(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-22
(45)【発行日】2022-12-01
(54)【発明の名称】接液部材、その製造方法、分析装置用部材、分析装置、摺動部材および摺動装置
(51)【国際特許分類】
C04B 35/117 20060101AFI20221124BHJP
F16J 15/34 20060101ALI20221124BHJP
G01N 1/00 20060101ALN20221124BHJP
G01N 35/10 20060101ALN20221124BHJP
【FI】
C04B35/117
F16J15/34 F
G01N1/00 101K
G01N35/10 Z
(21)【出願番号】P 2021561573
(86)(22)【出願日】2020-11-27
(86)【国際出願番号】 JP2020044360
(87)【国際公開番号】W WO2021107140
(87)【国際公開日】2021-06-03
【審査請求日】2022-05-19
(31)【優先権主張番号】P 2019216330
(32)【優先日】2019-11-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006633
【氏名又は名称】京セラ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003029
【氏名又は名称】弁理士法人ブナ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】重吉 秀和
【審査官】神▲崎▼ 賢一
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-002899(JP,A)
【文献】特開平09-286660(JP,A)
【文献】特開平11-335159(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/117
F16J 15/34
G01N 1/00
G01N 35/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の結晶粒子と、粒界相とを有するセラミックスからなる接液部材であって、前記セラミックスの接液面上における珪素の濃度は、前記接液面と平行な内部の仮想面上におけ
る珪素の濃度よりも高い、接液部材。
【請求項2】
前記セラミックスは、複数の結晶粒子と、粒界相とを有し、隣り合う前記結晶粒子の間に位置する前記粒界相の幅(w)は、0.7μm~2.6μmであ って、前記粒界相の
幅(w)に対する、前記粒界相の深さ(d)の比(d/w)は、0.06~0.18であ
る、請求項1に記載の接液部材。
【請求項3】
前記結晶粒子の平均径は、2μm~8μmである、請求項1または2に記載の接液部材。
【請求項4】
前記セラミックスは、閉気孔を有し、隣り合う該閉気孔の重心間距離から前記閉気孔の円相当径の平均値を差し引いた値(A)が20μm~85μmである、請求項1~3のいずれかに記載の接液部材。
【請求項5】
前記接液面の算術平均高さSaは、20nm~80nmである、請求項1~4のいずれかに記載の接液部材。
【請求項6】
前記接液面の二乗平均平方根高さSqは、40nm~100nmである、請求項1~5のいずれかに記載の接液部材。
【請求項7】
請求項1~6のいずれかに記載の接液部材の製造方法であって、複数の結晶粒子と、粒界相とを有するセラミックスを形成後、接液面となる前記セラミックスの表面を研磨した後、温度を1600℃~1700℃として、1時間~4時間保持して熱処理する、接液部材の製造方法。
【請求項8】
請求項1~6のいずれかに記載の接液部材からなる、分析装置用部材。
【請求項9】
請求項8に記載の分析装置用部材を用いてなる、分析装置。
【請求項10】
請求項1~6のいずれかに記載の接液部材からなる、摺動部材。
【請求項11】
請求項10に記載の摺動部材を用いてなる、摺動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、特に親水性に優れた接液部材、その製造方法、分析装置用部材、分析装置、摺動部材および摺動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
