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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-24
(45)【発行日】2022-12-02
(54)【発明の名称】除染方法
(51)【国際特許分類】
   B05D 3/12 20060101AFI20221125BHJP
   B05D 7/00 20060101ALI20221125BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20221125BHJP
【FI】
B05D3/12 E
B05D7/00 L
B05D7/24 303A
B05D3/12 Z
B05D7/24 301L
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019068332
(22)【出願日】2019-03-29
(65)【公開番号】P2020163330
(43)【公開日】2020-10-08
【審査請求日】2022-01-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000192590
【氏名又は名称】株式会社神鋼環境ソリューション
(73)【特許権者】
【識別番号】304045147
【氏名又は名称】株式会社染めQテクノロジィ
(74)【代理人】
【識別番号】100154726
【弁理士】
【氏名又は名称】宮地 正浩
(72)【発明者】
【氏名】後藤 幸宏
(72)【発明者】
【氏名】小倉 正裕
(72)【発明者】
【氏名】浮氣 英明
(72)【発明者】
【氏名】松本 忠雄
(72)【発明者】
【氏名】西村 裕太
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 洋平
(72)【発明者】
【氏名】関口 有佳里
【審査官】磯部 洋一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-187456(JP,A)
【文献】特開2006-349376(JP,A)
【文献】特開2000-093886(JP,A)
【文献】特開平09-113184(JP,A)
【文献】特開2015-116510(JP,A)
【文献】特開2003-073622(JP,A)
【文献】特開2017-170394(JP,A)
【文献】特開2005-279423(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2002/0077377(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2007/0135006(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05D 3/12
B05D 7/00
B05D 7/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
壁面から当該壁面に付着した汚染物質を含む油を除去する除染方法であって、
樹脂塗料に発泡剤を混合して発泡剤含有樹脂塗料を得る発泡剤混合工程と、
前記発泡剤混合工程で得た発泡剤含有樹脂塗料を前記壁面に塗布する塗布工程と、
前記塗布工程で塗布された発泡剤含有樹脂塗料の塗膜を硬化させる硬化工程と、
前記硬化工程で硬化した塗膜を前記壁面から剥離する剥離工程と、を実行する除染方法。
【請求項2】
前記樹脂塗料が、ポリウレタン樹脂塗料である請求項1に記載の除染方法。
【請求項3】
前記発泡剤含有樹脂塗料は、前記汚染物質に対して親和性を有する汚染物質親和剤を含有する請求項1又は2に記載の除染方法。
【請求項4】
前記発泡剤含有樹脂塗料は、疎水性を有する微粒子を含有する請求項1~3の何れか1項に記載の除染方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、壁面から当該壁面に付着した汚染物質を含む油(本願において「汚染物質含有油」と呼ぶ場合がある。)を除去する除染方法に関する。
