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特許7182080二軸延伸ポリプロピレンフィルム、金属化フィルム、金属化フィルムロールおよびフィルムコンデンサ
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  • 特許-二軸延伸ポリプロピレンフィルム、金属化フィルム、金属化フィルムロールおよびフィルムコンデンサ 図1
  • 特許-二軸延伸ポリプロピレンフィルム、金属化フィルム、金属化フィルムロールおよびフィルムコンデンサ 図2
  • 特許-二軸延伸ポリプロピレンフィルム、金属化フィルム、金属化フィルムロールおよびフィルムコンデンサ 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-24
(45)【発行日】2022-12-02
(54)【発明の名称】二軸延伸ポリプロピレンフィルム、金属化フィルム、金属化フィルムロールおよびフィルムコンデンサ
(51)【国際特許分類】
   B29C 55/12 20060101AFI20221125BHJP
   B32B 15/085 20060101ALI20221125BHJP
   H01G 4/32 20060101ALI20221125BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20221125BHJP
【FI】
B29C55/12
B32B15/085 Z
H01G4/32 511L
C08J5/18 CES
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019155265
(22)【出願日】2019-08-28
(65)【公開番号】P2021036005
(43)【公開日】2021-03-04
【審査請求日】2022-01-20
(31)【優先権主張番号】P 2018160107
(32)【優先日】2018-08-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019152388
(32)【優先日】2019-08-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000122298
【氏名又は名称】王子ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】特許業務法人 ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】奥山 佳宗
(72)【発明者】
【氏名】冨永 剛史
(72)【発明者】
【氏名】藤城 義和
(72)【発明者】
【氏名】石渡 忠和
【審査官】関口 貴夫
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/124300(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 55/00-55/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
厚みが1.0μm~3.5μmであり、
第一方向における135℃の引張破壊応力が70MPa以上であり、
前記第一方向における125℃の引張破壊応力と、前記第一方向における135℃の引張破壊応力との差が0MPa以上15MPa以下である、
二軸延伸ポリプロピレンフィルム。
【請求項2】
135℃での前記第一方向の寸法変化率が-3.2%以上1.0%以下である、請求項1に記載の二軸延伸ポリプロピレンフィルム。
【請求項3】
125℃での前記第一方向の寸法変化率と135℃での前記第一方向の寸法変化率との差分が0%以上1.5%以下である、請求項1又は2に記載の二軸延伸ポリプロピレンフィルム。
【請求項4】
結晶子サイズが10nm以上12.20nm以下である、請求項1~3のいずれか1に記載の二軸延伸ポリプロピレンフィルム。
【請求項5】
コンデンサ用である、請求項1~4のいずれか1に記載の二軸延伸ポリプロピレンフィルム。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1に記載の二軸延伸ポリプロピレンフィルムと、
前記二軸延伸ポリプロピレンフィルムの片面または両面に積層された金属層とを有する
金属化フィルム。
【請求項7】
請求項6に記載の金属化フィルムを巻いてなる金属化フィルムロール。
【請求項8】
巻回された請求項6に記載の金属化フィルムを有するか、または、請求項6に記載の金属化フィルムが複数積層された構成を有する、フィルムコンデンサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、二軸延伸ポリプロピレンフィルム、金属化フィルム、金属化フィルムロールおよびフィルムコンデンサに関する。
【背景技術】
【0002】
二軸延伸ポリプロピレンフィルムは、高い耐電圧性や低い誘電損失特性などの優れた電気特性を有し、かつ高い耐湿性を有するため、フィルムコンデンサの誘電体として用いられる。たとえば、ハイブリッド自動車・電気自動車のパワーコントロールユニットを構成するインバータにおけるフィルムコンデンサの誘導体として用いられる。
【0003】
図1に示すように、フィルムコンデンサを構成する金属化フィルム5は、二軸延伸ポリプロピレンフィルム10と、二軸延伸ポリプロピレンフィルム10に設けられた金属層30とを備える。二軸延伸ポリプロピレンフィルム10の両面のうち、一方の面に金属層30が設けられている。なお、図1は、図2におけるI-I断面図である。
【0004】
図2に示すように、金属化フィルム5には、TD方向D2における一方の端部51に、MD方向D1で連続で延びる絶縁マージン21が設けられている。通常、絶縁マージン21は、二軸延伸ポリプロピレンフィルム10に金属蒸着を施す前に、二軸延伸ポリプロピレンフィルム10の所定位置をオイルで覆い、形成される。なお、符号52は、金属化フィルム5におけるTD方向D2の他方の端部、符号31はヘビーエッジ部、符号32はアクティブ部を指す。
【0005】
このような金属化フィルム5を作製するために、たとえば、溶融したポリプロピレン樹脂をTダイでシート状に押し出し、キャスト原反シートを得ること、キャスト原反シートを二軸延伸し、二軸延伸ポリプロピレンフィルムを得ること、二軸延伸ポリプロピレンフィルムを繰り出し、オイルを吹き付け、金属蒸着を施し、スリット前金属化フィルム6(図3参照)を巻取ロールに巻き取ること(以下、これを「蒸着工程」ということがある。)がある。図3に示すように、スリット前金属化フィルム6は、MD方向D1に連続で延びる複数の絶縁マージン21を有する。このようなスリット前金属化フィルム6を繰り出しながら、切断刃で、TD方向D2に複数に分割し、金属化フィルム5を得ることができる。蒸着工程では、100℃~150℃のオイルを二軸延伸ポリプロピレンフィルムに向かって吹き付ける。金属蒸着のための金属は、蒸発源で、通常600℃以上に熱される。蒸発源と冷却ロールとの間に、オイル吹き付け後の二軸延伸ポリプロピレンフィルム10を通過させ、金属を蒸着する。なお、図3において、符号300は、蒸着によって形成された、スリット前金属化フィルム6の金属層を指す。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開昭63‐310954
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
蒸着工程において、二軸延伸ポリプロピレンフィルムは、絶縁マージン形成用のオイルや蒸着金属や蒸発源から受ける熱の影響により、熱負け(シワ、たるみ)を引き起こすことがある。この熱負けは、蒸着後のスリット前金属化フィルムの巻取り時にシワを発生させたり、シワやたるみに起因する蒸着膜ムラを引き起こしたりすることがある。特にコンデンサ用二軸延伸ポリプロピレンフィルムのように薄い二軸延伸ポリプロピレンフィルムで、熱負けに起因する不良の発生、具体的にはシワ不良や蒸着膜ムラの発生が顕著である。このような不良は、後工程(スリット工程、コンデンサ素子巻き工程、フィルムコンデンサ作製工程等)に悪影響を及ぼすため、不良が生じた部分は廃棄される。
【0008】
ところで、フィルムコンデンサは、ハイブリッド自動車・電気自動車などで使用されるため、高温かつ高電圧の厳しい環境下でも、静電容量が低下しにくく、かつショートしにくいことが望ましい。
【0009】
本開示の目的は、二軸延伸ポリプロピレンフィルムの厚みが薄いにもかかわらず、蒸着工程後の巻姿におけるシワ不良を抑制することが可能であるとともに蒸着膜ムラの発生を抑制することができ、そのうえ、二通りの限界試験(温度限界試験および電圧限界試験)において、経過時間にともなう静電容量の減少が小さくかつショートに至るまでの時間が長いフィルムコンデンサを作製することができる二軸延伸ポリプロピレンフィルムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本開示の二軸延伸ポリプロピレンフィルムは、厚みが1.0μm~3.5μmであり、第一方向における135℃の引張破壊応力が70MPa以上であり、前記第一方向における125℃の引張破壊応力と、前記第一方向における135℃の引張破壊応力との差が0MPa以上15MPa以下である。
【0011】
本開示の二軸延伸ポリプロピレンフィルムは、二軸延伸ポリプロピレンフィルムの厚みが薄いにもかかわらず、蒸着工程後の巻姿におけるシワ不良の発生を抑制することが可能であるとともに蒸着膜ムラの発生を抑制することができる。本開示の二軸延伸ポリプロピレンフィルムは、そのうえ、二通りの限界試験(温度限界試験および電圧限界試験)において、経過時間にともなう静電容量の減少が小さくかつショートに至るまでの時間が長いフィルムコンデンサを作製することができる。また、前記フィルムコンデンサの静電容量および単位体積当たりの静電容量は、二軸延伸ポリプロピレンフィルムの厚みが薄いため、大きいものである。
【0012】
蒸着工程後の巻姿におけるシワ不良および蒸着膜ムラの発生を抑制することが可能な理由は次のように推測される。
蒸着工程後の巻姿におけるシワ不良と、蒸着膜ムラとが従来発生してきた主な原因は、第一に、絶縁マージン形成用のオイルが付着した部分で温度が高まり、その部分が、搬送時の張力によってMD方向に伸びやすく、そのほかの部分(オイルが付着しなかった部分)が伸びにくいことにあり、第二に、二軸延伸ポリプロピレンフィルムが蒸着源付近を通過する際に、蒸着源に近づくほど、付着する蒸着金属または蒸発源から熱を受けてフィルム温度が高まるため、蒸発源に近い部分が搬送時の張力によってMD方向に伸びやすく、蒸発源から遠い部分が伸びにくいことにあったと考えられる。
これに対して、本開示の二軸延伸ポリプロピレンフィルムは、絶縁マージン形成用のオイルによって生じる温度ばらつき(オイルが付着した部分では温度が高く、オイルが付着しなかった部分では温度が低い)と、蒸着金属の付着や蒸着源から受ける熱による急激な二軸延伸ポリプロピレンフィルムの温度変化とに従来起因してきたであろう、巻姿におけるシワ不良と、蒸着膜ムラとを抑制することができると考えられる。これについて、以下、詳しく説明する。
【0013】
第一に、本開示の二軸延伸ポリプロピレンフィルムは、絶縁マージン形成用のオイルによって生じる温度ばらつき(オイルが付着した部分では温度が高く、オイルが付着しなかった部分では温度が低い)に従来起因してきたであろう、巻姿におけるシワ不良と、蒸着膜ムラとを抑制することができると考えられる。
前述のように、前記シワ不良および前記蒸着膜ムラを抑制することができる理由は、まず、第一方向における135℃の引張破壊応力が70MPa以上であるため、絶縁マージン形成用のオイルが付着した部分が、搬送時の張力によってMD方向に伸びることを抑制することが可能であることにある。また、次の理由として、第一方向における125℃の引張破壊応力と、第一方向における135℃の引張破壊応力との差が0MPa以上15MPa以下であるため、二軸延伸ポリプロピレンフィルム面内の温度ばらつきに基づく、強度のTD方向ばらつきを小さくすることが可能であり、これによって、MD方向伸びのTD方向ばらつきを抑制することができることにある。
このように、絶縁マージン形成用のオイルが付着した部分がMD方向に伸びることを抑制可能であることと、MD方向伸びのTD方向ばらつきを抑制可能であることとの両者によって、本開示の二軸延伸ポリプロピレンフィルムは、蒸着工程での搬送を安定化することができると考えられる。
この結果として、本開示の二軸延伸ポリプロピレンフィルムは、絶縁マージン形成用のオイルによって生じる温度ばらつきに従来起因してきたであろう、巻姿におけるシワ不良と、蒸着膜ムラとを抑制することができると考えられる。
