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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-22
(45)【発行日】2022-12-01
(54)【発明の名称】系統連系電力変換装置
(51)【国際特許分類】
   H02M 7/48 20070101AFI20221124BHJP
   H02J 3/38 20060101ALI20221124BHJP
   H02J 3/24 20060101ALI20221124BHJP
【FI】
H02M7/48 M
H02M7/48 R
H02M7/48 F
H02J3/38 110
H02J3/24
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2021539243
(86)(22)【出願日】2020-08-06
(86)【国際出願番号】 JP2020030141
(87)【国際公開番号】W WO2021029313
(87)【国際公開日】2021-02-18
【審査請求日】2022-02-07
(31)【優先権主張番号】P 2019147562
(32)【優先日】2019-08-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019147563
(32)【優先日】2019-08-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019147564
(32)【優先日】2019-08-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003687
【氏名又は名称】東京電力ホールディングス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000006105
【氏名又は名称】株式会社明電舎
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100092613
【弁理士】
【氏名又は名称】富岡 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100104938
【弁理士】
【氏名又は名称】鵜澤 英久
(74)【代理人】
【識別番号】100210240
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 友幸
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 健一
(72)【発明者】
【氏名】高見 潤
(72)【発明者】
【氏名】鮫島 良太
(72)【発明者】
【氏名】野田 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】前田 直人
(72)【発明者】
【氏名】井上 稔也
(72)【発明者】
【氏名】東海林 和
【審査官】麻生 哲朗
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-80476(JP,A)
【文献】国際公開第2018/230071(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 7/48
H02J 3/38
H02J 3/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
直流電源をDC/AC変換装置とLCフィルタとトランスを介して系統連系し、仮想同期発電機制御を行う系統連系電力変換装置であって、
出力電流検出値と交流電圧検出値の実効値と交流電圧実効値の指令値とに基づいて、内部誘起電圧を算出する内部誘起電圧算出部と、
前記内部誘起電圧と前記出力電流検出値と電力基準値とに基づいて、同期発電機を模擬した角周波数を決定するVSGモデルと、
前記内部誘起電圧と系統電圧検出値と前記出力電流検出値とに基づいて、同期発電機の内部インピーダンスによる電圧降下を模擬し、系統電圧指令値を算出するZs補償部と、
前記系統電圧検出値を前記系統電圧指令値に制御する電圧制御を行い、PWM制御指令値を出力する出力電圧制御部と、
前記PWM制御指令値と前記角周波数に基づいて、前記DC/AC変換装置のゲート指令を出力するPWM制御部と、を備え、
前記Zs補償部は、
前記出力電流検出値から出力電流位相を算出し、位相リミッタにより前記出力電流位相が有効範囲内となるように制限し、前記制限された出力電流位相と前記内部誘起電圧と前記系統電圧検出値と電流制限値に基づいて、補正仮想同期インピーダンスを算出するZs算出部と、
通常時は予め設定された仮想同期インピーダンスと前記出力電流検出値に基づいて降下電圧を算出し、過電流発生時は前記補正仮想同期インピーダンスと前記出力電流検出値とに基づいて、降下電圧を算出するVzs算出部と、
前記内部誘起電圧から前記降下電圧を減算した値を前記系統電圧指令値として出力する減算器と、を備えた系統連系電力変換装置。
【請求項2】
前記位相リミッタは、位相リミッタの上限値と下限値の中間点となるD’軸を算出し、前記D’軸を基準として前記出力電流位相の座標変換を行い、前記D’軸を基準として前記出力電流位相をリミットし、元のD軸を基準としてリミットした前記出力電流位相の座標変換を行う請求項1記載の系統連系電力変換装置。
【請求項3】
前記位相リミッタは、
前記位相リミッタの上限値から5π/4減算した位相、または、下限値から3π/4減算した位相を前記D’軸とする請求項2記載の系統連系電力変換装置。
【請求項4】
前記補正仮想同期インピーダンスは、以下の(5)式とする請求項1~3のうち何れかに記載の系統連系電力変換装置。
