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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-24
(45)【発行日】2022-12-02
(54)【発明の名称】回転電機の鉄心
(51)【国際特許分類】
   H02K 1/16 20060101AFI20221125BHJP
【FI】
H02K1/16 C
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2019204300
(22)【出願日】2019-10-23
(65)【公開番号】P2021069266
(43)【公開日】2021-04-30
【審査請求日】2021-10-11
【権利譲渡・実施許諾】特許権者において、実施許諾の用意がある。
(73)【特許権者】
【識別番号】591040845
【氏名又は名称】後藤 一彦
(72)【発明者】
【氏名】後藤 一彦
【審査官】宮崎 賢司
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-039767(JP,A)
【文献】特開2011-250667(JP,A)
【文献】特開2011-223844(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第03136568(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 1/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
3の倍数のステータ磁極数と2の倍数の磁極数であり、正弦波の配向を有するローターの磁極間に間隙の無い永久磁石ローターであり、ステータ磁極数とローター磁極数の比が3対2である回転電機の鉄心の、磁石面に対向するティースの面からバックヨークに至るまでの距離を中心線に対して左右対称のスリット2本でティースを3分割し、当該鉄心の円周360°を鉄心の磁極数で割った角度θは、鉄心の中心点に対して、鉄心の内径円上のスロットの開口部の中央点から、中心線に対して対称である反対側の鉄心の内径円上のスロットの開口部の中央点までを磁極の単位角度θとし、鉄心の内径円上のスロットの開口部の中央点から、θの4分の1の角度で、鉄心の中心点から引いた線を分割線Aとし、鉄心の内径円上のスロットの開口部の中央点から、θの2分の1の角度で、鉄心の中心点から引いた線を分割線Bとして、ティースのスロット開口部の端と分割線Aの角度をθa1とし、スリット開口部の端と分割線Aの角度をθa2として、ティースの中央磁路のスリット開口部の端と分割線Bの角度をθbとして、θa1/θa2と2θa2/θbの値が等しくなる条件と、2θb/θa2とθa1/θa2の値の和と或いは、2θb/θa2と2θa2/θbの値の和が限りなく4に近くなる事を満たす事を特徴とする回転電機の鉄心に於いて、ステータの素材である鉄心の飽和磁束密度Bsとローターの素材である磁石の残留磁束密度Brの関係が、(飽和磁束密度Bs)/2・(残留磁束密度Br)=0.821になる事と、鉄心の内径半径をr1として、その円の中心点から引かれた中心線に対して、左右対称の角度θbで引いた2本の線と、鉄心の内径半径r1との2つの交点間を、スリット4により分割されたティース2の中央の磁路であるTBの幅hbとして、ローターの磁極数Pと幅hbを掛けた数値を2で割った数値であるP・hb/2が、バックヨークTの幅Thと等しい事と、鉄心の内径半径r1に、P・hb/2を足した数値を鉄心の中心半径r2として、鉄心の中心半径r2に、P・hb/2を足したものを鉄心の外径半径r3とする事と、スリット4により分割されたティース2のスリット4のスロット側の辺と鉄心の内径半径r1の円との交点から鉄心の中心半径r2の円に至る中心線と平行な直線部と、それと平行なスロットを形成する直線部からなる間を磁路TAとし、TAの幅haは、Tの幅Thをローターの磁極数Pで割り、その数値に0.821の平方根を掛けた数値、ha=(Th/P)・(0.821の平方根)である事と、ティース2のスリット4のスロット側の辺と鉄心の内径半径r1の円との交点から、スロットの開口部の鉄心端に至る半径r1の円弧と、スロットの内径円弧からなる間を磁路Tcとし、Tcの幅hcは、Tの幅Thに2を掛けた数値をローター磁極数Pとe(eはネイピア数)を掛けた数値で割ったhc=(2・Th)/(P・e)である事を特徴とする回転電機の鉄心。