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特許7182105III族窒化物半導体デバイスの製造方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-24
(45)【発行日】2022-12-02
(54)【発明の名称】III族窒化物半導体デバイスの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/02 20060101AFI20221125BHJP
   C30B 29/38 20060101ALI20221125BHJP
   H01L 29/20 20060101ALI20221125BHJP
   B23K 26/53 20140101ALI20221125BHJP
【FI】
H01L21/02 C
C30B29/38 D
H01L29/20
B23K26/53
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019093054
(22)【出願日】2019-05-16
(65)【公開番号】P2020188205
(43)【公開日】2020-11-19
【審査請求日】2021-12-14
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100132241
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 博史
(74)【代理人】
【識別番号】100113170
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 和久
(72)【発明者】
【氏名】岩澤 綾子
(72)【発明者】
【氏名】岡山 芳央
【審査官】小池 英敏
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-243968(JP,A)
【文献】特開2012-1432(JP,A)
【文献】特開2011-40564(JP,A)
【文献】特開2005-5699(JP,A)
【文献】特表2017-523603(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/02
C30B 29/38
H01L 29/20
B23K 26/53
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1のIII族窒化物基板をIII族窒化物の支持基板に貼付ける第1貼付工程と、
前記第1のIII族窒化物基板にIII族窒化物半導体デバイスを形成する第1形成工程と、
前記第1のIII族窒化物基板と前記支持基板との界面の近傍にレーザを照射して前記第1のIII族窒化物基板と前記支持基板とを分離する分離工程と、
分離した前記支持基板を再利用して、当該再利用した支持基板に第2のIII族窒化物基板を貼り付ける第2貼付工程と、
前記第2のIII族窒化物基板にIII族窒化物半導体デバイスを形成する第2形成工程と、
を含み、
前記分離工程において、前記レーザ光の焦点を前記界面よりも前記第1のIII族窒化物基板の側に配置して、前記レーザ光の焦点を配置した面を境界として前記第1のIII族窒化物基板と前記支持基板とを分離する、
III族窒化物半導体デバイスの製造方法。
【請求項2】
前記第1のIII族窒化物基板は、前記支持基板と同じ材質で構成される、請求項1に記載のIII族窒化物半導体デバイスの製造方法。
【請求項3】
前記第1のIII族窒化物基板の厚さは20~300μmである、請求項1に記載のIII族窒化物半導体デバイスの製造方法。
【請求項4】
前記界面は、10nm以内の厚さのアモルファス層で構成される、請求項1から3のいずれか一項に記載のIII族窒化物半導体デバイスの製造方法。
【請求項5】
前記界面のアモルファス層には、Ti、Cr、Ni、Fe、Al又はこれらの合金からなる金属成分を含む、請求項1から4のいずれか一項に記載のIII族窒化物半導体デバイスの製造方法。
【請求項6】