【数5】
ただし、θは(7)式とする。
【数7】
r’x’:補正仮想同期インピーダンス
lim:電流制限値
θ:出力電流位相
d:内部誘起電圧のd軸成分
q:内部誘起電圧のq軸成分
d:系統電圧検出値のd軸成分
q:系統電圧検出値のq軸成分
【請求項5】
前記Zs算出部は、前記電流制限値を固定値とし、
前記Vzs算出部は、前記出力電流検出値が前記電流制限値よりも低い場合は通常時として前記仮想同期インピーダンスと前記出力電流検出値に基づいて前記降下電圧を算出し、前記出力電流検出値が前記電流制限値以上の場合は過電流発生時として前記補正仮想同期インピーダンスと前記出力電流検出値に基づいて前記降下電圧を算出する請求項1~4のうち何れかに記載の系統連系電力変換装置。
【請求項6】
前記Zs算出部は、前記出力電流検出値から出力電流ベクトルの大きさを算出し、前記出力電流ベクトルの大きさを出力可能な電流で制限した値を前記電流制限値とし、
前記Vzs算出部は、前記仮想同期インピーダンスと前記補正仮想同期インピーダンスを比較し、前記仮想同期インピーダンスの方が大きい場合は、通常時として前記仮想同期インピーダンスと前記出力電流検出値に基づいて前記降下電圧を算出し、前記補正仮想同期インピーダンスの方が大きい場合は過電流発生時として前記補正仮想同期インピーダンスと前記出力電流検出値に基づいて前記降下電圧を算出する請求項1~4のうち何れかに記載の系統連系電力変換装置。
【請求項7】
前記Zs補償部は通常時か過電流発生時かを判定する過電流判定部を備え、
前記過電流判定部は、
前記出力電流検出値の全波整流最大値と過電流判定レベルとの比較による出力電流判定に基づいて過電流抑制動作を判定する過電流抑制動作判定部と、
前記内部誘起電圧と前記系統電圧検出値に基づいて、前記補正仮想同期インピーダンスから前記仮想同期インピーダンスに戻した際の出力電流推定値を推定し、前記出力電流推定値の二乗和平方根と電流判定レベルとの比較による第1推定電流判定に基づいて過電流復帰動作を判定する過電流復帰動作判定部と、
前記過電流抑制動作判定部において過電流抑制動作状態と判定された場合、過電流抑制動作状態を保持し、前記過電流復帰動作判定部で過電流復帰動作と判定された場合、過電流復帰動作状態を保持するラッチ回路と、
を備えた請求項1~5のうち何れかに記載の系統連系電力変換装置。
【請求項8】
前記過電流復帰動作判定部は、
前記系統電圧検出値の電源周期間における移動平均値の二乗和平方根と電圧判定レベルとの比較による電圧判定と、前記第1推定電流判定と、のAND条件により過電流復帰動作を判定する請求項7記載の系統連系電力変換装置。
【請求項9】
前記過電流抑制動作判定部は、
前記出力電流推定値の二乗和平方根と過電流判定レベルとの比較による第2推定電流判定と、前記出力電流判定と、のOR条件により過電流抑制動作を判定する請求項7または8に記載の系統連系電力変換装置。
【請求項10】
直流電源をDC/AC変換装置とLCフィルタとトランスを介して系統連系し、仮想同期発電機制御を行う系統連系電力変換装置であって、
出力電流検出値と交流電圧検出値の実効値と交流電圧実効値の指令値とに基づいて、内部誘起電圧を算出する内部誘起電圧算出部と、
前記内部誘起電圧と前記出力電流検出値と電力基準値とに基づいて、同期発電機を模擬した角周波数を決定するVSGモデルと、
前記内部誘起電圧と系統電圧検出値と前記出力電流検出値とに基づいて、同期発電機の内部インピーダンスによる電圧降下を模擬し、系統電圧指令値を算出するZs補償部と、
前記系統電圧検出値を前記系統電圧指令値に制御する電圧制御を行い、PWM制御指令値を出力する出力電圧制御部と、
前記PWM制御指令値と前記角周波数に基づいて、前記DC/AC変換装置のゲート指令を出力するPWM制御部と、を備え、
前記Zs補償部は、
出力電流推定値から出力電流位相を算出し、前記出力電流位相が有効範囲内となるように制限し、前記制限された出力電流位相と前記内部誘起電圧と前記系統電圧検出値と電流制限値に基づいて、補正仮想同期インピーダンスを算出するZs算出部と、
通常時および過電流発生時において、前記補正仮想同期インピーダンスと前記出力電流検出値とに基づいて、降下電圧を算出するVzs算出部と、
前記内部誘起電圧から前記降下電圧を減算した値を前記系統電圧指令値として出力する減算器と、を備えた系統連系電力変換装置。
【請求項11】
前記出力電流推定値は、以下の(8)式とすることを特徴とする請求項10記載の系統連系電力変換装置。
【数8】
d,Iq:出力電流推定値
r,x:仮想同期インピーダンス
d:内部誘起電圧のd軸成分
q:内部誘起電圧のq軸成分
d:系統電圧検出値のd軸成分
q:系統電圧検出値のq軸成分
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、同期発電機を模擬した仮想同期発電機制御を行う系統連系電力変換装置において、系統事故等によって引き起こされる過電流を抑制する制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
非特許文献1は、仮想同期発電機制御を電圧制御系で行う技術において、電圧指令値と電圧検出値の偏差が一定値以内になるように補正することで、出力電流をある一定値以内に収める方法が記載されている。
【0003】
特許文献1は、仮想同期発電機制御を電流制御系で行う技術が開示されている。電流制御系であるため、電流指令値をリミットすることで過電流を防止することができる。
【0004】
非特許文献1の方法では、指定した電流値に制御することはできないため、主回路条件(フィルタ定数や系統インピーダンスなど)によって流れる出力電流が変わってくる。
【0005】