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動機及び発電機等の回転電機に於ける鉄心に関し、近年高効率化が要望される回転電機に於いて、回転電機のローターのコギングトルクを完全に消滅する事を実現し、理想的な回転特性を実現し性能を向上させる事により、高効率、小型で高出力を可能とする回転電機のステータ鉄心の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
周知の通り、回転電機に於いてローターのコギングトルクを低減して、安定した回転特性を実現する事が、回転電機の特性を向上させる為の重要な要素である。
【0003】
従来の技術によれば、鉄心の磁極数を多数極にする、磁極にスキューをかける補助溝を付ける等の回転電機の鉄心に関する技術が有ります。
【0004】
しかし、従来技術のコギングトルクの低減手法として、磁極にスキューをかける事や多数極スロットの採用や、補助溝の採用等のコギングトルクを相殺する技術が広く使われていますが、コギングトルクを消滅する事と高効率の実現の両立は出来ず、効率の低下を招く課題を持っていました。
【0005】
又、本件特許申請より先に、回転電機の鉄心に於いて、鉄心の磁極数が3極、磁石極数が2極等の最少極数の場合に於いて、コギングトルクの基本周波の第2高調波を発生させて、コギングトルクを低減と高効率を実現する技術が開示されている。
【0006】
即ち、3の倍数のステータ磁極数と2の倍数の磁極数であり、正弦波の配向を有するローターの磁極間に間隙の無い永久磁石ローターであり、ステータ磁極数とローター磁極数の比が3対2である回転電機の鉄心に於いて、磁石面に対向するティースの面からバックヨークに至るまでの距離を中心線に対して左右対称のスリット2本でティースを3分割し、当該鉄心の円周360°を鉄心の磁極数で割った角度を磁極の単位角度θとし、そのθの4分の1の分割線をAとし、2分の1の分割線をBとして、ティースのスロット開口部の端と分割線Aの角度をθa1とし、スリット開口部の端と分割線Aの角度をθa2として、ティースの中央磁路のスリット開口部の端と分割線Bの角度をθbとして、θa1/θa2と2θa2/θbの値が等しくなる条件と、2θb/θa2とθa1/θa2の値の和と或いは、2θb/θa2と2θa2/θbの値の和が限りなく4に近くなる事を満たす事を特徴とする回転電機の鉄心が開示されている。(特許文献1)
【0007】
即ち、上記の技術ではスリットにより磁気回路を分割して、鉄心の磁極数が3極、磁石極数が2極等の最少極数の場合に於いて、コギングトルクの基本周波の第2高調波を発生させて、コギングトルクを低減する技術が開示されている。
【0008】
又、本件特許申請より先に、回転電機の鉄心に於いて、鉄心の磁極数が3極、磁石極数が2極等の最少極数の場合に於いて、コギングトルクを消滅する技術が開示されている。
【0009】
即ち、3の倍数のステータ磁極数と2の倍数の磁極数であり、正弦波の配向を有するローターの磁極間に間隙の無い永久磁石ローターであり、ステータ磁極数とローター磁極数の比が3対2である回転電機の鉄心の、磁石面に対向するティースの面からバックヨークに至るまでの距離を中心線に対して左右対称のスリット2本でティースを3分割し、当該鉄心の円周360°を鉄心の磁極数で割った角度を磁極の単位角度θとし、そのθの4分の1の分割線をAとし、2分の1の分割線をBとして、ティースのスロット開口部の端と分割線Aの角度をθa1とし、スリット開口部の端と分割線Aの角度をθa2として、ティースの中央磁路のスリット開口部の端と分割線Bの角度をθbとして、θa1/θa2と2θa2/θbの値が等しくなる条件と、2θb/θa2とθa1/θa2の値の和と或いは、2θb/θa2と2θa2/θbの値の和が限りなく4に近くなる事を満たす事を特徴とする回転電機の鉄心に於いて、スリットにより分割された鉄心の磁気回路の磁気回路幅TAがバックヨーク厚さTをP2θa1/90で割った数値になる事を特徴とする回転電機の鉄心が開示されている。(特許文献2)
