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特許7182018鉄道車両用蓄電システムおよび鉄道車両用蓄電システムの制御方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-22
(45)【発行日】2022-12-01
(54)【発明の名称】鉄道車両用蓄電システムおよび鉄道車両用蓄電システムの制御方法
(51)【国際特許分類】
   B60L 3/00 20190101AFI20221124BHJP
   B60L 50/60 20190101ALI20221124BHJP
   B60L 58/12 20190101ALI20221124BHJP
   B60L 58/16 20190101ALI20221124BHJP
   B60L 13/00 20060101ALI20221124BHJP
   G01R 31/382 20190101ALI20221124BHJP
   G01R 31/385 20190101ALI20221124BHJP
   G01R 31/392 20190101ALI20221124BHJP
   H02J 7/00 20060101ALI20221124BHJP
   H01M 10/42 20060101ALI20221124BHJP
   H01M 10/48 20060101ALI20221124BHJP
   H01M 10/44 20060101ALI20221124BHJP
【FI】
B60L3/00 S
B60L50/60
B60L58/12
B60L58/16
B60L13/00 D
G01R31/382
G01R31/385
G01R31/392
H02J7/00 P
H02J7/00 Y
H02J7/00 X
H01M10/42 P
H01M10/48 P
H01M10/44 P
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2021562677
(86)(22)【出願日】2020-12-02
(86)【国際出願番号】 JP2020044780
(87)【国際公開番号】W WO2021112109
(87)【国際公開日】2021-06-10
【審査請求日】2022-04-21
(31)【優先権主張番号】P 2019219577
(32)【優先日】2019-12-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000062
【氏名又は名称】特許業務法人第一国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】円子 拓矢
(72)【発明者】
【氏名】嶋田 基巳
(72)【発明者】
【氏名】浅田 豊樹
【審査官】佐々木 淳
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-34171(JP,A)
【文献】特開2010-55785(JP,A)
【文献】特開2016-92886(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60L 1/00- 58/40
B60W 10/00- 20/50
G01R 31/382-31/392
H02J 7/00
H01M 10/42- 10/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
集電装置から電力が供給されない非常時において鉄道車両が所定の距離を走行できるように電力を供給する蓄電装置と、
前記蓄電装置の蓄電池の状態情報を管理する蓄電装置制御部と、
を備え、
前記蓄電装置制御部は、定期的に前記蓄電装置の蓄電池の充電状態を判定し、判定結果に応じて充電し、前記充電後に前記蓄電池の劣化状態を判定する
鉄道車両用蓄電システム。
【請求項2】
請求項1に記載の鉄道車両用蓄電システムにおいて、
前記蓄電装置制御部は制御装置用電源の立ち上げ時に前記蓄電装置の蓄電池の充電状態を判定する鉄道車両用蓄電システム。
【請求項4】
請求項1に記載の鉄道車両用蓄電システムにおいて、
前記蓄電装置制御部は任意に設定された日時に前記蓄電装置の蓄電池の充電状態を判定する鉄道車両用蓄電システム。
【請求項5】
請求項1に記載の鉄道車両用蓄電システムにおいて、
前記蓄電装置制御部は鉄道車両が任意に設定された走行距離以上走行した時に前記蓄電装置の蓄電池の充電状態を判定する鉄道車両用蓄電システム。