特許文献1の方法は、電流指令値をリミットすると仮想同期インピーダンスモデルに基づいて算出した指令値ベクトルとは異なるベクトルを出力することになるため、仮想同期インピーダンスの作用によって生じる同期化力が期待できない。
【0006】
以上示したようなことから、仮想同期発電機制御を行う系統連系電力変換装置において、系統の短絡事故等に起因した過電流を抑制して運転を継続し、仮想同期インピーダンスの作用によって生じる同期化力を持たせることが課題となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特許06084863号
【文献】特許5830941号
【非特許文献】
【0008】
【文献】「変換器過電流を抑制可能な仮想同期発電機制御」平成30年、電気学会、B部門大会
【発明の概要】
【0009】
本発明は、前記従来の問題に鑑み、案出されたもので、その一態様は、直流電源をDC/AC変換装置とLCフィルタとトランスを介して系統連系し、仮想同期発電機制御を行う系統連系電力変換装置であって、出力電流検出値と交流電圧検出値の実効値と交流電圧実効値の指令値とに基づいて、内部誘起電圧を算出する内部誘起電圧算出部と、前記内部誘起電圧と前記出力電流検出値と電力基準値とに基づいて、同期発電機を模擬した角周波数を決定するVSGモデルと、前記内部誘起電圧と系統電圧検出値と前記出力電流検出値とに基づいて、同期発電機の内部インピーダンスによる電圧降下を模擬し、系統電圧指令値を算出するZs補償部と、前記系統電圧検出値を前記系統電圧指令値に制御する電圧制御を行い、PWM制御指令値を出力する出力電圧制御部と、前記PWM制御指令値と前記角周波数に基づいて、前記DC/AC変換装置のゲート指令を出力するPWM制御部と、を備え、前記Zs補償部は、前記出力電流検出値から出力電流位相を算出し、位相リミッタにより前記出力電流位相が有効範囲内となるように制限し、前記制限された出力電流位相と前記内部誘起電圧と前記系統電圧検出値と電流制限値に基づいて、補正仮想同期インピーダンスを算出するZs算出部と、通常時は予め設定された仮想同期インピーダンスと前記出力電流検出値に基づいて降下電圧を算出し、過電流発生時は前記補正仮想同期インピーダンスと前記出力電流検出値とに基づいて、降下電圧を算出するVzs算出部と、前記内部誘起電圧から前記降下電圧を減算した値を前記系統電圧指令値として出力する減算器と、を備える。
【0010】
また、その一態様として、前記位相リミッタは、位相リミッタの上限値と下限値の中間点となるD’軸を算出し、前記D’軸を基準として前記出力電流位相の座標変換を行い、前記D’軸を基準として前記出力電流位相をリミットし、元のD軸を基準としてリミットした前記出力電流位相の座標変換を行う。
【0011】
また、その一態様として、前記位相リミッタは、前記位相リミッタの上限値から5π/4減算した位相、または、下限値から3π/4減算した位相を前記D’軸とする。
【0012】
また、その一態様として、前記補正仮想同期インピーダンスは、以下の(5)式とする。
【0013】
【数5】
【0014】
ただし、θは(7)式とする。
【0015】
【数7】
【0016】
r’x’:補正仮想同期インピーダンス
lim:電流制限値
θ:出力電流位相
d:内部誘起電圧のd軸成分
q:内部誘起電圧のq軸成分
d:系統電圧検出値のd軸成分
q:系統電圧検出値のq軸成分。
【0017】
また、その一態様として、前記Zs算出部は、前記電流制限値を固定値とし、前記Vzs算出部は、前記出力電流検出値が前記電流制限値よりも低い場合は通常時として前記仮想同期インピーダンスと前記出力電流検出値に基づいて前記降下電圧を算出し、前記出力電流検出値が前記電流制限値以上の場合は過電流発生時として前記補正仮想同期インピーダンスと前記出力電流検出値に基づいて前記降下電圧を算出する。
【0018】
また、他の態様として、前記Zs算出部は、前記出力電流検出値から出力電流ベクトルの大きさを算出し、前記出力電流ベクトルの大きさを出力可能な電流で制限した値を前記電流制限値とし、前記Vzs算出部は、前記仮想同期インピーダンスと前記補正仮想同期インピーダンスを比較し、前記仮想同期インピーダンスの方が大きい場合は、通常時として前記仮想同期インピーダンスと前記出力電流検出値に基づいて前記降下電圧を算出し、前記補正仮想同期インピーダンスの方が大きい場合は過電流発生時として前記補正仮想同期インピーダンスと前記出力電流検出値に基づいて前記降下電圧を算出する。
【0019】
また、他の態様として、前記Zs補償部は通常時か過電流発生時かを判定する過電流判定部を備え、前記過電流判定部は、前記出力電流検出値の全波整流最大値と過電流判定レベルとの比較による出力電流判定に基づいて過電流抑制動作を判定する過電流抑制動作判定部と、前記内部誘起電圧と前記系統電圧検出値に基づいて、前記補正仮想同期インピーダンスから前記仮想同期インピーダンスに戻した際の出力電流推定値を推定し、前記出力電流推定値の二乗和平方根と電流判定レベルとの比較による第1推定電流判定に基づいて過電流復帰動作を判定する過電流復帰動作判定部と、前記過電流抑制動作判定部において過電流抑制動作状態と判定された場合、過電流抑制動作状態を保持し、前記過電流復帰動作判定部で過電流復帰動作と判定された場合、過電流復帰動作状態を保持するラッチ回路と、を備える。
【0020】
また、その一態様として、前記過電流復帰動作判定部は、前記系統電圧検出値の電源周期間における移動平均値の二乗和平方根と電圧判定レベルとの比較による電圧判定と、前記第1推定電流判定と、のAND条件により過電流復帰動作を判定する。
【0021】
また、その一態様として、前記過電流抑制動作判定部は、前記出力電流推定値の二乗和平方根と過電流判定レベルとの比較による第2推定電流判定と、前記出力電流判定と、のOR条件により過電流抑制動作を判定する。
【0022】
