少なくとも1つ含まれると、(A)有機酸が(B)光硬化性樹脂と重合し、シール剤の硬化物から(A)有機酸が滲出し難くなる。(A)有機酸1分子内に含まれる不飽和二重結合の数は、2つ以上であってもよい。
【0030】
1分子内に不飽和二重結合を有する(A)有機酸の例には、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルコハク酸、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルフタル酸、ビスフェノールA型エポキシ(メタ)アクリレートの酸無水物変性化合物、ビスフェノールA型エポキシ(メタ)アクリレートのリン酸変性化合物、ビスフェノールF型エポキシ(メタ)アクリレートの酸無水物変性化合物、ビスフェノールF型エポキシアクリレートのリン酸変性化合物、リン酸(メタ)アクリレート類、もしくはこれらの高分子量体が含まれる。なお、(メタ)アクリルとは、アクリルまたはメタクリルのいずれか、もしくは両方を意味する。
【0031】
また、上記リン酸(メタ)アクリレート類の例には、[CH2=CRCOOCH2CH2[OCO(CH2)6]aO]bPO(OH)3-b(Rは水素原子またはメチル基を表し、aは0~2を表し、bは1または2を表す)、もしくは[CH2=CRCOOCH2CH2[OCH2CH(CH3)]cO]dPO(OH)3-e(Rは水素原子またはメチル基を表し、dは0~2を表し、cおよびeは1または2を表す)で表される化合物が含まれる。
【0032】
上記の中でも好ましい(A)有機酸としては、シュウ酸、酒石酸、トリメリット酸、トリメリット酸無水物、イソフタル酸、フェニルホスホン酸、4’-ヒドロキシ-4-ビフェニルカルボン酸、テレフタル酸、コハク酸、およびグルタル酸が挙げられる。
【0033】
また、(A)有機酸の好ましい分子量は60~5000であり、60~3000であることがより好ましく、100~1500であることがさらに好ましい。(A)有機酸の分子量が上記範囲であると、シール剤内部で(A)有機酸が流動しやすく、シール剤の光硬化が促進されやすくなる。
【0034】
また、シール剤100質量部に対する、(A)有機酸の含有量は0.01~20質量部であり、好ましくは0.05~10質量部である。(A)有機酸が上記範囲含まれると、シール剤の光硬化性が高まりやすく、さらに(A)有機酸によって液晶が汚染され難くなる。
【0035】
(B)光硬化性樹脂
(B)光硬化性樹脂は、エチレン性不飽和二重結合を1分子内に少なくとも1つ有する樹脂であれば特に制限されない。ただし、本明細書において、(B)光硬化性樹脂には、前述の(A)有機酸に相当する化合物は含まないものとする。(B)光硬化性樹脂の例には、(B1)(メタ)アクリル樹脂や、(B2)1分子内にエポキシ基と(メタ)アクリル基とをそれぞれ少なくとも1つ有する(メタ)アクリル変性エポキシ樹脂が含まれる。
【0036】
光硬化性樹脂が、(B1)(メタ)アクリル樹脂、または(B2)(メタ)アクリル変性エポキシ樹脂であると、シール剤の光硬化性が十分に高まりやすい。また特に光硬化性樹脂が(B2)(メタ)アクリル変性エポキシ樹脂であると、シール剤の硬化物の耐湿性が高まりやすい。なお、本発明のシール剤には、(B1)(メタ)アクリル樹脂および(B2)(メタ)アクリル変性エポキシ樹脂の両方が含まれてもよい。
【0037】
(B1)(メタ)アクリル樹脂は、1分子内に1つ以上の(メタ)アクリル基を含む化合物であり、エポキシ基を含まない化合物とする。(B1)(メタ)アクリル樹脂の例には、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリプロピレングリコール等のジアクリレートおよび/またはジメタクリレート;トリス(2-ヒドロキシエチル)イソシアヌレートのジアクリレートおよび/またはジメタクリレート;ネオペンチルグリコール1モルに4モル以上のエチレンオキサイド若しくはプロピレンオキサイドを付加して得たジオールのジアクリレートおよび/またはジメタクリレート;ビスフェノールA1モルに2モルのエチレンオキサイド若しくはプロピレンオキサイドを付加したジオールのジアクリレートおよび/またはジメタクリレート;トリメチロールプロパン1モルに3モル以上のエチレンオキサイド若しくはプロピレンオキサイドを付加したトリオールのジまたはトリアクリレートおよび/またはジまたはトリメタクリレート;ビスフェノールA1モルに4モル以上のエチレンオキサイド若しくはプロピレンオキサイドを付加したジオールのジアクリレートおよび/またはジメタクリレート;トリス(2-ヒドロキシエチル)イソシアヌレートトリアクリレートおよび/またはトリメタクリレート;トリメチロールプロパントリアクリレートおよび/またはトリメタクリレート、またはそのオリゴマー;ペンタエリスリトールトリアクリレートおよび/またはトリメタクリレート、またはそのオリゴマー;ジペンタエリスリトールのポリアクリレートおよび/またはポリメタクリレート;トリス(アクリロキシエチル)イソシアヌレート;カプロラクトン変性トリス(アクリロキシエチル)イソシアヌレート;カプロラクトン変性トリス(メタクリロキシエチル)イソシアヌレート;アルキル変性ジペンタエリスリトールのポリアクリレートおよび/またはポリメタクリレート;カプロラクトン変性ジペンタエリスリトールのポリアクリレートおよび/またはポリメタクリレート;ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジアクリレートおよび/またはジメタクリレート;カプロラクトン変性ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジアクリレートおよび/またはジメタクリレート;エチレンオキサイド変性リン酸アクリレートおよび/またはジメタクリレート;エチレンオキサイド変性アルキル化リン酸アクリレートおよび/またはジメタクリレート;ネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトールのオリゴアクリレートおよび/またはオリゴメタクリレート等が含まれる。
【0038】