【請求項6】
請求項1に記載の鉄道車両用蓄電システムにおいて、
前記蓄電装置制御部は車上検査時に前記蓄電装置の蓄電池の充電状態を判定する鉄道車両用蓄電システム。
【請求項7】
請求項1、請求項2及び請求項4乃至請求項6のいずれか一項に記載の鉄道車両用蓄電システムにおいて、
前記蓄電装置制御部は前記蓄電装置の蓄電池の充電状態の判定を、SOC(State of Charge)を所定の値と比較することにより行い、必要に応じて蓄電池を充電する鉄道車両用蓄電システム。
【請求項8】
請求項1、請求項2及び請求項4乃至請求項6のいずれか一項に記載の鉄道車両用蓄電システムにおいて、
前記蓄電装置制御部は前記蓄電装置の蓄電池の充電状態の判定を、蓄電池の電圧を所定の値と比較することにより行い、必要に応じて蓄電池を充電する鉄道車両用蓄電システム。
【請求項9】
請求項1、請求項2及び請求項4乃至請求項6のいずれか一項に記載の鉄道車両用蓄電システムにおいて、
前記蓄電装置制御部は前記蓄電装置の蓄電池の劣化状態や故障の有無の判定を行い、判定結果に応じて乗務員や鉄道車両外部への通知、蓄電池の充放電の制限を行う鉄道車両用蓄電システム。
【請求項10】
集電装置から電力が供給されない非常時において鉄道車両が所定の距離を走行できるように電力を供給する蓄電装置と、
前記蓄電装置の蓄電池の状態情報を管理する蓄電装置制御部と、
を備える鉄道車両用蓄電システムの制御方法であって、
前記蓄電装置制御部は、定期的に前記蓄電装置の蓄電池の充電状態を判定し、判定結果に応じて充電し、前記充電後に前記蓄電池の劣化状態を判定する
鉄道車両用蓄電システムの制御方法。
【請求項11】
請求項10に記載の鉄道車両用蓄電システムの制御方法において、
前記蓄電装置制御部は
i)制御装置用電源の立ち上げ時
ii)任意に設定された日時
iii)鉄道車両が任意に設定された走行距離以上走行した時
iv)車上検査時
の少なくとも何れかに前記蓄電装置の蓄電池の充電状態を判定する鉄道車両用蓄電システムの制御方法。
【請求項12】
請求項10又は請求項11に記載の鉄道車両用蓄電システムの制御方法において、
前記蓄電装置制御部は前記蓄電装置の蓄電池の充電状態の判定を、SOC(State of Charge)を所定の値と比較することにより行い、必要に応じて蓄電池を充電する鉄道車両用蓄電システムの制御方法。
【請求項13】
請求項10又は請求項11に記載の鉄道車両用蓄電システムの制御方法において、
前記蓄電装置制御部は前記蓄電装置の蓄電池の充電状態の判定を、蓄電池の電圧を所定の値と比較することにより行い、必要に応じて蓄電池を充電する鉄道車両用蓄電システムの制御方法。
【請求項14】
請求項10又は請求項11に記載の鉄道車両用蓄電システムの制御方法において、
前記蓄電装置制御部は前記蓄電装置の蓄電池の劣化状態や故障の有無の判定を行い、判定結果に応じて乗務員や鉄道車両外部への通知、蓄電池の充放電の制限を行う鉄道車両用蓄電システムの制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道車両用蓄電システムおよび鉄道車両用蓄電システムの制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池などの蓄電池の高エネルギー密度化や高出力密度化により、1充電で100kmを超える走行を可能とする蓄電装置を車載した電車が導入されている。このような、蓄電装置を車載した鉄道車両では、蓄電池の電力によって所定の距離を走ることができるように常に充電されている。また、蓄電池が劣化により所定の距離を走行するための充電率が得られなくならないために、蓄電池の劣化状態を監視する必要がある。
【0003】
蓄電池の劣化状態および具体的な余寿命を把握する蓄電制御装置として、特許文献1に示されている「蓄電制御装置及び蓄電制御装置を搭載した車両駆動システム」が挙げられる。特許文献1では、蓄電装置と、蓄電装置の電池の状態情報を管理する蓄電装置制御部と、を備え、蓄電装置制御部は、所定期間に計測された蓄電装置の電圧計測値から、所定期間の蓄電装置の電圧値の最小値を取得し、所定期間の蓄電装置の電圧値の最小値の履歴情報、及び、蓄電装置の電圧値が最小となる時点の蓄電装置の累積充電回数に基づいて、蓄電装置の使用可能情報を算出する蓄電制御装置について述べられている。
【0004】
