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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-24
(45)【発行日】2022-12-02
(54)【発明の名称】組電池用吸熱シートおよび組電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/653 20140101AFI20221125BHJP
   H01M 10/613 20140101ALI20221125BHJP
   H01M 10/651 20140101ALI20221125BHJP
   H01M 10/6555 20140101ALI20221125BHJP
   H01M 10/659 20140101ALI20221125BHJP
   H01M 50/20 20210101ALI20221125BHJP
【FI】
H01M10/653
H01M10/613
H01M10/651
H01M10/6555
H01M10/659
H01M50/20
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2018157112
(22)【出願日】2018-08-24
(65)【公開番号】P2020031012
(43)【公開日】2020-02-27
【審査請求日】2021-06-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000000158
【氏名又は名称】イビデン株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000153591
【氏名又は名称】株式会社巴川製紙所
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】高橋 直己
(72)【発明者】
【氏名】安藤 寿
(72)【発明者】
【氏名】畑中 清成
(72)【発明者】
【氏名】森永 栄徳
【審査官】坂東 博司
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-053196(JP,A)
【文献】特開2017-084460(JP,A)
【文献】特開2010-165597(JP,A)
【文献】特開2004-228047(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0214103(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/653
H01M 10/613
H01M 50/20
H01M 10/6555
H01M 10/659
H01M 10/651
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の電池セルが吸熱シートを介して配置され、該複数の電池セルが直列または並列に接続された組電池に用いられる吸熱シートであって、
粒度分布のピークが2つ以上の吸熱材を含有し、
前記吸熱材は、平均粒子径の大きい第1の吸熱材と、平均粒子径の小さい第2の吸熱材を有し、
前記第1の吸熱材と前記第2の吸熱材の混合比が、質量比で、90:10~10:90であり、
前記第1の吸熱材の水分放出温度は、前記第2の吸熱材の水分放出温度よりも高いことを特徴とする組電池用吸熱シート。
【請求項2】
複数の電池セルが吸熱シートを介して配置され、該複数の電池セルが直列または並列に接続された組電池に用いられる吸熱シートであって、
粒度分布のピークが2つ以上の吸熱材を含有し、
前記吸熱材は、平均粒子径の大きい第1の吸熱材と、平均粒子径の小さい第2の吸熱材を有し、
前記第1の吸熱材と前記第2の吸熱材の混合比が、質量比で、90:10~10:90であり、
前記第1の吸熱材を主成分とする第1の吸熱層と、
前記第1の吸熱層の両面に形成され、前記第2の吸熱材を主成分とする第2の吸熱層と、を有することを特徴とする組電池用吸熱シート。
【請求項3】
前記第1の吸熱材の含有量は、前記第2の吸熱材の含有量よりも少ない、請求項1又は2に記載の組電池用吸熱シート。
【請求項4】
前記第1の吸熱材の含有量は、前記第2の吸熱材の含有量よりも多い、請求項1又は2に記載の組電池用吸熱シート。
【請求項5】
前記第1の吸熱材の平均粒子径が5μm以上100μm以下であり、かつ、前記第2の吸熱材の平均粒子径が0.1μm以上5μm未満である、請求項~4のいずれか1項に記載の組電池用吸熱シート。
【請求項6】
前記吸熱材は、無機水和物及び/又は脱水剤である、請求項1~5のいずれか1項に記載の組電池用吸熱シート。
【請求項7】
前記吸熱材は、前記無機水和物を必須として含有し、
前記無機水和物は、熱分解開始温度が200℃以上の無機水和物である、請求項6に記載の組電池用吸熱シート。
【請求項8】
前記無機水和物は、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化亜鉛、水酸化鉄、水酸化マンガン、水酸化ジルコニウムおよび水酸化ガリウムからなる群のうち少なくとも1つである、請求項7に記載の組電池用吸熱シート。
【請求項9】
前記無機水和物が水酸化アルミニウムである、請求項8に記載の組電池用吸熱シート。
【請求項10】
前記吸熱材は、前記脱水剤を必須として含有し、
前記脱水剤は、シリカゲル、活性アルミナ、活性炭、ゼオライト、イオン交換樹脂、硫酸塩水和物、亜硫酸塩水和物、リン酸塩水和物、硝酸塩水和物、酢酸塩水和物および金属水和塩からなる群のうち少なくとも1つである、請求項6に記載の組電池用吸熱シート。
