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  • 特許-塗膜形成方法及び水系塗料組成物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-24
(45)【発行日】2022-12-02
(54)【発明の名称】塗膜形成方法及び水系塗料組成物
(51)【国際特許分類】
   B05D 1/36 20060101AFI20221125BHJP
   B05D 7/00 20060101ALI20221125BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20221125BHJP
   C09D 5/02 20060101ALI20221125BHJP
   C09D 133/04 20060101ALI20221125BHJP
   C09D 201/02 20060101ALI20221125BHJP
【FI】
B05D1/36 Z
B05D7/00 K
B05D7/24 302P
C09D5/02
C09D133/04
C09D201/02
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2020187801
(22)【出願日】2020-11-11
(65)【公開番号】P2022077125
(43)【公開日】2022-05-23
【審査請求日】2021-09-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000224123
【氏名又は名称】藤倉化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100126882
【弁理士】
【氏名又は名称】五十嵐 光永
(74)【代理人】
【識別番号】100160093
【弁理士】
【氏名又は名称】小室 敏雄
(74)【代理人】
【識別番号】100169764
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】新井 健司
【審査官】鏡 宣宏
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-70668(JP,A)
【文献】特開2009-91514(JP,A)
【文献】特開平7-113061(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05D 1/00-7/26
C09D 1/00-201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
イソシアネートが残存しているウレタン系シーリング材の表面に、水系塗料組成物を塗布し、乾燥して塗膜を形成する方法であって、
前記水系塗料組成物が、水性媒体と、前記水性媒体に分散した水酸基を有さないアクリル樹脂と、前記水性媒体に溶解又は分散した水酸基含有樹脂とを含み、
前記アクリル樹脂及び前記水酸基含有樹脂の全体での水酸基価が13~65mgKOH/gであり、
前記アクリル樹脂/前記水酸基含有樹脂で表される質量比が20/80~80/20であることを特徴とする塗膜形成方法。
【請求項2】
イソシアネートが残存しているウレタン系シーリング材の表面に塗布される水系塗料組成物であって、
水性媒体と、前記水性媒体に分散した水酸基を有さないアクリル樹脂と、前記水性媒体に溶解又は分散した水酸基含有樹脂とを含み、
前記アクリル樹脂及び前記水酸基含有樹脂の全体での水酸基価が13~65mgKOH/gであり、
前記アクリル樹脂/前記水酸基含有樹脂で表される質量比が20/80~80/20であることを特徴とする水系塗料組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗膜形成方法及び水系塗料組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
建築物の壁面においては、複数のパネルが併設されることがある。複数のパネルが併設された壁面においては、防水性等を付与するために、パネルの継目部分にシーリング材が打設されることが多い。複数のパネルが併設された壁面においては、地震、寒暖差等によって隣り合うパネル間の間隔が変化することがある。シーリング材としては、このようなパネル間の間隔の変化に追従するよう、柔軟性のある樹脂材料が用いられる。
【0003】
継目部分にシーリング材が打設された後、継目部分を保護するとともに継目部分を隠すために、継目部分を含む壁面全面に対し塗装を施して塗膜を形成することが行われる。
