(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-24
(45)【発行日】2022-12-02
(54)【発明の名称】二次電池及びそれを用いた充放電方法
(51)【国際特許分類】
H01M 12/08 20060101AFI20221125BHJP
H01M 8/1233 20160101ALI20221125BHJP
H01M 8/12 20160101ALI20221125BHJP
H01M 8/1246 20160101ALI20221125BHJP
H01M 8/1253 20160101ALI20221125BHJP
H01M 8/126 20160101ALI20221125BHJP
H01M 10/36 20100101ALI20221125BHJP
H01M 4/48 20100101ALI20221125BHJP
【FI】
H01M12/08 Z
H01M8/1233
H01M8/12 101
H01M8/12 102A
H01M8/1246
H01M8/1253
H01M8/126
H01M10/36 A
H01M10/36 Z
H01M4/48
(21)【出願番号】P 2018164605
(22)【出願日】2018-09-03
【審査請求日】2021-09-02
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 (1) ウェブサイトで公開された「AiMES 2018 Meeting」の要旨集にて公開 掲載日:平成30年 8月 6日
(73)【特許権者】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002136
【氏名又は名称】弁理士法人たかはし国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】伊原学
(72)【発明者】
【氏名】長谷川馨
(72)【発明者】
【氏名】亀田恵佑
【審査官】渡部 朋也
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-534220(JP,A)
【文献】特開2010-003568(JP,A)
【文献】特開2001-354406(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/1233
H01M 10/36
H01M 4/48
H01M 8/12
H01M 8/1246
H01M 8/1253
H01M 8/126
H01M 12/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
負極、正極、及び、該負極と該正極との間に配置されたイオン伝導性の固体酸化物からなる電解質、を少なくとも有する二次電池であって、
充電時には、該負極の表面において二酸化炭素が電解され、該負極側に炭素が析出し、
該正極において、該負極で生成し該電解質を透過した酸化物イオンから酸素が生成し、
放電時には、
該正極において、酸素から酸化物イオンが生成し、該負極の表面において、炭素及び/又は一酸化炭素が電気化学的に酸化されることにより二酸化炭素が生成する
二次電池であり、
該電解質が、ガス不透過性の構造を有し、該負極側に析出した炭素と、該正極に供給される酸素を含むガスを直接接触させない隔壁として機能し、該負極の側が閉鎖系であり、該正極の側が開放系であることを特徴とする二次電池。
【請求項2】
充電時に、前記負極の表面において、下記還元反応(R1)により一酸化炭素が生成し、生成した一酸化炭素が下記熱化学平衡反応(R2)により、二酸化炭素と炭素になることにより、前記負極側に炭素が析出する、請求項1に記載の二次電池。
CO
2+2e
- → CO+O
2- (R1)
2CO ←→ CO
2+C (R2)
【請求項3】
前記閉鎖系が、片側を閉鎖した円筒型セル又はその集合体により形成されている請求項
1又は請求項2に記載の二次電池。
【請求項4】
前記閉鎖系において、二酸化炭素を液体又は固体の状態で貯蔵できるようになっている請求項
1ないし請求項
3の何れかの請求項に記載の二次電池。
【請求項5】
前記閉鎖系において、下記還元反応(R1)の反応場と下記熱化学平衡反応(R2)の反応場とが、同一空間内に存在する請求項
1ないし請求項
4の何れかの請求項に記載の二次電池。
CO
2+2e
- → CO+O
2- (R1)
2CO ←→ CO
2+C (R2)
【請求項6】
前記閉鎖系において、下記還元反応(R1)の反応場と下記熱化学平衡反応(R2)の反応場とが、個別に存在する請求項
