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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-24
(45)【発行日】2022-12-02
(54)【発明の名称】合わせガラス
(51)【国際特許分類】
   C03C 27/12 20060101AFI20221125BHJP
【FI】
C03C27/12 K
C03C27/12 L
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019118302
(22)【出願日】2019-06-26
(65)【公開番号】P2021004148
(43)【公開日】2021-01-14
【審査請求日】2022-01-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【弁理士】
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【弁理士】
【氏名又は名称】熊野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100168550
【弁理士】
【氏名又は名称】友廣 真一
(72)【発明者】
【氏名】船引 伸夫
(72)【発明者】
【氏名】磯本 武彦
(72)【発明者】
【氏名】田中 義雄
【審査官】有田 恭子
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-117191(JP,A)
【文献】特開2014-194446(JP,A)
【文献】特開2015-024929(JP,A)
【文献】国際公開第2012/099124(WO,A1)
【文献】特開2011-195417(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 27/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂板を含む芯材と、前記芯材の一方の表面側に第一接着層を介して配置された第一ガラスシートと、前記芯材の他方の表面側に第二接着層を介して配置された第二ガラスシートと、を備えた合わせガラスにおいて、
前記第一接着層中に配置された熱線反射フィルムと、
入射する光の一部を吸収可能であり、前記第二接着層中に配置された光吸収フィルムと、を備え、
前記熱線反射フィルムが、第一基材と、前記第一基材に成膜された反射膜と、を備え、
前記反射膜が、前記第一基材よりも前記芯材寄りに配置され、
前記光吸収フィルムが、第二基材と、前記第二基材に成膜された吸収膜と、を備え、
前記吸収膜が、前記第二基材よりも前記芯材寄りに配置されていることを特徴とする合わせガラス。
【請求項2】
前記光吸収フィルムが、熱線吸収フィルムであることを特徴とする請求項に記載の合わせガラス。
【請求項3】
前記熱線反射フィルムと前記第一ガラスシートとの間の前記第一接着層の厚さが、前記熱線反射フィルムと前記芯材との間の前記第一接着層の厚さよりも大きいことを特徴とする請求項又はに記載の合わせガラス。
【請求項4】
前記熱線反射フィルムと前記第一ガラスシートとの間の前記第一接着層の厚さが、0.3mm以上であることを特徴とする請求項に記載の合わせガラス。
【請求項5】
前記吸収フィルムと前記第二ガラスシートとの間の前記第二接着層の厚さが、前記吸収フィルムと前記芯材との間の前記第二接着層の厚さよりも大きいことを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載の合わせガラス。
【請求項6】
前記吸収フィルムと前記第二ガラスシートとの間の前記第二接着層の厚さが、0.3mm以上であることを特徴とする請求項に記載の合わせガラス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合わせガラスに関する。
【背景技術】
【0002】
建物や乗り物の窓ガラスには、安全性と軽量性を考慮し、単層の板ガラスに代えて、樹脂板を含む芯材の両表面に接着層を介してガラスシートを配置した合わせガラスが用いられる場合がある(例えば特許文献1及び2を参照)。
【0003】
特許文献2には、この種の合わせガラスにおいて、遮熱性能を向上させるために、接着層中に、基材に赤外線反射膜を成膜してなる熱線反射フィルムを配置することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-76189号公報
