(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-24
(45)【発行日】2022-12-02
(54)【発明の名称】全固体電池
(51)【国際特許分類】
H01M 10/0585 20100101AFI20221125BHJP
H01M 10/0562 20100101ALI20221125BHJP
H01M 4/13 20100101ALI20221125BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20221125BHJP
【FI】
H01M10/0585
H01M10/0562
H01M4/13
H01M4/62 Z
(21)【出願番号】P 2018235722
(22)【出願日】2018-12-17
【審査請求日】2021-08-17
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109210
【氏名又は名称】新居 広守
(74)【代理人】
【識別番号】100137235
【氏名又は名称】寺谷 英作
(74)【代理人】
【識別番号】100131417
【氏名又は名称】道坂 伸一
(72)【発明者】
【氏名】宮武 和史
(72)【発明者】
【氏名】堀川 晃宏
(72)【発明者】
【氏名】大河内 基裕
【審査官】前田 寛之
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-010816(JP,A)
【文献】特開2016-091750(JP,A)
【文献】中国実用新案第205194796(CN,U)
【文献】特開2017-157362(JP,A)
【文献】特開2007-294400(JP,A)
【文献】国際公開第2002/078114(WO,A1)
【文献】特開2018-181473(JP,A)
【文献】特開2001-015165(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M10/00-10/39
H01M 4/00- 4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極集電体と、前記正極集電体上に積層された、少なくとも正極活物質と固体電解質とを含む正極合剤層とを備える正極層と、
負極集電体と、前記負極集電体上に積層された、少なくとも負極活物質と固体電解質とを含む負極合剤層とを備える負極層と、
前記正極合剤層と前記負極合剤層との間に配置され、少なくともイオン伝導性を有する固体電解質を含む固体電解質層と、
を備え、
積層方向からの平面視において、前記正極合剤層の面積よりも前記負極合剤層の面積が大きく、前記正極合剤層の全体が前記負極合剤層に重な
り、
前記正極合剤層は、前記正極合剤層の平面視での外周部より内側に、前記正極合剤層の平面視での外周部における積層方向の厚みよりも積層方向の厚みが大きい箇所を有し、
前記負極合剤層は、前記正極合剤層の平面視での外周部における積層方向の厚みよりも積層方向の厚みが大きい箇所と対向する位置の前記負極合剤層の積層方向の厚みが、前記負極合剤層の平面視での外周部における積層方向の厚みよりも小さく、
前記正極合剤層は、前記正極集電体上に均一な厚みに積層された正極合剤層一層目と、前記正極合剤層一層目上に積層され、平面視での外周部の厚みに比べて厚みが大きい箇所を当該外周部より内側に有する正極合剤層二層目と、を含む
全固体電池。
【請求項2】
前記正極合剤層二層目は、丸みを帯びた凸形状を有し、
前記負極合剤層は、積層方向からの平面視において前記正極合剤層と重なる位置に配置され、丸みを帯びた凹形状の第1部分と、積層方向からの平面視において前記正極合剤層の外側の位置に配置され、均一な厚みの第2部分と、を有する、
請求項1に記載の全固体電池。
【請求項3】
前記正極合剤層の平面視での中央部における積層方向の厚みが、前記正極合剤層の平面視での外周部における積層方向の厚みよりも大きく、
前記負極合剤層の平面視での中央部における積層方向の厚みが、前記負極合剤層の平面視での外周部における積層方向の厚みよりも小さい、
請求項1または2に記載の全固体電池。
【請求項4】
前記正極合剤層の平面視での中央部における積層方向の厚みが、前記正極合剤層において最も大きく、
前記負極合剤層の平面視での中央部における積層方向の厚みが、前記負極合剤層において最も小さい、
請求項3に記載の全固体電池。
【請求項5】
前記正極合剤層において積層方向の厚みが最も大きい箇所の厚みが、前記正極合剤層の平面視での外周部における積層方向の厚みの103%以上110%以下である、
請求項
1~4のいずれか1項に記載の全固体電池。
【請求項6】
前記負極合剤層において積層方向の厚みが最も小さい箇所の厚みが、前記正極合剤層の平面視での外周部と対向する位置での前記負極合剤層の積層方向の厚みの90%以上97%以下である、
請求項
1~5
のいずれか1項に記載の全固体電池。
【請求項7】
前記正極合剤層において積層方向の厚みが最も大きい箇所と平面視において対向する位置での前記固体電解質層の積層方向の厚みと、前記正極合剤層の平面視での外周部と対向する位置での前記固体電解質層の積層方向の厚みとの差が、前記正極合剤層において積層方向の厚みが最も大きい箇所と平面視において対向する位置での前記固体電解質層の積層方向の厚みの5%以下である、
請求項1~6のいずれか1項に記載の全固体電池。
【請求項8】
前記正極合剤層、および前記負極合剤層の少なくとも一方にバインダーが含まれる、
請求項1~7のいずれか1項に記載の全固体電池。
【請求項9】
前記正極合剤層、および前記負極合剤層の少なくとも一方に導電助剤が含まれる、
請求項1~8のいずれか1項に記載の全固体電池。
【請求項10】
前記正極合剤層、および前記負極合剤層の少なくとも一方の溶剤濃度が10ppm以下である、
請求項1~9のいずれか1項に記載の全固体電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、正極層、負極層および固体電解質層を用いた全固体電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、パソコンおよび携帯電話などの電子機器の軽量化およびコードレス化などにより、繰り返し使用可能な二次電池の開発が求められている。二次電池として、ニッケルカドミウム電池、ニッケル水素電池、鉛畜電池およびリチウムイオン電池などがある。これらの中でも、リチウムイオン電池は、軽量、高電圧および高エネルギー密度といった特徴があることから、注目を集めている。
【0003】