前記分離工程において、前記レーザ光は、前記支持基板側から入射し、前記レーザ光の前記焦点は、前記界面を超えてIII族窒化物基板の側に配置される、請求項1から5のいずれか一項に記載のIII族窒化物半導体デバイスの製造方法。
【請求項7】
前記分離した支持基板は、繰り返し何度も再利用する、請求項1から6のいずれか一項に記載のIII族窒化物半導体デバイスの製造方法。
【請求項8】
前記第2貼付工程にあたって、前記分離した支持基板は、前記第2のIII族窒化物基板を貼り付ける前に、厚さが一定となるように研磨される、請求項1から7のいずれか一項に記載のIII族窒化物半導体デバイスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、III族窒化物半導体デバイスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
III族窒化物半導体である窒化ガリウム(以下、GaN)は、シリコンの約3倍のバンドギャップ、約10倍の絶縁破壊電界、約2.5倍の電子飽和速度などの優れた特性を有する。このことから、窒化ガリウムを発光デバイス、電子デバイス、パワーデバイス等の半導体デバイス基板として用いることで、その基板の上面に形成されるGaN結晶も高品質のものを得られ易い。特にパワーデバイス分野においては、EV市場の拡大に伴い、GaN基板の需要も大きく拡大することが予想される。しかしながら、GaN基板は非常に高価であり、最近では4インチを超えるGaN基板も少しずつ入手可能になってきてはいるが、品質・歩留りを含め未だ供給が安定していないのが現状である。従って、高価なGaN基板を無駄なく効率的に利用することが求められる。
【0003】
また、半導体デバイスの小型化や高密度化の進展に伴い、使用される半導体素子には薄膜化が求められており、半導体ウエハの厚さを100μm以下にする必要がある。特に、厚さ100μm以下の半導体ウエハを用いてデバイス形成する場合、半導体ウエハの強度が不十分であることにより反りが発生したり、割れたりすることがあり、ハンドリング性を確保することは困難であった。
【0004】
そのため、半導体ウエハの厚みは、デバイス形成工程中のハンドリング性を確保するために例えば、8インチの半導体ウエハにおいては、1mm程度の厚さが必要であると言われている。そこで、デバイス形成工程までは約1mm程度の厚さを保ち、その後の後半工程の裏面研磨で薄膜化する方法が一般的である(例えば、特許文献1参照。)。
【0005】
図6a乃至図6eは、従来技術の一例である半導体デバイスの製造方法の各プロセスフローを示す概略断面図である。
(1)まず、半導体ウエハ30を準備する(図6a)。半導体ウエハの厚みとしては、600μm~700μmの厚さのものが一般的である。
(2)次に、半導体ウエハ30上に機能層6、非透明材質7を形成する(図6b)。ここでは、例えば、イオン注入、約1000℃での長時間の拡散、フォトリソグラフィによる絶縁膜形成、ゲート構造および電極形成などを行う。
(3)次に、半導体ウエハ30の薄化加工(図6c)を行う。半導体ウエハの薄化は、保持基板(図示せず)を半導体ウエハに貼り合せた後に半導体ウエハの裏面を研削し、エッチングすることにより行う。薄化後の半導体ウエハは、約50~100μmの厚さとなる。保持基板への貼り合せは、半導体ウエハと同形状の保持基板を、例えば、加熱により剥離可能な熱剥離型の有機系接着剤シートで貼り合わせることにより行う。
(4)次に、裏面構造の形成(図6d)を行う。裏面構造の形成としては、裏面へのイオン注入、熱処理による不純物活性化、裏面電極形成などがある。なお、保持基板の剥離は、半導体ウエハと支持基板とを貼り合わせている有機系接着剤の加熱や、有機系接着剤へ紫外線を照射することにより分解して行う。
(5)最後にダイシング(図6e)を行う。ダイシングは、これまでの工程により半導体ウエハに形成された集積回路等を、ダイシングソーで半導体ウエハを切削して切り出し、チップ化する工程である。
【0006】
一方で、デバイス工程において、比較的薄い半導体ウエハに対するハンドリング性確保のために、支持基板と貼り合わせて半導体ウエハの強度を補強し、デバイス形成を行う方法も適用されてきた(例えば、特許文献2参照。)。
【0007】
