(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-24
(45)【発行日】2022-12-02
(54)【発明の名称】車両用暖房装置
(51)【国際特許分類】
B60H 1/22 20060101AFI20221125BHJP
【FI】
B60H1/22 611A
B60H1/22 611B
(21)【出願番号】P 2019040715
(22)【出願日】2019-03-06
【審査請求日】2021-02-05
(31)【優先権主張番号】P 2018068763
(32)【優先日】2018-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000152826
【氏名又は名称】株式会社日本クライメイトシステムズ
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小森 晃
(72)【発明者】
【氏名】古井 美緒
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 憲作
(72)【発明者】
【氏名】中嶋 悠
(72)【発明者】
【氏名】濱本 浩
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 洋一
(72)【発明者】
【氏名】西井 秀明
(72)【発明者】
【氏名】重中 祐昭
【審査官】奈須 リサ
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-076503(JP,A)
【文献】特開2005-212556(JP,A)
【文献】特開2003-231411(JP,A)
【文献】特開2010-111250(JP,A)
【文献】特開平04-071182(JP,A)
【文献】国際公開第2008/155893(WO,A1)
【文献】特開2012-192827(JP,A)
【文献】独国特許発明第102004042440(DE,B3)
【文献】仏国特許出願公開第3040658(FR,A1)
【文献】独国特許出願公開第102015011047(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60H 1/00-3/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車室内に設けられた吹き出し口から吹き出す空調風を生成し、空調風により車室内の空調を行うように構成された車室用空調ユニットを備えた車両用暖房装置において、
乗員の接触部位に対応するように配設され、乗員を直接加温する直接加温装置と、
少なくとも乗員のふくらはぎの左右両側に相対するように配設されている内装材に設けられ、該ふくらはぎの左右両側にそれぞれ熱を輻射する輻射加温装置とを備え、
前記車室用空調ユニットから乗員の両脚に向けて吹き出す温風と、前記輻射加温装置とにより、乗員の両脚の温熱感が均一となるように、前記輻射加温装置の出力を設定する車両用暖房装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両用暖房装置において、
前記車室用空調ユニット、前記直接加温装置及び前記輻射加温装置を制御する制御装置を備え、
前記制御装置は、乗員の両脚の温熱感を推定する両脚温熱感推定部を有している車両用暖房装置。
【請求項3】
請求項1に記載の車両用暖房装置において、
前記内装材は、車両のドアの車室内側に配設されているドアトリムと、シートの側方に配設されているコンソールとを含み、
前記輻射加温装置は、前記ドアトリムの下部に設けられたドアトリム側輻射ヒータと、前記コンソールの側壁部に設けられたコンソール側輻射ヒータとを含んでいる車両用暖房装置。
【請求項4】
請求項3に記載の車両用暖房装置において、
前記ドアトリム側輻射ヒータは、前記ドアトリムにおけるアームレスト部よりも下の部分に位置付けられている車両用暖房装置。
【請求項5】
請求項3または4に記載の車両用暖房装置において、
前記ドアトリム側輻射ヒータは、前記ドアトリムにおける前記シートの車両前端部よりも前に位置付けられ、
前記コンソール側輻射ヒータは、前記コンソールの側壁部における前記シートの車両前端部よりも前に位置付けられている車両用暖房装置。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1つに記載の車両用暖房装置において、
前記直接加温装置は、乗員の膝よりも上の部分を加温するように配設されている車両用暖房装置。
【請求項7】
請求項3から5のいずれか1つに記載の車両用暖房装置において、
前記車室用空調ユニット、前記直接加温装置及び前記輻射加温装置を制御する制御装置を備え、
前記制御装置は、乗員の両脚の温熱感を推定する両脚温熱感推定部を有し、
前記車室用空調ユニットから乗員両脚に向けて吹き出す温風と、前記ドアトリム側輻射ヒータと前記コンソール側輻射ヒータとにより乗員の両脚の温熱感が均一となるように、前記ドアトリム側輻射ヒータ及び前記コンソール側輻射ヒータの出力を設定する車両用暖房装置。
【請求項8】
請求項3から5及び7のいずれか1つに記載の車両用暖房装置において、
前記ドアトリム側輻射ヒータは、前記コンソール側輻射ヒータに比べて高い定格出力である車両用暖房装置。
【請求項9】
車室内に設けられた吹き出し口から吹き出す空調風を生成し、空調風により車室内の空調を行うように構成された車室用空調ユニットを備えた車両用暖房装置において、
乗員の接触部位に対応するように配設され、乗員を直接加温する直接加温装置と、少なくとも乗員のふくらはぎの左右両側に相対するように配設されている内装材に設けられ、該ふくらはぎの左右両側にそれぞれ熱を輻射する輻射加温装置とを備え、
前記内装材は、車両のドアの車室内側に配設されているドアトリムと、シートの側方に配設されているコンソールとを含み、
前記輻射加温装置は、前記ドアトリムの下部に設けられたドアトリム側輻射ヒータと、前記コンソールの側壁部に設けられたコンソール側輻射ヒータとを含み、
前記車室用空調ユニット、前記直接加温装置及び前記輻射加温装置を制御する制御装置を備え、
前記制御装置は、乗員の両脚の温熱感を推定する両脚温熱感推定部を有し、
前記車室用空調ユニットから乗員両脚に向けて吹き出す温風と、前記ドアトリム側輻射ヒータと前記コンソール側輻射ヒータとにより乗員の両脚の温熱感が均一となるように、前記ドアトリム側輻射ヒータ及び前記コンソール側輻射ヒータの出力を設定する車両用暖房装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば自動車等に設けられる車両用暖房装置及び車両用暖房装置を備えた車両に関し、特に、輻射暖房の技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