【背景技術】
【0002】
壁面から汚染物質含有油を除去する除染方法として、エポキシ樹脂系塗料、アクリル樹脂系塗料、ポリウレタン系塗料等の一般的な樹脂塗料をPCB(ポリ塩化ビフェニル)やダイオキシン類等の汚染物質を含む油が付着している壁面に塗布し、当該塗布された発泡剤含有樹脂塗料の塗膜を硬化させ、当該硬化した塗膜を壁面から剥離する方法が提案されている(例えば、特許文献1を参照。)。また、このような従来の除染方法では、硬化後の塗膜をチッパー等などの工事用具を用いて壁面を構成するコンクリートの一部とともに削り取る形態で、当該塗膜を壁面から剥離している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2012-187456号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般的な樹脂塗料を用いた従来の除染方法では、壁面に塗布された樹脂塗料の塗膜内部に取り込まれた汚染物質が、当該塗膜内部で拡散して、硬化後の塗膜表面に露出する虞がある。そして、このように塗膜表面に汚染物質が露出すると、その塗膜を壁面から剥離する剥離工程やその剥離後の塗膜を搬送及び処理する工程において、汚染範囲を拡大させる二次汚染の発生要因となる。
また、このような塗膜表面への汚染物質の露出を抑制するために、充分な膜厚で壁面の樹脂塗料を塗布することが考えられるが、そのためには樹脂塗料を多く重ね塗りする必要があり、作業効率が非常に悪いという問題がある。
【0005】
この実情に鑑み、本発明の主たる課題は、壁面に塗布された樹脂塗料の塗膜を硬化後に壁面から剥離することで、壁面から汚染物質を含む油を除去する除染方法において、優れた作業効率を実現しながら、その塗膜を壁面から剥離する剥離工程やその剥離後の塗膜を搬送及び処理する工程において塗膜の内部に取り込んだ有機ハロゲン化物による二次汚染の発生を抑制することができる技術を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1特徴構成は、壁面から当該壁面に付着した汚染物質を含む油を除去する除染方法であって、
樹脂塗料に発泡剤を混合して発泡剤含有樹脂塗料を得る発泡剤混合工程と、
前記発泡剤混合工程で得た発泡剤含有樹脂塗料を前記壁面に塗布する塗布工程と、
前記塗布工程で塗布された発泡剤含有樹脂塗料の塗膜を硬化させる硬化工程と、
前記硬化工程で硬化した塗膜を前記壁面から剥離する剥離工程と、を実行する点にある。
【0007】
本構成によれば、壁面に塗布された発泡剤含有樹脂塗料の塗膜は、例えば多くの重ね塗りを必要とせずに、予め混合された発泡剤の発泡作用により、塗膜の表面と壁面との距離である膜厚を増加させながら硬化する。よって、壁面から塗膜内部に取り込まれて拡散する汚染物質が硬化後の塗膜表面に到達して露出することを抑制できる。
従って、本発明により、壁面に塗布された樹脂塗料の塗膜を硬化後に壁面から剥離することで、壁面から汚染物質含有油を除去するにあたり、優れた作業効率を実現しながら、その塗膜を壁面から剥離する剥離工程やその剥離後の塗膜を搬送及び処理する工程において塗膜の内部に取り込んだ汚染物質による二次汚染の発生を抑制することができる除染方法を提供することができる。
【0008】
本発明の第2特徴構成は、前記樹脂塗料が、ポリウレタン樹脂塗料である点にある。
【0009】
本構成によれば、硬化後の塗膜に良好な機械強度及び柔軟性を与えることができるポリウレタン樹脂塗料を利用し、当該ポリウレタン樹脂塗料に発泡剤を混合したものを発泡剤含有樹脂塗料として壁面に塗布する。すると、壁面から硬化後の塗膜を剥離する際に、当該硬化後の塗膜をできるだけ破損させずにシート状(フィルム状)を保ったまま壁面から剥がすことができる。このことで、当該塗膜の破損による塗膜内部に取り込んだ汚染物質の外部への拡散を抑制することができる。
【0010】
本発明の第3特徴構成は、前記発泡剤含有樹脂塗料は、前記汚染物質に対して親和性を有する汚染物質親和剤を含有する点にある。
