(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-22
(45)【発行日】2022-12-01
(54)【発明の名称】空調機器用フィルタ
(51)【国際特許分類】
A61L 9/16 20060101AFI20221124BHJP
B01D 39/14 20060101ALI20221124BHJP
D06M 11/76 20060101ALI20221124BHJP
F24F 1/0073 20190101ALI20221124BHJP
F24F 7/013 20060101ALI20221124BHJP
【FI】
A61L9/16 F
B01D39/14 G
B01D39/14 C
D06M11/76
F24F1/0073
F24F7/013 101G
(21)【出願番号】P 2021038881
(22)【出願日】2021-03-11
【審査請求日】2021-07-01
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 1.サンプル品の配布 配布日:令和2年11月下旬、配布場所:西谷商事株式会社(大阪府大阪市西区南堀江1丁目10番11号) 2.ウェブサイトの掲載 掲載日:令和3年1月26日、ウェブサイトのアドレス https://taishi-mask.com/air-filte-revirase/
(73)【特許権者】
【識別番号】516028299
【氏名又は名称】有限会社大志
(74)【代理人】
【識別番号】100118393
【氏名又は名称】中西 康裕
(72)【発明者】
【氏名】谷口 健二
【審査官】壷内 信吾
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2005/013695(WO,A1)
【文献】特開2020-110762(JP,A)
【文献】特開2013-154325(JP,A)
【文献】特開平10-235125(JP,A)
【文献】特表2015-511173(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 9/00-9/22
B01D 39/00-41/04
B01D 46/00-46/90
D06M 10/00-11/84,16/00,19/00-23/18
F24F 1/0007,1/0059-1/008,1/02,1/032-1/0355
F24F 3/00-3/167
F24F 7/00-7/007
F24F 7/013-7/02
F24F 8/00-8/99
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
空調機器に用いられる空調機器用フィルタであって、
ドロマイトを原料として生成される抗ウイルス剤の粉末が保持された抗ウイルス性繊維からなる内層と、該内層を挟む表層と裏層の少なくとも3層を有するフィルタ基材からなり、
前記3層が、
7mm~8mmの間隔で固着されていることを特徴とする空調機器用フィルタ。
【請求項2】
空調機器の吸気口に後付けで取り付けられる空調機器用フィルタであって、
ドロマイトを原料として生成される抗ウイルス剤の粉末が保持された抗ウイルス性繊維からなる内層と、該内層を挟む表層と裏層の少なくとも3層を有するフィルタ基材からなり、
前記3層が、
7mm~8mmの間隔で固着されていることを特徴とする空調機器用フィルタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は空調機器用フィルタ、詳しくはドロマイトを原料として生成される抗ウイルス剤の粉末が保持された抗ウイルス性繊維を有する空調機器用フィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
新型コロナウイルスが全世界に蔓延しており、特に医療機関ではより安全なマスクの装着が求められている。安全性の高いマスクとしては、特許文献1及び非特許文献1に示すようなマスクがある。このマスクはSARSの流行を受けて研究開発されたものであり、付着したウイルスのタンパク質を壊す抗ウイルス剤の特殊ドロマイト(BR-p3)を使用している。この特殊ドロマイトはドロマイト(苦灰石)を焼成した後、部分水和することで得られるマグネシウムの酸化物及びマグネシウムの水酸化物の粉末である。
【0003】
一方、新型コロナウイルスは空気中に浮遊する。そこで、発明者は空気感染を防止するために、既存の空調機器の吸入口に後付けで非特許文献1の抗ウイルス剤を用いた空調機器用フィルタを取り付けることを考えた。後付けであれば、既存の空調機器に取り付けるだけなので、多くの人に簡単に使用してもらうことができる。そして、この後付けの空調機器用フィルタの構成は、この抗ウイルス剤が付着した抗ウイルス性繊維からなる内層と、この層を挟む不織布からなる表層と裏層からなるものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許4621590号公報