このとき形成される塗膜には、継目部分に打設されたシーリング材及びパネルの双方に付着することが求められる。
また、パネル間の間隔が変化すると、シーリング材が両側のパネルに追従して変位する。そのため、塗膜には、シーリング材の変位に追従することも求められる。
【0004】
特許文献1には、シーリング材の変位に追従する塗膜を形成できる塗料組成物として、イソシアネート基含有ウレタンプレポリマーと、分子内にポリオキシエチレン鎖を有するアクリル酸エステル及び/又はメタクリル酸エステルとを含有するシーリング材上塗り塗料組成物が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2006-241259号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1の塗料組成物の塗膜は、親水性が高すぎて耐水性に問題がある。
塗膜の耐水性を向上させるために、塗料組成物中の樹脂の水酸基価を低くすることが考えられる。しかし、本発明者の検討によれば、単純に樹脂の水酸基価を低くすると、ウレタン系シーリング材に対する付着性が低下し、ウレタン系シーリング材の変位時に塗膜がシーリング材表面から剥離し、場合によっては塗膜がひび割れ、その部分から捲くれ上がることがある。
【0007】
本発明は、ウレタン系シーリング材に対する付着性及び耐水性に優れる塗膜を形成できる塗膜形成方法及び水系塗料組成物の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は以下の態様を有する。
[1]イソシアネートが残存しているウレタン系シーリング材の表面に、水系塗料組成物を塗布し、乾燥して塗膜を形成する方法であって、
前記水系塗料組成物が、水性媒体と、前記水性媒体に分散した水酸基を有さないアクリル樹脂と、前記水性媒体に溶解又は分散した水酸基含有樹脂とを含み、
前記アクリル樹脂及び前記水酸基含有樹脂の全体での水酸基価が13~65mgKOH/gであり、
前記アクリル樹脂/前記水酸基含有樹脂で表される質量比が20/80~80/20であることを特徴とする塗膜形成方法。
[2]イソシアネートが残存しているウレタン系シーリング材の表面に塗布される水系塗料組成物であって、
水性媒体と、前記水性媒体に分散した水酸基を有さないアクリル樹脂と、前記水性媒体に溶解又は分散した水酸基含有樹脂とを含み、
前記アクリル樹脂及び前記水酸基含有樹脂の全体での水酸基価が13~65mgKOH/gであり、
前記アクリル樹脂/前記水酸基含有樹脂で表される質量比が20/80~80/20であることを特徴とする水系塗料組成物。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ウレタン系シーリング材に対する付着性及び耐水性に優れる塗膜を形成できる塗膜形成方法及び水系塗料組成物を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の塗膜形成方法の一実施形態を説明する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の塗膜形成方法は、イソシアネートが残存しているウレタン系シーリング材の表面に、水系塗料組成物を塗布し、乾燥して塗膜を形成する方法であって、
前記水系塗料組成物が、水性媒体と、前記水性媒体に分散した水酸基を有さないアクリル樹脂と、前記水性媒体に溶解又は分散した水酸基含有樹脂とを含み、
前記アクリル樹脂/前記水酸基含有樹脂で表される質量比が20/80~80/20であり、
前記アクリル樹脂及び前記水酸基含有樹脂の全体での水酸基価が13~65mgKOH/gであることを特徴とする。
【0012】
<ウレタン系シーリング材>
本発明において、「ウレタン系シーリング材」とは、イソシアネートを含み、イソシアネートの反応(架橋反応)によってウレタン結合が生成して硬化するシーリング材のことである。
ウレタン系シーリング材としては、例えば、イソシアネートとポリオールとを含み、イソシアネートのNCO基とポリオールの水酸基とが反応して硬化するタイプのもの、イソシアネートを含み、イソシアネートのNCO基と空気中の水分とが反応して硬化するタイプ(湿気硬化型)のものが挙げられる。
【0013】
イソシアネートとしては、ポリイソシアネートが一般的に用いられ、具体例としては、ヘキサメチレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、トルエンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート等が挙げられる。