【0011】
本構成によれば、発泡剤含有樹脂塗料の主成分である樹脂塗料に、例えば汚染物質と近似する溶解パラメータ(SP値)を有することで当該汚染物質に対して親和性を有する汚染物質親和剤が含有されているので、壁面に付着している汚染物質を、当該壁面に塗布された発泡剤含有樹脂塗料の塗膜内部へ溶解させる形態で、良好に塗膜内部へ取り込むことができる。
【0012】
本発明の第4特徴構成は、前記発泡剤含有樹脂塗料は、疎水性を有する微粒子を含有する点にある。
【0013】
本構成によれば、発泡剤含有樹脂塗料の主成分である樹脂塗料に疎水性(親油性)の微粒子が含有されているので、壁面に付着している汚染物質含有油を、当該壁面に塗布された発泡剤含有樹脂塗料の塗膜内部に存在する微粒子に吸着させる形態で、良好に塗膜内部へ取り込むことができる。このことで、壁面からの汚染物質の除去率を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】PCBが付着した壁面の状態を示す断面図
図2】塗布工程後の壁面の状態を示す断面図
図3】硬化工程後の壁面の状態を示す断面図
図4】剥離工程時の壁面の状態を示す断面図
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の実施形態について図1図4に基づいて説明する。
本実施形態の除染方法は、PCB(汚染物質の一例)を含有するPCB含有油Mが付着した壁面W(図1参照)から当該PCB含有油Mを除去する除染方法として構成されている。
そして、本実施形態の除染方法によれば、優れた作業効率を実現しながら、その塗膜Pfを壁面Wから剥離する剥離工程やその剥離後の塗膜Pfを搬送及び処理する工程において塗膜Pfの内部に取り込んだPCB等の汚染物質による二次汚染の発生を抑制する目的で、後述するような発泡剤混合工程、塗布工程、硬化工程、及び剥離工程を順に実行するものとして構成されている。
【0016】
〔発泡剤混合工程〕
発泡剤混合工程では、樹脂塗料に発泡剤を混合して発泡剤含有樹脂塗料Pを得る。
ここで、発泡剤含有樹脂塗料Pの主成分となる樹脂塗料としては、硬化後の塗膜Pf(図3参照)に良好な機械強度及び柔軟性を与える目的で、主剤として複数の水酸基を持つ樹脂としてのポリオールと硬化剤としてのポリイソシアネートを組み合わせた無溶剤のポリウレタン樹脂塗料が好適に利用されている。尚、本実施形態では、柔軟性等を考慮してポリウレタン樹脂塗料を利用するが、効果後の塗膜Pfの機械強度や柔軟性等を許容できる範囲内において、アクリル樹脂系塗料やエポキシ樹脂塗料等の別の樹脂塗料を利用しても構わない。
【0017】
上記発泡剤としては、特に制限はないが、大塚化学社製の無機系発泡剤(Pシリーズ)、三協化成社製の有機系発泡剤(セルマイクCシリーズ)や無機系発泡剤(セルマイク266)等を利用することができる。
そして、発泡剤含有樹脂塗料Pにおける発泡剤の含有率は、後述する硬化工程での塗膜Pf(図2及び図3参照)の膜厚増加率が所望の範囲内となるように調整(例えば0.1%以上且つ1.0%以下の範囲内に調整)されている。
【0018】
上記発泡剤含有樹脂塗料Pには、壁面WからのPCBの除去率を向上するためのPCB親和剤(汚染物質親和剤の一例)を含有させることができる。
かかるPCB親和剤は、PCBの溶解パラメータ(SP値=10.8~13.5程度)と近似する溶解パラメータ(例えばSP値=8.0~11.0)を有して当該PCBに対して親和性を有する薬剤である。このようなPCB親和剤としては、例えば、アクリル酸イソブチル、t-ブチルアクリレート、イソステアリルメタクリレート、スチレン、ジビニル化合物等を利用することができる。
【0019】
上記発泡剤含有樹脂塗料Pには、壁面WからのPCBを含むPCB含有油Mの除去率を向上するための疎水性(親油性)を有する微粒子を含有することができる。
かかる疎水性を有する微粒子としては、例えば、珪藻土、クレイ、タルク等のように油吸着材として一般的に使用されているようなものを利用することができ、また、表面に疎水コーティングを塗着した微粒子(例えば特表2015-533898に記載の超親油粒子)等も利用することができる。