従来より、自動車には、車室内に設けられた吹き出し口から吹き出す空調風により車室内の空調を行うように構成された車室用空調ユニットが搭載されている。車室用空調ユニットは、冷凍サイクル装置、エンジンの冷却水が循環するヒータコア及び送風機を備えており、送風機によって送風された空調用空気と、冷凍サイクル装置を循環する冷媒やヒータコアを循環するエンジン冷却水とを熱交換させて所望温度の空調風が得られるように構成されている。また、前記ヒータコアを備えていない電気自動車等では、ヒートポンプ装置による車室内空調も行われている。
【0003】
また、自動車には、前記車室用空調ユニットとは別に、乗員を直接加温する直接加温装置や、輻射熱によって加温する輻射加温装置等も搭載される場合がある(例えば、特許文献1、2参照)。特許文献1では、直接加温装置としてステアリングヒータ、シートヒータ及びアームレストヒータを備え、輻射加温装置として乗員のすねから上方に離れた部分に設けられた輻射ヒータを備えている。特許文献2では、前席シートの背面に、後席乗員へ向けて熱を放射する輻射ヒータが設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2015-223917号公報
【文献】特開2011-246091号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、寒い環境においては、ふくらはぎや、すねの側部に寒冷感を強く感じることがあり、この寒冷感は体全体の寒冷感となることもある。特に車両の場合、内装材の冷熱がふくらはぎや、すねの側部に放射されて寒冷感が強まる傾向にある。従って、ふくらはぎや、すねの側部の寒冷感をできるだけ早期に取り除いて温感を感じるようにすることが効果的な暖房を行う上で重要である。
【0006】
しかしながら、特許文献1の輻射ヒータは、乗員のすねに対して上方から熱を放射するように配置されており、輻射ヒータと足の距離が遠く、形態係数が小さくなり、乗員のふくらはぎや、すねの側部に対する入熱が殆ど期待できない。
【0007】
また、特許文献2では、前席シートの背面に輻射ヒータが設けられているので、乗車する機会が最も多い前席乗員を考慮した輻射暖房を行うことはできないし、輻射ヒータから後席乗員に放射される熱はすねの前方から入射するので、乗員のふくらはぎや、すねの側部に対する入熱が殆ど期待できない。
【0008】
また、乗員は乗車中、常に同じ姿勢にあるとは限らず、足を動かす場合もあり、ふくらはぎや、すねの側部に対する入熱は容易ではなく、従来は車室用空調ユニットから供給される空調風による暖房に頼らざるを得なかった。空調風は車室内の全体に流れてしまうので、ふくらはぎや、すねの側部に対して集中的に加温することはできず、効率が悪い。その結果、暖房で消費されるエネルギーが多くなるという問題がある。
【0009】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、乗員のふくらはぎを両横から輻射熱によって加温できるようにして温熱感を良好にしながら、暖房で消費されるエネルギーを低減することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明の第1の側面に係る車両用暖房装置は、車室内に設けられた吹き出し口から吹き出す空調風を生成し、空調風により車室内の空調を行うように構成された車室用空調ユニットを備えた車両用暖房装置において、乗員の接触部位に対応するように配設され、乗員を直接加温する直接加温装置と、少なくとも乗員のふくらはぎの左右両側に相対するように配設されている内装材に設けられ、該ふくらはぎの左右両側にそれぞれ熱を輻射する輻射加温装置とを備えている。
【0011】
この構成によれば、車室用空調ユニットで生成された空調風が車室内の吹き出し口から吹き出すことにより、空調風によって車室内が空調される。また、直接加温装置によって乗員の接触部位が直接加温される。さらに、輻射加温装置によって乗員のふくらはぎが左右両側から輻射熱によって加温されるので、内装材の冷熱がふくらはぎや、すねの側部に達しにくくなる。これにより、車室内の温度が低い場合であってもふくらはぎや、すねの側部に寒冷感を感じないようにすることができるので、温熱感が良好になり、その結果、車室用空調ユニットの暖房で消費されるエネルギーを低減することが可能になる。
【0012】
第2の側面に係る車両用暖房装置は、前記車室用空調ユニット、前記直接加温装置及び前記輻射加温装置を制御する制御装置を備え、前記制御装置は、乗員の両脚の温熱感を推定する両脚温熱感推定部を有している。
【0013】
第3の側面に係る車両用暖房装置は、前記車室用空調ユニットから乗員の両脚に向けて吹き出す温風と、前記輻射加温装置とにより、乗員の両脚の温熱感が均一となるように、前記輻射加温装置の出力を設定する。
【0014】
第4の側面に係る車両用暖房装置は、前記内装材は、車両のドアの車室内側に配設されているドアトリムと、シートの側方に配設されているコンソールとを含み、前記輻射加温装置は、前記ドアトリムの下部に設けられたドアトリム側輻射ヒータと、前記コンソールの側壁部に設けられたコンソール側輻射ヒータとを含んでいる。
【0015】
この構成によれば、ドアトリム及びコンソールの側壁部は乗員のふくらはぎの左右両側に位置しており、これらに輻射ヒータを設けることで、輻射熱をふくらはぎや、すねの側部に確実に入射させることができる。
【0016】
第5の側面に係る車両用暖房装置は、前記ドアトリム側輻射ヒータは、前記ドアトリムにおけるアームレスト部よりも下の部分に位置付けられている。
【0017】
この構成によれば、ドアトリム側輻射ヒータをアームレスト部よりも下に位置付けることで、上半身に対する輻射熱の入射を抑制できる。
【0018】
第6の側面に係る車両用暖房装置は、前記ドアトリム側輻射ヒータは、前記ドアトリムにおける前記シートの車両前端部よりも前に位置付けられ、前記コンソール側輻射ヒータは、前記コンソールの側壁部における前記シートのクッション座面前端部よりも前に位置付けられている。
【0019】
この構成によれば、ドアトリム側輻射ヒータ及びコンソール側輻射ヒータをシートのクッション座面前端部よりも前に位置付けることで、輻射熱がシートに入射してしまうのを回避することができる。
【0020】
第7の側面に係る車両用暖房装置は、前記直接加温装置は、乗員の膝よりも上の部分を加温するように配設されている。
【0021】
この構成によれば、乗員の太もも裏、臀部、腰、背中の部分を、直接加温装置と車室用空調ユニットの空調風とで加温することができ、一方、乗員の膝よりも下の部分を、輻射加温装置と車室用空調ユニットの空調風とで加温することができる。これにより、乗員の膝よりも上の部分と膝よりも下の部分とを個別に適した温度で暖房することができ、乗員の体の広い範囲で加温の偏りを少なくでき、快適な温熱感を得ることができる。
【0022】
第8の側面に係る車両用暖房装置は、前記車室用空調ユニット、前記直接加温装置及び前記輻射加温装置を制御する制御装置を備え、前記制御装置は、乗員の両脚の温熱感を推定する両脚温熱感推定部を有し、前記車室用空調ユニットから乗員両脚に向けて吹き出す温風と、前記ドアトリム側輻射ヒータと前記コンソール側輻射ヒータとにより乗員の両脚の温熱感が均一となるように、前記ドアトリム側輻射ヒータ及び前記コンソール側輻射ヒータの出力を設定する。