リチウムイオン電池は、正極層、負極層およびこれらの間に配置された電解質によって構成されており、電解質には、例えば六フッ化リン酸リチウムなどの支持塩を有機溶媒に溶解させた電解液、または固体電解質が用いられる。現在、広く普及しているリチウムイオン電池は、有機溶剤を含む電解液が用いられているため可燃性である。そのため、リチウムイオン電池の安全性を確保するための材料、構造およびシステムが必要である。これに対し、電解質として不燃性である固体電解質を用いることで、上記、材料、構造およびシステムを簡素化できることが期待され、エネルギー密度の増加、製造コストの低減および生産性の向上を図ることができると考えられる。以下、固体電解質を用いたリチウムイオン電池を、「全固体電池」と呼ぶこととする。
【0004】
固体電解質は、大きくは有機固体電解質と無機固体電解質とに分けることができる。有機固体電解質は、25℃において、イオン伝導度が10-6S/cm程度であり、電解液のイオン伝導度が10-3S/cm程度であることと比べて極めて低い。そのため、有機固体電解質を用いた全固体電池を25℃の環境で動作させることは困難である。無機固体電解質としては、酸化物系固体電解質と硫化物系固体電解質とがある。これらのイオン伝導度は10-4~10-3S/cm程度であり、比較的イオン伝導度が高い。酸化物系固体電解質は、粒界抵抗が大きい。そこで、粒界抵抗を下げる手段として、粉体の焼結および薄膜化が検討されているが、焼結した場合は高温での処理により、正極あるいは負極の構成元素と固体電解質との構成元素が相互拡散するため、十分な特性を得ることが難しい。そのため、酸化物系固体電解質を用いた全固体電池は、薄膜での検討が主流である。一方で、硫化物系固体電解質は、酸化物系固体電解質と比べて粒界抵抗が小さいため、粉体の圧縮成型のみで、良好な特性が得られることから、近年盛んに研究が進められている。
【0005】
全固体電池では、充放電の繰り返しに伴い、負極層に金属リチウムが成長し、成長した金属リチウムが正極合剤層まで伸びることがある。特許文献1では、全固体電池の信頼性を高めるため、固体電解質層の表面に緻密な膜を作ることで、金属リチウムが正極側まで伸びることを抑制できる全固体電池が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に開示されている全固体電池では、金属リチウムが正極まで伸びることは抑制できるが、金属リチウム自体の発生を抑制することはできず、より信頼性の高い全固体電池が求められている。
【0008】
そこで、本開示では、より信頼性の高い全固体電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本開示の一形態に係る全固体電池は、正極集電体と、前記正極集電体上に積層された、少なくとも正極活物質と固体電解質とを含む正極合剤層とを備える正極層と、負極集電体と、前記負極集電体上に積層された、少なくとも負極活物質と固体電解質とを含む負極合剤層とを備える負極層と、前記正極合剤層と前記負極合剤層との間に配置され、少なくともイオン伝導性を有する固体電解質を含む固体電解質層と、を備え、積層方向からの平面視において、前記正極合剤層の面積よりも前記負極合剤層の面積が大きく、前記正極合剤層の全体が前記負極合剤層に重なる。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、より信頼性の高い全固体電池を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、特許文献1に記載された従来の全固体電池で発生する課題を示す全固体電池の断面図である。
【
図2】
図2は、本開示における全固体電池の斜視図である。
【
図3】
図3は、本開示における正極合剤層の凸構造を示す正極層の斜視図である。
【
図4】
図4は、本開示における全固体電池のプレス工程前およびプレス工程後の状態を示した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(本開示に至った知見)
正極集電体111、正極合剤層112、固体電解質層121、負極合剤層132および負極集電体131を備える従来の全固体電池100では、
図1に示されるように、負極集電体131上の負極合剤層132が積層されていない領域において、金属リチウム150の発生および成長を抑制することはできず、正極合剤層112まで伸びることがあり、信頼性低下の一因となる。
【0013】
そこで、本発明では、より信頼性の高い全固体電池を提供する。特に、本発明では、負極集電体上での金属リチウムの析出を抑制することにより、より信頼性の高い全固体電池を提供する。
【0014】
本開示の一態様における全固体電池は、正極集電体と、前記正極集電体上に積層された、少なくとも正極活物質と固体電解質とを含む正極合剤層とを備える正極層と、負極集電体と、前記負極集電体上に積層された、少なくとも負極活物質と固体電解質とを含む負極合剤層とを備える負極層と、前記正極合剤層と前記負極合剤層との間に配置され、少なくともイオン伝導性を有する固体電解質を含む固体電解質層と、を備え、積層方向からの平面視において、前記正極合剤層の面積よりも前記負極合剤層の面積が大きく、前記正極合剤層の全体が前記負極合剤層に重なる。
【0015】
これにより、正極合剤層の対向する位置に負極合剤層が存在することになるため、正極合剤層から負極合剤層側へ移動するリチウムイオンが、負極集電体上の負極合剤層が積層されていない領域に移動することを、抑制することができる。よって、負極集電体上での金属リチウムの析出を抑制でき、より信頼性の高い全固体電池となる。
【0016】
また、例えば、前記正極合剤層は、前記正極合剤層の平面視での外周部より内側に、前記正極合剤層の平面視での外周部における積層方向の厚みよりも積層方向の厚みが大きい箇所を有し、前記負極合剤層は、前記正極合剤層の平面視での外周部における積層方向の厚みよりも積層方向の厚みが大きい箇所と対向する位置の前記負極合剤層の積層方向の厚みが、前記負極合剤層の平面視での外周部における積層方向の厚みよりも小さくてもよい。
【0017】
これにより、負極合剤層が正極合剤層の少なくとも一部を覆うように配置されるため、負極合剤層が正極合剤層から移動するリチウムイオンをより受け取りやすくなり、負極集電体上の負極合剤層が積層されていない領域へリチウムイオンが移動することを、さらに抑制しやすくなる。
【0018】
また、例えば、前記全固体電池は、前記正極合剤層の平面視での中央部における積層方向の厚みが、前記正極合剤層の平面視での外周部における積層方向の厚みよりも大きく、
前記負極合剤層の平面視での中央部における積層方向の厚みが、前記負極合剤層の平面視での外周部における積層方向の厚みよりも小さくてもよい。
【0019】