また、他の態様として、直流電源をDC/AC変換装置とLCフィルタとトランスを介して系統連系し、仮想同期発電機制御を行う系統連系電力変換装置であって、出力電流検出値と交流電圧検出値の実効値と交流電圧実効値の指令値とに基づいて、内部誘起電圧を算出する内部誘起電圧算出部と、前記内部誘起電圧と前記出力電流検出値と電力基準値とに基づいて、同期発電機を模擬した角周波数を決定するVSGモデルと、前記内部誘起電圧と系統電圧検出値と前記出力電流検出値とに基づいて、同期発電機の内部インピーダンスによる電圧降下を模擬し、系統電圧指令値を算出するZs補償部と、前記系統電圧検出値を前記系統電圧指令値に制御する電圧制御を行い、PWM制御指令値を出力する出力電圧制御部と、前記PWM制御指令値と前記角周波数に基づいて、前記DC/AC変換装置のゲート指令を出力するPWM制御部と、を備え、前記Zs補償部は、出力電流推定値から出力電流位相を算出し、前記出力電流位相が有効範囲内となるように制限し、前記制限された出力電流位相と前記内部誘起電圧と前記系統電圧検出値と電流制限値に基づいて、補正仮想同期インピーダンスを算出するZs算出部と、通常時および過電流発生時において、前記補正仮想同期インピーダンスと前記出力電流検出値とに基づいて、降下電圧を算出するVzs算出部と、前記内部誘起電圧から前記降下電圧を減算した値を前記系統電圧指令値として出力する減算器と、を備える。
【0023】
また、その一態様として、前記出力電流推定値は、以下の(8)式とすることを特徴とする。
【0024】
【数8】
【0025】
d,Iq:出力電流推定値
r,x:仮想同期インピーダンス
d:内部誘起電圧のd軸成分
q:内部誘起電圧のq軸成分
d:系統電圧検出値のd軸成分
q:系統電圧検出値のq軸成分。
【0026】
本発明によれば、仮想同期発電機制御を行う系統連系電力変換装置において、系統の短絡事故等に起因した過電流を抑制して運転を継続し、仮想同期インピーダンスの作用によって生じる同期化力を持たせることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】系統連系電力変換装置の仮想インピーダンスモデルを示す図。
図2】系統連系電力変換装置の全体構成を示す概略図。
図3】実施形態1~7におけるZs補償部を示す概略図。
図4】実施形態1,2におけるZs算出部を示す概略図。
図5】実施形態1における位相リミッタを示す概略図。
図6】D軸およびD’軸を基準としたベクトル図。
図7】実施形態2における位相リミッタを示す概略図。
図8】実施形態3におけるZs算出部を示す概略図。
図9】実施形態4におけるZs算出部を示す概略図。
図10】実施形態5における過電流判定部を示す概略図。
図11】実施形態6における過電流判定部を示す概略図。
図12】実施形態7における過電流判定部を示す概略図。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本願発明における系統連系電力変換装置の実施形態1~7を図1図12に基づいて詳述する。
【0029】
[実施形態1]
図1にPCS(Power Conversion System)に用いられる系統連系電力変換装置の仮想インピーダンスモデルを示す。図1に示すように、系統連系電力変換装置はDC/AC変換装置INVとLCフィルタLC(リアクトルLfとコンデンサCf)とを備え、系統1に連系される。
【0030】
系統連系電力変換装置はLCフィルタLC後の系統電圧検出値Vacが、内部誘起電圧Efから出力電流Iacが流れることによって生じる仮想同期インピーダンスZsによる電圧降下を減算した系統電圧指令値Vac*と一致するように電圧制御を行う。
【0031】
図2は本実施形態1における系統連系電力変換装置の全体概略図である。図2に示すように、系統連系電力変換装置の主回路構成は、蓄電池等の直流電源VdcをIGBT等から成るDC/AC変換装置INVとLCフィルタLCとトランスTrを介して系統1と連系する。また、LCフィルタLCとトランスTrとの間の出力電流検出値Iacと系統電圧検出値Vacが検出され、後述する制御ブロックに出力される。
【0032】
本実施形態1における系統連系電力変換装置の制御ブロックは、図2に示すように、内部誘起電圧算出部2と、VSGモデル3と、Zs補償部4と、出力電圧制御部5と、PWM制御部6と、を備える。
【0033】
内部誘起電圧算出部2は、交流電圧実効値の指令値|Vac|*と交流電圧検出値の実効値|Vac|と出力電流検出値Iacとを入力し、内部誘起電圧Efを算出する。VSGモデル3は、内部誘起電圧Efと出力電流検出値Iacと電力基準値Pmとを入力し、同期発電機を模擬した角周波数ωrを決定する。
【0034】
Zs補償部4は、系統電圧検出値Vacと出力電流検出値Iacと内部誘起電圧Efとを入力して同期発電機の内部インピーダンスによる電圧降下を模擬し、系統電圧指令値Vac*を出力する。
【0035】
出力電圧制御部5は、系統電圧検出値Vacと系統電圧指令値Vac*を入力して系統電圧検出値Vacが系統電圧指令値Vac*となるように制御し、PWM制御指令値Vcmdを出力する。PWM制御部6は、PWM制御指令値Vcmdと角周波数ωrとを入力し、ゲート指令GateをDC/AC変換装置INVのIGBT等のスイッチング素子に出力する。
【0036】
内部誘起電圧算出部2、VSGモデル3、出力電圧制御部5、PWM制御部6は、本願発明と直接関係ないため、ここでの詳細な説明は省略する。
【0037】
Zs補償部4は、図3に示すように、Zs算出部7と、スイッチ8と、Vzs算出部9と、減算器10と、を備える。
【0038】
Zs算出部7は、過電流発生時に出力電流を抑制するために必要な補正仮想同期インピーダンスZs’を算出する。スイッチ8は、通常時は予め設定した仮想同期インピーダンスZsを出力し、過電流発生時には補正仮想同期インピーダンスZs’を出力する。通常時/過電流発生時の判定は、例えば、出力電流検出値Iacと過電流レベル(閾値)との比較により行われる。
