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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-22
(45)【発行日】2022-12-01
(54)【発明の名称】半導体装置および消去方法
(51)【国際特許分類】
   G11C 16/34 20060101AFI20221124BHJP
   G11C 16/04 20060101ALI20221124BHJP
【FI】
G11C16/34 130
G11C16/04 170
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2021199805
(22)【出願日】2021-12-09
【審査請求日】2021-12-09
(73)【特許権者】
【識別番号】511062254
【氏名又は名称】ウィンボンド エレクトロニクス コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100098497
【弁理士】
【氏名又は名称】片寄 恭三
(72)【発明者】
【氏名】矢野 勝
(72)【発明者】
【氏名】竹下 利章
【審査官】後藤 彰
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-59945(JP,A)
【文献】特開2002-25283(JP,A)
【文献】特開平7-312093(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G11C 16/34
G11C 16/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
NAND型フラッシュメモリの消去方法であって、
メモリセルアレイの選択ブロックに消去パルスを印加するステップと、
前記選択ブロックを第1の読出し電圧で第1の消去ベリファイを行うステップと、
前記選択ブロックを前記第1の読出し電圧よりも低い第2の読出し電圧で第2の消去ベリファイを行うステップと、
第1および第2の消去ベリファイに基づき次に印加する消去パルスを制御するステップとを有し、
前記制御するステップは、前回と同じ消去電圧の消去パルスを印加することを含む、消去方法。
【請求項2】
前記制御するステップは、第1の消去ベリファイと第2の消去ベリファイで規定されるしきい値間で、前回と同じ消去電圧の消去パルスを印加することを含む、請求項1に記載の消去方法。
【請求項3】
前記制御するステップは、第1の消去ベリファイが合格でありかつ第2の消去ベリファイが不合格である場合には、前回と同じ消去電圧の消去パルスを印加し、第1の消去ベリファイが不合格である場合には、前回よりも1ステップ電圧だけ高い消去パルスを印加する、1または2に記載の消去方法。
【請求項4】
前記制御するステップは、前回と同じ消去電圧の消去パルスを印加する回数が規定数Qに到達した場合には、次回のプログラム後の消去時に当該選択ブロックに印加する消去パルスの消去電圧が1ステップ電圧だけ高くなる設定を行う、請求項1ないし3いずれか1つに記載の消去方法。
【請求項5】
前記制御するステップは、前記規定数Qの消去パルスを印加したときのしきい値のシフト量が1ステップ電圧だけ高い消去パルスを印加したときのしきい値のシフト量と等しくなるように前記規定数Qを設定する、請求項4に記載の消去方法。
【請求項6】
消去の許容時間をTmax、次の消去パルスの印加時間をTpとしたとき、消去パルスの許容印加回数Nmaxは、Nmax=Tmax/Tpであり、
前記制御するステップは、許容印加回数Nmaxに基づき規定数Qを設定する、請求項4または5に記載の消去方法。
【請求項7】
前記印加するステップは、メモリセルのしきい値が負の方向に緩やかな速度でかつ概ね線形にシフトする状態になるように、初期消去パルスを印加することを含み、
前記制御するステップは、前記初期消去パルスの印加後の次の消去パルスを制御する、請求項1ないし6いずれか1つに記載の消去方法。
【請求項8】
NAND型のメモリセルアレイと、
前記メモリセルアレイの選択されたブロックを消去する消去手段とを有し、
前記消去手段は、前記選択ブロックを第1の読出し電圧で第1の消去ベリファイを行いかつ当該第1の読出し電圧よりも低い第2の読出し電圧で第2の消去ベリファイを行い、第1および第2の消去ベリファイに基づき次に印加する消去パルスを制御し、第1の消去ベリファイと第2の消去ベリファイで規定されるしきい値間で前回と同じ消去電圧の消去パルスを印加することを含む、半導体装置。