これにより、負極合剤層が正極合剤層の少なくとも中央部を覆うように配置されるため、負極合剤層が正極合剤層から移動するリチウムイオンをより受け取りやすくなり、負極集電体上の負極合剤層が積層されていない領域へリチウムイオンが移動することを、さらに抑制しやすくなる。
【0020】
また、例えば、前記全固体電池は、前記正極合剤層の平面視での中央部における積層方向の厚みが、前記正極合剤層において最も大きく、前記負極合剤層の平面視での中央部における積層方向の厚みが、前記負極合剤層において最も小さくてもよい。
【0021】
これにより、負極合剤層が正極合剤層の負極合剤層側を全体的に覆うように配置されるため、負極合剤層が正極合剤層から移動するリチウムイオンをより受け取りやすくなり、負極集電体上の負極合剤層が積層されていない領域へリチウムイオンが移動することを、さらに抑制しやすくなる。
【0022】
また、例えば、前記全固体電池は、前記正極合剤層において積層方向の厚みが最も大きい箇所の厚みが、前記正極合剤層の平面視での外周部における積層方向の厚みの103%以上110%以下であってもよい。
【0023】
これにより、正極合剤層における面方向の厚みの差が一定以内になる。よって、正極合剤層において積層方向の厚みが最も大きい箇所と、正極合剤層外周部との正極活物質の量の差を抑えられるため、全固体電池の面方向における充放電ばらつきを抑えることができ、さらに全固体電池の信頼性が高まる。
【0024】
また、例えば、前記全固体電池は、前記負極合剤層において積層方向の厚みが最も小さい箇所の厚みが、前記正極合剤層の平面視での外周部と対向する位置での前記負極合剤層の積層方向の厚みの90%以上97%以下であってもよい。
【0025】
これにより、負極合剤層における面方向の厚みの差が一定以内になる。よって、面方向において負極合剤層内に含まれる負極活物質の量の差を抑えられるため、全固体電池の面方向における充放電ばらつきを抑えることができ、さらに全固体電池の信頼性が高まる。また、リチウムイオンをより受け取ることに適した負極合剤層の凹形状となるため、負極合剤層が正極合剤層から移動するリチウムイオンをより受け取りやすくなり、負極集電体上の負極合剤層が積層されていない領域へリチウムイオンが移動することを、さらに抑制しやすくなる。
【0026】
また、例えば、前記全固体電池は、前記正極合剤層において積層方向の厚みが最も大きい箇所と平面視において対向する位置での前記固体電解質層の積層方向の厚みと、前記正極合剤層の平面視での外周部と対向する位置での前記固体電解質層の積層方向の厚みとの差が、前記正極合剤層において積層方向の厚みが最も大きい箇所と平面視において対向する位置での前記固体電解質層の積層方向の厚みの5%以下であってもよい。
【0027】
これにより、正極合剤層と負極合剤層との間の距離のばらつきを抑えられ、全固体電池の充放電が安定化し、さらに全固体電池の信頼性が高まる。
【0028】
また、例えば、前記全固体電池は、前記正極合剤層、および前記負極合剤層の少なくとも一方にバインダーが含まれてもよい。
【0029】
これにより、正極合剤層、負極合剤層および固体電解質層に含まれる正極活物質、負極活物質、および固体電解質の結着性が向上する。また、正極合剤層と正極集電体、および、負極合剤層と負極集電体との結着性も向上する。よって、各層および各層の材料が離脱しにくく、信頼性に優れた全固体電池が得られる。
【0030】
また、例えば、前記全固体電池は、前記正極合剤層、および前記負極合剤層の少なくとも一方に導電助剤が含まれる。
【0031】
これにより、正極合剤層内および負極合剤層内の電子伝導度が増加し、電子伝導経路を確保しやすくなる。よって、電子伝導経路を通じて伝導できる電流量が増大するため、全固体電池の充放電特性が向上する。
【0032】
また、例えば、前記全固体電池は、前記正極合剤層、および前記負極合剤層の少なくとも一方の溶剤の濃度が10ppm以下であってもよい。
【0033】
これにより、正極合剤層内および負極合剤層内に電池容量に寄与しない溶剤が少なくなる。よって、全固体電池の電池容量が向上する。また、正極合剤層内および負極合剤層内に残った溶剤が気化し、気泡が発生しにくくなることから、全固体電池の信頼性が向上する。
【0034】
以下、本開示の実施の形態に係る全固体電池について、図面を参照しながら説明する。なお、以下の実施の形態は、いずれも本開示の一具体例を示すものであり、数値、形状、材料、構成要素、構成要素の配置位置および接続形態などは一例であり、本開示を限定するものではない。また、以下の実施の形態における構成要素のうちの、本開示の最上位概念を示す独立請求項に記載されていない構成要素については、任意の構成要素として説明される。
【0035】
また、各図は、本開示を示すために適宜強調、省略、または比率の調整を行った模式図であり、必ずしも厳密に図示されたものではなく、実際の形状、位置関係、および比率とは異なる場合がある。各図において、実質的に同一の構成に対しては同一の符号を付しており、重複する説明は省略または簡素化される場合がある。
【0036】
また、本明細書において、平行などの要素間の関係性を示す用語、および、矩形などの要素の形状を示す用語、並びに、数値範囲は、厳格な意味のみを表す表現ではなく、実質的に同等な範囲、例えば数%程度の差異をも含むことを意味する表現であり、「同じ面積」とは、±5%の範囲内にあることを意味する表現である。
【0037】
また、本明細書において「平面視」とは、全固体電池の積層方向に沿って全固体電池を見た場合を意味し、本明細書における「厚み」とは、全固体電池および各層の積層方向の長さである。
【0038】
また、本明細書において「内側」、「中央部」、「外周部」および「最外部」などにおける「内」、「中」および「外」とは、全固体電池の積層方向に沿って全固体電池を見た場合における内、中および外のことである。
【0039】
また、本明細書において、全固体電池の構成における「上」および「下」という用語は、絶対的な空間認識における上方向(鉛直上方)および下方向(鉛直下方)を指すものではなく、積層構成における積層順を基に相対的な位置関係により規定される用語として用いる。また、「上方」および「下方」という用語は、2つの構成要素が互いに間隔を空けて配置されて2つの構成要素の間に別の構成要素が存在する場合のみならず、2つの構成要素が互いに密着して配置されて2つの構成要素が接する場合にも適用される。
【0040】
また、本明細書において、断面図は、全固体電池の平面視での中心にて、積層方向に切断した場合の断面を示す図である。
【0041】
(実施の形態)
以下、本実施の形態に係る全固体電池、および、全固体電池を構成する正極層、負極層、固体電解質層について、図面を参照して詳細に説明する。
【0042】