【0010】
しかし、特許文献1、特許文献2の技術による鉄心に於いては、鉄心素材の飽和磁束密度Bsとローターの素材である磁石の残留磁束密度Brの関係が未解明、未記述であり、鉄心の磁気回路の計算理論に誤りが生じて、その設計手法も確定されておらず、コギングトルクを完全に消滅させる事は不可能であり実現されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特願2010-135549
【文献】特願2014-172050
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
特許文献1、特許文献2の技術による鉄心は、次の点に於いて性能の向上が考えられる。
【0013】
即ち、特許文献1に於いて、当該鉄心の円周360°を鉄心の磁極数で割った角度を磁極の単位角度θとし、そのθの4分の1の分割線をAとし、2分の1の分割線をBとして、ティースのスロット開口部の端と分割線Aの角度をθa1とし、スリット開口部の端と分割線Aの角度をθa2として、ティースの中央磁路のスリット開口部の端と分割線Bの角度をθbとして、θa1/θa2と2θa2/θbの値が等しいか、ほぼ等しくなる条件と、2θb/θa2とθa1/θa2の値の和と或いは、2θb/θa2と2θa2/θbの値の和が限りなく4に近くなる事を満たした時に、磁気回路に於ける磁石による引力の総和が近くなる事で、基本調波のコギングトルクは低減される。
【0014】
即ち、特許文献1では、図2に示した磁気回路のL(一点鎖線)とM(破線)とS(実線)の磁力による引力の和と、図3に示した磁気回路L(一点鎖線実線)とM(破線)とS(実線)の引力の和の数値が近くなりローターのコギングトルクは低減されるが消滅する事は無い。
【0015】
特許文献2に於いては、ローターのコギングトルクは、図2の0°と図3の30°の位置で引力がほぼ等しくなるが均衡せず、コギングトルクが消滅する事はなく、この時に生成するローターのコギングトルクは、0°と30°の中間位置で大きくなり、不規則な調波のコギングトルクが残留する。
【0016】
即ち、特許文献1、特許文献2の技術による鉄心に於いては、本件の様な鉄心の素材特性や磁石の特性を考慮した計算手法が成されておらず、磁極数が3極、磁石極数が2極等の最少極数の回転電機に於いて、コギングトルクを完全に消滅させる事は実現出来ない。
【0017】
本発明は、上記の問題点を解決する為の技術であり、ステータ磁極数とローターの極数が最小値である3極と2極の場合に於いても、コギングトルク完全に消滅させて、高効率、小型で高出力の回転電機を可能とする技術を提供する事にあります。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記目的を解決するために、本発明は次の技術的手段を有する。
【0019】
即ち、実施例に対応する添付図1の符号を用いて説明すると、本件の発明は、3の倍数のステータ磁極数と2の倍数の磁極数であり、正弦波の配向を有するローターの磁極間に間隙の無い永久磁石ローターであり、ステータ磁極数とローター磁極数の比が3対2である回転電機の鉄心の、磁石面に対向するティースの面からバックヨークに至るまでの距離を中心線に対して左右対称のスリット2本でティースを3分割し、当該鉄心の円周360°を鉄心の磁極数で割った角度を磁極の単位角度θとし、そのθの4分の1の分割線をAとし、2分の1の分割線をBとして、ティースのスロット開口部の