また、基板と支持基板の貼り合せ後の熱ストレスによる反りの影響を極力排除するために、基板と支持基板の熱膨張係数を一致もしくは近似させるよう、基板の材質を選定している。支持基板への貼付け方法としては、例えば耐熱性を有した有機系接着剤などを用いる場合もある(例えば、特許文献3参照。)。さらには、支持基板のみがフッ化水素酸に溶解可能な材質を選定することにより、基板と支持基板の分離を可能にしていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2008-227521号公報
【文献】特開2004-140101号公報
【文献】特開2009-295695号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1においては、デバイス工程でのハンドリング性を確保するためにある程度の厚み(600~700μm程度)の半導体ウエハを使用し、デバイス形成後に裏面を薄く研磨している。この場合、研磨量が多く、研磨の際の割れや欠けにより歩留りが大きく低下することが懸念される。そのため、研磨量は極力少なくしたい。
【0010】
特許文献2においては、基板と支持基板がそれぞれ異種材質で構成されているため基板と支持基板との貼り合せ後の熱ストレスによる反りの影響が問題であった。また、特許文献3の場合、支持基板が溶解してしまうために再利用ができない課題を有していた。
【0011】
そこで、本発明は、GaN基板を効率的に利用できるIII族窒化物半導体デバイスの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記従来の課題を解決するために、本開示に係るIII族窒化物半導体デバイスの製造方法は、第1のIII族窒化物基板をIII族窒化物の支持基板に貼付ける第1貼付工程と、
前記第1のIII族窒化物基板にIII族窒化物半導体デバイスを形成する第1形成工程と、
前記第1のIII族窒化物基板と前記支持基板との界面の近傍にレーザを照射して前記第1のIII族窒化物基板と前記支持基板とを分離する分離工程と、
分離した前記支持基板を再利用して、当該再利用した支持基板に第2のIII族窒化物基板を貼り付ける第2貼付工程と、
前記第2のIII族窒化物基板にIII族窒化物半導体デバイスを形成する第2形成工程と、
を含み、
前記分離工程において、前記レーザの焦点を前記界面よりも前記第1のIII族窒化物基板の側に配置して、前記レーザの焦点を配置した面を境界として前記第1のIII族窒化物基板と前記支持基板とを分離する。
【発明の効果】
【0013】
以上のように、本発明に係るIII族窒化物半導体デバイスの製造方法によれば、支持基板を再利用することで無駄なく利用でき、デバイス工程の前半工程から薄い支持基板を使用した場合でも、工程中での割れや欠けを発生させることなく、高歩留りを維持した状態で所望のIII族窒化物半導体デバイスを得られる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1a】本開示の実施の形態1に係るIII族窒化物半導体デバイスの製造方法の第1貼付工程の各プロセスの概略断面図である。
図1b】本開示の実施の形態1に係るIII族窒化物半導体デバイスの製造方法の第1貼付工程の各プロセスの概略断面図である。
図1c】本開示の実施の形態1に係るIII族窒化物半導体デバイスの製造方法の第1貼付工程の各プロセスの概略断面図である。
図1d】本開示の実施の形態1に係るIII族窒化物半導体デバイスの製造方法の第1貼付工程の各プロセスの概略断面図である。
図1e】本開示の実施の形態1に係るIII族窒化物半導体デバイスの製造方法の第1貼付工程で得られた張り合わせ基板の断面構造を示す概略断面図である。
図2a】貼り合せ基板へのデバイス形成方法の具体的な各プロセスの概略断面図である。
図2b】貼り合せ基板へのデバイス形成方法の具体的な各プロセスの概略断面図である。
図2c】III族窒化物基板とIII族窒化物の支持基板の分離方法の具体的な各プロセスの概略断面図である。
図2d】III族窒化物基板とIII族窒化物の支持基板の分離方法の具体的な各プロセスの概略断面図である。
図3a】裏面構造形成方法の具体的な各プロセスの概略断面図である。