【文献】特開2016-117191号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
熱線反射フィルムは反射率が高く、熱線反射フィルムを含む合わせガラスを高層ビルや乗り物の窓ガラスに用いると、窓ガラスがぎらつき易い。その結果、窓ガラスに室内や車内の様子が映り込み易く、利用者に不快感を与えるという問題がある。
【0006】
本発明は、遮熱性能の向上を図りつつ、映り込みを低減できる合わせガラスを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために創案された本発明は、樹脂板を含む芯材と、芯材の一方の表面側に第一接着層を介して配置された第一ガラスシートと、芯材の他方の表面側に第二接着層を介して配置された第二ガラスシートと、を備えた合わせガラスにおいて、第一接着層及び第二接着層のいずれかの接着層中に配置された熱線反射フィルムと、入射する光の一部を吸収可能な光吸収部材と、を備え、熱線反射フィルムが、光吸収部材よりも第一ガラスシート寄りに配置されていることを特徴とする。
【0008】
このようにすれば、熱線反射フィルムにより、第一ガラスシート側(室外や車外)から入射する光の一部が反射されることから、遮熱性能の向上を図ることができる。また、光吸収部材により、第二ガラスシート側(室内や車内)から入射する光の一部が吸収されることから、第二ガラスシート側の反射率を下げて映り込みを抑制できる。
【0009】
上記の構成において、樹脂板が、光吸収部材であってもよい。
【0010】
これにより、合わせガラスの構成を簡略化できることから、合わせガラスを薄くすることができる。
【0011】
或いは、光吸収部材が、第一接着層及び第二接着層のいずれかの接着層中に配置された光吸収フィルムであってもよい。
【0012】
この場合、光吸収フィルムは、入射する光の一部を吸収可能な樹脂板よりも、光の一部を吸収する性能が優れるので、映り込みをさらに抑制できる。
【0013】
上記の光吸収フィルムを用いる構成において、光吸収フィルムが、熱線吸収フィルムであることが好ましい。
【0014】
これにより、第一ガラスシート側(室外や車外)から入射して熱線反射フィルムを透過した光のうちの熱線がある程度吸収されることから、遮熱性能のさらなる向上を図ることができる。また、熱線吸収フィルムであっても、第二ガラスシート側(室内や車内)から入射する光の一部が吸収されることから、第二ガラスシート側の反射率を下げて映り込みを抑制できる。
【0015】
上記の光吸収フィルムを用いる構成において、熱線反射フィルムが、第一接着層中に配置され、光吸収フィルムが、第二接着層中に配置されていることが好ましい。
【0016】
このようにすれば、芯材の両側に、熱線反射フィルムと光吸収フィルムとがバランスよく配置されるため、合わせガラスの製造工程で熱が加えられる場合や使用環境の温度が変化する場合などに合わせガラスの温度が変化しても、合わせガラスに反りが生じるのを抑制できる。
【0017】
上記の構成において、熱線反射フィルムが、第一基材と、第一基材に成膜された反射膜と、を備え、反射膜が、第一基材よりも芯材寄りに配置されていることが好ましい。
【0018】
ガラスシートと樹脂を含む芯材との間には、一般的に熱膨張係数の差がある。そのため、例えば合わせガラスの製造工程で熱が加えられる場合などの合わせガラスの温度変化に伴う膨張及び収縮により、ガラスシートとその他の部分との間に熱変形量の差が生じ、ガラスシート近傍に大きな応力(例えばせん断応力)が作用し易い。その結果、反射膜が第一基材よりも第一ガラスシート寄りに配置されていると、第一ガラスシート近傍に作用する応力によって、反射膜が第一基材から剥離するという問題が生じるおそれがある。これに対し、上記の構成のように、反射膜を第一基材よりも芯材寄りに配置すれば、反射膜と第一ガラスシートとの間に第一基材が介在するため、第一ガラスシート近傍に作用する応力の影響が反射膜に直接影響し難くなり、反射膜の剥離を抑制できる。
【0019】
上記の構成において、熱線反射フィルムと第一ガラスシートとの間の第一接着層の厚さが、熱線反射フィルムと芯材との間の第一接着層の厚さよりも大きいことが好ましい。
【0020】