端と分割線Aの角度をθa1とし、スリット開口部の端と分割線Aの角度をθa2として、ティースの中央磁路のスリット開口部の端と分割線Bの角度をθbとして、θa1/θa2と2θa2/θbの値が等しくなる条件と、2θb/θa2とθa1/θa2の値の和と或いは、2θb/θa2と2θa2/θbの値の和が限りなく4に近くなる事を満たす事を特徴とする回転電機の鉄心に於いて、ステータの素材である鉄心の飽和磁束密度Bsとローターの素材である磁石の残留磁束密度Brの関係が、(飽和磁束密度Bs)/2・(残留磁束密度Br)=0.821になる事と、鉄心の内径半径をr1として、その円の中心点から引かれた中心線に対して、左右対称の角度θbで引いた2本の線と、鉄心の内径半径r1との2つの交点の間を、スリット4により分割されたティース2の中央の磁路であるTBの幅hbとして、ローターの磁極数Pと幅hbを掛けた数値を2で割った数値であるP・hb/2が鉄心のバックヨークTの幅Thと等しい事と、鉄心の内径半径r1に、P・hb/2を足した数値を鉄心の中心半径r2として、鉄心の中心半径r2に、P・hb/2を足したものを鉄心の外径半径r3とする事と、スリット4により分割されたティース2の両側の磁路であるTAの幅haは、Tの幅Thをローターの磁極数Pで割り、その数値に、0.821の平方根を掛けた数値、ha=(Th/P)・(0.821の平方根)である事と、ティース2の両端の磁路であるTcの幅hcは、Tの幅Thに2を掛けた数値をローター磁極数Pとe(eはネイピア数)を掛けた数値で割ったhc=(2・Th)/(P・e)である回転電機の鉄心。
【発明の効果】
【0020】
本件発明の上記構成に基づけば、3の倍数のステータ磁極数と2の倍数の磁極数の永久磁石ローターに於いて、コギングトルクを完全に消滅せしめ、滑らかな回転特性を可能とする技術を提供する。
【0021】
即ち、ステータ鉄心の磁極数が3極、ローター極数が2極等の最少極数の場合に於いてもコギングトルクを完全に消滅せしめて、滑らかな回転特性を可能とし、高効率で超高速回転の回転電機を可能とする。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本件鉄心の3極ステータ鉄心の実施例の断面図である。
図2】3極の鉄心のロータ―磁石q軸を頂点として、回転角が0°とした時の磁気回路L、M、S、の説明図である。
図3】3極の鉄心のロータ―磁石q軸が、30°回転した時の磁気回路L、M、S、の説明図である。
図4】本件鉄心の作図方法の説明図である。
図5】本件鉄心の作図方法の説明図である。
図6】本発明の2ローター磁石と正弦波の配向の面積を示した図である。
図7】本件鉄心の実施例を示した図である。
図8】本件鉄心の実施例の回転角0°の計算基本図である。
図9】本件鉄心の実施例の0°コギングトルクの計算図である。
図10】本件鉄心の実施例の回転角15°の計算基本図である。
図11】本件鉄心の実施例の15°コギングトルクの計算図である。
図12】本件鉄心の実施例の回転角30°の計算基本図である。
図13】本件鉄心の実施例の30°コギングトルクの計算図である。
図14】本件鉄心の磁路Tcを通過する配向の面積の数値図である。
図15】磁気回路L、M、S、の数値と漏れ磁束の数値の変化の合成図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
上記構成に基づき添付図面に従い実施例を詳述する。
【0024】
図1は、本件特許の実施例の一例を示したものである。
【0025】
即ち、図1によれば3の倍数のステータ磁極数と2の倍数の磁極数の永久磁石ローターであり、ステータ磁極数とローター磁極数の比が3対2である回転電機の鉄心に於いて、3極のステータ磁極と2極の永久磁石ローターの実施例であり、磁石面に対向するティース2の面から、バックヨーク3に至るまでの距離を中心線に対して、左右対称の2本のスリット4で、ティースを3分割し磁気回路を形成した図である。
【0026】