図3b】裏面構造形成方法の具体的な各プロセスの概略断面図である。
図3c】裏面構造形成方法の具体的な各プロセスの概略断面図である。
図3d】裏面構造形成方法の具体的な各プロセスの概略断面図である。
図4a】III族窒化物の支持基板の再生方法の具体的な各プロセスの概略断面図である。
図4b】III族窒化物の支持基板の再生方法の具体的な各プロセスの概略断面図である。
図5a】第2貼付工程の各プロセスの概略断面図である。
図5b】第2貼付工程の各プロセスの概略断面図である。
図5c】第2貼付工程の各プロセスの概略断面図である。
図5d】第2貼付工程の各プロセスの概略断面図である。
図5e】第2貼付工程で得られた張り合わせ基板の概略断面図である。
図6a】従来の半導体デバイスの製造方法の各プロセスを示す概略断面図である。
図6b】従来の半導体デバイスの製造方法の各プロセスを示す概略断面図である。
図6c】従来の半導体デバイスの製造方法の各プロセスを示す概略断面図である。
図6d】従来の半導体デバイスの製造方法の各プロセスを示す概略断面図である。
図6e】従来の半導体デバイスの製造方法の各プロセスを示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
第1の態様に係るIII族窒化物半導体デバイスの製造方法は、第1のIII族窒化物基板をIII族窒化物の支持基板に貼付ける第1貼付工程と、
前記第1のIII族窒化物基板にIII族窒化物半導体デバイスを形成する第1形成工程と、
前記第1のIII族窒化物基板と前記支持基板との界面の近傍にレーザを照射して前記第1のIII族窒化物基板と前記支持基板とを分離する分離工程と、
分離した前記支持基板を再利用して、当該再利用した支持基板に第2のIII族窒化物基板を貼り付ける第2貼付工程と、
前記第2のIII族窒化物基板にIII族窒化物半導体デバイスを形成する第2形成工程と、
を含み、
前記分離工程において、前記レーザ光の焦点を前記界面よりも前記第1のIII族窒化物基板の側に配置して、前記レーザ光の焦点を配置した面を境界として前記第1のIII族窒化物基板と前記支持基板とを分離する。
【0016】
第2の態様に係るIII族窒化物半導体デバイスの製造方法は、上記第1の態様において、前記第1のIII族窒化物基板は、前記支持基板と同じ材質で構成されてもよい。
【0017】
第3の態様に係るIII族窒化物半導体デバイスの製造方法は、上記第1の態様において、前記第1のIII族窒化物基板の厚さは20~300μmであってもよい。
【0018】
第4の態様に係るIII族窒化物半導体デバイスの製造方法は、上記第1から第3のいずれかの態様において、前記界面は、10nm以内の厚さのアモルファス層で構成されていてもよい。
【0019】
第5の態様に係るIII族窒化物半導体デバイスの製造方法は、上記第1から第4のいずれかの態様において、前記界面のアモルファス層には、Ti、Cr、Ni、Fe、Al又はこれらの合金からなる金属成分を含んでもよい。
【0020】
第6の態様に係るIII族窒化物半導体デバイスの製造方法は、上記第1から第5のいずれかの態様において、前記分離工程において、前記レーザ光は、前記支持基板側から入射し、前記レーザ光の前記焦点は、前記界面を超えてIII族窒化物基板の側に配置されてもよい。
【0021】
第7の態様に係るIII族窒化物半導体デバイスの製造方法は、上記第1から第6のいずれかの態様において、前記分離した支持基板は、繰り返し何度も再利用してもよい。
【0022】
第8の態様に係るIII族窒化物半導体デバイスの製造方法は、上記第1から第7のいずれかの態様において、前記第2貼付工程にあたって、前記分離した支持基板は、前記第2のIII族窒化物基板を貼り付ける前に、厚さが一定となるように研磨されてもよい。
【0023】
以下、実施の形態に係るIII族窒化物半導体デバイスの製造方法について、添付図面を参照しながら説明する。なお、図面において実質的に同一の部材については同一の符号を付している。
【0024】
(実施の形態1)
<III族窒化物半導体デバイスの製造方法>