また、蓄電池の劣化を抑制し、長寿命化することができる鉄道車両として、特許文献2に示されている「鉄道車両」が挙げられる。特許文献2では、架線電力を変換して鉄道車両に直流電力を供給する電力変換装置と、車両走行用のモータと、直流電力を交流電力に変換してモータを駆動するインバータと、直流電力を電源として車上電気機器に電力を供給する補助電源装置と、直流電力を充電又はインバータに電力を供給する蓄電システムと、電力変換装置を制御する制御部と、を備え、非電化区間において鉄道車両で使用する電力を蓄電システムから供給する鉄道車両であって、制御部は、鉄道車両が前記非電化区間を走行する際に必要と予想される車両負荷量と、蓄電システムの電池温度の少なくとも何れかの情報に基づいて、非電化区間に進入する時点の蓄電システムの目標充電率を算出し、算出した目標充電率に応じて電力変換装置を制御する鉄道車両について述べられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2016-90485号公報
【文献】特開2017-189062号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1および特許文献2の鉄道車両は、何れも、蓄電池が供給する電力によって非電化区間を走行することを前提としている。このため、電化区間においてパンタグラフや第三軌条から電力が供給されない非常時の対応については考慮されていない。
【0007】
パンタグラフや第三軌条から電力が供給されない非常時において、橋梁上やトンネル内など、乗客の退避が難しい区間での鉄道車両の立ち往生を避けるためには、常に蓄電池が所定距離を走行することができる充電率であるかを監視する必要がある。また、パンタグラフや第三軌条から電力が供給されない非常時において、蓄電池の劣化や故障により所定距離を走行できないことがないように、蓄電池の状態を監視する必要がある。
【0008】
本発明は、以上の点を考慮してなされたもので、パンタグラフや第三軌条から電力が供給されない非常時においても、鉄道車両が所定の距離を走行できるように蓄電池が電力を供給できる鉄道車両用蓄電システムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題の解決にあたり本発明は様々な実施形態をとり得るが、その一例の鉄道車両用蓄電システムは、集電装置から電力が供給されない場合に鉄道車両が所定の距離を走行できるように電力を供給する蓄電装置と、蓄電装置の蓄電池の状態情報を管理する蓄電装置制御部と、を備え、蓄電装置制御部は蓄電装置の蓄電池の充電状態と劣化状態との少なくとも何れかを判定する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、パンタグラフや第三軌条から電力が供給されない非常時においても、鉄道車両が所定の距離を走行できるように蓄電池が電力を供給できる。
上記した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明が適用される鉄道車両の駆動システムの概略構成を示す。
図2】第1の実施形態における、駆動装置の構成を示す。
図3】蓄電システムの構成を示す。
図4】蓄電装置の状態監視を行うフローチャートを示す。
図5】蓄電池定期検査の開始判定を行うフローチャートを示す。
図6】蓄電池定期検査の開始判定を行うフローチャートを示す。
図7】蓄電池定期検査の開始判定を行うフローチャートを示す。
図8】蓄電装置の状態監視を行うフローチャートを示す。
図9】蓄電装置の状態監視を行うフローチャートを示す。
図10】蓄電装置の状態監視を行うフローチャートを示す。
図11】蓄電装置の状態監視を行うフローチャートを示す。
図12】車上検査を行うフローチャートを示す。
図13】車上検査を行うフローチャートを示す。
図14】車上検査を行うフローチャートを示す。
図15】第2の実施形態における、駆動装置の構成を示す。
図16】蓄電システムの構成を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は鉄道車両の走行に利用される蓄電池を管理するシステムである。管理対象である蓄電池は、鉛蓄電池、リチウムイオン二次電池、ニッケル・水素蓄電池、ニッケル・カドミウム蓄電池、酸化銀・亜鉛蓄電池などが例として挙げられ、その他の充放電可能な化学電池が含まれる。
【0013】
