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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-22
(45)【発行日】2022-12-01
(54)【発明の名称】アーム旋回型ロボット
(51)【国際特許分類】
   B25J 19/00 20060101AFI20221124BHJP
   B25J 9/06 20060101ALI20221124BHJP
【FI】
B25J19/00 C
B25J9/06 D
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021543815
(86)(22)【出願日】2019-09-02
(86)【国際出願番号】 JP2019034444
(87)【国際公開番号】W WO2021044488
(87)【国際公開日】2021-03-11
【審査請求日】2022-02-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000010076
【氏名又は名称】ヤマハ発動機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100176304
【弁理士】
【氏名又は名称】福成 勉
(72)【発明者】
【氏名】石塚 健次
【審査官】國武 史帆
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-6241(JP,A)
【文献】特開2015-85393(JP,A)
【文献】特開2016-101628(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2006/0224275(US,A1)
【文献】韓国登録特許第10-0665049(KR,B1)
【文献】特開2011-143439(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25J 1/00 - 21/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1部材と、この第1部材に相対的に回動可能に連結された第2部材とを備え、第1部材及び第2部材の少なくとも一方がアーム部からなるアーム旋回型ロボットであって、
前記第2部材は、部材本体部と、この部材本体部の壁面から外向きに突出するように当該部材本体部に設けられて、第2部材の回動に伴い前記第1部材と当接することにより当該第2部材の回動範囲を規制する突起部と、前記突起部の内部に配置された軸状の補強部材とを備え、
前記部材本体部のうち前記突起部とその他の部分とは、同一の材料により一体に形成されており、
前記補強部材は、前記部材本体部のうち前記突起部から前記その他の部分に亘って配置されている、ことを特徴とするアーム旋回型ロボット。
【請求項2】
請求項1に記載のアーム旋回型ロボットにおいて、
前記補強部材は、頭部とねじ軸部とを備えたボルトであって前記部材本体部に螺合挿入されることにより、前記突起部から前記その他の部分に亘って配置されている、ことを特徴とするアーム旋回型ロボット。
【請求項3】
請求項2に記載のアーム旋回型ロボットにおいて、
前記部材本体部には、前記突起部から前記その他部分に亘って、ざぐり部を有するねじ孔が備えられ、
前記ボルトは、その頭部が前記さぐり部内に収まった状態で前記ねじ孔に螺合挿入されている、ことを特徴とするアーム旋回型ロボット。
【請求項4】
請求項3に記載のアーム旋回型ロボットにおいて、
前記ざぐり部の内周面と前記頭部の外周面との間に介在してこれら内周面と外周面との隙間を埋める緩衝部材をさらに備えている、ことを特徴とするアーム旋回型ロボット。
【請求項5】
請求項2に記載のアーム旋回型ロボットにおいて、
前記ボルトにより当該突起部に固定されて、当該突起部と前記第1部材との当接時の衝撃力を吸収する衝撃吸収部材をさらに備えている、ことを特徴とするアーム旋回型ロボット。
【請求項6】
請求項1乃至5の何れか一項に記載のアーム旋回型ロボットにおいて、