【0039】
Vzs算出部9は、出力電流検出値Iacと仮想同期インピーダンスZs、または、補正仮想同期インピーダンスZs’による降下電圧Vzsを算出する。減算器10は、内部誘起電圧Efから降下電圧Vzsを減算し、系統連系電力変換装置が出力すべき系統電圧指令値Vac*を算出する。
【0040】
図4は、Zs算出部7を示すブロック図である。Zs算出部7は、極座標変換部11と、位相リミッタ12aと、cos部13a,sin部13bと、減算器14a,14bと、乗算器15a~15dと、加算器16aと、減算器16bと、ゲイン乗算器17a,17bと、を有する。
【0041】
極座標変換部11は、出力電流検出値Iacから出力電流位相θを算出する。位相リミッタ12aは、出力電流位相θが有効範囲内となるように制限する。cos部13aはcosθを出力し、sin部13bはsinθを出力する。
【0042】
減算器14aは、内部誘起電圧Efのd軸成分Edから系統電圧検出値Vacのd軸成分Vdを減算し、Ed-Vdを出力する。減算器14bは、内部誘起電圧Efのq軸成分Eqから系統電圧検出値Vacのq軸成分Vqを減算し、Eq-Vqを出力する。
【0043】
乗算器15aは減算器14aの出力とcosθを乗算し、(Ed-Vd)cosθを出力する。乗算器15bは減算器14aの出力とsinθを乗算し、(Ed-Vd)sinθを出力する。乗算器15cは減算器14bの出力とcosθを乗算し、(Eq-Vq)cosθを出力する。乗算器15dは減算器14bの出力とsinθを乗算し、(Eq-Vq)sinθを出力する。
【0044】
加算器16aは乗算器15aの出力(Ed-Vd)cosθと乗算器15dの出力(Eq-Vq)sinθを加算する。減算器16bは、乗算器15cの出力(Eq-Vq)cosθから乗算器15bの出力(Ed-Vd)sinθを減算する。
【0045】
ゲイン乗算器17aは、加算器16aの出力にゲインG(=1/Ilim)を乗算し、r’として出力する。ゲイン乗算器17bは、減算器16bの出力にゲインG(=1/Ilim)を乗算し、x’として出力する。(r’、x’)が補正仮想同期インピーダンスZs’となる。
【0046】
系統連系電力変換装置はLCフィルタLC後の系統電圧検出値Vacが、内部誘起電圧Efから出力電流Iacが流れることによって生じる仮想同期インピーダンスZsによる電圧降下を減算した系統電圧指令値Vac*と一致するように電圧制御を行う。
【0047】
通常時は、模擬したい同期発電機に応じた仮想同期インピーダンスZs(rおよびx)を設定し、設定された仮想同期インピーダンスZsによって系統電圧指令値Vac*を決定する。
【0048】
系統事故等によって、仮想同期インピーダンスZsによって決定した系統電圧指令値Vac*を出力した際に系統連系電力変換装置が過電流となってしまう場合には、出力電流検出値IacをDC/AC変換装置INVが出力可能な電流制限値Ilimに制限するために必要な補正仮想同期インピーダンスZs’(r’およびx’)に切り替えることによって、過電流を抑制する。
【0049】
過電流を抑制するために必要な補正仮想同期インピーダンスZs’の算出方法について、以下に示す。図1のインピーダンスモデルから、仮想同期インピーダンスZsによる降下電圧Vzs(=ZsIac)は以下の(1)式となる。
【0050】
【数1】
【0051】
(1)式をDQ座標上で扱い、行列式で表すと以下の(2)式のようになる。
【0052】
【数2】
【0053】
ここで、仮想同期インピーダンスZs、出力電流検出値Iac、系統電圧検出値Vac、内部誘起電圧Efは、以下の(3)式である。
【0054】
【数3】
【0055】
出力電流を抑制する際には、出力電流ベクトルの位相を変化させずに大きさのみを制限する。制限後の出力電流検出値Iacのd軸成分Id、q軸成分Iq、出力電流位相θは、以下の(4)式となる。ここで、Ilimは電流制限値、Id_det/Iq_detは出力電流検出値のD軸成分/Q軸成分を示す。
【0056】
【数4】
【0057】
これらから出力電流を電流制限値Ilimに制限するために必要な補正仮想同期インピーダンスZs’(r’およびx’)は、以下の(5)式で求めることができる。
【0058】
【数5】
【0059】
以上の内容をブロック図で示したものが図4である。なお、内部誘起電圧Efを基準として内部位相を定義することで、Eq=0となり、簡略化することもできる。
【0060】
次に、位相リミッタ12aについて説明する。上記のように、補正仮想同期インピーダンスZs’を算出する際、出力電流検出値Iacの出力電流位相θを使用するが、図1の仮想インピーダンスモデルとして使用するためには出力電流位相θを有効範囲内となるように制限する必要がある。
【0061】
図5は本実施形態1における位相リミッタ12aの示す概略図である。図5に示すように、位相リミッタ12aは、最大値出力部18aと、最小値出力部18bと、減算器19と、乗算器20と、加算器21と、減算器22と、減算器23a,23b,23cと、リミッタ24と、加算器25と、を備える。また、θINは位相リミッタ12aに入力される位相を示し、θOUTは位相リミッタ12aから出力される位相を示す。
【0062】
最大値出力部18aは位相リミッタの上限値θHと下限値θLの最大値を出力する。最小値出力部18bは位相リミッタの上限値θHと下限値θLの最小値を出力する。減算器19は、最大値と最小値の偏差を求める。乗算器20は、偏差に1/2を乗じることによって、出力電流位相θの有効範囲の半分の位相を求める。
【0063】