(B1)(メタ)アクリル樹脂の重量平均分子量は、例えば310~1000程度とすることができる。(B1)(メタ)アクリル樹脂の重量平均分子量Mwは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により、ポリスチレンを標準として測定できる。
【0039】
また、シール剤における(B1)(メタ)アクリル樹脂の量は、シール剤に求められる硬化性や、その黒色度にもよるが、シール剤100質量部に対して、5~80質量部であることが好ましく、10~80質量部であることがより好ましい。
【0040】
一方、(B2)(メタ)アクリル変性エポキシ樹脂は、(メタ)アクリル基とエポキシ基とを、それぞれ少なくとも1つ含む化合物であり、好ましくはエポキシ樹脂と(メタ)アクリル酸とを、例えば三級アミン等の塩基性触媒の存在下で反応させることにより得られる化合物である。
【0041】
(B2)(メタ)アクリル変性エポキシ樹脂は、分子内にエポキシ基と(メタ)アクリル基とを有するため、光硬化性と熱硬化性とを併せ持つことができる。さらに、(メタ)アクリル変性エポキシ樹脂は、液晶に対する溶解性が低く、液晶に影響を及ぼし難い。
【0042】
(B2)(メタ)アクリル変性エポキシ樹脂の原料となるエポキシ樹脂は、分子内にエポキシ基を2つ以上有する2官能以上のエポキシ樹脂であればよく、その例には、ビスフェノールA型、ビスフェノールF型、2,2’-ジアリルビスフェノールA型、ビスフェノールAD型、および水添ビスフェノール型等のビスフェノール型エポキシ樹脂;フェノールノボラック型、クレゾールノボラック型、ビフェニルノボラック型、およびトリスフェノールノボラック型等のノボラック型エポキシ樹脂;ビフェニル型エポキシ樹脂;ナフタレン型エポキシ樹脂等が含まれる。3官能や4官能などの多官能エポキシ樹脂を(メタ)アクリル変性して得られる(メタ)アクリル変性エポキシ樹脂は、架橋密度が高く、基板に対する密着強度が低くなりやすい。そこで、(B2)(メタ)アクリル変性エポキシ樹脂の原料となるエポキシ樹脂は、2官能のエポキシ樹脂であることが好ましい。
【0043】
また特に、2官能のエポキシ樹脂は、ビフェニル型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、およびビスフェノール型エポキシ樹脂であることが好ましく、なかでもビスフェノールA型およびビスフェノールF型等のビスフェノール型エポキシ樹脂が、シール剤の塗布性等の観点から好ましい。
【0044】
原料となるエポキシ樹脂は、1種類のみであってもよく、2種類以上を組み合わせてもよい。また、原料となるエポキシ樹脂は、分子蒸留法、洗浄法等により高純度化されていることが好ましい。
【0045】
ここで、(B2)(メタ)アクリル変性エポキシ樹脂は、原料となるエポキシ樹脂のエポキシ基の10~99.5%が(メタ)アクリル基で変性されたものであることが好ましく、30~95%がアクリル基で変性されたものであることがより好ましい。エポキシ基が上記範囲、(メタ)アクリル基で変性されていると、シール剤の光硬化性及び熱硬化性が良好になり、さらにシール剤の硬化物の耐湿性が低くなりやすい。
【0046】
(B2)(メタ)アクリル変性エポキシ樹脂の重量平均分子量は、例えば310~1000程度とすることができる。(B2)(メタ)アクリル変性エポキシ樹脂の重量平均分子量Mwは、例えばゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により、ポリスチレンを標準として測定できる。
【0047】
シール剤における(B2)(メタ)アクリル変性エポキシ樹脂の量は、求められる硬化性の程度にもよるが、シール剤100質量部に対して、5~80質量部であることが好ましく、10~80質量部であることがより好ましい。
【0048】
ここで、(B)光硬化性樹脂は、分子内に水酸基、ウレタン結合、アミド基、カルボキシル基などの水素結合性官能基を有することが好ましい。これらの基は、例えばエポキシ樹脂のエポキシ基が(メタ)アクリル酸と反応することにより生成する水酸基であってもよく、(B)光硬化性樹脂の原料となる化合物(例えば(メタ)アクリル酸やエポキシ樹脂等)に含まれる水酸基等であってもよく、また原料となる化合物に含まれるウレタン結合や、カルボキシル基、アミド基等であってもよい。
【0049】
(B)光硬化性樹脂が、水素結合性官能基を有すると、疎水性である液晶材料との相溶性が低くなり、液晶への溶解が抑制される。その結果、液晶滴下工法用に適したシール剤が得られやすくなる。
【0050】
(B)光硬化性樹脂が含む水素結合性官能基の当量は、1.0×10-4~5×10-3mol/gであることが好ましく、3.5×10-3~4.5×10-3mol/gであることがより好ましい。水素結合性官能基当量が1.0×10-4mol/g以上であると、(B)光硬化性樹脂の液晶への溶解が抑制されやすくなる。一方、水素結合性官能基当量が5×10-3mol/g以下であると、(B)光硬化性樹脂の硬化物が充分な耐湿性を有しやすく、シール剤の硬化物の耐湿性が低下しにくい。
【0051】
(B)光硬化性樹脂の水素結合性官能基当量(mol/g)は、「(B)光硬化性樹脂1分子に含まれる水素結合性官能基の数」/「(B)光硬化性樹脂の重量平均分子量(Mw)」として表される。例えば、水素結合性官能基として、(メタ)アクリル酸とエポキシ樹脂とを反応させて得られる水酸基のみを有する場合、水素結合性官能基当量は、反応させた(メタ)アクリル酸のモル数を、(メタ)アクリル変性エポキシ樹脂の重量平均分子量(Mw)で割ることにより求めることができる。
【0052】
ここで、(B)光硬化性樹脂が上述の(B1)(メタ)アクリル樹脂である場合、その水素結合性官能基当量は、(B1)(メタ)アクリル樹脂を得るための単量体が含む水素結合性官能基の量を調整すること等によって制御することができる。一方、(B)光硬化性樹脂が上述の(B2)(メタ)アクリル変性エポキシ樹脂である場合、その水素結合性官能基当量は、例えば、原料となるエポキシ樹脂に反応させる(メタ)アクリル酸のモル数を調整したり、原料となる(メタ)アクリル酸やエポキシ樹脂が有する水素結合性官能基の量を調整したりすることなどによって制御することができる。
【0053】