前記第2部材は、ワークに対して所定の作業を行うための作業機構部を備えているものである、ことを特徴とするアーム旋回型ロボット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、旋回可能なアームを有するアーム旋回型ロボットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、旋回可能なアームを有するアーム旋回型ロボットが知られている。例えば、水平多関節ロボットや垂直多関節ロボット等の多関節ロボットは、アーム旋回型ロボットの代表例と言える。
【0003】
アーム旋回型ロボットでは、通常、プログラムによりアームの旋回角度が所定範囲内に制限され、さらに、誤動作が発生した場合を想定して、アームが前記所定範囲を超えて旋回することを強制的(機械的)に阻止するためのストッパが設けられている。
【0004】
例えば、引用文献1には、ストッパを備えた水平多関節ロボットの一例が開示されている。この水平多関節ロボットは、基台上に固定されるベースと、このベースに旋回可能に支持されるアーム(ロボットアーム)とを備えており、アームは、ベースに旋回可能に支持される第1アーム部と、この第1アーム部の先端に旋回可能に連結された第2アーム部とから構成されている。そして、ストッパとして、第1アーム部の上面に一対の第1突起部が設けられるとともに、第2アーム部の下面に第2突起部が設けられている。第1、第2突起部は、第1アーム部と第2アーム部との連結軸(回転軸)を中心とする同一円周上に配置されている。つまり、これら第1、第2突起部が互いに当接することにより、第1アーム部に対する第2アーム部の旋回角度が所定範囲内に規制されるのである。
【0005】
この水平多関節ロボットでは、第1、第2アーム部は鋳造部品であり、第1、第2突起部は、第1、第2アーム部に一体に成型されている。そのため、次のような問題が考えられる。すなわち、近年の多関節ロボットでは、より高速でアームを旋回させるべく、アームをアルミニウム合金(アルミダイカスト)で構成することによりその軽量化が図られる。この構成では、第1突起部と第2突起部とが衝突した時の衝突荷重が大きいと、当該突起部が破断して脱落することが考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2013-6241号公報
【発明の概要】
【0007】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、ストッパとしてアーム部に突起部が一体成型されるタイプのアーム旋回型ロボットにおいて、突起部の破損を効果的に抑制することができる技術を提供することを目的とする。
【0008】
そして、本発明は、第1部材と、この第1部材に相対的に回動可能に連結された第2部材とを備え、第1部材及び第2部材の少なくとも一方がアーム部からなるアーム旋回型ロボットであって、前記第2部材は、部材本体部と、この部材本体部の壁面から外向きに突出するように当該部材本体部に設けられて、第2部材の回動に伴い前記第1部材と当接することにより当該第2部材の回動範囲を規制する突起部と、前記突起部の内部に配置された軸状の補強部材とを備え、前記部材本体部のうち前記突起部とその他の部分とは、同一の材料により一体に形成されており、前記補強部材は、前記部材本体部のうち前記突起部から前記その他の部分に亘って配置されているものである。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、本発明が適用された水平多関節ロボットの側面図である。
図2図2は、前記水平多関節ロボットを斜め下方から視た斜視図である。
図3図3は、第1突起部(第2突起部)の構造を示すアーム本体部の一部の断面図である。
図4図4は、第1アーム部の回動範囲を説明する説明図である。
図5図5は、第2アーム部の回動範囲を説明する説明図である。
図6図6は、変形例に係る第1突起部(第2突起部)の構造を示すアーム本体部の一部の断面図である。
図7図7は、変形例に係る第1突起部(第2突起部)の構造を示すアーム本体部の一部の断面図である。
図8図8は、変形例に係る第1突起部(第2突起部)の構造を示すアーム本体部の一部の断面図である。
図9図9は、変形例に係る第1突起部(第2突起部)の構造を示すアーム本体部の一部の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0011】
[ロボットの全体構成]