次に、θa1/θa2と2θa2/θbの値が等しくなる条件と、2θb/θa2とθa1/θa2の値の和と或いは、2θb/θa2と2θa2/θbの値の和が限りなく4に近くなる事を満たす事を特徴とする記述の、和が限りなく4に近くなる事とは、出来る限り4に近くすると言う意味であり、製造時の加工精度を考慮すると3.99以上4.01未満である事が望ましい。
【0027】
更に、ステータの素材である鉄心の飽和磁束密度Bsとローターの素材である磁石の残留磁束密度Brの関係が、(飽和磁束密度Bs)/2・(残留磁束密度Br)=0.821になる事と、鉄心の内径半径をr1として、その円の中心点から引かれた中心線に対して、左右対称の角度θbで引いた2本の線と、鉄心の内径半径r1との2つの交点の間を、スリット4により分割されたティース2の中央の磁路であるTBの幅hbとして、ローターの磁極数Pと幅hbを掛けた数値を2で割った数値であるP・hb/2が鉄心のバックヨークTの幅Thと等しい事と、鉄心の内径半径r1に、P・hb/2を足した数値を鉄心の中心半径r2として、鉄心の中心半径r2に、P・hb/2を足したものを鉄心の外径半径r3とする事と、スリット4により分割されたティース2の両側の磁路であるTAの幅haは、Tの幅Thをローターの磁極数Pで割り、その数値に0.821の平方根を掛けた数値、ha=(Th/P)・(0.821の平方根)である事と、ティース2の両端の磁路であるTcの幅hcは、Tの幅Thに2を掛けた数値をローター磁極数Pとe(eはネイピア数)を掛けた数値で割ったhc=(2・Th)/(P・e)である回転電機の鉄心です。
【0028】
次に、本件特許によれば、鉄心に於けるローター回転位置の磁気回路と磁力線を検証すると図2の0°と図3の30°の磁気回路のように変化する事が分かりますが、この2種類の磁気回路に於ける磁石による引力の合計が、均衡した状態になる様に、磁気回路を形成する事が考慮されます。
【0029】
次に、本件特許に於いて、この不規則な調波のコギングトルクの原因である引力の差を無くして均衡させて、コギングトルクを完全に消滅させる技術を詳述します。
【0030】
即ち、特許文件2に於いて0°と30°の中間の位置で、不規則な調波を生じさせていた、コギングトルクの数値を減少させる為に、本件特許は、上記の条件と式を適用した磁気回路の鉄心とする事で、全てのローターの回転位置に於いて、コギングトルクの引力の数値を一致させて、コギングトルクを完全に消滅させる事を実現しています。
【0031】
次に、本件特許の鉄心の作図方法を記述いたします。
【0032】
図4は、まず任意の半径r1の円を描きその中心点より、任意のθbの角度を設定して作図する事としますが、図4ではθbの角度を13.59°とし、中心線に対して左右対称に描いています。
【0033】
半径r1の円とθbの角度13.59°の2本の線との2交点間の幅をティースの中央の磁路であるTBの幅hbとします。
【0034】
図5は、幅hbに、ローターの磁極数Pを掛けて、2で割った数値、P・hb/2を円の半径r1に足した長さを、鉄心の中心の半径r2としています。
【0035】
更に、鉄心の中心半径r2に、P・hb/2を足した長さを、鉄心の外径の半径r3としています。
【0036】
次に、2θb/θa2とθa1/θa2の値の和と或いは、2θb/θa2と2θa2/θbの値の和が限りなく4に近くなる事より、θa1の角度を27.18°として、θa2の角度を13.59°として1/4分割線Aに対してそれぞれ決定します。
【0037】
次に、磁路TAの幅haが、鉄心のバックヨークTの幅Thをローター磁極数Pで割り、それに0.821の平方根を掛けた数値、ha=(Th/P)・(0.821の平方根)の式より算出します。
【0038】
バックヨークTの幅Thは、ローター磁石の極数が2極の場合には、磁路TBの幅hbと等しい幅になります。
【0039】
次に、ティースの両端の磁路であるTcの幅hcが、バックヨークTの幅Thの2倍の、2・Thをローター磁極数Pとeを掛けた数値で割った数値、hc=(2・Th)/(P・e)である事より導かれます。(eはネイピア数2.71828・・・)