シール剤100質量部に対する、(B)光硬化性樹脂の総量(例えば、(B1)(メタ)アクリル樹脂と(B2)(メタ)アクリル変性エポキシ樹脂との合計量)は、5~80質量部であることが好ましく、10~80質量部であることがより好ましい。
【0054】
(C)チタノセン系光重合開始剤
本発明のシール剤が含む(C)チタノセン系光重合開始剤は、前述の(B)光硬化性樹脂を硬化させるための化合物である。前述のように、(C)チタノセン系光重合開始剤は、可視光吸収能を有するため、当該(C)チタノセン系光重合開始剤を用いることで、シール剤の深部硬化性を高めることが可能となる。
【0055】
(C)チタノセン系光重合開始剤の例には、ビス(η5-2,4-シクロペンタジエン-1-イル)-ビス(2,6-ジフルオロ-3-(1H-ピロール-1-イル)-フェニル)チタニウム、ビス(シクロペンタジエニル)-ジクロロチタニウム、ビス(シクロペンタジエニル)-ジフェニルチタニウム、ビス(シクロペンタジエニル)-ビス(2,3,4,5,6ペンタフルオロフェニル)チタニウム、ビス(シクロペンタジエニル)-ビス(2,6ジフルオロフェニル)チタニウム、ビス(メチルシクロペンタジエニル)-ビス(2,3,4,5,6ペンタフルオロフェニル)チタニウム、ビス(メチルシクロペンタジエニル)-ビス(2,6ジフルオロフェニル)チタニウム、ビス(シクロペンタジエニル)-ビス[2,6-ジフルオロ-3-(2-(1-ピル-1-イル)エチル)フェニル]チタニウム、ビス(シクロペンタジエニル)-ビス[2,6-ジフルオロ-3-((1-ピル-1-イル)メチル)フェニル]チタニウム、ビス(メチルシクロペンタジエニル)-ビス[2,6-ジフルオロ-3-((1-ピル-1-イル)メチル)フェニル]チタニウム、ビス(シクロペンタジエニル)-ビス[2,6-ジフルオロ-3-((2,5-ジメチル-1-ピル-1-イル)メチル)フェニル]チタニウム、ビス(シクロペンタジエニル)-ビス[2,6-ジフルオロ-3-((3-トリメチルシリル-2,5-ジメチル-1-ピル-1-イル)メチル)フェニル]チタニウム、ビス(シクロペンタジエニル)-ビス[2,6-ジフルオロ-3-((2,5-ビス(モルホリノメチル)-1-ピル-1-イル)メチル)フェニル]チタニウム、ビス(シクロペンタジエニル)-ビス[2,6-ジフルオロ-4-((2,5-ジメチル-1-ピル-1-イル)メチル)フェニル]チタニウム、ビス(シクロペンタジエニル)-ビス[2,6-ジフルオロ-3-メチル-4-(2-(1-ピル-1-イル)エチル)フェニル]チタニウム、ビス(シクロペンタジエニル)-ビス[2,6-ジフルオロ-3-(1-メチル-2-(1-ピル-1-イル)エチル)フェニル]チタニウム、ビス(シクロペンタジエニル)-ビス[2,6-ジフルオロ-3-(6-(9-カルバゾル-9-イル)ヘキシル)フェニル]チタニウム、ビス(シクロペンタジエニル)-ビス[2,6-ジフルオロ-3-(3-(4,5,6,7-テトラヒドロ-2-メチル-1-インドル-1-イル)プロピル)フェニル]チタニウム、ビス(シクロペンタジエニル)-ビス[2,6-ジフルオロ-3-((アセチルアミノ)メチル)フェニル]チタニウム、ビス(シクロペンタジエニル)-ビス[2,6-ジフルオロ-3-(2-(プロピオニルアミノ)エチル)フェニル]チタニウム、ビス(シクロペンタジエニル)-ビス[2,6-ジフルオロ-3-(4-(ビバロイルアミノ)ブチル)フェニル]チタニウム、ビス(シクロペンタジエニル)-ビス[2,6-ジフルオロ-3-(2-(2,2-ジメチルペンタノイルアミノ)エチル)フェニル]チタニウム、ビス(シクロペンタジエニル)-ビス[2,6-ジフルオロ-3-(3-(ベンゾイルアミノ)プロピル)フェニル]チタニウム、ビス(シクロペンタジエニル)-ビス[2,6-ジフルオロ-3-(2-(N-アリルメチルスルホニルアミノ)エチル)フェニル]チタニウム等が含まれる。シール剤には、(C)チタノセン系光重合開始剤が1種のみ含まれてもよく、2種以上が含まれてもよい。
【0056】
上記の中でも、波長300~550nmの光を吸収可能であることが好ましく、350~500nmの光を吸収可能であることがより好ましい。
【0057】
シール剤100質量部に対する、(C)チタノセン系光重合開始剤の含有量は0.01~20質量部であり、好ましくは0.1~10質量部である。シール剤に、(C)チタノセン系光重合開始剤が上記範囲含まれると、シール剤の光硬化性が高まりやすい。
【0058】
(D)遮光剤
本発明のシール剤が含む遮光剤は、pHが7未満(詳しくは7.0未満)、もしくはpHが8.0超であり、かつシール剤の黒色度を例えば2~5に調整可能なものであれば特に制限されない。(D)遮光剤のpHが7未満(詳しくは7.0未満)、もしくはpHが8.0超であると、上述のように(D)遮光剤のシール剤中での分散性が良好になり、シール剤の硬化性が良好になる。
【0059】
(D)遮光剤のpHは、(D)遮光剤を純水で20倍に希釈・攪拌した後、(D)遮光剤を含む純水のpHを、HORIBA社製コンパクトpHメーター B-71Xで測定することで求めることができる。(D)遮光剤のpHが7.0未満である場合、1~6であることが好ましく、1~4であることがより好ましい。一方、(D)遮光剤のpHが8.0を超える場合、pHは10.0以下が好ましい。
【0060】
上述のpHを満たす(D)遮光剤の例には、カーボンブラック、チタンブラック、バナジウム、鉄や銅などの無機系化合物が含まれる。これらの中でも炭素を含むことが好ましく、その例には酸性カーボンブラック等が含まれる。酸性カーボンブラックは、チャンネルブラックであってもよく、カーボンブラックを酸化処理したものであってもよい。カーボンブラックの酸化処理方法の例には、空気酸化や、硝酸、窒素酸化物と空気との混合ガス、オゾン等の各種酸化剤による酸化等が含まれる。シール剤が含む(D)遮光剤は1種のみであってもよく、2種以上であってもよい。また、好ましい(D)遮光剤の例には、チタンブラックも含まれる。
【0061】