1ないし請求項
4の何れかの請求項に記載の二次電池。
CO
2+2e
- → CO+O
2- (R1)
2CO ←→ CO
2+C (R2)
【請求項7】
前記負極が、炭素の析出を促進する触媒を有する請求項1ないし請求項
6の何れかの請求項に記載の二次電池。
【請求項8】
前記触媒が、グラスウールに金属を担持したものである請求項7に記載の二次電池。
【請求項9】
前記グラスウールに担持された金属が、Fe、Ni、Co、W、Ta及びPtからなる群より選ばれた1種以上の金属である請求項8に記載の二次電池。
【請求項10】
前記電解質が安定化ジルコニア、ランタンガレート又はセリア系固溶体である請求項1ないし請求項9の何れかの請求項に記載の二次電池。
【請求項11】
負極材料が、複合金属酸化物、又は、複合金属酸化物と金属からなるサーメットである請求項1ないし請求項10の何れかの請求項に記載の二次電池。
【請求項12】
前記サーメットが、Ni/YSZ、Ni/GDC、Ni/ScSZ又はNi/SDCである請求項11に記載の二次電池。
【請求項13】
請求項1ないし請求項12の何れかの請求項に記載の二次電池により、充電及び放電を行うことを特徴とする充放電方法。
【請求項14】
充電を放電よりも低温で行う、請求項13に記載の充放電方法。
【請求項15】
600℃以上1000℃以下で充電及び放電を行う、請求項13又は請求項14に記載の充放電方法。
【請求項16】
600℃以上900℃以下で充電を行い、700℃以上1000℃以下で放電を行う、請求項13ないし請求項15の何れかの請求項に記載の充放電方法。
【請求項17】
下記熱化学平衡反応(R2)が右辺に傾きやすい条件下で充電を行い、左辺に傾きやすい条件下で放電を行う請求項13ないし請求項16に記載の充放電方法。
2CO ←→ CO
2+C (R2)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次電池に関し、更に詳しくは、炭素の電気化学反応と熱化学平衡反応の組み合わせを利用した二次電池に関する。また、本発明は、かかる二次電池を用いた充放電方法に関する。
【背景技術】
【0002】
イオン伝導性の固体酸化物(酸化物イオン伝導体)からなる電解質層(固体電解質層)を正極(空気極)と負極(燃料極)との間に配置した積層構造を有する固体酸化物型電池(Solid Oxide Fuel Cell;SOFC)は、第三世代の燃料電池として期待され、その開発が進んでいる。
【0003】
固体酸化物型電池は、電解質として、酸化物イオン(O2-)の透過性が高いイオン伝導性の固体酸化物を使用しており、正極で生成した酸化物イオンが電解質を透過し、負極で水素(H2)、一酸化炭素(CO)、メタン(CH4)等の還元剤と反応することにより電気エネルギーを発生させる(例えば、特許文献1)。
【0004】
水素、一酸化炭素、メタン等は、ガスであり、これらを還元剤として使用した固体酸化物型電池は、装置が比較的大型になる。
この問題点を解決すべく、固体炭素を、還元剤(固体燃料)として使用するダイレクトカーボン燃料電池(DCFC;Direct Carbon Fuel Cell)が提案されている。
特に、本発明者らにより、炭化水素等の熱分解を利用して、DCFCの負極に固体炭素を繰り返し供給することのできるリチャージャブル・ダイレクトカーボン燃料電池(RDCFC;Rechargeable Direct Carbon Fuel Cell)が提案されている(特許文献2~3、非特許文献1~3等)
【0005】
上記の先行技術は、燃料電池であり、二次電池(蓄電池)ではない。DCFCやRDCFCは、負極で炭素が酸化されることにより、二酸化炭素(CO2)が発生するが、CO2排出フリー社会の実現に向けて、更なる改良が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平9-129256号公報
【文献】特許第5226290号公報
【文献】特許第5284596号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】M. Ihara, K. Matsuda, H. Sato and C. Yokoyama, Solid State Ionics, 175, (2004), 51-54
【文献】M. Ihara and S. Hasegawa, J. Electrochem. Soc., 153 (8), (2006), A1544-A1546