図1は、本発明に係るアーム旋回型ロボットである水平多関節ロボット(スカラロボット)の側面図であり、図2は、水平多関節ロボットを斜め下方から視た斜視図である。
【0012】
図1及び図2に示す水平多関節ロボット(以下、ロボットと略す)1は、基台BP上に設置される略円柱状のアーム支持台2と、このアーム支持台2に連結されたアーム3と、このアーム3の先端部に支持される作業軸4とを有する。
【0013】
なお、図1中の符号5は、アーム3に搭載された後記モータ24、28、32等に対する電力や制御信号送信用のケーブル等が収容された筒状案内部材であり、アーム支持台2とアーム3(後記第2アーム部3b)とに亘ってアーチ状に設けられている。
【0014】
アーム3は、アーム支持台2に支持されて水平方向に延びる第1アーム部3aと、この第1アーム部3aの先端に支持されて水平方向に延びる第2アーム部3bとを備えている。
【0015】
第1アーム部3aは、上下方向に厚みを有するプレート状のアーム本体部10を有している。アーム本体部10は、第1アーム部3aのフレーム部材に相当するものであり、アルミニウム合金のダイカストからなる。
【0016】
アーム本体部10(第1アーム部3a)はアーム支持台2の上部に垂直軸Ax1周りに回動(旋回)可能に支持されている。アーム本体部10(第1アーム部3a)は、図外の減速機構を介してアーム支持台2の内部に配置された第1アームモータ14に連結されており、この第1アームモータ14により回転駆動される。
【0017】
第2アーム部3bは、上下方向に厚みを有するプレート状のアーム本体部20と、第2アームモータ24と、作業軸4の駆動機構部26と、カバー部材28とを有している。
【0018】
アーム本体部20は、第2アーム部3bのフレーム部材に相当するものであり、第1アーム部3aのアーム本体部10と同様にアルミニウム合金のダイカストからなる。
【0019】
アーム本体部20は、第1アーム部3a(アーム本体部10)の先端上部に垂直軸Ax2周りに回動(旋回)可能に支持されている。この第2アーム部3bは、当該第2アーム部3b上に搭載されて図外の減速機構を介して第1アーム部3aに連結された第2アームモータ24の本体部分に連結されており、この第2アームモータ24により回転駆動される。
【0020】
作業軸4は、スプライン軸である。作業軸4は、アーム本体部20の先端部に、当該アーム本体部20を上下方向に貫通する状態で、かつ、当該アーム本体部20に対して上下方向(軸方向)の移動及び軸心回りの回転が可能となるように支持されている。
【0021】
駆動機構部26は、作業軸4を上下方向に移動させるための上下動機構26aと、作業軸4を回転させるための回転駆動機構とを含む。
【0022】
上下動機構は、作業軸4と平行に配置されてアーム本体部20に回転自在に支持されたねじ軸30と、このねじ軸30を回転駆動するZ軸モータ32と、ねじ軸30に装着されたナット部材34と、作業軸4の上端部分と前記ナット部材34とを連結する連結部材36とを含む。つまり、上下動機構は、Z軸モータ32の駆動によりねじ軸30を回転させ、このねじ軸30の回転運動をナット部材34及び連結部材36を介して作業軸4の上下運動に変換して、当該作業軸4を上下方向に移動させる。
【0023】
一方、回転駆動機構は、R軸モータ38と、このR軸モータ38の回転力を作業軸4に伝達するベルト伝動機構とを含み、R軸モータ38の駆動により作業軸4を回転させる。
【0024】
なお、作業軸4の先端部分には、図外の作業用ツールが装着される。例えば、ワークを把持して搬送するためのチャック装置、ワークに対して溶接等の各種加工を施す加工装置及びワークを測定するための測定装置など、ワークに対して所定の作業を行うための作業用ツール6が作業軸4の先端部分に装着される。但し、作業用ツール6の種類は、チャック装置、加工装置及び測定装置に限定されるものではない。当例では、作業軸4、作業用ツール6及び前記駆動機構部26が本発明の「作業機構部」に相当する。
【0025】
第2アーム部3bのアーム本体部20には樹脂製の前記カバー部材28が装着されている。カバー部材28は、概略ドーム型を成しており、アーム本体部20上に配置された前記駆動機構部26および作業軸4(アーム本体部20の上方に突出する部分)は、このカバー部材28により覆われている。
【0026】