(D)遮光剤の形状は特に制限されず、球状、板状、針状等の定形状あるいは非定形状のいずれであってもよい。また、(D)遮光剤の平均一次粒子径は、0.005~0.1μmであることが好ましく、0.01~0.05μmであることがより好ましく、0.015~0.03μmであることがさらに好ましい。平均粒子径JIS Z8825に記載のレーザー回折法で測定できる。比表面積測定は、JIS Z8830に記載のBET法により測定できる。
【0062】
シール剤100質量部に対する、(D)遮光剤の量は、シール剤の黒色度を例えば2~5に調整可能な範囲であれば特に制限されない。例えばシール剤の総量に対して5~46質量部とすることができ、7~40質量部とすることがより好ましく、10~30質量部とすることがさらに好ましい。(D)遮光剤の量が上記範囲であると、シール剤の黒色度が所望の範囲に収まりやすい。一方で、(D)遮光剤の量が過度に多いと、(D)遮光剤が凝集しやすく、シール剤の光硬化性が低下しやすくなる。
【0063】
(E)熱硬化性化合物
本発明のシール剤は、(E)1分子内にエポキシ基を少なくとも1つ有する熱硬化性化合物を含む。シール剤が(E)熱硬化性化合物を含むと、シール剤の硬化物の耐湿性が高まる。なお、本明細書において、上述の(B)光硬化性樹脂に相当する樹脂は、(E)熱硬化性化合物に含まない。(E)熱硬化性化合物が含むエポキシ基の数は、2以上であることが好ましく、2つであることが特に好ましい。
【0064】
(E)熱硬化性化合物の例には、ビスフェノールA型、ビスフェノールF型、ビスフェノールS型、2,2’-ジアリルビスフェノールA型、ビスフェノールAD型、および水添ビスフェノール型等のビスフェノール型エポキシ樹脂;ジフェニルエーテル型エポキシ樹脂;フェノールノボラック型、クレゾールノボラック型、ビフェニルノボラック型、ビスフェノールノボラック型、ナフトールノボラック型、トリスフェノールノボラック型、ジシクロペンタジエンノボラック型等のノボラック型エポキシ樹脂;ビフェニル型エポキシ樹脂;ナフチル型エポキシ樹脂;トリフェノールメタン型、トリフェノールエタン型、トリフェノールプロパン型等のトリフェノールアルカン型エポキシ樹脂;脂環型エポキシ樹脂等が含まれる。なかでも、ビスフェノールA型およびビスフェノールF型等のビスフェノール型エポキシ樹脂が好ましい。これらのビスフェノール型エポキシ樹脂は、ジフェニルエーテル型エポキシ樹脂等と比べて結晶性が低く、塗工安定性に優れる等の利点がある。また、当該化合物は、液晶に対する溶解性や拡散性が低く、得られる液晶表示パネルの表示特性が良好になるだけでなく、シール剤の硬化物の耐湿性が高まる。
【0065】
(E)熱硬化性化合物の重量平均分子量(Mw)は、300~3000であることが好ましく、300~2000であることがより好ましい。(E)熱硬化性化合物の重量平均分子量は、例えば、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により、ポリスチレンを標準として測定できる。(E)熱硬化性化合物は、液状であってもよく、固形であってもよい。(E)熱硬化性化合物が固形エポキシ樹脂である場合、軟化点が40℃以上150℃以下であることが好ましい。
【0066】
シール剤は、(E)熱硬化性化合物を1種のみ含んでいてもよく、種類や分子量の異なる2種以上を含んでもよい。シール剤100質量部に対する、(E)熱硬化性化合物の量は5~70質量部であり、好ましくは5~50質量部である。(E)熱硬化性化合物を上記範囲含むことで、シール剤の硬化物の耐湿性が高まりやすくなる。
【0067】
(F)熱硬化剤
本発明のシール剤は、(F)熱硬化剤を含む。(F)熱硬化剤は、(E)熱硬化性化合物が含むエポキシ基の反応に寄与する化合物である。なお、(B)光硬化性樹脂がエポキシ基を有する場合には、当該エポキシ基の反応にも寄与する。本明細書では、エポキシ基と反応する際に、ラジカルを発生しないものを(F)熱硬化剤とする。
【0068】
(F)熱硬化剤の種類は特に制限されないが、熱潜在性硬化剤であることが好ましい。熱潜在性硬化剤とは、シール剤の保存時(室温下)には、(E)熱硬化性化合物を硬化させず、加熱によって(E)熱硬化性化合物のエポキシ基の反応に寄与し、(E)熱硬化性化合物を硬化させる化合物である。
【0069】
熱潜在性硬化剤は、公知の化合物を適用可能であるが、シール剤の粘度安定性を高めるため、融点が50℃以上250℃以下である熱潜在性硬化剤が好ましい。また、低い熱硬化温度(80~100℃程度)でも樹脂を硬化させるとの観点から、融点は50℃以上200℃以下であることがより好ましい。
【0070】
熱潜在性硬化剤の好ましい例には、ジヒドラジド系熱潜在性硬化剤、イミダゾール系熱潜在性硬化剤、アミンアダクト系熱潜在性硬化剤、およびポリアミン系熱潜在性硬化剤が含まれる。
【0071】
ジヒドラジド系熱潜在性硬化剤の例には、アジピン酸ジヒドラジド(融点181℃)、1,3-ビス(ヒドラジノカルボエチル)-5-イソプロピルヒダントイン(融点120℃)、7,11-オクタデカジエン-1,18-ジカルボヒドラジド(融点160℃)、ドデカン二酸ジヒドラジド(融点190℃)、およびセバシン酸ジヒドラジド(融点189℃)等が含まれる。
【0072】
また、イミダゾール系熱潜在性硬化剤の好ましい例には、下記一般式(X)で表される構造の化合物が含まれる。
【化2】
【0073】
一般式(X)中、R1およびR2はそれぞれ独立に、水素原子、低級アルキル基、低級ヒドロキシアルキル基、フェニル基またはベンジル基である。また、R3およびR4はそれぞれ独立に、水素原子、低級アルキル基または低級ヒドロキシアルキル基である。そして、R1~R4の少なくとも一つが、低級ヒドロキシアルキル基である。低級ヒドロキシアルキル基を有するイミダゾール系熱潜在性硬化剤は、水酸基を含むため、液晶に対して溶解し難い。
【0074】
上記式(X)においてR1~R4でありうる低級アルキル基は、メチル基、エチル基、プロピル基等の炭素数1~4のアルキル基であり、好ましくはメチル基またはエチル基である。一方、低級ヒドロキシアルキル基は、ヒドロキシメチル基、ヒドロキシエチル基等の炭素数1~4のヒドロキシアルキル基であり、好ましくはヒドロキシメチル基である。低級ヒドロキシアルキル基には、複数の水酸基が含まれてもよい。
【0075】
イミダゾール系硬化触媒に含まれる水酸基の数は、特に制限されないが、水酸基数が2個以上になると耐水性が低下することがあるため、耐水性等を低下させない点では、水酸基数は1個であることが好ましい。