【0014】
第二に、本開示の二軸延伸ポリプロピレンフィルムは、蒸着金属の付着や蒸着源から受ける熱による急激な二軸延伸ポリプロピレンフィルムの温度の変化に従来起因してきたであろう、巻姿におけるシワ不良と、蒸着膜ムラとを抑制することができると考えられる。
前述のように、前記シワ不良および前記蒸着膜ムラを抑制することができる理由は、まず、第一方向における135℃の引張破壊応力が70MPa以上であるため、二軸延伸ポリプロピレンフィルムが金属蒸着工程において付着する蒸着金属または蒸発源から熱を受ける際に、搬送時の張力によってMD方向に伸びることを抑制することが可能であることにある。また、次の理由として、第一方向における125℃の引張破壊応力と、第一方向における135℃の引張破壊応力との差が0MPa以上15MPa以下であるため、温度変化に基づく、強度のばらつきを小さくすることが可能であり、これによって、搬送時の張力によるMD方向伸びのばらつきを抑制することができることにある。
このように、蒸着金属または蒸発源から受ける熱に起因して、二軸延伸ポリプロピレンフィルムがMD方向に伸びることを抑制可能であることと、温度変化に基づくMD方向伸びのばらつきを抑制可能であることとの両者によって、本開示の二軸延伸ポリプロピレンフィルムは、蒸着工程での搬送を安定化することができると考えられる。
この結果として、本開示の二軸延伸ポリプロピレンフィルムは、蒸着金属の付着や蒸着源から受ける熱による急激な二軸延伸ポリプロピレンフィルムの温度の変化に従来起因してきたであろう、巻姿におけるシワ不良と、蒸着膜ムラとを抑制することができると考えられる。
【0015】
このような原理によって、本開示の二軸延伸ポリプロピレンフィルムは、厚みが薄いにもかかわらず、絶縁マージン形成用のオイルによって生じる温度ばらつきと、蒸着金属の付着や蒸着源から受ける熱による急激な二軸延伸ポリプロピレンフィルムの温度の変化とに従来起因してきたであろう、巻姿におけるシワ不良と、蒸着膜ムラとを抑制することができると考えられる。
【0016】
これに対して、特許文献1は剛性を高め、蒸着時のシワ発生を抑制することを開示するものの、二軸延伸ポリプロピレンフィルムの高温下の剛性が検討されていないだけでなく高温下の温度ばらつきや温度変化に対する剛性の強さも検討されていない。また、二軸延伸ポリプロピレンフィルムの厚みも厚く、薄膜フィルムの検討がなされていない。よって、特許文献1の二軸延伸ポリプロピレンフィルムは、薄膜フィルムの巻姿におけるシワ不良と、蒸着膜ムラとの両者を抑制することは難しい場合があると考えられる。
【0017】
本開示の二軸延伸ポリプロピレンフィルムが、二通りの限界試験(温度限界試験および電圧限界試験)において、静電容量の減少が小さくかつショートに至るまでの時間が長いフィルムコンデンサを作製可能な理由は次のように推測される。
第一に、第一方向における135℃の引張破壊応力が70MPa以上であるため、本開示の二軸延伸ポリプロピレンフィルムの内部構造が、高温(具体的には、温度限界試験の115℃、電圧限界試験の105℃)下においても強固であると考えられることにある。
第二に、第一方向における125℃の引張破壊応力と、第一方向における135℃の引張破壊応力との差が0MPa以上15MPa以下であり、温度変化に対して引張破壊応力の変化が小さいため、温度限界試験および電圧限界試験の試験温度(具体的には、温度限界試験では115℃、電圧限界試験では105℃)に到達させるための加熱によって内部構造が崩れにくく、試験温度下においても強固な構造を維持することが可能である。この結果として、本開示の二軸延伸ポリプロピレンフィルムは、温度限界試験および電圧限界試験において、経過時間にともなう静電容量の減少を抑制することが可能であるとともに、ショートの発生を抑制することができると考えられる。
【0018】
なお、本開示の二軸延伸ポリプロピレンフィルムはコンデンサ用であることができる。
【0019】
さらに、本開示は、金属化フィルムにも関し、本開示の金属化フィルムは、本開示の二軸延伸ポリプロピレンフィルムと、二軸延伸ポリプロピレンフィルムの片面または両面に積層された金属層とを有することができる。
【0020】
本開示は、金属化フィルムロールにも関し、本開示の金属化フィルムロールは、本開示の金属化フィルムを巻いてなるものとすることができる。
【0021】
本開示は、フィルムコンデンサにも関し、本開示のフィルムコンデンサは、巻回された本開示の金属化フィルムを有するか、または、本開示の金属化フィルムが複数積層された構成を有することができる。
【発明の効果】
【0022】
本開示の二軸延伸ポリプロピレンフィルムは、厚みが薄いにもかかわらず、蒸着工程後の巻姿におけるシワ不良を抑制することが可能であるとともに蒸着膜ムラの発生を抑制することができ、そのうえ、二通りの限界試験(温度限界試験および電圧限界試験)において、経過時間にともなう静電容量の減少が小さくかつショートに至るまでの時間が長いフィルムコンデンサを作製することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】金属化フィルムの概略断面図であり、より詳しくは図2におけるI-I線の概略断面図である。
図2】金属化フィルムの概略平面図である。
図3】巻取ロールから繰り出したスリット前金属化フィルムの概略平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態について説明する。ただし、本発明はこれらの実施形態のみに限定されるものではない。
【0025】
本明細書中において、「含有」および「含む」なる表現は、「含有」、「含む」、「実質的にからなる」および「のみからなる」という概念を含む。
【0026】
本明細書中において、「コンデンサ」なる表現は、「コンデンサ」、「コンデンサ素子」および「フィルムコンデンサ」という概念を含む。
【0027】
本実施形態の二軸延伸ポリプロピレンフィルムは、微孔性フィルムではないので、多数の空孔を有していない。
【0028】
本実施形態の二軸延伸ポリプロピレンフィルムは、2層以上の複数層で構成されていてもよいが、単層で構成されていることが好ましい。
【0029】
本明細書において、ポリプロピレンをPPと省略する場合があり、ポリプロピレン樹脂をPP樹脂と省略する場合がある。
【0030】
本実施形態で記載されている方向についてまず説明する。本実施形態において、第一方向は、二軸延伸ポリプロピレンフィルムの長手方向、すなわち縦方向と同じ方向を指す。長手方向は、ロールの巻き方向と呼ばれることがある。本実施形態では、第一方向は、MachineDirection(以下、「MD方向」という。)と同じ方向でもある。MD方向は、流れ方向、機械軸方向などと呼ばれることがある。以下では、第一方向を、主にMD方向と呼ぶ。ただし、本発明は、第一方向が、長手方向と同じ向きを指す形態に限られないし、MD方向と同じ向きを指す形態に限られない。いっぽう、第二方向は、二軸延伸ポリプロピレンフィルムの幅方向と同じ方向を指す。本実施形態では、第二方向は、TransverseDirection(以下、「TD方向」という。)と同じ方向でもある。以下では、第二方向を、主にTD方向と呼ぶ。ただし、本発明は、第二方向が、幅方向と同じ向きを指す形態に限られないし、TD方向と同じ向きを指す形態に限られない。
【0031】
本実施形態に係る二軸延伸ポリプロピレンフィルムでは、第一方向における135℃の引張破壊応力が70MPa以上であり、好ましくは80MPa以上、より好ましくは85MPa以上である。二軸延伸ポリプロピレンフィルムの前記引張破壊応力が70MPa未満であると、絶縁マージン形成用のオイルや蒸着金属、蒸着源から熱を受けた際に、熱を受けた部分の、搬送時の張力に対する強度が十分ではないといえる。また、前記引張破壊応力が70MPa未満であると、二軸延伸ポリプロピレンフィルムの内部構造が、十分に強固ではないといえる。第一方向における135℃の引張破壊応力は、好ましくは120MPa以下、より好ましくは110MPa以下、さらに好ましくは105MPa以下、特に好ましくは100MPa以下である。120MPa以下が好ましい理由は、第一方向における135℃の引張破壊応力が高すぎると、二軸延伸ポリプロピレンフィルムの製膜安定性(フィルムの破れにくさ)が充分ではないからである。本明細書において、135℃の引張破壊応力をσb135と呼ぶことがある。
【0032】
第一方向における135℃の引張破壊応力(σb135)は、MD延伸倍率によって調整することができる。MD延伸倍率は、MD方向にキャスト原反シートを延伸するときの倍率である。ただし、第一方向における135℃の引張破壊応力(σb135)は、MD延伸ロール群の上流に位置するMD予熱ロール群の温度、MD予熱ロール群との密着時間、MD延伸ロール群の温度、MD延伸ロール群との密着時間、MD延伸ロール群の下流に位置するMD緩和ロール群の温度、MD緩和ロール群との密着時間によっても影響を受ける。
【0033】
本実施形態に係る二軸延伸ポリプロピレンフィルムでは、第一方向における125℃の引張破壊応力と、第一方向における135℃の引張破壊応力(σb135)との差が0MPa以上15MPa以下であり、好ましくは3MPa以上15MPa以下であり、より好ましくは5MPa以上14MPa以下、さらに好ましくは6MPa以上14MPa以下である。この差は、第一方向における125℃の引張破壊応力から、第一方向における135℃の引張破壊応力(σb135)を引いて得られる。この差が15MPa超えであると、絶縁マージン形成用のオイルによって生じる温度ばらつきや、蒸発源付近を通過する際に生じる温度変化に基づく、強度のTD方向ばらつきが十分に小さいとはいえず、また、温度限界試験および電圧限界試験の試験温度(具体的には、温度限界試験では115℃、電圧限界試験では105℃)に到達させるための加熱によって内部構造が崩れやすくなる。本明細書において、125℃の引張破壊応力をσb125ということがある。本明細書において、第一方向における125℃の引張破壊応力(σb125)と、第一方向における135℃の引張破壊応力(σb135)との差を、引張破壊応力差ということがあり、σb125-σb135ということもある。
【0034】
引張破壊応力差(σb125-σb135)は、MD延伸ロール群の上流に位置するMD予熱ロール群の温度、MD予熱ロール群との密着時間、MD延伸ロール群の温度、MD延伸ロール群との密着時間、MD延伸ロール群の下流に位置するMD緩和ロール群の温度、MD緩和ロール群との密着時間によって調整することができる。ただし、引張破壊応力差(σb125-σb135)は、MD延伸倍率によっても影響を受ける。
【0035】
本実施形態に係る二軸延伸ポリプロピレンフィルムの厚みは、1.0μm~3.5μmの範囲内にある。本実施形態に係る二軸延伸ポリプロピレンフィルムの厚みは、1.0μm以上が好ましく、1.5μm以上がより好ましく、2.0μm以上がさらに好ましい。また、本実施形態に係る二軸延伸ポリプロピレンフィルムの厚みは、3.5μm以下が好ましく、3.0μm以下がより好ましく、2.8μm以下がさらに好ましい。本実施形態に係る二軸延伸ポリプロピレンフィルムの厚みが3.5μm以下であると、コンデンサ素子としたときの単位体積当たりの静電容量を大きくすることができるため、コンデンサ用として好適に使用できる。
なお、ポリプロピレンフィルムは、厚さが薄いほど、単位体積当たりの静電容量を大きくできる。より具体的に説明すると、静電容量Cは、誘電率ε、電極面積S、誘電体厚さd(ポリプロピレンフィルムの厚さd)を用いて、以下のように表される。
C=εS/d
ここで、フィルムコンデンサの場合、電極の厚さは、ポリプロピレンフィルム(誘電体)の厚さと比較して3桁以上薄いため、電極の体積を無視すると、コンデンサの体積Vは、以下のように表される。
V=Sd
従って、上記2つの式より、単位体積当たりの静電容量C/Vは、以下のように表される。
C/V=ε/d
上記式から分かるように、単位体積当たりの静電容量(C/V)は、ポリプロピレンフィルム厚さの自乗に反比例する。また、誘電率εは、使用する材料により決まる。そうすると、材料を変更しない限りは、厚さを薄くすること以外で単位体積当たりの静電容量(C/V)を向上させることはできないことが分かる。
【0036】
二軸延伸ポリプロピレンフィルムの前記厚みは、温度23±2℃、湿度50±5%RHの環境下で、シチズンセイミツ株式会社製、紙厚測定器 MEI-11(測定圧100kPa、降下速度3mm/秒、測定端子φ=16mm、測定力20.1N)を用いて測定した値をいう。サンプルは10枚以上重ねたままロールより切り出し、切り出しの際にフィルムにシワや空気が入らないように取り扱う。10枚重ねのサンプルに対し、5回測定を行い、5回の平均値を10で除して、厚みを算出する。