【文献】S. Hasegawa and M. Ihara, J. Electrochem. Soc., 155 (1), (2008), B58-B63
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記背景技術に鑑みてなされたものであり、その課題は、安全性が高く、大きなエネルギーを蓄積することができ、CO2排出フリーな二次電池(蓄電池)を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記の課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、炭素はエネルギー密度が高く(重量基準で32.8kJ/g、体積基準で66kJ/cm3)、液化した二酸化炭素は貯蔵が容易であるため、炭素と二酸化炭素の間の酸化還元反応を利用することができれば、大きなエネルギーを安全に蓄積することができることに着目した。そして、電気化学反応と熱化学平衡反応を組み合わせることにより、電気化学反応だけでは実現困難な炭素と二酸化炭素の間の酸化還元反応を実現可能であることを見出して、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、負極、正極、及び、該負極と該正極との間に配置されたイオン伝導性の固体酸化物からなる電解質、を少なくとも有する二次電池であって、
充電時には、該負極の表面において二酸化炭素が電解され、該負極側に炭素が析出し、放電時には、該負極の表面において、炭素及び/又は一酸化炭素が電気化学的に酸化されることにより二酸化炭素が生成することを特徴とする二次電池を提供するものである。
【0011】
また、本発明は、前記の二次電池により、充電及び放電を行うことを特徴とする充放電方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明の二次電池は、負極(燃料極)の活物質(燃料)は、炭素であり、材料コストを低廉に抑えることができる。
【0013】
本発明の二次電池は、固体炭素と、液化が容易な二酸化炭素としてエネルギーを貯蔵するため、水素をエネルギー源として利用した場合と比較して、安全性が高く、また、大きなエネルギーを蓄積することができる。水素をエネルギー源とする際はその圧縮又は液化に大きなエネルギーを要し、またタンク内に貯蔵できる量も限られるところ、炭素をエネルギー源として利用した本発明では、そのような問題なく、容易に大きなエネルギーを貯蔵することができる。
【0014】
また、放電により発生した二酸化炭素は、繰り返し炭素(燃料)源として使用することができるので、本発明の二次電池は、CO2排出フリーである。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の二次電池の模式図を示す。 (a)充電時 (b)放電時
【
図2】Boudouard平衡反応におけるCO分圧の温度依存性を示す。
【
図4】実施例における充電電圧効率、放電電圧効率、充放電電圧効率、充放電効率及びクーロン効率の測定結果を示す。 (a)実施例1 (b)実施例2 (c)実施例3 (d)実施例4
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明について説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、任意に変形して実施することができる。
【0017】
本発明は、二次電池、及び、該二次電池により、充電及び放電を行う充放電方法に関するものである。
【0018】
図1に本発明の二次電池1の模式図を示す。本発明の二次電池1は、負極2、正極3、及び、負極2と正極3との間に配置されたイオン伝導性の固体酸化物からなる電解質4を少なくとも有する。
【0019】
本発明の二次電池は、炭素と二酸化炭素の間の酸化還元反応を利用して、充電及び放電を行うものである。
【0020】
図1(a)は、充電時の模式図である。充電時には、負極2の表面において二酸化炭素が電解され、負極2の側に炭素が析出する。
充電時の負極2における具体的な反応は、以下のようなものであると推定される。
【0021】
CO2+2e- → CO+O2- (R1)
2CO ←→ CO2+C (R2)
【0022】
(R1)は、負極2の表面における還元反応(電気化学的還元反応)である。
(R2)は、固体炭素及び二酸化炭素と、一酸化炭素との間の熱化学平衡反応であり、Boudouard(ブードア)平衡反応として知られている。