血液等の検体の成分を分析する分析装置では、検体や試薬を分注するために、シリンジに収容した液体を、プランジャの進退動作により、シリンジに形成された吐出口から所定量だけ吐出させ、分注を行う技術が用いられている。
しかしながら、分析装置の組立直後の液体の導入時や繰り返し行われる分注動作中に、液体を収容するシリンジの内壁や、シリンジの加減圧を調整するプランジャの表面に気泡が付着することがあった。気泡が付着した状態で微量の液体を分注すると、液体の量にばらつきが相対的に大きくなり、分注精度が低下する。
【0003】
このような問題を解消するために、特許文献1では、シリンジ内壁またはプランジャ表面に親水膜が形成された分注装置が提案されている。特許文献1には、シリンジ内壁に形成される親水膜は、たとえばポリビニルアルコール系の高分子材料から成る厚さ数Å ~ 数十Å の薄膜であり、プランジャ表面に形成される親水膜はTiN、BrC4、DLC等のセラミック膜であることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【0005】
本開示の接液部材は、複数の結晶粒子と、粒界相とを有するセラミックスからなり、このセラミックスの接液面上における珪素の濃度は、前記接液面と平行な内部の仮想面上における珪素の濃度よりも高くなっている。
本開示の接液部材の製造方法は、複数の結晶粒子と粒界相とを有するセラミックスを形成後、接液面となるセラミックスの表面を研磨した後、温度を1600℃~1700℃として、1時間~4時間保持して熱処理するものである。
【0006】
本開示の分析装置用部材は、上記の接液部材からなる。本開示の分析装置は、この分析装置用部材を用いてなる。
【0007】
本開示の摺動部材は、上記の接液部材からなる。本開示の摺動装置は、この摺動部材を用いてなる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】接液面が鏡面である接液部材の走査型電子顕微鏡(以下、SEM)写真であって、(a)は二次電子像、(b)は反射電子像である。
【
図2】接液面が焼成面である接液部材の走査型電子顕微鏡(以下、SEM)写真であって、(a)は二次電子像、(b)は反射電子像である。
【
図3】接液面が熱処理面である接液部材の走査型電子顕微鏡(以下、SEM)写真であって、(a)は二次電子像、(b)は反射電子像である。
【
図4】接液面を含む研磨した断面を対象とした、(a)は走査型電子顕微鏡写真、(b)は(a)の電子線マイクロアナライザ(EPMA)による珪素のカラーマッピング像である。
【
図5】熱処理した接液面の原子間顕微鏡による、(a)は2次元像であり、(b)は3次元像である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本実施形態は、親水性が高く、洗浄による汚れの除去効率が高い接液部材、その製造方法、ならびに上記接液部材を用いた分析装置用部材、分析装置、摺動部材および摺動装置を提供するものである。
以下、本開示の実施形態に係る接液部材を説明する。本開示の接液部材は、複数の結晶粒子と、粒界相とを有するセラミックスからなる。セラミックスの接液面上における珪素の濃度は、接液面と平行な内部の仮想面上における珪素の濃度よりも高い。
【0010】
純水に対する珪素の接触角は小さいため、上記のように、セラミックスの接液面上における珪素の濃度を、接液面と平行な内部の仮想面上における珪素の濃度よりも高くすることにより、親水性が向上する。そのため、水溶性の洗剤を用いて洗浄した場合、汚れの除去効率を高くすることができる。同時に、仮想面上における珪素の濃度は接液面上における珪素の濃度よりも低くなる。このような構成であると、異常成長した結晶粒子が内部に存在しにくくなるため、その周囲に欠陥が生じにくくなる。
珪素の濃度は、接液面を含む研磨した断面を対象に、電子線マイクロアナライザ(EPMA)を用いた珪素のカラーマッピング像(横方向の長さが120μm、縦方向の長さが:90μm)を観察すればよい。ここで、研磨した断面の算術平均粗さRaは、0.01~0.2μmになるようにする。断面の算術平均粗さRaは、JIS B 0601:1994に準拠して求めることができ、触針の半径を5μm、触針の材質をダイヤモンド、測定長さを1.25mm、カットオフ値を0.25mmとすればよい。
仮想面は、断面内で接液面からの深さが20μmの位置にあり、接液面と平行な面をいう。例えば、断面内の接液面上における珪素の濃度は、50%以上80%以下であり、仮想面上における珪素の濃度は20%以下であり、その差は、30%以上であるとよい。珪素の濃度は、断面の横方向の長さに対する、接液面上および仮想面上で珪素が検出されたポイントの長さのそれぞれの合計の比率である。