このようにすれば、熱線反射フィルムの両側の第一接着層の厚み差によって、反射膜を第一ガラスシートから遠ざけることができる。したがって、合わせガラスの製造工程で熱が加えられる場合などに第一ガラスシート近傍に大きな応力が作用しても、その応力の影響が反射膜に直接影響し難くなり、反射膜の剥離をさらに抑制できる。
【0021】
この場合、熱線反射フィルムと第一ガラスシートとの間の第一接着層の厚さが、0.3mm以上であることが好ましい。
【0022】
上記の構成において、光吸収フィルムが、第二基材と、第二基材に成膜された吸収膜と、を備え、吸収膜が、第二基材よりも芯材寄りに配置されていることが好ましい。
【0023】
上述の反射膜の場合と同様に、吸収膜が第二基材よりも第二ガラスシート寄りに配置されていると、合わせガラスの製造工程で熱が加えられる場合などに第二ガラスシート近傍に作用する応力によって、吸収膜が第二基材から剥離するという問題が生じるおそれがある。これに対し、上記の構成のように、吸収膜を第二基材よりも芯材寄りに配置すれば、吸収膜と第二ガラスシートとの間に第二基材が介在するため、第二ガラスシート近傍に作用する応力の影響が反射膜に直接影響し難くなり、反射膜の剥離を抑制できる。
【0024】
上記の構成において、光吸収フィルムと第二ガラスシートとの間の第二接着層の厚さが、光吸収フィルムと芯材との間の第二接着層の厚さよりも大きいことが好ましい。
【0025】
このようにすれば、光吸収フィルムの両側の第二接着層の厚み差によって、吸収膜を第二ガラスシートから遠ざけることができる。したがって、合わせガラスの製造過程で熱が加えられる場合などに第二ガラスシート近傍に大きな応力が作用しても、その応力の影響が吸収膜に直接影響し難くなり、吸収膜の剥離をさらに抑制できる。
【0026】
この場合、光吸収フィルムと第二ガラスシートとの間の接着層の厚さが、0.3mm以上であることが好ましい。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、遮熱性能の向上を図りつつ、映り込みを低減できる合わせガラスを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】第一実施形態に係る合わせガラスを示す断面図である。
図2】第二実施形態に係る合わせガラスを示す断面図である。
図3】第三実施形態に係る合わせガラスを示す断面図である。
図4】第三実施形態の変形例に係る合わせガラスを示す断面図である。
図5】第四実施形態に係る合わせガラスを示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施形態について添付図面を参照して説明する。なお、第二実施形態以降においては、その他の実施形態と共通する構成には同一符号を付し、詳しい説明を省略する。
【0030】
(第一実施形態)
図1に示すように、第一実施形態に係る合わせガラス1は、芯材としての樹脂板2と、樹脂板2の一方の表面側に第一接着層3を介して配置された第一ガラスシート4と、樹脂板2の他方の表面側に第二接着層5を介して配置された第二ガラスシート6と、を備えている。本実施形態では、更に、第一接着層3中に熱線反射フィルム7が配置され、第二接着層5中に熱線吸収フィルム8(光吸収部材)が配置されている。
【0031】
樹脂板2、第一ガラスシート4、第二ガラスシート6、熱線反射フィルム7及び熱線吸収フィルム8は、積層された状態で、第一接着層3及び第二接着層5により一体化されている。
【0032】
合わせガラス1は、例えば建物や乗り物の窓ガラスに用いることができる。建物としては、例えば一般家庭や商業施設、公共施設、高層ビル等が挙げられ、乗り物としては、例えば自動車や鉄道車両、航空機等が挙げられる。本実施形態では、第一ガラスシート4側が屋外、第二ガラスシート6側が屋内になるように、合わせガラス1が取り付けられる。換言すれば、熱線吸収フィルム8が熱線反射フィルム7よりも屋内側に位置するように、合わせガラス1が取り付けられる。これにより、屋外側の熱線反射フィルム7により遮熱性能の向上を図りつつ、屋内側の熱線吸収フィルム8により反射率を下げて屋内の様子の映り込みを抑制できる。このような合わせガラス1は、屋内にカーテンやブラインド等の遮蔽部材が配置されない窓ガラスに好適である。例えば、乗り物であれば、フロントガラスやサイドガラス、リアガラス、ドアの窓ガラスなどに好適である。また、建物であれば、例えば大開口の窓ガラスなどに好適である。ここで、本明細書では、「屋外」は、建物の屋外のみならず、乗り物の車外も含む意味で用い、「屋内」は、建物の屋内のみならず、乗り物の車内も含む意味で用いる。