加算器21は、位相θの有効範囲の半分の位相に対してπを加算することにより位相リミッタの上限値θHからD’軸までの位相差を求める。減算器22は、位相リミッタの上限値θHから上記位相差を減算することによりD軸からD’軸までの位相差θaxを求める。
【0064】
減算器23a,23b,23cは、各位相θIN、θH、θLから減算器22の出力を減算し、各位相θIN、θH、θLをD’軸基準に変換する。
【0065】
リミッタ24は、D’基準にした出力電流位相θIN’をD’基準にした上限値θH’,下限値θL’でリミットする。加算器25は、リミッタ24の出力から減算器22の出力を加算し、リミットした出力電流位相をD軸基準に変換する。加算器25の出力がθOUTとなる。
【0066】
図6(a)にD軸を基準としたベクトル図、図6(b)にD’軸を基準としたベクトル図を示す。図6(a)に示すように、リミッタの下限値θLからの位相差をθA、リミッタの上限値θHからの位相差をθBとするD’軸を設ける。このD’軸はθA=θBとなるように、リミッタの上限値θHと下限値θLの中間に定義する。
【0067】
D’軸の基準点(0となる点)は、位相をπ進めてリミッタの上限値θHと下限値θLの中間点と対象となる点とする。リミッタの下限値θLおよび上限値θHから、このD’軸とD軸との位相差θaxを算出し、D’軸基準となるように各位相を変換する。
【0068】
D’軸を基準とした位相情報を基にリミット処理を行うことによって、リミット前のベクトルが範囲外の場合に、リミッタの上限値θHもしくは下限値θLの近い方にリミットされる。
【0069】
具体的には、ベクトルAはリミッタ下限値θLに、ベクトルBはリミッタ上限値θHに制限される。リミット後の位相情報は、位相差θaxを加算することにより、もとのD軸を基準とした位相に変換する。
【0070】
上記においては、リミッタ上限値θHを基準としてD’軸を算出しているが、リミッタ下限値θLを基準として算出してもよい。
【0071】
以上示したように、本実施形態1によれば、系統の短絡事故等によってDC/AC変換装置が過電流となっても、DC/AC変換装置の出力可能な電流制限値に制限して運転を継続することが可能となる。また、仮想同期インピーダンスの作用によって生じる同期化力を有したままであるため、電流抑制中においても他の電圧源と同期させることが可能となる。
【0072】
また、リミット対象の出力電流位相が有効範囲外の場合に、リミッタの上限値もしくは下限値のうち、位相差の小さい側にリミットされるため、リミッタによる位相の変化が小さくなる。
【0073】
[実施形態2]
本実施形態2は実施形態1の位相リミッタ12aを簡略化したものである。図7に本実施形態2の位相リミッタ12aを示す。図7に示すように、本実施形態2の位相リミッタ12aは、減算器26と、減算器27と、リミッタ28と、加算器29と、を備える。
【0074】
減算器26は、位相リミッタの上限値θHから5π/4を減算する。減算器27は、位相θINから減算器26の出力を減算し、位相θINをD’軸基準に変換する。リミッタ28は、D’軸基準に変換した位相θINを3π/4≦θ<5π/4にリミットする。加算器29は、リミッタ28の出力をD軸基準に変換する。加算器29の出力が位相θOUTとなる。
【0075】
補正仮想同期インピーダンスZs’を模擬するためには、(5)式によって求めた補正仮想同期インピーダンスZs’が正である必要がある。過電流を抑制するためには、瞬時の出力電流位相情報が必要であるが、系統事故や負荷変動等によって出力電流が乱れた場合などに、瞬時電流から抽出した位相情報を基に補正仮想同期インピーダンスZs’を算出すると、負の値となってしまう場合がある。そこで、抽出した出力電流位相θにリミッタを設ける。
【0076】
(5)式の補正仮想同期インピーダンスZs’の算出式から、補正仮想同期インピーダンスr’およびx’が正の値となる条件は、以下の(6)式となる。
【0077】
【数6】
【0078】
(6)式から出力電流位相θは、以下の(7)式の範囲内に制限する必要がある。
【0079】
【数7】
【0080】
(7)式において、上限値と下限値は分母と分子が逆となっていることから、上限値と下限値の偏差はπ/2固定となる。従って、θA=θB=π/4であるため、上限値θHからD’軸までの位相差は5π/4となる。なお、上限値θHを基準としてD’軸を算出する方法について説明したが、下限値θLを基準として算出してもよい。下限値θLを基準とした場合は位相差3π/4となる。
【0081】
以上のことから、実施形態1の位相リミッタ(図5)の構成を図7の構成のように簡略化することができる。
【0082】
以上示したように、本実施形態2は本実施形態1と同様の作用効果を奏する。また、実施形態1よりも簡素な構成で、位相リミッタを構成することが可能となる。
【0083】
[実施形態3]
本実施形態3は、Zs算出部7以外は実施形態1,2と同様である。図8に本実施形態3のZs算出部7を示す。以下、実施形態1,2との相違点を説明する。
【0084】
実施形態1,2では、電流制限値Ilimを固定値としていたが、本実施形態3では、出力電流検出値Iacの大きさ(振幅a)を制限する電流リミッタ12bを設けている。また、ゲイン乗算器17a,17bの代わりに、除算器30a,30bを設け、電流リミッタ12bから出力されたリミットした出力電流検出値で、加算器16a,減算器16bの出力を除算している。
【0085】
実施形態1,2では、過電流の検出によって、予め設定された仮想同期インピーダンスZsとZs算出部7によって算出した補正仮想同期インピーダンスZs’とを切り替えていた。
【0086】
それに対し、本実施形態3では、電流制限値Ilimは、出力電流検出値Iacの大きさ(振幅a)を過電流レベルでリミットしたものを使用する。そして、図3のスイッチ8では、予め設定された仮想同期インピーダンスZsとZs算出部7によって算出した仮想同期インピーダンスZs’とを比較し、インピーダンス値の大きい仮想同期インピーダンスを選択する。