なお、アーム3の第1アーム部3aは、後述の通り、当該第1アーム部3aの回動範囲を規制する第1突起部12を備える。よって、当例では、アーム支持台2と第1アーム部3aとが本発明の「第1部材」と「第2部材」とに相当する。また、アーム3の第2アーム部3bもまた、後述の通り、当該第2アーム部3bの回動範囲を規制する第2突起部22を備えている。よって、当例では、第1アーム部3aと第2アーム部3bが本発明「第1部材」及び「第2部材」に相当すると言える。そして、アーム本体部10、20は、それぞれ本発明の「部材本体部」に相当する。
【0027】
[アーム3の回動範囲を規制するための構造]
前記ロボット1は、アーム3を水平面上の所定範囲内で移動させるように、図外のコントローラにより前記各アームモータ14、24が駆動制御される。但し、誤動作が発生した場合を想定して、前記所定範囲を超えて旋回することを強制的(機械的)に阻止するためのストッパが、第1アーム部3a及び第2アーム部3bに設けられている。
【0028】
具体的には、図1及び図2に示すように、第1アーム部3aには、ストッパとして、アーム本体部10の下面に第1突起部12が設けられている。この第1突起部12は、図4に示すように、第1アーム部3aの矢印A1方向、又は矢印A2方向への回動に伴いアーム支持台2の側面部2aに当接することで、第1アーム部3aのそれ以上の回動を規制する。この構成により、アーム支持台2に対する第1アーム部3aの回動範囲(旋回角度範囲)が、図4に示す範囲RA1内に制限されるのである。なお、第1突起部12は、アーム本体部10の長手方向(図1の左右方向)における基端部分であってかつその幅方向(図1の紙面に直交する方向)の中央部分に設けられている。
【0029】
一方、第2アーム部3bにも同様に、ストッパとして、アーム本体部20の下面に第2突起部22が設けられている。この第2突起部22は、図5に示すように、第2アーム部3bの矢印B1方向、又は矢印B2方向への回動に伴い第1アーム部3aのアーム本体部10の側面10aに当接することで、第2アーム部3bのそれ以上の回動を規制する。この構成により、第1アーム部3aに対する第2アーム部3bの回動範囲(旋回角度範囲)が、図5中に示す範囲RA2内に制限されるのである。なお、第2突起部22は、アーム本体部10の長手方向における中央部分であってかつその幅方向の中央部分に設けられている。
【0030】
図3は、第1突起部12の断面構造を示している。なお、当例では、第2突起部22の構造も基本的には第1突起部12の構造と共通しているため、図3中では、第2突起部22の構造を示す符号をかっこ書きで示している。
【0031】
第1突起部12は、第1アーム部3aのアーム本体部10の下面10bから下向きに所定寸法Pd1だけ突出するように、当該アーム本体部10に一体に設けられている。つまり、アーム本体部10のうち、第1突起部12とその他の部分11、すなわち第1突起部12以外のプレート状の部分とは同一の材料(アルミニウム合金)で一体に成型されている。
【0032】
第1突起部12は、円錐台形状の突起であり、その中心には、頭部50aとねじ軸部50bとを備えたボルト50(本発明の「軸状の補強部材」に相当する)が配置されている。詳しくは、第1突起部12には、当該第1突起部12からアーム本体部10のその他の部分11に亘って、第1突起部12の中心線に沿ってねじ孔13が形成されており、このねじ孔13にボルト50が螺合挿入されている。これにより、アーム本体部10のうち第1突起部12からその他の部分11に亘ってボルト50が配置されている。換言すれば、ボルト50は、アーム本体部10のうち第1突起部12とその他の部分11との境界面(アーム本体部10の下面10bを第1突起部12の位置まで延長した仮想面)を貫通するように配置されている。
【0033】
ボルト50は、当例では合金鋼又はステンレス鋼など、アーム本体部10の材料であるアルミニウム合金よりもせん断強度の大きい材料からなる六角穴付きボルトである。
【0034】
ねじ孔13は、ざぐり部13a(ねじ孔13の入口部分をそれよりも大きな直径で1段深く削り落とした部分)を有しており、ボルト50は、その頭部50aが前記ざぐり部13内に収まった状態で、前記ねじ孔13に螺合挿入されている。これにより、ボルト50は、その頭部50aを第1突起部12から外部(下方)に突出させることなく当該第1突起部12内に配置されている。
【0035】