【0033】
樹脂板2は、無色透明の樹脂を採用できる。また、樹脂板2を有色透明の樹脂に変更すれば、合わせガラス1に色を付与することもできる。この場合、屋内の様子の映り込みをさらに抑制できる。
【0034】
樹脂板2は、遮熱性、紫外線遮蔽性、電磁波遮蔽性又は導電性を有する樹脂、若しくは、マット調仕上げの樹脂に変更してもよい。
【0035】
樹脂板2は、例えば、ポリカーボネート、アクリル、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリプロピレン(PP)、ウレタン樹脂、塩化ビニル樹脂又はシクロオレフィンポリマー(COP)を採用できる。汎用で安価であるとともに、可視光の透過性に優れるので、ポリカーボネート、アクリル又はPETを採用することが好ましい。
【0036】
本実施形態では、芯材は、一枚の樹脂板2のみから構成されているが、芯材は、例えば接着層を介して複数枚の樹脂板を積層したものであってもよい。この場合、複数枚の樹脂板は、同種の材料であってもよいし、異種の材料を含んでいてもよい。
【0037】
第一ガラスシート4及び第二ガラスシート6の厚さは、樹脂板2(芯材)の厚さよりも小さい。これにより、合わせガラス1に占めるガラスシート4,6の割合が低減するため、軽量化を実現できる。
【0038】
第一ガラスシート4及び第二ガラスシート6の合計厚さは、樹脂板2の厚さの1/5以下であることが好ましく、1/7以下であることがより好ましく、1/10以下であることが最も好ましい。
【0039】
具体的には、第一ガラスシート4及び第二ガラスシート6の厚さは、2mm以下であることが好ましく、1.5mm以下であることがより好ましく、1.3mm以下であることが最も好ましい。一方、第一ガラスシート4及び第二ガラスシート6の厚さは、強度をより向上させる観点から、0.05mm以上であることが好ましく、0.1mm以上であることがより好ましく、0.15mm以上であることが最も好ましい。なお、本実施形態では、第一ガラスシート4及び第二ガラスシート6の厚さは、互いに同じであるが、異なっていてもよい。
【0040】
第一ガラスシート4及び第二ガラスシート6には、例えば、ケイ酸塩ガラス、シリカガラス、ホウ珪酸ガラス、ソーダライムガラス、アルミノ珪酸塩ガラス又は無アルカリガラスを採用できる。合わせガラス1の耐熱性及び耐薬品性を向上させる観点では、ホウ珪酸ガラスを採用することが好ましい。また、合わせガラス1の製造コストを削減する観点では、汎用で安価なソーダライムガラスを採用することが好ましい。合わせガラス1の耐熱性及び強度を向上させる観点では、アルミノ珪酸塩ガラスを採用することが好ましい。合わせガラス1の透明性、耐候性及び耐薬品性を向上させる観点から、無アルカリガラスを採用することが最も好ましい。なお、第一ガラスシート4及び第二ガラスシート6には、強化ガラスを採用してもよい。
【0041】
第一ガラスシート4及び第二ガラスシート6には、例えば、ダウンドロー法又はフロート法によって成形されたガラスシートを利用できる。ここで、ダウンドロー法には、オーバーフローダウンドロー法やスロットダウンドロー法、リドロー法等が該当する。高い表面品位を有するので、オーバーフローダウンドロー法によって成形されたガラスシート、すなわち、両側の表面が火づくり面であるガラスシートを用いることが好ましい。
【0042】
第一接着層3及び第二接着層5の材質は、特に限定されることなく、例えば、両面粘着シート、熱可塑性接着シート、熱架橋性接着シート、エネルギー硬化性の液体接着剤等を用いた接着層とすることができる。例えば、光学透明粘着シート(OCA)、エチレン・酢酸ビニル共重合樹脂(EVA)、熱可塑性ポリウレタン(TPU)、アクリル系熱可塑性接着シート、紫外線硬化型接着剤、熱硬化型接着剤、常温硬化型接着剤等を用いた接着層としてもよい。
【0043】
樹脂板2を外部環境由来の紫外線(例えば太陽光に含まれる紫外線)から保護するため、第一接着層3及び第二接着層5は紫外線遮蔽性を有することが好ましい。紫外線吸収剤を含有する接着剤を採用すれば、第一接着層3及び第二接着層5に紫外線遮蔽性を付与できる。この場合、接着性及び耐候性を向上させる観点から、紫外線吸収剤を含有するホットメルト型接着剤を採用することがより好ましい。
【0044】