[A.全固体電池]
本実施の形態に係る全固体電池について、
図2を用いて説明する。
図2は、本実施の形態に係る全固体電池200の概略斜視図である。
【0043】
図2に示されるように、本実施の形態に係る全固体電池200は、例えば、正極集電体211と、正極集電体211上に積層された正極合剤層212とを備える正極層210と、負極集電体231と、負極集電体231上に積層された負極合剤層232とを備える負極層230と、正極合剤層212と負極合剤層232との間に配置された、少なくともイオン伝導性を有する固体電解質を含む固体電解質層221と、を備える。また、全固体電池200は、積層方向からの平面視において、正極合剤層212の面積よりも負極合剤層232の面積が大きく、正極合剤層212の全体が負極合剤層232に重なる。
【0044】
図2において、全固体電池200は、それぞれ平面視において矩形である正極集電体211と正極合剤層212と固体電解質層221と負極合剤層232と負極集電体231とが、上からこの順に積層された構造を有する。平面視において、負極合剤層232の面積は、固体電解質層221の面積と同じであり、正極合剤層212の面積よりも大きい。
【0045】
[B.正極層]
本実施の形態における正極層210について、
図2を用いて説明する。
【0046】
本実施の形態における正極層210は、例えば、金属箔からなる正極集電体211と、正極集電体211上に積層された正極合剤層212と、を備える。平面視において、正極集電体211の面積は、正極合剤層212の面積よりも大きい。
【0047】
[B-1.正極合剤層]
正極合剤層212は、最低限、正極合剤として正極活物質と固体電解質とを含んで構成される膜状の層である。正極合剤層212は、バインダー、導電助剤を必要に応じて含んでいてもよい。
【0048】
[B-1-1.正極活物質]
以下、本実施の形態における正極活物質について説明する。
【0049】
正極活物質は、負極層230よりも高い電位で結晶構造内にリチウム(Li)などの金属イオンが挿入または離脱され、リチウムなどの金属イオンの挿入または離脱に伴って酸化または還元が行われる物質をいう。正極活物質の種類は、全固体電池200の種類に応じて適宜選択されればよいが、例えば、酸化物活物質、硫化物活物質などが挙げられる。
【0050】
本実施の形態における正極活物質は、例えば、酸化物活物質(リチウム含有遷移金属酸化物)が用いられる。酸化物活物質としては、例えば、LiCoO2、LiNiO2、LiMn2O4、LiCoPO4、LiNiPO4、LiFePO4、LiMnPO4およびこれらの化合物の遷移金属を1または2の異種元素で置換することによって得られる化合物などが挙げられる。上記化合物の遷移金属を1または2の異種元素で置換することによって得られる化合物としては、LiNi1/3Co1/3Mn1/3O2、LiNi0.8Co0.15Al0.05O2、LiNi0.5Mn1.5O2など、公知の材料が用いられる。正極活物質は、1種で使用してもよく、または2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0051】
正極活物質の形状としては、例えば、粒子状および薄膜状などが挙げられる。正極活物質が粒子状である場合、正極活物質の平均粒径(D50)は、例えば、50nm以上50μm以下の範囲が好ましく、1μm以上15μm以下の範囲内であることがより好ましい。正極活物質の平均粒径を50nm以上とすることで、取扱性が良くなりやすく、一方、平均粒径を50μm以下とすることで、平坦な正極層が得られやすいことから、当該範囲が好ましい。なお、本明細書における「平均粒径」は、レーザ解析および散乱式粒度分布測定装置によって測定される体積基準の平均径である。
【0052】
正極合剤層212における正極活物質の含有量は、特に限定されるものではないが、例えば、70重量%以上100重量%以下の範囲内であることが好ましい。正極合剤層212における正極活物質の含有量を70重量%以上にすることで十分な充放電容量を有する全固体電池200が得られやすいため、当該範囲であることが好ましい。
【0053】
正極活物質の表面は、コート層で被覆されていてもよい。コート層を設ける理由は、正極活物質(例えば、酸化物活物質)と固体電解質(例えば、硫化物系固体電解質)との反応を抑制することができるからである。コート層の材料としては、例えば、LiNbO3、Li3PO4、LiPONなどのLiイオン伝導性酸化物が挙げられる。コート層の平均厚さは、例えば、1nm以上10nm以下の範囲内であることが好ましい。
【0054】
正極合剤層212に含まれる正極活物質と固体電解質との割合は、重量換算で正極活物質/固体電解質=重量比とした場合に、重量比が1以上19以下の範囲内であることが好ましい。この重量比の範囲内が好ましい理由としては、正極合剤層212内でのリチウムイオン伝導経路および電子伝導経路の両方を確保しやすいためである。
【0055】
[B-1-2.固体電解質]
以下、本実施の形態における固体電解質について説明する。
【0056】
上述のように、
図2に示される、本実施の形態における正極合剤層212は、正極活物質と固体電解質とを含有する。固体電解質は、伝導イオン種(例えば、リチウムイオン)に応じて適宜選択すればよく、例えば、大きくは硫化物系固体電解質と酸化物系固体電解質とに分けることが出来る。
【0057】
本実施の形態における硫化物系固体電解質の種類は特に限定しないが、硫化物系固体電解質としては、例えば、Li2S-SiS2、LiI-Li2S-SiS2、LiI-Li2S-P2S5、LiI-Li2S-P2O5、LiI-Li3PO4-P2S5およびLi2S-P2S5などが挙げられ、特に、リチウムイオン伝導性が優れているためLi、PおよびSを含むことが好ましい。こ硫化物系固体電解質は、1種で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。また、硫化物系固体電解質は、結晶質であってもよく、非晶質であってもよく、ガラスセラミックスであってもよい。なお、上記「Li2S-P2S5」の記載は、Li2SおよびP2S5を含む原料組成を用いてなる硫化物系固体電解質を意味し、他の記載についても同様である。
【0058】
本実施の形態においては、硫化物系固体電解質の一形態は、Li2SおよびP2S5を含む硫化物ガラスセラミックスであり、Li2SおよびP2S5の割合は、モル換算でLi2S/P2S5=モル比とした場合、モル比が1以上4以下の範囲内であることが好ましい。このモル比の範囲内が好ましい理由としては、電池特性に影響するリチウム濃度を保ちながら、イオン伝導性の高い結晶構造とするためである。
【0059】