【0023】
この構成によれば、温風による暖房と、輻射熱による暖房とによって乗員の両脚に快適な温熱感を与えることができる。
【0024】
第9の側面に係る車両用暖房装置は、前記車室用空調ユニット、前記直接加温装置及び前記輻射加温装置を制御する制御装置を備え、前記制御装置は、乗員の上半身の前側と背面側との温熱感を推定する上半身温熱感推定部を有し、前記直接加温装置は、乗員の太腿、臀部、腰部、背中を加温するシートヒータ装置であり、前記制御装置は、前記シートヒータ装置と、前記車室用空調ユニットによる温風とにより、乗員の上半身の前側と背面側とで均一な温熱感が得られるように、前記シートヒータ装置の出力と前記車室用空調ユニットの吹出温度を設定する。
【0025】
この構成によれば、シートヒータ装置による暖房と、輻射熱による暖房とによって乗員の前側(胸や腹等)と、背面側とで均一な温熱感が得られるので、快適性をより一層高めることができる。
【0026】
第10の側面に係る車両用暖房装置は、前記ドアトリム側輻射ヒータは、前記コンソール側輻射ヒータに比べて高い定格出力である。
【0027】
すなわち、ドアトリムはコンソールに比べて車室外に近いところに設けられるため、車室外の冷気の影響を受けやすいとともに、熱が車室外に逃げやすい。このドアトリムに設けられたドアトリム側輻射ヒータの出力をコンソール側輻射ヒータの出力に比べて高くする、または車室内空調ユニットの足元からの温風吹き出し風量をドアトリム側に多めに配分することで、左右のバランスの崩れを抑制しながら、暖房の速効性を高めることができる。
【0028】
第11の側面に係る車両用暖房装置は、前記輻射加温装置は、通電により発熱するヒータ線と、該ヒータ線の車室内側を覆うカバー部材と、該ヒータ線の車室外側に配置される断熱材とを備えている。
【0029】
この構成によれば、ヒータ線の車室内側がカバー部材で覆われているので、乗員がヒータ線に触れないようにすることができ、安全性を高めることができる。また、ヒータ線とドアトリムの間に断熱材を挟み込む形で配置することで、ヒータ線で発生した熱が車室外に逃げにくくなり、暖房効率を高めることができる。
【0030】
また、第1から第11のいずれか1つの側面に係る車両用暖房装置を備えた車両を構成することもできる。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、空調風により車室内の空調を行うように構成された車室用空調ユニットとは別に、乗員のふくらはぎを両横から輻射熱によって加温することができるので、温熱感を良好にしながら、暖房で消費されるエネルギーを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1】本発明の実施形態に係る自動車の車室内の一部を示す側面図である。
【
図2】車室内の運転席近傍の一部を示す斜視図である。
【
図6】シートヒータを備えた車両用シートをシートクッション部とシートバック部とに分割した状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。尚、以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0034】
(自動車1の構成)
図1は、本発明の実施形態に係る自動車1の車室内Rの一部を示す側面図である。以下の説明において、「前」とは車両前後方向の前側であり、「後」とは車両前後方向の後側であり、「左」とは車両左右方向の左側であり、「右」とは車両左右方向の右側である。
【0035】
車室内Rのフロアパネル100には、車両用シートSがスライド装置101を介して取り付けられている。車室内Rの前端部には、図示しない計器類を有するインストルメントパネル102が配設されている。インストルメントパネル102の運転席側には、ステアリングコラム103が後側へ突出するように設けられている。ステアリングコラム103の後端部には、ステアリングホイール104が乗員Aと正対するように設けられている。
【0036】
スライド装置101は、フロアパネル100に固定された前後方向に延びるレール部材101aと、車両用シートSの下部に固定され、レール部材101aによって前後方向に案内される被案内部材101bと、被案内部材101bをレール部材101aに対して所望位置で固定するロック部材(図示せず)とを備えている。
【0037】
車室内Rの前端部には、フロントウインドガラス105が設けられている。フロントウインドガラス105の下端部は、インストルメントパネル102の前端部近傍に位置している。
【0038】
自動車1の左右両側には、
図3に示すようなドア110が配設されている。
図3に示すドア110は自動車1の左側に配設される左ドアであるが、図示しないが、これと対称形状の右ドアが自動車1の右側に配設されている。この実施形態では、乗員Aが、自動車1の左側に設けられた車両用シートSに着座している場合について説明するが、これに限らず、右側に設けられた車両用シート(図示せず)に着座している場合にも本発明を適用することができる。
【0039】
以下の説明では、乗員Aが平均的な身長及び体重の成人(男性、女性)である場合を想定し、その乗員Aの乗車姿勢が標準的な乗車姿勢(例えば
図1に示す姿勢)、即ち、運転者であれば安全上、支障のない乗車姿勢、助手席乗員や後席乗員であれば、一般的な乗車姿勢である場合を想定しており、例えば腰を前へずらして寝そべったような乗車姿勢等は除外する。
【0040】
図3に示すように、ドア110は、鋼板等からなるドア本体部111と、ドア本体部111の上側に配設されているサイドウインドガラス112と、ドア本体部111の車室内側に配設されているドアトリム(内装材)113とを備えている。ドアトリム113は、ドア本体部111を車室内側から覆うように形成された樹脂製部材である。ドアトリム113には、ベルトラインよりも下側に、乗員Aの手を置くことができるアームレスト部113aが設けられている。
【0041】
自動車1の車室内Rには、運転席となる車両用シートSと、助手席となる車両用シート(図示せず)との間に、
図4に示すようなコンソール(内装材)120が配設されており、このコンソール120は車両用シートSに側方に位置することになる。コンソール120は、前後方向に長い形状とされており、インストルメントパネル102の下方から車両用シートSの後端部近傍に達するように形成されている。コンソール120の左右両側には、上下方向に延びる側壁部121が設けられている。この側壁部121の下端部は、フロアパネル100に達している。コンソール120の上部には、変速機(図示せず)を操作するシフトレバー122が設けられるとともに、図示しない小物入れ等も設けられている。
【0042】