第一接着層3は、第一ガラスシート4と熱線反射フィルム7との間に介在された第一部分3aと、熱線反射フィルム7と樹脂板2との間に介在された第二部分3bと、を備えている。本実施形態では、第一接着層3の第一部分3a及び第二部分3bの厚さは、互いに同じである。つまり、熱線反射フィルム7が、第一接着層3の厚さ方向の中央に配置されている。なお、第一部分3aと第二部分3bは、同種の材料であってもよいし、異種の材料であってもよい。
【0045】
第二接着層5は、第二ガラスシート6と熱線吸収フィルム8との間に介在された第一部分5aと、熱線吸収フィルム8と樹脂板2との間に介在された第二部分5bと、を備えている。本実施形態では、第二接着層5の第一部分5a及び第二部分5bの厚さは、互いに同じである。つまり、熱線吸収フィルム8が、第二接着層5の厚さ方向の中央に配置されている。なお、第一部分5aと第二部分5bは、同種の材料であってもよいし、異種の材料であってもよい。
【0046】
第一接着層3及び第二接着層5の好適な厚さ(第一部分3a及び第二部分3bの合計厚さ、並びに、第一部分5a及び第二部分5bの合計厚さ)は、合わせガラス1の寸法(長さ及び幅)や、各部材の厚さ等によって変化するが、熱膨張係数の差による合わせガラス1の反りを第一接着層3及び第二接着層5で吸収する観点から、例えば、0.1mm以上であることが好ましく、0.2mm以上であることがより好ましく、0.4mm以上であることが最も好ましい。一方、第一接着層3及び第二接着層5の厚さが大きいと、可視光の透過性が低下することから、第一接着層3及び第二接着層5の厚さは、例えば、3mm以下であることが好ましく、2mm以下であることがより好ましく、1mm以下であることが最も好ましい。
【0047】
熱線反射フィルム7は、透明であり、第一基材7aと、第一基材7aに成膜された反射膜7bと、を備えている。第一基材7aには、例えば、ポリエステル、オレフィン、ポリプロピレンなどの樹脂フィルムを採用できる。また、第一基材7aには、パルプなどで形成される紙も採用できる。反射膜7bには、例えば、Au、Ag、Al、Cu、Cr、TiO、Ta、Al、SiO、MgF等の金属膜を採用できる。
【0048】
熱線吸収フィルム8は、透明であり、第二基材8aと、第二基材8aに成膜された吸収膜8bと、を備えている。第二基材8aには、例えば第一基材7aで例示した材料を同様に採用できる。吸収膜8bには、例えば、ITO、ATO、タングステン系複合酸化物、六ホウ化ランタン、セシウム酸化タングステン、シアニン化合物、フタロシアニン化合物、ジチオール金属錯体、ナフトキノン化合物、ジインモニウム化合物、アゾ化合物等を採用できる。
【0049】
本実施形態では、反射膜7bは、第一基材7aよりも樹脂板2寄りに配置されており、吸収膜8bは、第二基材8aよりも樹脂板2寄りに配置されている。換言すれば、反射膜7bと第一ガラスシート4との間に第一基材7aが介在しており、吸収膜8bと第二ガラスシート6との間に第二基材8aが介在している。これにより、反射膜7bや吸収膜8bの剥離を抑制できる。これは、合わせガラス1の製造工程に含まれる熱処理(例えばホットメルト型接着剤からなる接着層を介して各部材を積層する場合)で熱が付与される場合や使用環境の温度が変化する場合などで合わせガラス1の温度が変化し、第一ガラスシート4近傍や第二ガラスシート6近傍に大きな応力が作用しても、その応力の影響が反射膜7bや吸収膜8bに直接影響し難くなるからである。
【0050】
なお、熱線反射フィルム7及び熱線吸収フィルム8において、反射膜7b及び吸収膜8bの剥離が問題とならない場合には、これらの膜の向きは特に限定されない。つまり、反射膜7bは、第一基材7aよりも第一ガラスシート4寄りに配置されていてもよいし、吸収膜8bは、第二基材8aよりも第二ガラスシート6寄りに配置されていてもよい。
【0051】
熱線反射フィルム7及び熱線吸収フィルム8の厚さは、特に限定されるものではないが、例えば、0.01mm~0.5mmであることが好ましく、0.02mm~0.25mmであることがより好ましく、0.05mm~0.15mmであることが最も好ましい。
【0052】
以上のような構成を備えた合わせガラス1は、次の特性を有することが好ましい。つまり、可視光透過率は、15%~90%であることが好ましく、30%~90%であることがより好ましい。第一ガラスシート4側(屋外側)の可視光反射率は、8%~50%であることが好ましく、8%~30%であることがより好ましい。第二ガラスシート6側(屋内側)の可視光反射率は、8%~40%であることが好ましく、8%~20%であることがより好ましい。日射熱取得率は、0.1~0.7であることが好ましく、0.1~0.5であることがより好ましい。ここで、可視光透過率、可視光反射率及び日射熱取得率は、JIS R 3106:1998に準じて算定した値である。