【0037】
本実施形態に係る二軸延伸ポリプロピレンフィルムでは、第一方向における23℃の引張破壊応力が好ましくは155MPa以上であり、より好ましくは160MPa以上である。二軸延伸ポリプロピレンフィルムの前記引張破壊応力が155MPa以上であると、二軸延伸ポリプロピレンフィルムの内部構造が、十分に強固となり、フィルムの絶縁破壊電圧がより向上し、コンデンサ素子の耐電圧性能をより向上させることができる。第一方向における23℃の引張破壊応力は、好ましくは300MPa以下、より好ましくは280MPa以下、さらに好ましくは250MPa以下である。二軸延伸ポリプロピレンフィルムの前記引張破壊応力が300MPa以下であると、二軸延伸ポリプロピレンフィルムの製膜安定性(フィルムの破れにくさ)がより優れる。本明細書において、MD方向における23℃の引張破壊応力をσb23と呼ぶことがある。
【0038】
本実施形態に係る二軸延伸ポリプロピレンフィルムでは、125℃での第一方向の熱収縮率が好ましくは7.0%以下、より好ましくは6.5%以下である。125℃での第一方向の熱収縮率が7.0%以下であると、高温下でコンデンサ素子として使用した際に、フィルムの収縮が大きくなりすぎることを抑制することができる。その結果、フィルム間の空隙が変化してコンデンサ素子が変形を引き起こすことを防止でき、コンデンサ素子の耐電圧性能が低下することを抑制できる。125℃での第一方向の熱収縮率は、好ましくは3.0%以上、より好ましくは4.0%以上、さらに好ましくは5.0%以上である。
本実施形態において、125℃での第一方向の熱収縮率は、延伸条件等によって制御することができる。例えば、第一方向をMD方向とした場合、MD延伸倍率が高いほど、MD熱収縮率は大きくなる傾向にあり、MDの予熱・延伸・緩和工程の温度が低いほど、MD熱収縮率は大きくなる傾向にある。本明細書において、MD方向における125℃の熱収縮率をSb125と呼ぶことがある。
【0039】
本実施形態に係る二軸延伸ポリプロピレンフィルムでは、135℃での第一方向の熱収縮率が好ましくは9.0%以下、より好ましくは8.5%以下、さらに好ましくは8.0%以下である。135℃での第一方向の熱収縮率が9.0%以下であると、高温下でコンデンサ素子として使用した際に、フィルムの収縮が大きくなりすぎることを抑制することができる。その結果、フィルム間の空隙が変化してコンデンサ素子が変形を引き起こすことを防止でき、コンデンサ素子の耐電圧性能が低下することを抑制できる。135℃での第一方向の熱収縮率は、好ましくは3.0%以上、より好ましくは4.0%以上、さらに好ましくは5.0%以上である。
本実施形態において、135℃での第一方向の熱収縮率は、延伸条件等によって制御することができる。例えば、第一方向をMD方向とした場合、MD延伸倍率が高いほど、MD熱収縮率は大きくなる傾向にあり、MDの予熱・延伸・緩和工程の温度が低いほど、MD熱収縮率は大きくなる傾向にある。本明細書において、MD方向における135℃の熱収縮率をSb135と呼ぶことがある。
【0040】
前記Sb125と前記Sb135の差分(つまり、Sb125-Sb135)は、好ましくは-4.0%以上0%以下であり、より好ましくは-3.0%以上-0.1%以下であり、さらに好ましくは-2.5%以上-0.5%以下であり、特に好ましくは-2.2%以上-1.0%以下である。前記差分が上記好ましい範囲である場合、絶縁マージン形成用のオイルによって生じる温度ばらつきや、蒸発源付近を通過する際に生じる温度変化に基づく、強度のTD方向ばらつきをより十分に小さくすることができる。
【0041】
本実施形態に係る二軸延伸ポリプロピレンフィルムでは、125℃での第一方向の寸法変化率が好ましくは-2.2%以上、より好ましくは-2.0%以上である。125℃での第一方向の寸法変化率が-2.2%以上であると、高温下でコンデンサ素子として使用した際に、フィルムの収縮が大きくなりすぎることを抑制することができる。その結果、フィルム間の空隙が変化してコンデンサ素子が変形を引き起こすことを防止でき、コンデンサ素子の耐電圧性能が低下することを抑制できる。125℃での第一方向の寸法変化率は、好ましくは1.0%以下、より好ましくは0.5%以下、さらに好ましくは0.0%以下である。
本実施形態において、125℃での第一方向の寸法変化率は、延伸条件等によって制御することができる。例えば、第一方向をMD方向とした場合、MD延伸倍率が高いほど、MD寸法変化率はマイナス方向に大きくなる傾向にある(つまり、MD寸法変化率の値としては、より低くなる傾向にある)。また、例えば、第一方向をMD方向とした場合、MDの予熱・延伸・緩和工程の温度が低いほど、MD寸法変化率はマイナス方向に大きくなる傾向にある(つまり、MD寸法変化率の値としては、より低くなる傾向にある)。
前記125℃での第一方向の寸法変化率は、TMA法で測定される値であり、より詳細には実施例に記載の方法による。本明細書において、125℃での第一方向の寸法変化率をDb125と呼ぶことがある。
【0042】
本実施形態に係る二軸延伸ポリプロピレンフィルムでは、135℃での第一方向の寸法変化率が好ましくは-3.2%以上、より好ましくは-3.0%以上である。135℃での第一方向の寸法変化率が-3.2%以上であると、高温下でコンデンサ素子として使用した際に、フィルムの収縮が大きくなりすぎることを抑制することができる。その結果、フィルム間の空隙が変化してコンデンサ素子が変形を引き起こすことを防止でき、コンデンサ素子の耐電圧性能が低下することを抑制できる。135℃での第一方向の寸法変化率は、好ましくは1.0%以下、より好ましくは0.5%以下、さらに好ましくは0.0%以下である。
本実施形態において、135℃での第一方向の寸法変化率は、延伸条件等によって制御することができる。例えば、第一方向をMD方向とした場合、MD延伸倍率が高いほど、MD寸法変化率はマイナス方向に大きくなる傾向にあり、MDの予熱・延伸・緩和工程の温度が低いほど、MD寸法変化率はマイナス方向に大きくなる傾向にある。
前記135℃での第一方向の寸法変化率は、TMA法で測定される値であり、より詳細には実施例に記載の方法による。本明細書において、135℃での第一方向の寸法変化率をDb135と呼ぶことがある。
【0043】
前記Db125と前記Db135の差分(つまり、Db125-Db135)は、好ましくは0%以上1.5%以下であり、より好ましくは0.1%以上1.0%以下であり、さらに好ましくは0.2%以上0.9%以下であり、特に好ましくは0.3%以上0.8%以下である。前記差分が上記好ましい範囲である場合、絶縁マージン形成用のオイルによって生じる温度ばらつきや、蒸発源付近を通過する際に生じる温度変化に基づく、強度のTD方向ばらつきをより十分に小さくすることができる。
【0044】
本実施形態に係る二軸延伸ポリプロピレンフィルムでは、広角X線回折法を用いて測定される(040)面の結晶子サイズが好ましくは12.20nm以下、より好ましくは12.00nm以下である。結晶子サイズが小さいほど、漏れ電流が小さくなり、ジュール発熱による構造破壊が発生し難くなるため、耐熱性、耐電圧性及び長期間にわたる耐熱性及び耐電圧性が好ましく向上する。しかし、機械的強度等の観点及び高分子鎖のラメラ(折り畳み結晶)厚さを考慮すると、結晶子サイズの下限値は、通常、10.00nm、好ましくは11.00nmと考えられる。
本実施形態において、結晶子サイズは、キャスト原反を得る際の冷却条件及び延伸条件等によって制御することが出来る。キャスト温度が低いほど、結晶子サイズは小さくなる傾向にあり、延伸倍率が高いほど、結晶子サイズは小さくなる傾向にあり、延伸温度が低いほど、結晶子サイズは小さくなる傾向にある。
【0045】
本実施形態に係る二軸延伸ポリプロピレンフィルムで、実施例に記載の方法にしたがってコンデンサ素子を作製し温度限界試験をおこなったとき、静電容量の変化率が+5%以上又は-5%以下に達する時間は、好ましくは500時間以上である。
【0046】
本実施形態に係る二軸延伸ポリプロピレンフィルムで、実施例に記載の方法にしたがってコンデンサ素子を作製し電圧限界試験をおこなったとき、静電容量の変化率が+5%以上又は-5%以下に達する時間は、好ましくは500時間以上である。
【0047】
次に、以下、本実施形態に係る二軸延伸ポリプロピレンフィルムの好適な原料及び製造方法について説明する。ただし、本実施形態に係る二軸延伸ポリプロピレンフィルムの原料及び製造方法は、それぞれ、以下の記載に限定されない。
【0048】
二軸延伸ポリプロピレンフィルムは、ポリプロピレン樹脂を含む。ポリプロピレン樹脂の含有量は、二軸延伸ポリプロピレンフィルム全体に対して(二軸延伸ポリプロピレンフィルム全体を100質量%としたときに)、好ましくは90質量%以上、より好ましくは95質量%以上である。ポリプロピレン樹脂の含有量の上限は、二軸延伸ポリプロピレンフィルム全体に対して、たとえば、100質量%、98質量%などである。ポリプロピレン樹脂は、一種のポリプロピレン樹脂を単独で含むものであってもよく、二種以上のポリプロピレン樹脂を含むものであってもよい。
【0049】
ここで、二軸延伸ポリプロピレンフィルムに含まれるポリプロピレン樹脂が二種以上である場合、含有量の多い方のポリプロピレン樹脂を、本明細書では、「主成分のポリプロピレン樹脂」という。また、二軸延伸ポリプロピレンフィルムに含まれるポリプロピレン樹脂が一種である場合、当該ポリプロピレン樹脂を、本明細書では、「主成分のポリプロピレン樹脂」という。
【0050】
以下、本明細書において、主成分であるか否かを特に明記せずに「ポリプロピレン樹脂」というときは、特段の断りがない限り、主成分としてのポリプロピレン樹脂と、主成分以外のポリプロピレン樹脂との両方を意味する。たとえば、「ポリプロピレン樹脂の重量平均分子量Mwは、25万以上45万以下であることが好ましい。」と記載されている場合、主成分としてのポリプロピレン樹脂の重量平均分子量Mwが25万以上45万以下であることが好ましいことと、主成分以外のポリプロピレン樹脂の重量平均分子量Mwが25万以上45万以下であることが好ましいこととの両方を意味する。
【0051】
ポリプロピレン樹脂の重量平均分子量Mwは、25万以上45万以下であることが好ましく、25万以上40万以下であることがより好ましい。ポリプロピレン樹脂の重量平均分子量Mwが25万以上45万以下であると、樹脂流動性が適度となる。その結果、キャスト原反シートの厚みの制御が容易であり、薄い延伸フィルムを作製することが容易となる。
【0052】
ポリプロピレン樹脂の分子量分布(Mw/Mn)は、5以上12以下であることが好ましく、5以上11以下であることがより好ましく、5以上10以下であることがさらに好ましい。
【0053】
本明細書において、ポリプロピレン樹脂の重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)、および、分子量分布(Mw/Mn)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)装置を用いて測定した値である。より具体的には、東ソー株式会社製、示差屈折計(RI)内蔵型高温GPC測定機のHLC-8321GPC-HT(商品名)を使用して測定した値である。GPCカラムとして、東ソー株式会社製の1本のTSKgel guardcolumnHHR(30)HT(7.5mmI.D.×7.5cm)と3本のTSKgel GMHHR-H(20)HTを連結して使用する。カラム温度を140℃に設定して、溶離液としてトリクロロベンゼンを1.0ml/10分の流速で流して測定する東ソー株式会社製の標準ポリスチレンを用いた5次近似曲線の検量線を作成する。ただし、分子量はQ-ファクターを用いてポリプロピレンの分子量へ換算する。得られた検量線およびSECクロマトグラムより、測定装置用の解析ソフトウェアを用いて、重量平均分子量(Mw)、および、数平均分子量(Mn)を得る。
【0054】
ポリプロピレン樹脂の微分分布値差Dが、-5%以上14%以下であることが好ましく、-4%以上12%以下であることがより好ましく、-4%以上10%以下であることがさらに好ましい。ここで、「微分分布値差D」は、分子量微分分布曲線において、対数分子量Log(M)=4.5のときの微分分布値からLog(M)=6.0のときの微分分布値を引いた差である。
なお、「微分分布値差Dが、-5%以上14%以下である」とは、ポリプロピレン樹脂の有するMwの値より、低分子量側の分子量1万から10万の成分(以下、「低分子量成分」ともいう)の代表的な分布値としての対数分子量Log(M)=4.5の成分と、高分子量側の分子量100万前後の成分(以下、「高分子量成分」ともいう)の代表的な分布値としてのLog(M)=6.0前後の成分とを比較したときに、差分が正の場合は低分子量成分の方が多く、差分が負の場合は高分子量成分の方が多いと理解できる。