【請求項9】
前記消去手段は、第1の消去ベリファイが合格でありかつ第2の消去ベリファイが不合格である場合には、前回と同じ消去電圧の消去パルスを印加し、第1の消去ベリファイが不合格である場合には、前回よりも1ステップ電圧だけ高い消去パルスを印加する、請求項8に記載の半導体装置。
【請求項10】
前記消去手段は、前回と同じ消去電圧の消去パルスを印加する回数が規定数Qに到達した場合には、次回のプログラム後の消去時に当該選択ブロックに印加する消去パルスの消去電圧が1ステップ電圧だけ高くなる設定を行う、請求項8に記載の半導体装置。
【請求項11】
前記消去手段は、前記規定数Qの消去パルスを印加したときのしきい値のシフト量が1ステップ電圧だけ高い消去パルスを印加したときのしきい値のシフト量と等しくなるように前記規定数Qを設定する、請求項10に記載の半導体装置。
【請求項12】
消去の許容時間をTmax、次の消去パルスの印加時間をTpとしたとき、消去パルスの許容印加回数Nmaxは、Nmax=Tmax/Tpであり、
前記制御手段は、許容印加回数Nmaxに基づき規定数Qを設定する、請求項10または11に記載の半導体装置。
【請求項13】
前記消去手段は、メモリセルのしきい値が負の方向に緩やかな速度でかつ概ね線形にシフトする状態になるように、初期消去パルスを印加し、当該期消去パルスの印加後の次の消去パルスを制御する、請求項8ないし12いずれか1つに記載の半導体装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、NAND型フラッシュメモリ等の半導体装置に関し、特に、消去時の消去パルスの制御に関する。
【背景技術】
【0002】
NAND型フラッシュメモリでは、消去時のメモリセルのしきい値分布を制御するため、ISPE(Incremental Step Pulse Erase)方式を用いている。ISPEは、図1に示すように、選択されたブロックのPウエルに消去パルスVers0を印加し、消去ベリファイで不合格と判定された場合には、消去パルスVers0よりも1ステップ電圧だけ高い消去パルスVers1を印加し、ブロック内のすべてのメモリセルの消去が合格と判定されるまで消去パルスの電圧を増加させて消去を行う。また、消去パルスの印加回数が許容される最大印加回数に到達した場合には、そのブロックをバッドブロックとして管理し消去を終了させる(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第6249504号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
NAND型フラッシュメモリにおいて、プログラム/消去のサイクルが繰り返されると、Gm(トランスコンダクタンス)が劣化し、メモリセルに電流が流れ難くなり、メモリセルのしきい値が徐々に正の方向にシフトする。メモリセルの消去は、しきい値を負の方向に減少させるものであるため、サイクル数が増加すると消去が難くなり、消去速度が遅くなる。
【0005】
従来のISPEでは、サイクル数の増加によりメモリセルが劣化して消去速度が遅くなると、消去パルスの電圧を増加させることで消去時間の短縮を図っていたが、それ自身がメモリセルの劣化を加速させる原因と考えられている。つまり、選択ブロックの消去ベリファイはブロック単位で行われるため、ブロック内に消去が十分なNANDストリングと消去が不十分なNANDストリングとが含まれる場合、消去ベリファイは不合格となり、ステップ電圧を増加した消去パルスが選択ブロックに印加される。このため、消去が十分なNANDストリングのメモリセルにとっては過剰な電圧ストレスが印加されることになり、メモリセルの劣化が加速されてしまう。その結果、エンデュランス特性も悪化してしまう。
【0006】
本発明は、このような従来の課題を解決し、ISPEによるメモリセルの劣化速度を緩和することができる半導体装置および消去方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るNAND型フラッシュメモリの消去方法は、メモリセルアレイの選択ブロックに消去パルスを印加するステップと、前記選択ブロックを第1の読出し電圧で第1の消去ベリファイを行うステップと、前記選択ブロックを前記第1の読出し電圧よりも低い第2の読出し電圧で第2の消去ベリファイを行うステップと、第1および第2の消去ベリファイに基づき次に印加する消去パルスを制御するステップとを有し、前記制御するステップは、前回と同じ消去電圧の消去パルスを印加することを含む。