【請求項11】
前記第1の吸熱層の厚さは、前記第2の吸熱層の厚さよりも厚い、請求項に記載の組電池用吸熱シート。
【請求項12】
前記複数の電池セルが、請求項1~11のいずれか1項に記載の組電池用吸熱シートを介して配置され、該複数の電池セルが直列または並列に接続されたことを特徴とする組電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、電気自動車またはハイブリッド車などを駆動する電動モータの電源となる組電池に好適に用いられる組電池用吸熱シートおよび組電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境保護の観点から電動モータで駆動する電気自動車またはハイブリッド車などの開発が盛んに進められている。この電気自動車またはハイブリッド車などには、駆動用電動モータの電源となるための、複数の電池セルが直列または並列に接続された組電池が搭載されている。
【0003】
この電池セルには、鉛蓄電池やニッケル水素電池などに比べて、高容量かつ高出力が可能なリチウムイオン二次電池が主に用いられているが、電池の内部短絡や過充電などが原因で1つの電池セルに熱暴走が生じた場合、隣接する他の電池セルへ熱の伝播が起こることで、他の電池セルの熱暴走を引き起こすおそれがある。
【0004】
上記のような熱暴走の伝播を抑制するための技術として、例えば、特許文献1には、1以上の蓄電素子を備える蓄電装置であって、前記1以上の蓄電素子のうちの1つである第一蓄電素子の側方に配置された第一板材および第二板材であって、互いの面が対向するように配置された第一板材および第二板材を備え、前記第一板材と前記第二板材との間には、前記第一板材および前記第二板材よりも熱伝導率の低い物質の層である低熱伝導層(例えば、空気層)が形成されていることにより、第一蓄電素子からの輻射熱、または、第一蓄電素子に向かう輻射熱は2枚の板材によって遮断され、かつ、これら2枚の板材の一方から他方への熱の移動は低熱伝導層によって抑制されるため、蓄電素子と他の物体との間の効果的な断熱を実現することができることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2015-211013号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記特許文献1においては、ある蓄電素子からの輻射熱、または、ある蓄電素子に向かう輻射熱の遮断と、2枚の板材間の熱移動を低熱伝導層により抑制できるとあるものの、熱源となる各蓄電素子から発生する熱量が大きなものであった場合には、必ずしも断熱効果が十分とは言えなかった。
【0007】
本発明は、このような事情に着目してなされたものであり、複数の電池セルが直列または並列に接続された組電池を構成するに当たり、各電池セル間の熱の伝播を効果的に抑制することのできる、組電池用吸熱シートおよび組電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明の一態様に係る組電池用吸熱シートの要旨は、複数の電池セルが吸熱シートを介して配置され、該複数の電池セルが直列または並列に接続された組電池に用いられる吸熱シートであって、粒度分布のピークが2つ以上の吸熱材を含有することを特徴とする。
【0009】
上記組電池用吸熱シートにおける好ましい実施形態において、前記吸熱材は、平均粒子径の大きい第1の吸熱材と、平均粒子径の小さい第2の吸熱材を有し、前記第1の吸熱材と前記第2の吸熱材の混合比が、質量比で、90:10~10:90である。
【0010】
上記組電池用吸熱シートにおける好ましい実施形態において、前記第1の吸熱材の含有量は、前記第2の吸熱材の含有量よりも少ない。
【0011】
上記組電池用吸熱シートにおける好ましい実施形態において、前記第1の吸熱材の含有量は、前記第2の吸熱材の含有量よりも多い。
【0012】
上記組電池用吸熱シートにおける好ましい実施形態において、前記第1の吸熱材の平均粒子径が5μm以上100μm以下であり、かつ、前記第2の吸熱材の平均粒子径が0.1μm以上5μm未満である。
【0013】
上記組電池用吸熱シートにおける好ましい実施形態において、前記吸熱材は、無機水和物及び/又は脱水剤である。
【0014】
上記組電池用吸熱シートにおける好ましい実施形態において、前記吸熱材は、前記無機水和物を必須として含有し、前記無機水和物は、熱分解開始温度が200℃以上の無機水和物である。
【0015】
上記組電池用吸熱シートにおける好ましい実施形態において、前記無機水和物は、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化亜鉛、水酸化鉄、水酸化マンガン、水酸化ジルコニウムおよび水酸化ガリウムからなる群のうち少なくとも1つである。
【0016】
上記組電池用吸熱シートにおける好ましい実施形態において、前記無機水和物が水酸化アルミニウムである。
【0017】
上記組電池用吸熱シートにおける好ましい実施形態において、前記吸熱材は、前記脱水剤を必須として含有し、前記脱水剤は、シリカゲル、活性アルミナ、活性炭、ゼオライト、イオン交換樹脂、硫酸塩水和物、亜硫酸塩水和物、リン酸塩水和物、硝酸塩水和物、酢酸塩水和物および金属水和塩からなる群のうち少なくとも1つである。
【0018】
上記組電池用吸熱シートにおける好ましい実施形態において、前記第1の吸熱材の水分放出温度は、前記第2の吸熱材の水分放出温度よりも高い。