上記の通り、第2突起部22の構造も第1突起部12と共通している。すなわち、第2突起部22は、第2アーム部3bのアーム本体部20の下面20bから下向きに所定寸法Pd2だけ突出するように、当該アーム本体部20に一体に設けられている。第2突起部22は、円錐台形状の突起である。第2突起部22の中心には、ざぐり部23aを有するねじ孔23が形成されており、このねじ孔23に対して六角穴付きボルトからなるボルト50が螺合挿入されている。これにより、アーム本体部20のうち第2突起部22からその他の部分21に亘ってボルト50が配置されている。
【0036】
[作用効果]
上述したロボット1によれば、第1アーム部3aの第1突起部12がアーム支持台2の側面2aに当接することにより、アーム支持台2に対する第1アーム部3aの回動範囲が規制される。また、第2アーム部3bの第2突起部22が第1アーム部3a(アーム本体部10)の側面10aに当接することにより、第1アーム部3aに対する第2アーム部3bの回動範囲が規制される。そのため、誤動作により、前記回動範囲を超えて各アーム部3a、3bが回動することが防止され、アーム3と筒状案内部材5との衝突および当該衝突による前記ケーブル等の断線が確実に防止される。
【0037】
この場合、第1突起部12及び第2突起部22の内部には、それぞれボルト50が設けられて第1突起部12及び第2突起部22が補強されているため、当該ボルト50が設けられていない場合に比べて各突起部12、22の強度が大きい。具体的には、ボルト50の剪断強度が大きい。そのため、第1突起部12がアーム支持台2の側面2aに当接したときに剪断荷重を受けて当該第1突起部12が破断して脱落したり、第2突起部22が第1アーム部3a(アーム本体部10)の側面10aに当接したときに剪断荷重を受けて当該第2突起部22が破断して脱落するといった事態の発生が効果的に抑制される。
【0038】
しかも、このロボット1では、上記の通り、各突起部12、22に対して既存の六角穴付きボルトからなるボルト50が螺合挿入されることで、各突起部12、22の剪断強度が高められている。従って、このロボット1の構成によれば、簡単かつ安価な構成で、各突起部12、22の破損を抑制することができるという利点がある。また、既に工場のライン等で使用されているロボット、すなわち、ストッパとして上記各突起部12、22に相当する突起部のみを備えているだけでボルト50を備えていない既存のロボットについても、当該突起部にねじ孔を形成し、当該ねじ孔にボルトを螺合挿入すれば、上記ロボット1と同等の構成を後付けすることができる。よって、当該既存のロボットについても、上述したロボット1と同等の作用効果を享受できるようになる。
【0039】
しかも、上記ロボット1によれば、ボルト50の頭部50aがざぐり部13a、23a内に収められており、当該頭部50aが各突起部12、22から外部に突出することがない。そのため、ボルト50の頭部50aが突起部12、22から外部に露出していたと仮定した場合に考えられるトラブル、例えば頭部50aが意図せず周辺機器やアーム支持台2(第1アーム部3a)と接触して破断、脱落するといったトラブルの発生を未然に回避することが可能となる。
【0040】
なお、この場合、図6に示すように、ざぐり部13aの内周面と頭部50aの外周面との間に、これらの隙間を埋める金属又は樹脂からなる円筒状の緩衝部材52が嵌入されていてもよい。この構成によれば、各突起部12、22が相手側部材(アーム支持台2又は第1アーム部3a)に当接する際の衝突荷重が緩衝部材52を介してボルト50の頭部50aに伝達されるため、各突起部12、22の破損がより効果的に抑制される。すなわち、緩衝部材52が無い場合には、衝突荷重を受けたときに上記隙間分だけ各突起部12、22の変位が許容されるため、当該変位により各突起部12、22の先端部分に応力が集中して亀裂が生じ、破損することが考えられる。この点、図6に示す構成によると、緩衝部材52によって上記隙間が解消されているため、当該隙間に起因した上記のような各突起部12、22の破損が効果的に抑制される。特に、緩衝部材52が金属の場合には、当該緩衝部材52によっても各突起部12、22が補強されるため、各突起部12、22の破損がより一層効果的に抑制される。
【0041】