接液面上および仮想面上で珪素が検出されたポイントの長さは、画像解析ソフト「A像くん(ver2.52)」(登録商標、旭化成エンジニアリング(株)製)を用い、粒子解析という手法で得られる円相当径とみなし、珪素が検出されたポイントの長さの合計は、この円相当径を合算すればよい。
この手法の設定条件としては、例えば、画像の明暗を示す指標であるしきい値を255、明度を明、小図形除去面積を1μm
2、雑音除去フィルタを有とすればよい。なお、観察像の明るさに応じて、しきい値は調整すればよく、明度を明、2値化の方法を手動とし、小図形除去面積を1μm
2および雑音除去フィルタを有とした上で、断面内に現れるマーカーが珪素のポイントの形状と一致するように、しきい値を調整すればよい。
図4は、接液面を含む研磨した断面を対象とした、(a)は走査型電子顕微鏡写真、(b)は(a)の電子線マイクロアナライザ(EPMA)による珪素のカラーマッピング像である。
上述した方法で、珪素の濃度を求めると、
図4(b)に示す断面内の接液面上における珪素の濃度は71.2%であり、仮想面上における珪素の濃度は3.6%であり、接液面上における珪素の濃度は、仮想面上における珪素の濃度よりも高いことがわかる。
珪素は、酸化物あるいは元素として存在していてもよい。
【0011】
セラミックスとしては、耐薬品性に優れたものであれば特に限定されず、例えば高純度アルミナ、ジルコニア、アルミナジルコニア複合材料などが挙げられる。
高純度アルミナとは、セラミックスを構成する成分の合計100質量%のうち、酸化アルミニウムの含有量が99.5質量%以上であるセラミックスをいい、マグネシウム、珪素およびカルシウムを含んでいてもよい。
セラミックスを構成する成分の含有量については、蛍光X線分析装置またはICP発光分光分析装置を用いて金属元素の含有量を求め、例えば、アルミニウム(Al)は、Al2O3に換算すればよい。構成する成分は、X線回折装置を用いて同定すればよい。
【0012】
また、接液面におけるセラミックスは、複数の結晶粒子と粒界相とを有し、隣り合う結晶粒子の間に位置する粒界相の幅(w)は、0.7μm~2.6μmであって、粒界相の幅(w)に対する粒界相の深さ(d)の比(d/w)は、0.06~0.18であってもよい。粒界相の幅(w)が上記範囲であって、粒界相の深さ(d)の比(d/w)が0.06以上であると、純水に対する接触角が小さくなるので、水溶性の洗剤を用いて洗浄した場合、汚れの除去効率を高くすることができる。粒界相の幅(w)が上記範囲であって、粒界相の深さ(d)の比(d/w)が0.18以下であると、粒界相による結晶粒子同士の結合力が十分維持されているので、水溶性の洗剤を用いて高圧洗浄しても、脱粒のおそれが減少する。
【0013】
粒界相の幅(w)および深さ(d)は、原子間力顕微鏡(AFM)を用い、測定対象の長さを7μm~20μmとして、接液面の断面プロファイルを求め、その比(d/w)は、粒界相の幅(w)および深さ(d)の各測定値を用いて算出すればよい。
【0014】
また、接液面におけるセラミックスの結晶粒子の平均径は、2μm~8μmであってもよい。結晶粒子の平均径が上記範囲であると、純水に対する接触角がさらに小さくなるので、水溶性の洗剤を用いて洗浄した場合、汚れの除去効率を高くすることができる。
【0015】
ここで、セラミックスの結晶粒子の平均径は、以下のようにして求めることができる。
上記研磨面を、温度を、例えば、1480℃で結晶粒子と粒界層とが識別可能になるまでエッチングして観察面を得る。
走査型電子顕微鏡を用いて、観察面の反射電子像を2000倍に拡大した60μm×44μmの範囲で、任意の点を中心にして放射状に同じ長さ、例えば、30μmの直線を6本引き、直線の合計長さを、直線上に存在する結晶の個数の合計で除すことによって平均径を求めることができる。
【0016】
また、上記セラミックスは、閉気孔を有し、隣り合う閉気孔の重心間距離から閉気孔の円相当径の平均値を差し引いた値(A)が20μm~85μmであってもよい。値(A)が20μm以上であると、空隙部分が密集することなく分散して配置されているので、高い機械的特性を有する。値(A)が85μm以下であると、研磨等の加工をする場合、良好な加工性が得られる。さらに、隣り合う閉気孔間の間隔が狭くなるので、熱衝撃によって生じるマイクロクラックの伸展を抑制することができる。