【0076】
一般式(X)で表されるイミダゾール系熱潜在性硬化剤の融点は、シール剤の熱硬化温度にもよるが、シール剤を比較的低温(例えば80~100℃程度)で熱硬化させる場合は、150℃以下であることが好ましく、120℃以下であることがより好ましく、60~120℃であることがさらに好ましく、80~100℃であることが特に好ましい。イミダゾール系熱潜在性硬化剤の融点が低すぎると、室温でイミダゾール系熱潜在性硬化剤が融解する。そして、(E)熱硬化性化合物の硬化反応が進み、シール剤の室温での保存安定性が悪くなる。一方、融点が高すぎると、シール剤の熱硬化温度において、イミダゾール系熱潜在性硬化剤の触媒機能が十分に発揮され難くなる。イミダゾール系熱潜在性硬化剤の融点は、例えば芳香族環を含まない構造とすることで、低くすることができる。
【0077】
イミダゾール系熱潜在性硬化剤の融点を低くする点では、R2は、フェニル基やベンジル基以外の基、即ち水素原子、低級アルキル基または低級ヒドロキシアルキル基であることが好ましく、低級ヒドロキシアルキル基であることがより好ましい。
【0078】
一般式(X)で表されるイミダゾール系熱潜在性硬化剤の例には、2-フェニル-4,5-ジヒドロキシメチルイミダゾール、2-フェニル-4-メチル-5-ヒドロキシメチルイミダゾール、2-ヒドロキシメチルイミダゾール、1-ベンジル-5-ヒドロキシメチルイミダゾール、1,2-ジヒドロキシエチルイミダゾール等が含まれる。上記の中でも、融点が150℃以下のイミダゾール系熱潜在性硬化剤としては、例えば2-ヒドロキシメチルイミダゾールが挙げられる。
【0079】
アミンアダクト系熱潜在性硬化剤は、触媒活性を有するアミン系化合物と任意の化合物とを反応させて得られる付加化合物である。このようなアミンアダクト系熱潜在性硬化剤は、熱によりアミンが解離して活性化する。アミン系化合物の例には、1,2,3級アミノ基を有する化合物が含まれ、例えば、アミキュアPN-40(融点110℃)やアミキュアPN-23(融点100℃)、アミキュアPN-31(融点115℃)、アミキュアPN-H(融点115℃)、アミキュアMY-24(融点120℃)、アミキュアMY-H(融点130℃)(以上、味の素ファインテクノ(株)製)等が含まれる。
【0080】
ポリアミン系熱潜在性硬化剤は、アミンとエポキシとを反応させて得られるポリマー構造を有する熱潜在硬化剤であり、その具体例には、(株)ADEKA製アデカハードナーEH4339S(軟化点120~130℃)、および(株)ADEKA製アデカハードナーEH4357S(軟化点73~83℃)等が含まれる。
【0081】
(F)熱硬化剤の含有量は、(B)光硬化性樹脂および(E)熱硬化性化合物の総量100質量部に対して5~100質量部であることが好ましく、より好ましくは10~50質量部以下である。(F)熱硬化剤が含まれると、シール剤の熱硬化反応が十分に進行しやすくなる。
【0082】
(G)その他
本発明のシール剤は、上述した以外の成分を含んでいてもよい。その他の成分の例には、無機フィラーや有機フィラー、各種添加剤等が含まれる。
【0083】
シール剤が無機フィラーを含むと、シール剤の粘度を所望の範囲にすることや、シール剤の硬化物の強度や線膨張性の制御等を行うことができる。無機フィラーの例には、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸バリウム、硫酸マグネシウム、珪酸アルミニウム、珪酸ジルコニウム、酸化鉄、酸化チタン、酸化アルミニウム(アルミナ)、酸化亜鉛、二酸化ケイ素、チタン酸カリウム、カオリン、タルク、ガラスビーズ、セリサイト活性白土、ベントナイト、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、窒化チタン等が含まれ、好ましくは二酸化ケイ素、タルクである。シール剤は、これらを1種のみ含んでいてもよく、2種以上含んでいてもよい。
【0084】
無機フィラーの形状は、特に限定されず、球状、板状、針状等の定形状あるいは非定形状のいずれであってもよい。無機フィラーは平均一次粒子径が1.5μm以下であることが好ましく、かつその比表面積が1m2/g~500m2/gであることが好ましい。無機フィラーの平均一次粒子径は、JIS Z8825に記載のレーザー回折法で測定できる。また、比表面積測定は、JIS Z8830に記載のBET法により測定できる。
【0085】
無機フィラーの量は、シール剤100質量部に対して、30質量部以下であることが好ましく、20質量部以下であることがより好ましい。
【0086】
一方、シール剤が有機フィラーを含むと、シール剤の耐衝撃性等が高まる。有機フィラーの種類は、特に制限されないが、シール剤の融点は、熱硬化温度より高い温度であることが好ましい。一方で、有機フィラーの軟化点が高すぎると、有機フィラーが変形し難くなる。そこで、有機フィラーの軟化点は30~120℃であることが好ましい。
【0087】
有機フィラーの例には、シリコーン微粒子、アクリル微粒子、スチレン・ジビニルベンゼン共重合体等のスチレン微粒子、およびポリオレフィン微粒子からなる群より選ばれる微粒子等が含まれる。シール剤は、有機フィラーを1種のみ含んでいてもよく、2種以上含んでいてもよい。
【0088】
有機フィラーの形状は特に制限されず、例えば球状等とすることができる。また有機フィラーの平均粒子径は、液晶セルのギャップが通常5μm以下であるため、0.05~5μmであることが好ましく、より好ましくは0.07~3μmである。有機フィラーの平均粒子径は、例えばJIS Z8825に記載のレーザー回折法で測定できる。
【0089】
有機フィラーの量は、シール剤100質量部に対して、30質量部以下であることが好ましく、15質量部以下であることがより好ましい。
【0090】
各種添加剤の例には、熱ラジカル重合開始剤、シランカップリング剤等のカップリング剤、イオントラップ剤、イオン交換剤、レベリング剤、顔料、染料、可塑剤、消泡剤等が含まれる。また、液晶表示パネルのギャップを調整するためにスペーサー等が配合されていてもよい。これらの含有量は、本発明の目的および効果を損なわない範囲であれば特に制限されない。