【0008】
ある態様では、前記制御するステップは、第1の消去ベリファイと第2の消去ベリファイで規定されるしきい値間で、前回と同じ消去電圧の消去パルスを印加することを含む。ある態様では、前記制御するステップは、第1の消去ベリファイが合格でありかつ第2の消去ベリファイが不合格である場合には、前回と同じ消去電圧の消去パルスを印加し、第1の消去ベリファイが不合格である場合には、前回よりも1ステップ電圧だけ高い消去パルスを印加する。ある態様では、前記制御するステップは、前回と同じ消去電圧の消去パルスを印加する回数が規定数Qに到達した場合には、次回のプログラム後の消去時に当該選択ブロックに印加する消去パルスの消去電圧が1ステップ電圧だけ高くなる設定を行う。ある態様では、前記制御するステップは、前記規定数Qの消去パルスを印加したときのしきい値のシフト量が1ステップ電圧だけ高い消去パルスを印加したときのしきい値のシフト量と等しくなるように前記規定数Qを設定する。ある態様では、消去の許容時間をTmax、次の消去パルスの印加時間をTpとしたとき、消去パルスの許容印加回数Nmaxは、Nmax=Tmax/Tpであり、前記制御するステップは、許容印加回数Nmaxに基づき規定数Qを設定する。ある態様では、前記印加するステップは、メモリセルのしきい値が負の方向に緩やかな速度でかつ概ね線形にシフトする状態になるように、初期消去パルスを印加することを含み、前記制御するステップは、前記初期消去パルスの印加後の次の消去パルスを制御する。
【0009】
本発明に係る半導体装置は、NAND型のメモリセルアレイと、前記メモリセルアレイの選択されたブロックを消去する消去手段とを有し、前記消去手段は、前記選択ブロックを第1の読出し電圧で第1の消去ベリファイを行いかつ当該第1の読出し電圧よりも低い第2の読出し電圧で第2の消去ベリファイを行い、第1および第2の消去ベリファイに基づき次に印加する消去パルスを制御し、第1の消去ベリファイと第2の消去ベリファイで規定されるしきい値間で前回と同じ消去電圧の消去パルスを印加することを含む。
【0010】
ある態様では、前記消去手段は、第1の消去ベリファイが合格でありかつ第2の消去ベリファイが不合格である場合には、前回と同じ消去電圧の消去パルスを印加し、第1の消去ベリファイが不合格である場合には、前回よりも1ステップ電圧だけ高い消去パルスを印加する。ある態様では、前記消去手段は、前回と同じ消去電圧の消去パルスを印加する回数が規定数Qに到達した場合には、次回のプログラム後の消去時に当該選択ブロックに印加する消去パルスの消去電圧が1ステップ電圧だけ高くなる設定を行う。ある態様では、前記消去手段は、前記規定数Qの消去パルスを印加したときのしきい値のシフト量が1ステップ電圧だけ高い消去パルスを印加したときのしきい値のシフト量と等しくなるように前記規定数Qを設定する。ある態様では、消去の許容時間をTmax、次の消去パルスの印加時間をTpとしたとき、消去パルスの許容印加回数Nmaxは、Nmax=Tmax/Tpであり、前記制御手段は、許容印加回数Nmaxに基づき規定数Qを設定する。ある態様では、前記消去手段は、メモリセルのしきい値が負の方向に緩やかな速度でかつ概ね線形にシフトする状態になるように、初期消去パルスを印加し、当該期消去パルスの印加後の次の消去パルスを制御する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、第1および第2の消去ベリファイに基づき次に印加する消去パルスを制御するようにしたので、次に印加する消去パルスの消去電圧と前回と同じ消去電圧とすることができ、これにより、メモリセルの劣化速度が加速されるのを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】従来のフラッシュメモリのISPEによる消去を説明する図である。
図2】本発明の実施例に係るNAND型フラッシュメモリの構成を示すブロック図である。
図3】メモリセルのしきい値と消去時間との関係を示すグラフである。
図4】本発明の実施例に係るフラッシュメモリの消去動作を説明するフローチャートである。
図5図5(A)は、しきい値分布と消去ベリファイEV1との関係を示す図、図5(B)は、しきい値分布と消去ベリファイEV2との関係を示す図である。
図6】本発明の実施例によるISPEの消去パルスと印加回数との関係を示すテーブルである。