(R1)と(R2)から、充電時のトータルの負極反応は、以下のようになる。
【0023】
CO2+4e- → C+2O2- (R3)
【0024】
充電の場合、一般に過電圧が大きいため、二酸化炭素を直接炭素まで電気化学的に還元する((R3)を直接起こす)ことは難しいと考えられる。
また、(R1)によって生成した一酸化炭素の還元による炭素の生成(下記反応式(R4))も同様に過電圧が大きく、難しいと考えられる。よって二酸化炭素の電解はエネルギー効率が低いとされる。
【0025】
CO+2e- → C+O2- (R4)
【0026】
よって、本発明においては、負極の表面において、還元反応(R1)により一酸化炭素を生成させ、生成した一酸化炭素を熱化学平衡反応(R2)により、二酸化炭素と炭素にすることにより、負極2の側に炭素を析出させている。
【0027】
図2に、熱化学平衡反応(R2)(Boudouard平衡反応)におけるCO分圧の温度依存性を示す。本発明者らによる検討より、固体酸化物型電池(SOFC)が動作するような条件(比較的高温)では、Boudouard平衡が成立することが分かっている。
【0028】
充電時には、還元反応(R1)により生じた一酸化炭素を、炭素として積極的に析出させるようにする(熱化学平衡反応(R2)が右辺に傾きやすい条件下で充電を行う)のが好ましい。すなわち、充電は、CO分圧が下がるよう、低温で行うのが好ましい。
具体的には、本発明の二次電池は、電解質がイオン伝導性の固体酸化物なので、限定はされないが、充電は、600℃以上で行うのが好ましく、650℃以上で行うのが特に好ましい。また、炭素が析出しやすくなるように、充電は、900℃以下で行うのが好ましく、800℃以下で行うのが特に好ましい。
【0029】
本発明の二次電池1においては、
図1等に示すように、負極2の側は閉鎖系2Aであることが好ましい。
閉鎖系2Aの具体的な形状等には特に限定は無いが、例えば、片側を閉鎖した円筒型セル又はその集合体が挙げられる。
【0030】
負極2の側を閉鎖系2Aにすることにより、一酸化炭素分圧を高め、炭素を析出させやすくすることができる。また、負極2の側が閉鎖系であると、放電によって負極2の側に生成した二酸化炭素を、再び充電により炭素に戻すことにより、CO2排出の無いシステムとすることができる。
【0031】
負極2の側が閉鎖系2Aである場合、熱化学平衡反応(R2)によって生成する炭素は、負極2の表面に析出してもよいし、閉鎖系2Aの壁面等の、負極2の表面以外の場所に析出してもよい。
後述のように、放電時には、負極2の表面において、一酸化炭素の電気化学的酸化によって、二酸化炭素が生成する。放電時に、高温にすることによって、熱化学平衡反応(R2)が、左辺側に傾くので、壁面等の負極2の表面以外の場所に析出した炭素も、熱化学平衡反応(R2)により一酸化炭素となり、放電に寄与する。
また、放電に伴うエネルギー損失は熱として発現する。その熱損失を反応場の加温に利用することで効率的に反応場の制御ができる。
【0032】
1200K(927℃)における炭素(C)から二酸化炭素(CO2)が生成する反応のギブズエネルギー変化(ΔG)/エンタルピー変化(ΔH)は1.0であることから、水素/水蒸気を利用した水素蓄エネルギーシステム等に比べて、本発明は、電解(充電)/発電(放電)時のシステムとしての熱マネージメントが容易であるという特長を持つ(なお、水素(H2)から水蒸気(H2O)が生成する反応のΔG/ΔHは0.73である)。
【0033】
閉鎖系2Aにおいては、大きなエネルギーを蓄積することができるように、二酸化炭素を液体又は固体の状態で貯蔵できるようになっているのが望ましい。
本発明では、貯蔵されるエネルギー源が、二酸化炭素であるため、水素をエネルギー源として利用した場合と比較して、安全性が高い。
【0034】
閉鎖系2Aにおいては、還元反応(R1)の反応場と熱化学平衡反応(R2)の反応場とが、同一空間内に存在していてもよいし、還元反応(R1)の反応場と熱化学平衡反応(R2)の反応場とが、個別に存在していてもよい。
前者の場合、各々の反応場が近接するため物質移動による損失が少ないというメリットがある。後者の場合、反応場の温度を個別に制御することが可能で、より有利な条件で充放電ができるというメリットがある。
【0035】
充電時に、正極3においては、負極で生成し、電解質4を透過した酸化物イオン(O2-)から、下記反応(R5)によって、酸素(O2)が生成する。
【0036】
O2- → 1/2O2+2e- (R5)
【0037】