【0019】
上記組電池用吸熱シートにおける好ましい実施形態において、前記第1の吸熱材を主成分とする第1の吸熱層と、前記第1の吸熱層の両面に形成され、前記第2の吸熱材を主成分とする第2の吸熱層と、を有する。
【0020】
上記組電池用吸熱シートにおける好ましい実施形態において、前記第1の吸熱層の厚さは、前記第2の吸熱層の厚さよりも厚い。
【0021】
本発明の一態様に係る組電池用吸熱シートの要旨は、複数の電池セルが吸熱シートを介して配置され、該複数の電池セルが直列または並列に接続された組電池に用いられる吸熱シートであって、平均粒子径の異なる2種以上の吸熱材を含有することを特徴とする。
【0022】
また、本発明の一態様に係る組電池の要旨は、複数の電池セルが、上記の組電池用吸熱シートを介して配置され、該複数の電池セルが直列または並列に接続されたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
本発明に係る組電池用吸熱シートによれば、複数の電池セルが直列または並列に接続された組電池を構成するに当たり、各電池セル間の熱の伝播を効果的に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1図1は、本発明の一実施形態に係る組電池用吸熱シートの構成を模式的に示す断面図である。
図2図2は、本発明の他の実施形態に係る組電池用吸熱シートの構成を模式的に示す断面図である。
図3図3は、本発明のさらに他の実施形態に係る組電池用吸熱シートの構成を模式的に示す断面図である。
図4図4は、本発明の一実施形態に係る組電池用吸熱シートを適用した組電池の構成を模式的に示す断面図である。
図5図5は、実施例1および比較例1~3の組電池用吸熱シートに対し、組電池用吸熱シートの一方の面側からヒーターで加熱した場合の、組電池用吸熱シートの他方の面側における温度変化と経過時間との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明者らは、熱源となる各蓄電素子から発生する熱量が大きなものであった場合においても、各電池セル間の熱の伝播を効果的に抑制することのできる組電池用吸熱シートを提供するため、鋭意検討を行ってきた。
【0026】
その結果、粒度分布のピークが2つ以上の吸熱材を含有する吸熱シートを、組電池に配置された各電池セル間に介在させることにより、上記課題を解決できることを見出した。
【0027】
すなわち、電池セルの温度が高温となる異常時において脱水可能な物質として、所定の吸熱材を含有することにより、電池セルの温度が異常に上昇した場合に、当該物質が熱を吸収しつつ水分を放出する。この吸熱作用により、電池セルの発熱量を効果的に低減することができる。
【0028】
また、異常時における電池セルの温度範囲は、一般的に200℃以上であるため、異常時において脱水可能な物質として、熱分解開始温度が200℃以上の無機水和物を用いることが好ましいことも見出した。
【0029】
さらに、粒度分布のピークが2つ以上の吸熱材、言いかえれば、平均粒子径の異なる2種以上の吸熱材を含有することにより、後述するように、平均粒子径の異なる2種以上の吸熱材における個々の吸熱作用が効果的に作用し、相乗効果を生み出すことも見出した。
【0030】
すなわち、平均粒子径の小さい吸熱材が、経過時間の初期段階における急激な温度上昇に対応して効果的に吸熱するため、経過時間の初期段階における温度の立ち上がり勾配を小さく抑える。また、平均粒子径の大きい吸熱材が、比較的長い時間にわたって吸熱し続けるため、経過時間の初期段階における温度の立ち上がり後の、吸熱保持時間を長く維持する。これらの相乗効果によって、吸熱材が水分を放出した後の、吸熱シートが通常の断熱材としての機能を発揮する段階(温度の平衡状態)に至るまでの経過時間を長くすることができる。
【0031】
また、本発明者らは、粒度分布のピークが2つ以上の吸熱材を用いた場合、上記作用効果に加え、熱源となる電池セルに隣接する電池セル表面のピーク温度を低く抑えることができることも見出した。
【0032】
以上より、結果として、ある電池セルに熱暴走が生じた場合、隣接する他の電池セルへ熱の伝播を効果的に抑制することができるため、他の電池セルの熱暴走が引き起こされるのを抑制することができる。
【0033】
以下、本発明の実施形態(本実施形態)について、図面を参照しつつ詳細に説明する。
なお、以下において「~」とは、その下限の値以上、その上限の値以下であることを意味する。
【0034】
(第1の実施形態)
まず、本発明の第1の実施形態に係る組電池用吸熱シートについて説明する。第1の実施形態は、当該吸熱シートが単層の場合である。
【0035】
<組電池用吸熱シートの基本構成>
図1は、第1の実施形態に係る組電池用吸熱シート10の構成例を模式的に示す断面図である。本実施形態に係る組電池用吸熱シート10は、例えば、異常時における電池セル30の温度範囲である200℃以上の温度範囲内において熱分解開始温度を有する、吸熱材22,24を有する。組電池用吸熱シート10は、粒度分布のピークが2つ以上の吸熱材22,24、言いかえれば、平均粒子径の異なる2種以上の吸熱材22,24を含有する。より具体的には、組電池用吸熱シート10は、平均粒子径の大きい第1の吸熱材22と、平均粒子径の小さい第2の吸熱材24を有する。
【0036】
そして、電池セル30において異常時である熱暴走が生じ、電池セル30の温度が異常に上昇した場合、平均粒子径の小さい第2の吸熱材24が、経過時間の初期段階における急激な温度上昇に対応して効果的に吸熱するため、経過時間の初期段階における温度の立ち上がり勾配を小さく抑える。