図7】本発明の実施例に係るISPEによる消去パルスの印加例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
次に、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。本発明に係る半導体装置は、例えば、NAND型フラッシュメモリ、あるいはこのようなフラッシュメモリを埋め込むマイクロプロセッサ、マイクロコントローラ、ロジック、ASIC、画像や音声を処理するプロセッサ、無線信号等の信号を処理するプロセッサなどである。以下の説明では、NAND型フラッシュメモリを例示する。
【実施例
【0014】
図2は、本発明の実施例に係るNAND型フラッシュメモリの構成を示すブロック図である。本実施例に係るフラッシュメモリ100は、複数のメモリセルが行列状に配列されたメモリアレイ110と、読出しデータを外部に出力したり、外部から入力されるデータを取り込む入出力バッファ120と、入出力バッファ120を介して入力されたアドレスデータを保持するアドレスレジスタ130と、入出力バッファ120を介して受け取ったコマンドデータや外部端子に印加された制御信号に基づき各部を制御するコントローラ140と、ISPEなどに関する設定情報を記憶する設定情報記憶部150と、アドレスレジスタ130からの行アドレス情報Axに基づきブロックの選択やワード線の選択等を行うワード線選択回路160と、メモリセルアレイ110の選択されたページから読み出されたデータを保持したり、選択されたページにプログラムするためのデータを保持するページバッファ/センス回路170と、アドレスレジスタ130からの列アドレス情報Ayに基づきページバッファ/センス回路170内の列の選択等を行う列選択回路180と、読出し、プログラムおよび消去等のために必要な種々の電圧(プログラム電圧Vpgm、パス電圧Vpass、読出し電圧Vread、消去電圧Versなど)を生成する内部電圧発生回路190とを含んで構成される。
【0015】
メモリセルアレイ110は、例えば、列方向に配置されたm個のブロックBLKを有する。各ブロックは、複数のNANDストリングを含み、1つのNANDストリングは、直列に接続された複数のメモリセルと、ビット線側選択トランジスタと、ソース線側選択トランジスタとを含み、ビット線側選択トランジスタは、対応する1つのグローバルビット線に接続され、ソース線側選択トランジスタは、共通のソース線に接続される。各メモリセルのゲートはワード線に接続され、ビット線側選択トランジスタおよびソース線側選択トランジスタの各ゲートは、選択ゲート線に接続され、ワード線WL、選択ゲート線は、ワード線選択回路160によって駆動される。また、各ビット線は、偶数ビット線または奇数ビット線を選択するためのビット線選択回路を介してページバッファ/センス回路170に接続される。
【0016】
設定情報記憶部150は、ISPEに関する設定情報として、消去パルスの初期値、ステップ電圧、消去パルスの最大印加回数、規定数Q等を記憶する。ある態様では、パワーオン動作時に、メモリセルアレイ110のフューズセルから読み出された設定情報が設定情報記憶部150にロードされる。
【0017】
ワード線選択回路160は、行アドレスAxに基づきワード線WLを介してメモリセルを駆動し、また選択ゲート線を介してビット線側選択トランジスタやソース線側選択トランジスタを駆動し、ブロックやページを選択する。列選択回路180は、列アドレスAyに従いグローバルビット線を選択し、例えばページ内のデータの読出し開始位置などを選択する。
【0018】
コントローラ150は、ROM/RAM等を含むマイクロコントローラあるいはステートマシン等を用いて構成され、フラッシュメモリ100の動作を制御する。読出し動作では、ビット線に或る正の電圧を印加し、選択ワード線に或る電圧(例えば0V)を印加し、非選択ワード線にパス電圧(例えば4.5V)を印加し、ビット線側選択トランジスタ、ソース線側選択トランジスタをオンし、共通ソース線に0Vを印加する。プログラム動作では、選択ワード線に高電圧のプログラム電圧Vpgm(例えば、15~20V)を印加し、非選択のワード線に中間電位(例えば10V)を印加し、ビット線側選択トランジスタをオンさせ、ソース線側選択トランジスタをオフさせ、「0」または「1」のデータに応じた電位をビット線に供給する。
【0019】
消去動作では、ブロック内の選択ワード線に0Vを印加し、Pウエルに消去電圧Versを印加し、フローティングゲートの電子を基板に引き抜くことで、ブロック単位でデータを消去する。消去電圧は、ISPEのアルゴリズムに従い決定される。