図1に示すように、インストルメントパネル102の上面の前端部には、デフロスタ吹き出し口102aが設けられている。デフロスタ吹き出し口102aは、フロントウインドガラス105の内面と対向するように配置され、左右方向に所定範囲に亘って形成されている。デフロスタ吹き出し口102aは、フロントウインドガラス105の内面に向けて空調風を吹き出す開口である。インストルメントパネル102の後側には、乗員Aの上半身の一部あるいは上半身の全部に向けて空調風が吹き出すベント吹き出し口102bが設けられている。ベント吹き出し口102bは、インストルメントパネル102の左右両側と、左右方向中央部とにそれぞれ設けられており、運転席乗員と助手席乗員に対向するように配置されている。インストルメントパネル102の下部には、乗員Aの下半身の一部あるいは下半身の全部に向けて空調風が吹き出すヒート吹き出し口102cが設けられている。ヒート吹き出し口102cは、運転席乗員と助手席乗員のそれぞれの足元近傍において開口するように形成でき、フット吹き出し口とも呼ぶことができる。上記吹き出し口102a、102b、102cの各々の名称は説明の便宜を図るために付したものであり、各々の機能を満足する吹き出し口であればよい。また、図示しないが、ベント吹き出し口及びヒート吹き出し口は、前席用とは別に、後部座席の乗員用としても設けることができる。
【0043】
この自動車1は
図8にブロック図で示す車両用暖房装置2を備えている。車両用暖房装置2は、車室用空調ユニット10(
図5に示す)と、ステアリングヒータ104a(
図1及び
図2に示す)と、輻射加温装置30(
図8に示す)と、シートヒータ装置40(
図6及び
図8に示す)と、制御ユニット60(
図8に示す)とを備えている。
【0044】
尚、自動車1は乗用自動車であってもよいし、トラック等の荷物積載車であってもよい。これらは車両の例であり、自動車以外の車両に車両用暖房装置2を搭載することもできる。
【0045】
(車室用空調ユニット10の構成)
車室用空調ユニット10は、車室内Rに設けられたデフロスタ吹き出し口102a、ベント吹き出し口102b及びヒート吹き出し口102cから吹き出す空調風を生成し、空調風により車室内Rの空調、即ち、車室内Rの乗員A周りの温熱環境を制御するように構成されている。具体的には、
図5に示すように、車室用空調ユニット10は、空調ケーシング11と、送風機12と、冷凍サイクル装置13と、ヒータコア14と、エアミックスダンパ15と、吹出方向切替ダンパ16a、16b、16cと、エアミックスアクチュエータ17と、吹出方向切替アクチュエータ18とを備えている。
【0046】
空調ケーシング11には、車室内Rに連通して車室内Rの空気(内気)を空調ケーシング11内に取り入れるための内気導入口11aと、車室外に連通して車室外の空気(外気)を空調ケーシング11内に取り入れるための外気導入口11bとが形成されている。空調ケーシング11の内部には、内気導入口11aと外気導入口11bの一方を閉塞して他方を開放するように動作する内外気切替ダンパ11cが配設されている。内外気切替ダンパ11cの動作によって内気導入口11aが開かれて外気導入口11bが閉じられると内気循環モードとなり、一方、内気導入口11aが閉じられて外気導入口11bが開かれると外気導入モードとなる。内気循環モードと外気導入モードの切替は、乗員Aによる手動切替の他、後述する制御ユニット60による自動切替であってもよい。
【0047】
送風機12は、空調ケーシング11の内部に配設されるシロッコファン(遠心式ファン)12aと、シロッコファン12aを回転駆動するブロアモータ12bとを備えている。ブロアモータ12bによってシロッコファン12aが回転駆動されると、内気導入口11aまたは外気導入口11bから空調用空気が空調ケーシング11の内部に取り入れられ、空調ケーシング11の内部に取り入れられた空調用空気は該空調ケーシング11の下流側に向けて送風される。尚、送風機12の形式は特に限定されるものではなく、遠心式ファン以外のファンを使用した送風機であってよい。
【0048】
図8に示すように、ブロアモータ12bは制御ユニット60に接続されている。ブロアモータ12bのON、OFFの切替、及びブロアモータ12bの単位時間当たりの回転数の変更は、制御ユニット60により行われる。ブロアモータ12bの単位時間当たりの回転数を上げることにより、送風機12の送風量が増加する。
【0049】
図5に示すように、冷凍サイクル装置13は、コンプレッサ13aと、コンデンサ(凝縮器)13bと、膨脹弁13cと、エバポレータ13dとを備えており、これらは冷媒配管によって接続されて冷媒の循環が可能に構成されている。コンプレッサ13aはエンジンE(
図5にのみ示す)によって駆動される。コンプレッサ13aのクラッチ(図示せず)が
図8に示す制御ユニット60により制御されることにより、コンプレッサ13aのON、OFFの切替が行われる。
【0050】
コンプレッサ13aから吐出された冷媒はコンデンサ13bに流入して該コンデンサ13bの内部で凝縮された後、膨脹弁13cに流入する。膨脹弁13cに流入した冷媒は、減圧された後、エバポレータ13dに流入する。エバポレータ13dは空調ケーシング11の内部に配設されており、空調ケーシング11に導入された空調用空気の全量がエバポレータ13dを通過するようになっている。エバポレータ13dに流入した冷媒は、該エバポレータ13dの内部を流通する間に、該エバポレータ13dの外部を通過する空調用空気と熱交換し、これにより、空調用空気が冷却されて冷風が生成される。
【0051】
ヒータコア14は、空調ケーシング11の内部においてエバポレータ13dよりも空気流れ方向下流側に配設されている。ヒータコア14はエンジンEのウォータジャケット(図示せず)に接続されており、エンジンEの冷却水がヒータコア14を循環するようになっている。従って、エンジンEの冷却水の温度がヒータコア14の外部を通過する空調用空気の温度よりも高ければ、空調用空気が冷却水と熱交換することによって空調用空気が加熱されて温風が生成される。
【0052】
図示しないが、例えば電気自動車である場合には、ヒータコア14に、走行用モーターやインバータ装置の冷却水を流すようにすることもできる。また例えば電気自動車である場合には、ヒータコア14の代わりに、電動式コンプレッサ13aを備えたヒートポンプ装置を搭載して冷媒凝縮器(加熱用熱交換器)を空調ケーシング11の内部に設けることができる。また、ヒータコア14に加えて電気式ヒータ(例えばPTCヒータ)等を設けることができる。
【0053】
エアミックスダンパ15は、ヒータコア14を通過する空気量と、ヒータコア14をバイパスする空気量との比率を変更するための部材である。
図5に実線で示すように、エアミックスダンパ15がヒータコア14側の通路を全閉にし、かつ、ヒータコア14をバイパスする通路を全開にすると、エバポレータ13dを通過した空気はヒータコア14を通過しないので、フルコールド状態となる。一方、
図5に仮想線で示すように、エアミックスダンパ15がヒータコア14側の通路を全開にし、かつ、ヒータコア14をバイパスする通路を全閉にすると、エバポレータ13dを通過した空気は全量がヒータコア14を通過するので、フルホット状態となる。エアミックスダンパ15は、