【文献】特開2020-110762号公報
【文献】特許4776896号公報
【文献】特開2003-290613号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】有限会社大志|バリエールブロック-ウイルスを不活性化させるマスク、[令和3年2月11日検索]、インターネット〈https://taishi-mask.com/〉
【文献】楽天|銀イオンエアコンフィルター、[令和3年2月11日検索]、インターネット〈https://item.rakuten.co.jp/kagudoki/byt1008555/〉
【文献】ワイズイノベーション株式会社|除菌・消臭フィルター エアコン用、[令和3年2月11日検索]、インターネット〈https://www.hokurikumeihin.com/ys/index.html〉
【文献】スターフィルタ|バリエールブロック-ウイルスを不活性化させるマスク、[令和3年2月11日検索]、インターネット〈https://www.starfilter.co.jp/html/sf100003.html/〉
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
抗ウイルス剤の粉末の平均粒径は、1nm以上200nm以下(一次粒子)と非常に小さく、一次粒子が凝縮し平均粒子径0.1μm以上60μm以下のもの(二次粒子)もあるが、何れにしても粉末には一次粒子と二次粒子が混在している。
このような特殊ドロマイトを含有した空調機器用フィルタを試作したところ、この粉末がフィルタから漏れ出るという問題が生じた。
【0007】
粉末がフィルタから漏れ出る主な理由は、空調機器がファンを内蔵しているために、吸い込みによりフィルタが振動してしまうためである。そして、特にフィルタにほこりがたまると振動が大きくなり、漏れ出る量も増えてしまう。
【0008】
原料であるドロマイトは食品としても使用され、安全なものであると言われている。また、マスクの場合、非特許文献1にあるように、抗ウイルス性繊維からなる内層の更に内側にフィルタが配置されているため、漏れ出る粉末の量も微量である。更に、マスクの場合、漏れ出た微量の特殊ドロマイトが体内のウイルスを破壊するというようなこともあり、マスクにおいては、粉末が漏れ出るというようなことは問題視されない。
【0009】
しかしながら、空調機用フィルタは、マスクと違い上記のようにファンによる吸い込みで常に大きく振動し、またマスクと比較して長期間使用される。このため、空調機器用フィルタでは、粉末が漏れ出ることで特殊ドロマイトの含有量が著しく減少してしまう。また、空調機器に吸い込まれた粉末は、空調機器からの空気の排出により空気中に放出されるため、目に入る可能性もあるが、強アルカリである特殊ドロマイトが目に入ることは好ましいことではない。
【0010】
したがって、空調機器用フィルタにおいては、粉末が漏れ出るということは非常に大きな問題である。空調機器用フィルタとして特殊ドロマイトを用いたフィルタは、発明者の調査によると従来無く、粉末がフィルタから漏れ出るという問題は、今回新たに生じた課題である。
【0011】
なお、従来の空調機器用フィルタには多くの種類がある。たとえば、特許文献2と非特許文献1には銀の微粒子を用いた後付けの市販フィルタが記されている。非特許文献2には銀イオンを用いた後付けの市販フィルタが記されている。非特許文献3には抗ウイルス加工液のセラミダ(Cerami.D.A.)加工を用いた後付けの市販フィルタが記されている。非特許文献4にはバイオ酵素フィルタを用いた後付けの市販フィルタが記されている。特許文献3には茶から抽出されたカフェインを用いたフィルタが記されている。特許文献4には竹の抽出成分であるp-ベンゾキノン誘導体による抗菌性・抗ウイルスを用いたフィルタが記されている。
これらの従来の空調機器用フィルタは抗ウイルス剤として特殊ドロマイトを用いないばかりか、粉末が漏れ出るという課題がなく、当然ながらその課題を解決する手段もなかった。
【0012】
そこで本発明は、ドロマイトを原料として生成される抗ウイルス剤の粉末が漏れ出るのを低減する空調機器用フィルタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するため、本発明の一つの態様に係る空調機器用フィルタは、空調機器に用いられる空調機器用フィルタであって、ドロマイトを原料として生成される抗ウイルス剤の粉末が保持された抗ウイルス性繊維からなる内層と、該内層を挟む表層と裏層の少なくとも3層を有するフィルタ基材からなり、前記3層が、所定の間隔で固着されていることを特徴とする。