【0020】
次に、本実施例のISPEによる消去方法について説明する。従来のISPEでは、消去ベリファイが不合格の場合、次に印加する消去パルスの消去電圧を1ステップだけ増加させるが、この法は、消去速度が速いメモリセルにとってはオーバーストレスであり、メモリセルの劣化速度が速まる可能性がある。
【0021】
他方、消去に許容される時間は、エンデュランス特性などを考慮し、例えば、P/Eサイクル数が100Kのときの消去速度が遅くなったときを基準にして決定される。従来のISPEでは、消去ベリファイが不合格であれば、消去の許容時間を考慮することなく、つまり、消去の許容時間が十分に残っているにもかかわらず、消去パルスの電圧を増加させる。
【0022】
本実施例のISPEでは、消去ベリファイが不合格のとき、一律に消去パルスの電圧を増加させるのではなく、消去の許容時間を有効に活用しつつ、前回と同じ消去電圧の消去パルスを繰り返し印加することを可能にし、消去速度が速いメモリセルにオーバーストレスが加わらないようにし、そのようなメモリセルが劣化する速度を緩和する。
【0023】
図3は、種々の消去電圧の消去パルスを一定時間間隔で印加したときのメモリセルのしきい値と消去時間(横軸は対数)との関係を示すグラフである。ここでは、一例として、消去電圧が18v、19v、20v、21vの消去パルスの印加を示している。同図に示すように、消去電圧が同じ消去パルスを繰り返し印加した場合、消去開始時刻から約5×10-6で、しきい値が負の方向に概ね線形にシフトし、消去開始時刻が約10-1で、しきい値のシフトが飽和し概ね一定になる。消去電圧が大きい方が(18vよりも21vの方が)、飽和したときの負のしきい値電圧は大きくなる。
【0024】
このグラフから言えることは、消去開始から一定時間までの間は(~5×10-6程度)、しきい値は殆ど変化しないが、その後、消去電圧が同じ消去パルスを印加すると、しきい値は緩やかな速度でかつ概ね線形に変化する。
【0025】
本実施例のISPEでは、このようなしきい値が緩やかな速度でかつ線形に変化する特性を利用して、消去パルスの電圧を決定する。例えば、図3に示す5×10-6~1×10-1の消去期間、またはその消去期間に対応するしきい値の範囲内において、選択ブロックの第1の消去ベリファイEV1と、第2の消去ベリファイEV2とを行い、メモリセルのしきい値が当該範囲内にあるか否かが検証される。メモリセルのしきい値が第1の消去ベリファイEV1と第2の消去ベリファイEV2との間に存在する場合、選択ブロックには
可能な限り同一消去電圧の消去パルスが印加される。
【0026】
但し、許容される消去時間には制限があるので、同一電圧の消去パルスを印加する回数にも上限を設ける必要がある。例えば、許容される消去時間をTmax、1回の消去パルスの印加時間をTpとしたとき(各消去パルスの印加時間は等しい)、消去パルスの許容印加回数Nmaxは、Nmax=Tmax/Tpである。許容印加回数Nmaxに基づき、同一電圧で印加することができる消去パルスの回数を決定することができる。
【0027】
図4は、本実施例のISPEの動作フローである。コントローラ140は、外部から入力された消去コマンドおよびアドレスに応答して、あるいは内部的にガーベッジコレクションを実行させるための内部消去コマンドに応答してISPEアルゴリズムを実行する(S100)。
【0028】
コントローラ140は、ワード線選択回路160を介して選択されたブロックのワード線をGNDレベルにし、Pウエルに消去パルスを印加する(S110)。初期シーケンスとして、メモリセルのしきい値が図3に示すようなしきい値が緩やかな速度でかつ線形に変化する領域に突入するように、1つまたは複数の初期の消去パルスが印加される。
【0029】
次に、コントローラ140は、選択ブロックの消去ベリファイEV1を行う(S120)。消去ベリファイEV1は、選択ブロックの各ワード線にベリファイ読出し電圧Vg1を印加し、選択ブロックの各NANDストリングの消去状態を検証する。
【0030】
図5(A)は、消去ベリファイEV1とメモリセルのしきい値分布の関係を模式的に示した図である。しきい値分布Aのように、全てのメモリセル(またはNANDストリング)のしきい値がベリファイ読出し電圧Vg1よりも小さければ、消去ベリファイEV1は合格である。他方、しきい値分布B1のように、一部のメモリセルのしきい値がベリファイ読出し電圧Vg1よりも大きければ、消去ベリファイEV1は不合格である。また、しきい値分布B2のように、その下限値がベリファイ読出し電圧Vg1に到達していない場合にも消去ベリファイEV1は不合格である