ポリオールとしては、水酸基含有樹脂が一般的に用いられる。水酸基含有樹脂としては、例えばアクリルポリオール、ポリエステルポリール等が挙げられる。
【0014】
ウレタン系シーリング材は、可塑剤をさらに含んでいてもよい。ウレタン系シーリング材が可塑剤を含むと、硬化後にひび割れにくい。
従来は、ウレタン系シーリング材が可塑剤を含むと、可塑剤のブリードによって、その上に形成される塗膜の付着性が低下しやすい傾向がある。しかし、本発明によれば、ウレタン系シーリング材が可塑剤を含む場合でも、ウレタン系シーリング材への付着性の良好な塗膜を形成できる。
可塑剤としては、特に制限はなく、例えば、フタル酸ジオクチル(DOP)、フタル酸ジブチル(DBP)、フタル酸ジイソノニル(DINP)等のフタル酸エステル等が挙げられる。
【0015】
<水系塗料組成物>
水系塗料組成物は、水性媒体と、水酸基を有さないアクリル樹脂(以下、「アクリル樹脂(A)」とも記す。)と、水酸基含有樹脂とを含む。アクリル樹脂(A)は水性媒体に分散している。水酸基含有樹脂は水性媒体に溶解又は分散している。
水系塗料組成物は、必要に応じて、本発明の効果を損なわない範囲で、水性媒体、アクリル樹脂(A)及び水酸基含有樹脂以外の他の成分をさらに含んでいてもよい。各成分については後で詳しく説明する。
【0016】
水系塗料組成物において、アクリル樹脂(A)及び水酸基含有樹脂の全体での水酸基価は、13~65mgKOH/gであり、20~60mgKOH/gが好ましく、30~50mgKOH/gがより好ましい。水系塗料組成物の塗膜中に水酸基が存在すると、ウレタン系シーリング材との界面において、水酸基がウレタン系シーリング材のイソシアネートと反応して付着性が向上する一方、塗膜の親水性が高まり耐水性が低下する。上記水酸基価が13mgKOH/g以上であれば、塗膜のウレタン系シーリング材への付着性に優れる。上記水酸基価が65mgKOH/g以下であれば、塗膜の耐水性に優れる。
アクリル樹脂(A)及び水酸基含有樹脂の全体での水酸基価は、アクリル樹脂(A)、水酸基含有樹脂それぞれの水酸基価(mgKOH/g)と、アクリル樹脂(A)と水酸基含有樹脂との質量比から算出される。
【0017】
アクリル樹脂(A)/水酸基含有樹脂で表される質量比は、20/80~80/20であり、30/70~70/30が好ましく、40/60~65/35がより好ましく、51/49~60/40がさらに好ましい。上記質量比が20/80以上であれば、水系塗料組成物の塗膜の耐水性に優れ、80/20以下であれば、水系塗料組成物の塗膜のウレタン系シーリング材への付着性に優れる。
【0018】
水系塗料組成物の固形分は、水系塗料組成物の総質量に対し、30~80質量%好ましく、40~70質量%がより好ましい。
固形分とは、125℃で1時間乾燥させた後に残存する、塗料に含有される不揮発性成分を意味し、JIS K 5601-1-2の方法にて測定される。
【0019】
(水性媒体)
水性媒体は、水のみの媒体、又は水に水と相溶性のある溶剤を加えた媒体である。水性媒体における水の割合は50質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることがさらに好ましい。
水としては、イオン交換水、水道水等を使用できる。
水と相溶性のある溶剤としては、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール、エチレングリコール等が挙げられる。
【0020】
(アクリル樹脂(A))
アクリル樹脂(A)は、水酸基を有さず、水性媒体に分散可能であればよい。
アクリル樹脂(A)は、典型的には、水酸基を有さない(メタ)アクリル酸エステル及び(メタ)アクリル酸からなる群から選ばれる少なくとも1種のモノマー(以下、「アクリル系モノマー」とも記す。)に基づく構成単位を有するポリマー(以下、「アクリル系ポリマー」とも記す。)を含む。ここで、「(メタ)アクリル酸エステル」は、アクリル酸エステル及びメタクリル酸エステルの少なくとも一方を意味する。「(メタ)アクリル酸」は、アクリル酸及びメタクリル酸の少なくとも一方を意味する。
以下、モノマーに基づく構成単位を「モノマー単位」とも記す。
【0021】