【0040】
次に、鉄心の中心半径r2の1/2をローター磁石6の中心半径r4とする事とします。
【0041】
更に、ローター磁石6の厚さMhが、バックヨークTの幅Thと等しいとする事により、ローター磁石6の外径と内径は導かれます。
【0042】
以上の作図手順により、スリット幅及びギャップ幅も含めて、鉄心の全ての数値が決定されて作図されますが、これらの数値は、全ての体格の鉄心の設計に於いて、普遍的に共通の比率である為に、縮小或は拡大により容易に設計されます。
【0043】
図6は、本件特許に於ける2極のローター磁石の正弦波の配向とその面積の数値を記述した図であり、円の半径を1とし、波高を2とした場合では、正弦波の配向の面積の数値はN極とS極を合計すると13.88になり、波高を1とした場合は、面積の数値はN極とS極を合計すると5.43になますが、本説明では波高を2とした場合の数値を使用します。
【0044】
これらの正弦波の配向の数値の、元になる正弦波は広義の正弦波であり、本件説明ではベジェ曲線による正弦波の波形を使用しています。
【0045】
正弦波の配向とその面積の数値は、普遍的に共通の数値である為に、全ての体格の鉄心に於いて共通です。
【0046】
図7は、実際の設計に於いて、鉄心素材の飽和磁束密度Bsとローターの素材である磁石の残留磁束密度Brの関係が、(飽和磁束密度Bs)/2・(残留磁束密度Br)=0.821になる事を満たす、飽和磁束密度Bsと残留磁束密度Brを式にあてはめて設計した一例です。(単位はmm以下省略)
【0047】
即ち、鉄心素材を電磁鋼板、飽和磁束密度Bsを1.9T(テスラ)として、ローター磁石をネオジム磁石、残留磁束密度Brを1.157T(テスラ)として、エネルギー積259(KJ/m3)とします。
【0048】
鉄心の作図に於いては、図5を縮小、或は拡大して作図しますが、作図に於いては鉄心の内径の円周の長さの数値と、ローター磁石の断面積にエネルギー積を掛けた数値が1対1になるように作図します。
【0049】
即ち、図7の鉄心の内径の円周の長さは、内径の半径0.01118×2×π=0.070244(m)になり、ローター磁石の断面積に、エネルギー積を掛けた数値は、磁石中心の半径0.0082175×2×π×厚さ0.005255×エネルギー積259=0.07027(J)となり、数値の単位は異なりますがほぼ1対1に成っています、これらの数値に、毎秒の回転数を掛ければ、前者は周速度(m/S)になり、後者は(J/S)になります。
【0050】
更に、鉄心の体格は、この1対1の設計を基本設計として、縮小(整数分の一)と拡大(整数倍)が可能です。
【0051】
次に、図7の基本設計を元に、コギングトルクを消滅させる事の出来る本件特許の鉄心の原理を詳述します。
【0052】
図8は、磁石の正弦波の配向の面積の数値と鉄心を重ね合わせた図です。
【0053】
最初に、一つのティースに該当する磁力線の最大数値を次の様に算出します、図8の回転位置に於ける磁気回路Lが、バックヨークTを通過する最大の数値になりますので、磁気回路Lの範囲に該当する数値の総数は▲カ▼2.947+▲3▼2.45=5.397になります、ここで鉄心素材の飽和磁束密度Bsとローターの素材である磁石の残留磁束密度Brの関係が、(飽和磁束密度Bs)/2・(残留磁束密度Br)=0.821になる事より、0.821の平方根の0.90609を総数5.397に掛けて、4.890を導きます。
【0054】
即ち、図8のバックヨークTの幅Thを通過する事の出来る最大の数値が、4.890になります。
【0055】
次に、前記の数値4.890をTの幅Thの5.255で割ると、単位数値が0.9305になり、この単位数値に磁路TAの幅haの2.380を掛けると磁路TAを通る事の出来る磁束の最大数値の▲1▼と▲2▼の2.215が算出されます。(小数点3以降は四捨五入)
【0056】
ここで、磁気回路Lの合計数値を算出します、図8の中の数値▲1▼、▲2▼、▲3▼、▲4▼は磁気回路Lに該当する数値であり、全てを合計すると、図9の磁気回路Lの数値▲ア▼9.330になります。