また、上記のようなロボット1によれば、必要な場合には、アーム3の各突起部12、22の強度(剪断強度)を簡単にアップさせることができるという利点もある。例えば、仕様変更(設計変更)によって、より高速(高トルク)でアーム3を駆動すべく各アームモータ14がより高出力のものに変更される場合があり、このような場合には、各突起部12、22の強度(剪断強度)をアップさせる必要が生じる場合がある。このような場合、上記ロボット1によれば、1)ボルト50を取り外す、2)各突起部12、22のねじ孔13をドリルで拡大して下孔を形成する、3)下孔にタップを切り直してサイズアップしたねじ孔13を形成する、4)サイズアップしたボルト50をねじ孔13に螺合挿入する、という手順に従い、ボルト50をサイズアップすることにより、各突起部12、22の強度(剪断強度)を比較的簡単な追加工でアップさせることができる。従って、上記のように仕様変更(設計変更)が生じた場合でも、在庫として保管されている既存のアーム3(各アーム部3a、3b)を廃棄等することなく有効に使用することが可能となる。
【0042】
[変形例等]
以上説明したロボット1は、本発明に係るアーム旋回型ロボットの好ましい実施形態の例示であって、ロボット1の具体的な構成は、本発明の要旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。例えば、以下のような構成を採用することも可能である。
【0043】
(1)図7に示すように、ロボット1は、当該各突起部12、22と相手側部材(アーム支持台2又は第1アーム部3a)との当接時の衝撃を吸収する衝撃吸収部材54をさらに備えているものであってもよい。衝撃吸収部材54は、各突起部12、22の先端面及び外周面にそれぞれ密接する周壁部54a及び底壁部54bを有するカップ型の部材であり、全体がゴム又は樹脂材料により一体に構成されている。衝撃吸収部材54は、図7に示すように各突起部12、22に対して下側から被せられている。そして、底壁部54bに形成された開口部55を通じて前記ボルト50が前記ねじ孔13に螺合挿入されることにより、衝撃吸収部材54が、ボルト50により各突起部12、22に固定されている。なお、この構成では、図3及び図6に図示したようなざぐり部13aはねじ孔13に設けられていない。
【0044】
図7に示す構造によれば、各突起部12、22と相手側部材(アーム支持台2又は第1アーム部3a)との当接時に当該各突起部12、22が受ける衝撃力が緩和される。そのため、各突起部12、22の破損がより高度に抑制される。しかも、各突起部12、22の補強部材であるボルト50が、衝撃吸収部材54を各突起部12、22に取り付けるための部材として兼用された合理的な構成が達成されるという利点もある。
【0045】
(2)実施形態では、本発明の「軸状の補強部材」としてボルト50(六角穴付きボルト)が適用されているが、「軸状の補強部材」は、これに限定されるものではない。例えば、「軸状の補強部材」は、図8に示すような、ピン(円柱体)60であってもよい。この場合、ピン60は、図8に示すように、各突起部12、22の中心線に沿って形成されたピン孔15に圧入されていてもよいし、ピン孔15に挿入された上で各突起部12、22に接着(ろう付け)されていてもよい。なお、ピン60は、ステンレス鋼など、アーム本体部10、20の材料であるアルミニウム合金よりもせん断強度の大きい材料から形成されているのが好適である。
【0046】
また、ピン60は、上記のようにピン孔15に圧入等される以外に、図9に示すように、例えばインサート成型により、アーム本体部10、20の内部に埋設されたものであってもよい。
【0047】
(3)実施形態では、第1アーム部3aのアーム本体部10及び第2アーム部3bのアーム本体部20は、何れもアルミニウム合金のダイカストからなるが、勿論、これ以外の金属材料からなるものであってもよい。また、金属材料以外に、樹脂材料からなるものであってもよい。
【0048】
(4)実施形態では、本発明の「アーム旋回型ロボット」として水平多関節ロボットについて本発明を適用した例について説明したが、本発明は、これに限定されるものではない。本発明は、水平多関節ロボット以外の多関節ロボット、例えば垂直多関節ロボットにも適用である。また、第1部材と、この第1部材に相対的に回動可能に連結された第2部材とを備え、第1部材及び第2部材の少なくとも一方がアーム部からなるアーム旋回型ロボットであれば、多関節ロボット以外のアーム旋回型ロボットについても本願は適用可能である。