【0087】
以上示したように、本実施形態3によれば、実施形態1,2と同様の作用効果を奏する。また、仮想同期インピーダンス切り替え時に仮想同期インピーダンスZsと補正仮想同期インピーダンスZs’の変化量が小さくなるため、過電流抑制動作時の電流変化が緩やかになり、オーバーシュートを抑制することができる。また、過電流の判定が不要になることから、回路構成の簡素化や電流制限値の調整が不要になる。
【0088】
[実施形態4]
上記(1)式を電流について解くと、以下の(8)式となる。
【0089】
【数8】
【0090】
(8)式により、設定した仮想同期インピーダンスZsを模擬した際に流れる電流を推定することができる。
【0091】
実施形態1~3の構成で使用している出力電流検出値Iacを、(8)式によって算出した出力電流推定値Id,Iqに置き換えて使用する。
【0092】
本実施形態4におけるZs算出部7を図9に示す。以下、実施形態3との相違点を説明する。
【0093】
乗算器31aにおいて、減算器14aの出力(Ed-Vd)にr/r2+x2を乗算する。乗算器31bにおいて、減算器14bの出力(Eq-Vq)にx/r2+x2を乗算する。乗算器31cにおいて、減算器14bの出力(Eq-Vq)にr/r2+x2を乗算する。乗算器31dにおいて、減算器14aの出力(Ed-Vd)にx/r2+x2を乗算する。
【0094】
加算器32aにおいて、乗算器31aの出力と乗算器31bの出力とを加算する。減算器32bにおいて、乗算器31cの出力から乗算器31dの出力を減算する。加算器32a,減算器32bの出力が出力電流推定値Id,Iqとなる。本実施形態4では、この出力電流推定値Id,Iqを極座標変換部11に出力する。
【0095】
出力電流推定値Id,Iqを基に補正仮想同期インピーダンスを計算すると、通常時(電流振幅または位相のリミッタに制限されない場合)は、r’およびx’は、あらかじめ設定していたrおよびxと等価なものとなる。
【0096】
一方、過電流時は電流振幅がリミットされるため、出力電流を抑制するために必要な補正仮想同期インピーダンスZs’(r’およびx’)が算出される。よって、本実施形態4では、図3のスイッチ8は不要となる。
【0097】
従って、本実施形態4によれば、実施形態1~3の作用効果に加え、過電流の発生有無による仮想同期インピーダンスの切替動作を不要とすることができる。
【0098】
[実施形態5]
本実施形態5では、系統連系電力変換装置が通常時か過電流発生時かを判定する過電流判定部について説明する。図10は本実施形態5における過電流判定部を示す概略図である。過電流判定部は、図10に示すように、過電流抑制動作判定部33と、過電流復帰動作判定部34と、ラッチ回路35と、を備える。
【0099】
過電流抑制動作判定部33は、最大電流判定部36と、比較器37と、を備える。最大電流判定部36は、出力電流検出値Iacの3相瞬時値から全波整流値の出力電流最大値を求める。なお、DQ変換後の2相信号から二乗和平方根によって電流ベクトルの絶対値を使用してもよい。比較器37は、出力電流最大値と過電流判定レベルOC_Levelとの比較による出力電流判定を行い、出力電流最大値の方が大きい場合「1」レベルの信号を出力する。
【0100】
過電流復帰動作判定部34は、出力電流推定部38と、RSS(Root Sum Square)39と、比較器40と、を備える。出力電流推定部38は、内部誘起電圧Efと系統電圧検出値Vacに基づいて、補正仮想同期インピーダンスZs’から仮想同期インピーダンスZsとした場合に流れる出力電流推定値を推定する。RSS39は、推定した出力電流推定値のベクトルの絶対値を求める。比較器40は、出力電流推定値のベクトルの絶対値と電流判定レベルI_Levelとの比較による第1推定電流判定を行い、出力電流推定値のベクトルの絶対値の方が小さい場合「1」レベルの信号を出力する。
【0101】
ラッチ回路35は、過電流抑制動作判定部33の出力が「1」レベルの信号の場合にセットして保持し、過電流復帰動作判定部34の出力が「1」レベルの信号の場合にクリアして保持する。すなわち、過電流抑制動作判定部33で過電流と判定されたら過電流抑制動作状態を保持し、過電流復帰動作判定部34で過電流復帰動作と判定した場合、過電流復帰状態を保持する。
【0102】
以下に、仮想同期インピーダンスの切り替え判定動作について説明する。出力電流検出値Iacの3相瞬時値から全波整流の最大値を算出し、過電流判定レベルOC_Levelを超過した場合に過電流と判断する。過電流と判定したら、仮想同期インピーダンスZsを過電流抑制するための補正仮想同期インピーダンスZs’に切り替える。過電流抑制動作の判定信号は、ラッチ回路35によって保持される。なお、過電流抑制動作判定は、出力電流のDQ軸成分から二乗和平方根を用いることもできる。
【0103】
過電流抑制動作からの復帰条件判定には、出力電流推定値を用いる。(8)式によって、補正仮想同期インピーダンスZs’から仮想同期インピーダンスZsに戻した際に出力される出力電流を推定することができる。(8)式によって推定した出力電流ベクトルの絶対値(二乗和平方根)を算出して電流判定レベルI_Levelと比較することによって、補正仮想同期インピーダンスZs’から仮想同期インピーダンスZsに戻した際に過電流となるかどうかを判断する。
【0104】
過電流状態からの復帰と判定したら、スイッチ8において、補正仮想同期インピーダンスZs’から仮想同期インピーダンスZsに切り替える。過電流復帰動作の判定信号は、ラッチ回路35によって保持される。
【0105】