【0053】
(第二実施形態)
図2に示すように、第二実施形態に係る合わせガラス1が、第一実施形態に係る合わせガラス1と相違する点は、主に二つある。
【0054】
第一の相違点は、第一ガラスシート4と熱線反射フィルム7との間に介在された第一接着層3の第一部分3aの厚さが、熱線反射フィルム7と樹脂板2との間に介在された第一接着層3の第二部分3bの厚さよりも大きいところである。このようにすれば、第一接着層3の第一部分3aと第二部分3bの厚み差によって、反射膜7bが樹脂板2側に偏って配置されるため、反射膜7bを第一ガラスシート4から遠ざけることができる。したがって、合わせガラス1の製造過程で熱が加えられる場合などに第一ガラスシート4近傍に大きな応力が作用しても、その応力の影響が反射膜7bに直接影響し難くなり、反射膜7bの剥離を抑制できる。
【0055】
第二の相違点は、第二ガラスシート6と熱線吸収フィルム8との間に介在された第二接着層5の第一部分5aの厚さが、熱線吸収フィルム8と樹脂板2との間に介在された第二接着層5の第二部分5bの厚さよりも大きいところである。このようにすれば、第二接着層5の第一部分5aと第二部分5bの厚み差によって、吸収膜8bが樹脂板2側に偏って配置されるため、吸収膜8bを第二ガラスシート6から遠ざけることができる。したがって、合わせガラス1の製造過程で熱が加えられる場合などに第二ガラスシート6近傍に大きな応力が作用しても、その応力の影響が吸収膜8bに直接影響し難くなり、吸収膜8bの剥離を抑制できる。
【0056】
第一接着層3の第一部分3aの厚さを第一接着層3の第二部分3bの厚さよりも大きくする場合、第一部分3aの厚さは、第二部分3bの厚さの1.5倍~3倍であることが好ましい。同様に、第二接着層5の第一部分5aの厚さを第二接着層5の第二部分5bの厚さよりも大きくする場合、第一部分5aの厚さは、第二部分5bの厚さの1.5倍~3倍であることが好ましい。
【0057】
具体的には、第一接着層3の第一部分3a及び第二接着層5の第一部分5aの厚さは、0.3mm~2mmであることが好ましい。また、第一接着層3の第二部分3b及び第二接着層5の第二部分5bの厚さは、0.05mm~1mmであることが好ましく、0.05mm~0.3mmがより好ましい。
【0058】
なお、第一接着層3の第一部分3a及び第二部分3bに上記の厚み差を設ける場合、反射膜7bが、第一基材7aよりも第一ガラスシート4寄りに配置されていても、反射膜7bの剥離を抑制できる。したがって、反射膜7bを第一基材7aよりも第一ガラスシート4寄りに配置してもよい。ただし、反射膜7bの剥離をさらに抑制する観点からは、図2のように、反射膜7bが、第一基材7aよりも樹脂板2寄りに配置されていることが好ましい。
【0059】
同様に、第二接着層5の第一部分5a及び第二部分5bに上記の厚み差を設ける場合、吸収膜8bが、第二基材8aよりも第二ガラスシート6寄りに配置されていても、吸収膜8bの剥離を抑制できる。したがって、吸収膜8bを第二基材8aよりも第二ガラスシート6寄りに配置してもよい。ただし、吸収膜8bの剥離をさらに抑制する観点からは、図2のように、吸収膜8bが、第二基材8aよりも樹脂板2寄りに配置されていることが好ましい。
【0060】
なお、対称構造として合わせガラス1の反りを抑制する観点から、第一接着層3の第一部分3aの厚さが第二接着層5の第一部分5aの厚さと同程度であると共に、第一接着層3の第二部分3bの厚さが第二接着層5の第二部分5bの厚さと同程度であることが好ましい。例えば第一接着層3の第一部分3aの厚さが第二接着層5の第一部分5aの厚さの0.75倍~1.25倍であると共に、第一接着層3の第二部分3bの厚さが第二接着層5の第二部分5bの厚さの0.75倍~1.25倍であることが好ましい。
【0061】
(第三実施形態)
図3に示すように、第三実施形態に係る合わせガラス1が、第一実施形態に係る合わせガラス1と相違する点は、第一接着層3中に、熱線反射フィルム7と共に、熱線吸収フィルム8を配置したところにある。なお、第二接着層5中には、熱線反射フィルム7及び熱線吸収フィルム8は配置されていない。
【0062】
第一接着層3において、熱線吸収フィルム8は、熱線反射フィルム7よりも樹脂板2寄りに配置されている。つまり、熱線吸収フィルム8が熱線反射フィルム7よりも屋内側に位置するようになっている。