【0014】
本発明の空調機器用フィルタは、3層が所定の間隔で固着されているので、各層における振幅が小さくなる。これによって、内層の抗ウイルス剤の粉末がフィルタ基材の外へ飛散し難くなる。
【0015】
また、本発明の一つの態様に係る空調機器用フィルタは、空調機器の吸気口に後付けで取り付けられる空調機器用フィルタであって、ドロマイトを原料として生成される抗ウイルス剤の粉末が保持された抗ウイルス性繊維からなる内層と、該内層を挟む表層と裏層の少なくとも3層を有するフィルタ基材からなり、前記3層が、所定の間隔で固着されていることを特徴とする。
【0016】
本発明の空調機器用フィルタは、3層が所定の間隔で固着されているので、各層における振幅が小さくなる。これによって、内層の抗ウイルス剤の粉末がフィルタ基材の外へ飛散し難くなる。また、空調機器用フィルタは、既存の空調機器に容易に用いることができる。
本発明の空調機器用フィルタにおいては、前記所定の間隔は7mm~8mmであることが好ましい。
【0017】
固着の間隔が広いと、フィルタ基材を構成する各層の振幅があまり小さくならず、粉末の飛散があまり減少しないという短所がある。逆に、固着の間隔が狭すぎると溶着の領域が増え過ぎて空気の流れを大きく遮ってしまうという短所がある。そこで、本発明者は、様々な試作品を検討して、適度な固着の間隔を得た。なお、この固着は超音波装置での融着が容易である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】Aは実施形態の空調機器用フィルタを裏側から見た平面図であり、BはAのIB-IB断面図である。
【
図2】Aは固着の間隔が長いフィルタの振れる様子を模式的に示す断面図であり、Bは固着の間隔が短いフィルタの振れる様子を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、実施形態及び図面を参照にして本発明を実施するための形態を説明するが、以下に示す実施形態は、本発明をここに記載したものに限定することを意図するものではなく、本発明は特許請求の範囲に示した技術思想を逸脱することなく種々の変更を行ったものにも均しく適用し得るものである。なお、この明細書における説明のために用いられた各図面においては、各部材を図面上で認識可能な程度の大きさとするため、各部材毎に縮尺を異ならせて表示しており、必ずしも実際の寸法に比例して表示されているものではない。
【0020】
[実施形態]
図1を用いて、本実施形態の空調機器用フィルタ10の要部を説明する。
図1Aは実施形態の空調機器用フィルタ10を裏側から見た平面図であり、
図1Bは
図1AのIB-IB断面図である。
【0021】
本実施形態の空調機器用フィルタ10は既存の空調機器(例えば、空気清浄機、エアコン等)の吸気口に取り付けられる後付けタイプのフィルタである。
図1A、
図1Bに示すように、空調機器用フィルタ10は、内層1、表層2、裏層3の3層からなる。
【0022】
内層1は、特殊ドロマイト(BR-p3)の粉末が保持された抗ウイルス性繊維からなる層である。この特殊ドロマイトは、特許文献1にあるようにドロマイトを焼成した後、部分水和することで得られるマグネシウムの酸化物及びマグネシウムの水酸化物の粉末である。特殊ドロマイトの粉末はウイルスのたんぱく質を破壊することでウイルスを不活性化する抗ウイルス剤である。
【0023】
そしてこの内層1は、不織布にこの特殊ドロマイトが塗布又は混練により保持されたものである。この保持方法としては、例えば、内側ノズルから、ポリ塩化ビニルの溶融樹脂を、外側ノズルから、特殊ドロマイトの粉末が分散されたポリエチレンを、各々、射出(押出)・伸線することで、ポリエチレン中に分散した中空繊維と、ポリプロピレンをその芯材として用いた複合繊維を製造する方法がある。そして、この繊維を用いて、内層1のフィルタが製造される。
なお、保持方法の他の例としては、特殊ドロマイトの粉末と、ウレタンと、必要により分散剤を水に分散・溶解させた水溶液を準備し、次に不織布をこの水溶液に浸漬した後、乾燥させる方法等がある。
【0024】
表層2は、マスク等にも用いられるポリプロピレン製の不織布であり、空気中の粉塵、花粉やブロックする細かいメッシュ孔を備えている。
【0025】
裏層3も不織布である。裏層3の不織布は、直径が1μm以上51μm以下の範囲の粒子や飛沫核の捕集ができるより、表層2の不織布よりも細かいメッシュ孔を備えているものが好ましく、本実施形態においては、具体的にはマスク用のフィルタとしてよく用いられているメルトブローン不織布を用いている。