水酸基を有さない(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸t-ブチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸トリデシル、(メタ)アクリル酸ステアリル等の(メタ)アクリル酸アルキル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸ジエチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸グリシジル等が挙げられる。
【0022】
アクリル系ポリマーは、アクリル系モノマー以外のモノマー(以下、「非アクリル系モノマー」とも記す。)単位を有していてもよい。非アクリル系モノマーとしては、例えばスチレン、酢酸ビニルが挙げられる。
アクリル系ポリマーを構成する全ての構成単位の合計質量に対するアクリル系モノマー単位の割合は、70質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましく、100質量%であってもよい。
【0023】
アクリル系モノマー単位の少なくとも一部は、水酸基を有さない(メタ)アクリル酸エステル単位であることが好ましい。水酸基を有さない(メタ)アクリル酸エステル単位は、(メタ)アクリル酸アルキル単位であることが好ましい。
アクリル系ポリマーを構成する全ての構成単位の合計質量に対する水酸基を有さない(メタ)アクリル酸エステル単位の割合は、70質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましく、100質量%であってもよい。
【0024】
アクリル樹脂(A)としては、例えば、アクリル系ポリマーのみからなるアクリル樹脂、アクリルシリコーン樹脂、アクリルウレタン樹脂、アクリルスチレン樹脂、酢酸ビニル-アクリル樹脂、アクリル-フッ素樹脂等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。これらの中でも、耐候性、耐水性の優れた塗膜を形成できる点で、アクリル樹脂、アクリルシリコーン樹脂が好ましい。
【0025】
アクリル樹脂(A)の水酸基価は、0mgKOH/gである。
【0026】
アクリル樹脂(A)のガラス転移温度(以下、「Tg」とも記す。)は、30℃以下が好ましく、10℃以下がより好ましい。アクリル樹脂(A)のTgが上記上限値以下であれば、塗膜の付着性がより優れる。アクリル樹脂(A)のTgの下限は、特に制限されないが、例えば-20℃である。
【0027】
Tgは、下記式(i)に示されるFOXの式から求められる値である。
1/(Tg+273.15)=Σ[W/(Tg+273.15)] …(i)
式(i)中、TgはポリマーのTg(℃)であり、Wは前記ポリマーを構成するモノマーの質量分率であり、Tgは前記モノマーのホモポリマーのTg(℃)である。
なお、Tgはホモポリマーの特性値として広く知られており、例えば、「POLYMER HANDBOOK、THIRD EDITION」に記載されている値や、メーカのカタログ値を用いればよい。
【0028】
アクリル樹脂(A)の平均粒子径は、例えば40~1000nmである。
【0029】
(水酸基含有樹脂)
水酸基含有樹脂は、水酸基を有し、水性媒体に溶解又は分散可能な樹脂(水溶性樹脂又は水分散性樹脂)であればよい。耐久性の点では、水分散性樹脂が好ましい。
【0030】
水酸基含有樹脂としては、例えば、水酸基含有ポリエステル樹脂、水酸基含有シリコーン変性ポリエステル樹脂、水酸基含有アクリル樹脂、水酸基含有シリコーン変性アクリル樹脂、水酸基含有エポキシ樹脂、水酸基含有ビニル樹脂、水酸基含有フッ素樹脂等が挙げられる。これらの樹脂は1種を単独で用いてもよく2種以上を組み合わせて用いてもよい。
中でも、耐水性、耐久性に優れる点で、水酸基含有アクリル樹脂、水酸基含有シリコーン変性アクリル樹脂が好ましい。
【0031】
水酸基含有アクリル樹脂は、典型的には、水酸基含有(メタ)アクリル酸エステル単位を有するポリマー(以下、「水酸基含有アクリル系ポリマー」とも記す。)を含む。
水酸基含有(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシブチルが挙げられる。
【0032】
水酸基含有アクリル系ポリマーは、水酸基を有しない(メタ)アクリル酸エステル単位、(メタ)アクリル酸単位、非アクリル系モノマー単位等をさらに有していてもよい。水酸基を有さない(メタ)アクリル酸エステル、非アクリル系モノマーはそれぞれ前記と同様のものが挙げられる。
水酸基含有アクリル系ポリマーは、水酸基を有さない(メタ)アクリル酸エステル単位を有することが好ましい。水酸基を有さない(メタ)アクリル酸エステル単位は、(メタ)アクリル酸アルキル単位であることが好ましい。