図5に実線で示す状態と仮想線で示す状態との間の任意の位置に停止させることができるようになっている。エアミックスダンパ15の停止位置を変更することにより、ヒータコア14を通過する空気量と、ヒータコア14をバイパスする空気量との比率が変更され、その結果、生成される空調風の温度が変更される。
【0054】
エアミックスアクチュエータ17は、エアミックスダンパ15を作動させるためのものであり、
図8に示すように、制御ユニット60に接続されている。エアミックスアクチュエータ17は、制御ユニット60からの制御信号を受けてエアミックスダンパ15を所望の位置で停止させておくことができる。
【0055】
図5に示す吹出方向切替ダンパ16a、16b、16cは、空調風の吹出方向を切り替えるためのダンパである。符号16aで示す吹出方向切替ダンパは、デフロスタ吹き出し口102aを開閉するためのダンパであり、デフロスタダンパである。符号16bで示す吹出方向切替ダンパは、ベント吹き出し口102bを開閉するためのダンパであり、ベントダンパである。符号16cで示す吹出方向切替ダンパは、ヒート吹き出し口102cを開閉するためのダンパであり、ヒートダンパである。吹出方向切替ダンパ16a、16b、16cは、それぞれ、実線で示す位置が閉位置であり、仮想線で示す位置が開位置である。吹出方向切替ダンパ16a、16b、16cは閉位置から開位置の間の任意の位置で停止させることができる。このような吹出方向切替ダンパ16a、16b、16cの動作は、従来から周知のリンク機構(図示せず)によって実現できる。
【0056】
吹出方向切替ダンパ16a、16b、16cはリンク機構を介して連動することによって空調風の吹出方向を切り替えることができるように構成されている。例えば、吹出方向切替ダンパ16aが開位置にあり、吹出方向切替ダンパ16b、16cが閉位置にある場合には、空調風がデフロスタ吹き出し口102aのみから吹き出すデフロスタモードとなる。吹出方向切替ダンパ16bが開位置にあり、吹出方向切替ダンパ16a、16cが閉位置にある場合には、空調風がベント吹き出し口102bのみから吹き出すベントモードとなる。吹出方向切替ダンパ16cが開位置にあり、吹出方向切替ダンパ16a、16bが閉位置にある場合には、空調風がヒート吹き出し口102cのみから吹き出すヒートモードとなる。吹出方向切替ダンパ16a、16cが開位置にあり、吹出方向切替ダンパ16bが閉位置にある場合には、空調風がデフロスタ吹き出し口102a及びヒート吹き出し口102cから吹き出すデフヒートモードとなる。吹出方向切替ダンパ16b、16cが開位置にあり、吹出方向切替ダンパ16aが閉位置にある場合には、空調風がベント吹き出し口102b及びヒート吹き出し口102cから吹き出すバイレベルモードとなる。以上の吹出モードは例であり、吹出方向切替ダンパ16a、16b、16cのそれぞれの開閉切替によって様々な吹出モードに変更することができ、また各吹出モードにおいてデフロスタ吹き出し口102a、ベント吹き出し口102b及びヒート吹き出し口102cのそれぞれの開度を変更して各吹き出し口から吹き出す空調風の量を変更することも可能である。
【0057】
尚、吹出方向切替ダンパ16a、16b、16cの構成は一例であり、従来から周知の手法に従い、例えば2つのダンパを組み合わせることによって吹出モードを切り替えることもできる。
【0058】
吹出方向切替アクチュエータ18は、吹出方向切替ダンパ16a、16b、16cを作動させるためのものであり、
図8に示すように、制御ユニット60に接続されている。吹出方向切替アクチュエータ18は、制御ユニット60からの制御信号を受けて吹出方向切替ダンパ16a、16b、16cを所望の位置で停止させておくことができ、これにより上述した各吹出モードにすることができる。
【0059】
(シートヒータ装置40の構成)
図6に示すように、シートヒータ装置40は車両用シートSに内蔵されている。車両用シートSは、シートクッション部S1とシートバック部S2とを備えている。
図6は、説明の便宜上、車両用シートSをシートクッション部S1とシートバック部S2とに分割した状態を示しているが、
図1や
図2に示すように車両1への搭載時にはシートクッション部S1とシートバック部S2とが一体化されている。この実施形態で説明する車両用シートSは、運転席を構成するものであるが、本発明は助手席を構成するシートや、後席を構成するシートに適用することもできる。また、左右方向に複数人が並んで着座可能に構成された、いわゆるベンチシートに本発明を適用することもできる。
【0060】
車両用シートSは、シートクッション部S1とシートバック部S2とを備えている。シートクッション部S1は、シート座部とも呼ぶことができるものであり、乗員Aの主に臀部(尻部)から大腿部を下方から支持するように構成されている。シートバック部S2は、シート背もたれ部とも呼ぶことができるものであり、乗員Aの主に腰部、背中、肩胛骨周り、肩を後方から支持するように構成されている。
【0061】
シートヒータ装置40は、臀部発熱体41と、大腿部発熱体42と、クッション側部発熱体43と、クッション前端部発熱体44と、腰部発熱体45と、肩サイド発熱体46とを備えている。臀部発熱体41、大腿部発熱体42、クッション側部発熱体43及びクッション前端部発熱体44は、シートクッション部S1に内蔵されており、具体的には、クッション材と表皮材との間に配設することができる。臀部発熱体41、大腿部発熱体42、クッション側部発熱体43及びクッション前端部発熱体44は、制御ユニット60の車室内温調制御部64に接続され、車室内温調制御部64により制御される。
【0062】
腰部発熱体45及び肩サイド発熱体46は、シートバック部S2に内蔵されており、具体的には、クッション材と表皮材との間に配設することができる。腰部発熱体45及び肩サイド発熱体46は、制御ユニット60の車室内温調制御部64に接続され、車室内温調制御部64により制御される。
【0063】
上記各発熱体41~46は、例えば、通電によってジュール熱を発生する線材で構成されている。すなわち、この実施形態に係る各発熱体は、電流が物体を流れる際に熱エネルギーに変化することによって熱を生じる現象を利用する発熱体であり、通電により発熱するヒータ線であればよく、例えばニクロム線等で構成することができる。上記線材で発生する熱量は、上記線材に流れる電流の大きさによって増減するとともに、当該電流が流れる時間によっても増減する。
【0064】
臀部発熱体41は、シートクッション部S1の上面部(座面部)において奥側(後側)に配設される。この臀部発熱体41の真上には、標準的な乗車姿勢の乗員Aの臀部が位置することになる。大腿部発熱体42は、シートクッション部S1の上面部において手前側(前側)に配設される。この大腿部発熱体42の真上には、標準的な乗車姿勢の乗員Aの大腿部が位置することになる。臀部発熱体41及び大腿部発熱体42は、シートクッション部S1における乗員Aの接触部位に対応するように配設されており、従って、乗員Aの膝よりも上の下半身に相当する部分を直接加温する直接加温装置となる。
【0065】