図1(b)は、放電時の模式図である。放電時には、負極2の表面において、炭素及び/又は一酸化炭素が電気化学的に酸化されることにより二酸化炭素が生成する。
放電時の負極2における具体的な反応は、以下のようなものであると推定される。
【0038】
C+O2- → CO+2e- (R6)
C+2O2- → CO2+4e- (R7)
CO+O2- → CO2+2e- (R8)
2CO ←→ CO2+C (R2)
【0039】
(R6)~(R8)は、負極2の表面における酸化反応(電気化学的酸化反応)である。(R2)は、前記した固体炭素及び二酸化炭素と、一酸化炭素との間の熱化学平衡反応である。
放電時のトータルの負極反応は、以下のようになる。
【0040】
C+2O2- → CO2+4e- (R9)
【0041】
放電時には、負極2の表面に付着していた炭素が酸化物イオンによる酸化を受け、一酸化炭素や二酸化炭素を生成する(反応(R6)及び反応(R7))他、一酸化炭素が負極2の表面において酸化物イオンによる酸化を受け、二酸化炭素を生成する。
また、固体炭素及び二酸化炭素と、一酸化炭素との間の熱化学平衡反応(R2)が起こる。
【0042】
前記のように、負極2の側が閉鎖系2Aの場合、充電時に、炭素(固体炭素)は、必ずしも負極2の表面にのみ析出するわけではなく、壁面等にも析出する場合がある。壁面等に析出した炭素も、熱化学平衡反応(R2)により、一酸化炭素に変換されるので、反応(R7)により、放電に寄与することができる。
【0043】
放電時には、負極2の表面以外に析出した炭素を、積極的に燃料として利用できるようにする(熱化学平衡反応(R2)が左辺に傾きやすい条件下で充電を行う)のが好ましい。すなわち、放電は、CO分圧が上がるよう、高温で行うのが好ましい。
具体的には、放電は、限定はされないが、700℃以上で行うのが好ましく、750℃以上で行うのが特に好ましい。また、1000℃以下で行うのが好ましく、900℃以下で行うのが特に好ましい。
上記下限以上であると、熱化学平衡反応(R2)が左辺に傾き、壁面等に付着した炭素が一酸化炭素となりやすくなるので、放電が進みやすい。また、装置の耐熱性やコスト等の観点から、上記上限以下の温度とする必要がある。
【0044】
放電時に、正極3においては、下記反応(R10)によって、酸素から酸化物イオン(O2-)が生成する。
【0045】
1/2O2+2e- → O2- (R10)
【0046】
放電時に正極3に取り込まれる酸素は、ガスボンベ等から供給される純酸素であってもよいが、正極3に供給されるのは、通常の空気中の酸素であってもよい。コスト等の面から、空気中の酸素を利用するのが望ましい。すなわち、正極3の側は、開放系であることが好ましい。
【0047】
本発明の二次電池を使用する際には、600℃以上1000℃以下の範囲で、充電及び放電を行うのが好ましい。
また、本発明では、熱化学平衡反応(R2)を利用することで、炭素と二酸化炭素の間の酸化還元反応を実現しているが、充電と放電とを異なる温度で行うことにより、効率的に充放電を行うことができるのが、本発明の二次電池の特色である。
前記のように、充電は熱化学平衡反応(R2)が右辺に傾きやすい(CO分圧が小さくなりやすい)条件下で、放電は熱化学平衡反応(R2)が左辺に傾きやすい(CO分圧が大きくなりやすい)条件下で行うのが望ましい。
よって、本発明では、充電を放電よりも低温で行うのが好ましい。
【0048】
本発明の二次電池1の負極2は、負極材料、負極集電体等を有している。
【0049】
負極材料は、複合金属酸化物又はサーメットである。ここで「サーメット」とは、金属と金属酸化物粉末が混合され焼結されたものをいう。複合金属酸化物又はサーメットは多孔質であることが好ましい。
【0050】
複合金属酸化物としては、放電の際に、十分な出力特性、耐久性等を確実に得る点から、イットリアが配合された安定化ジルコニア(Y2O3-ZrO2)(以下、「YSZ」という場合がある);Gd、La、Y、Sm、Nd、Ca、Mg、Sr、Ba、Dy及びYbからなる群より選ばれる少なくとも1種がドープされたCeO2[このうち特に、GdがドープされたCeO2(以下、「GDC」という場合がある)、SmがドープされたCeO2];Sc2O3-ZrO2(以下、「ScSZ」という場合がある);Sm2O3-CeO2(以下、「SDC」という場合がある)等が特に好ましい。
【0051】
また、放電の際に、十分な出力特性を得る観点からは、複合金属酸化物の導電率は、1000℃において、0.01~10S/cmであることが好ましい。
【0052】