本実施の形態における硫化物系固体電解質の形状としては、例えば、真球状および楕円球状などの粒子形状ならびに薄膜形状などが挙げられる。硫化物系固体電解質材料が粒子形状である場合、硫化物系固体電解質の平均粒径(D50)は、特に限定されるものではないが、正極層内の密度向上を図りやすくなるため、10μm以下であることが好ましい。
【0060】
次に、本実施の形態における酸化物系固体電解質について説明する。酸化物系固体電解質の種類は特に限定しないが、LiPON、Li3PO4、Li2SiO2、Li2SiO4、Li0.5La0.5TiO3、Li1.3Al0.3Ti0.7(PO4)3、La0.51Li0.34TiO0.74およびLi1.5Al0.5Ge1.5(PO4)3などが挙げられる。酸化物系固体電解質は、1種を使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0061】
また、正極合剤層212、負極合剤層232および固体電解質層221の各層に含まれる固体電解質の種類および粒径は、各層において異なるものを使い分けてもよい。
【0062】
[B-1-3.バインダー]
以下、本実施の形態におけるバインダーについて説明する。
【0063】
正極合剤層212に含まれるバインダーは、正極活物質同士、また正極活物質および固体電解質、固体電解質同士、また、正極活物質および正極集電体211、固体電解質および正極集電体211、正極活物質および固体電解質層221ならびに固体電解質および固体電解質層221の結着の役割を担う。
【0064】
なお、繰り返しにはなるが、正極合剤層212は、バインダーは含んでいてもよく、含んでいなくてもよい。正極合剤層212に接着材となるバインダーが含まない場合には、固体電解質を接着材として代用するなどの方法が挙げられる。
【0065】
具体的にバインダーとしては、例えば、ブタジエンゴム、イソプレンゴム、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、スチレン-ブタジエン-スチレン共重合体(SBS)、スチレン-エチレン-ブタジエン-スチレン共重合体(SEBS)、エチレン-プロピレンゴム、ブチルゴム、クロロプレンゴム、アクリロニトリル-ブタジエンゴム、アクリルゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴムおよびウレタンゴムなどの合成ゴム、ポリビニリデンフロライド(PVDF)、ポリビニリデンフロライド-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(PVDF-HFP)、ポリイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリビニルアルコールならびに塩素化ポリエチレン(CPE)などが挙げられる。
【0066】
[B-1-4.導電助剤]
以下、本実施の形態における導電助剤について説明する。
【0067】
本実施の形態に係る全固体電池200は、正極合剤層212に導電助剤が含まれていてもよい。
【0068】
導電助剤を添加することで、正極合剤層212は、正極合剤層212内の電子伝導度を増加させることができるため、正極合剤層212中の電子伝導経路を確保することができ、全固体電池200の内部抵抗を下げることができる。これにより、電子伝導経路を通じて伝導できる電流量が増大されるため、全固体電池の充放電特性が向上する。
【0069】
本実施の形態における導電助剤は、正極合剤層212の電子伝導度を向上させるものであれば特に限定しないが、例えば、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、カーボンブラック、グラファイト、カーボンファイバー、カーボンナノチューブなどが挙げられる。導電助剤は、1種を使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0070】
[B-2.正極集電体]
正極集電体211には、例えば、アルミニウム、金、白金、亜鉛、銅、SUS、ニッケル、スズ、チタン、または、これらの2種以上の合金などからなる箔状体、板状体または網目状体などが用いられる。
【0071】
また、正極集電体211の厚さおよび形状などについては、全固体電池200の用途に応じて適宜選択してよい。
【0072】
[C.負極層]
本実施の形態における、負極層230について、
図2を用いて説明する。
【0073】
本実施の形態における負極層230は、例えば、金属箔からなる負極集電体231と、負極集電体231上に積層された負極合剤層232と、を備える。
【0074】
[C-1.負極合剤層]
負極合剤層232は、最低限、負極合剤として負極活物質と固体電解質を含んで構成される膜状の層である。さらに、負極合剤層232は、バインダーおよび導電助剤を必要に応じて含んでいてもよい。
【0075】
[C-1-1.負極活物質]
以下、本実施の形態における負極活物質について説明する。
【0076】
負極活物質は、正極層210よりも低い電位で結晶構造内にリチウムなどの金属イオンが挿入または離脱され、リチウムなどの金属イオンの挿入または離脱に伴って酸化または還元が行われる物質をいう。
【0077】
本実施の形態における負極活物質としては、例えば、リチウム、インジウム、スズ、ケイ素といったリチウムとの易合金化金属、ハードカーボン、黒鉛などの炭素材料、および、Li4Ti5O12、SiOxなどの酸化物活物質などの、公知の材料が用いられる。また、負極活物質としては、上述した負極活物質を適宜混合した複合体なども用いてもよい。
【0078】
負極合剤層232に含まれる負極活物質と固体電解質との割合は、重量換算で負極活物質/固体電解質=重量比とした場合に、重量比が1以上19以下の範囲内であることが好ましい。この重量比の範囲内が好ましい理由としては、負極合剤層232内でのリチウムイオン伝導経路と電子伝導経路の両方を確保しやすいためである。
【0079】
[C-1-2.固体電解質]
負極合剤層232に含まれる固体電解質については、[B-1-2.固体電解質]の項で上述した固体電解質を用いればよいため、ここでの説明を省略する。
【0080】
[C-1-3.バインダー]
負極合剤層232に含まれるバインダーについても、[B-1-3.バインダー]の項で上述したバインダーを用いればよいため、ここでの説明を省略する。
【0081】
[C-1-4.導電助剤]
負極合剤層232に含まれる導電助剤についても、[B-1-4.導電助剤]の項で上述した導電助剤を用いればよいため、ここでの説明を省略する。
【0082】
[C-2.負極集電体]
負極集電体231には、例えば、SUS、金、白金、亜鉛、銅、ニッケル、チタン、スズ、または、これらの2種以上の合金などからなる箔状体、板状体または網目状体などが用いられる。