一方、クッション側部発熱体43は、シートクッション部S1の上面部において左端部近傍及び右端部近傍にそれぞれ配設されている。乗員Aが平均的な身長及び体重の成人であり、かつ、その乗員Aの乗車姿勢が標準的な乗車姿勢である場合には、左右のクッション側部発熱体43の間に乗員Aの大腿部が位置するか、クッション側部発熱体43の真上から殆ど外れた所に乗員Aの大腿部が位置し、両太腿外側部を暖めることになる。よって、シートクッション部S1の上面部において左端部近傍及び右端部近傍は、車両用シートSにおける乗員Aが接触しない領域であり、この領域にクッション側部発熱体43が配設されているので、クッション側部発熱体43は、乗員Aから離れて配設され、乗員Aを輻射熱により加温する輻射加温装置である。
【0066】
クッション前端部発熱体44は、シートクッション部S1の前面部の上端部近傍に配設されている。クッション前端部発熱体44は左右方向に長い形状とされており、乗員Aの左右の膝裏近傍に対応するように位置している。乗員Aの乗車姿勢が標準的な乗車姿勢である場合には、クッション前端部発熱体44の上方や前方に離れて乗員Aの大腿部よりも下の部位(例えば膝裏等)が位置することになる。シートクッション部S1の前面部において上端部近傍は、車両用シートSにおける乗員Aが接触しない領域であり、この領域にクッション前端部発熱体44が配設されている。クッション前端部発熱体44は、乗員Aから離れて配設され、乗員Aを輻射熱により加温する輻射加温装置である。
【0067】
臀部発熱体41、大腿部発熱体42、クッション側部発熱体43及びクッション前端部発熱体44の各発熱体が発生する熱量は、制御ユニット60の車室内温調制御部64による電流値や通電時間等によって変更することができる。臀部発熱体41、大腿部発熱体42、クッション側部発熱体43及びクッション前端部発熱体44の各々の出力上限値(単位時間当たりに発生する熱量の上限値)は、車室内温調制御部64により設定されている。クッション側部発熱体43及びクッション前端部発熱体44のヒータ線のパターン密度と、臀部発熱体41及び大腿部発熱体42のパターン密度とを比較すると、臀部発熱体41及び大腿部発熱体42のパターン密度の方が高くなっており、いずれも低温火傷を防止するため、制御ユニット60によって42℃以下で温度調整を行う。
【0068】
腰部発熱体45は、シートバック部S2の前面部において下側に配設される。この腰部発熱体45の直上面には、標準的な乗車姿勢の乗員Aの腰部が位置することになる。腰部発熱体45は、シートバック部S2における乗員Aの接触部位に対応するように配設されており、従って、乗員Aを直接加温する直接加温装置となる。腰部発熱体45によって腰部から背中まで加温するようにしてもよい。この場合、腰部及び背中部発熱体となり、直接加温装置である。
【0069】
両肩発熱体46は、シートバック部S2の前面部において、乗員Aの肩、首付近に近い上側の左端部近傍及び右端部近傍にそれぞれ配設されており、乗員Aの背中部に達しないように位置付けられている。乗員Aが平均的な身長及び体重の成人であり、かつ、その乗員Aの乗車姿勢が標準的な乗車姿勢である場合には、左肩の側方に左側の肩サイド発熱体46が位置し、右肩の側方に右側の肩サイド発熱体46が位置することになる。シートバック部S2の前面部において上側の左端部近傍及び右端部近傍は、車両用シートSにおける乗員Aが接触しない領域であり、この領域に肩サイド発熱体46が配設されている。肩サイド発熱体46は、乗員Aから離れて配設され、乗員Aを輻射熱により加温する輻射加温装置である。
【0070】
腰部発熱体45及び肩サイド発熱体46の各発熱体が発生する熱量は、制御ユニット60の車室内温調制御部64による電流値や通電時間、通電時間間隔等によって変更することができる。腰部発熱体45及び肩サイド発熱体46の各々の出力上限値は、車室内温調制御部64により設定されている。肩サイド発熱体46のヒータ線のパターン密度と、腰部発熱体45のヒータ線のパターン密度とを比較すると、腰部発熱体45のヒータ線のパターン密度の方が高くなっている。いずれも低温火傷を防止するため、制御ユニット60によって42℃以下で温度調整を行う。
【0071】
シートヒータ装置40は、臀部、腰部が先に温熱感が充足した場合はOFFできるように、臀部発熱体41、大腿部発熱体42、腰部発熱体45、両肩発熱体46、クッション側部発熱体43、クッション前端部発熱体44のそれぞれ1系統ずつにわけて出力制御できるようになっていてもよい。
【0072】
シートヒータ装置40のON、OFFの切替、強弱の設定は、車室内Rに設けられた操作スイッチ等(図示せず)で行うことが可能になっている他、制御ユニット60によって自動制御することもできるようになっている。
【0073】
(ステアリングヒータ104aの構成)
図1及び
図2に示すように、ステアリングヒータ104aは、ステアリングホイール104における乗員Aの手が接触する部位、具体的には運転中に乗員Aが手で握る部分に内蔵されている。従って、ステアリングヒータ104aは、乗員Aの接触部位に対応するように配設されることになり、乗員Aを直接加温する直接加温装置となる。
【0074】
ステアリングヒータ104aは、シートヒータ装置40の各発熱体と同様な線材で構成することができるものであり、制御ユニット60に接続され、制御ユニット60により制御される。ステアリングヒータ104aのON、OFFの切替、強弱の設定は、車室内Rに設けられた操作スイッチ等(図示せず)で行うことが可能になっている他、制御ユニット60によって自動制御することもできるようになっている。
【0075】
(輻射加温装置30の構成)
輻射加温装置30は、少なくとも乗員Aのふくらはぎの左右両側に相対するように配設されている内装材に設けられ、該ふくらはぎの左右両側にそれぞれ熱を輻射する補助暖房装置である。輻射加温装置30は、
図3に示すドアトリム113の下部に設けられたドアトリム側輻射ヒータ31と、
図4に示すコンソール120の側壁部121に設けられたコンソール側輻射ヒータ32とを含んでいる。
【0076】
ドアトリム側輻射ヒータ31は、ドアトリム113におけるアームレスト部113aよりも下の部分に位置付けられるとともに、ドアトリム113における車両用シートSのシートクッション部S1の前端部よりも前に位置付けられている。ドアトリム側輻射ヒータ31は、車両用シートSをスライド装置101によって前方にスライドさせた状態にあるシートクッション部S1の前端部よりも前に位置付けることができる。
【0077】
図1に示すように、側方から見たとき、標準的な着座姿勢にある乗員Aのふくらはぎと、ドアトリム側輻射ヒータ31の熱放射面とが重複するように、ドアトリム側輻射ヒータ31が配設されている。この実施形態では、乗員Aが左側に着座しているので、ドアトリム側輻射ヒータ31は、乗員Aの左足のふくらはぎの左側面に対して間隔を持って対向することになる。またドアトリム側輻射ヒータ31は、乗員Aの右足のふくらはぎの左側面に対しても間隔を持って配置されることになる。標準的な着座姿勢では、乗員Aのすねがブレーキペダル、アクセルペダルまたはフットレストに向けて下へ行くほど前に傾斜して位置しているので、ドアトリム側輻射ヒータ31の熱放射面も下へ行くほど前に位置するように配置される。ドアトリム側輻射ヒータ31の熱放射面の幅(前後方向の寸法)Wは、乗員Aの膝下の脚の径よりも十分に広く設定されており、乗員Aが足を動かしてもドアトリム側輻射ヒータ31の輻射熱がふくらはぎや、すねの側面に入射するようにしている。ドアトリム側輻射ヒータ31の熱放射面の高さHは、乗員Aの膝下の脚の長さと同程度にすることができる。これにより、ドアトリム側輻射ヒータ31の輻射熱がふくらはぎや、膝下の脚の側面の上部から下部に亘って広範囲に入射する。