ここで、第2の吸熱材24は、第1の吸熱材22に比べ平均粒子径が小さいことから、同じ体積で比較した場合、第2の吸熱材24の方が表面積が大きく、したがって受熱面積がより大きい。よって、第2の吸熱材24の単位時間当たりの吸熱量は、第1の吸熱材22の単位時間当たりの吸熱量よりも大きくなる。このため、平均粒子径の大きな第1の吸熱材22のみを含有する吸熱シート10に比べ、経過時間の初期段階における温度の立ち上がり勾配を小さく抑えられると考えられる。
【0037】
また、平均粒子径の大きい第1の吸熱材22が、比較的長い時間にわたって吸熱し続けるため、経過時間の初期段階における温度の立ち上がり後における、吸熱保持時間を長く維持する。
ここで、第1の吸熱材22は、第2の吸熱材24に比べ平均粒子径が大きいことから、その中心付近にある吸熱材の温度が水分放出温度、すなわち脱水温度(吸熱材が無機水和物である場合には、反応温度)に達するまでにある程度の時間を要する。このため、平均粒子径の小さな第2の吸熱材24のみを含有する吸熱シート10に比べ、経過時間の初期段階における温度の立ち上がり後における、吸熱保持時間を長く維持できると考えられる。
【0038】
そして、これらの相乗効果によって、吸熱材が水分を放出した後(吸熱材が無機水和物である場合には、無機水和物が結晶水を放出した後)の、吸熱シートが通常の断熱材としての機能を発揮する段階(温度の平衡状態)に至るまでの経過時間を長くすることができる。
【0039】
ところで、平均粒子径の大きい第1の吸熱材22は、その中心付近にある吸熱材の温度が脱水温度に達するまでにある程度の時間を要し、中心付近まで脱水しきれない場合がある。このため、組電池用吸熱シート10として、平均粒子径の大きい第1の吸熱材22のみを使用した場合には、第1の吸熱材22が有する水分を全て使いきれない可能性があるため、電池セル30表面のピーク温度(平衡状態となる温度)が高くなる傾向にある。一方、本実施形態に係る組電池用吸熱シート10においては、平均粒子径の大きい第1の吸熱材22と、平均粒子径の小さい第2の吸熱材24を併用しており、中心付近まで脱水しきれない可能性のある吸熱材が相対的に減るため、電池セル30表面のピーク温度を低く抑えることができる。
【0040】
この組電池用吸熱シート10の具体的な使用形態としては、図4に示すように、複数の電池セル30が、組電池用吸熱シート10を介して配置され、複数の電池セル30同士が直列または並列に接続された状態(接続された状態は図示を省略)で、電池ケース40に格納されて組電池100が構成される。なお、電池セル30は、例えば、リチウムイオン二次電池が好適に用いられるが、特にこれに限定されず、その他の二次電池にも適用され得る。
【0041】
<組電池用吸熱シートの詳細>
次に、組電池用吸熱シート10を構成する吸熱材22,24の平均粒子径および混合比について説明する。
【0042】
第1の吸熱材22の平均粒子径は、好ましくは5μm以上100μm以下であり、より好ましくは7μm以上30μm以下、更に好ましくは10μm以上20μm以下である。第1の吸熱材22の平均粒子径を上記範囲に設定することにより、比較的長い時間にわたって吸熱し、経過時間の初期段階における温度の立ち上がり後における、吸熱保持時間を長く維持する効果を十分に発揮することができる。
【0043】
第2の吸熱材24の平均粒子径は、好ましくは0.1μm以上5μm未満であり、より好ましくは0.5μm以上3μm以下、更に好ましくは0.7μm以上2μm以下である。第2の吸熱材24の平均粒子径を上記範囲に設定することにより、経過時間の初期段階における急激な温度上昇に対応して吸熱し、経過時間に対する温度の立ち上がり勾配を小さく抑える効果を十分に発揮することができる。
【0044】
平均粒子径の大きい第1の吸熱材22と、平均粒子径の小さい第2の吸熱材24の混合比は、質量比で、90:10~10:90の範囲内で任意に設定可能である。好ましい混合比は、70:30~30:70であり、より好ましい混合比は、65:35~35:65である。上記した好ましい又はより好ましい混合比とすることにより、第1の吸熱材22が作用する、経過時間の初期段階における温度の立ち上がり後における、吸熱保持時間を長く維持する効果と、第2の吸熱材24が作用する、経過時間の初期段階における温度の立ち上がり勾配を小さく抑える効果との良好なバランスを図ることができる。
【0045】
また、第2の吸熱材24の含有量を第1の吸熱材22の含有量より多くする、すなわち、第1の吸熱材22の含有量を第2の吸熱材24の含有量より少なくすることで、第2の吸熱材24が作用する効果を優先的に発揮することができる。
一方、第1の吸熱材22の含有量を第2の吸熱材24の含有量より多くすることで、第1の吸熱材22が作用する効果を優先的に発揮することができる。
したがって、組電池用吸熱シート10に求める吸熱反応の作用効果に応じて、適宜、平均粒子径の大きい第1の吸熱材22と、平均粒子径の小さい第2の吸熱材24の混合比を設定することができる。
【0046】
続いて、組電池用吸熱シート10を構成する吸熱材22,24の材質について説明する。吸熱材22,24は、例えば、無機水和物及び/又は脱水剤である。すなわち、吸熱材22,24として、無機水和物のみ又は脱水剤のみを使用してもよく、また、これらを併用してもよい。
【0047】