【0083】
また、負極集電体231の厚さおよび形状などについては、全固体電池の用途に応じて適宜選択してもよい。
【0084】
[D.固体電解質層]
本実施の形態における、固体電解質層221について、
図2を用いて説明する。
【0085】
本実施の形態における固体電解質層221は、少なくともリチウムイオン伝導性を有する固体電解質を含んでおり、さらに必要に応じて、固体電解質同士の密着強度を高めるために、バインダーを含んでもよい。
【0086】
[D-1.固体電解質]
固体電解質層221に含まれる固体電解質については、[B-1-2.固体電解質]の項で上述した固体電解質を用いればよいため、ここでの説明を省略する。
【0087】
[D-2.バインダー]
固体電解質層221に含まれるバインダーについては、[B-1-3.バインダー]の項で上述したバインダーを用いればよいため、ここでの説明を省略する。
【0088】
[E.その他の構成]
本実施の形態に係る全固体電池200には、図示しないが、正極集電体211の正極合剤層212とは反対側の表面に端子(金属製正極リード)を溶接して取り付けられてもよく、負極集電体231の負極合剤層232とは反対側の表面に端子(金属製負極リード)を溶接して取り付けられてもよい。端子が取り付けられて得られた全固体電池、または複数個の上記全固体電池が接続して得られた電池群は、電池用ケースに収納され、正極リードおよび負極リードが電池用ケースの外部に導出され、電池用ケースが封止されるように構成された全固体電池としてもよい。
【0089】
以上が、本実施の形態における全固体電池200の説明である。
【0090】
[F.製造方法]
[F-1.全固体電池の製造方法]
次に、本実施の形態に係る全固体電池の製造方法について
図3および
図4を用いて説明する。
図3は、本実施の形態における正極層310の斜視図であり、正極集電体211に正極合剤層322が積層された状態を示した図である。
図4は、本実施の形態にかかる全固体電池300における、後述のプレス工程前およびプレス工程後の状態を示した断面図である。
図4には、全固体電池300の平面視での中心部を通るように、積層方向に切断した場合の断面が示されている。
図4の(b)に示されるように、全固体電池300は、後述する各製造工程を経て、正極集電体211と、正極集電体211上に積層された正極合剤層322とを備える正極層310と、負極集電体231と、負極集電体231上に積層された負極合剤層232とを備える負極層230と、正極合剤層322と負極合剤層232との間に配置された、固体電解質層221と、を備える構造となる。本実施の形態に係る全固体電池300の製造方法は、例えば、正極層310、負極層230、および固体電解質層221それぞれを製造する成膜工程と、製造した正極層310、負極層230、および固体電解質層221を、正極合剤層322と負極合剤層232との間に固体電解質層221が配置されるように合わせる、または、積層する積層工程と、積層工程で得られた積層構造体にプレスを行うプレス工程と、を有する。
【0091】
[F-2.正極層の成膜工程]
本実施の形態における正極層の成膜工程について、
図3を参照しながら説明する。正極層310は、正極集電体211と、正極集電体211上に積層された正極合剤層322とを備える。
【0092】
正極合剤層322は、正極合剤層一層目312と正極合剤層二層目313とから構成され、正極合剤層一層目312を成膜する工程と、正極合剤層二層目313を成膜する工程とで製造される。
【0093】
成膜工程において、正極合剤層一層目312を成膜する方法としては、例えば、以下の2つ方法が挙げられる。
【0094】
(1)本実施の形態における正極合剤層一層目312は、例えば、塗布工程と乾燥および焼成工程とを含む成膜工程によって製造される。塗布工程では、正極活物質および固体電解質を有機溶剤に分散させ、さらに必要に応じてバインダーおよび導電助剤を当該有機溶剤に分散させてスラリーを作製し、得られたスラリーを正極集電体211の表面に塗布する。乾燥および焼成工程では、塗布工程で得られた塗膜を加熱乾燥させて有機溶剤を除去する。なお、正極合剤層一層目312の成膜方法は、乾燥および焼成工程後に、必要に応じて、正極集電体211と正極合剤層一層目312を合わせてプレスする塗膜プレス工程を含んでもよい。
【0095】
塗布工程におけるスラリーの塗布方法としては、特に限定されないが、ブレードコーター、グラビアコーター、ディップコーター、リバースコーター、ロールナイフコーター、ワイヤーバーコーター、スロットダイコーター、エアーナイフコーター、カーテンコーター、若しくは押出しコーターなど、またはこれらの組み合わせの公知の塗布方法が挙げられる。
【0096】
スラリー化に用いる有機溶剤としては、例えば、ヘプタン、キシレン、トルエンなどが挙げられるが、これらに限定するものではなく、活物質などと化学反応を起こさない溶剤を適宜選択すればよい。
【0097】
乾燥および焼成工程としては、塗膜を乾燥させて有機溶剤を除去できれば特に限定されることなく、ヒータなどを用いた公知の乾燥方法または焼成方法を採用してよい。塗膜プレス工程としても、特に制限されることはなく、プレス機などと用いた公知のプレス工程を採用してよい。
【0098】
(2)また、本実施の形態における正極合剤層一層目312は、例えば、粉体積層工程と粉体プレス工程とを含む成膜工程により製造される。粉体積層工程では、粉体状態の(スラリー化していない)固体電解質および正極活物質を混合し、さらに必要に応じてバインダーおよび導電助剤を混合した正極合剤を正極集電体211上に均一に積層する。粉体プレス工程では、粉体積層工程により得られた積層体をプレスする。
【0099】
粉体状態の正極合剤を積層する形式で製造した場合、乾燥工程が不要になり製造コストが安くなる利点があり、また、成膜後の正極合剤層に全固体電池の容量に寄与しない溶剤が残ることもなく、例えば、正極合剤層の溶剤濃度が10ppm以下となる。なお、上述の方法により負極合剤層を成膜した場合においても同様であり、例えば、負極合剤層の溶剤濃度が10ppm以下となる。
【0100】
次に、成膜工程における正極合剤層二層目313を成膜する方法としては、例えば、以下の2つの方法が考えられる。
【0101】
(1)本実施の形態における正極合剤層二層目313の成膜では、例えば、粉体状態の正極活物質および固体電解質を混合し、さらに、必要に応じてバインダーおよび導電助剤を混合した正極合剤を、正極合剤層一層目312上に積層する。
【0102】
(2)また、本実施の形態における正極合剤層二層目313の成膜では、例えば、正極合剤層二層目313の形状の金型を別途作成し、当該金型に正極合剤を詰めて正極合剤層二層目313の形状に成形し、金型形状に成形された正極合剤層二層目313を正極合剤層一層目312の上に積層することで作製する。