【0057】
次に、磁気回路Mの合計数値を算出します、図8の中の数値▲5▼、▲6▼は磁気回路Mに該当する数値であり、合計して更に、磁気回路Lと磁気回路Mの長さの比である1.933を掛けると、図9の磁気回路Mの数値▲イ▼5.699になります。
【0058】
長さの比である1.933を掛ける理由は、磁気回路LとMの長さを統一して、後に全ての数値の総和を算出する為です。
【0059】
次に、磁気回路Sの合計数値を算出します、図8の中の数値▲7▼、▲8▼は磁気回路Sに該当する数値であり、合計して更に、磁気回路Lと磁気回路Sの長さの比である13.235を掛けると、図9の磁気回路Sの数値▲ウ▼1.932になります。
【0060】
長さの比である13.235を掛ける理由は、磁気回路LとSの長さを統一して、後に全ての数値の総和を算出する為です。
【0061】
次に、磁路TAが飽和して漏れた磁束の数値を計算します、図8の中の数値▲カ▼2.947から磁路TAを通過する磁束の数値▲1▼2.215を引くと、漏れ磁束の数値▲9▼0.732になり、同様に▲キ▼2.947から磁路TAを通過する磁束の数値▲2▼2.215を引くと、漏れ磁束の数値▲10▼0.732になり、合計すると1.464になりますが、漏れ磁束の為にギャップの幅が0.335から1.485に広がる事になり、その為に引力は、1/4.1の数値に減衰して、図9漏れ磁束の数値▲エ▼0.357が算出されます。
【0062】
最後に、磁気回路L、M、Sの数値と漏れ磁束の数値の総合計を算出する為に▲ア▼、▲イ▼、▲ウ▼、▲エ▼を加算すると、図9中の数値の総合計、総数値が17.318になります。
【0063】
図10は、15°回転させた時の図ですが、ここではローター磁石を固定して鉄心を回転しています。
【0064】
ここで、磁気回路Lの合計数値を算出します、図10の中の数値▲1▼、▲2▼、▲3▼、▲4▼、▲5▼、▲6▼は、磁気回路Lに該当する数値であり、全てを合計すると、図11の磁気回路Lの数値▲ア▼10.622になります。
【0065】
次に、磁気回路Mの合計数値を算出します、図10の中の数値▲7▼、▲8▼は磁気回路Mに該当する数値であり、合計して更に、磁気回路Lと磁気回路Mの長さの比である2.660掛けると図11の磁気回路Mの数値▲イ▼4.416になります。
【0066】
次に、磁気回路Sの合計数値を算出します、図10の中の数値▲9▼、▲10▼は磁気回路Sに該当する数値であり、合計して更に、磁気回路Lと磁気回路Sの長さの比である14.020掛けると、図11の磁気回路Sの数値▲ウ▼2.047になります。
【0067】
次に、磁路TAが飽和し漏れた磁束を計算します、図10の中の数値▲カ▼2.945から磁路TAを通過する磁束の数値▲1▼2.215を引くと、漏れ磁束の数値▲11▼0.730になり、反対側の▲12▼0.730と合計すると1.460になりますが、漏れ磁束の為にギャップの幅が0.335から1.995に広がる事になり、その為に引力は、1/6.1の数値に減衰して図11の漏れ磁束の数値▲エ▼0.239が算出されます。
【0068】
最後に、磁気回路L、M、Sの数値と漏れ磁束の数値の総合計を算出する為に▲ア▼、▲イ▼、▲ウ▼、▲エ▼を加算すると図11の中の数値の総合計、総数値が17.324になります。
【0069】
図12は、30°回転させた時の図ですがここではローター磁石を固定して、鉄心を回転しています。
【0070】
ここで、磁気回路Lの合計数値を算出します、図12の中の数値▲1▼、▲2▼、▲3▼、▲4▼、▲5▼、▲6▼、▲7▼、▲8▼は、磁気回路Lに該当する数値であり、全てを合計すると図13の磁気回路Lの数値、▲ア▼10.824になります。
【0071】
次に、磁気回路Mの合計数値を算出します、図12の中の数値▲9▼、▲10▼、▲11▼、▲12▼は磁気回路Mに該当する数値であり、合計して更に、磁気回路Lと磁気回路Mの長さの比である2.599掛けると図13の磁気回路Mの数値▲イ▼2.661になります。