実施の形態1に係るIII族窒化物半導体デバイスの製造方法は、第1貼付工程と、第1形成工程と、分離工程と、第2貼付工程と、第2形成工程と、を含む。第1貼付工程(図1a乃至図1e)では、第1のIII族窒化物基板1をIII族窒化物の支持基板2に貼付ける。第1形成工程(図2a及び図2b)では、第1のIII族窒化物基板1にIII族窒化物半導体デバイス6,7を形成する。分離工程(図2c及び図2d)では、第1のIII族窒化物基板1と支持基板2との界面4の近傍にレーザ光8を照射して第1のIII族窒化物基板1と支持基板2とを分離する。第2貼付工程(図5a乃至図5e)では、分離した支持基板12を再利用して、当該再利用した支持基板16に第2のIII族窒化物基板1aを貼り付ける。第2形成工程(図示せず)では、第2のIII族窒化物基板にIII族窒化物半導体デバイスを形成する。また、分離工程において、レーザ光8の焦点を第1のIII族窒化物基板1と支持基板2との界面4よりも第1のIII族窒化物基板1の側に配置して、レーザ光8の焦点9を配置した面を境界として第1のIII族窒化物基板1と支持基板2とを分離する。
これによって、支持基板を再利用することで無駄なく利用でき、デバイス工程の前半工程から薄い支持基板を使用した場合でも、工程中での割れや欠けを発生させることなく、高歩留りを維持した状態で所望のIII族窒化物半導体デバイスを得られる。
【0025】
以下に、このIII族窒化物半導体デバイスの製造方法の各工程について説明する。
【0026】
[III族窒化物基板とIII族窒化物である支持基板との貼り合せ方法(第1貼付工程)]
図1a乃至図1dは、実施の形態1に係るIII族窒化物半導体デバイスの製造方法の第1貼付工程の各プロセスの概略断面図である。図1eは、実施の形態1に係るIII族窒化物半導体デバイスの製造方法の第1貼付工程で得られた張り合わせ基板5の概略断面図である。
本開示の実施の形態1に係る窒化物半導体デバイスの製造方法の第1貼付工程において、III族窒化物基板とIII族窒化物である支持基板との貼り合せ方法について図1a~図1eを参照しながら説明する。
【0027】
(1)はじめに、第1のIII族窒化物基板の一例であるIII族窒化物基板1とIII族窒化物の支持基板2とを準備する。ここで、III族窒化物基板1とIII族窒化物の支持基板2との貼り合せ強度を高める観点から、それぞれの主面が鏡面(例えば、JIS B 0601:2001に規定される算術平均粗さRaが10nm以下の鏡面)に研磨されていることが好ましい。III族窒化物基板1とIII族窒化物の支持基板2のそれぞれの主面を研磨する方法は、特に制限はなく、例えばCMP(化学機械的研磨)などが用いられる。また、第1のIII族窒化物基板1の厚さは、デバイス後半工程における裏面研磨時の研磨量を極力少なくすることが可能な20μm~300μmであることが好ましいが、特に制限はない。
【0028】
(2)次に、この第1のIII族窒化物基板1とIII族窒化物の支持基板2の接合面が向かい合うようにある一定の間隔をおいて、それぞれ貼り合せ装置のウエハ工程治具(上側)21と、貼り合せ装置のウエハ工程治具(下側)22に設置する(図1а)。
(3)次いで、超高真空対応チャンバー20内にて接合面上に、例えばArなどのイオンビームや原子ビーム24を照射する(図1b)。
(4)これにより、III族窒化物基板1とIII族窒化物の支持基板2との接合面にアモルファス層3a、3bがそれぞれ形成される(図1c)。この時、接合面の酸化膜や吸着層を除去するだけでなく、接合面自体を活性化し、さらに活性な微粒子膜を形成している。
(5)この後、これらの接合面を接触させ、場合によっては多少の荷重をかけることでアモルファス層3a、3b同士が接合・一体化し、アモルファス層からなる接合界面4を介在させて第1のIII族窒化物基板1とIII族窒化物の支持基板2とが接合される(図1d)。
(6)これによって、貼り合わせ基板5が完成する(図1e)。
【0029】