このシステムによって管理された蓄電池は、主電動機と接続可能に構成され、主電動機の型式は交流電動機と直流電動機のどちらでもよい。あるいは内燃機関を搭載し、これによって発電した電力によって走行する電気式気動車に適用してもよい。また旅客列車に限らず、貨物列車に適用することもでき、軌道上を走行可能に構成された輸送機器であって、蓄電池を走行に利用できる輸送機器に適用できる。
【0014】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて説明していく。なお以降に挙げる実施例は、本発明の適用に関する一例であって、発明はこれらの例に限定されない。適用対象の条件に合わせて実施例同士の全てまたは一部を交換し組み合わせることが可能である。また適宜、採用する部品の種別の変更や組み合わせ、省略が可能である。
【実施例1】
【0015】
図1は本発明が適用される鉄道車両の駆動システムの概略構成について示す図である。
【0016】
図1の基本構成は駆動装置21を車載した車両1aおよび駆動装置21を車載していない付随車の1bである。車両1aには車輪3a、3bを有する台車2aおよび同様の構成の台車2bによりレール面から支持される。車両1bも同様、車輪3e、3fを有する台車2cおよび車輪3g、3hを有する台車2dを持つ。車両1a、1bは車間連結器6で連結されて列車編成を構成するが、編成の形態は図1に限らない。また、車両1bを連結せず、車両1aのみで運用することも可能である。
【0017】
図2は第1の実施形態における駆動装置21の構成を示す図である。交流電力を適切に電力変換することで、車両が走行するための駆動力を得る一般的な交流電車の駆動装置である。車両1aの駆動装置21は集電装置5、変圧装置7、主変換装置8、電動機17、統括制御装置11、蓄電装置9、補助電源装置10、補器19、検出器12、13、18、51、52で構成される。
【0018】
集電装置5は架線4の電力を車両内へ取り込む。変圧装置7は主変換装置8に入力するのに適切な電圧値に変圧する。主変換装置8はコンバータ装置14、コンデンサ16、インバータ装置15で構成され、電動機17を駆動するための電力への変換を行う。蓄電装置9はコンバータ装置14の出力電力やインバータ装置15からの回生電力によって充電を行い、任意のタイミングで放電することを可能とする。補助電源装置10は空調装置や照明に代表される補器19に電力を供給するために直流電力を交流電力に変換する。統括制御装置11は主変換装置8、蓄電装置9、補助電源装置10の制御を行う。
【0019】
これらの装置をすべて1車両に車載する必要はなく、列車編成内の各車両に分散して車載してもよい。また、各装置は2台以上車載されてもよい。
【0020】
図3は蓄電システムの構成を示す図である。蓄電システムは主に蓄電池9a、蓄電電力遮断器23c、蓄電池制御ユニット23、統括制御ユニット20により構成される。蓄電池制御ユニット23は、統括制御ユニット20からの指令に応じて、蓄電電力遮断器23cを投入、釈放し、蓄電池9aの充放電を制限する。また、蓄電池9aの状態情報(充電率:SOC、蓄電池温度Tb等)を集約し、統括制御ユニット20に送信する。統括制御ユニット20は蓄電池9aの電圧情報を基に充電時と放電時のコンバータ装置14の出力電圧を演算する。充電時は蓄電装置9の端子間電圧よりコンバータ装置14の出力電圧が高くなるように制御する。放電時は蓄電装置9の端子間電圧よりコンバータ装置14の出力電圧が低くなるように制御する。
【0021】
充電動作は集電装置5が車両1aに電力を取り込んでいる場合に行われるが、電車の回生時に電動機17が運動エネルギーを電力に変換し、その電力を主変換装置8を介して架線4に送る場合にインバータ装置15とコンバータ装置14間の電圧を蓄電装置9の端子間電圧以上になるように制御し、充電動作を行ってもよい。
【0022】
図3の構成では、蓄電池9aに蓄えられた電力を主変換装置8で変換し、電動機17を駆動することによって鉄道車両を走行させることも可能である。特に、非電化区間の走行や地上設備の故障などにより集電装置5からの電力供給がない場合において、蓄電池9aに蓄えられた電力が利用される。
【0023】
停電や断線などにより、集電装置5から電力が供給されない場合は非常走行用システムを用いて走行する。非常走行用システムは蓄電池9a、統括制御ユニット20、蓄電池制御ユニット23、蓄電電力遮断器23cで構成される。蓄電池9aは現在地から乗客を安全に降車させることができる場所までの距離等、所定の距離を走行するのに必要なSOC(State of Charge)を満たしているとする。統括制御ユニット20は電流検出器13や電圧検出器12等から集電装置5の電流、電圧情報を取得し、電流または電圧が判定値以下である場合など集電装置から電力が供給されないと判定できる場合に蓄電電力遮断器23cを投入し放電可能とする。
