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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-22
(45)【発行日】2022-12-01
(54)【発明の名称】自動運転車両の操舵装置
(51)【国際特許分類】
   B62D 6/00 20060101AFI20221124BHJP
   B62D 5/04 20060101ALI20221124BHJP
   B62D 113/00 20060101ALN20221124BHJP
   B62D 119/00 20060101ALN20221124BHJP
【FI】
B62D6/00
B62D5/04
B62D113:00
B62D119:00
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021052983
(22)【出願日】2021-03-26
(65)【公開番号】P2022150401
(43)【公開日】2022-10-07
【審査請求日】2021-11-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001379
【氏名又は名称】特許業務法人 大島特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小嶋 洋介
(72)【発明者】
【氏名】判治 宗嗣
(72)【発明者】
【氏名】宮川 隼人
(72)【発明者】
【氏名】波多野 邦道
【審査官】飯島 尚郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-296601(JP,A)
【文献】特開2018-177153(JP,A)
【文献】国際公開第2019/171447(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 6/00
B62D 5/04
B62D 101/00-137/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動運転モードと手動運転モードとの間で運転モードを切り替え可能な自動運転車両の操舵装置であって、
中立位置から左右のそれぞれへ1回転以上回転可能なステアリングホイールと、
前記ステアリングホイールの操舵角と車輪の転舵角とのレシオを変更可能な転舵機構と、
前記転舵機構の前記レシオを変更する制御装置と、
運転者により把持されている前記ステアリングホイールの把持位置を検出する把持位置検出装置とを備え、
前記制御装置は、前記自動運転車両の前記自動運転モードでの走行中に前記ステアリングホイールが操舵されたことによって前記運転モードが前記自動運転モードから前記手動運転モードに切り替わるときに、前記ステアリングホイールの前記把持位置に応じて、前記運転者が認識している前記ステアリングホイールの前記操舵角である認識操舵角が中立位置付近と1回転位置付近とのどちらであるかを判定し、判定された前記認識操舵角と実際の前記操舵角とが相違する場合、前記転舵角が前記認識操舵角に対応する認識転舵角に近付くように前記レシオを変更する自動運転車両の操舵装置。
【請求項2】
前記制御装置は、前記運転者が前記ステアリングホイールを操舵している間に、前記転舵角が前記認識転舵角に近付くように前記レシオを変更する請求項1に記載の自動運転車両の操舵装置。
【請求項3】
前記制御装置は、前記把持位置が、前記ステアリングホイールが前記中立位置にあるときに把持されるべき前記ステアリングホイールの左右の部分をなす直進把持位置である場合、前記認識操舵角が前記中立位置付近であると判定し、前記把持位置が前記直進把持位置以外の位置である場合、前記認識操舵角が前記1回転位置付近であると判定する請求項1又は請求項2に記載の自動運転車両の操舵装置。
【請求項4】
前記運転者の腕を撮像するように設けられた撮像装置を更に備え、
前記制御装置は、前記撮像装置による撮像結果に基づいて、前記運転者の前記腕が交差しているか否かを判定し、前記ステアリングホイールが前記中立位置付近又は前記1回転位置付近にあるにも拘わらず、前記運転者の前記腕が交差していると判定した場合、前記認識操舵角が前記1回転位置付近であると判定する請求項1~請求項3のいずれか1項に記載の自動運転車両の操舵装置。
【請求項5】
前記ステアリングホイールに設けられたインジケーターを更に備え、
前記制御装置が前記インジケーターを制御するように構成され、
前記制御装置は、前記操舵角に応じ、把持すべき前記ステアリングホイールの位置である推奨把持位置を決定し、前記推奨把持位置を表示するように前記インジケーターを制御する請求項1~請求項4のいずれか1項に記載の自動運転車両の操舵装置。