【0026】
図1A、
図1Bに示すように、空調機器用フィルタ10は、内層1を表層2と裏層3で挟んだ3層のフィルタ基材からなるものであり、幅(
図1AのW)方向の両端(上端側、下端側)が裏層3側に折り返されている。なお、本実施形態の空調機器用フィルタ10は、幅Wが150mm、長さLが1200mmの大きさとなっている。
【0027】
そして、この空調機器用フィルタ10において、内層1、表層2、裏層3の3層(折り畳んだ部分は6層)が、超音波による溶着により固着されている。この固着は等間隔の点溶着であり、3層の第1固着部4と6層の第2固着部5は、いずれも幅W方向と長さL方向の間隔Pが7mmの等間隔となっている。
【0028】
空調機器用フィルタ10は、使用する空調機器の吸気口の大きさにあわせて切断して使用することを想定したものである。そして、空調機器用フィルタ10は、表層2を表側にして裏面3側に粘着剤等を用いて、空調機器の吸気口に取り付けられる。
【0029】
なお、空調機器用フィルタは、空調機器の吸引力に負荷をかけないようにするため、吸気口の上下どちらかに1cm程度の隙間を開けて吸気口を覆うことを想定している。
【0030】
また、本実施形態である後付けタイプの空調機器用フィルタ10は、3ヶ月程度の使用を想定しているため、交換する必要がある。空調機器用フィルタ10を使用する空調機器の吸気口の大きさにあわせて切断する際に、等間隔で形成されている第1固着部4を目印にして切断することができるため、ハサミ等できれいに切断することができる。
【0031】
そして、この空調機器用フィルタ10を用いた空調機器は、空調機器用フィルタ10により吸気口でウイルスや細菌、花粉、PM2.5をブロックし、これらを取り除いた空気を排出することができる。
【0032】
一方、特殊ドロマイトの粉末の平均粒径は1nm以上200nm以下であり、空調機器の吸気口側となる裏層3のメッシュ孔よりも小さい。このために、空気の吸気力や空調機器の振動によって特殊ドロマイトの粉末の保持が外れてしまい、この粉末がフィルタ基材から漏れ出ることがある。
【0033】
そこで本発明者は、隣り合う固着部4の間隔を15mm、10mm、8mm、7mmと変えて検討した。その結果、固着部4と固着部4との間隔が狭くなるほど、3層のフィルタ基材から特殊ドロマイトの粉末の漏れ出る量が減少した。
【0034】
この理由について空調機器用フィルタの断面図である
図2を用いて説明する。
図2A、
図2Bに記すように、第1固着部4の間隔が広いPA(
図2A)では、吸気による撓みや振動による撓みが大きいが、間隔が狭いPB(
図2B)になると、吸気による撓みや振動による撓みが小さくなる。このため、不織布に保持されている特殊ドロマイトの粉末は、振動しても保持された状態を継続できるため、漏れ出る量が減少することになる。
【0035】
ただし、第1固着部4の間隔が狭すぎると、溶着の領域が増え過ぎて空気の流れを大きく遮ってしまうことになる。また、超音波溶接機の都合上、第1固着部4の間隔には限度がある。
【0036】
したがって、本発明者の検討した結果によると第1固着部4の間隔は、7mm~8mm程度が好ましいことがわかった。この間隔で第1固着部4を形成している空調機器用フィルタ10を指等で叩いてみたところ、目視による特殊ドロマイト粉末の漏れはほとんど確認することはできず、また、使用した空調機器から排出された空気においても特殊ドロマイト粉末はほとんど確認されなかった。一方、第1固着部4の間隔を15mmや10mmとした空調機器用フィルタ10を指等で叩いてみると、目視によって特殊ドロマイト粉末の漏れを確認することができた。
【0037】
このように本実施形態の空調機器用フィルタ10は既存の空調機器の吸気口に後付けで取り付けられる抗ウイルスのフィルタであるので、空調機器におけるウイルスの感染予防を容易に、かつ安価で行うことができる。そして、空調機器用フィルタ10は、3層のフィルタ基材が所定の間隔で固着されているので、各層における振幅が小さくなり、内層の抗ウイルス剤の粉末がフィルタ基材の外へ飛散し難くなる。
【0038】
なお、本発明の空調機器用フィルタ10は、既存の空調機器用に後付けで用いるものに限定されるわけではなく、空調機器内部の専用のフィルタとして使用することもできる。
【0039】
また、本発明の空調機器用フィルタ10を構成する3層の不織布は、他の繊維、たとえば織布でもよい。また、3層に限定するものでなく、層を追加することができる。また、本発明の固着部4における固着方法は超音波による溶着に限定するものではない。たとえば、接着や縫合でもよい。
【符号の説明】
【0040】
10:空調機器用フィルタ
1、1A、1B:内層
2、2A、2B:表層
3、3A、3B:裏層
P、PA、PB:間隔