【0024】
非常走行用システムは集電装置5から電力が供給される場合には使用しないが、地上設備の故障などにより集電装置5から電力が供給されなくなるタイミングは不確定であるため、蓄電池9aには常に所定の距離を走行可能な電力量が蓄えられている必要がある。しかし、蓄電池9aは充放電動作を行わない場合も放電し、電力量が減少するため、蓄電池9aのSOCや電圧を監視し、必要に応じて充電する必要がある。また、蓄電池9aが劣化し、集電装置5から電力が供給されなくなる非常時に十分な性能が得られなくなることがないよう、定期的に蓄電池9aの劣化状況を監視する必要がある。
【0025】
そこで、図4のフローチャートに沿って蓄電装置9の状態監視を行う。まず、統括制御装置11の電源を立ち上げた際に処理を開始し、蓄電池制御ユニット23から統括制御ユニット20にSOCの値を送信し、統括制御ユニット20はSOCが判定値1未満であるかを判定する(S101)。判定値1以上の場合、処理を終了する。判定値1は集電装置5から電力が供給されなくなる場合において、乗客を安全に降車できる位置まで走行するために必要なSOCを推定し、設定することが望ましいが任意の値で構わない。
【0026】
判定値1未満の場合、駆動装置21の入力電圧が判定値2以上であるかを判定する(S102)。判定値2以上であれば蓄電池9aの充電が可能であると判断する。判定値2未満の場合は、駆動装置21の入力電圧が判定値2以上となるまで待機する。判定値2は集電装置5が架線4と電気的に接続されていると判断できる電圧値とする。駆動装置21に架線4から電力を供給可能であることを判定できる方法であれば、S102の代わりに使用してもよい。
【0027】
蓄電池9aの充電が可能であると判断した後、乗務員に充電の可否を判断するよう通知を行い(S103)、乗務員が充電を許可する操作を行ったかを判断する(S104)。乗務員が充電を許可する操作を行った場合、蓄電電力遮断器23cを投入し、コンバータ装置14の出力電圧を蓄電装置9の開放端電圧以上とするように統括制御装置11が電圧指令を生成して充電を行う(S105)。乗務員が充電を許可する操作を行わなかった場合、処理を終了する。また、S104を行わずに自動で充電を開始してもよい。充電完了は充電時間と充電電流の値による演算結果から判定される。
【0028】
充電完了判定後に蓄電池劣化判定をおこなう(S106)。蓄電池劣化は充電時間と充電電流、充電時の蓄電池電圧変化量、SOC変化量による演算結果から判定される。畜電池劣化と判定された場合、乗務員に通知を行い(S107)、処理を終了する。このとき、統括制御装置11がインバータ装置15や補助電源装置10の動作を起動させる処理を行わないようにしてもよい。畜電池劣化と判定されなかった場合、処理を終了する。
なお、統括制御装置11が動作中であれば、上記の蓄電装置9の状態監視処理は何度繰り返してもよく、一連の処理の終了後に再度同一の処理を開始することも可能である。
【0029】
蓄電装置9の状態監視は車両1a外のシステムを介して行われてもよい。例として、車両1a内の鉄道車両システムから車両1a外の管理システムへ蓄電装置9の状態を送信し、管理システム側で蓄電装置9の状態を判定した後、鉄道車両システムに充電等の指令を送信する方法が考えられる。情報の送受信や充電等の処理はすべて自動で行われても良いし、各システムの管理者、または操作者による操作によって行われてもよい。
【0030】
蓄電装置9の状態監視の任意のタイミングで蓄電池状態や制御状態の通知を行ってもよいし、一度も通知を行わなくてもよい。通知は乗務員のみを対象としてもよいし、車両外の作業員、車両外のシステムの管理者などを対象に含めてもよい。
【実施例2】
【0031】
実施例1においては、統括制御装置の電源立ち上げにより蓄電装置の検査が開始されたが、本実施例では乗務員、または車両1a外のシステムの管理者が任意のタイミングで検査を開始する。
【0032】
統括制御装置の電源立ち上げにより蓄電装置の検査が開始される構成と乗務員、または車両1a外のシステムの管理者が任意のタイミングで検査を開始する構成を併用してもよい。
【実施例3】
【0033】