吸熱材22,24が無機水和物を必須として含有する場合には、無機水和物としては、例えば、熱分解開始温度が200℃以上とすることができる。上記無機水和物として、水酸化アルミニウム(Al(OH))、水酸化マグネシウム(Mg(OH))、水酸化カルシウム(Ca(OH))、水酸化亜鉛(Zn(OH))、水酸化鉄(Fe(OH))、水酸化マンガン(Mn(OH))、水酸化ジルコニウム(Zr(OH))、水酸化ガリウム(Ga(OH))などが挙げられる。
これらの無機水和物は、単独で使用してもよいし、2種以上組み合わせて使用してもよい。すなわち、第1の吸熱材22と第2の吸熱材24とで、同じ材料を用いても良く、また、第1の吸熱材22と第2の吸熱材24とで、異なる同じ材料を用いても良い。
【0048】
なお、水酸化アルミニウムの熱分解開始温度は約200℃であり、水酸化マグネシウムの熱分解開始温度は約330℃であり、水酸化カルシウムの熱分解開始温度は約580℃であり、水酸化亜鉛の熱分解開始温度は約200℃であり、水酸化鉄の熱分解開始温度は約350℃であり、水酸化マンガンの熱分解開始温度は約300℃であり、水酸化ジルコニウムの熱分解開始温度は約300℃であり、水酸化ガリウムの熱分解開始温度は約300℃である。すなわち、無機水和物の種類により、水分放出温度が異なっている。
【0049】
このような熱分解開始温度が異なる2種以上の吸熱材22,24、すなわち水分放出温度が異なる2種以上の吸熱材22,24を併用すれば、温度上昇した電池セル30を広い温度領域で冷却することができ、熱暴走時の各電池セル30間の熱の伝播を効果的に抑制することが可能となるため、好ましい。
【0050】
水分放出温度が異なる2種以上の吸熱材22,24を併用する場合、第1の吸熱材22の水分放出温度は、第2の吸熱材24の水分放出温度より高く設定することができる。これにより、第1の吸熱材22が水分放出温度に達するまでに、より長い時間を要することとなる。経過時間の初期段階における温度の立ち上がり後における、吸熱保持時間をより長く維持できると考えられる。
【0051】
ところで、吸熱材22,24として水酸化アルミニウムを用いる場合、水酸化アルミニウム中には約35%の結晶水を有しており、下記式に示すように、熱分解時に結晶水を放出することで、消炎機能(吸熱反応)を発揮することができる。
2Al(OH)→Al+3H
この機能により、電池セル30で発生した高温の熱を吸収することができ、電池セル30の発熱量を低減することができる。
【0052】
なお、水酸化アルミニウムのような、熱分解温度が200℃以上である無機水和物は、電池セル30の熱暴走が生じた場合の電池セル30表面の上昇温度と温度範囲が大きく重複しているため、異常時における電池セル30の温度上昇に伴い、熱分解により脱水反応(吸熱反応)を生ずることで、効果的に各電池セル30間の熱の伝播を抑制することができる。
【0053】
特に、水酸化アルミニウムにあっては、上記無機水和物の中で熱分解開始温度が低め(熱分解開始温度:約200℃)であるため、電池セルの異常時の初期段階(比較的低めの温度)から、電池セル30の冷却を行うことができるため、好ましい。
【0054】
続いて、吸熱材22,24が脱水剤を必須として含有する場合には、脱水剤としては、例えば、シリカゲル、活性アルミナ、活性炭、ゼオライト、イオン交換樹脂などのような水分吸着剤、あるいは、硫酸塩水和物、亜硫酸塩水和物、リン酸塩水和物、硝酸塩水和物、酢酸塩水和物、金属水和塩などが挙げられる。
これらの脱水剤は、単独で使用してもよいし、2種以上組み合わせて使用してもよい。すなわち、第1の吸熱材22と第2の吸熱材24とで、同じ材料を用いても良く、また、第1の吸熱材22と第2の吸熱材24とで、異なる同じ材料を用いても良い。
【0055】
ここで、硫酸塩水和物としては、例えば、硫酸アンモニウムアルミニウム12水和物、硫酸ナトリウムアルミニウム12水和物、硫酸アルミニウム27水和物、硫酸アルミニウム18水和物、硫酸アルミニウム16水和物、硫酸アルミニウム10水和物、硫酸アルミニウム6水和物、硫酸カリウムアルミニウム12水和物、硫酸鉄7水和物、硫酸鉄9水和物、硫酸カリウム鉄12水和物、硫酸マグネシウム7水和物、硫酸ナトリウム10水和物、硫酸ニッケル6水和物、硫酸亜鉛7水和物、硫酸ベリリウム4水和物、硫酸ジルコニウム4水和物等が挙げられる。
亜硫酸塩水和物としては、例えば、亜硫酸亜鉛2水和物、亜硫酸ナトリウム7水和物等が挙げられる。
リン酸塩水和物としては、例えば、リン酸アルミニウム2水和物、リン酸コバルト8水和物、リン酸マグネシウム8水和物、リン酸マグネシウムアンモニウム6水和物、リン酸水素マグネシウム3水和物、リン酸水素マグネシウム7水和物、リン酸亜鉛4水和物、リン酸二水素亜鉛2水和物等が挙げられる。
【0056】
硝酸塩水和物としては、例えば、硝酸アルミニウム9水和物、硝酸亜鉛6水和物、硝酸カルシウム4水和物、硝酸コバルト6水和物、硝酸ビスマス5水和物、硝酸ジルコニウム5水和物、硝酸セリウム6水和物、硝酸鉄6水和物、硝酸鉄9水和物、硝酸ニッケル6水和物、硝酸マグネシウム6水和物等が挙げられる。
上記酢酸塩水和物としては、例えば、酢酸亜鉛2水和物、酢酸コバルト4水和物等が挙げられる。
金属水和塩としては、例えば、塩化コバルト6水和物、塩化鉄4水和物等の塩化物塩、ホウ砂(四ホウ酸ナトリウム5水和物、四ホウ酸ナトリウム10水和物)、八ホウ酸二ナトリウム四水物、ホウ酸亜鉛3.5水和物等のホウ酸塩等が挙げられる。
【0057】
脱水剤のうち、より多くの水分を放出することができ、かつ、脱水温度範囲が広いという特性を有する観点から、特にゼオライトを用いることが好ましい。ゼオライトとしては、特に種類に限定されるものではなく、例えば、β型ゼオライト、Y型ゼオライト、フェリエライト、ZSM-5型ゼオライト、モルデナイト、フォージサイト、ゼオライトAおよびゼオライトL等が挙げられる。