以上示したように、本実施形態5によれば、系統の短絡事故等によってDC/AC変換装置が過電流となっても、DC/AC変換装置の出力可能な電流制限値に制限して運転を継続することが可能となる。また、仮想同期インピーダンスの作用によって生じる同期化力を有したままであるため、電流抑制中においても他の電圧源と同期させることが可能となる。
【0106】
また、推定電流から過電流復帰動作判定を行うことにより、補正仮想同期インピーダンスZs’から仮想同期インピーダンスZsを戻した際に再び過電流状態となり、過電流抑制動作と通常動作を繰り返すことを抑制し、安定して過電流抑制動作と通常動作を切り替えることができる。
【0107】
[実施形態6]
本実施形態6は過電流判定部の過電流復帰動作判定部34以外は実施形態5と同様である。図11に本実施形態6の過電流判定部を示す。本実施形態6は、図11に示すように、実施形態5の過電流復帰動作判定部34に対して、移動平均部41と、RSS42と、比較器43と、論理積部44と、を追加したものである。
【0108】
移動平均部41は、系統電圧検出値Vacを電源周期間で移動平均処理を行う。RSS42は移動平均した系統電圧検出値の絶対値を求める。比較器43は、電圧判定レベルV_LevelとRSS42の出力(移動平均した電圧検出値Vacの絶対値)との比較による電圧判定を行い、RSS42の出力の方が大きい場合「1」レベルの信号を出力する。論理積部44は、比較器40,43の出力が両方「1」レベルの信号の場合「1」レベルの信号を出力し、それ以外の場合「0」レベルの信号を出力する。すなわち、第1推定電流判定と電圧判定のAND条件により過電流復帰動作を判定する。
【0109】
本実施形態6は、実施形態5の過電流復帰動作判定部34に対して、系統電圧による判定条件を追加したものである。
【0110】
系統1側で2相短絡事故が発生した場合、系統電圧は不平衡状態となる。系統連系電力変換装置は3相平衡の電圧源として動作しているため、出力電流が振動的となり周期的に過電流レベルを超過する。2相短絡が発生した場合に、過電流の抑制動作と通常動作を繰り返さないために系統電圧による電圧判定を設ける。
【0111】
3相不平衡の電圧に対してDQ座標変換を行うと、D軸/Q軸それぞれ電源周期の脈動が生じるため、電源周期間の移動平均処理を行うことで、その脈動を除去する。移動平均処理の方法には、電源周期に同期してサンプリングを行う方法と、電源周期とは非同期でサンプリングを行う方法がある。
【0112】
どちらの方式でも可能であるが、仮想同期発電機制御では系統擾乱発生など内部角周波数と系統周波数は必ずしも一致しないため、特許文献2などの非同期でサンプリングを行う方法が望ましい。
【0113】
上記方法により、脈動成分を除去した系統電圧検出値Vacのベクトルの絶対値(二乗和平方根)を算出して電圧判定レベルV_Levelと比較することによって、短絡状態から復帰したかどうかを判断する。
【0114】
第1推定電流判定および電圧判定のAND条件が成立した場合に、補正仮想同期インピーダンスZs’から仮想同期インピーダンスZsに切り替える。過電流復帰動作の判定信号は、ラッチ回路35によって保持される。
【0115】
以上示したように、本実施形態6は実施形態5と同様の作用効果を奏する。また、2相短絡事故時においても、短絡期間中は過電流抑制動作と通常動作を繰り返すことなく過電流抑制動作を継続することができ、安定した電流を出力することが可能となる。
【0116】
[実施形態7]
本実施形態7は過電流判定部の過電流抑制動作判定部33以外は実施形態6と同様である。図12に本実施形態7の過電流判定部を示す。本実施形態7は、図12に示すように、実施形態6の過電流抑制動作判定部33に対して、比較器45と、論理和部46と、を追加したものである。
【0117】
比較器45は、過電流復帰動作判定部34内の出力電流推定部38で推定した出力電流推定値のベクトルの絶対値(RSS39の出力)と過電流判定レベルOC_Levelとの比較による第2推定電流判定を行い、RSS39の出力の方が大きい場合「1」レベルの信号を出力する。論理和部46は、比較器37,45の出力のうち少なくとも何れか一方が「1」レベルの信号の場合「1」レベルの信号を出力し、両方「0」レベルの信号の場合「0」レベルの信号を出力する。すなわち、出力電流判定と第2推定電流判定とのOR条件により、過電流抑制動作を判定する。
【0118】
本実施形態7は、実施形態5および実施形態6の過電流抑制動作判定部33に対して、第2推定電流判定を追加したものである。追加した第2推定電流判定と出力電流判定のOR条件が成立した場合に、過電流抑制動作として判断する。
【0119】
系統の短絡事故時には、系統電圧が低下することによって系統連系電力変換装置の出力電圧と系統電圧との電圧差が生じたことにより、出力電流が上昇する。推定電流を用いることによって、実際の出力電流が上昇する前に過電流状態を判定することが可能となる。
【0120】
以上示したように、本実施形態7によれば、実施形態5,6と同様の作用効果を奏する。また、系統の短絡事故が発生した場合に素早く過電流抑制動作に移行することができるため、系統の短絡点までのインピーダンスが小さく、出力電流が急峻に上昇する場合においても、過電流を抑制することができる。また、図12では実施形態6に対して本実施形態7を適用した図を示しているが、実施形態5に対して本実施形態7を適用しても良い。
【0121】
以上、本発明において、記載された具体例に対してのみ詳細に説明したが、本発明の技術思想の範囲で多彩な変形および修正が可能であることは、当業者にとって明白なことであり、このような変形および修正が特許請求の範囲に属することは当然のことである。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12