サーメットとしては、Ni、Pt、Au、Cu、Fe、W及びTaからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属と複合金属酸化物(特に上記複合金属酸化物)とのサーメットが好ましい。放電の際に、十分な出力特性を確実に得る点等からは、ニッケルと複合金属酸化物のサーメット等が好ましいものとして挙げられ、特に、ニッケルと上記した複合金属酸化物とのサーメット等が好ましいものとして挙げられる。
【0053】
最も好ましくは、出力特性の点で、ニッケルとYSZとのサーメット(以下、「Ni/YSZ」という場合がある)、ニッケルとGDCとのサーメット(以下、「Ni/GDC」という場合がある)、ニッケルとScSZとのサーメット(以下、「Ni/ScSZ」という場合がある)又はニッケルとSDCとのサーメット(以下、「Ni/SDCという場合がある)である。
【0054】
負極2が、炭素の析出を促進する触媒を有していると、充電時に、熱化学平衡反応(R2)が促進され、負極2の表面に炭素が析出しやすくなる。
炭素の析出を促進する触媒としては、例えば、グラスウールに金属を担持したものが挙げられる。該金属としては、遷移金属が特に好ましい。具体的には、Fe、Ni、Co、W、Ta、Pt等が例示できる。
【0055】
負極2の集電体については、電子伝導性を有し、本発明の二次電池の作動温度領域において化学的及び物理的に安定であるものであればその形状及び構成材料は特に限定されず、公知の固体酸化物型電池(SOFC)に備えられているものと同様のものを使用することができる。
【0056】
本発明の二次電池は、炭素と二酸化炭素の間の酸化還元反応を利用して、繰り返し充電及び放電を行うものであるが、充放電サイクルの初期には、負極2に固体の炭素を別途供給してもよい。
【0057】
負極2に固体の炭素を別途供給する方法としては、特に限定は無いが、例えば、炭素と水素を構成元素として少なくとも含む有機化合物を負極2に導入し、該有機化合物の熱分解反応を進行させる方法が挙げられる。該有機化合物の例としては、メタン、エタン、プロパン、ブタン等の炭化水素;メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等のアルコール;等が例示できる。
【0058】
本発明の二次電池1の正極3は、正極材料、正極集電体等を有している。
【0059】
正極材料の組成や形状については特に限定されず、公知の固体酸化物型電池(SOFC)に備えられている正極に一般に使用されているものと同様のものを使用することができる。例えば、(LaSr)MnO3(以下、「LSM」という場合がある)系、(LaSr)CoO3(以下、「LSC」という場合がある)系の複合金属酸化物からなる材料等を好ましく使用することができる。特に好ましくは、例えば、La0.85Sr0.15MnO3等が挙げられる。
【0060】
正極3の集電体の構成は先に述べた負極2の集電体と同様であり、構成材料及び形状については特に限定されず、公知の固体酸化物型電池(SOFC)に備えられているものと同様のものを使用することができる。
【0061】
電解質4は、イオン伝導性の固体酸化物である。電解質4は、酸化物イオン(O2-)の移動媒体であると同時に、還元剤(先に述べた固体炭素)と酸素を含むガス(例えば空気)を直接接触させないための隔壁としても機能し、ガス不透過性の緻密な構造を有している。この電解質4の構成材料は特に限定されず、公知の固体酸化物型電池(SOFC)に用いられる材料を適宜使用することができるが、酸化物イオンの伝導性が高く、正極3の側の酸化性雰囲気から負極2の側の還元性雰囲気までの条件下で、化学的に安定で熱衝撃に強い材料から構成することが好ましい。
【0062】
かかる要件を満たす材料としては、例えば、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)、スカンジア安定化ジルコニア(ScSZ)等の安定化ジルコニア;ランタンガレート;セリア系固溶体等が好ましいものとして挙げられる。
【0063】
また、発電の際に、十分な出力特性を得る観点からは、電解質4の導電率は、1000℃において、0.01~10S/cmであることが好ましい。
【実施例】
【0064】
以下に、実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限りこれらの実施例に限定されるものではない。
【0065】
実施例1
<電極材料等の作製>
以下のようにして、二次電池の電極材料等を作製した。
【0066】