【0058】
ゼオライトは、3次元網目構造を有するアルミノケイ酸塩である。水分を吸着するゼオライトは安定的に存在するため、通常、常温条件下で3次元網目構造の隙間に水分などを吸着している。しかし、ある温度以上の熱が与えられることにより、ゼオライトに吸着されていた水分がゼオライトから脱着する。しかし、水分を吸着していないゼオライトは不安定であるため、脱水したゼオライトは高い吸着作用を有するため、温度が低下した後は再び水分を吸着する。
【0059】
続いて、組電池用吸熱シート10を構成する他の材料について説明する。組電池用吸熱シート10は、成形時の強度向上を目的として、無機繊維やパルプ繊維を含んでいてもよい。
【0060】
上記無機繊維としては、例えば、シリカ-アルミナ繊維、アルミナ繊維、シリカ繊維、ロックウール、アルカリアースシリケート繊維、ガラス繊維、ジルコニア繊維およびチタン酸カリウムウィスカ繊維などが挙げられる。これらの無機繊維は、耐熱性、強度、入手容易性などの点で好ましい。上記無機繊維は、単独で使用してもよいし2種以上組み合わせて使用してもよい。上記無機繊維のうち、取り扱い性の観点から、特にシリカ-アルミナ繊維、アルミナ繊維、シリカ繊維、ロックウール、アルカリアースシリケート繊維、ガラス繊維が好ましい。
【0061】
上記無機繊維の断面形状は、特に限定されず、円形断面、平断面、中空断面、多角断面、芯断面などが挙げられる。中でも、中空断面、平断面または多角断面を有する異形断面繊維は、断熱性が若干向上されるため好適に使用することができる。
【0062】
上記無機繊維の平均繊維長の好ましい下限は0.1mmであり、より好ましい下限は0.5mmである。一方、上記無機繊維の平均繊維長の好ましい上限は50mmであり、より好ましい上限は10mmである。上記無機繊維の平均繊維長が0.1mm未満であると、無機繊維同士の絡み合いが生じにくく、得られる吸熱シート10の機械的強度が低下するおそれがある。一方、50mmを超えると、補強効果は得られるものの無機繊維同士が緊密に絡み合うことができなったり、単一の無機繊維だけで丸まったりし、それにより連続した空隙が生じやすくなるので断熱性の低下を招くおそれがある。
【0063】
上記無機繊維の平均繊維径の好ましい下限は1μmであり、より好ましい下限は2μmであり、更に好ましい下限は3μmである。一方、上記無機繊維の平均繊維径の好ましい上限は10μmであり、より好ましい上限は7μmである。上記無機繊維の平均繊維径が1μm未満であると、無機繊維自体の機械的強度が低下するおそれがある。また、人体の健康に対する影響の観点より、上記無機繊維の平均繊維径が3μm以上であるが好ましい。一方、上記無機繊維の平均繊維径が10μmより大きいと、無機繊維を媒体とする固体伝熱が増加して断熱性の低下を招くおそれがあり、また、吸熱シート10の成形性が悪化するおそれがある。
【0064】
この無機繊維やパルプ繊維は、吸熱シート10を構成する材料の合計重量に対して、10~70質量%の範囲で必要に応じて使用することができる。
【0065】
吸熱シート10を構成する材料として、有機バインダーを必要に応じて使用してもよい。この有機バインダーは、成形時の強度向上を目的とする上で有用であり、例えば高分子凝集剤やアクリルエマルジョンなどを好適に使用することができる。
上記有機バインダーの配合量としては、吸熱シート10を構成する材料の合計重量に対して0.5~5.0質量%の範囲で必要に応じて使用することができる。
【0066】
上記吸熱シート10の厚さとしては特に限定されないが、0.05~5mmの範囲にあることが好ましい。吸熱シート10の厚さが0.05mm未満であると、充分な機械的強度を吸熱シート10に付与することができない。一方、吸熱シート10の厚さが5mmを超えると、吸熱シート10の成形自体が困難となるおそれがある。
【0067】
(第2の実施形態)
続いて、本発明の第2の実施形態に係る組電池用吸熱シートについて説明する。第2の実施形態は、当該吸熱シートが複層(積層体)の場合である。
【0068】
図2は、第2の実施形態に係る組電池用吸熱シート10の構成例を模式的に示す断面図である。本実施形態に係る組電池用吸熱シート10は、吸熱シート10における厚み方向(図中の上下方向)中心部に第1の吸熱材22を主成分とする第1の吸熱層12が配置され、該第1の吸熱層12の両面に第2の吸熱材24を主成分とする第2の吸熱層14が配置された3層から構成される。また、第1の吸熱層12の厚さtは、第2の吸熱層の厚さtよりも厚く設定されている。
【0069】
本実施形態によれば、厚み方向中心部の第1の吸熱層12の両面に、平均粒子径の小さい第2の吸熱材24を主成分とする第2の吸熱層14が配置されていることから、第2の吸熱層14が電池セル30の表面に接するため、単位時間当たりの吸熱量がより大きい第2の吸熱材24が、経過時間の初期段階における急激な温度上昇に対応して、優先的に(積極的に)に吸熱する。そして、平均粒子径の大きい第1の吸熱材22を主成分とする第1の吸熱層12が厚み方向中心部に配置されているため、経過時間の初期段階における温度の立ち上がり後における、吸熱保持時間をより長く維持することができる。
【0070】
すなわち、本実施形態では、吸熱反応の初期段階では、第1の吸熱層12が優先的に作用し、吸熱反応の後期段階では、第2の吸熱層14が優先的に作用するという役割分担を行うため、第1の実施形態(吸熱シート10が単層の場合)に比べ、本実施形態の作用効果をより効果的に発現することができる。
【0071】