【0078】
コンソール側輻射ヒータ32は、
図4に示すコンソール120の側壁部121における車両用シートSのシートクッション部S1の前端部よりも前に位置付けられている。コンソール側輻射ヒータ32の熱放射面の高さ及び幅は、ドアトリム側輻射ヒータ31の熱放射面の高さ及び幅と同じにすることができるが、ドアトリム側輻射ヒータ31の熱放射面の高さを、コンソール側輻射ヒータ32の熱放射面の高さよりも高くし、また、ドアトリム側輻射ヒータ31の熱放射面の幅を、コンソール側輻射ヒータ32の熱放射面の幅よりも広くしてもよい。すなわち、ドアトリム113はコンソール120に比べて車室外に近いので、車室外の冷気の影響を受けやすいとともに、熱が車室外に逃げやすい。このドアトリム113に設けられたドアトリム側輻射ヒータ31の高さや幅をコンソール側輻射ヒータ32に比べて高くまた広くすることで、左右のバランスの崩れを抑制しながら、暖房の速効性を高めることができる。なおドアトリム113にポケットを有する場合は、そのポケット外側の室内側表面に輻射ヒータをヒータ裏面に断熱材を張り付けた形で配置する。
【0079】
コンソール側輻射ヒータ32は、側方から見たとき、標準的な着座姿勢にある乗員Aのふくらはぎと、コンソール側輻射ヒータ32の熱放射面とが重複するように配設されている。この実施形態では、コンソール側輻射ヒータ32は、乗員Aの右足のふくらはぎの右側面に対して間隔を持って対向することになる。またコンソール側輻射ヒータ32は、乗員Aの左足のふくらはぎの右側面に対しても間隔を持って配置されることになる。コンソール側輻射ヒータ32の熱放射面もドアトリム側輻射ヒータ31の熱放射面と同様に下へ行くほど前に位置するように配置される。
【0080】
図7に示すように、ドアトリム側輻射ヒータ31は、シートヒータ装置40の各発熱体と同様な通電により発熱するヒータ線31aと、該ヒータ線31aの車室内側を覆うカバー部材31bと、該ヒータ線31aの車室外側に配置される断熱材31cとを備えている。ヒータ線31aは、ドアトリム側輻射ヒータ31の上端部から下端部、前端部から後端部に亘って全体的に配設されている。カバー部材31bは、ヒータ線31aに乗員Aや物品が接触しないようにするための部材である。カバー部材31bは耐熱性を有する樹脂材等で構成することができ、孔やスリット等を形成したり、メッシュ状にすることでヒータ線31aの熱が車室内側に放射されやすくすることができる。断熱材31cは、ヒータ線31aの熱が車室外に逃げないようにするための部材であり、従来から周知の断熱性を有する部材で構成することができる。コンソール側輻射ヒータ32もドアトリム側輻射ヒータ31と同様に構成することができる。
【0081】
輻射加温装置30は、制御ユニット60に接続され、制御ユニット60により制御される。輻射加温装置30のON、OFFの切替、強弱の設定は、車室内Rに設けられた操作スイッチ等(図示せず)で行うことが可能になっている他、輻射加温装置30によって自動制御することもできるようになっている。
【0082】
輻射加温装置30は運転席側だけでなく、助手席側にも同様に設けることができる。また、図示しないが、後席が左右セパレート構造である場合には、後席用コンソールが配設されることになるので、後席にも輻射加温装置30と同様な輻射加温装置を設けることができる。
【0083】
(車両用暖房装置2のその他の構成)
図8に示すように、車両用暖房装置2は、外気温度センサ71、内気温度センサ72、湿度センサ73、日射センサ74、温度設定スイッチ75、ステアリング温度センサ76、足元ヒータ温度センサ77及びシート温度センサ78を備えている。これらセンサやスイッチは、従来から周知の部材で構成することができ、制御ユニット60に接続されて所定の短いサイクルまたは継続的に検出値の出力等を行っている。温度を検出するセンサは、例えば熱電対等を使用することができる。
【0084】
外気温度センサ71は、車室外に配設されており、車室外の気温を検出するセンサである。内気温度センサ72は、車室内Rに配設されており、車室内Rの空気温度を検出するセンサであり、このセンサによって車室内の温度状態を検知または推定することができる。湿度センサ73は、車室内Rに配設されており、車室内Rの湿度を検出するセンサであり、このセンサによって車室内の湿度状態を検知または推定することができる。日射センサ74は、車室内Rに配設されており、車室内Rに差し込んでくる日射量を検出するセンサであり、このセンサによって車室内Rの日射状態を検知または推定することができる。温度設定スイッチ75は、車室内Rのインストルメントパネル102に配設されており、乗員Aが所望の空調温度に設定するためのスイッチである。
【0085】
尚、インストルメントパネル102には、温度設定スイッチ75の他、図示しないが、空調のON、OFFスイッチや、風量調整スイッチ、オートエアコンスイッチ等が配設されている。
【0086】
ステアリング温度センサ76は、ステアリングホイール104に配設されており、ステアリングホイール104の乗員Aが接触する部分の温度やステアリングヒータ104aの温度等を検出するためのセンサである。足元ヒータ温度センサ77は、輻射加温装置30を有する内装材(ドアトリム113及びコンソール120)に配設されており、当該内装材の表面温度やドアトリム側輻射ヒータ31及びコンソール側輻射ヒータ32の温度等を検出するためのセンサである。シート温度センサ78は、車両用シートSのシートクッション部S1及びシートバック部S2に内蔵されており、シートクッション部S1及びシートバック部S2の各表皮材の温度やシートヒータ装置40の各発熱体41~46の温度を検出するためのセンサである。
【0087】
(制御ユニット60の構成)
図8に示す制御ユニット60は、図示しないが、例えば中央演算処理装置や記憶装置(例えばROM、RAM等)を有するマイクロコンピュータ等で構成することができ、乗員の両脚の温熱感を推定する両脚温熱感推定部61と、乗員の上半身の前側と背面側の温熱感を推定する上半身温熱感推定部62とを備え、後述する各手段や処理をハードウェアで実行するように構成してもよいし、記憶装置に記憶させたソフトウェア(プログラム)に従って実行するように構成してもよい。両脚温熱感推定部61及び上半身温熱感推定部62による乗員Aの各部の温熱感の推定は、空調装置の技術分野では従来から周知の手法によって行うことができる。
【0088】