【請求項6】
前記制御装置が、右手用の前記推奨把持位置と左手用の前記推奨把持位置とで前記インジケーターの色を異ならせる請求項5に記載の自動運転車両の操舵装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動運転モードで走行可能な自動運転車両の操舵装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自車両を自動的に走行させる自動走行制御を行う自動運転モードと、自動走行制御を解除して運転者による手動運転を可能とする手動運転モードとを切り替え可能な車両用運転制御装置において、運転者がステアリングホイールを操舵したことによる操舵仕事量が予め設定した判定閾値を越えたときに、自動運転モードから手動運転モードへ切り替えるものが公知である(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第6187090号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、駐車支援や市街地での低速運転支援時等の自動運転中には、ステアリングホイールが360°以上回転することがある。運転者がステアリングホイールから手を離した状態で、特許文献1の車両用運転制御装置のように自動運転モードから手動運転モードに単純に切り替えると、運転者が車両の状態を誤認する場合が考えられる。すなわち、運転者はとっさにステアリングホイールを握ったときに車両が直進状態(操舵角が0°付近)にあると思っているにも拘わらず、実際には車両が転舵状態(操舵角が360°付近)にある場合が考えられる。そのような場合、運転者が認識する車両の進行方向と車両の実際の進行方向とに乖離があるため、運転者が的確に運転操作をできず、運転者が違和感を覚える虞があった。
【0005】
本発明は、このような背景に鑑み、自動運転モードから手動運転モードに切り替わるときにステアリングホイールの運転者が認識している操舵角と実際の操舵角とが相違している場合に、運転者の違和感を低減することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために本発明のある実施形態は、自動運転モードと手動運転モードとの間で運転モードを切り替え可能な自動運転車両(1)の操舵装置(10)であって、中立位置(0°)から左右のそれぞれへ1回転(360°)以上回転可能なステアリングホイール(6)と、前記ステアリングホイールの操舵角(β)と車輪(3)の転舵角(α)とのレシオ(K)を変更可能な転舵機構(11)と、前記転舵機構の前記レシオを変更する制御装置(15)と、運転者により把持されている前記ステアリングホイールの把持位置を検出する把持位置検出装置(7)とを備え、前記制御装置は、前記自動運転車両の前記自動運転モードでの走行中に前記ステアリングホイールが操舵されたことによって前記運転モードが前記自動運転モードから前記手動運転モードに切り替わるときに、前記ステアリングホイールの前記把持位置に応じて、前記ステアリングホイールの前記運転者が認識している前記操舵角である認識操舵角(βre)が中立位置(0°)付近と1回転位置(360°)付近とのどちらであるかを判定し(ST4~ST7)、判定された前記認識操舵角と実際の前記操舵角とが相違する場合(ST8:No)、前記転舵角が前記認識操舵角に対応する認識転舵角(αre)に近付くように前記レシオを変更する(ST9)。
【0007】
この構成によれば、運転者の認識操舵角と実際の操舵角とが相違している場合に、制御装置が運転者の認識転舵角に転舵角が近付くようにレシオを変更することにより、車輪の転舵角を運転者の認識転舵角に近付けることができる。これにより、運転者の違和感が低減される。
【0008】
好ましくは、前記制御装置は、前記運転者が前記ステアリングホイールを操舵している間に、前記転舵角が前記認識転舵角に近付くように前記レシオを変更する。
【0009】
この構成によれば、運転者によるステアリング操舵中にレシオを変更することで、運転者がステアリングを操舵していない状態で車輪が転舵されることを防止できる。これにより、運転者の違和感をより低減することができる。
【0010】
好ましくは、前記制御装置は、前記把持位置が、前記ステアリングホイールが前記中立位置にあるときに把持されるべき前記ステアリングホイールの左右の部分をなす直進把持位置(GPS)である場合(ST4:Yes)、前記認識操舵角が前記中立位置付近であると判定し(ST6)、前記把持位置が前記直進把持位置以外の位置である場合(ST4:No)、前記認識操舵角が前記1回転位置付近であると判定する(ST7)。
【0011】