【0031】
消去ベリファイEV1が不合格の場合、選択ブロックのメモリセルのしきい値が未だ十分に負の方向にシフトしておらず、言い換えれば、図3に示すしきい値が緩やかに線形に変化する領域に到達していないと判定し、この場合には、コントローラ140は、次の消去パルスの消去電圧を1ステップだけ増加させ(S160)、この増加した消去パルスを選択ブロックに印加する(S110)。
【0032】
一方、消去ベリファイEV1が合格であれば、2回目の消去ベリファイEV2が行われる(S130)。消去ベリファイEV2は、ベリファイ読出し電圧Vg1よりも小さいベリファイ読出し電圧Vg2を用いて行われる。図5(B)は、消去ベリファイEV2とメモリセルのしきい値分布の関係を模式的に示した図である。消去ベリファイEV1を合格したしきい値分布Aが、しきい値分布A1のように全てのメモリセルのしきい値がベリファイ読出し電圧Vg2よりも小さければ、消去ベリファイEV2は合格である。しかし、しきい値分布A2のように、一部でもしきい値がベリファイ読出し電圧Vg2よりも大きければ、消去ベリファイEV2は不合格である。
【0033】
消去ベリファイEV2が合格の場合には(ステップS130)、選択ブロックの消去は終了する。消去ベリファイEV2が不合格の場合、コントローラ140は、次の消去パルスの電圧を決定する。この場合、コントローラ140は、同一電圧の消去パルスの印加回数が規定値Qに到達したか否かを判定し(S140)、規定値Q以下であれば、次の消去パルスの消去電圧を前回と同じに決定し(S150)、前回と同じ消去電圧の消去パルスが選択ブロックに印加される(S110)。規定値Qを超える場合には、コントローラ140は、消去パルスの消去電圧を1ステップだけ増加させるためのフラグをメモリ等に設定する(S170)。コントローラ140は、次のプログラム後の当該ブロックを消去するとき、フラグを参照し、消去電圧が1ステップ電圧だけ増加した消去パルスを選択ブロックに印加することになる。フラグの設定後、コントローラ140は、次の消去パルスの消去電圧を前回と同じに決定し(S150)、前回と同じ消去電圧の消去パルスが選択ブロックに印加される(S110)。
【0034】
ステップS110~S170の処理は、消去ベリファイEV2が合格するまで繰り返され、緩やかな消去速度の消去パルスの印加が繰り返される。但し、全体の消去パルスを印加する回数が許容印加回数Nmaxに到達した場合には、選択ブロックをバッドブロックとして管理し、消去を終了させる。
【0035】
このように本実施例の消去方法によれば、消去の許容時間を有効に活用しつつ、前回と同一の消去電圧の消去パルスを繰り返し印加できるようにしたので、消去速度が速いメモリセルに過度な電圧ストレスが印加されるのを防ぎ、メモリセルが劣化する速度を緩和させることができる。その結果、従来のISPEと比較してフラッシュメモリのエンデュランス特性を改善することができる。
【0036】
次に、本実施例のISPEの具体例について説明する。図6は、消去電圧と消去パルスの印加回数との一例を示すテーブルであり、図7(A)は、図6の“Step-4”の消去例、図7(B)は、図6の“Step-9”の消去例である。消去の初期シーケンスとして、ランプ消去パルスP1と、14.0vの波高値の消去パルスP2と、14.4vの波高値の消去パルスP3とが印加される。初期シーケンスは、選択ブロックのメモリセルのしきい値を、しきい値が緩やかに線形に変化する領域に移行させるために実施される。各消去パルスの印加時間は、500usに設定され、消去ベリファイEV1のベリファイ読出し電圧がVg=1.4v、消去ベリファイEV2のベリファイ読出し電圧がVg2=1.0vに設定される。また、14.4vの消去パルスを印加したときのしきい値のシフト量×規定値Qが、1ステップ電圧だけ高い14.8vの消去パルスを1回印加したときのしきい値のシフト量に概ね等しくなることを想定し、ここでは、前回と同じ消去電圧の消去パルスを印加することができる回数の規定値Qを5に設定する。
【0037】
先ず、図6の“Fresh”に示すように、P/Eサイクル数が少ない選択ブロックには、消去の初期シーケンスとして、ramp消去パルスP1(500us)→消去パルスP2(14v,500us)→消去パルスP3(14.4v,500us)が印加される。1.5ms後、消去ベリファイEV1、EV2が行われる。
【0038】
(1)消去ベリファイEV1、EV2がそれぞれ合格した場合、消去は終了する。