図4のフローチャートに沿って行われる蓄電装置9の状態監視を蓄電池定期検査とし、図5、または図6のフローチャートを用いてもよい。図5では前回の蓄電池定期検査から現在までの経過時間が判定値3以上であるかを判定し(S201)、判定値3以上であると、蓄電池定期検査が開始される(S202)。判定値3未満であると、処理を終了する。図6では、日時が任意に設定した日時であるかを判定し(S201a)、任意に設定した日時であると、蓄電池定期検査が開始される(S202)。任意に設定した日時でないと、処理を終了する。蓄電池定期検査が開始されると図4のフローチャートに沿って処理が行われる。
【0034】
図5図6はいずれかを使用してもよいし、併用してもよい。
【実施例4】
【0035】
図5図6の代わりに図7のフローチャートを用いてもよい。図7では鉄道車両の走行距離が判定値3a以上であるかを判定し(S201b)、判定値3a以上であると、蓄電池定期検査が開始される(S202)。判定値3a未満であると、処理を終了する。走行距離は現在の総走行距離と前回の蓄電池定期検査時の総走行距離との差から求める。任意の判定値を複数用意し、総走行距離が各判定値を超えるたびに蓄電池定期検査を開始してもよい。蓄電池定期検査が開始されると図4のフローチャートに沿って処理が行われる。
【0036】
図5図6図7を任意の組み合わせで併用してもよい。
【実施例5】
【0037】
図4の代わりに図8のフローチャートを用いてもよい。図4では、SOCが判定値1未満であるかを判定していた(S101)が、図8では蓄電池の出力電圧が判定値1a未満であるかを判定する(S101a)。また、S104を行わずに自動で充電を開始してもよい。図4図8を任意の組み合わせで併用してもよい。
【実施例6】
【0038】
図4の代わりに図9のフローチャートを用いてもよい。図9図4のS101とS102を入れ替えたフローと同一になっている。S104を行わずに自動で充電を開始してもよい。
【実施例7】
【0039】
図8の代わりに図10のフローチャートを用いてもよい。図10図8のS101aとS102を入れ替えたフローと同一になっている。S104を行わずに自動で充電を開始してもよい。
【実施例8】
【0040】
図4図8の代わりに図11のフローチャートを用いてもよい。車上検査(鉄道車両にある諸々のシステムを検査する機能、S108)で図12図13図14いずれかの処理を行う。図14はS101とS101aの順序を入れ替えてもよい。
【0041】
図12では車上検査を開始するとSOCが判定値1未満であるかを判定する(S101)。SOCが判定値1未満であれば不合格判定とし(S110)、判定値1以上であれば合格判定として(S111)車上検査を終了する。図13では車上検査を開始すると蓄電池の出力電圧が判定値1a未満であるかを判定する(S101a)。蓄電池の出力電圧が判定値1a未満であれば不合格判定とし(S110)、判定値1a以上であれば合格判定として(S111)車上検査を終了する。図14では車上検査を開始するとSOCが判定値1未満であるかを判定し(S101)、蓄電池の出力電圧が判定値1a未満であるかを判定する(S101a)。いずれも判定値未満であれば不合格判定とし(S110)、いずれかが判定値以上であれば合格判定として(S111)車上検査を終了する。各判定値は任意の値でよい。
【0042】
車上検査の判定が不合格であるかを判定し(S109)、車上検査の判定が不合格の場合、図11のS102以降の処理を行う。車上検査の判定が合格の場合、処理を終了する。S102以降の処理は図4図8のS102以降と同一である。S104を行わずに自動で充電を開始してもよい。図11のS102以降の処理の一部またはすべてを車上検査に組み込んでもよい。
【実施例9】
【0043】
図15に第2の実施形態における駆動装置21の構成を示す。第1の実施形態では架線から交流電力が駆動装置21に供給されていたが、第2の実施形態では架線から直流電力が供給される。リアクトル26はコンデンサ16とともにフィルタ回路を構成して架線から供給される直流電力の高調波を除去している。インバータ装置15は直流電力を交流電力に変換し、周波数および振幅を変化させることで、電動機17を制御する。補助電源装置10は直流電力を交流電力に変換し、補器19に供給している。直流コンバータ装置27は直流電圧値を変化させ、蓄電装置9の充放電を制御する。充電時は蓄電装置9の出力電圧より高い電圧、放電時は蓄電装置9の出力電圧より低い電圧を蓄電装置側に出力する。