【0072】
次に、磁気回路Sの合計数値を算出します、図12の中の数値▲13▼、▲14▼、▲15▼、▲16▼は磁気回路Sに該当する数値であり、合計して更に、磁気回路Lと磁気回路Sの長さの比である13.152掛けると、図13の磁気回路Sの数値▲ウ▼3.840になります。
【0073】
次に、磁路TAが飽和し漏れた磁束を計算します、図12の中の数値▲カ▼2.649からTAを通過する磁束の数値▲1▼2.215を引くと、漏れ磁束の数値▲17▼0.434になり、反対側▲キ▼2.649からTAを通過する磁束の数値▲3▼2.215を引くと、漏れ磁束の数値▲18▼0.434になり、▲19▼、▲20▼を合計すると1.736になりますが、漏れ磁束の為にギャップの幅が0.335から1.995に広がり、その為に引力は、1/6.1の数値の0.2846に減衰します。
【0074】
しかし、図12のように、漏れ磁束の磁力線が自由に動く事の出来る十分な広さの磁路TBの幅hbである為に、本来の引力が働かず図13の漏れ磁束の数値▲エ▼は0になります。
【0075】
最後に 、磁気回路L、M、Sの数値と漏れ磁束の数値の総合計を算出する為に▲ア▼、▲イ▼、▲ウ▼、▲エ▼を加算すると、図13の中の数値の総合計、総数値が17.325になります。
【0076】
以上詳述のとおり、コギングトルクの数値は全ての回転位置に於いて、計算誤差を考慮しても約17.32の数値で一致し、コギングトルクは完全に消滅し、滑らかな回転が実現されますが、これらの配向の面積の計算上の総数値17.32は、全ての体格の鉄心の設計に於いて普遍的に共通です。
【0077】
図14は、図10の中心点から右上部を拡大した図です、磁路Tcを通過する事が出来る磁束の最大数値を説明する図ですが、磁路Tcを通過する磁束の数値は、図14のこの回転位置が全ての回転位置に於いて、最大の数値になります。
【0078】
磁路Tcの幅hcは、バックヨークTの幅Thの2倍の2・Thをローター磁極数Pとe(eはネイピア数)を掛けた数値で割った数値の、hc=(2・Th)/(P・e)ですから、それに単位数値0.9305を掛けた数値は、図7の磁路Tcの幅hcの1.933と0.9305を掛けた数値である、1.799を導きます。
【0079】
次に、図14の磁路Tcと磁路TAの付け根の交点を通る線が、磁路Tcを通過する最大値の配向の面積の数値ですから、その面積の数値の▲9▼1.800は、前記の計算上の数値とほぼ一致して、磁路Tcの幅hcを決定する計算式が正しい事を証明しています。
【0080】
図15は、磁気回路L、M、S、の数値と漏れ磁束の数値の変化をグラフで、合成した図ですが、合成数値は17.32で常に一定で、コギングトルクは消滅しています。
【0081】
上記の記述は実施例の一例であり、3の倍数のステータ磁極数と2の倍数の磁極数の永久磁石ローターであり、ステータ磁極数とローター磁極数の比が3対2である回転電機の鉄心であればどの様な極数でもよい、又、鉄心材質も電磁鋼板を積層した物や圧粉鉄心を成型した物等、どの様な素材でもよい。
【0082】
以上、詳述した如く、高効率化が要望される回転電機に於いて、ステータ鉄心の磁極数が3極、ローター極数が2極の最少極数の回転電機に於いてもコギングトルクを完全に消滅せさせる事の出来る唯一の技術であり、安定した回転トルクを実現し、特性を向上させる事を可能として、小型で高速回転が可能で、理想的な高効率の特性を得る事の出来る回転電機の鉄心ある。
【0083】
【符号の説明】
【0084】
1 鉄心
2 ティース
3 バックヨーク(特許文献2、特許文献3)
4 スリット
5 スロット
6 磁石ローター
T バックヨーク
L 磁気回路L(一点鎖線)
M 磁気回路M(破線)
S 磁気回路S(実線)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
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図15