この構成によれば、運転者が直進把持位置を把持している場合、運転者が直進状態を認識している、すなわちステアリングホイールが中立位置付近にあると認識していると判定することができる。一方、運転者が直進把持位置以外の位置を把持している場合、運転者が非直進状態を認識している、すなわちステアリングホイールが中立位置付近ではなく1回転位置付近にあると認識していると判定することができる。
【0012】
好ましくは、当該操舵装置は、前記運転者の腕を撮像するように設けられた撮像装置(5)を更に備え、前記制御装置は、前記撮像装置による撮像結果に基づいて、前記運転者の前記腕が交差しているか否かを判定し(ST5)、前記ステアリングホイールが前記中立位置付近又は前記1回転位置付近にあるにも拘わらず(ST2:Yes、ST3:Yes)、前記運転者の前記腕が交差していると判定した場合(ST5:Yes)、前記認識操舵角が前記1回転位置付近であると判定する(ST7)。
【0013】
この構成によれば、運転者の腕が交差している場合は、ステアリングホイールが中立位置から回された状態にあると運転者が認識している、すなわち認識位置が1回転位置付近であると判定することができる。
【0014】
好ましくは、当該操舵装置は、前記ステアリングホイールに設けられたインジケーター(36)を更に備え、前記制御装置が前記インジケーターを制御するように構成され、前記制御装置は、前記操舵角に応じ、把持すべき前記ステアリングホイールの位置である推奨把持位置(GP)を決定し、前記推奨把持位置を表示するように前記インジケーターを制御する。
【0015】
この構成によれば、運転者が把持すべき推奨把持位置を表示するように制御装置がインジケーターを制御することにより、運転者がステアリングホイールの操舵角を誤って認識することを防止できる。
【0016】
好ましくは、前記制御装置が、右手用の前記推奨把持位置(GPR)と左手用の前記推奨把持位置(GPL)とで前記インジケーターの色を異ならせる。
【0017】
この構成によれば、運転者に右手用の推奨把持位置と左手用の推奨把持位置とを別個に認識させることにより、より正確に運転者に推奨把持位置を認識させることができる。
【発明の効果】
【0018】
以上の構成によれば、自動運転モードから手動運転モードに切り替わるときに運転者の認識操舵角と実際の操舵角とが相違している場合に、運転者の違和感を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】実施形態に係る操舵装置の構成図
図2】ステアリングホイールの正面図
図3】(A)β=左90°、(B)β=左180°のときの、推奨把持位置の表示例を示すステアリングホイールの正面図
図4】制御装置が実行する認識合わせ制御のフロー図
図5】パッシブ位相合わせによる転舵角の変化を示すタイムチャート
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明に係る車両1の操舵装置10の実施形態について説明する。最初に車両1及び車両1が備える自動運転機能について説明する。図1に示すように、操舵装置10が設けられる車両1は、左右の前輪3及び左右の後輪(不図示)を備えた4輪自動車であり、各種の車両制御を組み合わせて、レベル「2」以上の自動運転制御(以下、自動運転)を実行する自動運転制御装置4を備えた自動運転車両である。自動運転制御装置4は、CPUでプログラムに沿った演算処理を実行することで、各種の車両制御を実行し、自動運転を行う公知のものであってよい。
【0021】
自動運転制御装置4は、運転モード切替スイッチを介して自動運転の実行開始又は実行終了の指示を乗員から受け付けることにより、運転モードを自動運転モードと手動運転モードとの間で切り替える。運転モード切替スイッチは、車室内の適所に配置された機械スイッチやタッチパネル上に表示されるGUIスイッチであってよく、ナビインタフェースによって構成されていてもよい。
【0022】
自動運転制御装置4は、自動運転モードにおいて、車両1の加速、減速、操舵、表示灯の操作、周辺及び乗員の監視等を含む全ての運転操作を行う。手動運転モードにおいては、自動運転制御装置4は車両1の制御を行わず、全ての運転操作は運転者によって行われる。
【0023】
車両1には、乗員監視装置として、ドライビングシートに着座する運転者を撮像する撮像装置である室内カメラ5、及び、ステアリングホイール6の把持状態を検出する把持センサ7が設けられている。室内カメラ5は例えばCCDやCMOS等の固体撮像素子を利用したデジタルカメラである。把持センサ7は運転者がステアリングホイール6を把持しているか否かを検出し、把持の有無を検出信号として出力するセンサである。把持センサ7は例えば、ステアリングホイール6に設けられた静電容量センサや圧電素子によって形成されているとよい。
【0024】