(1)電解質として、8mol%Y2O3-ZrO2(8-YSZ;直径20mm・厚さ0.25mm;東ソー株式会社)を使用した。
(2)NiO粉末(関東化学株式会社製)3質量部と、GDC粉末(AGCセイミケミカル株式会社)2質量部を混合し、一晩卓上ボールミルで撹拌した。
(3)α-テルピネオール(関東化学株式会社)、フタル酸ジブチル(富士フイルム和光純薬株式会社)、分散剤であるマリアリム(登録商標;日油株式会社)、エチルセルロース(富士フイルム和光純薬株式会社)からなる電極ペースト用の溶媒を作製した。
(4)乾燥させたNiO/GDC粉末を上記溶媒に混ぜることで負極(燃料極)ペーストを作製した。
(5)電解質の片面に負極(燃料極)ペーストを塗布し、1300℃で4時間焼結させ、負極(燃料極)を形成した。
(6)正極(空気極)ペーストは、LSM粉末(AGCセイミケミカル株式会社)に上記溶媒を加えることで作製した。
(7)電解質の負極(燃料極)を形成した面の反対側に正極(空気極)ペーストを塗布し、1200℃で4時間焼結させた。
(8)正極(空気極)には、集電性を向上させるためにPtペースト(TR-7907;田中貴金属工業株式会社)を塗布した。負極(燃料極)と正極(空気極)は作用極と参照極を持ち、それぞれの面積は約0.52cm2、0.16cm2であった。
【0067】
<二次電池(セル)の作製及び動作テスト>
以下のようにして、作製した電極材料等を装置内に設置し、二次電池(セル)を作製し、動作テストを実施した。
【0068】
(1)電極材料等を、
図3に示す装置内に設置した。負極(燃料極)の集電体としてAuメッシュ(三和金属株式会社)、正極(空気極)の集電体としてPtメッシュ(三和金属株式会社)を使用した。
(2)Pt線(直径0.3mm;三和金属株式会社)をリード線に使用した。電源(株式会社アドバンテスト)を使用して電流制御を行い、デジタルマルチメーター(株式会社アドバンテスト)を使用して電位測定を行なった。
(3)二次電池(セル)の性能を確かめるための動作テストとして、900℃で1%加湿水素を使用した発電実験を行なった。
(4)負極(燃料極)には水素200cm
3/minと酸素1cm
3/min、正極(空気極)には酸素60cm
3/minを供給した。
【0069】
<充放電サイクルの実施>
以下のようにして、炭素と二酸化炭素の間の酸化還元反応による充放電サイクルを実施した。
【0070】
(1)水素発電後、1時間で800℃まで降温させて負極(燃料極)の側をアルゴン置換した。
(2)負極(燃料極)側にプロパン5cm3を供給し、5分間熱分解することで炭素を析出させた。
(3)アルゴン200cm3/minを10分間流すことでプロパンの熱分解反応を停止させ、負極(燃料極)の側をArで置換した。
(4)次に二酸化炭素100cm3を供給することで負極(燃料極)の側を二酸化炭素で置換し、二酸化炭素と炭素を共存させた。
(5)負極(燃料極)の側のコックをすべて閉じて、負極(燃料極)の側の空間を閉鎖系にした。
(6)正極(空気極)には空気100cm3/minを供給した。
(7)電位が0Vになるまで、電流値52mAで放電を行なった。
(8)この放電後の状態を初期状態として、充電/放電サイクル操作を行なった。
(9)充放電サイクル操作は800℃で行なった。
(10)電流値は52mAで一定とし、充電時間は10分間とした。
(11)充放電サイクル操作中に、カレントインタラプション法によりオーム抵抗と過電圧の分離を2分毎に行なった。
【0071】
結果を
図4(a)に示す。30回の比較的安定な充放電サイクルに成功した。安定した状態で、充電電力は12mWh~14mWh、放電電力は3mWh~4mWhであり、クーロン効率は0.8~1、充放電効率は0.21~0.26であった。最大出力は29mW~31mW、平均出力は19mW~22mWであった。
【0072】
実施例2
実施例1において、電解質を、10mol%Sc
2O
3-1mol%CeO
2-ZrO
2(ScSZ;直径20mm・厚さ0.30mm)に変更した以外は、実施例1と同様にして二次電池を作製し、充放電サイクルを実施した。結果を
図4(b)に示す。
【0073】
実施例3
実施例1において、充電時間を20分間に変更した以外は、実施例1と同様にして二次電池を作製し、充放電サイクルを実施した。結果を
図4(c)に示す。
【0074】
実施例4
実施例2において、充放電サイクル操作を900℃で行なった以外は、実施例2と同様にして二次電池を作製し、充放電サイクルを実施した。結果を
図4(d)に示す。
【符号の説明】
【0075】
1 二次電池
2 負極
2A 閉鎖系
3 正極
4 電解質