【0055】
つまり、分子量分布Mw/Mnが5~12であるといっても単に分子量分布幅の広さを表しているに過ぎず、その中の高分子量成分、低分子量成分の量的な関係までは分からない。そこで、安定製膜性とキャスト原反シートの厚み均一性の観点から、ポリプロピレン樹脂は、広い分子量分布を有すると同時に、低分子量成分を適度に含むようにするために分子量1万から10万の成分を、分子量100万の成分と比較して、微分分布値差が-5%以上14%以下となるようにポリプロピレン樹脂を使用することが好ましい。
【0056】
微分分布値差Dは、次のようにして得た値である。まず、上記と同様にしてSECクロマトグラムを得る。使用する測定装置に内蔵されている解析ソフトウェアを用いて、このクロマトグラムを微分分子量分布曲線へ変換する。この微分分子量分布曲線から、Log(M)=4.5及びLog(M)=6.0のときの微分分子量分布値を読む。微分分布値差Dは、Log(M)=4.5のときの微分分子量分布値からLog(M)=6.0のときの微分分子量分布値を差し引いて算出する。
【0057】
ポリプロピレン樹脂のヘプタン不溶分(HI)は、96.0%以上であることが好ましく、より好ましくは97.0%以上である。また、ポリプロピレン樹脂のヘプタン不溶分(HI)は、99.5%以下であることが好ましく、より好ましくは99.0%以下である。ここで、ヘプタン不溶分は、多いほど樹脂の立体規則性が高いことを示す。ヘプタン不溶分(HI)が、96.0%以上99.5%以下であると、適度に高い立体規則性により、樹脂の結晶性が適度に向上し、高温下での耐電圧性が向上する。一方、キャスト原反シート成形の際の固化(結晶化)の速度が適度となり、適度の延伸性を有する。
【0058】
ポリプロピレン樹脂のメソペンタッド分率([mmmm])は、94.0%以上が好ましく、94.5%以上がより好ましく、95.0%以上がさらに好ましい。また、ポリプロピレン樹脂の上記メソペンタッド分率は、98.0%未満が好ましく、97.5%以下がより好ましく、97.0%以下がさらに好ましい。このようなポリプロピレン樹脂を用いることで、適度に高い立体規則性によって樹脂の結晶性が適度に向上し、初期耐電圧性及び長期間に渡る耐電圧性が向上する。一方で、キャスト原反シートを成形する際の適度な固化(結晶化)速度によって所望の延伸性を得ることができる。
【0059】
メソペンタッド分率([mmmm])は、高温核磁気共鳴(NMR)測定によって得ることができる立体規則性の指標である。本明細書において、メソペンタッド分率([mmmm])は、日本電子株式会社製、高温型フーリエ変換核磁気共鳴装置(高温FT-NMR)、JNM-ECP500を利用して測定した値をいう。観測核は、13C(125MHz)であり、測定温度は、135℃、ポリプロピレン樹脂を溶解する溶媒にはオルト-ジクロロベンゼン(ODCB:ODCBと重水素化ODCBの混合溶媒(混合比=4/1)を用いる。高温NMRによる測定方法は、例えば、「日本分析化学・高分子分析研究懇談会編、新版 高分子分析ハンドブック、紀伊国屋書店、1995年、第610頁」に記載の方法を参照して行うことができる。
【0060】
ポリプロピレン樹脂のメルトフローレート(MFR)は、1.0~8.0g/10minであることが好ましく、1.5~7.0g/10minであることがより好ましく、2.0~6.0g/10minであることがさらに好ましい。
【0061】
ポリプロピレン樹脂は、一般的に公知の重合方法を用いて製造することができる。重合方法としては、たとえば、気相重合法、塊状重合法およびスラリー重合法を例示できる。いっぽう、ポリプロピレン樹脂として、市販品を使用することももちろん可能である。
【0062】
ポリプロピレン原料樹脂中に含まれる重合触媒残渣などに起因する総灰分は、電気特性を向上させるために可能な限り少ないことが好ましい。総灰分は、ポリプロピレン樹脂を基準(100重量部)として、50ppm以下であることが好ましく、40ppm以下であることがより好ましく、30ppm以下であることが特に好ましい。
【0063】
ポリプロピレン樹脂又はポリプロピレン樹脂組成物は、添加剤を含んでいてもよい。添加剤としては、たとえば、酸化防止剤、塩素吸収剤、紫外線吸収剤、滑剤、可塑剤、難燃化剤、帯電防止剤、核剤(例えば溶融型核剤)などが挙げられる。ポリプロピレン樹脂又はポリプロピレン樹脂組成物は、添加剤を、二軸延伸ポリプロピレンフィルムに悪影響を与えない量で含めてもよい。溶融型核剤については、ポリプロピレン樹脂又はポリプロピレン樹脂組成物中に実質的に含まないことが好ましい。
【0064】
ここからしばらくは、ポリプロピレン樹脂を2種以上使用する場合における各ポリプロピレン樹脂について説明する。
【0065】
ポリプロピレン樹脂を2種以上使用する場合、下記直鎖ポリプロピレン樹脂A-1と下記直鎖ポリプロピレン樹脂B-1、下記直鎖ポリプロピレン樹脂A-2と下記直鎖ポリプロピレン樹脂B-2、下記直鎖ポリプロピレン樹脂A-3と下記直鎖ポリプロピレン樹脂B-3、または下記直鎖ポリプロピレン樹脂A-4と下記直鎖ポリプロピレン樹脂B-4の組み合わせが好適なものとして挙げられる。本実施形態において、直鎖ポリプロピレン樹脂Aという表現は、直鎖ポリプロピレン樹脂A-1、直鎖ポリプロピレン樹脂A-2、直鎖ポリプロピレン樹脂A-3、および直鎖ポリプロピレン樹脂A-4という概念を含む。直鎖ポリプロピレン樹脂Bという表現は、直鎖ポリプロピレン樹脂B-1、直鎖ポリプロピレン樹脂B-2、直鎖ポリプロピレン樹脂B-3および直鎖ポリプロピレン樹脂B-4という概念を含む。
<直鎖ポリプロピレン樹脂A>
(直鎖ポリプロピレン樹脂A-1)
微分分布値差Dが8.0%以上である直鎖ポリプロピレン樹脂。
(直鎖ポリプロピレン樹脂A-2)
ヘプタン不溶分(HI)が98.5%以下である直鎖ポリプロピレン樹脂。
(直鎖ポリプロピレン樹脂A-3)
230℃におけるメルトフローレート(MFR)が4.0g/10min以上10.0g/10min以下である直鎖ポリプロピレン樹脂。
(直鎖ポリプロピレン樹脂A-4)
重量平均分子量(Mw)が25万以上34.5万未満である直鎖ポリプロピレン樹脂。
<直鎖ポリプロピレン樹脂B>
(直鎖ポリプロピレン樹脂B-1)
微分分布値差Dが8.0%未満である直鎖ポリプロピレン樹脂。
(直鎖ポリプロピレン樹脂B-2)
ヘプタン不溶分(HI)が98.5%を超える直鎖ポリプロピレン樹脂。
(直鎖ポリプロピレン樹脂B-3)
230℃におけるメルトフローレート(MFR)が0.1g/10min以上4.0g/10min未満である直鎖ポリプロピレン樹脂。
(直鎖ポリプロピレン樹脂B-4)
重量平均分子量(Mw)が34.5万以上45万以下である直鎖ポリプロピレン樹脂。
【0066】
本実施形態において、直鎖ポリプロピレン樹脂Aが、主成分のポリプロピレン樹脂であってもよく、直鎖ポリプロピレン樹脂Bが、主成分のポリプロピレン樹脂であってもよいが、直鎖ポリプロピレン樹脂Aが、主成分のポリプロピレン樹脂であることが好ましい。
【0067】
直鎖ポリプロピレン樹脂Aの重量平均分子量Mwは、25万以上45万以下であることが好ましく、25万以上40万以下であることがより好ましく、25万以上34.5万未満であることがさらに好ましい。直鎖ポリプロピレン樹脂Aの重量平均分子量Mwが25万以上45万以下であると、樹脂流動性が適度となる。その結果、キャスト原反シートの厚みの制御が容易であり、薄い二軸延伸ポリプロピレンフィルムを作製することが容易となる。また、キャスト原反シートおよび二軸延伸ポリプロピレンフィルムの厚みにムラが発生し難くなり、適度な延伸性が得られるので好ましい。
【0068】
直鎖ポリプロピレン樹脂Aの分子量分布Mw/Mnは、8.5以上12.0以下であることが好ましく、8.5以上11.0以下であることがより好ましく、9.0以上11.0以下であることがさらに好ましい。
【0069】
直鎖ポリプロピレン樹脂Aの分子量分布Mw/Mnが上記好ましい範囲内であると、キャスト原反シートおよび二軸延伸ポリプロピレンフィルムの厚みにムラが発生し難くなり、適度な延伸性が得られるので好ましい。
【0070】
直鎖ポリプロピレン樹脂Aの微分分布値差Dは、8.0%以上が好ましく、8.0%以上18.0%以下であることがより好ましく、9.0%以上17.0%以下であることがさらに好ましく、10.0%以上16.0%以下であることが特に好ましい。
【0071】
微分分布値差Dが、8.0%以上18.0%以下である場合、低分子量成分を、高分子量成分と比較すると、8.0%以上18.0%以下の割合で多く含む。したがって、本実施形態における二軸延伸ポリプロピレンフィルムの表面を得やすくなり、好ましい。
【0072】
直鎖ポリプロピレン樹脂Aのヘプタン不溶分(HI)は、96.0%以上であることが好ましく、より好ましくは97.0%以上である。また、直鎖ポリプロピレン樹脂Aのヘプタン不溶分(HI)は、99.5%以下であることが好ましく、より好ましくは98.5%以下であり、さらに好ましくは98.0%以下である。
【0073】
直鎖ポリプロピレン樹脂Aの230℃におけるメルトフローレート(MFR)は、1.0~15.0g/10minであることが好ましく、2.0~10.0g/10minであることがより好ましく、4.0~10.0g/10minであることがさらに好ましく、4.3~6.0g/10minが特に好ましい。直鎖ポリプロピレン樹脂Aの230℃におけるMFRが上記範囲内である場合、熔融状態での流動特性に優れるため、メルトフラクチャーといった不安定流動が発生しにくく、また、延伸時の破断も抑えられる。したがって、膜厚均一性が良好であるため、絶縁破壊の起こりやすい薄肉部の形成が抑制されるという利点がある。
【0074】
直鎖ポリプロピレン樹脂Aの含有率は、二軸延伸ポリプロピレンフィルム全体に対して55質量%以上90質量%以下であることが好ましく、60質量%以上85質量%以下であることがより好ましく、60質量%以上80質量%以下であることがさらに好ましい。
【0075】
直鎖ポリプロピレン樹脂Bの重量平均分子量Mwは、30万以上40万以下であることが好ましく、33万以上38万以下であることがより好ましく、35万以上38万以下であることがさらに好ましい。また、直鎖ポリプロピレン樹脂樹脂Bの重量平均分子量Mwは、34.5万以上45万以下であることも好ましい。
【0076】
直鎖ポリプロピレン樹脂Bの分子量分布Mw/Mnは、6.0以上8.5未満であることが好ましく、6.5以上8.4以下であることがより好ましく、7.0以上8.3以下であることがさらに好ましい。
【0077】
直鎖ポリプロピレン樹脂Bの分子量分布Mw/Mnが上記好ましい範囲内であると、キャスト原反シートおよび二軸延伸ポリプロピレンフィルムの厚みにムラが発生し難くなり、適度な延伸性が得られるので好ましい。
【0078】
直鎖ポリプロピレン樹脂Bの微分分布値差Dは、8.0%未満であることが好ましく、-20.0%以上8.0%未満であることがより好ましく、-10.0%以上7.9%以下であることがさらに好ましく、-5.0%以上7.5%以下であることが特に好ましい。
【0079】
直鎖ポリプロピレン樹脂Bのヘプタン不溶分(HI)は、97.5%以上であることが好ましく、より好ましくは98%以上であり、さらに好ましくは98.5%超えであり、特に好ましくは98.6%以上である。また、直鎖ポリプロピレン樹脂Bのヘプタン不溶分(HI)は、99.5%以下であることが好ましく、より好ましくは99%以下である。
【0080】
直鎖ポリプロピレン樹脂Bの230℃におけるメルトフローレート(MFR)は、0.1~6.0g/10minであることが好ましく、0.1~5.0g/10minであることがより好ましく、0.1以上g/10min4.0g/10min未満であることがさらに好ましく、0.1g/10min以上3.9g/10min以下が特に好ましい。
【0081】
ポリプロピレン樹脂として直鎖ポリプロピレン樹脂Bを使用する場合、直鎖ポリプロピレン樹脂Bの含有率は、ポリプロピレン樹脂を100質量%とすると、10質量%以上45質量%以下であることが好ましく、15質量%以上40質量%以下であることがより好ましく、20質量%以上40質量%以下であることがさらに好ましい。
【0082】
ポリプロピレン樹脂として、直鎖ポリプロピレン樹脂Aと直鎖ポリプロピレン樹脂Bとを併用する場合、ポリプロピレン樹脂全体を100質量%とすると、55~90重量%の直鎖ポリプロピレン樹脂Aと、45~10重量%の直鎖ポリプロピレン樹脂Bとを含むことが好ましく、60~85重量%の直鎖ポリプロピレン樹脂Aと、40~15重量%の直鎖ポリプロピレン樹脂Bと含むことがより好ましく、60~80重量%の直鎖ポリプロピレン樹脂Aと、40~20重量%の直鎖ポリプロピレン樹脂Bとを含むことが特に好ましい。