自動運転制御装置4は、室内カメラ5によって撮像された画像(撮像結果)に基づいて、運転者の状態が異常状態にあるか否かを判定する。例えば、自動運転制御装置4は撮像された画像から公知の画像解析手段を用いて運転者の顔領域を抽出する。自動運転制御装置4は更に、抽出された顔領域から抽出した各種の情報に基づいて、運転者が車両周辺監視の義務を果たしているか否かを判定する。またレベル「1」の自動運転中には、自動運転制御装置4は、把持センサ7からの信号に基づいて、運転者がステアリングホイール6を把持しているか否かを検出し、把持していない場合に運転者が車両周辺監視の義務を果たしていないと判定する。
【0025】
次に、操舵装置10について説明する。操舵装置10は、ステアバイワイヤ(SBW)式の車両操舵装置である。左右の前輪3は、転舵角αが変更可能にナックル9を介して車体8(図1において、下部の輪郭のみを表示)に支持され、転舵輪として機能する。転舵角αは、平面視において前輪3の前後方向に対する角度をいう。操舵装置10は、前輪3の転舵角αを変更する。
【0026】
操舵装置10は、車体8に回転可能に設けられたステアリングホイール6と、前輪3を転舵する転舵機構11と、転舵機構11に駆動力を与える転舵アクチュエータ12と、ステアリングホイール6に反力トルクTを与える反力アクチュエータ13とを有する。また、操舵装置10は、反力アクチュエータ13及び転舵アクチュエータ12を制御する制御装置15を有する。操舵装置10は、転舵アクチュエータ12、反力アクチュエータ13、及び制御装置15をそれぞれ複数備える冗長系であってもよい。
【0027】
ステアリングホイール6は、運転者による操舵操作を受け付ける。ステアリングホイール6は、車体8に回転可能に支持されたステアリングシャフト18の後端に結合され、ステアリングシャフト18と一体に回転する。ステアリングシャフト18は車体8に設けられたステアリングコラム(不図示)に回転可能に支持され、その後端はステアリングコラムから後方に突出している。ステアリングホイール6は、中立位置から左右のそれぞれへ1回転以上回転可能とされている。
【0028】
反力アクチュエータ13は電動モータであり、ギヤを介してステアリングシャフト18に連結されている。反力アクチュエータ13が駆動すると、その駆動力がステアリングシャフト18に回転力として伝達される。反力アクチュエータ13は、回転することによってステアリングホイール6にトルクを与える。反力アクチュエータ13が操舵操作に応じてステアリングホイール6に与えるトルクを反力トルクTという。
【0029】
操舵装置10は、ステアリングシャフト18の軸線を中心とした回転角を操舵角βとして検出する操舵角センサ21を有する。操舵角センサ21は公知のロータリエンコーダであってよい。また、操舵装置10は、ステアリングシャフト18に加わるトルクを操舵トルクTsとして検出するトルクセンサ22を有する。トルクセンサ22は、ステアリングシャフト18におけるステアリングホイール6と反力アクチュエータ13との間の部分に加わる操舵トルクTsを検出する。操舵トルクTsは、運転者によってステアリングホイール6に加えられる操作トルクと、反力アクチュエータ13によってステアリングシャフト18に加えられる反力トルクTとによって定まる。トルクセンサ22は、磁歪式トルクセンサやひずみゲージ等の公知のトルクセンサ、又は反力アクチュエータ13の電動モータに流れる電流値に基づいた推定値を利用したものであってよい。
【0030】
操舵装置10は、反力アクチュエータ13の回転角θを検出する第1回転角センサ23を有する。第1回転角センサ23は、公知のレゾルバやロータリエンコーダであってよい。
【0031】
転舵機構11は、車幅方向に延びるラック軸26を有する。ラック軸26は、車幅方向に移動可能にギヤハウジング(不図示)に支持されている。ラック軸26の左右の端部は、タイロッド30を介して左右の前輪3をそれぞれ支持するナックル9に接続されている。ラック軸26が車幅方向に移動することによって、前輪3の転舵角αが変化する。転舵機構11は、ステアリングホイール6から機械的に切り離されている。
【0032】
転舵アクチュエータ12は、電動モータである。転舵アクチュエータ12は、制御装置15からの信号に基づいてラック軸26を車幅方向に移動させ、左右の前輪3の転舵角αを変化させる。つまり、転舵アクチュエータ12は、操舵角βが変化しない状態で前輪3の転舵角αを変化させることにより、転舵角αの操舵角βに対するレシオK(角度比であり、本実施形態では仮想のギヤ比に相当する)を変更することができる。
【0033】
操舵装置10は、転舵アクチュエータ12の回転角θを検出する第2回転角センサ31を有する。第2回転角センサ31は、公知のレゾルバやロータリエンコーダであってよい。また、操舵装置10は、前輪3の転舵角αを検出する転舵角センサ32を有する。本実施形態では、転舵角センサ32は、ラック軸26の車幅方向における位置であるラック位置を検出するラックストロークセンサであり、ラック位置に基づいて前輪3の転舵角αを検出する。