【0091】
・シール剤の物性および製造方法
上述のシール剤は、黒色度が好ましくは2~5であり、3~4であることがより好ましい。シール剤の黒色度は、以下のように測定することができる。
【0092】
まず、シール剤をスパチュラで10μl程度採取し、25mm×45mm×厚さ5mmの無アルカリガラス上に滴下し、直径5mmの円状とする。そして、対となる無アルカリガラスを重なるように貼りあわせ、治具で固定する。治具で固定した試験片に対して、紫外線照射装置(ウシオ電機社製)から、500mW/cm2の紫外線を照射し、シール剤を硬化させる。このとき、紫外線の照度エネルギーは3.0J/cm2とする。光によって硬化させた試験片を、オーブンを用いて120℃、60分加熱処理し、黒色度測定用のサンプルとする。その後、紫外可視分光光度計(島津製作所社製、UV-2550)を使用して、シール剤の硬化物の透過率(%T)を測定する。そして、波長500nmにおける透過率(%T)を用いて、黒色度(OD値)を式:OD値=-log(%T/100)に基づき、濃度換算して算出する。
【0093】
また、シール剤のE型粘度計を用いた25℃、2.5rpmでの粘度は、30~350Pa・sであることが好ましい。粘度が上記範囲にある液晶シール剤は、塗工安定性に優れる。
【0094】
上述のシール剤の製造方法は特に制限されず、各成分を全て混合してもよく、二回以上にわけて混合してもよい。また、混合方法は特に制限されないが、例えば三本ロール等のように、(D)遮光剤を十分に分散させることが可能な方法であることが好ましい。
【0095】
2.液晶表示パネルの製造方法
液晶表示パネルは通常、表示基板と、それと対になる対向基板と、表示基板と対向基板との間に介在している枠状のシール部材と、表示基板と対向基板との間のシール部材で囲まれた空間に充填された液晶層とを含む。本発明では、上述のシール剤の硬化物を、シール部材とすることができる。
【0096】
表示基板および対向基板は、いずれも透明基板である。透明基板の材質は、ガラス、または、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリエーテルサルフォンおよびPMMA等のプラスチックとすることができる。
【0097】
表示基板または対向基板の表面には、マトリックス状のTFT、カラーフィルタ、ブラックマトリクスなどが配置される。表示基板または対向基板の表面には、さらに配向膜が形成される。配向膜には、公知の有機配向剤や無機配向剤などが含まれる。なお、当該液晶表示パネルでは、表示基板側にブラックマトリックスおよびカラーフィルタが配置されていてもよく、表示基板側にブラックマトリクスが配置され、対向基板側にカラーフィルタが配置されていてもよく、対向基板側にブラックマトリクスおよびカラーフィルタが配置されていてもよい。
【0098】
このような液晶表示パネルは、以下の方法により製造することができる。具体的には、1)一方の基板に、上述のシール剤を塗布し、液晶シールパターンを形成する第1の工程と、2)シール剤からなる液晶シールパターンが未硬化の状態において、前記液晶シールパターンで囲まれた領域、または前記液晶シールパターンで囲まれた領域に対向する他方の基板の領域に、液晶を滴下する第2の工程と、3)一方の基板と、他方の基板とを、液晶シールパターンを介して重ね合わせる第3の工程と、4)シール剤を硬化させる第4の工程と、を含む方法とすることができる。
【0099】
第1の工程で、上述のシール剤を所望のパターン状に塗布する。シール剤を塗布する方法は、所望の領域にシール剤を塗布することが可能であれば特に制限されず、例えばディスペンサーによる塗布等とすることができる。また、作製する液晶シールパターンは、液晶表示パネルの種類等に合わせて適宜選択され、通常四角形の枠状等とすることができる。
【0100】
液晶シールパターンにおけるシール剤の線幅は、300~2000μmとすることが好ましく、500~1500μmとすることがより好ましい。シール剤の断面積は、1000~10000μm2であることが好ましく、1500~5000μm2であることがより好ましい。シール剤の線幅や断面積を当該範囲とすることで、第4の工程で、シール剤の内部まで十分に硬化させることが可能となる。そして、液晶表示パネルから液晶漏れ等が生じ難くなり、さらには基板どうしの接着強度も十分になりやすい。
【0101】
第2の工程では、第1の工程で作製された液晶シールパターンが未硬化の状態で液晶を塗布する。液晶を滴下する方法も特に制限されず、公知の方法とすることができる。なお、「液晶シールパターンが未硬化の状態」とは、シール剤の硬化反応がゲル化点までは進行していない状態を意味する。このため、第2の工程では、シール剤の液晶への溶解を抑制するために、液晶シールパターンを光照射または加熱して半硬化させてもよい。
【0102】
一方、第3の工程では、一方の基板と他方の基板とを、液晶シールパターンを介して重ね合わせる。当該重ね合わせは、公知の方法で行うことができ、通常、高真空下で行う。
【0103】
そして、第4の工程で、シール剤を硬化させる。シール剤は、光硬化(仮硬化)を行った後、加熱による硬化(本硬化)を行うことが好ましい。光照射による仮硬化でシール剤を瞬時に硬化させることで、液晶への溶解を抑制できる。
【0104】
シール剤を仮硬化させる際に照射する光のエネルギー量は、1000~3000mJ/cm2程度であることが好ましく、1000~2000mJ/cm2程度であることがより好ましい。また、本発明のシール剤は、(C)チタノセン系光重合開始剤を含む。そこで、照射光は紫外光だけでなく、可視光領域の光も含むことが好ましい。本明細書では、可視光領域とは、波長360nm~800nmの範囲をいう。光源は特に制限されないが、LED、メタルハライドランプ、高圧水銀灯、低圧水銀灯であることが好ましく、LEDあるいはメタルハライドランプであることがより好ましい。(C)チタノセン系光重合開始剤を十分に活性化させるとの観点から、波長360~550nmの範囲を含むことが好ましく、360~450nmの範囲を含むことがより好ましい。
【0105】