さらに、図2に示すように、第1の吸熱層12の厚さtが、第2の吸熱層14の厚さtよりも厚い場合には、第1の吸熱層12が発揮する作用を十分に発揮することができるため、上記したような、吸熱材が水分を放出した後の、吸熱シート10が通常の断熱材としての機能を発揮する段階(温度の平衡状態)に至るまでの経過時間を最大限に長くすることが可能となるため好ましい。
【0072】
ところで、図2においては、第1の吸熱層12は第1の吸熱材22のみからなり、第2の吸熱層14は第2の吸熱材24のみからなる例を示しているが、例えば、図3に示すように、3層からなる第1の吸熱層12および第2の吸熱層14のいずれにおいても、第1の吸熱材22と第2の吸熱材24とを混合することもできる。この場合、厚み方向中心部の第1の吸熱層12には第1の吸熱材22が主成分として含まれ、第2の吸熱層14には第2の吸熱材24が主成分として含まれるような形態であっても良い。なお、主成分とは、第1の吸熱層12または第2の吸熱層14を構成する材料のうち、含有量が最も多い材料を意味する。
【0073】
(組電池用吸熱シートの製造方法)
続いて、組電池用吸熱シート10の製造方法について詳細に説明する。
【0074】
本実施形態に係る吸熱シート10は、第1の吸熱材22と第2の吸熱材24から構成される材料を、乾式成形法または湿式成形法により型成形して製造される。以下に、吸熱シート10をそれぞれの成形法により得る場合の製造方法について説明する。
【0075】
[乾式成形法を用いて製造する場合]
まず、乾式成形法では、第1の吸熱材22および第2の吸熱材24、更に必要に応じて無機繊維やパルプ繊維、あるいは有機バインダーを所定の割合でV型混合機などの混合機に投入する。混合機に投入された材料を充分に混合した後、所定の型内に混合物を投入し、プレスすることにより吸熱シート10を得る。プレス時には、必要に応じて加熱してもよい。
【0076】
上記プレス圧は、0.98~9.80MPaの範囲であることが好ましい。プレス圧が0.98MPa未満であると、得られる吸熱シート10において、強度を保つことができずに崩れてしまうおそれがある。一方、プレス圧が9.80MPaを超えると、過度の圧縮によって加工性が低下したり、更に、かさ密度が高くなるため固体伝熱が増加し、断熱性が低下するおそれがある。
【0077】
[湿式成形法を用いて製造する場合]
続いて、湿式成形法では、第1の吸熱材22および第2の吸熱材24、更に必要に応じて無機繊維やパルプ繊維、あるいは有機バインダーを水中で混合撹拌して充分に分散させ、その後、凝集剤を添加して、一次凝集体を得る。次に、必要に応じて有機弾性物質のエマルジョンなどを所定の範囲内で上記水中に添加した後、高分子凝集剤を添加することにより凝集体を含むスラリーを得る。
【0078】
次に、上記凝集体を含むスラリーを所定の型内へ投入して湿潤した吸熱シート10を得る。得られた吸熱シート10を乾燥することにより、目的の吸熱シート10が得られる。
【0079】
上述のように、吸熱シート10は、乾式成形法または湿式成形法のいずれによっても得られるが、一体成形の容易性や機械的強度の点から湿式成形法を用いることが好ましい。
【0080】
また、図2図3に示すような、中間層として第1の吸熱材22を主成分とする第1の吸熱層12と、その両面に形成され、第2の吸熱材24を主成分とする第2の吸熱層14とを有する3層から構成される吸熱シート10は、第1の吸熱層12および第2の吸熱層14を、それぞれ上記製造方法に基づき作製した後、これらの層がウェット状態での加圧プレスや、これら部材の乾燥後に接着剤を用いて接着する方法などにより得ることができる。
【実施例
【0081】
以下に、本実施形態に係る組電池用吸熱シートの実施例を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0082】
<実施例1>
吸熱材に用いられる無機水和物として、平均粒子径:1μmおよび平均粒子径17μmの水酸化アルミニウム(Al(OH))粉末を準備した。そして、これらの水酸化アルミニウム粉末を質量比で50:50の混合割合で80質量%とした上で、無機繊維としてロックウールを10質量%、パルプ繊維を9質量%、高分子凝集材を1質量%加え、十分に撹拌混合してスラリーを調製した。上記スラリーを抄造して厚さ2mmの組電池用吸熱シートを得た。なお、用いた水酸化アルミニウムの熱分解開始温度は、約200℃であった。
【0083】
<比較例1>
アルカリアースシリケート(AES)ファイバーにより構成される厚み2mmのシートを準備し、組電池用吸熱シートとした。
【0084】
<比較例2>
吸熱材に用いられる無機水和物として、実施例1で使用したものと同一である、平均粒径:17μmの水酸化アルミニウム(Al(OH))粉末を準備した。そして、この水酸化アルミニウム粉末を80質量%とした上で、無機繊維としてロックウールを10質量%、パルプ繊維を9質量%、高分子凝集材を1質量%加え、十分に撹拌混合してスラリーを調製した。上記スラリーを抄造して厚さ2mmの組電池用吸熱シートを得た。
【0085】
<比較例3>
吸熱材に用いられる無機水和物として、実施例1で使用したものと同一である、平均粒径:1μmの水酸化アルミニウム(Al(OH))粉末を準備した。そして、この水酸化アルミニウム粉末を80質量%とした上で、無機繊維としてロックウールを10質量%、パルプ繊維を9質量%、高分子凝集材を1質量%加え、十分に撹拌混合してスラリーを調製した。上記スラリーを抄造して厚さ2mmの組電池用吸熱シートを得た。
【0086】