【0020】
更に、硬化後の塗膜Pf(図3参照)の機械強度を向上させるために、公知の変性ポリオール(例えば、特開平08-176503を参照。)、特殊ポリマー、変性ジイソシアネート(例えば、特開平06-199976を参照。)、変性イソシアネート(例えば、特開2011-252292を参照。)等を、上記ポリウレタン樹脂塗料の成分として利用することができる。
【0021】
〔塗布工程〕
上記発泡剤混合工程の次に実行される塗布工程では、上記発泡剤混合工程で得た発泡剤含有樹脂塗料Pを、PCB含有油Mが付着した壁面W(図1参照。)に塗布する。
すると、図2に示すように、壁面Wに形成された発泡剤含有樹脂塗料Pの塗膜Pfの内部に、当該壁面Wに付着していたPCB含有油Mが取り込まれて拡散する。
尚、この塗布工程における壁面Wへの発泡剤含有樹脂塗料Pの塗布は、PCBの二次汚染の発生を回避するために、壁面Wに直接接触する刷毛やローラを用いるのではなく、スプレーガンあるいはディスペンサー等の壁面Wに直接接触しない塗装器具を用いて行うことが望ましい。
【0022】
発泡剤含有樹脂塗料Pに上述したPCB親和剤が含有されている場合には、壁面Wに付着しているPCB含有油Mに含まれるPCBは、当該壁面Wに塗布された発泡剤含有樹脂塗料Pの塗膜Pfの内部へ溶解する形態で、良好に塗膜Pf内部へ取り込まれることになる。
発泡剤含有樹脂塗料Pに上述した疎水性の微粒子が含有されている場合には、壁面Wに付着しているPCB含有油Mは、当該壁面Wに塗布された発泡剤含有樹脂塗料Pの塗膜Pfの内部に存在する微粒子に吸着する形態で、良好に塗膜Pfの内部へ取り込まれることになる。
【0023】
〔硬化工程〕
上記塗布工程の次に実行される硬化工程では、所定の硬化時間待機する形態で、上記塗布工程で塗布された発泡剤含有樹脂塗料Pの塗膜Pfを硬化させる。例えば、本実施形態における発泡剤含有樹脂塗料Pの硬化時間は3~5分に設定されている。
このとき、図3に示すように、壁面Wに塗布された発泡剤含有樹脂塗料Pの塗膜Pfは、当該発泡剤含有樹脂塗料Pに予め混合された発泡剤の発泡作用により、塗膜Pfの表面と壁面Wとの距離である膜厚を増加させながら硬化する。
すると、壁面Wから塗膜Pfの内部に取り込まれて拡散するPCB含有油M及びそれに含まれるPCBは、塗膜Pfの表面に到達し難くなる。よって、塗膜Pfの表面へのPCBの露出が抑制される。
【0024】
ここで、上述のように発泡剤含有樹脂塗料Pにおける発泡剤の含有率を調整することにより、硬化工程における塗膜Pfの膜厚増加率は、例えば170%以上且つ230%以下の所望の範囲内に設定することが望ましい。即ち、硬化工程における塗膜Pfの膜厚増加率が170%未満である場合には、塗膜Pfの内部に取り込まれたPCB等の汚染物質が塗膜Pfの表面に露出して、塗膜Pfの外部への二次汚染の発生が懸念される。一方、硬化工程における塗膜Pfの膜厚増加率が230%超である場合には、硬化後の塗膜Pfの機械強度や柔軟性が低下して、後の剥離工程において、塗膜Pfの破損による外部へのPCB等の汚染物質の拡散が懸念される。
【0025】
また、後の剥離工程での塗膜Pfの破損を好適に防止するために、硬化後の塗膜Pfは、膜厚が1mm程度で、且つ、1N/mm以上の機械強度を有するものであることが望ましい。
【0026】
〔剥離工程〕
上記硬化工程の次に実行される剥離工程では、上記硬化工程で硬化した塗膜Pfを壁面Wから剥離する。
この剥離工程では、図4に示すように、硬化後の塗膜Pfが柔軟で且つ優れた機械強度を有するものとなることから、当該硬化後の塗膜Pfをできるだけ破損させずにシート状(フィルム状)を保ったまま壁面Wから剥がすことができる。このことで、当該塗膜Pfの破損による塗膜Pfの内部に取り込んだPCB等の汚染物質の外部への拡散を抑制することができる。
【符号の説明】
【0027】
M PCB含有油(汚染物質を含む油)
P 発泡剤含有樹脂塗料
Pf 塗膜
W 壁面
図1
図2
図3
図4