一方、光照射後に加熱する際の加熱温度は、シール剤の組成にもよるが、液晶の劣化を少なくする等の点から、できるだけ低い温度であることが好ましく、例えば120℃程度であることが好ましく、80~120℃であることがより好ましい。また、熱硬化時間は1~2時間程度である。
【実施例】
【0106】
以下に、本発明に係る実施例を具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。したがって、本発明から逸脱しない限り、材料、製造方法等は適宜変更することができる。
【0107】
[合成例]
・メタアクリル酸変性ビスフェノールF型エポキシ樹脂の合成
160gの液状ビスフェノールF型エポキシ樹脂(エポトートYDF-8170C 東都化成社製 エポキシ当量160g/eq)、重合禁止剤として0.1gのp-メトキシフェノール、触媒として0.2gのトリエタノールアミン、および81.7gのメタクリル酸をフラスコ内に仕込み、乾燥空気を送り込んで90℃で還流攪拌しながら5時間反応させた。得られた化合物を、超純水にて20回洗浄し、メタクリル酸変性ビスフェノールF型エポキシ樹脂(95%部分メタクリル化物)(重量平均分子量(Mw)485、水素結合性官能基当量4.0×10-3mol/g)を得た。
【0108】
[実施例1]
(B)光硬化性樹脂として、合成例で得られたメタクリル酸変性ビスフェノールF型エポキシ樹脂330質量部およびポリエチレングリコールジアクリレート(共栄社化学社製:ライトアクリレート14EG-A、重量平均分子量722、水素結合性官能基当量0.9×10-3mol/g)172質量部と、(A)有機酸としてトリメリット酸(東京化成工業社製、酸素原子当量35g/eq)6質量部と、(C)チタノセン系光重合開始剤(Insight High Technology社製:IHT-PI 784)12質量部と、(E)熱硬化性化合物としてエポキシ樹脂(三菱ケミカル社製:jER1004、軟化点97℃、重量平均分子量1650)50質量部と、(F)熱硬化剤としてアジピン酸ジヒドラジド(日本化成社製:ADH、融点177~184℃)90質量部と、シリカ粒子(日本触媒化学社製:S-100)80質量部と、熱可塑性樹脂粒子(微粒子ポリマー、アイカ工業社製:F351)40質量部と、シランカップリング剤(信越化学工業社製:KBM-403)20質量部と、(D)遮光剤としてカーボン(三菱ケミカル社製:MA-100R、pH3.5、粒子径24nm)200質量部とを、三本ロールを用いて均一な液となるように十分に混合して、シール剤を得た。なお、(D)遮光剤のpHは、(D)遮光剤を純水で20倍に希釈・攪拌した後、(D)遮光剤を含む純水のpHを、HORIBA社製コンパクトpHメーター B-71Xで測定することにより求めた。また、(A)有機酸の酸素原子当量は、以下の式(1)から求めた。
酸素原子当量(g/eq)=(有機酸の分子量)/(有機酸1分子中の酸素原子数)・・(1)
【0109】
[実施例2]
表1に記載の含有量に変更した以外は、実施例1と同様にしてシール剤を得た。
【0110】
[実施例3]
(D)遮光剤として、カーボン(MA-100R)の代わりに、カーボン(三菱ケミカル社製:#2600、pH6.5、粒子径13nm)を用いた以外は、実施例1と同様にしてシール剤を得た。
【0111】
[実施例4]
(D)遮光剤として、カーボン(MA-100R)の代わりに、チタンブラック(三菱マテリアル社製:13M、pH8.8、粒子径97nm)を用いた以外は、実施例1と同様にしてシール剤を得た。
【0112】
[実施例5]
(A)有機酸として、トリメリット酸の代わりに、フェニルホスホン酸(酸素原子当量53g/eq)を用いた以外は、実施例1と同様にしてシール剤を得た。
【0113】
[比較例1]
トリメリット酸を添加せずに、熱ラジカル発生剤としてt-ブチル パーオキシピバレート(三菱ケミカル製:ルペロックス11)を添加した以外は、実施例1と同様にしてシール剤を得た。
【0114】
[比較例2]
トリメリット酸を添加せずに、表1に記載の含有量に変更した以外は、実施例1と同様にしてシール剤を得た。
【0115】
[比較例3]
チタノセン系光重合開始剤およびトリメリット酸を添加せず、オキシムエステル系光重合開始剤(BASF社製:IRGACURE OXE-1、1.2-オクタンジオン1-[4-(フェニルチオ)-2-(O-ベンゾイルオキシム)])を添加して、表1に記載の含有量に変更した以外は、実施例1と同様にしてシール剤を得た。
【0116】
[比較例4]
(D)遮光剤として、カーボン(MA-100R)の代わりに、カーボン(旭カーボン社製:SB200、pH7.5、粒子径26nm)を用いた以外は、実施例1と同様にしてシール剤を得た。
【0117】
[比較例5]
(A)有機酸としてトリメリット酸の代わりに、2-エチルヘキシルホスフェート(酸素原子当量81g/eq)を用いた以外は、実施例2と同様にしてシール剤を得た。
【0118】
[比較例6]
(D)遮光剤として、カーボン(MA-100R)の代わりに、カーボン(東海カーボン社製:#7350F、pH7.0、粒子径28nm)を用いた以外は、実施例1と同様にしてシール剤を得た。
【0119】
[比較例7]
(D)遮光剤として、カーボン(MA-100R)の代わりに、カーボン(三菱ケミカル社製:#2300、pH8.0、粒子径15nm)を用いた以外は、実施例1と同様にしてシール剤を得た。
【0120】
[評価]
実施例および比較例で得られたシール剤について、次の評価を行った。
【0121】
<黒色度>
シール剤をスパチュラで10μl程度採取し、25mm×45mm×厚さ5mmの無アルカリガラス上に滴下した。シールパターンは、直径5mmの円状とした。そして、対となる無アルカリガラスを重なるように貼りあわせ、治具で固定した。
治具で固定した試験片に対して、紫外線照射装置(ウシオ電機社製)から、500mW/cm2の紫外線(波長365nm)を照射し、シール剤を硬化させた。このとき、紫外線の照度エネルギーは3.0J/cm2とした。光によって硬化させた試験片を、オーブンを用いて120℃、60分加熱処理し、黒色度測定用のサンプルとした。