【0034】
制御装置15は、CPUやメモリ、プログラムを記憶した記憶装置等を含む電子制御装置である。制御装置15には、操舵角センサ21、トルクセンサ22、第1回転角センサ23、第2回転角センサ31、転舵角センサ32が接続されている。制御装置15は、これらのセンサからの信号に基づいて、操舵角β、操舵トルクTs、反力アクチュエータ13の回転角θ、転舵アクチュエータ12の回転角θ、転舵角αに対応した信号を取得する。また、制御装置15は、車速センサ33、変速ポジションセンサ34に接続され、車速V、変速装置35の変速ポジションSPを取得する。
【0035】
変速装置35は、車両1に搭載された走行駆動源から車輪への動力伝達モードを変更する装置である。例えば、車両1が走行駆動源として内燃機関を搭載している場合、変速装置35は内燃機関から駆動輪への駆動力伝達モードを変更するトランスミッションである。また、車両1が走行駆動源として電気モータを搭載している場合、変速装置35は電気モータから駆動輪への駆動力伝達モードを変更するパワーユニットである。
【0036】
変速装置35は、自動変速機である場合、駆動力伝達モードを示す変速ポジションSPとして、パーキングポジション「P」、ニュートラルポジション「N」、ドライブポジション「D」、リバースポジション「R」を備えている。ドライブポジション「D」は、1つのレンジを有していてもよく、1速(Low)、2速などを含む複数のレンジを有していてもよい。変速装置35は、手動変速機である場合、ニュートラルポジション「N」、ドライブポジション「D」、リバースポジション「R」を備えている。ドライブポジション「D」は、1速~5速などの複数のレンジを有している。
【0037】
変速装置35の変速ポジションSPは、シフトレバーやシフトボタン等の切替部材に対する運転者の切替操作によって切り替えられる。なお、シフトボタンは、タッチパネルディスプレイに表示される機能ボタンであってもよい。変速ポジションセンサ34は、運転者によって切り替えられた変速装置35の変速ポジションSPに対応した信号を取得する。制御装置15を含む車両システムは、変速装置35がパーキングポジション「P」又はニュートラルポジション「N」にある場合のみに、オン/オフを切り替えられるように構成されている。
【0038】
制御装置15は、反力アクチュエータ13及び転舵アクチュエータ12に接続され、反力アクチュエータ13及び転舵アクチュエータ12を制御する。制御装置15は、操舵角βに応じて転舵アクチュエータ12を制御し、且つ転舵角αに応じて反力アクチュエータ13を制御する。
【0039】
以下、制御装置15のSBWモードにおける制御を具体的に説明する。制御装置15は、操舵角センサ21によって検出された操舵角βに基づいて、操舵角βに対して所定関係をなす目標転舵角αtを演算する。制御装置15は、例えば変速ポジションSPや車速Vに応じて予め設定された所定のレシオKを操舵角βに掛けることによって目標転舵角αtを演算するとよい(αt=β×K)。レシオKは、低速走行時やリバースポジション「R」での走行時(後退時)に、ステアリングホイール6が左右のそれぞれに1回転半程度(540°程度)操舵されたときに、前輪3の転舵角αが最大値になるように設定される。レシオKは例えば0.02~0.15であってよい。
【0040】
そして制御装置15は、転舵角αが目標転舵角αtとなるように、目標転舵角αtと転舵角αとの偏差Δα(=αt-α)に基づいて転舵アクチュエータ12に供給すべき第1電流値A1を演算する。すなわち、制御装置15は、偏差Δαに基づいて、転舵アクチュエータ12のフィードバック制御を行う。偏差Δαが大きいほど、転舵アクチュエータ12に供給される第1電流値A1が大きくなり、転舵アクチュエータ12の出力が大きくなり、転舵角αの変化速度が大きくなる。
【0041】
例えば、運転者がステアリングホイール6の操舵角βを一定に保ったままアクセル操作によって車両1を加速させた場合、制御装置15が車速Vの増加に伴ってレシオKを小さく変更することにより、車輪は転舵角αが小さくなるように転舵される。
【0042】
制御装置15は、前輪3の転舵状態に応じて、具体的には偏差Δαに基づいて反力アクチュエータ13が発生させるべき目標反力トルクTtを演算する。目標反力トルクTtはΔαに所定の係数を掛けることによって演算されるとよい。そして、制御装置15は、演算した目標反力トルクTtに基づいて反力アクチュエータ13に供給すべき第2電流値A2を演算する。反力アクチュエータ13に供給すべき第2電流値A2は、目標反力トルクTtに基づいて所定のマップを参照することによって決定されるとよい。なお、他の実施形態では、制御装置15は、偏差Δαに基づいて所定のマップを参照し、第2電流値A2を決定してもよい。目標反力トルクTt及び第2電流値A2は、転舵角αの偏差Δαが大きいほど大きく設定される。