【0033】
水酸基含有アクリル系ポリマーを構成する全ての構成単位の合計質量に対する水酸基含有(メタ)アクリル酸エステル単位の割合は、3~50質量%が好ましく、5~40質量%がより好ましい。
【0034】
水酸基含有樹脂の水酸基価は、20~120mgKOH/gが好ましく、30~100mgKOH/gがより好ましく、40~90mgKOH/gがさらに好ましい。水酸基含有樹脂の水酸基価が前記範囲内であれば、アクリル樹脂(A)及び水酸基含有樹脂の全体での水酸基価を前記範囲内としやすい。
【0035】
水酸基含有樹脂の水酸基価は、水酸基含有樹脂を形成するモノマー組成から次式により算出される。
水酸基価(mgKOH/g)=(水酸基含有モノマーの質量(部)+水酸基含有モノマー以外のモノマーの質量(部))/水酸基含有モノマーの分子量×56.1×1000
【0036】
水酸基含有樹脂のTgは、30℃以下が好ましく、10℃以下がより好ましい。水酸基含有樹脂のTgが上記上限値以下であれば、塗膜の付着性がより優れる。水酸基含有樹脂のTgの下限は、特に制限されないが、例えば-20℃である。
【0037】
水酸基含有樹脂が水分散性樹脂である場合、水酸基含有樹脂の平均粒子径は、例えば40~1000nmである。
【0038】
(他の成分)
水系塗料組成物は、必要に応じて公知の添加剤を含んでもよい。公知の添加剤としては、消泡剤、粘度調整剤、造膜助剤、凍結抑止剤、分散剤、湿潤剤、水溶性樹脂、浸透助剤、防腐剤、表面調整剤、艶消剤、ゲル化剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、遮熱剤、pH調整剤等が挙げられる。
水系塗料組成物は、必要に応じて意匠材を含んでいてもよい。意匠剤として、例えば、着色顔料、体質顔料、輝度顔料、寒水石、着色石、着色ビーズ、艶消ビーズ、着色樹脂チップ等が挙げられる。
【0039】
(水系塗料組成物の製造方法)
水系塗料組成物は、例えば、アクリル樹脂(A)が水性媒体に分散したエマルション(以下、「アクリルエマルション(A)」とも記す。)と、水酸基含有樹脂とを混合することにより製造できる。このとき、必要に応じて、他の成分、さらなる水性媒体を混合してもよい。水酸基含有樹脂は、水酸基含有樹脂が水性媒体に溶解した溶液又は水酸基含有樹脂が水性媒体に分散したエマルションの形態でアクリルエマルション(A)と混合されもよい。
【0040】
アクリルエマルション(A)は、アクリル樹脂(A)及び水性媒体以外の成分(乳化剤、pH調整剤等)を含んでいてもよい。
アクリルエマルション(A)の固形分は、アクリルエマルション(A)の総質量に対し、例えば30~60質量%である。
アクリルエマルション(A)は、市販のものを用いてもよく、公知の製造方法により製造したものを用いてもよい。例えば、アクリル系モノマーを含むモノマー混合物を、水性媒体及びラジカル重合開始剤の存在下で重合することによりアクリルエマルション(A)を製造できる。重合の際、連鎖移動剤を用いてもよい。重合方法としては、乳化重合法、懸濁重合法等が挙げられ、乳化重合法が好ましい。
【0041】
水酸基含有樹脂の溶液又はエマルションは、水酸基含有樹脂及び水性媒体以外の成分(乳化剤、pH調整剤等)を含んでいてもよい。
水酸基含有樹脂の溶液又はエマルションの固形分は、水酸基含有樹脂の溶液又はエマルションの総質量に対し、例えば10~60質量%である。
水酸基含有樹脂、その溶液又はエマルションは、市販のものを用いてもよく、公知の製造方法により製造したものを用いてもよい。例えば水酸基含有アクリル樹脂のエマルションは、モノマー混合物が水酸基含有(メタ)アクリル酸エステルを含むこと以外は、上記アクリルエマルション(A)と同様にして製造できる。
【0042】
<塗膜形成方法>
以下、本発明の塗膜形成方法の一実施形態について、添付の図面を参照して詳述する。なお、図1における寸法比は、説明の便宜上、実際のものとは異なったものである。
【0043】
図1に示すように、本実施形態の塗膜形成方法では、まず、複数のパネル10が併設された壁面において、隣り合うパネル10間の継目Cに、ウレタン系シーリング材12を打設する(工程(a))。次いで、打設したウレタン系シーリング材12にイソシアネートが残存している期間中に、ウレタン系シーリング材12及びその両側のパネル10の表面に水系塗料組成物を塗布し、乾燥する(工程(b))。これにより塗膜1が形成される。
【0044】
パネル10に特に制限はなく、軽量気泡コンクリート(ALC)、サイディングボード、スレート板等の種々の材質のパネルに適用できる。