紫外可視分光光度計(島津製作所社製、UV-2550)を使用して、シール部材(シール剤の硬化物)の透過率(%T)を測定した。そして、波長500nmにおける透過率(%T)を用いて、黒色度(OD値)を「OD値=-log(%T/100)」により濃度換算して算出した。
【0122】
<分散性>
シール剤をスパチュラで10μl程度採取し、25mm×45mm×厚さ5mmの無アルカリガラス上に滴下した。シールパターンは、直径5mmの円状とした。そして、対となる無アルカリガラスを重なるように貼りあわせ、治具で固定した。
治具で固定した試験片に対して、紫外線照射装置(ウシオ電機社製)から、500mW/cm2の紫外線(波長365nm)を照射し、シール剤を硬化させた。このとき、紫外線の照度エネルギーは3.0J/cm2とした。光によって硬化させた試験片を、オーブンを用いて120℃、60分加熱処理し、分散性評価用のサンプルとした。
このサンプルを顕微鏡で観察し、視野2mm×2mmのなかに存在する異物(遮光剤の凝集物)の数をカウントした。
○:異物なし
△:異物10個未満
×:異物10個以上
【0123】
<光硬化性評価(液晶リーク)>
実施例および比較例で得られたシール剤を、ディスペンサー(武蔵エンジニアリング製 ショットマスター)を用いて、透明電極と配向膜が予め形成された40mm×45mmガラス基板(EHC社製 RT-DM88-PIN)上に、外寸35mm×40mmの四角形の枠状(メインシール)に、貼り合せ後の線幅が0.7mm(断面積3500μm2)となるように塗布した。またその外周に外寸38mm×43mmの四角形の枠状に、貼り合せ後の線幅が1.0mmとなるようにシール剤を塗布した。
次いで、基板貼り合せ後のパネル内容量に相当する量の液晶材料(MLC-7021-00メルク社製)を、メインシールの枠内にディスペンサーを用いて精密に滴下した。対になるガラス基板を減圧下で貼り合せた後、大気開放して貼り合わせた。その後、メインシールの下半分を覆うようにブラックマトリクスがライン/スペース=300μm/100μmで形成された基板で遮光した状態で、1000mJ/cm2の光(波長365nmセンサーで校正した光)を照射し、さらに120℃で1時間加熱した。
遮光シール剤を硬化処理した後の液晶表示パネルについて、以下のように評価した。
○:液晶漏れが発生していない
△:液晶漏れは発生していないが、シール剤に液晶が差し込んでいる状態
×:液晶漏れが発生した
【0124】
<光硬化性評価(接着強度)>
スクリーン版を使用してシール剤を25mm×45mm×厚さ5mmの無アルカリガラス上に印刷した。シールパターンは、直径1mmの円状とした。そして、対となる無アルカリガラスにシールパターン状に載置し、治具で固定した。
治具で固定した試験片に対して、紫外線照射装置(ウシオ電機社製)で、500mW/cm2の紫外線(波長365nm)を照射し、遮光シール剤を硬化させた。このとき、紫外線の照度エネルギーは3.0J/cm2とした。光によって遮光シール剤を硬化させた試験片を、オーブンを用いて120℃、60分加熱処理し、接着強度測定用のサンプルとした。
引張試験機(インテスコ社製)を用いて、引張速度を2mm/分とし、硬化した遮光シール剤をガラス底面に対して平行な方向に引き剥がすことにより、平面の引張強度を測定した。ここで、接着強度は、平面引張強度の大きさに応じて4段階で以下のように評価した。
◎:引張強度が15MPa以上
〇:引張強度が10MPa以上15MPa未満
×:引張強度が10MPa未満
【0125】
<液晶汚染性(電圧保持率)>
実施例および比較例で得られた0.1gのシール剤と、1gの液晶(MLC-7021-000、メルク社製)とをバイアル瓶に投入し、120℃で1時間加熱して液晶混合物を得た。次いで、この液晶混合物を取り出して、透明電極が予め形成されたガラスセル(KSSZ-10/B111M1NSS05、EHC社製)に注入し、電圧1Vを印加し、60Hzでの電圧保持率を6254型測定装置(東陽テクニカ製)により測定した。評価は以下のように行った。
〇:電圧保持率が90%以上であった場合(液晶への汚染が少ない)
×:電圧保持率が90%未満であった場合(液晶への汚染が生じた)
【0126】
<安定性評価>
ディスペンス用シリンジに、実施例および比較例で得られた10gのシール剤を入れ、脱泡処理を行った。脱法処理後のシール剤2gを使用して初期粘度を測定した。また、このシール剤を23℃、50%RH、イエロールーム下で1週間保存し、保存後の粘度を測定した。各粘度は、E型回転型粘度計(BROOKFIELD社製、デジタルレオメータ型式DV-III ULTRA)を使用して測定した。具体的には、シール剤を25℃で5分間放置した後、半径12mm、角度3°のCP-52型コーンプレート型センサーを用いて、回転数2.5rpmで測定した。得られた値から、安定性(粘度安定性)を、以下のように評価した。
○(優れる):初期粘度に対する1週間後の粘度の割合(上昇率)が1.2倍以下であった
△(やや優れる):初期粘度に対する1週間後の粘度の割合(上昇率)が1.2を超えて、1.5倍以下であった
×(劣る):初期粘度に対する1週間後の粘度の割合(上昇率)が1.5倍を超えた
【0127】
【0128】
表1に示されるように、(D)遮光剤のpHが7.0未満または8.0を超える場合には、分散性が良好になりやすかった(実施例1~5、および比較例1~3、5)。これに対し、(D)遮光剤のpHが7.0以上8.0以下である場合には、分散性が低く、液晶を十分に封止できなかった(比較例4、6、および7)。
【0129】
ただし、(D)遮光剤のpHが7.0未満、もしくはpHが8.0超であったとしても、(A)有機酸を含まない場合には、光硬化性が低く、液晶リークしやすかった(比較例1~3)。また、(A)有機酸の酸素原子当量が75g/eq超である場合には、液晶を汚染しやすかった(比較例5)。
【0130】
本出願は、2018年7月24日出願の特願2018-138353号に基づく優先権を主張する。当該出願明細書に記載された内容は、すべて本願明細書に援用される。
【産業上の利用可能性】
【0131】
本発明のシール剤は、高い光硬化性を有し、液晶の汚染を生じさせることなく、液晶表示パネルの基板どうしの間を確実に封止することが可能である。したがって、信頼性の高い表示パネルを作製することが可能であり、各種液晶表示パネルの製造に好適である。