【0083】
ポリプロピレン樹脂が、直鎖ポリプロピレン樹脂Aと直鎖ポリプロピレン樹脂Bとを含む場合、二軸延伸ポリプロピレンフィルムは、直鎖ポリプロピレン樹脂Aと直鎖ポリプロピレン樹脂Bとの微細混合状態(相分離状態)となるため、高温での耐電圧性が向上する。
【0084】
以上の説明が、ポリプロピレン樹脂を2種以上使用する場合における各ポリプロピレン樹脂についての説明である。
【0085】
二軸延伸ポリプロピレンフィルムは、ポリプロピレン樹脂以外の他の樹脂(以下「他の樹脂」ともいう)を含んでもよい。他の樹脂としては、ポリエチレン、ポリ(1-ブテン)、ポリイソブテン、ポリ(1-ペンテン)、ポリ(1-メチルペンテン)などのポリプロピレン以外のポリオレフィン;エチレン-プロピレン共重合体、プロピレン-ブテン共重合体、エチレン-ブテン共重合体などのα-オレフィン同士の共重合体;スチレン-ブタジエンランダム共重合体などのビニル単量体-ジエン単量体ランダム共重合体;スチレン-ブタジエン-スチレン ブロック共重合体などのビニル単量体-ジエン単量体-ビニル単量体ランダム共重合体などが挙げられる。二軸延伸ポリプロピレンフィルムは、このような他の樹脂を、二軸延伸ポリプロピレンフィルムに悪影響を与えない範囲の量で含めてよい。なお、二軸延伸ポリプロピレンフィルムには、この他の樹脂を実質的には含まないことが好ましい。
【0086】
二軸延伸ポリプロピレンフィルムを製造するための延伸前のキャスト原反シートは、次のようにして好適に作製することができる。ただし、本開示の二軸延伸ポリプロピレンフィルムの製造方法は、以下の記載の方法に限定されない。
【0087】
まず、ポリプロピレン樹脂組成物(一例として、ポリプロピレン樹脂ペレット、ドライ混合されたポリプロピレン樹脂ペレット、または、予め溶融混練して作製した混合ポリプロピレン樹脂ペレットなど)を押出機に供給して、加熱溶融する。
加熱溶融時の押出機設定温度は、220℃~280℃が好ましく、230℃~270℃がより好ましい。また、加熱溶融時の樹脂温度は、220℃~280℃が好ましく、230℃~270℃がより好ましい。加熱溶融時の樹脂温度は、押出機に挿入された温度計にて測定される値である。
なお、加熱溶融時の押出機設定温度、樹脂温度は、使用するポリプロピレン樹脂の物性を考慮して選択する。なお、加熱溶融時の樹脂温度をそのような数値範囲内にすることにより、樹脂の劣化を抑制することもできる。
【0088】
次に、Tダイを用いて溶融樹脂組成物をシート状に押し出し、少なくとも1個以上の金属ドラムで、冷却、固化させることで、未延伸のキャスト原反シートを成形する。
金属ドラムの表面温度(押し出し後、最初に接触する金属ドラムの温度)は、50℃~100℃であることが好ましく、より好ましくは、90℃~100℃である。金属ドラムの表面温度は、使用するポリプロピレン樹脂の物性などに応じて決定することができる。金属ドラムの表面温度が上記好ましい範囲内に対して高すぎるか又は低すぎると、ポリプロピレンフィルムの表面粗化の程度に影響が生じるおそれがあるので、コンデンサ素子のヒーリング性(保安性)が低下し、コンデンサ素子の耐電圧性が低下するおそれがある。
【0089】
二軸延伸ポリプロピレンフィルムは、キャスト原反シートに二軸延伸処理を行って製造することができる。二軸延伸方法としては逐次二軸延伸方法が好ましい。
【0090】
逐次二軸延伸方法では、たとえば、キャスト原反シートを、MD延伸ロール群の上流に位置するMD予熱ロール群で予熱し、次に予熱されたキャスト原反シートをMD延伸ロール群でMD方向に延伸し、次にMD方向に延伸されたシートをMD延伸ロール群の下流に位置するMD緩和ロール群で緩和し、テンターでTD方向に延伸することができる。以下、MD方向に延伸することをMD延伸や縦延伸ということがあり、TD方向に延伸することをTD延伸や横延伸ということがある。
【0091】
MD予熱ロール群のうち、もっとも上流の予熱ロール、すなわち一段目の予熱ロールの温度は、二段目以降の予熱ロールの温度よりも低いことが好ましく、たとえば60℃~95℃が好ましく、75℃~95℃がより好ましい。一段目の予熱ロールの温度が上記好ましい範囲に対して高すぎるか又は低すぎると、キャスト原反シートと一段目予熱ロールとの間への局所的なエアーの巻き込みが生じるおそれがあり、シートの平面性に影響が生じるおそれがある。
【0092】
二段目以降の予熱ロールの温度は115℃~138℃が好ましく、120℃~138℃がより好ましい。二段目以降の予熱ロールの温度が高いほど、引張破壊応力差(σb125-σb135)が小さくなる傾向がある。二段目以降の予熱ロールの温度が高すぎると、135℃の引張破壊応力を70MPa以上に調整することや、引張破壊応力差(σb125-σb135)を0MPa以上15MPa以下に調整することが難しい。二段目以降の予熱ロールの温度が低すぎると、引張破壊応力差(σb125-σb135)を0MPa以上15MPa以下に調整することが難しい。
【0093】
MD予熱ロール群との密着時間は5秒~10秒が好ましい。密着時間が長いほど、引張破壊応力差(σb125-σb135)が小さくなる傾向がある。密着時間が長すぎると、135℃の引張破壊応力を70MPa以上に調整することや、引張破壊応力差(σb125-σb135)を0MPa以上15MPa以下に調整することが難しい。密着時間が短すぎると、引張破壊応力差(σb125-σb135)を0MPa以上15MPa以下に調整することが難しい。MD予熱ロール群との密着時間は、キャスト原反シートにおける任意の箇所が、MD予熱ロール群を構成するMD予熱ロールと実際に密着する時間の長さをいい、隣接するMD予熱ロールの間で、いずれのMD予熱ロールにも密着していない時間は含まない。
【0094】
MD延伸ロール群の温度は130℃~150℃が好ましい。MD延伸ロール群の温度が高いほど、引張破壊応力差(σb125-σb135)が小さくなる傾向がある。MD延伸ロール群の温度が高すぎると、135℃の引張破壊応力を70MPa以上に調整することや、引張破壊応力差(σb125-σb135)を0MPa以上15MPa以下に調整することが難しい。MD延伸ロール群の温度が低すぎると、引張破壊応力差(σb125-σb135)を0MPa以上15MPa以下に調整することが難しい。
【0095】
MD延伸ロール群との密着時間は1秒~2秒が好ましい。密着時間が長いほど、引張破壊応力差(σb125-σb135)が小さくなる傾向がある。密着時間が長すぎると、135℃の引張破壊応力を70MPa以上に調整することや、引張破壊応力差(σb125-σb135)を0MPa以上15MPa以下に調整することが難しい。密着時間が短すぎると、引張破壊応力差(σb125-σb135)を0MPa以上15MPa以下に調整することが難しい。MD延伸ロール群との密着時間は、キャスト原反シートにおける任意の箇所が、MD延伸ロール群を構成するMD延伸ロールと実際に密着する時間の長さをいい、隣接するMD延伸ロールの間で、いずれのMD延伸ロールにも密着していない時間は含まない。
【0096】
MD延伸倍率は4.5倍~6.0倍が好ましい。MD延伸倍率を高くするほど、135℃の引張破壊応力(σb135)が高くなり、引張破壊応力差(σb125-σb135)が大きくなる傾向がある。MD延伸倍率が高すぎると、MD延伸後のポリプロピレンフィルムの配向が高くなり過ぎてTD延伸工程で延伸破断が発生することがある。MD延伸倍率が低すぎると、135℃の引張破壊応力を70MPa以上に調整することが難しい。
【0097】
MD緩和ロール群の温度は120℃~128℃が好ましい。MD緩和ロール群の温度が高いほど、引張破壊応力差(σb125-σb135)が小さくなる傾向がある。MD緩和ロール群の温度が高すぎると第一方向における135℃の引張破壊応力を70MPa以上に調整することが難しい。MD緩和ロール群の温度が低すぎると高温下における第一方向の熱収縮率及び寸法変化率が大きくなり、フィルム間の空隙が変化してコンデンサ素子が変形を引き起こし、コンデンサ素子の耐電圧性能が低下することがある。
【0098】
MD緩和ロール群との密着時間は1秒~2秒が好ましい。密着時間が長いほど、引張破壊応力差(σb125-σb135)が小さくなる傾向がある。密着時間が短すぎると、引張破壊応力差(σb125-σb135)を0MPa以上15MPa以下に調整することが難しい。密着時間が長すぎると、135℃の引張破壊応力を70MPa以上に調整することが難しい。MD緩和ロール群との密着時間は、キャスト原反シートにおける任意の箇所が、MD緩和ロール群を構成するMD緩和ロールと実際に密着する時間の長さをいい、隣接するMD緩和ロールの間で、いずれのMD緩和ロールにも密着していない時間は含まない。
【0099】
MD緩和ロール群を経たMD延伸後のポリプロピレンフィルムを、テンターに導いて155℃~170℃で、3倍~11倍にTD延伸することが好ましい。
【0100】
TD延伸後のポリプロピレンフィルムに緩和、熱固定を施す。以上により、二軸延伸ポリプロピレンフィルムが得られる。
【0101】
二軸延伸ポリプロピレンフィルムには、蒸着工程などの後工程における接着特性を高める目的で、延伸および熱固定工程終了後に、オンラインまたはオフラインにてコロナ放電処理を行ってもよい。コロナ放電処理は、公知の方法を用いて行うことができる。雰囲気ガスとして空気、炭酸ガス、窒素ガス、または、これらの混合ガスを用いて行うことが好ましい。
【0102】
二軸延伸ポリプロピレンフィルムの片面に、絶縁マージンのパターンに対応するパターンのオイルを塗布して絶縁マージン用オイルマスクを形成し、これに金属蒸着を施し、スリット前金属化フィルムを得る。絶縁マージン用オイルマスクは、二軸延伸ポリプロピレンフィルムの絶縁マージンとなる部分に、金属蒸着で金属粒子が付着するのを防止するためのものである。絶縁マージン用オイルマスクは、オイルタンクに貯蔵している、絶縁マージン形成用のオイルを気化してタンクに設けたノズルより、オイルを、二軸延伸ポリプロピレンフィルムに吹き付けることで形成することができる。オイルは、100℃~150℃で二軸延伸ポリプロピレンフィルムに向かって吹き出される。絶縁マージン用オイルマスク形成後の二軸延伸ポリプロピレンフィルムを蒸発源と冷却ロールとの間に通過させ、金属層を形成する。蒸発源では、金属蒸着のための金属が、通常600℃以上に熱され蒸発させられる。金属の蒸気が、絶縁マージン用オイルマスク形成後の二軸延伸ポリプロピレンフィルムの両面うち、絶縁マージン用オイルマスクが形成された面に向かって放たれる。冷却ロールは、通常、-30℃~-20℃に維持することができる。金属蒸着で使用する金属として、亜鉛、鉛、銀、クロム、アルミニウム、銅、ニッケルなどの金属単体、それらの複数種の混合物、それらの合金などを挙げることができる。なお、金属層のアクティブ部にマージンパターンを設ける場合は、絶縁マージン用オイルマスク形成と金属蒸着との間に、すなわち絶縁マージン用オイルマスク形成後かつ金属蒸着前に、パターン用オイルマスクを、二軸延伸ポリプロピレンフィルムの両面うち、絶縁マージン用オイルマスクが形成された面に形成することができる。パターン用オイルマスクは、通常、版ロールで形成される。パターン用オイルマスクを形成するためのオイルの温度は、絶縁マージン用オイルマスクを形成するためのそれよりも低い。パターン用オイルマスクを形成するためのオイルはたとえば室温(一例として40℃以下)で、二軸延伸ポリプロピレンフィルムに塗り付けられる。
【0103】
このようにして得られたスリット前金属化フィルムと、スリット前金属化フィルムを分割して得られる金属化フィルムとを、ここからは図面を参照しながら説明する。
【0104】
図3に示すように、スリット前金属化フィルム6は、MD方向D1に連続で延びる複数の絶縁マージン21と、MD方向D1に連続で延びる金属層300とを含む。スリット前金属化フィルム6では、絶縁マージン21と金属層300とがTD方向D2で交互に並んでいる。各金属層300は、二つのアクティブ部32と、これらアクティブ部32の間に位置するヘビーエッジ部31とを含む。すなわち、各金属層300においては、TD方向D2で、第一のアクティブ部32、ヘビーエッジ部31、第二のアクティブ部32がこの順で並んでいる。このように、ヘビーエッジ部31のTD方向D2の一方の端から、第一のアクティブ部32がTD方向D2に延び、ヘビーエッジ部31のTD方向D2の他方の端から、第二のアクティブ部32がTD方向D2に延びている。第一および第二のアクティブ部32は、MD方向D1に連続で延びる。ヘビーエッジ部31も、MD方向D1に連続で延びる。なお、図3に示す例では、スリット前金属化フィルム6におけるTD方向D2の両端に絶縁マージン21が設けられているものの、この両端、またはこの両端のうちの一方に、金属層300が設けられていてもよい。第一および第二のアクティブ部32には、マージンパターンが形成されていてもよい(図示していない)。