【0045】
ウレタン系シーリング材12は市販のものを用いることができる。
ウレタン系シーリング材12は常法により打設できる。
打設されたウレタン系シーリング材12においては、イソシアネートが反応して硬化が進行し、経時でイソシアネートが減少する。ウレタン系シーリング材12の表面にイソシアネートが残存している期間は、温度、湿度等によっても異なるが、一般的には打設してから2週間程度である。
【0046】
水系塗料組成物の塗布方法に特に制限はなく、刷毛、こて、ローラー、スプレー等の公知の塗布方法で塗布することができる。
水系塗料組成物の塗布量は、形成する塗膜1の厚さに応じて適宜設定される。
塗膜1の厚さ(乾燥後)は、例えば100~500μmである。
乾燥は、水系媒体が除去できればよく、常温乾燥でも加熱乾燥でもよい。乾燥温度は、例えば5~50℃である。乾燥時間は、乾燥温度によっても異なるが、例えば30分間~12時間である。
【0047】
なお、本発明の塗膜形成方法は、上述した実施形態に限定されるものではない。前記した実施形態における各構成及びそれらの組み合わせ等は一例であり、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で、構成の付加、省略、置換、及びその他の変更が可能である。
例えば、上記実施形態では、ウレタン系シーリング材12を打設し、水系塗料組成物を塗布したが、既設のウレタン系シーリング材に水系塗料組成物を塗布してもよい。
ウレタン系シーリング材12とその両側のパネル10の表面に水系塗料組成物を塗布したが、ウレタン系シーリング材12の表面のみに水系塗料組成物を塗布してもよい。
塗膜1の上に、公知の塗料を公知の塗装方法により塗装して他の塗膜を形成してもよい。
【実施例
【0048】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。以下において「部」は「質量部」を示す。
【0049】
<測定方法>
(ガラス転移温度(Tg))
ガラス転移温度(Tg)は、FOXの式から算出した。
【0050】
(水酸基価(OHV))
水酸基価(OHV)は、重合時に使用したモノマー組成から次式により算出した。
水酸基価(mgKOH/g)=(水酸基含有モノマーの質量(部)+水酸基含有モノマー以外のモノマーの質量(部))/水酸基含有モノマーの分子量)×56.1×1000
【0051】
<製造例1>
攪拌機、冷却器、温度計を備え加温、冷却が可能な重合装置中に、脱イオン水60部、サンノールNP-2030(ライオン(株)製アニオン系乳化剤、有効成分30%)6.7質量部を入れ、液面下に窒素を40mL/分の割合で15分間バブリングし、その後、攪拌しながら内温を80℃まで昇温した。
別の容器にメタクリル酸メチル18部、メタクリル酸エチル27部、アクリル酸n-ブチル55部を混合し、次いで、サンノールNP-2030の10部とレオコールTD-300(ライオン(株)製ノニオン系乳化剤、有効成分100%)5部、脱イオン水35部を加え、ワーリングブレンダー(DYNAMICCORPORATION OFAMERICA製、LB10S型)に入れ、5000rpmで10分間攪拌して、均一な乳化状態のプレエマルション(以下、「PE液」と略す。)を調製し、15分間窒素バブリングを行った。
得られたPE液のうち5部を重合容器内へ入れ、80℃に昇温し、内温が安定した時点で、過硫酸ナトリウム0.2部を脱イオン水1部に溶解した溶液を重合容器内へ投入し、攪拌状態で1時間放置した。
1時間経過後から、PE液の残りと、過硫酸ナトリウム2部を脱イオン水10質量部に溶解した溶液とを、攪拌中の重合容器の内温を80℃に維持しながら、3時間かけて重合容器中に滴下した。滴下完了後、内温を80℃に2時間維持して反応を完結した。
反応完結後、30℃に冷却し、エマルションのpHが8.5になるようにジメチルエタノールアミンを加え、さらに、固形分が40質量%となるように脱イオン水を加えてアクリル樹脂エマルション(E-1)を得た。表1にモノマー組成、アクリル樹脂の特性(Tg、OHV)を示す。
【0052】
<製造例~5>
モノマー組成を表1に示す通りに変更した以外は、製造例1と同様にしてアクリル樹脂エマルション(E-)~(E-5)を得た。表1にアクリル樹脂の特性を示す。
【0053】
【表1】
【0054】
表1中の略号は以下のものを示す。
MMA:メタクリル酸メチル。
EMA:メタクリル酸エチル。
HEMA:メタクリル酸2-ヒドロキシエチル。
BA:アクリル酸nブチル。
2-EHA:アクリル酸2-エチルヘキシル。