【0044】
図16に駆動装置21の制御構成を示す。統括制御ユニット20はインバータ制御ユニット22、蓄電池制御ユニット23、補助電源装置制御ユニット24、コンバータ制御ユニット25から受信する情報を集約し、駆動装置21の状態を監視する。また、必要に応じて各制御ユニットに制御指令を送信し、駆動装置21の動作を管理する。
【0045】
インバータ制御ユニット22はインバータ装置15の状態情報を統括制御ユニット20に送信する。また、インバータ装置15の起動、停止を行う。車両1a、1bを加速、減速させる場合、統括制御ユニット20からの指令に応じてインバータ装置15の半導体素子をスイッチングさせることで、電動機17の駆動トルクを制御する。
【0046】
蓄電池制御ユニット23は蓄電池9aの状態情報を統括制御ユニット20に送信する。また、蓄電電力遮断器23cの投入、釈放を行い、蓄電池9aの充放電を制限する。
【0047】
補助電源装置制御ユニット24は補助電源装置10の状態情報を統括制御ユニット20に送信する。また、補助電源装置10の起動、停止を行う。補助電源装置10の異常、または統括制御ユニット20からの停止指令がない場合、補助電源装置10の半導体素子をスイッチングさせ、一定の振幅、周波数の定電圧を補器19に供給する。
【0048】
コンバータ制御ユニット25は直流コンバータ装置27の状態情報を統括制御ユニット20に送信する。また、直流コンバータ装置27の起動、停止を行う。統括制御ユニット20からの指令に応じて、蓄電池9aの充放電を行うために直流コンバータ装置27の半導体素子をスイッチングさせ、電圧を変化させる。
【0049】
図16のシステムでは、非電化区間において、蓄電池9aに蓄えられた電力により走行することができる。また、停電や断線などにより、集電装置から電力が供給されない場合は非常走行用システムとして利用できる。
【0050】
非常走行用システムとして利用する場合、蓄電池9aの使用は集電装置5から電力が供給されない時のみとなるため、蓄電池9aを使用するタイミングは不確定となる。したがって、蓄電池9aには現在地から乗客を安全に降車させることができる場所まで等、所定の距離を走行するのに必要な電力量を常に貯蔵しておく必要がある。しかし、蓄電池9aは未使用状態においても電力量が減少するため、定期的に充電を行う必要がある。また、常に十分な性能が得られるように、蓄電池9aの劣化状態を定期的に監視する必要がある。
【0051】
そこで、実施例1から実施例8までのいずれかの方法を用いて蓄電池9aの定期的な充電、および定期的な劣化状態監視を行う。実施例1から実施例8までの方法をいずれかひとつのみ使用しても良いし、任意に組み合わせて使用してもよい。
【0052】
以上に挙げた各実施例において、統括制御装置11は統括制御ユニット20、インバータ制御ユニット22、蓄電池制御ユニット23、補助電源装置制御ユニット24、コンバータ制御ユニット25を個別の制御ユニットとして含むものとして例示されているが、この区分は便宜上のものであって、一つの制御ユニットまたは複数の制御ユニットの組み合わせによってそれらの制御が実装されてもよい。また、それぞれの制御ユニットにおける制御内容についても、実施例に限られず、任意の実装形態を採用できる。例えば、統括制御ユニット20が、実施例においてそれぞれの制御ユニットが生成していた制御指令を一括して生成するものとし、それぞれの他の制御ユニットは、被制御対象の状態を統括制御ユニット20に対して通知する機能に特化していてもよい。
【符号の説明】
【0053】
1a、1b…車両、2a、2b、2c、2d…台車、3a、3b、3c、3d、3e、3f、3g、3h…車輪、4…架線、5…集電装置、6…車間連結器、7…変圧装置、8…主変換装置、9…蓄電装置、9a…蓄電池、10…補助電源装置、11…統括制御装置、12…交流電圧検出器、13…交流電流検出器、14…コンバータ装置、15…インバータ装置、16…コンデンサ、17…電動機、18…交流電流検出器、19…車両用補器、20…統括制御ユニット、21…駆動装置、22…インバータ制御ユニット、23…蓄電池制御ユニット、23c…蓄電電力遮断器、24…補助電源装置制御ユニット、25…コンバータ制御ユニット、26…リアクトル、27…直流コンバータ装置、51、51a、51b…直流電圧検出器、52…直流電流検出器、100…接地
図1
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