ここで、接合界面4は、10nm以下の厚みのアモルファス層で形成される。ビームの照射エネルギーが高く、照射時間が長い程、アモルファス層は厚くなるが、この際同時に表面粗さが大きくなることで接合が困難になるため、接合界面4の厚みは10nm以下であることが望ましい。実際には界面は数nmの厚みで十分な接合強度を有していることが分かっている。また、接合界面4を構成するアモルファス層には、Ti、Cr、Ni、Fe、Al又はこれらの合金からなる金属成分を含む。これらは、ビームが照射される際に、チャンバー内部や搬送プレートにも照射されることでその表面が削られ、金属成分としてウエハ表面に移動することで発生する。
【0030】
この方法以外の貼り合わせ方法としては、そのアモルファス層3の形成に適している限り特に制限はない。例えば、公知の接合方法である、貼り合わせ面を洗浄し、そのまま貼り合わせた後600℃~1200℃程度に昇温して接合する直接接合法、貼り合わせ面を洗浄しプラズマやイオンなどで活性させた後に、室温(例えば25℃)~400℃程度の低温で接合する表面活性化法などの適用が好ましい。
【0031】
[貼り合せ基板へのデバイス形成方法(第1形成工程)及びIII族窒化物基板とIII族窒化物の支持基板の分離方法(分離工程)]
図2a及び図2bは、実施の形態1に係るIII族窒化物半導体デバイスの製造方法において、貼り合せ基板5へのデバイス形成方法の具体的な各プロセスの概略断面図である。図2c及び図2dは、III族窒化物基板1とIII族窒化物の支持基板2との分離方法の具体的な各プロセスの概略断面図である。
(7)貼り合わせ基板5(図2a)におけるIII族窒化物基板1上に、機能層6と絶縁膜7を形成し、デバイス構造を形成する。ここでは、例えば、イオン注入、約1000℃での長時間の拡散、絶縁膜形成、ゲート構造および電極形成などを行う(図2b)。
【0032】
(8)次に、支持基板2側よりレーザ光8を照射する。レーザ光8の焦点9は、III族窒化物基板1と支持基板2との接合界面4の近傍に配置される(図2c)。なお、レーザ光8の焦点9は、接合界面4よりIII族窒化物基板1側に設定する。この時、レーザ光8は、例えばパルス幅が1μm以下のパルスレーザ光からなり、900nm以上の波長が選択され、YAGレーザ等が好適に使用される。焦点9では、レーザ光8が集光されて光子密度が高まり、複数の光子が同時に吸収される多光子吸収と呼ばれる現象が起き、焦点9を含む集光点付近が改質されて改質層10が形成される。
(9)レーザ照射後、専用の治具などを用いて、改質層10を境界としてIII族窒化物側11と支持基板側12とに機械的に分離させる(図2d)。この時、改質層10もIII族窒化物側11と支持基板側12とに分離する。ここでポイントとなるのは、接合界面4よりIII族窒化物基板側にレーザ光の焦点を設定することにより、改質層10が接合界面4より第1のIII族窒化物基板1の側に形成されることである。その結果、接合界面4ではなく、改質層10を境界としてIII族窒化物側11と支持基板側12とに分離可能であり、剥離後の支持基板12が常に元の厚みより厚くなる。これにより、その後の鏡面研磨によって元の支持基板と全く同じ厚みの支持基板16に再生できる。そこで、支持基板の基板厚みに変更がないことから、支持基板を再利用しながら工程条件を変更することなく高歩留りを維持したままIII族窒化物半導体デバイスの生産を続けることが可能となる。
【0033】
[III族窒化物基板側の裏面構造形成]
図3a乃至図3dは、実施の形態1に係るIII族窒化物半導体デバイスの製造方法において、裏面構造形成方法の具体的な各プロセスの概略断面図である。
【0034】
まず、裏面構造形成方法の各プロセスを図3a乃至図3dを用いて説明する。
(10)分離後、III族窒化物側11については裏面研磨を行う(図3a及び図3b)。この時、改質層10も同時に除去される。研磨時には補強目的で、半導体ウエハと同形状の保持基板(図示せず)を、例えば、加熱により剥離可能な熱剥離タイプの有機系接着剤シートでIII族窒化物基板側に貼り合わせた上で研磨を行う。
(11)次に、保持基板を貼り合わせたままの状態で裏面構造の形成を行う(図3c)。裏面構造の形成としては、例えば、裏面へのイオン注入、熱処理による不純物活性化、裏面電極14の形成などがある。
(12)保持基板の剥離は、半導体ウエハと保持基板とを貼り合わせている有機系接着剤の加熱や、有機系接着剤への紫外線を照射することにより分解して行う。