【0017】
閉気孔の重心間距離は、以下の方法で求めることができる。
まず、例えば、上記セラミックスの表面から内部に向かって、平均粒径D50が3μmのダイヤモンド砥粒を用いて銅盤にて研磨する。その後、平均粒径D50が0.5μmのダイヤモンド砥粒を用いて錫盤にて研磨することにより研磨面を得る。これらの研磨により、研磨面の算術平均粗さRaは、0.01μm~0.2μmとすることができる。研磨面の算術平均粗さRaは、JIS B 0601:1994に準拠して求めることができ、触針の半径を5μm、触針の材質をダイヤモンド、測定長さを1.25mm、カットオフ値を0.25mmとすればよい。
【0018】
研磨面を200倍の倍率で観察し、平均的な範囲を選択して、例えば、面積が0.105mm2(横方向の長さが374μm、縦方向の長さが280μm)となる範囲をCCDカメラで撮影して、観察像を得る。この観察像を対象として、画像解析ソフト「A像くん(ver2.52)」(登録商標、旭化成エンジニアリング(株)製)を用いて分散度計測の重心間距離法という手法で閉気孔の重心間距離を求めればよい。以下、画像解析ソフト「A像くん」と記載した場合、旭化成エンジニアリング(株)製の画像解析ソフトを示す。
【0019】
この手法の設定条件としては、例えば、画像の明暗を示す指標であるしきい値を86、明度を暗、小図形除去面積を1μm2、雑音除去フィルタを有とすればよい。観察像の明るさに応じて、しきい値を調整してもよい。明度を暗とし、2値化の方法を手動とし、小図形除去面積を1μm2および雑音除去フィルタを有とした上で、観察像に現れるマーカ
ーが閉気孔の形状と一致するように、しきい値を調整すればよい。
【0020】
特に、接液面の純水に対する接触角は37°以下であって、その変動係数が0.02以下であってもよい。これにより、水溶性の洗剤を用いて洗浄した場合、汚れの除去効率を高くすることができるとともに、局部的な汚れの取り残しを抑制することができる。
接液面の接触角は、JIS R 3257:1999に準拠して求めることができ、例えば、接触角計(協和界面科学(株)製、型式CA-X)を用い、5カ所以上測定すればよい。
接液面の算術平均高さSaは、20nm~60nmであってもよい。
接液面の算術平均高さSaが20nm以上であると、接液面の純水に対する接触角をさらに小さくすることができ、汚れの除去効率を高くすることができる。接液面の算術平均高さSaが60nm以下であると、表面性状が良好になるので、大きな脱粒が生じにくくなり、そのような脱粒が発生したとしても浮遊したり飛散したりして悪影響を及ぼすことが少なくなる。
接液面の二乗平均平方根高さSqは、40nm~100nmであってもよい。
接液面の二乗平均平方根高さSqが40nm以上であると、接液面の純水に対する接触角をさらに小さくすることができ、汚れの除去効率を高くすることができる。接液面の自乗平均高さSqが100nm以下であると、表面性状が良好になるので、大きな脱粒が生じにくくなり、そのような脱粒が発生したとしても浮遊したり飛散したりして悪影響を及ぼすことが少なくなる。
接液面の算術平均高さSaおよび二乗平均平方根高さSqは、ISO 25178に準拠して求めることができ、例えば、原子間力顕微鏡(AFM)を用い、測定範囲を90μmとして求めればよい。
図5は、熱処理した接液面の原子間顕微鏡による、(a)は2次元像であり、(b)は3次元像である。
図5に示す接液面の算術平均高さSaは47.1nmであり、二乗平均平方根高さSqは、8.9nmである。
【0021】
次に、本開示の接液部材の製造方法を、接液部材が高純度アルミナのセラミックスからなる場合について説明する。
主成分である酸化アルミニウム粉末(純度が99.9質量%以上)と、水酸化マグネシウム、酸化珪素および炭酸カルシウムの各粉末とを粉砕用ミルに溶媒(イオン交換水)とともに投入して、粉末の平均粒径(D50)が1.5μm以下になるまで粉砕した後、有機結合剤と、酸化アルミニウム粉末を分散させる分散剤とを添加、混合してスラリーを得る。
【0022】
ここで、上記粉末の合計100質量%における水酸化マグネシウム粉末の含有量は0.3~0.42質量%、酸化珪素粉末の含有量は0.5~0.8質量%、炭酸カルシウム粉末の含有量は0.060~0.1質量%であり、残部が酸化アルミニウム粉末および不可避不純物である。
有機結合剤は、アクリルエマルジョン、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキサイド等である。