【0063】
第一接着層3は、第一ガラスシート4と熱線反射フィルム7との間に介在された第一部分3cと、熱線反射フィルム7と熱線吸収フィルム8との間に介在された第二部分3dと、熱線吸収フィルム8と樹脂板2との間に介在された第三部分3eと、を備えている。
【0064】
なお、図4に示すように、第一接着層3に代えて、第二接着層5中に、熱線反射フィルム7及び熱線吸収フィルム8を配置してもよい。この場合、第二接着層5において、熱線吸収フィルム8は、熱線反射フィルム7よりも第二ガラスシート6寄りに配置される。つまり、熱線吸収フィルム8が熱線反射フィルム7よりも屋内側に配置される。ただし、第一接着層3に熱線反射フィルム7及び熱線吸収フィルム8を配置した方が、屋外からの熱線が早期に外側に反射され、合わせガラス1での熱線の吸収が抑えられるため、遮熱性能は向上する。したがって、第二接着層5中に熱線反射フィルム7及び熱線吸収フィルム8を配置する場合と比較すると、第一接着層3中に熱線反射フィルム7及び熱線吸収フィルム8を配置する場合の方が好ましい。
【0065】
(第四実施形態)
図5に示すように、第四実施形態に係る合わせガラス1は、第一実施形態に係る合わせガラス1と相違する点は、熱線吸収フィルム8を用いることなく、樹脂板2を光吸収部材としたところにある。この樹脂板2は、熱線を吸収可能な材質(例えば熱線吸収ポリカーボネート)からなる。この場合、樹脂板2の日射吸収率は、例えば20~70%とすることができる。
【実施例
【0066】
以下、本発明の合わせガラスを実施例に基づいて詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0067】
まず、下記の実施例1及び比較例1~2に係る合わせガラスについて、可視光線透過率、屋外側の可視光線反射率、屋内側の可視光線反射率、夏場の日射熱取得率、及び冬場の日射熱取得率を測定した。各値の測定はJIS R 3106:1998に準じて行った。また、各値の測定に際し、合わせガラスの外形寸法は300mm×300mmとした。測定結果を表4に示す。
【0068】
(実施例1)
実施例1では、図1に示した合わせガラス1と同様の構成の合わせガラスを作製した。作製した合わせガラスの各部材の構成を表1に示す。
【0069】
【表1】
【0070】
(比較例1)
比較例1では、図1に示した合わせガラスにおいて、熱線反射フィルム及び熱線吸収フィルムを省略した構成の合わせガラスを作製した。合わせガラスの各部材の構成を表2に示す。
【0071】
【表2】
【0072】
(比較例2)
比較例2では、図1に示した合わせガラスにおいて、熱線吸収フィルムを省略した構成の合わせガラスを作製した。合わせガラスの各部材の構成を表3に示す。
【0073】
【表3】
【0074】
【表4】
【0075】
表4に示す結果から、比較例1の構成に熱線反射フィルムのみを追加した構成の比較例2においては、比較例1に比べて、日射熱取得率が低下しているものの、屋外及び屋内側の可視光反射率が共に大幅に上昇していることが確認できる。このことから、比較例2では、遮熱性能の向上は図ることができるが、屋内の様子の映り込みを抑制できないことが認識できる。これに対し、比較例1の構成に熱線反射フィルム及び熱線吸収フィルムを追加した構成の実施例1においては、比較例1に比べて日射熱取得率が低下し、かつ、比較例2に比べて屋内側の可視光反射率が大幅に低下していることが確認できる。このことから、実施例1では、遮熱性能の向上は図りつつ、屋内の様子の映り込みを抑制できることが認識できる。
【0076】
次に、実施例2~4に係る合わせガラスについて、熱サイクル試験によって、熱線反射フィルムの反射膜及び熱線吸収フィルムの吸収膜の剥離が生じるか否かを検査した。熱サイクル試験の条件は、-20℃から60℃に昇温した後に、60℃から-20℃に降温するというサイクルを50回繰り返した。検査に際し、合わせガラスの外形寸法は300mm×300mmとし、各実施例ともに3枚ずつ用意した。検査結果を表7に示す。
【0077】
(実施例2)
実施例2では、図1に示した合わせガラス1において熱線反射フィルムの反射膜及び熱線吸収フィルムの吸収膜の向きを変更した。つまり、第一接着層の第一部分の厚さは、第一接着層の第二部分の厚さと同じとし、第二接着層の第一部分の厚さは、第二接着層の第二部分の厚さと同じとした。反射膜は、第一基材よりも第一ガラスシート寄りに配置し、吸着膜は、第二基材よりも第二ガラスシート寄りに配置した。作製した合わせガラスの各部材の構成を表5に示す。