(13)最後にダイシングを行い、それぞれのIII族窒化物半導体デバイス15にチップ化して完成となる(図3d)。
【0035】
[III族窒化物の支持基板の再生方法]
図4a及び図4bは、III族窒化物の支持基板の再生方法の具体的な各プロセスの概略断面図である。
(14)一方で、支持基板側12には、次の支持基板として再利用するための鏡面研磨加工を行う(図4a及び図4b)。貼り合せ面の表面粗さは、例えば、JIS B 0601:2001に規定される算術平均粗さRaが10nm以下であれば、鏡面研磨加工の種類には特に制限はない。この時、再生後の支持基板16には接合界面4がそのまま残置されているが、表面に露出することはなく、何度でも繰り返し再生することが可能となる。この場合、再生後の支持基板16には、再生された回数分の接合界面4が含まれている。
【0036】
[III族窒化物基板とIII族窒化物である支持基板との貼り合せ方法(第2貼付工程)]
図5a乃至図5dは、第2貼付工程の各プロセスの概略断面図である。図5eは、第2貼付工程で得られた張り合わせ基板5の概略断面図である。
(15)再生後の支持基板16を用いて、図1a乃至図1eと同様に、III族窒化物基板1と再生後の支持基板16との貼り合せを繰り返す。各プロセスの具体的な内容については、図1a乃至図1eと同様であるので、説明を省略する。
なお、支持基板は、割れたりしない限り、繰り返し何度も再利用が可能となる。また、再生後の支持基板16を用いた張り合わせ基板5では、再生された回数分の接合界面4が含まれている。
【0037】
[張り合せ基板へのデバイス形成方法(第2形成工程)]
また、第2形成工程(図示せず)では、第2のIII族窒化物基板にIII族窒化物半導体デバイスを形成する。なお、第2形成工程は、図2a及び図2bに記載の第1形成工程と実質的に同様であり、その説明を省略する。
さらに、その後の分離工程等も同様であり、説明を省略する。
【0038】
なお、III族窒化物を構成するIII族元素金属は、ガリウム(Ga)が特に好ましいが、例えば、アルミニウム(Al)、インジウム(In)、タリウム(Tl)等であってもよい。すなわち、III族窒化物は、GaN、AlN、InN、又はTlNであってもよい。
【0039】
また、III族窒化物基板は、ほぼ単一結晶材料で構成される。ここで、ほぼ単一結晶材料とは、エピタキシャル成長面を構成するIII族窒化物が90at%以上含まれ、かつ、任意の結晶軸に注目したとき、エピタキシャル成長面のどの部分においてもその向きが同一であるような結晶質固体をいう。ただし、局所的に結晶軸の向きが変わっているものや、局所的な格子欠陥が含まれるものも、単結晶として扱う。
【0040】
なお、本開示においては、前述した様々な実施の形態及び/又は実施例のうちの任意の実施の形態及び/又は実施例を適宜組み合わせることを含むものであり、それぞれの実施の形態及び/又は実施例が有する効果を奏することができる。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明に係るIII族窒化物半導体デバイスの製造方法により、トランジスタ等の電子デバイスなどの窒化物半導体素子、発光ダイオードや半導体レーザ等の発光素子を、無駄なく効率よく製造することが可能となる。
【符号の説明】
【0042】
1 第1のIII族窒化物基板
1a 第2のIII族窒化物基板
2 支持基板
3 アモルファス層
4 接合界面
5 貼り合せIII族窒化物基板
6 機能層
7 非透明材質
8 レーザ光
9 焦点
10 改質層
11 分離後のデバイス側III族窒化物
12 分離後の支持基板側III族窒化物
13 貼り合わせ界面のアモルファス層を除去後のIII族窒化物基板
14 裏面電極
15 III族窒化物半導体デバイス(チップ)
16 再生後の支持基板
20 超高真空対応チャンバー
21 貼り合せ装置のウエハ工程治具(上側)
22 貼り合せ装置のウエハ工程治具(下側)
23 イオンビーム電極
24 イオンビーム
30 半導体ウエハ
図1a
図1b
図1c
図1d
図1e
図2a
図2b
図2c
図2d
図3a
図3b
図3c
図3d
図4a
図4b
図5a
図5b
図5c
図5d
図5e
図6a
図6b
図6c
図6d
図6e