【0105】
スリット前金属化フィルム6のスリット工程では、各絶縁マージン21におけるTD方向D2で中央(以下、「TD方向中央」ということがある。)と、各ヘビーエッジ部31のTD方向中央とに切断刃を入れ、スリット前金属化フィルム6をTD方向D2に複数に分割し、金属化フィルム5(図1・2参照)をコアに巻き取る。切断刃の位置と切断方向との一例が、図3で、棒状の矢印によって示されている。金属化フィルムは、ロール状に巻いてなる金属化フィルムロールの形態で保管されていてもよい。金属化フィルムロール(単にフィルムロールともいう)は、巻き芯(コア)を有していてもよいし、有していなくてもよい。金属化フィルムロールは、巻き芯(コア)を有することが好ましい。巻き芯は、円筒状であることが好ましい。金属化フィルムロールの巻き芯の材質としては特に限定されない。前記材質としては、紙(紙管)、樹脂、繊維強化プラスチック(FRP)、金属等が挙げられる。前記樹脂としては、一例として、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体等が挙げられる。繊維強化プラスチックを構成するプラスチックとしては、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ビニルエステル樹脂、フェノール樹脂、熱可塑性樹脂等が挙げられる。繊維強化プラスチックを構成する繊維としては、ガラス繊維、アラミド繊維(ケブラー(登録商標)繊維)、カーボン繊維、ポリパラフェニレンベンズオキサゾール繊維(ザイロン(登録商標)繊維)、ポリエチレン繊維、ボロン繊維等が挙げられる。前記金属としては、鉄、アルミニウム、ステンレス等が挙げられる。金属化フィルムロールの巻き芯は、前記樹脂を紙管に含浸させてなる巻き芯も包含する。この場合、前記巻き芯の材質は樹脂として分類される。
【0106】
図1および図2に示すように、このようにして得られた金属化フィルム5は、二軸延伸ポリプロピレンフィルム10と、二軸延伸ポリプロピレンフィルム10の片面に設けられた金属層30とを備える。金属層30の厚みは、1nm~200nmに収まることが好ましい。
【0107】
金属化フィルム5では、TD方向D2における一方の端部51に、MD方向D1で連続で延びる絶縁マージン21が設けられている。絶縁マージン21の長さは、絶縁マージン21の幅に対して大きい。
【0108】
絶縁マージン21のTD方向D2で横には金属層30が位置している。金属層30は、TD方向D2における他方の端部52から絶縁マージン21まで延びている。図示していないものの、金属層30は、金属化フィルム5におけるMD方向D1の両端間を連続で延びている。つまり、金属層30は、金属化フィルム5におけるMD方向D1の一方の端部から、金属化フィルム5におけるMD方向D1の他方の端部まで連続で延びている。金属層30の幅は、絶縁マージン21の幅とくらべて大きい。たとえば、金属層30の幅は、絶縁マージン21の幅に対して1.5倍~300倍であることが好ましい。ここで、金属層30の幅は、マージンパターンを無視して測定する値をいう。
【0109】
金属化フィルム5の金属層30は、ヘビーエッジ部31を含む。ヘビーエッジ部31は、金属化フィルム5におけるTD方向D2の端部52に位置している。ヘビーエッジ部31は、MD方向D1に連続で延びている。より詳しくは、ヘビーエッジ部31は、金属化フィルム5におけるMD方向D1の両端間を連続で延びている。つまり、ヘビーエッジ部31は、金属化フィルム5におけるMD方向D1の一方の端部から、金属化フィルム5におけるMD方向D1の他方の端部まで連続で延びている。ヘビーエッジ部31の厚みは、アクティブ部32の厚みにくらべて大きい。
【0110】
金属化フィルム5の金属層30は、アクティブ部32を含む。アクティブ部32は、MD方向D1に連続で延びている。より詳しくは、アクティブ部32は、金属化フィルム5におけるMD方向D1の両端間を連続で延びている。つまり、アクティブ部32は、金属化フィルム5におけるMD方向D1の一方の端部から、金属化フィルム5におけるMD方向D1の他方の端部まで連続で延びている。アクティブ部32には、マージンパターン、たとえばTマージンパターンなどが形成されていてもよい。金属層30の膜抵抗は通常1Ω/□~8Ω/□程度であり、1Ω/□~5Ω/□程度であることが好ましい。
【0111】
金属化フィルム5は、従来公知の方法で積層するか、巻回してフィルムコンデンサとすることができる。たとえば、金属化フィルム5における金属層30と二軸延伸ポリプロピレンフィルム10とが交互に積層されるように、さらには、絶縁マージン21が逆サイドとなるように、2枚1対の金属化フィルム5を重ね合わせて巻回する。この際、2枚1対の金属化フィルム5をTD方向D2に1mm~2mmずらして積層することが好ましい。用いる巻回機は特に制限されず、たとえば、株式会社皆藤製作所製の自動巻取機3KAW-N2型などを利用することができる。扁平型コンデンサを作製する場合、巻回後、通常、得られた巻回物に対してプレスが施される。プレスによってフィルムコンデンサの巻締まり・コンデンサ素子成形を促す。層間ギャップの制御・安定化を施す点から、与える圧力は、二軸延伸ポリプロピレンフィルム10の厚みなどによってその最適値は変わるが、たとえば2kg/cm~20kg/cmである。プレスに続いて、巻回物の両端面に金属を溶射してメタリコン電極を設け、フィルムコンデンサを得る。
【0112】
このように、フィルムコンデンサは、金属化フィルム5が複数積層された構成を有していてもよいし、巻回された金属化フィルム5を有していてもよい。このようなフィルムコンデンサは、電気自動車やハイブリッド自動車などの駆動モーターを制御するインバーター電源機器用コンデンサなどに好適に使用することができる。また、鉄道車両用、風力発電用、太陽光発電用、一般家電用などにおいても好適に使用することができる。
【0113】
図1~2では、二軸延伸ポリプロピレンフィルム10の片面に金属層30が設けられた金属化フィルム5を説明したものの、本発明の金属化フィルムが、このような構造の金属化フィルム5に限られないことはもちろんである。たとえば、本発明の金属化フィルムは、二軸延伸ポリプロピレンフィルムの両面に金属層が設けられていてもよい。
【0114】
本実施形態では、ヘビーエッジ部を有する金属化フィルムを説明したものの、金属化フィルムがヘビーエッジ部を有さなくともよいことはもちろんである。
【実施例
【0115】
次に、本発明を実施例によってさらに具体的に説明するが、これらの例は本発明を説明するためのものであり、本発明を何ら限定するものではない。また、特に断らない限り、例中の「部」および「%」はそれぞれ「質量部」および「質量%」を示す。
【0116】
<PP樹脂>
各例の二軸延伸ポリプロピレンフィルムを作製するために使用したPP樹脂Aはプライムポリマー社製であり、PP樹脂Bは大韓油化社製である。PP樹脂AおよびPP樹脂Bは直鎖状のホモポリプロピレンである。
【0117】
<重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)、および、分子量分布(Mw/Mn)の測定>
GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)を用い、以下の条件で、PP樹脂の重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)、および、分子量分布(Mw/Mn)を測定した。
具体的には、東ソー株式会社製、示差屈折計(RI)内蔵高温GPC装置であるHLC-8321GPC-HT型を使用した。カラムとして、東ソー株式会社製の1本のTSKgel guardcolumnHHR(30)HT(7.5mmI.D.×7.5cm)と3本のTSKgel GMHHR-H(20)HTを連結して使用した。140℃のカラム温度で、溶離液としてトリクロロベンゼンを、1.0ml/minの流速で流して測定した。東ソー株式会社製の標準ポリスチレンを用いた5次近似曲線の検量線を作成した。ただし、分子量はQ-ファクターを用いてポリプロピレンの分子量へ換算した。得られた検量線およびSECクロマトグラムより、測定装置用の解析ソフトウェアを用いて、重量平均分子量(Mw)、および、数平均分子量(Mn)を得た。
【0118】
<微分分布値差Dの測定>
微分分布値差Dは、次のような方法で得た。まず、上記と同様にしてSECクロマトグラムを得た。使用した測定装置に内蔵されている解析ソフトウェアを用いて、このクロマトグラムを微分分子量分布曲線へ変換した。この微分分子量分布曲線から、Log(M)=4.5及びLog(M)=6.0のときの微分分子量分布値を読んだ。微分分布値差Dは、Log(M)=4.5のときの微分分子量分布値からLog(M)=6.0のときの微分分子量分布値を差し引いて算出した。
【0119】
<メソペンタッド分率([mmmm])の測定>
PP樹脂を溶媒に溶解し、高温型フーリエ変換核磁気共鳴装置(高温FT-NMR)を用いて、以下の条件で測定した。
高温型核磁気共鳴(NMR)装置:日本電子株式会社製、高温型フーリエ変換核磁気共鳴装置(高温FT-NMR)、JNM-ECP500
観測核:13C(125MHz)
測定温度:135℃
溶媒:オルト-ジクロロベンゼン(ODCB:ODCBと重水素化ODCBの混合溶媒(混合比=4/1))
測定モード:シングルパルスプロトンブロードバンドデカップリング
パルス幅:9.1μsec(45°パルス)
パルス間隔:5.5sec
積算回数:4,500回
シフト基準:CH(mmmm)=21.7ppm
立体規則性度を表すペンタッド分率は、同方向並びの連子「メソ(m)」と異方向の並びの連子「ラセモ(r)」の5連子(ペンタッド)の組み合わせ(mmmmやmrrm等)に由来する各シグナルの強度積分値より、百分率(%)で算出した。mmmmやmrrm等に由来する各シグナルの帰属に関し、たとえば、「T.Hayashi et al.,Polymer,29巻,138頁(1988)」等のスペクトルの記載を参考とした。
【0120】
<ヘプタン不溶分(HI)の測定>
各PP樹脂について、10mm×35mm×0.3mmにプレス成形して約3gの測定用サンプルを作製した。次に、ヘプタン約150mLを加えてソックスレー抽出を8時間行った。抽出前後の試料質量よりヘプタン不溶分を算出した。
【0121】
<メルトフローレート(MFR)の測定>
各PP樹脂について原料樹脂ペレットの形態でのメルトフローレート(MFR)を、東洋精機株式会社のメルトインデックサを用いてJIS K 7210の条件Mに準じて測定した。具体的には、まず、試験温度230℃にしたシリンダ内に、4gに秤りとった試料を挿入し、2.16kgの荷重下で3.5分予熱した。その後、30秒間で底穴より押出された試料の重量を測定し、MFR(g/10min)を求めた。上記の測定を3回繰り返し、その平均値をMFRの測定値とした。
【0122】
<実施例1>
[キャスト原反シートの作製]
PP樹脂A〔Mw=32万、Mw/Mn=9.3、微分分布値差D=11.2、メソペンタッド分率[mmmm]=95%、HI=97.3%、MFR=4.9g/10min、プライムポリマー社製〕と、PP樹脂B〔Mw=35万、Mw/Mn=7.7、微分分布値差D=7.2、メソペンタッド分率[mmmm]=96.5%、HI=98.6%、MFR=3.8g/10min、大韓油化社製〕とを、(樹脂A):(樹脂B)=60:40の比で連続的に計量し混合したドライブレンド体を押出機へ供給し、樹脂温度255℃で溶融した後、Tダイを用いて押出し、表面温度を95℃に保持した金属ドラムに巻きつけて固化させてキャスト原反シートを作製した。
[二軸延伸ポリプロピレンフィルムの作製]
キャスト原反シートをMD予熱ロール群で予熱し、次いでMD延伸ロール群でMD方向に延伸し、次いでMD緩和ロール群で緩和した。これを、テンターで、163℃で10倍にTD方向に延伸し、緩和および熱固定を施し、厚み2.3μmの二軸延伸ポリプロピレンフィルムを巻き取った。
MD延伸倍率は4.5倍、一段目の予熱ロールの温度は85℃、二段目以降の予熱ロールの温度は130℃、MD延伸ロール群の温度は146℃、MD緩和ロール群の温度は125℃、MD予熱ロール群との密着時間は7.4秒、MD延伸ロール群との密着時間は1.1秒、MD緩和ロール群との密着時間は1.1秒であった。
[スリット前金属化フィルムの作製]