制御ユニット60は、外気温度センサ71、内気温度センサ72、湿度センサ73、日射センサ74、温度設定スイッチ75等の検出値や乗員Aによる設定温度等に基づいてオートエアコン制御を行うように構成されている。すなわち、外気温及び車室内Rの温度が低く、暖房が必要な場合には、高温の空調風を生成するように車室用空調ユニット10を制御して車室内Rに供給する。このとき、要求される暖房の強さは、乗員Aによる設定温度や車室内Rの温度等によって設定され、暖房時のオートエアコン制御は、内気温度センサ72、ステアリング温度センサ76、足元ヒータ温度センサ77、シート温度センサ78に応じて、乗員Aの両脚の温熱感と、乗員Aの上半身の温熱感の推定値から空調風の温度や空調風の風量、および輻射加温装置30、シートヒータ装置40の出力を乗員Aの各部位の温熱感がちょうどになるように暖房の強さを調整する。一方、冷房が必要な場合には、低温の空調風を生成するように車室用空調ユニット10を制御して車室内Rに供給する。このとき、要求される冷房の強さは、乗員Aによる設定温度や車室内Rの温度等によって設定され、冷房の強さに応じて空調風の温度や空調風の風量を調整する。この冷房時のオートエアコン制御の手法は従来から周知の手法であるため、詳細な説明は省略する。
【0089】
また、輻射加温装置30のドアトリム側輻射ヒータ31の定格出力は、コンソール側輻射ヒータ32の定格出力よりも高く設定されている。従って、制御ユニット60は、ドアトリム側輻射ヒータ31の出力が乗員Aの膝下の左右脚の温熱感が同一感を得られるように、コンソール側輻射ヒータ32の出力に比べて高めとなるように制御し、コンソール側輻射ヒータ32の出力に比べて高くなるように、両ヒータ31、32の出力の設定が可能になる。出力設定の具体的な手法は、
図7に示すヒータ線31aに供給する電力量の変更等である。出力は熱流束で表すことができ、ドアトリム側輻射ヒータ31の熱流束がコンソール側輻射ヒータ32の熱流束よりも小さくなるように制御される。すなわち、ドアトリム113はコンソール120に比べて車室外に近いので、車室外の冷気の影響を受けやすいとともに、熱が車室外に逃げやすいが、ドアトリム113に設けられたドアトリム側輻射ヒータ31の出力をコンソール側輻射ヒータ32の出力に比べて高くすることで、左右のバランスの崩れを抑制しながら、暖房の速効性を高めることができる。
【0090】
ドアトリム側輻射ヒータ31及びコンソール側輻射ヒータ32の出力は、制御ユニット60で調整する方法以外にも、
図7に示すヒータ線31aの線径やヒータのパターン密度を変えることによって各ヒータ31、32の出力を設定することができる。
【0091】
制御ユニット60は、車室用空調ユニット10がONにされると、暖房が必要な状況であれば自動的に、または乗員Aによる手動操作により、ステアリングヒータ104a、輻射加温装置30及びシートヒータ装置40をONにする。輻射加温装置30の出力は、例えば車室内Rの気温や外気温に応じて変更することができ、低温であるほど出力を高める制御を行う。輻射加温装置30は、ONされてから所定時間が経過した場合、または車室内Rの気温が所定温度となるまで上昇した場合に自動的にOFFとすることができる。
【0092】
また暖房中の制御は、膝下の脚への加温として、輻射ヒータ31、32による脚両外側面への加温と、車室用空調ユニット10の足元への温風による加温とが脚外側、内側の温度差が小さくなるように、かつ両脚の温熱感が満足するように、輻射ヒータ31、32の出力調整を行っている。
【0093】
輻射加温装置30がONにされると、ドアトリム側輻射ヒータ31及びコンソール側輻射ヒータ32に通電が開始されて熱を放射する。これにより、乗員のふくらはぎが左右両側から輻射熱によって加温されるので、内装材の冷熱がふくらはぎや、すねの側部に達しにくくなる。
【0094】
また、車室用空調ユニット10から乗員Aの両脚に向けて吹き出す温風と、ドアトリム側輻射ヒータ31とコンソール側輻射ヒータ32とにより乗員Aの両脚の温熱感が均一となるように、ドアトリム側輻射ヒータ31及びコンソール側輻射ヒータ32の出力を設定することができる。これは制御ユニット60で行うことができる。
【0095】
また、シートヒータ装置40と、車室用空調ユニット19による温風とにより、乗員Aの上半身の前側と背面側とで均一な温熱感が得られるように、シートヒータ装置40の出力と車室用空調ユニット10の吹出温度を個別に設定することができる。これは制御ユニット60で行うことができる。上半身の前側とは、例えば胸、腹等である。
【0096】
また、車室内空調ユニット10の足元からの温風吹き出し風量をドアトリム113側に多めに配分するように構成することもできる。例えば、ドアトリム113側と、コンソール120側とにそれぞれヒート吹き出し口102cを設けておき、これらを独立して開閉可能なダンパ(図示せず)を設置し、これらダンパを車室内空調ユニット10で制御することにより、温風吹き出し風量を、コンソール120側に比べてドアトリム113側に多くすることができる。
【0097】
(実施形態の作用効果)
以上説明したように、この実施形態に係る車両用暖房装置2によれば、車室用空調ユニット10で生成された空調風が車室内の吹き出し口102a、102b、102cから吹き出すことにより、空調風によって車室内Rを空調することができる。この空調風による空調と並行して、シートヒータ装置40やステアリングヒータ104aによって乗員Aの接触部位を直接加温することができる。さらに、輻射加温装置30によって乗員Aのふくらはぎを左右両側から輻射熱によって加温するので、車室内Rの温度が低い場合であってもふくらはぎや、すねの側部に寒冷感を感じないようにすることができる。これにより、乗員Aの温熱感が脚部から上半身まで輻射加温装置30による輻射入熱とシートヒータ装置40による直接入熱による少ないエネルギーによる加温によって、均一な温熱感が得られると同時に、車室用空調ユニット10の暖房で消費されるエネルギーを低減することができる。
【0098】
(その他の実施形態)
上述の実施形態はあらゆる点で単なる例示に過ぎず、限定的に解釈してはならない。さらに、特許請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、全て本発明の範囲内のものである。
【0099】
上記実施形態では、ドアトリム113及びコンソール120に輻射加温装置30を設けた場合について説明したが、これに限らず、他の内装材に輻射加温装置30を設けてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0100】
以上説明したように、本発明は、例えば自動車等の車両用暖房装置として有用である。
【符号の説明】
【0101】
1 自動車(車両)
2 車両用暖房装置
10 車室用空調ユニット
30 輻射加温装置
31 ドアトリム側輻射ヒータ
31a ヒータ線
31b カバー部材
31c 断熱材
32 コンソール側輻射ヒータ
40 シートヒータ装置
41 臀部発熱体(直接加温装置)
42 大腿部発熱体(直接加温装置)
45 腰部発熱体(直接加温装置)
104a ステアリングヒータ(直接加温装置)
113 ドアトリム(内装材)
113a アームレスト部
120 コンソール(内装材)