【0078】
【表5】
【0079】
(実施例3)
実施例3では、実施例1(表1)の合わせガラス1と同一の構成の合わせガラスを作製した。つまり、第一接着層の第一部分の厚さは、第一接着層の第二部分の厚さと同じとし、第二接着層の第一部分の厚さは、第二接着層の第二部分の厚さと同じとした。
【0080】
(実施例4)
実施例4では、図2に示した合わせガラス1と同様の構成の合わせガラスを作製した。つまり、第一接着層の第一部分の厚さは、第一接着層の第二部分の厚さよりも大きくし、第二接着層の第一部分の厚さは、第二接着層の第二部分の厚さよりも大きくした。作製した合わせガラスの各部材の構成を表6に示す。
【0081】
【表6】
【0082】
【表7】
【0083】
表7に示す結果から、反射膜を第一基材よりも第一ガラスシート寄りに配置した実施例2において、反射膜の剥離が生じていることが確認できる。これに対し、反射膜を第一基材よりも樹脂板寄りに配置した実施例3及び4において、反射膜の剥離が生じていないことが確認できる。特に、第一接着層の厚み差によって反射膜を第一ガラスシートから遠ざけた実施例4では、反射膜の剥離の抑制効果が更に高くなると考えられる。
【0084】
同様に、吸収膜を第二基材よりも第二ガラスシート寄りに配置した実施例2において、吸収膜の剥離が生じていることが確認できる。これに対し、吸収膜を第二基材よりも樹脂板寄りに配置した実施例3及び4において、吸収膜の剥離が生じていないことが確認できる。特に、第一接着層の厚み差によって吸収膜を第二ガラスシートから遠ざけた実施例4では、吸収膜の剥離の抑制効果が更に高くなると考えられる。
【0085】
次に、下記の実施例5に係る合わせガラスについて、実施例1及び比較例1~2と同様に、可視光線透過率、屋外側の可視光線反射率、屋内側の可視光線反射率、夏場の日射熱取得率、及び冬場の日射熱取得率を測定した。
【0086】
(実施例5)
実施例5では、図5に示した合わせガラス1と同様の構成の合わせガラスを作製した。作製した合わせガラスの各部材の構成を表1に示す。なお、熱線吸収ポリカーボネートの日射吸収率は、30%であった。
【0087】
【表8】
【0088】
実施例5では、可視光透過率が35%、可視光反射率(屋外/屋内)が44%/29%、日射熱取得率(夏/冬)が0.24/0.23であった。このことから、実施例5では、遮熱性能の向上は図りつつ、屋内の様子の映り込みを抑制できることが認識できる。
【0089】
なお、本発明は上記の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、更に種々なる形態で実施し得る。
【0090】
上記の実施形態において、接着層中に熱線反射フィルム及び/又は熱線吸収フィルムを複数枚配置してもよい。この場合、第一接着層中に複数枚の熱線反射フィルムを配置すると共に、第二接着層中に複数枚の熱線吸収フィルムを配置してもよい。また、第一接着層及び第二接着層の両方の層中に、熱線反射フィルム及び熱線吸収フィルムをそれぞれ配置してもよい。ただし、映り込みを抑制する観点からは、最も第二ガラスフィルム側(屋内側)に位置する熱線反射フィルムよりも第二ガラスフィルム寄りに、少なくとも一枚の熱線吸収フィルムを配置することが好ましい。
【0091】
上記の実施形態において、接着層中に熱線反射フィルム及び熱線吸収フィルム以外の機能性フィルムを配置してもよい。機能性フィルムとしては、意匠的機能を有するものや、物理的機能を有するものなどを採用できる。
【0092】
上記の実施形態において、第一ガラスフィルムの屋外側及び/又は第二ガラスフィルムの屋内側に保護膜を配置してもよい。保護膜としては、ハードコート膜、自己修復性膜、紫外線遮蔽膜、反射防止膜(AR膜)等を採用できる。
【0093】
上記の実施形態において、熱線吸収フィルム又は熱線を吸収可能な材質からなる樹脂板を用いたが、入射する光の一部を吸収可能なフィルム又は樹脂板を用いてもよい。遮熱性能のさらなる向上を図る観点では、熱線吸収フィルム又は熱線を吸収可能な材質からなる樹脂板を用いることが好ましい。
【符号の説明】
【0094】
1 合わせガラス
2 樹脂板
3 第一接着層
4 第一ガラスシート
5 第二接着層
6 第二ガラスシート
7 熱線反射フィルム
7a 第一基材
7b 反射膜
8 熱線吸収フィルム(光吸収部材)
8a 第二基材
8b 吸収膜
図1
図2
図3
図4
図5