NP-2030:ライオン(株)製アニオン系乳化剤、有効成分30%。
TD-300:ライオン(株)製ノニオン系乳化剤、有効成分100%。
なお、アクリル樹脂エマルション(E-1)のアクリル樹脂はアクリル樹脂(A)に相当し、アクリル樹脂エマルション(E-)~(E-5)のアクリル樹脂は水酸基含有樹脂に相当する。
【0055】
〔実施例1、3、4、8~11、比較例1、3~5〕
(水系塗料組成物の製造)
表2~3に示す配合に従って各材料を容器に入れ、ディゾルバーにて分散させて水系塗料組成物を調製した。
表2~3に、水系塗料組成物の総質量に対する樹脂分の割合(質量%)、樹脂分全体の水酸基価、水酸基を有さないアクリル樹脂(Ac)と水酸基含有樹脂(AcOH)との質量比(Ac/AcOH比率)を示す。ここで「樹脂分」とは、水酸基を有さないアクリル樹脂及び水酸基含有樹脂の全体のことである。
表2~3中、各材料の配合量の単位は部である。アクリル樹脂エマルション以外の使用材料は以下のとおりである。
炭酸カルシウム:丸尾カルシウム社製「重質炭酸カルシウム」。
TiO:石原産業社製「タイペークCR95」。
配合水:脱イオン水。
HEC:ヒドロキシエチルセルロース、ダウ・ケミカル社製「QP52000H」。
会合剤:アルケマ社製「Coapur6050」。
表面調整剤:ビックケミー社製「BYK-346」。
造膜助剤:EASTMAN CHEMICAL社製「テキサノール」。
【0056】
(評価板の作製)
7cm×15cmのスレート板の全面に、厚さ3mmになるようにウレタン系シーリング材(オート化学工業(株)製、オートシーラー101R)を打設し、常温にて72時間放置した。その後、打設したウレタン系シーリング材の上に、水系塗料組成物を乾燥後の厚さが150μmになるように塗布し、常温にて2週間乾燥して塗膜を形成した。これにより、ウレタン系シーリング材と塗膜とが積層された評価板を得た。
【0057】
(捲くれ上がりの評価(付着性評価))
作製した評価板の塗膜をウレタン系シーリング材とともに縦1cm×横5cmの短冊状に切り、スレート板から剥離して試験片とした。試験片の長手方向の両端を手で持ち、長さが15cmになるまで引っ張り、塗膜に割れ目を発生させた。その後、試験片から手を放し、塗膜の状態を目視で観察し、以下の基準で評価した。結果を表2~3に示す。評価の点数が大きいほど、塗膜のウレタンシーリング材に対する付着性に優れる。
5:塗膜の外観に変化なし(割れ目が発生した部分にささくれが見られない)。
4:割れ目が発生した部分に小さいささくれ(長さ3mm以下)が見られるが、ささくれの端部を手で摘まめない。
3:割れ目が発生した部分にささくれが見られ、ささくれの端部を手で摘まめる。ささくれの端部を手で摘まんで引っ張るとちぎれ、ささくれ以外の部分の塗膜は剥がれない。
2:割れ目が発生した部分にささくれが見られ、ささくれの端部を手で摘まめる。ささくれの端部を手で摘まんで引っ張ると、ささくれ以外の部分の塗膜も剥がれるが、剥がす途中で塗膜が切れ、最後まで剥がれることはない。
1:割れ目が発生した部分にささくれが見られ、ささくれの端部を手で摘まめる。ささくれの端部を手で摘まんで引っ張ると、ささくれ以外の部分の塗膜も剥がれ、剥がす途中で塗膜が切れることなく、最後まで剥がれる。
【0058】
(冷温サイクル試験(耐水性評価))
作製した評価板について、「23℃の水中に18時間浸漬し、次いで-20℃の雰囲気下に3時間放置し、次いで50℃の雰囲気下に3時間放置する。」を1サイクルとして10サイクル実施した。その後、評価板の塗膜の外観を目視で観察し、以下の基準で評価した。結果を表2~3に示す。
○:変化なし。
△:微細なフクレが見られる。
×:全面にフクレが見られる。
【0059】
【表2】
【0060】
【表3】
【0061】
実施例1、3、4、8~11で形成された塗膜は、ウレタン系シーリング材に対する付着性、耐水性に優れていた。
一方、比較例1で形成された塗膜は、樹脂分全体のOHVが13mgKOH/g未満であるので、ウレタン系シーリング材に対する付着性に劣っていた
比較例3で形成された塗膜は、Ac/AcOH比率が80/20超で水酸基含有樹脂が少ないので、ウレタン系シーリング材に対する付着性に劣っていた。
比較例4で形成された塗膜は、Ac/AcOH比率が20/80未満で水酸基含有樹脂が多いので、耐水性に劣っていた。
比較例5で形成された塗膜は、樹脂分全体のOHVは13~65mgKOH/gであるものの、水酸基を有さないアクリル樹脂を含まないので、耐水性に劣っていた。
【符号の説明】
【0062】
1 塗膜
C 継目
10 パネル
12 ウレタン系シーリング材
図1