【0103】
なお、
図3では、正極合剤層二層目313は、丸みを帯びた凸形状をしており、正極合剤層一層目312の上面を全て覆うドーム状であり、正極合剤層二層目313の平面視での中央部の厚みが、正極合剤層二層目313において最も大きい。正極合剤層二層目313の形状は、これに限るものではなく、正極合剤層二層目313外周部の厚みに比べ、正極合剤層二層目313外周部より内側の厚みが大きい形状であればよい。また、正協合剤層313において最も厚みの厚い位置は、平面視における中心部である必要はなく、平面視における外周部以外にあればよい。正極合剤層二層目313の形状は、例えば、ドーム状以外に、半球、楕円半球、円錐、角錐、円錐台、角錐台、角柱および円柱などの形状でもよい。また、正極合剤層二層目313は、正極合剤層一層目312上面を全て覆っていなくてもよく、つまり、平面視において、正極合剤層一層目312の面が見える領域があってもよい。
【0104】
なお、
図3においては、正極合剤層322が二層構造であったが、正極合剤層一層目312の厚みが0、すなわち、正極合剤層一層目312は無く、正極合剤層二層目313のみが正極集電体211上に積層されていてもよい。
【0105】
[F-3.負極層の成膜工程]
次に本実施の形態における負極層の成膜工程について、
図4を参照しながら説明する。負極層230は、負極集電体231と、負極集電体231上に積層された負極合剤層232とを備える。本実施の形態における負極層230の成膜工程は、負極集電体231上に負極合剤層232を成膜する工程であり、例えば、以下の2つの方法があげられる。
【0106】
(1)本実施の形態における負極層230は、例えば、塗布工程と乾燥および焼成工程とを含む成膜工程によって製造される。塗布工程では、負極活物質および固体電解質を有機溶剤に分散させ、さらに必要に応じてバインダーおよび導電助剤を当該有機溶剤に分散させてスラリーを作製し、得られたスラリーを負極集電体231の表面に塗布する。乾燥および焼成工程では、塗布工程で得られた塗膜を加熱乾燥させて有機溶剤を除去する。なお、負極層230の成膜方法は、乾燥および焼成工程後に、必要に応じて、正極集電体211と正極合剤層一層目312を合わせてプレスする塗膜プレス工程を含んでもよい。
【0107】
スラリーの塗布方法、スラリー化に使用する有機溶剤ならびに乾燥および焼成工程は、正極合剤層一層目312の成膜方法に記載しているので、ここでは省略する。
【0108】
(2)また、本実施の形態における負極層230は、例えば、粉体積層工程と粉体プレス工程とを含む成膜工程により製造される。粉体積層工程では、粉体状態の(スラリー化していない)負極活物質および固体電解質を混合し、さらに必要に応じてバインダーおよび導電助剤を混合した負極合剤を負極集電体231上に均一に積層する。粉体プレス工程では、粉体積層工程により得られた積層体をプレスする。
【0109】
[F-4.固体電解質層の成膜工程]
本実施の形態における固体電解質層221の成膜工程は、固体電解質層221を成膜により製造する工程である。成膜工程において、本実施の形態における固体電解質層221は、例えば、固体電解質を有機溶剤に分散させ、さらに必要に応じてバインダーを当該有機溶剤に分散させてスラリーを作製し、得られたスラリーを基材上に塗布する点、および乾燥および焼成工程後に基材を剥がす工程を有する点以外は、上述の正極層210と同様にして作製される。
【0110】
スラリーの調製に用いる有機溶剤としては、固体電解質の性能に悪影響を与えないものであれば特に限定されないが、例えば、炭化水素系有機溶媒のヘプタン、トルエン、ヘキサンなどが挙げられ、好ましくは、脱水処理して水分含有量を低くした炭化水素系有機溶媒である。
【0111】
上記基材としては、固体電解質層221を当該基材上に形成することができるものであれば特に制限されるものではなく、フィルム状の柔軟性を有する基材または硬質基材などが用いられ、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムなどの基材が用いられる。
【0112】
[F-5.積層工程およびプレス工程]
本実施の形態における積層工程は、成膜工程により得られた正極層310、負極層230、および固体電解質層221を、正極合剤層322と負極合剤層232との間に固体電解質層221が配置されるように積層し、積層構造体を得る工程である。
【0113】
本実施の形態におけるプレス工程は、積層工程で得られた積層構造体における正極集電体211および負極集電体231の積層方向外側からプレスを行い、全固体電池300を得る工程である。
【0114】
プレス工程の目的は、正極合剤層322、負極合剤層232および固体電解質層221の密度を増加させることである。密度を増加させることで、正極合剤層322、負極合剤層232および固体電解質層221において、リチウムイオン伝導性および電子伝導性を向上させることができ、良好な電池特性を有する全固体電池が得られる。
【0115】
プレス工程前およびプレス工程後の全固体電池300について、
図4を用いて説明する。
図4には、上述のように全固体電池300の平面視での中心部を通るように、積層方向に切断した場合の断面が示されている。
図4の(a)では、プレス工程前の正極合剤層322、負極合剤層232および固体電解質層221それぞれが離れた状態である図が示されているが、プレス時には、各層が接した状態で正極集電体211および負極集電体231の積層方向外側からプレスする。
図4の(b)には、プレス工程後の全固体電池300が示されている。
図4の(a)に示されるように、上述の成膜工程において、正極合剤層322は、上述の正極合剤層二層目313が積層されているため、正極合剤層322の平面視での中央部における積層方向の厚みが最も大きくなるように、ドーム状の丸みを帯びた凸形状となっている。よって、
図4の(b)に示されるようにプレス工程後においても正極合剤層322の平面視での中央部における積層方向の厚みが最も大きくなった形状となる。すなわち、正極合剤層322は、平面視での中央部における積層方向の厚みが最も大きくなるように、負極合剤層232に向かって、丸みを帯びた凸形状となっている。
【0116】
正極合剤層322の平面視での中央部における積層方向の厚みが最も大きくなるように、丸みを帯びた凸形状となっていることにより、固体電解質層221は、平面視での中央部が負極合剤層232に向けて下側に湾曲する。そして、固体電解質層221が負極合剤層232に向けて下側に湾曲することにより、負極合剤層232は、負極合剤層232の平面視での中央部における積層方向の厚みが最も小さくなるように、丸みを帯びた凹形状に変形する。負極合剤層232のうち、丸みを帯びた凹形状に変形する部分の幅は、正極合剤層322の丸みを帯びた凸形状の部分の幅、すなわち、