実施例1および比較例1~比較例3で得られた組電池用吸熱シートの一方の面に隣接するようにヒーターを配置し、他方の面に隣接する電池セルを模擬した金属板を配置した。ヒーター温度が約30秒で700℃になるように加熱し、経過時間に対する隣接する電池セル(金属板)表面の温度変化を測定した。
【0087】
実施例1、比較例1~比較例3における、経過時間に対する隣接する電池セル表面の温度変化をプロットしたグラフを図5に示す。
【0088】
比較例1に示すアルカリアースシリケート(AES)ファイバーからなる組電池用吸熱シートは、断熱材としての機能のみを有するため、ヒーター温度の上昇に伴い、隣接するセル表面の温度は単調に上昇し続けた。その後、隣接するセル表面の温度が約250℃に達したところで、温度がほぼ平衡状態となった。
【0089】
これに対し、無機水和物を含有する組電池用吸熱シート(実施例1、比較例2および比較例3)の場合、無機水和物による吸熱作用が働いている間は、隣接するセル表面の温度は一旦、約100℃で維持された。その後、すなわち結晶水を放出した後は、通常の断熱材として機能すべく、急な温度上昇を経た後、それぞれ所定の温度に達したところで、温度がほぼ平衡状態となった。
【0090】
なお、比較例2は、吸熱シート10における吸熱材として、平均粒子径が大きい(平均粒子径:17μm)第1の吸熱材22のみから構成されている。ここで、同じ体積で比較した場合、第1の吸熱材22は、平均粒子径が小さい(平均粒子径:1μm)第2の吸熱材24より表面積が小さく、したがって受熱面積も小さいため、単位時間当たりの吸熱量は、第2の吸熱材24のそれ比べて小さくなる。よって、図5の曲線Aで示すように、平均粒子径が小さい(平均粒子径:1μm)第2の吸熱材24のみから構成されている吸熱シート10(図5の曲線B:比較例3)に比べ、経過時間の初期段階(吸熱反応の初期段階)における温度の立ち上がり勾配が大きくなっている(すなわち、経過時間に対する隣接するセル表面の温度の傾きが、急になっている。)。また、隣接するセル表面のピーク温度は、比較例1の約250℃に比べて低いものの、約230℃まで上昇した。
【0091】
また、平均粒子径が大きいことから、中心付近にある無機水和物(吸熱材)の温度が反応温度に達するまでにある程度の時間を要する。よって、約100℃の一定温度で維持する吸熱保持時間T図5参照)は、平均粒子径が小さい(平均粒子径:1μm)第2の吸熱材24のみから構成されている吸熱シート10(図5の曲線B:比較例3)を用いた場合の吸熱保持時間Tよりも長かった。
【0092】
一方、比較例3は、吸熱シート10における吸熱材として、平均粒子径が小さい(平均粒子径:1μm)第1の吸熱材22のみから構成されている。ここで、同じ体積で比較した場合、第2の吸熱材24は、平均粒子径が大きい(平均粒子径:17μm)第1の吸熱材22より表面積が大きく、したがって受熱面積も大きいため、単位時間当たりの吸熱量は、第1の吸熱材22のそれ比べて小さくなる。よって、図5の曲線Bで示すように、平均粒子径が大きい(平均粒子径:17μm)第1の吸熱材22のみから構成されている吸熱シート10(図5の曲線A:比較例2)に比べ、経過時間の初期段階(吸熱反応の初期段階)における温度の立ち上がり勾配が小さくなっていることから、急激に上昇する熱に対して有効に作用することが理解される。
【0093】
また、平均粒子径が小さいため、中心付近にある無機水和物(吸熱材)も比較的短時間で反応温度(例えば、約200℃)に達し、第2の吸熱材24全体が短時間で有効に作用する。したがって、第2の吸熱材24の有効総吸熱量は、第1の吸熱材22の有効総吸熱量より大きくなっていると考えられ、温度飽和状態におけるピーク温度は、第1の吸熱材22のみから構成される吸熱シート10(比較例2)によるピーク温度(約230℃)よりも低い、約210℃までしか上昇しなかった。
【0094】
続いて、平均粒子径:1μmおよび平均粒子径:17μmの水酸化アルミニウム(Al(OH))粉末を、質量比で50:50の混合割合で80質量%混合した、実施例1の組電池用吸熱シート10(図5の曲線C)は、平均粒子径の小さい(平均粒子径:1μm)第2の吸熱材24が有する作用により、経過時間に対する温度の立ち上がり勾配が小さくなると共に、平均粒子径の大きい(平均粒子径:17μm)第1の吸熱材22が有する作用により、吸熱保持時間Tを、比較例2における吸熱保持時間Tと同等にまで、長く維持することができた。
この結果、無機水和物が結晶水を放出した後の、吸熱シート10が断熱材としての機能を発揮する段階(温度が平衡状態となる段階)に至るまでの経過時間を長くすることができた。すなわち、吸熱シート10が、吸熱材としての機能を発揮している時間をより長くする維持できることが実験により確認された。
【0095】
また、実施例1では、隣接するセル表面のピーク温度が約210℃までしか上昇しなかった。これは、平均粒子径の小さい第2の吸熱材24のみから構成される吸熱シート10(実施例3)の結果と同等であり、平均粒子径の異なる2種以上の吸熱材、すなわち粒度分布のピークが2つ以上の吸熱材を用いた場合にも、ピーク温度を低い温度に維持できることが確認された。
【0096】
以上のことから、実施例1の吸熱シートは、電池セルとしての異常時における各電池セル間の熱の伝播を効果的に抑制できることが実験的に示された。
【符号の説明】
【0097】
10 組電池用吸熱シート
12 第1の吸熱層
14 第2の吸熱層
22 第1の吸熱材(吸熱材)
24 第2の吸熱材(吸熱材)
30 電池セル
40 電池ケース
100 組電池
第1の吸熱層の厚さ
第2の吸熱層の厚さ
図1
図2
図3
図4
図5