二軸延伸ポリプロピレンフィルムを繰り出し、二軸延伸ポリプロピレンフィルムに絶縁マージン用オイルマスクを形成した。次に、絶縁マージン用オイルマスクが形成された二軸延伸ポリプロピレンフィルムに対して、電極パターンに対応するパターンを有するパターン用オイルマスクを形成した。次に、パターン用オイルマスクが形成された二軸延伸ポリプロピレンフィルムに対して、金属蒸着を行った。金属蒸着後の二軸延伸ポリプロピレンフィルムを巻き芯であるベークライトコア(芯)に巻き取った。このようにして、スリット前金属化フィルムのロールを得た。
前記絶縁マージン用オイルマスクを形成するために、二軸延伸ポリプロピレンフィルムの両面のうちの一方の面に、120℃程度のフォンブリンオイルの蒸気をノズルスリットで吹き付けた。絶縁マージン用オイルマスクは、二軸延伸ポリプロピレンフィルム全面に対してストライプ状に形成された(図3参照)。
前記パターン用オイルマスクについては、版ロールを用いて形成した。パターン用オイルマスクについては、二軸延伸ポリプロピレンフィルム全面のうち、絶縁マージン用オイルマスクが形成されていない領域に対して金属蒸着電極の電極パターンに概ね対応するパターンで形成した。
前記金属蒸着では、まずアルミニウムを蒸着した。アルミニウムの蒸着は、二軸延伸ポリプロピレンフィルムの両面のうち、絶縁マージン用オイルマスクとパターン用オイルマスクとが形成された面(以下、「オイルマスク形成面」という。)の全体に対して行われた。次いで、ヘビーエッジ部を形成するために亜鉛を蒸着した。亜鉛は、オイルマスク形成面において、ヘビーエッジ部を形成しようとする領域を狙って蒸着した。金属蒸着は、二軸延伸ポリプロピレンフィルムを、-24℃に維持された冷却ロールで冷却しながら行った。このようにして、冷却ロールと金属蒸着の蒸発源との間に二軸延伸ポリプロピレンフィルムを通過させ、アルミニウムを蒸着し、亜鉛を蒸着した。
【0123】
<実施例2>
二軸延伸条件を変更したこと以外は、実施例1と同じ方法で二軸延伸ポリプロピレンフィルム、及び、スリット前金属化フィルムを作製した。具体的には、MD延伸倍率を4.5倍に代えて4.6倍とし、MD予熱ロール群との密着時間を7.4秒に代えて7.8秒としたこと以外は、実施例1と同じ条件でスリット前金属化フィルムを作製した。MD予熱ロール群との密着時間に関する前記変更は、キャスト速度を実施例1から変更することでおこなった。
【0124】
<実施例3>
二軸延伸条件を変更したこと以外は、実施例1と同じ方法で二軸延伸ポリプロピレンフィルム、及び、スリット前金属化フィルムを作製した。具体的には、MD延伸倍率を4.5倍に代えて4.8倍とし、MD予熱ロール群との密着時間を7.4秒に代えて8.1秒としたこと以外は、実施例1と同じ条件でスリット前金属化フィルムを作製した。MD予熱ロール群との密着時間に関する前記変更は、キャスト速度を実施例1から変更することでおこなった。
【0125】
<実施例4>
二軸延伸条件を変更したこと以外は、実施例1と同じ方法で二軸延伸ポリプロピレンフィルム、及び、スリット前金属化フィルムを作製した。具体的には、MD延伸倍率を4.5倍に代えて5.0倍とし、MD予熱ロール群との密着時間を7.4秒に代えて8.4秒としたこと以外は、実施例1と同じ条件でスリット前金属化フィルムを作製した。MD予熱ロール群との密着時間に関する前記変更は、キャスト速度を実施例1から変更することでおこなった。
【0126】
<実施例5>
二軸延伸条件を変更したこと以外は、実施例1と同じ方法で二軸延伸ポリプロピレンフィルム、及び、スリット前金属化フィルムを作製した。具体的には、MD延伸倍率を4.5倍に代えて4.6倍とし、二段目以降の予熱ロールの温度を130℃に代えて125℃とし、MD延伸ロール群の温度を146℃に代えて135℃とし、MD予熱ロール群との密着時間を7.4秒に代えて5.5秒としたこと以外は、実施例1と同じ条件でスリット前金属化フィルムを作製した。MD予熱ロール群との密着時間に関する前記変更は、キャスト速度を実施例1から変更することでおこなった。
【0127】
<実施例6>
二軸延伸条件を変更したこと以外は、実施例1と同じ方法で二軸延伸ポリプロピレンフィルム、及び、スリット前金属化フィルムを作製した。具体的には、MD延伸倍率を4.5倍に代えて4.6倍とし、MD延伸ロール群の温度を146℃に代えて143℃とし、MD予熱ロール群との密着時間を7.4秒に代えて7.5秒としたこと以外は、実施例1と同じ条件でスリット前金属化フィルムを作製した。MD予熱ロール群との密着時間に関する前記変更は、キャスト速度を実施例1から変更することでおこなった。
【0128】
<実施例7>
二軸延伸条件を変更したこと以外は、実施例1と同じ方法で二軸延伸ポリプロピレンフィルム、及び、スリット前金属化フィルムを作製した。具体的には、MD延伸倍率を4.5倍に代えて4.6倍とし、MD延伸ロール群の温度を146℃に代えて140℃とし、MD予熱ロール群との密着時間を7.4秒に代えて7.5秒としたこと以外は、実施例1と同じ条件でスリット前金属化フィルムを作製した。MD予熱ロール群との密着時間に関する前記変更は、キャスト速度を実施例1から変更することでおこなった。
【0129】
<実施例8>
二軸延伸条件を変更したこと以外は、実施例1と同じ方法で二軸延伸ポリプロピレンフィルム、及び、スリット前金属化フィルムを作製した。具体的には、MD延伸倍率を4.5倍に代えて5.5倍とし、二段目以降の予熱ロールの温度を130℃に代えて135℃とし、MD予熱ロール群との密着時間を7.4秒に代えて9.5秒とし、MD延伸ロール群との密着時間を1.1秒に代えて1.8秒とし、MD緩和ロール群との密着時間を1.1秒に代えて1.8秒としたこと以外は、実施例1と同じ条件でスリット前金属化フィルムを作製した。前記各密着時間の変更は、キャスト速度を実施例1から変更することでおこなった。
【0130】
<実施例9>
二軸延伸ポリプロピレンフィルムの厚みを2.5μmとした以外は実施例1と同様にして、二軸延伸ポリプロピレンフィルム、及び、スリット前金属化フィルムを作製した。
【0131】
<比較例1>
二軸延伸条件を変更したこと以外は、実施例1と同じ方法で二軸延伸ポリプロピレンフィルム、及び、スリット前金属化フィルムを作製した。具体的には、MD延伸倍率を4.5倍に代えて4.6倍とし、MD延伸ロール群の温度を146℃に代えて128℃とし、MD予熱ロール群との密着時間を7.4秒に代えて7.5秒としたこと以外は、実施例1と同じ条件でスリット前金属化フィルムを作製した。MD予熱ロール群との密着時間に関する前記変更は、キャスト速度を実施例1から変更することでおこなった。
【0132】
<比較例2>
二軸延伸条件を変更したこと以外は、実施例1と同じ方法で二軸延伸ポリプロピレンフィルム、及び、スリット前金属化フィルムを作製した。具体的には、MD延伸倍率を4.5倍に代えて4.6倍とし、一段目の予熱ロールの温度を85℃に代えて70℃とし、二段目以降の予熱ロールの温度を130℃に代えて110℃とし、MD予熱ロール群との密着時間を7.4秒に代えて7.5秒としたこと以外は、実施例1と同じ条件でスリット前金属化フィルムを作製した。MD予熱ロール群との密着時間に関する前記変更は、キャスト速度を実施例1から変更することでおこなった。
【0133】
<比較例3>
二軸延伸条件を変更したこと以外は、実施例1と同じ方法で二軸延伸ポリプロピレンフィルム、及び、スリット前金属化フィルムを作製した。具体的には、MD延伸倍率を4.5倍に代えて4.6倍とし、MD予熱ロール群との密着時間を7.4秒に代えて4.5秒とし、MD延伸ロール群との密着時間を1.1秒に代えて0.8秒とし、MD緩和ロール群との密着時間を1.1秒に代えて0.8秒としたこと以外は、実施例1と同じ条件でスリット前金属化フィルムを作製した。前記各密着時間の変更は、キャスト速度を実施例1から変更することでおこなった。
【0134】
<比較例4>
二軸延伸条件を変更したこと以外は、実施例1と同じ方法で二軸延伸ポリプロピレンフィルム、及び、スリット前金属化フィルムを作製した。具体的には、MD延伸倍率を4.5倍に代えて4.4倍とし、一段目の予熱ロールの温度を85℃に代えて70℃とし、二段目以降の予熱ロールの温度を130℃に代えて110℃とし、MD延伸ロール群の温度を146℃に代えて128℃とし、MD予熱ロール群との密着時間を7.4秒に代えて4.1秒とし、MD延伸ロール群との密着時間を1.1秒に代えて0.8秒とし、MD緩和ロール群との密着時間を1.1秒に代えて0.8秒としたこと以外は、実施例1と同じ条件でスリット前金属化フィルムを作製した。前記各密着時間の変更は、キャスト速度を実施例1から変更することでおこなった。
【0135】
<比較例5>
二軸延伸条件を変更したこと以外は、実施例1と同じ方法で二軸延伸ポリプロピレンフィルム、及び、スリット前金属化フィルムを作製した。具体的には、MD延伸倍率を4.5倍に代えて6.0倍とし、MD予熱ロール群との密着時間を7.4秒に代えて4.5秒とし、MD延伸ロール群との密着時間を1.1秒に代えて0.8秒とし、MD緩和ロール群との密着時間を1.1秒に代えて0.8秒としたこと以外は、実施例1と同じ条件でスリット前金属化フィルムを作製した。前記各密着時間の変更は、キャスト速度を実施例1から変更することでおこなった。
【0136】
<比較例6>
二軸延伸条件を変更したこと以外は、実施例1と同じ方法で二軸延伸ポリプロピレンフィルム、及び、スリット前金属化フィルムの作製を試みた。具体的には、MD延伸倍率を4.5倍に代えて6.5倍とし、MD予熱ロール群との密着時間を7.4秒に代えて7.5秒とし、MD延伸ロール群との密着時間を1.1秒に代えて0.7秒とし、MD緩和ロール群との密着時間を1.1秒に代えて0.7秒としたこと以外は、実施例1と同じ条件でスリット前金属化フィルムの作製を試みた。前記各密着時間の変更は、キャスト速度を実施例1から変更することでおこなった。
しかし、二軸延伸する際、具体的にはキャスト原反シートをMD方向に延伸する際に破断したため、二軸延伸ポリプロピレンフィルムを作製できなかった。
【0137】
<比較例7>
二軸延伸条件を変更したこと以外は、実施例1と同じ方法で二軸延伸ポリプロピレンフィルム、及び、スリット前金属化フィルムを作製した。具体的には、MD予熱ロール群との密着時間を7.4秒に代えて10.8秒とし、MD延伸ロール群との密着時間を1.1秒に代えて1.6秒とし、MD緩和ロール群との密着時間を1.1秒に代えて1.6秒としたこと以外は、実施例1と同じ条件でスリット前金属化フィルムを作製した。前記各密着時間の変更は、キャスト速度を実施例1から変更することでおこなった。
【0138】
<比較例8>
二軸延伸条件を変更したこと以外は、実施例1と同じ方法で二軸延伸ポリプロピレンフィルム、及び、スリット前金属化フィルムを作製した。具体的には、MD延伸倍率を4.5倍に代えて4.6倍とし、MD予熱ロール群との密着時間を7.4秒に代えて13.7秒とし、MD延伸ロール群との密着時間を1.1秒に代えて2.1秒とし、MD緩和ロール群との密着時間を1.1秒に代えて2.1秒としたこと以外は、実施例1と同じ条件でスリット前金属化フィルムを作製した。前記各密着時間の変更は、キャスト速度を実施例1から変更することでおこなった。
【0139】
<参考比較例>
二軸延伸ポリプロピレンフィルムの厚みを4.6μmとした以外は実施例1と同様にして、二軸延伸ポリプロピレンフィルム、及び、スリット前金属化フィルムを作製した。このスリット前金属化フィルムを使用した以外は実施例1と同様の方法でコンデンサを作製した場合(つまり、後述の<コンデンサの作製、及び、静電容量の測定>の項目に記載の方法と同様の方法でコンデンサを作製した場合)、そのコンデンサの単位体積当たりの静電容量は、理論上実施例1で得られたコンデンサの単位体積当たりの静電容量の0.25倍に留まる。そのため、当該参考比較例の二軸延伸ポリプロピレンフィルムは実施例1~9の二軸延伸ポリプロピレンフィルムに比べて、コンデンサの静電容量及び単位体積当たりの静電容量の観点で大きく劣る。
【0140】
<厚み測定>
温度23±2℃、湿度50±5%RHの環境下で、シチズンセイミツ株式会社製、紙厚測定器 MEI-11(測定圧100kPa、降下速度3mm/秒、測定端子φ=16mm、測定力20.1N)を用いて測定した。サンプルは10枚以上重ねたままロールより切り出し、切り出しの際にフィルムにシワや空気が入らないように取り扱った。10枚重ねのサンプルに対し、5回測定を行い、5回の平均値を10で除して、厚みを算出した。
【0141】
<MD方向における125℃の引張破壊応力(σb125)>