【0023】
次に、スラリーを噴霧造粒して顆粒を得た後、1軸プレス成形装置あるいは冷間静水圧プレス成形装置を用いて、成形圧を78Mpa以上128MPa以下として加圧することにより、接液部材の前駆体となる成形体を得る。そして、成形体を、焼成温度を1500℃~1700℃、保持時間を4時間~6時間として焼成することによって複数の結晶粒子と粒界相とを有するセラミックスを得ることができる。
接液面となるセラミックスの表面を研磨した後、上記焼成温度と同じ範囲の熱処理温度で熱処理することによって、接液面上における珪素の濃度を、接液面と平行な内部の仮想面上における珪素の濃度よりも高くすることができる。
【0024】
焼成した後、研磨し、温度を1600℃~1700℃、好ましくは1610℃~1690℃として、1時間~4時間保持して熱処理してもよい。研磨および熱処理することにより、接液面の純水に対する接触角が37°以下であって、その変動係数が0.02以下であるセラミックスからなる接液部材を得ることができる。研磨は、例えば、研磨の対象となる側面または端面にかかる面圧を0.03MPa~0.05MPaとし、平均粒径が1μm~2μmのダイヤモンド砥粒、銅からなるラップ盤を用いればよい。
【0025】
具体的に、セラミックスの処理と純水に対する接触角との関係について、試験例を挙げて説明する。表1は、前記した高純度アルミナの成形体を焼成した焼成面、この焼成面をダイヤモンド砥粒で研磨した鏡面、およびこの研磨面を熱処理した熱処理面の接触角とその変動係数を示している。
接触角は、各試料のサンプル数を5とし、JIS R 3257:1999に準拠して求めた。
また、鏡面、焼成面、熱処理面について、接液面上および仮想面上の珪素の濃度を、上述した方法で求め、その値を表2に示した。
【表1】
【表2】
また、鏡面のSEM写真を
図1に、焼成面のSEM写真を
図2に、熱処理面のSEM写真を
図3にそれぞれ示す。
図1~3において、(a)は二次電子像を、(b)は反射電子像をそれぞれ示している。
図1~3から明らかなように、熱処理面は、鏡面や焼成面に比べて、結晶粒子と粒界相が明瞭になっていることがわかる。
表2に示すように、鏡面および焼成面については、接液面上の珪素の濃度が仮想面上の珪素の濃度よりも低かったのに対し、熱処理面は、接液面上の珪素の濃度が仮想面上の珪素の濃度よりも高く、親水性が高いと言える。
【0026】
本開示の接液部材は、例えば、特開2010-230566号公報に記載のような生化学的な分析や免疫分析などを行う医療診断用の自動分析装置において、反応セル、サンプル分注ノズル等の接液面を有する部材に好適に使用することができる。
また、本開示の接液部材は、特開2008-2899号公報(前出の特許文献1)に記載のような微量の液体を分注する分注装置およびこの分注装置を備えた分析装置において、シリンジ、プランジャ等の接液面を有する部材に好適に使用することができる。
【0027】
さらに、本開示の接液部材は、例えば、特開平10-120460号公報に記載のような水道の蛇口などの止水弁(フォーセットバルブ)、特許第5020334号公報に記載のような生け簀用ポンプおよび自動車冷却水ポンプ等のメカニカルシールにおけるメカニカルシールリング等にも好適に使用することができる。
【0028】
本開示における接液面は、粗さ曲線における25%の負荷長さ率での切断レベルと、前記粗さ曲線における75%の負荷長さ率での切断レベルとの差を表す、前記粗さ曲線における切断レベル差(Rδc)が0.3μm以下であるのがよい。これにより、接液面の表面性状の凹凸が小さくなるので、乱流が生じにくくなる。
切断レベル差(Rδc)は、JIS B 0601:2001に準拠し、レーザー顕微鏡((株)キーエンス製、超深度カラー3D形状測定顕微鏡(VK-X1000またはその後継機種))を用いて測定することができる。測定条件としては、照明方式を同軸照明、測定倍率を480倍、カットオフ値λsを無し、カットオフ値λcを0.08mm、終端効果の補正を有り、測定範囲を710μm×533μmとして、設定すればよい。測定範囲に、測定対象とする線を略等間隔に4本引いて、表面粗さ計測を行えばよい。計測の対象とする線1本当たりの長さは、560μmである。
【0029】
以上、本開示の実施形態を説明したが、本開示は以上の実施形態に限定されるものではなく、請求の範囲の記載の範囲内で種々の変更や改善が可能である。