【0043】
制御装置15は、第2電流値A2を反力アクチュエータ13に供給し、反力アクチュエータ13に駆動力を発生させる。反力アクチュエータ13が発生した駆動力は、ステアリングシャフト18に運転者の操作入力に抗する反力トルクTとして加えられる。これにより、運転者は、操舵操作に対する反力(抵抗力)をステアリングホイール6から受けることができる。
【0044】
また制御装置15は、室内カメラ5によって撮像された画像に基づいて、運転者によるステアリングホイール6の把持状態を判定する。具体的には、制御装置15は、室内カメラ5によって撮像された画像から公知の画像解析手段を用いて運転者の腕領域を抽出する。制御装置15は更に、抽出された腕領域の情報に基づいて、運転者の腕がステアリングホイール6を把持しているか否か、ステアリングホイール6を把持している場合には、その把持腕姿勢(左右の腕の位置関係)を判定する。
【0045】
図2はステアリングホイール6の正面図である。図2に示すように、ステアリングホイール6は、略円形をしており、スポークやエンブレムの向きによって運転者が中立位置(すなわち、操舵角β=0°の回転位置)を認識可能な構成とされている。ステアリングホイール6には、運転者が把持すべき位置として推奨把持位置GPが設定されており、制御装置15がこれを記憶している。
【0046】
操舵角β=0°のとき、右手用の推奨把持位置GPRはステアリングホイール6の3時の位置であり、左手用の推奨把持位置GPLはステアリングホイール6の9時の位置である。ここで、「~時の位置」とは、中立位置にあるときの最上部を0時としたときに「~時」の方向に位置する部分を意味し、この位置はステアリングホイール6の回転と共に変位する。この3時の位置及び9時の位置は、ステアリングホイール6が中立位置にあるときに、すなわち直進走行時に把持されるべきステアリングホイール6の左右の部分をなし、他の推奨把持位置GPと区別して、直進把持位置GPSということがある。
【0047】
推奨把持位置GPは、ステアリングホイール6の操舵角βに応じて変わるように設定されてよい。例えば、操舵角βが左180°~右180°の角度範囲では、左右の手用の推奨把持位置GPR、GPLは直進把持位置GPSである3時と9時である。操舵角βが左180°超の角度範囲では、左手用の推奨把持位置GPLは持ち替えられるために7時~8時に設定され、右手用の推奨把持位置GPRは持ち替えられるために1時~2時に設定される。操舵角βが右180°超の角度範囲では、右手用の推奨把持位置GPRは持ち替えられるために4時~5時に設定され、左手用の推奨把持位置GPLは持ち替えられるために10時~11時に設定される。
【0048】
ステアリングホイール6にはインジケーター36が設けられている。インジケーター36は、運転者に目視可能な位置に配置された発光部材、例えば複数のLEDにより構成されている。インジケーター36は、本実施形態ではステアリングホイール6の全周にわたって環状をなすように形成されている。他の実施形態では、複数のLEDが間隔を空けて環状に配置されてもよい。
【0049】
制御装置15はインジケーター36の発光動作を制御するように構成されている。具体的には、制御装置15は、ステアリングホイール6の操舵角βに応じ、把持すべきステアリングホイール6の位置である推奨把持位置GPを決定する。自動運転制御装置4による自動運転モードが実行されている間、制御装置15は推奨把持位置GPを表示するようにインジケーター36を制御する。
【0050】
図3は、(A)β=左90°、(B)β=左180°のときの、推奨把持位置GPの表示例を示すステアリングホイール6の正面図である。図3(A)に示すように、操舵角β=90°のとき、制御装置15は自動運転モードの実行中、3時の位置(図中の最上部)を右手用の推奨把持位置GPRとしてインジケーター36を発光させる。また制御装置15は9時の位置(図中の最下部)を左手用の推奨把持位置GPLとしてインジケーター36を発光させる。図3(B)に示すように、操舵角β=180°のとき、制御装置15は自動運転モードの実行中、3時の位置(図中の最左部)を右手用の推奨把持位置GPRとしてインジケーター36を発光させる。また制御装置15は9時の位置(図中の最右部)を左手用の推奨把持位置GPLとしてインジケーター36を発光させる。
【0051】
このように運転者が把持すべき推奨把持位置GPを表示するように制御装置15がインジケーター36を制御することにより、運転者がステアリングホイール6の操舵角βを誤って認識することが防止される。
【0052】