【0049】
[本発明のまとめ]
以上説明した本発明をまとめると以下の通りである。
【0050】
本発明の一局面に係るアーム旋回形ロボットは、第1部材と、この第1部材に相対的に回動可能に連結された第2部材とを備え、第1部材及び第2部材の少なくとも一方がアーム部からなるアーム旋回型ロボットであって、前記第2部材は、部材本体部と、この部材本体部の壁面から外向きに突出するように当該部材本体部に設けられて、第2部材の回動に伴い前記第1部材と当接することにより当該第2部材の回動範囲を規制する突起部と、前記突起部の内部に配置された軸状の補強部材とを備え、前記部材本体部のうち前記突起部とその他の部分とは、同一の材料により一体に形成されており、前記補強部材は、前記部材本体部のうち前記突起部から前記その他の部分に亘って配置されているものである。
【0051】
このアーム旋回型ロボットによれば、部材本体部のうち突起部からその他の部分に亘って軸状の補強部材が設けられているため、当該補強部材が設けられていない場合に比べて、突起部の強度、具体的には剪断強度が大きくなる。そのため、第2部材の回動に伴い突起部が第1部材に当接したときの当該突起部の破損(脱落)を抑制することが可能となる。
【0052】
上記構成において、前記補強部材は、頭部とねじ軸部とを備えたボルトであって前記部材本体部に螺合挿入されることにより、前記突起部から前記その他の部分に亘って配置されているのが好適である。
【0053】
この構成によれば、補強部材として汎用品であるボルトが適用されているので、製品コストや製造コストを抑制しながら上記の作用効果を享受することが可能となる。また、第2部材にねじ孔を形成して当該ねじ孔にボルトを螺合挿入するだけの簡単な構成であるため、既に工場のライン等で使用されているアーム旋回型ロボットについても後付けで適用することが可能となる。
【0054】
この場合、前記部材本体部には、前記突起部から前記その他部分に亘って、ざぐり部を有するねじ孔が備えられ、前記ボルトは、その頭部が前記さぐり部内に収まった状態で前記ねじ孔に螺合挿入されているのが好適である。
【0055】
この構成によれば、頭部がざぐり部内に配置されることで、ボルト(頭部)が突起部から外部に突出することが抑制されるため、ボルトの頭部全体が突起部から外部に露出している場合のように、ボルトの頭部が意図せず周辺機器や第1部材と接触して損傷することが抑制される。
【0056】
さらにこの場合には、前記ざぐり部の内周面と前記頭部の外周面との間に介在してこれら内周面と外周面との隙間を埋める緩衝部材をさらに備えているのが好適である。
【0057】
この構成によれば、突起部の破損をより効果的に抑制することが可能となる。すなわち、緩衝部材が無い場合には、突起部と第1部材との当接時の衝突荷重により上記隙間分だけ突起部の変位が許容されるため、当該変位により突起部の先端部分に亀裂が生じて破損することが考えられる。この点、前記緩衝部材が備えられた構成によると、緩衝部材によって上記隙間が解消されているため、当該隙間に起因した突起部の破損が抑制されることとなる。
【0058】
また、補強部材としてボルトが適用されている態様の上記アーム旋回型ロボットにおいては、前記ボルトにより当該突起部に固定されて、当該突起部と前記第1部材との当接時の衝撃力を吸収する衝撃吸収部材をさらに備えているのが好適である。
【0059】
この構成によれば、突起部と第1部材との当接時に当該突起部が受ける衝撃力が緩和される。そのため、より効果的に突起部の破損を抑制することが可能となる。しかも、補強部材としてのボルトを、衝撃吸収部材を突起部に取り付けるための部材として兼用した合理的な構成が達成される。
【0060】
なお、前記第2部材が、ワークに対して所定の作業を行うための作業機構部を備えているものでは、プログラム上で設定された範囲を超えて第2部材が第1部材に対して回動すると、ワーク、周辺機器及び当該ロボット(アーム旋回型ロボット)自体に甚大なダメージを与える場合があり、そのような事態が生じることをより確実に抑制する必要がある。
【0061】
従って、上述した各態様のアーム旋回型ロボットの構成は、第2部材が、ワークに対して所定の作業を行うための作業機構を備えているような場合に特に有用なものとなる。
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図9