MD方向における125℃の引張破壊応力(σb125)は、JIS K 7127:1999に準拠して測定した。まず、実施例、比較例の二軸延伸ポリプロピレンフィルムから、長さ150mm、幅10mmの矩形のサンプルを切り出した。このとき、MD方向が長さ方向となるようにサンプルを切り出した。サンプルを、オーブン付き引張試験機(株式会社エー・アンド・デイ製テンシロン万能試験機RTG-1210)における、125℃に加熱されたオーブン内のチャックに、チャック間距離50mmでセットした。次に、サンプルを、1分間予熱し、試験速度300mm/minで引張試験を行った。引張試験時の最大ひずみにおける荷重値を、引張試験前におけるサンプルの断面積(引張試験前におけるサンプルの厚み×幅10mm)で除すことによって、125℃の引張破壊応力(σb125)を算出した。引張試験は5回ずつ行った。その平均値を表1に示す。なお、引張破壊応力は、引張破壊強度や引張破断応力、引張破断強度と呼ばれることがある。
【0142】
<MD方向における135℃の引張破壊応力(σb135)>
オーブン内の温度を125℃に代えて135℃としたこと以外は、125℃の引張破壊応力(σb125)と同じ方法で引張試験を行い、135℃の引張破壊応力(σb135)を算出した。引張試験は5回ずつ行った。その平均値を表1に示す。
【0143】
【表1】
【0144】
<MD方向における23℃の引張破壊応力(σb23)>
オーブン内の温度を125℃に代えて23℃としたこと以外は、125℃の引張破壊応力(σb125)と同じ方法で引張試験を行い、23℃の引張破壊応力(σb23)を算出した。引張試験は5回ずつ行った。その平均値を表2に示す。
【0145】
<125℃でのMD方向の熱収縮率>
実施例、比較例の二軸延伸ポリプロピレンフィルムを幅20mm、長さ130mmの長方形に切り出し、測定用サンプルを作製した。このとき、サンプルの長さ方向がMD方向と一致するようにサンプルを切り出した。前記測定用サンプルは、3本準備した。次に、長さ100mmの箇所を定規で測り、当該箇所に標線を印した。そして、その3本の測定用サンプルを、125℃の熱風循環式恒温槽内に無荷重で吊るして15分間保持した。その後、室温(23℃)で冷却し、標線の間隔を定規で測定し、以下の式を用いて、MD方向の熱収縮率(%)を算出した。
熱収縮率(%)=[(加熱前の標線間隔-加熱後の標線間隔)/(加熱前の標線間隔)]×100
3本の測定値の平均値をMD方向の熱収縮率(%)とした。
なお、ここに記載した以外の測定条件については、JIS C 2151:2019の「25.寸法変化」に準じた。結果を表2に示す。
【0146】
<135℃でのMD方向の熱収縮率>
熱風循環式恒温槽の温度を125℃に代えて135℃にしたこと以外は、125℃のMD方向熱収縮率と同じ方法で測定した。結果を表2に示す。
【0147】
<125℃でのMD方向の寸法変化率、及び、135℃でのMD方向の寸法変化率>
MD方向の寸法変化率は、熱機械的分析装置(セイコーインスツルメンツ株式会社製「SS-6000」)を使用して、温度変調TMA測定により求めた。
実施例、比較例の二軸延伸ポリプロピレンフィルムから測定方向に30mm、測定方向と直交方向に幅4mmとなるように短冊を切り出してサンプルを作製した。前記測定用サンプルは、3本準備した。このとき、サンプルの測定方向がMD方向と一致するようにサンプルを切り出した。測定条件は、チャック間距離を15mm、測定温度範囲を25℃から150℃、昇温速度を10℃/分、サンプル片にかけ続ける引張荷重を20mNとした。炉内温度が125℃に到達したときのチャック間距離(mm)と135℃に到達したときのチャック間距離(mm)から、以下の式を用いてMD方向の寸法変化率を求めた。
[125℃でのMD方向の寸法変化率(%)]=[(125℃のチャック間距離-25℃のチャック間距離)/25℃のチャック間距離]×100
[135℃でのMD方向の寸法変化率(%)]=[(135℃のチャック間距離-25℃のチャック間距離)/25℃のチャック間距離]×100
3本の測定値の平均値をそれぞれ125℃でのMD方向の寸法変化率(%)、135℃でのMD方向の寸法変化率(%)とした。
なお、寸法変化率は、温度上昇に伴ってフィルム寸法が大きくなる(膨張する)場合は正(プラス)となり、温度上昇に伴ってフィルム寸法が小さくなる(収縮する)場合は負(マイナス)となる。結果を表2に示す。
【0148】
<結晶子サイズの測定>
実施例および比較例に係る二軸延伸ポリプロピレンフィルムの結晶子サイズを、XRD(広角X線回折)装置を用いて、以下の条件にてフィルムを15枚重ねた状態で測定した。
測定機:リガク社製のX線回折装置「MiniFlex300」
X線出力:30kV、10mA
照射X線:モノクローメーター単色化CuKα線(波長0.15418nm)
検出器:シンチュレーションカウンター
ゴニオメーター走査:2θ/θ連動走査
得られたデータから、解析コンピューターを用い、装置標準付属の統合粉末X線解析ソフトウェアPDXL(Ver.2.1.3.4)を用い、分割型擬Voight関数により最適化した後、α晶(040)面の回折反射ピークの半価幅を算出した。半価幅から、Scherrerの式(D=K×λ/(β×cosθ))を用いて結晶子サイズを求めた。
なお、Scherrerの式中、Dは結晶子サイズ(nm)、Kは定数(形状因子:本実施例では0.94を採用)、λは使用X線波長(nm)、βは求めた半価幅、θは回折ブラッグ角である。λとして0.15418nmを用いた。結果を表2に示す。
【0149】
【表2】
【0150】
<コンデンサの作製、及び、静電容量の測定>
実施例、比較例で作製したスリット前金属化フィルム(金属層一体型ポリプロピレンフィルム)を60mm幅にスリットした。次に、2枚の金属層一体型ポリプロピレンフィルムを相合わせた。株式会社皆藤製作所製自動巻取機3KAW-N2型を用い、相合わせた前記金属層一体型ポリプロピレンフィルムを、巻き取り張力250g、接圧880g、巻き取り速度4m/sにて、巻回を行った。二軸延伸ポリプロピレンフィルムの厚みが2.3μmの場合は1137ターン巻回を行い、厚みが2.5μmの場合は1076ターン巻回を行った。素子巻きした素子は、荷重5.9kg/cmでプレスしながら120℃にて15時間熱処理を施した。その後、素子端面に亜鉛金属を溶射した。溶射条件としては、フィード速度15mm/s、溶射電圧22V、溶射圧力0.3MPaとし、厚さ0.7mmになるよう溶射を行った。こうして扁平型コンデンサを得た。扁平型コンデンサの端面にリード線をはんだ付けした。その後、扁平型コンデンサをエポキシ樹脂で封止した。エポキシ樹脂の硬化は、90℃で2.5時間加熱した後、さらに、120℃で2.5時間加熱して行った。作製されたコンデンサ素子の静電容量は、すべて75μF(±2μF)であった。
【0151】
<巻姿のシワ不良評価>
実施例、比較例のスリット前金属化フィルムのフィルムロールの姿(巻姿ともいう)を目視し、巻姿の状態を評価した。具体的には、スリット前金属化フィルムのフィルムロールに折れシワが存在するか否かを判断した。結果を表3に示す。
【0152】
<蒸着膜ムラ評価>
実施例、比較例のロール状のスリット前金属化フィルムから、ロール1周分の全幅フィルムを1枚剥がし取り、剥がし取ったスリット前金属化フィルムの下側から蛍光灯の光を当てて目視し、そのスリット前金属化フィルム全体で蒸着膜が均一に蒸着されているかを評価した。蒸着膜がシワ形状となるように蒸着されている状態か、蒸着膜厚に濃淡が生じている状態か、又はその両方の状態が見られる場合は不良と判断した。結果を表3に示す。
【0153】
実施例、比較例で作製したスリット前金属化フィルムを用いてコンデンサ素子を作製し、コンデンサ素子に対して二通りの限界試験(温度限界試験および電圧限界試験)を行い、経過時間にともなう静電容量の変化率を測定した。尚、巻姿のシワ不良や蒸着膜ムラが発生した各例については、当該の蒸着不良発生箇所を除いた正常箇所でコンデンサ素子を作製し、試験を行った。なお、コンデンサ素子の作製方法は上記の「コンデンサの作製、及び、静電容量の測定」の項に記載の通りとした。
【0154】
<温度限界試験(115℃、700V)>
コンデンサ素子を115℃で1時間予熱した後、静電容量を、日置電機株式会社製LCRハイテスター3522-50で測定した。この静電容量を、以下、初期静電容量といい、Cともいう。次に、115℃の恒温槽中にて、コンデンサ素子に直流700Vの電圧を100時間負荷し続けた。次に、前記電圧を100時間負荷し続けた後の静電容量を測定した(前記静電容量を100時間経過後の静電容量ともいい、C100ともいう)。静電容量の変化率(100時間経過後における静電容量の変化率)を算出した。この変化率は次式で算出した。
100時間経過後における静電容量の変化率
=[(100時間経過後の静電容量-初期静電容量)/初期静電容量]×100
前記100時間経過後における静電容量の変化率はΔCともいい、ΔC={(C100-C)/C}×100である。
コンデンサ素子を恒温槽内に戻し、コンデンサ素子に直流700Vの電圧を50時間負荷し続けた後、コンデンサ素子を取り出し、静電容量を測定し、初期静電容量(C)に対する変化率を算出した。この一連の作業を、変化率が-5%~+5%の範囲外になるまで繰り返した。これによって、変化率が-5%~+5%の範囲外に達したときの経過時間(以下、「故障時間」ということがある。)を求めた。
100時間経過後の変化率(ΔC)は、コンデンサ素子5個の平均値により評価した。100時間経過後の変化率(ΔC)が-5%~+5%の範囲外になった場合、評価は不良と判断した。故障時間は、コンデンサ素子5個の中で最も早く変化率が-5%~+5%の範囲外になった時間として評価した。故障時間が450時間以下であった場合は、評価を不良と判断した。また、コンデンサ素子5個のうちひとつだけでもショートが発生した場合は、評価は不良と判断した。
100時間経過後における静電容量の変化率(ΔC)と、故障時間とを表3に示す。
【0155】
<電圧限界試験(105℃、800V)>
コンデンサ素子の予熱を115℃に代えて105℃とし、恒温槽を115℃に代えて105℃とし、コンデンサ素子に印加する電圧を700Vに代えて800Vとしたこと以外は、温度限界試験と同じ方法を採用し、静電容量の変化率(ΔC)と故障時間とを測定した。
【0156】
【表3】
【0157】
実施例1~9では、巻姿にシワ不良が見受けられず、蒸着膜ムラも見受けられなかっただけでなく、温度限界試験および電圧限界試験の両方の限界試験で、故障時間が450時間を超えた。これに対して、比較例1~5では、シワ不良および蒸着膜ムラの両者が見受けられた。比較例3では、電圧限界試験の故障時間が350時間と短かった。比較例4では、電圧限界試験でショート破壊が起こった。
【0158】
実施例3と比較例1とを対比すると、135℃の引張破壊応力(σb135)は両者で同じであったものの、前記両方の限界試験で、実施例3の故障時間は比較例1の故障時間よりも長かった。この理由は、実施例3の引張破壊応力差(σb125-σb135)が、比較例1の前記引張破壊応力差よりも小さかったことにより、実施例3では、試験温度(温度限界試験では115℃、電圧限界試験では105℃)に到達させるための加熱によって二軸延伸ポリプロピレンフィルムの内部構造が崩れにくかったため、静電容量の低下が進みにくかったからであると考えられる。
【0159】
実施例4の135℃の引張破壊応力(σb135)が93MPaと、実施例7の85MPaよりも高く、実施例4の故障時間が、両方の限界試験で、実施例7の故障時間よりも長かった。実施例4における二軸延伸ポリプロピレンフィルムの内部構造が、実施例7のそれよりも強固だったと考えられる。このように、実施例4と実施例7との対比から、135℃の引張破壊応力(σb135)が高いほど、二軸延伸ポリプロピレンフィルムの内部構造が強固であるという相関関係を読み取ることができる。
【0160】
これに対して、実施例8では、135℃の引張破壊応力(σb135)が106MPaと、実施例5の95MPaより高かったものの、実施例8の故障時間が、両方の限界試験で、実施例5の故障時間よりも短かった。これは、135℃の引張破壊応力(σb135)106MPa付近で、135℃の引張破壊応力(σb135)と二軸延伸ポリプロピレンフィルムの内部構造の強さとの相関関係が崩れ始めることがあることを示唆すると考えられる。
【0161】
比較例3では、135℃の引張破壊応力(σb135)が70MPa以上であったものの、電圧限界試験の故障時間が350時間と短かった。これは、比較例3では、引張破壊応力差(σb125-σb135)が17MPaと大きかったため、電圧限界試験の試験温度(105℃)に到達させるための加熱によって、二軸延伸ポリプロピレンフィルムの内部構造が崩れやすく、静電容量の低下が進みやすかったと考えられる。
【符号の説明】
【0162】
5 金属化フィルム
6 スリット前金属化フィルム
10 二軸延伸ポリプロピレンフィルム
21 絶縁マージン
30 金属層
31 ヘビーエッジ部
32 アクティブ部
51 金属化フィルムにおける一方の端部
52 金属化フィルムにおける他方の端部
300 金属層
図1
図2
図3