この際、制御装置15は、右手用の推奨把持位置GPRと左手用の推奨把持位置GPLとでインジケーター36の色を異ならせる。例えば、制御装置15は、右手用の推奨把持位置GPRを赤色に発光させ、左手用の推奨把持位置GPLを青色に発光させる。このように運転者に右手用の推奨把持位置GPRと左手用の推奨把持位置GPLとを別個に認識させることにより、より正確に運転者に推奨把持位置GPを認識させることができる。
【0053】
上記のように、手動運転モードでは、制御装置15が、変速ポジションSPや車速Vに応じて、転舵角αが操舵角βに対して所定のレシオKとなるように転舵アクチュエータ12及び反力アクチュエータ13を制御する。一方、運転モードでは、自動運転制御装置4が、自動運転の行動計画に従って転舵アクチュエータ12及び反力アクチュエータ13を制御する。
【0054】
自動運転制御装置4は、自動運転モードで車両1を自律的に走行させているときに、外力によるステアリングホイール6の操舵(オーバーライド)を検出すると、運転モードを自動運転モードから手動運転モードへ切り替える。なお、オーバーライドの検出又は判定方法は公知の方法であってよく、ここでは詳細な説明は割愛する。運転モードが自動運転モードから手動運転モードへ切り替わるときに、制御装置15は以下に述べる認識合わせ制御を実行する。
【0055】
図4は、認識合わせ制御のフロー図である。図4に示すように、運転モードが自動運転モードから手動運転モードへ切り替わると、制御装置15は認識合わせ制御を開始する。制御装置15はまず、操舵角センサ21からステアリングホイール6の操舵角βを、把持センサ7からステアリングホイール6の把持位置を、室内カメラ5から把持腕姿勢をそれぞれ取得する(ST1)。
【0056】
次に制御装置15は、操舵角βに基づいて、ステアリングホイール6が中立位置付近にあるか否かを判定する(ST2)。ここで、中立位置付近とは、中立位置(β=0°)を中心として左右それぞれ90°の範囲、すなわち左90°~右90°の角度範囲を意味する。ステアリングホイール6が中立位置付近にない場合(ST2:No)、制御装置15は、操舵角βに基づいて、ステアリングホイール6が1回転位置付近にあるか否かを判定する(ST3)。ここで、1回転位置付近とは、左360°又は右360°を中心として左右それぞれ90°の範囲、すなわち左270°~左450°及び右270°~右450°の角度範囲を意味する。ステップST3で、ステアリングホイール6が1回転位置付近にない場合(No)、制御装置15は本処理を終了する。
【0057】
ステップST2の判定がYes又はステップST3の判定がYesの場合、制御装置15は、把持位置が直進把持位置GPSであるか否かを判定する(ST4)。この判定では、両手の把持位置が左右の直進把持位置GPSである場合のみならず、1つの把持位置が左右の直進把持位置GPSのどちらかである場合も、把持位置が直進把持位置GPSであると判定される。ただし、2つ目の把持位置が左右の直進把持位置GPS以外の位置である場合、把持位置が直進把持位置GPSでないと判定される。ステップST4で、把持位置が直進把持位置GPSである場合(Yes)、制御装置15は、腕が交差しているか否かを判定する(ST5)。すなわち、制御装置15は、ステアリングホイール6が中立位置付近又は1回転位置付近にある(ST2:Yes、ST3:Yes)にも拘わらず、運転者の腕が交差しているか否かを判定する。
【0058】
ステップST5で、腕が交差していない場合(No)、制御装置15は、ステアリングホイール6の運転者が認識している操舵角βである認識操舵角βreが、中立位置付近(左90°~右90°)であると判定する(ST6)。ステップST5で、腕が交差している場合(Yes)及び、ステップST4で、把持位置が直進把持位置GPSでない場合(No)制御装置15は、認識操舵角βreが1回転位置付近であると判定する(ST7)。この際、制御装置15は、腕の交差方向や把持位置に応じて、認識操舵角βreが左の1回転位置付近であるか右の1回転位置付近であるかを判定する。
【0059】
続いて制御装置15は、認識操舵角βreと操舵角センサ21から受け取った実際の操舵角βとが整合しているか否かを判定する(ST8)。ここで、整合しているとは、認識操舵角βreと操舵角βとが、共に中立位置付近である場合、共に左の1回転位置付近である場合及び、共に右の1回転位置付近である場合を意味する。ステップST8で、認識操舵角βreと操舵角βとが整合している場合(Yes)、制御装置15は本処理を終了する。
【0060】