(2)消去ベリファイEV1が合格、消去ベリファイEV2が不合格の場合、”Step-1”に示すように、消去パルスP4(14.4v,500us)が印加される。
(3)2.0ms後、消去バリファイEV1、EV2がそれぞれ合格した場合、消去は終了する。消去ベリファイEV1が合格、消去ベリファイEV2が不合格の場合、”Step-2”に示すように、消去パルスP5(14.4v,500us)が印加される。
(4)2.5ms後、消去ベリファイEV1、EV2がそれぞれ合格した場合、消去は終了する。消去ベリファイEV1が合格、消去ベリファイEV2が不合格の場合、“Step-3”に示すように、消去パルスP5(14.4v,500us)が印加される。
(5)3.0ms後、消去ベリファイEV1、EV2がそれぞれ合格した場合、消去は終了する。消去ベリファイEV1が合格、消去ベリファイEV2が不合格の場合、“Step-4”に示すように、消去パルスP6(14.4v,500us)が印加される。
(6)ステップ-4では、消去パルスP6の印加が規定数Qに到達したため、消去電圧を1ステップ電圧だけ増加させるためのフラグが設定される。このフラグの設定により、当該ブロックを次に消去するときの消去パルスの消去電圧が14.8vに設定される。従って、次回のプログラム後の当該選択ブロックの消去では、“ステップStep-5”に示すように、消去の初期シーケンス(消去パルスP1、P2、P3)の印加後に、消去パルス(14.8v,500us)が印加される。
【0039】
図7(A)は、初期シーケンスとして消去パルスP1、P2、P3の印加後、消去ベリファイEV1が合格、消去ベリファイEV2が不合格となり、消去パルスP3と同じ電圧の消去パルスP4が印加され、その後も連続して消去ベリファイEV2が不合格となり、消去パルスP3と同じ電圧の消去パルスP5、P6、P7の印加が繰り返され、消去パルスP7の印加により消去ベリファイEV2が合格した例である(図6のStep-4”の消去例)。この場合、14.4vの消去パルスの印加回数が規定値Q(=5)に到達したため、消去パルスの消去電圧を1ステップ電圧だけ増加されるためのフラグが設定される。
【0040】
図7(B)は、前回の消去の際に1ステップ電圧を増加させるフラグが設定されたときの消去例(図6のStep-9”)であり、すなわち、初期シーケンスとして消去パルスP1、P2、P3の印加後、前回の消去時に設定されたフラグに従い、1ステップ電圧が増加された消去パルスP4(14.8)が印加され、2.0msの消去ベリファイEV1が合格、消去ベリファイEV2が不合格となり、消去パルスP4と同じ電圧の消去パルスP5が印加され、その後も連続して消去ベリファイEV2が不合格となり、消去パルスP4と同じ電圧の消去パルスP5、P6、P7、P8の印加が繰り返され、消去パルスP8の印加により消去ベリファイEV2が合格した例である。この場合、14.8vの消去パルスの印加回数が規定値Q(=5)に到達したため、消去パルスの消去電圧を1ステップ電圧だけ増加されるためのフラグが設定される。
【0041】
上記実施例で記載した消去パルスの消去電圧、消去パルスの印加時間、ステップ電圧、規定値Qなどは一例であり、これらの値は、NAND型フラッシュメモリに要求されるスペック等に応じて適宜変更され得る。
【0042】
本発明の好ましい実施の形態について詳述したが、本発明は、特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0043】
100:フラッシュメモリ 110:メモリセルアレイ
120:入出力バッファ 130:アドレスレジスタ
140:コントローラ 150:設定情報記憶部
160:ワード線選択回路 170:ページバッファ/センス回路
180:列選択回路 190:内部電圧発生回路
【要約】
【課題】 ISPEによるメモリセルの劣化速度を緩和することができる半導体装置を提供する。
【解決手段】 本発明に係るNAND型フラッシュメモリは、メモリセルアレイと、メモリセルアレイの選択されたブロックを消去する消去手段とを有する。消去手段は、選択ブロックを第1および第2の消去ベリファイEV1、EV2を行い、第1の消去ベリファイEV1が合格でありかつ第2の消去ベリファイEV2が不合格である場合には、前回と同じ消去電圧の消去パルスを印加し、第1の消去ベリファイEV1が不合格である場合には、前回よりも1ステップ電圧だけ高い消去パルスを印加する。
【選択図】 図7
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7