図4における正極合剤層二層目313の幅よりも大きくなり、負極合剤層232の丸みを帯びた凹形状は、正極合剤層322の丸みを帯びた凸形状を覆うように形成される。
【0117】
図4の(b)に示されるプレス工程後の全固体電池300の断面図からわかるように、負極合剤層232の幅は正極合剤層322の幅よりも大きく、また負極合剤層232は、正極合剤層322全体が重なるように配置されている。言い換えると、積層方向からの平面視において、正極合剤層322の面積よりも負極合剤層232の面積の方が大きく、正極合剤層322の全体が負極合剤層232に重なる。これにより、正極合剤層212から負極合剤層232側へ移動するリチウムイオンが、負極合剤層232のない負極集電体231上に移動することを抑制することができる。よって、負極集電体231上での金属リチウムの析出が抑制することができ、信頼性の高い全固体電池となる。
【0118】
図4の(b)に示されるように、正極合剤層322の中央部の厚みd2が正極合剤層322の外周部の厚みd1よりも大きく、負極合剤層232の中央部の厚みd4が前記負極合剤層232の正極合剤層322の外周部と対向する部分の厚みd3よりも小さい。丸みを帯びた凸形状の正極合剤層322から移動するリチウムイオンは、丸みを帯びた凸形状の正極合剤層322を覆うように形成された丸みを帯びた凹形状の負極合剤層232に向けて移動する。これにより、負極合剤層はリチウムイオンをより受け取りやすくなり、リチウムイオンが負極集電体231へ移動することをさらに抑制しやすくなる。
【0119】
なお、
図4の(b)においては、正極合剤層322の中央部の厚みd2が、正極合剤層において最も大きく、負極合剤層232の中央部の厚みd4が、負極合剤層において最も小さい形状であったが、これに限られず、正極合剤層322は、正極合剤層322の平面視での外周部より内側に、正極合剤層322の平面視での外周部における積層方向の厚みよりも積層方向の厚みが大きい箇所を有し、負極合剤層232は、正極合剤層322の平面視での外周部における積層方向の厚みよりも積層方向の厚みが大きい箇所と対向する位置の負極合剤層232の積層方向の厚みが、負極合剤層232の平面視での外周部における積層方向の厚みよりも小さければよい。また、正極合剤層322の平面視での中央部における積層方向の厚みが、正極合剤層322の平面視での外周部における積層方向の厚みよりも大きく、負極合剤層232の平面視での中央部における積層方向の厚みが、負極合剤層の平面視での外周部における積層方向の厚みよりも小さくてもよい。正極合剤層322の形状は、上述の正極合剤層二層目313の形状、および、正極合剤層一層目312と正極合剤層二層目313の位置関係によって調整することが可能である。
【0120】
プレス工程後の全固体電池300において、正極合剤層322外周部の積層方向の厚みd1と正極合剤層322において積層方向の厚みが最も大きい箇所の厚みd2、すなわち、
図4の(b)においては正極合剤層322中央部の厚みd2との比率をd2/d1すると、d2/d1の値が1.03以上1.10以下であることが望ましい。言い換えると、正極合剤層322は、正極合剤層322において積層方向の厚みが最も大きい箇所の厚みd2、すなわち、
図4の(b)においては、正極合剤層322中央部の厚みd2が、正極合剤層322の平面視での外周部における積層方向の厚みd1の103%以上110%以下であることが望ましい。厚みd2を厚みd1の110%以下とすることで、正極合剤層322において積層方向の厚みが最も大きい箇所、すなわち、
図4の(b)においては正極合剤層322中央部と、正極合剤層322外周部との正極活物質の量の差を抑えることができ、全固体電池300の面方向における充放電ばらつきを抑えられる。
【0121】
また、負極合剤層232は、負極合剤層232において積層方向の厚みが最も小さい箇所の厚みd4、すなわち、
図4の(b)においては負極合剤層232中央部の厚みd4が、正極合剤層322の平面視での外周部と対向する位置での負極合剤層232の積層方向の厚みd3の90%以上97%以下であることが望ましい。厚みd4を厚みd3の90%以上とすることで、負極合剤層232において積層方向の厚みが最も大きい箇所、すなわち、
図4の(b)においては負極合剤層232中央部と、正極合剤層322の平面視での外周部と対向する位置との負極活物質の量の差を抑えられ、全固体電池300の面方向における充放電ばらつきを抑えられる。また、厚みd4を厚みd3の97%以下とすることで、リチウムイオンをより受け取ることに適した負極合剤層の凹形状となる。
【0122】
また、固体電解質層221は、正極合剤層322において積層方向の厚みが最も大きい箇所と平面視において同じ位置での固体電解質層221の積層方向の厚みd6、すなわち、
図4の(b)においては正極合剤層322中央部と対向する位置での厚みd6と、正極合剤層322の平面視での外周部と対向する位置での前記固体電解質層の積層方向の厚みd5との差が、正極合剤層322において積層方向の厚みが最も大きい箇所と平面視において同じ位置での固体電解質層221の積層方向の厚みd6の5%以下であることが望ましい。これにより、正極合剤層と負極合剤層との間の距離のばらつきを抑えられ、全固体電池300の充放電が安定化する。
【0123】
なお、
図4の(b)は、正極合剤層322および負極合剤層232の凸形状および凹形状が強調された図であり、実際の形状、位置関係、および寸法比率とは異なる場合がある。
【0124】
以上、本開示に係る全固体電池について、実施の形態に基づいて説明したが、本開示は、これらの実施の形態に限定されるものではない。本開示の主旨を逸脱しない限り、当業者が思いつく各種変形を実施の形態に施したものや、実施の形態における一部の構成要素を組み合わせて構築される別の形態も、本開示の範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0125】
本開示による正極層、負極層、固体電解質層、およびそれを用いた全固体電池は、携帯電子機器などの電源や、車載電池等の様々な電池への応用が期待される
【符号の説明】
【0126】
100、200、300 全固体電池
111、211 正極集電体
112、212、322 正極合剤層
121、221 固体電解質層
131、231 負極集電体
132、232 負極合剤層
150 金属リチウム
210、310 正極層
230 負極層
312 正極合剤層一層目
313 正極合剤層二層目
d1、d2、d3、d4、d5、d6 厚み