一方、ステップST8で、認識操舵角βreと操舵角βとが整合していない場合(No)、制御装置15は、パッシブ位相合わせを行い、転舵角αが認識操舵角βreに対応する認識転舵角αreに近付くようにレシオKを変更する(ST9)。具体的には、認識操舵角βreが中立位置付近である場合は、制御装置15は、右又は左の1回転位置付近の操舵角βに対応する認識転舵角αreに転舵角αが近付くようにレシオKを変更する。一方、認識操舵角βreが右又は左の1回転位置付近である場合は、制御装置15は、中立位置付近の操舵角βに対応する認識転舵角αreに転舵角αが近付くようにレシオKを変更する。
【0061】
このように制御装置15は、ステップST4~ST7において、ステアリングホイール6の把持位置に応じて、認識操舵角βreが中立位置(0°)付近と1回転位置(360°)付近とのどちらであるかを判定する。そして、判定された認識操舵角βreと実際の操舵角βとが相違する場合に(ST8:No)、制御装置15はステップST9において転舵角αが認識操舵角βreに対応する認識転舵角αreに近付くようにレシオKを変更する。これにより、前輪3の転舵角αを運転者の認識転舵角αreに近付けることができ、運転者の違和感が低減される。
【0062】
ここで、パッシブ位相合わせとは、運転者がステアリングホイール6を操舵している間に、転舵角αが認識転舵角αreに近付くように転舵アクチュエータ12を駆動してレシオKを変更する制御である。図5は、パッシブ位相合わせによる転舵角αの変化を示すタイムチャートである。図5に示すように、制御装置15がパッシブ位相合わせを行い、運転者によるステアリング操舵中にレシオKを変更することで、運転者がステアリングホイール6を操舵していない状態で前輪3が転舵されることが防止される。これにより、運転者の違和感がより低減する。
【0063】
ステップST9のパッシブ位相合わせは、転舵角αが認識転舵角αreに一致するまで続けられ、一致すると終了する。これにより、図4に示す認識合わせ制御が終了する。
【0064】
上記のように制御装置15は、運転者が直進把持位置GPSを把持している場合(ST4:Yes)、運転者が直進状態を認識している、すなわちステアリングホイール6が中立位置付近にあると認識していると判定することができる(ST6)。一方、運転者が直進把持位置GPS以外の位置を把持している場合(ST4:No)、制御装置15は運転者が非直進状態を認識している、すなわちステアリングホイール6が中立位置付近ではなく1回転位置付近にあると認識していると判定することができる(ST7)。
【0065】
制御装置15は、ステップST1にて、室内カメラ5による撮像結果に基づいて判定した把持腕姿勢を取得し、ステップST5にて、運転者の腕が交差しているか否かを判定する。そして、ステアリングホイール6が中立位置付近又は1回転位置付近にあるにも拘わらず(ST2:Yes、ST3:Yes)、運転者の腕が交差していると判定した場合(ST5:Yes)、制御装置15は、ステアリングホイール6が中立位置から回された状態にあると運転者が認識している、すなわち、認識操舵角βreが1回転位置付近であると判定することができる(ステップST7)。
【0066】
以上で具体的実施形態の説明を終えるが、本発明は上記実施形態に限定されることなく幅広く変形実施することができる。例えば、上記の実施形態では、操舵角βと転舵角αとのレシオKを変更可能な転舵機構11として、ステアバイワイヤ式の転舵機構11が採用されている。他の実施形態では、ステアリングホイール6と転舵機構11とが機械的に連結され、両者の間に可変ギヤレシオ機構が設けられた可変ギヤレシオステアリング(VGS:Variable Gear ratio Steering)や、アクティブステアリング(AFS)として転舵機構11が構成されてもよい。上記実施形態では、中立位置付近及び1回転位置付近が、中立位置及び1回転位置を中心として左右それぞれ90°の範囲であるが、これらは、中立位置及び1回転位置を中心として左右それぞれ60°の範囲や45°の範囲、30°の範囲等であってもよい。また、上記実施形態では、運転者によるステアリングホイール6の把持位置を検出する把持位置検出装置として把持センサ7が採用されているが、室内カメラ5によって撮像された画像から把持位置を検出してもよい。この他、各部材や部位の具体的構成や配置、数量、角度、手順など、本発明の趣旨を逸脱しない範囲であれば適宜変更することができる。一方、上記実施形態に示した各構成要素は必ずしも全てが必須ではなく、適宜選択することができる。
【符号の説明】
【0067】
1 :車両
3 :前輪
5 :室内カメラ(撮像装置)
6 :ステアリングホイール
7 :把持センサ(把持位置検出装置)
10 :操舵装置
11 :転舵機構
15 :制御装置
36 :インジケーター
GP :推奨把持位置
GPL :左手用の推奨把持位置
GPR :右手用の推奨把持位置
GPS :直進把持位置
K :レシオ
α :転舵角
αre :認識転舵角
β :操舵角
βre :認識操舵角
図1
図2
図3
図4
図5